特許第6139538号(P6139538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6139538超硬合金又はサーメット体を作成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139538
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】超硬合金又はサーメット体を作成する方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/05 20060101AFI20170522BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20170522BHJP
   B22F 3/15 20060101ALI20170522BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20170522BHJP
   C22C 29/08 20060101ALN20170522BHJP
【FI】
   C22C1/05 F
   C22C1/05 G
   B22F9/00 B
   B22F3/15 M
   B22F1/00 J
   !C22C29/08
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-536215(P2014-536215)
(86)(22)【出願日】2012年10月17日
(65)【公表番号】特表2015-501377(P2015-501377A)
(43)【公表日】2015年1月15日
(86)【国際出願番号】EP2012070557
(87)【国際公開番号】WO2013057136
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年8月17日
(31)【優先権主張番号】11185483.2
(32)【優先日】2011年10月17日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】12163181.6
(32)【優先日】2012年4月4日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】カール−ヨハンス マデルード
(72)【発明者】
【氏名】トミ フリガレ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル カーペンター
(72)【発明者】
【氏名】ジェーン スミス
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−514874(JP,A)
【文献】 実開平04−045535(JP,U)
【文献】 特開2013−014792(JP,A)
【文献】 特表2010−515565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/08
C22C 1/05
B22F 1/00 − 9/30
B01F 11/00 − 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金又はサーメット体を作成する方法であって:
・硬質成分を形成する粉末及び金属バインダーを含んでなる粉末ブレンドを形成するステップ、
・共振条件を達成する周波数を有する音波を使用して混合粉末ブレンドを形成する非接触型ミキサーを用いる混合操作に前記粉末ブレンドを付すステップであって、使用される周波数が20〜80Hzであるステップ
・前記混合粉末ブレンドを形成及び焼結操作に付すステップ
を含んでなる、方法。
【請求項2】
使用される周波数が50〜70Hzである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機バインダーが前記粉末ブレンドに添加されることによって特徴づけられる、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
