(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139268
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】粉末成形装置の給粉ボックス
(51)【国際特許分類】
B30B 11/00 20060101AFI20170522BHJP
B30B 11/02 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
B30B11/00 F
B30B11/02 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-111539(P2013-111539)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-231060(P2014-231060A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年3月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和浩
【審査官】
石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−128795(JP,U)
【文献】
特開2009−166048(JP,A)
【文献】
独国特許発明第19919492(DE,C1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 11/00
B30B 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に敷板を備え、ダイを支えたダイプレート上を移動して前記敷板に設けられた投入
穴から前記ダイに設けられた円筒形状のキャビティに粉末を投入する粉末成形装置の給粉
ボックスであって、前記投入穴の給粉ボックス前進方向前側の穴縁の形状を、前記キャビティの平面視輪郭と相似形の円弧部とその円弧部の両側に接線方向に延びて連なる直線部を組み合わせた形状にし、その投入穴の給粉ボックス前進方向前側の穴縁は、中心が前記キャビティの中心を通る給粉ボックス移動方向に延びた直線上にあるものにし、その穴縁を給粉ボックスの前進方向後方に向けて凹ませた粉末成形装置の給粉ボックス。
【請求項2】
底部に敷板を備え、ダイを支えたダイプレート上を移動して前記敷板に設けられた投入
穴から前記ダイに設けられた円筒形状のキャビティに粉末を投入する粉末成形装置の給粉
ボックスであって、前記投入穴の給粉ボックス前進方向前側の穴縁の形状を、前記キャビティの平面視輪郭と相似形の円弧形状にし、その投入穴の給粉ボックス前進方向前側の穴縁は、中心が前記キャビティの中心を通る給粉ボックス移動方向に延びた直線上にあるものにし、その穴縁を給粉ボックスの前進方向後方に向けて凹ませた粉末成形装置の給粉ボックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼結部品の製造過程で使用される粉末成形装置の給粉ボックス(シューボックス)に関する。詳しくは、円筒状キャビティに対する粉末(原料粉末)の充填量をキャビティの各部において平均化する工夫が施された給粉ボックスに関する。
【背景技術】
【0002】
粉末成形装置には、シュープレート上を移動してダイプレートに支持されたダイのキャビティに粉末を投入する給粉ボックスが設けられている。その給粉ボックスの中に、底壁となる敷板を含ませたものがある。
【0003】
その敷板を有する給粉ボックスは、例えば、下記特許文献1に記載されている。同特許文献1に開示された給粉ボックスは、ダイに設けられた円筒状キャビティに対して粉末を
投入するものであって、敷板に設けられた平面視円形の投入穴から粉末がキャビティに投入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−166048公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
敷板に円形の投入穴を設けた従来の給粉ボックスと粉末成形装置の一部の要素を
図6に示す。同図の1は給粉ボックス、2はその給粉ボックスに含ませた敷板である。また、11は粉末成形装置のダイ、12は下パンチ、13はコアロッド、14はダイプレートである。
