特許第6139708号(P6139708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139708
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】鋼管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20170522BHJP
   F16L 15/06 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   F16L15/04 A
   F16L15/06
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-556787(P2015-556787)
(86)(22)【出願日】2015年1月9日
(86)【国際出願番号】JP2015000076
(87)【国際公開番号】WO2015105054
(87)【国際公開日】20150716
【審査請求日】2016年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-2614(P2014-2614)
(32)【優先日】2014年1月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099867
【氏名又は名称】バローレック・オイル・アンド・ガス・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井瀬 景太
(72)【発明者】
【氏名】太田 文雄
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 信
(72)【発明者】
【氏名】杉野 正明
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−531603(JP,A)
【文献】 特開平6−331070(JP,A)
【文献】 特開平2−271191(JP,A)
【文献】 特開平10−89554(JP,A)
【文献】 特開平9−126366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/04 − 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状のピンと、管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスが締結される鋼管用ねじ継手であって、
前記ピンは、先端側から順に、ショルダー面、シール面、及びテーパねじで台形ねじの雄ねじ部を備え、
前記ボックスは、前記ピンの前記ショルダー面に対応するショルダー面、前記ピンの前記シール面に対応するシール面、及び前記ピンの前記雄ねじ部に対応するテーパねじで台形ねじの雌ねじ部を備え、
前記雄ねじ部は、ねじ山頂面、ねじ谷底面、前記雌ねじ部へのねじ込みで先行する挿入フランク面、及びこの挿入フランク面とは反対側の荷重フランク面を備え、
前記雌ねじ部は、前記雄ねじ部の前記ねじ山頂面に対向するねじ谷底面、前記雄ねじ部の前記ねじ谷底面に対向するねじ山頂面、前記雄ねじ部の前記挿入フランク面に対向する挿入フランク面、及び前記雄ねじ部の前記荷重フランク面に対向する荷重フランク面を備え、
前記雄ねじ部の前記荷重フランク面、及び前記雌ねじ部の前記荷重フランク面の各フランク角が0°未満であり、
前記雌ねじ部は、前記ボックスの前記シール面に近い側から順に、不完全ねじ部領域、及び完全ねじ部領域に区分され、
前記雌ねじ部の前記ねじ谷底面が、前記不完全ねじ部領域及び前記完全ねじ部領域の全域にわたり、同一のテーパ面上にあり、
前記不完全ねじ部領域は、管軸に沿う長さが前記雌ねじ部のねじピッチの3倍以上であって、ねじ高さが前記完全ねじ部領域のねじ高さよりも低くなっており、
締結状態において、前記各ショルダー面が互いに接触し、前記各シール面が互いに接触し、前記完全ねじ部領域では、前記雄ねじ部の前記ねじ谷底面と前記雌ねじ部の前記ねじ山頂面が互いに接触するとともに、前記荷重フランク面が互いに接触し、前記不完全ねじ部領域では、前記雄ねじ部の前記ねじ谷底面と前記雌ねじ部の前記ねじ山頂面との間に隙間が形成されるとともに、前記荷重フランク面が互いに接触している、鋼管用ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記不完全ねじ部領域の管軸に沿う長さが前記雌ねじ部のねじピッチの8倍以下である、鋼管用ねじ継手。