特許第6139500号(P6139500)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139500
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】編出し方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   D04B1/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-261802(P2014-261802)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2016-121419(P2016-121419A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】下野 正裕
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌紀
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−210046(JP,A)
【文献】 特開2012−046834(JP,A)
【文献】 特開2000−054247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後少なくとも一対の針床と、複数本の編出し針とを備える横編機により、一方の編地の下部の一方の編出し部と、他方の編地の下部の他方の編出し部とを編み出す編出し方法において、
a: 一方の編出し部の掛目列として第1の掛目列及び第2の掛目列を先に編成し、他方の編出し部の掛目列として第3の掛目列及び第4の掛目列を後で編成し、かつ第1の掛目列の編出し糸と第2の掛目列の編出し糸を前後の針床間で交差させると共に、第3の掛目列の編出し糸と第4の掛目列の編出し糸を前後の針床間で交差させるステップと、
b: 第1の掛目列の編出し糸と第2の掛目列の編出し糸との交差部を編出し針により保持すると共に、第3の掛目列の編出し糸と第4の掛目列の編出し糸との交差部を編出し針により保持するステップと、
c: 第3の掛目列及び第4の掛目列に対し、一方の針床に位置する掛目を針床から外し、かつ他方の針床に位置する掛目を残すステップと、
d: 第1の掛目列及び第2の掛目列に対し、前記他方の針床に位置する掛目を針床から外し、かつ前記一方の針床に位置する掛目を残すステップと、
e: 前記一方の針床に位置する第1の掛目列の掛目及び第2の掛目列の掛目上に、一方の編出し部の編目を編成すると共に、前記他方の針床に位置する第3の掛目列の掛目及び第4の掛目列の掛目上に、他方の編出し部の編目を編成するステップ、
とを上記の順序で実行することを特徴とする、編出し方法。
【請求項2】
ステップaで第1の掛目列と第2の掛目列を編成する際に、第3の掛目列の編出し糸と第4の掛目列の編出し糸の交差部を編出し針が保持する位置で、前記他方の針床に掛目を形成せずに、編出し糸を前記一方の針床側に位置させることを特徴とする、請求項1の編出し方法。
【請求項3】
編出し針は下方へ付勢され、かつステップeの後に、一方の編地と他方の編地の一方を編成し、他方の編成を遅らせることにより、一方の編地と他方の編地とで、下端の位置を異ならせることを特徴とする、請求項1または2の編出し方法。
【請求項4】
前後少なくとも一対の針床と、複数本の編出し針とを備える横編機により、一方の編地の下部の一方の編出し部と、他方の編地の下部の他方の編出し部とを編み出す編出し方法において、
a: 一方の編出し部での編出し糸の掛目列と、他方の編出し部での編出し糸の掛目列とを、各々前後の針床間を渡るように編成するステップと、
b: 一方の編出し部の掛目列の編出し糸と他方の編出し部の掛目列の編出し糸とに対し、前後の針床間を渡る位置で、かつ編出し糸が互いに交差する位置を避けて、1本の編出し針が1本の編出し糸を保持するように、編出し針により編出し糸を保持するステップと、
c: 一方の編出し部の掛目列に対し、一方の針床に位置する掛目を残して、他方の針床に位置する掛目を針床から外すと共に、他方の編出し部の掛目列に対し、前記他方の針床に位置する掛目を残して、前記一方の針床に位置する掛目を針床から外すステップと、
d: 前記一方の針床に位置する一方の編出し部の掛目上に、一方の編出し部の編目を編成すると共に、前記他方の針床に位置する他方の編出し部の掛目上に、他方の編出し部の編目を編成するステップ、
