(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139552
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】有機発光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05B 33/02 20060101AFI20170522BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20170522BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
H05B33/02
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/22 B
H05B33/22 D
【請求項の数】11
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2014-545261(P2014-545261)
(86)(22)【出願日】2012年12月6日
(65)【公表番号】特表2015-503202(P2015-503202A)
(43)【公表日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】EP2012074674
(87)【国際公開番号】WO2013083712
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年11月13日
(31)【優先権主張番号】11192234.0
(32)【優先日】2011年12月6日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】11192480.9
(32)【優先日】2011年12月7日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514135476
【氏名又は名称】ノヴァレッド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ビルンシュトック,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ムラーノ,スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】パヴィチッチ,ドマゴイ
(72)【発明者】
【氏名】フルノ,マウロ
(72)【発明者】
【氏名】ローゼノー,トーマス
【審査官】
岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−228501(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0141123(US,A1)
【文献】
国際公開第2010/075836(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0218605(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0113183(US,A1)
【文献】
中国特許第102157696(CN,B)
【文献】
特開2011−124474(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0202196(US,A1)
【文献】
特開2006−261640(JP,A)
【文献】
特開2000−106279(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0062481(US,A1)
【文献】
国際公開第2009/141903(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/02
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造において、以下の構成を含む有機発光素子:
−基板、
−底部電極、
−頂部電極、ここで上記底部電極は、上記頂部電極よりも基板に近く、
−1つまたはそれ以上の有機層を含み、上記底部電極と上記頂部電極との間に設けられ、かつ、上記底部電極および上記頂部電極と電気的に接触して設けられた電気的に活性な領域、
−上記電気的に活性な領域において設けられた発光領域、および、
−上記電気的に活性な領域において閉じていない層として設けられた粗化層であって、当該粗化層は、上記発光領域と上記頂部電極との間に設けられており、上記電気的に活性な領域に面した少なくとも1つの内面上、および、上記電気的に活性な領域に対して外側を向いている外面上において、上記頂部電極を粗化することによって、頂部電極に対して電極の凹凸を付与し、上記粗化層は、横の方向に50〜500nm、および、高さ方向に3〜50nmの大きさを有する複数の分離した粒子を備えている粗化層。
【請求項2】
上記粗化層が、有機材料を含んでいる、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
上記粗化層が、上記粗化層が堆積する下地層の上にランダムに分布する複数の分離した粒子によって提供される、請求項1または2に記載の有機発光素子。
【請求項4】
上記頂部電極が、電気的に活性な領域の頂部の層の下に設けられた上記粗化層によって粗化された上記頂部の層上に設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項5】
上記粗化層が、上記発光領域と上記底部電極との間に設けられている、請求項1から4のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項6】
上記粗化層が、3nm〜50nmの厚さを有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項7】
上記粗化層が、電気的にドープされた電荷輸送層上において設けられているか、電気的にドープされた電荷輸送層によって被覆されているか、あるいは、2つの電気的にドープされた電荷輸送層の間に挟まれている、請求項1から6のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項8】
上記粗化層が、電子輸送層とカソードとの間、または、正孔輸送層とアノードとの間に設けられ、かつ、電子輸送層およびカソード、または、正孔輸送層およびアノードに直接接触して設けられている、請求項1から7のいずれか1項に記載の有機発光素子。
【請求項9】
以下の工程を含む方法である、層状構造が設けられた有機発光素子の製造方法:
−基板を提供する工程、
−上記基板上に底部電極を堆積させる工程、
−電気的に活性な領域を形成する工程であって、その形成工程は以下の工程を含む工程:
−上記底部電極上にて、第1の有機半導体の層を堆積させる工程、
−上記有機半導体の層上にて、粗化層を堆積させる工程、および、
−上記粗化層上にて、第2の有機半導体の層を堆積させる工程、並びに、
−上記電気的に活性な領域の上に頂部電極を堆積させる工程。
(ここで、上記粗化層は、上記電気的に活性な領域において閉じていない層として設けられた粗化層であって、当該粗化層は、上記電気的に活性な領域において設けられた発光領域と上記頂部電極との間に設けられており、上記電気的に活性な領域に面した少なくとも1つの内面上、および、上記電気的に活性な領域に対して外側を向いている外面上において、上記頂部電極を粗化することによって、頂部電極に対して電極の凹凸を付与し、上記粗化層は、横の方向に50〜500nm、および、高さ方向に3〜50nmの大きさを有する複数の分離した粒子を備えている)
【請求項10】
上記粗化層が、熱的な真空蒸着によって堆積され、かつ、上記真空蒸着の間中、水晶振動子モニターによって、上記粗化層の厚さを調整する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記第1の有機半導体の層上に上記粗化層を直接堆積させる工程、並びに、ウォリメル・ウェーバー成長モードに好適に働くように上記第1の有機半導体の層の材料および上記粗化層の材料を選択する工程をさらに含む、請求項9または10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、有機発光素子およびその製造方法に関する。
【0002】
[背景]
有機半導体は、単純な電子部品(例えば、抵抗器、ダイオード、電界効果トランジスタ)の製造に使用され、また、有機発光素子(例えば、OLED(有機発光ダイオード)、その他多くのもの)等の光電子部品の製造にも使用される。有機半導体およびそれを用いた素子の産業的および経済的な重要性は、有機半導体の活性層を用いる素子の種類の増大、および、それを中心に扱う産業の増大に反映されている。
【0003】
有機半導体は、例えばモノマーまたはオリゴマーのような小分子、ポリマー、コポリマー、共役部分と非共役部分とのコポリマー、完全に、または部分的に架橋された層、集合構造、あるいは、ブラシ状の構造であり得る、共役有機化合物を主として含む有機半導体の層等の層によって形成されている。異なる種類の層、または混合された層(例えば、ポリマーおよび小分子とともに混合された層)において異なる種類の化合物を用いて形成される素子はまた、ポリマー−小分子複合素子とも称される。小分子OLEDの加工に関する堆積技術は多層構造の加工を可能とするから、OLEDは、小分子から形成されるものが優先的に作成される。
