特許第6139215号(P6139215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6139215中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139215
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20170522BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20170522BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20170522BHJP
   G01N 33/96 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   G01N27/26 381D
   G01N27/327 353T
   G01N27/327 353J
   G01N27/416 336G
   G01N33/96
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-72598(P2013-72598)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196947(P2014-196947A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2016年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106771
【氏名又は名称】シーシーアイ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503195850
【氏名又は名称】有限会社アルティザイム・インターナショナル
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】西脇 直秀
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−174058(JP,A)
【文献】 特開昭57−084356(JP,A)
【文献】 特開昭56−092456(JP,A)
【文献】 特開昭55−151265(JP,A)
【文献】 特開2012−077514(JP,A)
【文献】 特表平10−504904(JP,A)
【文献】 特表2008−511839(JP,A)
【文献】 特表2008−534943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
G01N 33/48−33/98
C12Q 1/00−3/00
C12M 1/00−3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性脂肪と、タンパク質と、全血の血球成分と、溶媒と、を含む、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物(ただし、全血を除く)
【請求項2】
前記タンパク質が16〜24000mg/dL、前記中性脂肪が0を超えて1600mg/dL以下、前記全血の血球成分が22000〜67000mg/dLで含まれる、請求項1に記載の標準物質組成物。
【請求項3】
前記中性脂肪は、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の標準物質組成物。
【請求項4】
前記タンパク質は、卵アルブミン、血清アルブミン、および乳アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の標準物質組成物。
【請求項5】
中性脂肪をタンパク質溶液中に分散させて中性脂肪分散液を調製する工程と、
全血を洗浄して血清・血漿成分を除去し、全血の血球成分を得る工程と、
前記中性脂肪分散液と前記全血の血球成分とを混合する工程と、を有する、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、疾病の予防の観点から、健康を自身で管理するセルフメディケーションが世界中で主流となってきており、日本でもメタボリックシンドロームの予防・改善目的で新たな健診が導入されている。その検査項目としては、血糖値、中性脂肪、コレステロール、そして高血圧があるが、特に中性脂肪は、肥満との高い相関関係が示唆されており、高血圧や糖尿病などの疾患との関係も示唆されている(非特許文献1)。
【0003】
中性脂肪の測定方法としては、病院などで行う臨床検査(血液検査)が一般的であり、これは患者の血液から血清または血漿成分を分離し、これを試料として臨床検査機器や臨床検査用測定キットを使用する方法である。また最近では、簡便に測定が可能である、全血を試料とした使い捨て型のバイオセンサを用いる方法もある。この使い捨て型バイオセンサは、ハンディータイプの専用の測定器本体に挿入することができ、全血を点着して一定時間待機するだけで測定が可能である。
【0004】
中性脂肪を測定可能な使い捨て型のバイオセンサは大きく2つに大別される。ひとつは、全血から血球成分を除いた血清または血漿を試料とし、試料中の中性脂肪を化学反応で呈色させて比色計で測定し算出する方法である(特許文献1)。このようなバイオセンサには、フィルターなどで血球成分と血清・血漿成分を分離する機能が備わっている。他方は、全血を試料とし、試料と酵素や電子伝達体等と直接反応させ、生成された還元型電子伝達体を電極上で酸化し、得られた電流値から算出する電気化学的方法である(特許文献2)。
【0005】
臨床検査機器や臨床検査用測定キットには、製品の性能確認やゼロ補正を行うための標準物質が付属されている。その標準物質として、中性脂肪の中間分解物であるグリセロールの標準溶液を用いることが多く、また場合によっては市販の凍結保存や冷凍処理を施した血清や血漿を使用することも可能である。全血を試料とした使い捨て型のバイオセンサにおいても、比色計で測定する場合は同様な標準物質を使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7214504号明細書
【特許文献2】国際公開第2011/125750号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nordestgaard BG, Benn M, et al. JAMA. 2007;298(3):299−308
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、全血を試料とする、特に電気化学的方法で測定するバイオセンサにて性能確認やゼロ補正を行う場合、グリセロール溶液、血清、血漿は、粘度の違いなどから誤差が生じやすく標準物質として使用するには適していない。また、これらを用いて製品の性能確認やゼロ補正に対応させるためには測定器本体に新たなプログラムを導入しなければならないなど煩雑な手段を踏まなければならない。
【0009】
また、中性脂肪測定において標準物質として全血を用いた場合、食事や採血の時間帯などで血中の中性脂肪値そのものが変動し定量的な数値が得られにくいため、全血は中性脂肪測定の標準物質として適していない。さらには、電気化学的方法で測定するバイオセンサの場合、ヘマトクリット値やその他の血中成分による電流値の変動によって算出される中性脂肪値が変動する等のおそれがある。これらのことから、全血を中性脂肪測定での標準物質として用いることは好ましくない。
【0010】
そこで本発明は、所望の中性脂肪濃度に容易に調整可能で、かつ全血と同等の反応を示す標準物質を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明の他の目的は、このような標準物質を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、中性脂肪と、タンパク質と、全血の血球成分と、溶媒と、を含む、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物により、所望の中性脂肪濃度が迅速かつ高精度に測定されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所望の中性脂肪濃度に容易に調整可能で、かつ全血と同等の反応を示す中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のバイオセンサの一実施形態を示す分解斜視図である。
図2図1のバイオセンサの断面図である。
図3】実施例で製造したバイオセンサを示す分解斜視図である。
図4】実施例で調製した標準物質組成物を用いて測定した電流値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための好ましい一実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには制限されない。
【0016】
本発明の一形態によれば、中性脂肪と、タンパク質と、全血の血球成分と、溶媒と、を含む、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物が提供される。
【0017】
すなわち、本発明者らは、全血の血清・血漿部分を、人工的に調製した、中性脂肪とタンパク質と溶媒とを含む組成物で置換することで、中性脂肪濃度を所望の濃度に調整することができ、かつ全血と同等の反応を示すことを見出したものである。
【0018】
