特許第6139417号(P6139417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139417
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】塗色の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/46 20060101AFI20170522BHJP
   G01J 3/52 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   G01J3/46 Z
   G01J3/52
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-557594(P2013-557594)
(86)(22)【出願日】2013年2月8日
(86)【国際出願番号】JP2013053059
(87)【国際公開番号】WO2013118868
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2015年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-25028(P2012-25028)
(32)【優先日】2012年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】松下 晶子
(72)【発明者】
【氏名】原田 修
(72)【発明者】
【氏名】倉持 竜生
【審査官】 平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−162600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00− 3/52
G01D 7/00
B05D 3/00
B05D 5/06
B44D 3/00
G01N 21/00− 21/01
G01N 21/17− 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料と光輝性顔料を含む塗料の塗色の評価方法であって、
複数の塗色のそれぞれについて、正反射光の方向に対する受光角が、ハイライト、シェード又はフェースである受光角で前記塗料の塗膜の分光反射率を測定し、前記分光反射率から、L*C*h表色系における明度L*と彩度C*の比であるC*/L*を計算し、
前記C*/L*の値を1つの座標軸に示す2次元平面上に前記複数の塗色を配置して、チャートを作成する
ことを特徴とする塗色の評価方法。
【請求項2】
着色顔料と光輝性顔料を含む塗料の塗色の評価方法であって、
複数の塗色のそれぞれについて、複数の受光角で前記塗料の塗膜の分光反射率を測定し、前記分光反射率から、L*C*h表色系における明度L*と彩度C*の比である、それぞれの受光角C*/L*を計算し、
前記C*/L*の値を1つの座標軸に示す2次元平面上に前記複数の塗色を配置して、前記それぞれの受光角ごとにチャートを作成する
ことを特徴とする塗色の評価方法。
【請求項3】
着色顔料と光輝性顔料を含む塗料の塗色の評価方法であって、
複数の塗色のそれぞれについて、第一受光角領域における前記塗料の塗膜の分光反射率を測定し、第二受光角領域における前記塗料の塗膜の分光反射率を測定し、前記第一受光角領域の前記分光反射率及び前記第二受光角領域の前記分光反射率から、L*C*h表色系における前記第二受光角領域の明度L*と前記第一受光角領域の彩度C*の比であるC*/L*を計算し、
前記C*/L*の値を1つの座標軸に示す2次元平面上に前記複数の塗色を配置して、チャートを作成する
ことを特徴とする塗色の評価方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の塗色の評価方法であって、
前記チャートは、C*/L*の値を第一座標軸に示し、L*C*h表色系における色相角hもしくは前記明度L*、前記光輝性顔料の種類、前記着色顔料と前記光輝性顔料の含有比から選択されるいずれか一つのパラメータを第二座標軸に示す
ことを特徴とする塗色の評価方法。
【請求項5】
着色顔料と光輝性顔料を含む塗料の塗色の評価方法であって、
第一受光角領域における前記塗料の塗膜分光反射率を測定し、
第二受光角領域における前記塗料の塗膜分光反射率を測定し、
前記第一受光角領域の前記分光反射率及び前記第二受光角領域の前記分光反射率から、L*C*h表色系における前記第二受光角領域明度L*と前記第一受光角領域彩度C*の比であるC*/L*を計算し、
前記C*/L*の数値により、前記塗料の塗色を評価する
ことを特徴とする塗色の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色顔料と光輝性顔料を含む塗料の塗色の評価方法に関する。
本願は、2012年2月8日に出願された特願2012−025028号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な光輝性顔料(アルミフレーク、マイカフレーク、グラファイト等)を含む塗料(例えば、メタリック塗料)が広く用いられている。このような塗料を、例えば、自動車外板に塗装して得られた塗膜の色(以下、「塗色」又は「メタリック色」という)は、観察角度により色の見え方が変化する。これに対して、観察角度により色の見え方が変化しない塗色は「ソリッド色」と呼ばれている。