【0004】
1987年から、研究グループおよび産業組織によって、OLED、特に小分子OLDEの性能を改善するために、多大な労力が世界中で費やされてきた。第一に追究されたことの1つは、均一な層を形成し得る、小分子から形成された適切な有機半導体材料を発見することであった。最近、産業的な使用のための電荷輸送材料は、少なくとも85℃の温度までは、形態学的に安定であり、典型的な材料は、ガラス転移温度が100℃を超えている。同時に、上記材料は、例えば、可視スペクトルにおける高い透明性および良好な電荷輸送能といった、他の一連の要件を満たす必要がある。
【0005】
良好な性能の電子輸送材料または正孔輸送材料の多くは、その複雑な合成経路に起因して比較的高コストの材料であり、そこに解決するべき課題が存在する。
【0006】
別の解決すべき問題は、照明に使用されるOLEDのアウトカップリングの効率の増大である。典型的な有機発光ダイオードは、発生した光の約25%しか素子から放出することができないという欠点を有している。上記光の約50%は、反射電極と半透明電極との間に位置する有機層の配列における内部モードとして残留する。さらに20%は、基板にて全反射のために失われる。このことに対する原因は、OLED内の光が、約1.6〜約1.8の屈折率を有する光媒体内にて発生することである。そのときに、この光が、屈折率の小さい光媒体(例えば、OLEDの積層内における別の層、OLEDが形成されている基板、または上記電極のうちの1つ)にぶつかる場合、その入射角が一定の値を超えると全反射が起こる。アウトカップリングを改善するために、例えば、米国特許出願公開第2010/0224313号明細書に記載されたマイクロレンズの配列といった、いくつかの異なる技術が用いられる。しかしながら、上記の技術には、光抽出効率がまだ100%から遠いので、さらなる発展を必要としている。
【0007】
従って、照明およびディスプレイの分野におけるOLEDの使用のために、安価に、加工工程にさらに組み込むことができる適切なアウトカップリング法の使用が必要になる。照明の用途のためには、その用途として経済的に妥当とされるためには、1cm
2の面積のOLEDが、わずか数セントのコストでなければならない。しかしながら、このことは、光のアウトカップリングを増大させるために、特に安価な方法のみを考えるようになることを意味する。いわゆる小分子(SM)を基礎とするOLEDは、最近、例えば、真空における熱蒸着の補助を用いて、加工されている。典型的には、OLEDは、すべてが別々に熱的に蒸着される、2〜20の層からなる。そのときに、ちょうどあと1つの熱的に蒸着される層によって、上記アウトカップリングが、改善される場合、アウトカップリング法のコストにおける状況は、いかなる場合であっても、条件を満たすだろう。同じことが、SM−ポリマー複合OLEDに対しても適用される。
【0008】
照明の構成要素としてのOLEDの用途のために、大きな面積を有する素子を形成することがさらに必要である。例えば、OLEDが1000cd/m
2の明るさにて機能する場合、数平方メートルの範囲内の領域が、事務所のスペースを照らすために必要とされる。
【0009】
[発明の概要]
本発明の目的は、発光領域にて発生した光を外に放出する効率(アウトカップリングの効率)を改善した、有機発光素子を提供することである。
【0010】
上記問題は、各々、本出願の独立請求項1および12に係る素子によって解決される。また、本出願の独立請求項13に係る有機発光素子の製造方法も提供される。従属請求項は、好ましい実施形態に対応する。
【0011】
1つの側面において、層状構造を含んでいる有機発光素子が提供される。上記層状構造は、基板、底部電極、頂部電極および電気的に活性な領域を含んでおり、ここで、底部電極は、頂部電極よりも基板に近い。上記電気的に活性な領域は、1つまたはそれ以上の有機層を含んでおり、底部電極と頂部電極との間に設けられ、底部電極および頂部電極と電気的に接触して設けられ、上記電気的に活性な領域において発光領域が設けられている。上記電気的に活性な領域において、閉じていない層として設けられた粗化層が存在する。上記の「閉じていない」との記載は、本明細書において、下地層から突き出した粗化構造から形成された層であって、粗化構造が存在しない空間によってお互いに分離された層を意味するものとして用いられる。上記の粗化構造が存在しない空間において、上記粗化構造と同一の化学組成を有し、層の厚さが5nm未満の、平坦で非常に薄い表面境界層が存在し得る。上記表面境界層は、例えば、上記粗化層の生成の過程において、堆積される1種類またはそれ以上の分子の単層となり得る。
【0012】
上記粗化層は、上記電気的に活性な領域に面した少なくとも1つの内面上および上記電気的に活性な領域に対して外側を向いている頂部電極の外面上において、頂部電極を粗化することによって、頂部電極に電極の凹凸を付与する原因となる。
【0013】
頂部電極の凹凸は、上記電気的に活性な領域に面した頂部電極の内面における粗化された内面構造を含んでいてもよい。頂部電極の凹凸は、頂部電極の外側における粗化された外面構造を含み得る。電極における上方から見て、上記の粗化された内面構造と、上記の粗化された外面構造とは、本質的に重複し得る。
【0014】
別の側面において、層状構造を含んでいる有機発光素子が提供される。上記層状構造は、基板、底部電極、頂部電極および電気的に活性な領域を含んでおり、ここで、底部電極は、頂部電極よりも基板に近い。上記電気的に活性な領域は、1つまたはそれ以上の有機層を含んでおり、底部電極と頂部電極との間に設けられ、底部電極および頂部電極と電気的に接触して設けられ、上記電気的に活性な領域において、発光領域が設けられている。基板と、底部電極との間において、閉じていない、電気的に不活性な層として設けられた粗化層が存在する。上記粗化層は、上記電気的に活性な領域に面した少なくとも1つの内面および上記電気的に活性な領域に対して外側を向いている底部電極の外面において、底部電極を粗化することによって、少なくとも底部電極に電極の凹凸を付与する原因となる。底部電極について、外側の電極面は、基板に面している。この素子について、上記粗化層はまた、上記電気的に活性な領域に面した少なくとも1つの内面および上記電気的に活性な領域に対して外側を向いている頂部電極の外面において、頂部電極に電極の凹凸を付与する原因となり得る。底部電極の下の上記粗化層に加えて、上記電気的に活性な領域内にて設けられる更なる粗化層が存在し得る。上記の更なる粗化層は、頂部電極における電極の凹凸の原因となる、上記粗化層について記載されている1つまたはそれ以上の実施形態によって提供され得る。
【0015】
上記粗化層の閉じていない構造のために、上記層は、下地層を完全には覆っていない場合がある。島状または粒子状の構造は、上記の粗化構造に覆われていない領域によって分離されている材料の島/材料の粒子を含んで提供され得る。上記領域は、上記粗化層の材料を含んでいない場合がある。上記粗化層の材料が存在しない上記領域は、上記粗化層に存在する空孔によって与えられ得る。
【0016】
有機発光素子には、2つ以上の粗化層が設けられ得る。上記電気的に活性な領域において設けられた2つ以上の粗化層が存在してもよい。複数の粗化層は、上記発光領域の上部および/または下部に設けられ得る。
【0017】
上記粗化層によってもたらされる電極の凹凸には、光を反射する光反射表面構造、例えば、拡散性が与えられ得る。上記粗化層自体の構造は、素子にて発生した光を反射し得る。別の構造として、上記粗化層自体の構造が、本質的に活性光の反射のないものであり得る。
【0018】
上記電気的に活性な領域において、上記粗化層上に直接堆積した1つまたはそれ以上の層は、閉じている層として提供され得る。別の構造として、上記の層は、上記粗化層を形成する粒子が氷山型の構造を与え得る、閉じていない層であり得る。上記粗化層の構造は、上記粗化層上に直接堆積する1つまたはそれ以上の層まで拡張する。
【0019】
電極の凹凸構造は、電極の層の厚さと同程度の厚さであり得る。それぞれの電極は、上記粗化層の粒子が下部に存在する箇所にて粗化されるのみであり得、その他の箇所は平坦であり得る。上記表面粗さは、例えば側面計(例えばDektak)または素子の電子顕微鏡による断面の画像を用いて測定され得る。
【0020】
上記粗化層によってもたらされる凹凸を与えられた電極の厚さは、上記粗化層の名目上の層の厚さよりも非常に大きな層の厚さを与えられ得る。
【0021】
上記粗化層には、上記粗化層が堆積されている下地層にランダムに分布している複数の分離した粒子(島)が与えられ得る。上記粗化層は、「粒子層」とも称される。上記複数の分離した粒子は、配向性、互いの粒子からの距離(上記粒子間のスペース)、および/または粒子の大きさにおいてランダムに提供され得る。下地層上に分布した上記の分離した粒子は、上記粗化層に島状構造を提供する。上記粒子の大きさは、可視光、好ましくは有機発光素子によって放出される光の波長の範囲であり得、ここで波長は、上記粒子の周囲の有機媒体における波長、または上記粒子の材料における波長であり得る。
【0022】
上記粗化層における粒子は、横の方向に約50〜約500nm、および/または、高さ方向に約3〜約50nm、好ましくは約3〜約15nmの大きさを有し得る。有機発光素子内部の上記粒子の密度は、1μm
2あたり5〜50粒子の間、好ましくは1μm
