特許第6139352号(P6139352)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139352
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/04 20060101AFI20170522BHJP
   G05D 1/08 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   B60W30/04
   G05D1/08 Z
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-189863(P2013-189863)
(22)【出願日】2013年9月12日
(65)【公開番号】特開2015-54640(P2015-54640A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2015年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116920
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 光
(72)【発明者】
【氏名】谷中 壯弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 毅
(72)【発明者】
【氏名】山内 智裕
(72)【発明者】
【氏名】白石 孝
(72)【発明者】
【氏名】津坂 祐司
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 徳晃
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−153348(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/052076(WO,A1)
【文献】 特開2006−136962(JP,A)
【文献】 特開2010−260544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/04
G05D 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の車輪によって規定される安定基準領域の幅が前後方向に沿って変化する車両を制御するための車両制御装置であって、
前記車両の目標ゼロモーメントポイントを算出すると共に前記安定基準領域に基づいて安定領域を算出する算出部と、
前記算出部が算出した前記目標ゼロモーメントポイントが前記安定領域内に収まるように前記車両を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記車両の旋回時において前記目標ゼロモーメントポイントが前記安定領域内に収まらない不安定状態が予測された場合には、前記車両の加減速を制限する加減速制御を実施する、
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
前記車両は、前方から後方に向かって前記安定基準領域の幅が減少する車両であって、
前記制御部は、前記加減速制御として前記車両の加速を制限する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記車両の旋回時において前記不安定状態が予測された場合には、前記車両のロール姿勢角を制御するためのロール姿勢角制御トルクを制限するトルク制御を実施する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記車両の旋回時において前記不安定状態が予測され、且つ、前記ロール姿勢角制御トルクを制限することによって前記目標ゼロモーメントポイントが前記安定領域内に収まると予測された場合には、前記トルク制御における前記ロール姿勢角制御トルクの制限量の重みを前記加減速制御における前記加減速の制限量の重みよりも大きくする、
ことを特徴とする請求項3に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記車両の旋回時において前記不安定状態が予測された場合には、前記車両の旋回運動を制限する旋回制御を実施する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記車両の旋回時において前記不安定状態が予測された場合には、前記車両の旋回運動を制限する旋回制御を実施し、
前記制御部は、前記加減速制御、前記トルク制御、及び前記旋回制御の順に実施の優先順位を高く設定する、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記車両のドライバの操作を予測する予測部をさらに備え、
