【実施例】
【0023】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
(塗板の作製方法)
予めN−6グレー中塗り塗料による塗膜が形成された中塗り塗板を用意し、溶剤脱脂洗浄後に、光輝性塗料をエアスプレーで硬化塗膜として20μmとなるように塗板に塗装した。その後、室温約20℃の実験室に15分放置後、クリヤー塗料をエアスプレーで硬化塗膜として30μmとなるように塗板に塗装した。その後、室温約20℃の実験室に15分放置後、クリヤー塗料をエアスプレーで硬化塗膜として40μmとなるように塗板に塗装した。その後、室温約20℃の実験室に15分放置後、温風乾燥炉を使用して、140℃で30分加熱して、試験用の塗板を得た。
光輝性塗料は、水酸基含有アクリル樹脂/メラミン樹脂系有機溶剤型塗料をベース塗料とし、これに着色顔料と光輝性顔料を配合することで調製した。
クリヤー塗料としては、水酸基含有アクリル樹脂/メラミン樹脂系有機溶剤型トップクリヤー塗料を用いた。
【0024】
(チャートの作成方法)
図15に示すように、作製した塗板の分光反射率を測定し、その分光反射率から、L*C*h表色系における明度L*、彩度C*、色相角hを求め、さらに彩度C*を明度L*で除した比であるC*/L*を計算した。
分光反射率の測定にはMA68II(商品名、多角度分光光度計、ビデオジェット・エックスライト社製)を使用した。
照明光の入射角は、塗板に対して45°とした。受光角は正反射光に対する角度で示し、15°、45°、75°の3通りから選択した。
【0025】
(使用顔料の例示)
赤色系着色顔料の例を、次に示す。
R1:Hostaperm PinkEB transp.(商品名、CLARIANT社製、ジメチルキナクリドン)
R2:FASTGEN Super Red 7064B(商品名、DIC社製、無置換キナクリドン)
R3:Hostaperm PinkEG transp.(商品名、CLARIANT社製、ジクロルキナクリドン)
R4:FASTGEN Super Red ATY−TR(商品名、DIC社製、アンスラキノン)
R5:Irgazin DPP Rubin TR(商品名、BASF社製、ジケトピロロピロール)
R6:Irgazin DPP Red BO(商品名、BASF社製、ジケトピロロピロール)
R7:Paliogen RED L3885(商品名、BASF社製、ペリレン)
R8:トダカラー130R(商品名、戸田工業社製、酸化鉄)
R9:Sicotrans Red L2817(商品名、BASF社製、酸化鉄)
【0026】
光輝性顔料としては、鱗片状アルミニウム顔料を用いた。
A1:アルミニウムペーストGX−180A(商品名、旭化成アルミ社製、平均粒径16μm)
A2:アルミニウムペーストMH−8801(商品名、旭化成アルミ社製、平均粒径15μm)
A3:アルミペースト5680NS(商品名、東洋アルミ社製、平均粒径8μm)
A4:アルミペースト7640NS(商品名、東洋アルミ社製、平均粒径17μm)
【0027】
(赤系顔料が異なる塗料の塗色についてのチャートの作成例)
4種類の赤系顔料(R5,R7,R8,R9)のそれぞれに対し、同じアルミ顔料(7640NS)を同量配合した複数の塗料を調製し、塗膜の分光反射率を測定して、チャートを作成した。顔料の配合量は、ベース塗料の樹脂固形分100質量部に対し、赤系顔料が8.6質量部、アルミ顔料が8.6質量部である。
hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートを
図1A〜
図1Cに示す。また、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートを
図2A〜
図2Cに示す。各チャートは、受光角15°、45°、75°の3通り作成した。
C*を縦軸とした場合、受光角45°や75°のとき(
図2B及び
図2C参照)、4色の見た目はかなり異なるにもかかわらず、C*の値が近接し、区別しにくい結果が得られた。これに対してC*/L*を縦軸とした場合には、C*/L*の値が大きく異なり、分布が集中しにくくなっている。
【0028】
(アルミ顔料が異なる塗料の塗色についてのチャートの作成例)
4種類の赤系顔料(R5,R7,R8,R9)のそれぞれに対し、2種類のアルミ顔料(5680NS、GX−180A)のいずれかを同じ質量比で配合した複数の塗料を調製し、塗膜の分光反射率を測定して、チャートを作成した。顔料の配合量は、ベース塗料の樹脂固形分100質量部に対し、赤系顔料が3質量部、アルミ顔料が12質量部である。
図3A〜
図6において、赤系顔料を表す符号(R+数字)の後に「−A」を添えた符号は、アルミ顔料が5680NS(平均粒径8μm)であることを示す。同様に「−B」を添えた符号は、アルミ顔料がGX−180A(平均粒径16μm)であることを示す。
hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートを
図3A〜
図3Cに示す。また、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートを
図4A〜
図4Cに示す。各チャートは、受光角15°、45°、75°の3通り作成した。
