(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記汚泥層と前記上澄液層との2層を維持しつつ、前記汚泥層における汚泥を均質化させる汚泥均質化手段をさらに備え、前記制御手段は、前記汚泥入替手段による前記汚泥層における汚泥の少なくとも一部の入れ替え後に、前記汚泥均質化手段を制御して前記汚泥層における汚泥を均質化させることを特徴とする請求項1に記載の汚泥改質装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者は、微生物燃料電池を下水汚泥処理プロセスに適用する研究開発の過程で、微生物燃料電池が、下水汚泥の有するエネルギーを回収するという本来的な作用を奏するのみならず、下水汚泥自体が有する粘性を低減するという、副次的な作用をも奏することを見出した。
【0005】
この微生物燃料電池のもつ下水汚泥の改質性能は、脱水機に投入される下水汚泥の前処理として適用した場合、脱水機における使用凝集剤量の低減や脱水機の小能力化等の優れた効果が得られることが期待される。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、微生物燃料電池が有する下水汚泥の改質性能を脱水装置に投入される下水汚泥の前処理として適用することができ、後段に設けられる脱水装置における省電力化や使用凝集剤量の低減などを実現することができる汚泥改質装置および汚泥改質方法、並びに汚泥改質装置の制御装置、および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明に係る汚泥改質装置は、液体と有機物と有機物を分解して電子を放出する電子供与微生物を含む汚泥とを貯留し、貯留時に液体が主に占める上澄液層と汚泥が主に占める汚泥層との2層を維持する槽と、少なくとも一部が汚泥層に埋没されて設置されているとともに、電子供与微生物から電子が供給されるアノード電極と、アノード電極と電気的に接続されているとともに、少なくとも一部が上澄液層に浸漬するように設置されるカソード電極と、汚泥層からの汚泥の排出および汚泥層への汚泥の投入を行う汚泥入替手段と、アノード電極とカソード電極との間に流れる電流を計測する電流計測手段と、電流の計測値に基づいて、汚泥層の汚泥の少なくとも一部を入れ替えるように汚泥入替手段を制御する制御手段と、を備え、カソード電極とアノード電極との間に電子供与微生物から供給された電子が流れることにより汚泥を改質することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る汚泥改質装置は、上記の発明において、制御手段は、電流計測手段から供給されるカソード電極とアノード電極との間を流れる電流値を時間で累積することにより累積電力量を算出し、累積電力量が所定値以上になった場合に、汚泥入替手段によって汚泥の少なくとも一部を入れ替える制御を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る汚泥改質装置は、上記の発明において、汚泥層と上澄液層との2層を維持しつつ、汚泥層における汚泥を均質化させる汚泥均質化手段をさらに備え、制御手段は、汚泥入替手段による汚泥層における汚泥の少なくとも一部の入れ替え後に、汚泥均質化手段を制御して汚泥層における汚泥を均質化させることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る汚泥改質装置は、上記の発明において、カソード電極が液体の液面にカソード電極の一部が露出するように設置されることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る汚泥改質方法は、液体と有機物と有機物を分解して電子を放出する電子供与微生物を含む汚泥とを貯留し、貯留時に液体が主に占める上澄液層と汚泥が主に占める汚泥層との2層を維持する汚泥処理ステップと、少なくとも一部が汚泥層に埋没されて設置されているとともに、電子供与微生物から電子が供給されるアノード電極と、アノード電極に電気的に接続されているとともに、少なくとも一部が上澄液層に浸漬するように設置されるカソード電極との間に電子供与微生物から供給された電子を流すことにより汚泥を改質する汚泥改質ステップと、汚泥層からの汚泥の排出および汚泥層への汚泥の投入を行う汚泥入替ステップと、アノード電極とカソード電極との間に流れる電流値を計測する電流計測ステップと、電流の計測値に基づいて、汚泥層の汚泥の少なくとも一部を入れ替えるように、汚泥の入れ替えを行う汚泥入替手段を制御する制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る汚泥改質装置の制御装置は、液体と有機物と有機物を分解して電子を放出する電子供与微生物を含む汚泥とを貯留し、貯留時に液体が主に占める上澄液層と汚泥が主に占める汚泥層との2層を維持する槽に設けられた、少なくとも一部が汚泥層に埋没されて設置されているとともに電子供与微生物から電子が供給されるアノード電極と、アノード電極と電気的に接続されているとともに少なくとも一部が上澄液層に浸漬するように設置されるカソード電極と、カソード電極とアノード電極との間に電子供与微生物から供給された電子が流れることにより汚泥の少なくとも一部を改質させた後に、汚泥層からの汚泥の排出および汚泥層への汚泥の投入を行う汚泥入替手段と、に対して、アノード電極とカソード電極との間に流れる電流値に基づいて、汚泥層の汚泥の少なくとも一部を入れ替えるように制御することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る汚泥改質装置の制御方法は、液体と有機物と有機物を分解して電子を放出する電子供与微生物を含む汚泥とを貯留し、貯留時に液体が主に占める上澄液層と汚泥が主に占める汚泥層との2層を維持しつつ、少なくとも一部が汚泥層に埋没されて設置されているとともに、電子供与微生物から電子が供給されるアノード電極と、アノード電極に電気的に接続されているとともに、少なくとも一部が上澄液層に浸漬するように設置されるカソード電極との間に電子供与微生物から供給された電子が流れることにより汚泥を改質する際に、アノード電極とカソード電極との間に流れる電流値を計測する電流計測ステップと、電流計測ステップにおける電流の計測値に基づいて、汚泥層の汚泥の少なくとも一部を入れ替えるように、汚泥の入れ替えを行う汚泥入替手段を制御して、汚泥層からの汚泥の排出および汚泥層への汚泥の投入の制御を行う制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る汚泥改質装置および汚泥改質方法、並びに汚泥改質装置の制御装置、および制御方法によれば、微生物燃料電池が有する下水汚泥の改質性能を脱水装置に投入される下水汚泥の前処理として適用することができ、後段に設けられる脱水装置における省電力化や使用凝集剤量の低減などを実現することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の一実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0017】
まず、本発明の一実施形態による汚泥改質装置を適用する汚泥槽およびこれを備えた汚泥処理システムについて説明する。
図1は、この一実施形態による汚泥改質装置としての汚泥槽および汚泥処理システムを示す。
【0018】
図1に示すように、この一実施形態による汚泥処理システム1は、槽としての汚泥槽10と、後段に設けられた脱水手段としての脱水装置2と、さらに後段に設けられた燃焼手段としての燃焼炉3と、制御装置または制御手段としての制御部4と、電流計測手段としての電流計5とを備える。脱水装置2は、例えば重力脱水機やベルトプレス型脱水装置などから構成され、汚泥層10から排出された汚泥を脱水して、脱水ケーキとする。燃焼炉3は、例えばガス化炉や流動焼却炉などから構成され、脱水装置2から搬出された脱水ケーキを高温で焼却する。
【0019】
また、この汚泥槽10は、例えば重力濃縮槽や沈殿池などの固液分離装置から構成され、一対の電極としてのアノード電極12およびカソード電極13が設けられている。この汚泥槽10において下水処理を行う際には、その内部は、汚泥が沈殿して形成された主に汚泥からなる汚泥層11aと、後段の水処理設備(図示せず)に流出される分離液などの主に液体からなる上澄液層11bとの2層にほぼ分離され、この2層は常時維持される。汚泥槽10の内部には外部から汚泥層11aに対して投入汚泥が供給可能に構成された投入管10aが設けられている。
【0020】