前記算出部は、前記予測部が予測した前記ドライバの操作に基づいて、前記目標ゼロモーメントポイント及び前記安定領域を算出する、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の車輪によって規定される安定基準領域の幅が前後方向に沿って変化する車両を制御するための車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、移動ロボットが記載されている。この移動ロボットは、前方推進方向の推力を制御する二輪型の移動機構と、移動機構に対して上体を側面方向に能動的に揺動させて重心を側面方向に移動させるための誘導機構と、移動ロボットを制御する制御装置とを備えている。そして、制御装置は、急旋回走行等に起因して移動ロボットの重心に働く遠心力と重力との合成ベクトルを推定し、その合成ベクトルの延長線と車輪の接地面との交点位置を左右の車輪の間の領域に維持するように揺動姿勢角を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−136962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された移動ロボットは、上述したように揺動姿勢角を制御することによって、左右の車輪にかかる接地反力を均等に近づけ、走行時の側面方向の姿勢安定性の補償を図っている。
【0005】
ところで、現在、複数の車輪によって規定される安定基準領域の幅(例えば、特許文献1の移動ロボットにおいては、左右の車輪によって規定されるトレッド幅)が前後方向に沿って変化する車両(例えば3輪車両等)の利用が検討されている。そのような車両においては、例えば、加速又は減速が行われることに起因して、安定基準領域の幅に応じた安定領域が変化する結果、例えば旋回時等において、目標ゼロモーメントポイントがその安定領域内に収まらない不安定状態が生じるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、不安定状態が生じることを抑制可能な車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両制御装置は、複数の車輪によって規定される安定基準領域の幅が前後方向に沿って変化する車両を制御するための車両制御装置であって、車両の目標ゼロモーメントポイントを算出すると共に安定基準領域に基づいて安定領域を算出する算出部と、算出部が算出した目標ゼロモーメントポイントが安定領域内に収まるように車両を制御する制御部と、を備え、制御部は、車両の旋回時において目標ゼロモーメントポイントが安定領域内に収まらない不安定状態が予測された場合には、車両の加減速を制限する加減速制御を実施することを特徴とする。
【0008】
この車両制御装置は、前後方向に沿って安定基準領域の幅が変化する車両を制御するためのものであり、目標ゼロモーメントポイント(目標ZMP)が安定領域内に収まるように車両の状態を制御する制御部を備えている。特に、制御部は、車両の旋回時において不安定状態が予測された場合には、車両の加減速を制限する加減速制御を実施する。これにより、車両の旋回時において、車両に生じる横方向加速度を制限可能であると共に安定領域が変化することを抑制することができる。よって、この車両制御装置によれば、安定領域に目標ZMPが収まらずに不安定状態が生じることを抑制可能である。なお、安定基準領域、不安定状態(及び安定状態)、目標ZMP及び安定領域の詳細については、後述する。
【0009】
本発明に係る車両制御装置においては、車両は、前方から後方に向かって安定基準領域の幅が減少する車両であって、制御部は、加減速制御として車両の加速を制限してもよい。この場合、車両の旋回時において、車両に生じる横方向加速度が低減されると共に安定領域の減少が抑制されるので、不安定状態が生じることを確実に抑制可能である。
【0010】
本発明に係る車両制御装置においては、制御部は、車両の旋回時において不安定状態が予測された場合には、車両のロール姿勢角を制御するためのロール姿勢角制御トルクを制限するトルク制御を実施してもよい。この場合、ロール姿勢角制御トルクを制限することによって、ロール姿勢角の角加速度が大きくなることが抑制されるので、目標ZMPが安定領域から外れることが抑制される。よって、不安定状態が生じることを確実に抑制可能である。
【0011】
本発明に係る車両制御装置においては、制御部は、車両の旋回時において不安定状態が予測され、且つ、ロール姿勢角制御トルクを制限することによって目標ZMPが安定領域内に収まると予測された場合には、トルク制御におけるロール姿勢角制御トルクの制限量の重みを加減速制御における加減速の制限量の重みよりも大きくしてもよい。この場合、必要以上に車両の加減速を制限することなく、車両を安定状態において旋回させることが可能となる。
【0012】
本発明に係る車両制御装置においては、制御部は、車両の旋回時において不安定状態が予測された場合には、車両の旋回運動を制限する旋回制御を実施してもよい。この場合、例えば車両の旋回半径を拡大するように旋回運動を制限することにより、車両に生じる横方向加速度を低減することができる。したがって、目標ZMPが安定領域から外れることを抑制可能である。
【0013】
本発明に係る車両制御装置においては、制御部は、加減速制御、トルク制御、及び旋回制御の順に実施の優先順位を高く設定することができる。この場合には、優先順位を設定することにより、不安定状態が生じることを容易且つ確実に抑制可能である。
【0014】