とを上記の順序で実行することを特徴とする、編出し方法。
【請求項5】
編出し針は下方へ付勢され、かつステップdの後に、一方の編地と他方の編地の一方を編成し、他方の編成を遅らせることにより、一方の編地と他方の編地とで、下端の位置を異ならせることを特徴とする、請求項4の編出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前後の編地を独立して引き下げることができる編出し方法に関し、特に編出し部が開口している編出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機で編成を開始する場合、編出し針を使用する。代表的な編出し方法を図6に示す。編出し糸を用いて、前針床Fと後針床Bとに交互に掛目を形成して掛目列60とする。同様に、掛目列62を形成し、編出し糸を交差させる。次いで編出し針20を上昇させ、編出し糸の交差部をフックで保持する。そして掛目列60,62上に編出し糸の編目列64,66を例えば数コース編成し、さらに図示しない抜糸の編目列を編成し、抜糸の編目列上に本編地の編目を編成する。編出し針20により掛目列60,62を介して編地に引下げ力を加え、編成が進んで編地の下端を巻下げローラで保持できるようになると、編出し針20を編出し糸から外して、編出しベッドを下降させる。そして本編地の編成が完了し、横編機から編地を外すと、抜糸を抜いて編出し部と本編地とを分離できる。
【0003】
図6の編出し方法は、例えば前後一対の編地から成り、かついずれかの編地が他方の編地よりも下方に伸びている編地、即ち編み始めの高さが前後で異なる編地を編成するには不適である。図6の編出し方法では、編出し糸が編出し部で前後につながっているので、編出し部は閉じている。そして編出し部に続いて筒状編地を編成する場合、抜糸を抜かないと、編地の内部を見ることができない。また編み始めの高さが前後で異なる編地(前後差の有る編地)を編成することができない。前後差の有る編地の例を図1に示し、2は前編地、4は後編地で、ここでは後編地4が前編地2よりも下方へ伸びて編み始め位置が低く、かつ前編地2と後編地4は両端で接続されて筒状の編地を構成する。図6の4)で、編目列64は掛目列60,62の双方に接続されている。また5)では、編目列66も掛目列60,62の双方に接続されている。ここから例えば編目列64上に前編地2を編成し、編目列66上に後編地4を編成するとする。前編地2と後編地4は共に掛目列60,62に接続されているので、編出し針20は歯口までの編丈が異なる前編地2と後編地4を引き下げることになる。しかし歯口までの編丈が異なるため、編出し針20から前編地2と後編地4に適切な引下げ力を加えることができず、編成が困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3-77298
【特許文献2】特許3377700
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、一方の編地と他方の編地を独立して引き下げることができる編出し方法を提供することにある。
この発明の追加の課題は、前後差のある編地を編成できる編出し方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、前後少なくとも一対の針床と、複数本の編出し針とを備える横編機により、一方の編地の下部の一方の編出し部と、他方の編地の下部の他方の編出し部とを編み出す編出し方法において、
a: 一方の編出し部の掛目列として第1の掛目列及び第2の掛目列を先に編成し、他方の編出し部の掛目列として第3の掛目列及び第4の掛目列を後で編成し、かつ第1の掛目列の編出し糸と第2の掛目列の編出し糸を前後の針床間で交差させると共に、第3の掛目列の編出し糸と第4の掛目列の編出し糸を前後の針床間で交差させるステップと、
b: 第1の掛目列の編出し糸と第2の掛目列の編出し糸との交差部を編出し針により保持すると共に、第3の掛目列の編出し糸と第4の掛目列の編出し糸との交差部を編出し針により保持するステップと、
c: 第3の掛目列及び第4の掛目列に対し、一方の針床に位置する掛目を針床から外し、かつ他方の針床に位置する掛目を残すステップと、
d: 第1の掛目列及び第2の掛目列に対し、前記他方の針床に位置する掛目を針床から外し、かつ前記一方の針床に位置する掛目を残すステップと、
