(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照しながら説明する。図面では、同一の部分または対応する部分に、同一の符号を付してある。
【0022】
まず、
図1を参照して、第1実施形態に係るモータ制御装置の構成について説明する。モータ制御装置100は、CPU1、CPU2、重畳器3、インバータ回路4、電流検出部5、およびクロック回路6を備えている。モータ制御装置100により制御されるモータ7は、例えば、電動パワーステアリング装置における操舵補助用の3相ブラシレスモータである。モータ制御装置100は、車両に備わるトルクセンサ8からのトルク信号に基づいて、モータ7を制御する。
【0023】
CPU1は、モータ7に流すべき電流の指令値を演算する電流指令値演算部11と、PWM信号のデューティを演算するデューティ演算部12と、PWM信号を生成するPWM信号生成部13とを備えており、第1制御部を構成する。電流指令値演算部11には、トルクセンサ8よりトルク信号が入力される。デューティ演算部12には、電流指令値演算部11の出力と、電流検出部5の出力とが入力される。デューティ演算部12の出力は、PWM信号生成部13に与えられる。
【0024】
CPU2は、モータ7に流すべき電流の指令値を演算する電流指令値演算部21と、PWM信号のデューティを演算するデューティ演算部22と、PWM信号を生成するPWM信号生成部23とを備えており、第2制御部を構成する。電流指令値演算部21には、トルクセンサ8よりトルク信号が入力される。デューティ演算部22には、電流指令値演算部21の出力と、電流検出部5の出力とが入力される。デューティ演算部22の出力は、PWM信号生成部23に与えられる。
【0025】
重畳器3は、PWM信号生成部13から出力されるPWM信号Aと、PWM信号生成部23から出力されるPWM信号Bとを重畳する回路で、たとえばOR回路から構成されている。重畳器3からは、上記2つのPWM信号A、Bが重畳されたPWM信号Cが出力される。このPWM信号Cは、インバータ回路4に与えられる。
【0026】
インバータ回路4は、
図2に示すような公知の3相ブリッジ回路から構成される。各相の上アームa1、a3、a5には、それぞれスイッチング素子Q1、Q3、Q5が備わっており、各相の下アームa2、a4、a6には、それぞれスイッチング素子Q2、Q4、Q6が備わっている。これらのスイッチング素子Q1〜Q6は、FET(電界効果トランジスタ)からなり、重畳器3から出力されるPWM信号C(PWM1〜PWM6)が、各スイッチング素子Q1〜Q6のゲートに与えられる。各相の上アームa1、a3、a5と下アームa2、a4、a6の各接続点は、モータ7に接続されている。
【0027】
電流検出部5は、インバータ回路4を通って流れるモータ7の各相の電流を検出するための電流検出抵抗(図示省略)や、この電流検出抵抗の両端の電圧を増幅する増幅器(図示省略)などから構成される。電流検出部5の出力は、デューティ演算部12、22に与えられる。
【0028】
クロック回路6は、CPU1とCPU2の動作を同期させるためのクロック信号を生成し、これを各CPUへ出力する。クロック信号は一定の周期を持ったパルス信号である。
【0029】
以上の構成において、モータ7に流れる電流は、本発明における「物理量」の一例であり、電流検出部5は、本発明における「物理量検出部」の一例である。電流指令値演算部11、21は、本発明における「指令値演算部」の一例である。デューティ演算部12は、本発明における「第1デューティ演算部」の一例であり、デューティ演算部22は、本発明における「第2デューティ演算部」の一例である。PWM信号生成部13は、本発明における「第1PWM信号生成部」の一例であり、PWM信号生成部23は、本発明における「第2PWM信号生成部」の一例である。PWM信号Aは、本発明における「第1PWM信号」の一例であり、PWM信号Bは、本発明における「第2PWM信号」の一例である。
【0030】
次に、上述したモータ制御装置100の動作について説明する。トルクセンサ8は、車両のハンドルの操舵により発生するトルクの値を検出し、検出されたトルク値をトルク信号としてモータ制御装置100へ出力する。モータ制御装置100において、CPU1の電流指令値演算部11は、トルクセンサ8から与えられるトルク値に基づいて、モータ7に流すべき電流の指令値を演算する。また、CPU2の電流指令値演算部21も、トルクセンサ8から与えられるトルク値に基づいて、モータ7に流すべき電流の指令値を演算する。
【0031】