2あたり10〜30粒子の間であり得る。上記粒子は、最大で1000nmの大きさであり得る。これらの大きさは、可視光の波長(450〜700nmの間)と同程度の直径を有する対象において優先的に発生し、周囲の有機材料の屈折率によって除される、ミー散乱を提供し得る。
【0023】
頂部電極は、上記頂部の層の下部に備えられた粗化層によって粗化される電気的に活性な領域の頂部の層上において設けられ得る。頂部電極は、上記頂部の層と直接接触し得る。他の実施形態において、頂部電極と、電気的に活性な領域における上記頂部の層との間に備えられた、1つまたはそれ以上の層が存在し得る。頂部電極は、単層または複数の電極層から形成され得る。
【0024】
頂部電極は、上記粗化層上にて直接的に設けられ得る。
【0025】
上記頂部の層は、発光層および電子輸送層との組み合わせであり得る。単層または複数の副層として提供される、上記頂部の層は、閉じている層でもよい。別のものとしては、上記頂部の層は、上記粗化層を形成する粒子が氷山型の構造を提供する、閉じていない層でもよい。上記氷山型の構造は、頂部電極と、上記の氷山型の領域との間に直接的な接触をもたらすだろう。
【0026】
上記粗化層は、発光領域と、頂部電極との間にて設けられ得る。
【0027】
上記粗化層は、発光領域と、底部電極との間にて設けられ得る。2つ以上の粗化層が存在する場合、1つの粗化層は、発光領域の上部に設けられ、別の粗化層は、発光領域の下部に設けられてもよい。
【0028】
上記粗化層は、約3nm〜約50nm、好ましくは約3nm〜約15nmの名目上の層の厚さを与えられ得る。上記粗化層の厚さは、名目上の厚さであり、その厚さは、通常、材料の密度の知識を用いて、特定の領域において堆積した質量から算出される。例えば、熱的な真空蒸着(VTE)を用いると、上記名目上の厚さは、厚さ観測装置によって表示された値となる。上記粗化層における粒子は、下部の層の表面上にて成長し得、ここで、粒子は、互いに離れており、閉じている層を形成するように融合することはない。
【0029】
上記粗化層の名目上の厚さは、AFM測定から算出され得る。
【0030】
上記粗化層は、電気的にドープされた電荷輸送層上において提供され得、電気的にドープされた電荷輸送層によって覆われ得る。上記粗化層は、2つの電気的にドープされた電荷輸送層間に挟まれ得、上記2つの電気的にドープされた層は、正孔輸送層および/または電子輸送層である。頂部の層は、電気的にドープされた単層または複数の電気的にドープされた副層であってもよい。上記粗化層は、発光層上に設けられてもよい。
【0031】
上記粗化層は、電子輸送層とカソードとの間または正孔輸送層とアノードとの間のどちらかに設けられ得、かつ、電子輸送層およびカソードまたは正孔輸送層およびアノードのどちらかに直接接触して設けられ得る。上記輸送層は、電気的にドープされ得る。上記粗化層は、ドープされていなくともよい。
【0032】
上記粗化層は、自己結晶化材料から形成され得る。上記自己結晶化材料から形成された上記粗化層は、上記正孔輸送層に隣接して配置されてもよい。その層は、上記正孔輸送層に直接接触して設けられ得る。この結果、光のアウトカップリングが増大する。代わりの方法として、上記自己結晶化材料から形成された上記粗化層は、素子の電子輸送側にて、特に電子輸送層に隣接して配置され得る。
【0033】
有機発光素子からのアウトカップリングを最大にするために、内部吸収を最小にし、導波モードおよび表面プラズモンモードの光放出を可能とすることが必要である。これらの光学的なモードに対応することに関して、上記粗化層が、従来の平坦な有機発光素子構造体の修正を提供する。従来の平坦な有機発光素子において、2つの平坦な電極は、それらの間に平坦な有機層を挟み、平坦な基板上にて堆積される。この構成において、導波モード、すなわち有機層、および、潜在的には、半透明な電極(例えば、ITO)における光伝搬モードは、表面プラズモンモード(通常の金属電極の表面プラズモンにおける光伝搬モード)と同様に、有機発光ダイオードにおけるエミッタと簡単に連結することができる。その結果、これらのモードにおける光の移動は、それ以上、エアモード中に容易に放出され得ず、そのことが有機発光素子の光変換効率を著しく制限する。
【0034】
本明細書にて提案される有機発光素子の構造は、頂部電極層および底部電極層のうちの少なくとも1つの単純な構造を可能としている。上記凹凸構造が、プラズモンの損失を最小限とし、導波モードにおけるアウトカップリングを増大させる。この方法を通して、表面プラズモンモードと、同様に導波モードとの双方について、散乱中心または散乱構造として作用し得る、電極の凹凸が達成される。
【0035】
上記粗化層を用いた結果として、光のアウトカップリングが増大するだけでなく、発光の角度依存も改善し得る。白色光のスペクトルは、何種類かの色の光成分(しかしながら、典型的には、少なくとも青色、緑色および赤色の光成分)を含んでいる。上記発光特性は、種々の波長において異なっているから、従来のOLEDにおいて、異なる色が種々の視角にて見られる。この特性は、本願の明細書にて提案される素子の散乱特性によって、劇的に緩和され得る。
【0036】
上記粗化層は、内部モードのアウトカップリングを増大させ得る。上記粗化層はまた、基板モードのアウトカップリングを増大させ得る。OLEDの電気的な特性が妨げられないために、上記粗化層が、用いられ得る。さらに、通常のアウトカップリングの解決手段(従来の散乱層)を用いて達成できない、付加的な電力利得がアウトカップリングのフィルムを用いて達成され得ることが認められた。対照的に、単純な従来の散乱層を備えた従来のOLEDにおいて、別の付加的なアウトカップリングフィルムを用いたとしても、電力利得は発生しない。
【0037】
単純な構造が、高価な方法(例えば、電極側の基板表面または半導体側の基板表面を微細な構造とする方法)を用いずに、高効率の有機発光素子を製造するために提供される。平坦な(微細な構造とされていない)底部電極もまた、用いられ得る。上記の微細な構造とは、光に影響を与えるために、光の波長の範囲内の大きさを有する構造を意味すると理解される。
【0038】
電気的に活性な領域における全ての有機層は、真空下における蒸着法(VTE(熱的な真空蒸着))によって製造されてもよい。代わりの方法として、積層の配列における全ての有機層は、OVPDの方法によって製造されてもよい。好ましい実施形態において、全ての有機層および双方の電極は、真空コーティング法(例えば、VTE)またはスパッタリングにて堆積される。
【0039】
上記粗化層は、真空下における熱的蒸着法によって気化され得る、有機材料由来の蒸着層として形成され得る。この目的のために、上記材料は、真空下における分解温度よりも低い、真空下における気化(または昇華)温度を有する。代わりの方法、または付加的な方法として、上記の有機粗化層は、OVPDによって製造され得る。上記粗化層は、例えば、スピンコーティングおよびその後の熱的処理を通して作成されたフィルム(例えば、アニソールにおける(スピロ−TTB)の5%溶液))のディウェッティングを通して生成され得る。その上、ナノスケールにおける有機フィルムのディウェッティングは、蒸気からの溶媒の凝集を通して達成されてもよい。
【0040】
上記粗化層は、金属窒化物のナノ粒子の蒸気の凝集、電気堆積、真空吹き付け塗装、フォトリソグラフィ、および焼き付け(例えば、ナノ粒子配列のマイクロコンタクトプリンティング)のうちの1つによって形成されてもよい。
【0041】
上記の有機粗化層は、約40℃より低いTgを有する材料から形成されることが好ましい。好ましくは、Tgを有さない材料が用いられる。従来のVTEの方法において、基板温度は、通常20℃〜60℃の間の温度であるから、このように、更なる焼き戻し工程を用いることなく、基板上に蒸着する間、上記有機材料は、それ自体結晶化し得る。
【0042】
Tgは、DSC測定を用いて決定される。上記DSC測定は、融合後に、衝撃冷却の方法にて室温まで冷却された材料を用いて行われる。その後、上記材料は、測定の間、10K/分の割合にて加熱される。上記の有機粗化層に用いられた好ましい材料において、Tgが観測されなかった。
【0043】
上記粗化層は、蒸着の間、結晶化することが好ましい。代わりの方法として、層の完成後、かつ、その次の層の堆積の前に、焼き戻し工程が起こり得る。
【0044】
以下、本発明の更なる側面を詳細に説明する。
【0045】
上記粗化層は、電荷がこれらの粗化粒子の周りを流れていくように、電荷輸送層によって被覆されてもよく、また一方で、上記粗化粒子が、金属電極によって直接的に被覆されてもよい。電荷輸送層のドーピングは、上記粗化粒子の表面にて形成され得る潜在的な電荷のトラップを飽和することを可能とするから、上記構造は、p型およびn型のドープをされた輸送層の使用を通して実現され得る。
【0046】
上記粗化層の分離した構造(粒子、島状構造)は、吸収性の光のロスを回避するために、可視域における最小限の吸収を示すことが好ましい。上記粒子の屈折率は、上記粒子における導波モードの散乱が最小(すなわち上記粗化粒子の屈折率が有機発光素子の有機層の屈折率と一致するだろう)か、または最大(すなわち有機発光素子の有機層とは対照的に、上記屈折率は最大にされる必要がある)かのどちらかとなるような値に近づけられ得る。前者の場合において、導波モードは、上記粗化粒子によっては散乱されず、むしろ金属電極の凹凸を通してのみ散乱され、後者の場合において、導波モードにおける散乱は、上記粗化粒子によって直接的に引き起こされ得る。
【0047】
