特許第6139129号(P6139129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139129
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】磁気共鳴装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   A61B5/05 341
   A61B5/05 382
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-284659(P2012-284659)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-124440(P2014-124440A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】300019238
【氏名又は名称】ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(72)【発明者】
【氏名】浅羽 佑介
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−068341(JP,A)
【文献】 特開平10−248822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向傾斜磁場を発生する第1の傾斜コイルと、第2の方向傾斜磁場を発生する第2の傾斜コイルと、第3の方向傾斜磁場を発生する第3の傾斜コイルであって、前記第1の傾斜コイルおよび前記第2の傾斜コイルよりも磁場発生効率が高い第3の傾斜コイルとを有し、複数のシーケンスを実行する磁気共鳴装置であって、
前記複数のシーケンスのうちの第1のシーケンスは、前記第1の傾斜コイルによって前記第1の方向に印加される第1の傾斜磁場と、前記第2の傾斜コイルによって前記第2の方向に印加される第2の傾斜磁場とを含み、
前記複数のシーケンスのうちの第2のシーケンスは、前記第1の傾斜コイルによって前記第1の方向に印加される第3の傾斜磁場と、前記第2の傾斜コイルによって前記第2の方向に印加される第4の傾斜磁場とを含み、
前記複数のシーケンスのうちの第3のシーケンスは、前記第3の傾斜コイルによって前記第3の方向に印加される第5の傾斜磁場を含み、
前記第1の傾斜磁場と前記第2の傾斜磁場とを合成することにより得られる傾斜磁場は、前記第1の方向、前記第2の方向、および前記第3の方向とは異なる第4の方向に印加され且つ前記第の傾斜磁場と同じ傾斜磁場強度を有す傾斜磁場であり、
前記第3の傾斜磁場と前記第4の傾斜磁場とを合成することにより得られる傾斜磁場は、前記第1の方向、前記第2の方向、および前記第3の方向とは異なる第5の方向に印加され且つ前記第5の傾斜磁場と同じ傾斜磁場強度を有する傾斜磁場である、磁気共鳴装置。
【請求項2】
前記第の傾斜磁場、前記第1の傾斜磁場と前記第2の傾斜磁場とを合成することにより得られる傾斜磁場、および前記第3の傾斜磁場と前記第4の傾斜磁場とを合成することにより得られる傾斜磁場は、互いに直交している、請求項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項3】
前記第1の傾斜磁場と前記第2の傾斜磁場とを合成することにより得られる傾斜磁場は、前記第1の方向に対して所定の角度だけ傾いており、
前記第3の傾斜磁場と前記第4の傾斜磁場とを合成することにより得られる傾斜磁場は、前記第2の方向に対して前記所定の角度だけ傾いている、請求項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項4】
前記所定の角度は45°である、請求項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項5】
前記第の傾斜磁場、前記第1の傾斜磁場と前記第2の傾斜磁場とを合成することにより得られる傾斜磁場、および前記第3の傾斜磁場と前記第4の傾斜磁場とを合成することにより得られる傾斜磁場は、スピンの動きを検出するための磁場である、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項6】