本発明に係る車両制御装置においては、車両のドライバの操作を予測する予測部をさらに備え、算出部は、予測部が予測したドライバの操作に基づいて、目標ZMP及び安定領域を算出することができる。この場合には、目標ZMP及び安定領域を迅速に算出できるので、制御部による制御をより有効に実施することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、不安定状態が生じることを抑制可能な車両制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る車両制御装置の実施の態様を示す模式図である。
図2図1に示された車両の安定性を説明するための図である。
図3図1に示された車両の安定性を説明するための図である。
図4図1に示された車両制御装置の動作の主要な工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る車両制御装置の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一の要素同士、或いは、相当する要素同士には、互いに同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る車両制御装置の実施の態様を示す模式図である。特に、図1の(a)は、本実施形態に係る車両制御装置の構成を示すブロック図であり、図1の(b)は、図1の(a)に示された車両制御装置の制御対象となる車両を示す模式的な平面図である。以下の図面には、直交座標系Sを示す場合がある。直交座標系Sにおけるx軸は車両Cの進行方向(前後方向)に沿った軸であり、y軸は車両Cの車幅方向に沿った軸であり、z軸は車両Cの上下方向に沿った軸である。
【0019】
図1に示される車両制御装置1は、例えば車両Cに搭載されており、車両Cを制御するためのものである。車両Cは、例えば、パーソナルモビリティとしての1〜2人乗りの小型EV等である。車両Cは、2つの前輪Caと1つの後輪Cbとを有している(すなわち、複数の車輪Ca,Cbを有している)。
【0020】
車両制御装置1は、車両状態検出部11、ドライバ操作検出部12、車両挙動予測部13、車両姿勢制御部14、ドライバ操作予測部(予測部)15、及び、制御部(算出部、制御部)17を備えている。なお、少なくとも車両挙動予測部13、ドライバ操作予測部15、及び、制御部17は、例えば、CPU、ROM、及びRAM等を含むコンピュータを主体として構成され、それぞれの機能は、そのコンピュータにおいて所定のプログラムを実行することによって実現される。
【0021】
車両状態検出部11は、車両Cの状態を検出する。車両状態検出部11は、例えば、車両Cのロール角(ロール姿勢角)及び/又はロール角速度をセンシングする手段、車両Cのヨー角及び/又はヨーレートをセンシングする手段、車両Cに生じている横G(車両Cの横方向重心加速度(y方向重心加速度))をセンシングする手段、並びに、車両Cに生じている前後G(車両Cの前後方向重心加速度(x方向重心加速度))をセンシングする手段等を含む。なお、車両Cのロール姿勢角は、車両Cの前後方向に沿った軸(x軸)周りの車体の傾斜角である。
【0022】
ドライバ操作検出部12は、車両Cのドライバによる車両Cの操作(ドライバ操作)を検出する。ドライバ操作検出部12は、例えば、ドライバのアクセル操作を検出する手段、ドライバのブレーキ操作を検出する手段、及び、ドライバのステアリング操作を検出する手段等を含む。車両挙動予測部13は、ドライバの操作に基づいて車両Cの挙動を予測する。すなわち、車両挙動予測部13は、ドライバ操作検出部12の検出結果等に基づいて、ドライバが目標とする(希望する)車両Cの挙動(目標車両挙動)を演算する。また、車両挙動予測部13は、例えば、目標車両挙動の範囲において車両Cに生じ得るx方向重心加速度、y方向重心加速度、及びロール姿勢角の角加速度等の状態量を取得する。
【0023】
車両姿勢制御部14は、車両Cのロール姿勢角を制御する。車両姿勢制御部14は、例えば、各種アクチュエータを制御することによって、車両Cのロール姿勢角を任意の角度に変化させることが可能な機構を含む。ドライバ操作予測部15は、ドライバの操作(車両Cの駆動及び操舵等)を予測する。ドライバ操作予測部15は、例えば、ドライバの今後の操作を予測する手段を含む。なお、車両制御装置1は、ドライバ操作予測部15を備えていいなくてもよい。
【0024】
制御部17は、例えば、車両Cの目標ゼロモーメントポイント(目標ZMP)及び安定領域を算出すると共に、算出した目標ZMPが安定領域内に収まるように車両Cを制御する。ここで、車両Cにおける目標ZMP及び安定領域について説明する。
【0025】
車両Cにおける目標ZMPは、ZMP(床反力作用点)と同様に、下記式(1)によって与えられるものであり、車幅方向(y軸方向)における所定の点(位置)である。目標ZMPが車両Cの安定基準領域内に収まっているときに車両Cは安定状態であり、目標ZMPが車両Cの安定基準領域内に収まっていないときに車両Cは不安定状態である。車両Cが安定状態であるとは、車両Cに転倒や車輪の浮き等を生じさせることなく、目標ZMPを中心として車体をロール方向に制御可能な状態である。車両Cが不安定状態であるとは、車両Cに転倒や車輪の浮き等を生じさせることなく、目標ZMPを中心として車体をロール方向に制御可能でない状態である。
【数1】
【0026】
