特許第6139641号(P6139641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139641
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】鋳造可能な耐熱性アルミニウム合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20170522BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20170522BHJP
   B22C 9/24 20060101ALI20170522BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20170522BHJP
   F02F 1/24 20060101ALI20170522BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170522BHJP
   C22F 1/043 20060101ALN20170522BHJP
【FI】
   C22C21/02
   B22D21/04 A
   B22C9/24 A
   F02F1/00 K
   F02F1/24 B
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 611
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630G
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 650D
   !C22F1/00 651B
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691A
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/043
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-223719(P2015-223719)
(22)【出願日】2015年11月16日
(62)【分割の表示】特願2013-515290(P2013-515290)の分割
【原出願日】2011年6月16日
(65)【公開番号】特開2016-35113(P2016-35113A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2015年11月16日
(31)【優先権主張番号】20100865
(32)【優先日】2010年6月16日
(33)【優先権主張国】NO
(73)【特許権者】
【識別番号】591237869
【氏名又は名称】ノルスク・ヒドロ・アーエスアー
【氏名又は名称原語表記】NORSK HYDRO ASA
(73)【特許権者】
【識別番号】512324948
【氏名又は名称】モンチュペ・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】MONTUPET S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(72)【発明者】
【氏名】イヴェランド、タリエ
(72)【発明者】
【氏名】ブルセッタグ、スティーグ
(72)【発明者】
【氏名】アショルト、ペッテル
(72)【発明者】
【氏名】バルラス、ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】マシノン、ドニ
(72)【発明者】
【氏名】メイエ、フィリップ
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−500793(JP,A)
【文献】 特表2007−516344(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0115375(US,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102006059899(DE,A1)
【文献】 アルミニウムハンドブック,日本,社団法人日本アルミニウム協会,2007年 1月31日,pp.21,219,249
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/02
C22F 1/043
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関における構成要素のような高温用途のための鋳造可能な耐熱性アルミニウム合金であって、前記合金がA356合金に基づいており、且つ
6.5wt%〜10wt%のSiと、
0.25wt%〜0.35wt%のMgと、
