(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139404
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】フィブリル化セルロースを含む組成物の製造方法及び組成物
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20170522BHJP
D21D 1/00 20060101ALI20170522BHJP
C08B 11/08 20060101ALI20170522BHJP
C08B 11/12 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
D21H11/18
D21D1/00
C08B11/08
C08B11/12
【請求項の数】12
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-509649(P2013-509649)
(86)(22)【出願日】2011年5月11日
(65)【公表番号】特表2013-534976(P2013-534976A)
(43)【公表日】2013年9月9日
(86)【国際出願番号】IB2011052064
(87)【国際公開番号】WO2011141877
(87)【国際公開日】20111117
【審査請求日】2014年4月11日
(31)【優先権主張番号】1050472-8
(32)【優先日】2010年5月12日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘイスカネン、イスト
(72)【発明者】
【氏名】バックフォルク、カイ
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−081896(JP,A)
【文献】
特開平06−010288(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/131016(WO,A1)
【文献】
特表2002−515936(JP,A)
【文献】
特表2010−503775(JP,A)
【文献】
特開2009−298972(JP,A)
【文献】
特開平10−251301(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/015726(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00〜D21J7/00
C08B1/00〜37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース性繊維を機械的、化学的、及び/又は酵素的処理により前処理し、
該前処理セルロース性繊維を分散系を形成する顔料と混合し、
前処理セルロース性繊維と顔料の分散系を分散させて、分散の間、該前処理セルロース繊維と該顔料とのぶつかりによりミクロフィブリル化セルロースを調製し、それによりミクロフィブリル化セルロースを含む組成物を形成する
工程を含む組成物の製造方法であって、前処理繊維がセルロース誘導体であり、該セルロース誘導体がCMCであり、0.4未満の低い置換度を有している、上記方法。
【請求項2】
前処理繊維の乾燥含量が1〜50重量%である請求項1記載の方法。
【請求項3】
組成物の乾燥含量が10〜70重量%である請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
分散時の温度が70℃超にまで上昇される請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
ミクロフィブリル化セルロースを含む組成物であって、機械的、化学的、及び/又は酵素的処理による前処理セルロース性繊維、及び該前処理セルロース性繊維と混合された顔料を含み、
該前処理セルロース性繊維と顔料の分散が、分散の間、該前処理セルロース繊維と該顔料とのぶつかりによりミクロフィブリル化セルロースを形成させている、上記組成物であって、前処理繊維がセルロース誘導体であり、該セルロース誘導体がCMCであり、0.4未満の低い置換度を有している、上記組成物。
【請求項6】
前処理繊維の乾燥含量が1〜50重量%である請求項5記載の組成物。
【請求項7】
組成物の乾燥含量が10〜70重量%である請求項5又は6記載の組成物。
【請求項8】
分散時の温度が70℃超にまで上昇される請求項5〜7のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
形成されたミクロフィブリル化セルロースがグラフトされている、請求項5〜8のいずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
顔料の量に対して0.1〜95重量%のミクロフィブリル化セルロースを含む、請求項5〜9のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
