【文献】
Biochemical and Biophysical Research Communications,2010.7.24, Vol.399, pp.373-378
【文献】
SAJJAD AHMAD, et al,STEM CELLS,2007年,Vol. 25,pp. 1145-1155
【文献】
J.M.WOLOSIN, et al,Int. J. Dev. Biol.,2004年,Vol. 48,pp. 981-991
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒト多能性幹細胞を、角膜線維芽細胞馴化培地において、細胞外マトリックス成分を含む固体表面で培養し、それにより、ヒト角膜上皮細胞の集団を作製することを含む、ヒト角膜上皮細胞の集団を作製する方法であって、前記角膜線維芽細胞馴化培地は、縁線維芽細胞で汚染されていない角膜線維芽細胞から製造されており、前記方法は、前記角膜線維芽細胞馴化培地を、
a)角膜を分散化剤と共にインキュベーションし、
b)縁線維芽細胞で汚染されていない単離された角膜線維芽細胞を抽出し、
c)縁線維芽細胞で汚染されていない単離された角膜線維芽細胞を成長培地中で拡大させ、
d)角膜線維芽細胞の細胞集団が約80%〜100%の密度に到達したときにマイトマイシンによって細胞の増殖を停止し、
e)マイトマイシン処理された角膜線維芽細胞を、インスリン、ヒドロコルチゾンおよび表皮増殖因子(EGF)を含む成長培地でインキュベーションし、
f)単層物を形成する角膜線維芽細胞の培養物から前記成長培地を回収する、ただし、前記回収された成長培地は、角膜線維芽細胞馴化培地と称される、
ことによって調製することを含む、方法。
前記細胞外マトリックス成分は、コラーゲンIV、ラミニン、フィブロネクチンおよびMatrigel(登録商標)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
角膜上皮細胞の集団を、ケラチン3(K3)、ケラチン12(K12)、ペアードボックス遺伝子6(pax6)、ケラチン18(K18)およびコネキシン43からなる群から選択される少なくとも1つのマーカーについて分析することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【発明の概要】
【0011】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、ヒト多能性幹細胞を、角膜線維芽細胞馴化培地において、細胞外マトリックス成分を含む固体表面で培養し、それにより、角膜上皮細胞の集団を作製することを含む、角膜上皮細胞の集団を作製する方法が提供される。
【0012】
本発明の一部の実施形態によれば、角膜線維芽細胞馴化培地は骨形態形成タンパク質−4(BMP−4)を含む。
【0013】
本発明の一部の実施形態によれば、ヒト多能性幹細胞はヒト胚性幹細胞(hESC)またはヒト誘導多能性幹細胞(hIPSC)を含む。
【0014】
本発明の一部の実施形態によれば、角膜線維芽細胞馴化培地は、インスリン、ヒドロコルチゾンおよび表皮増殖因子(EGF)からなる群から選択される少なくとも1つの薬剤を含む。
【0015】
本発明の一部の実施形態によれば、角膜線維芽細胞馴化培地は、インスリン、ヒドロコルチゾンおよび表皮増殖因子(EGF)を含む。
【0016】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞外マトリックス成分は、コラーゲンIV、ラミニン、フィブロネクチンおよびMatrigel(登録商標)からなる群から選択される。
【0017】
本発明の一部の実施形態によれば、上記方法はさらに、角膜上皮細胞の上記集団を、ケラチン3(K3)、ケラチン12(K12)、ペアードボックス遺伝子6(pax6)、ケラチン18(K18)およびコネキシン43からなる群から選択される少なくとも1つのマーカーについて分析することを含む。
【0018】
本発明の一部の実施形態によれば、角膜線維芽細胞馴化培地は縁線維芽細胞を含んでいない。
【0019】
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の方法に従って作製されるヒト角膜上皮細胞の単離された集団が提供される。
【0020】
本発明の一部の実施形態によれば、角膜上皮細胞の単離された集団は皮膚細胞を含まない。
【0021】
本発明の一部の実施形態によれば、上記集団の細胞の少なくとも70%がK3およびPax6を共発現する。
【0022】
本発明の一部の実施形態によれば、上記集団の細胞の10%未満がnanogおよびOct4を発現する。
【0023】
本発明の一部の実施形態によれば、角膜上皮細胞の単離された集団は、眼障害の処置において使用するためのものである。
【0024】
本発明の一部の実施形態によれば、眼障害をその必要性のある対象において処置する方法であって、前記対象に、本発明の方法に従って作製される角膜上皮細胞の治療効果的な量を移植し、それにより、前記対象における前記眼障害を処置することを含む方法が提供される。
【0025】
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の角膜上皮細胞の単離された集団と、医薬的に許容されるキャリアとを含む医薬組成物が提供される。
【0026】
本発明の一部の実施形態によれば、角膜組織を作製する方法であって、
(a)本発明のヒト角膜上皮細胞の単離された集団を解離させて、解離させたヒト角膜上皮細胞の集団を作製すること;および
(b)解離させたヒト角膜上皮細胞を、角膜組織を生じさせる条件下、足場において培養すること
を含む方法が提供される。
【0027】
本発明の一部の実施形態によれば、足場はMatrigel(登録商標)およびコラーゲンIを含む。
【0028】
本発明の一部の実施形態によれば、足場はヒト羊膜を含む。
【0029】
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の方法に従って作製される単離されたヒト角膜組織が提供される。
【0030】
本発明の一部の実施形態によれば、眼障害の処置において使用するためのヒト角膜組織が提供される。
【0031】
本発明の一部の実施形態によれば、眼障害をその必要性のある対象において処置する方法であって、前記対象に、本発明の方法に従って作製される角膜組織の治療効果的な量を移植し、それにより、前記対象における前記眼障害を処置することを含む方法が提供される。
【0032】
本発明の一部の実施形態によれば、本発明の単離された角膜組織と、医薬的に許容されるキャリアとを含む医薬組成物が提供される。
【0033】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、角膜上皮系譜への分化を高める作用因についてスクリーニングする方法であって、
(a)ヒト多能性幹細胞を、前記作用因の存在下、角膜線維芽細胞馴化培地において、細胞外マトリックス成分を含む固体表面で培養すること;および
(b)前記ヒト多能性幹細胞の分化状態を分析すること
を含み、前記作用因の非存在下における分化と比較した場合の分化における増大により、角膜上皮系譜への分化を高める作用因が示される、方法が提供される。
【0034】
本発明の一部の実施形態によれば、多能性幹細胞はiPS細胞を含む。
【0035】
本発明の一部の実施形態によれば、iPS細胞は、健康な患者に由来する。
【0036】
本発明の一部の実施形態によれば、iPS細胞は、疾患患者に由来する。
【0037】
本発明の一部の実施形態によれば、培地はさらに、BMP−4を含む。
【0038】
本発明の一部の実施形態によれば、疾患患者は欠指・外胚葉異形成・裂隙(EEC)症候群の患者である。
【0039】
本発明の一部の実施形態によれば、分析が、前記多能性幹細胞の形態を分析することによって行われる。
【0040】
本発明の一部の実施形態によれば、分析が、前記多能性幹細胞における角膜細胞マーカーの発現を分析することによって行われる。
【0041】
本発明の一部の実施形態によれば、角膜細胞マーカーはPax6またはK3/K12である。
