(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の送給方向に沿って溶接ワイヤを導入するワイヤ導入部、第2の送給方向に沿って上記溶接ワイヤを導出するワイヤ導出部、および上記ワイヤ導入部から中間部を経て上記ワイヤ導出部まで通じる内部収容空間、を有するトーチ本体部と、
基端部が上記ワイヤ導入部において上記第1の送給方向に沿って移動可能に保持され、かつ先端部が上記ワイヤ導出部に保持されつつ上記内部収容空間に収容されるとともに、上記溶接ワイヤを内部に挿通させており、上記基端部および上記先端部の間の少なくとも一部が可撓性を有するワイヤガイドと、
上記ワイヤガイドの上記基端部を上記第1の送給方向に沿って往復動させる往復動手段と、を備えており、
上記往復動手段は、上記基端部を、上記ワイヤ導出部に近づく側に向けて移動させる第1の移動速度が上記ワイヤ導出部から遠ざかる側に向けて移動させる第2の移動速度よりも大となるように作動させる、ことを特徴とする溶接トーチ。
上記往復動手段は、駆動部を有するアクチュエータと、一方端が上記駆動部に連結され、かつ他方端が上記基端部に連結されており、上記駆動部からの駆動力を上記第1の送給方向に沿う往復動作として上記基端部に伝達する伝達機構と、を含む、請求項1に記載の溶接トーチ。
上記リンク機構は、直線状に延びるリンクアームと、上記出力軸に対して偏心し、かつ上記出力軸を中心として回転可能であり、上記リンクアームの長手方向の一方端寄りの部位を上記出力軸と平行な第1の軸線周りに回動可能に連結する第1の連結部と、上記基端部に取り付けられ、かつ上記リンクアームの長手方向の他方端寄りの部位を上記出力軸と平行な第2の軸線周りに回動可能に連結する第2の連結部と、を含む、請求項3に記載の溶接トーチ。
【背景技術】
【0002】
消耗電極ガスシールドアーク溶接において、一般に、ワイヤリールに巻回された溶加材としての溶接ワイヤがワイヤ送給装置により溶接トーチに送り出される。ワイヤ送給装置は、一般に、溶接ワイヤを送り出すための送給ローラと、この送給ローラを回転駆動させるための駆動モータとを備えて構成される。多関節型ロボットなどのマニピュレータを備えた自動溶接を行うための溶接装置では、ワイヤ送給装置はマニピュレータに搭載され、マニピュレータの手首部には溶接トーチが設けられる。このような溶接装置において、ワイヤ送給用の駆動モータは、たとえば、溶接トーチの近傍部位または溶接トーチから離間する部位、あるいはその両方の部位に設けられる。駆動モータを制御することにより、溶接トーチへのワイヤの送給を安定的に行うとともに、ワイヤの送給速度を適宜変化させるなどして、溶接品質の維持に努めている(たとえば特許文献1を参照)。
【0003】
溶接トーチは、溶接ワイヤを通すための内部収容空間が形成されたトーチ本体部を備えている。溶接ワイヤは、トーチ本体部基端側のワイヤ導入部を通じて溶接トーチの内部に導入され、トーチ本体部先端側のワイヤ導出部を通じて溶接トーチの外部に導出される。ワイヤ送給装置を経た溶接ワイヤは、たとえば筒状のワイヤガイドに挿通させられ、このワイヤガイドに案内されながらワイヤ導出部まで送給される。そして、溶接トーチの先端部において、ワイヤガイドを通過した溶接ワイヤが給電チップに保持される。
【0004】
消耗電極ガスシールドアーク溶接においては、溶接トーチの給電チップに保持された溶接ワイヤと、溶接対象である母材との間にアークを適切に発生させる必要がある。溶接時には、アークの熱により溶接ワイヤの先端が順次溶融して母材上に溶滴として落下するが、この溶滴を介してワイヤ先端と母材とが短絡すると、溶接スパッタの発生により溶接品質の低下を招く場合がある。このような溶接時の不都合を回避するためには、溶接ワイヤの送給速度を、比較的に高速できめ細かく制御することが求められており、また、送給ローラを反転させてワイヤを少し戻すことも望まれる。送給ローラの回転方向を切り換えるためには、駆動モータを正転方向および逆転方向に切り換えるように制御すればよいが、駆動モータの慣性モーメントの影響により、駆動モータの正転および逆転の切り換えを高速で瞬時に行うことは、実質的に困難であった。
【0005】