前記第のシーケンスと、前記第のシーケンスと、前記第のシーケンスとを実行し、これらのシーケンスにより取得されたデータに基づいて、画像データを求める、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項7】
前記画像データは、拡散強調画像データである、請求項に記載の磁気共鳴装置。
【請求項8】
前記第1の傾斜磁場、前記第2の傾斜磁場、前記第3の傾斜磁場、前記第4の傾斜磁場、および前記第5の傾斜磁場の各々は、2つの傾斜パルスを有している、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の磁気共鳴装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜磁場を発生する磁気共鳴装置に関する。
【背景技術】
【0002】
拡散強調画像データを取得するためのシーケンスでは、スピンの動きを検出するためのMPG(Motion Probing Gradient)が印加される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−157687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気共鳴装置は、アンプおよび傾斜コイルを有しており、アンプが傾斜コイルに電流を供給することにより、傾斜磁場が発生する。一般的に、磁気共鳴装置は、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向の各軸方向に傾斜磁場を印加することができるように、x軸方向用のアンプおよび傾斜コイル、y軸方向用のアンプおよび傾斜コイル、およびz軸方向用のアンプおよび傾斜コイルを有している。したがって、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向の各々にMPGを印加することができる。
【0005】
しかし、磁気共鳴装置は、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向の傾斜磁場発生効率が異なる場合がある。例えば、x軸方向およびy軸方向の傾斜磁場発生効率が低く、z軸方向の傾斜磁場発生効率が高い場合がある。この場合、各軸方向の傾斜磁場強度を同じ値に設定するためには、x軸方向およびy軸方向のアンプの出力電流を、z軸方向よりも大きくする必要があり、x軸方向およびy軸方向のアンプにかかる負荷が大きくなるという問題がある。アンプにかかる負荷を小さくするためには、アンプの出力電流を小さくすればよいが、これでは、MPGの傾斜磁場強度を大きくすることができない。したがって、MPGのパルスの面積を大きくしたい場合、パルスのパルス幅を長くする必要があり、エコー時間が長くなるという問題がある。
したがって、上記の問題に対処することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点は、第1の方向に第1の傾斜磁場を発生する第1の傾斜コイルと、第2の方向に第2の傾斜磁場を発生する第2の傾斜コイルと、
第3の方向に第3の傾斜磁場を発生する第3の傾斜コイルであって、前記第1の傾斜コイルおよび前記第2の傾斜コイルよりも磁場発生効率が高い第3の傾斜コイルと、を有する磁気共鳴装置であって、
前記第1の傾斜コイルおよび前記第2の傾斜コイルは、
前記第1の傾斜磁場と前記第2の傾斜磁場とを合成することにより、第4の方向に、前記第3の傾斜磁場と同じ傾斜磁場強度を有する第4の傾斜磁場を印加する、磁気共鳴装置である。
【発明の効果】
【0007】
第1の傾斜コイルが発生する第1の傾斜磁場と第2の傾斜コイルが発生する第2の傾斜磁場とを合成することにより、第3の傾斜コイルが発生する第3の傾斜磁場と同じ傾斜磁場強度を有する第4の傾斜磁場を作ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一形態の磁気共鳴装置の概略図である。
図2】拡散強調画像データを作成するために一般的に実行される通常のスキャンの一例を示す図である。
図3】傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzの説明図である。
図4】本形態のスキャンで印加される傾斜磁場の原理の説明図である。
