(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ガラス転移温度が101〜160℃の環状オレフィンホモポリマー(A)と、繊維状導電性フィラー(B)と、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群より選択される少なくとも一種のエラストマー(C)とを含有し、
前記エラストマー(C)の含有量が、前記環状オレフィンホモポリマー(A)100質量部に対して5〜25質量部であり、
前記環状オレフィンホモポリマー(A)が、ノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体又はその水素添加物であることを特徴とする樹脂組成物。
前記粒子状導電性フィラー(E)は、n−ジブチルフタレート吸油量が180mL/100g以上のカーボンブラックであることを特徴とする請求項3記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、ガラス転移温度が101〜160℃の環状オレフィンホモポリマー(A)と、繊維状導電性フィラー(B)と、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群より選択される少なくとも一種のエラストマー(C)とを含有する。以下、これらの成分をそれぞれ(A)成分、(B)成分、(C)成分ともいう。
本発明の樹脂組成物は、電子部品の部材や、電子部品の製造工程で使用される容器又は治具の材料として好適なものであり、ウェーハ等を搬送する際に使用される搬送容器(FOUP:Front Opening Unified Pod)、パターン形成時に必要なフォトマスクを保管するフォトマスクケース等の材料として特に好適なものである。
【0008】
(ガラス転移温度が101〜160℃の環状オレフィンホモポリマー(A))
本発明において(A)成分は、樹脂組成物のベース樹脂として用いられる。樹脂組成物が(A)成分を含むことで、耐熱性に加えて低アウトガス性にも優れる。また、(A)成分は、他種の熱可塑性樹脂と比較して吸水性が低いため、前記(A)成分を含む樹脂組成物を成形体とした際にウェーハ等への水分の付着を防げる。
「環状オレフィンホモポリマー」とは、環状オレフィンをモノマーとし、前記環状オレフィンを単独重合させたポリマー(ホモポリマー)であって、前記ポリマーの主鎖が炭素−炭素結合からなる環状炭化水素構造を有する高分子化合物である。
前記環状オレフィンとは、ノルボルネンやテトラシクロドデセンに代表される、少なくとも一つのオレフィン(二重結合)を有する環状炭化水素のことを指す。
前記環状オレフィンとしては、ノルボルネンやテトラシクロドデセンに代表される多環状オレフィンが好ましい。
【0009】
(A)成分としては、特開平1−168724号公報、特開平1−168725号公報などに開示される、ノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体又はその水素添加物などが挙げられる。
ノルボルネン環を有するモノマーとしては、エチレンとシクロペンタジエンとの付加体である2環式オレフィンのノルボルネン、ノルボルネンにシクロペンタジエンが付加した4環式オレフィンのテトラシクロドデセン、シクロペンタジエンの2量体である3環式ジエンのトリシクロデカジエン(ジシクロペンタジエンともいう)、ジシクロペンタジエンの不飽和結合の一部を水素添加により飽和させた3環式オレフィンのトリシクロデセン、シクロペンタジエンの3量体である5環式ジエンのペンタシクロペンタデカジエン、ペンタシクロペンタデカジエンの不飽和結合の一部を水素添加により飽和させた5環式オレフィンのペンタシクロペンタデセン(2,3−ジヒドロジシクロペンタジエンともいう)又はこれらの置換体等が例示される。
これらの置換体としては、極性基を有さない基(アルキル基、アルキリデン基、芳香族基など)により置換された誘導体もしくはその水素添加物、又はこれら誘導体から脱水素して得られる誘導体(例えば、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ヘキシル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−オクチル−2−ノルボルネン、5−オクタデシル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等のノルボルネン誘導体;1,4:5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−2,3−シクロペンタジエノオクタヒドロナフタレン、6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,4:5,10:6,9−トリメタノ−1,2,3,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a−ドデカヒドロ−2,3−シクロペンタジエノアントラセン等のテトラシクロドデセン誘導体など);極性基(ハロゲン原子、水酸基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基など)により置換された誘導体(例えば、5−メトキシ−カルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネンなど)等が挙げられる。
【0010】
本発明において「ガラス転移温度(Tg)」は、JIS K 7121に準拠した方法により測定される値を示す。