このような問題に対し、溶接トーチの内部においてワイヤガイドを揺動させることにより、溶接ワイヤを軸方向に往復移動させる手法が提案されている(たとえば特許文献2を参照)。特許文献2に記載された溶接トーチにおいては、溶接トーチ本体の基端側(ワイヤ導入部)における溶接ワイヤの送給方向と先端側(ワイヤ導出部)における溶接ワイヤの送給方向とは互いに交差しており、溶接トーチ本体内に設けられるワイヤガイドは、屈曲状とされている。そして、溶接トーチ本体内のワイヤガイドを、ワイヤ導入部における溶接ワイヤの送給方向と交差(略直交)する方向に揺動させることにより、ワイヤガイドに挿通された溶接ワイヤも上記基端側における送給方向と交差する方向に揺動させる。これにより、溶接トーチ本体の先端側(ワイヤ導出部付近)において、溶接ワイヤが軸方向に沿って往復移動させられる。ワイヤガイドの揺動周期を制御することにより、溶接ワイヤを前進方向と後退方向に交互に移動させることができる。このような構成によれば、たとえばワイヤ送給用の駆動モータについて正転方向および逆転方向の切り換えを行うことなく、溶接ワイヤの送り出しおよび引き戻しを比較的に高速で行うことが可能となる。
【0006】
しかしながら、上記従来構造の溶接トーチによれば、溶接トーチ本体内のワイヤガイドを揺動させるためには、このワイヤガイドが比較的に高い剛性を有している必要があり、ある程度の質量を必要とする。したがって、このようなワイヤガイドをワイヤ送給方向と直交する方向に揺動(振動)させると、ワイヤガイドの振動の影響が溶接トーチ全体に及んで溶接品質の低下を招くおそれがあった。
【0007】
また、ワイヤガイドを揺動させると、高い剛性を有しかつ屈曲したワイヤガイド内において溶接ワイヤが高速で前進および後退させられる。その結果、ワイヤガイドと溶接ワイヤとの間に大きな摺動抵抗が生じることとなり、溶接ワイヤの送給の精密な制御に支障をきたすおそれがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、溶接ワイヤの送り出しおよび引き戻しの往復動作を比較的に高速で行いつつ、溶接品質の低下を防止し、溶接ワイヤを安定して送給するのに適した溶接トーチ、およびこれを備えた溶接装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0011】
本発明の第1の側面よって提供される溶接トーチは、第1の送給方向に沿って溶接ワイヤを導入するワイヤ導入部、第2の送給方向に沿って上記溶接ワイヤを導出するワイヤ導出部、および上記ワイヤ導入部から中間部を経て上記ワイヤ導出部まで通じる内部収容空間、を有するトーチ本体部と、基端部が上記ワイヤ導入部において上記第1の送給方向に沿って移動可能に保持され、かつ先端部が上記ワイヤ導出部に保持されつつ上記内部収容空間に収容されるとともに、上記溶接ワイヤを内部に挿通させており、上記基端部および上記先端部の間の少なくとも一部が可撓性を有するワイヤガイドと、上記ワイヤガイドの上記基端部を上記第1の送給方向に沿って往復動させる往復動手段と、を
備えており、上記往復動手段は、上記基端部を、上記ワイヤ導出部に近づく側に向けて移動させる第1の移動速度が上記ワイヤ導出部から遠ざかる側に向けて移動させる第2の移動速度よりも大となるように作動させる、ことを特徴としている。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記往復動手段は、駆動部を有するアクチュエータと、一方端が上記駆動部に連結され、かつ他方端が上記基端部に連結されており、上記駆動部からの駆動力を上記第1の送給方向に沿う往復動作として上記基端部に伝達する伝達機構と、を含む。
【0014】
好ましい実施の形態においては、上記駆動部は、上記第1の送給方向に対して実質的に直角な回転軸心を有する出力軸であり、上記アクチュエータは、上記出力軸を回転駆動させるモータを含み、上記伝達機構は、上記出力軸の回転を往復直線動に変換するリンク機構を含む。
【0015】
好ましい実施の形態においては、上記リンク機構は、直線状に延びるリンクアームと、上記出力軸に対して偏心し、かつ上記出力軸を中心として回転可能であり、上記リンクアームの長手方向の一方端寄りの部位を上記出力軸と平行な第1の軸線周りに回動可能に連結する第1の連結部と、上記基端部に取り付けられ、かつ上記リンクアームの長手方向の他方端寄りの部位を上記出力軸と平行な第2の軸線周りに回動可能に連結する第2の連結部と、を含む。
【0016】