混合液体を前記粉末ブレンドに添加して、前記混合操作の前にスラリーを形成することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記スラリーを、噴霧乾燥によって実施される乾燥ステップに付す、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記硬質成分の1以上が、周期律表の4、5及び6族の金属のホウ化物、炭化物、窒化物又は炭窒化物から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記バインダー金属粉末が、単一のバインダー金属、又は2以上の金属の粉末ブレンド、又は2以上の金属の合金の粉末のいずれかであることを特徴とし、前記バインダー金属がCr、Mo、Fe、Co又はNiから選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記焼結を、1350〜1500℃の焼結温度でガス圧焼結によって実施することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記焼結を、1350〜1500℃の焼結温度で真空焼結によって実施することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
WC−Co系超硬合金体が作成される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記WC−Co系超硬合金体が、単結晶であるWC原材料から作られ、焼結後の前記WC粒子が球状又は角のある形状を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
焼結後の前記粒子が球状形態を有し、1.5未満のリレイ比を有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
焼結後の前記粒子が1.5を上回るリレイ比を有する角のある形状を有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
サーメット体が作成される、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金又はサーメット体を作成する方法であって、粉末成分をアコースティックミキサーの使用による非ミリング混合操作に付す方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、鉱業用途などにおける金属加工用の切削工具、摩耗部品用の焼結体を作成するために使用される超硬合金及びサーメット粉末は、通常、粉末成分をバインダー金属粉末、有機バインダー(たとえばポリエチレングリコール)、及びミリング液体とともにボールミル又はアトリターミルのいずれかで数時間ミリングすることにより、スラリーをまず形成することによって作成される。スラリーを次に、通常は噴霧乾燥操作に付して、粒状超硬合金又はサーメット粉末を形成し、これを使用して素地(green part)を圧縮することができ、これを続いて焼結する。
【0003】
ミリング操作の主な目的は、良好なバインダー位相分布及び硬質成分粒子とバインダー相粉末との間の良好なぬれ性を得ることであり、場合によってはWC結晶を解砕(de-agglomerate)することである。良好なバインダー位相分布及び良好なぬれ性は、高品質の超硬合金及びサーメット材料を得るために必須である。位相分布又はぬれ性が不充分である場合、最終焼結体に孔及び亀裂が形成され、このことは材料にとって有害である。しかしながら、良好なバインダー位相分布及びぬれ性を得ることは、この種類の材料にとっては非常に困難であり、高エネルギー投入が必要である。すなわち、長いミリング時間、通常はミルの種類及び/又は製造される粒度に応じて10〜40時間の時間が必要である。粗い粒度を達成するためには、良好なバインダー分布を確実にすることを試みながらWC結晶の分解を最小限に抑えるために、ミリング時間は比較的短い。
【0004】
ボールミル及びアトリターミルはどちらも、粉末成分、バインダー金属粉末及び有機バインダーの良好で均一な混合を提供する。これらのプロセスは、良好なバインダー位相分布及び良好なぬれ性を得るために必要な静止摩擦及び結合力を克服することができる多大なエネルギー投入を提供する。しかしながら、そのようなミルは、粉末をミリング操作に付す。従って、粉末は、硬質成分粉末及びバインダー金属粉末のどちらも、部分的に粉砕されて細粒分が形成される。この細粒分は、その後の焼結の間の制御されない粒子成長の原因となる可能性がある。従って、限定されたサイズの原材料はミリングによって破壊される可能性がある。
【0005】
ミリングによって、焼結中の制御されない粒子成長の一因となる細粒分が生じるので、充分に制御された限定された粒度の微細構造を得ることは困難である。
【0006】
この問題を解決するためにいくつかの試みが行われてきた。良好なバインダー位相分布を有するWC粗粒子を含んでなる粉末を得るために設計された1つの方法は、塩、たとえば酢酸コバルトをWC粒子上に堆積させ、次いでコーティングされたWC粒子を高温に付し、かくして酢酸コバルトをコバルトに還元することである。ミリング前にこれを行うことによって、短い粉砕時間で良好なコバルト分布を得ることができる。この種類のプロセスはかなり複雑で時間がかかる。この種類のプロセスの一例は欧州特許第752921B1号で記載されている。そのような方法はかなり複雑で、費用がかかり、実際にはさらにミリングステップを必要とする。