上記式(1)において、yCOGは、y軸方向における車両Cの重心Gcの位置(y方向重心位置)であり、zCOGは、z軸方向における車両Cの重心Gcの位置(z方向重心位置)である。また、Aは、y軸方向における車両Cの重心Gcの加速度(y方向重心加速度)であり、Aは、z軸方向における車両Cの重心Gcの加速度(z方向重心加速度)である。さらに、Iはx軸周りの慣性モーメントを示しており、Aφはx軸周りの姿勢角(ロール姿勢角)φの角加速度を示している。
【0027】
また、車両Cの安定基準領域とは、上述したように車両Cの安定性の判定の基準となる領域であり、車両Cの複数の車輪Ca,Cbによって規定される領域である。より具体的には、車両Cの安定基準領域は、ここでは、図1の(b)に示されるように、車両Cの2つの前輪Caと1つの後輪Cbとによって規定される領域T(例えば、2つの前輪Ca及び1つの後輪Cbを頂点とする3角形状の領域)である。車両Cの安定基準領域Tの幅Wは、車両Cの前後方向(x軸方向)における中心線CLに対して非対称である。つまり、車両Cは、車両Cの前後方向に沿って安定基準領域Tの幅Wが変化する車両である。ここでは、車両Cの安定基準領域Tの幅Wは、車両Cの前方から後方に向かって減少している。
【0028】
なお、4輪以上の車両においても、安定性の判定の基準として、4つ以上の複数の車輪によって安定基準領域Tを規定し得る(例えば、それぞれの車輪を頂点とする多角形状の領域として安定基準領域Tを規定し得る)。また、2輪の車両においても、2つの車輪によって安定基準領域Tを規定し得る(例えば、それぞれの車輪を始点及び終点とする直線状の領域として安定基準領域Tを規定し得る)。したがって、車両の前後方向に沿って安定基準領域Tの幅Wが変化しない場合もある。その場合には、安定基準領域Tの幅Wは、車幅方向において互いに対向する一対の車輪同士の間隔であり、所謂トレッド幅である。なお、安定基準領域Tは、上述したような複数の車輪によって規定される領域を鉛直方向に直交する平面(水平面)に投影して得られる領域とし得る。したがって、安定基準領域Tは、接地面の傾斜等に応じて変形する場合がある。
【0029】
図2の(a)に示されるように、車両Cが旋回中であり、車両Cのロール姿勢角φの角加速度Aφが0であるとき(静的な状態であるとき)、目標ZMPは、重力加速度により重心Gcに生じる自重F1とy方向重心加速度Aにより重心Gcに生じる遠心力F2との合力F3と、接地面Scとの交点(力の釣り合いの位置)P1と一致する。したがって、この場合には、力の釣り合いの位置P1が安定基準領域Tの幅W(特に後述する安定領域SA)内に収まっていれば、車両Cは安定状態である。
【0030】
一方、図2の(b)に示されるように、車両Cが旋回中であり、車両Cのロール姿勢角φの角加速度Aφが0でないときには(動的な状態であるときには)、上記式(1)により与えられる目標ZMPは、力の釣り合いの位置P1からずれる場合がある。その場合には、力の釣り合いの位置P1からずれた目標ZMPが、車両Cの安定基準領域Tの幅W(特に後述する安定領域SA)内に収まれっていれば、車両Cは安定状態である。なお、動的な状態は、例えば、静的な状態に移行するまでの過渡状態である。
【0031】
ここで、車両Cの安定基準領域Tは、上述したように、車両Cの前後方向に沿って幅Wが変化する(より具体的には、幅Wが車両Cの前方から後方に向かって減少する)ものである。このため、車両Cが安定状態であるためには、目標ZMPを、車両Cの前後方向の任意の位置における安定基準領域Tの幅Wに収めるのではなく、車両Cの前後方向の特定の位置における安定基準領域Tの幅Wに収める必要がある。ここでは、その特定の位置における安定基準領域Tの幅Wを安定領域SAと称する。つまり、安定領域SAは、前後方向に沿って安定基準領域Tの幅Wが変化する車両Cを安定状態とするために目標ZMPを収めるべき特定の領域である。
【0032】
一例として、図3に示されるように、例えば車両Cが加減速していない状態においては、車両Cの安定領域SAは、重力加速度により重心Gcに生じる自重F1と接地面Scとの交点P2における安定基準領域Tの幅Wである(より具体的には、車両Cの前後方向における交点P2に相当する位置での幅Wである)。これに対して、例えば車両Cが加速している状態においては、安定領域SAは、重心Gcに生じる慣性力F4と自重F1との合力F5と、接地面Scとの交点P3における安定基準領域Tの幅Wとなる(より具体的には、車両Cの前後方向における交点P3に相当する位置での幅Wとなる)。
【0033】
このように、車両Cにおいては、車両Cの加速に伴って慣性力F4が生じる結果、安定領域SAが減少する(換言すれば、車両Cの減速に伴って安定領域SAが増大する)。なお、前方から後方に向かって安定基準領域Tの幅Wが増大するような車両の場合には、その減速時において安定領域SAが減少する(換言すれば、加速時において安定領域SAが増大する)。
【0034】
したがって、制御部17は、目標ZMPを算出する共に、車両Cの加減速によって変化し得る車両Cの安定領域SAを算出し、目標ZMPが安定領域SA内に収まるように、車両Cを制御することによって、車両Cが不安定状態となることを抑制する。制御部17の制御の一例としては、例えば、車両Cの旋回時において不安定状態が予測された場合に、車両Cの加減速を制限する加減速制御や、車両Cのロール姿勢角φを制御するためのロール姿勢角制御トルクを制限するトルク制御や、車両Cの旋回運動を制限する旋回制御等が挙げられる。制御部17の制御の詳細については後述する。