また、汚泥槽10の下部には汚泥排出弁14が設けられ、汚泥排出弁14を通じて汚泥層11aから一部の汚泥が濃縮汚泥として排出される。この汚泥排出弁14の開閉動作は、制御部4により制御される。以上の投入管10aおよび汚泥排出弁14により汚泥入替手段が構成される。
【0021】
また、汚泥槽10内の汚泥槽11a中には、汚泥層11a内の汚泥を均質化するための汚泥均質化手段として、掻寄機15およびスウィングミキサ16が設けられている。掻寄機15は、軸15aによりモータ15bに連結されている。モータ15bの回転は制御部4により制御される。掻寄機15は、制御部4の制御によるモータ15bの回転によって汚泥槽11a中で回転する。モータ15bの回転は制御部4により制御される。また、スウィングミキサ16は、旋回支柱16aを介してモータ16bに連結されている。モータ16bの回転は制御部4により制御される。このスウィングミキサ16は、制御部4の制御によるモータ16bの回転によって旋回しながら、円周方向へ少し下向きに水流を発生させる。これにより、汚泥層11aを混練することができる。なお、スウィングミキサ16から外周方向に向かう水流は、汚泥槽10の内壁面によって下降流になるため、汚泥層11aのみを混練して汚泥を均質化することが可能になり、汚泥層10内を汚泥層11aと上澄液層11bとの2層に維持することが可能となる。
【0022】
アノード電極12は、その外面に、汚泥が含む細胞外電子伝達能を有する電子供与微生物が付着するように、少なくとも一部、好適にはすべてが汚泥層11aに埋没するように配置される。また、カソード電極13は、後述する微生物発電における酸素(O
2)を得るために空気に接触させる必要があることから、上澄液層11bの上面に一部が露出して配置される。さらに、上述したように汚泥槽10内における汚泥層11aと上澄液層11bとを2層で維持する。これらによって、アノード電極12とカソード電極13との間に電流(電子の流れ)が流れるように構成されている。以下に、電流の流れる原理について説明する。
【0023】
すなわち、汚泥層11aにおいて、アノード電極12には、電子供与微生物としてのジオバクター(Geobacter)の近縁種などが付着する。これによって、例えば下記(1)式などの反応が生じて、アノード電極12においては、汚泥が含む例えば炭水化物などの有機物から、二酸化炭素(CO
2)、水素イオン(H
+)および電子(e
−)が生成される。この際に生じた電子(e
−)はアノード電極12からカソード電極13に供給される。また、この電子の移動としての電流は、電流計5が計測し、その電流計測値を制御部4に供給する。
【0024】
他方、生成された二酸化炭素(CO
2)は外部に放出されるとともに、水素イオン(H
+)は上澄液層11bに移行する。上澄液層11b内においては、酸素(O
2)および水素イオン(H
+)がカソード電極13から電子(e
-)を受け取って、例えば下記(2)式などの反応によって、水(H
2O)となる。このように、カソード電極13からアノード電極12に電流が流れる。この際、カソード電極13には酸素の供給が必要になるため、上述したように必要に応じてカソード電極13の一部を上澄液層11bの外部に露出させる。
【0025】
C
6H
12O
6+6H
2O → 6CO
2+24H
++24e
− ……(1)
6O
2+24H
++24e
− → 12H
2O ……(2)
【0026】
以上のように構成された汚泥槽10においては、カソード電極13およびアノード電極12の間に電力を用いる各種の電気機械や電器製品を設置することにより、汚泥槽10の汚泥から電力(電流)を取り出して、各種の装置を駆動させることが可能になる。
【0027】
そして、本発明者は、上述した汚泥槽10と同様の構成の汚泥改質装置を用いて種々実験を行った。
図2は、この一実施形態による汚泥改質装置を示す略線図である。
【0028】
図2に示すように、この一実施形態による汚泥改質装置20は汚泥槽10と同様に、汚泥貯留槽21、その上部に設けられた上蓋22、アノード電極24、およびカソード電極25から構成されている。アノード電極24は、汚泥貯留槽21内に貯留された汚泥からなる汚泥層23aの内部に埋没するように配置されている。また、カソード電極25は、上澄液層23bの上面に一部が露出するように配置されている。
【0029】
