【実施例】
【0018】
用いる横編機は例えば前後一対、あるいは前後上下で合計4枚の針床を備え、例えば前後いずれかの針床を他方の針床に対してラッキングでき、かつ針床間で編目の目移しが自在なものとする。ただし
図5の変形例では、ラッキングと目移しはできなくても良い。針床の間のスペースを歯口と呼び、歯口に針床の針(以下単に「針」)が進出して、編地を編成する。編成した編地中で、製品としての価値がある部分を本編地と呼び、編地は本編地以外に編出し部と抜糸部とを備えている。また編出し糸は編出し(編成の開始)に用いる糸で、抜糸は編出し部と本編地との間で編成に用いる糸である。抜糸を抜くことにより、編出し部と本編地とを分離できる。なお抜糸を水溶性の糸とすると、抜く作業を省略でき、編出し糸を水溶性等にすると、抜糸は不要である。
【0019】
本編地は横編機の巻下げローラにより下向きに巻下げられるが、編地が巻下げローラに達するまで、編出し針により編出し糸の掛目列を保持し引き下げる。例えば編出し針は針床の針2本毎に1本ずつ編出しベッドに取り付けられ、好ましくは編出し針は編出しベッドに対して上下にスライド可能でかつ下方へ付勢されている。スライド自在な編出し針のフックの高さは、編出し糸から編出し針に加わる力の大小により変化する。また編出しベッドは昇降自在で、編出し時に上昇して編出し部の掛目列を保持し、編成と共に下降し、巻下げローラにより編地を保持できるようになると、編出し針を編出し糸の掛目から外す。
【0020】
図1は編成する本編地を模式的に示し、2は前編地で4は後編地であり、前編地2と後編地4とは両端で筒状に接続され、例えば後編地4が前編地2よりも下方に伸びている。なお編出し針のフックが全て一方の針床を向き、針幹が他方の針床を向いている場合、フックが向いている針床側の編地が下方に伸びるようにすることが好ましい。
【0021】
図2は前編出し部6,後編出し部7と前抜糸部8,後抜糸部9を含む筒状の編地5を示し、鎖線は前側の編地と後側の編地との接続関係を示す。前編出し部6,後編出し部7は例えばコース数が同じで、前抜糸部8,後抜糸部9も例えばコース数が同じである。そして前抜糸部8,後抜糸部9を編成すると、下方へ突き出している後編地4のエリア4aの編成を開始し、次いでエリア4b,4c及びエリア2b,2cの編成を開始し、最後に上方へ後退している前編地2のエリア2dの編成を開始する。なお前抜糸部8,後抜糸部9は編成しなくても良い。
【0022】
図3,
図4に、実施例での前編出し部6,後編出し部7から前抜糸部8,後抜糸部9までの編成を、一部のコースを省略して示す。1)で編出し糸により第1の掛目列10を編成し、2)で編出し糸により第2の掛目列12を編成する。掛目列10,12は後編地4の編出し用の掛目列で、一方の編出し部の掛目列であり、針8本の周期で編成されている。掛目列10,12は、前後の針床B,Fを渡り、針4本毎に交差して、交差部18を形成する。掛目列10,12では、編出し糸が後述の掛目列14,16間の交差部19を通らないように、掛目を形成する位置を定める。また交差部18は、掛目列14,16の編出し糸が通る位置を避けて配置する。
【0023】
3)で編出し糸により第3の掛目列14を編成し、4)で編出し糸により第4の掛目列16を編成する。掛目列14,16は前編地2の編出し用の掛目列で、他方の編出し部の掛目列であり、針8本の周期で編成され、前後の針床B,Fを渡り、針4本毎に交差して、交差部19を形成する。交差部19は、掛目列10,12の編出し糸が通る位置を避けて配置する。交差部18,19は交互に位置し、交差部18,19は全体として針2本毎にあり、前編地2用の交差部19がある位置で、後編地4用の掛目列10,12の編出し糸は全て歯口内で後針床B側に配置されている。交差部18,19の位置で編出し部を保持するように、編出し針20を上昇させる(
図3の5))。なお掛目列10〜16を構成する編出し糸は例えば同じ糸であるが、複数の編出し糸を用いても良い。
【0024】
6)で、他方の編出し部の掛目列14,16に対し後針床B側の掛目を針から外して、掛目列15,17とする。この時、掛目列14,16は掛目列10,12よりも後で編成されているので、後針床Bから掛目列14,16の掛目を外すと、編出し糸は編出し針20a上を通過して前針床F側へ移動できる。
【0025】
7)で、一方の編出し部の掛目列10,12に対し、前針床F側の掛目を針から外して、掛目列11,13とする。掛目列10,12は掛目列14,16よりも先に編成されているので、掛目列15,17の交差部19を保持している編出し針20b上を通過することができない。しかし掛目列10,12の編出し糸は交差部19の位置で全て後針床B側に有るので、7)で前針床F側の掛目を針から外す際に、編出し糸が編出し針20に引っ掛かることが無い。6),7)の払い操作を行うと、編出し針20は、後編地4用の掛目列11,13のみを保持する編出し針20aと、前編地2用の掛目列15,17のみを保持する編出し針20bとの2種類に別れ、編出し針20a,20bは交互に位置する。
【0026】
なお6),7)の払い操作をより確実に行うため、5)と6)との間に5)’の工程を行い、前編地2用の編目列22と後編地4用の編目列24とを編成しても良い。実施例では、編目列22の編目の半数は、編出し糸に対し空針を用いてニット操作したものである。編目列22,24の編目は、掛目列10,12,14,16の全ての掛目上に編成するのではなく、前編出し部6,後編出し部7として編目を編成する位置のみに設ける。
【0027】