【0035】
引き続いて、車両制御装置1の動作について説明する。図4は、図1に示された車両制御装置の動作の主要な工程を示すフローチャートである。図4に示される車両制御装置の動作は、車両Cが旋回を含む挙動を示す場合に関する動作の一例である。図4に示されるように、車両制御装置1においては、車両挙動予測部13が、ドライバ操作を入力する(ステップS101)。より具体的には、車両挙動予測部13は、車両Cのドライバによる車両Cの操作をドライバ操作検出部12から入力する。ここでは、例えば、ドライバによる車両Cのアクセル操作、ブレーキ操作、及びステアリング操作等が入力される。
【0036】
続いて、車両挙動予測部13が、入力したドライバ操作に基づいて、車両Cのドライバが目標とする車両Cの挙動(目標車両挙動)を演算する(ステップS102)。換言すれば、ここでは、車両挙動予測部13は車両Cの今後の挙動を予測する。このステップS102において演算(予測)された目標車両挙動について、以下では「第1目標車両挙動」と称する。これにより、車両挙動予測部13は、第1目標車両挙動の範囲において車両Cに今後生じると考えられるx方向重心加速度A、y方向重心加速度A、z方向重心加速度A、及びロール姿勢角φの角加速度Aφ等の状態量を取得する(すなわち、上記式(1)における各値を取得する)。
【0037】
なお、車両制御装置1がドライバ操作予測部15を備えている場合には、車両挙動予測部13は、例えば、ドライバ操作予測部15によって予測されたドライバ操作に基づいて、目標車両挙動及び状態量を取得してもよい。すなわち、この場合には、後述するように、制御部17は、ドライバ操作予測部15が予測したドライバの操作に基づいて、目標ZMP及び安定領域SAを算出することができる。車両挙動予測部13は、取得した車両Cの状態量を制御部17に出力する。
【0038】
続いて、制御部17が、ステップS102において取得した車両Cの状態量に基づいて、上記式(1)により車両Cの目標ZMPを算出すると共に、状態量及び安定基準領域Tに基づいて安定領域SAを算出する(ステップS103)。安定領域SAは、車両Cのx方向重心加速度Aによって車両Cの重心Gcに生じ得る慣性力F4を考慮することにより、安定基準領域Tに基づいて算出することができる。なお、このステップS103において算出された目標ZMP及び安定領域SAについて、それぞれ、以下では「第1目標ZMP」及び「第1安定領域SA」と称する。
【0039】
続いて、制御部17が、第1目標車両挙動の範囲において、車両Cが安定状態であるか否かを判定する(ステップS104)。ここでは、制御部17は、第1目標ZMPが第1安定領域SA内に収まっているか否かを判定することにより、車両Cが第1目標車両挙動の範囲において安定状態であるか否か(すなわち、第1目標車両挙動の範囲において不安定状態が予測されるか否か)を判定することができる。
【0040】
ステップS104の判定の結果、第1目標車両挙動の範囲において車両Cが安定状態でない場合、すなわち、第1目標車両挙動の範囲において、第1目標ZMPが第1安定領域SA内に収まらず、不安定状態が生じることが予測された場合には、制御部17が、車両Cの加減速を制限する(ステップS105)。
【0041】
ここで、車両Cの安定領域SAは、上述したように、車両Cの加速に伴って減少する。また、車両Cの目標ZMPは、上記式(1)に示されるように、車両Cの重心Gcに生じるy方向重心加速度Aが小さくなると、y方向重心位置yCOGからのずれが小さくなる。したがって、ここでは、車両Cの不安定状態を解消するために、すなわち、目標ZMPを安定領域SA内に収めるために、特に、車両Cの加速を制限する。なお、車両Cが旋回中であるので、車両Cの加速が制限されることにより、車両Cに生じるy方向重心加速度Aも制限される。このように、車両Cの加減速が制限されると、車両Cの今後の挙動が、第1目標車両挙動から別の目標車両挙動へと変化すると考えられる。
【0042】
したがって、続くステップでは、車両挙動予測部13が、ステップS105においてなされた車両Cの加減速の制限を考慮して、改めて目標車両挙動を演算する(ステップS106)。このステップS106において演算される目標車両挙動について、以下では「第2目標車両挙動」と称する。これにより、車両挙動予測部13は、第2目標車両挙動の範囲において、車両Cに今後生じると考えられる状態量を取得する。
【0043】
続いて、制御部17が、ステップS106において取得した車両Cの状態量に基づいて、上記式(1)により車両Cの目標ZMPを算出すると共に、状態量及び安定基準領域Tに基づいて安定領域SAを算出する(ステップS107)。このステップS107において算出された目標ZMP及び安定領域SAについて、それぞれ、以下では「第2目標ZMP」及び「第2安定領域SA」と称する。
【0044】