好ましい実施の形態においては、上記第1の連結部は、上記基端部から離間する位置にあり、上記リンクアームは、上記第1の連結部に対して上記長手方向にスライド移動可能であるとともに、第1および第2の連結部の間に位置する回動支軸を中心として回動可能である。
【0017】
好ましい実施の形態においては、上記回動支軸は、上記第1および第2の連結部の間において上記第1の連結部に近づく側および上記第1の連結部から遠ざかる側に変位可能である。
【0018】
好ましい実施の形態においては、上記第1および第2の送給方向は互いに交差しており、上記内部収容空間は、上記第1および第2の送給方向を含む平面に沿って湾曲するように形成されており、上記
内部収容空間の幅寸法が上記中間部から上記ワイヤ導入部および上記ワイヤ導出部に向かうにつれて小さくなっている。
【0019】
本発明の第2の側面よって提供される溶接装置は、本発明の第1の側面に係る溶接トーチと、上記溶接トーチの上記ワイヤ導入部に向けて上記溶接ワイヤを送り出すワイヤ送給手段と、を備えることを特徴としている。
【0020】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0023】
図1は、本発明の溶接トーチ200を用いた溶接装置100の一例を示す全体構成図である。溶接装置100は、複数のアームからなる多関節型ロボットとして構成されたマニピュレータ110を備える。マニピュレータ110にはワイヤ送給装置111が搭載され、マニピュレータ110の手首部112には、溶接トーチ200が取り付けられている。ワイヤリール120に巻かれた溶加材としての溶接ワイヤW(
図2参照)は、コンジットパイプ130に通され、ワイヤ送給装置111によって溶接トーチ200に送給される。ワイヤ送給装置111を経た溶接ワイヤWは、一線式パワーケーブル140にガイドされてその内部を送給される。
【0024】
溶接トーチ200には、溶接用電源装置190から一線式パワーケーブル140を介して電力が供給され、この電力は、溶接トーチ200内部の後述する給電チップ330を介して溶接ワイヤWに供給される。溶接トーチ200にはまた、ガスボンベ150からのシールドガスと、圧縮空気発生源160からのエアブロー用の圧縮空気が供給される。シールドガスの供給および停止、圧縮空気の供給および停止は、図示しない弁装置を切り替えて行う。
【0025】
ティーチペンダント170からロボット制御装置180に指令信号が入力され、このロボット制御装置180からの信号がマニピュレータ110に入力されて、溶接トーチ200の先端位置が制御される。ロボット制御装置180はまた、溶接ワイヤWの送給、シールドガスの送給、およびエアブロー用の圧縮空気の送給をも制御する。ロボット制御装置180はさらに、溶接トーチ200に設けられた後述のワイヤガイド駆動装置500(
図1では図示略)に対しても電力を供給する。
【0026】
図2〜
図6は、本発明に係る溶接トーチ200の一実施形態を示している。本実施形態の溶接トーチ200は、消耗電極ガスシールドアーク溶接を行うように構成されたものであり、筒状のトーチ本体部300と、ワイヤガイド400と、ワイヤガイド駆動装置500とを備えている。
【0027】
トーチ本体部300は、基端側に位置するワイヤ導入部301と、先端側に位置するワイヤ導出部302とを有し、ワイヤ導入部301から中間部303を経てワイヤ導出部302まで通じる内部収容空間304が形成されている。ワイヤ導入部301は、マニピュレータ110の手首部112に取り付けられている。
【0028】
本実施形態において、トーチ本体部300は、手首部112に接続されるトーチボディ310およびこのトーチボディ310の先端に接続されるチップボディ320を有する。チップボディ320の先端(ワイヤ導出部302)には、導電性部材からなる給電チップ330が取り付けられている。
【0029】
トーチ本体部300は、その中間部303において湾曲しており、ワイヤ導入部301およびワイヤ導出部302は、それぞれ互いに交差する軸心を有する。内部収容空間304は、これら軸心を含む平面(
図2において紙面の面内方向に拡がる平面P)に沿って湾曲するように形成されている。なお、トーチ本体部300は、絶縁性の収縮チューブ305によって被覆されている。
【0030】