本発明によれば、全血と同等の反応を示す、所望の中性脂肪濃度を有する標準物質組成物を調製することができ、この標準物質組成物を用いることで容易に中性脂肪濃度測定用バイオセンサの性能を確認することが可能となる。
【0019】
以下に、本発明の中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物について述べる。
【0020】
本発明の中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物は、中性脂肪と、タンパク質と、全血の血球成分と、溶媒と、を含む。
【0021】
より好ましい実施形態としては、タンパク質と溶媒とを含むタンパク質溶液(以下、単に「タンパク質溶液」とも称する。)に、中性脂肪は分散される。よって、本発明の標準物質組成物は、好ましくは、中性脂肪がタンパク質溶液(タンパク質と溶媒とを含むタンパク質溶液)に分散された中性脂肪分散液を含む。すなわち、本発明の一形態によれば、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物は、中性脂肪がタンパク質溶液に分散された中性脂肪分散液と、全血の血球成分と、を含む。全血の血清・血漿部分を、中性脂肪分散液で置換することで、中性脂肪濃度を所望の濃度に調整することができ、かつ全血と同等の反応を示すことができる。
【0022】
以下、本発明の中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物を構成する各成分について説明する。
【0023】
本発明の標準物質組成物は、タンパク質を含む。
【0024】
本発明に用いられるタンパク質は、動物由来および植物由来のタンパク質なら特に制限されないが、好ましくは卵アルブミン、血清アルブミン、および乳アルブミンからなる群より選択される少なくとも1つである。より好ましくは血清アルブミンであり、血清アルブミンのうち、さらに好ましくはウシ血清アルブミンである。タンパク質は、標準物質組成物の全質量に対して、0.04〜30質量%含有されるのが好ましく、より好ましくは0.4〜25質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。
【0025】
また、上述のように、タンパク質は、タンパク質と溶媒とを含むタンパク質溶液として、組成物に含まれるのが好ましい。この際、タンパク質は、タンパク質溶液の全質量に対して、0.1〜40%質量%含有されるのが好ましく、より好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは2〜15質量%である。
【0026】
本発明の標準物質組成物は、溶媒を含む。
【0027】
本発明に用いられる溶媒は、タンパク質溶液を構成する溶液(溶媒)として用いる。本発明に用いられる溶媒としては、特に制限されないが、タンパク質を溶解し、タンパク質の機能を阻害しないのであれば特に制限されないが、水、緩衝液が好ましく、水がより好ましい。緩衝液としては、所望のpHを有するものであれば公知の緩衝液が適宜使用でき、特に限定されるものではないが、たとえば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、クエン酸−リン酸緩衝液、トリスヒドロキシメチルアミノメタン−HCl緩衝液(トリス塩酸緩衝液)、酢酸緩衝液、MOPS(3−モルホリノプロパンスルホン酸)(MOPS−NaOH緩衝液)もしくはHEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)(HEPES−NaOH緩衝液)などのGOOD緩衝液、グリシン−塩酸緩衝液、グリシン−NaOH緩衝液、グリシルグリシン−NaOH緩衝液、グリシルグリシン−KOH緩衝液などのアミノ酸系緩衝液、トリス−ほう酸緩衝液、ほう酸−NaOH緩衝液、ほう酸緩衝液などのほう酸系緩衝液、またはイミダゾール緩衝液などが用いられる。緩衝液の濃度としては、特に制限されず、0.1〜200mMであるのが好ましく、1〜100mMであるのがより好ましい。なお、本発明において緩衝液の濃度とは、緩衝液中に含まれる緩衝剤の濃度(mM)をいう。また、緩衝液のpHは、タンパク質の安定pHから極端に外れていなければよく、好ましくはpH4〜11、より好ましくはpH5〜10、さらに好ましくはpH6〜9の範囲である。
【0028】
なお、タンパク質溶液としては、中性脂肪を分散させるために、乳化剤、安定化剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤の濃度としては、タンパク質溶液に対して、0.001〜5質量%であるのが好ましく、0.01〜1質量%であるのがより好ましい。
【0029】
本発明の標準物質組成物は、中性脂肪を含む。
【0030】
本発明に用いられる中性脂肪としては、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドからなる群より選択される少なくともひとつを含むことが好ましい。より好ましくは、中性脂肪としてトリグリセリドを含む。ここで、モノグリセリドとは、グリセロールの水酸基の一つに脂肪酸がエステル結合した物質のことを意味し、ジグリセリドとはグリセロールの水酸基の二つに脂肪酸がエステル結合した物質のことを意味し、トリグリセリドとはグリセロールの水酸基三つ全てに脂肪酸がエステル結合した物質のことを意味する。これらのモノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドを構成する脂肪酸としては、特に制限されず、好ましくは炭素数3〜20の飽和または不飽和脂肪酸、より好ましくは炭素数8〜18の飽和または不飽和脂肪酸、さらに好ましくは炭素数12〜18の飽和または不飽和脂肪酸である。炭素数1〜20の飽和または不飽和脂肪酸としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。モノグリセリドとしては、例えば、モノミリスチン、モノパルミチン、モノステアリン、モノオレインなどが挙げられ、ジグリセリドとしては、例えば、ジミリスチン、ジパルミチン、ジステアリン、ジオレインなどが挙げられ、トリグリセリドとしては、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、トリオレインなどが挙げられる。また、中性脂肪としては、モノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドの少なくともひとつを含む天然油脂を使用することもでき、このような天然油脂としては、例えば、オリーブ油、ナタネ油、大豆油が挙げられる。これらのうち、中性脂肪としては、モノステアリン、モノオレイン、ジステアリン、ジオレイン、トリステアリン、トリオレインが好ましく、モノオレイン、ジオレイン、トリオレインがより好ましく、トリオレインであることがさらに好ましい。中性脂肪は、標準物質組成物の全質量に対して、0を超えて2質量%以下含有されるのが好ましく、より好ましくは0.0001〜1.5質量%、さらに好ましくは0.001〜1質量%である。
【0031】
また、上述のように、中性脂肪は、中性脂肪がタンパク質と溶媒とを含むタンパク質溶液に分散された中性脂肪分散液として組成物に含まれるのが好ましい。この際、中性脂肪は、タンパク質溶液の全質量に対して、0を超えて4質量%以下含有されるのが好ましく、より好ましくは0.0001〜3質量%、さらに好ましくは0.001〜2質量%である。よって、換言すれば、中性脂肪は、中性脂肪分散液の全質量に対して、0を超えて4質量%以下含有されるのが好ましく、より好ましくは0.002〜3質量%、さらに好ましくは0.01〜2質量%である。
【0032】
本発明の標準物質組成物は、全血の血球成分を含む。
【0033】
本発明に用いられる全血としては、ヒト由来または動物由来であれば特に制限されないが、ヒト由来であるのが好ましい。本発明では、全血を洗浄して、血清・血漿成分を除去し、全血の血球成分を得る。全血の洗浄方法は後述するが、全血を洗浄することにより、血清・血漿成分が除去された全血の血球成分を得るのが好ましい。本明細書中、血清・血漿成分が除去された全血の血球成分は、後述する洗浄に用いた洗浄液を含みうる。血清・血漿成分が除去された全血の血球成分が含みうる洗浄液は、得られた血清・血漿成分が除去された全血の血球成分の全質量に対して、0〜5質量%含有されるのが好ましく、より好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。よって、得られた血清・血漿成分が除去された全血の血球成分のうち、好ましくは95〜100質量%、より好ましくは98〜100質量%、さらに好ましくは99〜100質量%が血球成分であると考えられる。
【0034】
また、全血を洗浄することにより血球成分として得られるのは、全血に対して、好ましくは20〜60質量%、より好ましくは28〜55質量%、さらに好ましくは34〜50質量%である。すなわち、全血を洗浄することにより、全血に対して、好ましくは40〜80質量%、より好ましくは45〜72質量%、さらに好ましくは50〜66質量%の血清・血漿成分が除去される。
【0035】
本発明において、全血の血球成分の除去された血清・血漿成分に対して、好ましくは0.1〜10質量倍、より好ましくは0.2〜5質量倍、さらに好ましくは0.5〜2質量倍の中性脂肪分散液を、全血の血球成分と混合する。
【0036】
