(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一のセラミックス形成性スラリーが、炭素源を有する樹脂とシリコン粉末との混合物、炭化珪素、アルミナ、ジルコニア、または水酸化カルシウムとリン酸との混合物を含有する、請求項1に記載の方法。
前記第二のスラリーが、炭素源を有する樹脂とシリコン粉末との混合物、炭化珪素、アルミナ、ジルコニア、または水酸化カルシウムとリン酸との混合物を含有する、請求項3に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のセラミックスフィルタエレメントの製造方法では、まず、(a)多孔質構造体の全体に、第一のセラミックス形成性スラリーが略均一に付与される。
【0018】
本発明に用いられる多孔質構造体は、多孔質な炭素源を含有する材料で構成されている。
【0019】
多孔質な炭素源を含有する材料の例としては、スポンジ構造を有する有機樹脂および/または有機系ゴム、ならびに有機系繊維で構成された布帛が挙げられる。有機樹脂の例としては、必ずしも限定されないが、ポリウレタンなどのウレタン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂などのスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ポリアミド等のポリアミド系樹脂;およびこれらの組み合わせが挙げられる。有機系ゴムの例としては、必ずしも限定されないが、天然ゴム、合成ゴム(例えば、クロロピレンゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、またはブチルゴムあるいはこれらの組合せ)もしくはこれらの組合せが挙げられる。有機系繊維の例としては、天然有機系繊維(例えば、綿、麻またはリンネルのような植物繊維、ウール、シルクまたはカシミアのような動物繊維、あるいはこれらの組合せ)、合成有機系繊維(例えば、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、あるいはこれらの組合せ)もしくはこれらの組合せが挙げられる。さらに、合成有機系繊維の具体的な例としては、ゴアテックス(登録商標)が挙げられる。また、有機系繊維で構成された布帛の例としては、このような有機系繊維で構成される不織布、織布、編布、紙ならびにこれらの積層体が挙げられる。
【0020】
本発明に用いられる多孔質構造体はまた、対向する2つの流体通過面と該流体通過面を包囲する側面部とを備える。このような構造体の例としては、直方体、立方体、六角柱、五角柱、三角柱などの多角柱、円柱、および楕円柱が挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる第一のセラミックス形成性スラリーは、焼結等の当業者に公知の手段を用いることによりセラミックスを形成し得る材料を用いてスラリー化したコロイド溶液である。
【0022】
第一のセラミックス形成性スラリーを構成する成分としては、必ずしも限定されないが、例えば、(1)炭素源を有する樹脂とシリコン粉末との混合物、(2)炭化珪素、(3)アルミナ、(4)ジルコニア、または(4)水酸化カルシウムとリン酸との混合物が挙げられる。(1)炭素源を有する樹脂とシリコン粉末との混合物を用いることが好ましい。
【0023】
上記(1)炭素源を有する樹脂とシリコン粉末との混合物において、当該混合物を構成し得る樹脂としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、有機金属ポリマー(例えば、ポリカルボシラン)およびショ糖、ならびにこれらの組合せが挙げられる。当該混合物を構成するシリコン粉末としては、シリコンの粉末そのもの、およびシリコン合金(金属元素として、マグネシウム、アルミニウム、チタニウム、クロミウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウム、ニオビウム、モリブデン、およびタングステン、ならびにそれらの組合せを含有し得る)、ならびにそれらの組合せが挙げられる。本発明においては、シリコンの微粉末を用いることが好ましい。特に、より均質なSi/SiCセラミックスを形成することができるという点から平均粒径が30μm以下に調整されたシリコン微粉末を用いることがさらに好ましい。
