(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧粉磁心に求められる代表的な特性は、高強度、高比抵抗(低損失)、高磁束密度の3つである。しかし、これらの特性をのうち少なくとも1つの特性を向上させようとした場合、他の特性が損なわれるおそれがある。
【0006】
たとえば、圧粉磁心の高比抵抗(低損失)を実現しようとして、絶縁層への絶縁物質の添加量を増大させると、圧粉磁心の強度および磁束密度が低下してしまう。また、圧粉磁心の高強度を実現しようとして、粉末を構成する粒子同士を結合するバインダーを添加すると、圧粉磁心の磁束密度が低下してしまう。さらに、圧粉磁心の高磁束密度を実現しようとして、絶縁層への絶縁物質の添加量を低減すると、圧粉磁心の比抵抗が増大してしまう。
【0007】
ここで、圧粉磁心は、絶縁層を被覆した粒子で構成される圧粉磁心用粉末を加圧成形に所望の形状にした後、成形時に導入される歪を除去する目的で熱処理(焼鈍)することにより得られる。圧粉磁心の強度は、絶縁層の強度もしくは、絶縁層同士の結合強度により決定されるが、特許文献1の技術では、絶縁層同士の結合強度を向上させる官能基(ビニル基)が粒子(粉末)の表面に少ないため、圧粉磁心に十分な強度が得られないことがあった。
【0008】
圧粉磁心の鉄損は、ヒステリシス損失(ヒス損)と渦電流損失(渦損)の和で表すことができる。このヒス損の低減は、600℃以上(純鉄粉使用時)の焼鈍で、粒子間を絶縁することにより達成される。しかしながら、600℃以上の温度で焼鈍した場合、絶縁層を構成する絶縁物質(シリコーン樹脂)の破壊に由来し、圧粉磁心の比抵抗の低下が生じ、渦損が増大するおそれがあった。
【0009】
圧粉磁心の磁束密度は材料中の磁性物質の割合や、磁性物質間の距離に依存する。ここで、圧粉磁心の強度向上のためのバインダーや、比抵抗向上のために絶縁物質を添加すると、磁性物質の割合が減少し、磁束密度が低下することがあった。
【0010】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高強度、高比抵抗、および高磁束密度を同時に満たす圧粉磁心用粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決すべく、本発明に係る圧粉磁心用粉末は、磁性粒子からなる磁性粉末の粒子表面に絶縁層が被覆された圧粉磁心用粉末であって、前記絶縁層は、前記磁性粒子を覆う第1のシリコーン樹脂からなる第1の絶縁層と、第1の絶縁層の表面に被覆された第2のシリコーン樹脂からなる第2の絶縁層と、を少なくとも備えており、前記第2のシリコーン樹脂は、ビニルシランとヒドロシランとを含み、かつ、側鎖として、メチル基と、ヒドロシランとヒドロシリル化反応をさせるためのビニル基とを含み、前記ビニル基を、全側鎖中、10〜30%含有し、前記メチル基を、全側鎖中、20〜50%含有しており、前記第1のシリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分として、該オルガノポリシロキサンは、下記T2,T3で表される含ケイ素結合単位を前記単位の個数の割合で、T3/(T2+T3)≧0.55を満たしていることを特徴とする。
T2:R−Si(−OX)(−O
*−)
2
T3:R−Si(−O
*−)
3
(式中、Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基を表し、Xは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、O
*は2つのケイ素原子を連結する酸素原子を表す。)
【0012】
本発明によれば、第2の絶縁層に、ビニルシランSi−CH=CH
2と、ヒドロシランSi−Hと、を含む第2のシリコーン樹脂からなることにより、圧粉磁心の製造段階で、隣接する圧粉磁心用粉末の粒界において、すなわち高分子樹脂絶縁層同士の間(絶縁層の表層部間)において、ビニルシランとヒドロシランとのヒドロシリル化反応(付加反応)を発現させることができる。
【0013】