【0007】
粉末の粉砕を回避し、かくして原材料の粒度のような特性を維持することを目的として、他の種類の非ミリング混合法も試験された。
【0008】
欧州特許第1900421A1号は、ローターと分散装置とスラリーを循環させる手段とを含んでなるミキサー中でスラリーが均質化されるプロセスを開示する。分散装置は可動部を含む。
【0009】
超硬合金のために使用される、従来どおりに製造されたWC粉末は、かなり凝集し、異なる粒子形状及び範囲を有すると特徴づけられる。WC粉末の不均一性は、還元によって製造されるW粉末の不均質性に起因し、これはその後の炭化段階の間にさらに多様になる可能性がある。さらに、焼結の間に、任意のWC凝集体はさらに大きな焼結炭化物粒子を形成する可能性があり、増大した周波数のシグマ2境界(sigma2 boundary)を含む可能性があり、すなわち、コバルト層なしで炭化物粒子を合わせて含む可能性がある。
【0010】
角のある形態又は球状形態を有する単結晶WC原材料は、通常、W金属が解砕した後に高温で炭化させることによって製造される。
【0011】
角のある形態又は球状形態及び狭い分布を有する単結晶WC原材料は、通常、優れた強靭性:硬度関係を必要とする適用、たとえば鉱業用途で用いられる。そのような適用では、狭い粒度分布及び形態ができる限り保存されることが重要である。
【0012】
ミリング時間を最小限に抑えるために、ミリングステップは、WCとコバルトとの間の良好な混合を得るための他の方法と組み合わせられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許第752921B1号
【特許文献2】欧州特許第1900421A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の1つの目的は、超硬合金又はサーメット体を得るためにミリングなしで均質な粉末ブレンドを得ることである。
【0015】
本発明の別の目的は、粉末ブレンドを得ることであって、この場合、原材料の粒度分布を維持することができ、一方で依然として均質な粉末ブレンドが得られる。
【0016】
本発明の別の目的は、可動部を含まず、最小量の摩耗を受ける混合プロセスを使用して粉末ブレンドを得ることである。
【0017】
依然として良好な混合を達成しつつ、焼結物質の粒度、分布及び形態を維持することを可能にする方法を提供することもさらに本発明の目的である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例5及び7からの本発明4及び比較例4を比較する粒度分布を示す。
図2図2は、実施例5及び6からの本発明5及び比較例3を比較する粒度分布を示す柱状グラフを示す。
図3図3は、実施例5からの本発明4のLOM顕微鏡写真を示す。
図4図4は、実施例7からの比較例4のLOM顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、硬質成分を形成する粉末及び金属バインダーを含んでなる粉末ブレンドをまず形成するステップを含んでなる、超硬合金又はサーメット体を作成する方法に関する。粉末ブレンドを次いで、共振条件を達成する音波を使用して混合粉末ブレンドを形成する非接触型ミキサーを用いる混合操作に付す。そのような種類のミキサーは通常、共振アコースティックミキサー(resonant acoustic mixer)と呼ばれる。混合粉末ブレンドを次いで形成及び焼結操作に付す。
【0020】
原材料粉末の混合は、好適には、音波が共振条件を達成する非接触型ミキサーを用いて、好ましくは共振アコースティックミキサー装置中で実施される。アコースティックミキサーは当該技術分野で公知である。たとえば、国際公開第2008/088321号及び米国特許第7,188,993号を参照のこと。そのようなミキサーは、混合のために低周波数高強度音エネルギーを使用する。それらは脆弱な有機化合物を混合する場合に良好な結果を示すが、他の種類の材料も混合される。アコースティックミキサーは非接触型ミキサーである。すなわち、それらはミリング体、スターラー、バッフル又はインペラーなどの混合のための機械的手段を含まない。その代わり、混合容器中での音圧波の伝播によって混合される物質に加えられる機械的共振により混合容器の至る所で微細混合ゾーンを作成することによって、混合が実施される。機械的共振は、自然振動又は自励発振とも呼ばれ、振動の振幅が共振周波数で有意に増幅されるようになる振動系の一般的な現象である。共振周波数では、系に加えられる弱い駆動力でも大きな振幅を提供することができ、従って系の高い混合効率を提供することができる。
【0021】
本発明による方法に関する1つの利点は、混合物の均一性を達成するための短時間処理(混合時間)及びWC結晶において機械的損傷、破砕又は応力がほとんど又は全く誘導されないことである。さらに、系においてこのプロセスを利用することによって、エネルギー消費が低いという利点がもたらされる。従って、音響混合プロセスによって硬質成分粉末の粒度又は分布は変更されない。
【0022】
本発明の1つの実施形態において、振動は音響振動である。音波を利用して系を共振状態にする。音響周波数は20〜20000Hzの区間内にあると見なされ、一方、超音波振動数は通常20000Hzを上回る。本発明のもう一つの実施形態において、振動は20〜80Hz、好ましくは50〜70Hzの振動数を有する。
【0023】
本発明の1つの実施形態において、振動は10〜100G、好ましくは30〜50G、最も好ましくは40Gの加速度(エネルギーと呼ばれる場合もある)を有し、この場合、1G=9.81m/s2である。
【0024】
本発明による方法において、硬質成分を形成する1以上の粉末は、周期律表の4、5及び6族の金属のホウ化物、炭化物、窒化物又は炭窒化物、好ましくはタングステン、チタン、タンタル、ニオブ、クロム及びバナジウムのホウ化物、炭化物、窒化物又は炭窒化物から選択される。硬質成分を形成する粉末の粒度は、合金の用途に依存し、好ましくは0.2〜30μmである。特別の定めがない限り、本明細書中、重量%で与えられるすべての量は、乾燥粉末成分の総乾燥重量の重量%である。
【0025】
バインダー金属粉末は、1つのバインダー金属の粉末、又は2以上の金属の粉末ブレンド、又は2以上の金属の合金の粉末のいずれかである可能性がある。バインダー金属は、Cr、Mo、Fe、Co又はNi、好ましくはCo、Cr又はNiから選択される。添加されるバインダー金属粉末の粒度は、好適には0.5〜3μmであり、好ましくは0.5〜1.5μmである。
【0026】
本発明による方法が超硬合金体の作成に関する場合、本明細書では、超硬合金がWC−Co系であることを意味し、これは、WC及びCoに加えて超硬合金の作成の分野で通常用いられる粒子成長阻害剤、立方晶炭化物(cubic carbide)などの追加物も含み得る。
【0027】
本発明の1つの実施形態において、超硬合金体は、好適には0.5〜2μm、好ましくは0.5〜0.9μmの粒度を有するWCを含んでなる硬質成分から作成される。バインダー金属含有量は、好適には乾燥粉末成分の総乾燥重量の3〜17重量%、好ましくは5〜15重量%である。これらの粉末から作成される超硬合金は、インサート、ドリルエンドミル(drill end-mill)などの切削工具で通常用いられる。
【0028】
本発明の1つの実施形態において、超硬合金体は、好適には1〜8μm、好ましくは1.5〜4μmの粒度を有するWCを含んでなる硬質成分から作成される。バインダー金属含有量は、好適には乾燥粉末成分の総乾燥重量の3〜30重量%、好ましくは5〜20重量%である。これらの粉末から作成される超硬合金は、通常、たとえばドリルビット採掘若しくは路面切削機(asphalt milling)ホットロール用のボタン、鉱業用途、伸線などのための部品などの工具及び摩耗部品を形成する手段で使用される。
【0029】
本発明の1つの実施形態において、超硬合金体は、4〜25μm、好ましくは4.5〜20μmの粒度を有するWCを好適に含んでなる硬質成分から作られている。バインダー金属含有量は、好適には乾燥粉末成分の総乾燥重量の3〜30重量%、好ましくは6〜30重量%である。これらの粉末から作成された超硬合金は通常、ドリルビット、採掘又は路面切削機、ホットロールのためのボタンで用いられる。
【0030】
本発明の1つの実施形態において、超硬合金体を作成され、この場合、WC原材料は好適には球状又は角のある形状を有する単結晶WCを有する。これらの種類のWCは、典型的には高温で炭化させ、続いて解砕することによって製造される。WC結晶の形状、すなわち球状であるか又は角のある形状であるかの実際の決定は、通常、正しい原材料、すなわち球状又は角のある金属粉末を解砕した後に高温炭化によって作成されるWC粉末をまず選択して、丸みのある粒子形状を維持し、炭化タングステン粉末において単結晶性を保持することによって行われる。WC原材料粉末を、通常、走査型電子顕微鏡で調べて、粉末が単結晶であるか又は凝集しているか、そして粒子がどのような形態又は形状を有しているかを判定する。形状を次いで焼結後の測定によって確認する。
【0031】
球状又は角のあるWC原材料は、好適には0.2〜30μm、好ましくは1〜8μm、さらに好ましくは2〜4μm、そして最も好ましくは2.5〜3.0μmの平均粒度(FSSS)を有する。添加される球状又は角のあるWCの量は、好適には70〜97重量%、好ましくは83〜97重量%、さらに好ましくは85〜95重量%である。バインダー相の量は、好適には3〜30重量%、好ましくは3〜17重量%、さらに好ましくは5〜15重量%である。
