(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記内燃機関は、前記頂面の外周部を流れるスワールを生成するタンジェンシャルポートと、前記頂面の中央部に吸気を導入するヘリカルポートと、前記タンジェンシャルポートと前記ヘリカルポートを開閉するポート開閉手段と、を備え、
前記水供給手段は、前記タンジェンシャルポートに設けられた第1水噴射弁と、前記ヘリカルポートに設けられた第2水噴射弁と、を備え、
前記制御手段は、前記運転状態に基づいて、前記内燃機関の吸気行程において前記断熱膜に向けて噴射すべき水の総量と、前記第1水噴射弁と前記第2水噴射弁の分担割合と、を設定する設定手段と、設定した水の総量と設定した分担割合に基づくと共に前記ポート開閉手段の動作に対応させて、前記第1水噴射弁と前記第2水噴射弁の次回の噴射タイミングと噴射期間を制御する噴射制御手段と、を備え、
前記設定手段は、前記運転状態が高回転・高負荷状態にある場合、前記運転状態が低回転・低負荷状態にある場合に比べて、前記断熱膜に向けてより多くの水が噴射されるように前記総量を設定すると共に、前記第1水噴射弁の割合がより高くなるように前記分担割合を設定し、
前記噴射制御手段は、前記ポート開閉手段によって前記タンジェンシャルポートが開かれる間に前記第1水噴射弁から水が噴射され、尚且つ、前記ヘリカルポートが開かれる間に前記第2水噴射弁から水が噴射されるように、前記次回の噴射タイミングと噴射期間を制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
前記内燃機関は、排気通路の一部を迂回する迂回通路と、前記迂回通路を開閉する通路開閉手段と、前記迂回通路を流れる排気を冷却する冷却手段と、前記冷却手段で生じた凝縮水を貯留する貯留手段と、を備え、
前記制御手段は、前記貯留手段内の凝縮水量が所定量以上の場合は前記水供給手段からの水供給を許可し、前記貯留手段内の凝縮水量が前記所定量未満の場合は前記水供給手段からの水供給を禁止し、尚且つ、前記迂回通路に排気を流すように前記通路開閉手段を制御することを特徴とする請求項1乃至5何れか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態について説明する。尚、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略する。また、以下の実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
実施の形態1.
先ず、
図1乃至
図21を参照しながら、本発明の実施の形態1について説明する。
【0017】
[システム構成の説明]
図1は、実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
図1に示すように、本実施形態のシステムは、内燃機関としてのディーゼルエンジン10(以下、単に「エンジン10」と称す。)を備えている。
図1においては直列4気筒エンジンとして示すが、エンジン10の気筒配置および気筒数はこれに限定されない。また、
図1に示すシステムは、エンジン10に空気を供給する吸気系と、エンジン10から排気を排出する排気系と、エンジン10の運転を制御する制御系とを備えている。
【0018】
エンジン10の吸気系は、吸気マニホールド12と、吸気マニホールド12に接続された吸気管14とを備えている。大気中から吸気管14に取り込まれた吸気(新気)は、吸気マニホールド12を介してエンジン10の各シリンダに分配される。吸気管14には、過給機16のコンプレッサ16aが設けられている。
【0019】
エンジン10の排気系は、排気マニホールド18と、排気マニホールド18に接続された排気管20とを備えている。エンジン10の各シリンダからの排気は、排気マニホールド18を介して排気管20へ排出される。排気マニホールド18の下流には、過給機16のタービン16bが設けられている。タービン16bの下流には、DPF22と触媒24が設けられている。DPF22は、排気中に含まれる微粒子成分を捕集するフィルタである。触媒24は、排気中に含まれる炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)を酸化して、水(H
2O)や二酸化炭素(CO
2)に変換する機能を有している。
【0020】