CPU1のデューティ演算部12は、所定の期間において、電流指令値演算部11から与えられる電流指令値と、電流検出部5から与えられる各相のモータ電流の検出値とに基づいて、PWM信号のデューティを演算する。詳しくは、デューティ演算部12は、モータ電流の検出値を電流指令値と比較して、両者の偏差を算出する。そして、当該偏差がゼロとなるように、すなわちモータ電流の値が電流指令値と等しくなるように、デューティの演算を行う。
【0032】
CPU2のデューティ演算部22は、上記所定の期間と異なる期間において、電流指令値演算部21から与えられる電流指令値と、電流検出部5から与えられる各相のモータ電流の検出値とに基づき、CPU1のデューティ演算部12と同様にして、PWM信号のデューティを演算する。したがって、デューティ演算部12、22は、相互に時分割でデューティ演算を行う。
【0033】
CPU1のデューティ演算部12で演算されたデューティは、PWM信号生成部13へ出力される。PWM信号生成部13は、デューティ演算部12から出力されるデューティとキャリア信号(たとえば三角波)とに基づき、公知の方法に従って、当該デューティを持ったPWM信号Aを生成し出力する。
【0034】
CPU2のデューティ演算部22で演算されたデューティは、PWM信号生成部23へ出力される。PWM信号生成部23も、デューティ演算部22から出力されるデューティとキャリア信号(たとえば三角波)とに基づき、公知の方法に従って、当該デューティを持ったPWM信号Bを生成し出力する。
【0035】
PWM信号生成部13で生成されたPWM信号Aと、PWM信号生成部23で生成されたPWM信号Bとは、時分割で重畳器3に入力される。重畳器3は、時分割で入力されたこれらのPWM信号A、Bを重畳し、重畳されたPWM信号Cを、インバータ回路4へ出力する。すなわち、
図2のように、インバータ回路4のスイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートに、PWM信号C(PWM1〜PWM6)を与える。
【0036】
インバータ回路4のスイッチング素子Q1〜Q6は、重畳器3から与えられるPWM信号Cによりオン・オフ動作を行う。これによって、電源Vd(
図2)からインバータ回路4を通ってモータ7へ電流が流れ、モータ7が回転する。そして、PWM信号Cのデューティと位相に応じたスイッチング素子Q1〜Q6のオン・オフのパターンに従って、モータ7に流れる電流の大きさや方向が制御される。
【0037】
図3は、モータ制御装置100の正常時の動作を示したタイムチャートである。
図3(a)はCPU1のPWM信号生成部13から出力されるPWM信号A、
図3(b)はCPU2のPWM信号生成部23から出力されるPWM信号B、
図3(c)は重畳器3から出力されるPWM信号Cを示している。各波形中の数値は、PWM信号のデューティ(単位:%)を表している(
図4、
図8、
図9、
図12、
図13についても同様)。但し、デューティの数値は例示であって、これらに限るものでないことは言うまでもない。また、T
1〜T
3は、それぞれPWM信号の1周期の期間を表している
(図12のTa〜Teも同様)。なお、
図3のPWM信号は、ある1相の上アームのスイッチング素子に対するPWM信号を表している。他のスイッチング素子に対するPWM信号も、デューティが異なるだけで、
図3と同様のパターンとなる。
【0038】
図3において、CPU1のデューティ演算部12は、期間T1、T3でデューティ演算を行う。その結果、
図3(a)のように、期間T1、T3では、デューティ演算部12で演算されたデューティを持ったPWM信号Aが、PWM信号生成部13で生成され出力される。一方、CPU2のデューティ演算部22は、期間T2でデューティ演算を行う。その結果、
図3(b)のように、期間T2では、デューティ演算部22で演算されたデューティを持ったPWM信号Bが、PWM信号生成部23で生成され出力される。
【0039】
すなわち、PWM信号Aは、PWM信号Bの休止期間T1、T3に出力され、PWM信号Bは、PWM信号Aの休止期間T2に出力される。そして、このように時分割で出力されたPWM信号AとPWM信号Bは、重畳器3で重畳され、
図3(c)のような連続したPWM信号Cとなって、重畳器3から出力される。
【0040】
図4は、CPU2が故障した場合のモータ制御装置100の動作を示したタイムチャートである。CPU2が故障すると、CPU2は動作を停止するので、デューティ演算部22は、デューティ演算を実行しなくなる。このため、
図4(b)のように、期間T2でPWM信号Bが出力されなくなる。一方、CPU1は正常に動作しているので、デューティ演算部12は、デューティ演算を実行している。このため、