【0032】
球状又は角のあるWC原材料から作成される超硬合金は、少量の前述の他の硬質成分も含んでなる可能性がある。硬質構成成分の粒度は、適用等級(grade application)に応じて1μm未満で8μmまでの平均サイズを有し得る。
【0033】
球状とは、本明細書中では、球の厳密な数学的定義ではなく、「丸い」形状を有する粒子を意味する。
【0034】
「球状」WCは、本明細書中では焼結後に測定される粒子形態を指す。これは、多数の粒子の顕微鏡写真を使用し、粒子寸法内で内接し得る最大の円の直径d1と、粒子寸法がぴったりはまる最小の円の直径d2との比を測定して分析することができる。リレイ比(ψ)を次いで式:
【0035】
【数1】
によって決定する。
【0036】
球はリレイ比1であり、一方、「丸みのある」粒子は、当該技術分野では1.3未満の比を有すると考えられる。
【0037】
本発明の1つの実施形態において、WC粒子は、焼結後は球状であり、好適には1.5未満、好ましくは1.2〜1.5のリレイ比を有する。
【0038】
角のあるWCとは、本明細書中では、WCが先端を切断された三角柱の形状を有することを意味する。角のあるWC粒子は、好適には1.5を超えるリレイ比を有する。
【0039】
本発明の別の実施形態において、方法はサーメット体の作成に関する。サーメットとは、本明細書中では大量のTiCN及び/又はTiCを含んでなる硬質成分を意味する。サーメットは、金属バインダー相中に埋め込まれた炭窒化物又は炭化物硬質成分を含んでなる。チタンに加えて、VIa族元素、たとえばMo、W、及び場合によってはCrを添加して、バインダーと硬質成分との間のぬれを促進し、溶液硬化によってバインダーを強化する。IVa及び/又はVa族元素、すなわちZr、Hf、V、Nb及びTaも今日利用可能な商業的合金に添加することができる。これらのさらなる元素はすべて、通常、炭化物、窒化物及び/又は炭窒化物として添加される。硬質成分を形成する粉末の粒度は通常<2μmである。
【0040】
以下の噴霧乾燥操作中の造粒を促進するためであるが、さらには任意のその後の圧縮及び焼結操作のための圧縮剤として機能するために、有機バインダーも場合によっては粉末ブレンド又はスラリーに添加する。有機バインダーは、当該技術分野で通常用いられる任意のバインダーであり得る。有機バインダーは、たとえばパラフィン、ポリエチレングリコール(PEG)、長鎖脂肪酸などであり得る。有機バインダーの量は、好適には総乾燥粉末体積基準で15〜25体積%であり、有機バインダーの量は総乾燥粉末体積に含まれない。
【0041】
本発明の1つの実施形態において、混合は、混合液体なしで、すなわち乾式混合で行われる。1つの実施形態において、有機バインダーを次いで溶媒に、好ましくはエタノール又はエタノール混合物に添加して、混合後であるが乾燥前にスラリーを形成することができる。
【0042】
本発明の別の実施形態では、混合液体を粉末ブレンドに添加して、混合操作前にスラリーを形成する。
【0043】
通常の超硬合金製造においてミリング液体として通常使用されるあらゆる液体を使用することができる。ミリング液体は、好ましくは水、アルコール又は有機溶媒であり、さらに好ましくは水又は水とアルコールとの混合物であり、そして最も好ましくは水とエタノールとの混合物である。スラリーの特性は、添加される粉砕液体の量に依存する。スラリーの乾燥にはエネルギーが必要であるので、コストを抑えるためには液体の量を最小限に抑えなければならない。しかしながら、ポンプ輸送可能な(pumpable)スラリーを得るため、そしてシステムの目詰まりを回避するためには、充分な液体を添加する必要がある。
【0044】
さらに、当該技術分野で通常知られている他の化合物、たとえば分散剤、pH調節剤などをスラリーに添加することができる。
【0045】
スラリーの乾燥は、好ましくは公知技術に従って、特に噴霧乾燥で実施される。小さな液滴を熱ガスによって、たとえば窒素ガス流中で瞬間的に乾燥する乾燥塔中で適切なノズルを通して、有機液体と混合された粒状材料及び場合によって有機バインダーを含有するスラリーを霧化して、凝集した顆粒を形成する。顆粒の形成は、特にその後の段階で使用される圧縮手段の自動供給に必要である。小規模実験のためには、パン乾燥(pan drying)などの他の乾燥方法も使用することができる。
【0046】
素地を続いて乾燥粉末/顆粒から形成する。当該技術分野で公知の任意の種類の形成操作、たとえば射出成形、押出、単軸圧縮(uniaxel pressing)、多軸圧縮(multiaxel pressing)などを使用することができる。射出成形又は押出を使用する場合、さらなる有機バインダーも粉末混合物に添加する。
【0047】
