(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固有の非線形係数を有し、入射された異なる2波長の光から前記非線形係数に応じた和周波発生または差周波発生によるテラヘルツ波と、前記異なる2波長の光の各々が前記非線形係数に応じて波長変換された光高調波の各々とを発生する非線形光学結晶と、
前記非線形光学結晶から発生されたテラヘルツ波を直接、または該テラヘルツ波が照射された測定対象を透過または反射した測定テラヘルツ波を検出する第1検出手段と、
前記非線形光学結晶から発生された、前記異なる2波長の光の各々の第2高調波または第3高調波を検出する第2検出手段と、
前記第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度を、前記第2検出手段により検出された第2高調波または第3高調波の強度に基づいて補正した測定値を得る測定手段と、
を含むテラヘルツ波分光測定装置。
前記測定手段は、前記非線形光学結晶から発生されるテラヘルツ波を周波数掃引しながら前記測定対象に照射することにより検出された前記測定テラヘルツ波、または前記非線形光学結晶から発生される特定周波数のテラヘルツ波を前記測定対象に照射することにより検出された前記測定テラヘルツ波を用いて、前記測定値を得る請求項1または請求項2記載のテラヘルツ波分光測定装置。
前記判定手段は、前記第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度と前記第2検出手段により検出された光高調波の少なくとも一方の強度との相関係数の絶対値または決定係数が、予め定めた閾値より小さい場合に、前記非線形光学結晶に損傷が生じていると判定する請求項4記載のテラヘルツ波分光測定装置。
前記判定手段は、前記第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度と前記第2検出手段により検出された光高調波の少なくとも一方の強度との相関係数の絶対値または決定係数と、正常な状態の非線形光学結晶を用いて得られた相関係数の絶対値または決定係数との差分が、予め定めた閾値より大きい場合に、前記非線形光学結晶に損傷が生じていると判定する請求項4記載のテラヘルツ波分光測定装置。
固有の非線形係数を有し、入射された異なる2波長の光から前記非線形係数に応じた和周波発生または差周波発生によるテラヘルツ波と、前記異なる2波長の光の各々が前記非線形係数に応じて波長変換された光高調波の各々とを発生する非線形光学結晶から発生されたテラヘルツ波が照射された測定対象を透過または反射した測定テラヘルツ波を検出し、
前記非線形光学結晶から発生された、前記異なる2波長の光の各々の第2高調波または第3高調波を検出し、
検出された測定テラヘルツ波の強度を、検出された第2高調波または第3高調波の強度に基づいて補正した測定値を得る
テラヘルツ波分光測定方法。
固有の非線形係数を有し、入射された異なる2波長の光から前記非線形係数に応じた和周波発生または差周波発生によるテラヘルツ波と、前記異なる2波長の光の各々が前記非線形係数に応じて波長変換された光高調波の各々とを発生する非線形光学結晶と、
前記非線形光学結晶から発生されたテラヘルツ波を直接、または該テラヘルツ波が照射された測定対象を透過または反射した測定テラヘルツ波を検出する第1検出手段と、
前記非線形光学結晶から発生された光高調波の少なくとも一方を検出する第2検出手段と、
前記第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度と前記第2検出手段により検出された光高調波の少なくとも一方の強度との相関に基づいて、前記非線形光学結晶の損傷の有無を判定する判定手段と、
を含む非線形光学結晶の検査装置。
固有の非線形係数を有し、入射された異なる2波長の光から前記非線形係数に応じた和周波発生または差周波発生によるテラヘルツ波と、前記異なる2波長の光の各々が前記非線形係数に応じて波長変換された光高調波の各々とを発生する非線形光学結晶から発生されたテラヘルツ波が照射された測定対象を透過または反射した測定テラヘルツ波を検出し、
前記非線形光学結晶から発生された光高調波の少なくとも一方を検出し、
検出された前記測定テラヘルツ波の強度と検出された前記光高調波の少なくとも一方の強度との相関に基づいて、前記非線形光学結晶の損傷の有無を判定する
非線形光学結晶の検査方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、分光分析において測定感度を高めるためには、信号対雑音比(S/N比)の向上、すなわち信号強度の増大及びノイズの低減を図ることが極めて重要である。また、測定再現性を高めるためには、光源光強度変化を参照とする測定光の強度補正を行うことが重要である。このことは、テラヘルツ波分光分析にも当てはまり、高感度分析には高強度のテラヘルツ光源及び測定光の強度補正が必須である。
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、テラヘルツ測定光の強度補正を行うための参照光を、テラヘルツ光源から分岐することにより取得している。このことは、測定対象物に照射するテラヘルツ波強度、すなわち光源光強度が低下することを意味し、分光分析において高感度高再現性を実現する1つの要因である高強度のテラヘルツ光源を実現することができない、という問題がある。
【0008】
また、特許文献3の技術では、レーザ出力光の強度を安定させるために、レーザ装置から出力されたレーザ出力光の一部を取り出しており、測定対象物に照射する光源光強度が低下するという問題は、光源光がレーザ出力光の場合でも、同様に存在する。特に、テラヘルツ波は元々強度が弱いため、テラヘルツ光源から参照光を分岐すると、テラヘルツ光源の強度の低下が顕著になってしまう。