【0024】
上記(1)の混合物における、炭素源を有する樹脂とシリコン粉末との混合割合は、必ずしも限定されず、SiリッチまたはCリッチのいずれであってもよいが、例えば、上記第一のセラミックス形成性スラリーに含まれるシリコンと炭素との原子比(Si/C)が0.05〜4となるように調製されることが好ましい。
【0025】
上記第一のセラミックス形成性スラリーは、上記成分以外に、エタノール、メタノール、プロパノール、アセトニトリル、ジエチルエーテルなどの有機媒体、あるいは水などの媒体を含有していてもよい。さらに当該スラリーは、炭素粉末、黒鉛粉末、カーボンブラックを添加し、または、骨材或いは酸化防止剤として、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、ジルコン、アルミナ、シリカ、ムライト、二ケイ化モリブデン、炭化ホウ素、ホウ素粉末などの添加剤を含有していてもよい。添加剤の含有量は特に限定されない。第一のセラミックス形成性スラリーに含まれる上記成分が有する効果を阻害しない程度の範囲で、当業者によって任意の含有量が選択され得る。
【0026】
上記多孔質構造体の全体への、第一のセラミックス形成性スラリーの略均一な付与は、例えば、上記多孔質構造体の全体または一部が、当該第一のセラミックス形成性スラリー中に当業者に周知の手段を用いて含浸され、その後当業者に周知の手段を用いて適切に絞ることにより、多孔質構造体の全体に第一のセラミックス形成性スラリーが略均一に分散させられる。あるいは、多孔質構造体に対して、第一のセラミックス形成性スラリーが全体にわたって噴霧され、必要に応じて当業者に周知の手段を用いて適切に絞ることにより、多孔質構造体の全体に第一のセラミックス形成性スラリーが略均一に付与される。構造体に上記スラリーが付与された後、多孔質構造体は必要に応じて乾燥が施されてもよい。
【0027】
なお、本発明においては、上記(a)多孔質構造体に第一のセラミックス形成性スラリーを付与した後、以下の(b)工程の前に、(a’)多孔質構造体を炭素化してもよい。具体的には、上記多孔質構造体は、真空またはアルゴンなどの不活性雰囲気下にて、例えば900℃〜1350℃の温度に曝される。このような温度を付与することにより、上記多孔質構造体を構成する材料のうち、多孔質な炭素源を含有する材料が熱分解し、一方で上記第一のセラミックス形成性スラリーに含まれる上記成分が元の多孔質の骨格部分をほぼ維持したままセラミックス構造を形成する。これにより炭素化した多孔質構造を得ることができる。
【0028】
本発明においては、上記(a)工程の後、次いで、(b)多孔質構造体の側面部に第二のスラリーが付与される。
【0029】
本発明に用いられる第二のスラリーは、上記第一のセラミックス形成性スラリーと同様のスラリーであってもよく、すなわち構成成分として、例えば、(1)炭素源を有する樹脂とシリコン粉末との混合物、(2)炭化珪素、(3)アルミナ、(4)ジルコニア、または(4)水酸化カルシウムとリン酸との混合物が挙げられる。(1)炭素源を有する樹脂とシリコン粉末との混合物のいずれを含有していてもよい。
【0030】
あるいは、第二のスラリーは、本発明において例えば、上記(a’)の炭素化工程が行われた場合、上記以外のスラリーを用いることもできる。このような場合に使用可能なスラリーを構成する成分としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、天然または合成ゴム、ならびにこれらの組合せが挙げられる。熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル・スチレン)樹脂、およびポリ(メタ)アクリレートならびにこれらの組合せ)が挙げられる。熱硬化性樹脂の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、およびアルキド樹脂、ならびにこれらの組合せが挙げられる。合成ゴムの例としては、ポリブタジエン系ゴム、ニトリル系ゴム、クロロプレン系ゴムなどが挙げられ、より具体的な例としては、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。第二のスラリーにおけるこれらの成分の含有量は特に限定されない。当業者によって任意の含有量が選択され得る。
【0031】