【0003】
従来、所望のメタリック色が得られる塗料の配合を決める場合は、着色顔料(ソリッド顔料)と光輝性顔料(メタリック顔料)のそれぞれに固有の色を勘案して、技術者やデザイナーが経験や知見に基づいて検討している。これらの顔料は、粒子の構造や粒径などによって発色機構が異なり、ハイライト(正反射光からの開き角度が小さい観察角度、例えば、15°の受光角)で発色する顔料、シェード(正反射光からの開き角度が大きい観察角度、例えば、75°の受光角)で発色する顔料、透明性の顔料、隠蔽性の顔料等がある。
このため、各顔料のメーカーが作成している色見本の作成方法がまちまちであるときは勿論、たとえ条件を固定して各顔料の色見本を作成したとしても、メタリック色に適用した場合の塗色の変化は複雑であり、整理や評価は困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、着色顔料と光輝性顔料を含む塗料の発色特性(塗色)を評価するために好適な塗色の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の一態様の塗色の評価方法は、着色顔料と光輝性顔料を含む塗料の塗色の評価方法であって、前記塗料の塗膜の分光反射率を測定し、前記分光反射率から、L*C*h表色系における明度L*と彩度C*の比であるC*/L*を計算する。
本発明の一態様の塗色の評価方法においては、複数の受光角で前記分光反射率を測定し、それぞれの受光角の前記C*/L*を計算することが好ましい。
本発明の一態様の塗色の評価方法においては、複数の塗色について、それぞれ前記C*/L*を求め、前記C*/L*の値を1つの座標軸に示す2次元平面上に前記複数の塗色を配置して、チャートを作成することが好ましい。
本発明の一態様の塗色の評価方法においては、前記チャートは、C*/L*の値を第一座標軸に示し、L*C*h表色系における色相角hもしくは前記明度L*、前記光輝性顔料の種類、前記着色顔料と前記光輝性顔料の含有比から選択されるいずれか一つのパラメータを第二座標軸に示すことが好ましい。
本発明の一態様の塗色の評価方法においては、第一受光角領域における前記塗膜の前記分光反射率を測定し、第二受光角領域における前記塗膜の前記分光反射率を測定し、前記第一受光角領域の前記分光反射率及び前記第二受光角領域の前記分光反射率から、前記第二受光角領域の前記明度L*と前記第一受光角領域の前記彩度C*の比であるC*/L*を計算することが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、着色顔料を変えて作成された塗料の塗色を測定し、C*/L*の値を一つの座標軸に使用してマップ化することにより、即ち、マップ(チャート)上にC*/L*の値を示すことにより、着色顔料が異なる塗料の塗色を表す座標点の分布がマップ(チャート)上に集中しにくくなる。これにより、複数の塗料の塗色を容易に整理分類することができ、塗料の発色特性の評価、即ち、塗色の評価に資することができる。
また、前記第二受光角領域の前記明度L*と前記第一受光角領域の前記彩度C*の比であるC*/L*を計算することにより、深み感の目視評価(距離尺度)に近い結果が得られることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】異なる赤系顔料に同種・同量のアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が15°である場合の色相角を示すチャートである。
図1B】異なる赤系顔料に同種・同量のアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が45°である場合の色相角を示すチャートである。
図1C】異なる赤系顔料に同種・同量のアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が75°である場合の色相角を示すチャートである。
図2A】異なる赤系顔料に同種・同量のアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が15°である場合の色相角を示すチャートである。
図2B】異なる赤系顔料に同種・同量のアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が45°である場合の色相角を示すチャートである。
図2C】異なる赤系顔料に同種・同量のアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が75°である場合の色相角を示すチャートである。
図3A】赤系顔料に異なるアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が15°である場合の色相角を示すチャートである。
図3B】赤系顔料に異なるアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が45°である場合の色相角を示すチャートである。