本発明に従って作成される粉末/顆粒から形成される素地を、続いて任意の通常の焼結方法、たとえば真空焼結、焼結HIP(Sinter HIP)、プラズマ焼結などに従って焼結する。それぞれの特定のスラリー組成に使用される焼結技術は、好ましくは、スラリーが通常の方法、すなわちボールミル摩砕又はアトリターミル摩砕に従って作成された場合にそのスラリー組成に使用されてきた技術である。
【0048】
本発明の1つの実施形態では、焼結をガス圧焼結(GPS)によって実施する。好適には、焼結温度は1350〜1500℃、好ましくは1400〜1450℃である。ガスは好ましくは不活性であり、たとえばアルゴンである。焼結は好適には20bar〜1000bar、好ましくは20bar〜100の圧力で行う。
【0049】
本発明の別の実施形態において、焼結は真空焼結によって実施される。好適には、焼結温度は1350〜1500℃、好ましくは1400〜1450℃である。
【0050】
本発明はさらに、前記方法に従って作成される超硬合金にも関する。
【0051】
前記方法に従って作成される超硬合金の好適な適用には、良好な硬度(耐摩耗性)と強靭特性との組み合わせと必要とする摩耗部品が含まれる。
【0052】
前記に従って製造された超硬合金を、超硬合金が通常使用されるあらゆる適用で使用することができる。1つの実施形態では、超硬合金は、採掘ビットインサート(bit insert)などの石油・ガス用途で使用される。
【実施例】
【0053】
実施例1
超硬合金の様々なスラリーを、WC及びCr32、Coのような硬質成分並びにPEGの粉末と、エタノール/水の重量比が90/10である液体とをブレンドすることによって調製した。与えられたWC粒度及びCo粒度はFisher粒度(FSSS)である。スラリーの乾燥構成成分の組成及び原材料の特性を表1に示す。重量%で示されたCo、WC及びCr32の量はスラリー中の総乾燥粉末成分に基づく。PEGの量は、スラリーの総乾燥粉末成分に基づき、この場合、PEGの量は、スラリーの乾燥粉末成分に含められない。
【0054】
【表1】
*コバルトの約2重量%は、欧州特許第752921B1号で記載されているようなゾル−ゲル技術によってCoでコーティングされたWC粉末に由来する。
【0055】
実施例2
実施例1からの組成1を有するスラリーを次いで、本発明によるResodynアコースティックミキサー(LabRAM)を使用するか、又は通常のペイントシェーカー(Natalie de Lux)を使用する混合操作に付し、スラリーを次いで90℃でパン乾燥した。混合条件を表2で表示する。
【0056】
【表2】
【0057】
粉末を次いで通常の単軸圧縮操作に付して素地を形成し、これを続いて1410℃の焼結温度にて焼結HIP操作に付す。
【0058】
粉末から作成された焼結材料の特性を表3で表示する。さらなる比較として、通常の技術に従って作成された組成1を有するスラリーが参照1として含まれる。参照1試料は、56時間ボールミル摩砕によってスラリーをまず作成し、次いで噴霧乾燥操作に付すことによって作成した。粉末を次いで他の試料と同じ方法で圧縮し、焼結した。WC微粒子の平均粒度は、ボールミル摩砕によって影響を受けるものではない。2つの値が与えられる場合、それらは同じ焼結バッチからの2つの異なる試験片で実施された測定値である。
【0059】
【表3】
【0060】
表3からわかるように、本発明に従って作成された超硬合金は、比較例1及び参照1試料とほぼ同じ特性を得る。
【0061】
実施例3
実施例1からの組成2aを有するスラリーを、Resodynアコースティックミキサー(LabRAM)又は通常のペイントシェーカー(Natalie de Lux)のいずれかを用いた混合操作に付し、スラリーを次いで90℃でパン乾燥した。混合条件を表4に表示する。
【0062】
【表4】
【0063】
粉末を次いで実施例2における試料と同じ方法で圧縮し、焼結した。
【0064】
粉末から作成された焼結物質の特性を表5に表示する。比較として、組成2bを有するスラリーが参照2として含められる。参照2試料は組成2bから従来技術に従って、すなわち20時間ボールミル摩砕し、次いでそれらを噴霧乾燥操作に付すことによって作成された。粉末を次いで他の試料と同じ方法で圧縮し、焼結した。ボールミル摩砕ステップ前のWC粒度は5μmである。WC粒度を次いでミリング操作によって大幅に減少させる。焼結ステップ後、WC粒度は約2.7μmである。焼結物質に関して測定される、本明細書中でWC粒度に関して提供されるすべての値は、Hc値から推定される。
【0065】
【表5】
【0066】