e: 前記一方の針床に位置する第1の掛目列の掛目及び第2の掛目列の掛目上に、一方の編出し部の編目を編成すると共に、前記他方の針床に位置する第3の掛目列の掛目及び第4の掛目列の掛目上に、他方の編出し部の編目を編成するステップ、
とを上記の順序で実行することを特徴とする。なお第1の掛目列の編出し糸と第2の掛目列の編出し糸との交差部は、第3の掛目列の編出し糸が通る位置及び第4の掛目列の編出し糸が通る位置を避けるように配置する。同様に、第3の掛目列の編出し糸と第4の掛目列の編出し糸との交差部は、第1の掛目列の編出し糸が通る位置及び第2の掛目列の編出し糸が通る位置を避けるように配置する。
【0007】
この発明でステップa〜eを実行すると、一方の編出し部での掛目列は一方の針床の針のみに係止され、他方の編出し部での掛目列は他方の針床の針のみに係止され、掛目列が互いに分離される。さらに編出し針は、一方の掛目列の編出し糸か、他方の掛目列の編出し糸のいずれかのみを保持し、双方の編出し糸を保持することがない。そこで一方の編出し部の掛目列に続けて一方の編出し部の編目列と一方の編地を編成し、他方の編出し部の掛目列に続けて他方の編出し部の編目列と他方の編地を編成すると、2つの編地を別個に編出し針により引き下げることができる。このため例えば一方の編地と他方の編地とで、編み始めの高さが異なる場合でも、これらの編地を編成できる。なお前後のいずれを一方とし、いずれを他方とするかは任意である。
【0008】
この発明では、一方の編出し部は一方の編地にのみ接続され、他方の編出し部は他方の編地にのみ接続されているので、一方の編地と他方の編地を編出し針により独立に引き下げながら編成できる。このため、一方の編地と他方の編地の一方を、他方よりも、下方へ伸びるように編成できる。言い換えると、一方の編地の編み始め位置を他方の編地の編み始め位置よりも低くできる。従って筒状編地等のデザインの自由度が増す。またこの発明では、編出し部が開口している編地を編成できるので、抜糸を抜かなくても編地の内部を見ることができる。
【0009】
この発明では、後で編成した第3の掛目列及び第4の掛目列の掛目を先に針床の針から外し、先に編成した第1の掛目列の掛目と第2の掛目列の掛目を後で針床の針から外すので、確実に掛目を外すことができる。さらにこの発明では、1本の編出し針で2本の編出し糸を保持して、より多数の掛目を引き下げることができる。このため編出し糸に過大な力を加えずに、編地を確実に引き下げることができる。
【0010】
特に好ましくは、ステップaで第1の掛目列と第2の掛目列を編成する際に、第3の掛目列の編出し糸と第4の掛目列の編出し糸の交差部を編出し針が保持する位置で、前記他方の針床に掛目を形成せずに、編出し糸を前記一方の針床側に位置させる。このようにすると、第1及び第2の掛目列の編出し糸が、第3及び第4の掛目列を保持している編出し針に引っ掛かることがない。
【0011】
特に好ましくは、編出し針は下方へ付勢され、かつステップeの後に、一方の編地と他方の編地の一方を編成し、他方の編成を遅らせることにより、一方の編地と他方の編地とで、下端の位置を異ならせる。即ち、編出し針は下方へ付勢されて、編出しベッド等に対して上下に摺動自在なので、編出し針間で高さを変えることができる。このため、一方の編地と他方の編地とで、容易に下端の位置を異ならせることができる。
【0012】
またこの発明は、前後少なくとも一対の針床と、複数本の編出し針とを備える横編機により、一方の編地の下部の一方の編出し部と、他方の編地の下部の他方の編出し部とを編み出す編出し方法において、
a: 一方の編出し部での編出し糸の掛目列と、他方の編出し部での編出し糸の掛目列とを、各々前後の針床間を渡るように編成するステップと、
b: 一方の編出し部の掛目列の編出し糸と他方の編出し部の掛目列の編出し糸とに対し、前後の針床間を渡る位置で、かつ編出し糸が互いに交差する位置を避けて、1本の編出し針が1本の編出し糸を保持するように、編出し針により編出し糸を保持するステップと、
c: 一方の編出し部の掛目列に対し、一方の針床に位置する掛目を残して、他方の針床に位置する掛目を針床から外すと共に、他方の編出し部の掛目列に対し、前記他方の針床に位置する掛目を残して、前記一方の針床に位置する掛目を針床から外すステップと、
d: 前記一方の針床に位置する一方の編出し部の掛目上に、一方の編出し部の編目を編成すると共に、前記他方の針床に位置する他方の編出し部の掛目上に、他方の編出し部の編目を編成するステップ、
とを上記の順序で実行することを特徴とする。
【0013】