図3C】赤系顔料に異なるアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が75°である場合の色相角を示すチャートである。
図4A】赤系顔料に異なるアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が15°である場合の色相角を示すチャートである。
図4B】赤系顔料に異なるアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が45°である場合の色相角を示すチャートである。
図4C】赤系顔料に異なるアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が75°である場合の色相角を示すチャートである。
図5】赤系顔料に異なるアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、アルミ顔料の粒径を横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャート(受光角45°)である。
図6】赤系顔料に異なるアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色について、アルミ顔料の粒径を横軸、C*を縦軸として作成したチャート(受光角45°)である。
図7A】赤系顔料とアルミ顔料を異なる質量比で配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が15°である場合の色相角を示すチャートである。
図7B】赤系顔料とアルミ顔料を異なる質量比で配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が45°である場合の色相角を示すチャートである。
図7C】赤系顔料とアルミ顔料を異なる質量比で配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が75°である場合の色相角を示すチャートである。
図8A】赤系顔料とアルミ顔料を異なる質量比で配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が15°である場合の色相角を示すチャートである。
図8B】赤系顔料とアルミ顔料を異なる質量比で配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が45°である場合の色相角を示すチャートである。
図8C】赤系顔料とアルミ顔料を異なる質量比で配合した複数の塗料の塗色について、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートであって、受光角が75°である場合の色相角を示すチャートである。
図9】赤系顔料とアルミ顔料を異なる質量比で配合した複数の塗料の塗色について、質量比を横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャート(受光角45°)である。
図10】赤系顔料とアルミ顔料を異なる質量比で配合した複数の塗料の塗色について、質量比を横軸、C*を縦軸として作成したチャート(受光角45°)である。
図11】異なる赤系顔料にアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色の色を、色相環の上にプロットしたチャートである。
図12】青系ダークカラーの複数の塗色について、受光角75°のL*を横軸、受光角15°のC*/L*を縦軸として作成したチャートである。
図13】青系ダークカラーの複数の塗色について、受光角75°のL*を横軸、受光角15°のC*を縦軸として作成したチャートである。
図14A】観察角度が互いに異なる受光角のC*/L*を得た結果と、観察者による深み感を目視評価した結果とを比較するための表であって、4種類の塗色の各々のC*及びL*を示す表である。
図14B】観察角度が互いに異なる受光角のC*/L*を得た結果と、観察者による深み感を目視評価した結果とを比較するための表であって、4種類の塗色の各々について5人の評価者が目視評価した結果を示す表である。
図14C】観察角度が互いに異なる受光角のC*/L*を得た結果と、観察者による深み感を目視評価した結果とを比較するための表であって、4種類の塗色の各々におけるC*/L*の値と評価結果とを示す表である。
図15】本発明の塗料の塗色の評価方法の実施形態であって、分光反射率を測定する方法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、好適な実施の形態に基づいて、本発明の実施形態を説明する。
本発明が適用される塗料は、光輝性顔料を含む塗料(以下、光輝性塗料という。)である。光輝性顔料は、光輝性顔料が配合された塗料の塗膜の見え方を、観察する角度により変化させる顔料である。このような顔料としては、具体的には、アルミニウム、銅、ニッケル合金、ステンレス等の鱗片状金属顔料、表面を金属酸化物で被覆した鱗片状金属顔料、表面に着色顔料を化学吸着させた鱗片状金属顔料、表面に酸化還元反応を起こさせることにより酸化アルミニウム層を形成した鱗片状アルミニウム顔料、アルミニウムを固溶した板状酸化鉄顔料、ガラスフレーク顔料、表面を金属又は金属酸化物で被覆したガラスフレーク顔料、表面に着色顔料を化学吸着させたガラスフレーク顔料、表面を二酸化チタンで被覆した干渉マイカ顔料、干渉マイカ顔料を還元した還元マイカ顔料、表面に着色顔料を化学吸着させたり、表面を酸化鉄で被覆した着色マイカ顔料、表面を二酸化チタンで被覆したグラファイト顔料、表面を二酸化チタンで被覆したシリカフレークやアルミナフレーク顔料、板状酸化鉄顔料、ホログラム顔料、合成マイカ顔料、らせん構造を持つコレステリック液晶ポリマー顔料、オキシ塩化ビスマス顔料などが挙げられる。