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記不完全ねじ部領域の前記ねじ山頂面が、前記完全ねじ部領域と前記不完全ねじ部領域との境界から管軸に平行な円筒面上にあるか、又は前記境界から管軸に対して傾斜したテーパ面上にある、鋼管用ねじ継手。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記不完全ねじ部領域の前記ねじ山頂面が、前記完全ねじ部領域と前記不完全ねじ部領域との境界から前記完全ねじ部領域の前記ねじ山頂面のねじテーパと平行なテーパ面上にある、鋼管用ねじ継手。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記雄ねじ部の前記ねじ山頂面が、前記雌ねじ部の前記不完全ねじ部領域及び前記完全ねじ部領域の全域にわたり、同一のテーパ面上にある、鋼管用ねじ継手。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記ピンは、前記シール面と前記ショルダー面との間にノーズ部を備え、
前記ボックスは、前記ピンの前記ノーズ部に対応する凹部を備え、
締結状態において、前記ピンの前記ノーズ部が前記ボックスの凹部に接触しない、鋼管用ねじ継手。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記ボックスは、前記不完全ねじ部領域と前記シール面との間に円周溝を備え、前記円周溝の管軸に沿う長さが前記雌ねじ部のねじピッチの3倍以下であり、
前記ピンの前記雄ねじ部が前記円周溝の領域まで形成されている、鋼管用ねじ継手。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の鋼管用ねじ継手において、
前記ピンは、前記雄ねじ部の後端部及び中間部のうちの少なくとも一方に外圧用シール面を備え、
前記ボックスは、前記ピンの前記外圧用シール面に対応する外圧用シール面を備える、鋼管用ねじ継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の連結に用いられるねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油井、天然ガス井など(以下、総称して「油井」ともいう)においては、ケーシング、チュービングなどの油井管として、ねじ継手により順次連結された鋼管が使用される。この種の鋼管用ねじ継手の形式は、カップリング方式とインテグラル方式に大別される。
【0003】
カップリング方式の場合、連結対象の一対の管材のうち、一方の管材が鋼管であり、他方の管材がカップリングである。この場合、鋼管の両端部の外周に雄ねじ部が設けられ、カップリングの両端部の内周に雌ねじ部が設けられる。そして、鋼管の雄ねじ部がカップリングの雌ねじ部にねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。インテグラル方式の場合、連結対象の一対の管材がともに鋼管であり、別個のカップリングを用いない。この場合、鋼管の一端部の外周に雄ねじ部が設けられ、他端部の内周に雌ねじ部が設けられる。そして、一方の鋼管の雄ねじ部が他方の鋼管の雌ねじ部にねじ込まれ、これにより両者が締結されて連結される。
【0004】
一般に、雄ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雌ねじ部に挿入される要素を含むことから、ピンと称される。一方、雌ねじ部が形成された管端部の継手部分は、雄ねじ部を受け入れる要素を含むことから、ボックスと称される。これらのピンとボックスは、管材の端部であるため、いずれも管状である。
【0005】
図1は、鋼管用ねじ継手の全体構成の一例を示す断面図である。図1に例示するねじ継手は、カップリング方式のねじ継手であり、ピン10とボックス20とから構成される。
【0006】
ピン10は、先端側から基部側に向けて順に、ショルダー面17、シール面16、及び雄ねじ部11を備える。シール面16はテーパ状である。厳密には、シール面16は、先端側ほど直径が縮小した円錐台の周面に相当する面から成る形状、又はその円錐台の周面と、円弧などの曲線を管軸CL周りに回転して得られる回転体の周面に相当する面とを組み合わせた形状をしている。ショルダー面17は、管軸CLとは直角な径方向にほぼ沿った環状面であり、厳密には、その外周側がピン10の先端側に向けて僅かに傾倒している。
【0007】
