【実施例】
【0017】
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10の構成を説明する骨子図である。この車両用駆動装置10は横置き型自動変速機であって、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に好適に採用されるものであり、走行用の駆動源としてエンジン12を備えている。内燃機関にて構成されているエンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車装置20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。
【0018】
トルクコンバータ14は、エンジン12と駆動輪24との間の動力伝達経路中に設けられており、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14t、ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間に介挿されて一方向クラッチを介して非回転部材に連結されているステータ翼車14sを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ26が設けられており、油圧制御回路70(
図2、
図3参照)内のロックアップリレーバルブなどによって係合側油圧室および開放側油圧室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合(締結)または開放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体回転させられる。このように、ロックアップクラッチ26は、トルクコンバータ14の入出力間(ポンプ翼車14pとタービン翼車14tの間)を選択的に直結する。また、ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合開放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。また、ポンプ翼車14は、クランク軸を介してエンジン12に連結されていることから、オイルポンプ28は、エンジン12の回転に伴って駆動される。
【0019】
前後進切換装置16は、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1は断続装置に相当するもので、何れも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0020】
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに後進用ブレーキB1が開放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられるとともに前進用クラッチC1が開放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1および後進用ブレーキB1が共に開放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
【0021】
無段変速機18は、入力軸36に設けられた入力側部材である有効径が可変の駆動側プーリ(プライマリプーリ、プライマリシーブ)42と、出力軸44に設けられた出力側部材である有効径が可変の従動側プーリ(セカンダリプーリ、セカンダリシーブ)46と、それ等の可変プーリ42、46に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
【0022】
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42bおよび46bと、それらの間のV溝幅を変更する推力を付与する油圧アクチュエータとしての駆動側油圧アクチュエータ(プライマリプーリ側油圧アクチュエータ)42cおよび従動側油圧アクチュエータ(セカンダリプーリ側油圧アクチュエータ)46cとを備えて構成されており、駆動側油圧アクチュエータ42cへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路70によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸回転速度Nin/出力軸回転速度Nout)が連続的に変化させられる。また、従動側油圧アクチュエータ46cの油圧であるベルト挟圧Pdが油圧制御回路70によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないように制御される。
【0023】
図2および
図3は、車両用駆動装置10においてベルト式無段変速機18の変速制御やロックアップクラッチ26のロックアップ制御を実行する油圧制御回路70において、特に本発明の要部であるロックアップクラッチ26を制御する油圧制御装置の構成を示している。なお、
図2は、後述するロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がロックアップクラッチ26の開放状態であるオフ位置に切り替えられている状態を示しており、
図3はロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がロックアップクラッチ26の係合状態であるオン位置に切り替えられている状態を示している。
【0024】
油圧制御回路70は、ロックアップクラッチ26を係合状態および開放状態の何れか一方に切り替えるロックアップリレーバルブ72と、ロックアップクラッチ26が係合状態にある場合にロックアップクラッチ26の係合圧を制御するロックアップコントロールバルブ74と、ロックアップリレーバルブ72の切替制御およびロックアップコントロールバルブ74から出力される出力圧の制御を実施するリニアソレノイドバルブ76(ソレノイドバルブ)と、上記ロックリレーバルブ72、ロックアップコントロールバルブ74、およびリニアソレノイドバルブ76等に供給される油圧を発生させる油圧発生機構78とを、含んで構成されている。