ここでステップa〜dを実行すると、一方の編出し部での掛目列は一方の針床の針のみに係止され、他方の編出し部での掛目列は他方の針床の針のみに係止され、掛目列が互いに分離される。さらに編出し針は、一方の掛目列の編出し糸か、他方の掛目列の編出し糸のいずれかのみを保持し、双方の編出し糸を保持することがない。そこで一方の編出し部の掛目列に続けて一方の編出し部の編目列と一方の編地を編成し、他方の編出し部の掛目列に続けて他方の編出し部の編目列と他方の編地を編成すると、2つの編地を別個に編出し針により引き下げることができる。このため例えば一方の編地と他方の編地とで、編み始めの高さが異なる場合でも、これらの編地を編成できる。なお前後のいずれを一方とし、いずれを他方とするかは任意である。
【0014】
この発明では、一方の編出し部は一方の編地にのみ接続され、他方の編出し部は他方の編地にのみ接続されているので、一方の編地と他方の編地を編出し針により独立に引き下げながら編成できる。このため、一方の編地と他方の編地の一方を、他方よりも、下方へ伸びるように編成できる。言い換えると、一方の編地の編み始め位置を他方の編地の編み始め位置よりも低くできる。従って筒状編地等のデザインの自由度が増す。またこの発明では、編出し部が開口している編地を編成できるので、抜糸を抜かなくても編地の内部を見ることができる。
【0015】
好ましくは、編出し針を下方へ付勢し、かつステップdの後に、一方の編地と他方の編地の一方を編成し、他方の編成を遅らせることにより、一方の編地と他方の編地とで、下端の位置を異ならせる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】後編地が前編地よりも下方に伸びている編地を示す図
図2図1の編地と、その編出し部及び抜糸部を示す図
図3図2の編地5での編出し部の編成の前半を示す編成工程図
図4図2の本編地での編出し部の後半から抜糸部の編成を示す編成工程図
図5】変形例での編出し部の編成の前半を示す編成工程図
図6】従来例での編出し部の編成を示す編成工程図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0018】
用いる横編機は例えば前後一対、あるいは前後上下で合計4枚の針床を備え、例えば前後いずれかの針床を他方の針床に対してラッキングでき、かつ針床間で編目の目移しが自在なものとする。ただし図5の変形例では、ラッキングと目移しはできなくても良い。針床の間のスペースを歯口と呼び、歯口に針床の針(以下単に「針」)が進出して、編地を編成する。編成した編地中で、製品としての価値がある部分を本編地と呼び、編地は本編地以外に編出し部と抜糸部とを備えている。また編出し糸は編出し(編成の開始)に用いる糸で、抜糸は編出し部と本編地との間で編成に用いる糸である。抜糸を抜くことにより、編出し部と本編地とを分離できる。なお抜糸を水溶性の糸とすると、抜く作業を省略でき、編出し糸を水溶性等にすると、抜糸は不要である。
【0019】
本編地は横編機の巻下げローラにより下向きに巻下げられるが、編地が巻下げローラに達するまで、編出し針により編出し糸の掛目列を保持し引き下げる。例えば編出し針は針床の針2本毎に1本ずつ編出しベッドに取り付けられ、好ましくは編出し針は編出しベッドに対して上下にスライド可能でかつ下方へ付勢されている。スライド自在な編出し針のフックの高さは、編出し糸から編出し針に加わる力の大小により変化する。また編出しベッドは昇降自在で、編出し時に上昇して編出し部の掛目列を保持し、編成と共に下降し、巻下げローラにより編地を保持できるようになると、編出し針を編出し糸の掛目から外す。
【0020】
図1は編成する本編地を模式的に示し、2は前編地で4は後編地であり、前編地2と後編地4とは両端で筒状に接続され、例えば後編地4が前編地2よりも下方に伸びている。なお編出し針のフックが全て一方の針床を向き、針幹が他方の針床を向いている場合、フックが向いている針床側の編地が下方に伸びるようにすることが好ましい。
【0021】
図2は前編出し部6,後編出し部7と前抜糸部8,後抜糸部9を含む筒状の編地5を示し、鎖線は前側の編地と後側の編地との接続関係を示す。前編出し部6,後編出し部7は例えばコース数が同じで、前抜糸部8,後抜糸部9も例えばコース数が同じである。そして前抜糸部8,後抜糸部9を編成すると、下方へ突き出している後編地4のエリア4aの編成を開始し、次いでエリア4b,4c及びエリア2b,2cの編成を開始し、最後に上方へ後退している前編地2のエリア2dの編成を開始する。なお前抜糸部8,後抜糸部9は編成しなくても良い。