【0042】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語および/または科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、例示的な方法および/または材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明は、その一部の実施形態において、角膜細胞を多能性幹細胞から作製する方法、および該角膜細胞を含む細胞集団に関連する。
【0050】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示される細部、または、実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、あるいは、様々な方法で実施、または、実行される。
【0051】
角膜が疾患または傷害のために濁るとき、光は眼の中を突き抜けて、光感受性の網膜に達すことができない。視覚低下または失明が生じる場合がある。角膜移植手術は、濁った角膜の中心部分の除去、および、その部分を、通常アイバンクを通して供与される透明な角膜により置き換えることを要する。この技術は、ドナーの不足および移植片の拒絶によって妨げられる。
【0052】
縁の自家移植片が、比較的高い成功度を伴って、角膜の障害を有する患者に適用されている。重篤な場合、例えば、総縁部幹細胞欠乏症などでは、同種移植片が、患者の親族から、または、死後のドナーから得られる場合がある。しかしながら、縁組織は非常に免疫原性であり、移植片拒絶率が移植後5年で35%を超える。この方法はさらに、ドナーの不足のために制限される。さらに、生体ドナーが、縁部幹細胞欠乏症を発症する危険性がある。この危険性を減らすために、より小さい縁組織がドナーから移植され、また、移植前にエクスビボで拡大される場合がある。この技術では、細胞を移植前に数週間にわたって培養することが必要であるので、患者を傷害直後に処置することができない。そのうえ、患者への同種の縁幹細胞移植は最終的には拒絶される。
【0053】
これらの問題を克服するために、本発明者らは、角膜上皮細胞集団を多能性幹細胞から作製する技術を考案した。その分化プロトコルは角膜線維芽細胞馴化培地の使用に依拠する。
【0054】
図1A〜
図1Gに例示されるように、作製された角膜上皮細胞集団は均一であり、細胞は、K3、K12、pax6およびコネキシン43を発現した。さらに、本発明者らは、この細胞集団が、表皮マーカー(例えば、K1、K10およびインボルクリンなど)を発現する細胞を含んでいなかったことを認めた(
図1Gを参照のこと)。
【0055】
本発明者らはさらに、そのような細胞の3D培養が角膜組織同等物の生成をもたらしたことを示した(
図2)。この手法は、角膜移植のための組織をすぐに使用できる角膜組織同等物の製作を可能にし、それにより、ドナーの必要性を解消する。
【0056】
したがって、本発明の一態様によれば、ヒト多能性幹細胞を、角膜線維芽細胞馴化培地において、細胞外マトリックス成分を含む固体表面で培養し、それにより、角膜上皮細胞の集団を作製することを含む、角膜上皮細胞の集団を作製する方法が提供される。
【0057】
本発明の方法は最初に多能性幹細胞を得て、その多能性幹細胞を培養することによって行われる。
【0058】
本明細書中で使用される場合、表現「幹細胞」は、特定の特殊化された機能を有する他の細胞タイプ(例えば、完全に分化した細胞)に誘導されて分化するまでは、培養において長期間未分化状態に留まる能力を有する細胞(例えば、多能性幹細胞または多分化能幹細胞)を示す。表現「多能性幹細胞」は胚性幹細胞(ESC)および誘導多能性幹細胞(iPS)を包含する。幹細胞は典型的には哺乳動物の多能性細胞であり、例えば、ヒト多能性幹細胞などである。
【0059】
表現「胚性幹細胞」は、胚の3つすべての胚葉(すなわち、内胚葉、外胚葉および中胚葉)の細胞に分化する能力を有するか、または、未分化状態に留まる能力を有する胚細胞を示す。表現「胚性幹細胞」は、妊娠後に形成され(例えば、胚盤胞)、胚が着床する前に形成される胚組織(すなわち、着床前胚盤胞)から得られる細胞、着床後で、原腸形成前の段階の胚盤胞から得られる拡張胚盤胞細胞(EBC)(国際公開WO2006/040763を参照のこと)、および、妊娠期間中の任意の時期の胎児(好ましくは、妊娠10週前の胎児)の生殖組織から得られる胚性生殖(EG)細胞を含む場合がある。
【0060】
誘導多能性幹細胞(iPS;胚様幹細胞)は、多能性が賦与される(すなわち、胚の3つの胚細胞層(すなわち、内胚葉、外胚葉および中胚葉)に分化する能力を有する)、成体の体細胞の脱分化によって得られる細胞である。本発明の一部の実施形態によれば、そのような細胞は、分化した組織(例えば、体性組織、例えば、皮膚または毛など)から得られ、胚性幹細胞の特徴を獲得するために細胞を初期化する遺伝子操作による脱分化を受ける。本発明の一部の実施形態によれば、誘導多能性幹細胞が、Oct−4、Sox2、Kfl4およびc−Mycの発現を体性幹細胞において誘導することによって形成される。
【0061】
本発明の胚性幹細胞は、広く知られている細胞培養方法を使用して得ることができる。例えば、ヒト胚性幹細胞をヒト胚盤胞から単離することができる。ヒト胚盤胞は典型的には、ヒトの体内の着床前の胚から、または、体外受精(IVF)胚から得られる。あるいは、単一細胞のヒト胚を胚盤胞段階に拡張することができる。ヒトES細胞の単離のために、透明帯が胚盤胞から除かれ、内部細胞塊(ICM)が免疫手術によって単離される。この場合、栄養外胚葉細胞が溶解され、穏やかな分注によって無傷のICMから除かれる。その後、ICMが、その成長を可能にする適切な培地を含有する組織培養フラスコに置床される。9日〜15日の後、ICM由来の成長物が機械的解離または酵素的分解のどちらかによって塊に解離させられ、その後、これらの細胞が、新鮮な組織培養培地で再置床される。未分化の形態を明らかにするコロニーがマイクロピペットによって個々に選択され、塊に機械的に解離させられ、再置床される。その後、生じたES細胞が4日〜7日ごとに常法により分割される。ヒトES細胞の調製方法に関するさらなる詳細については、Thomson他[米国特許第5843780号;Science、282:1145、1998;Curr.Top.Dev.Biol.、38:133、1998;Proc.Natl.Acad.Sci.USA、92:7844、1995]、Bongso他[Hum Reprod、4:706、1989]、および、Gardner他[Fertil.Steril.、69:84、1998]を参照のこと。
【0062】
市販の幹細胞もまた、本発明のこの態様とともに使用され得ることが理解されるであろう。ヒトES細胞をNIHヒト胚性幹細胞登録機関(www.escr.nih.gov)から購入することができる。市販されている胚性幹細胞株の限定されない例として、BG01、BG02、BG03、BG04、CY12、CY30、CY92、CY10、TE03およびTE32が挙げられる。
【0063】
加えて、ES細胞を他の生物種から同様に得ることができ、そのような生物種には、マウス(MillsおよびBradley、2001)、ゴールデンハムスター[Doetschman他、1988、Dev Biol、127:224〜7]、ラット[Iannaccone他、1994、Dev Biol、163:288〜92]、ウサギ[Giles他、1993、Mol Reprod Dev、36:130〜8;Graves&Moreadith、1993、Mol Reprod Dev、1993、36:424〜33]、一部の家畜種[Notarianni他、1991、J Reprod Fertil Suppl、43:255〜60;Wheeler、1994、Reprod Fertil Dev、6:563〜8;Mitalipova他、2001、Cloning、3:59〜67]、およびヒト以外の霊長類種(アカゲザルおよびマーモセット)[Thomson他、1995、Proc Natl Acad Sci USA、92:7844〜8;Thomson他、1996、Biol Reprod、55:254〜9]が含まれる。
【0064】
伸長胚盤胞細胞(EBC)を、原腸形成前の段階の、受精後少なくとも9日の胚盤胞から得ることができる。この胚盤胞を培養する前に、透明帯が、内部細胞塊を露出するように、[例えば、タイロード酸性溶液(Sigma Aldrich、St Louis、MO、米国)によって]消化される。その後、胚盤胞は、標準的な胚性幹細胞培養方法を使用してインビトロにおいて受精後少なくとも9日、最大14日間(すなわち、原腸形成事象前の期間)、完全な胚として培養される。