0.3wt%〜0.7wt%のCuと、
0.025wt%〜0.55wt%のHfと、
0wt%〜0.2wt%のTiと、
0wt%〜0.3wt%のZrと
0〜0.0151wt%のSrと
を含み、
残りが、Alと不可避の不純物とから構成されることを特徴とする、鋳造可能な耐熱性アルミニウム合金。
【請求項2】
0.4wt%〜0.6wt%のCuを含有することを特徴とする、請求項1に記載の鋳造可能な耐熱性アルミニウム合金。
【請求項3】
0.1wt%〜0.3wt%のHfを含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋳造可能な耐熱性アルミニウム合金。
【請求項4】
0.10wt%〜0.20wt%のTi及び0.10wt%〜0.20wt%のZrを含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳造可能な耐熱性アルミニウム合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関における構成要素のような高温用途のための、特に高負荷型シリンダヘッドの製造のための鋳造可能な耐熱性アルミニウム合金に関する。より具体的には、本出願に記載される材料は、将来のエンジンにおいて予想される最大で300℃までの温度で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッドの生産に使用されるアルミニウム合金は一般的には、典型的には5%〜10%の範囲のケイ素を含むAlSiファミリー由来のものである。アルミニウムにおけるケイ素の添加は、融点の低下に加えて、幾何学的複雑性が増大し続ける部品の生産に必要な、所要の鋳造能力をもたらす。シリンダヘッドに最も広範に使用される鋳造用合金は、(仕様及び使用する条件に応じて)ケイ素が5%〜10%の範囲であり、銅が0%〜3.5%の範囲である2つの主要なファミリーに属する。第1のファミリーは、その優れた鋳造能、良好な損傷許容性及び機械的特性(高温でのものを除く)のために知られている、AlSi7Mg系の合金(例えばSAE規格におけるA356)、一般的にはT7熱処理(完全な処理)合金に関する。第2のファミリーは、その経済的関心、高温での機械的耐性(ただし損傷許容性は乏しい)のために知られている、AlSi5%〜10%Cu3Mg(例えばSAE規格における319)、一般的にはT5(時効処理のみ)合金に関する。
【0003】
両方の場合において、これらの合金を使用することができる温度範囲は、その機械的特性、特に降伏強度が数時間後に著しく減少する(例えば図1参照)ために、280℃に制限されている。
【0004】
独国特許出願公開第10 2006 059 899号明細書から、4.5wt%〜7.5wt%のSi、0.2wt%〜0.55wt%のMg、0.03wt%〜0.50wt%のZr及び/又は0.03wt%〜1.5wt%のHf、最大0.20wt%のTi、0.3wt%以下のFe、0.5wt%未満のMn、0.1wt%〜1.0wt%のCu、0.07wt%未満のZnを含み、残りがAl及び不純物(最大0.03wt%)である、耐熱性アルミニウム合金が知られている。この特許文献は、比較的広い範囲のZr及び/又はHfと組み合わせて合金の耐熱性を改善するためのCu含有量に関連するもののようである。しかしながら、最適な組合せは、更には検証又は実証されていない。
【0005】
米国特許出願公開第2006/0115375号明細書は、5.5wt%〜7.5wt%のSi、0.20wt%〜0.32wt%のMg、0.03wt%〜0.50wt%のZr及び/又は0.03wt%〜1.50wt%のHf、0wt%〜0.20wt%のTi、0.20wt%未満のFe、0.50wt%未満のMn、0.05wt%未満のCu、並びに0.07wt%未満のZnを含む、強度が高く、耐熱性を有し、延性を有する鋳造アルミニウム合金に関する。この公知の合金を用いる目的は、150℃以上の温度でその強度値を保持すること、並びに相形成の低減に基づく熱膨張率の低下及びひいては最大で240℃までの温度での増強された熱機械的安定性の増強を得ることである。この合金は、非常に少量のCu(0に近い)と、比較的広い範囲の非常に高価であるHf(最大で1.50wt%まで)とを含有する。
【発明の概要】
【0006】
本発明によって、高温で改善された強度及びクリープ特性を有する鋳造可能な耐熱性アルミニウム合金が提供される。さらに、この合金は、最適な少量のHfを使用するため、これまでに知られているHfを含有する鋳造可能な合金より安価である。
【0007】
本発明は、添付の独立請求項1に定義されているような構成によって特徴付けられる。
【0008】
本発明の有利な実施形態はさらに、添付の従属請求項2〜4に定義されている。
【0009】