(A)成分のTgは101〜160℃であり、好ましくは101〜150℃であり、より好ましくは101〜140℃であり、特に好ましいのは102〜140℃であり、最も好ましいのは105〜140℃である。(A)成分のTgが101℃以上であれば、アウトガスの発生量が低減しやすい。加えて、耐熱性がより高まる。Tgが160℃以下であれば、アウトガスの発生量が低減しやすい。
【0011】
樹脂組成物中、(A)成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、(A)成分は、本発明の効果がより優れることから、Tgが101〜160℃であって、ノルボルネン環を有するモノマーの開環重合体又はその水素添加物であることが好ましく、前記開環重合体の水素添加物であることが特に好ましい。
また、(A)成分の数平均分子量は、3,000〜500,000であることが好ましく、8,000〜200,000であることがより好ましい。ここで、数平均分子量とは、シクロヘキサンを溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCという)により、イソプレン換算にて算出した値のことを指す。
(A)成分は市販品を用いることができる。前記市販品としては、ZEONEX(登録商標)、ZEONOR(登録商標)(いずれも商品名、日本ゼオン株式会社製)が好適である。
【0012】
樹脂組成物における(A)成分の含有量は、樹脂組成物全体を100質量%とした際に60〜90質量%であることが好ましく、70〜90質量%であることがより好ましい。
(A)成分の含有量が好ましい下限値未満であると、樹脂組成物としての低アウトガス性が損なわれやすい。好ましい上限値を超えると、(A)成分以外の成分を充分に配合できず、成形体とした際に、ゴミや塵などの付着低減効果や機械的強度(衝撃強さ)が得られにくい。すなわち、(A)成分の含有量が、樹脂組成物100質量%に対して、60〜90質量%であれば、低アウトガス性に優れた樹脂組成物が得られ、かつ、ごみや塵などの付着低減効果や機械的強度を付与するために、その他の成分を十分に配合することができるため好ましい。
【0013】
(繊維状導電性フィラー(B))
本発明において(B)成分は、主として導電性付与及び機械的強度(曲げ強さ)、耐熱性の向上に寄与する。
「繊維状導電性フィラー」とは、JIS K 3850「空気中の繊維状粒子測定方法」において定義される繊維状粒子、すなわち、アスペクト比(長さ(繊維長)/幅(繊維径))3以上の導電性フィラーをいう。ここで、「繊維径」とは繊維状導電性フィラーの直径(太さ)のことを意味する。また、「繊維長」とは、繊維状導電性フィラーの長さのことを意味する。これらは、顕微鏡による観察から測定することができる。
本発明の一つの態様において、(B)成分のアスペクト比は、3〜3000であることが好ましく、ハンドリングと強度補強の観点から50〜2000であることがより好ましい。
(B)成分としては、炭素繊維、カーボンナノチューブ等を用いることができる。
炭素繊維を使用する場合、炭素繊維の種類は特に制限されず、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系、セルロース系、リグニン系などの種々のものが挙げられる。このうち、強度補強の観点から、PAN系、又はピッチ系の炭素繊維を用いることが好ましい。また、ハンドリング性向上の観点から、サイジング剤で束ねられた、繊維長3〜6mmのものを用いる事が好ましい。ここで、サイジング剤とは、樹脂への炭素繊維の分散や、ハンドリング性向上を目的に炭素繊維に添加される収束剤のことを指す。サイジング剤としては、樹脂への分散性の観点から、エポキシや、ウレタン、もしくはエポキシとウレタンを併用した収束剤を用いることが好ましい。また、(B)成分としてサイジング剤で束ねられた炭素繊維を用いる場合、(B)成分は、前記サイジング剤と炭素繊維とを含むものである事が好ましい。
繊維径は、5〜15μmの範囲が好ましく、5〜12μmの範囲がより好ましく、6〜10μmの範囲がさらに好ましい。また、低アウトガス性の観点から、サイジング剤の含浸率は、炭素繊維全体(100質量%)に対して、3質量%以下のものが好ましく、1〜3質量%であることがより好ましい。市販品としては、NPSチョップドファイバー(日本ポリマー株式会社製、PAN系炭素繊維、サイジング剤:エポキシウレタン1.75%、繊維長:6mm)、トレカ(登録商標)(東レ株式会社製、PAN系炭素繊維、サイジング剤:ウレタン3.0%、繊維長:6mm)、パイロフィル(登録商標)(三菱レイヨン株式会社製、PAN系炭素繊維、サイジング剤:3.0%、繊維長:6mm)等が挙げられる。
カーボンナノチューブを使用する場合、グラファイト層を1層で巻いた構造を持つ単層カーボンナノチューブ、2層以上で巻いた構造を持つ多層カーボンナノチューブのいずれも用いることができ、なかでも多層カーボンナノチューブを用いることが好ましい。繊維径や繊維長は、本発明の効果を有し、かつ、アスペクト比が3.0以上250以下のものであれば、特に制限はない。市販品としては、VGCF(登録商標)、VGCF−X(登録商標)(いずれも昭和電工株式会社製)等が挙げられる。
【0014】
樹脂組成物中、(B)成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
樹脂組成物における(B)成分の含有量は、本発明の効果を有する限り特に制限はないが、(A)成分100質量部に対して3〜25質量部が好ましく、3〜20質量部であることがより好ましく、3〜15質量部であることが特に好ましく、4〜15質量部であることが最も好ましい。(A)成分100質量部に対して(B)成分の含有量が3質量部未満であると、充分な導電性が得られにくくなる。また、25質量部を超えると、耐衝撃性の低下を招きやすい。