【0065】
EG細胞が、当業者に公知の実験室技術を使用して妊娠約8週〜11週の胎児(ヒト胎児の場合)から得られる原始生殖細胞から調製される。生殖隆起が解離させられ、小さい塊にぶつ切りされ、この塊がその後、機械的解離によって細胞に解体される。その後、EG細胞は、適切な培地を含む組織培養フラスコで成長させられる。細胞は、EG細胞と一致する細胞形態が認められるまで、典型的には7日〜30日後または1回〜4回の継代後まで、培地の取り替えを毎日行いながら培養される。ヒトEG細胞の調製方法に関するさらなる詳細については、Shamblott他[Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95:13726、1998]および米国特許第6090622号を参照のこと。
【0066】
誘導多能性幹細胞(iPS)(胚様幹細胞)を体細胞の遺伝子操作によって体細胞から作製することができ、例えば、転写因子(例えば、Oct−3/4、Sox2、c−MycおよびKLF4など)による体細胞(例えば、線維芽細胞、肝細胞、胃上皮細胞など)のレトロウイルス形質導入によって作製することができる[Yamanaka S、Cell Stem Cell、2007、1(1):39〜49;Aoi T他、Generation of Pluripotent Stem Cells from Adult Mouse Liver and Stomach Cells、Science、2008(Feb 14)(印刷に先立つEpub);IH Park、Zhao R、West JA他、Reprogramming of human somatic cells to pluripotency with defined factors、Nature、2008、451:141〜146;K Takahashi、Tanabe K、Ohnuki M他、Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors、Cell、2007、131:861〜872]。他の胚様幹細胞を、卵母細胞への核移入、胚性幹細胞との融合、または、受容細胞が有糸分裂において停止しているならば、接合体への核移入によって作製することができる。
【0067】
未分化幹細胞は、当業者によって、胚起源または成体起源の分化細胞から明瞭に識別可能である独特の形態を有する細胞であることが理解されるであろう。典型的には、未分化幹細胞は、大きい核/細胞質比、目立つ核小体、および、細胞間結合が良好に認識されない緻密なコロニーの形成を有する。未分化幹細胞のさらなる特徴がさらに本明細書中下記で記載される。
【0068】
現在実施されているES培養方法は主に、幹細胞の増殖のために必要とされる因子を分泌し、一方で、同時にそれらの分化を阻害するフィーダー細胞層の使用に基づく。フィーダー細胞を用いないシステムもまた、ES細胞の培養において使用されており、そのようなシステムでは、血清、サイトカインおよび増殖因子が補充されるマトリックスがフィーダー細胞層の代用として利用される。
【0069】
多能性幹細胞の角膜上皮系譜への分化を誘導するために、多能性幹細胞が角膜線維芽細胞馴化培地で培養される。
【0070】
角膜線維芽細胞を死体ドナーまたは生体ドナーから得ることができる。一実施形態によれば、角膜線維芽細胞がヒトから得られる。典型的には、角膜線維芽細胞が、角膜を分散化剤(例えば、ディスパーゼII、トリプシンまたはコラゲナーゼなど)と37℃で約1時間〜18時間インキュベーションすることによって単離される。その後、上皮シートを鉗子により除くことができる。縁組織が角膜サンプルに混入することを避け、その結果、馴化培地を作製するために使用される細胞に縁の線維芽細胞が混入しないように注意しなければならない。
【0071】
馴化培地は、ある特定の培養期間の後で存在する単層細胞培養物(すなわち、フィーダー細胞)の成長培地である。馴化培地は、培養物中の単層細胞によって分泌される増殖因子およびサイトカインを含む。
【0072】
角膜線維芽細胞馴化培地を製造するために、単離された線維芽細胞を最初に好適な培地(例えば、10%の新生児ウシ血清が補充されるダルベッコ改変イーグル培地(DMEM))における培養によって拡大することができる。線維芽細胞の細胞集団が約80%〜100%の密度に達するとき(
図2Aを参照のこと)、細胞増殖が、例えば、マイトマイシンC(8μg/ml)中での約3時間のインキュベーションによって停止させられる。その後、マイトマイシン処理された細胞が、好適な成長培地でインキュベーションされる。
【0073】
馴化培地が、単層物を培養中に形成する角膜線維芽細胞から回収される。
【0074】
成長培地は、角膜線維芽細胞を培養するために好適ないかなる培地であることもできる。成長培地には、角膜線維芽細胞の細胞成長に役立つ栄養因子(例えば、アミノ酸(例えば、L−グルタミン)、抗酸化剤(例えば、ベータ−メルカプトエタノール)および増殖因子など)を補うことができる。
【0075】
一実施形態によれば、骨形態形成タンパク質−4(BMP−4)を培養期間中に添加することができる。BMP−4を培養期間の全期間にわたって、または、培養期間の特定の段階で(例えば、培養期間の最初の3日間にわたって)添加することができる。
【0076】
BMP−4の例示的な濃度は約0.1nM〜10nMの間であり、より好ましくは0.1nM〜5nMの間であり、より好ましくは0.1nM〜1nMの間(例えば、0.5nM)である。
【0077】
一実施形態によれば、成長培地は下記薬剤の少なくとも1つを含む:インスリン(例えば、5μg/ml)、ヒドロコルチゾン(例えば、0.5μg/ml)およびEGF(例えば、10ng/ml)。
【0078】
別の実施形態によれば、成長培地は、インスリン、ヒドロコルチゾンおよびEGFを含む。
【0079】
一例示的な培地が、上皮培地(DMEM(60%)、HamF12(30%)、FCII(10%)、インスリン(5μg/ml)、ヒドロコルチゾン(0.5μg/ml)、EGF(10ng/ml)、0.2mMのアデニン、10nMのコレラトキシン)である。
【0080】
上皮線維芽細胞が、角膜上皮細胞系譜への幹細胞分化を支援するために、分泌された因子の十分な蓄積を可能にするための十分な時間にわたって成長培地で培養される。典型的には、培地は、37℃での4時間から24時間まで培養することによって馴化される。
【0081】
しかしながら、培養期間は、幹細胞分化に対する馴化培地の影響を評価することによって決めることができる。
【0082】
培地を馴化するための培養装置の選択は、馴化培地の規模および目的に基づく。大規模製造では専用デバイスの使用が好ましい。連続細胞培養システムが、Furey(2000)、Genetic Eng.News、20:10において総説される。
【0083】
培養物における十分な因子の蓄積の後、成長培地(すなわち、馴化培地)が角膜線維芽細胞から分離され、回収される。角膜線維芽細胞は、細胞がその培地馴化能を保持するならば、培地のさらなるバッチをさらなる培養期間にわたって馴化するために繰り返し使用され得ることが理解されるであろう。
【0084】
一実施形態によれば、培地が、10日までの期間、毎日回収され、新鮮な培地によって取り換えられる。
【0085】
好ましくは、馴化培地は使用前に滅菌される(例えば、20μmのフィルターを使用するろ過)。本発明の一部の実施形態の馴化培地は幹細胞にそのまま加えられる場合があり、または、例えば、塩ろ過などによって抽出して効果的な因子を濃縮する場合がある。将来の使用のために、馴化培地は好ましくは、−80℃で凍結保存される。
【0086】
角膜線維芽細胞馴化培地における培養は典型的には、細胞外マトリックス成分を含む固体表面で行われる。細胞外マトリックス成分の例には、コラーゲンIV、ラミニン、フィブロネクチンおよびMatrigel(登録商標)が含まれるが、これらに限定されない。
【0087】
培養ディッシュを細胞外マトリックス成分により被覆する様々な方法がこの技術分野では広く知られており、本明細書中下記の実施例の節においてさらに詳しく記載される。
【0088】
多能性幹細胞は、分化を可能にするための好適な条件下で培養される。一実施形態によれば、細胞は、約5日間、7日間または約10日間にわたって培養される。