【0022】
図3図4に、実施例での前編出し部6,後編出し部7から前抜糸部8,後抜糸部9までの編成を、一部のコースを省略して示す。1)で編出し糸により第1の掛目列10を編成し、2)で編出し糸により第2の掛目列12を編成する。掛目列10,12は後編地4の編出し用の掛目列で、一方の編出し部の掛目列であり、針8本の周期で編成されている。掛目列10,12は、前後の針床B,Fを渡り、針4本毎に交差して、交差部18を形成する。掛目列10,12では、編出し糸が後述の掛目列14,16間の交差部19を通らないように、掛目を形成する位置を定める。また交差部18は、掛目列14,16の編出し糸が通る位置を避けて配置する。
【0023】
3)で編出し糸により第3の掛目列14を編成し、4)で編出し糸により第4の掛目列16を編成する。掛目列14,16は前編地2の編出し用の掛目列で、他方の編出し部の掛目列であり、針8本の周期で編成され、前後の針床B,Fを渡り、針4本毎に交差して、交差部19を形成する。交差部19は、掛目列10,12の編出し糸が通る位置を避けて配置する。交差部18,19は交互に位置し、交差部18,19は全体として針2本毎にあり、前編地2用の交差部19がある位置で、後編地4用の掛目列10,12の編出し糸は全て歯口内で後針床B側に配置されている。交差部18,19の位置で編出し部を保持するように、編出し針20を上昇させる(図3の5))。なお掛目列10〜16を構成する編出し糸は例えば同じ糸であるが、複数の編出し糸を用いても良い。
【0024】
6)で、他方の編出し部の掛目列14,16に対し後針床B側の掛目を針から外して、掛目列15,17とする。この時、掛目列14,16は掛目列10,12よりも後で編成されているので、後針床Bから掛目列14,16の掛目を外すと、編出し糸は編出し針20a上を通過して前針床F側へ移動できる。
【0025】
7)で、一方の編出し部の掛目列10,12に対し、前針床F側の掛目を針から外して、掛目列11,13とする。掛目列10,12は掛目列14,16よりも先に編成されているので、掛目列15,17の交差部19を保持している編出し針20b上を通過することができない。しかし掛目列10,12の編出し糸は交差部19の位置で全て後針床B側に有るので、7)で前針床F側の掛目を針から外す際に、編出し糸が編出し針20に引っ掛かることが無い。6),7)の払い操作を行うと、編出し針20は、後編地4用の掛目列11,13のみを保持する編出し針20aと、前編地2用の掛目列15,17のみを保持する編出し針20bとの2種類に別れ、編出し針20a,20bは交互に位置する。
【0026】
なお6),7)の払い操作をより確実に行うため、5)と6)との間に5)’の工程を行い、前編地2用の編目列22と後編地4用の編目列24とを編成しても良い。実施例では、編目列22の編目の半数は、編出し糸に対し空針を用いてニット操作したものである。編目列22,24の編目は、掛目列10,12,14,16の全ての掛目上に編成するのではなく、前編出し部6,後編出し部7として編目を編成する位置のみに設ける。
【0027】
図4の8)で前針床Fに編目列26を編成し、これによって前針床Fから掛目列15,17を外す。また9)で後針床Bに編目列28を編成して、後針床Bから掛目列11,13を外す。全ての掛目を後針床Bから外すため、編目列28では編目が3目連続する場所が発生する。なお図3の5)’を行った場合、編目列22上に編目列26を編成し、編目列24と払われずに残っている掛目上に編目列28を編成する。
【0028】
10)で、編目列26,28上に編目列27,29を、1〜数コース編成する。11)で、編目列29に対して、3目並んだ編目の中央の編目を目移しして他の編目に重ね、編目が針2本毎に並んだ編目列30とする。12),13)で抜糸の編目列32,34を1〜数コース編成する。抜糸の編目列32,34に続けて、図2の編地2,4から成る本編地を編成する。なお本編地の編成開始箇所では、インターロック編みなどの解れない編み方を用いることが好ましい。
【0029】
実施例には以下の特徴がある。
1) 編出し針20aは後編地4のみを引き下げ、編出し針20bは前編地2のみを引き下げる。言い換えると、前編出し部6と後編出し部7は接続されず、これらは別々に編出し針20a,20bにより引き下げられている。
2) このため前編地2と後編地4の一方が、他方よりも下向きに伸びている場合でも、編地2,4を個別に引き下げることができ、編出しが可能になる。