図5】傾斜磁場MPGxおよびMPGyの各々をx軸成分とy軸成分に分けたときの様子を示す図である。
図6】本形態におけるスキャンの一例を示す図である。
図7】実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明を実施するための形態を説明するが、本発明は、以下の形態に限定されることはない。
【0010】
図1は、本発明の一形態の磁気共鳴装置の概略図である。
磁気共鳴装置(以下、「MR装置」と呼ぶ。MR:Magnetic Resonance)100は、マグネット2、テーブル3、受信コイル4などを有している。
【0011】
マグネット2は、被検体12が収容されるボア21を有している。また、マグネット2には、傾斜磁場を印加するための傾斜コイル22x、22y、および22zなどが内蔵されている。傾斜コイル22xはX軸方向の傾斜磁場を印加し、傾斜コイル22yはY軸方向の傾斜磁場を印加し、傾斜コイル22zはZ軸方向の傾斜磁場を印加する。
【0012】
テーブル3は、被検体12を支持するクレードル3aを有している。クレードル3aは、ボア21内に移動できるように構成されている。クレードル3aによって、被検体12はボア21に搬送される。
受信コイル4は、被検体12に取り付けられている。受信コイル4は、被検体12からの磁気共鳴信号を受信する。
【0013】
MR装置100は、更に、傾斜磁場電源5、X軸アンプ6x、Y軸アンプ6y、Z軸アンプ6z、送信器7、受信器8、制御部9、操作部10、および表示部11などを有している。
【0014】
傾斜磁場電源5は傾斜磁場信号を出力し、X軸アンプ6x、Y軸アンプ6y、Z軸アンプ6zに供給する。各アンプ6x、6y、6zは、それぞれ、傾斜磁場電源5からの信号を増幅し、傾斜コイル22x、22y、22zに電流を供給する。
【0015】
送信器7は、RFコイル(図示せず)に電流を供給する。受信器8は、受信コイル4から受け取った信号に対して、検波などの信号処理を実行する。
【0016】
制御部9は、表示部11に必要な情報を伝送したり、受信器8から受け取ったデータに基づいて画像を再構成するなど、MR装置100の各種の動作を実現するように、MR装置100の各部の動作を制御する。
【0017】
操作部10は、オペレータにより操作され、種々の情報を制御部9に入力する。表示部11は種々の情報を表示する。
MR装置100は、上記のように構成されている。
【0018】
次に、MR装置100のx軸方向、y軸方向、z軸方向の傾斜磁場の磁場発生効率について説明する。本形態では、傾斜コイルのコイルパターンの違いなどにより、z軸方向の磁場発生効率は、x軸方向およびy軸方向の磁場発生効率よりも高くなっている。具体的には、以下の通りである。
【表1】
表1に示す磁場発生効率の値は、各傾斜コイル22x、22y、および22zに100Aの電流を供給した場合の値である。磁場発生効率を比較すると、z軸方向の磁場発生効率が、x軸方向およびy軸方向の磁場発生効率よりも、5mT/mだけ高いことが分かる。
【0019】
次に、本形態で実行されるスキャンについて、拡散強調画像データを取得する例を取り上げて説明する。尚、拡散強調画像データを取得するためのスキャンの説明に当たっては、説明の便宜上、通常のスキャンの一例を先に説明し、通常のスキャンの一例を説明した後で、本形態で実行されるスキャンについて説明する。
【0020】
図2は、拡散強調画像データを作成するために実行される通常のスキャンの一例を示す図である。
図2には、スキャンSC0〜SC3が示されている。スキャンSC0では、T2強調画像データを取得するためのEPI(Echo Planar Imaging)シーケンスA0が実行される。スキャンSC1〜SC3では、拡散強調画像データを取得するためのEPI−DWI(Diffusion Weight Imaging)シーケンスA1〜A3が実行される。
【0021】
シーケンスA0には、スピンの動きを検出するための傾斜磁場は印加されていないが、シーケンスA1、A2、およびA3には、それぞれ、スピンの動きを検出するための傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzが印加されている。
【0022】