図4(a)のように、期間T1、T3でPWM信号Aが出力される。したがって、重畳器3は、
図4(c)のように、期間T2ではPWM信号Cを出力しないが、期間T1、T3ではPWM信号Cを出力する。
【0041】
CPUを1つだけ設けた場合は、当該CPUが故障すると、デューティ演算が全く実行されず、PWM信号の出力が完全に停止する。しかるに、本実施形態では、CPU2が故障しても、CPU1が正常に動作しておれば、デューティ演算部12でデューティ演算が行われるので、PWM信号の出力が完全に停止することはない。したがって、PWM信号の出力期間が正常時の半分になるものの、一方のPWM信号生成部13からPWM信号Aが出力されることで、モータ7に対する制御を継続することができる。なお、PWM信号の出力期間が半減することで、モータ7に流れる電流が減少するので、電流検出部5によるフィードバック制御が働き、モータ電流は増加する方向へ制御される。このため、CPU2の故障時にも、モータ7には一定以上の電流を流すことが可能となる。
【0042】
以上においては、CPU2が故障した場合について述べたが、CPU1が故障した場合も、上記の同様の原理が適用される。この場合は、CPU2のデューティ演算部22によるデューティ演算が行われて、PWM信号生成部23からPWM信号Bが出力されることで、モータ7に対する制御を継続することができる。
【0043】
このように、本実施形態では、CPU1のデューティ演算部12と、CPU2のデューティ演算部22とが、
PWM信号の異なる1周期の期間でいずれかのデューティ演算部のみがデューティ演算を行うように、時分割で交互にデューティ
を演算するので、各デューティ演算部12、22における演算処理の負荷を低減することができる。また、故障などが原因で、デューティ演算部12、22の一方の動作が停止した場合や、PWM信号生成部13、23の一方の動作が停止した場合でも、他方でデューティの演算およびPWM信号の生成が行われるので、PWM信号の出力が完全に停止してしまうことが回避され、制御を継続することができる。
【0044】
図5(a)、(b)は、CPU1とCPU2の処理シーケンスの例を示したタイムチャートである。CPU1およびCPU2共、電流指令値演算部11、21による電流指令値演算、およびデューティ演算部12、22によるデューティ演算を実行した後は、PWM信号生成部13、23がPWM信号A、Bを出力する間、故障診断等の処理のために十分な時間を確保することができる。これに対して、CPUが1つだけの場合は、
図5(c)のように、各区間で電流指令値とデューティの演算を行わねばならないので、故障診断等の処理を行う時間(斜線部)が短くならざるを得ない。
【0045】
図6は、第1実施形態(
図1)の変形例であるモータ制御装置101を示している。
図1では、2つの電流指令値演算部11、21がそれぞれCPU1、2に設けられていたが、
図6では、1つの電流指令値演算部31がCPU30に設けられている。また、デューティ演算部12とPWM信号生成部13はCPU10に設けられ、デューティ演算部22とPWM信号生成部23はCPU20に設けられている。そして、電流指令値演算部31は、デューティ演算部12とデューティ演算部22に、共通に指令値を与えるように構成されている。その他の構成、および基本的な動作については、
図1のモータ制御装置100と同じであるので、重複部分の説明は省略する。
【0046】
図7は、第2実施形態に係るモータ制御装置200の構成を示している。第1実施形態(
図1)では、CPU1、2にそれぞれPWM信号生成部13、23が備わっていたが、第2実施形態のモータ制御装置200では、CPU1、2にPWM信号生成部13、23が備わっていない。そして、第1実施形態の重畳器3に代えて、単一のPWM信号生成部9が設けられている。その他の構成については、
図1のモータ制御装置100と同じである。
【0047】
CPU1のデューティ演算部12と、CPU2のデューティ演算部22は、第1実施形態と同様に、時分割で交互にデューティ演算を行う。デューティ演算部12は、演算したデューティをPWM信号生成部9へ出力し、デューティ演算部22は、演算したデューティをPWM信号生成部9へ出力する。PWM信号生成部9は、デューティ演算部12、22から時分割で与えられるデューティに基づいて、当該デューティを持ったPWM信号を生成し、インバータ回路4へ出力する。
【0048】
図8は、モータ制御装置200の正常時の動作を示したタイムチャートである。
図8(a)はCPU1のデューティ演算部12から出力されるデューティA、
図8(b)はCPU2のデューティ演算部22から出力されるデューティB、
