特許第6139373号(P6139373)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6139373アルミニウム合金用プライマー組成物、および接着部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139373
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金用プライマー組成物、および接着部材
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/06 20060101AFI20170522BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20170522BHJP
   C09J 5/02 20060101ALI20170522BHJP
   C09J 183/06 20060101ALI20170522BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C09D183/06
   C09D5/00 D
   C09J5/02
   C09J183/06
   B32B15/08 Q
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-220740(P2013-220740)
(22)【出願日】2013年10月24日
(65)【公開番号】特開2015-81318(P2015-81318A)
(43)【公開日】2015年4月27日
【審査請求日】2016年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正太郎
【審査官】 小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−001456(JP,A)
【文献】 特開2005−068361(JP,A)
【文献】 特開2012−220556(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/116373(WO,A1)
【文献】 特表2003−531924(JP,A)
【文献】 特開2000−239644(JP,A)
【文献】 特開平03−064380(JP,A)
【文献】 特開2007−211224(JP,A)
【文献】 特開2011−037002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,C09J,B32B
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JDreamIII(JST)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルトリメトキシシランとフェニルトリメトキシシランとグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物からなる加水分解縮合体(A)と、水(B)と、を配合し、アルミニウム合金表面に対する接触角が50度以下であるアルミニウム合金用プライマー組成物。
【請求項2】
グリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物が3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシエチルトリメトキシシラン、グリシドキシエチルトリエトキシシランから選択される請求項1記載のアルミニウム合金用プライマー組成物。
【請求項3】
前記加水分解縮合体(A)100重量部に対し、前記水(B)0.5〜20重量部、および、親水性有機溶剤(C)1〜200重量部を配合して成る請求項1または2記載のアルミニウム合金用プライマー組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のプライマー組成物を介して、前記アルミニウム合金と炭素繊維強化プラスチックとが複合された接着部材であって、塩水処理前後の前記アルミニウム合金と炭素繊維強化プラスチックとの接着強度の比が90%以上である接着部材。
【請求項5】
塩水処理後の前記接着強度が15MPa以上である請求項4記載の接着部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプライマー組成物に関するものであり、特にアルミニウム合金と炭素繊維で強化されたプラスチック(CFRP)を接着する際に、接着剤とアルミニウム合金との間に塗布されるプライマーに関するものである。
【0002】
アルミニウム合金とCFRPから形成される複合材料は軽量で強度が高いことから構造材として広く利用が進んでいるが、アルミニウムと炭素繊維の電気的性質の違いから水中や塩水のような導電性液体に浸漬した場合、アルミニウムが電気腐食され、接着面が破壊されることがあった。本発明はこの電気腐食を押さえ、良好な接着性、構造材としての強度を過酷な使用環境下でも長期にわたり維持できるプライマー組成物に関するものである。
【背景技術】
【0003】
アルミニウム合金は単独で、またはアルマイト加工された後、電着塗装などを施して、建築、自動車等に広く用いられている。しかしながら、単独では強度がやや不足であり、構造材料としてより高い強度が必要な場合にはCFRPを接着した複合材料として用いられている。
【0004】