ここで算出される第2目標ZMPは、車両Cの加速の制限により(すなわち、y方向重心加速度Aの制限より)、第1目標ZMPに比べて、y方向重心位置yCOGからのずれが小さくなると考えられる。また、ここで算出される第2安定領域SAは、車両Cの加速の制限により、第1安定領域SAよりも広くなると考えられる。したがって、第1目標ZMPが第1安定領域SA内に収まらない場合であっても、第2目標ZMPが第2安定領域SA内に収まる場合がある。
【0045】
そこで、続くステップにおいては、制御部17が、第2目標車両挙動の範囲において、車両Cが安定状態であるか否かを判定する(ステップS108)。ここでは、制御部17は、第2目標ZMPが第2安定領域SA内に収まっているか否かを判定することにより、車両Cが第2目標車両挙動の範囲において安定状態であるか否か(すなわち、第2目標車両挙動の範囲において不安定状態が予測されるか否か)を判定する。
【0046】
ステップS108の判定の結果、第2目標車両挙動の範囲において車両Cが安定状態でない場合、すなわち、第2目標車両挙動の範囲において、第2目標ZMPが依然として第2安定領域SA内に収まらず、不安定状態が生じることが予測された場合には、制御部17が、車両Cのロール姿勢角φを制御するためのトルク(ロール姿勢角制御トルク)を制限する(ステップS109)。ここでは、例えば、ロール姿勢角制御トルクを車両Cのロール姿勢角φが一定に保たれる程度に制限したり、そもそも車両Cにロール姿勢角制御トルクを与えないようにしたりする場合が含まれる。
【0047】
このようにロール姿勢角制御トルクを制限すれば、車両Cのロール姿勢角φの角加速度Aφが制限されるため、目標ZMPのy方向重心位置yCOGからのずれがより小さくなると考えられる。また、このようにロール姿勢角制御トルクが制限されると、車両Cの今後の挙動が、第2目標車両挙動から別の目標車両挙動へと変化すると考えられる。
【0048】
したがって、続くステップでは、車両挙動予測部13が、ステップS109においてなされたロール姿勢角制御トルクの制限を考慮して、改めて目標車両挙動を演算する(ステップS110)。このステップS110において演算される目標車両挙動について、以下では「第3目標車両挙動」と称する。これにより、車両挙動予測部13は、第3目標車両挙動の範囲において、車両Cに今後生じると考えられる状態量を取得する。
【0049】
続いて、制御部17が、ステップS110において取得した車両Cの状態量に基づいて、上記式(1)により車両Cの目標ZMPを算出すると共に、状態量及び安定基準領域Tに基づいて安定領域SAを算出する(ステップS111)。このステップS111において算出された目標ZMP及び安定領域SAについて、それぞれ、以下では「第3目標ZMP」及び「第3安定領域SA」と称する。
【0050】
ここで算出される第3目標ZMPは、ロール姿勢角制御トルクの制限に伴うロール姿勢角φの角加速度Aφの制限により、第2目標ZMPに比べて、y方向重心位置yCOGからのずれが小さくなると考えられる。したがって、第2目標ZMPが第2安定領域SA内に収まらない場合であっても、第3目標ZMPが第3安定領域SA内に収まる場合がある。
【0051】
そこで、続くステップにおいては、制御部17が、第3目標車両挙動の範囲において、車両Cが安定状態であるか否かを判定する(ステップS112)。ここでは、制御部17は、第3目標ZMPが第3安定領域SA内に収まっているか否かを判定することにより、車両Cが第3目標車両挙動の範囲において安定状態であるか否か(すなわち、第3目標車両挙動の範囲において不安定状態が予測されるか否か)を判定する。
【0052】
ステップ112の判定の結果、第3目標車両挙動の範囲において車両Cが安定状態でない場合、すなわち、第3目標車両挙動の範囲において、第3目標ZMPが依然として第3安定領域SA内に収まらず、不安定状態が生じることが予測された場合には、制御部17が、車両Cの旋回運動自体を制限する(ステップS113)。ここでは、車両Cのドライバが希望する目標車両挙動(ここでは第3目標車両挙動)に対して、車両Cの旋回軌跡を制限したり、車両Cの旋回時の速度等を制限したりすることができる。
【0053】
例えば、車両Cの旋回半径が大きくなるように旋回運動を制限したり、車両Cの旋回時の速度等を制限したりすれば、車両Cに生じ得るy方向重心加速度Aが小さくなると考えらえる。このように、車両Cの旋回運動が制限されると、車両Cの今後の挙動が、第3目標車両挙動から別の目標車両挙動へと変化する。
【0054】
したがって、続くステップでは、車両挙動予測部13が、ステップS113においてなされた旋回運動の制限を考慮して、改めて目標車両挙動を演算する(ステップS114)。このステップS114において演算される目標車両挙動について、以下では「第4目標車両挙動」と称する。これにより、車両挙動予測部13は、第4目標車両挙動の範囲において、車両Cに今後生じると考えられる状態量を取得する。
【0055】
続いて、制御部17が、ステップS114において取得した車両Cの状態量に基づいて、上記式(1)により車両Cの目標ZMPを算出すると共に、状態量及び安定基準領域Tに基づいて安定領域SAを算出する(ステップS115)。このステップS115において算出された目標ZMP及び安定領域SAについて、それぞれ、以下では「第4目標ZMP」及び「第4安定領域SA」と称する。
【0056】