この結果、隣接する圧粉磁心用粉末の粒界(高分子樹脂絶縁層同士の間)には、Si−C−C−Si結合が得られる。この層間の化学結合により、圧粉磁心の磁気特性を低下させることなく、圧粉磁心の機械的強度を向上させることができる。さらに、ヒドロシリル化反応を発現させるために加熱すべき温度領域は、圧粉磁心の成形後の焼鈍時の加熱すべき温度領域とラップするので、焼鈍時に合わせてこの反応を発現させることができる。
【0014】
さらに、本発明では、第2のシリコーン樹脂の側鎖のビニル基、すなわち、Si−Hのヒドロシランとヒドロシリル化反応するビニルシランのビニル基を、全側鎖中、10〜30%含有している。すなわち、シリコーン樹脂は、Si−Hのヒドロシランを、ビニル基と同等の割合または、それ以上の割合で含有することになる。これにより、焼鈍後の圧粉磁心の強度を確実に高めることができる。すなわち、ビニル基が10%未満の場合は、充分な強度を得ることができず、30%を超える場合には、以下に示すメチル基を、充分に含有させることができない。さらに、シリコーン樹脂の側鎖のメチル基を、全側鎖中、20〜50%含有することにより、渦損を低減することができる。
【0015】
さらに、第1のシリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分として、オルガノポリシロキサンをT2,T3で表される含ケイ素結合単位を前記単位の個数の割合で、T3/(T2+t3)≧0.55含んでいるので、焼鈍時に750℃まで加熱したとしても、重量変化が20質量%以下となり(T3の構造が20%以上残存し)、圧粉磁心の磁性粉末(磁性粒子)間の絶縁性を高め、圧粉磁心の比抵抗を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ビニルシランとヒドロシランとのヒドロシリル化反応により、圧粉磁心の磁気特性の低下を伴うことなく、機械的強度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して、本発明に係る圧粉磁心用粉末の一実施形態に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る圧粉磁心用粉末を示した模式図を示している。
図1に示すように、本実施形態に係る圧粉磁心用粉末は、絶縁層が被覆された粒子の集合体であり、鉄系の磁性粒子11の粒子表面に絶縁層が被覆されている。絶縁層は、圧粉磁心用粉末の表層部(外側層)に、後述する高分子樹脂絶縁層を有している。
【0020】
磁性粒子11は、ガスアトマイズにより製造された純鉄からなる粒子(ガスアトマイズ粉からなる粒子)であり、平均粒径が450μm以下の軟磁性金属粒子である。絶縁層は、酸化物絶縁層(12,13)と、高分子樹脂絶縁層(14,15)とからなる多層構造の層である。
【0021】
酸化物絶縁層(12,13)は、磁性粒子11と高分子樹脂絶縁層(14、15)との間に形成された層であり、リン酸塩を含む絶縁層12と、Al−Si系酸化物を含む絶縁層13とを備えた二層構造である。
【0022】
リン酸塩を含む絶縁層12は、磁性粒子11の表面に被覆されており、さらに、Al−Si系酸化物を含む絶縁層13は、リン酸塩を含む絶縁層12を被覆している。すなわち、酸化物絶縁層は、磁性粒子11の粒子表面から高分子樹脂絶縁層(14、15)に向かって、リン酸塩を含む絶縁層12及びAl−Si系酸化物を含む絶縁層13を順次形成することになる。
【0023】
ここで、リン酸塩を含む絶縁層12とAl−Si系酸化物を含む絶縁層13とは、下地層として作用するものであり、リン酸塩を含む絶縁層12は、例えば、PO、SrPO、SrBPOなどのリン酸塩を含み、より好ましくは、SrBPOを含むことが望ましい。また、Al−Si系酸化物を含む絶縁層13は、Al−Si系アルコキシドから製作されることが望ましい。
【0024】
高分子樹脂絶縁層は、Al−Si系酸化物を含む絶縁層13が被覆された磁性粒子を覆う第1のシリコーン樹脂からなる第1の絶縁層14と、第1の絶縁層の表面に被覆された第2のシリコーン樹脂からなる第2の絶縁層15とで構成されている。