アルミニウム合金とCFRPとの接着は、複合材料としての強度を発揮するためにきわめて重要な作業、工程である。接着工程は常温あるいは加熱で実施され、接着剤としてユリア樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、α−オレフィン樹脂接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ホットメルト接着剤、ポリウレタン系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、SBR系接着剤、エチレン共重合樹脂接着剤(以上、13398の化学商品、化学工業日報社(1998年)参照)等がある。特にエポキシ樹脂系接着剤は硬化が速く、接着強度が高く、溶剤を含まず、硬化後の収縮も少ないことから、多用されている(例えば、特許文献1)。また、エポキシ樹脂系接着剤ではポリアミン化合物を硬化剤として硬化させることも良く知られていることであり、作業性、硬化性、接着性がよいとされている。
【0005】
しかしながら、仮にこの優れたエポキシ樹脂系接着剤をアルミニウム合金とCFRPの接着に適用した場合にも、初期接着強度は高く良好であるが、接着された複合材を水に浸漬した場合、あるいは、塩水に浸漬した場合、アルミニウム合金とCFRPとの電気的性質の差異から、アルミニウム合金が電気腐食され接着面が破壊されるという現象が起こる(例えば、特許文献2)。すなわち、このことは、このような複合材料が種々変化する自然環境下では使用に耐え難いことを意味している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−255429号公報
【特許文献2】特開2011−073191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、厳しい環境下でも十分な強度を発揮し得るアルミニウム合金用プライマー組成物、および接着部材を提供することにあり、より具体的には強固に接着したアルミニウム合金とCFRPとの複合材料を製造するために有用なアルミニウム合金用プライマー組成物、および接着部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明のアルミニウム合金用プライマー組成物は、メチルトリメトキシシランとフェニルトリメトキシシランとグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物から成る加水分解縮合体(A)と、水(B)とを配合し、アルミニウム合金表面に対する接触角が50度以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のアルミニウム合金用プライマー組成物は、さらに、グリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物が3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシエチルトリメトキシシラン、グリシドキシエチルトリエトキシシランから選択されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のアルミニウム合金用プライマー組成物は、さらに、前記加水分解縮合体(A)100重量部に対し、前記水(B)0.5〜20重量部、および、親水性有機溶剤(C)1〜200重量部を配合して成ることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の接着部材は、上述のプライマー組成物を介して、前記アルミニウム合金と炭素繊維強化プラスチックとが複合された接着部材であって、塩水処理前後の前記アルミニウム合金と炭素繊維強化プラスチックとの接着強度の比が90%以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の接着部材は、さらに、塩水処理後の前記接着強度が15MPa以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のプライマーでアルミニウム合金を処理することにより、接着強度や環境試験において良好な性能を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
メチルトリメトキシシランとフェニルトリメトキシシランとグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物からなる加水分解縮合体(A)を構成するグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、グリシドキシエチルトリメトキシシラン、グリシドキシエチルトリエトキシシラン等があげられる。反応性および材料の入手性の点から3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。該加水分解縮合体(A)は接着剤とアルミニウム合金との間に層を形成し、アルミニウム合金とCFRPとからなる複合材料の耐温水性、耐塩水性を大きく向上するのに寄与する。
該加水分解縮合体を構成するグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物の割合が25〜50モル%である時、より耐温水性、耐塩水性が向上するため好ましい。
【0015】
水(B)は通常の飲料水、工業用水でよいが、25℃における電導度が500μs/cm以下のイオン交換水であるとき、耐温水性、耐塩水性、接着強度が向上する傾向にあり好ましい。すなわち、水中に含まれるイオン性不純物は、特にアニオンは、アルミニウム合金の腐食を促進するため避ける方が望ましい。上記電導度の下限は特にないが、通常は0. 05μs/cm程度である。
【0016】