図8(c)はPWM信号生成部9から出力されるPWM信号を示している。デューティA、Bは、いずれもデジタルの数値データである。
【0049】
デューティ演算部12は、
図8(a)のように期間T1、T3でデューティ演算を行い、演算したデューティAをPWM信号生成部9へ出力する。また、デューティ演算部22は、
図8(b)のように期間T2でデューティ演算を行い、演算したデューティBをPWM信号生成部9へ出力する。PWM信号生成部9は、各期間において、デューティ演算部12、22から受け取ったデューティに基づいてPWM信号を生成する。その結果、
図8(c)のように、PWM信号生成部9から連続したPWM信号が出力される。
【0050】
図9は、CPU2が故障した場合のモータ制御装置200の動作を示したタイムチャートである。CPU2が故障すると、CPU2は動作を停止するので、デューティ演算部22は、デューティ演算を実行しなくなる。このため、
図9(b)のように、期間T2でデューティBが出力されなくなる。一方、CPU1は正常に動作しているので、デューティ演算部12は、デューティ演算を実行している。このため、
図9(a)のように、期間T1、T3でデューティAが出力される。したがって、PWM信号生成部9は、
図9(c)のように、期間T2ではPWM信号を出力しないが、期間T1、T3ではPWM信号を出力する。
【0051】
このように、第2実施形態においても、CPU2が故障した場合、CPU1が正常に動作しておれば、デューティ演算部12でデューティ演算が行われるので、PWM信号生成部9の出力が完全に停止することはない。したがって、モータ7に対する制御を継続することができる。また、PWM信号の出力期間が半減しても、第1実施形態と同様に、モータ7の電流が増加するようにフィードバック制御が働くため、モータ7に一定以上の電流を流すことができる。
【0052】
以上においては、CPU2が故障した場合について述べたが、CPU1が故障した場合も、上記の同様の原理が適用される。この場合は、CPU2のデューティ演算部22でデューティ演算が行われることで、PWM信号生成部9からPWM信号が出力されるので、モータ7に対する制御を継続することができる。
【0053】
図10は、第2実施形態(
図7)の変形例であるモータ制御装置201を示している。
図7では、2つの電流指令値演算部11、21がそれぞれCPU1、2に設けられていたが、
図10では、1つの電流指令値演算部31がCPU30に設けられている。また、デューティ演算部12はCPU10に設けられ、デューティ演算部22はCPU20に設けられている。そして、電流指令値演算部31は、デューティ演算部12とデューティ演算部22に、共通に指令値を与えるように構成されている。その他の構成、および基本的な動作については、
図7のモータ制御装置200と同じであるので、重複部分の説明は省略する。
【0054】
図11は、第3実施形態に係るモータ制御装置300の構成を示している。このモータ制御装置300においては、第1実施形態(
図1)に係るモータ制御装置100の構成に、異常検出部16、26が追加されている。異常検出部16は、CPU1に備わっており、PWM信号Aの休止期間に、PWM信号生成部23からPWM信号Bが出力されない異常を検出する。異常検出部16から出力される異常検出信号は、PWM信号生成部13へ与えられる。異常検出部26は、CPU2に備わっており、PWM信号Bの休止期間に、PWM信号生成部13からPWM信号Aが出力されない異常を検出する。異常検出部26から出力される異常検出信号は、PWM信号生成部23へ与えられる。異常検出部16は、本発明における「第1異常検出部」の一例であり、異常検出部26は、本発明における「第2異常検出部」の一例である。
【0055】
図12は、モータ制御装置300の正常時の動作を示したタイムチャートである。
図12(a)は、CPU1の動作シーケンスとPWM信号生成部13から出力されるPWM信号Aを示している。
図12(b)は、CPU2の動作シーケンスとPWM信号生成部23から出力されるPWM信号Bを示している。
図12(c)は、重畳器3から出力されるPWM信号Cを示している。
【0056】
図12(a)のように、CPU1では、PWM信号Bが出力されている期間Taにおいて、電流指令値演算部11による電流指令値演算、およびデューティ演算部12によるデューティ演算が行われるとともに、異常検出部16によるPWM信号Bの有無のチェックが行われる。この期間Taでは、PWM信号Aは休止している。異常検出部16でのチェックの結果、PWM信号Bが正常に出力されておれば、次の期間Tbで、PWM信号生成部13からPWM信号Aが出力される。この間、CPU1は各種の処理を実行する。期間Tc以降も、上記と同様の動作が行われる。