排気管20の途中には、排気管20の一部を迂回する迂回管26が設けられている。迂回管26には、迂回管26を流れる排気を冷却する排気クーラー28が設けられている。排気クーラー28の下流において、排気管20は迂回管26と接続している。この接続部には、バルブ30が設けられている。バルブ30よりも下流において、排気管20はEGR管32に接続している。この接続部には、バルブ34が設けられている。バルブ30,34の操作により、排気クーラー28を通過した排気が、排気管20の一部とEGR管32を介して吸気マニホールド12に導入される。
【0021】
排気クーラー28はタンク36に接続されている。タンク36は排気クーラー28の下方に設けられ、排気クーラー28で排気を冷却した際に生じる凝縮水を一時的に貯留する機能を有している。タンク36は流路38を介して水噴射弁40に接続されている。水噴射弁40はエンジン10の各シリンダに設けられており、ノズル(図示しない)から放射状に水を噴射(または供給)するように構成されている。流路38の途中には、タンク36内の水を水噴射弁40に送るポンプ42が設けられている。タンク36には、タンク36の液面高さを検出するための水位センサ44が取り付けられている。
【0022】
エンジン10の排気系と吸気系は、EGR管32だけでなくEGR管46を介して接続されている。EGR管46には、バルブ48が設けられている。バルブ48の操作により、排気マニホールド18内の排気が吸気マニホールド12に導入される。EGR管32、バルブ30,34はいわゆる低圧EGR装置を構成しており、EGR管46とバルブ48は所謂高圧EGR装置を構成している。
【0023】
エンジン10の制御系は、ECU(Electronic Control Unit)50を備えている。ECU50は、少なくとも入出力インタフェースとメモリとCPUとを備えている。入出力インタフェースは、各種センサからセンサ信号を取り込むとともに、アクチュエータに対して操作信号を出力するために設けられる。ECU50が信号を取り込むセンサには、水位センサ44の他、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ52、エンジン10の回転速度を検出するためのクランク角センサ54が含まれる。ECU50が操作信号を出すアクチュエータには、バルブ30,34,48、水噴射弁40、ポンプ42の他、燃料噴射弁56が含まれる。燃料噴射弁56は、水噴射弁40同様、エンジン10の各シリンダに設けられており、ノズルから放射状に燃料を噴射するように構成されている。メモリには、各種制御プログラム、各種マップ等が記憶されている。CPUは、制御プログラム等をメモリから読み出して実行し、取り込んだセンサ信号に基づいて操作信号を生成する。
【0024】
図2は、
図1のエンジン10のシリンダの縦断面模式図である。
図2に示すように、エンジン10のシリンダ60は、シリンダブロック62と、シリンダブロック62の上方に取り付けられたシリンダヘッド64とにより形成される。シリンダヘッド64には、水噴射弁40と燃料噴射弁56が取り付けられている。シリンダ60内にはピストン66が設けられており、シリンダ60内を上下方向に運動する。ピストン66の頂面の中心部には、略円筒状の窪みからなるキャビティ68が形成されている。
【0025】
キャビティ68の表面を含むピストン66の頂面には、膜厚約数μm〜300μmの断熱膜70が形成されている。断熱膜70は、アルマイト皮膜から構成されている。アルマイト皮膜は、ピストン66の母材(アルミニウム合金)の陽極酸化処理により得られるものであり、陽極酸化処理の過程で形成された無数の細孔を有している。このような多孔質構造を有することで、アルマイト皮膜は、ピストン母材に比べて熱伝導率が低く、尚且つ、単位体積当たりの熱容量が低い断熱膜として機能する。
【0026】
なお、アルマイト皮膜の表面に、その細孔を塞ぐ封孔皮膜が形成されていてもよい。また、アルマイト皮膜の代わりに、ピストン母材よりも熱伝導率の低いジルコニア、イットリア、アルミナ、シリカ、チタニアなどのセラミック溶射膜(応力緩和のための金属結合層溶射膜を含む)を設けてもよい。アルマイト皮膜の代わりに、ピストン母材よりも熱伝導率が低く、尚且つ、単位体積当たりの熱容量が低い膜(例えば中空構造のセラミック粒子を、セラミックス接着剤をバインダとして焼き固めた中空ビーズ膜)を設けてもよい。
【0027】
また、ピストン66の頂面に対向するシリンダヘッド64の底面に、断熱膜70と同様のアルマイト皮膜、上述したセラミック溶射膜または中空ビーズ膜を、断熱膜70と同様の膜厚で設けてもよい。同様に、シリンダ60の内壁面(シリンダライナの表面)に、断熱膜70と同様のアルマイト皮膜、上述したセラミック溶射膜または中空ビーズ膜を設けてもよい。
【0028】
[実施の形態1の特徴]
