(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139531
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】切削インサート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20170522BHJP
B24C 1/10 20060101ALI20170522BHJP
B23P 15/28 20060101ALI20170522BHJP
C23C 16/30 20060101ALI20170522BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20170522BHJP
C23C 16/56 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B24C1/10 G
B23P15/28 Z
C23C16/30
C23C16/40
C23C16/56
【請求項の数】22
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-530257(P2014-530257)
(86)(22)【出願日】2012年9月17日
(65)【公表番号】特表2014-530112(P2014-530112A)
(43)【公表日】2014年11月17日
(86)【国際出願番号】EP2012068204
(87)【国際公開番号】WO2013037997
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年7月22日
(31)【優先権主張番号】102011053705.8
(32)【優先日】2011年9月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510000378
【氏名又は名称】バルター アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】ディルク シュティーンス
(72)【発明者】
【氏名】ザカリ ルッピ
(72)【発明者】
【氏名】トマス フールマン
【審査官】
亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0045283(US,A1)
【文献】
特開2009−028894(JP,A)
【文献】
特開2007−125686(JP,A)
【文献】
特開2008−246664(JP,A)
【文献】
特開2007−331102(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/055813(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23P 15/28
B24C 1/10
C23C 16/30
C23C 16/40
C23C 16/56
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質金属基材、サーメット基材、又はセラミック基材本体、及びCVD法によって総厚5〜40μmで基材へと適用されており基材表面から順に一つ以上の硬質材料層と、前記一つ以上の硬質材料層上の層厚1〜20μmのアルファアルミニウムオキシド(α―Al
2O
3)層と、任意に前記α―Al
2O
3層の少なくとも一部の上の装飾層又は摩耗認識層としての更なる一つ以上の硬質材料層とを有する多層コーティングでできた切削インサートであって、
前記α―Al
2O
3層が、
【数1】
で表される(0 0 12)成長方向について集合組織係数TC(0 0 12)≧5である結晶学上の優先的な配向を有しており、
式中、I(hkl)はX線回折で測定される回折反射強度であり、
I
0(hkl)はpdfカード42―1468に従う回折反射の標準強度であり、
nは算出のために使用される反射の数であり、
TC(0 0 12)の算出のために(0 1 2)、(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(1 1 6)、(3 0 0)、及び(0 0 12)の反射を使用し、
前記α―Al
2O
3層は0〜+300MPaの固有応力を有しており、
基材表面から0〜10μm内の基材は−2000〜−400MPaの固有応力の最小値を有する、
切削インサート。
【請求項2】
基材表面上であってα―Al2O3層の下に配置された一つ以上の硬質材料層、及び任意に前記α―Al2O3層の少なくとも一部の上に配置された一つ以上の硬質材料層が、周期表のIVa〜VIIa族の元素及び/又はアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭化物、酸炭窒化物、ホウ化物、ホウ窒化物、ホウ炭化物、ホウ炭窒化物、ホウ酸窒化物、ホウ酸炭化物、若しくはホウ酸炭窒化物、及び/又は混合金属相、及び/又は上記の化合物の相混合物を含む、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
基材表面上であってα―Al2O3層の下に配置された一つ以上の硬質材料層がTiN、TiCN、及び/又はTiAlCNOを含んでおり、前記一つ以上の硬質材料層がそれぞれ0.1μm〜15μmの層厚を有する、請求項1又は2に記載の切削インサート。
【請求項4】
TiAlCNOの硬質材料層が存在し、前記TiAlCNOの硬質材料層が前記α―Al2O3層の下に直接配置されている、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
TiAlCNOの硬質材料層が存在し、前記TiAlCNOの硬質材料層の層厚が0.1μ〜1μmである、請求項3又は4に記載の切削インサート。
【請求項6】
TiN又はTiCNの硬質材料層が存在し、前記TiN又はTiCNの硬質材料層の層厚が2μm〜15μmである、請求項3〜5のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項7】
TiN又はTiCNの硬質材料層が存在し、前記TiN又はTiCNの硬質材料層の層厚が3μm〜10μmである、請求項3〜6のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項8】
基材表面上であってα―Al2O3層の下に配置されておりTiN、TiCN、及び/又はTiAlCNOを含む一つ以上の硬質材料層の合計の総層厚が、3μm〜16μmである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項9】
基材表面上であってα―Al2O3層の下に配置されておりTiN、TiCN、及び/又はTiAlCNOを含む一つ以上の硬質材料層の合計の総層厚が、5μm〜12μmである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項10】
基材表面上であってα―Al2O3層の下に配置されておりTiN、TiCN、及び/又はTiAlCNOを含む一つ以上の硬質材料層の合計の総層厚が、7μm〜11μmである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項11】
多層コーティングが、基材表面から順にTiN−TiCN−TiAlCNO−α―Al2O3の層を連続して有しており、任意にTiN層、TiCN層、TiC層、又はこれらの組み合わせが前記α―Al2O3層の少なくとも一部の上に提供されている、請求項1〜10のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項12】
基材本体の最外表面領域から、前記最外表面から10μmの深さまでの領域内において、前記基材本体が少なくとも−600MPaの固有応力の最小値を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項13】
基材本体の最外表面領域から、前記最外表面から10μmの深さまでの領域内において、前記基材本体が少なくとも−800MPaの固有応力の最小値を有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項14】
