(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139260
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】赤外線カメラの光学系の構造
(51)【国際特許分類】
H04N 5/33 20060101AFI20170522BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20170522BHJP
H04N 5/335 20110101ALI20170522BHJP
G03B 9/08 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
H04N5/33
G01J1/02 H
H04N5/335
G03B9/08 Z
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-104908(P2013-104908)
(22)【出願日】2013年5月17日
(65)【公開番号】特開2014-225829(P2014-225829A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】598167268
【氏名又は名称】株式会社アピステ
(74)【代理人】
【識別番号】110001265
【氏名又は名称】特許業務法人山村特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100102060
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 喜信
(72)【発明者】
【氏名】山本 直
【審査官】
粕谷 満成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−173547(JP,A)
【文献】
特開平01−155220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 5/33
G01J 1/02
H04N 5/335
G03B 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を集光するための集光レンズと、前記集光レンズを透過した赤外線を検出するための赤外線検出器と、前記集光レンズと前記検出器との間に配置され、開閉動作を行う羽根を有するシャッタとを備えた赤外線カメラにおいて、
開状態の前記羽根を収容する収容部材の開口が、前記集光レンズから前記検出器に入射する光線束の勾配に沿った傾斜面で形成されていることを特徴とする赤外線カメラ。
【請求項2】
請求項1のカメラにおいて、
前記羽根の前記集光レンズ側および前記検出器側には、それぞれ、第1および第2収容部材が前記羽根を挟むように配置され、
前記集光レンズ側の第1収容部材は前記検出器側の第2収容部材に比べ厚く、少なくとも第1収容部材の前記開口が前記傾斜面で形成されている。
【請求項3】
請求項1もしくは2のカメラにおいて、
前記シャッタの前記検出器側には前記検出器に不必要な赤外線が入射するのを抑制するラジエーションシールドが設けられ、
前記シールドの開口が前記光線束の勾配に沿った傾斜面で形成されている赤外線カメラ。
【請求項4】
赤外線を集光するための集光レンズと、前記集光レンズを透過した赤外線を検出するための赤外線検出器と、前記集光レンズと前記検出器との間に配置されたシャッタとを備えた赤外線カメラにおいて、
前記シャッタの前記検出器側には前記検出器に不必要な赤外線が入射するのを抑制するラジエーションシールドが設けられ、
前記シールドの開口が前記集光レンズから前記検出器に入射する光線束の勾配に沿った傾斜面で形成されている赤外線カメラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外線カメラ(撮像装置)の光学系の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラの光学系に用いられるレンズの性能指標として、F値とよばれる値がある。F値はレンズの焦点距離を有効開口で除算した値で、レンズの明るさを示す指標であり、値が小さい程、その光学系は明るいということができる。対象物が暗い場合、可視光学系では照明を用いることで、その明るさを補うことが可能である。しかし、赤外線光学系では、対象物が発生している赤外線量を検出して測定温度を算出するため、明るさに相当する物理量を外部から増加させることは困難である。そのため、光学系の明るさは非常に重要な性能ファクタとなる。