【0006】
また、
図6の15は、ダイ11、下パンチ12、コアロッド13の3者間に作り出されるキャビティである。
【0007】
図6の給粉ボックスの敷板2には、キャビティ15よりも穴径の大きい平面視円形の投入穴3が設けられている。
【0008】
この
図6の給粉ボックス1によるキャビティ15への粉末の投入状況を
図7に示す。
【0009】
円形の投入穴を有する給粉ボックス1を使用すると、
図7に示すように、給粉ボックス1の前進に伴って投入穴3はキャビティ15の給粉ボックスの前進方向後部側、即ち、図中右側から左側に向かってキャビティ15上を移動する。
【0010】
給粉ボックス1は、投入穴3がキャビティ15の全域と重なる位置まで前進したら移動を停止し、そこから後退する。このために、キャビティ15の給粉ボックス前進方向後部側(
図7では右側)と前進方向前部側(
図7では左側)に対する粉末の投入時間に差が生じる。
【0011】
投入穴3がキャビティ15の平面視形状と相似形の円形穴である場合、その投入時間差が大きく、それが原因でキャビティの各部に対する粉末の充填量がばらつき、充填粉末を加圧して得られる成形体に密度差が生じる。
【0012】
成形体の密度は、充填量の多くなる側、即ち、投入時間が長くなる側に置かれた部分が投入時間の短い側に置かれた部分よりも高くなる。
【0013】
その密度差は極力小さくするのがよく、そうすることで成形体を焼結して製造される焼結部品の信頼性を高めることができる。
【0014】
この発明はかかる要求に応えるべくなされたものであって、円筒状キャビティを有する粉末成形装置の給粉ボックスを、前記円筒状キャビティに対する粉末充填量のばらつきが抑制されるものにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するため、この発明においては、粉末の投入穴を有する敷板を備え、ダイを支えたダイプレート上を移動して前記ダイに設けられた円筒形状のキャビティに前記投入穴から粉末を投入する粉末成形装置の給粉ボックスを以下の通りに構成した。
【0016】
即ち、敷板に設けられる前記投入穴の給粉ボックス前進方向前側の穴縁を給粉ボックスの前進方向後方に向けて凹ませた。
【0017】
なお、この発明では、ダイプレート上に設置されるシュープレートもダイの一部とみなす。つまり、この発明で言う「ダイプレート上を移動する」の言葉には、「シュープレート上を移動する」の意味も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の給粉ボックスは、投入穴の給粉ボックス前進方向前側の穴縁を給粉ボックスの前進方向後方に向けて凹ませたので、キャビティの各部に対する粉末の充填量のばらつきが小さくなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の給粉ボックスの一例を粉末成形装置の一部の構成要素と共に示す断面図である。
【
図2】
図1の給粉ボックスと粉末成形装置の構成要素を示す平面図である。
【
図3】
図1の給粉ボックスに含ませた敷板の平面図である。
【
図4】
図3の敷板に設けた投入孔からのキャビティへの粉末の投入状況を示す説明用の平面図である。
【
図5】密度ばらつきの評価試験を行なった成形体の形状と密度の評価領域を示す平面図である。
【
図6】従来の給粉ボックスを粉末成形装置の一部の構成要素と共に示す断面図である。
【
図7】
図6の給粉ボックス敷板に設けた円形投入孔からのキャビティへの粉末の投入状況を示す説明用の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の給粉ボックスの実施の形態を添付図面の
図1〜
図4に基づいて説明する。
【0021】
図1に、給粉ボックス1と、粉末成形装置のダイ11と、下パンチ12と、必要に応じて設けられるコアロッド13と、ダイ11を支持したダイプレート14を併せて示す。
【0022】
図1の15は、ダイ11、下パンチ12、コアロッド13の3者間に作り出されるキャビティであり、そのキャビティ15に焼結部品の原料となる粉末Pが投入される。
【0023】
給粉ボックス1は、底壁となる敷板2を備えている。その敷板2には、キャビティ15に粉末Pを落とし込む投入穴3が設けられている。