図3は、傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzの説明図である。
傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzは、それぞれ、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向に印加される。傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzは、いずれも、2つの傾斜パルスを有している。また、傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzの傾斜磁場強度Gx、Gy、およびGzは、以下の関係を有している。
|Gx|=|Gy|=|Gz|=G ・・・(1)
【0023】
ここで、説明の便宜上、傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzを、以下のようなベクトルと考えてみる。
傾斜磁場MPGx:x軸方向の向きを有し、大きさがGxのベクトル。
傾斜磁場MPGy:y軸方向の向きを有し、大きさがGyのベクトル。
傾斜磁場MPGz:z軸方向の向きを有し、大きさがGzのベクトル。
【0024】
傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzは、それぞれ、x軸方向、y軸方向、およびz軸方向の向きを有している。また、傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzの傾斜磁場強度Gx、Gy、およびGzは、同じ値Gである。したがって、傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzは、互いに直交し、且つ同じ大きさのベクトルで表すことができる。
【0025】
次に、傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzを発生させるために傾斜コイル22x、22y、および22zに必要なコイル電流について順に説明する。
【0026】
(1)シーケンスA1における傾斜磁場MPGxを発生させるために必要なコイル電流について
傾斜磁場MPGxは、x軸方向の傾斜磁場である。したがって、傾斜コイル22xにコイル電流Ixを流せば、傾斜磁場MPGxを発生させることができる。x軸方向の磁場発生効率は、電流100Aに対して50mT/mであるので(表1参照)、コイル電流Ixは、以下の式で表すことができる。
Ix=(100/50)|Gx|
=2|Gx| ・・・(2)
ここで、Gx:傾斜磁場MPGxの傾斜磁場強度
【0027】
(2)シーケンスA2における傾斜磁場MPGyを発生させるために必要なコイル電流について
傾斜磁場MPGyは、y軸方向の傾斜磁場である。したがって、傾斜コイル22yにコイル電流Iyを流せば、傾斜磁場MPGyを発生させることができる。y軸方向の磁場発生効率は、電流100Aに対して50mT/mであるので(表1参照)、コイル電流Iyは、以下の式で表される。
Iy=(100/50)|Gy|
=2|Gy| ・・・(3)
ここで、Gy:傾斜磁場MPGyの傾斜磁場強度
【0028】
(3)シーケンスA3における傾斜磁場MPGzを発生させるために必要なコイル電流について
傾斜磁場MPGzは、z軸方向の傾斜磁場である。したがって、傾斜コイル22zにコイル電流Izを流せば、傾斜磁場MPGzを発生させることができる。z軸方向の磁場発生効率は、電流100Aに対して55mT/mであるので(表1参照)、コイル電流Izは、以下の式で表される。
Iz=(100/55)|Gz|
=(20/11)|Gz| ・・・(4)
ここで、Gz:傾斜磁場MPGzの傾斜磁場強度
【0029】
シーケンスA1〜A3における傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzを発生させるのに必要なコイル電流は、上記の式(2)〜(4)で表すことができる。表2に、傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzと、コイル電流Ix、Iy、およびIzとの対応関係を示す。
【表2】