ピストン66の頂面に断熱膜70を設けることで、シリンダ60内の断熱性を向上できる。そのため、断熱膜70を設けない場合に比べてエンジン10の燃費を向上できるという効果がある。断熱膜70を設けた場合にエンジン10の燃費が向上する理由を、
図3を用いて詳しく説明する。なお、
図3をはじめとする各図において、「膜付」は断熱膜70を形成した場合の断熱膜70の表面温度の推移を意味し、「膜なし」は断熱膜70を形成していない場合のピストン66の表面温度の推移を意味している。
図3に示すように「膜なし」では、サイクル中のピストン66の表面温度が略一定である。一方で「膜付」は断熱膜70の表面温度がクランク角0°近傍で大きく上昇し、その後低下する。このように、「膜付」では、燃焼時に表面温度が上昇して燃焼ガスとの温度差が「膜なし」に比べて小さくなることによって、燃焼ガスからピストンへの熱損失を低減することができ、エンジン10の燃費が向上する。
【0029】
ここで、燃焼時における断熱膜70の表面温度は、燃焼によるガス温度の上昇に伴いクランク角0°近傍で上昇し、その程度は、断熱膜70の熱伝導率と単位体積当たりの熱容量が共に小さな値をとるほど大きくなる。また、この温度上昇の程度は、エンジン10の負荷が低い場合よりも、高い場合のほうが大きくなるという特徴がある。
【0030】
図4は瞬時熱流束の変化を示している。「膜なし」はピストン66の表面の瞬時熱流束を示しており、クランク角0°近傍で一時的に上昇して下降する。これに対し、「膜付」は断熱膜70とピストン66の界面、すなわち、膜からピストン壁への瞬時熱流束の変化を示している。「膜付」での断熱膜表面には、「膜なし」と同様に、クランク角0°近傍で一時的に急峻な熱流束が入る。しかし、断熱膜70の熱流束がピストン66の母材に比べて小さいために、断熱膜70内部での熱の伝導が遅れ、断熱膜70とピストン66の界面では
図4に示すように瞬時熱流束のピーク時期が遅れて、かつ、そのピーク値も小さくなる。このことは、断熱膜70が燃焼ガスからの熱を一旦、自分自身に蓄え、その後、次の燃焼サイクルまでに徐々にピストン母材へと熱を逃していることを意味している。従って、一旦断熱膜に蓄えられた熱を全てピストン母材側へと逃がすのではなく、例えば断熱膜表面の温度を冷やすことによってピストン母材側へ逃げる熱の一部を燃焼ガス側に戻すことができれば、燃費低減効果をより高めることができる。断熱膜70が一旦蓄える熱量は、エンジン10の負荷が高くなるほど増えるので、高負荷条件ではより多くの熱を燃焼ガス側に戻せる可能性がある。
【0031】
また、
図3に示したように、断熱膜70の表面温度がクランク角0°以降に下がり切らないので、次回以降の吸気行程においてシリンダ内に流入した吸気が断熱膜70から受熱して膨張し、この結果、充填効率が低下するという問題も生じる。圧縮行程においても吸気が断熱膜70から受熱してシリンダ内の圧力が上昇し、この結果、圧縮行程での負の仕事が増大して燃費が悪化するという問題も生じる。圧縮端温度の上昇により燃焼温度が上昇し、この結果、NOx排出量が増加するという問題も生じる。
【0032】
上述の問題に鑑み、本実施の形態では、エンジン10の運転状態を考慮して断熱膜70を冷却すべく、当該運転状態に基づいてタンク36内の水を水噴射弁40から噴射する制御を行う。この噴射制御の内容について、
図5乃至
図20を参照しながら説明する。
【0033】
図5は、エンジン10の運転領域の区分を説明するための図である。
図5に示すように、本実施の形態では、エンジン10の運転領域を3つの領域(領域I:低回転・低負荷領域、領域II:中回転・中負荷領域、領域III:高回転・高負荷領域)に分割している。そして、これらの領域に応じて、水噴射弁40からの水の噴射態様(具体的には、噴射タイミング)を変更している。なお、
図5に示した運転領域については、マップとしてECU50のメモリに記憶されているものとする。
【0034】
図6乃至
図7は、
図5の領域Iでの燃焼イメージを示した図である。
図6がTDC近傍のシリンダ60の縦断面模式図に相当し、
図7が
図6のシリンダ60をシリンダヘッド64側から見た図に相当している。
図6乃至
図7に示すように、領域Iではキャビティ68
の開口部(以下、「キャビティリップ」と称す。)68aの周辺、つまり、
図7に示すキャビティリップ68aに沿って一定幅で形成される環状領域A
CLにおいて火炎が生じる。但し、この火炎が伝播する範囲は環状領域A
CLのうちの一部である。このため、断熱膜70の表面温度の上昇が抑えられ、シリンダ60内のガス温度の上昇も抑えられる。
【0035】