一方、ボックス20は、基部側から先端側に向けて順に、ショルダー面27、シール面26、及び雌ねじ部21を備える。これらのショルダー面27、シール面26、及び雌ねじ部21は、それぞれ、ピン10のショルダー面17、シール面16、及び雄ねじ部11に対応して設けられている。ここでのピン10の雄ねじ部11とボックス20の雌ねじ部21は、互いに噛み合うテーパねじの台形ねじである。
【0008】
雄ねじ部11と雌ねじ部21は、互いのねじ込みを可能にし、締結状態では互いに嵌め合い密着し、締まりばめの状態となる。各シール面16、26は、ピン10のねじ込みに伴って互いに接触し、締結状態では嵌め合い密着して締まりばめの状態となり、メタル−メタル接触によるシールを形成する。各ショルダー面17、27は、ボックス20へのピン10のねじ込みに伴って互いに接触して押し付けられ、ピン10のねじ込みを制限するストッパの役割を担う。更に、各ショルダー面17、27は、締結状態では、ピン10の雄ねじ部11にねじ込み進行方向(前方)とは反対方向(後方)への荷重、いわゆるねじの締め付け軸力を付与する役割を担う。
【0009】
このような構成のねじ継手では、シール面16、26同士の嵌め合い密着によるシールにより、密封性能が確保される。
【0010】
近年、油井環境は、高深度化及び超深海化が進展し、これに伴い、高温・高圧で高腐食という過酷な環境となっている。このような過酷な環境では主に厚肉の鋼管が使用される。これらの鋼管を接続するねじ継手には、耐引張性能、耐圧縮性能等の継手強度が要求されることに加え、内圧及び外圧に対する優れた密封性能が要求される。
【0011】
ねじ継手の密封性能を高めるためには、シール面間に高い接触面圧を発生させればよい。従来、シール面の接触面圧を高めるため、シール面同士の締め代(干渉量)を大きくする方策が取られている。加えて、ねじの嵌め合い密着の作用がシール面の接触面圧の低下を来さないように、シール面に近い領域に限定してねじの嵌め合い密着を緩和する方策が取られている(例えば、米国特許2062407号公報(特許文献1)、特開平2−80886号公報(特許文献2)、特開昭62−196488号公報(特許文献3)、及び特開平10−89555号公報(特許文献4)参照)。
【0012】
図2は、特許文献1及び2に開示された従来の鋼管用ねじ継手におけるシール面付近の構成を示す断面図である。図2に示す従来のねじ継手では、締結状態において、ピン10の雄ねじ部11とボックス20の雌ねじ部21は、互いに嵌め合い密着し、雄ねじ部11の荷重フランク面15と雌ねじ部21の荷重フランク面24が接触して締め付け軸力を受けるとともに、雄ねじ部11のねじ谷底面13と雌ねじ部21のねじ山頂面22が接触している。ただし、シール面16、26に近いねじ部領域では、雄ねじ部11のねじ谷底面13と雌ねじ部21のねじ山頂面22との間に隙間が形成され、ねじの嵌め合い密着が緩和されている。
【0013】
ここでいう雄ねじ部11の荷重フランク面15は、ねじ山を構成する前後のフランク面のうち、雌ねじ部21への雄ねじ部11のねじ込みで先行する挿入フランク面14とは反対側のフランク面のことである。雌ねじ部21の荷重フランク面24は、ねじ山を構成する前後のフランク面のうち、雄ねじ部11の荷重フランク面15と対向するフランク面のことである。
【0014】
図2に示すねじ継手によれば、シール面16、26に近いねじ部領域においてねじの嵌め合い密着が緩和されているので、内圧が負荷された場合、ピン10のシール面16に近いねじ部領域が内側から押し上げられて直径が拡大される様相になり、シール面16、26の接触面圧が増幅される。
【0015】
ここで、図2に示す従来のねじ継手では、荷重フランク面15、24の各フランク角θが、0°を超えている。フランク角θは、管軸CLに直角な面とフランク面との成す角度のことである。ここでは、荷重フランク面のフランク角は時計回りを正とし、それとは逆に、挿入フランク面のフランク角は反時計回りを正とする。荷重フランク面のフランク角θが0°を超えていると、内圧が負荷された場合に、ピン10の荷重フランク面15にボックス20の荷重フランク面24からピン10を押し下げる方向に反力が作用する。このため、ピン10の十分な押し上げ効果を得ることができず、内圧負荷時にシール面16、26の接触面圧の増幅がそれほど期待できない。
【0016】
図3は、特許文献3に開示された従来の鋼管用ねじ継手におけるシール面付近の構成を示す断面図である。図3に示す従来のねじ継手でも、シール面16、26に近いねじ部領域において、雄ねじ部11のねじ谷底面13と雌ねじ部21のねじ山頂面22との間に隙間が形成され、ねじの嵌め合い密着が緩和されている。そして、荷重フランク面15、24の各フランク角θが、0°未満となっている。
【0017】