また、樹脂組成物における(B)成分の含有量は、樹脂組成物全体を100質量%とした際に2〜25質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましく、3〜12質量%であることが特に好ましい。樹脂組成物中、(B)成分の含有量が2質量%未満であると、充分な導電性が得られにくくなる。また、(B)成分の含有量が25質量%を超えると、耐衝撃性の低下を招きやすい。すなわち、(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して3〜25質量部であれば、あるいは、樹脂組成物全体を100質量%とした際に2〜25質量%であれば、十分な導電性が得られ、成形体の耐衝撃性が低下しないため好ましい。
【0015】
(オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群より選択される少なくとも一種のエラストマー(C))
本発明において(C)成分は、主として機械的強度(衝撃強さ)の向上に寄与する。
「エラストマー」とは、常温(25℃)で弾性体である高分子物質を意味する。前記高分子物質は、天然高分子物質であってもよく合成の高分子物質であってもよい。
【0016】
オレフィン系エラストマー(以下「(C1)成分」ともいう。)とは、オレフィンをモノマーとし、前記オレフィンを重合して得られる、炭素原子及び水素原子から構成され、かつ、芳香環を有さない、常温(25℃)で弾性体である高分子物質をいう。すなわち、本発明の一つの態様において、オレフィン系エラストマーのモノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテンのようなオレフィンをベースにコモノマーとして、エチレン、プロピレン、ブテンを重合したものが好ましく、なかでもガラス転移温度の低いオレフィン系エラストマーがより好ましい。
また、(C1)成分のガラス転移温度は、−100〜−10℃であることが好ましく、−65℃〜−50℃であることがより好ましい。
工業的には、エスポレックスTPE(商標登録)(住友化学株式会社製)、サーリンク(商標登録)(東洋紡績株式会社製)、サーモラン(商標登録)(三菱化学株式会社製)、タフマー(商標登録)(三井化学株式会社製)、ミラストマー(商標登録)(三井化学株式会社製)(以上、いずれも商品名)等の市販品を好適に用いることができる。中でも、タフマー、ミラストマー(三井化学株式会社製)がより好ましい。
【0017】
スチレン系エラストマー(以下「(C2)成分」ともいう。)とは、スチレンをベースにブタジエンやブチレン等をモノマーとし、前記モノマーを重合して得られる、主鎖に芳香環を有し、常温(25℃)で弾性体である高分子物質をいい、芳香族ビニル−共役ジエンブロック共重合体に代表される。すなわち、本発明の一つの態様において、スチレン系エラストマーとしては、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン(SEBS)が好ましく、なかでも相溶性の観点からSEBSがより好ましい。
工業的には、タフプレン(商標登録)(旭化成株式会社製)、タフテック(商標登録)(旭化成株式会社製)、クレイトン(商標登録)(クレイトンポリマージャパン株式会社製)、エスポレックスSB(商標登録)(住友化学株式会社製)、ラバロン(商標登録)(三菱化学株式会社製)、セプトン(商標登録)(株式会社クラレ製)(以上、いずれも商品名)等の市販品を好適に用いることができる。中でも、セプトン(株式会社クラレ製)、タフテック(旭化成株式会社製)がより好ましい。
【0018】
樹脂組成物中、(C1)成分又は(C2)成分はそれぞれ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、(C1)成分と(C2)成分とを併用してもよい。
樹脂組成物における(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して5〜25質量部であり、5〜20質量部であることが好ましく、7〜20質量部であることがより好ましく、7〜15質量部であることが特に好ましく、9〜15質量部であることが最も好ましい。
(C)成分の含有量が5質量部未満であると、耐衝撃性の向上効果が充分ではなく、25質量部を超えると、耐熱性の低下や機械的強度の低下を招きやすい。また、アウトガスの発生量も多くなる。
また、樹脂組成物における(C)成分の含有量は、樹脂組成物全体を100質量%とした際に2〜22質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましい。樹脂組成物中の(C)成分の含有量が、2質量%未満であると、耐衝撃性の向上効果が十分ではなく、22質量%を超えると、耐熱性の低下や機械的強度の低下を招きやすい。また、アウトガスの発生量も多くなる。すなわち、樹脂組成物中の(C)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、5〜25質量部であれば、あるいは、樹脂組成物全体を100質量%とした際に、2〜22質量%であれば、樹脂組成物の耐熱性、機械的強度が低下せず、さらにアウトガスの発生量を少なくすることができるため好ましい。
【0019】
(粘度平均分子量が100万以上のポリエチレン(D))
本発明の樹脂組成物は、前記の(A)〜(C)成分に加えて、粘度平均分子量が100万以上のポリエチレン(D)(以下「(D)成分」ともいう。)をさらに含有することが好ましい。(D)成分を含有することにより、ウェーハ等に対する耐磨耗性が向上し、パーティクル(異物)発生が防止される。加えて、ウェルド接着性も向上し、本発明の樹脂組成物は大型の半導体容器にも好適に利用できる。