【0089】
細胞の分化状態を、そのマーカー発現を分析することによって求めることができる。したがって、例えば、下記マーカーを分析することができる:サイトケラチン3(K3)、サイトケラチン12(K12)、ペアードボックス遺伝子6(pax6)、サイトケラチン18(K18)およびコネキシン43。上記マーカーの、作製された細胞集団の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%における発現をもって、この細胞集団が角膜上皮系譜に向かって分化していることを示すものとして使用することができる。
【0090】
特定の実施形態によれば、集団の細胞の少なくとも70%、80%または90%がK3およびPax6を共発現する細胞の集団が選択される。
【0091】
あるいは、または加えて、細胞の分化状態を、未分化幹細胞のマーカー(例えば、Octおよびnanogなど)を分析することによって求めることができる。上記マーカーの、作製された細胞集団の40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満における発現をもって、この細胞集団が分化した細胞を含むことを示すものとして使用することができる。
【0092】
好ましくは、作製された細胞集団は皮膚細胞を含まない。したがって、細胞集団を皮膚細胞マーカー(例えば、K1、K10およびインボルクリンなど)について分析することができ、そのようなマーカーを発現しない細胞集団(例えば、10%未満の細胞が発現、または、5%未満の細胞が発現)のみが選択される。
【0093】
細胞を特定のマーカーについて分析するための様々な方法がこの技術分野では広く知られており、これらには、例えば、ウエスタンブロット分析、フローサイトメトリーおよび逆転写酵素PCR分析(RT−PCR)が含まれる。免疫組織化学技術を、特定の細胞が2つ以上のマーカーを共発現しているかどうかを確認するために使用することができる。
【0094】
K3、K12、Pax6、K18、K1、K10、インボルクリンおよびコネキシン43に対する各抗体が、様々な会社から、例えば、Santa Cruz BiotechnologyおよびChemiconなどから市販されている。
【0095】
細胞の分化状態を分析するために使用することができる例示的なプライマー配列が本明細書中下記に提供される。
【0096】
細胞の分化状態はまた、分化した細胞において発現されることが公知の特定の遺伝子についてプロモーター活性を分析することによって求めることができる。本明細書中下記の実施例の節の実施例1は、k12プロモーター(角膜特異的プロモーター)の活性が分化細胞の集団においてどのように分析され得るかを詳述する。
【0097】
上記の分化プロトコルは、角膜上皮系譜への分化を高める作用因についてスクリーニングするために使用される場合がある。
【0098】
したがって、本発明の別の態様によれば、角膜上皮系譜への分化を高める作用因についてスクリーニングする方法であって、
(a)ヒト多能性幹細胞を、当該作用因の存在下、角膜線維芽細胞馴化培地において、細胞外マトリックス成分を含む固体表面で培養すること;および
(b)ヒト多能性幹細胞の分化状態を分析すること
を含み、当該作用因の非存在下における分化と比較した場合の分化における増大により、角膜上皮系譜への分化を高める作用因が示される、方法が提供される。
【0099】
細胞の分化状態の分析が本明細書中上記に記載されている。
【0100】
多能性幹細胞は胚性幹細胞または誘導多能性幹細胞(iPS細胞)であり得る。iPS細胞は、健康な対象に由来してもよく、または、角膜上皮細胞を冒す疾患を有する患者に由来してもよく、例えば、欠指・外胚葉異形成・裂隙(EEC)症候群の患者に由来してもよい。本発明者らは、そのような患者に由来するiPS細胞が、角膜上皮細胞に至る分化を、健康な対象に由来するiPS細胞と同程度に受けないことを示している。したがって、本発明のプロトコルは、特定の疾患を処置するために角膜上皮細胞分化を高める薬物についてスクリーニングするために使用することができる。
【0101】
スクリーニングされ得る作用因の例には、ポリペプチド作用因、ポリヌクレオチド作用因、小分子作用因および他の化学物質が含まれる。
【0102】
本発明のこの態様の方法に従って作製される単離された細胞集団は、本明細書中下記でさらに記載する角膜の疾患または障害を処置するための、その移植を含む様々な適用のために使用することができる。加えて、単離された細胞集団は、薬物発見および細胞毒性試験のための細胞モデルとして使用することができる。同じ供給源からの同一細胞の再現性により、比較が可能となるであろうし、また、研究が標準化され、このことは、化粧品学および薬理学の企業には非常に重要である。
【0103】
あるいは、単離された細胞集団(例えば、角膜線維芽細胞馴化培地で1週間〜2週間、最初に分化させられた細胞集団)はさらに、角膜組織を作製するために3D足場で分化させることができる。
【0104】
一実施形態によれば、角膜組織は層形成している。
【0105】
別の実施形態によれば、角膜組織は角膜上皮組織の少なくとも3つの層を含む。
【0106】
別の実施形態によれば、角膜組織は扁平上皮細胞を含んでいない。
【0107】
角膜組織を足場において作製する方法が下記の実施例の節の実施例2に記載され、
図3A〜
図3Iに例示される。
【0108】
一実施形態によれば、3D足場は、Matrigel(登録商標)およびコラーゲンIから構成されるゲルを含む。
【0109】
別の実施形態によれば、足場はヒト羊膜を含む。
【0110】
そのような技術が、Koizumi他、Investigative Ophthalmology&Visual Science、2000(August)、第41巻、第9号;Gaggioli他、Nature cell biology、第9巻、第12号、2007;および、Larouch他、第15章、Stem Cells in Regenerative Medicine:Methods and Protocols、第482巻、2009に記載されている(それぞれの内容が参照によって組み込まれる)。
【0111】
典型的には、細胞集団は、角膜組織の分化を誘導するために約1週間〜2週間、足場において分化させられる。
【0112】
述べられたように、単離された角膜上皮細胞集団(および、そこから分化する角膜組織)は、角膜の疾患および障害を処置するために使用することができる。
【0113】
角膜を冒す障害には、様々なアレルギー、結膜炎、角膜感染症、ドライアイ、フックスジストロフィー、帯状疱疹、虹彩角膜内皮症候群、円錐角膜、格子状角膜ジストロフィー、地図状斑点状指紋萎縮症、眼ヘルペス、スティーブンス・ジョンソン症候群、翼状片、角膜炎、角膜潰瘍、角膜剥離、雪盲、アーク眼、タイゲソン点状表層角膜炎および乾性角結膜炎が含まれるが、これらに限定されない。
【0114】
角膜移植手術において、外科医は典型的には、患部角膜または傷害角膜の中心部分を取り除き、その部分を透明な角膜により置き換える。この新しい角膜または角膜細胞が開口部に置かれ、眼に縫合される(例えば、Rapuano他、Anterior Segment,The Requisites(Requisites in Ophthalmology)(1999、Mosby,Inc.、Philadelphia、Pa.)を参照のこと)。典型的には、約1〜2×106個/眼の細胞が、損傷を受けた角膜に移植される。
【0115】
一実施形態において、本発明の合成角膜を使用して眼の角膜を置き換えるための方法は、角膜を眼から外科的に切除すること、除かれた角膜の領域に合成角膜を挿入すること、および、合成角膜を切除部の下にある組織と整合させて、合成角膜を眼に固定することを含む。
【0116】
関連した態様において、本方法は、角膜の外側表面の一部分を分離し、それにより、角膜皮弁および角膜床を形成すること(ただし、角膜皮弁は前面および後面を有し、角膜床は、形状化された前面を有する)、合成角膜を角膜床に移植すること(ただし、合成角膜は前面および後面を有する)、および、分離された角膜の一部分を置き換えることを含む。
【0117】