図3に示すねじ継手によれば、荷重フランク面のフランク角θが0°未満であるため、内圧負荷時に、ピン10の荷重フランク面15にピン10を押し下げる方向に反力が作用しない。このため、ピン10の十分な押し上げ効果を得ることができ、内圧負荷時にシール面16、26の接触面圧の増幅が期待できる。
【0018】
ここで、図3に示すねじ継手では、シール面16、26に近いねじ部領域において、ピン10の雄ねじ部11のねじ山頂面12が急勾配のテーパ角度でピン10の先端側ほど縮小し、ねじ高さが先端側ほど急激に低くなっている。このため、ピン10の剛性が低下する。これにより、外圧に対するピン10の変形抵抗が小さくなり、外圧負荷時に、シール面16、26の接触面圧が低くなる。加えて、ピン10の雄ねじ部11の先端側のねじ高さが低いため、ピン10をボックス20に挿入した際に、ねじの噛み合いが少なく、ピン10の偏芯が大きくなる。これにより、ピン10のボックス20へのねじ込み開始時に、ピン10の雄ねじ部11のねじ山角部がボックス20の雌ねじ部21と局所的に接触する事態が生じる。この局所的な接触部分で面圧が高くなることから、焼付きが発生し易い。
【0019】
更に、図3に示すねじ継手では、ボックス20の雌ねじ部21のねじ谷底面23のテーパ角度が変化している。このため、加工が複雑になり、加工時間が増加したり、工具寿命が低下することから、製造コストが上昇するという問題もある。
【0020】
これらの図2及び図3に示すねじ継手は、いずれも、シール面に近いねじ部領域において、雄ねじ部のねじ谷底面と雌ねじ部のねじ山頂面との間に隙間を形成することにより、ねじの嵌め合い密着の緩和を図っている。それ以外に、ねじの嵌め合い密着をシール面に近い領域で緩和する方策としては、特許文献4に開示されるように、ボックスの雌ねじ部とシール面との間に円周溝(グルーブ)を設ける方策がある。
【0021】
しかし、特許文献4に開示されるねじ継手では、ボックスへの円周溝の設置により、シール面に近い領域でねじの噛み合いが減少する。このため、外圧が負荷されたときに、ピンが縮径し易くなり、外圧に対する密封性能が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】米国特許2062407号公報
【特許文献2】特開平2−80886号公報
【特許文献3】特開昭62−196488号公報
【特許文献4】特開平10−89555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上述のとおり、従来のねじ継手は、締結状態でのシール面の接触面圧のみを考慮したものに過ぎない。すなわち、内圧及び外圧が作用した場合の接触面圧の変化について十分に考慮されていない。
【0024】
本発明の目的は、下記の特性を有する鋼管用ねじ継手を提供することである:
外圧に対するシールの密封性能を維持しつつ、内圧に対するシールの密封性能を向上させること。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の一実施形態による鋼管用ねじ継手は、管状のピンと、管状のボックスとから構成され、前記ピンが前記ボックスにねじ込まれて前記ピンと前記ボックスが締結される鋼管用ねじ継手である。
前記ピンは、先端側から順に、ショルダー面、シール面、及びテーパねじで台形ねじの雄ねじ部を備える。
前記ボックスは、前記ピンの前記ショルダー面に対応するショルダー面、前記ピンの前記シール面に対応するシール面、及び前記ピンの前記雄ねじ部に対応するテーパねじで台形ねじの雌ねじ部を備える。
前記雄ねじ部は、ねじ山頂面、ねじ谷底面、前記雌ねじ部へのねじ込みで先行する挿入フランク面、及びこの挿入フランク面とは反対側の荷重フランク面を備える。
前記雌ねじ部は、前記雄ねじ部の前記ねじ山頂面に対向するねじ谷底面、前記雄ねじ部の前記ねじ谷底面に対向するねじ山頂面、前記雄ねじ部の前記挿入フランク面に対向する挿入フランク面、及び前記雄ねじ部の前記荷重フランク面と対向する荷重フランク面を備える。
前記雄ねじ部の前記荷重フランク面、及び前記雌ねじ部の前記荷重フランク面の各フランク角が0°未満である。
前記雌ねじ部は、前記ボックスの前記シール面に近い側から順に、不完全ねじ部領域、及び完全ねじ部領域に区分される。
前記雌ねじ部の前記ねじ谷底面が、前記不完全ねじ部領域及び前記完全ねじ部領域の全域にわたり、同一のテーパ面上にある。
前記不完全ねじ部領域は、管軸に沿う長さが前記雌ねじ部のねじピッチの3倍以上であって、ねじ高さが前記完全ねじ部領域のねじ高さよりも低くなっている。
このような構成の鋼管用ねじ継手は、
