【実施例】
【0125】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0126】
〔実施例1〕ダイレクトLAMP法用マスターミックスの検討(1)
LAMP法による核酸増幅を細胞からの核酸の抽出を行わずに行うための反応液(ダイレクトLAMP法用マスターミックス)の組成等を検討した。
【0127】
1−1)試験方法
レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila) ATCC33153株をBCYEα培地にて37℃、2日培養したコロニーを釣菌し、生理食塩水にけん濁させ、2.1±0.32 log cfu/mlの生細胞けん濁液を調製した。ATCC菌株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレク
ション(住所 12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852, United States of America)から入手することができる。
【0128】
上記生細胞けん濁液を冷却遠心(4℃、10分、3,000×G)し、上清を完全除去し、1 ml
の滅菌水にて洗浄後、同様の冷却遠心処理にて上清を完全除去した。沈澱(ペレット)に30 μlの滅菌水を加えて懸濁させ、定量的にその懸濁液を新しいPCRチューブに移した。
そのPCRチューブを96℃、3分処理後4℃に急冷したサンプルと未加熱サンプルをそれぞれ
準備した。
【0129】
また、遺伝子増幅に用いるマスターミックスとして、表1に示す組成のLAMP法用マスターミックス1と、表2に示すLAMP法用マスターミックス2をそれぞれ調製した。
LAMP法用マスターミックス1は、栄研化学 Loopampレジオネラ検出試薬キットEの基本組成に、増幅遺伝子検出用に蛍光色素カルセイン(Calcein、栄研 Fluorescent Detection Reagentを使用)を追加したものである。
LAMP法用マスターミックス2は、LAMP法用マスターミックス1に、細胞からの核酸の抽出を行わずにPCRを効率よく行うために必要な、核酸増幅阻害物質の働きを抑制する薬剤の混合物の濃縮液(表3。この濃縮液を、濃縮ダイレクトバッファーコンポーネント、「cDBC」と記載する。国際公開第2011/010740参照)を添加したものである。
表1、2の「RM leg」(レジオネラ用reaction mixture)には、レジオネラの16S rRNA遺伝子を増幅するためのプライマー(FIP、BIP、Loop-F、Loop-B、F3、及びB3)が含まれている。
【0130】
cDBCは、ウシ血清アルブミン(BSA; Sigma A7906)、クエン酸三ナトリウム2水和物(TSC: Tri-Sodium Citrate Dihydrate; 関東化学、東京)、塩化マグネシウム6水和物(31404-15 ナカライテスク、京都)、卵白リゾチーム(126-02671 Lysozyme from egg white;
和光純薬、大阪)、Brij58(P5884-100G; Sigma)の各ストック溶液を、表3に示す濃度となるように混合したものである。
マスターミックス2には、栄研化学 レジオネラ検出試薬キットEの基本組成メーカー
マニュアルに従うと、終濃度として8 mM相当のMgSO
4が元来含まれていると推察されるた
め、合計のMg
2+は11 mM相当と推測された。Brij 58、MgCl
2、及びTSCは滅菌水にて溶解後、オートクレーブ(121℃、20分)し、水冷後室温に戻し、ストック溶液として使用した
。BSA、Lysozymeは滅菌水にてストック溶液を調製し、0.22μmフィルターにて濾過滅菌し、ストック溶液とした。
【0131】
前記で得られた加熱及び未加熱のレジオネラ生細胞けん濁液を、冷却遠心処理(4℃、10分、3,000×G)して上清をほぼ除去し、ペレット(2.5 μl相当)に表1及び表2に示す各マスターミックスを加え、LAMP増幅(65℃、100分;80℃、2分;4 ℃、2分)(2回)を
行った。LAMP増幅において、65℃による遺伝子増幅工程における1分を1サイクルと定義した。ターゲット遺伝子増幅の程度はカルセインの総蛍光量として把握し、蛍光境界値を20,000とし、それを最初に超える遺伝子増幅時間(分又はサイクル数)をCt値とした。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
1−2)試験結果及び考察
試験結果を表4に示す。
【0136】
【表4】
【0137】
表4に示されるように、LAMP法による核酸増幅を行う前に加熱処理(96℃、3分)を行
い、かつ、マスターミックス1を使用した場合のみ、ターゲット遺伝子の増幅が検出された。
マスターミックス2で増幅が検出されなかったのは、cDBCに含まれるBSAやリゾチーム
のようなPCR法には有効な成分が、鎖置換型ポリメラーゼ反応を阻害したためである可能
性がある。また、cDBC中のTSC(クエン酸三ナトリウム2水和物)は金属キレート剤であり、それがカルセインを消光していたマンガンと反応することによって、増幅反応に伴う蛍光の増加が観察されなかった可能性が高い。
【0138】
マスターミックス1を使用した場合でも、予め細胞懸濁液の加熱処理を行わないと増幅が観察されなかった。PCRでは、通常、反応サイクルの前に長目の変性処理(加熱処理)
が行われる。ダイレクトPCRでは、核酸増幅反応は主として細胞内で起きていると推定さ
れている。具体的には、核酸増幅反応における細胞の高温処理等によって、細胞の形態は維持され、染色体DNAは細胞内に残されつつも、微生物の細胞膜又は細胞壁にピンホールもしくは空隙が形成され、プライマー及び核酸増幅に必要な酵素等は細胞内に流入し、細胞内で増幅反応が起きると考えられている。そして、増幅産物の遺伝子長によって、一部分が細胞内にとどまる又は細胞外に流出するものと推定されている(以上、国際公開第2011/010740)。ダイレクトLAMP法において、細胞懸濁液を予め加熱処理した場合のみに
増幅反応が観察されたことは、上記の推定が正しいことを示唆している。
【0139】
〔実施例2〕ダイレクトLAMP法用マスターミックス組成の検討(2)
2−1)試験方法
レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila) ATCC33153株をBCYEα培地にて37℃、2日培養したコロニーを釣菌し、生理食塩水にけん濁させ、2.5±0.21 log cfu/mlの生細胞けん濁液を調製した。
【0140】
次に、上記生細胞けん濁液1 mlを検体とし、終濃度5 μg/mlのEMAにて計3回の多段階EMA処理(1回目EMA処理:遮光下氷上5 μg/ml 5分、2回目EMA処理:5 μg/ml 5分、3回
目EMA処理:5 μg/ml 5分)を行った。各EMA処理後に、5分可視光照射した。尚、各EMA処理間の洗浄は行わなかった(特記しない限り、他の実施例でも同様)。また、それぞれの検体に対し未処理群も用意した。
【0141】
多段階EMA処理群と未処理群を冷却遠心処理(4℃、10分、3,000× G)し、上清を完全
除去し、1 mlの滅菌水にて洗浄後、同様の冷却遠心処理にて上清を完全除去し、ペレットに対して30 μlの滅菌水を加えて懸濁させ、定量的にその懸濁液を新しいPCRチューブに
移した。そのPCRチューブを96℃、3分処理後4℃に急冷し、ダイレクトLAMP用のマスター
ミックス中の酵素等の各コンポーネントが細菌細胞を効果的に透過するようにした。
【0142】