慎重な組織学的分析および免疫組織化学的分析を、特異的マーカーを使用することによって移植後の種々の時点で行わなければならない。角膜表面における杯細胞の数を、縁欠乏症の存在を評価するために印象(impression)細胞学により評価しなければならない。拒絶指数(rejection index)、平均生存時間および拒絶率をそれぞれの群について計算することができる。
【0118】
本明細書中上記で述べられたように、本発明の角膜細胞または角膜組織は、自己由来の供給源に由来するもの(誘導多能性幹細胞)、または、同種の供給源に由来するもの(例えば、胚性幹細胞など)のどちらもが可能である。非自己細胞は、身体に投与されたときには免疫反応を誘導する可能性があるので、一部の取り組みが、非自己細胞の拒絶の可能性を減らすために開発されている。例えば、移植に先立って、対象の組織適合性を調べ、組織適合性の角膜移植片のみが移植され得るようにすることができる。
【0119】
他の取り組みには、移植者の免疫系を抑制すること、または、非自己細胞を移植前に免疫隔離性の半透過性膜でカプセル化することのいずれかが含まれる。
【0120】
カプセル化技術は一般には、小さい球状ビヒクルを伴うマイクロカプセル化として、また、より大きい平坦シート膜および中空繊維膜を伴うマクロカプセル化として分類される(Uludag,H.他、Technology of mammalian cell encapsulation、Adv Drug Deliv Rev、2000、42:29〜64)。
【0121】
マイクロカプセルを調製する様々な方法がこの技術分野では公知であり、これらには、例えば、Lu MZ他、Cell encapsulation with alginate and alpha−phenoxycinnamylidene−acetylated poly(allylamine)、Biotechnol Bioeng、2000、70:479〜83;Chang TMおよびPrakash S、Procedures for microencapsulation of enzymes, cells and genetically engineered microorganisms、Mol Biotechnol、2001、17:249〜60;および、Lu MZ他、A novel cell encapsulation method using photosensitive poly(allylamine alpha−cyanocinnamylideneacetate)、J Microencapsul、2000、17:245〜51によって開示される方法が含まれる。
【0122】
例えば、マイクロカプセルが、修飾コラーゲンを、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)、メタクリル酸(MAA)およびメタクリル酸メチル(MMA)のターポリマー殻と複合体化することによって、2μm〜5μmのカプセル厚に調製される。そのようなマイクロカプセルはさらに、負に帯電した平滑な表面を与えるために、また、血漿タンパク質の吸収を最小限に抑えるために、さらなる2μm〜5μmのターポリマー殻によりカプセル化することができる(Chia,S.M.他、Multi−layered microcapsules for cell encapsulation、Biomaterials、2002、23:849〜56)。
【0123】
他のマイクロカプセルが、アルギン酸塩、すなわち、海洋多糖類(Sambanis,A.、Encapsulated islets in diabetes treatment、Diabetes Thechnol.Ther.、2003、5:665〜8)、または、その誘導体に基づく。例えば、マイクロカプセルを、ポリアニオンのアルギン酸ナトリウムおよびセルロース硫酸ナトリウムと、ポリカチオンのポリ(メチレン−co−グアニジン)塩酸塩との間における塩化カルシウム存在下での多電解質複合体化によって調製することができる。
【0124】
より小さいカプセルが使用されるとき、細胞カプセル化が改善されることが理解されるであろう。したがって、カプセルサイズが1mmから400μmに縮小されたとき、カプセル化された細胞の品質管理、機械的安定性、拡散特性およびインビトロ活性が改善された(Canaple L.他、Improving cell encapsulation through size control、J Biomater Sci Polym Ed、2002、13:783〜96)。そのうえ、7nmもの小さい十分に制御された細孔サイズ、目的に適合した表面化学、および、精密な微細構造を有するナノ多孔性バイオカプセルは、細胞のための微小環境を首尾よく免疫隔離することが見出された(Williams D、Small is beautiful:microparticle and nanoparticle technology in medical devices、Med Device Technol、1999、10:6〜9;Desai,T.A.、Microfabrication technology for pancreatic cell encapsulation、Expert Opin Biol Ther、2002、2:633〜46)。
【0125】
免疫抑制剤の例には、メトトレキサート、シクロホスファミド、シクロスポリン、シクロスポリンA、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン(スルファサラゾピリン)、金塩、D−ペニシラミン、レフルノミド、アザチオプリン、アナキンラ、インフリキシマブ(REMICADE(登録商標))、エタネルセプト、TNF−アルファ遮断剤、炎症性サイトカインを標的とする生物学的作用因、および、非ステロイド系抗炎症薬物(NSAID)が含まれるが、これらに限定されない。NSAIDの例には、アセチルサリチル酸、サリチル酸コリンマグネシウム、ジフルニサル、サリチル酸マグネシウム、サルサラート、サリチル酸ナトリウム、ジクロフェナク、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナム酸塩、ナプロキセン、ナブメトン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、トルメチン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、Cox−2阻害剤およびトラマドールが含まれるが、これらに限定されない。
【0126】
適切であるならば、患者はさらに、移植された細胞の生存および機能を容易にする医薬用薬剤または生物活性剤により処置することができる。これらの薬剤には、とりわけ、例えば、インスリン、TGF−ベータファミリーのメンバー(これには、TGF−ベータ1、TGF−ベータ2およびTGF−ベータ3が含まれる)、骨形態形成タンパク質(BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−11、BMP−12およびBMP−13)、線維芽細胞増殖因子−1および線維芽細胞増殖因子−2、血小板由来増殖因子−AAおよび血小板由来増殖因子−BB、血小板富化血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、IGF−II)、増殖分化因子(GDF−5、GDF−6、GDF−7、GDF−8、GDF−10、GDF−15)、血管内皮細胞由来増殖因子(VEGF)、プレイオトロフィン、エンドセリンが含まれる場合がある。他の医薬用化合物には、例えば、ニコチンアミド、グルカゴン様ペプチド−I(GLP−1)およびグルカゴン様ペプチド−II、GLP−1およびGLP−2のミメチボディー、エキセンディン−4、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、MAPK阻害剤(例えば、米国特許出願公開第2004/0209901号および米国特許出願公開第2004/0132729号に開示される化合物など)が含まれ得る。
【0127】
本発明の細胞または組織は、それ自体で、あるいは好適なキャリアまたは賦形剤と混合される医薬組成物でヒト対象に移植することができる。
【0128】
本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本明細書中に記載される細胞集団の1つまたは複数と、他の化学的成分(例えば、生理学的に好適なキャリアおよび賦形剤など)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、生物に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0129】