【0025】
絶縁層14を被覆する第2の絶縁層15を構成する第2のシリコーン樹脂は、側鎖として、メチル基と、前記ヒドロシランとヒドロシリル化反応をさせるためのビニル基とを含み、前記第2のシリコーン樹脂は、前記ビニル基を、全側鎖中、10〜30%含有し、前記メチル基を、全側鎖中、20〜50%含有している。
【0026】
第1の絶縁層14を構成する前記第1のシリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分として、該オルガノポリシロキサンは、下記T2,T3で表される含ケイ素結合単位を前記単位の個数の割合で、T3/(T2+T3)≧0.55を満たしている。
T2:R−Si(−OX)(−O
*−)
2
T3:R−Si(−O
*−)
3
(式中、Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基を表し、Xは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、O
*は2つのケイ素原子を連結する酸素原子を表す。)
【0027】
一般に、オルガノポリシロキサンはM構造(M単位)、D構造(D単位)、T構造(T単位)、Q構造(Q単位)と呼ばれる含ケイ素結合単位から構成される。このうち、硬化性のオルガノポリシロキサンは主としてT単位またはQ単位から構成されるオリゴマー状のポリマーである。T単位のみから構成されるポリマー、Q単位のみから構成されるポリマー、T単位とQ単位から構成されるポリマーがある。また、それらポリマーは少量のM単位やD単位をさらに含むこともある。
【0028】
硬化性のオルガノポリシロキサンにおいて、T単位は、1個のケイ素原子を有し、そのケイ素原子に結合した1個の水素原子または1価の有機基と、他のケイ素原子に結合した酸素原子(または他のケイ素原子に結合できる官能基)3個とを有する単位である。ケイ素原子に結合した1価の有機基はケイ素原子に結合する原子が炭素原子である1価の有機基である。他のケイ素原子に結合できる官能基は水酸基または加水分解により水酸基となる基(以下加水分解性基という)である。他のケイ素原子に結合した酸素原子と他のケイ素原子に結合できる官能基の合計は3個であり、他のケイ素原子に結合した酸素原子と他のケイ素原子に結合できる官能基の数の違いにより、T単位はT1、T2、T3と呼ばれる3種の単位に分類される。T1は他のケイ素原子に結合した酸素原子の数が1個、T2はその酸素原子の数が2個、T3はその酸素原子の数が3個である。本明細書等においては、他のケイ素原子に結合した酸素原子をO*で表し、他のケイ素原子に結合できる1価の官能基をZで表す。
【0029】
なお、他のケイ素原子に結合した酸素原子を表すO
*は、2個のケイ素原子間を結合する酸素原子であり、Si−O−Siで表される結合中の酸素原子である。したがって、O
*は、2つの含ケイ素結合単位のケイ素原子間に1個存在する。言い換えれば、O
*は、2つの含ケイ素結合単位の2つのケイ素原子に共有される酸素原子を表す。上述の含ケイ素結合単位の化学式において、1つのケイ素原子にO
*が結合している様に表現するが、このO
*は他の含ケイ素結合単位のケイ素原子と共有している酸素原子であり、2つの含ケイ素結合単位がSi−O
*−O
*−Siで表される結合で結合することを意味するものではない。なお、T単位を形成するモノマーを以下Tモノマーという。
【0030】
モノマーは、(R’−)
aSi(−Z)
4−aで表される。ただし、aは0〜3の整数、R’は水素原子または1価の有機基、Zは水酸基または他のケイ素原子に結合できる1価の官能基を表す。この化学式において、a=1の化合物がTモノマーである。モノマーにおいて、Z基は通常加水分解性基である。また、R’が2または3個存在する場合(aが2または3の場合)、複数のR’は異なっていてもよい。R’としては、後述の好ましいRと同じ範疇のものが好ましい。
【0031】