【0057】
図12(b)のように、CPU2では、期間Taにおいて、各種の処理が実行されるとともに、PWM信号生成部23からPWM信号Bが出力される。次の期間Tbでは、PWM信号Bが休止する。また、CPU2では、電流指令値演算部21による電流指令値演算、およびデューティ演算部22によるデューティ演算が行われるとともに、異常検出部26によるPWM信号Aの有無のチェックが行われる。チェックの結果、PWM信号Aが正常に出力されておれば(判定OK)、次の期間Tcで、PWM信号生成部23からPWM信号Bが出力される。この間、CPU2は各種の処理を実行する。期間Td以降も、上記と同様の動作が行われる。
【0058】
したがって、第1実施形態の場合と同様に、PWM信号Aは、PWM信号Bの休止期間Tb、Tdに出力され、PWM信号Bは、PWM信号Aの休止期間Ta、Tc、Teに出力される。そして、このように時分割で出力されたPWM信号AとPWM信号Bは、重畳器3で重畳され、
図12(c)のような連続したPWM信号Cとなって、重畳器3から出力される。
【0059】
図13は、CPU2が故障した場合のモータ制御装置300の動作を示したタイムチャートである。
図13(b)のように、期間TbでCPU2が故障すると、それ以降CPU2は動作を停止するので、デューティ演算部22は、デューティ演算を実行しなくなる。このため、期間TcでPWM信号生成部23からPWM信号Bが出力されなくなる。
【0060】
一方、CPU1は、正常に動作しており、
図13(a)のように、電流指令値の演算、デューティの演算、およびPWM信号Bのチェックを実行する。そして、期間Tcで、異常検出部16により、PWM信号生成部23からPWM信号Bが出力されていないことが検出される(判定NG)。このとき、異常検出部16は、異常検出信号をPWM信号生成部13へ出力する。すると、PWM信号生成部13は、次の期間Tdとその次の期間Teで、破線で囲んだような同じPWM信号Aを続けて出力する。
【0061】
詳しくは、まず期間Tdにおいて、PWM信号生成部13は、正常時と同様に、期間Tcで演算されたデューティを持ったPWM信号Aを出力する。このときのデューティは、たとえばPWM信号生成部13の内部レジスタに保持されている。その後、期間Teにおいて、PWM信号生成部13は、内部レジスタに保持されているデューティを読み出し、期間Tdで出力したPWM信号Aと同じデューティを持ったPWM信号Aを再度出力する。その結果、期間Teでは、PWM信号生成部23からPWM信号Bが出力されなくても、PWM信号生成部13からPWM信号Aが出力されるので、重畳器3からの出力が途絶えることはない。すなわち、重畳器3は、
図13(c)のように、期間Tdから期間Teにわたって、連続したPWM信号Cを出力する。以降も同様に、PWM信号Bが出力されない異常状態が続く限り、PWM信号生成部13は、PWM信号Bの出力されない異常期間に、直前に生成したPWM信号Aと同じPWM信号Aを出力する。
【0062】
以上においては、CPU2が故障した場合について述べたが、CPU1が故障した場合も、上記の同様の原理が適用される。この場合は、CPU2の異常検出部26により、PWM信号生成部13からPWM信号Aが出力されていないことが検出され、PWM信号生成部23から同じPWM信号Bが続けて出力される。
【0063】
このように、第3実施形態のモータ制御装置300においては、CPU1、2の一方が故障により停止しても、他方のCPUがPWM信号A(またはB)の不出力を検出し、当該不出力期間に、代替的にPWM信号B(またはA)を出力するようにしている。したがって、それ以降は、重畳器3から出力されるPWM信号Cに途切れが発生することはない。このため、モータ7の制御を継続できることは勿論、連続したPWM信号Cによってモータ7に十分な電流を流すことができる。これにより、モータ7の回転数の低下が抑制され、一定以上の操舵補助力を確保することができる。
【0064】
なお、第3実施形態のモータ制御装置300の変形例として、
図6の場合と同様に、2つの電流指令値演算部11、21に代えて、1つの電流指令値演算部31を設けてもよい。
【0065】
また、第3実施形態のモータ制御装置300において、PWM信号生成部13、23、および重畳器3を省略し、替わりに、第2実施形態のモータ制御装置200(