上記第二のスラリーは、上記成分以外に、エタノール、メタノール、プロパノール、アセトニトリル、ジエチルエーテルなどの有機媒体、あるいは水などの媒体を含有していてもよい。さらに当該スラリーは、亜鉛、錫、鉛、インジウム、ガリウム、ビスマスなどの低融点金属;ハンダ粉末;フッ素樹脂;などの添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤を含有していることにより、得られるセラミックスフィルタエレメントの耐熱性、耐薬品性、耐UV性等が一層向上する。なお、添加剤の含有量は特に限定されない。第二のスラリーに含まれる上記成分が有する効果を阻害しない程度の範囲で、当業者によって任意の含有量が選択され得る。
【0032】
上記多孔質構造体の側面部への、第二のスラリーの付与は、例えば、上記多孔質構造体の側面部を当該第二のスラリー中に当業者に周知の手段を用いて含浸するか、あるいは当該多孔質構造体の側面部に対し、当該第二のスラリーを当業者に周知の手段を用いて噴霧することによって行われ得る。
【0033】
特に、多孔質構造体の側面部を第二のスラリーに含浸させて行う場合、例えば以下のようにして行われる。
【0034】
図1は、本発明のセラミックスフィルタエレメントの製造方法の一例を説明するための図であって、第一のセラミックス形成性スラリーが略均一に付与された四角柱(直方体)状の多孔質構造体の側面部に第二のスラリーを含浸させる手順を模式的に示す図である。
【0035】
まず、
図1の(a)に示すように、すでに第一のセラミックス形成性スラリーが付与された多孔質構造体100の側面部の1面100aが、第二のスラリー102を配置した容器104の上に配置される。その後、多孔質構造体100を静かに第二のスラリー102内に浸漬する(
図1の(b))。この浸漬における多孔質構造体100の浸漬の程度(深さ)、浸漬時間、および浸漬の際に設定する温度はそれぞれ当業者によって適宜選択され得る。浸漬後、多孔質構造体100はゆっくりと容器104から離される(
図1の(c))。これにより、多孔質構造体100の1つの側面部に第二のスラリー102が含浸した層106aが形成される。次いで、多孔質構造体100を回転させ、第二のスラリー102を含む容器104上に新たな面100bが対向するように配置され、上記
図1の(b)と同様にして、多孔質構造体100は静かに第二のスラリー102内に浸漬される(
図1の(d))。こうして、多孔質構造体の他の側面部に第二のスラリー102が含浸した層106bが形成される(
図1の(e))。さらに、多孔質構造体100を回転させ、第二のスラリー102を含む容器104上に新たな面100cが対向するように配置され、上記
図1の(b)と同様にして、多孔質構造体100は静かに第二のスラリー102内に浸漬される(
図1の(f))。こうして、多孔質構造体の別の側面部に第二のスラリー102が含浸した層106cが形成される(
図1の(g))。またさらに、多孔質構造体100を回転させ、第二のスラリー102を含む容器104上に新たな面100dが対向するように配置され、上記
図1の(b)と同様にして、多孔質構造体100は静かに第二のスラリー102内に浸漬される(
図1の(h))。こうして、多孔質構造体の他の側面部に第二のスラリー102が含浸した層106dが形成される(
図1の(i))。
【0036】
このようにして、四角柱状の多孔質構造体100の側面部の全てについて、第二のスラリーが含浸した層106a、106b、106cおよび106dが形成される。
【0037】
図2は、本発明のセラミックスフィルタエレメントの製造方法の他の例を説明するための図であって、第一のセラミックス形成性スラリーが略均一に付与された円柱状の多孔質構造体の側面部に第二のスラリーを含浸させる様子を模式的に示す図である。
【0038】
図2に示すように、円柱状の多孔質構造体120は、第二のスラリー102を含む容器104内に浸漬された後、静かに軸周りに回転させることにより、第二のスラリーが含浸した層126が、多孔質構造体120の外周を構成する側面部に形成される。
【0039】
多孔質構造体に上記第二のスラリーが付与された後、多孔質構造体は必要に応じて乾燥が施されてもよい。
【0040】