上記化学式におけるRは、1種に限定されず、T2、T3はそれぞれ複数種のRを含んでいてもよい。また、上記化学式における−OXは水酸基またはアルコキシ基を表す。−OXはT1およびT2の間で同一であっても異なっていてもよい。T1における2つの−OXは異なっていてもよく、例えば、一方が水酸基で他方がアルコキシ基であってもよい。また、2つの−OXがいずれもアルコキシ基である場合、それらのアルコキシ基は異なるアルコキシ基であってもよい。ただし、後述のように、通常は2つのアルコキシ基は同一のアルコキシ基である。
【0032】
オルガノポリシロキサン中のT2、T3は、核磁気共鳴分析(
29Si−NMR)によりオルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態を測定して解析できる。T2、T3の数の比は、
29Si−NMRのピーク面積比から求める。オルガノポリシロキサン分子中の−OXは、赤外吸光分析により解析できる。ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基の数の比は両者の赤外吸収ピークのピーク面積比から求める。
【0033】
オルガノポリシロキサン中には、1分子中に複数存在するT2、T3はそれぞれ異なる2種以上が存在していてもよい。例えば、Rが異なる2種以上のT2が存在していてもよい。このようなオルガノポリシロキサンは2種以上のTモノマーの混合物から得られる。例えば、Rが異なる2種以上のTモノマーの混合物から得られるオルガノポリシロキサン中には、Rが異なるそれぞれ2種以上のT2、T3が存在すると考えられる。Rが異なる複数のT単位のモノマーの混合物から得られたオルガノポリシロキサン中の異なるRの数の比は、T単位全体として、Rが異なるTモノマー混合物の組成比を反映している。
【0034】
Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基を表し、非置換の1価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルアルキル基等の炭化水素基が挙げられる。置換の1価の有機基としては、シクロアルキル基、アリール基、アルアルキル基等の環の水素原子がアルキル基で置換された炭化水素基、前記炭化水素基の水素原子がハロゲン原子、官能基、官能基含有有機基等で置換された置換有機基等がある。
【0035】
オルガノポリシロキサン(T)は、モノマー等を部分加水分解縮合させることによって得られる。通常、Tモノマー等と水とを溶媒中で加熱することによりこの反応を行う。反応系には触媒を存在させることが好ましい。モノマーの種類、水の量、加熱温度、触媒の種類や量、反応時間等の反応条件を調節して目的のオルガノポリシロキサンを製造することができる。また、場合によっては市販のオルガノポリシロキサンをそのまま、目的のオルガノポリシロキサンとして使用することや、市販のオルガノポリシロキサンを使用して目的とするオルガノポリシロキサンを製造することも可能である。
【0036】
たとえば、メチル系シリコーンレジンKR−220L(商品名、信越化学工業社製)の場合には、T2:T3=28:72の割合でT2およびT3が含有しており、T3/(T2+T3)=0.78≧0.55、メチル系シリコーンレジンKR−500(商品名、信越化学工業社製)では、T2:T3=58:27の割合でT2およびT3が含有しており、T3/(T2+T3)=0.32<0.55含有している。
【0037】
このような圧粉磁心用粉末は、以下のようにして製造される。まず、ガスアトマイズにより製造された純鉄からなる磁性粉末を準備する。そして、この磁性粒子11からなる磁性粉末に対して、リン酸塩処理を行う。このリン酸塩処理は、一般的に知られた処理であり、例えば、イオン交換水に、リン酸を主剤として、炭酸ストロンチウム、ホウ酸を溶解した処理液を作製する。この処理液に磁性粉末を浸漬させて、処理液を攪拌し、その後、窒素雰囲気中で乾燥させることにより、磁性粉末の表面が酸化した酸化物と、リン酸塩とを含む、絶縁層12を得ることができる。このような絶縁層12は、磁性粒子11の一部が皮膜となったものであり、後述する絶縁層13とも馴染み性がよい。
【0038】