図4の8)で前針床Fに編目列26を編成し、これによって前針床Fから掛目列15,17を外す。また9)で後針床Bに編目列28を編成して、後針床Bから掛目列11,13を外す。全ての掛目を後針床Bから外すため、編目列28では編目が3目連続する場所が発生する。なお
図3の5)’を行った場合、編目列22上に編目列26を編成し、編目列24と払われずに残っている掛目上に編目列28を編成する。
【0028】
10)で、編目列26,28上に編目列27,29を、1〜数コース編成する。11)で、編目列29に対して、3目並んだ編目の中央の編目を目移しして他の編目に重ね、編目が針2本毎に並んだ編目列30とする。12),13)で抜糸の編目列32,34を1〜数コース編成する。抜糸の編目列32,34に続けて、
図2の編地2,4から成る本編地を編成する。なお本編地の編成開始箇所では、インターロック編みなどの解れない編み方を用いることが好ましい。
【0029】
実施例には以下の特徴がある。
1) 編出し針20aは後編地4のみを引き下げ、編出し針20bは前編地2のみを引き下げる。言い換えると、前編出し部6と後編出し部7は接続されず、これらは別々に編出し針20a,20bにより引き下げられている。
2) このため前編地2と後編地4の一方が、他方よりも下向きに伸びている場合でも、編地2,4を個別に引き下げることができ、編出しが可能になる。
3) 交差部19の位置で、後編地4用の掛目列10,12の編出し糸は全て後針床B側に位置している。このため掛目列10,12を針から外す際に、編出し糸が編出し針20bに引っ掛かることがない。
4) 編出し針20は編出しベッドに対して上下にスライド自在でかつ下向きに付勢されている。このため編出し針20bは編出し針20aよりも上昇して、編出し針20bにより丈が短い前編地2を引き下げ、編出し針20aにより丈が長い後編地4を引き下げることができる。なお編出し針20が編出しベッドに固定の場合でも、丈が異なる編地2,4の編出しができる。その場合、例えば、丈が短い前編地2側の前編出し部6のコース数を、後編地4側の後編出し部7のコース数よりも増す、あるいは前編出し部6には後編出し部7よりも伸縮性が強い編出し糸を用いる等の処理を施すことが好ましい。
5) 編出し糸の交差部18,19を編出し針20で保持し、1本の編出し針20で2本の編出し糸を介してより多くの掛目に引下げ力を加えるので、編出し糸の糸切れを起こさずに、より強い引下げ力を編地2,4に加えることができる。
【0030】
実施例にはさらに以下の特徴がある。
6) 編出し部が開口しているので、抜糸を抜かなくても、編地の内部を見ることができる。
7) 編み始めの高さが異なる、前編地2と後編地4とを編成できるので、筒状等の編地のデザインの自由度が増す。
8) 編出しベッドに対して上下にスライド自在でかつ下向きに付勢されている編出し針を用いると、前編出し部6,後編出し部7は同じコース数で良く、また前抜糸部8,後抜糸部9も同じコース数で良い。
【0031】
編成する編地5は筒状とは限らない。例えば
図1,
図2で、前編地2を丈方向に沿って左右に2分すると、カーディガン等に適した編地となる。さらに
図1で、前編地2と後編地4の一端が互いに接続され、他端が分離されている編地を編成しても良い。また編地5は前後2層の編地が互いに接続されたものであり、3層、あるいは4層の編地を互いに接続したものでも良い。例えば第1層の編地と第2層の編地の間に連結糸をタックなどにより充填してスペーサファブリックとし、他に第3層を設けて、第1層及び第2層の両端に第3層の両端を接続すると、筒状の編地となる。この編地はスペーサファブリック側を保護面とするサポータ等になる。この場合も、1本の編出し針は1層の編地のみを引き下げるように編出しを行うことができれば、層毎に編み始めの高さが異なっても編成できる。
【0032】
図5は変形例での編出し方法を示し、この変形例では、各編出し針20は、交差部ではなく、1本の編出し糸を保持する。他の点では、
図1〜
図4の実施例と同様である。後針床Bと前針床Fとを渡るように、編出し糸により一方の編出し部の掛目列40を編成し、次いで同様に編出し糸により他方の編出し部の掛目列42を編成し、編出し針20を上昇させて、前後の針床B,F間を渡る位置で編出し糸を保持させる。この状態を1)に示し、1本の編出し針20には1本の編出し糸しか保持されていない。2)で、他方の編出し部の掛目列42の掛目で後針床Bに保持されているものを針から外し、掛目列43とする。3)で、一方の編出し部の掛目列40の掛目で前針床Fに保持されているものを針から外し、掛目列41とする。
図1〜
図4の実施例とは異なり、
図5の変形例では、外した編出し糸が、編出し針の上方を通過する際に、編出し針に引っ掛かるということが無い。従って、2)→3)の順に掛目を針から外しても、逆に3)→2)の順に掛目を針から外しても良い。
【0033】
3)の状態で、一方の編出し部の掛目列41は全て後針床Bの針に保持され、他方の編出し部の掛目列43は全て前針床Fの針に保持され、編出し針20aは掛目列41のみを引き下げ、編出し針20bは掛目列43のみを引き下げている。即ち、両方の編出し部の掛目列を引き下げる編出し針20は存在せず、編出し針20は編出し針20aと編出し針20bとに区分けされる。この結果、前編地2と後編地4とで編み始めの高さが異なっても、編出しができる。
図5の変形例では、
図3,
図4の実施例と異なり、1本の編出し針は1本の編出し糸のみを保持するので、編出し針が引き下げる掛目の数が少なく、また編出し針から編地に加える引下げ力が小さくなる。