特許第6139328号(P6139328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6139328-二層構造紡績糸 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139328
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】二層構造紡績糸
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/36 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   D02G3/36
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-169058(P2013-169058)
(22)【出願日】2013年8月16日
(65)【公開番号】特開2015-36462(P2015-36462A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 武史
(72)【発明者】
【氏名】酒部 一郎
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−078379(JP,A)
【文献】 特開2000−303285(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/014007(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯層と鞘層とからなる二層構造の紡績糸であり、芯分にはポリアミド系短繊維が配され、鞘部に溶剤紡糸セルロース短繊維およびアクリル短繊維が混合された状態で配されていることを特徴とする二層構造紡績糸。
【請求項2】
芯層と鞘層の比率が、20:80〜50:50であることを特徴とする請求項1に記載の二層構造紡績糸。
【請求項3】
請求項1または2に記載の二層構造紡績糸によって製編織されていることを特徴とする織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯層と鞘層とを有する二層構造紡績糸に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、吸汗性及び吸湿発熱性を有するセルロース繊維と、柔らかなタッチと嵩高性に優れデッドエアーを多く含んだアクリル繊維との混用による吸湿発熱・保温素材が、秋冬向素材を中心に多く提案されてきている。また、紡績糸の中心部に中空部を設けることにより、軽量で保温性、ソフト性に優れる紡績糸が提案されている(特許文献1)。しかしながら、紡績糸に中空部設けた紡績糸は、着用時や洗濯時等において、外力が強くかかった際に中空部が潰れる等の問題が発生することある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−68596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、風合いや肌触りが良好であり、かつ、保温性と生地強力とを兼ね備えることが可能な紡績糸を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題を達成するために検討した。生地強力を向上させるには、強力の高い繊維であるポリエステル繊維を用いて補強することが挙げられるが、混紡手法の場合は生地の柔らかいタッチやドレープ性等が損なわれてしまう。また、嵩高性に優れるアクリル繊維とポリエステル繊維とを混用すると、ポリエステル繊維は、染色時に高圧にて行う必要があるため、アクリル繊維が劣化する恐れがあり、アクリル繊維とポリエステル繊維との混用は難しい。
【0006】
そこで、さらに検討を行っていくと、比重が軽くヤング率の低いポリアミド系繊維を芯層に配した特定の構造の紡績糸とすれば、十分な強力を有し、軽量でドレープ性に優れ、保温性も良好な紡績糸を得ることができることを見出した。
【0007】
本発明は、芯層と鞘層とからなる二層構造の紡績糸であり、芯分にはポリアミド系短繊維が配され、鞘部にセルロース短繊維およびアクリル短繊維が混合された状態で配されていることを特徴とする二層構造紡績糸を要旨とするものである。
【0008】
次に、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の二層構造紡績糸の芯層には、ポリアミド系繊維を配する。ポリアミド系繊維は、ヤング率が低く、ドレープ性に優れ、比重が軽く、かつ強力が高い繊維であるためである。また、鞘層にはアクリル繊維を配することから、染色加工の際に高圧染色を避けることを要し、ポリアミド系繊維は高圧染色の必要がないため、アクリル繊維と一緒に用いるにあたって好適である。ポリアミド系繊維の中でも、ナイロン6繊維もしくはナイロン66繊維が好ましい。
【0010】