単糖、二糖、又はオリゴ糖を含む、請求項5〜10のいずれか一項記載の組成物。
【請求項12】
10〜70重量%の乾燥含量を有する、請求項5〜11のいずれか一項記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィブリル化セルロース及び顔料を含む組成物の製造方法に関する。本発明はまたそのような組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリル化セルロースはセルロース繊維から作られる材料で、繊維の個々のミクロフィブリルが部分的に又は全体的にお互いに離れているものである。
【0003】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)(ナノセルロースとしても知られる)は1種のフィブリル化セルロースである。MFCは通常非常に細く(〜20nm)、その長さはしばしば100nm〜10μmである。しかし、ミクロフィブリルはより長い、例えば10〜100μmであることができる。
【0004】
フィブリル化セルロースは多くの様々な方法により製造することができる。セルロース性繊維をミクロフィブリルが形成されるように機械的に処理することが可能である。また、フィブリル間結合を壊したり繊維を溶解する様々な化学物質及び/又は酵素の助けを借りてセルロースからフィブリルを製造することもできる。MFCの製造の一例は、酵素の添加と組み合わせて精錬することによるMFCの製造を記載するWO2007091942に示されている。
【0005】
フィブリル化セルロースは多くの様々な分野で使用することができる。製紙産業においては、フィブリル化セルロースは紙や板の表面又は、材料(furnish)に添加することができる。フィブリル化セルロースを添加することによって紙や板の強度を上げることができることが示されている。紙のコーティング用途に用いると、フィブリル化セルロースはデンプンのような合成又は天然の結合剤に取って代わることができる。フィブリル化セルロースは低い固体含量で高い増粘効果を有しているので、増粘剤、不動化剤、水分保持助剤、潤滑剤、分散剤、及び/又は安定化剤として用いることができる。しかし、食品産業、ポリマー又はプラスチック産業、塗料、セラミック、インク、複合材産業(例えば、セメント)、ゴム産業、化粧品及び医薬産業のような他の多くの技術分野で使用することもできる。
【0006】
MFCのような、フィブリル化セルロースを含む分散系は低い乾燥含量で、高い粘性のせん断薄化透明ゲルの外見を有している。通常はフィブリル化セルロースを約4%以上の稠度で含む組成物は非常に粘度が高いゲルの形態にある。高い重合度の極めてフィブリル化された細い材料は約1wt%未満の固体含量でゲル様の特性を示すかもしれない。ゲルは粘性が高く、低いせん断速度では流動させることが極めて難しい。このことがパイプやポンプを通しての処理を極めて困難にしており、従ってまた、様々な最終用途に、例えば紙や板基板の表面に分配することを極めて困難にしている。
【0007】
このように、紙又は板の製造中、低乾燥含量の組成物を基板の表面に添加することは望ましくないことが多いが、これは例えば基板の乾燥の間、添加した水を除去するために多大のエネルギーを必要とするからである。低い固体含量と強いせん断薄化特性を有する分散系の添加はまた、コーティングの間、極端な浸透と不均一を防止するために特別なコーティング装置を必要とするであろう。水の不必要な添加を避けるべきもう一つの理由は移動コスト、水及び環境への影響(二酸化炭素排出量を節約するためである。
【0008】
これらの問題を解決する一つの方法は、例えば顔料分散系のような組成物に、又は製紙機械湿潤端に添加する前に、製造されたMFCを乾燥することであるが、これは多大なエネルギー消費プロセスであり、重大で不可逆な化学的及び物理的構造変化をミクロフィブリル化セルロースに与えるかもしれない。
【0009】
従って、高い乾燥含量を持ったフィブリル化セルロースを含む組成物を改良された方法で製造するための方法へのニーズがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的はフィブリル化セルロースと顔料を含む組成物を改良された方法で製造することである。
【0011】
本発明の他の目的はフィブリル化セルロースと顔料を含む、高い稠度で改良されたレオロジー特性を有する組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これらの目的及び他の利点は請求項1に記載の方法によって成し遂げられる。本発明は組成物の製造方法に関するもので、該方法はセルロース性繊維を機械的、化学的及び/又は酵素的処理により前処理し、この前処理されたセルロース性繊維を分散系を形成する顔料と混合し、この前処理セルロース性繊維と顔料の分散系を分散させ、これによりフィブリル化セルロース性繊維を含む組成物を形成することを含むものである。
【0013】
顔料と混合した前処理繊維の稠度は高くてもよく、好ましくは1〜50重量%である。前処理繊維の稠度を上げると、高い稠度を有する最終組成物を製造する可能性が高まる。