図8は、エンジン10の運転領域が
図5の領域Iにある場合において、断熱膜がない場合のピストンの表面における熱流束の推移(実線)と、断熱膜がある場合の断熱膜とピストン母材の界面における熱流束の推移(破線)とを示した図である。
図8に示すように、クランク角90°以降の瞬時熱流束が「膜付」の場合でも「膜なし」の場合と同様の推移を示す。つまり、断熱膜70を形成した場合であっても、クランク角90°以降の瞬時熱流束がそれ程高くならない。従って、エンジン10の運転領域が領域Iにある場合、断熱膜70の冷却を行う必要性は低いと認められるため、水噴射弁40から水を噴射しない。
【0036】
図9乃至
図10は、
図5の領域IIでの燃焼イメージを示した図である。
図9がTDC近傍のシリンダ60の縦断面模式図に相当し、
図10が
図9のシリンダ60をシリンダヘッド64側から見た図に相当している。
図9乃至
図10に示すように、領域IIではキャビティリップ68aの周辺において生じた火炎が、環状領域A
CLの広範囲に伝播する。そのため、環状領域A
CLの断熱膜70の表面温度が上昇する。そこで、この環状領域A
CLの断熱膜70を集中的に冷却すべく、ATDC180°近傍で水噴射弁40から水を噴射する。なお、「近傍」としているのは、そのクランク角において必ず水の噴射を開始するのではなく、噴射開始タイミングを多少変動させても(±5°程度)よいことを意味している。
【0037】
図11乃至
図13は、ATDC180°近傍での水噴射イメージを示した図である。
図11がATDC180°近傍のシリンダ60の縦断面模式図に相当し、
図12乃至
図13が
図11のシリンダ60をシリンダヘッド64側から見た図に相当している。
図11乃至
図13に示すように、ATDC180°近傍で水噴射弁40から水を噴射すると、放射状に噴射された水(噴霧)により、環状領域A
CLの断熱膜70と、環状領域A
CLの内側および外側に位置する断熱膜70の一部とが冷却される。
【0038】
図14は、エンジン10の運転領域が
図5の領域IIにある場合において、断熱膜がない場合のピストンの表面における熱流束の推移(実線)と、断熱膜がある場合の断熱膜とピストン母材の界面における熱流束の推移(破線)とを示した図である。
図14の上方に示す図は、
図4と同一である。この図の斜線領域に示すように、「膜付」の場合は燃料着火後から次回の燃料着火前までの間に、多くの熱が断熱膜70側からピストン母材側に逃げてしまう。一方、
図14の下方に示す図は、クランク角180°近傍で水を噴射した場合の瞬時熱流束の推移を示している。この図の斜線領域に示すように、水を噴射することで、それ以降の瞬時熱流束を低下させて、「膜なし」の場合と同様に推移させることができる。
【0039】
図15乃至
図16は、
図5の領域IIIでの燃焼イメージを示した図である。
図15がTDC近傍のシリンダ60の縦断面模式図に相当し、
図16が
図10のシリンダ60をシリンダヘッド64側から見た図に相当している。
図15乃至
図16に示すように、領域IIIではキャビティリップ68aの周辺において生じた火炎が環状領域A
CLのみならず、ピストン66の頂面の全域に伝播する。このため、断熱膜70の表面全体の温度が上昇するので、ピストン66の頂面全体を冷却すべく、ATDC90°近傍と180°近傍で水噴射弁40から水を噴射する。
【0040】
図17乃至
図19は、ATDC90°近傍での水噴射イメージを示した図である。
図17がATDC90°近傍のシリンダ60の縦断面模式図に相当し、
図18乃至
図19が
図17のシリンダ60をシリンダヘッド64側から見た図に相当している。
図17乃至
図19に示すように、ATDC90°近傍で水噴射弁40から水を噴射すると、放射状に噴射された水により環状領域A
CLよりも内側のキャビティ68の表面が冷却される。ATDC180°近傍での水噴射イメージは、
図11乃至
図13で説明した通りである。即ち、ATDC180°近傍で水噴射弁40から水を噴射すれば、環状領域A
CLの断熱膜70と、環状領域A
CLの内側および外側に位置する断熱膜70の一部とが冷却される。つまり、ATDC90°近傍と180°近傍で水噴射弁40から水を噴射すれば、断熱膜70の略全域が冷却される。
【0041】
図20は、エンジン10の運転領域が
図5の領域IIIにある場合において、断熱膜がない場合のピストンの表面における熱流束の推移(実線)と、断熱膜がある場合の断熱膜とピストン母材の界面における熱流束の推移(破線)とを示した図である。
