特許第6139476号(P6139476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139476
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】電動機の起動判別装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/24 20160101AFI20170522BHJP
【FI】
   H02P21/24
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-136720(P2014-136720)
(22)【出願日】2014年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-15886(P2015-15886A)
(43)【公開日】2015年1月22日
【審査請求日】2014年7月2日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0076954
(32)【優先日】2013年7月2日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】593121379
【氏名又は名称】エルエス産電株式会社
【氏名又は名称原語表記】LSIS CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】ヨ アンノ
【審査官】 上野 力
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−254424(JP,A)
【文献】 特開2001−054295(JP,A)
【文献】 特開2009−254191(JP,A)
【文献】 特開2000−197385(JP,A)
【文献】 特開2004−40986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータから3相電動機に入力される少なくとも一つの相電流の周波数成分に該当する第1交流信号及び前記第1交流信号に位相角が90度遅れる第2交流信号を出力する変換部と、
前記第2交流信号から周波数を推定する推定部と、
前記推定部が推定した周波数と前記インバータの出力電圧の周波数との差から前記3相電動機の起動有無を判別する判別部と、
前記推定部の制御帯域幅を決める帯域幅決定部と、
を含むことを特徴とする、電動機の起動判別装置。
【請求項2】
前記帯域幅決定部が決める制御帯域幅は、
前記推定部のゲインにより決定されることを特徴とする、請求項1に記載の電動機の起動判別装置。
【請求項3】
前記推定部のゲインは、前記3相電動機の運転周波数より高い値に選定されることを特徴とする、請求項2に記載の電動機の起動判別装置。
【請求項4】
前記推定部は、
前記電動機運転不可能な範囲に該当する陽の入力周波数を受信したときに、前記陽の入力周波数を出力した場合は、前記電動機起動されていないとすることを特徴とする、請求項1または2に記載の電動機の起動判別装置。
【請求項5】
前記判別部は、
前記推定部が推定した周波数と前記インバータの出力電圧の周波数との差が既設定された許容可能な周波数範囲から外れる場合、起動失敗として判断することを特徴とする、請求項1〜3いずれか一項に記載の電動機の起動判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の起動判別装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、誘導電動機(induction machine)または同期電動機(synchronous machine)のような3相電動機は、位置センサー(position sonsor)がある場合とない場合によってその運転方法が区別される。
【0003】
エンコーダー(encoder)、リゾルバ(resolver)のような位置センサーは、回転子の位置と速度を測定するために多く用いられるが、このような位置センサーの使用は、全体システムの価格を増大させて、メンテナンス(maintenance)費用を増加させるだけでなく、故障(fault)に脆弱で全体システムの体積(volume)を増大させる問題点がある。
【0004】
このような問題点を克服するために、産業界では位置センサーがない3相電動機のセンサーレス(sensorless)運転に対する要求が増大している。
【0005】
しかし、従来3相電動機のセンサーレス運転は、センサーレス起動後、起動(starting)失敗時にこれを判別できない場合がある。
【0006】
これは回転子速度と位置推定の誤差によって発生する。
【0007】
特に、回転子速度が低速領域では、回転子速度及び位置推定において電動機の運転状態を正確に把握できなくなるため、さらに電動機の機動成功有無を判断するのが難しくなる問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする技術的課題は、3相電動機のセンサーレス運転時の起動成功有無を判別できる電動機の起動判別装置を提供することである。
【0009】
また、本発明が解決しようとする他の技術的課題は、センサーレス運転時の機動成功時には、電動機の運転が持続するようにし、起動失敗時には、運転を停止して再び起動運転できるようにするための電動機の起動判別装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記のような技術的課題を解決するために、本発明の一実施形態の電動機の起動判別装置は、インバータから3相電動機に入力される少なくとも一つの相電流の周波数成分に該当する交流信号(第1信号)及び前記交流信号に位相角が90度遅れる信号(第2信号)を出力する変換部と、前記第2信号から周波数を推定する推定部と、前記推定部が推定した周波数と前記インバータの出力電圧の周波数との差から前記3相電動機の起動有無を判別する判別部とを含んでもよい。
【0011】
電動機の起動判別装置は、前記推定部の制御帯域幅を決める帯域幅決定部をさらに含んでもよい。