締結状態において、前記各ショルダー面が互いに接触し、前記各シール面が互いに接触する。前記完全ねじ部領域では、前記雄ねじ部の前記ねじ谷底面と前記雌ねじ部の前記ねじ山頂面が互いに接触するとともに、前記荷重フランク面が互いに接触する。前記不完全ねじ部領域では、前記雄ねじ部の前記ねじ谷底面と前記雌ねじ部の前記ねじ山頂面との間に隙間が形成されるとともに、前記荷重フランク面が互いに接触している。
【0026】
上記のねじ継手において、
前記不完全ねじ部領域の管軸に沿う長さが前記雌ねじ部のねじピッチの8倍以下であることが好ましい。
【0027】
また、上記のねじ継手は、
前記不完全ねじ部領域の前記ねじ山頂面が、前記完全ねじ部領域と前記不完全ねじ部領域との境界から管軸に平行な円筒面上にあるか、又は前記境界から管軸に対して傾斜したテーパ面上にある構成とすることができる。
【0028】
この構成に代えて、上記のねじ継手は、
前記不完全ねじ部領域の前記ねじ山頂面が、前記完全ねじ部領域と前記不完全ねじ部領域との境界から前記完全ねじ部領域の前記ねじ山頂面のねじテーパと平行なテーパ面上にある構成とすることができる。
【0029】
また、上記のねじ継手において、
前記雄ねじ部の前記ねじ山頂面が、前記不完全ねじ部領域及び前記完全ねじ部領域の全域にわたり、同一のテーパ面上にある構成とすることができる。
【0030】
また、上記のねじ継手において、
前記ピンは、前記シール面と前記ショルダー面との間にノーズ部を備え、
前記ボックスは、前記ピンの前記ノーズ部に対応する凹部を備え、
締結状態において、前記ピンの前記ノーズ部が前記ボックスの凹部に接触しない構成とすることができる。
【0031】
更に、上記のねじ継手において、
前記ボックスは、前記不完全ねじ部領域と前記シール面との間に円周溝を備え、前記円周溝の管軸に沿う長さが前記雌ねじ部のねじピッチの3倍以下であり、
前記ピンの前記雄ねじ部が前記円周溝の領域まで形成されている構成とすることができる。
【0032】
更に、上記のねじ継手において、
前記ピンは、前記雄ねじ部の後端部及び中間部のうちの少なくとも一方に外圧用シール面を備え、
前記ボックスは、前記ピンの前記外圧用シール面に対応する外圧用シール面を備える構成とすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の鋼管用ねじ継手は、下記の顕著な効果を有する:
外圧に対するシールの密封性能を維持しつつ、内圧に対するシールの密封性能を向上させることができること。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、鋼管用ねじ継手の全体構成の一例を示す断面図である。
図2図2は、特許文献1及び2に開示された従来の鋼管用ねじ継手におけるシール面付近の構成を示す断面図である。
図3図3は、特許文献3に開示された従来の鋼管用ねじ継手におけるシール面付近の構成を示す断面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手におけるシール面付近の構成を示す断面図である。
図5図5は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手におけるボックス雌ねじ部の形態の一例を示す断面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手におけるボックス雌ねじ部の形態の別例を示す断面図である。
図7図7は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手におけるボックス雌ねじ部の形態の更に別例を示す断面図である。
図8図8は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手におけるシール面付近の構成の変形例を示す断面図である。
図9図9は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手におけるシール面付近の構成の更なる変形例を示す断面図である。
図10図10は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手の変形例を示す断面図である。
図11図11は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手の更なる変形例を示す断面図である。