上記粗化層において堆積された粒子は、ショートカットの形成または上記電極の好ましくない凹凸の断面の原因となる目立った突起または溝が存在しない丸い形状を有し得る。上記粗化粒子は、幅広または扁球であるか、あるいは、明確な溝を備えた微結晶(例えば、針状晶、四面体、八角形状、等)であるかのどちらかである。上記の形状は、例えば、表面張力に起因するディウェッティングによって達成され得る。同様のことが、正確な一連のパラメータ、(それらを結晶化するための)適切な材料の選択の下における焼き直し工程にとっても正しい。
【0048】
記載されているアウトカップリング法は、マイクロレンズ配列フィルムまたは散乱基板といった、当業者に知られている他の方法と組み合わされ得る。
【0049】
上記粗化層における粒子は、高さよりも幅が広く成長し得る(例えば、幅:高さの比率は5:1〜1:1)。上記粒子が、幅よりも高さが高くなった場合、頂部電極の破砕または穴が開くことを回避するために、上記粒子の幅:高さの比は、1:1〜1:5とするべきである。
【0050】
有機発光素子には、少なくとも以下の特徴のうちの1つが付与され得る:
−融解温度より低く、少なくとも300Kのガラス転位温度が存在する。好ましくは、材料は、室温より高い温度にて測定され得るガラス転位温度が全く存在せず、ガラス状態から直接的に結晶状態に変化するか、あるいは、ガラス状態は全く知られていない。
−全ての可視光に対する減衰係数が低い(0.1よりも小さい)とも定義される、高い透明度が存在する。
−見かけ上の色がない。
−少なくとも3eVのHOMO−LUMOギャップ。
−上記材料は、可視領域において透明である(光のギャップ>3eV)。
−OLEDに用いられるETMにとって典型的ではない、2.0eV(絶対値)よりも小さいLUMO、または、OLEDに用いられるETMにとって典型的ではない、5.5eV(絶対値)よりも大きいHOMOが存在する。
−上記輸送層において電気的なドーピングのために用いられる上記有機材料の分子量は、200g/molよりも大きく、かつ、400g/molよりも小さい(<200g/molの場合は、高すぎる揮発度を有する分子となり、>400g/molの場合は、十分に結晶化しない分子となる)。
【0051】
ディウェッティングの機構が、上記粗化層の粒子を形成するために用いられる場合、上記粒子の材料は、従来の素子の操作下において安定となるように、高いTg(例えば85℃より高い)を有し得る。ディウェッティング法の例は、アニソール溶液に由来する2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メチルフェニル−アミノ)−9,9’−スピロビフルオレンの層である。
【0052】
一実施形態において、頂部電極は、アノードであり、上記粗化層の材料は、電子輸送材料である(すなわち上記散乱層の材料のHOMO内への正孔の注入に対する障壁が非常に高く、上記粗化層の材料は、素子における正孔の輸送には寄与しない)。特に驚くべきことに、この実施形態は、とにかく機能し、上記散乱層が素子において電子的な機能を全く有する必要がないことを示す。
【0053】
別の実施形態において、頂部電極は、カソードであり、上記粗化層の材料は、正孔輸送材料である(すなわち上記散乱層の材料のLUMO内への電子の注入に対する障壁が非常に高く、上記粗化層の材料は、素子における電子の輸送には寄与しない。このことは、上で説明したとおり、驚くべきことである。
【0054】
有機発光素子の電気的に活性な領域における散乱化合物または粗化化合物の使用に関して、上記粗化層については、名目上の層の厚さは、50nmより小さいことが好ましく、10nmより小さいことがさらに好ましい。上記粗化化合物を含んでいる層が、テンプレートとしての役割を果たす場合において、上記粗化層が、第1の電子輸送層と第2の電子輸送層との間に設置され、かつ、上記粗化層の名目上の層の厚さが、3nm以上、30nm以下、好ましくは、5nm〜15nmの間となる場合に、素子は、最高の機能を得られることが発見された。
【0055】
上記粒子の大きさは、光に影響を与えるために、周囲の有機媒体において、可視光の範囲内である大きさの電極上の構造を達成するために上述のようになり得る。優先的には、外観における幅(基板平面に対して平行な幅)は、周囲の有機媒体において、可視光の範囲内である。その高さは、その幅よりも小さくなり、例えば、2分の1または3分の1倍小さくなる。頂部電極等の上述の層上における、上記粒子およびそれぞれの特性は、ランダムに分布する。原則として、有機媒体の屈折率は、典型的に、1.7〜2の間であり、1.7が、たいていの場合において、良好な近似値である。
【0056】
上記波長もまた、特に、上記粗化層と、頂部電極との間に層が存在しない場合において、上記粒子の材料における波長であり得る。優先的には、上記粒子は、少なくとも100nm〜450nmの間の大きさを有する。
【0057】
上記粗化構造は、頂部電極におけるプラズモンに影響を与えるための大きさを有し得る。その高さは、その幅よりも小さくなり、例えば、2分の1または3分の1小さくなる。頂部電極等の上述の層上における、上記粒子およびそれぞれの特性は、ランダムに分布する。
【0058】
一般的に、有機発光素子(OLED)は、電子−正孔の対、いわゆる励起子が、発光下にて再結合する、電界発光の原理に基づく。このために、有機発光素子は、少なくとも1つの有機フィルムが、2つの電極間にて活性物質として配置されるサンドイッチ構造の形式にて構成され、正電荷および負電荷が、有機材料に注入され、電荷輸送が、正孔または電子から、一重項および/または三重項の励起子についての電荷の再結合が発光下にて起こる、有機層内部の再結合領域(発光層)まで発生する。その後の励起子の放射性再結合が、発光を引き起こす。電極のうち少なくとも1つは、上記光が上記成分を離れることを可能とするために透明である必要がある。典型的には、透明な電極は、TCO(透明な導電性酸化物)と名付けられた導電性酸化物、または、非常に薄い金属電極から成るが、他の材料も使用され得る。有機発光素子の製造の出発点は、OLEDのそれぞれの層が堆積する基板である。基板に最も近い電極が透明である場合、その成分は、「底部発光OLED」と名付けられ、もう一方の電極が透明である場合は、その成分は、「頂部発光OLED」と名付けられる。底部電極は、頂部電極よりも基板に近い。底部電極は、頂部電極の形成(堆積)前に、形成(堆積)される。
【0059】
最も信頼でき、最も効率的なOLEDは、ドープされた層を含んでいるものである。それぞれ、適切なアクセプター材料を用いた、正孔輸送層の電気的ドーピング(p−ドーピング)、または、ドナー材料を用いた電子輸送層の電気的ドーピング(n−ドーピング)によって、有機固体における電荷密度(およびそれ故に導電性)は、実質的に増大する。加えて、無機半導体を用いた場合と類似して、その用途は、成分において、p型ドープおよびn型ドープをされた層を用いることに正確に基づくことを予想し得、または他の用途を想像できないだろう。有機発光ダイオードにおける、ドープされた電荷輸送層(アクセプター型の分子の混合物による正孔輸送層のp−ドーピング、ドナー型の分子の混合物による電子輸送層のn−ドーピング)の使用は、米国特許出願公開第2008/203406号明細書および米国特許第5,093,698号明細書に記載されている。
【0060】
層の構成において用いられる材料は、材料またはその混合物が、注入層、輸送層、発光層、連結部分、等の層の機能を満足させる、OLEDに用いられる従来の材料である。例えば、そのような層および材料は、米国特許出願公開第2009/045728号明細書、米国特許出願公開第2009/0009072号明細書、欧州特許第1336208号明細書およびそれらの参考文献にて言及される。
【0061】
発光領域は、発光に関係する励起子が形成され、および/あるいは、励起子が発行と結びつく、1またはそれ以上の層から形成される領域である。可能な発光層は、例えば、欧州特許第1508176号明細書、米国特許出願第2008/203406号明細書、欧州特許第1705727号明細書および米国特許第6,693,296号明細書に記載されている。OLEDにおける発光層の異なる可能な構成は、例えば、欧州特許第1804308号明細書および欧州特許第1804309号明細書に記載されている。特殊な場合として、電荷注入および電荷輸送が、良好なバランスであり、OLEDが単層を用いて作成され得(欧州特許第1713136号明細書)、そのような場合には、発光層は、鋭い界面を必要としておらず、発光に関係する励起子を含んでいる領域が発光層となる。
【0062】
有機発光素子に関して、正孔輸送層(HTL)は、アノード由来の正孔、または連結部分(CU)由来の正孔の発光層(LELまたはEML)までの輸送を発生させ得る大きなギャップを有する半導体を含んでいる層である。HTLは、アノードと、LELとの間、またはCUの正孔生成側とLELとの間に含まれる。HTLは、別の材料と混合され得る(HTLがp型のドープをされているといわれる場合、例えば、p−ドーパント)。HTLには、いくつかの層が含まれ得、種々の組成を有し得る。HTLに対するp−ドーピングはその抵抗を下げ、反対にドープされていない半導体の高い抵抗値のために、それぞれのパワーロスを回避する。ドープされたHTLはまた、抵抗値における有意な増加がない状態にて、1000nmまたはそれ以上にまで非常に厚く形成されるから、光学的スペーサーとして用いられる。
【0063】