【0025】
油圧発生機構78は、オイルパン80に環流した作動油を吸引して圧送するためにエンジン12によって駆動されるオイルポンプ28と、オイルポンプ28から圧送された作動油をライン圧PLに調圧するリリーフ式の第1調圧弁84(プライマリレギュレータバルブ)と、第1調圧弁84から調圧のために排出(リリーフ)された作動油を第2ライン圧Psecに調圧するリリーフ式の第2調圧弁90(セカンダリレギュレータバルブ)と、ライン圧PLを元圧として予め設定されている所定のモジュレータ圧Pmを発生させる減圧弁である第3調圧弁92(モジュレータバルブ)とを、備えている。第1調圧弁84は、リニアソレノイドバルブ86から出力される制御圧P
SLTに基づいて制御され、車両の走行状態に応じたライン圧PLを発生させる。なお、ライン圧PLは、例えばベルト式無段変速機18の変速制御回路等(
図4参照)に供給される。
【0026】
ロックアップクラッチ26は、係合油路96を介して作動油が供給される係合側油圧室98内の油圧Ponと開放油路100を介して作動油が供給される開放側油圧室102内の油圧Poffとの差圧ΔP(Pon−Poff)によりフロントカバー104に摩擦係合させられる油圧式摩擦係合クラッチである。そして、トルクコンバータ14の運転条件としては、たとえば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ26が開放状態である所謂ロックアップオフ、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ26が半係合状態である所謂スリップ状態、および差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ26が完全に係合された状態である所謂ロックアップオンの3条件に大別される。なお、これら開放側油圧室102および係合側油圧室98には、オイルポンプ28から吐出される作動油の油圧を元圧として供給される。
【0027】
ロックアップリレーバルブ72は、ロックアップクラッチ26を係合状態および開放状態の一方に切り換えるためものであり、開放側油圧室102と連通する第1開放ポート106および第2開放ポート108、係合側油圧室98と連通する係合ポート110、第2ライン圧Psecが供給される第1入力ポート112および第2入力ポート114、ロックアップクラッチ26の開放時に係合側油圧室98と連通されると共に、係合時に第2調圧弁90の調圧のために排出(リリーフ)された作動油が出力される油路115と連通される潤滑ポート116、ロックアップクラッチ26の係合時に開放側油圧室102と連通する迂回ポート118、ロックアップリレーバルブ72の油路をロックアップクラッチ26を係合状態とするオン位置または開放状態とするオフ位置に切り替えるためのスプール弁子120、そのスプール弁子120に
図2に示すオフ位置側に向かう方向の推力を付与するスプリング122、およびスプール弁子120の端部にリニアソレノイドバルブ76からの信号圧P
SLU作用させてスプール弁子120を
図3に示すオン位置側へ向かう推力を付与するためにその信号圧P
SLUを受け入れる油室124を備えている。なお、潤滑ポート116は、図示しない潤滑油路に接続され、潤滑ポート116から排出される作動油は前後進切換装置16、ベルト式無段変速機18、減速歯車装置20、差動歯車装置22等を構成する各機械要素の潤滑油として供給される。
【0028】
また、ロックアップリレーバルブ72は、排出用のドレンポート128と、受圧面積の異なる切替油室129と連通される閉じられた系である切替ポート126とを、備えている。切替ポート126は、スプール弁子120がオフ位置側に位置された状態(
図2)では切替油室129を介してドレンポート128と連通される一方、スプール弁子120がオン位置側に位置された状態(
図3)では切替油室129を介して第2入力ポート114と連通される。ここで、切替ポート126と連通される切替油室129は、受圧面積の異なるランドによって仕切られることで受圧面積差を有している。そして、切替油室129内に第2入力ポート114から第2ライン圧Psecが供給されると、その作動油の油圧および切替油室129の受圧面積差に基づいてスプール弁子120をオン位置側に付勢させる推力が付与される。例えば、スプール弁子120がオフ位置側に切り替えられて切替ポート126とドレンポート128とが連通される場合、ドレンポート128から切替油室129の作動油が排出されるため、スプール弁子120には推力が発生しない。一方、切替ポート126と第2入力ポート114とが切替油室129を介して連通されると、第2入力ポート114から切替油室129に供給される第2ライン圧Psecとその切替油室129の受圧面積差(受圧面積差ΔA)に基づいて、スプール弁子120をオン位置側に付勢させる推力が発生する。
【0029】
具体的には、切替ポート126内に形成される切替油室129は、断面直径がφAのランド120aと、断面直径がφBのランド120bとで仕切られることで構成されている。またランド120aの断面直径φAは、ランド120bの断面直径φBよりも大きく形成されていることから、受圧面積はランド120aの方が大きくなる。したがって、所定の受圧面積差ΔAが形成されているため、切替ポート126と第2入力ポート114とが連通されると、切替油室129に第2入力ポート114から第2ライン圧Psecが供給されるので、上記受圧面積差ΔAと第2ライン圧Psecとの積で表される推力が付与され、その推力によってスプール弁子120がオン位置側に向かう方向に付勢される。
【0030】
ロックアップコントロールバルブ74は、そのバルブの状態を切り換えるスプール弁子130と、そのスプール弁子130をスリップ位置側(SLIP)へ向かう推力を付与するスプリング132と、スプール弁子130をスリップ位置側へ向かって付勢するためにトルクコンバータ14の係合側油圧室98内の油圧Ponを受け入れる油室134と、スプール弁子130を完全係合位置側(ON)へ付勢するためにトルクコンバータ14の開放側油圧室102内の油圧Poffを受け入れる油室136と、スプール弁子130をオン位置側に向かって付勢するためにリニアソレノイドバルブ76から出力される信号圧P