【0009】
また、特許文献1の技術のように、テラヘルツ光源から参照光を分岐する方法では、測定対象物を透過または反射したテラヘルツ波を検出する検出器と、参照光として分岐したテラヘルツ波を検出する検出器とで、2つのテラヘルツ波用の検出器が必要となるが、テラヘルツ波の検出器は高価であるため、価格面での問題もある。
【0010】
また、特許文献2の技術では、テラヘルツ反射鏡を差し込むことにより、同一光路で検出光と参照光とを検出しているため、テラヘルツ波用の検出器は1つで構成することができる。しかし、検出光と参照光との取得タイミングが異なるため、精度良く強度補正を行うことができない、という問題がある。
【0011】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、発生するテラヘルツ波の強度を低下させることなく、精度良くテラヘルツ波測定値の強度補正を行うことができるテラヘルツ波分光測定装置及び方法、並びに測定に用いる非線形光学結晶の状態を検査することができる非線形光学結晶の検査装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明のテラヘルツ波分光測定装置は、固有の非線形係数を有し、入射された異なる2波長の光から前記非線形係数に応じた和周波発生または差周波発生によるテラヘルツ波と、前記異なる2波長の光の各々が前記非線形係数に応じて波長変換された光高調波の各々とを発生する非線形光学結晶と、前記非線形光学結晶から発生されたテラヘルツ波を直接、または該テラヘルツ波が照射された測定対象を透過または反射した測定テラヘルツ波を検出する第1検出手段と、前記非線形光学結晶から発生された光高調波の少なくとも一方を検出する第2検出手段と、前記第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度を、前記第2検出手段により検出された光高調波の少なくとも一方の強度に基づいて補正した測定値を得る測定手段と、を含んで構成されている。
【0013】
本発明のテラヘルツ波分光測定装置によれば、固有の非線形係数を有する非線形光学結晶に異なる2波長の光が励起光として入射されると、非線形光学結晶が、結晶自体が有する非線形係数に応じた和周波発生または差周波発生によるテラヘルツ波と、異なる2波長の光の各々が非線形係数に応じて波長変換された光高調波の各々とを発生する。非線形光学結晶から発生されたテラヘルツ波は直接、またはテラヘルツ波が照射された測定対象を透過または反射した測定テラヘルツ波として第1検出手段により検出される。また、非線形光学結晶から発生された光高調波の少なくとも一方は第2検出手段により検出される。そして、測定手段が、第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度を、第2検出手段により検出された光高調波の少なくとも一方の強度に基づいて補正した測定値を得る。
【0014】
このように、従来のテラヘルツ測定系では利用されておらず、テラヘルツ波と同一の非線形係数に応じて発生した光高調波の強度を用いてテラヘルツ波の強度を補正することにより、発生するテラヘルツ波の強度を低下させることなく、精度良くテラヘルツ波測定値の強度補正を行うことができる。
【0015】
また、前記測定手段は、前記第1検出手段により直接検出されたテラヘルツ波をベースラインテラヘルツ波として取得し、該ベースラインテラヘルツ波と同時に検出された光高調波をベースライン光高調波として取得し、該ベースラインテラヘルツ波、該ベースライン光高調波、前記測定テラヘルツ波、及び該測定テラヘルツ波と同時に検出された前記光高調波の関係に基づいて、前記補正した測定値を得ることができる。このようなベースライン補正を行うことで、適切な強度補正を行うことができる。
【0016】
また、前記光高調波は、前記異なる2波長の光の各々の第2高調波
または第3高調波である。
【0017】
また、前記測定手段は、前記非線形光学結晶から発生されるテラヘルツ波を周波数掃引しながら前記測定対象に照射することにより検出された前記測定テラヘルツ波、または前記非線形光学結晶から発生される特定周波数のテラヘルツ波を前記測定対象に照射することにより検出された前記測定テラヘルツ波を用いて、前記測定値を得ることができる。このように測定方法に係わらず本発明を適用することができる。
【0018】
また、本発明のテラヘルツ波分光測定装置は、前記第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度と前記第2検出手段により検出された光高調波の少なくとも一方の強度との相関に基づいて、前記非線形光学結晶の損傷の有無を判定する判定手段を含んで構成することができる。非線形光学結晶が有する非線形係数に応じて発生したテラヘルツ波と光高調波とは、非線形光学結晶が正常な状態であれば強い相関を示すため、テラヘルツ波の強度と光高調波の強度との相関に基づいて、非線形光学結晶の損傷の有無を判定することができる。
【0019】
例えば、前記判定手段は、前記第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度と前記第2検出手段により検出された光高調波の少なくとも一方の強度との相関係数の絶対値または決定係数が、予め定めた閾値より小さい場合に、前記非線形光学結晶に損傷が生じていると判定することができる。
【0020】
また、例えば、前記判定手段は、前記第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度と前記第2検出手段により検出された光高調波の少なくとも一方の強度との相関係数の絶対値または決定係数と、正常な状態の非線形光学結晶を用いて得られた相関係数の絶対値または決定係数との差分が、予め定めた閾値より大きい場合に、前記非線形光学結晶に損傷が生じていると判定することができる。