なお、本発明においては、上記(b)多孔質構造体の側面部に第二のスラリーとしてセラミックス形成性スラリーが付与された場合、当該付与の後、(c)多孔質構造体を炭素化してもよい。具体的には、上記多孔質構造体は、真空またはアルゴンなどの不活性雰囲気下にて、例えば900℃〜1350℃の温度に曝される。このような温度を付与することにより、上記にて予め(a’)工程による炭素化が行われていない場合には、多孔質構造体を構成する材料のうち、多孔質な炭素源を含有する材料が熱分解し、一方で上記第一のセラミックス形成性スラリーに含まれる上記成分が元の多孔質の骨格部分をほぼ維持したままセラミックス構造を形成するとともに、第二のスラリーが付与された部分はさらに高密度なセラミックス構造でなるスキン層を形成することができる。また、予め(a’)工程による炭素化が行われた場合には、第二のスラリーが付与された部分についてのみ高密度なセラミックス構造でなるスキン層を形成することができる。
【0041】
このようにしてセラミックスフィルタエレメントを製造することができる。
【0042】
図3に示すように、本発明の方法により製造されるセラミックスフィルタエレメント200は、第一のセラミック形成性スラリーから形成された多孔質のセラミックス部分202と、該セラミックス部分202の外縁を包囲する第二のスラリーで封止されたスキン層206a、206b、206c、および206dとを有する。
【0043】
図4は、本発明により製造され得るセラミックスフィルタエレメントの一例を説明するための図であって、
図3に示すセラミックスフィルタエレメント200のA−A方向における断面図である。
【0044】
図4に示すようにセラミックスフィルタエレメント200は、中央部分のセラミックス部分202は多孔質構造が保持されているため、フィルタとして
図4の上から下、または下から上の方向に流体を透過させることができる。一方、エレメント200の外縁ではスキン層(
図4では206bおよび206d)によってエレメント200の側面部は外部と遮断されている。言い換えれば、エレメント200の外周は、スキン層206a、206b、206cおよび206dによって補強された構造を有しているため、エレメント200は側方向および流体の通過方向のいずれの方向に対しても強度が高められている。
【0045】
本発明の方法によれば、多孔質構造体を第二のスラリーに付与する際に、例えば、第二のスラリーに浸漬する深さを変更するなどにより、スキン層206a、206b、206cおよび206dを任意の厚みに変更することができる。その結果、より高い強度が求められる場合は、このスキン層の厚みを大きくすればよく、さらに多孔質構造体の側面部のうち、一部のみの強度を高めたい場合は、スキン層の対応する一部のみの厚みが大きくなるように設定すればよい。
【0046】
このようにして得られるセラミックスフィルタエレメントにおいては、気孔径が例えば500μm〜600μmであり、開気孔率が例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上であり、および/または密度が例えば0.15g/cm
3〜0.3g/cm
3である。
【0047】
本発明の方法により得られたセラミックスフィルタエレメントは、種々の流体に対するフィルタ、例えば、汚染空気、汚染水などの汚染環境下での浄化に使用するための浄化フィルタに応用することができる。また、このような浄化フィルタを得るにあたり、種々の機能を、当該エレメントに付与することができる。
【0048】
特に、第一のセラミックス形成性スラリーおよび第二のスラリーの各成分から、Si/SiCセラミックスが選択された場合、当該セラミックスは加工性に優れ、かつ多孔質構造の基材とすれば良好な光透過性を有するため、光触媒の担体としても有用である。
【0049】
ここで、本発明の方法により得られたセラミックスフィルタエレメントに光触媒を付与して光触媒フィルタを製造する一例について説明する。
【0050】
本発明の方法により得られたセラミックスフィルタエレメントには、例えば、アナターゼ型酸化チタンを分散させてなるコロイド溶液(以下、「処理溶液」ともいう)が付与される。
【0051】
上記処理液に含まれるアナターゼ型酸化チタンは、従来、光触媒として公知の酸化チタンであり、ルチル型酸化チタンとは区別され得る。ただし、本発明において、アナターゼ型酸化チタンを含有する限りは、このようなルチル型酸化チタンの含有が排除されるものではない。アナターゼ型酸化チタンは、任意の粒子径(例えば、一次粒子径が5nm〜30nm)を有するものが使用され得る。アナターゼ酸化チタンはまた、未処理のもの、あるいは多孔質シリカ等で部分的に被覆が施されたもののいずれが使用されてもよい。