【0020】
本発明において「粘度平均分子量」は、135℃のデカリン溶媒における極限粘度[η]を測定し、式:[η]=kMν
α(Mνは粘度平均分子量、kとαは常数)に基づいて算出される値を示す。極限粘度は、JIS K7367−3(1999年)に準拠した方法により測定される。
(D)成分の粘度平均分子量は、100万以上であり、好ましくは100万以上600万以下であり、より好ましくは100万以上400万以下、特に好ましくは120万以上400万以下であり、最も好ましくは150万以上400万以下である。
(D)成分の粘度平均分子量が100万以上であれば、ウェーハ等に対する耐磨耗性、及びウェルド接着性が向上する。特にウェルド接着性が向上するのは、(D)成分の粘度平均分子量が100万以上であることにより、樹脂組成物の粘度が増加し、ウェルド面での樹脂組成物同士の接着性が向上したためと考えられる。一方、好ましい上限値以下であると、樹脂組成物の衝撃強さや流動性が良好に維持されやすい。また、アウトガスの発生量も少ない。ここで、「ウェルド接着性」とは、金型内において溶融状態の樹脂組成物が合流する部分に生じるライン(ウェルドライン)の発生状態のことを意味し、得られた成形体のウェルドラインを目視で確認することで評価をおこなった。
【0021】
樹脂組成物中、(D)成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、(D)成分は、より均一に混合しやすいことから、粒子径10〜50μm程度の粉末状のものを用いることが好ましい。ここで「粒子径」とは、コールターカウンター TA−II型、日科機(株)を用いて、(D)成分を水中に分散した条件で測定した値のことを指す。
(D)成分は市販品を用いることができる。前記市販品としては、粘度平均分子量100万以上、400万以下のポリエチレンを主成分とする、ハイゼックスミリオン(登録商標)、ミペロン(登録商標)(いずれも三井化学株式会社製)等を好適に用いることができる。これらの中でも、ミペロン(三井化学株式会社製)がより好ましい。
【0022】
樹脂組成物における(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、5〜15質量部であることがより好ましい。(A)成分100質量部に対して(D)成分の含有量が好ましい下限値未満であると、耐磨耗性及びウェルド接着性の向上効果が充分ではなく、好ましい上限値を超えると、成形体とした際に流動性の低下を招きやすい。
また、樹脂組成物における(D)成分の含有量は、(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、5〜15質量部であることがより好ましい。(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して(D)成分の含有量が好ましい下限値未満であると、耐磨耗性及びウェルド接着性の向上効果が充分ではなく、好ましい上限値を超えると、成形体とした際に流動性の低下を招きやすい。
また、樹脂組成物における(D)成分の含有量は、樹脂組成物全体を100質量%とした際に0.4〜18質量%であることが好ましく、0.5〜16質量%であることがより好ましい。樹脂組成物中の(D)成分の含有量が、0.4質量%未満であると、耐磨耗性及びウェルド接着性の向上効果が充分ではなく、18質量%を超えると、成形体とした際に流動性の低下を招きやすい。すなわち、樹脂組成物における(D)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、1〜20質量部であれば、あるいは、(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して、1〜20質量部であれば、または、樹脂組成物における(D)成分の含有量が、樹脂組成物全体を100質量%とした際に、0.4〜18質量%であれば、耐摩耗性及びウェルド接着性の向上効果を十分に得られ、かつ、成形体とした際に流動性が低下しにくいため好ましい。
【0023】
(粒子状導電性フィラー(E))
本発明の樹脂組成物は、前記の(A)〜(C)成分に加えて、又は、前記の(A)〜(D)成分に加えて、粒子状導電性フィラー(E)(以下「(E)成分」ともいう。)をさらに含有することが好ましい。
(E)成分を含有することにより、成形体とした際、前記成形体はどの場所でもほぼ一定の表面抵抗率を示し(即ち、導電性のバラツキが少なく)、導電性の安定化がより図られる。かかる効果が得られる理由は、前記(B)成分が低添加量で不均一な導電性ネットワークを形成するのに対し、(E)成分は、低添加量でも均一な導電性ネットワークを形成するように作用するためである。ここで、「表面抵抗率」とは、三菱化学アナリテック社製のMCP−HT260 ハイレスタIPを用いて、ASTM D257の条件で測定した値のことを指す。
また、(E)成分を含有することにより、成形体とした際の反り量を低減する(成形による反りの発生を抑制する)ことができる。かかる効果が得られる理由は、前記(B)成分は成形体中での配向性が高いことにより、成形時の縦方向と横方向との収縮比が異なるのに対し、(E)成分は成形体中での配向性が低いことにより、成形時の縦方向と横方向との収縮比が同程度になるためである。
(E)成分は、アスペクト比(長さ(粒子の長軸)/幅(粒子の短軸))3未満の導電性フィラーをいう。本発明の1つの態様において、(E)成分のアスペクト比は、1以上3未満であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。
(E)成分としては、カーボンブラック、黒鉛等を用いることができる。中でも、少ない添加量で、樹脂組成物中で導電性のネットワークを形成できて衝撃強さを損なわないことから、カーボンブラックが好ましい。