次に、冷却遠心処理(4℃、10分、3,000× G)して上清をほぼ除去し、ペレット(2.5 μl相当)に対してダイレクトLAMP用のマスターミックス11〜17 μlを加え、65℃、100分;80℃、2分;4 ℃、2分のLAMP増幅を行った。ダイレクトLAMP用のマスターミックスは、栄研化学 Loopampレジオネラ検出試薬キットEの基本組成に、増幅遺伝子検出用に蛍光色素カルセイン(Calcein、栄研 Fluorescent Detection Reagentを使用)を添加し、さらに等温型DNA伸長酵素Csaポリメラーゼ(ニッポンジーン社)を追加したものである。65℃による遺伝子増幅工程において1分の反応を1サイクルと設定し、LAMP法によるターゲット遺伝子増幅の程度は、カルセインの総蛍光量として把握した。その際、蛍光境界値を20,000とし、それを最初に超える遺伝子増幅時間(分(min)又はサイクル数)をCt値と定義
した。以下に、その詳細を示す。
【0143】
まず、対照群(コントロール)となる基本マスターミックス組成を表5に示す。この基本マスターミックスは、栄研化学 レジオネラ検出試薬キットEの基本組成に、このキットの添付文書に従いカルセインを添加したものであるが、反応容量を1/2にスケールダウンさせ、11 μlのマスターミックスに2.5 μl相当のDNA溶液を鋳型と
して添加した反応系である。
【0144】
次に、コントロールとなる基本マスターミックスに、Csa ポリメラーゼ(8U/μl) 1μl
、及び、表6に示す添加剤1μlを添加したマスターミックスを調製した。表6中、「+」
はCsa ポリメラーゼ、又は添加剤を加えたことを示す。添加剤としては、(NH
4)
2SO
4(関
東化学、東京)、Tween20 (Bio-Rad、Richmond、CA、USA)、KCl (関東化学、東京)、ベタイン (トリメチルグリシン、Acros、New Jersey、USA)、dNTPs (タカラバイオ、滋賀)を
使用し、dNTPs以外は表6に示される濃度にてミリQ水にて溶解後、オートクレーブ(121℃、15分)処理した。
【0145】
【表5】
【0146】
【表6】
【0147】
2−2)試験結果及び考察
試験結果を表7に示す。
【0148】
【表7】
【0149】
表7に示されるように、レジオネラ生細胞の未処理群に関しては、組成2及び6を除き、基本マスターミックスである組成1のCt値と大きな差はなかった。一方、レジオネラ生細胞を生理食塩水中にてEMA処理した生細胞に関するCt値は、組成1のCt値が35.3と最も
高く、生細胞に一部透過した可能性のあるEMAにより、最も顕著なターゲット遺伝子増幅
抑制が観察された。
好適なマスターミックスの性能として、未処理、EMA処理に関わらず、組成1と比較し
て生細胞のCt値は低い値を呈するマスターミックス組成が最善である。以上により、ダイレクトLAMP法のためには、組成4が本実施例においては適当であると考えられる。
【0150】
〔実施例3〕ダイレクトLAMP法マスターミックス組成の検討(2)
実施例2においてダイレクトLAMP法用マスターミックス組成として、従来の典型的な基
本マスターミックスに、等温型DNA伸長酵素Csaポリメラーゼ、(NH
4)
2SO
4、及びTween20を強化した組成が適当であることがわかった。本実施例では、各添加剤の好適濃度を検討した。
【0151】
3−1)試験方法
Legionella pneumophila ATCC33153株をBCYEα培地にて37℃、2日培養したコロニーを
釣菌し、生理食塩水にけん濁させ、2.7±0.18 log cfu/mlの生細胞けん濁液を調製した。この生細胞けん濁液について、実施例2と同様にして、多段階EMA処理、及び、LAMP増幅
を行い、Ct値を測定した。但し、ダイレクトLAMP用マスターミックスには、表8に示す組成のマスターミックス(14μl)を使用した。基本マスターミックスは、表5に示したも
のである。表8中、「+」はCsa ポリメラーゼ、又は添加剤を加えたことを示す。
【0152】
尚、ターゲット遺伝子増幅時間(65℃、100分)は、前記キットの推奨時間60分を大幅
に超えているが、これは、ダイレクトLAMP法マスターミックスは前記キット以外の酵素、試薬も含んでおり、DNA等のケミカルコンタミネーションによる非特異増幅反応等が生じ
る可能性も考えられたためである(実施例2でも同様)。
【0153】
【表8】
【0154】
3−2)試験結果及び考察
試験結果を表9に示す。
【0155】
【表9】
【0156】
表9によれば、EMA未処理群、処理群に関わらず、組成1と比較してCt値が低い傾向に
あるのが組成6と判断された。しかし、組成6により陰性コントロールをLAMP増幅(75〜100分)した結果、非特異反応と推察される遺伝子増幅が観察されたことから、組成6の
内、Csaポリメラーゼ(8U/μl)の添加量を1 μl(8U)から0.4 μl (3.2U)に低減し、代わりに0.6 μlの滅菌水を加え、(NH
4)
2SO
4とTween20の添加含量は組成6と同様にしたマ
スターミックスを好適マスターミックスとした。その組成を表10に示す。
【0157】
【表10】
【0158】
上記組成を濃度に換算すると、表11の通りである。
【0159】
【表11】
【0160】
〔実施例4〕白金錯体を用いたダイレクトLAMP法によるグラム陰性細菌及びグラム陽性細菌の検出
前述の実施例2の表7及び実施例3の表9に示されるように、マスターミックス組成を好適化することにより、ダイレクトLAMP法によりレジオネラ菌の生細胞をリアルタイムに検出できることが判明した。
本実施例では、微生物の生細胞をと死細胞又は損傷細胞とを区別可能な試薬として、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金(II)(etrakis(triphenylphosphine)platinum(II))を用いたダイレクトLAMP法による、レジオネラ菌以外のグラム陰性細菌及びグラ
ム陽性細菌の生細胞・死細胞の判定を行った。
【0161】
4−1)試験方法
グラム陰性細菌シトロバクター・フロインディイ(Citrobacter freundii)NBRC12681
、エシェリヒア・コリ(E. coli)JM109、クレブシエラ・ニューモニア(Klebsiella pneumoniae)NBRC3321、クロノバクター・サカザキ(Cronobacter sakazakii)(旧名、エンテロバクター・サカザキ(Enterobacter sakazakii))ATCC51329、エンテロバクター・
クロアカエ(Enterobacter cloacae)IFO13535、E. coli O157 VT1 IS001、及びE. coli DH5αは、BHIブロスにて37℃、18時間培養後、菌体を滅菌水にて洗浄し、滅菌水にけん濁して、生細胞けん濁液とした。
【0162】
グラム陰性細菌ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus)L-1 opacityは、3%食塩加 トリプトソイブロスにて18時間培養後、菌体を生理食塩水にて洗浄し、滅菌水にけ
ん濁して、生細胞けん濁液とした。この菌株は、滅菌水中では死滅し易いが、白金錯体は生理食塩水環境下では死細胞の核酸と配位結合しにくくなるので、滅菌水を用い、白金錯体への暴露は速やかに行った。この生細胞けん濁液の一部を沸騰水に3分浸漬し、死細胞けん濁液を調製した。この死細胞けん濁液には損傷細胞及び死細胞が含まれるが、以下、これらを包括して「死細胞」と表記する。
【0163】
グラム陽性細菌である、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)ATCC9341、及びバチルス・セレウス(Bacillus cereus)JCM2152は、BHIブロスにて37℃、2日間培養後、菌体を滅菌水にて洗浄し、滅菌水にけん濁した。Bacillus cereusは、主に栄養型細胞を試験に供した。これらの生細胞けん濁液の
一部を沸騰水に3分浸漬し、死細胞けん濁液を調製した。