【0052】
上記処理溶液に含まれるアナターゼ酸化チタンの含有量は、特に限定されないが、処理溶液全体の重量に対し、例えば、5重量%〜25重量%、好ましくは10重量%〜20重量%の濃度となるように調製され得る。上記処理溶液に含まれるアナターゼ酸化チタンの含有量が5重量%を下回ると、上記セラミックスフィルタエレメントに処理溶液を付与しても、当該エレメント上に充分な光触媒の皮膜を形成することができず、光触媒フィルタとしての汚染物質の分離・吸着性能を低下させるおそれがある。上記処理溶液に含まれるアナターゼ酸化チタンの含有量が25重量%を上回ると、光触媒の使用量に比較して得られる光触媒フィルタの汚染物質の分離・吸着性能にはほとんど変化が見られず、むしろ生産コストのみを増加されるおそれがある。
【0053】
上記処理溶液に含まれる溶媒の種類は特に限定されないが、例えば、水(水道水、イオン交換水、純水など)、およびアルコール類(メタノール、エタノールなど)が挙げられる。
【0054】
さらに、処理溶液には分散剤など任意の添加剤が含まれていてもよい。処理溶液におけるこのような添加剤の含有量は当業者によって任意に設定され得る。
【0055】
上記セラミックスフィルタエレメントへの処理溶液の付与は、当業者に公知の手段・方法を用いて行われ得、スプレー、刷毛塗り、浸漬などの手段・方法を選択することができる。セラミックス基材の大きさまたは形状に関わらず選択できる点、および浸漬浴等の大型設備を必要としない点からスプレーまたは刷毛塗りを採用することが好ましい。
【0056】
処理溶液を付与した基材は、必要に応じて乾燥後、酸化チタンをセラミックスフィルタエレメントへ強固に担持させるための焼成が行われる。焼成は、酸化チタンがルチル型構造に転移しない温度、例えば、500℃〜600℃にて1時間〜2時間加熱することにより行われ得る。
【0057】
このようにして、上記セラミックスフィルタエレメントに光触媒が担持された光触媒フィルタが製造される。
【0058】
なお、上記では、光触媒の担持として、本発明の方法により一旦セラミックスフィルタエレメントを製造した後に行わる場合について説明したが、本発明においては、上記(a)工程の後かつ(b)工程の前に、(a’)多孔質構造体を炭素化する工程を採用し、かつ当該(b)工程における第二のスラリーとして、上記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、天然または合成ゴムなどの成分を含有するスラリーが使用される場合には、当該(a’)工程の後かつ(b)工程の前に、上記光触媒の担持が行われてもよい。
【0059】
上記のようにして製造され得る光触媒フィルタの一例を
図5に示す。
【0060】
図5に示す光触媒フィルタ300は、上記セラミックスフィルタエレメントのスキン層206a、206b、206cおよび206d以外に光触媒が担持されたフィルタ部分310を有する。フィルタ部分310は多孔質構造が保持されており、図示しない内部においても光触媒が担持されている。
【0061】
図6は、本発明により得られたセラミックスフィルタエレメントに光触媒を担持させた光触媒フィルタの他の例を説明するための図であって、当該光触媒フィルタを模式的に表した斜視図である。
【0062】
図6に示す光触媒フィルタ400は、円筒状の多孔質構造体を使用し、当該円筒の外周側面にスキン層を設けたセラミックスフィルタエレメントを用いて製造されたものである。スキン層406がフィルタ400の外周部を略一定の厚みで設けられており、スキン層406の内部にフィルタ部分410を有する。
【0063】
図7は、
図6に示す本発明の光触媒フィルタ400を用いた光浄化装置の一例を説明するための図であって、当該装置の一部切り欠き斜視断面図である。
【0064】
図7に示す光浄化装置500は、光触媒フィルタ400の内部に柱状の紫外線ランプ502が挿入されている。フィルタ部分410に汚染空気や汚染水などの汚染物質を含む流体を通し、紫外線ランプ502を点灯することにより、フィルタ部分410内では光触媒反応により汚染物質の分解が促進され、流体が浄化される。一方、汚染物質の分解および流体の通過はスキン層406によって覆われたフィルタ部分410内で行われるため、紫外線ランプ502の光を含め、これらは装置500の外部から漏れ出る懸念も排除される。