基材本体が、4〜12質量%のCo、Fe、及び/又はNiと、残部としてのWCとを含む硬質金属を含む、請求項1〜13のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項15】
基材本体が、4〜12質量%のCoと、残部としてのWCとを含む硬質金属を含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項16】
基材本体が、0.5〜10質量%の周期表のIVb、Vb、及びVIb族の金属の立方晶炭化物を含む硬質金属を含む、請求項14又は15に記載の切削インサート。
【請求項17】
基材本体が、0.5〜10質量%のTi、Nb、Ta、又はこれらの組み合わせの立方晶炭化物を含む硬質金属を含む、請求項14〜16のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項18】
前記基材本体が、硬質金属を含んでおり、前記基材本体の全体の公称組成に対してCoバインダー相が豊富であり立方晶炭化物が少なく前記基材表面から5μm〜30μmの厚みの表面領域を有しており、Coバインダー相が豊富な表面領域におけるCoの含有量は基材の中心よりも少なくとも1.5倍多く、Coバインダー相が豊富な表面領域における立方晶炭化物の含有量は基材の中心における立方晶炭化物の含有量の多くとも0.5倍である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の切削インサート。
【請求項19】
前記表面領域の厚みが10μm〜25μmである、請求項18に記載の切削インサート。
【請求項20】
請求項1〜
19のいずれか一項に記載の切削インサートの製造方法であって、
基材表面から順に一つ以上の硬質材料層と、前記一つ以上の硬質材料層上の層厚1〜20μmのアルファアルミニウムオキシド(α―Al
2O
3)層と、任意に前記α―Al
2O
3層の少なくとも一部上の装飾層又は摩耗認識層としての更なる一つ以上の硬質材料層とを有する総厚5〜40μmの多層コーティングをCVD法によって硬質金属基材、サーメット基材、又はセラミック基材本体に適用し、
前記α―Al
2O
3層が
【数2】
で表される(0 0 12)成長方向について集合組織係数TC(0 0 12)≧5である結晶学上の優先的な配向を有するように前記α―Al
2O
3層の堆積条件を選択し、
式中、I(hkl)はX線回折で測定される回折反射の強度であり、
I
0(hkl)はpdfカード42―1468に従う回折反射の標準強度であり、
nは算出のために使用される反射の数であり、
TC(0 0 12)の算出のために(0 1 2)、(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(1 1 6)、(3 0 0)、及び(0 0 12)の反射を使用し、
前記多層コーティングを適用した後、基材を、粒状ショットブラスト剤を用いた乾式又は湿式ショットブラスト処理
し、
ショットブラスト処理後にα―Al
2O
3層が0〜+300MPaの固有応力を有しショットブラスト処理後の基材表面から0〜10μm内の基材が−2000〜−400MPaの固有応力の最小値を有するよう、ショットブラスト処理のショットブラスト圧、ショットブラスト継続時間、及びショットブラスト角度を選択する、
方法。
【請求項21】
前記ショットブラスト処理が、粒状ショットブラスト剤を用いた乾式ショットブラスト処理である、請求項20に記載の切削インサートの製造方法。
【請求項22】
前記ショットブラスト剤はコランダム(α―Al2O3)より硬度が低い、請求項20又は21に記載の切削インサートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬質金属基材、サーメット基材、又はセラミック基材本体、及びCVD法によって適用され、基材表面から順に一つ以上の硬質材料層と、一つ以上の硬質材料層上のアルファアルミニウムオキシド(α―Al
2O
3)層と、任意にα―Al
2O
3層の少なくとも一部の上の装飾層又は摩耗認識層としての更なる一つ以上の硬質材料層とを有する多層コーティングでできたコーティングされた切削インサートに関する。
【背景技術】
【0002】
材料加工のための、特に金属切削加工のための切削インサートは、ほとんどの場合、切削特性及び/又は摩耗特性を改善する単層又は多層表面コーティングとともに提供される硬質金属基材、サーメット基材、又はセラミック基材本体を含む。表面コーティングは、周期表のIVa〜VIIa属元素及び/又はアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物(carbonitrides)、酸窒化物(oxynitrides)、酸炭化物(oxycarbides)、酸炭窒化物(oxycarbonitrides)、ホウ化物、ホウ窒化物(boronitrides)、ホウ炭化物(borocarbides)、ホウ炭窒化物(borocarbonitrides)、ホウ酸窒化物(borooxynitrides)、ホウ酸炭化物(borooxocarbides)、又はホウ酸炭窒化物(borooxocarbonitrides)と、混合金属相と、前述の化合物の相混合物とが相互に上に重なった硬質材料層を含む。上記の化合物の例としては、TiN、TiC、TiCN、及びAl
2O
3である。結晶金属が他の金属によって部分的に置換された混合金属相の例としては、TiAlNである。上記の種類のコーティングは、CVD法(化学気相蒸着)、PCVD方法(プラズマ強化CVD法)、又はPVD法(物理気相蒸着)によって適用される。
【0003】
固有応力は、機械的、熱的、及び/又は化学的処理の結果として、ほぼ全ての材料において得られる。CVD法によって基材本体をコーティングすることによる切削インサートの製造において、固有応力は、例えばコーティングと基材との間、及びコーティングの個々の層の間の、材料の異なる熱膨張係数から起こる。固有応力は、引張固有応力又は圧縮固有応力であることができる。PVD法によってコーティングを適用すると、PVD法を使用する際のイオン衝撃によって更なる応力がコーティング内に導入される。PVD法によって適用されたコーティングにおいては一般に圧縮固有応力が優先し、CVD法では通常コーティング内に引張固有応力が生ずる。
【0004】
コーティング及び基材本体の固有応力の効果は、切削インサートの特性に重要な影響を及ぼさない可能性があるが、しかしながら、切削インサートの耐摩耗性に非常に有利な、又は不利な影響を及ぼす可能性もある。それぞれの材料の引張強度を超える引張固有応力は、コーティング内に、引張固有応力の方向に対して垂直に破壊及びクラックを引き起こす。一般に、表面クラックが防止され又は閉じて、コーティングの疲労特性が改善され、したがって切削インサートの疲労特性が改善されるような、コーティング内の一定量の圧縮固有応力が望ましい。しかしながら、極端に高い圧縮固有応力は、コーティングの接着性の問題及び剥離につながる可能性がある。
【0005】
3種類の固有応力、すなわち、材料の巨視的な領域を通じてほぼ均一に分布したマクロ応力と、例えば粒子のような微視的な領域において均一なミクロ応力と、微視的な平面において不均一な不均一ミクロ応力とがある。マクロ応力は、切削インサートの実用的な観点及び機械的特性から特に重要である。
【0006】
固有応力は通常、メガパスカル(MPa)の単位を使用して特定され、引張固有応力は正号(+)を有し、圧縮固有応力は負号(−)を有する。
【0007】
一つ以上の硬質材料層、例えばTiN、TiC、TiCN、TiAlN、Al
2O
3、又はこれらの組み合わせでコーティングされた硬質金属切削工具は優れた耐摩耗性を有することができることが知られているが、しかしながら、これらはむしろ断続的切削操作における、例えばクランクシャフトミリングにおける、熱機械的な交互の負荷を含む状況においては、被覆していない切削工具又はPVD法によって被覆したそれらと比較して、耐久性の損失において劣る可能性がある。同様の考察は、断続的切削モードの回転加工、又は不利な切削条件(例えば機械又は加工品のクランピングによって生じる振動)に当てはまる。切削材料の特に引張応力によって生じる脆性はCVDコーティングの厚みとともに増加するため、そのような不利な条件の用途においては限られた層厚(ほとんど10μmを超えない)を有するCVDコーティングがこれまでに用いられてきた。対照的に、高耐磨耗性の種類の切削材料は多くの場合20μm以上の層厚を有するが、しかしながら、それらは有利な条件下での連続的切削モードにおいてのみ使用することができる。したがって、鋼又は鋳鉄の回転加工のための切削インサートにおいて、高い耐摩耗性及び高い耐久性の両方が所望される場合には、多くの場合、これらの2つの特性を同時に達成することができなかった。