図12図12は、実施例の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明者らは、内圧によるピンの押し上げ効果を利用してシール面の接触面圧を向上させることができるとの着想に基づき、シール面に近い領域でねじの嵌め合い密着の態様を種々変更した有限要素解析を実施し、内圧及び外圧に対する密封性能を評価した。その結果、互いに噛み合うピンの雄ねじ部とボックスの雌ねじ部のうち、ボックスの雌ねじ部に限定し、そのシール面に近いねじ部領域でねじ高さを低くしてねじの嵌め合い密着を緩和するのが有効であることを見出した。以下に、本発明の鋼管用ねじ継手の好ましい実施形態を説明する。
【0036】
図4は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手におけるシール面付近の構成を示す断面図である。本実施形態のねじ継手は、前記図1図3に示す従来のねじ継手の構成を基本とし、雄ねじ部11の荷重フランク面15、及び雌ねじ部21の荷重フランク面24の各フランク角θが、0°未満となっている。すなわち、本実施形態のねじ継手におけるテーパねじは、荷重フランク面がフック状に傾倒した台形テーパねじである。
【0037】
ボックス20の雌ねじ部21は、シール面26に近い側から順に、不完全ねじ部領域21b、及び完全ねじ部領域21aに区分されている。不完全ねじ部領域21bは、管軸CLに沿う長さが雌ねじ部21のねじピッチの3倍以上とされている。更に、不完全ねじ部領域21bの雌ねじ部21は、ねじ高さが完全ねじ部領域21aのねじ高さよりも低くなっている。不完全ねじ部領域21bのねじ谷底面23は、完全ねじ部領域21aのねじ谷底面23と同一のテーパ面上にある。すなわち、雌ねじ部21のねじ谷底面23が、両ねじ部領域21a、21bの全域にわたり、同一のテーパ面上にある。
【0038】
締結状態において、各ショルダー面17、27が互いに接触し、各シール面16、26が互いに接触する。完全ねじ部領域21a及び不完全ねじ部領域21bのいずれでも、雄ねじ部11の荷重フランク面15と雌ねじ部21の荷重フランク面24が互いに接触する。ただし、完全ねじ部領域21aでは、雄ねじ部11のねじ谷底面13と雌ねじ部21のねじ山頂面22が互いに接触するのに対し、シール面16、26に近い不完全ねじ部領域21bでは、雄ねじ部11のねじ谷底面13と雌ねじ部21のねじ山頂面22との間に隙間が形成され、ねじの嵌め合い密着が緩和されている。
【0039】
本実施形態のねじ継手によれば、荷重フランク面のフランク角θが0°未満であるため、内圧負荷時に、ピン10の荷重フランク面15にピン10を押し下げる方向に反力が作用しない。このため、ピン10の十分な押し上げ効果を得ることができ、内圧負荷時にシール面16、26の接触面圧の増幅が期待できる。
【0040】
ピン10の雄ねじ部11は、ボックス20の不完全ねじ部領域21bにおいても完全ねじ部領域21aと同様の形態が確保されている。すなわち、雄ねじ部11のねじ山頂面12が、雌ねじ部21の不完全ねじ部領域21b及び完全ねじ部領域21aの全域にわたり、同一のテーパ面上にある。このため、不完全ねじ部領域21bでピン10の剛性が確保されるとともに、ねじの噛み合いが十分確保される。これにより、外圧負荷時にピン10の縮径に対する変形抵抗が高くなり、外圧に対する密封性能を維持できる。しかも、ピン10の雄ねじ部11のねじ高さが不完全ねじ部領域21bでも確保されているので、ピン10をボックス20に挿入した際に、ねじの噛み合いが安定し、焼付きが生じ難い。
【0041】
ボックス20の不完全ねじ部領域21bの長さは、雌ねじ部21のねじピッチの3倍以上とする。これは以下の理由による。不完全ねじ部領域21bの長さがねじピッチの3倍より短いと、内圧によるピン10の押し上げ効果が作用する領域が小さくなる。このため、シール面16、26の接触面圧を増幅させるほどの十分な押し上げ力が得られない。
【0042】
ただし、不完全ねじ部領域21bの範囲が長くなるにつれて、ボックス20の剛性が低下してボックス20が変形し易くなる。このため、複合荷重下でのシール面16、26の接触面圧が低下する。また、実質的なねじの噛み合い面積が減少する。このため、ピン10がボックス20から不用意に引き抜ける事態(ジャンプアウト)が生じるおそれがある。したがって、不完全ねじ部領域21bの長さは、最大でもねじピッチの8倍とするのが好ましい。この長さは、より好ましくはねじピッチの6倍以下、更に好ましくはねじピッチの5倍以下とする。
【0043】
また、本実施形態のねじ継手では、上述のとおり、内圧負荷時にピン10の押し上げ効果が阻害されないように、雄ねじ部11の荷重フランク面15、及び雌ねじ部21の荷重フランク面24のフランク角θが0°未満となっている。このフランク角θは、下限を特に規定しないが、ねじ切り加工の実用性を踏まえ、好ましくは−15°以上、より好ましくは−10°以上とする。