図7)のように、単一のPWM信号生成部9を設けてもよい。この場合は、異常検出部16は、デューティ演算部22からデューティが出力されない異常を検出し、異常検出部26は、デューティ演算部12からデューティが出力されない異常を検出する。そして、異常検出部16が異常を検出した場合は、デューティ演算部12から直前のデューティと同じデューティが出力される。また、異常検出部26が異常を検出した場合は、デューティ演算部22から直前のデューティと同じデューティが出力される。
【0066】
本発明では、以上述べた実施形態以外にも、以下のような種々の実施形態を採用することができる。
【0067】
前記の各実施形態では、2つのデューティ演算部12、22が設けられているが、デューティ演算部を3つ以上設けてもよい。この場合、1つの電流指令値演算部から、各デューティ演算部へ電流指令値を与えるようにしてもよい。また、前記の各実施形態では、1つのCPUに1つのデューティ演算部が設けられているが、1つのCPUに複数のデューティ演算部を設けてもよい。
【0068】
図11においては、異常検出部16、26の出力が、それぞれPWM信号生成部13、23に入力されているが、異常検出部16、26の出力を、それぞれデューティ演算部12、22に入力してもよい。この場合、デューティ演算部12、22は、異常検出部16、26から異常検出信号が入力されると、直前に演算したデューティと同じデューティをPWM信号生成部13、23に出力する。これを受けて、PWM信号生成部13、23は、同じPWM信号を続けて出力する。
【0069】
図13においては、期間Teで出力されるPWM信号Aが、直前(期間Td)のPWM信号Aと同じであったが、本発明はこれに限定されない。たとえば、期間Teで出力されるPWM信号Aが、期間Tbで出力されたPWM信号Aと同じものであってもよい。あるいは、期間Teで出力されるPWM信号Aは、あらかじめ決められたデューティ(たとえば50%)を持つPWM信号であってもよい。
【0070】
前記の各実施形態では、物理量検出部として、モータ7の電流を検出する電流検出部5を設け、指令値演算部として、モータ7の電流に対する電流指令値を演算する電流指令値演算部11、21、31を設けたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、物理量検出部として、モータ7の回転速度を検出する回転速度検出部を設け、指令値演算部として、モータ7の回転速度に対する回転速度指令値演算部を設けてもよい。すなわち、物理量検出部は、モータ7の駆動に伴って発生する、モータ7における電流や回転速度などの物理量を検出するものであればよく、指令値演算部は、これらの物理量に対する指令値を演算するものであればよい。
【0071】
前記の各実施形態では、トルクセンサ8から与えられるトルク値に基づいて、モータ7を制御する例を挙げたが、本発明はこれに限定されない。例えば、車速センサから与えられる速度値に基づいて、モータ7を制御する場合にも、本発明を適用することができる。
【0072】
前記の各実施形態では、電流検出部5で検出された電流の値と、電流指令値演算部11、21、31で演算された電流指令値との偏差に基づいて、デューティ演算部12、22がPWM信号のデューティを演算するフィードバック制御方式を例に挙げたが、本発明はこれに限定されない。たとえば、インバータ回路4から電流検出部5を経てデューティ演算部12、22へ至るフィードバック経路を省略してもよい。また、フィードバック制御方式に代えて、フィードフォワード制御方式を採用してもよい。この場合は、モータ7に流れる電流の変動要因となる外乱(電源電圧の変動など)を事前に検知し、その結果に基づいてデューティ演算部12、22がデューティを演算する。さらに、本発明は、フィードバック制御方式とフィードフォワード制御方式とを併用した場合にも、適用することが可能である。
【0073】
前記の各実施形態では、3相モータの制御装置について述べたが、本発明は、3相モータに限らず、4相以上の多相モータの制御装置にも適用することができる。この場合は、インバータ回路4において、上下一対のアームが相数分だけ設けられる。
【0074】
図2においては、インバータ回路4のスイッチング素子Q1〜Q6としてFETを例に挙げたが、FETに代えて、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラモードトランジスタ)のような他のスイッチング素子を使用してもよい。
【0075】
前記の各実施形態では、モータ7としてブラシレスモータを例に挙げたが、本発明は、これ以外のモータを制御する場合にも適用することができる。
【0076】
前記の各実施形態では、車両の電動パワーステアリング装置に用いられるモータ制御装置を例に挙げたが、本発明はこれ以外の装置に用いられるモータ制御装置にも適用することができる。