【0008】
独国特許出願公開第19719195号明細書Aは、900℃〜1100℃の温度における連続的CVD法で堆積した多層コーティングを有する切削インサートを記載している。多層コーティングにおける一つの層から次の層への材料の変化は、CVD法における気体組成の変化により生じている。最外層(カバー層)はZr又はHfの炭化物、窒化物、又は炭窒化物の単相又は多相層を含んでおり、内部の圧縮固有応力が優先している。下層はTiN、TiC、又はTiCNを含んでおり、例外なく内部の引張固有応力を有している。外部層において測定される圧縮固有応力は−500〜−2500MPaである。これは破壊靱性を改善することが意図されている。
【0009】
切削インサート又は他の工具の基材本体上のコーティング内の圧縮固有応力を増加させるために、これらの機械的表面処理を行うことが知られている。公知の機械的表面方法としては、ブラッシング、及びショットブラスト処理である。ショットブラスト処理は、増大させた圧力の下、圧縮空気によって最高約600μmの粒径の微粒子のショットブラスト剤をコーティングの表面上へと当てることを含む。そのような表面処理は、最外層及び下層の引張固有応力又は圧縮固有応力を低減することができる。ショットブラスト処理に関して、微粒子ショットブラスト剤を乾燥状態で使用する乾式ショットブラスト処理と、粒状ショットブラスト剤が液体中に懸濁している湿式ショットブラスト処理との間には差異が生ずる。
【0010】
ショットブラスト剤の選択、特にコーティングの硬度及び厚みに関連したショットブラスト剤の硬度の選択は、切削インサートのコーティング内及び基材内の固有応力の変化に対して重要な影響を及ぼすことが分かっている。コーティングの最外層の硬度よりも高い硬度のジェットブラスト剤を用いた場合、ジェットブラスト工程における摩耗メカニズムは、摩滅(abrasion)及び層の約1μmの深さに及ぶ近表面領域にのみ生じ非常に急速に弛緩する高い圧縮応力であることを示すことができた。より深い層又は基材においては、引張応力の減少又は圧縮応力の増加は実質的にない。コーティング処理の後、基材において優先する固有応力は変化せずに残る。それでは工具の耐久性の増大を達成することはできない。
【0011】
ショットブラスト剤の硬度がコーティングの最外層の硬度に等しい場合、ショットブラスト操作における摩耗メカニズムは表面剥離であり、より深いコーティング層の中及び基材の中にも作用することができ層厚に依存する高い圧縮応力がある。厚い層(10μmを大きく超える(>>))については、湿式ショットブラストを用いて基材内の応力をほとんど変えることができず、引張力の強さが増加する可能性がある。それにもかかわらず、厚い層を有する基材においてさえ圧縮応力を増加させたい場合、格子の転位の増加につながりコーティングとの接着性の問題を生じることがある非常に長い乾式ショットブラスト操作を用いることが必要である。
【0012】
ショットブラスト剤の硬度がコーティング表面の最外層の硬度より低い場合、衝撃(ショットピーニング)がその最外層の摩耗メカニズムであると実質的にみなされる。いかなる層も除去せずにより長いショットブラスト時間が可能である程度に、最外のコーティングの摩耗速度がより遅いことは言うまでもない。更なる利点としては、コーティングの最上層において転位が生じないか、又は生ずる転位が僅かな程度であるという点である。方法のパラメータ(特にショットブラスト剤、圧力、継続時間、及び角度)及び層厚をそれぞれ選択することによって、硬質金属及びコーティングからなる複合材の異なる深さにおける固有応力を変化させることができる。換言すれば、ショットブラスト処理の結果、コーティングの異なる層において、及び基材においても、圧縮応力が生ずる可能性がある。
【0013】
独国特許出願公開第10123554号明細書Aは、最大直径150μmの粒状ショットブラスト剤を用いたショットブラスト法を記載している。その結果、最外層及び下層における、好ましくは基材の近表面領域における、引張固有応力の減少又は圧縮応力の増加を達成している。好ましくは、最上層におけるいくらかのGPaの圧縮応力を達成している。
【0014】
金属加工のためのアルファ又はガンマアルミニウムオキシドの外側摩耗保護層を有する切削インサートは長年にわたって使用され、文献に詳細に記載されている。PVD又はCVD法での堆積において所定の優先的な結晶成長の方向を有するアルファアルミニウムオキシドコーティングは、特定の利点、特に改善された摩耗特性を有する可能性があることが分かっており、切削インサートの異なる用途に関して、アルミニウムオキシド層の異なる優先的な配向が特に有利である可能性もまたある。結晶成長の優先的な配向は、一般に、結晶格子のミラー指数、例えば(001)平面によって定義され、集合組織又は繊維集合組織と呼ばれ、いわゆる集合組織係数(TC)によって定義される平面に関して特定される。例えば(001)集合組織を有するアルファアルミニウムオキシドの摩耗層を有する切削インサートは、他の優先的な配向よりも、鋼機械加工において、レリーフ面摩耗及びクレーター摩耗、並びに可塑変形に関して有利である。
【0015】
米国特許出願公開第2007/0104945号明細書Aは、(001)集合組織、及び柱状微細構造を有するα―Al
2O
3摩耗層を有する切削工具を記載している。その優先的な配向はX線回折スペクトル(XRD回折法)における高輝度の(006)ピークによって明らかにされており、所定の条件下でのCVD法で行われた核形成及びα―Al
2O
3層の成長の両方によって達成されている。所定の気体濃度のTiCl
4及びAlCl
3と、N
2内でのフラッシング工程と、所定の濃度のH
2Oとに基材を連続して暴露する多段階方法によって、1000℃未満で、TiAlCNO結合層上に核形成を生じさせている。触媒を添加することなく成長させることでα―Al
2O
3の核形成を継続し、最終的に950〜1000℃で、所定の濃度のCO/CO
2比率の下、及び1体積%以下の濃度のH
2S、SO
2、又はSF
6などの典型的な触媒の存在下で所望の層厚が生ずるまで層を成長させている。
【0016】
欧州特許出願公開第1953258号明細書もまた、Coバインダーが豊富な端領域を有する硬質金属基材上の(001)集合組織を有するα―Al
2O
3摩耗層を有する切削工具を記載している。α―Al
2O
3摩耗層の優先的な配向は、米国特許出願公開第2007/0104945号明細書と同様に核形成によって達成しているが、しかしながら、層の更なる成長に応じてこれを逸脱すると、CO/CO
2比率が段階的に増加する点に留意されたい。
【0017】
欧州特許出願公開第2014789号明細書はまた、特に高い切削速度での鋼の切削機械加工、特に鋼鉄の回転加工ために適すると言われている、Coバインダーが豊富な端領域を有する硬質金属基材上の(001)集合組織を有するα―Al
2O
3摩耗層を有する切削工具を記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、金属切削加工のための、特に鋼又は鋳型材料の回転加工のための切削インサートであって、技術水準と比較して改善した耐摩耗性を有しており、特に同時に、レリーフ面摩耗、クレーター摩耗、及び可塑変形などの連続的負荷の下で生ずる摩耗形態に対して、並びに破断、破壊、及び櫛状クラックなどの熱機械的な交互の負荷によって生ずる摩耗形態に対して増大した耐性を有しており、したがって公知の切削インサートより幅広い領域の用途を与える切削インサートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、硬質金属基材、サーメット基材、又はセラミック基材本体、及びCVD法によって総厚5〜40μmで基材へと適用されており基材表面から順に一つ以上の硬質材料層と、一つ以上の硬質材料層上の層厚3〜20μmのアルファアルミニウムオキシド(α―Al
2O
3)層と、任意にα―Al
2O
3層の少なくとも一部の上の装飾層又は摩耗認識層としての一つ以上の硬質材料層とを有する多層コーティングでできた切削インサートであって、α―Al