上記グラム陰性細菌は、生細胞けん濁液10 μlに滅菌水90 μlを加え、およそ8 log cfu/mlオーダーの生細胞けん濁液を調製した。同様にして、8 log cells/mlオーダーのグラム陰性細菌・死細胞けん濁液を調製した。これらの生細胞けん濁液及び死細胞けん濁液の90 μlを、後述の白金錯体の暴露に供した。
グラム陽性細菌は、生細胞けん濁液又は死細胞けん濁液90 μl(およそ8 log cfu/mlオーダー)を、そのまま下記の白金錯体の暴露に供した。
【0164】
tetrakis(triphenylphosphine)platinum(II)(Sigma)7.21 mg (5.11 μmol)を正確に秤
量し、1275.9 μlのDMSOに溶解して4 mMの白金錯体溶液を調製した。その後、生理食塩水にて40倍希釈して、100 μMの白金錯体水溶液を調製した。
【0165】
100 μM白金錯体水溶液10 μlを、前記各グラム陰性細菌及び陽性細菌の生細胞けん濁
液(8 log cfu/mlオーダーレベル)又は死細胞けん濁液(8 log cells/mlオーダーレベル)90 μlに添加し、白金錯体作用濃度を前記実施例におけるEMAと類似濃度の10 μMにし
、恒温水槽(PERSONAL-11、TAITEC、Tokyo、Japan)にて37℃、15分間保持した。その後
、冷却遠心(4℃、10,000× G、5分)により上清を除去し、そのペレットを150 μlの滅
菌水にけん濁させ、よく攪拌した後、同様の冷却遠心分離を行い、上清を除去し、ペレットに30 μlの滅菌水を加えて懸濁させ、定量的にその懸濁液を新しいLAMP増幅反応チューブ(定量PCRチューブ)に移した。
【0166】
それらのチューブを96℃で、3分(グラム陽性細菌生細胞検出の場合、96℃、10分)処
理後、4℃に急冷し、その後のダイレクトLAMP用のマスターミックス中の酵素等の各コン
ポーネントが細菌細胞を効果的に透過するようにした。
次に、冷却遠心処理(4℃、10分、3,000× G)して上清をほぼ除去し、ペレット(2.5 μl相当)に対してダイレクトLAMP用のマスターミックス10.5 μlを加え、63℃、90分 (
プライマーとしてGN_GP_ID_4を用いた場合のみ90分では非特異反応が生じるため50分に設定);80℃、2分;4 ℃、2分のLAMP増幅を行った。尚、LAMP法のダイレクトLAMP用のマス
ターミックスの組成を表12〜14に示す。表12〜14中、Loopamp DNA増幅試薬キッ
ト添付 2×RMは、表10のRM legに相当するが、この「2× RM」にはレジオネラ検出用LAMPプライマーは含まれていない。しかし、これらの組成に従えば、プライマーを除き表10の組成と有意な差はない。
【0167】
【表12】
【0168】
【表13】
【0169】
【表14】
【0170】
LAMP用のプライマーは以下のようにして設計した。GenBankデータベース(http://www.ebi.ac.uk/genbank/)から、下記の微生物に関する16S rRNA遺伝子情報を取得した。カッコ
内にアクセションナンバーと配列長を示す。
Bacillus cereus Se07(JN700112; 1,438_bp)
シトロバクター・コーセリ(Citrobacter koseri)NBRC 105690(AB682264; 1,467_bp)
シトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundii)5N09 (JQ271810; 1,430_bp)
エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)JCM8905 (AB690254; 1,449_bp)クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella.pneumoniae)(X80684; 1,459_bp)
リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)isolate 44(AJ535697; 1,404_bp)、
マイコバクテリウム・アビウム サブスピーシーズ パラツベルクローシス(Mycobacterium avium subsp. paratuberculosis) ATCC19698 (EF521896; 1,442_bp)
サルモネラ・エンテリティディス(Salmonella enteritidis) strain E1(EU118100; 1,546_bp)
ラクトバチル・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)ATCC4356 (AB008203; 1,553_bp)
スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)ATCC12600(X68417; 1,555_bp)
【0171】
前記全ての遺伝子情報を一列に並べ、ClustalWにより各遺伝子領域を解析し、前記全ての属で一致した塩基、及び、一
つでも完全一致性が保たれなかった塩基を同定し、各微生
物の16S rRNA遺伝子領域中の保存領域とバリアント領域を解析した。
【0172】
Staphylococcus aureus ATCC12600 の16S rRNA遺伝子塩基配列を代表例とし、具体的方法を以下に示す。解析ソフト(PrimerExplorer Ver.3、栄研化学;富士通)に Staphylococcus aureus ATCC12600 の16S rRNA遺伝子の塩基配列、及び、その配列中に前記全ての
属に関して保存されている領域とバリアント領域をマニュアルにて登録した。後述するFIPプライマーを構成するF2及びF1c部、BIPプライマーを構成するB2及びB1c部、F3及びB3プライマーに関して以下の制限を設けた。F2部、F3プライマー、B2部、B3プライマーに関しては全て、オリゴヌクレオチドの5’末端側、及びインナー(中間部)部は、鋳型DNAと相補性が保たれていなくてもよく、オリゴヌクレオチド3’末端側は鋳型DNAと完全に相補性が保たれているように設定した。また、F1c部とB1c部に関しては、オリゴヌクレオチドの3’末端は鋳型DNAと相補性が保たれていなくてもよく、5’末端は鋳型DNAと完全に相補性が保たれるように設定した。
【0173】
その他、F2とB2の距離(実質上FIPとBIPに挟まれる塩基数)を120〜300_bp、F1cとF2の距離は40〜60_bp、F2とF3の距離は0〜450_bp、F1cとB1cの距離は0〜260_bpというように
、デファオルト設定から科学的・理論的に許容される範囲内で設定を変更した。その他のパラメーターはデフォルト設定を優先した。
【0174】
Loopプライマー(後述のLoopFとLoopBプライマー)に関しては、FIP、F3、BIP、B3の各プライマーが確定されてから、PrimerExplorer Ver.3のループプライマー作成マニュアルに従って作成した。これらの設定により、前記全ての微生物から、大別して2種類のLAMP増幅断片(最小ユニット:断片の一方の末端にFlc部と他方の末端にBlc部の塩基が追加されている。)が得られることが理論的に導けた。
この最小ユニットとは、後述のFIP及びBIPにより両末端にダンベル構造を有するLAMP増幅断片の最小サイズを意味し、具体的には前記Genbankに登録されているS. aureus 16S rRNA遺伝子の5’末端から690番目〜889番目の塩基配列に相当する塩基配列を含む最小ユニットと、S. aureus 16S rRNA遺伝子の5’末端から1050番目〜1203番目の塩基配列を含む
最小ユニットが主に産生されると考えられる。
【0175】
前者の最小ユニットの場合、S. aureus 16S rRNA遺伝子の5’末端から709番目〜870番
目に相当する塩基配列は必ず含んでいると推察され、後者の最小ユニットの場合でも、S.