ワイヤガイド400は、溶接トーチ200に送給される溶接ワイヤWを給電チップ330までガイドするためのものであり、可撓性を有する筒状体とされている。ワイヤガイド400は、たとえば金属線材をコイル状に巻回して構成されたコイルライナからなり、トーチ本体部300の内部収容空間304に収容されるとともに、溶接ワイヤWを内部に挿通させている。ワイヤガイド400は、その基端部401がトーチ本体部300のワイヤ導入部301に保持されるとともに、先端部402がトーチ本体部300のワイヤ導出部302に保持されている。このようにしてトーチ本体部300に保持されたワイヤガイド400は、湾曲状となっている。
【0031】
溶接トーチ200に送給される溶接ワイヤWは、ワイヤ導入部301において当該ワイヤ導入部301の軸心に沿う方向(第1の送給方向)に送給され、トーチ本体部300内に導入される。トーチ本体部300内に導入された溶接ワイヤWは、ワイヤガイド400にガイドされて湾曲しながら送給される。その後、溶接ワイヤWは、ワイヤ導出部302において当該ワイヤ導出部302の軸心に沿う方向(第2の送給方向)に送給され、トーチ本体部300外に導出される。
【0032】
内部収容空間304は、ワイヤ導入部301における溶接ワイヤWの送給方向F1(第1の送給方向)およびワイヤ導出部302における溶接ワイヤWの送給方向F2(第2の送給方向)を含む平面(
図2において紙面の面内方向に拡がる平面P)の幅寸法が中間部303からワイヤ導入部301およびワイヤ導出部302に向かうにつれて小さくなっている。これにより、
図3に表れているように、トーチ本体部300の中間部303における内部収容空間304の横断面形状は、上記平面Pの幅方向D1に延びる長孔状となっている。
【0033】
ワイヤガイド400の基端部401は、ワイヤ導入部301において送給方向F1に沿って移動可能に保持されている。詳細は後述するが、基端部401は、ワイヤガイド駆動装置500の作動により、送給方向F1に沿って往復動させられる。
図2はワイヤガイド400の基端部401がワイヤ導出部302から最も遠ざかる側に位置する場合を示しており、
図6はワイヤガイド400の基端部401がワイヤ導出部302に最も近づく側に位置する場合を示している。
図2および
図6を対比すると理解されるように、ワイヤガイド400の基端部401を送給方向F1に往復動させると、ワイヤガイド400は、上記平面Pの幅方向に沿って揺動する。
【0034】
ワイヤガイド駆動装置500は、ワイヤガイド400の基端部401を送給方向F1に沿って往復動させるためのものであり、ワイヤ導入部301付近に設けられている。ワイヤガイド駆動装置500は、アクチュエータとしてのモータ510と、リンク機構520とを含んで構成される。リンク機構520は、モータ510の出力軸511からの駆動力を送給方向F1に沿う往復動作として基端部401に伝達する伝達機構として機能する。モータ510は、たとえば出力軸511の回転速度をパルス制御可能に回転駆動させるサーボモータであり、出力軸511を一方向のみに回転させて使用するものである。モータ510は、出力軸511の回転軸心が送給方向F1に対して実質的に直角となるように配置されている。
【0035】
図2、
図4に表れているように、リンク機構520は、出力軸511の回転を往復直線動に変換するためのものであり、直線状のリンクアーム530と、連結部541,542とを有する。リンクアーム530は、連結部541,542の間において出力軸511と平行な回動支軸550を中心として回動可能である。また、詳細な図示説明は省略するが、回動支軸550は、連結部541,542間において、連結部541に近づく側および連結部541から遠ざかる側に変位可能とされている。
【0036】
連結部541は、円盤状部材512を介して出力軸511に対して偏心する位置に取り付けられており、出力軸511を中心として回転可能である。連結部541は、ワイヤガイド400の基端部401から離間する位置にあり、リンクアーム530の長手方向の一方端(
図2、
図4における上方端)寄りの部位を、出力軸511と平行な軸線O1周りに回動可能に連結している。また、リンクアーム530は、連結部541に対して長手方向にスライド移動可能とされている。
【0037】
連結部542は、ワイヤガイド400の基端部401に取り付けられている。連結部542は、リンクアーム530の長手方向の他方端(
図2、