【0014】
組成物の稠度は高くてもよく、好ましくは10〜70重量%である。本発明の方法により、フィブリル化セルロースと顔料を、組成物のレオロジー特性を良好なままで同時に高い稠度で含む組成物を製造することができる。
【0015】
分散時の温度は上げることが好ましい。加熱するか又は分散時の温度上昇により、その間の温度を上げることで、グラフトされたフィブリル化セルロースを制御された方法で製造することができる。
【0016】
分散は従来の分散又は混合装置で行うことが好ましい。従って追加の装置に投資する必要はない。
【0017】
形成されたフィブリル化セルロースは好ましくはミクロフィブリル化セルロースである。前処理セルロース繊維を顔料とともに分散させると、繊維がさらによりフィブリル化され、より細いセルロース性材料を形成する。これは分散時に起こる繊維と顔料との間の摩擦によるものである。従って、改良された方法でミクロフィブリル化セルロースを含む組成物を製造することができる。
【0018】
前処理繊維は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)又はエチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)のようなセルロース誘導体であることができる。セルロース誘導体は、もしCMCが使われるのであれば、低度の置換(DS)値を有することが好ましく、DS値は好ましくは0.4未満である。より高いDS値は、水又は他の液体と混合したときにセルロース誘導体を溶解するかもしれない。
【0019】
本発明はさらに、上述の方法に従って製造されたフィブリル化セルロースを含み、さらに顔料を含む組成物に関する。
【0020】
組成物の形成されたフィブリル化セルロースはグラフトすることができる。繊維をグラフトすることにより、電荷、粘度、刺激特性、溶解度、及びフィルム形成能のような繊維の性質を変えることができ、様々な特性を組成物に付与する。
【0021】
組成物は顔料の量に対して0.1〜95重量%のフィブリル化セルロースを含むことができる。組成物のフィブリル化セルロースの量は組成物の最終目的に依存する。
【0022】
組成物はまた、単糖、二糖、又はオリゴ糖を含むことができる。短い糖は分散剤として作用することができ、レオロジー問題を起こすことなく組成物の稠度をさらに増加させることを可能にする。
【0023】
組成物中の顔料の量は組成物の最終目的に依存する。顔料は、組成物を塗装色として使用するのであれば、紙又は板の印刷特性を上げることができる。バリアとして使用するのであれば、顔料は酸素透過率、水蒸気透過率、光バリア、臭気バリア、加工性、及び/又はコストを向上させることができる。
【0024】
組成物は10〜70重量%の乾燥含量を有することが好ましい。組成物が、通常は組成物のレオロジーの問題に寄与し、取り扱いを極めて困難にするフィブリル化セルロースを含んでいても、高い稠度を持った組成物を提供することが可能である。
【0025】
フィブリル化セルロースは、CMC、HEC又はEHECのようなミクロフィブリル化セルロース又はセルロース誘導体であることができる。組成物の最終目的によって、組成物のフィブリル化繊維がミクロフィブリル化セルロース又はセルロース誘導体を含むことが可能である。フィブリル化セルロースは例えば紙又は板の強度を上げるために用いることができる。
【0026】
セルロース誘導体は低い置換度を有することが好ましく、例えば、CMCを使用する場合は、DS値は0.4未満であることが好ましい。これはセルロース誘導体がより高いDS値で溶解し、フィブリル化セルロース誘導体を形成することを難しくするためである。通常は、低いDS値のセルロース誘導体は使用しない。本発明はフィブリル化セルロース誘導体との組成物を提供し、従ってこれらの誘導体を強度増強剤として使用することができるようにする。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の組成物を製造することにより、組成物の稠度をレオロジー特性を損なうことなく増大させることができる。
【0028】
この方法はまた、ミクロフィブリル化セルロースのようなフィブリル化セルロースを非常にコスト効率的な方法で含む組成物を製造することを可能にする。
【0029】
組成物はフィブリル化セルロース性繊維を含む。セルロース繊維は前処理し、前処理は機械的、化学的、及び/又は酵素的に行うことができる。前処理の目的は繊維を前活性化するか、又は前フィブリル化することであり、繊維を次の処理に対してより活性化させ、反応性にさせることである。
【0030】
前処理は少なくとも部分的に酵素処理により、好ましくは機械的及び/又は化学的処理と組み合わせて行うことが好ましい。酵素処理の間、セルロース繊維は分解され、開放され、又は修飾され、前処理繊維を形成し、同時に単糖、二糖、又はオリゴ糖が形成されるであろう。単糖、二糖、又はオリゴ糖は組成物において分散剤として作用し、組成物の稠度を増加させることを可能にすることが示される。
【0031】