2O
3層は、
【0020】
【数1】
【0021】
で表される(0 0 12)成長方向について集合組織係数TC(0 0 12)≧5であることによって特徴づけられる結晶学上の優先的な配向を有しており、
式中、I(hkl)はX線回折で測定される回折反射強度であり、
I
0(hkl)は、pdfカード42―1468に従う回折反射の標準強度であり、
nは算出のために使用される反射の数であり、
TC(0 0 12)の算出のために(0 1 2)、(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(1 1 6)、(3 0 0)、及び(0 0 12)の反射を使用し、
α―Al
2O
3層は0〜+300MPaの固有応力を有しており、
基材表面から0〜10μm内の基材は約−2000〜−400MPaの固有応力の最小値を有する切削インサートによって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、54部品を機械加工した後の比較の工具(表5の切削インサート11)を示す。
【
図2】
図2は、80部品を機械加工した後の本発明による切削インサート(表5の切削インサート14)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
驚くべきことに、本明細書に記載した種類のコーティングを有する切削インサートにおいて、摩耗層として役立つ硬質のα―Al
2O
3層が集合組織係数TC(0 0 12)≧5を有する結晶学上の優先的な配向と、同時に0〜+300MPaの低い引張固有応力とを有しており又は圧縮固有応力さえ有していても、同時に基材表面から10μmに及ぶ深さまで伸びた基材本体の「近界面基材領域」と呼ばれる領域において基材が約−2000〜−400MPaの圧縮固有応力を有する場合には、金属切削加工において、特に鋼又は鋳型材料の回転加工において、公知の切削インサートより改善した耐摩耗性及びより幅広い範囲の用途を達成することができることがわかった。
【0024】
本発明によれば、近界面基材領域における、α―Al
2O
3層の結晶学上の優先的な配向と、α―Al
2O
3層の画定された固有応力のパラメータと、基材本体との組合せは、レリーフ面摩耗、クレーター摩耗、及び可塑変形などの連続的負荷において起こる摩耗形態、並びに破断、破壊、及び櫛状クラックなどの熱機械的な交互の負荷において起こる摩耗形態の両方に対して増大した耐性を有するという点で区別される切削インサートを与えることができる。これに対して、公知の切削インサートは一般に、所定の種類の負荷のために設計され同負荷のために最適化されており、したがって多くの場合、使用範囲は限定され非常に特殊である。対照的に、本発明による切削インサートは、様々な摩耗形態、すなわち、主に連続的負荷の状況において起こる摩耗形態、及び主に熱機械的な交互の負荷の状況において起こる摩耗形態に対する増大した耐性によって、公知の切削インサートより幅広い領域の用途を有する。
【0025】
本発明による切削インサートの好ましい実施形態において、切削インサートの製造は、多層コーティングを適用した後、基材を、粒状ショットブラスト剤を用いた乾式又は湿式ショットブラスト処理、好ましくは乾式ショットブラスト処理することを含んでおり、好ましくは、ショットブラスト剤はコランダム(α―Al
2O
3)より低い硬度を有する。
【0026】
本発明の切削インサートのAl
2O
3層及び基材本体の固有応力は、有利にも、基材に多層コーティングを適用した後、切削インサートを、粒状ショットブラスト剤を使用した乾式又は湿式ショットブラスト処理することによって達成することができる。その場合、特に多層コーティングがより厚い場合、ショットブラスト剤の硬度をコランダム(α―Al
2O
3)より低くすべきである。例えば、鋼、ガラス、又は二酸化ジルコニウム(ZrO2)の粒子はショットブラスト剤として適切である。ショットブラスト処理は、望ましくは1bar〜10barのショットブラスト剤の圧力で行う。上述の圧力範囲におけるコランダムより低い硬度のショットブラスト剤の使用は、コーティングの最上層に転位が取り入れられないか、又は取り入れられる転位がほんの僅かな程度であるという利点を有する。コーティングのα―Al
2O
3層及び下層はこれらの固有応力の変化をほとんど示さない。
【0027】
乾式ショットブラスト処理は、湿式ショットブラスト処理よりも、コーティング及び基材本体の表面全体にわたってショットブラスト圧を確実により均一に適用するので、特に好ましい。湿式ショットブラスト処理において、ショットブラストした表面上への液体のフィルムの形成は、比較できるショットブラスト圧力条件を用いた乾式ショットブラスト処理と比較して、固有応力の導入をかなり低減する。湿式ショットブラスト処理は、工具の端でのすなわち重要な切削端でのショットブラスト圧の適用が滑らかな表面に対する適用よりも実質的に高いおそれを生じ、切削操作にとって重要な工具の表面、特にレイク面へと実質的に全く適用されないか又は少なくとも適切に適用される前にショットブラスト圧の下で端が損傷を受ける結果となる可能性がある。工具が損傷を受けない乾式ショットブラスト処理による長時間にわたるより高い圧力もまた可能である。
【0028】
本発明に従いα―Al
2O
3層及び基材本体内の固有応力を発生させ又は設定するために必要なショットブラスト処理の継続時間及び必要なショットブラスト圧は、当業者が、ブラスト処理していない切削インサートに対する単純な実験によって、本明細書中に定義する限度内で決定することができるパラメータである。本明細書において、生ずる固有応力はショットブラスト処理の継続時間及びショットブラスト圧に依存するだけでなく、コーティング全体の構造及び厚み、並びに基材の組成及び構造にもまた依存するため、包括的な記載は不可能である。ショットブラストの継続時間に比べて、ショットブラスト圧は、コーティング及び基材本体内の固有応力の変化に対して実質的により大きな影響を及ぼすという点に留意されたい。所望の固有応力の変化が基材本体内に入り込まれ、本発明に従う固有応力の値を設定できる程度であれば、ショットブラスト処理の継続時間は短すぎなくてもよい。ショットブラスト処理の最適継続時間もまた、同処理に使用する装置、ショットブラストノズルの間隔、配向、及び性質、並びにブラスト処理する工具に対するノズルの動きに依存する。本発明による切削インサートの製造に適するショットブラスト処理継続時間は約10〜600秒であり、約15〜60秒であることもできる。特にα―Al
2O
3層上の一つ以上の層をショットブラスト処理によって最初に除去する場合、より長いショットブラスト処理継続時間が望ましく、又は必要である。ショットブラスト剤の適切な圧力は約1〜10bar、好ましくは2bar〜8bar、特に好ましくは3bar〜5barである。しかしながら、本発明は上記のショットブラスト処理継続時間及びショットブラスト剤の圧力に限定されない。
【0029】
ショットブラスト剤は、例えば鋼、ガラス、又はZrO
2であってよい。本発明における固有応力状態は、上述した又は他の適切なショットブラスト剤のいずれかを用いて設定することができる。本発明についての知識を用いて、当業者であれば、方法、技術設備、又はトライポロジーの観点から望ましい媒体を選択することができ、簡単な試験によって適切なショットブラストパラメータに到達することができる。好ましくは、ショットブラスト剤は球状粒子を含む。ショットブラスト剤の平均粒径は、望ましくは20〜450μm、好ましくは40〜200μm、特に好ましくは50〜100μmであるが、しかしながら、これらは基材本体内の圧縮固有応力の発生に対していかなる実質的な影響も及ぼさない。しかしながら、ショットブラスト剤の平均粒径はコーティングの最外層の表面粗さに影響する。小さな平均粒径(微粒子)は、ブラスト操作において滑らかな表面を生じ、大きな平均粒径は荒い表面を与える。本発明による工具においては、滑らかな表面を製造すること、したがって小さな平均粒径を有するショットブラスト剤を使用することが好ましい。上述のショットブラスト剤のビッカーズ硬度は約500〜1500である。本発明によれば、Al
2O
3(コランダム)は一般にショットブラスト剤として適切ではない。
【0030】