水(B)はメチルトリメトキシシランとフェニルトリメトキシシランとグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物からなる加水分解縮合体(A)100重量部に対して0.5〜20重量部配合される。0.5重量部未満の場合には、アルミニウム合金に対する濡れ性が不足し、均一に塗布することができない場合がある。20重量部を超えて使用する場合にはアルミニウム合金と接着剤との間に水がいつまでも残存し、耐温水性、耐塩水性がむしろ悪化する傾向にある。水(B)は好ましくは1〜10重量部使用する。このとき、接着性、耐塩水性が一段と優れるものとなる。
【0017】
親水性有機溶剤(C)としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等のグリコールエーテル類、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン等、水と任意の割合で混合できるものを指す。該化合物はプライマー組成物の表面張力を下げ、アルミニウム合金に対する濡れ性を向上し、アルミニウム合金表面にプライマー層が均一に形成されるのを推進する。この観点から、さらに、界面活性剤(例えば、13398の化学商品、1193ページ〜1220ページ、化学工業日報社(1998))の添加も推奨され、特に、プライマーの貯蔵安定性の点でノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0018】
親水性有機溶剤(C)はメチルトリメトキシシランとフェニルトリメトキシシランとグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物とからなる加水分解縮合体(A)100重量部に対して1〜200重量部使用する。1重量部未満ではプライマーの表面張力を十分に下げることができず、アルミニウム合金への濡れ性が悪くなり接着力が低下する傾向にある。200重量部を超えて使用する場合にはプライマー塗布時に排出溶剤量が多くなり、作業環境上好ましくない。また、プライマーを乾燥、硬化した後にも溶剤が残りやすく接着強度が低下する場合がある。
【0019】
また、さらに、本発明においてはプライマーの硬化を促進するためにアルミニウム系触媒やスズ系触媒を用いることができる。該アルミニウム系触媒としては、例えば、アルミニウムトリスアセチルアセトネート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムイソプロピレートビス(オレイルアセトアセテート)等が挙げられる。該スズ錫系触媒としては、例えば、ジブチルスズジアセテート、ビス(アセトキシジブチルスズ)オキサイド、ビス(ラウロキシジブチルスズ)オキサイド、ジブチルスズビスアセチルアセトナート、ジブチルスズビスマレイン酸モノブチルエステル、ジオクチルビスマレイン酸モノブチルエステル等が挙げられる。
上記触媒の使用量としては、上記加水分解縮合体(A)の質量に対して、0.1ppm〜10%であることが好ましい。より好ましい上限値は5%である。
【0020】
本発明のプライマー組成物はアルミニウム合金表面に対する接触角が50度以下であることが必要である。接触角が50度を超える場合には、プライマーをアルミニウム合金に塗布した際、ハジキが生じ均一な被膜を形成することができない場合がある。アルミニウム合金に対する接触角は40度以下であることがより好ましく、30度以下であることが更に好ましい。このとき接着強度、耐塩水性、耐温水性がより向上する。接触角の下限値は0度である。
プライマーのアルミニウム合金に対する接触角は接触角計(協和界面化学(株)製接触角計”FACECA−D型”)により、常法に従って測定する。
【0021】
基材(例えばアルミニウム合金)の保護(塩水浸漬などでの接着破壊を防止する)のために、プライマー組成物は接着剤を塗布する前工程で使用されるのが好ましい。すなわち、基材表面(アルミニウム合金表面)にプライマー組成物を塗布した後、接着剤を塗布し、さらにCFRP(炭素繊維強化プラスチック)等を接合することが望ましい。この時、接着剤がエポキシ樹脂系接着剤であることがより望ましく、接着強度、すなわち、複合材料の信頼性がなお一層向上する。基材(アルミニウム合金)と、基材の表面に塗布されるプライマー組成物と、プライマー組成物上に塗布される接着材と、プライマー組成物と接着材とを挟んで基材と複合し一体化されるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)とにより接着部材が構成される。従って、本発明のプライマー組成物は、上記のメチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、グリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物からなる加水分解縮合体(A)を含有するエポキシ接着剤用のプライマー組成物を提供することにもなる。
【0022】
接着部材の塩水浸漬後の接着強度は塩水浸漬前の80%以上を保持することが必要である。これ未満になってしまうと、複合材の強度、信頼性が失われる。さらに、接着部材の塩水浸漬されたあとの接着強度は15MPa以上であることが望ましい。15MPa以下に低下してしまうと、複合材料の強度が維持されず、信頼性、安全性が失われる。上限は50MPaであってもよいが、通常は30MPa程度である。
【0023】