C*を縦軸とした場合、受光角45°や75°のとき(
図4B及び
図4C参照)、4色の見た目はかなり異なるにもかかわらず、C*の値が近接し、区別しにくい結果が得られた。これに対してC*/L*を縦軸とした場合には、C*/L*の値が大きく異なり、分布が集中しにくくなっている。
このようなチャートを作成することにより、例えば、R7は受光角やアルミ粒径によらず色相の変化は小さいが、R5やR8は受光角によって色相角が比較的大きく変化することが分かる。
色相角hの代わりにアルミ顔料の粒径を横軸として作成したチャートを
図5、
図6に示す。
図3Bと
図5でとC*/L*の値は等しく、
図4Bと
図6とでC*の値は等しい。
図5のようにアルミ顔料の粒径を横軸とすると、粒径の違いが塗色に与える影響を容易に把握することができる。
【0029】
(顔料の配合比が異なる塗料の塗色についてのチャートの作成例)
4種類の赤系顔料(R5,R7,R8,R9)のそれぞれに対し、同じアルミ顔料(7640NS)を4通りの質量比で配合した複数の塗料を調製し、塗膜の分光反射率を測定して、チャートを作成した。
図7A〜
図10において、赤系顔料を表す符号(R+数字)の後に「−A」を添えた符号は、赤系顔料とアルミ顔料の質量比が10:0であることを示す。同様に「−B」を添えた符号は、該質量比が9:1であることを示し、「−C」を添えた符号は、該質量比が5:5であることを示し、「−D」を添えた符号は、該質量比が1:9であることを示す。
hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートを
図7A〜
図7Cに示す。また、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートを
図8A〜
図8Cに示す。各チャートは、受光角15°、45°、75°の3通り作成した。
このようなチャートを作成することにより、例えば、R5はアルミ顔料を増やすと色相角が減少する(赤から青みを増す)傾向にあり、R9はアルミ顔料を増やすと色相角が増大する(赤から黄みを増す)傾向にあり、R7はアルミ顔料を増やしても色相が変化しにくいことが分かる。
色相角hの代わりに顔料の質量比(濃度)を横軸として作成したチャートを
図9、
図10に示す。
図7Bと
図9でとC*/L*の値は等しく、
図8Bと
図10とでC*の値は等しい。
図10に示すようにC*を縦軸とした場合、例えば、赤系顔料R7,R9では、濃度B(質量比9:1)のときにC*が最大となり、濃度Bの場合よりも赤系顔料の割合が少なくても多くてもC*の値がより小さくなる結果を示した。
図10に示すようにC*/L*を縦軸とした場合には、4種類の赤系顔料(R5,R7,R8,R9)のいずれでも、赤系顔料の割合が多いほどC*/L*の値が大きくなる結果を示した。これは、C*/L*によれば、色の見かけの彩度(鮮やかさ)をよりよく反映した値になるためと考えられる。
【0030】
(色相環の上にプロットしたチャートの作成例)
本発明により作成されるチャート(マップ)は、2つの座標軸を直交させる直交座標系に限定されず、他の座標系で表示することも可能である。
図11は、異なる赤系顔料にアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色を、色相環の上にプロットしたチャートの一例である。
5種類の赤系顔料(R5,R6,R7,R8,R9)のそれぞれに対し、アルミ顔料(GX−180A)を配合した複数の塗料を調製し、塗膜の分光反射率を測定して、チャートを作成した。顔料の配合量は、ベース塗料の樹脂固形分100質量部に対し、赤系顔料が3質量部、アルミ顔料が12質量部である。
半径軸は、C*/L*を百分率で表示した、すなわち、C*/L*×100である。
【0031】
(青系ダークカラーのチャートの作成例)
日本国内で販売されている自動車外板に適用されているダークブルー系の塗色として、9種類を選んでチャートを作成した例を示す。
受光角75°のL*を横軸、受光角15°のC*/L*を縦軸として作成したチャートを
図12に示し、受光角75°のL*を横軸、受光角15°のC*を縦軸として作成したチャートを
図13に示す。B1〜B9の塗色は、いずれも複数の色材を組み合わせて得られるが、本発明は、複数の色材を組み合わせた実際の塗色の比較にも有効である。受光角15°のC*で比較する場合、B1,B6,B9は殆ど同じ値となるが、実際には明度が異なるため、シェードにおける見かけの彩度は異なる。そこで、受光角15°のC*/L*を軸として比較することにより、目視の感覚に近く、見かけの違いを反映したチャートが得られる。
【0032】
(深み感の評価方法)
図14A〜
図14Cは、観察角度が互いに異なる受光角のC*/L*を得た結果と、観察者による深み感を目視評価した結果とを比較するための表である。このうち、
図14Aは、4種類の塗色の各々のC*及びL*を示す表であり、
図14Bは、4種類の塗色の各々について5人の評価者が目視評価した結果を示す表であり、
図14Cは、4種類の塗色の各々におけるC*/L*の値と評価結果とを示す表である。
【0033】