本明細書中以降、表現「生理学的に許容されるキャリア」および表現「医薬的に許容されるキャリア」は、交換可能に使用され得るが、生物に対する著しい刺激を生じさせず、かつ、投与された化合物の生物学的な活性および性質を妨げないキャリアまたは希釈剤を示す。アジュバントはこれらの表現に包含される。
【0130】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、有効成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0131】
本発明の医薬組成物は、この分野で十分に知られているプロセスによって、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、包括化または凍結乾燥のプロセスによって製造されることができる。
【0132】
本発明に従って使用される医薬組成物は、医薬品として使用されることができる調製物への有効成分の加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む1つまたは複数の生理学的に許容されるキャリアを使用して従来の様式で配合されることできる。適正な配合は、選ばれた投与経路に依存する。
【0133】
注射の場合、医薬組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは生理学的に適合しうる緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理学的な食塩緩衝液など)において配合されることができる。経粘膜投与の場合、浸透されるバリヤーに対して適切な浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤はこの分野では一般に知られている。
【0134】
本発明に関連した使用のために好適な医薬組成物として、有効成分が、その意図された目的を達成するために有効な量で含有される組成物が含まれる。より具体的には、「治療効果的な量」は、疾患の症状を予防、緩和あるいは改善するために効果的である、有効成分(角膜細胞)の量を意味する。
【0135】
治療効果的な量の決定は、特に本明細書中に与えられた詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0136】
本発明の方法において使用されるいかなる調製物についても、投与量または治療効果的な量は、希望の濃度または力価を達成するために動物モデルから推定されることができる。そのような情報は、ヒトにおける有用な投与量をより正確に決定するために使用されることができる。
【0137】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療効力は、実験動物における標準的な薬学的手法によって決定されることができる。これらの動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投与量範囲を定めるために使用されることができる。投与量は、用いられる投薬形態および利用される投与経路に依存して変化しうる。正確な配合、投与経路および投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択されることができる(例えば、Finglら、(1975)「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,Ch.1 p.1を参照のこと)。
【0138】
投薬量および投薬間隔を、視力の治療または改善を誘導するために十分である細胞数(最小有効濃度(MEC))を提供するために個々に調節することができる。MECはそれぞれの調製物について変化するが、インビトロデータから推定することができる。MECを達成するために必要な投薬量は個々の特性および投与経路に依存する。検出分析を使用して、血漿中濃度を求めることができる。
【0139】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、処置されている対象、苦痛の重篤度、投与様式、処方医の判断などに依存するだろう。
【0140】
本発明の組成物は、所望されるならば、有効成分を含有する1つまたは複数の単位投薬形態物を含有し得るパックまたはディスペンサーデバイス(例えば、FDA承認キットなど)で提供され得る。パックは、例えば、金属ホイルまたはプラスチックホイルを含むことができる(例えば、ブリスターパックなど)。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が付随し得る。パックまたはディスペンサーデバイスはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局によって定められた形式で、容器に関連した通知によって適応させることがあり、この場合、そのような通知は、組成物の形態、あるいはヒトまたは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物について米国食品医薬品局によって承認されたラベル書きであり得るか、または、承認された製品添付文書であり得る。適合し得る医薬用キャリアに配合された本発明の調製物を含む組成物もまた、上でさらに詳述されたように、示された状態を処置するために調製され、適切な容器に入れられ、かつ標識され得る。
【0141】
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を示す。
【0142】
用語「含む/備える(comprises、comprising、includes、including)」、「有する(having)」、およびそれらの同根語は、「含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。
【0143】
用語「からなる(consisting of)」は、「含み、それらに限定される(including and limited to)」ことを意味する。
【0144】
表現「から本質的になる(consisting essentially of)」は、さらなる成分、工程および/または部分が、主張される組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合にだけ、組成物、方法または構造がさらなる成分、工程および/または部分を含み得ることを意味する。
【0145】
数値範囲が本明細書中で示される場合には常に、示された範囲に含まれる任意の言及された数字(分数または整数)を含むことが意味される。第1の示された数字および第2の示された数字「の範囲である/の間の範囲」という表現、および、第1の示された数字「から」第2の示された数「まで及ぶ/までの範囲」という表現は、交換可能に使用され、第1の示された数字と、第2の示された数字と、その間のすべての分数および整数とを含むことが意味される。
【0146】
本明細書中で使用される用語「方法(method)」は、所与の課題を達成するための様式、手段、技術および手順を示し、これには、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の技術分野の実施者に知られているそのような様式、手段、技術および手順、または、知られている様式、手段、技術および手順から、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の技術分野の実施者によって容易に開発されるそのような様式、手段、技術および手順が含まれるが、それらに限定されない。
【0147】
本明細書で使用される場合、用語「治療する/処置する」には、状態の進行を取り消すこと、実質的に阻害すること、遅くすること、または、逆向きにすること、状態の臨床的症状または審美的症状を実質的に改善すること、あるいは、状態の臨床的症状または審美的症状の出現を実質的に防止することが含まれる。
【0148】