プライマー組成物はメチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、グリシドキシアルキルトリアルコキシシラン化合物からなる加水分解縮合体(A)、水(B)、親水性有機溶剤(C)を均一に混合できればどのような手段でも製造できる。すなわち、撹拌装置の付いた容器に上記加水分解縮合体(A)、水(B)、親水性有機溶剤(C)を仕込み、均一になるまで撹拌、混合すればよい。
【0024】
プライマー組成物には、必要であれば、これらのほかに二酸化チタン、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化鉄、二酸化珪素等の顔料、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、石油スピリット等の有機溶剤、染料、レベリング剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の塗料添加剤、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の合成高分子化合物(塗料用として使用されるものがより好適である)(参照;13398の化学商品、1223ページ〜1249ページ、化学工業日報社(1998))等の塗料、接着剤、インキに通常配合される種々原料、化合物を併用することもできる。また、接着剤の接着強度を向上させる意味でプライマーを接着剤に混合使用することも可能である。このとき、プライマーと接着剤との間に良好ななじみ性が生じ、接着強度、基材の保護機能が向上する。
【0025】
さらに、容易に推察されるように、本発明のプライマー組成物はアルミニウム合金とCFRP(炭素繊維強化プラスチック)とを接着材により接着する時に接着材の下地として使用されることで、機能、効果を発揮するばかりでなく、電気伝導性物品と電気伝導性物品、より適しているのは電気伝導性の異なる2種類以上の電気伝導性物品を接着、接合する際にも機能、効果をいかんなく発揮し、高い接着強度を発揮し、電気腐食による接着の破壊を防止する。
【0026】
実施例
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、特に明記しない限り、実施例における部および%は質量基準である。
【0027】
製造例1 メチルトリメトキシシランの加水分解縮合体の製造
メチルトリメトキシシラン408部をイソプロピルアルコール450部に溶解した。ここに、メトキシシリル基のモル数と同じモル数となる水162部と酸触媒として塩酸1部とを添加して、40℃で1時間攪拌し、さらに75℃で1時間攪拌を行った後、濃縮してメチルトリメトキシシランの加水分解縮合体を得た。IRによる分析で、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。
【0028】
製造例2 フェニルトリメトキシシランの加水分解縮合体の製造
フェニルトリメトキシシラン595部をイソプロピルアルコール200部とトルエン400部の混合液に溶解した。ここに、メトキシシリル基のモル数と同じモル数となる水162部と酸触媒として塩酸1部とを添加して、40℃で1時間攪拌し、さらに75℃で1時間攪拌を行った後、濃縮してフェニルトリメトキシシランの加水分解縮合体を得た。IRによる分析で、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。
【0029】
製造例3 グリシドキシアルキルトリアルコキシシランの加水分解縮合体の製造
グリシドキシプロピルトリメトキシシラン460部をイソプロピルアルコール390部に溶解した。ここに、メトキシシリル基のモル数と同じモル数となる水105部と酸触媒として塩酸1部とを添加して、40℃で1時間攪拌し、さらに75℃で1時間攪拌を行った後、濃縮してグリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解縮合体を得た。IRによる分析で、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。
【0030】
実施例1
メチルトリメトキシシラン47.7部、フェニルトリメトキシシラン69.4部、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン79.8部をイソプロピルアルコールとメチルイソブチルケトンとの2/1(質量比)混合物154部に溶解した。ここに、系内のメトキシシリル基のモル数と同じモル数となる水56.7部と酸触媒として塩酸1部とを添加して、40℃で2時間攪拌し、さらに80℃で3時間攪拌を行った後、濃縮してポリシラノール組成物を得た。IRによる分析で、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。H−NMRによる分析で、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン由来のエポキシ基が残存していることを確認した。
【0031】
得られたポリシラノール組成物100部をテトラヒドロフランとエトキシエタノールとの1/4(質量比)混合物50部に加えて溶解後、さらに水10部を添加して、プライマーを製造した。このプライマーのアルミニウムに対する接触角は40度であった。
【0032】
実施例2
実施例1において、メチルトリメトキシシランの量を143.1部に、水の量を94.5部に、および、塩酸の量を2部にそれぞれ変更すること以外は同様にして、ポリシラノール組成物を得た。IRによる分析で、メトキシシリル基に基づくC−Hの吸収は確認されなかった。H−NMRによる分析で、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン由来のエポキシ基が残存していることを確認した。
【0033】