表2を参照すると、|Gx|=|Gy|=|Gz|=Gの傾斜磁場を作る場合、コイル電流IxおよびIyは、コイル電流Izよりも大きい値に設定する必要があることがわかる。例えば、G=38.5(mT/m)の傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzを発生させる場合、コイル電流Ix、Iy、Izは、表3に示す値となる。
【表3】
表3に示すように、G=38.5(mT/m)の場合、コイル電流Izの値はIz=70Aでよいが、コイル電流IxおよびIyの値は、Ix=Iy=77Aが必要となる。
【0030】
したがって、X軸アンプ6xおよびY軸アンプ6yは、Z軸アンプ6zよりも大きい電流を出力する必要があり、消費電力が増加するという問題がある。また、X軸アンプ6xおよびY軸アンプ6yに使用されている半導体素子(例えば、IGBT:Insulated Gate Bipolar
Transistor)の発熱が大きくなるという問題もある。半導体素子の発熱の問題を解決する方法の一つとして、発熱対策が十分に施されたアンプを用いることが考えられるが、これでは、製品コストが増大するという問題がある。
【0031】
そこで、本形態では、上記の問題を低減することができるように、特別な傾斜磁場を印加している。以下に、本形態において印加される傾斜磁場の原理について説明する。
【0032】
図4は、本形態のスキャンで印加される傾斜磁場の原理の説明図である。
先ず、傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzを、z軸を中心に角度αだけ回転させることを考える。傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzを、z軸を中心に角度αだけ回転すると、傾斜磁場MPGxおよびMPGyは、それぞれx軸およびy軸に対して角度αだけ傾く。したがって、傾斜磁場MPGxおよびMPGyの各々は、x軸成分とy軸成分に分けることができる(図5参照)。
【0033】
図5は、傾斜磁場MPGxおよびMPGyの各々をx軸成分とy軸成分に分けたときの様子を示す図である。
【0034】
図5(a)は傾斜磁場MPGxをx軸成分とy軸成分に分けたときの様子を示す図である。
傾斜磁場MPGxは、x軸成分の傾斜磁場MPGx1とy軸成分の傾斜磁場MPGy1に分けることができる。x軸成分の傾斜磁場MPGx1は傾斜磁場強度Gcosαであり、y軸成分の傾斜磁場MPGy1は傾斜磁場強度Gsinαである。したがって、2つの傾斜磁場MPGx1およびMPGy1を発生させることにより、x軸に対して角度αだけ傾いた傾斜磁場MPGxを作り出せることが分かる。
【0035】
図5(b)は傾斜磁場MPGyをx軸成分とy軸成分に分けたときの様子を示す図である。
傾斜磁場MPGyは、x軸成分の傾斜磁場MPGx2とy軸成分の傾斜磁場MPGy2に分けることができる。x軸成分の傾斜磁場MPGx2は傾斜磁場強度Gsinαであり、y軸成分の傾斜磁場MPGy2は傾斜磁場強度Gcosαである。したがって、2つの傾斜磁場MPGx2およびMPGy2を発生させることにより、y軸に対して角度αだけ傾いた傾斜磁場MPGyを作り出せることが分かる。
【0036】
そこで、本形態では、傾斜磁場MPGxの代わりに2つの傾斜磁場MPGx1およびMPGy1を印加し、傾斜磁場MPGyの代わりに2つの傾斜磁場MPGx2およびMPGy2を印加するスキャンを実行する(図6参照)。
【0037】
図6は、本形態におけるスキャンの一例を示す図である。
図6には、スキャンSC0〜SC3が示されている。スキャンSC0〜SC3では、それぞれシーケンスB0〜B3が実行される。尚、シーケンスB0はシーケンスA0(図2参照)と同じであり、シーケンスB3はシーケンスA3(図2参照)と同じである。したがって、以下の説明では、主に、シーケンスB1およびB2について主に説明する。
【0038】
シーケンスB1には、スピンの動きを検出するための傾斜磁場MPGx1およびMPGy1が印加されている。傾斜磁場MPGx1およびMPGy1は、それぞれx軸方向およびy軸方向に印加されている。傾斜磁場MPGx1は2つの正の傾斜パルスを有しており、MPGy2は2つの負の傾斜パルスを有している。また、傾斜磁場MPGx1の傾斜磁場強度はGcosαであり、傾斜磁場MPGy1の傾斜磁場強度はGsinαである。傾斜磁場MPGx1およびMPGy1を印加することにより、x軸に対して角度αだけ回転した傾斜磁場MPGx(図5(a)参照)を作り出すことができる。