ショットブラスト角度、すなわち処理ビームと工具の表面との間の角度は、圧縮固有応力の導入に実質的な影響を与える。90°のショット角度で最大の圧縮固有応力が導入される。より小さなショット角度、すなわちショットブラスト剤の傾斜率は、表面のより激しい摩滅、及びより小さな圧縮固有応力の導入につながる。約15°〜40°のショット角度で最も激しい摩滅作用が生ずる。より小さなショット角度の場合、本明細書に記載の例で行った90°のショットブラスト角度を用いたような応力の導入に対応する圧縮固有応力を導入するためには、より高いショットブラスト圧及び/又はより長いショットブラスト時間を適用することが必要であることがある。しかしながら、当業者であれば、本発明についての知識を用いて、より小さなショット角度を使用した場合に適用すべきこれらのパラメータを容易に確認することができる。
【0031】
基材本体の「近表面領域」との用語は、基材本体の最外表面から基材本体の内部に向かって最高1〜2μmに及ぶ深さまでの領域を意味する。固有応力の非破壊及び相選択的分析は、X線回折方法によって得られる。広く使用されているsin2ψ法による角度分散的測定は、WC基材内の一つの平面における固有応力成分についての平均値を与え、表面から最高で1〜2μmに及ぶ非常に浅い深さ、すなわち基材本体の「近表面領域」のみにおける固有応力の測定が可能である。
【0032】
基材本体の「近界面基材領域」との用語は、基材本体の最外表面から基材本体の内部に向かって約10μmに及ぶ深さまでの領域を意味する。「近界面基材領域」における固有応力の配置の分析は、従来の研究設備を用いてこれまでに用いられた角度分散的測定法によっては不可能であった。一方、上記のように、角度分散的測定が及ぶ深さは基材本体の最外表面から非常に短い距離のみに限られている。更に、sin2ψ法による角度分散的測定は、単に一つの平面の平均値を与えるのみであり、この理由から、この方法は、この方法を用いて短い距離内の固有応力の段階的変化又は勾配変化を測定することができない。したがって、約10μmに及ぶ深さまでの基材本体の「近界面基材領域」の固有応力の分析のために、所定の一般的な種類の切削インサートについてのエネルギー分散的な測定手順を用い、そのようなエネルギー分散的な測定は約10μmに及ぶ深さまでの固有応力の変化の分析を可能にしつつ、その領域内の固有応力の変化を検出する。
【0033】
本発明による切削インサート上のコーティングは、異なる個々の層を連続して有する。コーティング内のそれらの組成、製造条件、及び位置が異なるため、それらの異なる層は、一般に、ショットブラスト処理の前に異なる固有応力、すなわち異なる大きさの引張応力又は圧縮応力もまた既に含んでいる。ショットブラスト処理によって、個々の層の固有応力は、コーティング内のそれらの異なる組成、製造条件、及び位置によって異なる程度に変化する。表面から異なる深さにおける固有応力及びその変化は異なる大きさである可能性があるという対応する考察もまた基材についてあてはまる。本発明によれば、固有応力の測定は、基材表面から10μmに及ぶ深さの領域に限られる。WC基材内の更により深い深さにおける固有応力の測定は技術的に不可能である。
【0034】
本発明の好ましい実施例において、基材表面上であってα―Al
2O
3層の下に配置された一つ以上の硬質材料層、及び任意にα―Al
2O
3層の少なくとも一部の上に配置された一つ以上の硬質材料層は、周期表のIVa〜VIIa族の元素及び/又はアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物(carbonitrides)、酸窒化物(oxynitrides)、酸炭化物(oxycarbides)、酸炭窒化物(oxycarbonitrides)、ホウ化物、ホウ窒化物(boronitrides)、ホウ炭化物(borocarbides)、ホウ炭窒化物(borocarbonitrides)、ホウ酸窒化物(borooxynitrides)、ホウ酸炭化物(borooxocarbides)、若しくはホウ酸炭窒化物(borooxocarbonitrides)、及び/又は混合金属相、及び/又は前述の化合物の相混合物を含む。
【0035】
本発明の更なる好ましい実施形態において、基材表面上であってα―Al
2O
3層の下に配置された一つ以上の硬質材料層はTiN、TiCN、及び/又はTiAlCNOを含んでおり、一つ以上の硬質材料層はそれぞれ0.1μm〜15μmの層厚を有する。
【0036】
具体的には、TiAlCNO層はα―Al
2O
3層の直下の結合層として適切である。TiAlCNOの硬質材料層がα―Al
2O
3層の下に直接配置される場合、好ましくは0.1μm〜1μmの層厚である。TiAlCNO層はα―Al
2O
3層の接着性を改善し、アルファ変形型であり本発明における優先的な配向を有するアルミニウムオキシドの成長を促進する。その組成及び微細構造によって、それはTiCN層に優れた結合を与えることができる。ショットブラスト処理で層が剥落することなく高圧を適用することができる程度の、層の相互の良好な結合は重要である。
【0037】
TiN又はTiCNの硬質材料層は、これらの一つ以上がある場合、好ましくは2μm〜15μm、特に好ましくは3μm〜10μmの層厚を有する。
【0038】
好ましくは、TiAlCNOの結合層の下でありα―Al
2O
3層の下に配置されるTiCN層は、望ましくは2μm〜15μm、好ましくは3μm〜10μmの上述した層厚を有する。TiCN層は、高温CVD法(HT―CVD)又は中温CVD法(MT―CVD)を使用して好ましくは適用し、ここでMT―CVD法は、柱状層構造物を与えより低い堆積温度が基材の耐久性の損失を低減するので、切削工具の製造にとって好ましい。
【0039】
本発明の更なる好ましい実施形態において、基材表面上であってα―Al
2O
3層の下に配置されておりTiN、TiCN、及び/又はTiAlCNOを含む一つ以上の硬質材料層の総層厚は、合計して3μm〜16μm、好ましくは5μm〜12μm、特に好ましくは7μm〜11μmである。
【0040】
本発明の更なる好ましい実施形態において、多層コーティングは、基材表面から順にTiN−TiCN−TiAlCNO−α―Al
2O
3の層を連続して有しており、任意にTiN層、TiCN層、TiC層、又はこれらの組み合わせがα―Al
2O
3層の少なくとも一部の上に提供される。
【0041】
本発明による切削インサートは、α―Al
2O
3層の少なくとも一部の上に更なる一つ以上の硬質材料層、好ましくはTiN層、TiC層、TiCN層、又はこれらの組み合わせを有することができる。装飾層及び/又は摩耗認識層としてのそのような層は、黒色の外観のα―Al
2O
3層へと多くの場合適用され、それらの層はそれ自身が黄金色又は銀白色であって金属加工において摩耗するので、工具の使用についての指標として役立つことができる。通常、そのような装飾層及び/又は摩耗認識層は、それぞれの切削方法及び含まれる加工品材料によっては切削操作に悪影響を及ぼす可能性があるので、工具のそのような表面に適用されないか、又は工具本体全体の上に堆積させた後に、金属加工において金属と直接接触するそのような表面、例えばレイク面から再び除去される。通常、装飾層及び/又は摩耗認識層は、ショットブラスト又はブラッシング処理によって、対応する表面から研磨的に除去される。薄い又は柔らかい装飾層のそのような研磨除去は、α―Al
2O
3層の本発明における固有応力状態が著しく変化しない程度に、1μm未満に及ぶ深さの近表面領域のみにおいて、残存するα―Al
2O
3層内への圧縮固有応力の導入を引き起こすことがある。α―Al
2O
3によってX線放射がわずかに減衰するので、その近表面領域は、X線撮影固有応力測定による測定技術に関していずれの場合もほとんど利用可能でないか、又は外挿によってのみ利用可能である。sin2ψ法及び傾斜角ψ=89.5°までに関する本明細書において使用する測定パラメータを用いて、確認されたα―Al
2O
3層の固有応力は約1.5μm以上の深さの情報に由来する。
【0042】
本発明に従い切削工具における固有応力状態を設定するため、好ましくはα―Al
2O
3層の硬度より硬度が低いショットブラスト剤を用いたショットブラスト処理を用いる。α―Al
2O
3層に作用する摩耗メカニズムは、本質的にショットピーニングであると仮定した。例えコーティングの総層厚が最高で40μmであっても、このメカニズム及びこの方法によってα―Al
2O
3層の実質的な除去は起こらず、高い圧縮固有応力が基材本体内に生ずる。