本発明の標準物質組成物おけるタンパク質は、血球成分を含まない中性脂肪分散液において、好ましくは40〜30000mg/dL、より好ましくは400〜20000mg/dL、さらに好ましくは1000〜10000mg/dLで含まれる。また、標準物質組成物中において、タンパク質は、好ましくは16〜24000mg/dL、より好ましくは160〜12000mg/dL、さらに好ましくは400〜8000mg/dLで含まれる。
【0037】
本発明の標準物質組成物おける中性脂肪は、血球成分を含まない中性脂肪分散液において、0を超えて2000mg/dL以下、より好ましくは0.1〜1500mg/dL、さらに好ましくは1〜1000mg/dLで含まれる。また、標準物質組成物において、中性脂肪は、0を超えて1600mg/dL以下、より好ましくは0.04〜1200mg/dL、さらに好ましくは0.4〜800mg/dLで含まれる。
【0038】
本発明の標準物質組成物おける全血の血球成分は、好ましくは22000〜67000mg/dL、より好ましくは31000〜61000mg/dL、さらに好ましくは37000〜55000mg/dLで含まれる。
【0039】
すなわち、本発明の標準物質組成物において、タンパク質が16〜24000mg/dL(より好ましくは160〜12000mg/dL、さらに好ましくは400〜8000mg/dL)、中性脂肪が0を超えて1600mg/dL以下(より好ましくは0.04〜1200mg/dL、さらに好ましくは0.4〜800mg/dL)、全血の血球成分が22000〜67000mg/dL(より好ましくは31000〜61000mg/dL、さらに好ましくは37000〜55000mg/dL)で含まれるのが好ましい。本発明において、上記範囲でそれぞれの成分が含有されることで、中性脂肪が均一な分散状態となり、標準物質組成物が安定した状態を保ち、本発明の効果が十分に発揮される。
【0040】
本発明の標準物質組成物は、全血の血球成分以外の血中成分により生じる誤差を低減し、所望の中性脂肪値に調整することができ、かつ全血と同等の反応性を示す。よって、中性脂肪濃度測定において、好適な標準物質として用いることができる。特に、全血を試料とし、電気化学的方法で測定する中性脂肪測定において、その性能確認やゼロ補正のための標準物質として好適である。また、本発明の標準物質組成物は、後述する中性脂肪濃度測定用バイオセンサにおける標準物質として好適に用いられる。
【0041】
本発明によれば、本発明の標準物質組成物を製造する方法も提供される。
【0042】
すなわち、本発明の一形態によれば、中性脂肪をタンパク質溶液中に分散させて中性脂肪分散液を調製する工程と、全血を洗浄して血清・血漿成分を除去し、全血の血球成分を得る工程と、前記中性脂肪分散液と前記全血の血球成分とを混合する工程と、を有する、中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物の製造方法が提供される。
【0043】
以下に本発明の標準物質組成物の製造方法の好ましい実施形態について述べる。なお、本発明は、下記好ましい実施形態に限定されるものではない。
【0044】
(i)中性脂肪をタンパク質溶液中に分散させて中性脂肪分散液を調製する工程
工程(i)において、まずタンパク質溶液を準備する。タンパク質溶液の調製方法は特に制限されず、溶液(溶媒)にタンパク質を添加し、タンパク質が溶解するよう混合すればよい。溶媒としては、上述した溶媒が好適に用いられる。次に、得られたタンパク質溶液に中性脂肪を添加し、中性脂肪を溶液中に分散させる。中性脂肪の分散方法としては、中性脂肪をタンパク質溶液中に分散できればよく、従来公知の技術が適宜使用できる。具体的には、超音波処理、スターラーによる撹拌処理、ホモジナイザー等による乳化処理などがあるが、より好ましくは超音波処理である。超音波処理であれば、中性脂肪をタンパク質溶液に均一に分散することができ、また、分散された中性脂肪の粒径が小さく、安定性がよい。中性脂肪は、溶液中で、タンパク質分子に包含された状態と考えられる。中性脂肪分散液を調製する際の超音波の条件としては、中性脂肪が分散できれば特に制限されず、たとえば、好ましくは5〜50kHz、より好ましくは10〜30kHzである。また、中性脂肪分散液を調製する際の温度としても特に制限されず、たとえば、好ましくは0〜30℃、より好ましくは4〜25℃である。
【0045】
(ii)全血を洗浄して血清・血漿成分を除去し、全血の血球成分を得る工程
工程(ii)において、まず全血を洗浄する。全血の洗浄方法としては、全血中の血清・血漿成分を含まない血球成分のみを分離・回収できればよく、従来公知の技術が適宜使用できる。より好ましい方法としては、まず、全血を遠心分離により血球成分と血清・血漿成分とを分離し、上清の血清・血漿成分を廃棄する。遠心分離の条件としては、好ましくは500〜4000×Gで2〜10分、より好ましくは1000〜2000×Gで2〜10分である。また、遠心分離をする際の温度としては、好ましくは0〜30℃、より好ましくは4〜25℃である。次に、廃棄した上清の血清・血漿成分の容量に対して、好ましくは0.5〜10容量倍、より好ましくは1〜5容量倍の洗浄液を用いて、血球成分を洗浄する。具体的には、洗浄液(好ましくは、リン酸緩衝生理食塩水)で血球成分を懸濁させて洗浄し、その後、再度遠心分離して上清の洗浄液を廃棄する。この洗浄液による洗浄工程を、好ましくは1〜10回、より好ましくは2〜4回繰り返すことで血清・血漿成分がほぼ除去できる。以上のようにして、全血の血球成分を含む溶液が得られる。全血を洗浄する洗浄液としては、血球成分と同等の浸透圧を有しているものであれば特に制限されず、緩衝液が好ましい。緩衝液としては、上記のタンパク質溶液を構成する溶液(溶媒)と同様のものが用いられうる。緩衝液のうち、好ましくはリン酸緩衝液であり、より好ましくはリン酸緩衝生理食塩水である。緩衝液の濃度としては、特に制限されず、0.1〜200mMであるのが好ましく、1〜100mMであるのがより好ましい。また、緩衝液のpHは、好ましくはpH4〜11、より好ましくはpH5〜10、さらに好ましくはpH6〜9の範囲である。
【0046】
(iii)中性脂肪分散液と全血の血球成分とを混合する工程
工程(iii)は、所望の中性脂肪濃度の中性脂肪分散液と洗浄した全血の血球成分とを混合すればよく、振とう、超音波処理、スターラーによる撹拌など従来公知の混合方法で混合することができる。また、中性脂肪分散液と洗浄した全血の血球成分との混合比は、上述した全血の洗浄工程において廃棄した上清の血清・血漿成分の容量を基準として計算するのが好ましい。具体的には、廃棄した上清の血清・血漿成分の容量に対して、好ましくは0.5〜4容量倍、より好ましくは1〜2容量倍の中性脂肪分散液を、洗浄した全血の血球成分と混合する。これらの容量を秤量する好ましい方法としては、ピペットマン、パスツールピペット、駒込ピペットなどが挙げられ、より好ましい方法として、取り扱いが容易で分取容量が把握できるピペットマンが好ましい。また混合する割合によってヘマトクリット値(血液中に占める血球成分の体積の割合)が異なるため、一般的な標準物質としては、通常ヘマトリクット値35〜50%、より好ましくは42〜43%となるように調製するのが好ましい。
【0047】
本発明の標準物質組成物は、中性脂肪濃度測定用バイオセンサの標準物質として用いるのが好ましい。特に、電気化学的方法による中性脂肪濃度測定に用いられるバイオセンサの標準物質として用いるのが好ましい。このようなバイオセンサとしては特に制限されず、公知のバイオセンサに本発明の標準物質組成物が標準物質として使用されうる。下記に本発明の標準物質組成物が用いられうるバイオセンサの好適な実施形態について図1および図2を参照しながら述べる。なお、説明の都合上、図面の寸法比率は誇張されており、図示する形態が実際とは異なる場合がある。また、本発明は、下記好ましい実施形態に限定されるものではない。
【0048】
図1および図2のバイオセンサは、絶縁性基板と、前記絶縁性基板上に形成されてなる、少なくとも作用極および対極を含む電極系と、前記電極系上に形成される反応層を備えた試料供給部と、を有するバイオセンサであって、前記反応層は、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素を含む第一の反応層と、前記第一の反応層上に脂質分解酵素を含む溶液を塗布することによって形成される第二の反応層と、を含む反応層を有する。
【0049】
図1および図2に示すとおり、バイオセンサは、絶縁性基板1(本明細書中、単に「基板」とも称する)の上に、作用極2、参照極3および対極4を含む電極系が形成されてなる。なお、上記電極系は、少なくとも作用極2および対極4を含むものであればよい。このため、参照極3は省略することができる。また、接着剤6が、絶縁性基板1上の端部に設置される。作用極2、参照極3および対極4は、バイオセンサを電気的に接続するための手段として機能している。
【0050】
絶縁性基板は、プラスチック、紙、ガラス、セラミックなどの絶縁性材料により構成されうる。上記プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリスチレン、プリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリル樹脂などが挙げられる。絶縁性基板の形状やサイズについては、特に制限されない。
【0051】
絶縁性基板上に形成される電極系は、バイオセンサの使用時において、反応層中の試料溶液に電位を印加するための電位印加手段、および、試料溶液中に流れる電流を検出するための電流検出手段として機能する。
【0052】