【0003】
一般的な赤外線カメラでは、赤外線の量を計測する赤外線検出器を用いて温度を計測する。この検出器は測定対象から放出される赤外線以外に、検出器が取り付けられている筐体内部から発生している熱量の影響も受けてしまう。そのため、そのままでは筐体の温度の変動に伴って温度が安定しない。したがって、構造物からの熱影響を遮断するための構造を設ける場合がある。この構造はラジエーション(コールド)シールドとよばれている。
【0004】
ラジエーションシールドは検出器からレンズ以外の構造物が見えなくなるよう配置するため、検出器の前方側(検出面側)を覆うように構成されるのが一般的である。その場合、検出器の前方の視野はある程度制限され、したがって、F値は大きくなる傾向になる。また、ラジエーションシールドの温度にバラツキがあると、検出面の位置によって受ける影響が異なることになってしまうため、測定結果の面的な均一性を考えると、シールドは可能な限り温度的に安定していることが望ましい。
【0005】
また、赤外線検出器は、2次元的に配置されたセンサの集合体であるが、それぞれのセンサの出力特性にバラツキがあるため、ある一定の温度の対象物を測定した際の出力値はそれぞれ異なることがある。したがって、得られる出力値を均一化するためには、なんらかの補正処理が必要となる。その補正手法の1つとして、シャッタを用いるものがある。シャッタを用いた補正では、シャッタを閉じて前方の視界を遮ることで、検出器の視野の温度を均一化し、その際のシャッタの温度にもとづいた演算処理を行って、各画素に相当するセンサの出力値を均一化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】JP06−94523 A(要約)
【発明の概要】
【0007】
上記のシールド構造とシャッタを筐体内に配置する場合、シールド構造内にシャッタを配置することは、シールド内部の温度が均一である必要があるという観点から、望ましくない。そのため、シャッタはシールドの外側に配置されることになる。その場合、シャッタの開口径は、光線束の関係上シールドの開口径よりも大きくする必要がある。シャッタは開口以外にも、シャッタを開けた時にその構造を収納するスペースを設ける必要があることから、開口径の増加は、シャッタ全体のサイズ増加につながる。これはカメラの小型化を追求する上で大きな障害となる。
【0008】
従来のシャッタの配置例を
図1Bに示す。
Aは赤外線検出器、Bはラジエーションシールド、Cはシャッタ、Dは赤外用レンズである。まず、ラジエーションシールドBの開口径は、光学設計値や、レンズの寸法、筐体の制約からある値に設定される。この開口と検出器Aの端を結んだ直線が光線束Lの最も外側となるため、検出器Aから見てシールドBの外側に配置されるシャッタCは、その光線束Lを遮らないように設計する必要がある。この場合、シャッタC、シールドBとも一定の厚みがあるため、
図1BのレンズD側ではシャッタCの厚みの分だけ光線束Lが拡がってしまう。そのため、シャッタCの開口径はシールドBに対してさらに大きく設定せざるを得ない。シャッタC開口径の増加は外径の増加に直結する。
【0009】
本発明の目的は、より小さな開口径で大きなF値となる構造の赤外線カメラを得ることである。
【0010】
本発明の赤外線カメラは赤外線を集光するための集光レンズと、前記集光レンズを透過した赤外線を検出するための赤外線検出器と、前記集光レンズと前記検出器との間に配置され、開閉動作を行う羽根を有するシャッタとを備えた赤外線カメラにおいて、
開状態の前記羽根を収容する収容部材の開口が、前記集光レンズから前記検出器に入射する光線束の勾配に沿った傾斜面で形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、収容部材の開口が光線束の勾配に沿った傾斜面で形成されており、そのため、当該開口を可及的に小さくすることができる。したがって、F値の大きな値を維持できるから、光学的な性能を落とすことなく、よりサイズの小さな筐体設計が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは本発明の一実施例にかかる赤外線カメラの光学系の概略構成図、
図1Bは従来の赤外線カメラの光学系の概略構成図である。
【
図2】
図2Aは同実施例のシャッタの構造を拡大して示す断面図、
図2Bは同従来例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