3) 交差部19の位置で、後編地4用の掛目列10,12の編出し糸は全て後針床B側に位置している。このため掛目列10,12を針から外す際に、編出し糸が編出し針20bに引っ掛かることがない。
4) 編出し針20は編出しベッドに対して上下にスライド自在でかつ下向きに付勢されている。このため編出し針20bは編出し針20aよりも上昇して、編出し針20bにより丈が短い前編地2を引き下げ、編出し針20aにより丈が長い後編地4を引き下げることができる。なお編出し針20が編出しベッドに固定の場合でも、丈が異なる編地2,4の編出しができる。その場合、例えば、丈が短い前編地2側の前編出し部6のコース数を、後編地4側の後編出し部7のコース数よりも増す、あるいは前編出し部6には後編出し部7よりも伸縮性が強い編出し糸を用いる等の処理を施すことが好ましい。
5) 編出し糸の交差部18,19を編出し針20で保持し、1本の編出し針20で2本の編出し糸を介してより多くの掛目に引下げ力を加えるので、編出し糸の糸切れを起こさずに、より強い引下げ力を編地2,4に加えることができる。
【0030】
実施例にはさらに以下の特徴がある。
6) 編出し部が開口しているので、抜糸を抜かなくても、編地の内部を見ることができる。
7) 編み始めの高さが異なる、前編地2と後編地4とを編成できるので、筒状等の編地のデザインの自由度が増す。
8) 編出しベッドに対して上下にスライド自在でかつ下向きに付勢されている編出し針を用いると、前編出し部6,後編出し部7は同じコース数で良く、また前抜糸部8,後抜糸部9も同じコース数で良い。
【0031】
編成する編地5は筒状とは限らない。例えば図1図2で、前編地2を丈方向に沿って左右に2分すると、カーディガン等に適した編地となる。さらに図1で、前編地2と後編地4の一端が互いに接続され、他端が分離されている編地を編成しても良い。また編地5は前後2層の編地が互いに接続されたものであり、3層、あるいは4層の編地を互いに接続したものでも良い。例えば第1層の編地と第2層の編地の間に連結糸をタックなどにより充填してスペーサファブリックとし、他に第3層を設けて、第1層及び第2層の両端に第3層の両端を接続すると、筒状の編地となる。この編地はスペーサファブリック側を保護面とするサポータ等になる。この場合も、1本の編出し針は1層の編地のみを引き下げるように編出しを行うことができれば、層毎に編み始めの高さが異なっても編成できる。
【0032】
図5は変形例での編出し方法を示し、この変形例では、各編出し針20は、交差部ではなく、1本の編出し糸を保持する。他の点では、図1図4の実施例と同様である。後針床Bと前針床Fとを渡るように、編出し糸により一方の編出し部の掛目列40を編成し、次いで同様に編出し糸により他方の編出し部の掛目列42を編成し、編出し針20を上昇させて、前後の針床B,F間を渡る位置で編出し糸を保持させる。この状態を1)に示し、1本の編出し針20には1本の編出し糸しか保持されていない。2)で、他方の編出し部の掛目列42の掛目で後針床Bに保持されているものを針から外し、掛目列43とする。3)で、一方の編出し部の掛目列40の掛目で前針床Fに保持されているものを針から外し、掛目列41とする。図1図4の実施例とは異なり、図5の変形例では、外した編出し糸が、編出し針の上方を通過する際に、編出し針に引っ掛かるということが無い。従って、2)→3)の順に掛目を針から外しても、逆に3)→2)の順に掛目を針から外しても良い。
【0033】
3)の状態で、一方の編出し部の掛目列41は全て後針床Bの針に保持され、他方の編出し部の掛目列43は全て前針床Fの針に保持され、編出し針20aは掛目列41のみを引き下げ、編出し針20bは掛目列43のみを引き下げている。即ち、両方の編出し部の掛目列を引き下げる編出し針20は存在せず、編出し針20は編出し針20aと編出し針20bとに区分けされる。この結果、前編地2と後編地4とで編み始めの高さが異なっても、編出しができる。図5の変形例では、図3図4の実施例と異なり、1本の編出し針は1本の編出し糸のみを保持するので、編出し針が引き下げる掛目の数が少なく、また編出し針から編地に加える引下げ力が小さくなる。
【符号の説明】
【0034】
2 前編地
4 後編地
2b〜2d エリア
4a〜4c エリア
5 編地
6 前編出し部
7 後編出し部
8 前抜糸部
9 後抜糸部
10〜17 掛目列
20 編出し針
22〜34 編目列
40〜43 掛目列
60,62 掛目列
64,66 編目列

F 前針床
B 後針床
図1
図2
図3
図4
図5
図6