特許第6139140号(P6139140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139140
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】編地の編成方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20170522BHJP
   D04B 1/24 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   D04B1/00 Z
   D04B1/24
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-5001(P2013-5001)
(22)【出願日】2013年1月15日
(65)【公開番号】特開2014-136841(P2014-136841A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(72)【発明者】
【氏名】寺井 健太
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−188772(JP,A)
【文献】 特開2009−270217(JP,A)
【文献】 特開2009−221637(JP,A)
【文献】 特開2000−045153(JP,A)
【文献】 特開2008−214775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床間で目移しが可能な横編機による編地の編成方法において、
第一の編糸を用いてベース編地を編成する工程1と、
ベース編地を構成する編目を係止していない編針で、第二の編糸を用いて紐状編地を構成する編目を形成する工程2と、
ベース編地を構成する一部の編目を対向する針床へ目移しする工程3と、
紐状編地を構成する編目をベース編地の編幅方向の一方側から他方側に向けて、目移しにより移動させる工程4と、
工程4の目移しにより紐状編地を構成する編目を、前記一方側から他方側に向けて移動させ、工程3で対向する針床へ目移しされた編目を針床上で越えて、前後針床に渡る第一編糸上を交差するように通過させ、ベース編地を構成する編目を係止していない編針まで移動させる工程5と、
工程3で目移しされた編目を元の針床へ目移しして戻す工程6、とを含み、これら工程を行うことにより、紐状編地の編成を行いながらベース編地の表裏へ紐状編地を渡らせることを特徴とする編地の編成方法。
【請求項2】
前記紐状編地の編成は、工程2の編目の形成と、工程3の目移しによる移動とを交互に繰り返しながら行うことを特徴とする請求項1記載の編地の編成方法。
【請求項3】
前記工程2での紐状編地を構成する編目の形成は、ベース編地を構成する編目を係止していない同一針床上の編針を用いて、表目として編成することを特徴とする請求項1または2記載の編地の編成方法。
【請求項4】
前記工程2での紐状編地を構成する編目の形成は、ベース編地を構成する編目を係止していない前後の針床上の編針を用いて、筒状に編成することを特徴とする請求項1または2記載の編地の編成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベース編地の表裏に紐状編地を渡らせた編地の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機を用いて編成される編地には、公知のインレイ編地がある。例えば特許文献1は、リブ組織であるベース編地の表裏にインレイ糸を発現させてデザイン性の高い編地を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4848372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、リブ組織の表裏に現れるのはインレイ糸であり、編目は形成されていない。また、編目で形成された紐状編地をベース編地の表裏に現れるようにするには、ベース編地の編成とは別に編成された紐状編地を、後工程で手作業によってベース編地へ挿通させる必要がある。
【0005】
本発明の目的は、横編機を用いてベース編地と紐状編地を編成し、横編機上でベース編地の表裏に紐状編地を渡らせることができる編地の編成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を備え、前後の針床間で目移しが可能な横編機による編地の編成方法において、第一の編糸を用いてベース編地を編成する工程1と、ベース編地を構成する編目を係止していない編針で、第二の編糸を用いて紐状編地を構成する編目を形成する工程2と、ベース編地を構成する一部の編目を対向する針床へ目移しする工程3と、紐状編地を構成する編目をベース編地の編幅方向の一方側から他方側に向けて、目移しにより移動させる工程4と、工程4の目移しにより紐状編地を構成する編目を、前記一方側から他方側に向けて移動させ、工程3で対向する針床へ目移しされた編目を針床上で越えて、前後針床に渡る第一編糸上を交差するように通過させ、ベース編地を構成する編目を係止していない編針まで移動させる工程5と、工程3で目移しされた編目を元の針床へ目移しして戻す工程6、とを含み、これら工程を行うことにより、紐状編地の編成を行いながらベース編地の表裏へ紐状編地を渡らせることを特徴とする。