【0021】
また、本発明のテラヘルツ波分光測定装置は、前記第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度及び前記第2検出手段により検出された光高調波の少なくとも一方の強度のいずれか一方の強度と、正常な状態の非線形光学結晶を用いて得られた測定テラヘルツ波の強度と光高調波の少なくとも一方の強度との関係式とに基づいて得られた他方の強度を示す計算値と、検出された前記他方の強度との差分が、予め定めた閾値より大きい場合に、前記非線形光学結晶に損傷が生じていると判定する判定手段を含んで構成することができる。このような判定手段を用いることによっても、非線形光学結晶の損傷の有無を判定することができる。
【0022】
また、本発明のテラヘルツ波分光測定方法は、固有の非線形係数を有し、入射された異なる2波長の光から前記非線形係数に応じた和周波発生または差周波発生によるテラヘルツ波と、前記異なる2波長の光の各々が前記非線形係数に応じて波長変換された光高調波の各々とを発生する非線形光学結晶から発生されたテラヘルツ波が照射された測定対象を透過または反射した測定テラヘルツ波を検出し、前記非線形光学結晶から発生された光高調波の少なくとも一方を検出し、検出された測定テラヘルツ波の強度を、検出された光高調波の少なくとも一方の強度に基づいて補正した測定値を得る方法である。
【0023】
また、本発明の非線形光学結晶の検査装置は、固有の非線形係数を有し、入射された異なる2波長の光から前記非線形係数に応じた和周波発生または差周波発生によるテラヘルツ波と、前記異なる2波長の光の各々が前記非線形係数に応じて波長変換された光高調波の各々とを発生する非線形光学結晶と、前記非線形光学結晶から発生されたテラヘルツ波を直接、または該テラヘルツ波が照射された測定対象を透過または反射した測定テラヘルツ波を検出する第1検出手段と、前記非線形光学結晶から発生された光高調波の少なくとも一方を検出する第2検出手段と、前記第1検出手段により検出された測定テラヘルツ波の強度と前記第2検出手段により検出された光高調波の少なくとも一方の強度との相関に基づいて、前記非線形光学結晶の損傷の有無を判定する判定手段と、を含んで構成されている。
【0024】
また、本発明の非線形光学結晶の検査方法は、固有の非線形係数を有し、入射された異なる2波長の光から前記非線形係数に応じた和周波発生または差周波発生によるテラヘルツ波と、前記異なる2波長の光の各々が前記非線形係数に応じて波長変換された光高調波の各々とを発生する非線形光学結晶から発生されたテラヘルツ波が照射された測定対象を透過または反射した測定テラヘルツ波を検出し、前記非線形光学結晶から発生された光高調波の少なくとも一方を検出し、検出された前記測定テラヘルツ波の強度と検出された前記光高調波の少なくとも一方の強度との相関に基づいて、前記非線形光学結晶の損傷の有無を判定する検査方法である。
【0025】
本発明の非線形光学結晶の検査装置及び方法によれば、測定テラヘルツ波の強度と光高調波の強度との相関に基づいて、測定に用いる非線形光学結晶の状態を検査することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明のテラヘルツ波分光測定装置及び方法によれば、従来のテラヘルツ測定系では利用されておらず、テラヘルツ波と同一の非線形係数に応じて発生した光高調波の強度を用いてテラヘルツ波の強度を補正することにより、発生するテラヘルツ波の強度を低下させることなく、精度良くテラヘルツ波測定値の強度補正を行うことができる、という効果が得られる。
【0027】
また、本発明の非線形光学結晶の検査装置及び方法によれば、測定テラヘルツ波の強度と光高調波の強度との相関に基づいて、測定に用いる非線形光学結晶の状態を検査することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置10は、固有の非線形係数を有する非線形光学結晶12と、非線形光学結晶12に入射される異なる2波長の励起光を発生する励起光光源14と、非線形光学結晶12から発生したテラヘルツ波(以下、「THz波」と表記する)と第2高調波(以下、「SHG波」と表記する)とを分光するフィルタ16と、測定対象のサンプルをセットする測定ステージ18と、THz波を検出するTHz検出器20と、SHG波を検出するSHG検出器22と、THz波の分光測定の処理を実行する制御部24と、操作することにより各種情報を入力すると共に、測定結果等を表示するためのタッチパネルディスプレイ等で構成された表示操作部26とを含んで構成されている。なお、THz検出器20は本発明の第1検出手段の一例であり、SHG検出器22は本発明の第2検出手段の一例であり、制御部24は本発明の測定手段の一例である。
【0031】
非線形光学結晶12は、励起光光源14から入射された異なる2波長の励起光から、非線形光学結晶12が有する非線形係数に応じた和周波発生または差周波発生によりTHz波を発生する。また、THz波と同時に、入射された2波長の励起光の各々が非線形係数に応じて波長変換されたSHG波の各々を発生する。例えば、2波長の励起光の周波数がω
1及びω
2であった場合、周波数ω
3=|ω
1+ω
2|または|ω
1−ω
2|となるTHz波を発生すると共に、周波数2ω
1及び2ω
2となるSHG波を発生する。非線形光学結晶12としては、例えば、DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)結晶やDASC(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウム−p−クロロベンゼンスルホネート)結晶を用いることができる。
【0032】