【0024】
カーボンブラックの種類は本発明の効果を有する限り特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えばオイルファーネス法によって製造されるファーネスブラック、アセチレンガスを原料として製造されるアセチレンブラック、閉鎖空間で原料を直燃して製造されるランプブラック、天然ガスの熱分解によって製造されるサーマルブラック、拡散炎をチャンネル鋼の底面に接触させて捕捉するチャンネルブラック等が挙げられる。
これらの中でも、導電性、樹脂組成物中での分散性などの観点から、n−ジブチルフタレート(DBP)吸油量が180mL/100g以上のカーボンブラックが好ましく、300mL/100g以上のカーボンブラックがより好ましい。
DBP吸油量が180mL/100g未満であると、所望とする効果を得るのに使用量が多くなり、耐衝撃性の低下を招きやすくなる。DBP吸油量が180mL/100g以上であれば、より少量で所望とする効果が得られやすい。
本発明において「n−ジブチルフタレート(DBP)吸油量」は、ASTM D2414(DBPアブソープトメーター使用)に準拠した方法により測定される値を示す。
また、前記カーボンブラックは、導電性の観点からオイルファーネス法によって製造されるファーネスブラック、アセチレンガスを原料として製造されるアセチレンブラックであることが好ましく、かつ、前記カーボンブラックの一次粒子径が、30〜50nmのものであることが好ましく、30〜40nmのものであることがより好ましい。前記カーボンブラックの一次粒子径が、30〜50nmであれば、比表面積が十分に大きくなり、DBP吸油量が前述の好ましい範囲となるため好ましい。前記一次粒子径は、電子顕微鏡画像から測定した値のことを指す。
【0025】
樹脂組成物中、(E)成分は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(E)成分は市販品を用いることができる。前記市販品としては、ケッチェンブラックEC 300J(ライオン株式会社製、一次粒子径40nm)、ケッチェンブラックEC 600JD(ライオン株式会社製、一次粒子径34nm)、バルカンXC−72(キャボット社製、一次粒子径37nm)、デンカブラック(電気化学工業株式会社製、一次粒子径43nm)(以上、いずれも商品名)等を好適に用いることができる。中でも、少ない添加量で、樹脂組成物中で導電性のネットワークを形成できるケッチェンブラックEC 300J(ライオン株式会社製)、ケッチェンブラックEC 600JD(ライオン株式会社製)がより好ましい。
【0026】
樹脂組成物における(E)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して1〜15質量部であることが好ましく、1〜12質量部であることがより好ましく、5〜12質量部であることが特に好ましい。(A)成分100質量部に対して(E)成分の含有量が好ましい下限値未満であると、成形体とした際における表面抵抗率の安定効果、及び成形によって生じる成形体の反り抑制の効果が充分に得られにくく、好ましい上限値を超えると、耐衝撃性の低下を招きやすい。また、汚染源となるおそれがある。
また、樹脂組成物における(E)成分の含有量は、(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して1〜12質量部であることが好ましく、1〜10質量部であることがより好ましく、5〜10質量部であることが特に好ましい。(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して(E)成分の含有量が好ましい下限値未満であると、成形体とした際における表面抵抗率の安定効果、及び成形によって生じる成形体の反り抑制の効果が充分に得られにくく、好ましい上限値を超えると、耐衝撃性の低下を招きやすい。また、汚染源となるおそれがある。
また、樹脂組成物における(E)成分の含有量は、樹脂組成物全体を100質量%とした際に0.4〜15質量%であることが好ましく、0.5〜13質量%であることがより好ましく、1〜12質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。樹脂組成物中、(E)成分の含有量が好ましい下限値未満であると、成形体とした際における導電性の安定効果、及び成形によって生じる成形体の反り抑制の効果が充分に得られにくく、好ましい上限値を超えると、耐衝撃性の低下を招きやすい。また、汚染源となるおそれがある。すなわち、樹脂組成物における(E)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、1〜15質量部であれば、または、(A)〜(C)成分の合計100質量部に対して、1〜12質量部であれば、あるいは、樹脂組成物全体を100質量%とした際に0.4〜15質量%であれば、成形体とした際における表面抵抗率の安定化、および成形によって生じる成形体の反り抑制の効果が十分に得られ、耐衝撃性が低下せず、かつ、(E)成分そのものが汚染源となる恐れがないため好ましい。
【0027】
(E)成分を用いる場合、樹脂組成物における、(B)成分と(E)成分との合計の含有量は、樹脂組成物全体を100質量%とした際に5〜25質量%であることが好ましく、5〜18質量%であることがより好ましい。
(B)成分と(E)成分との合計の含有量が好ましい下限値未満であると、所望とする導電性が得られにくく、好ましい上限値超であると、耐衝撃性の低下を招きやすい。すなわち、(B)成分と(E)成分との合計の含有量が、樹脂組成物全体を100質量%とした際に5〜25質量%であれば、所望とする導電性が得られ、かつ成形体の耐衝撃性が低下しにくいため好ましい。