【0007】
また本発明では、前記紐状編地の編成は、工程2の編目の形成と、工程3の目移しによる移動とを交互に繰り返しながら行うことを特徴とする。
【0008】
また本発明では、前記工程2での紐状編地を構成する編目の形成は、ベース編地を構成する編目を係止していない同一針床上の編針を用いて、表目として編成することを特徴とする。
【0009】
また本発明では、前記工程2での紐状編地を構成する編目の形成は、ベース編地を構成する編目を係止していない前後の針床上の編針を用いて、筒状に編成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、横編機でベース編地と紐状編地を編成し、横編機上でベース編地の表裏に紐状編地を渡らせることができるため、後工程での作業を廃止できる。また紐状編地の編成における編目数と編成コース数の選択によって、紐状編地の幅や太さと長さを所望のものにすることができる。また、ベース編地の表裏に紐状編地を渡らせる区間も自在であり、編地のデザインの自由度も高い。
【0011】
また本発明によれば、紐状編地を構成する編目の形成と目移しを交互に繰り返すため、同じ編目が繰り返して目移しされることがなく、編糸の損傷を防ぐことができる。
【0012】
また本発明によれば、ベース編地の表面に対して、紐状編地を表目として渡らせることができるため、見栄えが良い編地を編成することができる。
【0013】
また本発明によれば、紐状編地を筒状に編成することで、太くて丈夫なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例である編地1の画像である。
図2】本発明の実施例である編地1の編成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1の編地1の画像および図2の編成図を用いて本発明の一実施例としての編地の編成方法を説明する。本実施例で編成に使用する横編機は、前後一対の針床を備えた二枚ベッド横編機であり、各針床間で目移しが可能である。編成に使用する横編機は四枚ベッドでもよく、横編機に備える編針は、べら針または複合針のいずれであってもよい。また説明の便宜のため、図2の編成図における編針の本数は、図1の編地1よりもよりも少なくしている。図2の編成図にて、図中左側の数字は編成ステップ(S)を、図中の左右方向の矢印は編成方向を、図中の上下方向の矢印は目移し方向を示す。FBは前針床を、BBは後針床を示す。大文字のA〜QはFBの編針を、小文字のa〜qはBBの編針を示す。また、太線の丸印はその編成ステップで形成される編目を、細線の丸印はその編成ステップの編成に関係せず編針に係止されたままの編目を示す。
また、実施例での表面とは前針床FB側から見た編地または編目を、裏面とは後針床BB側から見た編地または編目を指す。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の実施例である編地1を示す画像である。編地1は、天竺組織のベース編地2の表面であり、各編目は表目である。ベース編地2の表面には紐状編地3が現れているが、紐状編地3はベース編地2の表裏に渡って挿入されている。尚、ベース編地2と紐状編地3とは異なる編糸で編成され、ベース編地2と紐状編地3は固定されていない。
【0017】
図2は、本発明の実施例である編地1の編成図である。但し、ベース編地2の表裏に紐状編地3を渡らせた一ヶ所についての編成図である。ベース編地2は公知の針抜き編成によって編成される。
【0018】
S1は、ベース編地2の編目を形成するための編成コースであり、S3以降で説明する紐状編地3の編成を開始する直前の編成コースである。S1では、ベース編地2を編成するための編糸(第一の編糸)は給糸口Xから給糸して、FBにおける編針A〜Qの区間で1本置きの編針でベース編地2を構成する編目(表目)を形成する。
【0019】
S2は、ベース編地2の表裏に紐状編地3を渡らせるための準備として、編針G,I,Kで係止するベース編地の編目を、対向する針床であるBBの編針g,i,kへ目移しする。このようにベース編地2を構成する一部の編目を対向するBBへ移動させた区間は、S3以降で説明する紐状編地3が通過し、最終的にはベース編地の表面に紐状編地3が現れる区間となる。
【0020】
S3は、紐状編地3の編成である。紐状編地3を編成するための編糸(第二の編糸)は給糸口Yから給糸して、ベース編地2を構成する編目を係止していないFBの編針B,Dで編目(表目)を形成する。編針B,Dでの編目の形成は、右行きと左行きの編成によって2コース分の編目が形成される。
【0021】
S4は、S3で形成されて編針B,Dで係止する編目を目移しにより移動させる。矢印で示すように、編針B,Dで係止する編目を対向するBBの編針b,dへ一旦目移しした後、BBをラッキングして、FBの編針F,Hへ目移しする。続いて編針F,Hにおいて、S3と同様に右行きと左行きの編成によって2コース分の編目を形成する。