明確にするため別個の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴が、単一の実施形態に組み合わせて提供されることもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで、あるいは本発明の他の記載される実施形態において好適なように提供することもできる。種々の実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしに動作不能である場合を除いては、それらの実施形態の不可欠な特徴であると見なされるべきではない。
【0149】
本明細書中上記に描かれるような、および、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、実験的裏付けが下記の実施例において見出される。
【実施例】
【0150】
次に下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明と一緒に、本発明を非限定様式で例示する。
【0151】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技術は文献に詳細に説明されている。例えば以下の諸文献を参照されたい:「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら、(1989);「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻、Ausubel,R.M.編(1994);Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons、米国メリーランド州バルチモア(1989);Perbal「A Practical Guide to Molecular Cloning」、John Wiley & Sons、米国ニューヨーク(1988);Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク(1998);米国特許の第4666828号、同第4683202号、同第4801531号、同第5192659号および同第5272057号に記載される方法;「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻、Cellis,J.E.編(1994)「Culture of Animal Cells−A Manual of Basic Technique」Freshney,Wiley−Liss,N.Y.(1994),第3編;「Current Protocols in Immunology」I〜III巻、Coligan,J.E.編(1994);Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク(1994);MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク(1980);利用可能な免疫アッセイ法は、特許と科学文献に広範囲にわたって記載されており、例えば:米国特許の第3791932号、同第3839153号、同第3850752号、同第3850578号、同第3853987号、同第3867517号、同第3879262号、同第3901654号、同第3935074号、同第3984533号、同第3996345号、同第4034074号、同第4098876号、同第4879219号、同第5011771号および同第5281521号;「Oligonucleotide Synthesis」Gait,M.J.編(1984);「Nucleic Acid Hybridization」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1985);「Transcription and Translation」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1984);「Animal Cell Culture」Freshney,R.I.編(1986);「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press(1986);「A Practical Guide to Molecular Cloning」Perbal,B.(1984)および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ(1990);Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」CSHL Press(1996);これらの文献の全ては、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである。その他の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。それらの文献に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。それらの文献に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0152】
実施例1
ヒト胚性幹細胞の角膜細胞への分化
I.角膜線維芽細胞馴化上皮培地の調製:馴化培地を調製するために、初代角膜線維芽細胞を、移植に適していないヒト角膜から、角膜をディスパーゼII(2mg/ml)と37℃で一晩インキュベーションすることによって取り出した。上皮シートを除き、線維芽細胞を、10%の新生児ウシ血清が補充されるダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において培養ディッシュで培養した。線維芽細胞の細胞集団が80%〜100%の密度に達したとき(
図2Aを参照のこと)、細胞増殖をマイトマイシンC(8μg/ml)中での約3時間のインキュベーションによって停止させた。馴化培地を得るために、マイトマイシン処理された細胞を上皮培地(DMEM(60%)、HamF12(30%)、FCII(10%)、インスリン(5μg/ml)、ヒドロコルチゾン(0.5μg/ml)、EGF(10ng/ml)、0.2mMのアデニン、10nMのコレラトキシン)とインキュベーションした。培地を、10日までの期間、毎日回収し、新鮮な培地によって取り換えた。培地をろ過し、使用まで−20℃で貯蔵した。
【0153】
II.培養ディッシュの被覆:培養ディッシュをコラーゲンIV(0.5mg/ml)またはマトリゲル(0.25mg/ml)と37℃で4時間インキュベーションし、その後、リン酸塩緩衝化生理的食塩水により徹底的に洗浄した。
【0154】
III.多能性幹細胞の角膜上皮系譜への分化:多能性幹細胞をコラゲナーゼ(2mg/ml)と1時間インキュベーションし、その後、コロニーをコラーゲンIV被覆ディッシュまたはマトリゲル被覆ディッシュに置床した。培地を約2週間にわたって1日おきに新鮮な角膜線維芽細胞馴化上皮培地によって取り換えた。
【0155】
リアルタイムPCR分析:角膜分化の異なる時点における細胞のRNA抽出物を、K18、K12、pax6、GAPDHのリアルタイムPCR分析によって分析した。
【0156】
ウエスタンブロット分析:本発明者らは、抗K3/K12 Ab、抗pax6 Ab、抗K18 Ab、抗コネキシン43 Ab、抗Nanog Ab、抗Oct4 Abを使用した。
【0157】
FACS分析:FACS分析を、抗K18 Ab、抗K3/K12 Abおよび抗pax6 Abを使用して行った。
【0158】
K12プロモーター下のGFPによる細胞のトランスフェクション:胚性幹細胞由来の角膜細胞(分化の10日目)、および陽性対照として使用された細胞(ヒト角膜上皮(HCE)不死化細胞株)、または、陰性対照として使用された細胞(HaCaT、Hela、未分化ES細胞)を、Fugene試薬を製造者の説明書に従って使用して、K12角膜特異的プロモーターの支配を受けるGFPコードのプラスミドによりトランスフェクションした。48時間後、GFP蛍光を有する細胞の百分率をFACS分析によって調べた。
【0159】
結果
分化した細胞の形態は、
図1Aに示されるように、9日目において比較的均一のようであった。角膜分化を角膜上皮マーカーの定量的リアルタイム・ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によって評価した(