【0009】
また、前記光輝性塗料には、光輝性顔料以外の顔料として、一般の着色顔料、例えば、透明性酸化鉄顔料、チタンイエロー等の複合酸化物顔料等の無機顔料;アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属キレートアゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料等の有機顔料、カーボンブラック顔料等の着色顔料を含むことができる。
【0010】
また、前記光輝性塗料には、通常、ビヒクルとして、樹脂成分を含有することができる。樹脂成分としては、具体的には、水酸基などの架橋性官能基を有する、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などの基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物(ブロック体も含む)などの架橋剤とを併用した樹脂成分が挙げられる。
前記光輝性塗料は、ビヒクル、顔料、溶媒(有機溶剤や水など)、必要に応じて適宜の添加物を配合し、均一に分散させることで調製することができる。
【0011】
図15は、本発明の塗色の評価方法の実施形態を示す。
光輝性塗料の塗膜20が形成された塗板10(基板5)を準備し、塗板10に照明40から照明光30を照射する。ここで、照明光30が塗板10に入射する角度は、塗板10に平行な方向から45°である(反時計回りで45°)。照明光30が塗板10によって反射されて生じる反射光のうち、符号RFで示された方向に進む反射光は、正反射光である。正反射光RFは、塗板10の法線方向(フェース)に対して45°である(反時計回りで45°)。この正反射光の方向RFに対する時計回りの所定の受光角(例えば、図15の15°,25°,45°,75°,110)で反射された反射光が、多角度分光光度計に設けられた受光部によって受光される。
ここで、受光角15°,25°は、ハイライト領域(第一受光角領域)であって、正反射光の方向RFと塗板10の法線方向との間に位置する角度である。
また、受光角75°,110°は、シェード領域(第二受光角領域)であって、塗板10の法線方向と、塗板10に平行な方向(塗板10の法線方向から時計回りで90°)との間に位置する角度である。言い換えると、シェード領域の中でも、受光角75°は、塗板10の法線方向と照明光30の入射方向との間に位置する角度であり、受光角110°は、照明光30の入射方向と塗板10に平行な方向との間に位置する角度である。
【0012】
(塗色の評価方法の第一実施形態)
本発明の塗色の評価方法の第一実施形態においては、前記光輝性塗料の塗膜を作製し、所定の受光角で分光反射率を測定し、その分光反射率から、L*C*h表色系における明度L*と彩度C*の比であるC*/L*を計算する。さらに、複数の光輝性塗料について、それぞれ前記C*/L*を求め、前記C*/L*の値を1つの座標軸(第一座標軸)に示し、他のパラメータをもう1つの座標軸(第二座標軸)に示す2次元平面上に複数の光輝性塗料の塗色を表す座標点を配置して、チャートを作成する。C*/L*を軸にすると、C*を軸にした場合と比較して目視の感覚に近い散布になる。これは、L*によってC*の最大値が異なるためである。これにより、複数の光輝性塗料の塗色が目視の感覚に近くなるようにマップ化することができ、メタリック色の発色特性の整理や評価に役立てることができる。
光輝性塗料の塗色は、観測角度の違いのほか、塗料に使用する着色顔料、光輝性顔料、ビヒクルその他の成分の違い、これらの成分の含有比の違い、塗装方法、光沢、膜厚等の違い、塗膜の上に積層するクリヤー塗料の有無などによっても変化する。そこで、これらの多様な因子に対して、マップを作成することにより、塗色がどのように変化するかを該塗料の発色特性として把握することが容易になる。
【0013】
塗膜の作製方法は、基板上に均一な膜厚の光輝性塗料を塗装できる方法であれば、特に限定されないが、エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレーなどのスプレー方式が好ましい。
基板には、光輝性塗料を基板に塗装する前に、あらかじめ下塗り塗料や中塗り塗料による塗膜を形成しておくことができる。また、光輝性塗料の塗膜の上には、該塗膜を保護する等の目的で、クリヤー塗料の塗膜を1層または2層以上形成することができる。
L*C*h表色系における彩度C*と色相角hは、JIS Z 8729に規定されるL*a*b*表色系による色座標a*、b*から、次の式(1)、(2)によって求めることができる。
【0014】
C*=[(a*)2+(b*)2]1/2 ・・・・(1)
【0015】
h=tan−1(b*/a*) ・・・・(2)
【0016】