【0039】
シーケンスB2には、スピンの動きを検出するための傾斜磁場MPGx2およびMPGy2が印加されている。傾斜磁場MPGx2およびMPGy2は、それぞれx軸方向およびy軸方向に印加されている。傾斜磁場MPGx2およびMPGy2は、いずれも、2つの正の傾斜パルスを有している。また、傾斜磁場MPGx2の傾斜磁場強度はGsinαであり、傾斜磁場MPGy2の傾斜磁場強度はGcosαである。傾斜磁場MPGx2およびMPGy2を印加することにより、y軸に対して角度αだけ回転した傾斜磁場MPGy(図5(b)参照)を作り出すことができる。
【0040】
シーケンスB3には、シーケンスA3(図2参照)と同様に、傾斜磁場強度がGzの傾斜磁場MPGzが印加されている。
【0041】
したがって、図6に示す本形態のスキャンを実行することにより、通常のスキャンと同様に、傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzを作り出すことができる。しかし、本形態のスキャンは、通常のスキャンと比較すると、傾斜磁場MPGxおよびMPGyが角度αだけ回転している点が異なっている(図5参照)。そこで、傾斜磁場MPGxおよびMPGyが角度αだけ回転させた場合に、等方性が成り立つか否かについて検討する。
【0042】
先ず、拡散テンソルDを以下のような3×3の行列で定義する。
【数1】
スキャンにより収集されるエコー信号の信号強度と、拡散テンソルDとの間には、以下の関係が成り立つ。
【数2】
また、一般的に、等方性拡散(Isotropic Diffusion)は、以下の式で記述できる。
【数3】
式(5)および(6)より、以下の式が得られる。
【数4】
【0043】
式(7)には、拡散テンソルのクロスタームは含まれていないので、等方性が保たれていることが分かる。したがって、傾斜磁場MPGx、MPGy、およびMPGzを、z軸を中心にして角度αだけ回転させても、等方性が成り立つことが分かる。
【0044】
次に、本形態における傾斜磁場MPGx1〜MPGz(図6参照)を発生させるために必要なコイル電流について順に説明する。
【0045】
(1)シーケンスB1における傾斜磁場MPGx1を発生させるために必要なコイル電流について
傾斜磁場MPGx1は、x軸方向の傾斜磁場である。したがって、傾斜コイル22xにコイル電流Ixを流せば、MPGx1を発生させることができる。x軸方向の磁場発生効率は、電流100Aに対して50mT/mであるので(表1参照)、コイル電流Ixは、以下の式で表される。
Ix=(100/50)|Gcosα|
=2|Gcosα| ・・・(8)
ここで、Gcosα:傾斜磁場MPGx1の傾斜磁場強度
【0046】
(2)シーケンスB1における傾斜磁場MPGy1を発生させるために必要なコイル電流について
傾斜磁場MPGy1は、y軸方向の傾斜磁場である。したがって、傾斜コイル22yにコイル電流Iyを流せば、MPGy1を発生させることができる。y軸方向の磁場発生効率は、電流100Aに対して50mT/mであるので(表1参照)、コイル電流Iyは、以下の式で表される。
Iy=(100/50)|Gsinα|
=2|Gsinα| ・・・(9)
ここで、Gsinα:傾斜磁場MPGy1の傾斜磁場強度
【0047】
(3)シーケンスB2における傾斜磁場MPGx2を発生させるために必要なコイル電流について
傾斜磁場MPGx2は、x軸方向の傾斜磁場である。したがって、傾斜コイル22xにコイル電流Ixを流せば、MPGx2を発生させることができる。x軸方向の磁場発生効率は、電流100Aに対して50mT/mであるので(表1参照)、コイル電流Ixは、以下の式で表される。
Ix=(100/50)|Gsinα|
=2|Gsinα| ・・・(10)
ここで、Gsinα:傾斜磁場MPGx2の傾斜磁場強度
【0048】
(4)シーケンスB2における傾斜磁場MPGy2を発生させるために必要なコイル電流について
傾斜磁場MPGy2は、y軸方向の傾斜磁場である。したがって、傾斜コイル22yにコイル電流Iyを流せば、MPGy2を発生させることができる。y軸方向の磁場発生効率は、電流100Aに対して50mT/mであるので(表1参照)、コイル電流Iyは、以下の式で表される。