また、(B)成分と(E)成分の含有比((B)成分含有量/(E)成分含有量)が3.0以下であれば、反り抑制の効果が高く好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物には、さらに、任意成分として滑剤、染料、顔料、種々の安定剤、強化剤、充填剤などを含有してもよい。
【0029】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、公知の樹脂混練設備(たとえば熱ロール、ニーダー、バンバリーミキサー等)又は二軸混練押出機を用い、前述した成分を溶融混練することにより製造できる。必要に応じて、ペレタイザーを使用してペレット状の樹脂組成物としてもよい。
前述した成分を溶融混練する際の温度は、使用する環状オレフィンホモポリマー(A)の種類によって適宜設定すればよく、通常200〜400℃である。
【0030】
<半導体保管搬送容器(FOUP)の製造方法>
そして、本発明の樹脂組成物(好ましくはペレット状の形態とした樹脂組成物)を用いて、射出成形、射出圧縮成形、圧縮成形、押出成形、又はブロー成形等を行うことにより成形体を得ることができる。ここでは、成形体形状や寸法精度の観点から射出成形を用いることがより好ましい。
本発明の一つの態様において、半導体保管容器の製造方法は、本発明の樹脂組成物(好ましくはペレット状の樹脂組成物)を溶融して溶融樹脂を得る工程、前記溶融樹脂を金型に充填して成形体を得る工程を含む方法であることが好ましい。前記溶融樹脂を得る工程において、本発明の樹脂組成物を溶融するための温度は、260〜300℃であることが好ましい。また、前記成形体を得る工程において、金型温度は50〜100℃であることが好ましく、成形温度は、260〜290℃であることが好ましい。
本発明に係る、(A)〜(C)成分を含有する樹脂組成物を半導体保管搬送容器の材料として用いることで、機械的強度(曲げ強さ、衝撃強さ)、耐熱性、導電性及び低アウトガス性のいずれも優れた成形体(半導体保管搬送容器)が得られる。
たとえば、この成形体からなる搬送容器(FOUP)によれば、機械的強度が高く、他部材との接触による衝撃からウェーハ等を保護することができる。また、耐熱性が高く、成形体を乾燥した際、熱による変形を防ぐことができる。加えて、導電性に優れることから静電気を生じにくく、さらに、発生するアウトガス量が少ないことからそれ自体が汚染源となりにくく、ウェーハ等への汚染物質の付着を防止することができる。そのため、ウェーハの歩留まりを向上することができる。
かかる本発明の樹脂組成物は、特に、半導体の回路パターンの微細化が進むのに伴って低アウトガス性が強く望まれる、電子部品の製造工程で使用される電子部品包装容器として好適なものであり、特に半導体保管搬送容器用として好適なものである。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
各例の樹脂組成物の組成を表1〜3に示した。表中、(B)〜(E)成分又は(B’)〜(E’)成分の配合量は、(A)成分又は(A’)成分100質量部に対する質量部をそれぞれ表す。
本実施例において使用した成分は下記の通りである。
【0032】
[ガラス転移温度が101〜160℃の環状オレフィンホモポリマー(A)]
A−1:環状オレフィンホモポリマー、日本ゼオン株式会社製、商品名「ZEONOR(登録商標)1420R」、Tgは135℃。
A−2:環状オレフィンホモポリマー、日本ゼオン株式会社製、商品名「ZEONOR(登録商標)1020R」、Tgは102℃。
【0033】
[(A)成分の比較成分(A’)]
A’−1:環状オレフィンホモポリマー、日本ゼオン株式会社製、商品名「ZEONOR(登録商標)1060R」、Tgは100℃。
A’−2:環状オレフィンホモポリマー、日本ゼオン株式会社製、商品名「ZEONOR(登録商標)1600」、Tgは163℃。
A’−3:環状オレフィンコポリマー、三井化学株式会社製、商品名「アペル(登録商標)5014DP」、Tgは135℃。
【0034】
[繊維状導電性フィラー(B)]
B−1:炭素繊維、日本ポリマー株式会社製、商品名「EPU−LCL」。繊維径は、7.0μm、繊維長は、6.0mm(アスペクト比857)。
【0035】
[(B)成分の比較成分(B’)]
B’−1:粒子状導電性フィラー(下記のE−1と同一のもの)を用いた。
【0036】
[オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーからなる群より選択される少なくとも一種のエラストマー(C)]
C−1:スチレン系エラストマー、旭化成化学株式会社製、商品名「タフテック(登録商標)H1053」。
C−2:オレフィン系エラストマー、三井化学株式会社製、商品名「タフマー(登録商標)A4085S」。
【0037】
[(C)成分の比較成分(C’)]
C’−1:ポリエステル系エラストマー、東洋紡績株式会社製、商品名「ペルプレン(登録商標)P150M」。
【0038】
[粘度平均分子量が100万以上のポリエチレン(D)]
D−1:超高分子量ポリエチレン、三井化学株式会社製、商品名「ミペロン(登録商標)XM−220」;粘度平均分子量200万、平均粒径30μm。
【0039】
[(D)成分の比較成分(D’)]
D’−1:粘度平均分子量が100万未満のポリエチレン(高密度ポリエチレン)、株式会社プライムポリマー製、商品名「ハイゼックス(登録商標)2208J」;粘度平均分子量約65000。
【0040】
[粒子状導電性フィラー(E)]