SLUを受け入れる油室138と、第2調圧弁90によって調圧された第2ライン圧Psecが供給される入力ポート140と、スプール弁子130がスリップ位置側に位置された際に入力ポート140と連通する制御ポート142とを、備えている。なお、
図2および
図3において、中心線より左側がスリップ位置側(SLIP)にスプール弁子130が位置された状態を示しており、中心線より右側が完全係合位置側(ON)にスプール弁子130が位置された状態を示している。
【0031】
リニアソレノイドバルブ76は、電子制御装置からの指令に基づいて、ロックアップクラッチ26の係合時にそのロックアップクラッチ26の係合圧を制御するための信号圧P
SLUを出力する。リニアソレノイドバルブ76は、第3調圧弁92で発生させられるモジュレータ圧Pmを元圧とし、それを減圧して信号圧P
SLUを発生させる。また、リニアソレノイドバルブ76は、信号圧P
SLUをロックアップリレーバルブ72の切替信号圧としてロックアップリレーバルブ72の油室124に作用させる。そして、油室124に信号圧P
SLUが所定の切替圧以上となると、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120は、オフ位置側(
図2)からスプリング122のオフ位置側への付勢力に抗してオン位置側(
図3)に移動させられる。このとき、第1入力ポート112に供給された第2ライン圧Psecが係合ポート110から係合油路96を通って係合側油圧室98に供給される。この係合側油圧室98に供給される第2ライン圧Psecが油圧Ponとなる。すなわち、ロックアップクラッチ26の締結が開始されるときは係合側油圧室98に油圧が供給される。同時に、開放側油圧室102は、開放油路100を通って第1開放ポート106から迂回ポート118を経てロックアップコントロールバルブ74の制御ポート142に連通される。そして、係合側油圧室98内の油圧Ponと開放側油圧室102内の油圧Poffとの差圧ΔP(=Pon−Poff)が信号圧P
SLUの増加に伴って大きくなるようにロックアップコントールバルブ74によって調節されてロックアップクラッチ26の作動状態がスリップ状態乃至ロックアップオン(完全ロックアップ状態)の範囲で調整される。
【0032】
具体的には、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオン位置側に切り替えられているとき、すなわち信号圧P
SLUが前記所定の切替圧より高くされてロックアップクラッチ26が係合状態に切り替えられているとき、ロックアップコントロールバルブ74において、信号圧P
SLUの出力が低く、スプリング132の付勢力によってスプール弁子130がスリップ位置(SLIP)側とされると、入力ポート140に供給された第2ライン圧Psecが制御ポート142から迂回ポート118を経て、第1開放ポート106から開放油路100を通り開放側油圧室102に供給される。この状態において、差圧ΔP(=Pon−Poff)が前記切替圧から最大値までの範囲の信号圧P
SLUの大きさに応じてリニアソレノイドバルブ76によって制御されて制御ポート142が、入力ポート140ないしドレンポート144と連通することで、開放側油圧室102が制御され、ロックアップクラッチ26のスリップ状態が制御される。
【0033】
また、ロックアップリレーバルブ72のスプール弁子120がオン位置側に切り替えられているとき、ロックアップコントロールバルブ74において、スプール弁子130を完全係合位置(ON)へ移動させる最大値の信号圧P
SLUが油室138へ供給されると、入力ポート140は遮断されるため、開放側油圧室102へ第2ライン圧Psecが供給されず、開放側油圧室102の作動油はドレンポート144から排出される。これにより、差圧ΔP(=Pon−Poff)が最大とされてロックアップクラッチ26が完全係合状態となる。
【0034】
一方、ロックアップリレーバルブ72において、油室124に供給される信号圧P
SLUが前記所定の切替圧よりも低くされてスプリング122の付勢力によってスプール弁子120がオフ位置側(
図2)へ移動されると、第1入力ポート112に供給された第2ライン圧Psecが第2開放ポート108から開放油路100を通って開放側油圧室102へ供給される。そして、作動油は、係合側油圧室98を経て係合油路96を通り、係合ポート110へ供給されて潤滑ポート116から図示しない潤滑油路に供給される。これにより、ロックアップクラッチ26がロックアップオフとされる。すなわち、ロックアップクラッチ26の開放時(ロックアップオフ時)は、開放側油圧室102に油圧が供給される。
【0035】
図4は、油圧制御回路70のうち、無段変速機18の変速制御に関する油圧回路図を示している。
図4に示すように、プライマリ圧Pinを調圧するプライマリ圧コントロールバルブ150、セカンダリ圧Pdを調圧するセカンダリ圧コントロールバルブ152、リニアソレノイド弁SLP、リニアソレノイド弁SLS等を備えている。なお、
図4のライン圧PLおよびモジュレータPmは、
図2、3に示す第1調圧弁84および第3調圧弁92によって調圧される。
【0036】
プライマリ圧コントロールバルブ150は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート150iを開閉してライン油圧PLを入力ポート150iから出力ポート150tを経てプライマリプーリ42へ供給可能にするスプール弁子150aと、そのスプール弁子150aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング150bと、そのスプリング150bを収容し且つスプール弁子150aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧P
SLPを受け入れる油室150cと、スプール弁子150aに閉弁方向の推力を付与する為に出力ポート150tから出力されたライン油圧PLを受け入れるフィードバック油室150dと、スプール弁子150aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧Pmを受け入れる油室150eとを備えている。