【0065】
このようにして、汚染物質を含む流体の浄化をより効率的かつ安全に行うことができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
フェノール樹脂の炭素化による炭素とシリコンとの原子比が5:3となる割合に、フェノール樹脂とシリコン粉末とを混合し、エチルアルコールに添加してフェノール樹脂を溶解させ、シリコン粉末の粒径を小さくするために1日間ボールミルで混合してスラリーを得た。次いで、260mm×260mm×(厚み)20mmのポリウレタン製スポンジに、このスラリーを1分間含浸させ、手でスラリー液がスポンジの気孔を塞がない程度の力で絞った。
【0068】
その後、このスポンジの外周部(四面)を、一面毎に上記スラリー内に幅約5mmまで1分間浸漬した。この外周部の各面の浸漬後には絞りを行わなかった。
【0069】
次いで、このスポンジを、乾燥炉内で110℃にて3時間乾燥した。乾燥後、このスポンジをアルゴン雰囲気下で800℃にて10分間焼成して炭素化し、さらにシリコンを溶融含浸することにより、元のスポンジが炭素化したセラミックス質の多孔質体を得た。
【0070】
得られた多孔質体の外周部は幅約5mmにわたってSi/SiCが充填されたスキン層が形成されており、内部はスポンジの骨格がほぼ保持されたSi/SiCでなる多孔質のセラミックス部分が形成されていたことを確認した。なお、得られた多孔質体のセラミックス部分の気孔径は500〜600μmであり、開気孔率は97%であり、密度は0.07g/cm
3であった。得られた多孔質体のスキン層の密度は2.5g/cm
3であった。
【0071】
さらに、本実施例で得られた多孔質体の圧縮強さをJIS R 1608に準じて測定した。本実施例で得られた多孔質体の圧縮強さは、セラミックス部分で1MPaであり、スキン層で10MPa以上であったことを確認した。
【0072】
(比較例1)
スポンジの外周部(四面)にスラリーの浸漬を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、スキン層のないセラミックス質の多孔質体を得た。
【0073】
得られた多孔質体(セラミックス部分)の気孔径は500〜600μmであり、開気孔率は97%であり、密度は0.07g/cm
3であった。
【0074】
さらに、本比較例で得られた多孔質体の圧縮強さをJIS R 1608に準じて測定した。本比較例で得られた多孔質体(セラミック部分)の圧縮強さは1MPaであった。
【0075】
実施例1および比較例1の結果から明らかなように、スキン層を形成した実施例1のエレメントは外周部における圧縮強さが、内部(セラミックス部分)の圧縮強さの10倍以上であることから、実施例1によってより強度が向上した多孔質体を製造することができたことがわかる。
【0076】
(実施例2)
スポンジの外周部(四面)にスラリーの浸漬を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、スキン層のないセラミックス質の多孔質体を得た。
【0077】
次いで、この多孔質体を、アナターゼ型酸化チタンを20重量%の割合で含有するコロイド溶液に5分間浸漬した。
【0078】
一方で、アルミナ粉末60重量%、無機バインダ25重量%(ケイ酸ナトリウム、酸化ホウ素、ホウ酸、その他ガラス質を所定の割合含有する;日本アエロジル株式会社製AEROSIL200)、および水15重量%を混合し、ボールミルで2時間混合することによりアルミナスラリーを調製した。
【0079】
その後、上記コロイド溶液に浸漬した多孔質体の外周部(四面)を、一面毎に上記アルミナスラリーに幅約5mmまで1分間浸漬し、110℃にて2時間乾燥した。この外周部の各面の浸漬後には絞りを行わなかった。
【0080】
次いで、この多孔質体を、アナターゼ型酸化チタンがルチル型にならない温度(500℃〜600℃)で1時間焼成し、スキン層にアルミナが付与した多孔質体を得た。
【0081】
得られた多孔質体のスキン層以外のセラミックス部分の気孔径は500〜600μmであり、開気孔率は97%であり、密度は0.07g/cm
3であった。得られた多孔質体のスキン層の密度は2.9g/cm
3であった。
【0082】
さらに、本実施例で得られたエレメントの圧縮強さは、セラミックス部分で1MPaであり、スキン層で5MPa以上であったことを確認した。