また、紡績糸における芯層と鞘層との抱合力が向上することを目的として、鞘層に配されるセルロース繊維またはアクリル繊維のいずれか、あるいは両方の繊維を芯層にも混用してよい。なお、軽量性を維持すること等を考慮して、ポリアミド系繊維は、紡績糸全体に対して20質量%以上含まれることが好ましい。
【0011】
鞘層に配される繊維は、吸湿発熱性を発現するセルロース繊維と、得られた熱を保持するデッドエア層を形成するアクリル繊維とを配する。セルロール繊維とアクリル繊維とを鞘層に配することにより、吸湿発熱・保温の効果がより向上する。セルロース繊維とアクリル繊維の比率は、20:80〜60:40であることが好ましく、30:70〜45:55であることがより好ましい。セルロース繊維が20質量%に満たない場合は吸湿発熱効果を十分に奏しにくく、一方、アクリル繊維が40質量%に満たない場合は所望の保温性を発揮しにくい。
【0012】
セルロース繊維としては、特に限定されるものではなく、例えば綿、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、溶剤紡糸セルロース繊維(リヨセル)等が挙げられ、中でも繊維の強力とドレープ性を兼ね備え、また吸湿量も多く、その分吸湿発熱量も多いリヨセルが好適である。
【0013】
アクリル繊維は、アクリロニトリルを主成分とする疎水性の合成繊維であり、他の疎水性合成繊維と比較して収縮率が大きく、嵩高性に優れるため、保温性向上に大きく寄与しうる。なお、本発明におけるアクリル繊維とは、アクリル繊維全体に対して、アクリロニトリルの含有量が95%以上のものをいい、本発明の効果を損なわない範囲において、アクリロニトリル以外の成分が5%未満含まれていてもよい。また、アクリル繊維の断面形状は特に限定されるものではないが、紡糸性等を考えると円形断面が好ましい。
【0014】
本発明の二層構造紡績糸は、芯層と鞘層との比率(質量比)が20:80〜50:50であることが好ましく、30:70〜40:60であることがより好ましい。芯層の比率が20質量%に満たない場合、芯層のポリアミド繊維の軽量感や強力を十分に活かすことができず、逆に鞘層の比率が50質量%に満たない場合には、カバーリング性不良を起こして、外観や肌触り等の低下が生じたり、また、芯層のポリアミド繊維が表出することによってピリング発生等の懸念がある。
【0015】
本発明の二層構造紡績糸の撚り数は特に限定しないが、風合い・肌触りを損なうことなく、一方で強力を向上させ、また、ピリングが発生しにくいことを考慮すると、撚係数Kが3.0〜5.0の範囲内にあることが好ましく、3.4〜4.2の範囲内にあることがさらに好ましい。撚係数Kが3.0に満たない場合、撚数が低いことによる引張強力や抗ピリング性の低下が懸念され、逆に撚係数Kが5.0を超える場合は、撚数が高いことによって風合い・肌触りの硬化が顕著となり、維持すべき風合い・肌触りのものが得られないことになる。
【0016】
本発明の二層構造紡績糸は、練条工程におけるスライバー配列によって芯鞘を形成する方法や、粗紡段階で芯層用のスライバーに鞘層用のスライバーを巻き付ける方法など、さまざまな方法で製造することが可能であるが、芯層を鞘層が良好に覆ってカバーリング率を高く維持しうることを考慮すると、粗紡段階で芯層用のスライバーに鞘層用のスライバーを巻き付ける方法が好適である。得られた二層構造の粗糸を通常の精紡機によって精紡することによって、本発明の二層構造紡績糸を得ることができる。なお、アクリル繊維の持つデッドエア層を活かすことを考慮すると、リング紡績機を用いた紡績方法が好ましい。
【0017】
本発明の二層構造紡績糸を用いて製編織した織編物は、良好な風合いを有するとともに保温性も良好なものとなり、また、常圧での染色加工を良好に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の二層構造紡績糸によれば、吸湿発熱性及び軽量・嵩高・保温性に優れ、かつドレープ性や風合い・肌触りが優れ、着用時において実用十分な強力を有する織編物を安定的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】精紡機の一例を示す概略側面図である。
図2】精紡機の一例を示す概略平面図である。
【実施例】
【0020】
以下に実施例に基づいて、本発明を説明する。なお、実施例で用いた物性や評価は以下の方法により行った。
(1)生地破裂強力:対象の紡績糸を用いて試編実施した生地について、JIS L1096「織物及び編物の生地試験方法」における破裂強さA法(ミューレン形法)に準じて測定を行い、結果を単位:kPaで示した。
(2)風合い評価:対象の紡績糸を用いて試編実施した生地について、ドレープ性及び肌触りの観点からそれぞれ触感にて評価を行い、下記の通り三段階で示した。
[ドレープ性]
評価 ○ : ドレープ性が高く良好である。
評価 △ : ドレープ性は悪くはないが、高くもなくやや気になるところがある。
評価 × : ドレープ性不十分であり、気になるところがある。
[肌触り]
評価 ○ : ウォーム感に優れ、ソフトな肌触りで良好である。
評価 △ : ウォーム感・肌触りのいずれかでやや気になるところがある。
評価 × : ウォーム感・肌触りのいずれも不十分で気になるところがある。
【0021】
実施例1