励起光光源14は、例えば、異なる2波長の光を発生することができる2波長発生半導体レーザ等を用いることができる。
【0033】
フィルタ16は、THz波の周波数帯域の光を透過し、SHG波の周波数帯域の光を反射するダイクロイックフィルタを用いることができる。なお、フィルタ16としては、THz波とSHG波とを分光することができるものであればよい。
【0034】
THz検出器20は、THz波を検出し、検出したTHz波の強度に応じた電気信号をTHz測定値として出力するもので、例えば、焦電検出器等を用いることができる。
【0035】
SHG検出器22は、SHG波を検出し、検出したSHG波の強度に応じた電気信号をSHG測定値として出力するもので、例えば、シリコン(Si)ボロメータ等を用いることができる。なお、SHG波は上記のように周波数2ω
1及び2ω
2の2つが発生するが、SHG検出器22は、2つのSHG波のいずれかを検出するようにしてもよいし、2つのSHG波を検出して、その強度の和をSHG測定値として出力するようにしてもよい。
【0036】
制御部24は、
図2に示すように、テラヘルツ波分光測定装置10全体の制御を司るCPU30、後述するベースライン補正値算出処理及びサンプル測定処理を含むテラヘルツ波分光測定処理を実行するためのプログラム等を記憶した記憶媒体としてのROM32、ワークエリアとしてデータを一時的に格納するRAM34、各種情報が記憶された記憶手段としてのメモリ36、入出力ポート(I/Oポート)38、及びこれらを接続するバスを含むコンピュータで構成されている。また、さらに記憶手段としてのHDDを設けてもよい。I/Oポート38には、THz検出器20、SHG検出器22、及び表示操作部26が接続されている。
【0037】
ここで、本実施の形態の原理について説明する。
【0038】
本実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置10では、SHG検出器22で検出されたSHG波を参照光として用い、THz測定値の強度補正を行う。SHG波はテラヘルツ測定系においては不要な光であり、従来はフィルタでカットするなどして利用されずにいた。そのため、SHG波を参照光として取得しても、非線形光学結晶12から発生するTHz波の強度が低下することはない。
【0039】
また、以下に示すような要因で、非線形光学結晶12から発生するTHz波の強度には揺らぎが生じる。
(a)励起光の出力値のゆらぎ
(b)非線形光学結晶12中に含まれる結晶構造の部分的乱れ、結晶構造の転位や格子欠陥
(c)励起光を照射した際に、非線形光学結晶12内に生じる熱レンズ効果
(d)励起光の出力値の揺らぎによる、励起光の照射時間の経過に伴って非線形光学結晶12内に溜まる熱量の変化
【0040】
THz波の強度の揺らぎは、測定されるTHz測定値に影響を与えるため、上記のような要因を考慮したTHz測定値の強度補正を行う必要がある。
【0041】
ここで、発生するTHz波の強度低下を抑制するために、THz波自体を分光するのではなく、例えば、非線形光学結晶12を透過した励起光(基本波)を参照光として取得することも考えられる。しかし、この場合、基本波は非線形光学結晶12の非線形係数に応じて波長変換された光ではないため、上記(a)の要因によるTHz波強度の揺らぎを解消することはできるが、上記(b)〜(d)のように、非線形光学結晶12の構造等を要因とするTHz波強度の揺らぎを解消することはできない。
【0042】
一方、THz波とSHG波とは、非線形光学結晶12の同一の非線形係数に応じて発生されたものであるため、上記(b)〜(d)のような要因によるTHz波の揺らぎに対して、SHG波にも同調した揺らぎが生じる。
図3に、励起光出力を変化させて非線形光学結晶12から発生するTHz波の強度を変動させながら、同時に測定したTHz測定値及びSHG測定値を、X軸にTHz測定値(電圧値[V])、Y軸にSHG測定値(電圧値[V])を取ってプロットしたグラフを示す。同図に示すように、THz測定値とSHG測定値との間に比例相関があることが分かる。
【0043】
このように、従来利用されていなかったSHG波を用いることにより、THz波強度を低下させることなく、様々な要因で発生するTHz波強度の揺らぎに対応したTHz測定値の強度補正を行うことができる。
【0044】
続いて、SHG波を用いたTHz測定値の強度補正の原理について説明する。
【0045】
励起光の出力を一定とした場合、及び変動させた場合の各々において、THz波の周波数掃引を行った際の周波数−THz測定値の測定結果を
図4に示す。励起光の出力を一定とした場合の周波数−THz測定値をベースラインTHz測定値TBとし、測定開始時刻をt0する。また、励起光出力の変動はテラヘルツ波光源の光源ドリフトを仮定したものであり、励起光の出力を変動させた場合の周波数−THz測定値として、測定開始時刻t1(t1>t0)のTHz測定値T1、及び測定開始時刻t2(t2>t1)のTHz測定値T2を測定した。同図に示すように、光源ドリフトさせた場合には、4THz以降の周波数において、THz測定値の低下が顕著となる。
【0046】
また、従来のテラヘルツ測定系(シングルビーム系)では、測定対象のサンプルに対する測定前に、上記のような周波数掃引を行ってベースラインTHz測定値TBを測定しておき、サンプル測定時のTHz測定値Tに対して、T/TBとしてシングルビーム補正を行っている。
【0047】
図4の測定結果をこの補正値に適用した結果を
図5に示す。TB、T1、T2はいずれもサンプルを介することなく測定した値であるため、補正値の適性値は1付近となるはずであるが、同図に示すように、光源ドリフトを発生させた場合には補正値と適性値との間にズレが生じている。また、T1/TBとT2/TBとの間にも補正値のズレが生じており、このことは、様々な要因でTHz波強度の揺らぎが生じるため、測定の都度揺らぎの状態も異なり、測定値にズレを生じさせていることを表している。