【0043】
コーティングの総層厚は少なくとも5μm、好ましくは少なくとも10μm、特に好ましくは少なくとも15μmである。極端に薄い総層厚のコーティングでは、もはやコーティングによるいかなる適切な摩耗保護も保証されないという短所を有する。
【0044】
本発明の更なる好ましい実施形態において、基材本体は硬質金属を含んでおり、好ましくは4〜12質量%のCo、Fe、及び/又はNi、好ましくはCo、任意に0.5〜10質量%の周期表のIVb、Vb、及びVIb族の金属、好ましくはTi、Nb、Ta、又はこれらの組み合わせの立方晶炭化物、並びに残部としてWCを含む。
【0045】
本発明の更なる実施形態において、基材本体は、上記の組成の硬質金属を含んでおり、基材本体全体の公称組成に対してCoバインダー相が豊富であり立方晶炭化物が少なく基材表面から5μm〜30μm、好ましくは10μm〜25μmの厚みの表面領域を有しており、Coバインダー相が豊富な表面領域におけるCoの含有量は基材の中心よりも少なくとも1.5倍多く、Coバインダー相が豊富な表面領域における立方晶炭化物の含有量は基材の中心における立方晶炭化物の含有量の多くとも0.5倍である。
【0046】
硬質金属基材におけるCoバインダー相が豊富な表面領域の提供は、基材本体の耐久性を改善し、工具の使用のより広い領域を開き、Coバインダー相が豊富な表面領域を有する硬質金属基材は、好ましくは鋼機械加工のための切削工具のために使用され、一方鋳鉄機械加工のための切削工具は、好ましくはそのようなCoバインダー相が豊富な表面領域なしで製造される。
【0047】
本明細書に記載の本発明によれば、本発明は、切削インサートの製造方法であって、基材表面から順に一つ以上の硬質材料層と、一つ以上の硬質材料層上の層厚1〜20μmのアルファアルミニウムオキシド(α―Al
2O
3)層と、任意にα―Al
2O
3層の少なくとも一部上の装飾層又は摩耗認識層としての更なる一つ以上の硬質材料層とを有する総厚5〜40μmの多層コーティングをCVD法によって硬質金属基材、サーメット基材、又はセラミックの基材本体へと適用し、α―Al
2O
3層が
【0049】
で表される(0 0 12)成長方向についての集合組織係数TC(0 0 12)≧5によって特徴付けられる結晶学上の優先的な配向を有するようにα―Al
2O
3層の堆積条件を選択し、
式中、I(hkl)はX線回折で測定された回折反射強度であり、
I
0(hkl)はpdfカード42―1468に従う回折反射の標準強度であり、
nは算出のために使用される反射の数であり、
TC(0 0 12)の算出のために(0 1 2)、(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(1 1 6)、(3 0 0)、及び(0 0 12)の反射を使用し、
多層コーティングを適用した後、基材を、粒状ショットブラスト剤を用いて乾式又は湿式ショットブラスト処理、好ましくは乾式ショットブラスト処理し、
好ましくは、ショットブラスト剤はコランダム(α―Al
2O
3)より硬度が低く、
ショットブラスト処理後にα―Al
2O
3層が0〜+300MPaの固有応力を有しショットブラスト処理後の基材表面から0〜10μm内の基材が−2000〜−400MPaの固有応力の最小値を有するよう、ショットブラスト処理のショットブラスト圧、ショットブラスト継続時間、及びショットブラスト角度を選択する、
方法もまた含む。
【実施例】
【0050】
《測定方法》
固有応力の非破壊及び相選択的な分析は、X線回折方法によってのみ可能である(例えば、V Hauk.Structural and Residual Stress Analysis by Nondesctructive Methods.Elsevier,Amsterdam,1997年を参照)。固有応力のX線分析のために広く用いられているsin2ψ法(E Macherauch,P Muller,Z.angew.Physik 13(1961年)、305)は、X線ビームが浸透する深さの範囲内での均一な応力条件の仮定に基づいており、一つの平面における応力成分についての平均値のみを提供する。したがって、sin2ψ方法は、固有応力における急な又は段階的な変化が短距離内で予想される多層のショット処理したCVD系の調査に適していない。その代わりに、そのような場合、薄い層においてさえも固有応力勾配の検出が可能な、例えば「ユニバーサルプロット法」などのより開発された方法を使用する(Ch.Genzel in:E J Mittemeijer,P Scardi(編集者)Diffraction Analysis of the Microstructure of Materials.Springer Series in Material Science,第68巻(2004年),473頁;Ch.Genzel,Mat.Science and Technol.21(2005年),10)。コランダム(α―Al
2O
3)の硬度より低い硬度のショットブラスト剤を使用した乾式ショットブラスト処理によって本発明の固有応力が有利に達成されると、α―Al
2O
3層内の転位が生じないか又は生ずる転位が非常にわずかな程度であり、生ずる固有応力の変化はほんのわずかである。α―Al
2O
3層の上に任意に配置される装飾層又は摩耗認識層は研磨的に作用する方法によって除去し、これは残留したα―Al
2O
3層内の固有応力状態を約1μmに及ぶ深さまでの層の近表面領域においてのみ変化させる。本明細書において使用した測定パラメータの場合、α―Al
2O
3層に関する測定信号は約1.5μm以上の深さの情報に由来する。測定データはα―Al
2O
3層内の固有応力の激しい深さ勾配のいかなる指標も提供しなかったので、sin2ψ法を使用して評価した。
【0051】
層の固有応力は、GE Inspection Technologies社(以前はSeifert社)の5―Circle―Diffractometer ETA上で、角度分散的回折モードで測定した(Ch.Genzel、Adv.X―Ray Analysis、44(2001年)247)。測定及び固有応力の決定に使用したパラメータを下表1にまとめる。
【0052】
基材本体とコーティングとの間の界面付近における固有応力分布の非破壊分析は、集中的な平行シンクロトロン放射を使用した高エネルギーX線回折によってのみ可能である。基材表面付近におけるショットブラスト法が固有応力状態に及ぼす影響を確認するために、エネルギー分散的回折を使用した。この場合、基材材料に依存して浸透する深さまでの基材内の固有応力の深さプロフィールを決定する「変更多重波長法」(C Stock,Promotionsarbeit,TU Berlin,2003;Ch.Genzel,C Strock,W Reimers,Mat.Sci.Eng.,A 372(2004年)、28に記載されているようなもの)である。WC―Co基材の場合、浸透の深さは約10μmである。Berlin Helmholtz―Zentrum fur Materialien und Energie社によって運転されているBESSY Synchrotron Storage Ring上のEDDI(エネルギー分散的回折(Energy Dispersive Diffraction))材料調査測定装置で実験を行った(Ch.Genzel、I A Denks、M Klaus、Mat.Sci.Forum 524〜525(2006年)、193)。対応する実験的パラメータを表2に記載する。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
集合組織測定は、GE Sensing and Inspection Technologies社からのCuKα放射を用いたXRD3003PTS回折装置で実施した。X線管は、点焦点モードで40kV及び40mAで運転した。一次側において、固定サイズの測定開口部を有するポリキャピラリーハーフレンズを使用し、X線ビームがコーティング表面上のみに入射するように、ブラスト処理したサンプル表面を選択した。二次側において、0.4°のソーラー開度を有するソーラーギャップ、及び0.25mm厚のNiKフィルターを使用した。走査は、0.25°のステップ幅で、20°<2θ<100°の角度範囲内のθ−2θの構成で行った。被覆した切削インサートの平面上、好ましくはレリーフ面で測定を行った。測定は、最外層としてのアルミニウムオキシド層で直接行った。測定すべきアルミニウムオキシド上に更なる層がある場合は、測定結果に実質的には影響しない方法によって、例えばエッチングによって、測定の前に除去した。集合組織係数TC(0 0 12)を算出するために、ピーク高さ強度を使用した。5つの測定点で、背景除去及び放物線状ピークの適合を測定した生データに適用した。ピーク強度の更なる修正、例えばKα