図20の上方に示す図は、水噴射弁40から水を噴射しない場合の瞬時熱流束の推移を示した図である。この図の斜線領域に示すように、「膜付」の場合は燃料着火後から次回の燃料着火前までの間に、非常に多くの熱が断熱膜70側からピストン母材側に逃げてしまう。一方、
図14の下方に示す図は、クランク角90°近傍と180°近傍で水を噴射した場合の瞬時熱流束の推移を示している。この図の斜線領域に示すように、水を2回噴射することで、2回目の噴射以降の瞬時熱流束を低下させて、「膜なし」の場合と同様に推移させることができる。
【0042】
このように、本実施の形態では、
図5に示した3つの運転領域に対応させて水噴射弁40からの水の噴射タイミングを変更するので、断熱膜70のうちの高温化領域を効率的に冷却できる。従って、上述した不具合の発生を未然に防止できる。
【0043】
[具体的処理]
図21は、実施の形態1において、ECU50が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。なお、
図21に示す制御ルーチンは、エンジン10の始動直後から所定の制御周期ごとに繰り返し実行されるものとする。
【0044】
図21に示すルーチンにおいて、先ず、ECU50は、エンジン10が温間状態にあるか、冷間状態にあるかを判定する(ステップS10)。具体的に、ECU50は、エンジン10の出口水温と出口油温をセンサ等から取得し、両者が共に60℃よりも高い場合に、エンジン10が温間状態にあると判定する。エンジン10が温間状態にあると判断した場合、ECU50はステップS12に進む。一方、エンジン10が冷間状態にあると判定された場合、ECU50はステップS14に進む。
【0045】
ステップS12において、ECU50はエンジン10の運転領域を特定する。具体的に、ECU50は、アクセル開度に基づいてエンジン10の負荷を求めると共に、エンジン回転速度を求め、メモリから読み込んだ運転領域マップにこれらを適用してエンジン10の運転領域を特定する。なお、アクセル開度はアクセル開度センサ52から検出され、エンジン回転速度はクランク角センサ54から検出される。また、運転領域マップは
図5に示したマップであり、ECU50のメモリに記憶されているものである。
【0046】
ステップS12において、エンジン10の運転領域が
図5の領域Iにあると特定された場合、ステップS14に進む。ステップS14において、ECU50は、水噴射しないように水噴射弁40を制御する。エンジン10が冷間状態にある場合や、エンジン10の運転領域が
図5の領域Iにある場合は、水噴射による断熱膜70の冷却を行う必要性が低いと判断できるためである。
【0047】
ステップS12において、エンジン10の運転領域が
図5の領域IIにあると特定された場合、ECU50は、ATDC180°近傍で水を噴射するようにポンプ42を駆動する共に、水噴射弁40の噴射タイミングを制御する(ステップS16)。これにより、キャビティリップ68aの表面に形成された断熱膜70を冷却する。
【0048】
ステップS12において、エンジン10の運転領域が
図5の領域IIIにあると特定された場合、ECU50は、ATDC90°近傍と180°近傍で水を噴射するようにポンプ42を駆動すると共に、水噴射弁40の噴射タイミングを制御する(ステップS18)。これにより、断熱膜70の略全域を冷却する。
【0049】
以上、
図21に示した制御ルーチンによれば、断熱膜70のうちの高温化領域を効率的に冷却できる。従って、上述した不具合の発生を未然に防止できる。
【0050】
なお、上記実施の形態1においては、流路38、水噴射弁40およびポンプ42が上記第1の発明における「水供給手段」に、ECU50が同発明における「制御手段」に、それぞれ相当している。
【0051】
ところで、上記実施の形態1においては、迂回管26に設けた排気クーラー28で生じる凝縮水をタンク36に一時的に貯留しておき、断熱膜70に噴射した。しかし、EGR管32やEGR管46に別途EGRクーラーとタンクを設けて、これらのタンクの水を断熱膜70に噴射してもよい。このような水供給源によれば、凝縮水を活用できるという利点がある。但し、本発明では、エンジン10に別途設けた補充式のタンクの水を断熱膜70に噴射することも可能である。
【0052】
また、上記実施の形態1においては、エンジン10の運転領域が
図5の領域Iにある場合に水噴射しないように水噴射弁40を制御した。しかし本発明は、
図5の領域Iでの水噴射自体を禁止するものではない。例えば、クランク角180°近傍で、エンジン10の運転領域が
図5の領域IIにある場合よりも少量の水を噴射するように水噴射弁40を制御してもよい。
【0053】
実施の形態2.