【0048】
従って、従来のようなベースライン補正では、様々な要因で発生したテラヘルツ波の揺らぎによる測定値のズレを補正することができない。
【0049】
一方、本実施の形態では、SHG波とTHz波との相関が強いことに基づいて、すなわちSHG波がTHz波と同調して揺らぐことに基づいて、SHG測定値Sを用いて下記(1)式によりTHz測定値Tの強度補正を行う。
THz測定値の強度補正式=T/S (1)
ここで、T及びSは同時に測定された測定値である。
【0050】
図4に示した測定結果を(1)式で補正した結果を
図6に示す。同図に示すように、
図4の測定結果では見られたTHz測定値の低下が解消されている。
【0051】
また、(1)式の強度補正式を用いて、下記(2)式によりベースライン補正を行う。
ベースライン補正式=(T/S)/(TB/SB) (2)
ここで、SBはベースラインTHz測定値TBと同時に測定されたベースラインSHG測定値である。なお、(2)式の補正式は一例であり、(T/TB)×(SB/S)等適宜変更した形で用いてもよい。
【0052】
(2)式によるベースライン補正結果を
図7に示す。同図に示すように、
図5の補正結果では見られた測定値と適性値(ここでは1)との間のズレ、及び測定間(ここではT1とT2)でのズレが共に解消されている。
【0053】
次に、第1の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置10の作用について説明する。まず、測定ステージ18にサンプルがセットされていないサンプル測定前等の所定のタイミングで、
図8に示すベースライン補正値算出処理を実行する。そして、測定ステージ18にサンプルがセットされたサンプル測定時に、
図9に示すサンプル測定処理を実行する。各処理は、CPU30がROM32に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより行われる。以下、各処理について詳述する。
【0054】
まず、ベースライン補正値算出処理では、ステップ100で、励起光光源14から励起光を発生させ非線形光学結晶12に照射開始させ、THz波の周波数掃引を行うために、2つの周波数差が変動するように励起光を調整する。このとき、非線形光学結晶12からはTHz波とそのTHz波と相関するSHG波が発生する。
【0055】
次に、ステップ102で、周波数掃引における各周波数において、非線形光学結晶12から発生したTHz波をTHz検出器20に検出させると共に、発生したSHG波をSHG検出器22に検出させる。これにより、THz検出器20からは、検出したTHz波の強度に応じた電圧値の電気信号が出力され、SHG検出器22からは、検出したSHG波の強度に応じた電圧値の電気信号が出力される。
【0056】
次に、ステップ104で、THz検出器20から出力された電気信号をベースラインTHz測定値TBとして取得すると共に、SHG検出器22から出力された電気信号をベースラインSHG測定値SBとして取得する。
【0057】
次に、ステップ106で、上記ステップ104で取得したベースラインTHz測定値TB及びベースラインSHG測定値SBから、周波数毎にTB/SBを算出し、ベースライン補正値としてメモリ36等の所定の記憶領域に保存して、ベースライン補正値算出処理を終了する。
【0058】
次に、サンプル測定処理では、ステップ110及び112で、ベースライン補正値算出処理のステップ100及び102と同様の処理により、周波数掃引しながらTHz波及びSHG波を発生させ、各々THz検出器20及びSHG検出器22に検出させる。この際、THz検出器20で検出されるTHz波は、測定ステージ18にセットされたサンプルを透過または反射したTHz波である。
【0059】
次に、ステップ114で、THz検出器20から出力された電気信号をTHz測定値Tとして取得すると共に、SHG検出器22から出力された電気信号をSHG測定値Sとして取得する。
【0060】
次に、ステップ116で、所定の記憶領域からベースライン補正値TB/SBを読み出し、上記ステップ114で取得したTHz測定値T及びSHG測定値Sを用いて、上記(2)式によりベースライン補正を行う。
【0061】
次に、ステップ118で、上記ステップ116で補正された測定結果を表示操作部26に出力して、サンプル測定処理を終了する。測定結果の出力は、例えば、周波数−(T/S)/(TB/SB)で表されるTHz波分光スペクトルのグラフを表示するようにしてもよいし、別途記憶しておいたサンプルの種類毎のTHz波分光スペクトルと測定されたTHz波分光スペクトルとを比較することによりサンプルの種類を同定し、その同定結果を出力するようにしてもよい。
【0062】
以上説明したように、第1の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置によれば、従来のテラヘルツ測定系では利用されておらず、テラヘルツ波と同一の非線形係数に応じて発生したSHG波を参照光として用いることにより、発生するテラヘルツ波の強度を低下させることなく、精度良くテラヘルツ波測定値の強度補正を行うことができる。
【0063】
そのため、測定再現性を維持しつつ、測定感度の向上を図ることができる。
【0064】
次に、第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態では、THz波とSHG波との相関に基づいて、非線形光学結晶の損傷の有無を判定した上で、テラヘルツ波分光測定を行う場合について説明する。第2の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置の構成は、第1の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置10の構成と同一であるため、同一符号を付して詳細な説明を省略する。なお、制御部24は本発明の判定手段の一例である。以下、第2の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置の作用について説明する。