【0037】
このように構成されたプライマリ圧コントロールバルブ150は、例えば制御油圧P
SLPをパイロット圧としてライン油圧PLを調圧制御してプライマリプーリ42のプライマリ側油圧シリンダ42cに供給する。これにより、そのプライマリ側油圧シリンダ42cに供給されるプライマリ圧Pinが制御される。例えば、プライマリ側油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧P
SLPが増大すると、プライマリ圧コントロールバルブ150のスプール弁子150aが
図4の上側に移動する。これにより、プライマリ側油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが増大する。一方、プライマリ側油圧シリンダ42cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLPが出力する制御油圧P
SLPが低下すると、プライマリ圧コントロールバルブ150のスプール弁子150aが
図4の下側に移動する。これにより、プライマリ側油圧シリンダ42cへのプライマリ圧Pinが低下する。
【0038】
また、プライマリ側油圧シリンダ42cとプライマリ圧コントロールバルブ150との間の油路154には、フェールセーフ等を目的として、オリフィス156が設けられている。このオリフィス156が設けられていることにより、例えばリニアソレノイド弁SLPが故障してもプライマリ側油圧シリンダ42cの内圧が急減しないようにされている。これにより、例えばリニアソレノイド弁SLPの故障に起因した車両の急減速が抑制される。
【0039】
セカンダリ圧コントロールバルブ152は、軸方向へ移動可能に設けられることにより入力ポート152iを開閉してライン油圧PLを入力ポート152iから出力ポート152tを経てセカンダリプーリ46へセカンダリ圧Pdとして供給可能にするスプール弁子152aと、そのスプール弁子152aを開弁方向へ付勢する付勢手段としてのスプリング152bと、そのスプリング152bを収容し且つスプール弁子152aに開弁方向の推力を付与するために制御油圧P
SLSを受け入れる油室152cと、スプール弁子152aに閉弁方向の推力を付与するために出力ポート152tから出力されたセカンダリ圧Pdを受け入れるフィードバック油室152dと、スプール弁子152aに閉弁方向の推力を付与するためにモジュレータ油圧Pmを受け入れる油室152eとを備えている。
【0040】
このように構成されたセカンダリ圧コントロールバルブ152は、例えば制御油圧P
SLSをパイロット圧としてライン油圧PLを調圧制御してセカンダリプーリ46のセカンダリ側油圧シリンダ46cに供給する。これにより、そのセカンダリ側油圧シリンダ46cに供給されるセカンダリ圧Pdが制御される。例えば、セカンダリ側油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧P
SLSが増大すると、セカンダリ圧コントロールバルブ152のスプール弁子152aが
図4の上側に移動する。これにより、セカンダリ側油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Pdが増大する。一方で、セカンダリ側油圧シリンダ46cに所定の油圧が供給されている状態から、リニアソレノイド弁SLSが出力する制御油圧P
SLSが低下すると、セカンダリ圧コントロールバルブ152のスプール弁子152aが
図4の下側に移動する。これにより、セカンダリ側油圧シリンダ46cへのセカンダリ圧Pdが低下する。
【0041】
また、セカンダリ側油圧シリンダ46cとセカンダリ圧コントロールバルブ152との間の油路158には、フェールセーフ等を目的として、オリフィス160が設けられている。このオリフィス160が設けられていることにより、例えばリニアソレノイド弁SLSが故障してもセカンダリ側油圧シリンダ46cの内圧が急減しないようにされている。これにより、例えばリニアソレノイド弁SLSの故障に起因したベルト滑りが防止される。
【0042】
このように構成された油圧制御回路70において、例えばリニアソレノイド弁SLPにより調圧されるプライマリ圧Pinおよびリニアソレノイド弁SLSにより調圧されるセカンダリ圧Pdは、ベルト滑りを発生させず且つ不必要に大きくならないベルト挟圧力を一対の可変プーリ42、46に発生させるように制御される。
【0043】
上記のように構成される車両用駆動装置10において、車両停止状態からの発進時にロックアップクラッチ26をスリップ係合させることでエンジン12の吹き上がりを滑らかに燃費を向上させる、所謂フレックスロックアップスタート制御(以下、フレックススタート制御)が実行される。ここで、作動油が高油温状態にあるときや低粘度特性を有する特定の作動油を使用した場合、油圧制御回路70からの漏れ量も増加する。従って、電子制御装置から出力される指示圧に対して実圧が低下することとなる。
【0044】
図5に、
フレックススタート制御実行時におけるエンジン回転速度Neと本実施例の油圧制御回路70のロックアップクラッチ26の係合側油圧室98内の油圧Pon(係合油圧Pon)と開放側油圧室102内の油圧Poff(開放油圧Poff)の特性を示す。
図5において、実線が通常の作動油を使用した場合の係合油圧Ponおよび開放油圧Poffを示しており、破線が高油温状態もしくは低粘度特性を有する作動油を使用した場合の係合油圧Ponを示し、一点鎖線が高油温状態もしくは低粘度特性を有する作動油を使用した場合の開放油圧Poffを示している。
図5に示すように、
フレックススタート制御が開始されると、エンジン回転速度Neが徐々に上昇し、それに伴ってオイルポンプから吐出される作動油量が増加することにより、ライン圧PLが上昇し、係合油圧Pon、開放油圧Poffも伴って上昇する。油圧制御回路70にあっては、高油温状態や低粘度特性を有する作動油を使用した場合、開放油圧Poffの低下が係合油圧Ponの低下に比べて大きくなることが確認された。これより、前記フレックススタート制御が開始されると、開放油圧Poffが低下した状態からロックアップクラッチ26が係合されるので、ロックアップクラッチ26が急係合しやすくなり、それに起因してショックが発生する可能性があった。