図1(概略側面図)及び図2(概略平面図)に示す構造の粗紡機を用いて、芯層用のスライバーS1としてナイロン6短繊維(1.7dtex×38mm)で構成されたスライバーを供給し、鞘層用の巻き付けスライバーS2として、リヨセル繊維(0.9dtex×34mm)/アクリル繊維(1.0dtex×38mm)を40/60の比率で均一混合したカードスライバーを供給し、ドラフト後の各スライバーの質量比をS1:S2=30:70とし、図2におけるドラフト方向に対する芯層用のスライバーS1のフライヤーヘッドへの進行角度θを60度として、粗糸質量280gr/30yd(1gr=0.65g,1yd=0.9144m)、撚り数1.0T/吋の粗糸を得た。この粗糸を精紡機のバックローラーに通し、バックローラー・エプロン・フロントローラーの間でドラフト率47.5倍にドラフトした後、撚り数24.0T/吋(撚係数K=3.8)でZ方向に撚りをかけ、40番手(英式綿番手)の本発明の二層構造紡績糸を得た。
【0022】
得られた紡績糸と、ポリウレタン糸22dtexとを釜径30インチ、28ゲージのシングル丸編機を用いて編み立て、ベア天竺編の生機を得た。この生機を40℃×15分精練を行い、反応染料/酸性染料/カチオン染料による常圧での染色を行った後、160℃×2分の仕上セットを行って、目付200g/mの二層構造紡績糸からなる編物(生地)を得た。
【0023】
比較例1
芯層をなすスライバーS1として、ポリエチレンテレフタレート短繊維(1.7dtex×38mm)を用いた以外は実施例1と同様に紡績を行い、40番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸を得た。
【0024】
得られた紡績糸と、ポリウレタン糸22dtexを釜径30インチ、28ゲージのシングル丸編機を用いて編み立て、ベア天竺編の生機を得た。この生機を40℃×15分精練を行い、分散染料による130℃での高圧染色を行った後、反応染料/カチオン染料による常圧での染色を行い、160℃×2分の仕上セットを行って、目付217g/mの二層構造紡績糸からなる編物(生地)を得た。
【0025】
比較例2
ナイロン6短繊維(1.7dtex×38mm)/リヨセル繊維(0.9dtex×34mm)/アクリル繊維(1.0dtex×38mm)を30/28/42の質量比で均一に混合したスライバーを用いて粗糸質量280gr/30yd,撚り数1.0T/吋の粗糸を得た。この粗糸を精紡機のバックローラーに通し、バックローラー・エプロン・フロントローラーの間でドラフト率47.5倍にドラフトした後、撚り数24.0T/吋(撚係数K=3.8)でZ方向に撚りをかけ、40番手(英式綿番手)の混紡糸を得た。得られた紡績糸を用いて、実施例1と同様にベア天竺編地として、目付200g/mの混紡糸を用いた編物(生地)を得た。
【0026】
比較例3
芯層用のスライバーS1として、水溶性ポリビニルアルコール系繊維(1.7dtex×38mm、水溶解温度40℃)を用い、鞘層用の巻き付けスライバーS2として、ポリエチレンテレフタレート短繊維(1.7dtex×38mm)/リヨセル繊維(0.9dtex×34mm)/アクリル繊維(1.0dtex×38mm)を30/28/42の質量比で均一混合したスライバーを用い、ドラフト後の各スライバーの質量比をS1:S2=20:80とした以外は、実施例1と同様に紡績を行い、40番手(英式綿番手)の二層構造紡績糸を得た。
【0027】
得られた紡績糸と、ポリウレタン糸22dtexとを釜径30インチ、28ゲージのシングル丸編機を用いて編み立て、ベア天竺編の生機を得た。得られた生機は、40℃×30分精練を行って、芯層の水溶性ポリビニルアルコール系繊維を溶解除去し、その後、分散染料による130℃での高圧染色を行った後、反応染料/カチオン染料による常圧での染色を行い、160℃×2分の仕上セットを行って、目付173g/mの紡績糸からなる編物(生地)を得た。
【0028】
実施例1及び比較例1〜3について、評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1の二層構造紡績糸を用いた編地は、十分な生地強力を有し、かつ軽量感、ドレープ性に優れ、風合い・肌触りもソフトで良好であった。
【0031】
これに対して比較例1は、芯層がポリエチレンテレフタレートであり、生地のドレープ性、軽量感に劣るものであった。加えて、染色時に高圧染色を行う必要があるため、アクリル系繊維の劣化による表面の乱れが見受けられた。
【0032】
比較例2は、芯鞘の二層構造紡績糸ではなく、混紡状態の紡績糸であり、ナイロン6短繊維が糸の表層にも存在し、生地にした際に温かみが劣り、肌触りが劣るものであった。加えてナイロン短繊維が生地表面に出ているため、ナイロン短繊維の毛羽を核にして毛玉が発生しやすいものであった。
【0033】
比較例3は芯部に中空部を配することで、実施例1以上の軽量感を有したが、中空部形成によって糸が硬くなり、生地表面へのポリエチレンテレフタレート短繊維の表出もあってドレープ性・肌触りに劣るものであり、加えて染色時に高圧染色を行う必要がある為、アクリル系繊維の劣化による表面の乱れが見受けられた。
図1
図2