表5からわかるように、本発明に従って作成された超硬合金は、比較例2及び参照2試料とほぼ同じ特性を得る。さらに、本発明2に関して、WC原材料の狭いWC粒度分布が焼結構造で維持される。このことは、本発明1のSEM画像(走査型電子顕微鏡)を示す図1からわかる。図2は、ミリングにより明らかに影響を受ける参照2試料のLOM画像(光学顕微鏡)を示し、このことは、WC粒子の細粒分の粒子成長から生じる多数の大きな粒子の存在によってわかる。
【0067】
実施例4
実施例1からの組成3aを有するスラリーを、Resodynアコースティックミキサー(LabRAM)を使用する混合操作に付し、スラリーを次いで90℃にてパン乾燥した。混合条件を表6で示す。
【0068】
【表6】
【0069】
粉末を次いで実施例2及び3の試料と同じ方法で圧縮し、焼結した。
【0070】
粉末から作成された焼結物質の特性を表7に示す。比較として、組成3bを有するスラリーが参照3として含められる。粉末を湿式混合し、次いで粉末を噴霧乾燥操作に付すことによって、参照3試料を作成した。粉末を次いで他の試料と同じ方法で圧縮し、焼結した。
【0071】
【表7】
【0072】
表7からわかるように、本発明に従って作成された超硬合金は、比較例3及び参照3試料とほぼ同じ特性を得る。さらに、WCが複雑で高価なゾル−ゲルプロセスを使用してCoでコーティングされている参照3と比較して、WCがコーティングされていない本発明3について、ほぼ同じ特性を得ることができることがわかる。
【0073】
結論としては、実施例は、本発明による方法が従来法で製造された生成物と同じ特性を有する生成物をもたらすことができることを示す。従って、相当短いミリング時間を達成することができ、エネルギー消費の低減に至る。さらに、通常使用される複雑なゾル−ゲルプロセスを回避することができる。
【0074】
実施例5(本発明)
硬質相WC及びバインダー相Coを含んでなる超硬合金の試料を製造した。WC原材料は、走査型電子顕微鏡で目視調査によって測定して平均FSSS粒度2μmを有し、典型的に球状の形態を有する単結晶WCであった。
【0075】
WC及びCoの粉末をエタノール・水・PEG混合物とLabRAMアコースティックミキサー中で混合した。混合は、100%強度で5分間実施した。
【0076】
混合後、スラリーを噴霧乾燥して凝集体を形成し、これを次いで圧縮して、ドリルビットの形状の物体を得た。圧縮体を1410℃の温度、真空にてGPS焼結して、超硬合金の高密度試料を得た。焼結粒度の特性化はISO4499に従って実施した。焼結後のWC粒子は概ね1.5umの粒子サイズ、及びガウス分布によって特徴付けられる分布を有する球状であった。図2及び3を参照のこと。様々な原材料の量及び特性を表8に記載する。
【0077】
【表8】
【0078】
実施例6(先行技術)
硬質相WC及びバインダー相Coを含んでなる超硬合金の試料を製造した。表9によるWC及びCoの粉末をボールミル中で10時間、3.6:1のミリング体対粉末比にて湿式ミリングし、噴霧乾燥し、圧縮して、ドリルビットの形状の物体を得た。圧縮体を真空、1410℃の温度でGPS焼結して、超硬合金の高密度試料にした。試料を比較例3と表示する。
【0079】
【表9】
【0080】
実施例7(先行技術)
球状形態を有するWC原材料をコーティングするために酢酸コバルトを使用するEP752921によるゾル−ゲル法によって超硬合金を製造した。コーティング後、スラリーを乾燥し、酢酸Coを水素で450℃にて還元する。2重量%のCoを含有するコーティングされた乾燥粉末をミリング容器に、エタノール・水混合物及び潤滑剤を含む比較例4のようなグレードの組成を得るために調節された追加の4重量%Coとともに添加し、続いて「穏やかなミリング」を行い、2.7:1のミリング体対粉末比で湿式ミリングを行って、均一性を達成した。原材料粉末は表3で規定する。
【0081】
【表10】
【0082】
実施例8
実施例5、6及び7からの超硬合金試料を粒度、硬度及び多孔率に関して分析した。飽和保磁力を標準的方法ISO3326によって測定した。
【0083】
粒度及びリレイ比を、ISO4499に従って平均切片法(mean intercept method)で研磨片からの顕微鏡写真から測定し、表1で示される値は平均値である。30kgの負荷を使用してISO3878に従って研磨面にてビッカース圧子を使用して硬度を測定する。
【0084】
多孔率をISO4505に従って測定し、ISO4505は試料の研磨されたスルーカット(through cut)の光学顕微鏡調査に基づく方法である。良好なレベルの多孔率は、ISO4505スケールを使用してA02maxB00C00以下である。WC原材料の粒度も比較のために含まれる。
【0085】
結果は表11で見ることができる。
【0086】
【表11】
【0087】
表11からわかるように、本発明による試料である本発明4及び5の物理的特性は、先行技術の試料である比較例3及び4と比較して、同等又は改善された特性を示す。
図1
図2
図3
図4