図4における下方端)寄りの部位を、出力軸511と平行な軸線O2周りに回動可能に連結している。また、リンクアーム530は、連結部542に対して長手方向にスライド移動可能とされている。なお、リンクアーム530が連結部542に対してスライド不能に連結されていてもよい。
【0038】
次に、ワイヤガイド駆動装置500の動作について説明する。
【0039】
モータ510の出力軸511が回転駆動すると、円盤状部材512が回転し、リンクアーム530が回動支軸550を中心として揺動する。より詳細には、
図2、
図5、
図6に示すように、出力軸511が反時計周り(図中矢印N1方向)に回転すると、連結部541が出力軸511を中心として回転する。ここで、リンクアーム530が回動支軸550を中心として回動可能であり、かつ連結部541に対してスライド移動可能であるため、
図2に示す位置において、リンクアーム530の上方端が図中最も左側に位置する。このとき、連結部542が図中最も右側に位置し、ワイヤガイド400の基端部401がワイヤ導出部302から最も遠ざかる位置にある。
【0040】
次に、
図2に示す状態から出力軸511が反時計周りに約70°回転すると、
図5に示すように、連結部541は、軸線O1周りに回動しながらリンクアーム530の長手方向に沿って相対移動し、回転支軸550に近づく。このとき、連結部542が図中左側に移動し、ワイヤガイド400の基端部401が
図2に示すときよりもワイヤ導出部302に近づく。ここで、ワイヤガイド400は、ワイヤ導出部302に近づくにつれて、内部収容空間304において矢印N2に示すように湾曲形状の凸側に変位する。そうすると、ワイヤガイド400によってガイドされた溶接ワイヤWについては、トーチ本体部300内における経路長さが
図2に示す場合よりも長くなり、溶接ワイヤWが引き戻される。
【0041】
次いで、
図5に示す状態から出力軸511が反時計周りにさらに約70°回転すると、
図6に示すように、連結部541は、軸線O1周りに回動しながらリンクアーム530の長手方向に沿って相対移動し、回転支軸550から遠ざかる。このとき、連結部542が図中最も左側に位置し、ワイヤガイド400の基端部401がワイヤ導出部302に最も近づく位置にある。ここで、ワイヤガイド400は、内部収容空間304において矢印N2に示すように湾曲形状の凸側にさらに変位する。そして、ワイヤガイド400によってガイドされた溶接ワイヤWについては、トーチ本体部300内における経路長さが最大となり、溶接ワイヤWがさらに引き戻される。
【0042】
次いで、
図6に示す状態から出力軸511が反時計周りにさらに約220°回転すると、連結部541は、軸線O1周りに回動しながらリンクアーム530の長手方向に沿って相対移動し、
図2に示す状態に戻る。ここで、ワイヤガイド400は、内部収容空間304において湾曲形状の凹側に変位する。そして、ワイヤガイド400によってガイドされた溶接ワイヤWについては、トーチ本体部300内における経路長さが最小となり、溶接ワイヤWが送り出される。
【0043】
図2、
図5、
図6を参照すると理解されるように、モータ510が回転駆動すると、ワイヤガイド400の基端部401は、送給方向F1に沿って所定の長さ範囲(ストロークS)で往復動させられる。基端部401が、
図2に示したワイヤ導出部302から最も遠ざかる位置から
図6に示したワイヤ導出部302に最も近づく位置に到達する間に、出力軸511は約140°回転する。これに対し、基端部401が、
図6に示したワイヤ導出部302に最も近づく位置から
図2に示したワイヤ導出部302から最も遠ざかる位置に到達する間に、出力軸511は約220°回転する。したがって、モータ510を一定の回転数で駆動させる場合、ワイヤガイド400の基端部401について、ワイヤ導出部302に近づく側に向けて移動させる際の移動速度(第1の移動速度)が、ワイヤ導出部302から遠ざかる側に向けて移動させる際の移動速度(第2の移動速度)よりも大きい。そして、基端部401の往復動によって、トーチ本体部300内の溶接ワイヤWについては、引き戻しと送り出しとが交互に繰り返されるが、引き戻し時の速度が送り出し時の速度よりも大きくなる。
【0044】
図7は、ワイヤ送給装置111およびワイヤガイド駆動装置500の駆動によるワイヤ送給速度線図の一例を示す。