E−1:カーボンブラック、ライオン株式会社製、商品名「ケッチェンブラック(登録商標)EC300J」;粒子径(1次粒子径)40nm、アスペクト比約1、n−ジブチルフタレート(DBP)吸油量360mL/100g。
【0041】
[(E)成分の比較成分(E’)]
E’−1:カーボンブラック、電気化学工業株式会社製、商品名「デンカブラック(登録商標)」;粒子径(1次粒子径)43nm、n−ジブチルフタレート(DBP)吸油量165mL/100g。
【0042】
<樹脂組成物の製造例>
表1〜3に示す組成(配合成分、配合量(質量部))に従い、各例の樹脂組成物(円柱状ペレット)を以下に記載する製造方法によりそれぞれ製造した。
表中、空欄の配合成分がある場合、その配合成分は配合されていない。配合量は、配合成分の純分量を示す。
【0043】
(実施例1)
二軸押出機NR−II(ナカタニ機械社製、スクリュー口径57mm)を用い、予めプレブレンドした(A)成分と(C)成分との混合物を、前記押出機の元ホッパーより供給し、前記混合物を280℃で完全に溶融したところで、(B)成分を定量フィーダーによりサイドフィーダを通して強制的に前記押出機に供給して混練することによりコンパウンドを得た。
次いで、このコンパウンドを冷却した後、ペレタイザー(ナカタニ機械社製、GF5)を用いて円柱状ペレット(直径2mm、長さ2〜4mm)を調製した。
【0044】
(実施例2〜5)
表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0045】
(実施例6、7)
二軸押出機NR−II(ナカタニ機械社製、スクリュー口径57mm)を用い、予めプレブレンドした(A)成分と(C)成分と(D)成分との混合物を、前記押出機の元ホッパーより供給し、前記混合物が完全に溶融したところで、(B)成分を定量フィーダーによりサイドフィーダを通して強制的に前記押出機に供給して混練することによりコンパウンドを得た。
次いで、このコンパウンドを冷却した後、実施例1と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0046】
(実施例8)
(D)成分を比較成分(D’)に変更した以外は、実施例6と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0047】
(実施例9、10)
(B)成分とともに(E)成分を定量フィーダーによりサイドフィーダを通して供給した以外は、実施例1と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0048】
(実施例11)
(B)成分とともに(E)成分を定量フィーダーによりサイドフィーダを通して供給した以外は、実施例6、7と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0049】
(実施例12)
(E)成分を比較成分(E’)に変更した以外は、実施例9、10と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0050】
(比較例1)
(C)成分を配合しない、即ち、予めプレブレンドした(A)成分と(C)成分との混合物を(A)成分のみに変更した以外は、実施例1と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0051】
(比較例2)
(B)成分を配合しない、即ち、二軸押出機NR−II(ナカタニ機械社製、スクリュー口径57mm)を用い、予めプレブレンドした(A)成分と(C)成分との混合物を、前記押出機の元ホッパーより供給し、溶融混練することでコンパウンドを得た。
次いで、このコンパウンドを冷却した後、実施例1と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0052】
(比較例3)
表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0053】
(比較例4)
(C)成分を比較成分(C’)に変更した以外は、実施例2と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0054】
(比較例5)
(B)成分を比較成分(B’)に変更した以外は、実施例2と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0055】
(比較例6〜8)
(A)成分を比較成分(A’)に変更した以外は、実施例1と同様にして円柱状ペレットを調製した。
【0056】
<樹脂組成物の評価>
各例の樹脂組成物について、以下に示す評価方法により、機械的強度、導電性、アウトガス性、耐摩耗性、ウェルド接着性、導電性の安定化、成形によって生じる成形体の反り抑制の効果についてそれぞれ評価を行った。
【0057】
試験片の作製:
射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、FS120EM25ASE)を用い、前記の製造例で調製された各例の樹脂組成物(円柱状ペレット)から、強度測定用ダンベル試験片(ISO規格の多目的試験片A)、導電性測定用の平板プレート(76mm×76mm×3.2mm)、及び、成形体の反り抑制の評価用の試験片(310mm×360mm×20mm)をそれぞれ常法により成形し、各評価に供する試験片を作製した。成形温度は250〜280℃とし、金型温度は50℃に設定した。
【0058】
[機械的強度]
機械的強度の指標として曲げ強さ、シャルピー衝撃強さをそれぞれ以下に示す方法により測定した。
・曲げ強さ
曲げ強さは、ISO 178/A/2に準拠した方法により測定した。この曲げ強さが、80MPa超である場合を合格とした。
・シャルピー衝撃強さ