【0045】
そこで、本実施例の電子制御装置200(
図6参照)は、ロックアップクラッチ26のフレックススタート制御を開始する条件が成立した場合において、所定の条件が成立したことを条件にフレックススタート制御を開始することで、フレックスロックアップ制御の開始時点における係合油圧Ponおよび開放油圧Poffを確保してロックアップクラッチの急係合を防止する。以下、フレックススタート制御における電子制御装置200の具体的な制御作動について説明する。
【0046】
図6は、上記油圧制御回路70やエンジン12等を制御する電子制御装置200において、主にフレックススタート制御に係る制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。車両用駆動装置10には、例えば無段変速機18の変速制御などに関連する車両用無段変速機の制御装置を含む電子制御装置200が備えられている。電子制御装置200は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両用駆動装置10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置200は、エンジン12の出力制御、無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御、ロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、無段変速機18及びロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
【0047】
電子制御装置200には、エンジン回転速度センサ202により検出されたクランク軸の回転角度(位置)Acr及びエンジン12の回転速度(エンジン回転速度)Neを表す信号、タービン回転速度センサ204により検出されたタービン軸34の回転速度(タービン回転速度)Ntを表す信号、入力軸回転速度センサ206により検出された無段変速機18の入力軸36(プライマリプーリ42)の回転速度である入力軸回転速度Nin(プライマリ回転速度Nin)を表す信号、出力軸回転速度センサ208により検出された車速Vに対応する無段変速機18の出力軸44(セカンダリプーリ46)の回転速度である出力軸回転速度Nout(セカンダリ回転速度Nout)を表す信号、スロットルセンサ210により検出された電子スロットル弁のスロットル弁開度θthを表す信号、冷却水温センサ212により検出されたエンジン12の冷却水温Twを表す信号、CVT油温センサ214により検出された無段変速機18等の作動油の作動油温Toilを表す信号、アクセル開度センサ216により検出された運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、フットブレーキスイッチ218により検出された常用ブレーキであるフットブレーキが操作された状態を示すブレーキオンBonを表す信号、レバーポジションセンサ220により検出されたシフトレバーのレバーポジション(操作位置)Pshを表す信号、セカンダリ圧センサ222より検出されたセカンダリプーリ46への供給油圧であるセカンダリ圧Pdを表す信号、バッテリセンサ224により検出されたバッテリ温度THbatやバッテリ入出力電流(バッテリ充放電電流)Ibatやバッテリ電圧Vbatを表す信号等が、それぞれ供給される。なお、電子制御装置200は、例えば上記バッテリ温度THbat、バッテリ充放電電流Ibat、及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ(蓄電装置)の充電状態(充電容量)SOCを逐次算出する。
【0048】
また、電子制御装置200からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Seがエンジン出力制御部226に供給される。具体的には、電子スロットル弁のスロットル弁開度θthを制御するためのスロットルアクチュエータを駆動するスロットル弁開度信号や燃料噴射装置から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号St、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号Sb、ロックアップクラッチ26の係合、開放、スリップ量を制御させる為のロックアップ制御指令信号Sl/u、例えば油圧制御回路100内の前記ロックアップリレーバルブの弁位置を切り換える後述するソレノイドバルブを駆動するための指令信号やロックアップクラッチ26の係合力を調節するリニアソレノイドバルブを駆動するための指令信号、ニュートラル制御時において前進用クラッチC1または後進用ブレーキB1を開放乃至半係合させるための信号、ガレージシフト時において前進用クラッチC1または後進用ブレーキB1の係合圧を調整するための信号などが油圧制御回路70へ出力される。
【0049】
電子制御装置200は、フレックスロックアップ制御部250(フレックスロックアップ制御手段)、フレックススタート許可判定部252(フレックススタート開始判定手段)、限界エンジン回転速度決定部256(限界エンジン回転速度決定手段)、所定時間決定部258(所定時間決定手段)、およびフレックス開始条件成立判定部260(フレックス開始条件成立判定手段)を含んで構成されている。
【0050】
フレックスロックアップ制御部250は、車両停止状態からの車両発進に際してロックアップクラッチ26をスリップ係合させるフレックススタート制御を実行する。すなわち、予め定められた所定のフレックススタート制御の開始条件が成立した場合に、ロックアップクラッチ26をスリップ係合状態としてエンジン12のエンジントルクTe(出力トルク)の一部をそのロックアップクラッチ26を介して前後進切替装置16側へ入力させることにより、トルクコンバータ14内の流体およびロックアップクラッチ26を介して発進時の動力を伝達させる車両発進制御を実行する。このフレックススタート制御を実行することで、エンジン回転速度Neの不要な吹き上がりが抑制されて燃費が向上する。