ただし、(2)において、色相角hは、a*とb*がともに正であれば0〜90°の範囲、a*が負でb*が正であれば90〜180°の範囲、a*とb*がともに負であれば180〜270°の範囲、a*が正でb*が負であれば270〜360°の範囲となる。
なお、式(1)、(2)により定義される彩度C*および色相角hは、それぞれ、JIS Z 8729に規定される、abクロマ(C*ab)およびab色相角(hab)に相当する。
【0017】
分光反射率を測定する際の入射角は、一般に塗板の法線方向に対して45°である。
受光角は、正反射光の方向(図15の符号RF)に対する角度(塗膜表面に垂直な面内の角度)で示され、ハイライト側であれば10°、15°、25°等、シェード側では75°、110°等が挙げられる。また、塗板に対する正面付近であるフェース側として、45°等の受光角を採用することもできる。複数の受光角で分光反射率を測定し、それぞれの受光角のC*/L*を計算してもよい。
分光光度計には、例えば、ビデオジェット・エックスライト社製の多角度分光光度計MA68IIを使用することができる。
【0018】
一つのチャート(マップ)に複数の塗色を配置する場合、着色顔料が、材質、構造、粒径等において異なる顔料、光輝性顔料が、材質、構造、粒径等において異なる顔料、着色顔料の含有量が異なる顔料、光輝性顔料の含有量が異なる顔料、着色顔料と光輝性顔料の含有比が異なる顔料等、1つまたは2つ以上の観点で配合が異なる、複数の光輝性塗料を調製し、塗料ごとに塗膜を作製して分光反射率を測定し、C*/L*を計算する。
前記チャートは、C*/L*の値を1つの座標軸(第一座標軸)とし、L*C*h表色系における色相角hもしくは明度L*、前記着色顔料の種類(材質、構造、粒径等)、光輝性顔料の種類(材質、構造、粒径等)、着色顔料と光輝性顔料の含有比、塗装方法、前記塗料の光沢、前記塗膜の膜厚、前記塗料中の顔料以外の成分、前記塗膜と積層される他の層の種類などから選択されるパラメータのいずれかをもう1つの座標軸(第二座標軸)とすることができる。
【0019】
作成したチャートは、カラーディスプレイに表示したり、カラープリンタを用いて紙や樹脂フィルムなどに印刷したりすることで、可視化することができる。
チャート上で、異なる塗料を識別するため、それぞれの塗色を表す座標点ごとに、名称、符号、カラーコード等を示す文字や記号等を添えることもできる。これにより、技術者、デザイナー、ユーザー等の間での情報伝達や情報交換に有用である。
また、塗色をカラーで再現したラベルや小片を添えて、描画または印刷すると、色を容易に特定することができ、好ましい。印刷物の場合、実際の色見本をプロットすることができる。色見本の作製には、分光反射率の測定に用いた塗料を用いることもできる。電子データの場合、色の見え方を再現したCG画像をプロットすることができる。これにより、目視とチャート上の位置を同時に比較できるので、好ましい。
【0020】
C*/L*の値が1つの座標軸に示されていることにより、着色顔料が異なる塗料の塗色を表す座標点の分布が集中しにくくなり、複数の塗料の塗色を容易に整理分類することができる。
着色顔料が同じで、光輝性顔料の種類(材質、構造、粒径等)が異なる複数の塗料の塗色を1つのチャートにまとめた場合、輝度が異なる塗色や、観察角度によって明度が大きく変化するフリップフロップ性の異なる塗料の塗色の発色特性を評価することができる。
着色顔料と光輝性顔料が同じで、その含有比が異なる複数の塗料の塗色を1つのチャートにまとめた場合、含有比による塗料の塗色の発色特性を評価することができる。
また、光輝性塗料が同じでも、塗装膜厚や塗り回数、クリヤー塗膜の有無等によって塗色は変化し得る。このため、塗装方法、塗料の光沢、塗膜の膜厚、塗料中の顔料以外の成分、塗膜と積層される他の層の種類などをもう1つの座標軸に示すこともできる。
また、複数の受光角でC*/L*を計算し、チャートを作成することにより、ハイライトやシェードの発色特性を評価することができる。
塗膜の分光反射率は塗装ライン上でも容易に測定できるため、実際にオンラインしている塗色の比較にも適用することができる。
なお、本発明の第一実施形態における塗色の評価方法や、チャートの作成方法は、光輝性顔料を含まない塗料や、観察角度により色の見え方が変化しない塗料の塗色の評価にも適用可能である。
【0021】
(塗色の評価方法の第二実施形態)
以下に説明する第二実施形態では、第一実施形態と同一部材には同一符号を付して、その説明は省略または簡略化する。
本発明の塗色の評価方法の第二実施形態においては、観察角度が互いに異なる受光角について明度L*及び彩度C*を測定し、C*/L*を求め、塗料の「深み感」を評価する方法について述べる。
ここで、深み感とは、観察者にとって「色」と「奥行き」の2つの情報で識別される質感である。
本実施形態では、まず、ハイライト領域(第一受光角領域)における前記塗膜の前記分光反射率を測定し、シェード領域(第二受光角領域)における前記塗膜の前記分光反射率を測定する。具体的に、ハイライト領域における受光角15°,25°の彩度C*を測定し、シェード領域における受光角75°,110°の明度L*を測定し、ハイライト領域のC*をシェード領域のL*で除した値を計算する。
このように観察角度が異なる数値に基づいてC*/L*を求めることにより、例えば、メタリック塗色のような観察角度によって色の見え方が変化する塗膜に対し、深み感を有効的に評価することができ、深み感を定量化することができる。