次に、
図22を参照しながら、本発明の実施の形態2について説明する。
なお、本実施の形態は、
図1に示したシステムを前提としているため、システム構成の説明については省略する。
【0054】
[実施の形態2の特徴]
タンク36内の凝縮水量(以下、「タンク36内の水量」と称す。)が極端に減少した場合には、
図21の制御ルーチンを実行したとしても水噴射弁40から水が噴射されないという問題が残る。そこで、本実施の形態では、タンク36内の水量が所定量以上の場合に
図21の制御ルーチンの実行を許可し、タンク36内の水量が所定量未満の場合は迂回管26に排気を導入する制御を実行する。
【0055】
迂回管26への排気の導入は、バルブ30の操作により行われる。バルブ30の操作は、バルブ34の操作とは独立して行われる。従って、排気クーラー28を通過させた排気をEGR管32経由で吸気マニホールド12に導入する場合だけでなく、排気クーラー28を通過させた排気を排気管20経由でそのまま外部に放出する場合においても、迂回管26へ排気を導入して凝縮水を生成できる。このように、本実施の形態によれば、吸気マニホールド12に排気を導入する必要が無い場合においても、排気クーラー28に排気を導入して凝縮水をタンク36に貯めることができる。
【0056】
[具体的処理]
図22は、実施の形態2において、ECU50が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。なお、
図22に示す制御ルーチンは、エンジン10の始動直後から所定の制御周期ごとに繰り返し実行されるものとする。
【0057】
図22に示すルーチンにおいて、先ず、ECU50は、タンク36内の水量を計測する(ステップS20)。具体的に、ECU50は、水位センサ44の検出値からタンク36内の水量を求める。
【0058】
続いて、ECU50は、タンク36内の水量が不足しているか否かを判定する(ステップS22)。具体的に、ECU50は、ステップS20で求めたタンク36内の水量を所定量と比較し、当該水量が所定量未満の場合にタンク36内の水量が不足していると判定する。また、ECU50は、当該水量が所定量以上の場合にはタンク36内の水量が足りていると判定する。
【0059】
ステップS22において、タンク36内の水量が不足していると判定された場合、ECU50は、
図21の制御ルーチンの実行を禁止すると共に、タンク36内の水量を増量すべく、バルブ30を操作して迂回管26へ排気を導入させる(ステップS24)。一方、タンク36内の水量が足りていると判定された場合、ECU50は、
図21の制御ルーチンの実行を許可する(ステップS26)。
【0060】
以上、
図22に示した制御ルーチンによれば、タンク36内に水が確保されている場合に
図21の制御ルーチンの実行を許可できる。従って、断熱膜70のうちの高温化領域をタンク36内の水で確実に冷却できる。また、タンク36内の水が不足した場合には
図21の制御ルーチンの実行を禁止しつつ、タンク36内に水を補充できる。
【0061】
なお、上記実施の形態2においては、排気管20が上記第
6の発明における「排気通路」に、迂回管26が同発明における「迂回通路」に、バルブ30が同発明における「通路開閉手段」に、排気クーラー28が同発明における「冷却手段」に、タンク36が同発明における「貯留手段」に、それぞれ相当している。
【0062】
実施の形態3.
次に、
図23乃至
図29を参照しながら、本発明の実施の形態3について説明する。
なお、本実施の形態では、上記実施の形態1や2のエンジン10とは異なる構成のディーゼルエンジンを前提とする。但し、
図1に示したシステムと同様のシステムを前提としているため、システム構成の説明については省略する。
【0063】
図23は、実施の形態3のエンジン周辺の構成を説明するための模式図である。
図23に示すように、ディーゼルエンジン80(以下、単に「エンジン80」と称す。)は2つの吸気ポート82,84を備えている。吸気ポート82は、シリンダ86内にスワールを生成するためのタンジェンシャルポートとして機能する。吸気ポート84は、シリンダ86内に流入する吸気の流量を確保するためのヘリカルポートとして機能する。吸気ポート82,84は共に、シリンダヘッド(図示省略)内に形成されている。吸気ポート82,84には、各ポートを開閉する吸気弁88,90と、各ポートに水を噴射する水噴射弁92,94が設けられている。
【0064】
上記実施の形態1のエンジン構成との比較において、水噴射弁92,94を吸気ポート82,84に設ける構成は単純であり、既存構成からの変更規模を小さくできるという利点がある。
【0065】
シリンダ86内にはピストン96が設けられており、シリンダ86内を上下方向に摺動する。ピストン96の頂面の中心部には、略円筒状の窪みからなるキャビティ98が形成されている。ピストン96の頂面には、断熱膜70同様の断熱膜(図示省略)が形成されている。
【0066】
図23は吸気ポート82,84が開かれている場合を示している。
図23に示すように、吸気ポート82からはスワール流s1が、吸気ポート84からは吸気流s2が、シリンダ86内に流入している。
図24は、
図23のシリンダ86の水平断面図であり、シリンダ86流入直後におけるスワール流s1と吸気流s2の傾向を示している。