前処理は好ましくは高い稠度で行うことが好ましい。高い稠度でセルロース繊維を前処理して、それらをさらにある程度までフィブリル化することが可能である。前処理繊維、即ち前処理繊維を含むスラリーの稠度は1〜50重量%、さらにより好ましくは15〜50重量%であることが好ましい。前処理繊維の稠度を上げることにより、水の添加がより少なくなるので、高い稠度を持った組成物を製造することがより容易になる。本発明の大きな利点は、組成物をその場で、例えばミルやプラントで製造することができるということである。従って、セルロース性繊維をフィブリル化するためにそれらを前処理し、次いでその前処理された繊維をミルやプラントに送ることが可能である。従って、輸送する水の量が減るので、前処理繊維の稠度を増大させることが可能であることが利点である。前処理の程度は最終目的と、どのくらいの時間次の分散を続けるかに依る。ミルやプラントによっては、顔料の混合や分散に長い時間を許すプロセスを有するものがあり、その場合前処理は極めて簡単にしてもよい。しかし長時間の分散のための時間を有していないものもあり、その場合前処理はより完全にしなければならない。
【0032】
前処理繊維はその後、分散系を形成する顔料と混合する。顔料は乾燥してもよく、スラリーの形態であってもよい。前処理繊維と顔料は分散又は混合し、その結果フィブリル化セルロース繊維が形成されることになる。分散の間、顔料は繊維とぶつかり、従って繊維をさらにフィブリル化させる。この効果は、分散の間、前処理繊維と顔料を含む分散系の粘度の変化として観察することができる。形成されたフィブリル化セルロースは、組成物を用いる最終生産物の強度を増大させるために使われることが多いが、最終生産物に、例えば水分保持能、乾燥特性、加工性、バリア又は熱的特性を増大させるような他の物理的及び化学的特性を与えるために用いることもできる。レンガや陶器では、繊維の存在は、プロセスの間燃焼し、最終生産物に空気を含ませ、それにより生成物の重量を減少させることになる。このようにして優れた音響遮断特性及び温度遮断特性を持った生産物を提供することができる。
【0033】
分散の結果、フィブリル化セルロースと顔料の両方を含む組成物が形成されることになる。組成物は、フィブリル化セルロースを含む組成物で通常見られるレオロジー問題もなしに、高い稠度で製造することができる。通常は、低い稠度と高い粘度のMFCを顔料分散系に添加することができるが、このような分散系の最終固体含量は比較的低い。しかし、前処理繊維を顔料と混合することにより、高い稠度、好ましくは10〜70重量%の稠度を持った組成物を達成することができる。本発明の方法においては、前処理繊維のフィブリル化を完了し、同時にフィブリル化セルロースと顔料を非常に経済的に好ましい方法で含む分散系を製造することができる。フィブリル化セルロースを顔料の存在下で形成することにより、繊維が束となって組成物の粘度を増大させてしまう可能性を防ぐことができる。従って、本発明により組成物の稠度を増大させることができる。
【0034】
分散の間の温度は、加熱により又は分散の結果として上昇させることができ、好ましくは70〜80℃よりも上に上昇させることができる。より高い固体含量では、より多くのエネルギーが熱に転移してもよく、そのため同時にフィブリル化セルロース又は顔料のいずれかへのグラフト化が、記載されたフィブリル化プロセスの間に、CMCのような別個に添加された成分について、或いは繊維からフィブリル化されたか又は除去された成分について、行われることができる。分散の間、フィブリル化繊維の製造は、組成物の温度が上昇し、これがまたグラフト化を促進することにつながるかもしれない。通常はそのようなグラフト化は別の工程で行われるが、これは一つのプロセス工程で粒径制御とグラフト化の両方を可能にする。
【0035】
本発明に関するさらに別の大きな利点は、そのプロセスのために新しい特別な装置を必要としないという点である。分散は、顔料を含む組成物を製造するときにすでに使用されている従来の分散又は混合装置で行うのが好ましい。従って追加の装置に投資する必要がなく、その結果、プラントですでに使用可能な装置においてフィブリル化セルロースと顔料を含む組成物を製造することが可能である。
【0036】
形成されたフィブリル化セルロースはミクロフィブリル化セルロースであることが好ましい。前処理セルロース性繊維を顔料とともに分散させる時、繊維はさらにフィブリル化され、より細い材料を形成する。これは繊維と顔料の間の分散又は混合の間の摩擦によるものである。従って、ミクロフィブリル化セルロースを含む組成物を製造することが可能である。前処理と分散の条件、例えば時間、温度又はpHを変えることにより、繊維の長さと繊維のフィブリル化の程度を制御することができる。このようにして、ミクロフィブリル化セルロースが形成されるようにプロセスを変更することが可能である。また、本発明の方法により非常に細いミクロフィブリル化セルロース又はナノセルロースを製造することも可能である。
【0037】