得られたポリシラノール組成物100部をテトラヒドロフランとエトキシエタノールとの1/4(質量比)混合物50部に加えて溶解後、さらに水10部とアルミニウム系硬化触媒としてアルミニウムトリスアセチルアセトネート5部を添加してプライマーを製造した。このプライマーのアルミニウムに対する接触角は40度であった。
【0034】
実施例3
製造例1で得られたメチルトリメトキシシランの加水分解縮合体19部、製造例2で得られたフェニルトリメトキシシランの加水分解縮合体37部、製造例3で得られたグリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解縮合体47部を、テトラヒドロフランとエトキシエタノールとの1/4(質量比)混合物50部に加えて溶解後、さらに水10部とアルミニウム系硬化触媒としてアルミニウムトリスアセチルアセトネート5部を添加して、プライマーを製造した。このプライマーのアルミニウムに対する接触角は40度であった。
【0035】
比較例1
製造例1で得られたメチルトリメトキシシランの加水分解縮合体100部をテトラヒドロフランとエトキシエタノールとの1/4(質量比)混合物50部に加えて溶解後、さらに水10部とアルミニウム系硬化触媒としてアルミニウムトリスアセチルアセトネート5部を添加して、比較用のプライマーを製造した。このプライマーのアルミニウムに対する接触角は40度であった。
【0036】
比較例2
製造例2で得られたフェニルトリメトキシシランの加水分解縮合体100部をテトラヒドロフランとエトキシエタノールとの1/4(質量比)混合物50部に加えて溶解後、さらに水10部とアルミニウム系硬化触媒としてアルミニウムトリスアセチルアセトネート5部を添加して、比較用のプライマーを製造した。このプライマーのアルミニウムに対する接触角は40度であった。
【0037】
比較例3
製造例1で得られたメチルトリメトキシシランの加水分解縮合体34部と製造例2で得られたフェニルトリメトキシシランの加水分解縮合体66部をテトラヒドロフランとエトキシエタノールとの1/4(質量比)混合物50部に加えて溶解後、さらに水10部を添加して、比較用のプライマーを製造した。このプライマーのアルミニウムに対する接触角は40度であった。
【0038】
比較例4
製造例1で得られたメチルトリメトキシシランの加水分解縮合体29部と製造例3で得られたグリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解縮合体71部をテトラヒドロフランとエトキシエタノールとの1/4(質量比)混合物50部に加えて溶解後、さらに水10部とアルミニウム系硬化触媒としてアルミニウムトリスアセチルアセトネート5部を添加して、比較用のプライマーを製造した。このプライマーのアルミニウムに対する接触角は40度であった。
以上のプライマーを使用し、試験を行った。試験項目、試験方法、結果の評価方法を次に示す。また、試験結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
試験は、サンディング、トルエン脱脂した厚さ5mmのアルミニウム板材(6063系(JIS))の片面に実施例1〜3で得られたプライマーおよび比較例1〜4で得られた比較用のプライマーを皮膜厚が5μm以下になるよう塗布、150℃で2時間加熱乾燥を行加熱乾燥を行った後、エポキシ樹脂接着剤(「ケミットエポキシTSA2200」(東レ(株)の製品))を厚さが30〜50μmになるよう塗布し、その上に引張強度3.5GPa、弾性率230GPaの炭素繊維を強化繊維とするエポキシ樹脂マトリックスCFRP(炭素繊維の体積含有率60%、厚さ1.5mm)を接合し、室温で48時間接着剤の硬化を行い、得た試験片を使用し行った。接着強度:JIS K−6850に準拠し測定、評価する。接着強度が15MPa以上を合格とする。
【0041】
耐水性:試験片を電導度が1.0μs/cmのイオン交換水(40℃)に240時間浸漬し、試験前後の接着強度を測定した。試験後の接着強度の保持率が90%以上で、接着強度が15MPa以上ものを合格とする。
【0042】
耐塩水性:試験片を5%塩水(25℃)に240時間浸漬し、試験前後の接着強度を測定した。試験後の接着強度の保持率が90%以上で、接着強度が15MPa以上ものを合格とする。
【0043】
耐水性塗料性:試験片を水性塗料(例えば、水70%程度、有機溶剤20%程度、残りは顔料等)(45℃)に240時間浸漬し、試験前後の接着強度を測定した。試験後の接着強度の保持率が90%以上で、接着強度が15MPa以上ものを合格とする。
【0044】
本発明の実施例のプライマーを用いたアルミニウム合金とCFRPの接合材料では、耐水性、耐塩水性、耐水性塗料性も良好であった。
これに対して、比較用プライマーを用いた接合材料では、それぞれ問題点を有していた。すなわち、グリシドキシアルキルトリアルコキシシランを用いない比較例1、2、3では、得られた接合材料の初期の接合強度の低下がみられたばかりでなく、耐水性、耐塩水性、耐水性塗料性も著しく低下した。また、メチルトリメトキシシランとグリシドキシプロピルトリメトキシシランの各加水分解縮合体の混合物を成分とする比較例4では、実施例1、2、3と比較して、耐水性塗料性での低下がみられた。
【0045】
本発明のプライマーでアルミニウム合金を処理することにより、初期の接着強度はもちろん、環境試験(耐水性、耐塩水性、耐水性塗料性)でも良好な性能を発揮する。すなわち、本発明のプライマーを使用することにより、従来の建築や自動車等の分野だけでなく、水性塗料に関わるディスプレイ材料や塗装及び印刷装置材料分野等で好適に用いることができる実用性に優れたアルミニウム/CFRP複合材料が得られる。