【0022】
本発明の好ましい実施形態を説明し、上記で説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、特許請求の範囲によって制限されている。
【実施例】
【0023】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
(塗板の作製方法)
予めN−6グレー中塗り塗料による塗膜が形成された中塗り塗板を用意し、溶剤脱脂洗浄後に、光輝性塗料をエアスプレーで硬化塗膜として20μmとなるように塗板に塗装した。その後、室温約20℃の実験室に15分放置後、クリヤー塗料をエアスプレーで硬化塗膜として30μmとなるように塗板に塗装した。その後、室温約20℃の実験室に15分放置後、クリヤー塗料をエアスプレーで硬化塗膜として40μmとなるように塗板に塗装した。その後、室温約20℃の実験室に15分放置後、温風乾燥炉を使用して、140℃で30分加熱して、試験用の塗板を得た。
光輝性塗料は、水酸基含有アクリル樹脂/メラミン樹脂系有機溶剤型塗料をベース塗料とし、これに着色顔料と光輝性顔料を配合することで調製した。
クリヤー塗料としては、水酸基含有アクリル樹脂/メラミン樹脂系有機溶剤型トップクリヤー塗料を用いた。
【0024】
(チャートの作成方法)
図15に示すように、作製した塗板の分光反射率を測定し、その分光反射率から、L*C*h表色系における明度L*、彩度C*、色相角hを求め、さらに彩度C*を明度L*で除した比であるC*/L*を計算した。
分光反射率の測定にはMA68II(商品名、多角度分光光度計、ビデオジェット・エックスライト社製)を使用した。
照明光の入射角は、塗板に対して45°とした。受光角は正反射光に対する角度で示し、15°、45°、75°の3通りから選択した。
【0025】
(使用顔料の例示)
赤色系着色顔料の例を、次に示す。
R1:Hostaperm PinkEB transp.(商品名、CLARIANT社製、ジメチルキナクリドン)
R2:FASTGEN Super Red 7064B(商品名、DIC社製、無置換キナクリドン)
R3:Hostaperm PinkEG transp.(商品名、CLARIANT社製、ジクロルキナクリドン)
R4:FASTGEN Super Red ATY−TR(商品名、DIC社製、アンスラキノン)
R5:Irgazin DPP Rubin TR(商品名、BASF社製、ジケトピロロピロール)
R6:Irgazin DPP Red BO(商品名、BASF社製、ジケトピロロピロール)
R7:Paliogen RED L3885(商品名、BASF社製、ペリレン)
R8:トダカラー130R(商品名、戸田工業社製、酸化鉄)
R9:Sicotrans Red L2817(商品名、BASF社製、酸化鉄)
【0026】
光輝性顔料としては、鱗片状アルミニウム顔料を用いた。
A1:アルミニウムペーストGX−180A(商品名、旭化成アルミ社製、平均粒径16μm)
A2:アルミニウムペーストMH−8801(商品名、旭化成アルミ社製、平均粒径15μm)
A3:アルミペースト5680NS(商品名、東洋アルミ社製、平均粒径8μm)
A4:アルミペースト7640NS(商品名、東洋アルミ社製、平均粒径17μm)
【0027】
(赤系顔料が異なる塗料の塗色についてのチャートの作成例)
4種類の赤系顔料(R5,R7,R8,R9)のそれぞれに対し、同じアルミ顔料(7640NS)を同量配合した複数の塗料を調製し、塗膜の分光反射率を測定して、チャートを作成した。顔料の配合量は、ベース塗料の樹脂固形分100質量部に対し、赤系顔料が8.6質量部、アルミ顔料が8.6質量部である。
hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートを図1A図1Cに示す。また、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートを図2A図2Cに示す。各チャートは、受光角15°、45°、75°の3通り作成した。
C*を縦軸とした場合、受光角45°や75°のとき(図2B及び図2C参照)、4色の見た目はかなり異なるにもかかわらず、C*の値が近接し、区別しにくい結果が得られた。これに対してC*/L*を縦軸とした場合には、C*/L*の値が大きく異なり、分布が集中しにくくなっている。
【0028】
(アルミ顔料が異なる塗料の塗色についてのチャートの作成例)
4種類の赤系顔料(R5,R7,R8,R9)のそれぞれに対し、2種類のアルミ顔料(5680NS、GX−180A)のいずれかを同じ質量比で配合した複数の塗料を調製し、塗膜の分光反射率を測定して、チャートを作成した。顔料の配合量は、ベース塗料の樹脂固形分100質量部に対し、赤系顔料が3質量部、アルミ顔料が12質量部である。
図3A図6において、赤系顔料を表す符号(R+数字)の後に「−A」を添えた符号は、アルミ顔料が5680NS(平均粒径8μm)であることを示す。同様に「−B」を添えた符号は、アルミ顔料がGX−180A(平均粒径16μm)であることを示す。
hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートを図3A図3Cに示す。また、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートを図4A図4Cに示す。各チャートは、受光角15°、45°、75°の3通り作成した。
C*を縦軸とした場合、受光角45°や75°のとき(図4B及び図4C参照)、4色の見た目はかなり異なるにもかかわらず、C*の値が近接し、区別しにくい結果が得られた。これに対してC*/L*を縦軸とした場合には、C*/L*の値が大きく異なり、分布が集中しにくくなっている。
このようなチャートを作成することにより、例えば、R7は受光角やアルミ粒径によらず色相の変化は小さいが、R5やR8は受光角によって色相角が比較的大きく変化することが分かる。
色相角hの代わりにアルミ顔料の粒径を横軸として作成したチャートを図5図6に示す。図3B図5でとC*/L*の値は等しく、図4B図6とでC*の値は等しい。図5のようにアルミ顔料の粒径を横軸とすると、粒径の違いが塗色に与える影響を容易に把握することができる。
【0029】
(顔料の配合比が異なる塗料の塗色についてのチャートの作成例)
4種類の赤系顔料(R5,R7,R8,R9)のそれぞれに対し、同じアルミ顔料(7640NS)を4通りの質量比で配合した複数の塗料を調製し、塗膜の分光反射率を測定して、チャートを作成した。
図7A図10において、赤系顔料を表す符号(R+数字)の後に「−A」を添えた符号は、赤系顔料とアルミ顔料の質量比が10:0であることを示す。同様に「−B」を添えた符号は、該質量比が9:1であることを示し、「−C」を添えた符号は、該質量比が5:5であることを示し、「−D」を添えた符号は、該質量比が1:9であることを示す。
hを横軸、C*/L*を縦軸として作成したチャートを図7A図7Cに示す。また、hを横軸、C*を縦軸として作成したチャートを図8A図8Cに示す。各チャートは、受光角15°、45°、75°の3通り作成した。
このようなチャートを作成することにより、例えば、R5はアルミ顔料を増やすと色相角が減少する(赤から青みを増す)傾向にあり、R9はアルミ顔料を増やすと色相角が増大する(赤から黄みを増す)傾向にあり、R7はアルミ顔料を増やしても色相が変化しにくいことが分かる。
色相角hの代わりに顔料の質量比(濃度)を横軸として作成したチャートを図9図10に示す。図7B図9でとC*/L*の値は等しく、図8B図10とでC*の値は等しい。図10に示すようにC*を縦軸とした場合、例えば、赤系顔料R7,R9では、濃度B(質量比9:1)のときにC*が最大となり、濃度Bの場合よりも赤系顔料の割合が少なくても多くてもC*の値がより小さくなる結果を示した。図10に示すようにC*/L*を縦軸とした場合には、4種類の赤系顔料(R5,R7,R8,R9)のいずれでも、赤系顔料の割合が多いほどC*/L*の値が大きくなる結果を示した。これは、C*/L*によれば、色の見かけの彩度(鮮やかさ)をよりよく反映した値になるためと考えられる。
【0030】
(色相環の上にプロットしたチャートの作成例)
本発明により作成されるチャート(マップ)は、2つの座標軸を直交させる直交座標系に限定されず、他の座標系で表示することも可能である。
図11は、異なる赤系顔料にアルミ顔料を配合した複数の塗料の塗色を、色相環の上にプロットしたチャートの一例である。
5種類の赤系顔料(R5,R6,R7,R8,R9)のそれぞれに対し、アルミ顔料(GX−180A)を配合した複数の塗料を調製し、塗膜の分光反射率を測定して、チャートを作成した。顔料の配合量は、ベース塗料の樹脂固形分100質量部に対し、赤系顔料が3質量部、アルミ顔料が12質量部である。
半径軸は、C*/L*を百分率で表示した、すなわち、C*/L*×100である。
【0031】
(青系ダークカラーのチャートの作成例)
日本国内で販売されている自動車外板に適用されているダークブルー系の塗色として、9種類を選んでチャートを作成した例を示す。
受光角75°のL*を横軸、受光角15°のC*/L*を縦軸として作成したチャートを図12に示し、受光角75°のL*を横軸、受光角15°のC*を縦軸として作成したチャートを図13に示す。B1〜B9の塗色は、いずれも複数の色材を組み合わせて得られるが、本発明は、複数の色材を組み合わせた実際の塗色の比較にも有効である。受光角15°のC*で比較する場合、B1,B6,B9は殆ど同じ値となるが、実際には明度が異なるため、シェードにおける見かけの彩度は異なる。そこで、受光角15°のC*/L*を軸として比較することにより、目視の感覚に近く、見かけの違いを反映したチャートが得られる。
【0032】
(深み感の評価方法)
図14A図14Cは、観察角度が互いに異なる受光角のC*/L*を得た結果と、観察者による深み感を目視評価した結果とを比較するための表である。このうち、図14Aは、4種類の塗色の各々のC*及びL*を示す表であり、図14Bは、4種類の塗色の各々について5人の評価者が目視評価した結果を示す表であり、図14Cは、4種類の塗色の各々におけるC*/L*の値と評価結果とを示す表である。
【0033】
図14Aに示すように、4種類の塗色(A,B,C,D)を用意した。この4色は、青系のメタリック塗色である。上述した実施形態の方法と同様の方法により、4種類の塗色を用いて塗膜を基板に形成し、4つの塗板を得た。この4つの塗板に対し、MA68II(商品名、多角度分光光度計、ビデオジェット・エックスライト社製)を使用し、分光反射率を測定し、ハイライト領域、フェース領域、及びシェード領域における明度L*と彩度C*を測定した。