図7の上段に示すように、ワイヤ送給装置111の駆動により当該ワイヤ送給装置111から溶接トーチ200に向けて一定速度で溶接ワイヤWが送り出される。同図の中段に示すように、ワイヤガイド駆動装置500(モータ510)の駆動により、溶接トーチ200において溶接ワイヤWの送り出しと引き戻しが交互に繰り返される。ここで、モータ510の回転数は、たとえば5000rpm程度で一定に維持され、溶接ワイヤWの動作の周波数は83Hz程度となる。そして、同図の下段に示された合成成分から理解されるように、ワイヤ送給装置511およびワイヤガイド駆動装置500よる溶接ワイヤWの送給において、送りと瞬時の戻りとが繰り返され、高速での溶接ワイヤWの送りおよび戻しが可能である。
【0045】
次に、上記した実施形態に係る溶接装置100の作用について説明する。
【0046】
溶接作業時において、ワイヤガイド駆動装置500を駆動させてワイヤガイド400の基端部401を送給方向F1に沿って往復動させることにより、溶接トーチ200の先端(ワイヤ導出部302付近)において、溶接ワイヤWを軸方向(送給方向F2)に沿って往復移動させることができる。ワイヤガイド駆動装置500のモータ510は、一方向のみに回転させて使用するので、たとえばワイヤ送給装置111の駆動モータについて正転ないし逆転の切り換えを行うことなく、溶接トーチ200先端における溶接ワイヤWの送り出しと引き戻しを繰り返すことができる。このことは、溶接時における溶接ワイヤW先端と母材との間に発生する短絡現象を回避するのに適しており、溶接品質を高めるうえで好ましい。
【0047】
ワイヤガイド400が可撓性を有しているため、ワイヤガイド400の基端部401の送給方向F1への往復動により、ワイヤガイド400は、湾曲形状を保ちながら当該湾曲形状の凸側と凹側との間での変位が可能となる。これにより、ワイヤガイド400によってガイドされた溶接ワイヤWについては、変形が抑えられてワイヤガイド400との間でスムーズな相対移動を可能にしつつ、トーチ本体部300内の経路長さを変えることができるので、溶接ワイヤWの送給を円滑に行わせることができる。
【0048】
また、本実施形態と異なり、たとえばワイヤガイドとして高い剛性のものを用いる場合には、比較的に質量が嵩む。そして、このようなワイヤガイドを溶接トーチ内で移動させると溶接トーチが振動しやすく、溶接品質の低下を招くおそれがある。これに対し、本実施形態のワイヤガイド400によれば、溶接トーチ200の振動を抑制することができるので、溶接品質を高めるうえでより好ましい。なお、ワイヤガイド駆動装置500は、可撓性を有するワイヤガイド400を軸方向に往復動させる構成であるので、駆動用のモータ510として、比較的に低トルクで小型のものを採用することができる。
【0049】
ワイヤガイド駆動装置500は、モータ510の出力軸511の回転をリンク機構520によって送給方向F1への往復直線動に変換するように構成されている。そして、モータ510の出力軸511は、送給方向F1と実質的に直角である。このような構成によれば、モータ510の配置の自由度を高めることができる。
【0050】
リンク機構520は、直線状のリンクアーム530と、このリンクアーム530の両端部寄りの部位を出力軸511に平行な軸線O1,O2周りに回動可能に連結する連結部541,542とを含み、リンクアーム530は、連結部541,542の間において回転支軸550を中心として回動可能である。そして、連結部541がワイヤガイド400の基端部401から離れた位置にあること、連結部541が出力軸511に対して偏心し、かつ出力軸511を中心として回転可能であること、リンクアーム530が連結部541に対して長手方向にスライド移動可能であること、等の協働により、
図2、
図5、
図6を参照して上述したように、モータ510を一定の回転数で駆動すると、基端部401の往復動によって、溶接ワイヤWの送り速度については引き戻し時の速度が送り出し時の速度よりも大きくなる。
【0051】
溶接時に溶接ワイヤWが引き戻されることによって、溶接ワイヤW先端と母材との短絡によるスパッタの発生を抑制することができる。本実施形態では、さらに引き戻し動作が送り出し動作に比べて高速かつ短時間で行われるので、アークを発生させるためのアーク長をより早く作ることができ、アークを発生させている割合を増やすことができる。これにより、溶接部において深い溶け込みを形成しやすく、また、高速溶接を行いやすくなるので、溶接品質をより高めることが可能となる。
【0052】