図1および図2に示すバイオセンサは、絶縁性基板に作用極、参照極および対極が電極系として設けられる、三電極方式センサである。ただし、本発明で用いられるバイオセンサは三電極方式のみに制限されず、参照極を含まない電極系を備えた二電極方式センサであってもよい。なお、電極系における電位の制御がより高感度で行われるという観点からは、二電極方式よりも三電極方式が好ましく用いられうる。その他、液量を感知するための感知電極等を含んでいてもよい。
【0053】
作用極および対極は、バイオセンサの使用時に一対となって、反応層中の試料溶液に電位を印加した際に流れる酸化電流(応答電流)を測定するための電流測定手段として機能する。バイオセンサの使用時には、参照極を基準に、対極と作用極との間に所定の電位が印加される。
【0054】
本発明において使用される電極は、測定対象物と試料との反応を電気化学的に検出できるものであれば特に制限されず、バイオセンサの電極系の形成に従来用いられる電極が適宜用いられうる。ただし、バイオセンサの応答感度をより一層向上させるという観点からは、電極系は表面抵抗値のより小さい材料から構成されることが好ましい。具体的な電極の一例としては、カーボン電極、金電極、銀電極、白金電極、パラジウム電極などが挙げられる。各電極(作用極、参照極、対極)を構成する材料は、それぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。耐腐食性およびコストの観点から、作用極および対極はカーボンを主成分として構成されることが好ましい。また、印加電位の安定性が高いという観点から、参照極は好ましくは銀/塩化銀により構成される。
【0055】
電極系(作用極2、参照極3および対極4)の形成方法は特に制限されず、スクリーン印刷法やスパッタリング法などの従来公知の手法により形成されうる。この際、電極系を構成する材料は、ポリエステル等の樹脂バインダを含むペーストの形態で提供されうる。上記の手法により塗膜を形成した後には、塗膜を硬化させる目的で、加熱処理を施すとよい。
【0056】
そして、絶縁性基板1上に形成された電極系(作用極2、参照極3および対極4)の一部が露出するように絶縁層5により被覆されている。当該絶縁層5は、各電極間の短絡を防止するための絶縁手段として機能する。絶縁層を構成する材料は特に制限されないが、例えば、レジストインク、PETやポリエチレン等の樹脂、ガラス、セラミックス、紙などにより構成されうる。絶縁層の形成方法についても特に制限はなく、スクリーン印刷法、インクジェット法や接着法等の従来公知の手法により形成されうる。
【0057】
また、絶縁層5から露出されている電極系(作用極2、参照極3および対極4)のそれぞれの一部が、試料供給部(より具体的には、第一の反応層8)と接触している。本明細書中では、第一の反応層8に接触している部分の電極系(作用極2、参照極3および対極4)を、特に、「作用部分(作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1)」とも称し、これらの作用部分の形状は特に限定されるものではない。また、図1および図2に示すように、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1および対極作用部分4−1の表面上に、第一の反応層8と、第二の反応層9とが順次積層されている。この当該第二の反応層9とカバー7との間に形成される空間部S(図1では図示せず)と、第一の反応層8と、第二の反応層9と、が試料供給部を形成する。
【0058】
ここで、第一の反応層8は、少なくとも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素を含む。また、第二の反応層9は、第一の反応層8上に形成され、少なくとも、脂質分解酵素を含む。
【0059】
ここで、上記作用部分(2−1、3−1、4−1)は、バイオセンサの使用時に、第一の反応層8中の試料に電位を印加するための電位印加手段および試料中に流れる電流を検出するための電流検出手段として機能する。なお、作用部分(2−1、3−1、4−1)を含めて作用極2、参照極3および対極4と称する場合もある。作用極2および対極4は、バイオセンサの使用時に一対となって、第一の反応層8中の試料に電位を印加した際に流れる酸化電流(応答電流)を測定するための電流測定手段として機能する。本発明に係るバイオセンサにおいて、参照極3を有する場合には、参照極3を基準として、対極4と、作用極2との間に所定の電位が印加される。
【0060】
本実施形態のバイオセンサは、基板1に設置された接着剤(両面テープ)6を介して第一の反応層8および第二の反応層9を覆うようにカバー7が接着されることにより構成される。なお、接着剤(両面テープ)6は、電極側に設置してもよいし、カバー7側のみに設置してもよいし、両方に設置してもよい。なお、図1ではカバー7側のみに接着剤6を設けている。
【0061】
本発明のバイオセンサにおいて、試料供給部は、さらに電子伝達体を含むことが好ましい。このような形態における電子伝達体は、いずれの形態で試料供給部中に存在してもよい。具体的には、(ア)第一の反応層8が電子伝達体を含む(電子伝達体を第一の反応層8に配置する)形態、(イ)第二の反応層9が電子伝達体を含む(電子伝達体を第二の反応層9に配置する)形態、(ウ)電子伝達体を含む第三の反応層10(図示せず)をさらに配置する形態等が挙げられる。これらの形態(ア)〜(ウ)のいずれかが適用されても、あるいは上記形態(ア)〜(ウ)の2以上が組み合わせて適用されてもよい。
【0062】
上記(イ)(第二の反応層が電子伝達体を有する)の場合、界面活性剤を含む層(以下界面活性剤層とも称する)をさらに、前記第一の反応層8および第二の反応層9と離間して、前記試料供給部に設けることが好ましい。この際、界面活性剤層の配置は特に制限されないが、例えば、界面活性剤層が、第一の反応層8および第二の反応層9と離間されてカバー側に形成されることが好ましい。その際、界面活性剤層がカバー側に形成されていると、カバー7が直接試料(血液など)に触れる場合よりも、カバー側への試料の広がりや濡れ性がよくなり、試料を試料供給部に素早く導入できる利点もある。界面活性剤層を形成する界面活性剤については、後述する反応層に含まれうる界面活性剤が同様に適用できる。なお、図3に、界面活性剤層12を有するバイオセンサを示す。
【0063】
上記の通り、本発明のバイオセンサにおいて、試料供給部は、酸化還元酵素を含む第一の反応層8と、脂質分解酵素を含む第二の反応層9と、を有する。また必要により、前記試料供給部は、空間部や、第一の反応層および第二の反応層と離間されて、カバー7側に界面活性剤層が設けられる場合には、試料供給部は界面活性剤層も有することが好ましい。
【0064】
本発明において、第一の反応層8および第二の反応層9の平均厚みは、特に制限されず、通常の反応層の平均厚みとなるように適宜選択できる。第一の反応層8は、好ましくは0.01〜25μm、より好ましくは0.025〜10μmである。また、第二の反応層9の平均厚みは、好ましくは0.01〜25μm、より好ましくは0.025〜10μmである。厚みの制御方法としても特に制限はないが、例えば、所定の成分を含む溶液の塗布量(例えば、滴下する量)を適宜調節することにより、制御することができる。
【0065】
また、本発明に係るバイオセンサにおいて、第一の反応層8および第二の反応層9と離間されてカバー7側に界面活性剤層12が形成される場合がある(図3)。界面活性剤層12が形成される場合には、その平均厚みは0.01〜25μmが好ましく、より好ましくは0.025〜10μmである。第二の反応層9と、界面活性剤層との平均離間距離は好ましくは0.05〜1.5mm、より好ましくは0.07〜1.25mmである。上記範囲であれば、毛細管現象が起こりやすく、試料が試料供給部に導入されやすい。
【0066】
本発明に係るバイオセンサの試料供給部は、上述したように空間部Sと、反応層(第一の反応層、第二の反応層、および第三の反応層、ならびに必要により配置される界面活性剤層とを含む概念である。)と、を備えており、当該反応層には、酸化還元酵素、脂質分解酵素を必須成分として、必要により、電子伝達体、界面活性剤、親水性高分子、糖、およびタンパクからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含む。また、以下、各成分について説明する。
【0067】
(酸化還元酵素)
本発明における第一の反応層8は、補欠分子族(「補酵素」とも称する)としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素を含む。特に、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むポリオール脱水素酵素が好ましい。なお、本発明においては、本発明の酸化還元酵素を単独で、または混合物の形態として使用してもよい。
【0068】
本発明において、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素としては、特に制限されず、試料の種類に依存するが、補欠分子族として、ピロロキノリンキノン(PQQ)を含む酸化還元酵素としては、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、マンニトールデヒドロゲナーゼ、アラビトールデヒドロゲナーゼ、ガラクチトールデヒドロゲナーゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼ、アドニトールデヒドロゲナーゼ、エリスリトールデヒドロゲナーゼ、リビトールデヒドロゲナーゼ、プロピレングリコールデヒドロゲナーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2−ケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、5−ケト−グルコン酸デヒドロゲナーゼ、2,5−ジケトグルコン酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、環状アルコールデヒドロゲナーゼ、アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アミンデヒドロゲナーゼ、シキミ酸デヒドロゲナーゼ、ガラクトースオキシダーゼ等が挙げられる。