【0012】
前記帯域幅決定部が決める制御帯域幅は、前記推定部のゲインにより決定されでもよい。
【0013】
前記推定部のゲインは、前記3相電動機の運転周波数より高い値に選定してもよい。
【0014】
前記推定部は、前記電動機が運転不可能な陽(positive)の周波数(入力周波数)を入力として受信して、前記電動機の起動が成り立たない場合には、前記入力周波数を出力して、前記電動機の起動の成功有無を判別できるようにする。
【0015】
前記判別部は、前記推定部が推定した周波数と前記インバータの出力電圧の周波数との差が、既設定された許容可能な周波数範囲から外れる場合、起動失敗として判断することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、3相電動機のセンサーレス運転時電動機に入力される相電流の周波数を推定して、電動機を制御するインバータの出力電圧の周波数と比較して、電動機の起動有無を判別できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明が適用される電動機制御システムの構成図である。
図2図1の速度制御部の詳細構成図である。
図3A図1の電流制御部の詳細構成図である。
図3B図1の電流制御部の詳細構成図である。
図4】本発明に係る起動判別装置の一実施形態の詳細構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は多様な変更を加えることができて、多様な実施形態を有し、特定実施形態を図面に例示して詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の実施形態に対して限定するのではなく、本発明の思想及び技術範囲に含まれるいずれの変更、均等物乃至代替物を含むものと理解しなければならない。
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明に係る好ましい一実施形態を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明が適用される電動機制御システムの構成図であり、本発明の一実施形態の電動機制御システム1は、3相電動機2を運転する。電動機2は、例えば誘導電動機であってもよく動機電動機であってもよい。
【0021】
図面に示したように、本発明の電動機制御システム1は、速度制御部10、電流制御部20、第1変換部30、第2変換部40、インバータ50、回転子速度及び位置推定部60、電流測定部(70a、70b、70c;70)及び本発明の起動判別装置80を含み、本発明の制御システム1において起動判別装置80が電動機2の起動の成功有無を判別して、これを上位制御部(図示せず)に伝送する。
【0022】
速度制御部10は、回転子速度指令と実際の回転子速度を入力として、同期座標界(synchronous reference frame)上のq軸電流指令を出力する。
【0023】
電流制御部20は、同期座標界上のd、q軸電流指令と実際の電流から同期座標界上のd、q電圧を出力する。
【0024】
第1変換部30は、電流制御部20の出力電圧を静止座標界(stationary reference frame)上の電圧に変換する。
【0025】
第2変換部40は、電流測定部70で測定した電動機2の相電流(phase current)を動機座標計上のd、q軸電流に変換する。
【0026】
インバータ50は、電動機2に電圧を印加し、回転子速度及び位置推定部60は、電流測定部70が測定した電動機の相電流と第1変換部30の出力電圧を入力として、3相電動機2の回転子速度(rotor speed)と回転子位置(rotor position)を推定する。
【0027】
電流測定部70は、電動機2に入力される相電流を測定する。
【0028】
本発明の起動判別装置80は、電動機2の起動が成功した場合には「S」を出力し、失敗した場合には「F」を出力して、上位制御部(図示されない)に伝送することができる。
【0029】
起動判別装置80は、再起動のための信号をさらに出力することができる。
【0030】
各構成要素をより詳細に説明する。
【0031】
図2は、図1の速度制御部10の詳細構成図である。
【0032】
図面に示したように、本発明の速度制御部10は、指令速度(speed reference)とフィードバック速度(feedback speed)との差を比例積分(proportional and integral)制御を利用して、q軸電流指令を出力する。
【0033】
本発明の速度制御部10は、比例積分制御器(11a、11b)、制限器12及びアンチワインドアップ(Anti−windup)ゲイン設定部13を含むが、比例積分制御器11a、11bは、速度を制御し、制限器12は、速度制御部10の出力を制限し、ゲイン設定部13は、制限器12が動作する時に積分器11bの発散を防ぐ。
【0034】
速度制御部10の出力は、同期座標界上のq軸電流となる。
【0035】
図3A及び図3Bは、図1の電流制御部20の詳細構成図であり、図3Aは、同期座標界上のd軸電流制御部の構成を、図3Bは、同期座標界上のq軸電流制御部の構成を示した図面である。
【0036】
図面に示したように、d、q軸電流制御部は、同期座標界上のd、q軸電流を各々制御するための比例積分制御器とフィードフォワード補償(feed−forward)からなってもよい。即ち、本発明の電流制御部20は、電流指令とフィードバック電流(feedback current)から電流を制御するための比例積分制御器(21a、21b、24a、24b)とフィードフォワード補償部22、25及びアンチワインドアップゲイン設定部23、26を含む。
【0037】
フィードフォワード補償部22、25は、3相電動機2のモデリング(modeling)により多様に構成されでもよい。また、ゲイン設定部23、26は、電流制御部20の出力がインバータ50が合成できる電圧の大きさから外れる場合、積分器21b、24bの発散を防ぐためのものである。
【0038】