好ましくは、前記羽根の前記集光レンズ側および前記検出器側には、それぞれ、第1および第2収容部材が前記羽根を挟むように配置され、
前記集光レンズ側の第1収容部材は前記検出器側の第2収容部材に比べ厚く、少なくとも第1収容部材の前記開口が前記傾斜面で形成されている。
【0014】
開閉されるシャッタ自体は、一般に薄く、当該シャッタを外部からの熱影響から守るために第1収容部材は一般に厚い。したがって、かかる第1収容部材の開口を傾斜面とすることにより、本発明の効果が顕著となる。
【0015】
好ましくは、前記シャッタの前記検出器側には前記検出器に不必要な赤外線が入射するのを抑制するラジエーションシールドが設けられ、
前記シールドの開口が前記光線束の勾配に沿った傾斜面で形成されている。
【0016】
この場合、シールドの開口が光線束の勾配に沿った傾斜面で形成されており、そのため、当該開口を可及的に小さくすることができる。したがって、F値の大きな値を維持できるから、光学的な性能を落とすことなく、よりサイズの小さな筐体設計が可能になる。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の一実施例を図面に従って説明する。
図1Aに示すように、本実施例ではシールドBおよびシャッタCの開口形状を、光線束Lの傾きに沿う形状に設定する。これにより、構造的に無駄な部分を作ることなく、開口面積を設定することが可能になる。
【0018】
通常のシャッタCと本実施例のシャッタCの形状の比較を
図2Aおよび
図2Bに示す。
図2Aが本発明の例、
図2Bが従来例である。シャッタCは開閉作動する羽根C3を両側の第1および第2収容部材C1,C2が収容する構造となっている。従来のシャッタCは
図2Bのように傾斜を有していないため、光線束Lが拡がっていくことに対応しようとすると、開口全体が大きくならざるを得ない。そのため、シャッタC全体が大きくなってしまう。
【0019】
これに対し、
図2Aの本実施例では内側の第2収容部材C2の開口を第1収容部材C1および羽根C3よりも小さく、羽根C3を少し大きく、厚い外側の第1収容部材C1の開口は、光線束Lに沿った傾斜を持たせている。結果として、シャッタC自体の内外径を小さくすることができる。
【0020】
このシャッタCの傾斜角に沿う形で、
図1AのシールドBの開口の傾斜を合わせることで、さらに無駄のない配置が可能となる。
【0021】
本実施例について更に詳しく説明する。
図1Aにおいて、集光レンズDは赤外線を集光する。検出器Aは多数の検出素子が二次的に配置されており、前記集光レンズDを透過した赤外線を検出する。シャッタCは前記集光レンズDと前記検出器Aとの間に配置されている。
【0022】
図2Aにおいて、前記シャッタCは開閉動作を行う羽根C3と、前記羽根C3の前記集光レンズD(
図1A)側および前記検出器A(
図1A)側に配置された第1および第2収容部材C1,C2を備える。すなわち、両収容部材C1,C2は前記羽根C3を挟むように配置されている。
【0023】
本実施例の場合、前記集光レンズD(
図1A)側の第1収容部材C1は前記検出器A(
図1A)側の第2収容部材C2に比べ厚く、前記第1収容部材C1の前記開口が傾斜面S1で形成されている。すなわち、第1収容部材C1の開口は、
図1Aの前記集光レンズDから前記検出器Aに入射する光線束Lの勾配に沿った傾斜面S1で形成されている。
ここで、前記「光線束Lの勾配に沿った傾斜面S1」とは、前記集光レンズDから前記検出器Aに入射する光線束Lの外周面に沿って傾斜面S1が形成されていることを意味し、また、「沿った」とは前記外周面と傾斜面S1が完全に一致する必要のないことを意味する。
【0024】
なお、
図2Aの前記第1収容部材C1はプラスチック製で、第2収容部材C2は金属製で、羽根C3はアルミ板製であってもよい。
【0025】
本実施例の場合、
図1Aの前記シャッタCの前記検出器A側には前記検出器Aに不必要な赤外線が入射するのを抑制するラジエーションシールドBが設けられている。前記シールドBの開口は前記光線束Lの勾配に沿った傾斜面S2で形成されている。
なお、前記ラジエーションシールドBは、例えば前記検出器Aをペルチェ素子で冷却するラジエータを兼用してもよく、一般に、金属で形成される。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は赤外線カメラの光学系の構造に利用できる。
【符号の説明】
【0027】
A:(赤外線)検出器
B:(ラジエーション)シールド
C:シャッタ C1:第1収容部材 C2:第2収容部材 C3:羽根
D:赤外用(集光)レンズ
L:光線束
S1,S2:傾斜面