【0069】
補欠分子族としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはフラビンモノヌクレオチド(FMN)を含む酸化還元酵素としては、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、D−アミノ酸オキシダーゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ、モノアミンオキシダーゼ、サルコシンデヒドロゲナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、D−乳酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼ等が挙げられる。
【0070】
中でも、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)またはフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の少なくとも一方を含むグリセロールデヒドロゲナーゼが好ましく、補欠分子族としてピロロキノリンキノン(PQQ)を含むグリセロールデヒドロゲナーゼ(以下、「PQQ依存性グリセロール脱水素酵素」とも称する)が特に好ましい。
【0071】
上記の酸化還元酵素は、市販の商品を購入して用いてもよいし、自ら調製したものを用いてもよい。当該酸化還元酵素を自ら調製する手法としては、例えば、当該酸化還元酵素を産生する細菌を、栄養培地に培養し、該培養物から当該酸化還元酵素を抽出する公知の方法が挙げられる(例えば、特開2008−220367号公報参照)。
【0072】
当該酵素を産生する細菌としては、例えば、グルコノバクター属、シュードモナス属など様々な属に属する細菌が挙げられる。本実施形態では、特にグルコノバクター属に属する細菌の膜画分に存在するPQQ依存性グリセロールデヒドロゲナーゼが好ましく用いられうる。さらに、入手の容易さから、グルコノバクター属、特には、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)NBRC 3130、3189、3244、3287、3292、3293、3294、3462、12528、14819;グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)NBRC 3171、3251、3253、3262、3264、3265、3268、3270、3285、3286、3290、16669、103413、103421、103427、103428、103429、103437、103438、103439、103440、103441、103446、103453、103454、103456、103457、103458、103459、103461、103462、103465、103466、103467、103468、103469、103470、103471、103472、103473、103474、103475、103476、103477、103482、103487、103488、103490、103491、103493、103494、103499、103500、103501、103502、103503、103504、103506、103507、103515、103517、103518、103519、103523;グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)NBRC 3267、3274、3275、3276等が用いられうる。
【0073】
これらの細菌からPQQ依存性グリセロール脱水素酵素を得る手法については特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0074】
なお、上記公知の方法で得られる部分精製酵素や精製酵素液は、そのままの形態で使用しても、または化学修飾された形態で使用してもよい。化学修飾された形態の酸化還元酵素を使用する場合には、上記の方法で得られる培養物由来の酸化還元酵素を、例えば、特開2006−271257号公報に記載されるような方法等を用いて適宜化学修飾して使用することができる。なお、化学修飾方法は、上記公報に記載の方法に限定されるものではない。
【0075】
本発明の酸化還元酵素の含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、電子伝達体の種類や、後述する親水性高分子の量等によって適宜選択することができる。一例を挙げると、例えば、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を使用する場合には、1センサあたり、グリセロールの分解を迅速に行い、かつ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、好ましくは0.01〜100U、より好ましくは0.05〜50U、特に好ましくは0.1〜10Uである。なお、本明細書中、各構成要件の含有量を説明する際に「1センサ」という用語を用いることがあるが、本明細書における「1センサ」とは、一般的なバイオセンサの大きさである、試料供給部に供給される試料が「0.1〜20μL(好ましくは0.5μL程度)」であるものを想定している。よって、それよりも小さかったり、大きかったりするバイオセンサにおいては、各構成要件の含有量を適宜調整することによって適用することができる。また、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素の活性単位(U)の定義および測定方法は、特開2006−271257号公報に記載の方法による。また、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を含む酸化還元酵素は、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0076】
(脂質分解酵素)
また、本発明における第二の反応層9は、脂質を構成するエステル結合を加水分解する脂質分解酵素を含む。ゆえに、本発明のバイオセンサは、中性脂肪センサとして使用することができる。かような脂質分解酵素として、特に制限されないが、具体的には、リポプロテインリパーゼ(LPL)、リパーゼ、エステラーゼが好適に挙げられる。特に、反応性の観点で、リポプロテインリパーゼ(LPL)が好ましい。
【0077】
LPLの含有量については特に制限はなく、測定する試料の種類や試料の添加量、使用する親水性高分子の量や電子伝達体の種類等によって適宜選択することができる。一例を挙げると、中性脂肪の分解を迅速に行い、且つ反応層の溶解性を下げない酵素量(酵素活性量)という観点から、1センサあたり、好ましくは0.1〜1000活性単位(U)、より好ましくは1〜500U、特に好ましくは10〜100Uである。なお、LPLの活性単位(U)の定義および測定方法は、国際公開第2006/104077号パンフレットに記載の方法による。また、LPLは、後述もするが、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0078】
酸化分解酵素と脂質分解酵素とが、それぞれ、第一の反応層および第二の反応層という別の層に分かれて存在する形態であれば、脂質分解酵素による加水分解反応が効率よく進行するため好ましい。
【0079】
(電子伝達体)
本発明に係るバイオセンサは、電子伝達体を含むことが好ましい。ここで、電子伝達体は、第一の反応層8または第二の反応層9に含まれてもよいが、これらの反応層とは別に第三の反応層10に含まれてもよい。また、電子伝達体は、界面活性剤層12に含まれていてもよい。
【0080】
電子伝達体は、バイオセンサの使用時において、酸化還元酵素の作用によって生成した電子を受け取る、すなわち還元される。そして、還元された電子伝達体は、酵素反応の終了後に電極への電位の印加によって電気化学的に酸化される。この際に流れる電流(以下、「酸化電流」とも称する)の大きさから、試料中の所望の成分の濃度が算出されうる。
【0081】
本発明において使用される電子伝達体としては、従来公知のものを使用することができ、試料や使用する酸化還元酵素に応じて適宜決定できる。なお、電子伝達体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0082】
電子伝達体としては、より具体的には、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム、フェロセンおよびその誘導体、フェナジンメトサルフェートおよびその誘導体、p−ベンゾキノンおよびその誘導体、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、メチレンブルー、ニトロテトラゾリウムブルー、オスミウム錯体、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物等のルテニウム錯体等を好適に使用することができる。これらのうち、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物、フェリシアン化カリウムが好ましく、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物がより好ましく使用される。