図1の第1変換部30は、電流制御部20の出力である同期座標界上の電圧を静止座標界上の電圧に変換するもので、下記を出力することができる。
【0039】
【数1】
【0040】
【数2】
【0041】
また、第2変換部20は、電流測定部70から受信した電動機2の相電流から同期座標界上のd、q軸電流を下記の過程を経て出力する。
【0042】
【数3】
【0043】
【数4】
【0044】
【数5】
【0045】
【数6】
【0046】
回転子速度及び位置推定部60は、電動機2に入力される電流とインバータ50に入力される電圧を入力として、回転子の速度と回転子磁束の位置を出力する。これの詳細な構成に関しては、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者には自明な事項であるため、その詳細な説明は省略する。
【0047】
図1において、起動判別装置80は、電動機2に入力される電流から電動機2に入力される電流の周波数を通して電動機2の起動を判別するものである。
【0048】
図1において、起動判別装置80は、電動機2の入力電流を電流測定部70から全部受信するものと図示されているが、一つまたは二つの電流の入力を受けてもよい。
【0049】
以下、図面を参照して本発明の起動判別装置を詳細に説明する。
【0050】
図4は、本発明に係る起動判別装置80の一実施形態の詳細構成図である。
【0051】
図面に示したように、本発明の起動判別装置80は、電流変換部81、周波数推定部82、帯域幅決定部83及び判別部84を含む。
【0052】
電流変換部81は、電動機2に入力される相電流(x=a、b、c)からインバータ50が印加した周波数に該当する交流(AC)信号であるi'xs、及びi'xsに位相角(phase angle)が90度遅れる信号であるqi'xsを生成し、減算部81a、ゲイン設定部81b、減算部81c、乗算部81d、積分部81e、積分部81f及び乗算部81gを含む。
【0053】
周波数推定部82は、電動機2に入力される相電流の周波数を推定し、乗算部(82a、82b)、ゲイン設定部82c、積分部82d及び合算部82eを含む。
【0054】
帯域幅決定部83は、周波数推定部82の制御帯域幅を決め、乗算部(83a、83b)、合算部83c、除算部83d及びゲイン設定部83eを含む。
【0055】
判別部84は、電動機2の周波数推定部82の出力を利用して起動が成功または失敗したかを判別して、減算部84a及び決定部84bを含む。
【0056】
以下、本発明の起動判別装置80の動作を詳細に説明する。
【0057】
電動機2に印加される相電流の周波数がω'の場合、電流変換部81は、下記式を利用して、i'xs及びqi'xsを決めることができる。
【0058】
【数7】
【0059】
【数8】
【0060】
【数9】
【0061】
この時、下記式(10)のような関係の場合、正常状態では、式(11)の条件を有する。
【0062】
【数10】
【0063】
【数11】
【0064】
式(11)の条件を利用して式(8)をまとめると下記の通りである。
【0065】
【数12】
【0066】
前記式(12)をまとめると下記の関係が決定される。
【0067】
【数13】
【0068】
次に、帯域幅決定部83の動作を説明する。
【0069】
各変数の平均を利用すると、下記の通り決定される。
【0070】
【数14】
【0071】
【数15】
【0072】
式(15)において、ω'2−ω2項は、2ω'(ω'−ω)(@ω'≒ω)に簡略化することができ、従って、帯域幅決定部83は、推定周波数が、下記の制御帯域幅を有するように決めることができる。
【0073】
【数16】
【0074】
従って、式(16)を参照すると、制御帯域幅は、周波数推定部82のゲイン設定部82cのゲインによって決定されることがわかる。従って、ゲイン設定部82cのゲインは、電動機2の運転周波数より高い値に選定するのが好ましい。
【0075】
判別部84の減算部84aは、周波数推定部82の出力である推定された電流の周波数ω'と、インバータ50が出力する電圧の周波数ωINVとの差を出力し、決定部84bは、減算部84aの差が既設定されている許容可能な周波数範囲であるΔωを越えると、起動失敗として判断して「F」を出力し、設定された許容可能な周波数範囲以内の場合には機動成功として判断して「S」を出力する。
【0076】
3相電動機2のセンサーレス運転が正常に動作する場合、インバータ50が印加する電圧の周波数と同じ電流周波数が出力されなければならない。この時、インバータ50が印加する電圧の周波数ω1は、上位制御部(図示せず)がすでに周知している変数であるため、正常動作時周波数推定部82が推定した電動機2に入力される相電流の周波数ω'は同じでなければならない(ω1=ω')。即ち、周波数推定部82の出力がインバータ50の出力電圧周波数と同じ場合には、3相電動機2が正常に動作する場合であり、その値が互いに異なる場合には、3相電動機2のセンサーレス制御上に問題があると判別して、上位制御部は運転を停止して再起動するようにすることができる。
【0077】
この時、周波数推定部82の入力であるω'cを電動機2が運転不可能なの値に選定すれば、電動機2の起動ができない場合には、周波数推定部82の出力がω'cとなって、電動機2の起動の成功有無を簡単に判別することができる。
【0078】
前記で説明したように、本発明の起動判別装置80は、電動機2に入力される三つの電流全てに対して測定することもでき、または、一つまたは二つの電流に対して測定することもできるが、全ての電流で「S」が出力されない場合、上位制御部は起動失敗として判断する。
【0079】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、これは例示的なものに過ぎず、当分野において通常の知識を有する者であれば、これから多様な変形及び均等な範囲の実施形態が可能である点を理解するであろう
【0080】
従って、本発明の真の技術的保護範囲は、特許請求の範囲によって決まらなければならない。
【符号の説明】
【0081】
81 電流変換部
82 周波数推定部
83 帯域幅決定部
84 判別部
図1
図2
図3A
図3B
図4