aureus 16S rRNA遺伝子の5’末端から1068番目〜1185番目に相当する塩基配列は必ず含
んでいると推察される。それら最小ユニットの2
n倍の長さのLAMP増幅断片が、反応(n)
の進行につれて得られる。
すなわち、全ての微生物(特に細菌の場合)をLAMP法により一斉に検出するためには、大別して前記2種類の最小ユニットしか得られないことが分かったので、以下の実験にて実際に増幅反応が進行するかを検討することにした。
【0176】
グラム陰性細菌及びグラム陽性細菌一斉検出用LAMPプライマーセット(GN_GM_ID_3、GN_GM_ID_4、GN_GM_ID_9)の各プライマーの塩基配列(詳細情報)を、各々表15〜17に示す。
【0177】
【表15】
【0178】
【表16】
【0179】
【表17】
【0180】
表15〜17に記載した項目は以下のとおりである。
a) FIP、BIP、F3、及びB3の4種類による各プライマーダイマーに関して、その中で最も生成する可能性が高いプライマーダイマーの、その反応におけるギプス自由エネルギー変化量(dG)が-4より小さくなるとダイマー生成の可能性が高くなりLAMP増幅を阻害する可能
性が高くなる。本系においては、dG = -2.27で-4より高いため、プライマーダイマーの生成は無視できるレベルである。
b) FIPは5’-F1c-F2-3’の配列にて連結したプライマーを意味する。BIPは5’-B1c-B2-3
’の配列にて連結したプライマーを意味する。FIP、BIPの配列は、j)のSequenceを参照。LoopF及びLoopBは、FIP及びBIPが自己伸長のオリゴヌクレオチドにそれぞれアニールし、ループを形成し易いように補助するプライマーでありループプライマーとも定義される。c) GenBank database (http://www.ebi.ac.uk/genbank/)のアセッションナンバーS. aureus ATCC12600 (X68417)の16S rRNA遺伝子塩基配列(1555_bp)の5’末端を基準とする位置
。16S rRNA遺伝子においてアニールする各プライマー5’側末端の位置を示す。
d) GenBank database (http://www.ebi.ac.uk/genbank/)のアセッションナンバーS. aureus ATCC12600 (X68417)の16S rRNA遺伝子塩基配列5’末端を基準とする位置。16S rRNA遺伝子においてアニール(接着)する各プライマー3’側末端の位置を示す。
e) 各プライマーの長さ。
f) 各プライマーのTm(融解温度)。
g) 各プライマーの5’末端が鋳型DNAにアニールする度合いを示すもので、そのアニーリ
ング反応におけるギプスの自由エネルギー変化量を示す。-4未満の値であれば、良好なアニーリング反応が起こる。
h) 各プライマーの3’末端が鋳型DNAにアニールする度合いを示すもので、そのアニーリ
ング反応におけるギプスの自由エネルギー変化量を示す。-4未満の値であれば、良好なアニーリング反応が起こる。
i) 各プライマーのGC含量。
j) 各プライマーの塩基配列情報。太字斜体は、種々のグラム陰性細菌及びグラム陽性細
菌において、当該プライマーが16S rRNA遺伝子領域にアニールした際、必ずしも相補性が保たれているとは限らないプライマー領域であり、トータルバクテリアを検出するためにプライマーの塩基配列にバリエーションを持たせた領域である。太字斜体以外の領域は、全てのトータルバクテリアに対して当該プライマーの相補性が完全に保たれている領域。
【0181】
また、グラム陽性細菌は外膜はないものの、グラム陰性細菌と比較して有意に層の厚いペプチドグリカン層があるため、ダイレクトLAMP法を実施するに当たり、Bst ポリメラーゼやCsa ポリメラーゼの酵素を始めとするダイレクトLAMPマスターミックスの各試薬が微生物細胞内に浸透するか不明であった。特にグラム陽性細菌の場合、最終的なダイレクトLAMP法で陰性を呈した時、LAMP法各試薬の生細胞への浸透が不十分であったのか、又はプライマーの設計が不適切であったのか不明であることが推察されたので、細菌から抽出したDNAを鋳型とするLAMP増幅も行った。
具体的には、各グラム陰性細菌及びグラム陽性細菌の培養液1 mlからNucleoSpin Tissue XS (MACHEREY-NAGEL GmbH & Co. KG、Duren、Germany製造;TaKaRa-Bio販売)を用いて
作業マニュアルに従いDNAを抽出し、最終的に滅菌水にDNAを溶解させた。抽出し精製されたDNA水溶液の光学的濃度を測定し、DNAのみ高効率にて抽出されていることを確認した。
【0182】
次に、各精製DNA水溶液を滅菌水にて5 ng/μlに濃度を合わせ、その2 μlを前記ダイレクトLAMPマスターミックス組成1、2、及び3に加えて、LAMP増幅反応をダイレクトLAMPと同様にして実施した。すなわち、1LAMP増幅チューブ当たり10 ngのDNAが含まれ、これ
は細菌細胞では2× 10
6 セルに相当した。
【0183】
4−2)試験結果及び考察
結果を表18〜21に示す。表中、「ND」はターゲット遺伝子増幅が検出されないことを、「ND×2」は2回の操作で同じ結果であったことを示す。以下、同様。
【0184】
【表18】
【0185】
【表19】
【0186】
【表20】
【0187】
【表21】
【0188】
表18〜20によれば、前述の実施例4にて好適化したダイレクトLAMPマスターミックス(表12〜表14を参照)により、グラム陰性細菌とグラム陽性細菌を一斉に検出できた。また、表21に示されるように、直接DNAを鋳型とするダイレクトLAMP法により、全
ての細菌種からターゲット遺伝子の増幅が可能であった。
表18〜20の実験では、各細菌生細胞の回収率100%と見なすと、およそ9× 10
6 cfu / チューブにてLAMP増幅反応が行われていることになり、回収率が遠心処理などにより一部低下するとしても6 log cfu / チューブレベルは当該反応に供されている。
一方、表21の実験では、10 ngのDNAは通常2× 10
6 cfuの細菌細胞数に相当するため
、表18〜20における細胞数と有意な差は考えられない。
【0189】
表18〜20の各生細胞のCt値は、表21の該当するCt値と比較しても、基本的には有意なCt値の遅れは観測されず、ダイレクトLAMP法では、増幅反応の障害となる要素は特にはないと考えられた。
【0190】
生細胞と死細胞をダイレクトLAMP法により識別する場合、10 μMのTetrakis(triphenyl
phosphine)platinum(II)では僅か1回処理で各種のグラム陰性細菌死細胞及びグラム陽性
細菌死細胞のLAMP増幅を完全に抑制した。EMAでは、以後に示す実施例において、11.9 μM(5 μg/ml)の連続3回処理を実施しても、6.2 log cells/mlのレジオネラ死細胞のLAMP増幅を完全には抑制できなかったことと比較すると、ダイレクトLAMP法には白金錯体が好ましい可能性がある。
【0191】
以上により、好適なダイレクトLAMPマスターミックスは、広範囲なグラム陰性細菌及びグラム陽性細菌の一斉増幅も可能であると考えられる。
【0192】
〔実施例5〕生細胞・死細胞判定試薬に暴露された場合のDNA損傷(不活性化)度合いの
評価
白金錯体を用いたダイレクトLAMP法とダイレクト・リアルタイムPCR法によるE. coliの生細胞と死細胞の識別を比較した。
【0193】
5−1)試験方法
E. coli JCM109株をBHIブロスにて37℃、18時間培養後、滅菌水にて洗浄し、滅菌水に
懸濁させて、生細胞けん濁液(1.1× 10
6 cfu/ml; 6.0 log cfu/ml)を調製した。この
生細胞けん濁液の一部を沸騰水に3分浸漬し、死細胞けん濁液(1.1× 10
6 cells/ml)を
調製した。これらのそれぞれ1 mlを下記白金錯体の暴露に供した。
【0194】