図24に示すように、スワール流s1はシリンダ86の外周部に沿って大きく旋回し、吸気流s2はスワール流s1の中心部において小さく旋回する。
【0067】
[実施の形態3の特徴]
本実施の形態では、
図24で説明した各流れの傾向を利用し、エンジン80の運転領域に基づいて、タンク36内の水を水噴射弁92,94から噴射する制御を行う。この噴射制御の内容について、
図25乃至
図28を参照しながら説明する。
【0068】
図25は、水噴射弁92,94から噴射する水の分担割合を示した図である。なお、
図25においては、水噴射弁92(タンジェンシャルポート)の分担割合(水噴射弁92からの噴射量/水噴射弁92および水噴射弁94からの噴射量)を示している。
図25に示すように、エンジン80の運転領域が低回転・低負荷領域にある場合は水噴射弁92の分担割合を小さくし、当該運転領域が高回転・高負荷領域になるほど水噴射弁92の分担割合を大きくする。なお、
図25に示した分担割合については、マップとしてECU50のメモリに記憶されているものとする。
【0069】
図26は、水噴射弁92および水噴射弁94から噴射する水の総量(以下、「総噴射量」ともいう。)を示した図である。
図26に示すように、エンジン80の運転領域が低回転・低負荷領域にある場合は総噴射量を少なくし、当該運転領域が高回転・高負荷領域になるほど総噴射量を多くする。なお、
図26に示した総噴射量については、マップとしてECU50のメモリに記憶されているものとする。
【0070】
図27乃至
図28は、ピストン96の頂面付近での噴霧の分布を示す図である。
図27は、エンジン80の運転領域が低回転・低負荷領域にあるときの噴霧の分布に相当する。
図25乃至
図26で説明したように、低回転・低負荷領域では水噴射弁92の分担割合が小さく、尚且つ、総噴射量が少ない。そのため、
図27に示すように、キャビティ98の表面が水噴射弁94から噴霧によって緩やかに冷却されると共に、キャビティ98よりも外側のピストン96の表面が水噴射弁92からの噴霧によって緩やかに冷却される。また、キャビティ98の開口部(以下、「キャビティリップ」と称す。)98aの周辺、つまり、
図7等で説明した環状領域A
CLの断熱膜が水噴射弁92,94からの噴霧によって緩やかに冷却される。なお、図中に示す「噴霧火炎」は、エンジン80の燃料噴射弁から噴射された燃料を表している。
【0071】
図28は、エンジン80の運転領域が高回転・高負荷領域にあるときの噴霧の分布に相当する。
図25乃至
図26で説明したように、高回転・高負荷領域では水噴射弁92の分担割合が大きく、尚且つ、総噴射量が多い。そのため、
図28に示すように、キャビティ98の外側から内側に向かう水噴射弁92からの噴霧によって、キャビティリップ98aの周辺、つまり、
図7等で説明した環状領域A
CLを含むピストン96の頂面の外周部が冷却されると共に、水噴射弁94からの噴霧によって環状領域A
CLよりも内側のキャビティ98の表面が冷却される。よって、ピストン96の頂面に形成された断熱膜の略全域が冷却される。
【0072】
なお、水噴射弁92,94からの水噴射はECU50により制御され、エンジン80の運転領域を特定した燃焼サイクルの次の燃焼サイクルにおいて吸気ポート82,84が開かれたときに行われる。また、水噴射弁92,94から噴射する水量はECU50により設定されるものであり、各噴射弁の噴射期間によって調節される。つまり、本実施の形態の噴射制御では、エンジン80の運転領域を特定したサイクルの次のサイクルの吸気行程において、水噴射弁92,94からの水の噴射態様(具体的には、噴射タイミングと噴射期間)がECU50によって変更される。
【0073】
図29は、ピストン96の表面における瞬時熱流束の推移を示した図である。
図4で説明したように、「膜付」の場合は燃料着火後から次回の燃料着火前までの間に、多くの熱が断熱膜側からピストン母材側に逃げてしまう。この点、本実施の形態によれば、エンジン80の吸気行程でピストン96の表面に向けて水が噴射される。そのため、燃料着火前に断熱膜の温度を下げることができる。従って、
図29に矢印で示すように断熱膜側からピストン母材側に逃げるのを抑制できるので、冷却損失の低減を図ることができる。また、圧縮端温度の上昇を抑えてNOx排出量の増加を抑制できる。
【0074】
以上、本実施の形態によれば、エンジン80の運転領域に基づいて総噴射量と水噴射弁92の分担割合を設定し、水噴射弁92,94の噴射タイミングと噴射期間を変更するので、ピストン96の頂面に形成された断熱膜のうちの高温化領域を効率的に冷却できる。従って、冷却損失の低減を図ることができる。また、圧縮端温度の上昇を抑えてNOx排出量の増加を抑制できる。
【0075】
なお、上記実施の形態3においては、吸気ポート82が上記第
3の発明における「タンジェンシャルポート」に、吸気ポート84が同発明における「ヘリカルポート」に、吸気弁88,90が同発明における「ポート開閉手段」に、水噴射弁92が同発明における「第1水噴射弁」に、水噴射弁94が同発明における「第2水噴射弁」に、ECU50が同発明における「設定手段」および「噴射制御手段」に相当する。
【0076】
実施の形態4.