有機発光素子に関して、電子輸送層(ETL)は、カソード由来の電子、または連結部分由来の電子の発光層までの輸送を発生させ得る大きなギャップを有する半導体を含んでいる層である。ETLは、アノードと、LELとの間、または連結部分の電子生成側とLELとの間に含まれる。ETLは、別の材料と混合され得る(ETLがn型のドープをされているといわれる場合、例えば、n−ドーパント)。ETLには、いくつかの層が含まれ得、種々の組成を有し得る。ETLに対するn−ドーピングはその抵抗を下げ、反対にドープされていない半導体の高い抵抗値のために、それぞれのパワーロスを回避する。ドープされたETLはまた、抵抗値における有意な増加がない状態にて、1000nmまたはそれ以上にまで非常に厚く形成されるから、光学的スペーサーとして用いられる。
【0064】
例えば正孔および電子の障壁層、注入層、励起子の障壁層といった、OLEDの製造において典型的に用いられる他の層は、同様に用いられ得る。
【0065】
最も信頼でき、同時に効率の良い素子は、電気的にドープされた層を含んでいる有機発光素子である。それぞれ、適切なアクセプター材料を用いた、正孔輸送層の電気的ドーピング(p−ドーピング)、または、ドナー材料を用いた電子輸送層の電気的ドーピング(n−ドーピング)によって、有機固体における電荷密度(およびそれ故に導電性)は、実質的に増大する。加えて、無機半導体を用いた場合と類似して、いくつかの用途は、成分において、p型のドープおよびn型のドープをされた層を用いることに正確に基づくことを予想し得、または他の用途は想像できないだろう。有機発光ダイオードにおける、ドープされた電荷輸送層(アクセプター型の分子の混合物による正孔輸送層のp−ドーピング、ドナー型の分子の混合物による電子輸送層のn−ドーピング)の使用は、米国特許出願公開第2008/203406号明細書および米国特許第5,093,698号明細書に記載されている。
【0066】
電気的なドーピングはまた、酸化還元−ドーピングまたは電荷輸送ドーピングとも呼ばれる。ドーピングが、ドープされていないマトリクスの電荷密度に対して、半導体の電荷密度を増大させることが知られている。
【0067】
米国特許出願公開第2008/227979号明細書には、無機物のドーパントおよび有機物のドーパントを用いた、有機輸送材料のドーピングが詳細に記載されている。基本的に、効率的な電子の輸送は、ドーパントから材料に向けて起こり、マトリクスのフェルミ準位が増大する。p−ドーパントにおける効率的な電子の輸送のために、ドーパントのLUMOのエネルギー準位は、マトリクスのHOMOのエネルギー準位よりもより負の値となるか、あるいは、少なくともマトリクスのHOMOのエネルギー準位に対して、わずかに正の値(0.5eV以下)となることが好ましい。n−ドーピングに関して、ドーパントのHOMOのエネルギー準位は、マトリクスのLUMOのエネルギー準位よりもより正の値となるか、あるいは、少なくともマトリクスのLUMOのエネルギー準位に対して、わずかに負の値(0.5eV以上)となることが好ましい。ドーパントからマトリクスへのエネルギー移動のために、上述のエネルギー差は、+0.3eVよりも小さいことが好ましい。
【0068】
ドープされた正孔輸送材料の典型的な例は、以下に示すものである:LUMOの準位が約−5.2eVである、テトラフルオロ−テトラシアノキノンジメタン(F4TCNQ)を用いてドープされた、HOMOの準位が約−5.2eVである、銅フタロシアニン(CuPc);F4TCNQを用いてドープされた亜鉛フタロシアニン(ZnPc)(HOMO=−5.2eV);F4TCNQを用いてドープされたa−NPD(N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス(フェニル)−ベンジジン);2,2’−(ペルフルオロナフタレン−2,6−ジイリデン)ジマロノニトリル(PD1)を用いてドープされたa−NPD;2,2’,2''−(シクロプロパン−1,2,3−トリイリデン)トリス(2−(p−シアノテトラフルオロフェニル)アセトニトリル)(PD2)を用いてドープされたa−NPD。上記素子の例における全てのp−ドーピングは、5mol%のPD2を用いて行われる。N4,N4,N4'',N4''−テトラ([1,1’−ビフェニル]−4−イル)−[1,1’:4’,1''−テルフェニル]−4,4''−ジアミン(HT1)等の、他の有用な正孔輸送材料は、国際公開第2011/134458号にて開示される。別の正孔輸送材料は、2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メチルフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン(HT2)である。さらなる正孔輸送材料は、米国特許出願公開第2012/223296号明細書にて公開されている、N4,N4''−ジ(ナフタレン−1−イル)−N4,N4''−ジフェニル−[1,1’:4’,1''−テルフェニル]−4,4''−ジアミン(HT3)である。
【0069】
ドープされた電子輸送材料の典型的な例は、以下に示すものである:アクリジン・オレンジ塩基(AOB)を用いてドープされたC60のフラーレン;ロイコ・クリスタル・バイオレットを用いてドープされたフェニレン−3,4,9,10−テトラカルボキシリック−3,4,9,10−二無水物(PTCDA);テトラキス(1,3,4,6,7,8−ヘキサヒドロ−2H−ピリミド[1,2−a]ピリミジネイト)−ジタングステン(II)(W
2(hpp)
4、ND1)を用いてドープされた2,9−ジ(フェナントレン−9−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン;3,6−ビス−(ジメチルアミノ)−アクリジンを用いてドープされたナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA);ビス(エチレン−ジチオ)テトラチアフルバレン(BEDT−TTF)を用いてドープされたNTCDA。4,4’,5,5’−テトラシクロヘキシル−1,1’,2,2’,3,3’−ヘキサメチル−2,2’,3,3’−テトラヒドロ−1H,1’H−2,2’−ビイミダゾール(ND2)等の、n−ドーパントのための有用な、空気中で安定する前駆体は、欧州特許第1837926号明細書に開示されている。別の材料は、市販の2,4,7,9−1,10−フェナントロリン(ET5)である。
【0070】
有機発光素子は、電気的に活性な領域(電極間の領域)の外部に外部アウトカップリング層を含んでいてもよい。この外部アウトカップリング層は、説明された通り、上記散乱層とは別である。頂部発光OLEDに関して、この外部アウトカップリングは、透明な頂部電極から空気中へのアウトカップリングを改善するために、積層の屈折率と適合する層であり得る。頂部発光OLEDは、例えば、国際公開第2005/106987号、欧州特許第1739765号明細書に記載されている。1つの好ましい実施形態において、上記散乱層は、頂部電極に直接接している。上記外部アウトカップリング層もまた、底部発光OLED由来の基板の底部上において、微粒子を含み得る。
【0071】
有機発光素子は、非反転構造として形成され得、あるいは、逆構造として形成され得る。非反転構造の場合において、底部電極は、アノードであり、頂部電極は、カソードである。逆構造の場合において、底部電極は、カソードであり、頂部電極は、アノードである。
【0072】
上記粗化層は、単一の分子構造を有する材料から均一に形成され得る。
【0073】
有機発光素子は、上記粗化層が人間の目によって解析し得るパターンの模様を付けられている、広い面積の照明機器になり得る。例えば、上記のパターンは、人間の観測者が、1メートルから数メートル離れて上記機器を観測する場合の人間の目によって解析し得る大きさを有している。上記パターンは、例えば、反射層の種々の鏡面反射/拡散性の表面に起因して、オフ状態におけるかすかなサインとして上記パターンが観測されるという利点を有する。さらに、上記サインは、オン状態においても観測されることとなり得、機器が、適度な明るさのレベルに設定される場合に、強いアウトカップリングの領域と弱いアウトカップリングの領域との間の対照が、人間の観測者によって感知され得る。
【0074】
人間の目の解像度から理解される通常の値は、1度分=1/60度である。発光層から1mの見える距離を考えると、これは、0.29mmに相当する。30cmの見える距離を想定する場合、35の解像度は、約100μmの結果となる。その後、ストリップタイプの発光層の横方向の距離および/または幅について、約100μmの値は、人間の目によってまだ解析し得る、発光層の横方向の距離において都合の良い下限値として考えられ得る。
【0075】
上記粗化層のための生成プロセスは、好ましい成長モード(堆積速度、堆積中の基板の温度、フィルムの堆積(焼き戻し)後の待ち時間)を得られるように調整される。低い気化速度は、上記粒子の密度が低くなるという結果となる。一方、気化速度が速すぎる場合、上記粒子が、共に溶け合い得るか、あるいは、上記層が、まさにアモルファスとなり得る。上記粗化層を生成するプロセスにおいて、材料の気化速度は、約1〜約10Å/sの範囲であり得る。
【0076】
上記粗化層のLUMOは、隣接する少なくとも1つの層のLUMOから、0.5eVより大きく異なる。上記粗化層は、ドープされずに形成されることが好ましい。上記の有機粗化層の材料がHTL(HTLとして用いられるもの)である場合、そのHOMOは、隣接する層のHOMOから、0.5eVより大きく異なることが、そのとき好ましい。上記粗化層は、ドープされずに形成されることが好ましい。
【0077】