tetrakis(triphenylphosphine)platinum(II)(Sigma、分子量1244.22)6.04 mg(4.85
μmols)を精確に秤量し、1213.6 μlのDMSOに溶解して4 mM溶液を調製した。この溶液をDMSOで2倍希釈して、2000 μMの白金錯体溶液を調製した。
【0195】
前記2000 μM白金錯体溶液5 μlを、上記生細胞けん濁液1 ml又は死細胞けん濁液1 ml
が入っているマイクロチューブの蓋に添加し、添加終了後、丁寧に蓋を閉め一斉に試験サンプルを攪拌後、恒温水槽にて37℃で12.5分間保持した。その後、冷却遠心処理(4℃、8,000× G、5分)し、上清を除去しそのペレットを1 mlの滅菌水にて洗浄した。
洗浄後のペレットに滅菌水60 μlを加えよく攪拌後、30 μlを新しいLAMP増幅反応用チューブ(定量PCRチューブ)に移し、そのチューブを96℃、3分処理後4℃に急冷し、その
後のダイレクトLAMP用のマスターミックス中の酵素等の各コンポーネントが細菌細胞を効果的に透過するようにした。
【0196】
次に、冷却遠心処理(4℃、10分、3,000× G)して上清をほぼ除去し、ペレット(2.0 μl相当)に対して表13:組成2(GN_GM_ID_4)のダイレクトLAMP用マスターミックス
を加えて全量を12.5 μlに調製し、65℃、100分;80℃、2分;4 ℃、2分)のLAMP増幅を行った。
【0197】
一方、リアルタイムPCRは以下のようにして行った。前記の白金錯体暴露後の生細胞け
ん濁液、及び、死細胞けん濁液30 μlを定量PCRチューブに移し、冷却遠心処理(4℃、10分、3,000× G)後、上清を除去し、下記表22に示すダイレクト・リアルタイムPCRマスターミックスを添加し、全量を25 μlに調製した。尚、Taq DNA Polymerase with Standard Taq Buffer (New England Biolabs Japan Inc.; M0273S)(「NEB 10× buffer」と記
載)をqPCRバッファー(定量PCRバッファー)として用いた。
【0198】
また、表22に示すように、Taqポリメラーゼを通常使用の×4倍量加え、さらにcDBC(10× DBC)(表3参照)を所定量添加して調製したダイレクト・リアルタイムPCR(DqPCR)マスターミックス(特願2013-542301)を用いて、DqPCR増幅(45 cycles)を2回実施した。「NEB」は、New England Biolabs製品を示す。
【0199】
【表22】
【0200】
PCR増幅には、Primer ENT-16S forward: 腸内細菌科菌群(Enterobacteriaceae)特異
的16S rRNA遺伝子検出用フォワードプライマー(5'-GTTGTAAAGCACTTTCAGTGGTGAGGAAGG -3':配列番号26)、及び、Primer ENT-16S reverse: 腸内細菌科菌群(Enterobacteriaceae)特異的16S rRNA遺伝子検出用リバースプライマー(5'-GCCTCAAGGGCACAACCTCCAAG-3':配列番号27)をPCRプライマーとして使用した(両プライマーはニッポンジーン社に製造委託した)。増幅されるrRNA遺伝子の断片長は424 bpである。
腸内細菌科菌群(Enterobacteriaceae)ENT-16S TaqMan probeとしては、(5'-/56-FAM/AACTGCATC/ZEN/TGATACTGGCAGGCT/3lABkFQ/ -3':配列番号28)の配列を有するオリゴ
ヌクレオチドを用いた。このプローブは、オリゴヌクレオチドの5’末端に蛍光物質56-FAM、中央部にZEN、3’末端に31ABkFQという消光色素(クエンチャー)を配置した仕様であり、Integrated DNA Technologies社にて委託製造した。尚、腸内細菌科菌群検出用プ
ライマーに関する塩基配列情報は、Nakano, S. et al., J. Food Prot. 66:1798-1804, 2003から入手し、ENA-16S TaqMan probeに関する塩基配列情報は、GenBank database(http://www.ebi.ac.uk/genbank/)より腸内細菌科菌群内の16S rRNA遺伝子の相補的領域を選択することにより得た。
【0201】
リアルタイムPCR装置(StepOnePlus Real-Time PCR System; Applied Biosystems)を用いて、下記のPCRサーマルサイクル条件により、リアルタイムPCRを2回実施した。
1) 95℃, 20秒(1サイクル)
2) 95℃, 5秒; 60℃, 1分(45サイクル)
尚、陰性コントロールとして、滅菌水5μlを鋳型として使用した。
【0202】
5−2)試験結果及び考察
ダイレクトLAMP法、及びダイレクトPCR法の結果を表23に示す。また、この結果から
作成したスタンダードカーブを
図1(ダイレクトLAMP法)、
図2(ダイレクトPCR法)に
示す。
【0203】
【表23】
【0204】
本試験結果によれば、6 log cfu/mlのE. coli生細胞において本白金錯体を作用させた
時、ダイレクトLAMP法では該当する未処理生細胞のCtと比較して、既に3.3程度の増加(
増幅の遅れ)が生じていたが、ダイクレト・リアルタイムPCRにおいては、本白金暴露生
細胞のCtは該当する未処理生死細胞Ctと比較して、1程度の増加(遅れ)に留まっていた
。
同様に、5.0〜1.0 log cfu/mlの生細胞のダイレクトLAMP法とダイレクト・リアルタイ
ムPCR法を比較すると、僅かに生細胞を透過した本白金錯体を、ダイレクトLAMP法の方が
鋭敏に検知していることが分かった。
【0205】
ダイレクトLAMP法のCt値とダイレクト・リアルタイムPCR法のCt値との比較においては
、各法における未処理群のスタンダードカーブ(
図1、2)と、白金錯体に暴露されたE.
coli生細胞のCt値とを比較することにより、白金錯体の暴露によるインタクトな染色体
を有する生細胞数の低減度合いを指標とすれば、ダイレクトLAMP法とダイレクト・リアルタイムPCR法のどちらが、本白金錯体暴露生細胞を鋭敏に検知しているかが分かる。
【0206】
ダイレクトLAMP法では、例えば、5.0 log cfu/mlの生細胞が本白金錯体に暴露された場合、Ct値は25.3程度であるが、それは未処理生細胞のスタンダードのCt値において1.0 log cfu/mlのCt値より有意に高く、すなわち、本白金錯体により5.0 log cfu/mlの生細胞数が1.0 log cfu/ml未満まで低下したと考えられる。
一方、ダイレクト・リアルタイムPCRでは、5.0 log cfu/ml生細胞が本白金錯体に暴露
された場合のCt値28.9は、未処理生細胞のスタンダードCt値を用いて、インタクトDNAを
保持する生細胞数がどの程度に低減しているかを評価した場合、未処理生細胞4 log cfu/mlのCt値に近い。そのため、たとえ本白金錯体に暴露されても、5.0 log cfu/mlの生細胞数は4 log cfu/mlの生細胞数に低減するものの、その低減の度合いは1 log cells ユニットオーダーレベルに留まった。
【0207】
すなわち、ダイレクトLAMP法の方が生細胞に対する本白金錯体の暴露を鋭敏に捉えており、僅かな生細胞へのDNAの損傷を高感度にて検知してしまう可能性がある。一方、同じ
白金錯体を用い死細胞由来の遺伝子増幅抑制度合いを評価した場合も、ダイレクトLAMP法の方がダイレクト・リアルタイムPCR法より、より激しい増幅抑制をしていると考えられ
る。
【0208】
以上の結果から、ダイレクトLAMP法を利用するとダイレクト・リアルタイムPCR法と比
較して大幅に生細胞からの遺伝子増幅が抑制された。また、死細胞に関しても同様に、ダ
イレクトLAMP法の方がより死細胞由来の遺伝子増幅を抑制できることが明かとなった。
【0209】
ダイレクト・リアルタイムPCR法では、95℃と60℃の温度変化が連続的且つ交互に行わ