図14Aに示すように、4種類の塗色(A,B,C,D)を用意した。この4色は、青系のメタリック塗色である。上述した実施形態の方法と同様の方法により、4種類の塗色を用いて塗膜を基板に形成し、4つの塗板を得た。この4つの塗板に対し、MA68II(商品名、多角度分光光度計、ビデオジェット・エックスライト社製)を使用し、分光反射率を測定し、ハイライト領域、フェース領域、及びシェード領域における明度L*と彩度C*を測定した。
図14Aにおいて、C*15は、受光角15°(ハイライト)における彩度を意味する。C*25は、受光角25°(ハイライト)における彩度を意味する。C*45は、受光角45°(フェース)における彩度を意味する。C*75は、受光角75°(シェード)における彩度を意味する。L*15は、受光角15°(ハイライト)における明度を意味する。L*25は、受光角25°(ハイライト)における明度を意味する。L*45は、受光角45°(ハイライト)における明度を意味する。L*75は、受光角75°(ハイライト)における明度を意味する。
4種類の塗色を用いて形成された4つの塗板において、C*15,C*25,C*45,C*75,L*15,L*25,L*45,L*75を求めた。
【0034】
次に、
図14Bに示すように、5名の観察者(aさん、bさん、cさん、dさん、eさん)が4つの塗板の深み感を目視評価した(距離尺度)。ここで、5名の観察者とは、自動車外装用塗色の設計経験が3年以上のデザイナー4名と、技術者1名の計5名である。
このような目視評価の結果、塗色Aを用いて形成された塗板について、5名の観察者の全員が深み感を感じない「評価値0」という結果が得られた。また、塗色Bを用いて形成された塗板について、5名の観察者による評価値4,7,3,4,6が得られた(平均値4.8)。塗色Cを用いて形成された塗板について、5名の観察者による評価値10,10,7,8,9が得られた(平均値8.8)。塗色Dを用いて形成された塗板について、5名の観察者の全員が深み感を感じる「評価値13」という結果が得られた。
このような目視評価の結果、塗色Aの深み感が最も低く、塗色Aよりも塗色Bの深み感が高く、塗色Bよりも塗色Cの深み感が高く、塗色Cよりも塗色Dの深み感が高く、即ち、塗色Dの深み感が最も高かった。従って、塗色A,B,C,Dの順番で、深み感が順に高くなるという結果が得られた。
【0035】
次に、
図14Aに示すように得られた4種類の塗色(A,B,C,D)におけるC*15,C*25,C*45,C*75,L*15,L*25,L*45,L*75の値に基づいて、
図14Cに示すように除算して数値を得た。
この結果、C*15/L*75の数値で、4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に則した評価結果が得られた。即ち、ハイライトの彩度をシェードの明度で除した数値が目視評価の距離尺度に近いことが分かった(評価結果:良、高い相関関係が得られた)。
同様に、C*45/L*75の数値で4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に則した評価結果が得られた。即ち、ハイライトの彩度をシェードの明度で除した数値が目視評価の距離尺度に近いことが分かった(評価結果:良、高い相関関係が得られた)。
更に、C*25/L*75の数値で4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に最も則した評価結果が得られた。即ち、ハイライトの彩度をシェードの明度で除した数値が目視評価の距離尺度に最も近いことが分かった(評価結果:最良、最も高い相関関係が得られた)。
また、C*75/L*75の数値で4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に則した評価結果が得られた。即ち、シェードの彩度をシェードの明度で除した数値であっても、目視評価の距離尺度に近いことが分かった(評価結果:良、高い相関関係が得られた)。
なお、ハイライトの彩度をハイライトの明度で除した数値である、C*15/L*15の数値及びC*25/L*25の数値で、4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に則した評価結果が得られなかった(評価結果:不良、相関関係が得られなかった)。
また、フェースの彩度をフェースの明度で除した数値である、C*45/L*45の数値で、4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に則した評価結果が得られなかった(評価結果:不良、相関関係が得られなかった)。
【0036】
上記のような結果について考察したところ、人間の目は、ハイライトとシェードを同時に観察しており、彩度についてはダイナミックレンジが大きいハイライトの部分が観察者の印象として残り、明度については変化が少ないシェードの部分が観察者の印象として残ると考えられる。
これまでに、彩度が高い場合には深み感を感じること、及びシェードでは白く濁らずに黒い塗色の場合に深み感を感じることは文献に開示されている。しかしながら、ハイライトの彩度をシェードの明度で除した数値で深み感を評価したという本発明は、これまでに開示されていなかった。本発明によって、ハイライトの彩度をシェードの明度で除した数値が目視評価の距離尺度に近く、高い相関関係が得られることは、初めて明らかとなった。