【0065】
まず、第1の実施の形態と同様に、測定ステージ18にサンプルがセットされていないサンプル測定前等の所定のタイミングで、
図8に示すベースライン補正値算出処理を実行する。そして、測定ステージ18にサンプルがセットされたサンプル測定時に、
図10に示すサンプル測定処理を実行する。各処理は、CPU30がROM32に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより行われる。以下、第2の実施の形態におけるサンプル測定処理について詳述する。なお、第1の実施の形態におけるサンプル測定処理と同一の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0066】
ステップ110〜114を経て、THz測定値T及びSHG測定値Sを取得する。次に、ステップ200で、上記ステップ114で取得したTHz測定値TとSHG測定値Sとの相関係数の絶対値|R|を計算する。
図11に示すように、非線形光学結晶12に損傷が生じた場合には、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関が弱くなり、相関係数の絶対値|R|が小さくなる。
【0067】
そこで、ステップ202で、上記ステップ200で計算した相関係数の絶対値|R|が予め定めた閾値th
1(例えば、0.95)を超えているか否かを判定する。|R|>th
1の場合には、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関が強く、非線形光学結晶12は正常であると判定して、ステップ116へ移行し、第1の実施の形態と同様にベースライン補正を行って、次のステップ118で補正された測定結果を出力して、サンプル測定処理を終了する。
【0068】
一方、|R|≦th
1の場合には、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関が弱く、非線形光学結晶12に損傷が生じていると判定して、ステップ204へ移行し、非線形光学結晶12に損傷が生じている旨のメッセージを表示操作部26に表示したり、図示しないスピーカからメッセージ音声やビープ音等を出力したりすることにより、非線形光学結晶12の損傷を報知して、サンプル測定処理を終了する。なお、|R|≦th
1の場合に、上記ステップ116及び118の処理と共に、非線形光学結晶12の損傷を報知するようにしてもよい。
【0069】
以上説明したように、第2の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置によれば、THz波とSHG波との相関に基づいて、非線形光学結晶の損傷の有無も判定することができる。
【0070】
なお、上記第2の実施の形態では、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関を表す指標として、相関係数の絶対値を用いる場合について説明したが、決定係数を用いて、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関を判定するようにしてもよい。この場合、上記ステップ200で、決定係数R
2を計算する。決定係数R
2も相関係数の絶対値|R|と同様に、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関が弱い場合に小さくなる。そこで、上記ステップ202で、決定係数R
2が予め定めた閾値th
2(例えば、0.90)を超えているか否かを判定し、R
2>th
2の場合には、非線形光学結晶12は正常であると判定し、R
2≦th
2の場合には、非線形光学結晶12に損傷が生じていると判定するとよい。
【0071】
次に、第3の実施の形態について説明する。第3の実施の形態では、第2の実施の形態とは異なる方法で得たTHz波とSHG波との相関に基づいて、非線形光学結晶の損傷の有無を判定した上で、テラヘルツ波分光測定を行う場合について説明する。第3の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置の構成は、第1の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置10の構成と同一であるため、同一符号を付して詳細な説明を省略する。なお、制御部24は本発明の判定手段の一例である。以下、第3の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置の作用について説明する。
【0072】
まず、第1の実施の形態と同様に、測定ステージ18にサンプルがセットされていないサンプル測定前等の所定のタイミングで、
図8に示すベースライン補正値算出処理を実行する。また、非線形光学結晶12に損傷が生じていない正常な状態で、第2の実施の形態におけるサンプル測定処理のステップ200と同様の処理により、ベースライン補正値算出処理のステップ104で取得されたベースラインTHz測定値とベースラインSHG測定値との相関係数の絶対値|R’|を求めておき、メモリ36等の所定の記憶領域に保存しておく。
【0073】
そして、測定ステージ18にサンプルがセットされたサンプル測定時に、