【0051】
このフレックスロックアップ制御部250を実行するか否かは、フレックススタート許可判定部252によって判定される。フレックススタート許可判定部252は、例えば車両停止状態においてフットブレーキの踏み込みが解除されるとともに、アクセル開度Accが20%を超えることを検出すると、フレックススタート制御の実行が許可されたものと判定する。
【0052】
ここで、本実施例の油圧制御回路70にあっては、フレックススタート制御の際に、セカンダリ圧コントロールバルブ152において、予め入力ポート152iと出力ポート152tとが連通されるように構成されている。従って、ライン圧PLがセカンダリ圧コントロールバルブ152を介して従動側油圧アクチュエータ46cに供給される。これより、フレックススタート制御の際に、セカンダリ圧コントロールバルブ152と従動側油圧アクチュエータ46cとの間を接続する油路158がオイルポンプ28と連通するに伴い、その油路158にライン圧PLが出力される。従って、フレックススタート制御の際には、油路158に設けられているセカンダリ圧センサ222によってライン圧PLが検出される。なお、油路158が、本発明のオイルポンプと連通する油路に対応している。
【0053】
限界エンジン回転速度決定部256は、ライン圧PLと作動油温Toilとに基づいてクラッキング限界エンジン回転速度Necraを決定する。限界エンジン回転速度決定部256は、例えば、予め求められて記憶されているライン圧PLと作動油の油温Toil(作動油温Toil)からなる2次元マップからライン圧PLおよび作動油温Toilに基づいてクラッキング限界エンジン回転速度Necra(以下、限界エンジン回転速度Necra)を決定する。この限界エンジン回転速度Necraは、フレックススタート制御においてロックアップクラッチ26を係合した際に発生するショックを運転者が感じない程度に小さくなるエンジン回転速度Neの閾値(クラッキングポイント)に設定されており、予め実験や解析によって求められている。例えば、ライン圧PLおよび作動油温Toilの条件を変更し、その条件下でフレックススタート制御を発生した際に発生するショックが所定値以下となるエンジン回転速度Neを求める。
具体的には、図5に示すように高油温状態もしくは低粘度特性を有する作動油を使用した場合は、エンジン回転速度Neに伴って上昇する開放油圧Poffは低下した状態となり、ショックが発生しない程度に開放油圧Poffを確保するためには、作動油温Toilが低いときに比べて、より高いエンジン回転速度Neでロックアップクラッチを係合する必要がある。また、同様にライン圧PLが高くなるほど漏れ量は増加することから、ショックを抑制するためには、エンジン回転速度Neがより高いときにロックアップクラッチを係合する必要がある。なお、前記ショックは、例えば所定の回転要素の回転速度変化量などから判断される。
【0054】
図7は、前記ライン圧PLおよび作動油の作動油温Toilと限界エンジン回転速度Necraとの関係を示している。
図7において、横軸がライン圧PLに対応し、縦軸が限界エンジン回転速度Necraに対応している。また、
図7の3本の実線は、作動油温Toilの変化に対応しており、上側の実線ほど作動油温Toilが高くなっている。
図7に示すように、作動油温Toilが高くなるほど限界エンジン回転速度Necraが高くなっている。また、ライン圧PLが高くなるほど限界エンジン回転速度Necraが高くなっている。これは、作動油温Toilが高くなるほど作動油の粘度が低下して油圧制御回路70からの漏れ量が増加し、また、ライン圧PLが高くなるほど油圧制御回路70からの作動油の漏れ量が増加するためである。すなわち、油圧制御回路70にあっては、漏れ量が増加すると作動油量Qが不足して開放側油圧室102の開放油室Poffが低下する傾向にあり、この漏れ量を補償するためオイルポンプ28の吐出量と比例関係にある限界エンジン回転速度Necraが増加する。
【0055】
所定時間決定部258は、作動油の作動油温Toilに基づいて所定時間Taを決定する。所定時間決定部258は、例えば予め求められて記憶されている作動油の作動油温Toilおよび所定時間Taからなるマップに基づいて所定時間Taを決定する。この所定時間Taは、エンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上となった時点を基点とする待機時間の規定値であり、作動油量Qを確実に確保するために設けられている。
図8は、作動油温Toilおよび所定時間Taの関係を示している。
図8に示すように、作動油温Toilが増加するに従って、所定時間Taが長くなっている。作動油温Toilが高くなるほど作動油の粘度が低下して油圧制御回路70からの作動油の漏れ量が増加するためである。所定時間決定部258は、
図8に示す関係や予め求められているマップ等から実際の作動油温Toilに基づいて所定時間Taを決定する。
【0056】
フレックス開始条件成立判定部260は、限界エンジン回転速度決定部256によって決定された限界エンジン回転速度Necra、および所定時間決定部258によって決定された所定時間Taから実際のエンジン回転速度Neおよび経過時間Tに基づいてフレックススタート制御の開始条件が成立したか否かを判定する。具体的には、実際のエンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上となり、且つ、エンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上となった状態で所定時間Ta以上維持(継続)したか否かが判定される。なお、経過時間Tは、エンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上となった時点を基準として計数される。フレックス開始条件成立判定部260は、エンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上となった状態が所定時間Ta以上維持したことを判断すると、フレックススタート制御によるロックアップクラッチ26の締結を開始するようフレックスロックアップ制御部250に出力する。言い換えれば、フレックス開始条件成立判定部260は、上記開始条件が成立しない限り、フレックススタート制御の実行を禁止する。