ここで算出される第4目標ZMPは、旋回運動の制限によって(例えばy方向重心加速度Aが制限されることによって)、第3目標ZMPに比べて、y方向重心位置yCOGからのずれが小さくなると考えられる。したがって、第3目標ZMPが第3安定領域SA内に収まらない場合であっても、第4目標ZMPが第4安定領域SA内に収まる場合がある。
【0057】
そこで、続くステップにおいては、制御部17が、第4目標車両挙動の範囲において、車両Cが安定状態であるか否かを判定する(ステップS116)。ここでは、制御部17は、第4目標ZMPが第4安定領域SA内に収まっているか否かを判定することにより、車両Cが第4目標車両挙動の範囲において安定状態であるか否か(すなわち、第4目標車両挙動の範囲において不安定状態が予測されるか否か)を判定する。
【0058】
ステップS116の判定の結果、第4目標車両挙動の範囲において車両Cが安定状態でない場合、すなわち、第4目標車両挙動の範囲において、第4目標ZMPが依然として第4安定領域SA内に収まらず、不安定状態が生じることが予測された場合には、制御部17が、車両Cが安定状態において旋回を行うことが困難であるとして、非常停止が行われるように車両Cを制御する(ステップS117)。そして、車両制御装置1の動作が終了する。
【0059】
一方、ステップS104の判定の結果、第1目標車両挙動の範囲において車両Cが安定状態である場合、車両Cが第1目標車両挙動の範囲において安定に旋回可能であるとして、第1目標車両挙動を実現するための各種アクチュエータ(例えば、インホイールモータ(IWM)やステアリングアクチュエータ等)の出力を演算する(ステップS118)。また、ステップS108の判定の結果、第2目標車両挙動の範囲において車両Cが安定状態である場合、車両Cが第2目標車両挙動の範囲において安定に旋回可能であるとして、第2目標車両挙動を実現するための各種アクチュエータの出力を演算する(ステップS118)。
【0060】
また、ステップS112の判定の結果、第3目標車両挙動の範囲において車両Cが安定状態である場合、車両Cが第3目標車両挙動の範囲において安定に旋回可能であるとして、第3目標車両挙動を実現するための各種アクチュエータの出力を演算する(ステップS118)。さらに、ステップS116の判定の結果、第4目標車両挙動の範囲において車両Cが安定状態である場合、車両Cが第4目標車両挙動の範囲において安定に旋回可能であるとして、第4目標車両挙動を実現するための各種アクチュエータの出力値を演算する(ステップS118)。
【0061】
そして、それぞれの場合においてステップS118において演算された各種アクチュエータの出力値を、各種アクチュエータに出力して動作を終了する。
【0062】
以上のように、車両制御装置1においては、制御部17は、車両Cの旋回時において第1目標ZMPが第1安定領域SAに収まらない不安定状態が予測された場合には、車両Cの加減速を制限する加減速制御を実施する。また、制御部17は、車両Cの旋回時において第2目標ZMPが第2安定領域SAに収まらない不安定状態が予測された場合には、車両Cのロール姿勢角制御トルクを制限するトルク制御を実施する。さらに、制御部17は、車両Cの旋回時において第3目標ZMPが第3安定領域SAに収まらない不安定状態が予測された場合には、車両Cの旋回運動を制限する旋回制御を実施する。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る車両制御装置1は、前後方向に沿って安定基準領域Tの幅Wが変化する車両Cを制御するためのものであり、目標ZMPが安定領域SA内に収まるように車両の状態を制御する制御部17を備えている。特に、制御部17は、車両Cの旋回時において不安定状態が予測された場合には、車両Cの加減速(ここでは加速)を制限する加減速制御を実施する。これにより、車両Cの旋回時において、車両Cに生じるy方向重心加速度Aが制限されると共に、車両Cの加速に起因して安定領域SAが減少することが抑制される。よって、この車両制御装置1によれば、安定領域SAに目標ZMPが収まらずに不安定状態が生じることを抑制可能である。
【0064】
また、本実施形態に係る車両制御装置1においては、制御部17は、車両Cの旋回時において不安定状態が予測された場合には、車両Cのロール姿勢角φを制御するためのロール姿勢角制御トルクを制限するトルク制御をさらに実施する。このため、ロール姿勢角制御トルクを制限することによって、ロール姿勢角φの角加速度Aφが大きくなることが抑制されるので、目標ZMPが安定領域SAから外れることが確実に抑制される。よって、不安定状態が生じることを確実に抑制可能である。
【0065】
さらに、本実施形態に係る車両制御装置1においては、制御部17は、車両Cの旋回時において不安定状態が予測された場合には、車両Cの旋回運動を制限する旋回制御をさらに実施する。このため、例えば、車両Cの旋回軌跡が大きくなるように旋回運動を制限することにより、車両に生じるy方向重心加速度Aを制限することができる。したがって、目標ZMPが安定領域SAから外れることが確実に抑制される。
【0066】
以上の実施形態は、本発明に係る車両制御装置の一実施形態を説明したものである。したがって、本発明に係る車両制御装置は、上述した車両制御装置1に限定されない。本発明に係る車両制御装置は、各請求項の要旨を変更しない範囲において、上述した車両制御装置1を任意に変形したものとすることができる。