Iy=(100/50)|Gcosα|
=2|Gcosα| ・・・(11)
ここで、Gcosα:傾斜磁場MPGy2の傾斜磁場強度
【0049】
(5)シーケンスB3における傾斜磁場MPGzを発生させるために必要なコイル電流について
傾斜磁場MPGzは、z軸方向の傾斜磁場である。したがって、傾斜コイル22zにコイル電流Izを流せば、MPGzを発生させることができる。z軸方向の磁場発生効率は、電流100Aに対して55mT/mであるので(表1参照)、コイル電流Izは、以下の式で表される。
Iz=(100/55)|G
=(20/11)|G| ・・・(12)
ここで、G:傾斜磁場MPGzの傾斜磁場強度
【0050】
各シーケンスB1〜B3における傾斜磁場を発生させるのに必要なコイル電流は、上記の式(8)〜(12)で表すことができる。表4に、傾斜磁場MPGx1〜MPGzと、コイル電流Ix、Iy、およびIzとの対応関係を示す。
【表4】
したがって、表4と表2とを比較すると、表4のコイル電流IxおよびIyは、表2のコイル電流IxおよびIyよりも小さくなることが分かる。例えば、α=45°、G=38.5(mT/m)の場合、コイル電流Ix、Iy、Izは、表5に示す値となる。
【表5】
表5に示すように、G=38.5(mT/m)の場合、コイル電流Izの値はIz=70Aであるが、コイル電流IxおよびIyの値は、Ix=Iy≒54Aとなる。したがって、表5と表3とを比較すると、コイル電流Izは同じ値(Iz=70A)であるが、コイル電流IxおよびIyは小さくなっていることが分かる。
【0051】
通常のスキャンでは(図2参照)、シーケンスA1において傾斜磁場強度Gx=38.5(mT/m)の傾斜磁場MPGxを発生させる場合、X軸アンプ6xからコイル電流Ix=77Aを出力する必要があった(表3参照)。これに対し、本形態のスキャンでは(図6参照)、シーケンスB1において傾斜磁場強度Gx=38.5(mT/m)の傾斜磁場MPGxを発生させる場合、X軸アンプ6xからコイル電流Ix≒54Aを出力し、Y軸アンプ6yからコイル電流Iy≒54Aを出力すればよい(表5参照)。したがって、本形態のスキャンでは、コイル電流IxおよびIyの値は、Ix=Iy≒54Aでよいので、通常のスキャンと比較すると、電流を約30%低減することができる。X軸アンプ6xおよびY軸アンプ6yに含まれている半導体素子の発熱量は、およそ電流の二乗に比例するので、電流を30%低減することによって、半導体素子の発熱量を約50%低減することができる。したがって、通常のスキャンでは、傾斜磁場MPGxを発生させる場合、X軸アンプ6xの半導体素子に負荷が集中していたが、本形態のスキャンでは、半導体素子にかかる負荷を、X軸アンプ6xの半導体素子とY軸アンプ6yの半導体素子に分散させることができるので、特別な発熱対策が施されたアンプを使用する必要がなく、製品コストの増加を防止することができる。
【0052】
また、通常のスキャンでは(図2参照)、シーケンスA2において傾斜磁場強度Gy=38.5(mT/m)の傾斜磁場MPGyを発生させる場合、Y軸アンプ6yからコイル電流Iy=77Aを出力する必要があった(表3参照)。これに対し、本形態のスキャンでは(図6参照)、シーケンスB2において傾斜磁場強度Gy=38.5(mT/m)の傾斜磁場MPGyを発生させる場合、X軸アンプ6xからコイル電流Ix≒54Aを出力し、Y軸アンプ6yからコイル電流Iy≒54Aを出力すればよい。したがって、本形態のスキャンでは、傾斜磁場MPGyを発生させる場合にも、半導体素子にかかる負荷を、X軸アンプ6xの半導体素子とY軸アンプ6yの半導体素子に分散させることができるので、やはり特別な発熱対策が施されたアンプを使用する必要がなく、製品コストの増加を防止することができる。
【0053】
また、MR装置100は、x軸方向およびy軸方向の磁場発生効率が、z軸方向の磁場発生効率よりも低い。しかし、本形態では、シーケンスB1ではx軸方向の傾斜磁場MPGx1とy軸方向の傾斜磁場MPGy1とを合成させており、シーケンスB2ではx軸方向の傾斜磁場MPGx2とy軸方向の傾斜磁場MPGy2とを合成させているので、x軸方向およびy軸方向の磁場発生効率が低くても、傾斜磁場強度の大きい傾斜磁場を発生させることができる。
【0054】