れるので、鋳型DNAの二本鎖から一本鎖への解離工程を40〜50回繰り返される。したがっ
て、生細胞・染色体のターゲット遺伝子領域に不完全に配位結合した白金元素は、染色体から脱離するが、生細胞を透過しても全く染色体と配位結合しなかった白金元素は、生細胞染色体のターゲット遺伝子に全く配位結合していないことが考えられる。それ故に、生細胞由来のインタクト(未修飾)なターゲット遺伝子領域は一定割合存在すると考えられ、それが生細胞由来のターゲット遺伝子増幅に寄与していると考えられる。
しかしながら、ダイレクトLAMP法の場合、最初に1回のみ96℃にて3分程度加熱を行う
ので、生細胞の鋳型DNAの二本鎖から一本鎖へ解離工程は1回のみ行われ、それ以降は、鎖置換型DNAポリメラーゼにより60〜65℃にて遺伝子伸長が行われる。したがって、生細胞
・染色体のターゲット遺伝子領域に不完全に配位結合した白金元素は、染色体から脱離する可能性がダイレクト・リアルタイムPCRよりも有意に低減し、それ故、生細胞由来のイ
ンタクト(未修飾)なターゲット遺伝子領域は有意に低減していると推察される。
さらに、鎖置換型DNAポリメラーゼにより60〜65℃にて鋳型DNA二本鎖を解離させながら、解離した各一本鎖DNAを基に遺伝子伸長を行うことになるものの、その過程において、
予めその鋳型DNA二本鎖に配位結合によりクロスリンクしていた白金元素によって、同酵
素による鋳型DNA二本鎖の一本鎖への解離が阻害されるために、その後の遺伝子伸長が進
行しないと推測される。よって、生細胞由来のターゲット遺伝子増幅が有意に抑制されていると考えられる。
以上のとおり、LAMP法を利用すると大幅に生細胞からの遺伝子増幅が抑制されると考えられる。死細胞に関しても同様に、ダイレクトLAMP法の方がより死細胞由来の遺伝子増幅を抑制できる可能性が高い。
【0210】
更に、上記
図1に示す通り、単なるダイレクトLAMP法では1〜6 log cfu/mlの濃度範囲
にて定量性があると考えられ、白金錯体処理-ダイレクトLAMP法では3〜6 log cfu/mlの濃度範囲にて定量性があると考えられる。
同様に、ダイレクト・リアルタイムPCRでは1〜6 log cfu/mlの濃度範囲にて定量性があると考えられ、白金錯体処理-ダイレクト・リアルタイムPCR法では2〜6 log cfu/mlの濃
度範囲にて定量性があると考えられる。
【0211】
以上のことから、生細胞・死細胞に関わらず、一端透過した核酸不活性化剤(配位結合や光反応性核酸共有結合により)の影響を、鋭敏に検知するには、LAMP法の方がPCR法よ
り原理的、且つ、試験的に優れていると考えられる。
【0212】
〔実施例6〕ダイレクトLAMP法によるレジオネラ菌生細胞・死細胞の識別
レジオネラ菌は、通常の試験環境や典型的に汎用される生理食塩水中で死に易い微生物の代表例である。本実施例では、レジオネラ菌生細胞・死細胞の識別がダイレクトLAMP法により可能か検証した。
【0213】
6−1)試験方法
レジオネラ生細胞へのEMAの透過を抑制し、死細胞への透過は維持されることを補助す
る成分の検討を行った。
【0214】
レジオネラ菌の好適な人工培地として、GVPC選択培地が知られている。同培地の組成は、レジオネラCYE寒天基礎培地(CM0655;関東化学、東京;活性炭、酵母エキス、寒天を
含む)、レジオネラBCYEα発育サプリメント(レジオネラ必須栄養素でACES/水酸化カリ
ウムバッファー、ピロリン酸第二鉄、L-システイン塩酸塩、α-ケトグルタル酸)、レジ
オネラGVPC選択サプリメント(レジオネラ属以外の他の細菌を死滅させる各種抗生物質群
であり、グリシン(アンモニア不含)、バンコマイシン塩酸塩、硫酸ポリミキシンB、シ
クロヘキシミド)の3部構成になっている。
レジオネラ菌はカタラーゼを有しないため、本菌が産生する過酸化水素を分解できず、その結果、ヒドロキシルラジカルによりDNA損傷を受けて死滅するため、過酸化水素吸着
用活性炭が基礎培地として含まれているが、EMAも活性炭に吸着される。また、レジオネ
ラGVPC選択サプリメントの各種抗生物質群は、レジオネラ以外の雑菌の増殖を抑制するため培地に添加されるものであり、レジオネラ菌生細胞にとっては必須ではない。
【0215】
したがって、EMAの生細胞への透過を抑制し、死細胞への透過は維持されることを助け
る成分として、酵母エキス及びレジオネラBCYEα発育サプリメントを候補として、レジオネラ菌をEMA処理するけん濁液に添加し、それらの効果を評価した。
【0216】
Legionella pneumophila ATCC33153株をBCYEα培地にて37℃、2日培養したコロニーを
釣菌し、菌体を滅菌した1% Bacto Yeast Extract水溶液(以下、「Y-SW」と記載する)、Y-SWに更にレジオネラBCYEα発育サプリメントを添加した水溶液(以下、「YS-SW」と記
載する)、又は生理食塩水にけん濁させ、9.4±0.12 log cfu/mlの各生細胞けん濁液を調製した。
この9.4 log cfu/ml生細胞けん濁液を上記各種水溶液にて10
2〜10
7倍希釈して、各種濃度の生細胞けん濁液を調製した。また、上記9.4 log cfu/ml生細胞けん濁液を10分煮沸した後、各種水溶液にて10
2倍希釈して、死細胞けん濁液を調製した。各種上記生細胞懸濁
液(10
2〜10
7倍希釈液)、及び死細胞けん濁液(10
2倍希釈液)1 mlを試験検体とした。
【0217】
以下に、Y-SW及びYS-SWの調製方法の詳細を示す。
Y-SWに関しては、Bacto
TM Yeast Extract (BD、Sparks、MD、USA) 1 gをMilliQ水99 mlに溶解後、オートクレーブ処理した。YS-SWは、Bacto
TM Yeast Extract 1 gをMilliQ水89
mlにて溶解後、オートクレーブ処理し、55℃に冷却後、レジオネラBCYEα発育サプリメ
ント(SR110;関東化学、東京;ACES/水酸化カリウムバッファー1.0 g、ピロリン酸第二
鉄0.025 g、L-システイン塩酸塩0.04 g、及びα-ケトグルタル酸0.1 gを1バイアル(100 ml調製用)に含む)1バイアルを10 mlの加温滅菌水にて溶解させた水溶液を添加することにより調製した。
【0218】
次に、EMAの濃度を前記実施例より上げ、EMA 25〜35 μg/mlの終濃度にて計3回の多段
階EMA処理(1回目EMA処理 遮光下氷上35 μg/ml 16分、2回目EMA処理30 μg/ml 16分、3回目EMA処理 25 μg/ml 16分)を行った。各EMA処理後の可視光照射は10分とした。ま
た、それぞれの検体に対し未処理群も用意した。
【0219】
多段階EMA処理群と未処理群を冷却遠心処理(4℃、10分、13,000× G)し、上清を完全除去し、ペレットに対して30 μlの滅菌水を加えて懸濁させ、定量的にその懸濁液をPCR
チューブに移した。そのPCRチューブを96℃、3分処理後4℃に急冷し、ダイレクトLAMP用
のマスターミックス中の酵素等の各コンポーネントが細菌細胞を効果的に透過するようにした。
その後、冷却遠心処理(4℃、10分、3,000× G)して上清をほぼ除去し、ペレット(2.5 μl相当)に対して表10のダイレクトLAMP用のマスターミックス14 μlを加え、65℃
、100分;80℃、2分;4 ℃、2分)のLAMP増幅を行った。
【0220】
6−2)結果及び考察
結果を表24に示す。
【0221】
【表24】
【0222】
表24中、記号は以下のとおりである。
a) Bacto Yeast Extract (1%)
b) Bacto Yeast Extract (1%) + SR110
c)Y-SWやYS-SWの替わりにレジオネラ生細胞もしくは死細胞を生理食塩水にけん濁させた
試験サンプル
d) L. pneumophila ATCC33153 (9.4±0.12 log cells/ml)の10
2倍希釈の死細胞けん濁液
及び生細胞けん濁液(けん濁液は、Y-SW、YS-SW、又は生理食塩水)