次に、例えばアミノプロピルトリエトキシシランなどのSiアルコキシド(好ましくはビニルトリメトキシシランをさらに含むSiアルコキシド)と、Alアルコキシド(例えば、アルミニウムイソブトキシド)とを脱水有機溶媒(例えばテトラビドロフラン)に混合してアルコキシド含有溶液を作製し、アルコキシド含有溶液に磁性粉末を含浸し、脱水有機溶媒を乾燥して除去する。これにより、絶縁層12の表面に、Si−Al系酸化物を含む絶縁層13がさらに形成される。さらにビニルトリメトキシシランを含む場合には、この絶縁層13は、ビニルシランを含むことになる。
【0039】
次に、アルコール等の有機溶媒に、オルガノポリシロキサンを主成分とした第1のシリコーン樹脂を溶解したシリコーン樹脂含有溶液を作製し、絶縁層13が形成された磁性粒子11からなる粉末を含浸し、その後有機溶媒を乾燥させて除去する。これにより、絶縁層13の表面に、さらに、第1のシリコーン樹脂からなる第1の絶縁層14が形成される。
【0040】
次に、アルコール等の有機溶媒に、ビニルシランとヒドロシランとを含む第2のシリコーン樹脂を溶解したシリコーン樹脂含有溶液を作製し、第1の絶縁層14が形成された磁性粒子11からなる粉末を含浸し、その後有機溶媒を乾燥させて除去する。これにより、第1の絶縁層14の表面に、さらに、第2のシリコーン樹脂からなる第2の絶縁層15が形成される。
【0041】
ここで、第1の絶縁層と第2の絶縁層のシリコーン樹脂の総添加量は、0.6質量%以下であることが好ましく、第1の絶縁層の第1のシリコーン樹脂と第2の絶縁層の第2のシリコーン樹脂の割合は、樹脂添加総量に対して第2のシリコーン樹脂が20〜80質量%、好ましくは40〜70質量%である。
【0042】
このようにして製造された絶縁層被覆粒子10の集合体である圧粉磁心用粉末から、圧粉磁心を製造する。成形型の内面に、高級脂肪酸系潤滑剤を塗布し、前述した圧粉磁心用粉末を成形型内に充填し、加圧成形する。金型潤滑温間成形法をすべく金型を加熱してもよい。この場合、加圧力は、500〜2000MPaで、行うことが好ましい。潤滑剤を用いることにより、圧粉磁心と金型とのかじり等の発生を防止し、より高圧で成形が可能となり、脱型も容易に行なうことができる。
【0043】
このようにして、ビニルシランとヒドロシランのヒドロシリル化反応を発現させる。具体的には、成形後の圧粉磁心を300℃〜1000℃の温度範囲内の温度条件で、より好ましくは、窒素雰囲気中又は真空中で(無酸素雰囲気下で)、加熱することにより、圧粉磁心用粉末のAl−Si系酸化物を含む隣接する圧粉磁心用粉末の第2の絶縁層15,15同士の間において、ビニルシランとヒドロシランとをヒドロシリル化反応させると共に、圧粉磁心を焼鈍する。このように、本実施形態では、圧粉磁心の焼鈍と同時に、ヒドロシリル化反応を発現することができ、Si−C−C−Si結合が得られる。
【0044】
このような熱処理を行なうことによって、ヒドロシリル化反応により、隣接する圧粉磁心用粉末の第2の絶縁層15,15同士の間において、Si−C−C−Si結合が生成され、圧粉磁心の磁気特性を低下させることなく、圧粉磁心の機械的強度を向上させることができる。また、焼鈍により、成形時に付与された圧粉磁心の磁性粒子11の歪を除去することができる。
【0045】
また、磁性粒子11の表面にリン酸塩を含む絶縁層が形成され、このリン酸塩を含む絶縁層と磁性粒との密着性が向上する。さらに、Al−Si系酸化物を含む絶縁層と高分子樹脂絶縁層とを順次積層することにより、これらの層間の密着性を向上させることができる。この結果、磁性粒に対する高分子樹脂絶縁層の馴染み性がさらに向上することになる。
【0046】
第2のシリコーン樹脂の側鎖のビニル基、すなわち、Si−Hのヒドロシランとヒドロシリル化反応するビニルシランのビニル基を、全側鎖中、10〜30%含有している。すなわち、シリコーン樹脂は、Si−Hのヒドロシランを、ビニル基と同等の割合または、それ以上の割合で含有することになる。これにより、焼鈍後の圧粉磁心の強度を確実に高めることができる。すなわち、ビニル基が10%未満の場合は、充分な強度を得ることができず、30%を超える場合には、以下に示すメチル基を、充分に含有させることができない。さらに、シリコーン樹脂の側鎖のメチル基を、全側鎖中、20〜50%含有することにより、渦損を低減することができる。