本発明は、実施例及び図面に従って、以下にさらに詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】A356 T7合金に関する時間及び温度に応じた硬度測定による時効処理の評価を示す図である。
図2】リボン状又は帯状のハフニウム含有析出物を含有する合金のミクロ構造の写真である。
図3】微細な硬化性MgSi析出物の存在を伴う合金のミクロ構造の別の写真である。
図4】300℃での共存平衡相β(MgSi)、θ(AlCu)及びQ(AlCuMgSi)の安定性領域を示すThermo−Calc(商標)シミュレーションである。
図5】20MPaの負荷の下で300℃での時間に応じた変形の合計を示す、複数の選択された合金に関するクリープ試験の結果を示す図である。
図6】種々の温度で試験された合金のうちの幾つかに関する低サイクル疲労挙動を示すグラフ(250℃での疲労試験(ε=0.001s−1及びΔε/2=0.005)における種々の合金に関する(安定化された材料を用いる)シミュレーションされたヒステリシスループ)である。
図7】低サイクル疲労試験(ε=0.001s−1及びΔε/2=0.003)において試験された合金のうちの幾つかの耐用期間を示す図である。
図8】種々のHf含有量を有する幾つかの更なる合金を用いるクリープ試験を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
近年、本出願人のうちの1人が、上述した合金ファミリーの中における興味深い折衷策である0.5%の銅を含有する鋳造用合金(AlSi7Cu05Mg)を開発した。この合金は、基準であるA356との関係で200℃を超える温度での材料安定性の改善を可能とした。
【0012】
さらに、本出願人のうちの1人が、AlSi10%Mg二次合金の改善策として、高負荷型ディーゼルヘッド用のAlSi10%Cu0.5%Mg合金を開発した。
【0013】
以下に記載される本発明は、300℃以上まで機械的特性に関する安定性範囲が拡大された新たな材料に関する。
【0014】
分散析出の利点は、工具鋼及び一部のアルミニウム合金において、既に長年にわたって知られている。特に、ジルコニウムを含有するAlCu5のような合金が、高温での特別な用途のために開発されている。しかしながら、これらの合金は、広範な固化範囲のために、鋳造することが非常に困難であり、このため、シリンダヘッドのような幾何学的に複雑な構成要素の生産には不適である。
【0015】
分散質は、再結晶化を回避するための又は再結晶化するミクロ構造のサイズを制御するための、鍛錬用合金の構造を制御するために使用される要素として、アルミニウム産業においても知られている。
【0016】
以下に記載される本発明は、高温で操作される構成要素の耐用期間を増大させるための、従来のアルミニウムケイ素合金における分散質のナノスケール析出物の実現に関する。
【0017】
本発明者らは、個人的な技術及び実験を通して、以下の組成の独創的な合金に到達した。
・ケイ素:6.5〜10wt%
・マグネシウム:0.25〜0.35wt%
・銅:0.3〜0.7wt%
・ハフニウム:0.025〜0.55wt%
・チタン:0〜0.2wt%
・ジルコニウム:0〜0.3wt%
残りは、Alと、不可避の不純物とからなる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、銅は0.4〜0.6wt%とすべきである。
【0019】
合金の化学組成に応じて、好ましくは熱処理を、以下のように、300℃/hの加熱速度によって行う必要がある。
475℃〜550℃(目標525℃)で5時間〜10時間(目標5時間)溶体化
(種々の媒質(主に水だが空気の場合もある)を用いて)急冷
180℃〜250℃(目標200℃)で2時間〜8時間(目標5時間)時効処理
【0020】
本発明によれば、特定の熱処理プロセスと組み合わせた従来のA356合金(AlSi7Mgとも呼ばれる)における銅及び特にハフニウムの添加によって、透過型電子顕微鏡(TEM)観察によって証明されるような特有のミクロ構造の形成がもたらされることが見出されている。添付の図2に示されるように、リボン状又は帯状のハフニウム含有析出物の存在を、α−アルミニウム相中に観察することができる。
【0021】
これらの析出物は、60nm〜240nmの幅を有し、数μm〜数十μmの長さを有する。
【0022】
図3において見られるような、α−アルミニウム相中における高密度の従来のβ”(MgSi)析出物によって、合金が、熱処理後、特性の特有の組み合わせ、特に室温での強度を有するようになる。
【0023】
明らかに、0.4%〜0.6%の範囲での銅の添加は、β”(MgSi)析出物の粗大化速度に対する効果を有する。200℃を超える温度での人工時効処理(T7焼戻し)後、MgSiは粗大なβ’析出物又はβ析出物へと変化して、コヒーレンスの喪失及び材料の軟化を引き起こすと一般的に理解されている。本発明を用いると、銅の添加によって、粗大化プロセスは明らかに遅くなる。おそらく、銅は、300℃での熱力学的シミュレーションによって示唆されるように、Q’相(AlCuMgSi)の形態下で析出物の微細分布中にも存在する。