【0083】
電子伝達体の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。一例を挙げると、1センサあたり、基質量に対して十分量を含有させるという観点から、好ましくは1〜2000μg、より好ましくは5〜1000μg、特に好ましくは10〜500μgの電子伝達体が含まれるとよい。また、電子伝達体は、上記の塩成分を使用した緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0084】
(界面活性剤)
本発明に係るバイオセンサは、第一の反応層8または第二の反応層9が、必要により界面活性剤を有する。また、本発明に係る第1のバイオセンサにおいては、第一の反応層8および第二の反応層9と離間されて、界面活性剤層12がカバー7側に形成されていてもよい。カバー7側に界面活性剤層が形成されていると、カバー7が直接試料に触れる場合よりも、カバー側への全血等の試料の広がりや濡れ性がよくなり、試料を試料供給部に素早く導入できるため好ましい。
【0085】
本発明に用いられる界面活性剤としては、使用する本発明の酸化還元酵素の酵素活性が低下しないものであれば、特に制限されないが、例えば、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、天然型界面活性剤等を適宜選択して使用することはできる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは本発明の酸化還元酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤の少なくとも一方である。
【0086】
非イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、本発明の酸化還元酵素の酵素活性に影響を及ぼさないという観点から、ポリオキシエチレン系またはアルキルグリコシド系であることが好ましい。
【0087】
ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、ポリアルキレンオキサオド、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monolaurate;Tween 20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパリミテート(Polyoxyethylene Sorbitan Monopalmitate;Tween 40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(Polyoxyethylene Sorbitan Monostearate;Tween 60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Polyoxyethylene Sorbitan Monooleate;Tween80)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))等が好ましい。中でも、本発明の酸化還元酵素の溶解性を上げるという観点から、ポリオキシエチレン−p−t−オクチルフェノール(オキシエチレン数=9,10)[(polyoxyethylene−p−t−octylphenol;Triton(登録商標)X−100)]、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(エマルゲンPP−290(花王株式会社製))が好ましい。
【0088】
アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤としては、特に制限はないが、炭素数7〜12のアルキル基を有するアルキルグリコシド、アルキルチオグリコシド等が好ましい。かかる炭素数については、より好ましくは7〜10であり、特に好ましくは炭素数8である。糖部分は、グルコース、マルトースが好ましく、より好ましくはグルコースである。より具体的には、n−オクチル−β−D−グルコシド、n−オクチル−β−D−チオグルコシドであると好ましい。アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤は、バイオセンサに使用する際、製造過程において、非常に塗りやすく、均一にできる。特に、n−オクチル−β−D−チオグルコシド)が反応層(第一の反応層8、第二の反応層9、第三の反応層10)に含有されると、試料溶液を滴下した際の広がりが非常によく、濡れ性がよい(表面張力を起こしにくくする)。よって、広がりや濡れ性の観点で考えると、アルキルグリコシドよりもアルキルチオグリコシドが非常に好ましい。なお、これらは、単独で用いても混合物の形態で用いてもよい。
【0089】
両性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)、n−アルキル−N−N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸(Zwittergent(登録商標))等が挙げられる。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。好ましくは、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸(CHAPS)または3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)である。特にCHAPSが好ましい。その理由は、CHAPSは界面活性剤の中でも低溶血性のものだからである。
【0090】
陽イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、セチルピリジニウムクロリド、トリメチルアンモニウムブロミドが挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0091】
陰イオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム等が挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0092】
天然型界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、リン脂質が挙げられ、好ましくは、卵黄レシチン、大豆レシチン、水添レシチン、高純度レシチン等のレシチン等が挙げられる。これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0093】
上記の界面活性剤のうち、バイオセンサの精度をより向上させる観点で、試料として全血を使用する場合、低溶血性の界面活性剤を使用することが好ましい。具体例を挙げると、上記のCHAPSや、Tween、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)が好ましい。
【0094】
界面活性剤の含有量については特に制限はなく、試料の添加量等に応じて適宜調節されうる。
【0095】
界面活性剤として、非イオン性界面活性剤のものを用いる場合、1センサあたり、本発明の酸化還元酵素の溶解性を上げ、且つ酵素活性を失活させず、また製造工程において塗布しやすいという観点から、好ましくは0.01〜100μg、より好ましくは0.05〜50μg、特に好ましくは0.1〜10μgが含まれるとよい。また、かような界面活性剤は、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。
【0096】
(親水性高分子)
本発明における第一の反応層8または第二の反応層9は、さらに親水性高分子を含んでもよい。また、図3に示されるように、反応層とは別に、親水性高分子層11を形成してもよい。この場合、親水性高分子層11、第一の反応層8、第二の反応層9を順に形成するのが好ましい。
【0097】
本発明に用いることができる親水性高分子としては、従来公知のものを使用することができる。より具体的には、親水性高分子としては、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリスチレンスルホン酸、ゼラチンおよびその誘導体、アクリル酸の重合体またはその誘導体、無水マレイン酸の重合体またはその塩、スターチおよびその誘導体等が挙げられる。これらのうち、本発明の酸化還元酵素の酵素活性を失活させず、且つ溶解性が高いという観点から、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールおよびポリビニルアルコールが好ましい。なお、これらは、単独で用いても、混合物の形態で用いてもよい。
【0098】
なお、このような親水性高分子の配合量は、1センサあたり、酵素や電子伝達体を固定化でき、且つ反応層の溶解性を下げないという観点から、好ましくは0.01〜100μgであり、より好ましくは0.05〜50μgであり、特に好ましくは0.1〜10μgである。親水性高分子は、後述もするが、例えば、グリシルグリシンのような緩衝液で調製しておくことも好ましい。また、第一の反応層8および第二の反応層9の両層に親水性高分子を存在させる場合には、これらの反応層に含める各親水性高分子の種類や配合量は、同一であっても異なるものであってもよい。この際、第一の反応層8、第二の反応層9に含有される各構成要件との相互作用を考慮して選択することが好ましい。