上記粗化層の材料は、素子の実用的な目的に応じて、絶縁体であり得る。
【0078】
従って、好ましい変形例は、以下の層構造を有する:
−ドープされていない粗化層/n型のドープをされたETL/カソード
−ドープされていない粗化層/p型のドープをされたHTL/アノード。
【0079】
上記粗化層は、化学構造が直線形、かつ、枝分かれしていない分子から形成されることが好ましい。例としては、アントラセン、フェナントレン、ペンタセン、BPフェンといった7つよりも少ない環を有する縮合環系である。主軸に沿って少なくとも1つの軸回転が可能な化学構造を有する材料もまた、用いられ得る。
【0080】
上記の有機粗化層が、電子輸送層(ETL)(カソードと有機発光層との間)をも形成する場合において、架橋されたビスオキサゾールの種類(およびより高級な同族体)、特に1,4−ジ(ベンゾ[d]オキサゾル−2−イル)ベンゼン由来の材料を用いることが可能である。
【0081】
以下の材料は、他の特性もあるが、電子輸送材料として、あるいは、電子輸送領域/電子輸送層において用いられる場合に除外され得る:架橋されたビスオキサゾールの種類(およびより高級な同族体)、特に1,4−ジ(ベンゾ[d]オキサゾル−2−イル)ベンゼン由来の材料。
【0082】
ベンザネレイトオキサチンは、他の特性もあるが、正孔輸送材料としては、あるいは、正孔輸送領域/正孔輸送層においては、除外され得る。一実施形態において、以下の化合物は、他の特性もあるが、正孔輸送材料としては、あるいは、正孔輸送領域/正孔輸送層においては、除外され得る:
【0084】
ここで、XおよびYは、お互いに異なるが、一方で独立して酸素、硫黄、セレンおよびテルルから選択され;nは、1、2、3、4、5または6であり;R
1−9は、独立して水素、アルキル、アリール、ヘテロアリール、縮合炭素環、縮合ヘテロ環、OR’、SR’およびNR
2’から選択され、ここでR’は、独立してアルキル、アリール、ヘテロアリール、縮合炭素環および縮合ヘテロ環から選択される。
【0085】
上記粗化層の下の層は、2,7,9−トリフェニル−4−(p−トリル)ピリド[3,2−h]キナゾリンを含まなくてもよい。
【0086】
[さらなる実施形態の説明]
本発明は、図面中の画像を参照して、さらなる実施形態によって下の文にて詳細に説明される。上記画像について以下に示す:
図1:有機発光素子の層状構造の(断面の)略図、
図2:下地層上に粗化層を備える層構造の(断面の)略図、
図3:下地層上に粗化層を備える層構造の(断面の)略図、
図4:粗化層を伴う下地層、および、上記粗化層の上部に堆積される粗化層(断面の)略図、
図5:有機発光素子の層状構造の(断面の)略図、
図6:サンプルの層構造について、AFM(「原子間力顕微鏡」)を用いて作成された断面測定、
図7:有機発光素子についての層状構造、
図8:有機発光素子について、SEM(「走査型電子顕微鏡」)によって得られた実験結果、
図9:有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果、
図10:有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果、
図11:有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果、
図12:有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果、
図13:有機発光素子についての層状構造、
図14:SEMによって得られた、
図13における層構造を用いて調製された有機発光素子についての実験結果、
図15:SEMによって得られた、
図13における層構造を用いて調製された有機発光素子についての実験結果、
図16:層状構造について、AFMによって得られた実験結果、
図17:有機発光素子についての層状構造、
図18:有機発光素子についての層状構造、および、
図19:有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果。
【0087】
図1は、有機発光素子の層状構造の(断面の)略図を示す。有機発光素子は、有機発光ダイオード(OLED)を提供し得る。上記層状構造は、基板1、底部電極2、電気的に活性な領域10、粗化層6、および被包9を用いて被覆された頂部電極8を含んでいる。頂部電極8と粗化層6との間に輸送層7が存在する。別の実施形態において、輸送層7は存在しなくてもよい。
図1における層状構造はまた、発光層5、および輸送層4も含んでいる。別の実施形態において、輸送層4は存在しなくてもよい。加えて、1またはそれ以上の層から形成され得、かつ、別の実施形態においては存在しなくてもよい、付加的な発光層3が存在する。
図1における略図とは異なり、発光層5と粗化層6との間にさらなる輸送層が存在し得る。
【0088】
図2は、下地層21の上に粗化層22を備える層構造の(断面の)略図を示す。粗化層22は、閉じていない層を与えられる。粗化層22における粒子23は、互いに離されており、島状構造または粒状構造を提供する。粒子23は、高さ24を備える。隣接する粒子の間に位置する、空いた空間または空いた領域25が存在する。空いた空間25において、粗化層22の材料は、下地層21を被覆していない。上記の層デザインは、例えば、ウォリメル・ウェーバー(VW)モードを用いた、下地層21上における粗化層22の成長によって、生成され得る。
【0089】
図3は、下地層31上において、粗化構造、すなわち粒子33が付与される粗化層32を備える層構造の(断面の)略図を示す。粒子33と同一の材料から形成され、厚さが5nmまたはそれより薄く、上記粗化構造を与える粒子33間の領域において、下地層31を被覆する表面境界層34が存在する。粒子33と表面境界層34が共に、上記粗化層に対して、氷山型の構造を提供する。上記層構造は、例えば、ストランスキー・クラスタナウ(SK)モードを用いた、下地層21上における粗化層22の成長によって、生成され得る。
【0090】
図4は、粗化層41を伴う下地層40、および、粗化層41の上に堆積される粗化層42の(断面の)略図を示す。粗化層42には、外面44および内面45上における凹凸構造43を含んでいる凹凸が付与される。他の実施形態(示されていない)において、粗化層42は、内面45上のみに表面粗さを付与し、一方、外面44は、平坦である。
【0091】
層42は、随意的にドープされた輸送層、または電極であり得る。
【0092】
図4はまた、粗化構造がない(粒子が存在しない)領域46を示し、上記領域は、例えば、気化の間にシャドウ・マスクを用いることによって作製され得る。領域46において、層42の厚さは、例えば、側面計を用いて、直接的に測定され得る。なお、図は、概略にすぎず、必ずしも一定尺度に応じたものではない。
【0093】
図5は、有機発光素子の層状構造の(断面の)略図を示す。基板50、底部電極51(例えばITOのアノード)、有機層52、53および54が存在する。有機−有機界面は、破線(例えば56)によって、印をつけられる。有機層54は、(明確には示されていない)粗化粒子をも含み、例えばAlカソードである頂部電極55の凹凸57をもたらす。
【0094】
図6は、石英/30nmの2,7,9−トリフェニル−4−(p−トリル)ピリド[3,2−h]キナゾリン/10nmの化合物(1a−以下を参照)/30nmの2,7,9−トリフェニル−4−(p−トリル)ピリド[3,2−h]キナゾリン/100nmのAgのサンプルにおいて、AFMを用いて作成された断面測定を示す。石英上における30nmの2,7,9−トリフェニル−4−(p−トリル)ピリド[3,2−h]キナゾリンの層は3nmより小さい凹凸を有する平坦な層であった。上記化合物(1a)の層は、閉じている層(専ら粒子のみ)を形成しなかった。このことが、化合物(1a)の層の形態を凍結する(最短の待機時間)から、この測定は、Ag電極の上部から示される。
【0095】
上記有機層状構造は、少なくとも1つの発光層を含む前記のものである。有機発光ダイオードについての典型的な層状構造は、例えば、欧州特許第1705727号明細書、欧州特許第1804309号明細書に記載されている。上記OLEDはまた、例えば、米国特許第7,074,500号明細書、米国特許出願公開第2006/250076号明細書に記載されたp−i−n層状構造を有し得る。p−i−nのOLEDにて用いられるn−ドーパントおよびp−ドーパントは、例えば、米国特許第6,908,783号明細書、米国特許出願公開第2008/265216号明細書、国際公開第07/107306号、欧州特許1672714号明細書に記載されている。
【0096】
以下の化合物は、有機発光素子において上記粗化層を製造するために用いられ得る:
【0098】
化合物(1a)〜(1f)およびそれらの合成は、それ自体は既知のものである。上記化合物のうちの1種またはそれ以上は、蛍光増白剤として用いられる。
【0099】
電子輸送層に用いられる化合物(4−(ジベンゾ[c,h]アクリジン−7−イル)フェニル)ジフェニルホスフィン・オキシド(ET3)および7−(4’−(1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)−[1,1’−ビフェニル]−4−イル)ジベンゾ[c,h]アクリジン(ET4)の合成は、以下のように実施された。THFは、テトラヒドロフランを意味し、MTBEは、メチル−t−ブチルエーテルを意味し、DCMは、ジクロロメタンを意味し、Et