【0047】
さらに、第1のシリコーン樹脂は、オルガノポリシロキサンを主成分として、オルガノポリシロキサンをT2,T3で表される含ケイ素結合単位を前記単位の個数の割合で、T3/(T2+t3)≧0.55含んでいるので、焼鈍時に750℃まで加熱したとしても、重量変化が20質量%以下となり(T3の構造が20%以上残存し)、圧粉磁心の磁性粉末(磁性粒子)間の絶縁性を高め、圧粉磁心の比抵抗を高めることができる。
【実施例】
【0048】
以下の本発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
<圧粉磁心用粉末の作製>
〔リン酸塩を含む絶縁層の作製〕
粒径が150μm〜212μmの純鉄粒子からなるガスアトマイズ粉末(鉄粉)を準備して、リン酸塩を含む下地処理を施した。具体的には、炭酸ストロンチウム:ホウ酸:リン酸:水=8:3:21:200となるように、炭酸ストロンチウム、ホウ酸、リン酸をイオン交換水に溶解してコーティング液を調製した。上記鉄粉を1500g攪拌機に入れ、120℃で加熱して攪拌しながら、上記コーティング液30gを2g/分で噴霧して、リン酸塩を含む絶縁層を形成した。
【0049】
〔Si−Alを含む絶縁層の作製〕
水分を除去した窒素雰囲気グローブボックス中で、500mlフラスコにリン酸塩の絶縁層が形成された粉末100gと脱水テトラヒドロフラン(THFの略)100mlと、Siアルコキシド0.04gとAlアルコキシド0.16gを投入した。フラスコをロータリーエバポレータにセットして、15分間の還流後、減圧蒸留によりTHFを除去し、最終的に、200Torr、80℃で緩衝した。その後、粉末を取り出し、窒素雰囲気中で、160℃、30分で乾燥し、Si−Al系の絶縁層を被覆した。
【0050】
〔第1絶縁層の作製〕
メチル系シリコーンレジンKR−220LP(商品名、信越化学工業社製)0.04g(以下KR)をイソプロピルアルコール50mlに溶解した。この溶解液に、先に示した鉄粉を投入し、溶液と粉末を攪拌しながら、外部ヒータで加熱しながら20分の範囲で溶媒を蒸発させて、130℃の範囲で乾燥処理を行った。このようにして、第1の絶縁層を形成した。
【0051】
なお、KRは、
図4に示すSi−MAS NMRによる分析により、T2,T3で表される含ケイ素結合単位を前記単位の個数の割合でT3/(T2+T3)=0.7≧0.55となっている。
【0052】
〔第2絶縁層の作製〕
ビニルシランとヒドロシランを含むシリコーン樹脂(X−40−2667A(信越化学工業製))(以下XA))0.06gをイソプロピルアルコール50mlに溶解した。この溶解液に、先に示した鉄粉を投入し、溶液と粉末を攪拌しながら、外部ヒータで加熱しながら、20分の範囲で溶媒を蒸発させて、130℃の範囲で乾燥処理を行った。このようにして、磁性粒子の粒子表面にビニルシランとヒドロシランを含む第2の絶縁層が形成された圧粉磁心用粉末を製造した。
【0053】
なお、Si−C=Cの含有率、すなわち、ビニル基の含有率、及びSi−CH
3の含有率、すなわち、メチル基の含有率をNMR及びIRを用いて測定した。
図5は、実施例に係る第2のシリコーン樹脂のメチル基の含有率をNMRを用いて測定した結果を示した図であり、この試験結果から、ビニル基を、全側鎖中、16%含有し、メチル基を、全側鎖中、36%含有していた。
【0054】
<リング試験片の作製>
圧粉磁心用粉末を金型に投入し、金型温度130℃、成形圧力1600MPaの金型潤滑温間成形法で、外径39mm、内径30mm、厚さ5mmのリング形状の圧粉磁心を作製した。そして、成形後、窒素雰囲気下で、600℃の範囲で45分の熱処理を行なった。
【0055】
(比較例1)
実施例1と同じようにして、圧粉磁心(リング試験片)を作製した。実施例1と相違する点は、第1および第2の樹脂層の代わりに、XRとXAとを混合した樹脂層を被覆した点である。なお、この混合して得られたシリコーン樹脂は、T3/(T2+T3)=