次に、
図30乃至
図33を参照しながら、本発明の実施の形態4について説明する。
なお、本実施の形態では、
図1に示したシステムと同様のシステムを前提とし、
図23に示したエンジン80を前提とする。従って、システム構成やエンジン構成の説明については省略する。
【0077】
[実施の形態4の特徴]
ピストン96の頂面に形成された断熱膜は、経年劣化により剥がれる可能性がある。特に、キャビティリップ98aの表面に形成された断熱膜は、エンジン80の燃料噴射弁から高圧噴射された燃料が衝突するので、経年劣化により剥がれる可能性が特に高い。キャビティリップ98aの断熱膜が剥がれた場合には、瞬時熱流束が変化してしまいエンジン80の運転状態に応じた各種問題が生じてしまう。
【0078】
エンジン80の運転領域が低回転・低負荷領域にある場合、断熱膜が剥がれた場合の瞬時熱流束は「膜なし」の場合と同様に推移し、瞬時熱流束が「膜なし」の場合よりも小さく推移する。そのため、実施の形態3と同一の噴射態様とすると、吸気行程中に断熱膜が冷やされ過ぎてしまい、燃料の着火性そのものが悪化する可能性がある。
【0079】
エンジン80の運転領域が高回転・高負荷領域にある場合、断熱膜が剥がれた場合の瞬時熱流束は「膜なし」の場合と同様に推移し、燃料着火直後に瞬時熱流束が「膜付」の場合よりも大きくなってしまう。そのため、実施の形態3と同一の噴射態様とすると、燃焼行程中の冷却損失が増大して燃費が悪化してしまう。つまり、断熱膜を設けていない場合と同様の問題が生じてしまう。
【0080】
そこで、本実施の形態の噴射制御では、経年劣化による瞬時熱流束の変化を調整すべく、水噴射弁92,94から噴射する水の分担割合や、総噴射量を変更する。
図30は、変更後の分担割合を示した図である。
図30と
図25を比較すると分かるように、変更後は、低回転・低負荷領域において水噴射弁92の分担割合が増やされている。また、変更後は、高回転・高負荷領域において水噴射弁92の分担割合が減らされている。
図31は、変更後の総噴射量を示した図である。
図31と
図26を比較すると分かるように、変更後は、高回転・高負荷領域において総噴射量が増量(+α)されている。
【0081】
図32乃至
図33は、ピストン96の頂面付近での噴霧の分布を示す図である。
図32は、エンジン80の運転領域が低回転・低負荷領域にあるときの噴霧の分布に相当する。
図30で説明したように、変更後は水噴射弁92の分担割合が増やされる。つまり、水噴射弁94の分担割合が減らされる。そのため、低回転・低負荷運転時にキャビティ98の表面が過剰に冷やされるのが抑えられ、燃料の着火性の悪化が抑制される。
【0082】
図33は、エンジン80の運転領域が高回転・高負荷領域にあるときの噴霧の分布に相当する。
図30乃至
図31で説明したように、変更後は水噴射弁92の分担割合が減らされ、尚且つ、総噴射量が増量される。そのため、高回転・高負荷運転時にキャビティ98の表面が過剰に熱くなるのが抑えられ、冷却損失の増大が抑制される。
【0083】
なお、断熱膜の剥離については、シリンダ86に別途設けた筒内圧センサの出力波形に基づいてECU50が検出する。但し、排気温度や吸気圧力等の各種物理量に基づいて検出することもできる。また、エンジン80の運転領域を特定したサイクルの次のサイクルの吸気行程において、水噴射弁92,94からの水の噴射態様(具体的には、噴射タイミングと噴射期間)がECU50によって変更されることについては、上記実施の形態3と同様である。
【0084】
以上、本実施の形態によれば、断熱膜の剥離時に水噴射弁92,94から噴射する水の分担割合や総噴射量を変更するので、上述した各種問題の発生を未然に防止できる。
【0085】
なお、上記実施の形態4においては、ECU50が上記第
4乃至第
5の発明における「検出手段」に相当する。