【0057】
ここで、オイルポンプ28から吐出される作動油量Qは、エンジン回転速度Neとオイルポンプ28の定格的に定められている容量の積で算出される。すなわち、エンジン回転速度Neに基づいて作動油量Qを算出できる。従って、エンジン回転速度Neに代えて作動油量Qに基づいてフレックススタート制御のタイミングを判断することもできる。例えば、ライン圧PLと作動油の油温Toilからなる限界作動油量Qcraを設定するマップが予め求められており、そのマップに基づいて限界作動油量Qcraを求め、実際の作動油量Qが限界作動油量Qcra以上の状態が所定時間Ta以上維持されたことを条件としてフレックススタート制御を実行するものであっても構わない。言い換えれば、前記限界エンジン回転速度Necra以上で所定時間Ta以上維持されるという条件は、開放側油圧室102に供給される作動油量Qが所定値以上となったことを判断することに対応している。上述したように、エンジン回転速度Neと作動油量Qとは一対一の関係にあるので、エンジン回転速度Neが本発明のオイルポンプの作動油量に実質的に対応し、限界エンジン回転速度Nrcraが本発明の作動油量の所定値に実質的に対応している。
【0058】
図9は、電子制御装置200の制御作動の要部、すなわちフレックススタート制御を実行するに際して、ロックアップクラッチ26の急係合を防止しつつ、ロックアップクラッチの締結の遅れを低減する制御作動を説明するフローチャートである。このフローチャートは、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
【0059】
先ず、フレックススタート許可判定部252に対応するS1において、フレックススタート制御の実行が許可されたか否かが判定される。S1が否定される場合、S4においてフレックススタート制御によるロックアップクラッチ26の締結の開始が禁止される。S1が肯定される場合、限界エンジン回転速度決定部256、所定時間決定部258、およびフレックス開始条件成立判定部260に対応するS2に進む。
【0060】
S2では、限界エンジン回転速度Necraのマップから、ライン圧PLおよび作動油の油温Toilに基づいて限界エンジン回転速度Necraが決定され、さらに、作動油温Toilに基づいて所定時間Taが決定される。そして、実際のエンジン回転速度Neが、決定された限界エンジン回転速度Necra以上で所定時間Ta以上継続したか否かが判定される。S2が否定される場合、S4に進み、フレックススタート制御によるロックアップクラッチ26の締結が禁止される。S2が肯定される場合、フレックスロックアップ制御部250に対応するS3において、フレックススタート制御によるロックアップクラッチ26の締結が開始される。
【0061】
図10は、電子制御装置200の作動制御による作動結果を説明するタイムチャートである。
図10において、横軸が時間(sec)を示しており、縦軸がロックアップクラッチ26の係合油圧Pon(一点鎖線)および開放油圧Poff(実線)を示している。
図10(a)は、フレックススタート制御の開始時点から開放側油圧室102の開放油圧Poffが高い場合を示しており、
図10(b)は、フレックススタート制御の開始時点において開放側油圧室102の開放油圧Poffが低い場合を示しており、
図10(c)が
図10(b)に対して本実施例の制御を実行した場合を示している。なお、
図10においては、ライン圧PLの指示圧と実圧が一致しているものとして説明する。
【0062】
図10(a)に示すように、フレックススタート制御の実行が判断された時点から開放油圧Poffが比較的高い場合には、判断直後からフレックススタート制御を開始しても開放油圧Poffが高いためにロックアップクラッチ26の急係合は生じない
。
【0063】
図10(b)が、開放側油圧室102の開放油圧Poffが低い状態でフレックススタート制御によるロックアップクラッチ26の締結を開始した場合を示している。t1時点において、フレックススタート制御の実行が判断され、その判断直後からロックアップクラッチ26の締結が開始されると、開放油圧Poffが低いためにロックアップクラッチ26が急係合されることとなる
。
【0064】
図10(c)が本実施例の制御を実行した場合に対応している。t1時点においてフレックススタート制御の実行が判断されると、限界エンジン回転速度Necraおよび所定時間Taが設定され、実際のエンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上で所定時間Ta以上継続されるまで待機される。そして、
図10(d)に示すように、エンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上となった状態が所定時間Ta経過するt1’時点において、ロックアップクラッチ26の締結の開始条件が成立したものと判断され、ロックアップクラッチ26の締結が開始される
。
【0065】
上述のように、本実施例によれば、ロックアップクラッチ26の締結を開始する際には、エンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上となることを条件とすることで、作動油量Qを十分に確保した状態でロックアップクラッチ26の締結が開始され、例えばロックアップクラッチ26の開放側油圧室102の開放油圧Poffが低下した状態でロックアップクラッチ26が締結されることで生じるロックアップクラッチ26の急係合を防止することができる。ここで、前記限界エンジン回転速度Necraが、ライン圧PLと作動油の作動油温Toilに基づいて適切に決定され、ロックアップクラッチ26の急係合を防止しつつ、作動油量Qの確保によるロックアップクラッチ26の締結の遅れも低減することができる。
【0066】