前処理繊維はまた、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、又はセルロース誘導体の中間産物若しくは廃棄物のようなセルロース誘導体であることができる。セルロース誘導体は低度の置換(DS)値を有していることが好ましい。CMCを使用する場合は、DS値は0.4未満であることが好ましい。より高いDS値は、水や他の液体と混合した場合にセルロース誘導体を溶解させるので、フィブリル化は生じないであろう。通常は低いDS値のセルロース誘導体は使用しない。その結果、本発明は低いDS値のセルロース誘導体の使用を提供し、従ってこれらの誘導体を例えば強度増強として使用することを可能にする。
【0038】
本発明により製造された組成物は稠度が高くても改良されたレオロジー特性を有する。通常はフィブリル化セルロースと顔料を含む組成物の粘度は増大する。これは上述のようにフィブリル化セルロースの存在によるものであり、容易にゲルを形成し、非常に高いせん断薄化特性を有する。
【0039】
組成物は顔料の量に対して0.1〜95重量%のフィブリル化セルロースを含むことができる。組成物のフィブリル化セルロースの量は組成物の最終目的に依り、バリアフィルムや塗料のような特定の用途においては極めて高いこともある。
【0040】
組成物は単糖、二糖、又はオリゴ糖を含むことができる。短い糖の存在は分散剤として作用し、組成物の稠度をレオロジー問題を起こすことなくさらに増大させることを可能にすることが示されている。短い糖は、糖、好ましくはグルコース、キシラン(xylane)、マンノース、マンナン、及び/又は、セロビオース、セロトリオース、セロテトロース、セロペントース、セロヘキソース、及び/又はセロオリゴ糖のようなセロデキストリンであることができる。
【0041】
顔料の量は組成物の最終目的に依る。しかし、量が少なすぎると繊維の十分なフィブリル化が起きないであろう。顔料は繊維系の基板に良好な印刷特性、良好な外観、及び/又は光学的又は感覚的特性のような他の機能を与えることができる。
【0042】
組成物の顔料は粉末の又は沈殿した炭酸カルシウム、か焼粘土、タルカム、カオリン、ベントナイト又は他の膨潤粘土、AI203、水酸化アルミニウム(ATH)、プラスチック顔料、シリカ、石膏、二酸化チタン、有機顔料、例えばデンプン顔料又はステアリン酸カルシウム分散系及び/又はこれら顔料のいずれかの混合物であることが好ましい。
【0043】
組成物はまた分散剤又は潤滑剤を含んでもよい。ポリアクリル酸、アクリレートコポリマー、アクリル酸のナトリウム塩、ポリアクリル酸、マレイン酸、ポリマレイン酸、クエン酸ナトリウム、マロン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、ポリリン酸塩、ステアリン酸カルシウム、PEG及び/又はトリグリセリド、ヘキサメタリン酸ナトリウム(SHMP)、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、PVOH/Ac、n−ケイ酸ナトリウム、ポリアルミン酸ナトリウム、テトラホウ酸ナトリウム、エチレングルコールのような二極性有機分散剤、メタノール、メチルアミン、プロピルアミン、アニリン、又はポリエチレンオキシド及びポリエチレン誘導体のような多極性分散剤を添加することが好ましい。
【0044】
組成物は繊維系の基板の表面に添加される表面サイズレシピ又は塗装色として用いることができる。組成物はコーティングの強度を増大させるフィブリル化セルロースと、基板の表面特性を改良する顔料との両方を含む。組成物はまた、分散バリアーコーティングに使用することもできる。また、組成物を繊維系の材料(furnish)に、例えば紙又は板紙の機械の湿潤端の間に材料(furnish)に添加することもできる。このようにして組成物は充填剤として使用され、繊維系製品の強度を増大させるだけでなく、基板の表面特性を改良する。他の可能な最終使用は、塗料、セメント、セラミック、食品、化粧品、複合材、医薬品、アスファルト、ゴム、又は高い乾燥含量で良好なレオロジー特性を持ったフィブリル化セルロースと顔料を含む組成物が使われる他の可能な最終使用における成分であることができる。
【0045】
組成物はまた、ラテックス又はデンプンのような伝統的な結合剤だけでなく、光学的な光沢剤、架橋剤、レオロジー調整剤、体質顔料、潤滑剤、分散剤、消泡剤等のような他の塗装色成分を含むことができる。
【0046】
フィブリル化された繊維であって、表面のマイクロフィブリル、及び分散系又は組成物の水相中に分離されて位置するマイクロフィブリルを有する繊維もまた、ミクロフィブリル化セルロースの定義に包含される。マイクロフィブリル化セルロース(MFC)という用語は、上述のようにナノセルロースだけでなく、セルロースナノ微結晶、セルロースウィスカー、繊維の微粒子、及び/又はそのブレンドを包含する。
【0047】
フィブリル化セルロース繊維はいかなる種類のセルロ−ス繊維からも製造することができ、好ましくは軟材や硬材繊維のような木質繊維から製造することができる。しかし、竹、農産物、エレファントグラス及びセルロース繊維を含む他の材料のような他の原材料もまた使用できる。