【0067】
例えば、制御部17は、上述した加減速制御のみを行ってもよい。その場合には、制御部17は、例えば、ステップS105において車両Cの加減速の制限を行った後に、ステップS108においてなお不安定状態が予測されたときに、ステップS105に戻って再び車両Cの加減速の制限を行うことができる。
【0068】
また、制御部17は、上述した加減速制御及びトルク制御のみを行ってもよい(すなわち、旋回制御を行わなくてもよい)。その場合には、制御部17は、例えば、ステップS109において車両Cのロール姿勢角制御トルクの制限を行った後に、ステップS112においてなお不安定状態が予測されたときに、ステップS105又はステップS109に戻って再び車両Cの加減速又はロール姿勢角制御トルクの制限を行うことができる。
【0069】
また、制御部17は、上述した加減速制御及び旋回制御のみを行ってもよい(すなわち、トルク制御を行わなくてもよい)。その場合には、制御部17は、例えばステップS108において不安定状態が予測されたときに、ステップS113に移行して車両Cの旋回運動を制限することができる。また、その場合には、制御部17は、例えば、ステップS113において車両Cの旋回運動の制限を行った後に、ステップS116においてなお不安定状態が予測されたときに、ステップS105又はステップS113に戻って再び車両Cの加減速又は旋回運動の制限を行うことができる。
【0070】
また、制御部17が、加減速制御、トルク制御、及び旋回制御を実施する場合には、加減速制御、トルク制御、及び旋回制御の順に実施の優先順位を高く設定してもよい。この場合には、優先順位を設定することにより、不安定状態が生じることを容易且つ確実に抑制可能である。
【0071】
さらに、同様の場合に、制御部17は、加減速制御における車両Cの加減速の制限、トルク制御におけるロール姿勢角制御トルクの制限、及び旋回制御における旋回運動の制限のそれぞれの制限量の割合に重み付けを行うことにより、それぞれの制限量のバランスを考慮してもよい。重み付けを行い制限する例としては、次のような例が挙げられる。
【0072】
すなわち、目標ZMPが安定領域SA内に収まるようにするには、目標ZMPが上記式(1)によって規定されるので、車両Cのドライバが要求する車両挙動(目標車両挙動)の範囲において、y方向重心加速度A(遠心力F2)とロール姿勢角φの角加速度Aφとを調整すればよい。角加速度Aφの調整は、ロール姿勢角制御トルクの調整によって行うことができる。したがって、目標ZMPが安定領域SAに収まる範囲において、y方向重心加速度A及び角加速度Aφ(ロール姿勢角制御トルク)の制限量に重み付けを行って、バランスをとることができる。
【0073】
重み付けの一例として、制御部17は、車両Cの旋回時において不安定状態が予測され、且つ、ロール姿勢角制御トルクを制限することによって目標ZMPが安定領域SA内に収まると予測された場合には、トルク制御におけるロール姿勢角制御トルクの制限量の重みを加減速制御における加減速の制限量の重みよりも大きくすることができる。この場合には、車両Cの加減速を必要以上に制限することなく、目標ZMPを安定領域SA内に収めて不安定状態が生じることを抑制可能である。
【0074】
また、y方向重心加速度Aは、車両Cの加減速と旋回軌跡とに影響される。したがって、y方向重心加速度A=車速V×ヨーレートγとすると、y方向重心加速度Aの制限量を所定量とするためには、車速Vの変化量(すなわち、加減速制御における加減速の制限量)とヨーレートγの制限量(すなわち旋回制御における旋回軌跡の制限量)とに重み付けを行ってバランスをとることができる。このように、制御部17においては、バランスよく目標ZMPを安定領域SA内に収めるために、加減速制御、トルク制御、及び旋回制御における種々の制限量に対して重み付けを行うことができる。
【0075】
なお、制御部17が実施する旋回制御(すなわち、旋回運動の制限)は、車両Cの旋回の際の重心Gcの旋回軌跡を変更する制御を含む。より具体的には、旋回制御においては、ドライバの要求する旋回軌跡とは異なり、そのままの旋回軌跡を維持することや、場合によっては直進するように制御することにより、目標ZMPを安定領域SA内に収まるように旋回軌跡を変更する場合がある。
【0076】
旋回軌跡を変更する例としては、まず、例えばドライバの操作からの予測や自動運転等の走行軌跡が既知の場合等に、その走行軌跡に応じて変化すると考えられる安定領域SAを考慮し、目標ZMPがその安定領域SA内に収まるように拘束条件を与えて重心Gcの目標軌跡を設定する。
【0077】
続いて、そのように設定した目標軌跡に対するロール姿勢角φの軌跡である目標姿勢角軌跡を演算する。そして、必要に応じて目標軌跡を変更しつつ目標姿勢角軌跡の収束演算を繰り返し行うことにより、ロール姿勢角φの制御のためのロール姿勢角制御トルクを求める。つまり、旋回制御は、不安定状態が予測された場合に、車両Cの旋回軌跡を、車両Cの加減速及び/又はロール姿勢角φの変化を抑制しつつ旋回可能な目標軌跡に変更する制御を含む。
【符号の説明】
【0078】
1…車両制御装置、15…ドライバ操作予測部(予測部)、17…制御部(算出部、制御部)。
図1
図2
図3
図4