【0099】
(糖)
本発明の第1のバイオセンサおよび第2のバイオセンサにおいて、第一の反応層8、第二の反応層9は、さらに糖を含んでもよい。糖は測定に関わる酵素反応に関与せず、また、自身が反応することもないものを適宜選択して使用することができ、各層の固定化や安定化に寄与し得る。糖は、第一の反応層8または第二の反応層9のいずれに含まれてもよいが、少なくとも第一の反応層8に含まれることが好ましい。
【0100】
糖としては、遊離性のアルデヒド基やケトン基を持たない、還元性を有していない非還元糖が好ましい。このような非還元糖としては、還元基同士の結合したトレハロース型小糖類、糖類の還元基および非糖類が結合した配糖体、糖類に水素添加して還元した糖アルコール等が挙げられる。より具体的には、スクロース、トレハロース、ラフィノース等のトレハロース型小糖類;アルキル配糖体、フェノール配糖体、カラシ油配糖体等の配糖体;およびアラビトール、キシリトール等の糖アルコール等が挙げられる。これら非還元糖は、単独で用いてもよいし、二種以上の混合物の形態で用いてもよい。中でも、トレハロース、ラフィノース、スクロースが好ましく、特にトレハロース、ラフィノースが好ましい。
【0101】
反応層に含まれうる糖の配合量は、1センサあたり好ましくは0.1〜500μg、より好ましくは0.5〜400μg、さらに好ましくは1〜300μgである。糖が混合物の形態であれば、配合量は全成分の合計を意味する。上記の範囲であれば、センサの性能を低下させることなく各層の固定化や安定化に寄与できる。
【0102】
(タンパク質)
本発明に係るバイオセンサにおいて、第一の反応層8、第二の反応層9は、さらにタンパク質を含んでもよい。タンパク質は測定に関わる酵素反応に関与せず、また、自身が反応することもない、試料に対する生理活性を示さないものを適宜選択して使用することができ、各層の固定化や安定化に寄与し得る。タンパク質は、第一の反応層8または第二の反応層9のいずれに含まれてもよいが、少なくとも第一の反応層8に含まれることが好ましい。
【0103】
タンパク質としては、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、セリシン、およびそれらの加水分解物が挙げられる。これらのタンパク質は単独でも二種以上の混合物の形態で用いてもよい。このうち、入手し易くコストも安いことからBSAが好ましい。好ましいタンパク質の分子量は、10〜1000kDa、より好ましくは25〜500kDa、さらに好ましくは50〜100kDaである。この際、分子量はゲル濾過クロマトグラフィー法を用いて測定した値を採用する。
【0104】
反応層に含まれるタンパク質の配合量は、1センサあたり好ましくは0.1〜200μg、より好ましくは0.5〜100μg、さらに好ましくは1〜50μgである。タンパク質が二種以上の混合物の形態であれば、配合量は全成分の合計を意味する。上記の範囲であれば、センサの性能を低下させることなく各層の固定化や安定化に寄与できる。
【0105】
本発明に係るバイオセンサにおける第一の反応層8、第二の反応層9を形成する方法は、特に制限されることはない。例えば、それぞれの構成成分を含む溶液を塗布することによって任意の層上に形成することができる。ここで、塗布方法は、特に制限されず、それぞれの構成成分を含む溶液を、滴下により、あるいはスプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフ等の塗布器具を用いて塗布する方法が使用できる。所定の成分を含む溶液を滴下により塗布した後は、塗膜を乾燥する方法が特に好ましい。このような方法は、簡便にバイオセンサを作製でき、また、大量生産時における製造コストを安く抑えることができる点で好ましい。
【0106】
また、必要に応じて形成される第三の反応層、界面活性剤層、親水性高分子層についても形成方法は特に制限されず、上記第一反応層および第二の反応層と同様の方法で形成することができる。
【0107】
最後に、第一の反応層8および第二の反応層9が形成されている基板1と、カバー7を、接着剤6a、6bを介して張り合わせることにより、バイオセンサを製造することができる。
【0108】
以上、本発明の標準物質組成物に用いられるバイオセンサの構成について詳細に説明したが、上記の形態のみに制限されることはなく、従来公知のバイオセンサ、例えば、特開2012−211810、特開2012−208101、特開2011−214912などに記載のバイオセンサについても同様に適用されうる。
【0109】
続いて、本発明で用いられるバイオセンサの動作について説明する。
【0110】
まず、濃度の測定を希望する成分(基質)を含む試料溶液の所定量を、バイオセンサの試料供給部に供給する。試料溶液の具体的な形態は特に制限されず、バイオセンサに用いられるグリセロールデヒドロゲナーゼの基質である中性脂肪を含む溶液が適宜用いられうる。試料としては、例えば、血液、血清、血漿、尿、唾液などの生体試料、果物、野菜、加工食品原料などの食品等が用いられうる。ただし、その他の溶液が試料として用いられてもよい。試料溶液は原液をそのまま用いてもよいし、粘度などを調節する目的で適当な溶媒で希釈した溶液を用いてもよい。
【0111】
試料溶液を試料供給部へ供給する形態は特に制限されず、所定量の試料溶液を試料供給部に対して垂直に直接滴下することにより供給してもよいし、別途設けた試料溶液供給手段により、試料供給部に対して水平方向から試料溶液を供給してもよい。
【0112】
試料供給部へと試料溶液が供給されると、試料溶液が試料供給部上部から下部へ浸透するとともに、試料溶液中の基質である中性脂肪が試料供給部に含まれる脂質分解酵素の作用によって分解され、グリセロールおよび脂肪酸が生成する。例えば、脂質分解酵素がリポプロテインリパーゼである場合には、下記式に示されるように、中性脂肪がリポプロテインリパーゼによりグリセロールと脂肪酸とに変換されうる。
【0113】
【化1】
【0114】
次いで、生成物であるグリセロールを含む試料溶液が、グリセロールデヒドロゲナーゼおよび電子受容体を含む反応層へと浸透する。これにより、試料溶液中のグリセロールは、酸化還元酵素であるグリセロールデヒドロゲナーゼの作用によって酸化され、自身の酸化と同時に電子を放出する。グリセロールから放出された電子は、電子受容体に捕捉され、これに伴って電子受容体は酸化型から還元型へと変化する。
【0115】
【化2】
【0116】
試料溶液の添加後、バイオセンサを所定時間放置することにより、グリセロールデヒドロゲナーゼによって基質が完全に酸化され、一定量の電子受容体が酸化型から還元型へと変換される。グリセロールと酵素との反応を完結させるための放置時間については特に制限はないが、試料溶液を不織布層に添加した後、通常は10〜300秒間、好ましくは20〜240秒間、より好ましくは30〜120秒間である。
【0117】
その後、電極系を介して、作用極と対極との間に、所定の電位を印加することにより、還元型の電子受容体が電気化学的に酸化される。この際に測定される酸化電流の値から、電位印加前の還元型の電子受容体の量が算出され、さらに、グリセロールデヒドロゲナーゼと反応したグリセロールの量が定量されうる。そして、最終的には、試料中の中性脂肪濃度が算出されうる。
【0118】
酸化電流を流す際に印加される電位の値は特に制限されず、従来公知の知見を参照して適宜調節されうる。一例を挙げると、−200〜700mV程度、好ましくは0〜600mVの電位を、対極と作用極との間に印加すればよい。電位を印加するための電位印加手段についても特に制限はなく、従来公知の電位印加手段が適宜用いられうる。
【0119】
酸化電流値の測定、および当該電流値から基質濃度への換算の手法としては、所定の電位を印加してから一定時間後の電流値を測定するクロノアンペロメトリー法を用いてもよいし、クロノアンペロメトリー法による電流応答を時間で積分して得られる電荷量を測定するクロノクーロメトリー法を用いてもよい。簡単な装置系により測定されるという点で、クロノアンペロメトリー法が好ましく用いられうる。
【0120】
以上、還元型の電子受容体を酸化する際の電流(酸化電流)を測定することにより中性脂肪濃度を算出する形態を例に挙げて説明したが、場合によっては、還元されずに残存している酸化型の電子受容体を還元する際の電流(還元電流)を測定することにより基質濃度を算出する形態を採用してもよい。
【0121】
本発明に係るバイオセンサは、いずれの形態で使用してもよく特に制限されない。例えば、使い捨て用途としてのディスポーザブルタイプのバイオセンサ、少なくとも電極部分を人体に埋め込んで連続的に所定の値を測定するためのバイオセンサなど、様々な用途に使用できる。
【0122】
本発明の標準物質組成物は、上述のような中性脂肪濃度測定用バイオセンサの性能確認やゼロ補正の際の標準物質として好適に用いることができる。
【実施例】
【0123】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0124】
本発明の標準物質組成物が用いられるバイオセンサの一例として、下記方法により使い捨て型バイオセンサを作製した。なお、当該使い捨て型バイオセンサを図3に示す。
【0125】
(使い捨て型バイオセンサの作製方法)