また、汚泥改質装置20には、汚泥層23aにおける汚泥を適度にかき混ぜるための攪拌手段としての掻寄機21aが設けられている。なお、この掻寄機21aは他の攪拌手段としても良く、汚泥の投入と排出とによって流動させるようにしても良い。さらに、汚泥改質装置20には、カソード電極25とアノード電極24との間に流れる電流を計測するとともに、その計測値を逐次データとして格納可能なモニタリング部26が設けられている。
【0030】
(実験例1,2)
そして、本発明者は、上述のように構成された汚泥改質装置20を複数台用いて、汚泥集約処理施設における重力濃縮槽引抜汚泥といった実際の下水汚泥を使用して、微生物発電を行った(実験例1,2)。なお、発電量は、モニタリング部26が連続してモニタリングするとともに、環境条件の変化の把握のために、室温および上澄液層23bの水温を連続してモニタリングした。
図3は、それらの測定結果のグラフを示す。
図3から、汚泥改質装置20において、約7〜10日間の発電立ち上がり期間(馴致期間)を経た後、電流値が安定して増加し、微生物発電が安定してできることが確認された。すなわち、汚泥改質装置20のカソード電極25およびアノード電極24から微生物発電が生じるまでには、少なくとも7〜10日程度以上必要であることが確認された。なお、本発明者が上澄液層23bのpHをモニタリングしたところ、pH7以上において微生物発電が生じていることが確認され、pHの計測が微生物発電のモニタリングに適していることも判明した。
【0031】
(実験例3)
次に、この一実施形態による実験例3について説明する。実験例3においては、汚泥槽10における汚泥の投入および排出の流れと同様の状態を得るために、実験開始後において電流が低下し始めた26日目に、汚泥層23aの一部、例えば1/4程度の汚泥を取り出し、同量の新たな汚泥を投入した。この場合において、計測された電流値の経日変化の結果を
図4に示す。
図4から、汚泥の一部を入れ替えたタイミングで一部の汚泥を入れ替えたことにより、一時的に電流が低下するものの、数日間で元の発電レベルまで回復可能であることが確認された。すなわち、汚泥を間欠投入する重力濃縮槽などの汚泥槽10においては、高い発電レベルを維持できることが確認された。
【0032】
(実験例4、比較例)
次に、この一実施形態による実験例4による汚泥改質装置20、およびその汚泥の改質の効果を比較するための比較例について説明する。すなわち、実験例4としては、実験例1と同様の汚泥改質装置20を用い、アノード電極24とカソード電極25とをモニタリング部26を介して電気的に連結させることによって、電流を取り出し可能な構成とした(以下、閉回路)。一方比較例においては、実験例1と同様の汚泥改質装置20において、アノード電極24とカソード電極25とを電気的に連結させずに、電流を取り出さない構成とした(以下、開回路)。これによって、本発明者は、汚泥からの電流の取り出しの有無による汚泥の改質および減量の相違について評価を行った。なお、実験例4および比較例のいずれにおいても、実験期間は41日間とした。
【0033】
図5は、実験例4における微生物発電によって生じる電流の経時変化を示すグラフである。
図5から、実験例4においては、汚泥改質装置20を立ち上げから約12日後に微生物発電が開始され、実験例4の実験期間の終了時の41日目まで、電流が上昇していることが分かる。一方、比較例においては、開回路であることから電流は取り出されない。また、本発明者が、汚泥改質装置20における上澄液層23bを目視で確認したところ、実験例4および比較例のいずれにおいても日数の経過とともに上澄液が澄んでいくのが観察された。これにより、上澄液層23bが澄むのは、電流の取り出しによるためではないことが判明した。
【0034】
(汚泥削減効果)
また、
図6および
図7はそれぞれ、比較例および実験例4における、実験開始時と実験終了時とにおける汚泥の蒸発残留物(TS:Total Solids)濃度、および揮発性有機物(VS:Volatile Solids)濃度を示すグラフである。
図6から、開回路を採用した比較例において実験開始時と実験終了時とでは、TSは、約3600mg/Lから約3000mg/Lまで減少しているとともに、VSは、約2700mg/Lから約2000mg/Lまで減少していることが分かる。すなわち、TSの減少率が18.5%程度、VSの減少率が24.6%程度であることが確認された。これに対し、