更に、本形態におけるシーケンスB1では、傾斜磁場MPGx1の傾斜磁場強度はGcosαであり、傾斜磁場MPGy1の傾斜磁場強度はGsinαである(図6参照)。一方、通常のスキャンにおけるシーケンスA1の傾斜磁場MPGxの傾斜磁場強度は、Gxである(図2参照)。0°<α<90°の範囲では、sinα<1であり、cosα<1であるので、本形態におけるシーケンスB1は、通常のスキャンにおけるシーケンスA1よりも、傾斜磁場強度が小さくなる。したがって、本形態におけるシーケンスB1は、通常のスキャンにおけるシーケンスA1よりも、傾斜磁場の面積が小さくて済む。このため、本形態のスキャンは、通常のスキャンと比較すると、傾斜磁場の傾斜パルスのパルス幅を短くすることができるので、シーケンスB1におけるエコー時間TEの延長を防止することができる。同様に、本形態におけるシーケンスB2は、通常のスキャンにおけるシーケンスA2よりも、傾斜磁場の面積が小さくて済むので、シーケンスB2におけるエコー時間TEの延長を防止することもできる。
【0055】
また、傾斜磁場の角度αは、0<|sinα|<1、0<|cosα|<1を満たす条件下で、任意の値に設定することができる。例えば、0°<α<90°の範囲の中から任意の値に設定することができる。ただし、本形態のように、x軸方向の傾斜磁場発生効率と、y軸方向の傾斜磁場発生効率が同じ場合は、α=45°に設定することが好ましい。|Gx|=|Gy|=|Gz|=Gの傾斜磁場を作る場合、α=45°に設定しておくことにより、傾斜コイル22xのコイル電流Ixは、傾斜コイル22yのコイル電流Iyと同じ値に設定される(表5参照)。したがって、X軸アンプ6xの半導体素子に掛かる負荷は、Y軸アンプ6yの半導体素子に掛かる負荷と同じになるので、半導体素子に掛かる負荷を均一に分散させることができる。
【0056】
尚、本形態の方法によれば、スルーレートSRも改善することが可能となる。そのことを検証するために、実験を行った。以下に実験結果について説明する。
【0057】
図7は、実験結果を示す図である。
図7には、傾斜磁場強度と時間との関係を示すグラフが示されている。
【0058】
ラインL1は、傾斜コイル22xが傾斜磁場を発生したときの傾斜磁場強度と時間との関係を表している。
ラインL2は、傾斜コイル22zが傾斜磁場を発生したときの傾斜磁場強度と時間との関係を表している。
ラインL3は、傾斜コイル22xと傾斜コイル22yとの組合せにより傾斜磁場を発生したときの傾斜磁場強度と時間との関係を表している。
【0059】
図7を参照すると、ラインL3はラインL2とほぼ一致している。したがって、傾斜コイル22xと傾斜コイル22yとを組み合わせることにより、傾斜コイル22xのみで傾斜磁場を発生させる場合よりも、スルーレートSRを大きくすることができるので、エコー時間TEを更に短くすることが可能となる。
【0060】
尚、本形態では、z軸方向の傾斜磁場発生効率が、x軸方向およびy軸方向の傾斜磁場発生効率より高い場合について説明されている。しかし、本発明は、3軸方向のうちのいずれかの軸方向の傾斜磁場発生効率が、他の軸方向の傾斜磁場発生効率より高い場合に適用することができる。
【0061】
本形態では、2つの傾斜パルスを有するMPG(Motion Probing Gradient)を作る例について説明したが、本発明は、1つの傾斜パルスのみから構成される傾斜磁場や、3つ以上の傾斜パルスから構成される傾斜磁場を発生させるときにも適用することができる。また、本形態では、MPGを発生させる例について説明したが、本発明は、MPGとは別の傾斜磁場を発生させるときにも適用することができる。更に、本形態では、拡散強調画像データを取得するためのシーケンスを実行する例について説明されているが、本発明は、拡散強調画像データを取得するためのシーケンスに限定されることはなく、種々のシーケンスに適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
2 マグネット
3 テーブル
3a クレードル
4 受信コイル
5 勾配磁場電源
6 増幅器
7 送信器
8 受信器
9 制御部
10 操作部
11 表示部
12 被検体
21 ボア
22x、22y、22z 傾斜コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7