【0024】
図4は、共存平衡相β(MgSi)、θ(AlCu)及びQ(AlCuMgSi)の安定性領域を示すThermo−Calc(商標)シミュレーションを示している。図4において示される「十字」は、合金の公称の組成点を表している。
【0025】
任意に、最大で0.3wt%までのZr及び最大で0.2wt%までのTiを、本発明による合金に添加してもよい。Zr及びTiが添加された合金のTEM検査によって、熱処理中に形成されたミクロ構造における棒状のAlSiZr及びAlSiZrTi析出物の存在が明らかとなる。
【実施例】
【0026】
以下の表1に記載されるような合金を用いて試験を行い、Hf及び/又はCuを含む又は含まない種々の合金と本発明による合金との特性を比較した。合金を、熱処理した、すなわち、以下の表にも記載されるような温度及び時間に従って溶体化及び時効処理した。尚、合金II−15及びII−18が本発明の実施例であり、その他は参考例である。
【0027】
【表1】
【0028】
高温で試験した合金の特性
クリープ実験を、ISO規格(2009年8月のEN ISO 204)に従って実施して、材料の挙動に対するHfを含有する析出物の影響を実証した。性能を、2つの他のAlSi鋳造用合金及び上述されるようなアルミニウム銅合金と比較した。
【0029】
図5は、300℃で被検査物上に適用される20MPaの一定の負荷に対する時間に応じた変形を示している。
【0030】
図5から、以下のことが分かる。
・他の通常のA356合金化元素に加えてジルコニウムを含有するII−2合金は、従来のA356(AlSi7Mg)合金よりも優れている。
・AlZr(Ti)分散質の存在を伴うAl5%CuであるIII−3合金は、II−2合金よりも優れている。
・通常のA356合金化元素に加えて0.5%のHfのみを含有するII−8合金は、III−3合金と類似した特性を示す。
・本発明による合金であるII−9合金は、最良のクリープ挙動を示す。この合金は、0.5%のHfに加えて0.5%の銅を含有する。この材料におけるハフニウムの添加がこの性能に主に関与し、このことはII−8合金の場合も同様であることが仮定される。II−9合金は僅かに多くのSiも含有するが、これはこの観点からは重要でないと考えられる。
【0031】
図6は、鋳造に一般的に使用される表1に列挙された種々の合金、すなわちA356 T7、A356+0.5%Cu T7、及び319 T5と比較したII−9合金の低サイクル疲労性能を示すグラフである。
【0032】
低サイクル疲労挙動を、種々の温度で及び種々の強制可塑性変形に関して評価した。図6において、可塑性変形パラメータは、従来からΔε/2によって設計される。図に描かれるグラフによって、250℃でII−9合金がA356及びA356+0.5%銅より高い降伏強度を示すことが示される。より驚くべきことに、II−9合金はまた、3%の銅を含有する319合金より性能が優れている。おそらく本当に、これは、高温でII−9合金より優れた材料安定性をもたらす分散析出の効果である。
【0033】
さらに、図7は、低サイクル疲労試験(ε=0.001s−1及びΔε/2=0.003)において、上述されたと共に表1に列挙されたものと同じ鋳造に一般的に使用される合金と比較したII−9合金の耐用期間(歪みサイクルの数、NR)を示している。
【0034】
図7において、疲労被検査物の耐用期間を、種々の合金に関して温度に応じてプロットする。温度が上昇すればするほど、II−9合金は、他の一般的に知られている合金のいずれよりも性能が優れるようになる。
【0035】
またさらに、図8は、表1に列挙された種々のHf含有量を有する幾つかの更なる合金(II−15、II−16又はII−18)を用いるクリープ試験を示すグラフである。Cu、Hf及びZrを含有する合金の全てが、低Hf合金でさえも、かなり類似したクリープ挙動を示す。おそらく本当に、クリープ特性に対するCu、Hf及びZrの相加的な効果が存在する。Hf含有相及びZr含有相のより緩やかな粗大化のため、Hf及びZrの効果は、Cuの効果より持続的であると考えられる。
【0036】
室温での特性
室温での特性を従来の引張試験後に導出した。結果を、上述された合金のうちの1つであるA356と比較して以下の表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2から明らかであるように、本発明による合金は、A356との関係において改善された機械的特性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8