【0024】
その投入穴3は、
図2に示すように、給粉ボックス前進方向(図中矢印方向)前側の穴縁3aを給粉ボックス1の前進方向後方に向けて凹んだ形状にしている。
【0025】
投入穴3の給粉ボックス前進方向前側の穴縁3aをこのような形状にすることで、キャビティ15の給粉ボックス前進方向後方部と前進方向前方部に対する粉末の投入時間差を従来の給粉ボックス使用時に比べて縮めることができる。
【0026】
投入穴3の給粉ボックス前進方向前側部分の穴縁3aの形状は、図示したような凹円弧形状が望ましい。穴縁3aを凹円弧形状にすると粉末の投入開始領域が広がり、キャビティの全域に対する投入時間差がより小さくなる。
【0027】
図2に示した給粉ボックス前進方向前側部分の穴縁3aは、投入穴3の幅方向中心部に位置する略1/4円の円弧部Iとその円弧部の両側に連なる接線方向に延びた直線部IIを組み合わせた形状になっている。
【0028】
このように、直線部IIを含ませると投入穴の加工がし易い。また、直線部IIの交差角θを適切に設定すると直線部IIが円弧部Iに先行してキャビティ15に到達し、このことでも投入時間差が短縮される。
【0029】
直線部IIの交差角θは100°に設定したが、その交差角θは100°に限定されない。直線部IIそのものも必須ではなく、全体が円弧状の穴縁にしてもよい。
【0030】
図4に、穴縁3aの形状をキャビティ15の給粉ボックス前進方向後方部の平面視輪郭に近似させた敷板2を使用した際のキャビティ15に対する粉末の投入状況を示す。
【0031】
同図に一点鎖線で示すように、穴縁3aがキャビティ15の給粉ボックス前進方向後方部の平面視輪郭にほぼ重なる形状であると、穴縁3aの全域が給粉ボックス前進時にキャビティ15に対して同時に到達し、キャビティ15に対する粉末の投入が穴縁3aの全域において同時になされる。
【0032】
穴縁3aがキャビティ15の給粉ボックス前進方向後方部の平面視輪郭に重ならない形状である場合にも、その穴縁3aの全域が、到達時間差がさほど大きくならないうちにキャビティ15に到達して広い領域において粉末の投入が開始される。
【0033】
このように、投入穴3の給粉ボックス前進方向前側部分の穴縁3aを給粉ボックス1の前進方向後方に向けて凹ませることで、キャビティ15の給粉ボックス前進方向前後部における粉末の投入時間差を縮めてキャビティ15の各部に対する粉末の充填量のばらつきを小さくすることができる。
【0034】
図2の敷板2は、投入穴3の給粉ボックス前進方向後方の穴縁3bを給粉ボックスの進退方向と直交する直線形状にしたが、この部分の穴縁は、キャビティ15の給粉ボックス前進方向後方部の平面視形状に対応させて半円形状にしてもよい。
【0035】
このほか、
図1に示すように、投入穴3の給粉ボックス進退方向前後の穴縁を穴径が下細りとなる方向に傾斜させると、キャビティに対して給粉ボックスから粉末が流入し易くなり、給粉ボックスを後退させる際の敷板2による粉末の升切り性も良くなる。ただし、この発明の効果は、その穴縁が垂直な縁であっても得られる。
【実施例】
【0036】
図3の敷板を有する給粉ボックスを使用して粉末成形装置のキャビティに鉄系合金粉末を投入し、その粉末を加圧成形して外径:φD1:74.1mm、内径D:φ65.42mm、全長:7.6mm、成形密度:6.7±0.05g/cm
3の
図5に示した円筒状成形体を得た。
【0037】
そしてその成形体の4等分領域、即ち、図示のa,b,c,dの各領域の平均密度を調べた。
図5の領域aが給粉ボックス前進方向前側部分、領域cが前進方向後ろ側部分に相当する。
【0038】
この評価試験の結果を表1にまとめる。同表の改善品は
図3の敷板を使用したもの、非改善品は、円形投入穴を有する敷板を使用したものである。
【表1】
【0039】
表1の改善品と非改善品の比較結果から、投入穴3の給粉ボックス前進方向前側部分の穴縁を給粉ボックス前進方向後方に向けて凹ませることが成形体の密度の平均化に対して有効であることがわかる。
【符号の説明】
【0040】
1 給粉ボックス
2 敷板
3 投入穴
3a 給粉ボックス前進方向前方部の穴縁
I 円弧部
II 直線部
3b 給粉ボックス前進方向後方部の穴縁
11 ダイ
12 下パンチ
13 コアロッド
14 ダイプレート
15 キャビティ
P 粉末