また、本実施例によれば、ライン圧PLと作動油温Toilとに基づいて決定される限界エンジン回転速度Necra以上でエンジン回転速度Neが維持されたことを条件として、作動油量Qが限界作動油量Qcra以上となったことが判断される。このように、作動油量Qはエンジン回転速度Neから算出できるので、そのエンジン回転速度Neに基づいて作動油量Qが限界作動油量Qcra以上となったことを容易に判断することができる。例えば、ライン圧PLを検出するセンサが設けられていない油圧回路などでは、指示圧に基づいて限界エンジン回転速度Necraが決定される。
【0067】
また、本実施例によれば、エンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上で所定時間Ta以上維持されたことを条件として、作動油量Qが限界作動油量Qcra以上となったことが判断される。このように、作動油量Qが限界作動油量Qcra以上となったことを、エンジン回転速度Neおよび所定時間Taに基づいて容易に判断することができる。
【0068】
また、本実施例によれば、所定時間Taは、動油油温Toilに基づいて決定される。このように、作動油温Toilに比例して増加する作動油Qの漏れ量を補える適切な所定時間Taを設定することができる。
【0069】
また、本実施例によれば、エンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上となった状態で所定時間Ta以上継続したことを条件とすることで、作動油量Qを確実に確保することができる。また、所定時間Taが作動油温Toilに基づいて適切に設定され、ロックアップクラッチ26の急係合を防止しつつ、作動油量Qの確保によるロックアップクラッチ26の締結の遅れも低減することができる。
【0070】
また、本実施例によれば、限界エンジン回転速度Necraは、ライン圧PLと作動油温Toilとに基づいて容易に決定することができる。
【0071】
また、本実施例によれば、ライン圧PLが高くなるほど限界エンジン回転速度Necraを高くすることで、ライン圧PLが高くなるほど増加する作動油の漏れ量を補って、作動油量の不足を防止することができる。
【0072】
また、本実施例によれば、作動油の作動油温Toilが高くなるほど限界エンジン回転速度Necraを高くすることで、作動油温Toilが高くなるに従って増加する作動油の漏れを補って作動油量の不足を防止することができる。
【0073】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0074】
例えば、前述の実施例では、例えばセカンダリ圧センサ222により検出されたライン圧PL(実圧)に基づいて限界エンジン回転速度Necraが決定されているが、電子制御装置200から出力される指示圧であるライン圧PLに基づいて限界エンジン回転速度Necraが決定されるものであっても構わない。
【0075】
また、前述の実施例では、エンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上となる状態が所定時間Ta以上維持したことを条件として、フレックススタート制御が開始されるが、所定時間Taに関する条件は必ずしも必要とせず、エンジン回転速度Neが限界エンジン回転速度Necra以上となったことを条件にフレックススタート制御が開始されるものであっても構わない。
【0076】
また、前述の実施例では、車両停止状態からのフレックススタート制御を前提に説明されているが、本発明は車両停止状態からのフレックススタート制御に限定されず、例えばロックアップクラッチ26が開放された状態で走行中にロックアップクラッチ26を締結する場合など、ロックアップクラッチ26を締結する場合において適宜適用することができる。
【0077】
また、前述の実施例では、セカンダリ圧コントロールバルブ152と従動側油圧アクチュエータ46cとの間の油路にセカンダリ圧センサ222が設けられ、そのセンサ222によって検出されるライン圧PLに基づいて限界エンジン回転速度Necraが決定されているが、オイルポンプ28の吐出油路に油圧センサを設け、その油圧センサによって検出されるライン圧PLに基づいて限界エンジン回転速度Necraを決定するものであっても構わない。
【0078】
また、前述の実施例では、エンジン12と駆動輪24との間にベルト式無段変速機18が設けられているが、必ずしも無段変速機に限定されず、例えば有段式の自動変速機など他の形式の変速機であっても構わない。また、本発明は、変速機を備える構成に限定されない。
【0079】
また、前述の実施例では、流体伝動装置としてトルクコンバータ14が使用されているが、流体継手が設けられている構成であっても構わない。
【0080】
また、前述の実施例では、エンジン回転速度Neに基づいてフレックススタート制御の開始時期が判断されているが、エンジン回転速度Neは作動油量Qと一対一の関係にあるため、作動油量Qからフレックススタート制御の開始時期を判断することもできる。すなわち、エンジン回転速度Neに基づく判断と、作動油量Qに基づく判断とは、実質的に変わらない。
【0081】
また、前述の実施例では、作動油の温度Toilに基づいて限界エンジン回転速度Necraおよび所定時間Taを決定しているが、作動油の油温Toilと作動油の粘度とは一対一の関係にあるので、作動油の油温Toilに代わって作動油の粘度を用いて実施することもできる。
【0082】
また、前述の実施例では、限界エンジン回転速度Necraおよび所定時間Taを求めるマップが予め求められて記憶されているが、マップに限定されず、例えばライン圧や作動油温Toilを変数とする限界エンジン回転速度Necraや所定時間Taを算出する関係式から算出するなど、他の方法で求めるものであっても構わない。
【0083】
また、前述の実施例では、ライン圧PLが供給される油路とセカンダリ圧センサ222が設けられている油路158との間にセカンダリ圧コントロールバルブ152が設けられているが、このセカンダリ圧コントロールバルブ152が設けられず、ライン圧PLが直接従動側油圧アクチュエータ46cに供給される構成であっても構わない。
【0084】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。