2Oは、ジエチルエーテルを意味し、MeOHは、メタノールを意味し、BuLiは、ブチルリチウムを意味し、HPLCは、高性能液体クロマトグラフィを意味し、NMRは、核磁気共鳴を意味する。
【0100】
第1工程:(E)−2−(4−ブロモベンジリデン)−3,4−ジヒドロナフタレン−1(2H)−オン(c)の合成。全ての操作は、市販の溶媒/化学物質をさらに精製することなく、空気中にて実施された。
【0102】
250mLのフラスコが、テトラロン(3.22g、22mmol)および4−ブロモベンズアルデヒド(5.3g、28.6mmol)を用いて、充填された。これが温かいテトラヒドロフラン(12mL)中に溶解され、この黄色の溶液に対して、4重量%のKOHのメタノール溶液(100mL)をゆっくり加えた。その反応物が、室温にて、4日間撹拌された。その混合物は、濃縮され、約10体積%減少された。残余がろ過され、MTBE(3回×50ml)を用いて洗浄され、乾燥され、淡黄色の粉末(6.61g、96%)が生じた。
【0103】
第2工程:7−(4−ブロモフェニル)−5,6,8,9−テトラヒドロジベンゾ[c、h]アクリジン(d)の合成。双方の反応は、アルゴンの下にて実施された。
【0105】
c(6.54g、20.9mmol)およびテトラロン(2.93g、20.0mmol)が、BF
3・Et
2O(3mL、23.7mmol)と共にフラスコ内に導入された。その混合物は、100℃にて4時間撹拌され、室温まで冷却される。Et
2O(25mL)が加えられ、その混合物がさらに1時間撹拌される。その沈殿が、ろ過され、Et
2O(20mL)を用いて洗浄される。その後、その乾燥された粉末(3.8g)が、0℃にてアンモニアのエタノール溶液と共にフラスコに導入された。その混合物は、室温にて5時間撹拌することが可能とされ、その沈殿は、ろ過され、エタノールを用いて数回洗浄された。
【0106】
2.98g(収率34%)の白色粉末が得られた。
【0107】
第3工程:7−(4−ブロモフェニル)ジベンゾ[c,h]アクリジン(7)の合成。その酸化的脱水素化は、アルゴンの下にて実施される。
【0109】
d(2.98g、6.80mmol)が、190mLのジオキサンおよび2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノベンゾキノン(10.9g、48mmol)にて溶解された。その混合物が、アルゴンの下にて2日間還流された。その後、その反応混合物が、室温まで冷却され、600mLの飽和炭酸ナトリウム水溶液に注がれ、65℃にて30分間撹拌された。その後、その混合物は、室温まで冷却された。その沈殿が、ろ過され、水およびジクロロメタンを用いて洗浄された。
【0110】
収率:2g(68%)。
1HNMR(500MHz、CD
2Cl
2)δ(ppm):9.80(d、J=8.0、2H)、8.00〜7.68(m、10H)、7.53(d、J=9.2、2H)、7.45〜7.34(m、2H)。
【0111】
第4工程:(4−(ジベンゾ[c,h]アクリジン−7−イル)フェニル)ジフェニルホスフィン・オキシド(23)の合成。ブチルリチウムとジフェニルホスフィン・クロリドとの反応は、アルゴンの下にて、乾燥溶媒中にて実施された。
【0113】
(7)(2.84g、5.11mmol)が、40mLのTHFにて溶解された。その溶液は、−78℃まで冷却され、n−BuLiが20分以内に滴下するように加えられ(2.5mol/L、3.5mL、8.68mmol)、その後、そのままの温度にて1時間撹拌された。温度は、その後、−50℃まで上昇され、ジフェニルホスフィン・クロリド(1.13g、5.11mmol)が加えられ、その混合物は、室温にて1晩中撹拌された。その後、その反応物は、メタノール(25mL)を用いてクエンチされ、その溶媒が、蒸発された。その残余は、40mLのジクロロメタンに溶解され、その後、8mLのH
2O
2水溶液が加えられ(30%水溶液、w/w)、1晩中撹拌された。その後、その反応混合物は、50mLの食塩水を用いて数回洗浄され、その後、その有機相が、乾燥され、蒸発される。その粗製の生成物は、カラムクロマトグラフィ(SiO
2、ジクロロメタン、その後にDCM/メタノール=97:3)を通して精製された。真空蒸着によって得られた泡沫状の生成物は、その後、200mLのMTBEを用いて洗浄された。
【0114】
1.6g(43%)の収率である。97%より大きいHPLC純度である。
【0115】
NMR:
31PNMR(CDCl
3、121.5MHz):δ(ppm):29(m)。
1HNMR(500MHz、CD
2Cl
2):δ(ppm):9.79(d、8.06Hz、2H)、7.86(m、10Hz)、7.75(m、2Hz)、7.69(d、9.20Hz、2H)、7.58(m、8Hz)、7.44(d、9.18Hz、2H)。
【0116】
第4工程:7−(4’−(1−フェニル−1H−ベンゾ[d]イミダゾール−2−イル)−[1,1’−ビフェニル]−4−イル)ジベンゾ[c,h]アクリジン(26)の合成。そのPd−触媒性の縮合が、アルゴンの下にて実施される。
【0118】
(7)(2.1g、4.8mmol)、1−フェニル−2−(4−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)フェニル)−1H−ベンゾ[d]イミダゾール(3.8g、9.6mmol)、パラジウムテトラキストリフェニルホスフィン(830mg)および17mLの1M炭酸カリウム水溶液が、35mLの脱気されたトルエンと共に、フラスコに導入された。この混合物は、80℃にて、36時間撹拌され、室温まで冷却され、ろ過された。その後、その得られた固体は、600mLのDCMに溶解され、セライトのパッドを越えてろ過された。揮発性物質が、ロータリーエバポレーションによって除去され、その後、その固体残余が、真空炉内にて、1晩中乾燥された。
【0119】
1.2g(40%)の収率である。98%より大きいHPLC純度である。
1HNMR(500MHz、CD
2Cl
2)δ(ppm):9.82(d、8.16Hz、2H)、7.85(d、7.60Hz、2H)、7.88(m、5H)、7.79(m、2H)、7.76(s、4H)、7.74(s、1H)、7.63(d、9.2Hz、2H)、7.59(m、3H)、7.56(m、1H)、7.43(dd、3.13Hz、5.32Hz、2H)、7.36(m、1H)、7.29(dt、3.01Hz、3.01Hz、7.35Hz、2H)。
【0120】
2,7,9−トリフェニル−4−(p−トリル)ピリド[3,2−h]キナゾリン(ET1)、および、4−(ナフタレン−1−イル)−2,7,9−トリフェニルピリド−[3,2−h]キナゾリン(ET2)の合成は、欧州特許第1970371号明細書に記載されている。
【0121】
以下の層の順序は、望ましい形態を製造する方法の例である。上記層の順序は、有機発光ダイオードの内部に含まれた。各々の層の組において、第1の材料によって形成された層は、下地層(ETLまたはn−ETL)を提供され、第2の材料にて形成された、それに続く層は、粗化層を提供する。素子の積層における上記の構造は、以下の通りである:EML/下地層/粗化層。
【0122】
最良の結果が、電気的にドープされた層を用いて、OLED積層において上記層の順序を挿入することによって、達成された。全ての堆積は、室温にて実施された。発光層にて用いられる材料は、Sun Chemicalsから市販されており、ABH036、NRD129およびNUBD369といったトレードコードによって表される。
【0124】
付加的な種々の方法がOLEDの機能に更なる影響を与えない、光のアウトカップリングを増大させるための多くの技術とは反対に、本発明においてOLEDの機能がさらに相当改善され得ることは驚くべき発見であった。
【0125】
光の抽出を増大するためにマイクロレンズ配列を含んでいる外部アウトカップリング箔を付加することによって、ほぼ2倍の因子により最良のOLEDの能率をほぼ2倍とし、60lm/Wより大きい電力効率を得ることが可能であった。
【0126】
有機発光素子は、
図7にて示される通りに製造された。以下の層状構造が調製された:
7.1:ガラス基板
7.2:ITO
7.3:HT1:PD2(97:3)(層の厚さ:30nm)
7.4:HT1:PD2(99:1)(145nm)
7.5:HT1(10nm)
7.6:ABH036:NRD129(99:1)(5nm)
7.7:ABH036:NUBD369(95:5)(25nm)
7.8:ET2(10nm)
7.9:化合物(1d)−(1f)
7.10:ET2:ND2(90:10)(30nm)
7.11:Ag(100nm)
参照として、有機発光素子が、層7.9を用いないで調製された。
【0127】
層7.9を含んでいる上記素子に関して、以下の材料が用いられた:化合物(1d)、化合物(1e)および化合物(1f)。
【0128】
以下に言及されることは、
図8〜
図12に合わせて作製されている。
【0129】
図7にて示された通りの層状構造を用いて調製された有機発光素子が、調製され、詳細に調べられた。
図8〜
図12は、SEM(「走査型電子顕微鏡」)によって得られた実験結果であり、その切り口は、種々の素子について、収束イオンビーム(FIB)を用いて作製されていた。
【0130】
図8〜
図12において、上の図面は、素子の断面を示す一方、下の図面は、素子の頂部電極の平面図を示す。上記断面の画像について、以下のパラメータが用いられる:拡大率:100000倍、EHT(電子高電圧):1kV、作動距離(WD):5.1mm〜5.2mm、開口の大きさ:30μmおよび検出器:イン−レンズ、またはSESI(複合化2次電子2次イオン)(