図12に示すサンプル測定処理を実行する。各処理は、CPU30がROM32に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより行われる。以下、第3の実施の形態におけるサンプル測定処理について詳述する。なお、第1及び第2の実施の形態におけるサンプル測定処理と同一の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0074】
ステップ110〜114及び200を経て、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関係数の絶対値|R|を計算する。
【0075】
次に、ステップ300で、所定領域に記憶した正常時のベースラインTHz測定値とベースラインSHG測定値との相関係数の絶対値|R’|を読み出し、|R’|と上記ステップ200で計算した|R|との差分ΔRを計算する。非線形光学結晶12の正常時には、ベースラインTHz測定値とベースラインSHG測定値とは強い相関を示すため、相関係数の絶対値|R’|は大きな値となる。その後の経時変化において、相関係数の絶対値|R|がより大きくなる方向へ変化することは想定し難いため、差分ΔRが大きくなることは、THz測定値とSHG測定値との相関が弱くなることを表す。
【0076】
そこで、ステップ302で、上記ステップ300で計算した差分ΔRの絶対値|ΔR|が予め定めた閾値th
3(例えば、0.05)未満か否かを判定する。|ΔR|<th
3の場合には、非線形光学結晶12は正常であると判定して、ステップ116及び118の測定処理を実行し、|ΔR|≧th
3の場合には、非線形光学結晶12に損傷が生じていると判定して、ステップ204へ移行し、非線形光学結晶12の損傷を報知して、サンプル測定処理を終了する。なお、|ΔR|≧th
3の場合に、上記ステップ116及び118の処理と共に、非線形光学結晶12の損傷を報知するようにしてもよい。
【0077】
以上説明したように、第3の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置によれば、THz波とSHG波との相関に基づいて、非線形光学結晶の損傷の有無も判定することができる。
【0078】
なお、上記第3の実施の形態では、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関を表す指標として、相関係数の絶対値の差分を用いる場合について説明したが、決定係数の差分を用いて、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関を判定するようにしてもよい。この場合、非線形光学結晶12に損傷が生じていない正常な状態で、事前にベースラインTHz測定値とベースラインSHG測定値との決定係数R'
2を求めておき、上記ステップ200で、決定係数R
2を計算し、上記ステップ300で、差分ΔR
2=R
2−R'
2を計算する。そして、上記ステップ302で、差分ΔR
2の絶対値|ΔR
2|が予め定めた閾値th
4(例えば、0.10)未満か否かを判定し、|ΔR
2|<th
4の場合には、非線形光学結晶12は正常であると判定し、|ΔR
2|≧th
4の場合には、非線形光学結晶12に損傷が生じていると判定するとよい。
【0079】
次に、第4の実施の形態について説明する。第2及び第3の実施の形態では、THz波とSHG波との相関に基づいて、非線形光学結晶の損傷の有無を判定する場合について説明したが、第4の実施の形態では、検出されたTHz波の強度及びSHG波の強度が、非線形光学結晶が正常な状態でのTHz波とSHG波との関係式に沿った値として得られているか否かに基づいて、非線形光学結晶の損傷の有無を判定する場合について説明する。
【0080】
第4の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置の構成は、第1の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置10の構成と同一であるため、同一符号を付して詳細な説明を省略する。なお、制御部24は本発明の判定手段の一例である。以下、第4の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置の作用について説明する。
【0081】
まず、第1の実施の形態と同様に、測定ステージ18にサンプルがセットされていないサンプル測定前等の所定のタイミングで、
図8に示すベースライン補正値算出処理を実行する。また、非線形光学結晶12に損傷が生じていない正常な状態で、ベースライン補正値算出処理のステップ104で取得されたベースラインTHz測定値及びベースラインSHG測定値を用いて、
図3に示すようなTHz測定値とSHG測定値との関係式を求めておき、メモリ36等の所定の記憶領域に保存しておく。
図11に示すように、非線形光学結晶12に損傷が生じた場合には、正常時に比べてTHz測定値とSHG測定値との相関が弱くなる。この変化をTHz測定値とSHG測定値との関係式により把握して、非線形光学結晶12の損傷の有無を判定するものである。なお、関係式としては線形近似や多項近似などの近似式を用いることができる。
【0082】
そして、測定ステージ18にサンプルがセットされたサンプル測定時に、
図13に示すサンプル測定処理を実行する。各処理は、CPU30がROM32に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより行われる。以下、第4の実施の形態におけるサンプル測定処理について詳述する。なお、第1及び第2の実施の形態におけるサンプル測定処理と同一の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0083】