e) LAMP増幅は2回実施し、Ct値をMean±SDにて表示した
f) 2回の結果がLAMP未増幅(陰性)を示す。
【0223】
表24によれば、
対照群に相当する生理食塩水にけん濁させたレジオネラ生細胞は、細胞濃度2.4 log cfu/ml(10
7希釈)、及び、3.4 log cfu/ml(10
6希釈)では、陰性と判定される結果となったが、7.4 log cfu/ml(10
2倍希釈)では、EMA処理後でも陽性と判定された。したがって、細胞濃度が高ければ、生理食塩水懸濁液でEMA処理した場合でも、生細胞・死細胞の識別が可能であることが示された。
【0224】
また、YS-SWにけん濁させたレジオネラ生細胞及び死細胞に関しては、7.4 log cfu/ml
でEMA処理された死細胞のCt値が未処理のCtと比較して12(サイクル、又は分)程度しか
遅れず、多段階EMA処理を行ったにも拘わらず、死細胞の遺伝子増幅が確認されたため、EMA処理する際のけん濁液として不適と考えられた。
【0225】
一方、Y-SWの場合、7.4 log cfu/mlでEMA処理された死細胞は陰性と判定され、未処理
群のCt値は9.9であり、LAMP法による良好な遺伝子増幅が確認された。更に、同細胞生細
胞2.4〜7.4 log cfu/mlの濃度領域において未処理群と比較すると、Ct値が大きいものの36.4分以内の遺伝子増幅時間によりターゲット遺伝子増幅が確認され陽性と判定された。
総合的に評価すると、1% Bacto
TM Yeast Extract水溶液にレジオネラ菌をけん濁させた上で、多段階EMA処理することで、生細胞と死細胞のより明瞭な判定を可能とすることが
分かった。
【0226】
尚、Y-SWとYS-SWの死細胞の各結果を比較することにより、SR11
0(ACES/水酸化カリウムバッファー、ピロリン酸第二鉄、L-システイン塩酸塩、α-ケトグルタル
酸)という本来レジオネラ生細胞の発育にとって必須の成分が、EMAのレジオネラ死細胞への透過を阻害するか、又はそれらの成分がプラスチャージを帯びているEMAと結合しEMAを不活性化させた可能性が示唆される。
【0227】
〔実施例7〕多段階EMA処理−ダイレクトLAMP法と、多段階EMA処理−アルカリDNA抽出LAMP法によるレジオネラ生細胞・死細胞の識別における酵母エキスの効果
前述の実施例6の表24のとおり、レジオネラ菌のEMA処理を、酵母エキスを含む細胞
懸濁液で行うことで、死細胞濃度が高くても、生細胞・死細胞の明瞭な識別が可能であることが示された。本実施例では、更に酵母エキスのアルカリDNA抽出−LAMP法における効
果を検証した。
【0228】
7−1)試験方法
Legionella pneumophila ATCC33153株をBCYEα培地にて37℃、2日培養したコロニーを釣菌し、滅菌した1% Bacto Yeast Extract水溶液(Y-SW)にけん濁させ、8.9 log cfu/mlの生細胞けん濁液を調製した。その後、Y-SWにて10
2倍希釈けん濁液を調製し、10分煮沸して死細胞けん濁液を調製した。また、前記8.9 log cfu/mlの生細胞けん濁液の10
2〜10
8倍希釈けん濁液をY-SWにより調製した。
上記の各生細胞
懸濁液及び死細胞けん濁液1 mlを試験検体とし、EMA 25〜35 μg/mlの終濃度にて計3回の多段階EMA処理(1回目EMA処理 遮光下氷上35 μg/ml 15分、2回目EMA処理30 μg/ml 15分、3回目EMA処理 25 μg/ml 10分)を行った。各EMA処理後の可視光照射は10分とした。また、それぞれの検体に対し未処理群も用意した。
【0229】
多段階EMA処理群と未処理群を冷却遠心処理(4℃、10分、13,000× G)し、上清を完全除去し、ペレットに対して30 μlの滅菌水を加えて懸濁させ、定量的にその懸濁液をPCR
チューブに移した。そのPCRチューブを96℃、3分の加温を行い、ダイレクトLAMP用のマスターミックス中の酵素等の各コンポーネントが細菌細胞を効果的に透過するようにした。
その後、冷却遠心処理(4℃、10分、3,000× G)して上清をほぼ除去し、ペレット(2.5 μl相当)に対して表10のダイレクトLAMP用のマスターミックス14 μlを加え、65℃
、100分;80℃、2分;4 ℃、2分)のLAMP増幅を行った。
【0230】
一方、多段階EMA処理−アルカリDNA抽出−LAMP法は、以下のようにして行った。
多段階EMA処理後の各検体を冷却遠心(4℃、10分、13,000× G)により20 μlに濃縮し、その後25 μl Extraction Solution for Legionella (EX Leg)、及び4 μlの1M Tris-HCl (pH7.0)を加え、遠心上清の2.5 μlをLAMP法マスターミックス(表5参照)に添加し
た。すなわち、アルカリDNA抽出はレジオネラ検出試薬キットEに添付されたマニュアルに従った。
【0231】
更に、対照群として、生理食塩水に上記と同様に生細胞と死細胞をけん濁させ、多段階EMA処理−ダイレクトLAMP法、及び多段階EMA処理−アルカリDNA抽出−LAMP法を実施した
。
【0232】
7−2)結果及び考察
表25及び表26に試験結果を示す。
【0233】
【表25】
【0234】
【表26】
【0235】
表25及び表26における記号は以下のとおりである。
a) L. pneumophila ATCC33153のY-SW、又は生理食塩水けん濁液(8.9 ±0.31 log cells/ml)
b) L. pneumophila ATCC33153
の死細胞懸濁液(6.9 ±0.31 log cells/ml)、又は、8.9 log cells/mlの生細胞けん濁液をY-SW、もしくは、生理食塩水により10
2倍希釈し生細胞
けん濁液。
c) LAMP増幅は2回実施し、Ct値(サイクル数、又はmin)をMean±SD (n = 2)として記載する。
d) 2回の結果がLAMP未増幅(陰性)を示す。
【0236】
表25のとおり、レジオネラ生細胞及び死細胞をけん濁させる水溶液として酵母エキス水溶液を用いると、表26による生理食塩水を用いた場合に比べて、より低い細胞濃度でも生細胞と死細胞の識別が可能であることが示された。
【0237】
また、多段階EMA処理−ダイレクトLAMP法を採用した検査手法が、高濃度のレジオネラ
死細胞(6.9 log cells/ml)で陰性であり、1.9 log cfu/mlの低濃度レジオネラ生細胞が検出可能であったので、検査法としてよりふさわしい方法と考えられる。
【0238】
〔実施例8〕多段階EMA処理−ダイレクトLAMP法によるレジオネラ生細胞の一斉検出
本実施例では、ダイレクトLAMP法による様々なレジオネラ菌の生細胞の検出限界を検
討した。
【0239】
8−1)試験方法
Legionella pneumophila ATCC33153、ATCC33154、ATCC33215、JLP1008、及びJLP1024株をBCYEα培地にて37℃、2日培養したコロニーを釣菌し、滅菌した1% Bacto Yeast Extract水溶液(Y-SW)にけん濁し、8.2〜9.0 log cfu/mlの生細胞けん濁液を調製した。JLP菌株は、九州大学大学院医学研究院細菌学分野(〒812-8582 福岡県福岡市東区馬出3-1-1)から入手することができる。
【0240】
その後、Y-SWにて10
2倍希釈けん濁液を調製し、10分煮沸して死細胞けん濁液を調製し
た。また、前記8.2〜9.0 log cfu/mlの生細胞けん濁液の10
6〜10
8倍希釈けん濁液をY-SW
により調製した。
上記の各生細胞及び死細胞けん濁液1 mlを試験検体とし、EMA 27.5〜30 μg/mlの終濃
度にて計3回の多段階EMA処理(1回目EMA処理 遮光下氷上30 μg/ml 16.5分、2回目EMA
処理27.5 μg/ml 15分、3回目EMA処理 27.5 μg/ml 15分)を行った。各EMA処理後の可
視光照射は10分とした。
【0241】