使用する電極基板には、独自に設計・製造した3電極系の電極基板を使用した。この電極基板は、絶縁性基板1の上に、それぞれカーボンからなる作用極2、参照極3、対極4が形成され、絶縁層5を挟んで、カーボンからなる作用極作用部分2−1、銀塩化銀からなる参照極作用部分3−1、カーボンからなる対極作用部分4−1が形成されている(図3)。
【0126】
図3に示されているように、このバイオセンサは、作用極作用部分2−1、参照極作用部分3−1、対極作用部分4−1の上に親水性高分子層11、親水性高分子層の上に第一の反応層8(GLDH層)、さらに第一の反応層の上に第二の反応層9(LPL層)が形成されている。またカバー7の内側に界面活性剤層12が形成されている。電極基板とカバー7との接着には両面テープ6を用いている。
【0127】
なお、以下、それぞれの成分の添加量として、1センサあたり中性脂肪を全血で測定する場合の供給される全血の量を基準にして示した。標準物質組成物を用いて中性脂肪を測定する場合、「供給される全血の量」=「供給される標準物質組成物の量」を意味する。
【0128】
親水性高分子層11は以下の手順で形成した。1センサ(供給される全血の量0.5μL)あたり、終濃度で、ポリビニルアルコール500(和光純薬工業株式会社製)が1質量%(5μg)となる溶液を得た。得られた親水性高分子溶液を作用極作用部分、参照極作用部分、そして対極作用部分を被覆するように滴下し、40℃で5分間乾燥させ、親水性高分子層を形成した。
【0129】
第一の反応層8(GLDH層)は以下の手順で形成した。1センサ(供給される全血の量0.5μL)あたり、終濃度で、PQQ依存性グリセロール脱水素酵素を0.375U、エマルゲンPP−290(花王株式会社)を0.05質量%(0.25μg)、トリスほう酸(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよびほう酸)を等モル濃度で混合し、pH7.5に調整)を10mM(0.37μg)、トレハロース二水和物(和光純薬工業株式会社製)を2.5質量%(12.5μg)、ラフィノース五吸水和物(和光純薬工業株式会社製)を0.5質量%(2.5μg)、ポリビニルアルコール500(和光純薬工業株式会社製)を1質量%(5μg)、ヘパリンナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を100Uになるように混合し、溶液を得た。得られたGLDH溶液を形成させた親水性高分子層の上に重層(被覆)するように滴下し、40℃で5分間乾燥させ、第一の反応層(GLDH層)を得た。
【0130】
第二の反応層9(LPL層)は以下の手順で形成した。1センサ(供給される全血の量0.5μL)あたり、終濃度で、リポプロテインリパーゼ(LPL、旭化成株式会社製)を90U、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(和光純薬工業株式会社製)を200mM(62μg)、トリスほう酸を10mM(0.37μg)、トレハロース二水和物(和光純薬工業株式会社製)を2.5質量%(12.5μg)、ラフィノース五吸水和物(和光純薬工業株式会社製)を0.5質量%(2.5μg)、四ほう酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を80mM(12μg)、ヘパリンナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を100Uになるように混合し、溶液を得た。得られたLPL溶液を、形成させたGLDH層の上に重層(被覆)するように滴下し、50℃で5分間乾燥させ、第二の反応層9(LPL層)を得た。このようにして、親水性高分子層11の上に第一の反応層8であるGLDH層、さらにその上に第二の反応層9であるLPL層を形成(重層)した。
【0131】
界面活性剤層は以下の手順で形成した。1センサ(供給される全血の量0.5μL)あたり、終濃度で、エマルゲンPP−290(花王株式会社製)を0.1質量%(0.5μg)、ヘパリンナトリウム(和光純薬工業株式会社)を80Uになるように混合し、界面活性剤溶液を得た。得られた界面活性剤溶液を、PETからなるカナーに接着剤を貼り合わした隙間に滴下後、50℃で5分間乾燥させ、界面活性剤層を形成した。
【0132】
界面活性剤層が形成されているカバーに接着した接着剤(両面テープ)と、親水性高分子層と第一の反応層と第二の反応層とが形成されている電極基板とを互いに貼り合わせることにより、使い捨て型バイオセンサを作成した。なお、この際、親水性高分子層、第一の反応層、第二の反応層、そして界面活性剤層の厚みはそれぞれ5μmであり、第二の反応層と界面活性剤層との離隔距離は0.1mmであった。
【0133】
実施例1
(標準物質組成物の調製)
BSA(ウシ血清アルブミン、和光純薬工業株式会社製)を8質量%(8g)になるように蒸留水100mLに溶解し、BSA溶液を得た。その後、中性脂肪としてトリオレイン(東京化成工業株式会社)をBSA溶液100mLあたり1000mgとなるように混合した。得られた溶液を超音波破砕機(日本エマソン株式会社、SONIFIER 450A、20kHz)で氷冷しながら10分間処理し、中性脂肪分散溶液を得た。この中性脂肪分散溶液を、トリオレインを添加しない以外は同条件で調製した希釈用溶液と混合することにより、任意の中性脂肪濃度に調製した。調製した中性脂肪分散液のタンパク質濃度は8質量%で一定であり、中性脂肪濃度は、それぞれ、(1)0mg/dL、(2)250mg/dL、(3)500mg/dLであった。
【0134】
次に、1.5mL容量プラスティックチューブにヒト全血(ヘマトクリット値:42%)を500μL(528mg)入れ、4℃、1500×Gで5分間遠心分離し、上清の血清・血漿成分をピペットマンで吸い取り、290μL(298mg)を除去した。その後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS溶液、PBSタブレット(和光純薬工業株式会社製)を100mLの蒸留水に1つ入れて溶解させた溶液)を、除去した上清290μL(298mg)と等量入れて血球成分をピペッティングしながら洗浄した。上記同条件で遠心して再度上清を除去したのち、PBS溶液による血球成分の洗浄を行い、上清を除去することにより、洗浄した血球成分(210μL)を得た。
【0135】
その後、除去した上清と等量の中性脂肪分散溶液290μLを入れ、血球成分を良く分散させることで、中性脂肪測定における標準試料(標準物質組成物)を得た。なお、得られた標準物質組成物中のタンパク質濃度は、血球成分を含まない中性脂肪分散液において、8質量%で一定であり、中性脂肪濃度は、それぞれ、(1)0mg/dL、(2)216mg/dL、(3)431mg/dLであった。
【0136】
電気化学測定については、従来公知の方法が適宜使用できる。具体的には、HZ−5000(北斗電工株式会社製)に使い捨て型バイオセンサを接続し、標準試料を点着した。点着45秒後に参照極を基準として対極に対して作用極に+200mVの電位を印加して、得られた電流値を読み取った。
【0137】
この場合、点着された標準試料中の中性脂肪(トリオレイン)がLPLによりグリセロールと脂肪酸に分解され、さらにグリセロールがGLDHによりジヒドロキシアセトンに分解されるとともに電子伝達体であるヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物が反応で生成された電子を受け取り還元型電子伝達体となる。そして、電位を印加してこの還元型電子伝達体を電極上で酸化することで得られる酸化電流値を読み取っている。
【0138】
実施例1の標準物質組成物(血球成分を含まない中性脂肪分散液における中性脂肪濃度(1)0mg/dL、(2)216mg/dL、(3)431mg/dL)を用いて得られたそれぞれの値の結果を図4に示す(なお、測定はそれぞれ2回ずつ測定を行った。)。図4に示されるように、実施例1の標準物質組成物を用いると、中性脂肪値と電流値との間に良好な直線性が得られた。なお、図4の実施例1の中性脂肪値とは、血球成分を含まない中性脂肪分散液における中性脂肪濃度の数値を意味する。
【0139】
参考例1
試料として各中性脂肪値の全血を標準物質組成物として使用した以外は、実施例と同様に行った。なお、参考例1の標準物質組成物中の中性脂肪濃度は、血球成分を除いた血清において、それぞれ、(1)134mg/dL、(2)227mg/dL、(3)319mg/dL、(4)412mg/dLであり、それぞれ2回ずつ測定を行った。
【0140】
参考例1の標準物質組成物(血球成分を除いた血清における中性脂肪濃度(1)134mg/dL、(2)227mg/dL、(3)319mg/dL、(4)412mg/dL)を用いて得られたそれぞれの値の結果を図4に示す。図4に示されるように、参考例1の標準物質組成物を用いた場合も、実施例1の標準物質組成物の場合と同様に良好な直線性が得られた。なお、図4の参考例1の中性脂肪値とは、血球成分を除いた血清における中性脂肪濃度の数値を意味する。
【0141】
以上のように、実施例1と参考例1の結果から、本発明の中性脂肪濃度測定用の標準物質組成物は、全血と同等の反応性を示すことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0142】
1 絶縁性基板、
2 作用極、
2−1 作用極作用部分、
3 参照極、
3−1 参照極作用部分、
4 対極、
4−1 対極作用部分、
5 絶縁層、
6(6a、6b) 接着剤、
7 カバー、
8 第一の反応層、
9 第二の反応層、
11 親水性高分子層、
12 界面活性剤層、
S 空間部。
図1
図2
図3
図4