図1B)。上昇したレベルの外胚葉マーカーK18(およびK8、これは示されず)およびpax6(眼および角膜の発達における重要な因子)が初期の培養日において記録された。角膜特異的なサイトケラチン、すなわち、K12およびK3のmRNAレベルが後期の培養日において増大した(
図1B)。
【0160】
ウエスタンブロット分析では、公知の角膜上皮マーカー(すなわち、pax6、K3、K12およびコネキシン43)のタンパク質レベルが後期の分化段階において徐々に増大し、一方で、胚性幹細胞マーカー(NanogおよびOct4)が6日〜8日のうちに検出不能になったことが明らかにされた(
図1C)。このことから、このプロトコルはES細胞の効率的な角膜分化を誘導することが示唆される。
【0161】
K18およびpax6の共発現は、角膜上皮が由来する「水晶体板」(マウス胚形成の9.5日目(E9.5)に現れる構造体)の顕著な特徴である。後半の胚段階では、角膜上皮はpax6の発現を維持しており、K12およびK3を発現し始める。注目すべきことに、ES分化の4日目における細胞の大部分がK18を発現し、または、K18およびpax6を共発現し(
図1D、左パネル)、一方で、ES分化の10日目では、大部分の細胞がK3およびpax6を共発現した(
図1D)。このことから、ES細胞が、角膜の胚形成を連想させる様式で角膜前駆体に分化することが示唆される。
【0162】
角膜上皮の運命をさらに評価するために、分化した細胞を、K18、pax6およびK3のFACS分析に供した。
図1Eに示されるように、細胞のほとんどがK18およびpax6を6日目に発現し、一方で、細胞の圧倒的多数がK3およびpax6を12日目に発現した(>90%)。さらに、緑色蛍光タンパク質(GFP)のコード配列が、角膜マーカーの中では最も特異的であるK12遺伝子の角膜特異的プロモーターのもとにクローン化された。角膜上皮細胞に対するこの構築物の特異性が、陰性対照としての様々な非角膜細胞株(Hela、HaCaT、ES)のトランスフェクションによって、または、陽性対照としてのヒト角膜上皮細胞株(HCE)のトランスフェクションによって確認された(
図1F)。非角膜細胞は何ら著量のGFPを発現しなかった一方で、HCEの78%およびES由来角膜上皮様(ES−EC)細胞の71%が強いK12プロモーター活性を示した(
図1F)。最後に、表皮分化マーカー(すなわち、K1、K10およびインボルクリン、
図1Gを参照のこと)が全く検出されなかった。このことは、表皮様細胞が混入していないES−EC細胞の高富化集団が得られたことを示唆する。
【0163】
実施例2
角膜組織の胚性幹細胞からの作製
材料および方法
馴化培地の存在下におけるコラーゲンIVまたはマトリゲルでの多能性幹細胞の分化を1週間〜2週間行った後、細胞をディスパーゼまたはトリプシンによって集め、3D器官型再構成アッセイにおいて角膜実質同等ゲルに再播種した:初代ヒト角膜線維芽細胞を、マトリゲルおよびコラーゲンIから構成されたゲルに埋め込み、hES由来角膜細胞を上皮培地におけるこれらのゲルの頂部に播種した。角膜の層形成を、
図2A〜
図2Cに例示されるように、また、Gaggioli他、Nature cell biology、第9巻、第12号(2007)においてさらに例示されるように気液相間によって誘導した。その後、気液境界を、挿入物内部の培地を減らすことによって誘導し、細胞に、1週間〜2週間の層形成を行わせ、その間、培地を毎日取り換えた。あるいは、分化した細胞を、(例えば、Koizumi他、Investigative Ophthalmology&Visual Science、2000(August)、第41巻、第9号に記載されるように)ヒト羊膜に播種し、培養液から引き上げた。
【0164】
実施例3
ヒト誘導多能性幹(iPS)細胞の角膜細胞への分化
I.角膜線維芽細胞馴化上皮培地の調製:実施例1に記載される通りである。
【0165】
II.培養ディッシュの被覆:実施例1に記載される通りである。
【0166】
III.iPS細胞の角膜上皮系譜への分化:ヒトの毛包細胞または皮膚線維芽細胞に由来するiPSをコラーゲンIV被覆ディッシュまたはマトリゲル被覆ディッシュに播種した。培地を、約2週間にわたって1日おきに、新鮮な角膜線維芽細胞馴化上皮培地によって取り換えた。3日目、8日目および14日目に、BMP−4を培地に加えた。
【0167】
リアルタイムPCR分析:角膜分化の異なる時点における細胞のRNA抽出物を、K3、K14、K12、K18、pax6およびDNp63のリアルタイムPCR分析によって分析した。
【0168】
FACS分析:FACS分析を、抗K14 Ab、抗K3/K12 Abおよび抗pax6 Abを使用して行った。
【0169】
結果
最初の3日間におけるBMP−4の添加は、DNp63、K14およびK12の増大した発現によって提示されるように(
図4A)、角膜分化を著しく高めた。この影響がLDN(BMP−4の特異的アンタゴニスト)によって阻害された。角膜分化拘束を追跡するために、角膜上皮系譜遺伝子のメッセンジャーRNAレベルをqPCRによってiPSC分化の経過における異なる時点で記録した(
図4B)。外胚葉マーカーK18(およびK8、これは示されず)における上昇が、pax6(神経外胚葉細胞の運命の初期マーカーで、眼の発達の重要な調節因子)の発現と一緒に、2日〜4日の培養日のうちに既に現れた(
図4B)。初期の上皮分化拘束が、縁マーカーのp63およびK14の発現によって6日目〜8日目に検出され、一方で、成熟した角膜上皮のマーカー(K3、K12)、およびコネキシン43(示されず)が、10日〜14日のうちに現れた(
図4B)。初期段階におけるK18およびpax6の同時発現は、E9.5での水晶体板におけるインビボ共発現を繰り返し、その後には、成熟した角膜細胞の顕著な特徴であるpax6およびK3の共発現が続いた。角膜上皮様細胞集団の頑健性をFACS分析によって12日目に評価した。細胞の圧倒的部分がK3を発現し(>90%)、一方で、20%の細胞がK14陽性細胞のままであった。最後に、表皮マーカーのK10がmRNAレベルで増大したが、K10タンパク質を検出することができなかった(示されず)。類似した結果が、ヒト線維芽細胞に由来するiPSC、または、huESCに関して得られた(
図4C)。
【0170】
実施例4
疾患iPS細胞の角膜運命への分化
EEC患者は、縁部幹細胞欠乏症に伴う損なわれた角膜のために視覚の病的状態に悩まされている。様々なiPSC株を、実施例3に記載されるように角膜運命に誘導した。リアルタイムqRT−PCR分析によって例示されるように、ヒトiPSC株が、4日目には外胚葉前駆体(K8/K18+/Pax6+)に、8日目には縁細胞(K14/K5/Pax6+/p63+)に、そして、14日目には角膜上皮細胞(Pax−6+/K3/K12+)に順次、分化した(
図5A)。注目すべきことに、14日目に、細胞のほとんどが、免疫蛍光染色(
図5B)およびFACS分析(データは示されず)によって検出されるように、角膜上皮細胞になった。EEC患者は縁部幹細胞欠乏症に悩まされているので、iPSEEC細胞は、iPSCctlと比較した場合、適正な角膜上皮分化拘束を受けるその能力について障害があった。免疫蛍光染色分析を、K18、E−カドヘリンおよびK14に対して惹起された抗体を用いて10日目に行った(
図6A)。外胚葉始原体(K18+/E−カドヘリン+)の類似した生成が、iPSCctl、iPSC204WおよびiPSC304Wについて10日目に認められた。しかしながら、K14染色およびK3染色の非存在により、iPSEECは、iPSCctlと比較した場合、縁細胞および角膜細胞を生じさせるためのさらなる分化拘束を受けることができないことがそれぞれ明らかにされた。同時に、公知のp63標的遺伝子の遺伝子発現をリアルタイムqRT−PCRによって分化拘束の10日目に評価した(
図6B)。これらの遺伝子のほとんどが、対照細胞と比較した場合、変異細胞ではそれほど発現していなかった。
【0171】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。
【0172】
本明細書で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。節の見出しが使用されている程度まで、それらは必ずしも限定であると解釈されるべきではない。