ステップ110〜114を経て、THz測定値T及びSHG測定値Sを取得する。次に、ステップ400で、所定の記憶領域から正常時のTHz測定値とSHG測定値との関係式を読み出し、関係式と上記ステップ114で取得したTHz測定値Tとに基づいて、非線形光学結晶12が正常な場合に想定されるSHG測定値の値を計算し、これをSHG計算値S’とする。
【0084】
次に、ステップ402で、上記ステップ114で取得したSHG測定値Sと、上記ステップ400で計算したSHG計算値S’との差分ΔSを計算する。
図14に示すように、差分ΔSが大きくなることは、THz測定値とSHG測定値との相関が弱くなることを表す。
【0085】
そこで、ステップ404で、上記ステップ402で計算した差分ΔSの絶対値|ΔS|が予め定めた閾値th
5(例えば0.05V)未満か否かを判定する。|ΔS|<th
5の場合には、非線形光学結晶12は正常であると判定して、ステップ116及び118の測定処理を実行し、|ΔS|≧th
5の場合には、非線形光学結晶12に損傷が生じていると判定して、ステップ204へ移行し、非線形光学結晶12の損傷を報知して、サンプル測定処理を終了する。なお、|ΔS|≧th
5の場合に、上記ステップ116及び118の処理と共に、非線形光学結晶12の損傷を報知するようにしてもよい。
【0086】
以上説明したように、第4の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置によれば、THz波とSHG波との相関に基づく場合に限らず、検出されたTHz測定値と、非線形光学結晶が正常時のTHz測定値とSHG測定値との関係式との差分に基づいても、非線形光学結晶の損傷の有無を判定することができる。
【0087】
なお、上記第4の実施の形態では、SHG測定値SとSHG計算値S’との差分ΔSを用いて、非線形光学結晶の損傷の有無を判定する場合について説明したが、THz測定値TとTHz計算値T’との差分ΔTを用いて判定するようにしてもよい。この場合、上記ステップ400で、正常時の関係式と上記ステップ114で取得したSHG測定値Sとに基づいて、非線形光学結晶12が正常な場合に想定されるTHz測定値の値をTHz計算値T’として計算し、ステップ402で、上記ステップ114で取得したTHz測定値Tと、上記ステップ400で計算したTHz計算値T’との差分ΔTを計算する。そして、上記ステップ404で、差分ΔTの絶対値|ΔT|が予め定めた閾値th
6(例えば、0.05V)未満か否かを判定し、|ΔT|<th
6の場合には、非線形光学結晶12は正常であると判定し、|ΔT|≧th
6の場合には、非線形光学結晶12に損傷が生じていると判定するとよい。
【0088】
次に、第5の実施の形態について説明する。第5の実施の形態では、非線形光学結晶の状態を検査する検査装置について説明する。第5の実施の形態に係る非線形光学結晶の検査装置の構成は、第1の実施の形態に係るテラヘルツ波分光測定装置10の構成と同一であるため、同一符号を付して詳細な説明を省略する。以下、第5の実施の形態に係る非線形光学結晶の検査装置の作用について説明する。
【0089】
図15を参照して、第5の実施の形態に係る非線形光学結晶の検査装置において実行される検査処理について説明する。検査処理は、CPU30がROM32に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより行われる。なお、第5の実施の形態に係る検査処理において、第1及び第2の実施の形態におけるサンプル測定処理と同一の処理については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0090】
ステップ110〜114及び200を経て、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関係数の絶対値|R|を計算し、次に、ステップ202で、|R|>th
1か否かを判定する。|R|>th
1の場合には、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関が強く、非線形光学結晶12は正常であると判定して、ステップ500へ移行し、検査結果として「正常」を出力して、検査処理を終了する。一方、|R|≦th
1の場合には、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関が弱く、非線形光学結晶12に損傷が生じていると判定して、ステップ502へ移行し、検査結果として「損傷」を出力して、検査処理を終了する。
【0091】
以上説明したように、第5の実施の形態に係る非線形光学結晶の検査装置によれば、THz波とSHG波との相関に基づいて、非線形光学結晶の状態を検査することができる。
【0092】
なお、上記第5の実施の形態では、第2の実施の形態と同様に、THz測定値TとSHG測定値Sとの相関を表す指標として、相関係数の絶対値を用いる場合について説明したが、第3または第4の実施の形態と同様の手法により、非線形光学結晶の状態を検査するようにしてもよい。
【0093】
また、上記各実施の形態では、参照光としてSHG波を用いる場合について説明したが、これに限定されず、非線形光学結晶の有する非線形係数に応じて周波数変換された光高調波であればよく、例えば、第3高調波を用いてもよい。
【0094】
また、上記各実施の形態では、周波数掃引によりテラヘルツ波分光測定を行う場合を例に説明したが、特定の周波数のTHz波による測定の場合にも本発明を適用することができる。この場合、上記実施の形態において周波数毎に行った処理を、特定の周波数についてのみ行えばよい。
【0095】
また、上記各実施の形態では、CPUがプログラムを実行することにより本発明のテラヘルツ波分光測定装置を実現する場合について説明したが、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の半導体集積回路により実現することも可能である。