2除去又は薄膜層修正は何も行わなかった。
【0056】
本発明による固有応力状態を設定するために使用したショットブラスト処理は、積分線幅及び回折反射強度におけるいかなる著しい変化も生じなかった。α―Al
2O
3層上に配置されたカバー層を除去するために用いる研磨的に作用する後処理方法の影響は、明らかに経験上わずかであったが、しかしながら、排除はされなかった。したがって、本発明による切削インサートの場合における集合組織の測定は、そのような後処理工程を受けない表面、例えば切削インサートのレリーフ面で行うべきである。
【0057】
集合組織係数TC(0 0 12)は、以下
【数3】
のように定義され、
【0058】
式中、I(hkl)は、前記のように、X線回折で測定される修正された回折反射強度であり、
I
0(hkl)は、pdfカード42―1468に従う回折反射の標準強度であり、
nは算出のために使用される反射の数であり、
TC(0 0 12)の算出のために(0 1 2)、(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(1 1 6)、(3 0 0)、及び(0 0 12)の反射を使用した。
【0059】
集合組織係数TC(0 0 12)によって得られる(0 0 12)回折反射の相対強度は、(0 0 1)の優先的な配向又はα―Al
2O
3層の繊維集合組織に対して測定した。代替的にTC(0 0 6)としての(0 0 6)回折反射によって集合組織を評価して、(0 0 12)反射を評価することもできる。しかしながら、高い頻度で非常に集中的なTiCNの(2 0 0)反射からα―Al
2O
3の(0 0 6)反射を必ずしも確実に分離することはできないので、本発明によるコーティングにとって、(0 0 12)反射を使用することが好ましい。
【0060】
《例1》
WC/Co硬質金属基材本体(様々な組成のインデックスを付けた切削ビット(HM1、HM2、HM3、HM4、HM5、及びHM6))を、それぞれの層について様々な層厚を有するTiN−MT―TiCN−α―Al
2O
3−HT―TiCNの層配列で、CVD法でコーティングした。TiAlCNOの薄い(1μm未満)バインダー及び核形成層を、MT―TiCN層とα―Al
2O
3層との間に堆積させた。全てのコーティングは、半径方向の気流を有するBernex BPX325SタイプのCVD反応器内で製造した。
【0061】
2.0%のTiCl
4、0.5%のCH
3CN、10%のN
2、87.5%のH
2の気体濃度(CVD法における気体についてのパーセンテージは体積%を意味する)を用いて、90mbarの圧力でMT―TiCN層を堆積させた。
【0062】
薄い(1μm未満)のバインダー及び核形成層を、3つの処理工程で、MT―TiCN層とα―Al
2O
3層の間に堆積させた。
【0063】
1.Ti(C,N)−継続時間:20分、温度:1000℃、圧力:500mber、気体濃度:5%のCH
4、2%のTiCl
4、25%のN
2、残部のH
2。
【0064】
2.(Ti,Al)(C,N,O)−継続時間:15分、温度:1000℃、圧力:75mber、気体濃度:5%のCO、1%のAlCl
3、2%のTiCl
4、25%のN
2、残部のH
2。
【0065】
3.(Ti,Al)(C,N,O)−継続時間:5分、温度:1000℃、圧力:175mber、気体濃度:5%のCO、2.5%のCO
2、1%のAlCl
3、2%のTiCl
4、20%のN
2、残部のH
2。
【0066】
次にα―Al
2O
3層を、以下の方法によって核形成した。
【0067】
1.Arでフラッシング(継続時間5分)。
【0068】
2.T=1000℃、p=175mbar、継続時間5分での、2%のTiCl
4、2%のAlCl
3、残部のH
2を用いた処理。
【0069】
3.Arでフラッシング(継続時間5分)。
【0070】
4.T=1000℃、p=175mbar、継続時間5分での、2.5%のCO
2、12%のCO、残部のH
2を用いた酸化。
【0071】
5.Arでフラッシング(継続時間5分)。
【0072】
6.T=1000°C、p=175mbar、継続時間1分での、2.5%のAlCl
3、残部のH
2を用いた処理。
【0073】
更なる核形成のために、触媒化合物を使用せずに以下の条件で薄いα―Al
2O
3開始層を堆積させた。
【0074】
T=1010℃;p=75mber;2.5%のCO
2;2.0%のHCl;2.0%のCO;2.0%のAlCl
3;残部のH
2、継続時間40分。
【0075】
本発明によるα―Al
2O
3層の成長条件を以下のように選択した。
【0076】
T=1010℃、p=85mber、気体濃度:91%のH
2、3.0%のCO
2、0.5%のH
2S、3.5%のHCl、2.5%のAlCl
3。全ての気体成分は、特定のレベルの濃度で同時に導入した。
【0077】
製造されたα―Al
2O
3層は、集合組織係数TC(0 0 12)>5を有する非常に高い(0 0 1)の優先的な配向を有していた。
【0078】
参照用として、同じ組成の硬質金属基材本体もまた、それぞれの同様の層厚の層を有するTiN−MT―TiCN−α―Al
2O
3−HT―TiCNの層配列で被覆し、MT―TiCN層とα―Al
2O
3層との間にTiAlCNOの薄い(1μm未満)バインダー及び核形成層もまた堆積させた。ここでは、技術水準に従ってα―Al
2O
3層を核形成した。
【0079】
技術水準によるα―Al
2O
3層の成長条件は以下のように選択した。
【0080】
T=1015℃、p=65mber、気体濃度:92.3%のH
2、3.5%のCO
2、0.2%のH
2S、2.0%のHCl、2.0%のAlCl
3。
【0081】
技術水準によるα―Al
2O
3層は中程度の(0 0 1)優先的な配向しか有しなかった。
【0082】
使用した硬質金属基材本体の組成を表3に記載する。それぞれの層の層厚、及びα―Al
2O
3層についての集合組織係数TC(0 0 12)を表4に記載する。
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
集合組織係数TC(0 0 12)は、少なくとも2つの異なるコーティングバッチからの6つ以上の様々な切削インサート上の測定の平均値として特定した。
【0086】
切削ビットをショットブラスト処理し、近界面基材領域(NISZ)におけるα―Al
2O
3層及び基材本体の固有応力を測定した。結果を表5に記載する。「NISZ基材固有応力」値は、いずれの場合においても「近界面基材領域」において測定した固有応力のばらつき内の最小値である。
【0087】
【表5】
【0088】
《例2−切削機械加工試験》
例1に従って製造した切削ビットを用いて、以下の試験パラメータに従って断続的切削モードで目的のカムシャフトを外部機械加工した。
【0089】
工作物:カムシャフト。
材料:16MnCr5(Rm=600〜700N/mm
2)。
機械加工;断続的切削モードでの長手方向回転;湿式機械加工。
切削データ:v
c=220m/分、f=0.4mm、a
p=2.5mm。
工具形状:DNMG150608―NM4。
工具寿命: 比較:表5の切削インサート11:54部品。
本発明:表5の切削インサート14:80部品。
【0090】
図1は、54部品を機械加工した後の比較の工具(表5の切削インサート11)を示す。工具寿命が終わった後、切削端においてクレーター摩耗、並びにノッチ摩耗及びブレイクアウト(break−out)現象もまた見られた。クレーター摩耗は、鋼鉄材料を回転させた際の典型的な摩耗形態であり、工具に熱的な過負荷をかけることによって高い切削温度における耐摩耗性が失われるために生ずる。切削端のノッチ及びブレイクアウトは、対照的に、選択した切削条件下で工具の耐久性が不十分であるという徴候である。
【0091】
図2は、80部品を機械加工した後の本発明による切削インサート(表5の切削インサート14)を示す。切削インサートが有したクレーター摩耗は明らかにより顕著でなく、全くノッチを有しなかった。