図7から、閉回路を採用した実験例4において実験開始時と実験終了時とでは、TSは、約3900mg/Lから約2900mg/Lまで減少しているとともに、VSは、約2900mg/Lから約2100mg/Lまで減少していることが分かる。すなわち、TSの減少率が23.8%程度、VSの減少率が29.5%程度であることが確認された。
【0035】
そして、これらの実験例4と比較例とのTSの減少率を比較すると、実験例4においては、比較例に比してTSの減少率が1.3倍向上したことが確認された。同様に、実験例4と比較例とのVSの減少率を比較すると、実験例4においては、比較例に比してVSの減少率が1.2倍向上したことが確認された。したがって、実験例4のように、汚泥改質装置20において汚泥層23aから電流を取り出すことにより、汚泥をより減量できることが確認された。
【0036】
(脱水性効果)
また、本発明者は、脱水性の指標としてろ紙ろ過水量を測定することによって、汚泥の脱水性評価試験を行った。具体的には、クランプに取り付けた漏斗にろ紙を設置し、このろ紙に対して30mlの汚泥を流して5分間でろ過される水量(ろ過水量)を測定した。
図8は、この脱水性評価試験によって得られた、比較例および実験例4の実験前の汚泥と実験後の汚泥とにおけるろ過水量を示す。
【0037】
図8から、実験前の汚泥においてろ過水量が2.0〜2.2mlの平均2.1mlであるのに対し、開回路を採用した比較例においては、終了時のろ過水量が1.9〜2.2mlの平均2.0mlであり、ほとんど差は生じないことが分かる。一方、閉回路を採用した実験例4においては、終了時のろ過水量が2.4〜2.9mlの平均2.6mlであり、実験前および比較例に比して1.2〜1.3倍程度、ろ過水量が多くなることが分かる。すなわち、汚泥改質装置20において汚泥層23aからの電流を取り出すことによって、汚泥の脱水性が向上し、汚泥が改質されていることが確認された。
【0038】
(化学的酸素要求量削減効果)
また、本発明者は、汚泥改質装置20を汚泥槽に適用する場合に、汚泥槽の後段に設けられる嫌気槽、硝化槽、および脱窒槽などの反応槽に影響を及ぼすか否かについて検討を行った。ここでは、実験例4および比較例において、被処理水となる上澄液層23bの生物化学的酸素要求量(BOD)および二クロム酸カリウムによる化学的酸素要求量(COD
Cr)の減少率を測定した。
図9および
図10はそれぞれ、比較例および実験例4における実験前後の上澄液層23bのBODとCOD
Crとの変化を示すグラフである。
【0039】
図9から、開回路を採用した比較例においては、実験前の上澄液層23bのCOD
Crが1100mg/L程度であり、実験後の上澄液層23bのCOD
Crが280mg/L程度であることが分かる。すなわち、比較例においては、実験前後において、上澄液層23bのCOD
Crが75%程度減少していることが分かる。また、この比較例において、実験前の上澄液層23bのBODが730mg/L程度であり、実験後の上澄液層23bのBODが85mg/L程度であることが分かる。すなわち、比較例においては、実験前後で上澄液層23bのBODが88%程度減少していることが分かる。
【0040】
これに対し、
図10から、閉回路を採用した実験例4においては、実験前の上澄液層23bのCOD
Crが1100mg/L程度であり、実験後の上澄液層23bのCOD
Crが220mg/L程度であることが分かる。すなわち、実験例4においては、実験前後において、上澄液層23bのCOD
Crが80%程度減少していることが確認された。また、この実験例4において、実験前の上澄液層23bのBODが750mg/Lであり、実験後の上澄液層23bのBODが100mg/Lであることが分かる。すなわち、実験例4においては、実験前後で上澄液層23bのBODが87%減少していることが確認された。
【0041】
そして、比較例および実験例4におけるCOD
Crの減少率とBODの減少率とをそれぞれ比較すると、
図9および
図10から、BODの減少率については比較例と実験例4とにおいて同程度である一方、COD
Crの減少率については5ポイントの差があることが分かる。すなわち、実験例4において、汚泥層23aからの電流の取り出しによって、COD
Crの減少率が高くなることが分かる。これにより、実験例4のように汚泥層23aから電流の取り出しを行い、後段に反応槽などを設けた場合であっても、微生物発電による反応槽への影響はほとんどないことが確認された。