0.5であり、ビニル基を、全側鎖中、7%含有し、メチル基を、全側鎖中、51%含有していた。
【0056】
(比較例2)
実施例1と同じようにして、圧粉磁心(リング試験片)を作製した。実施例1と相違する点は、第1および第2の樹脂層の代わりに、KRのみからなる樹脂層を被覆した点である。すなわち、比較例2では、第2の樹脂層は含まない。なお、この混合して得られたシリコーン樹脂は、ビニル基を、全側鎖中、0%含有し、メチル基を、全側鎖中、91%含有していた。
【0057】
(比較例3)
実施例1と同じようにして、圧粉磁心(リング試験片)を作製した。実施例1と相違する点は、第1および第2の樹脂層の代わりに、XAのみからなる樹脂層を被覆した点である。すなわち、比較例2では、第1の樹脂層は含まない。なお、この混合して得られたシリコーン樹脂は、T3/(T2+T3)=0.3である。
【0058】
<リング試験片の評価>
実施例および比較例1〜3に係るリング試験片に対して、デジタルマルチメータを用いて抵抗値を測定し、比抵抗を算出した。
【0059】
次に、リング試験片にφ0.5mmの銅線を用いて、励磁用、検出用の巻き線を行った。交流BHアナライザーを用いて、1T、800Hzの鉄損を測定した。直流BHアナライザーで1Tのヒス損、5kA/mでの磁束密度B5kを測定した。鉄損からヒス損を差し引くことにより渦損を算出した。オートグラフを用いてのリング試験片の圧環強度を評価した。この結果を表1に示す。
【0060】
また、
図2は、実施例及び比較例1〜3に係る圧粉磁心の比抵抗と強度との関係を示した図であり、
図3は、実施例及び比較例1〜3に係る圧粉磁心の磁束密度と強度との関係を示した図である。なお、表1、
図2、
図3に示す、実施例及び比較例1〜3の比抵抗、磁束密度、強度(圧環強度)は、比較例1の圧粉磁心の比抵抗、磁束密度、強度(圧環強度)を基準(1.0)として正規化した値である。
【0061】
【表1】
【0062】
(結果1及び考察1)
図2および3に示すように、比較例1〜3のものに比べて、実施例1に係る圧粉磁心(リング試験片)は、磁束密度を低下させずに、高強度、高比抵抗が両立した圧粉磁心でることが確認された。実施例1に係る圧粉磁心の高強度化は、ビニル基を有する第2のシリコーン樹脂を粉末の表面に選択して被覆したので、ヒドロシリル化反応(付加)が促進され、粉末(粒子)同士の結合が強固になったためであると考えられる。また、実施例1に係る圧粉磁心が高比抵抗となったのは、T3/(T2+T3)≧0.55を満たす第1のシリコーン樹脂を用いたことにより、絶縁性が高くなったと考えられる。
【0063】
なお、発明者らが、上述した実施例および比較例1に係るシリコーン樹脂を加熱して、その重量変化を測定したところ、T3/(T2+T3)≧0.55を満たす実施例に係る第1のシリコーン樹脂(KR)のみが加熱温度750℃で、重量減少率が20%以下であり、リング試験片を焼鈍後も絶縁性が確保されると考えられる。
【0064】
また、追加試験として、KR、XAの2種シリコーン樹脂の混合したシリコーン樹脂から、Si−C=Cの含有率、すなわち、ビニル基の含有率、及びSi−CH
3の含有率、すなわち、メチル基の含有率をNMR及びIRを用いて測定し、これらの樹脂を用いて、リング試験を作製した。その結果、ビニル基が10%未満の場合は、充分な強度を得ることができず、30%を超える場合には、以下に示すメチル基を、充分に含有させることができない。さらに、シリコーン樹脂の側鎖のメチル基を、全側鎖中、20〜50%含有することにより、渦損を低減することができることがわかった。
【0065】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【0066】
例えば、本実施形態では、酸化物絶縁層は、二層構造としたが、磁性粉末と高分子樹脂絶縁層との馴染み性を確保することができるのであれば、リン酸塩を含む絶縁層のみでもよく、または、それ以上の多層構造であってもよく、これらのすべてに、ビニルシランとヒドロシランを含んでいてもよい。