【0092】
《例3−切削機械加工試験》
例1に従って製造した切削ビットを、いわゆる小片回転試験(strip turning test)(厳しい断続的切削モードを用いた試験)にかけた。この試験では、外部の長手方向回転工程で機械加工される熱処理可能な鋼の4つの小片を備えた軸を用いて、インデックスを付けた切削ビットに特有の耐久性を調査した。この場合に切削機械加工を受ける小片は周辺部の一部のみを意味しており、激しい衝撃を与える作用が工具の切削端に生ずることとなる。破壊によって切削端が破損するまでの加工品への入力数(衝撃の数)として工具の寿命を決定した。
【0093】
材料:42CrMo4;Rm=800N/mm
2。
機械加工:断続的切削モードでの長手方向回転;乾式機械加工。
切削データ:v
c=170、f=0.32mm、a
p=2.5mm。
工具形状:CNMG120412―NM4。
寿命/衝撃数(それぞれ6回試験した切削インサートの平均値):
比較:表5の切削インサート15:衝撃497回。
本発明:表5の切削インサート18:衝撃2946回。
【0094】
《例4−切削機械加工試験》
例1に従って製造した切削ビットを用いて、以下の試験パラメータに従って目的の回転楕円体グラファイト鋳鉄GGG50のポンプ容器を回転機械加工(断続的切削モードでの荒切削)した。
【0095】
加工品:ポンプ容器。
材料:GGG50。
機械加工:断続的切削モードでの回転;乾式機械加工。
切削データ:v
c=190m/分、f=0.5mm、a
p=3.0mm。
工具形状:WNMA080412。
工具寿命: 比較:表5の切削インサート3:70部品。
本発明:表5の切削インサート6:200部品。
以下、本発明の実施形態の例を列記する。
[1]
硬質金属基材、サーメット基材、又はセラミック基材本体、及びCVD法によって総厚5〜40μmで基材へと適用されており基材表面から順に一つ以上の硬質材料層と、前記一つ以上の硬質材料層上の層厚1〜20μmのアルファアルミニウムオキシド(α―Al2O3)層と、任意に前記α―Al2O3層の少なくとも一部の上の装飾層又は摩耗認識層としての更なる一つ以上の硬質材料層とを有する多層コーティングでできた切削インサートであって、
前記α―Al2O3層が、
【数4】
で表される(0 0 12)成長方向について集合組織係数TC(0 0 12)≧5である結晶学上の優先的な配向を有しており、
式中、I(hkl)はX線回折で測定される回折反射強度であり、
I0(hkl)はpdfカード42―1468に従う回折反射の標準強度であり、
nは算出のために使用される反射の数であり、
TC(0 0 12)の算出のために(0 1 2)、(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(1 1 6)、(3 0 0)、及び(0 0 12)の反射を使用し、
前記α―Al2O3層は0〜+300MPaの固有応力を有しており、
基材表面から0〜10μm内の基材は−2000〜−400MPaの固有応力の最小値を有する、
切削インサート。
[2]
前記切削インサートの製造が、前記多層コーティングを適用した後に、基材を、粒状ショットブラスト剤を用いた乾式又は湿式ショットブラスト処理、好ましくは乾式ショットブラスト処理することを含んでおり、好ましくは前記ショットブラスト剤がコランダム(α―Al2O3)より低い硬度を有する、項目1に記載の切削インサート。
[3]
基材表面上であってα―Al2O3層の下に配置された一つ以上の硬質材料層、及び任意に前記α―Al2O3層の少なくとも一部の上に配置された一つ以上の硬質材料層が、周期表のIVa〜VIIa族の元素及び/又はアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、酸窒化物、酸炭化物、酸炭窒化物、ホウ化物、ホウ窒化物、ホウ炭化物、ホウ炭窒化物、ホウ酸窒化物、ホウ酸炭化物、若しくはホウ酸炭窒化物、及び/又は混合金属相、及び/又は上記の化合物の相混合物を含む、項目1又は2のいずれかに記載の切削インサート。
[4]
基材表面上であってα―Al2O3層の下に配置された一つ以上の硬質材料層がTiN、TiCN、及び/又はTiAlCNOを含んでおり、前記一つ以上の硬質材料層がそれぞれ0.1μm〜15μmの層厚を有しており、ここで、TiAlCNOの硬質材料層が存在し前記α―Al2O3層の下に直接配置されている場合は前記TiAlCNOの硬質材料層の層厚は好ましくは0.1μ〜1μmであり、TiN又はTiCNの硬質材料層が存在する場合は前記TiN又はTiCNの硬質材料層の層厚は好ましくは2μm〜15μm、特に好ましくは3μm〜10μmである、項目1〜3のいずれか一項に記載の切削インサート。
[5]
基材表面上であってα―Al2O3層の下に配置されておりTiN、TiCN、及び/又はTiAlCNOを含む一つ以上の硬質材料層の合計の総層厚が、3μm〜16μm、好ましくは5μm〜12μm、特に好ましくは7μm〜11μmである、項目1〜4のいずれか一項に記載の切削インサート。
[6]
多層コーティングが、基材表面から順にTiN−TiCN−TiAlCNO−α―Al2O3の層を連続して有しており、任意にTiN層、TiCN層、TiC層、又はこれらの組み合わせが前記α―Al2O3層の少なくとも一部の上に提供されている、項目1〜5のいずれか一項に記載の切削インサート。
[7]
基材本体の最外表面領域から、前記最外表面から10μmの深さまでの領域内において、前記基材本体が少なくとも−400MPa、好ましくは少なくとも−600MPa、特に好ましくは少なくとも−800のMPaの固有応力の最小値を有する、項目1〜6のいずれか一項に記載の切削インサート。
[8]
基材本体が、好ましくは4〜12質量%のCo、Fe、及び/又はNi、好ましくはCoと、任意に0.5〜10質量%の周期表のIVb、Vb、及びVIb族の金属、好ましくはTi、Nb、Ta、又はこれらの組み合わせの立方晶炭化物と、残部としてのWCとを含む硬質金属を含む、項目1〜7のいずれか一項に記載の切削インサート。
[9]
前記基材本体が、硬質金属を含んでおり、前記基材本体の全体の公称組成に対してCoバインダー相が豊富であり立方晶炭化物が少なく前記基材表面から5μm〜30μm、好ましくは10μm〜25μmの厚みの表面領域を有しており、Coバインダー相が豊富な表面領域におけるCoの含有量は基材の中心よりも少なくとも1.5倍多く、Coバインダー相が豊富な表面領域における立方晶炭化物の含有量は基材の中心における立方晶炭化物の含有量の多くとも0.5倍である、項目1〜8のいずれか一項に記載の切削インサート。
[10]
項目1〜9のいずれか一項に記載の切削インサートの製造方法であって、
基材表面から順に一つ以上の硬質材料層と、前記一つ以上の硬質材料層上の層厚1〜20μmのアルファアルミニウムオキシド(α―Al2O3)層と、任意に前記α―Al2O3層の少なくとも一部上の装飾層又は摩耗認識層としての更なる一つ以上の硬質材料層とを有する総厚5〜40μmの多層コーティングをCVD法によって硬質金属基材、サーメット基材、又はセラミック基材本体に適用し、
前記α―Al2O3層が
【数5】
で表される(0 0 12)成長方向について集合組織係数TC(0 0 12)≧5である結晶学上の優先的な配向を有するように前記α―Al2O3層の堆積条件を選択し、
式中、I(hkl)はX線回折で測定される回折反射の強度であり、
I0(hkl)はpdfカード42―1468に従う回折反射の標準強度であり、
nは算出のために使用される反射の数であり、
TC(0 0 12)の算出のために(0 1 2)、(1 0 4)、(1 1 0)、(1 1 3)、(1 1 6)、(3 0 0)、及び(0 0 12)の反射を使用し、
前記多層コーティングを適用した後、基材を、粒状ショットブラスト剤を用いた乾式又は湿式ショットブラスト処理、好ましくは乾式ショットブラスト処理し、
好ましくは、ショットブラスト剤はコランダム(α―Al2O3)より硬度が低く、
ショットブラスト処理後にα―Al2O3層が0〜+300MPaの固有応力を有しショットブラスト処理後の基材表面から0〜10μm内の基材が−2000〜−400MPaの固有応力の最小値を有するよう、ショットブラスト処理のショットブラスト圧、ショットブラスト継続時間、及びショットブラスト角度を選択する、
方法。