多段階EMA処理後に冷却遠心処理(4℃、10分、13,000× G)し、上清を完全除去し、ペレットに対して30 μlの滅菌水を加えて懸濁させ、定量的にその懸濁液をPCRチューブに
移した。そのPCRチューブを96℃、3分の加温を行い、ダイレクトLAMP用のマスターミックス中の酵素等の各コンポーネントが細菌細胞を効果的に透過するようにした。
その後、冷却遠心処理(4℃、10分、3,000× G)して上清をほぼ除去し、ペレット(2.5 μl相当)に対して表10のダイレクトLAMP用のマスターミックス14 μlを加え、65℃
、75分; 80℃、2分; 4 ℃、2分)のLAMP増幅を行った。
【0242】
8−2)結果及び考察
表27に試験結果を示す。
【0243】
【表27】
【0244】
表27中の記号は以下のとおりである。
a) 試験開始時のL. pneumophila ATCC33153 株懸濁液濃度。
b) 死菌懸濁液:L. pneumophila 懸濁液(8.8 ± 0.29 log cells/ml)を10
2倍希釈し(6.8 ± 0.29 log cells/ml)、その後10分煮沸して調製した。生菌懸濁液:L. pneumophila 懸濁液(8.8 ± 0.29 log cells/ml)の10
6倍希釈(2.8 ± 0.29 log cells/ml)し
て調製した。
c) 未増幅(未検出)回数が5又は2であることを示す。
d) 測定条件(65℃,75分、80℃,2分、及び4℃,2分)を2又は5回測定したときの、境界値を初めに超える反応時間:Ct値(分):mean ± SD(n = 5 or 2)を示す。
e) 4回は未増幅(未検出)、1回はCt値 66.2 をそれぞれ示す。
f) 2回測定のそれぞれのCt実測値を示す。
g) 検出限界(Detection limit)
h) 2回の各測定値(67.2 、未増幅)
i) 2回の各測定値(32.3 、未増幅)
【0245】
表27によれば、多段階EMA−ダイレクトLAMP法において、レジオネラ死細胞は、6.2〜7.0 log cells/mlの濃度においてLAMP増幅が認められなかったために陰性と判定された。また、レジオネラ生細胞は、0.2〜2.8 log cfu/mlの濃度にてLAMP増幅が確認され、いず
れも陽性と判定された。
【0246】
PCRによるレジオネラ検査などにより、温泉水中のレジオネラ死細胞濃度は6〜7 log cells/100 mlといわれているが、前記の結果から、本発明によりレジオネラ死細胞由来のLAMP増幅が6 log cells/mlで抑制されているので、本発明による多段階EMA−ダイレクトLAMP法は温泉中のレジオネラ死細胞のLAMP増幅を完全に抑制できると推測される。
【0247】
また、JLP1008株では0.2 log cfu/ml以上の濃度にて検出可能であり、ATCC33153株では2.8 log cfu/ml以上の濃度にて検出可能であり、それ以外の残り3株においても2.0 log cfu/ml以上の濃度にて検出可能であるので、いずれのレジオネラ生細胞についても本発明
により検出可能であることが確認された。
このように、本発明の多段階EMA処理−LAMP法を実施すれば、検体の前培養を必要とせ
ず、直接検体から温泉水中のレジオネラ生細胞のみを特異的に検出することが可能である。
なお、ATCC33153株では、生細胞の世代時間が1 hであることを考慮すれば、レジオネラ好適培地にて検水中のレジオネラ生細胞を3時間程度培養し、その後多段階EMA処理−LAMP法を行えば、当該ATCC33153株についても、レジオネラ生細胞のみを特異的に検出可能で
ある。
【0248】
〔参考例1〕Di-μ-chlorobis[(η-cycloocta-1,5-diene)iridium(I)]による大腸菌(Esherichia coliの生細胞・死細胞の識別
イリジウム錯体を用いたE. coliの生細胞及び死細胞の識別を行った。イリジウム錯体
としては、イリジウム錯体二量体(1錯体に2個のイリジウム元素を有するダイマー)であるDi-μ-chlorobis[(η-cycloocta-1,5-diene)iridium(I)]を用いた。
【0249】
1.試験材料及び方法
1−1)細胞けん濁液の調製
滅菌水を用いてE. coli JCM1649株の生細胞けん濁液(1.2 × 10
7 CFU/ml)を調製した。この生細胞けん濁液の一部を沸騰水中に3分浸漬し、損傷細胞/死細胞けん濁液(1.2×10
7 cells/ml。以下、損傷細胞と死細胞を包括して死細胞と表記する)を調製した。これらの生細胞けん濁液、又は死細胞けん濁液のそれぞれ90 μlを下記試験に供した。
【0250】
1−2)イリジウム錯体溶液の調製
Di-μ-chlorobis[(η-cycloocta-1,5-diene)iridium(I)](Wako)3.92 mg(5.84 μmols)を精確に秤量し、116.7 μlのジメチルスルフォキシド(DMSO、D8418-50ML, Sigma)
に溶解して50 mM溶液を調製した。この溶液を生理食塩水で希釈して100μM、250μM、1000μMのイリジウム錯体溶液を準備した。
【0251】
1−3)イリジウム錯体による被検試料の処理
前記の各イリジウム錯体溶液10μlを、上記生細胞けん濁液90μl又は死細胞けん濁液90μlに添加し、恒温水槽にて37℃で30分間保持した。その後、冷却遠心処理(4℃、15,000×G、5分)し、上清を除去した。沈殿物(ペレット)を1mlの滅菌水にて洗浄した。洗浄
後のペレット(細胞けん濁液5μlに相当)をPCR増幅用試料とした。
【0252】
1−4)PCR増幅
次に、前述の表3に示されるcDBC(10×DBC)を使用して、細胞からの核酸の抽出を行
わずにリアルタイムPCR(細胞からの核酸の抽出せずに行うリアルタイムPCRを、以降「ダイレクト・リアルタイムPCR」と記載する。)を行うためのマスターミックス(ダイレクト・リアルタイムPCR用マスターミックス)を調製した。
具体的には、前記Taq DNA Polymerase with Standard Taq BufferをqPCRバッファーと
して用い、これにTaqを通常使用の4倍量を加え、同バッファーにcDBC(10 × DBC、表3を参照)を所定量添加したダイレクト・リアルタイムPCR(DqPCR)マスターミックス
を調製した。
先に調製したPCR増幅用試料にダイレクト・リアルタイムPCR用マスターミックスを添加して、リアルタイムPCR増幅(40 cycles)を2回実施した。尚、以下、New England Biolabs製品はNEBと記載する。
【0253】
プライマーには、前述の実施例5に記載の配列番号26〜28のプライマーを用いた。
【0254】
【表28】
【0255】
リアルタイムPCR装置(StepOnePlus Real-Time PCR System; Applied Biosystems)を用いて、下記のPCRサーマルサイクル条件により、リアルタイムPCRを2回実施した。
1) 95℃, 20秒(1サイクル)
2) 95℃, 5秒; 60℃, 1分(40サイクル)
尚、陰性コントロールとして、滅菌水5μlを鋳型として使用した。
【0256】
2.結果及び考察
リアルタイムPCRの結果を表29に示す。なお、「No Agent」はイリジウム錯体が未添
加を表す。
【0257】
【表29】
【0258】
表29によれば、Di-μ-chlorobis[(η-cycloocta-1,5-diene)iridium(I)]をE. coliの生細胞及び死細胞に作用させたとき、死細胞のCt値は薬剤濃度依存的に大きくなり、当該イリジウム錯体100 μMの濃度にて死細胞由来のPCR増幅が完全に抑制された。
一方、生細胞に関しては、濃度が高くなるにつれ若干薬剤の透過現象が観察されるが、前記死細胞由来のPCRを完全に抑制した薬剤濃度では、未処理生細胞のCt値と比較して3.6程度の上昇(増幅の遅れ)に留まり、当該イリジウム錯体100 μMにて明瞭な生細胞と死
細胞の識別が可能であった。