【0042】
以上説明した一実施形態による実験例4によれば、比較例に比して、TSの除去率およびVSの除去率を向上させることができ、ろ過量が増加していることから脱水性能を向上でき、さらにCOD
Crの減少率も向上できることが分かる。したがって、本発明の一実施形態による汚泥改質装置によれば、汚泥から電流を取り出すことによって、汚泥の削減と改質を行うことが可能であることが確認された。
【0043】
(汚泥改質方法)
次に、以上のようにして得られた実験結果に基づいた、上述した一実施形態による汚泥改質装置としての汚泥処理システム1による汚泥改質方法について説明する。
図11は、この一実施形態による汚泥改質方法を示すフローチャートであり、MFC(Microbial Fuel Cell)の原理に基づいて制御部4が汚泥処理システム1を制御する制御方法を示す。また、
図12は、この汚泥処理システム1からの発電量における、処理経過時間依存性および汚泥の一部を入れ替えた際の電流変動の概略を示すグラフである。
【0044】
まず、
図1に示す汚泥処理システム1においては、上述したように、汚泥槽10において汚泥層11aおよび上澄液層11bを形成した状態で発電を行って所定時間待機する。これにより、汚泥槽10における微生物による発電を安定化させる(
図11中、ステップST1)。
【0045】
次に、制御部4は、電流計5から供給される電流の計測値を常時連続的にモニタリングする(
図11中、ステップST2)。この制御部4によるモニタリングにおいては、例えば
図12に示すような経過時間による電流の増加が観測される。
【0046】
他方、汚泥槽10内においては、制御部4がモータ15bを制御することにより掻寄機15を緩やかに回転させ、汚泥層11a内の汚泥を撹拌する(
図11中、ステップST3)。なお、掻寄機15は、間欠的に回転させてもよい。このとき、制御部4は、汚泥槽11aと上澄液層11bとの2層を維持するように掻寄機15を制御して、後述するスウィングミキサ16による汚泥層11aの撹拌よりも緩やかに混練し掻き混ぜる。この掻寄機15による汚泥層11aの掻き混ぜにより、汚泥層11a中の種々の汚泥が順次アノード電極12と継続的かつ連続的に接触することになる。これにより、汚泥槽10における発電中において、汚泥層11a中の汚泥を均質化させることができるとともに、汚泥の分解に伴って発生するガスを脱気させることもできるため、汚泥処理システム1を安定化することができる。
【0047】
そして、
図12に示すように、汚泥槽10において電流計5により計測される電流値が増加する。制御部4は、
図12に示すような、経過時間により電流が変化する状態の電流値を経過時間で積分することによって累積発電量を算出する(
図11中、ステップST4)。
【0048】
次に、
図1に示す制御部4は、算出した累積発電量の値が、あらかじめ設定された所定電力量未満であるか否かを判断する(
図11中、ステップST5)。制御部4は、累積発電量の値があらかじめ設定された所定電力量以上であると判断した場合(ステップST5:No)、ステップST6に移行する。他方、ステップST5において、制御部4が累積発電量の値があらかじめ設定された所定電力量未満であると判断した場合(ステップST5:Yes)、ステップST2に移行して、累積発電量の値があらかじめ設定された所定電力量以上になるまで、ステップST2〜4の処理を繰り返す。なお、この累積発電量の所定値は、
図12に示す斜線で示す部分の面積に相当する。
【0049】
そして、
図11に示すステップST6において、制御部4は、汚泥排出弁14を制御して開動作をさせることにより、汚泥槽10の下部から汚泥層11aを構成する汚泥の一部、具体的には例えば汚泥層11aの1/4程度の汚泥を濃縮汚泥として引き抜いて排出する。なお、排出される濃縮汚泥の量についての詳細は後述する。この排出された濃縮汚泥は後段の脱水装置2に供給されて脱水される。
【0050】
次に、制御部4が汚泥排出弁14を制御して閉動作をさせた後、汚泥槽10の上部から投入管10aを通じて、汚泥層11aに汚泥を投入する(