リンクアーム530の回動中心である回動支軸550は、連結部541に近づける、あるいは連結部541から遠ざけるように変位可能である。
図2を参照すると理解されるように、このように回動支軸550を変位させることにより、基端部401の往復動のストロークSを増減させることができ、溶接ワイヤWの戻り量を調節することが可能である。これにより、溶接条件の変更に対して適宜柔軟な対応が可能であり、溶接品質をより高めることが可能となる。
【0053】
溶接トーチ200において、ワイヤガイド400が収容される内部収容空間304は、ワイヤ導入部301における送給方向F1およびワイヤ導出部302における送給方向F2を含む平面Pに沿って湾曲するように形成されている。そして、当該平面Pの幅寸法は、中間部303からワイヤ導入部301およびワイヤ導出部302に向かうにつれて小さくなっている。このような構成によれば、ワイヤガイド400の基端部401の送給方向F1への往復動によって、ワイヤガイド400は、平面Pの幅方向D1に倣って動く。したがって、ワイヤガイド400が意図しない方向に動くことを防止することができる。このことは、溶接ワイヤWのばたつきや損傷を防止し、溶接品質を高めるのに適している。
【0054】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0055】
上記実施形態において、リンク機構520がリンクアーム530、連結部541,542、回転支軸550等を具備することにより、モータ510の一定速度の回転駆動による基端部401の往復動作について、溶接ワイヤWの引き戻し方向への移動速度が送り出し方向への移動速度よりも大となるように構成されていたが、本発明はこれに限定されない。リンク機構については、たとえばリンクアームとしてクランクアームを有する一般的なクランク機構を採用してもよい。通常のクランク機構の場合、駆動用のモータが一定速度で回転駆動する際に、基端部401の往復動作について、溶接ワイヤWの引き戻し方向の移動速度と送り出し方向の移動速度が同じになるが、モータの回転速度をパルス制御によって可変させることにより、基端部401の往復動作について、溶接ワイヤWの引き戻し方向の移動速度が送り出し方向の移動速度よりも大となるように基端部401を往復動させることが可能である。また、リンクアームについては、上記実施形態のように1本を具備する場合に限定されず、対をなす2本のリンクアームを具備する構成としてもよい。
【0056】
ワイヤガイド400の基端部401を往復動させるアクチュエータとしては、出力軸511を有するモータ510に限定されず、たとえば駆動部が直線移動するリニアモータを用いてもよい。リニアモータを用いる場合、基端部401の往復動の移動速度や移動ストロークを適宜に設定することができる。さらに、アクチュエータとして、エアシリンダやソレノイドを用いてもよい。エアシリンダの場合、複動式を用いることにより、基端部401の往復動作について、溶接ワイヤWの引き戻し方向の移動速度が送り出し方向の移動速度よりも大となるように基端部401を往復動させることが可能である。さらに、駆動部の駆動力とバネ等の付勢手段との組み合わせにより基端部401を往復動させるように構成してもよい。この場合、たとえば、基端部401の往復動のうち一方向の動作を駆動部からの駆動力により行い、他方向の動作を当該駆動力が解放される際の付勢部材の付勢力により行う。このような構成によっても、基端部401の往復動作について、溶接ワイヤWの引き戻し方向の移動速度が送り出し方向の移動速度よりも大となるように基端部401を往復動させることが可能である。
【0057】
上記実施形態においては、トーチ本体部300のワイヤ導入部301における溶接ワイヤWの送給方向(第1の送給方向)とワイヤ導出部302における溶接ワイヤWの送給方向(第2の送給方向)とが交差する場合について説明したが、第1および第2の送給方向は交差していなくてもよい。第1および第2の送給方向は、トーチ本体部300(溶接トーチ200)の形状に応じて決まるものであり、第1および第2の送給方向の関係については、交差しない場合、互いに平行になる場合、実質的に同一になる場合など、種々のバリエーションがある。たとえば第1および第2の送給方向が実質的に同一になる場合には、ワイヤ導出部301とワイヤ導出部302との間の内部収容空間304が湾曲することになる。