シャルピー衝撃強さは、ISO 179/1eAに準拠した方法により測定した。このシャルピー衝撃強さが、3.0kJ/m
2超である場合を合格とした。前記シャルピー衝撃強さの値が大きいほど、耐衝撃性が良好であることを意味する。
【0059】
[耐熱性]
耐熱性の指標として荷重たわみ温度(HDT)を、ISO 75−2Afに準拠した方法により測定した。この荷重たわみ温度が、95℃以上である場合を合格とした。前記荷重たわみ温度が高いほど、耐熱性が良好であることを意味する。
【0060】
[導電性]
導電性の指標として表面抵抗率を、ASTM D257に準拠した方法により測定した。この表面抵抗率が、1.0E+4〜1.0E+10(1.0×10
4〜1.0×10
10)Ωである場合を合格とした。
【0061】
[低アウトガス性]
低アウトガス性の指標としてアウトガスの発生量を、以下に示す方法により測定した。
各例の樹脂組成物(円柱状ペレット)5.0gを秤量して試験管に採取し、150℃で1時間加熱した際に発生するアウトガス量を、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)を用いてヘッドスペース(HS)法により測定した。
発生した揮発性ガス量を、フェノールを用いての相対濃度から換算し、単位質量当たりの濃度として算出した数値を、アウトガスの発生量とした。
測定装置には、ガスクロマトグラフィー装置としてHP社製の5890と、質量分析装置としてHP社製の5972とを用いた。
このアウトガスの発生量が、40ppm未満である場合を合格とした。前記アウトガス量が少ないほど、低アウトガス性が優れていることを意味する。
【0062】
[耐摩耗性]
耐摩耗性の指標としてウェーハ滑り荷重を、ウェーハ滑り磨耗試験を行うことにより測定した。
定盤上で、洗浄・乾燥した射出成形試験片(20mm×40mm×3mm)を、直径300mmのシリコンウェーハの外周部(周面)に当接させながら、振幅試験機を用いて、振幅2mmの往復試験を10万回行った。
前記往復試験の終了後、振幅試験機を取り外し、前記シリコンウェーハにおける、射出成形試験片が接していた周面を、滑車を介して垂直上方に位置する引張り試験機に接続した。そして、一定の速度で引張り荷重を測定し、その値をウェーハ滑り荷重(N)とした。引張り試験機にはテンシロン RTC−1325A(ORIENTEC製)を用いた。
このウェーハ滑り荷重が、0.40N以内である場合をより良好であるとしてA、0.40超0.60N以内である場合を良好であるとしてB、0.60N超である場合を不良であるとしてCとし、耐摩耗性について評価した。
【0063】
[ウェルド接着性]
ウェルド接着性の評価は、1ゲートから射出成形して立方体形状の容器(横430mm×縦356mm×高さ339mm)を製造する際、溶融状態の樹脂組成物が合流する部分に生じるライン(ウェルドライン)の発生状態(前記容器の外観)を目視により観察することで行った。
そして、実質的なウェルドラインの発生が認められない場合をA、ウェルドラインの発生がやや認められる場合をB、ウェルドラインの発生が明瞭に認められる場合をCとし、ウェルド接着性について評価した。
【0064】
[導電安定性]
導電性(帯電防止能)の安定化の指標として、表面抵抗率の標準偏差(バラツキ)を求めた。
導電性測定用の平板プレート(76mm×76mm×3.2mm)を6箇所に区分し、各区分の表面抵抗率を測定した。表面抵抗率の測定には、三菱化学アナリテック社製のMCP−HT260 ハイレスタIPを用い、電極形状URSプローブにて測定を行った。
各区分の表面抵抗率の常用対数を計算し、それらの標準偏差(バラツキ)を解析した。
この表面抵抗率の常用対数での標準偏差が、0.03未満である場合を導電安定性がより良好であるとしてA、0.03以上0.10未満である場合を導電安定性が良好であるとしてB、0.10以上である場合を導電性にバラツキがあるとしてCとし、導電安定性について評価した。
【0065】
[成形によって生じる成形体の反り抑制の効果]
射出成形試験片(310mm×360mm×20mm)を水平な台に置き、長手方向(360mm辺に平行な方向)の端部と台との離間距離を測定した。そして、前記離間距離の最大値(台から最も離れていた端部と台との離間距離L)を「成形体の反り量」とし、成形によって生じる成形体の反り抑制の効果について評価を行った。
この成形体の反り量(離間距離L)が、0.10mm未満の場合を反り抑制の効果がより良好であるとしてA、0.10mm以上0.20mm未満である場合を反り抑制が良好であるとしてB、0.20mm以上である場合を反りが抑制されていないとしてCとし、成形体の反り抑制の効果について評価した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表1〜3に示す結果より、本発明を適用した実施例の樹脂組成物によれば、成形体とした際に機械的強度、耐熱性、導電性及び低アウトガス性がいずれも優れることが分かる。
表2に示す結果より、(A)〜(C)成分に加えて(D)成分をさらに含有することにより、ウェーハ等に対する耐磨耗性及びウェルド接着性がより向上することが分かる。
表3に示す結果より、(A)〜(C)成分に加えて(E)成分をさらに含有することにより、導電性の安定化がより図られる。また、(B)成分と(E)成分比が3.0以下である場合、反り抑制効果の効果が高いことが分かる。
【0070】
実施例9と実施例12との対比より、DBP吸油量が180mL以上のE−1を含有する実施例9は、DBP吸油量が180mL未満のE’−1を含有する実施例12に比べて、粒子状導電性フィラーの使用量が少ないにもかかわらず、同等の導電性を示し、かつ、導電性の安定化と成形によって生じる成形体の反り抑制が図られていることが分かる。