図11中、ステップST7)。この時に投入する汚泥の投入量は、濃縮汚泥として排出された汚泥の排出量と略同量とする。汚泥が投入された後、制御部4は、モータ16bを制御してスウィングミキサ16を動作させる。これにより、汚泥の投入当初は、汚泥槽11aと上澄液層11bとの界面を破壊することなく2層の構造を維持可能な程度に緩やかに撹拌する。そして、新たに投入された汚泥と、すでに汚泥槽10の底部に沈殿している汚泥とが混合され、汚泥層11aにおける汚泥の均質化が実行される。これにより、アノード電極12の表面に接して発電に寄与する微生物を含んだ汚泥が均質化される。
【0051】
そして、以上の濃縮汚泥の一部の排出と新たな汚泥の投入とによって、汚泥の一部入れ替えが実行されると、
図12に示すように発電量が急激に低下する。その後は、時間の経過に伴って微生物の存在によって発生する電流が増加する。このような汚泥の一部入れ替えによって、汚泥槽10の汚泥層11aにおいて、微生物による発電が継続される。
【0052】
ステップST8において汚泥層11aにおける汚泥の均質化が終了した後、制御部4による制御はステップST2に復帰し、ステップST2〜ST8の処理を順次繰り返す。以上により、本発明の一実施形態による汚泥改質処理が実行される。
【0053】
以上の汚泥改質処理において、汚泥の一部入れ換えを実行した後、次に汚泥の一部入れ替えを実行するまでの累積発電量の所定値は次のようにして決定される。すなわち、まず上述した実験等によって、汚泥処理システム1ごとや汚泥の種類ごとに、あらかじめ汚泥改質係数を算出しておく。具体的には、上述したろ紙ろ過量の改善量(改質量)(mL)と、その改質量に対応した累積発電量(mA・日)を、汚泥処理システム1ごとや汚泥の種類ごとに、あらかじめ計測する。
【0054】
そして、以下の(3)式から、汚泥処理システム1ごとや汚泥の種類ごとに汚泥改質係数を算出して、制御部4の所定の記録領域に格納する。
汚泥改質係数=ろ紙ろ過量の改善量(改質量)(mL)/累積発電量(mA・日)…(3)
なお、この一実施形態において処理対象となる汚泥において、汚泥改質係数は例えば0.08mL/mA・日であった。
【0055】
次に、汚泥槽10を含む汚泥処理システム1、および脱水装置2において、使用電力量の合計が最小になるように改質量(以下、最適改質量)を算出する。そして、上述のように算出した汚泥改質係数から(3)式を変形した次の(4)式に基づいて、制御部4により汚泥の一部入れ替えのトリガーとなる累積発電量の所定値が算出される。
累積発電量の所定値=最適改質量(mL)/汚泥改質係数(mL/mA・日)…(4)
【0056】
そして、
図12に示す汚泥における微生物による発電量の経過時間依存性に基づいて、上述のように算出した累積発電量の所定値ごとに、制御部4が汚泥排出弁14および投入する汚泥の量を制御することにより、汚泥の一部入れ替えを制御する。
【0057】
以上説明した一実施形態による汚泥処理システムおよび汚泥改質方法によれば、汚泥層10と後段の脱水装置2との使用電力量等を考慮して、使用電力量等が最小になるように最適改質量を算出し、この最適改質量に基づいて累積発電量の所定値を算出し、汚泥処理システム1の電流計5の計測値を経過時間で積分した値が、この累積発電量の所定値になるごとに汚泥の一部入れ替えを行っていることにより、後段の脱水装置2や焼却炉3等の設備の効率化も考慮した上で、汚泥の改質を効率良く行うことが可能になる。
【0058】
以上、本発明の一実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の一実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の一実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
【0059】
上述した累積発電流の所定値の決定方法においては、汚泥処理システム1および脱水装置2の使用電力量の合計が最小になるように改質量を算出しているが、必ずしも使用電力量に限定されるものではなく、脱水装置2において使用する凝集剤の添加量や、使用電力量によるコストおよび凝集剤の添加量によるコストを合計した総コストが最小になるように改質量を算出しても良く、排出する二酸化炭素の総量が最小になるように改質量を算出しても良い。また、汚泥処理システム1および脱水装置2のみならず、さらに焼却炉3の使用電力量、コスト、または排出される二酸化炭素量を、改質量の算出に算入させることも可能である。また、焼却炉3よりさらに後段の設備の使用電力量、コスト、または排出される二酸化炭素量なども改質量の算出に算入させてもよい。