図14Aにおいて、C*15は、受光角15°(ハイライト)における彩度を意味する。C*25は、受光角25°(ハイライト)における彩度を意味する。C*45は、受光角45°(フェース)における彩度を意味する。C*75は、受光角75°(シェード)における彩度を意味する。L*15は、受光角15°(ハイライト)における明度を意味する。L*25は、受光角25°(ハイライト)における明度を意味する。L*45は、受光角45°(ハイライト)における明度を意味する。L*75は、受光角75°(ハイライト)における明度を意味する。
4種類の塗色を用いて形成された4つの塗板において、C*15,C*25,C*45,C*75,L*15,L*25,L*45,L*75を求めた。
【0034】
次に、図14Bに示すように、5名の観察者(aさん、bさん、cさん、dさん、eさん)が4つの塗板の深み感を目視評価した(距離尺度)。ここで、5名の観察者とは、自動車外装用塗色の設計経験が3年以上のデザイナー4名と、技術者1名の計5名である。
このような目視評価の結果、塗色Aを用いて形成された塗板について、5名の観察者の全員が深み感を感じない「評価値0」という結果が得られた。また、塗色Bを用いて形成された塗板について、5名の観察者による評価値4,7,3,4,6が得られた(平均値4.8)。塗色Cを用いて形成された塗板について、5名の観察者による評価値10,10,7,8,9が得られた(平均値8.8)。塗色Dを用いて形成された塗板について、5名の観察者の全員が深み感を感じる「評価値13」という結果が得られた。
このような目視評価の結果、塗色Aの深み感が最も低く、塗色Aよりも塗色Bの深み感が高く、塗色Bよりも塗色Cの深み感が高く、塗色Cよりも塗色Dの深み感が高く、即ち、塗色Dの深み感が最も高かった。従って、塗色A,B,C,Dの順番で、深み感が順に高くなるという結果が得られた。
【0035】
次に、図14Aに示すように得られた4種類の塗色(A,B,C,D)におけるC*15,C*25,C*45,C*75,L*15,L*25,L*45,L*75の値に基づいて、図14Cに示すように除算して数値を得た。
この結果、C*15/L*75の数値で、4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に則した評価結果が得られた。即ち、ハイライトの彩度をシェードの明度で除した数値が目視評価の距離尺度に近いことが分かった(評価結果:良、高い相関関係が得られた)。
同様に、C*45/L*75の数値で4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に則した評価結果が得られた。即ち、ハイライトの彩度をシェードの明度で除した数値が目視評価の距離尺度に近いことが分かった(評価結果:良、高い相関関係が得られた)。
更に、C*25/L*75の数値で4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に最も則した評価結果が得られた。即ち、ハイライトの彩度をシェードの明度で除した数値が目視評価の距離尺度に最も近いことが分かった(評価結果:最良、最も高い相関関係が得られた)。
また、C*75/L*75の数値で4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に則した評価結果が得られた。即ち、シェードの彩度をシェードの明度で除した数値であっても、目視評価の距離尺度に近いことが分かった(評価結果:良、高い相関関係が得られた)。
なお、ハイライトの彩度をハイライトの明度で除した数値である、C*15/L*15の数値及びC*25/L*25の数値で、4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に則した評価結果が得られなかった(評価結果:不良、相関関係が得られなかった)。
また、フェースの彩度をフェースの明度で除した数値である、C*45/L*45の数値で、4種類の塗色を評価したところ、目視評価の結果に則した評価結果が得られなかった(評価結果:不良、相関関係が得られなかった)。
【0036】
上記のような結果について考察したところ、人間の目は、ハイライトとシェードを同時に観察しており、彩度についてはダイナミックレンジが大きいハイライトの部分が観察者の印象として残り、明度については変化が少ないシェードの部分が観察者の印象として残ると考えられる。
これまでに、彩度が高い場合には深み感を感じること、及びシェードでは白く濁らずに黒い塗色の場合に深み感を感じることは文献に開示されている。しかしながら、ハイライトの彩度をシェードの明度で除した数値で深み感を評価したという本発明は、これまでに開示されていなかった。本発明によって、ハイライトの彩度をシェードの明度で除した数値が目視評価の距離尺度に近く、高い相関関係が得られることは、初めて明らかとなった。
【符号の説明】
【0037】
5…基板、10…塗板、20…塗膜、30…照明光、40…照明、RF…正反射光の方向。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図15