図12aのみ)。電極表面の平面図については、以下のパラメータが用いられる:拡大率:50000倍、EHT(電子高電圧):3kV、作動距離(WD):4.9mm〜5.1mm、開口の大きさ:30μmおよび検出器:SESI、またはSE2(
図15bのみ)。
【0131】
図8において、層7.9は、6.7nmの層の厚さ(堆積速度3Å/s)を有し、材料(A)から調製された。
図9において、層7.9は、6.1nmの層の厚さ(堆積速度3Å/s)を有し、材料(B)から調製された。
図10において、層7.9は、10.1nmの名目上の層の厚さ(堆積速度1Å/s)を有し、材料(A)から調製された。
図11において、層7.9は、10.1nmの名目上の層の厚さ(堆積速度1Å/s)を有し、材料(B)から調製された。
図12において、層7.9は、5.6nmの層の厚さ(堆積速度3Å/s)を有し、材料(C)から調製された。
【0132】
以下、
図8〜
図12にて示された素子に関する実験結果が要約される。
【0134】
面積は、OLEDの活性領域の面積である。CIE XおよびCIE Yは、1931年に国際照明委員会(CIE)による定義に従った色度である。Peffは、電力効率(または輝度効率)を示す(lm/Wにて測定される)。EQEは外部量子効率である。EQEの増大は、粗化層を有する積層のEQEと、粗化層を有さない積層のEQEとの間の比率である。その値は、上記表に明記された電流にて、積分球における測定から得られた。
【0135】
別の有機発光素子が、
図13にて示される通りに調製された。以下の層状構造が、調製された:
13.1:ガラス基板
13.2:ITO
13.3:HT1:PD2(97:3)(層の厚さ:30nm)
13.4:HT1:PD2(99:1)(145nm)
13.5:HT1(10nm)
13.6:ABH036:NRD129(99:1)(5nm)
13.7:ABH036:NUBD369(95:5)(25nm)
13.8:ET2(10nm)
13.9:化合物(1d)−(1f)
13.10:ET2:ND1(30nm)
13.11:Ag
参照として、有機発光素子が、層13.9を用いないで調製された。
【0136】
図14および
図15は、SEMを用いて得られた、
図13における層構造を用いて調製された有機発光素子についての実験結果を示す。この場合も先と同様に、
図14および
図15における上の図面は、素子の断面を示す一方、下の図面は、素子の平面図を示す。
【0137】
図14および
図15に関して、層13.9は、化合物(1a)から形成された。0.8Å/sの堆積速度が、
図14において用いられ、
図15における例については、6Å/sの堆積速度であった。注目するべきことは、上記活性領域の面積が異なっており、それゆえ、基板の厚さの効果による、効率の増大は、この2つの場合については比較できないことである。上記積層において、形態および効率の増大に影響を与えない、いくつかの差異もまた存在する:
図14−ET2:ND1(15%)、100nmのカソード、そして、
図15−ET2:ND1(8%)、250nmのカソード。
【0138】
以下、
図14および
図15にて示された素子に関する実験結果が要約される。
【0140】
図16a〜
図16dは、化合物(1a)が、ET2にて形成された有機層上に堆積された層状構造について、AFMを用いて得られた実験結果を示す。
【0141】
図16aおよび
図16cは、金属の頂部電極を有さず、100nmのAgの層にて形成される金属の頂部電極を有する層構造についての結果を示す。
図16bおよび
図16dは、上記粗化層上において、30nmの厚さを有し、ET2にて形成された輸送層が堆積された層構造についての結果を示す。この場合も先と同様に、
図16b、および
図16dは、Ag製の金属の頂部電極を有するもの、およびAg製の金属の頂部電極を有さないものの結果を示す。
【0142】
有機発光素子は、
図17にて示される通りに調製された。以下の層状構造が、調製された:
17.1:ガラス基板
17.2:ITO(層の厚さ:90nm)
17.3:HT2:PD1(98.5:1.5)(50nm)
17.4:a−NPD(20nm)
17.5:化合物(1d)(10nm)
17.6:a−NPD:RE076(95:5)(20nm)
17.7:ET5(10nm)
17.8:ET2(10nm)
17.9:ET2:ND1(92:8)(40nm)
17.10:Ag
電子遮蔽層(EBL)17.4の材料は、代わりとして、HT1、HT2およびHT3であり得る。散乱層17.5はまた、化合物(1e)および(1f)として示された材料から形成され得る。他の実施形態において、上記素子は、散乱層17.5を用いないで形成され得る。略語RE076は、市販のイリジウム(III)ビス(2−メチルジベンゾ−[f,h]キノキサリン)(アセチルアセトネート)の材料を示す。
【0143】
別の有機発光素子が、
図18にて示される通りに調製された。自己結晶化化合物(1d)が、上記積層の正孔側の上に配置される。これは、上記電子輸送層側の上に上記粗化層を配置することが許されない層の例である。以下の層状構造が、調製された(pii−積層):
18.1:ガラス基板
18.2:ITO(層の厚さ:90nm)
18.3:HT2:PD1(98.5:1.5)(50nm)
18.4:a−NPD(20nm)
18.5:化合物(1d)(10nm)
18.6:a−NPD:RE076(95:5)(20nm)
18.7:ET5(60nm)
18.8:LiQ(2nm)
18.9:Al
電子遮蔽層(EBL)18.4の材料は、代わりとして、HT1、HT2およびHT3であり得る。散乱層18.5はまた、化合物(1e)および(1f)として示された材料から形成され得る。
【0144】
以下の表は、化合物(1d)および化合物(1f)を用いた、並びに、化合物(1d)および化合物(1f)を用いない、種々のEBL材料についての外部量子効率(EQE)を示す。外部量子効率は、3mA/cm
2の定電流の密度にて、積分球において測定された。上記効率の増大は、35%〜40%増加する。
【0146】
図19は、化合物(1d)〜(1f)のうちの1つから形成され、HT1に隣接して配置された層(3nm)を有する有機発光素子の断面を示す。HT1は、電子遮蔽層(EBL)としての機能を果たす。終端の有機層とカソードとの間の界面は、波型となる。その画像は、SEMを用いて得られた。アウトカップリングの機構は、化合物(1d)〜(1f)のうちの1つから形成された層が上記素子の電子輸送の側の上に配置される場合と同様であることが、
図19から結論づけられ得る。
【0147】
前述の詳細な説明、請求の範囲および図面に開示された本発明の特徴は、その種々の実施形態における本発明の実施のために、個々、および、任意の組み合わせの双方が重要であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【
図2】下地層上に粗化層を備える層構造の(断面の)略図。
【
図3】下地層上に粗化層を備える層構造の(断面の)略図。
【
図4】粗化層を伴う下地層、および、上記粗化層の上部に堆積される粗化層の(断面の)略図。
【
図6】サンプルの層構造について、AFM(「原子間力顕微鏡」)を用いて作成された断面測定。
【
図8a】有機発光素子について、SEM(「走査型電子顕微鏡」)によって得られた実験結果。
【
図8b】有機発光素子について、SEM(「走査型電子顕微鏡」)によって得られた実験結果。
【
図9a】有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果。
【
図9b】有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果。
【
図10a】有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果。
【
図10b】有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果。
【
図11a】有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果。
【
図11b】有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果。
【
図12a】有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果。
【
図12b】有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果。
【
図14a】SEMによって得られた、
図13における層構造を用いて調製された有機発光素子についての実験結果。
【
図14b】SEMによって得られた、
図13における層構造を用いて調製された有機発光素子についての実験結果。
【
図15a】SEMによって得られた、
図13における層構造を用いて調製された有機発光素子についての実験結果。
【
図15b】SEMによって得られた、
図13における層構造を用いて調製された有機発光素子についての実験結果。
【
図16a】層状構造について、AFMによって得られた実験結果。
【
図16b】層状構造について、AFMによって得られた実験結果。
【
図16c】層状構造について、AFMによって得られた実験結果。
【
図16d】層状構造について、AFMによって得られた実験結果。
【
図19】有機発光素子について、SEMによって得られた実験結果。