【0022】
S5は、S4で形成されて編針F,Hで係止する編目を目移しにより移動させる。矢印で示すように、編針F,Hで係止する編目を対向するBBの編針f,hへ一旦目移しした後、BBをラッキングして、FBの編針J,Lへ目移しする。続いて編針J,Lにおいて、S3やS4と同様に右行きと左行きの編成によって2コース分の編目を形成する。
【0023】
S6でもS4やS5と同様の編成によって、編針J,Lで係止する編目を目移しによって編針N,Pへ移動させ、編針N,Pにおいて2コース分の編目を形成する。編針N,Pまでの編目の移動によって、紐状編地3はベース編地2の編幅方向の一方側(編針A側)から他方側(編針Q側)に向けて移動し、且つS2で対向するBBへ目移しされた編目を針床上で越えた状態になる。また紐状編地3は、編針E−g間と編糸k−Mにそれぞれ渡る第一の編糸上を交差するように通過する。
【0024】
S3〜S6にて、紐状編地3を構成する二つの編目を編幅方向の一方側から他方側に向けて移動しており、既に編成を終えて編針に係止されていない部分の紐状編地3も引き連れて同様に移動させている。
【0025】
またS3〜S6にて紐状編地3は、紐状編地3を構成する編目の形成と目移しによる移動とを交互に繰り返している。従って目移しされる編目は、毎回新たに形成された編目であり、同じ編目が繰り返して目移しされていないため、編糸の損傷を防ぐことができる。編糸が損傷する虞れが無ければ、S3で紐状編地3を構成する編目を例えばまとめて6コース分形成しておき、目移しのみを繰り返して編針N,Pまで移動させてもよい。
【0026】
またS3〜S6にて、紐状編地3を構成する連続した編目を2目として2コース分形成している。ここで、2目は紐状編地3の幅(編幅方向に直交する方向)に相当し、2コースの編成は紐状編地3の長さ(編幅方向)となる。つまり、連続する目数が増すほど、紐状編地3の幅も増す。また、その編成コース数が増すほど、紐状編地3も長くなる。このため、紐状編地3を構成する連続した編目数とその編成コース数は上述の実施例に限定されず、それらの数の選択によって、紐状編地3を変化させることができる。
【0027】
S7は、S2での目移しによってBBの編針g,i,kで係止状態を保っていた編目を、FBの編針G,I,Kへ目移しして元に戻す。これにより紐状編地3は、前述の編針E−g間と編糸k−Mにそれぞれ渡る第一の編糸によってFB側(編地の表面側)へ押し出された状態となる。その後、S1と同様にベース編地2の編目を形成するための編成コースを所望の回数繰り返して編成を終えると、横編機上でベース編地2の表裏に紐状編地3が渡った編地を得ることができる。紐状編地3は編針Eと編針Gで形成されたベース編地2の編目間で裏面から表面に出て、編針Kと編針Mで形成されたベース編地2の編目間で表面から裏面に出ていくようになる。なお、S1〜S7と同様の編成を四ヶ所で繰り返して行えば、図1で示す編地1を得ることができる。また、S4,S5では紐状編地の編目をそれぞれ2コース分形成したが、それらのコース数を多くするほどベース編地の表面に現れる紐状編地の張りを緩ませることができる。ベース編地2の表裏に紐状編地3を渡らせる区間は、S2の目移しで決定されるため、目移しする編目数や位置などを組み合せることに種々の編地を得ることができ、編地のデザインの自由度も高い。
【0028】
本実施例では、紐状編地を構成する編目は、すべて同一の針床FB上で2目ずつ形成して、ベース編地の表面に対して紐状編地を表目したため見栄えがよい。なお、紐状編地を構成する編目を針床BB上で形成して裏目とすることも可能である。
【0029】
また変形例として、紐状編地を構成する編目をFBとBBにおける空針を利用して周回状に編目を形成して筒状編地にしてもよい。紐状編地を筒状編地にすれば、太くて丈夫なものにすることができる。この場合、これら編目の目移しを可能にするために、針抜きのピッチを広げて編針を確保する、または四枚ベッド横編機を用いる、または公知のトランスファージャックやホールディングなどの編目の預け置き手段を利用するなどすればよい。
【0030】
本願発明の編成方法を利用すれば、例えば編地表面に紐状編地が発現したデザインのニットウエアを編成することができる。また、ニットウエアのベース編地と紐状編地とで異なる素材の編糸や異なる色糸を使用してもよい。また、筒状編地にて紐状編地の始端となる編目を編針で係止しておき、複数個所で編地の表裏に紐状編地を挿入し、紐状編地の始端の編目と終端の編目とを接合することもできる。また、紐状編地をベース編地から分岐するように編み始めて、紐状編地の始端をベース編地に固定することや、紐状編地の終端をベース編地へ接合して固定させることもできる。また、図1の編地1では、左下の紐状編地3と右下の紐状編地3、左上の紐状編地3と右上の紐状編地3はそれぞれベース編地2の同一の編目コース上で表面に現れているが、例えば左下の紐状編地3を形成後に一旦その編成を休止し、右上の紐状編地3から再度その編成を行なうことも可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 編地
2 ベース編地
3 紐状編地
図1
図2