【0044】
ボックス20に設ける雌ねじ部21(完全ねじ部領域21a及び不完全ねじ部領域21b)の形態としては、下記(1)〜(3)の形態を適用することができる。
【0045】
(1)図5は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手におけるボックス雌ねじ部の形態の一例を示す断面図である。図5に示す雌ねじ部21は、不完全ねじ部領域21bのねじ山頂面22が、完全ねじ部領域21aと不完全ねじ部領域21bとの境界から管軸CLに平行な円筒面上にある。このような雌ねじ部21の形態は、ねじ切り加工前にボックス20に予め形成しておく下穴の形状を適切に設定することにより、容易に得ることができる。
【0046】
具体的には、完全ねじ部領域21aの下穴として、完全ねじ部領域21aのねじ山頂面22に対応するテーパ面の下穴を設ける。更に、不完全ねじ部領域21bの下穴として、両ねじ部領域21a、21bの境界から管軸CLに平行な円筒面の下穴を設ける。このような下穴に対して、完全ねじ部領域21aから不完全ねじ部領域21bまでの全域にわたり、ねじのテーパ角度及びねじピッチを一定にしてねじ切り加工を施せばよい。
【0047】
(2)図6は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手におけるボックス雌ねじ部の形態の別例を示す断面図である。図6に示す雌ねじ部21は、不完全ねじ部領域21bのねじ山頂面22が、完全ねじ部領域21aと不完全ねじ部領域21bとの境界から管軸CLに対して傾斜したテーパ面上にある。このような雌ねじ部21の形態を得るためには、完全ねじ部領域21aの下穴として、完全ねじ部領域21aのねじ山頂面22に対応するテーパ面の下穴を設ける。更に、不完全ねじ部領域21bの下穴として、両ねじ部領域21a、21bの境界から先端側ほど口広がりとなるテーパ面の下穴を設ける。このような下穴に対して、完全ねじ部領域21aから不完全ねじ部領域21bまでの全域にわたり、ねじのテーパ角度及びねじピッチを一定にしてねじ切り加工を施せばよい。
【0048】
(3)図7は、本発明の一実施形態である鋼管用ねじ継手におけるボックス雌ねじ部の形態の更に別例を示す断面図である。図7に示す雌ねじ部21は、不完全ねじ部領域21bのねじ山頂面22が、完全ねじ部領域21aと不完全ねじ部領域21bとの境界から完全ねじ部領域21aのねじ山頂面のねじテーパと平行なテーパ面上にある。このような雌ねじ部21の形態を得るためには、完全ねじ部領域21aの下穴として、完全ねじ部領域21aのねじ山頂面22に対応するテーパ面の下穴を設ける。更に、不完全ねじ部領域21bの下穴として、両ねじ部領域21a、21bの境界から径方向に一段下がって、完全ねじ部領域21aのねじ山頂面22に対応するテーパ面と平行なテーパ面の下穴を設ける。このような下穴に対して、完全ねじ部領域21aから不完全ねじ部領域21bまでの全域にわたり、ねじのテーパ角度及びねじピッチを一定にしてねじ切り加工を施せばよい。
【0049】
上記(1)、(2)の形態は、完全ねじ部領域21aと不完全ねじ部領域21bとの境界でねじ山の段差が生じないという利点がある。一方、上記(3)の形態は、完全ねじ部領域21aと不完全ねじ部領域21bとの境界でねじ山の段差が生じるが、不完全ねじ部領域21bにおいて、雄ねじ部11のねじ谷底面13と雌ねじ部21のねじ山頂面22との間の隙間が一定になることから、その隙間管理が容易であるという利点がある。
【0050】
なお、不完全ねじ部領域21bにおいて、雄ねじ部11のねじ谷底面13と雌ねじ部21のねじ山頂面22との間の隙間は、ねじのテーパ角度及び管軸CLに沿った位置によって異なるが、内圧負荷時にピン10の押し上げ効果が阻害されないように設定される。その隙間は、概ねピン10の雄ねじ部11とボックス20の雌ねじ部21とのねじ山高さの差(一般的に0.1〜0.2mm程度)以上あればよい。
【0051】
その他、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、図8に示すように、ピン10は、シール面16とショルダー面17との間に先端側に向けて伸び出すノーズ部18を備え、ボックス20は、ピン10のノーズ部18に対応する凹部28を備える構成を採用することができる。この場合、締結状態において、ピン10のノーズ部18はボックス20の凹部28に接触しない構成となる。このような構成のねじ継手では、ノーズ部18の設置により、ピン10の剛性が向上する。このため、外圧に対する密封性能が大幅に向上する。
【0052】
また、図9に示すように、ボックス20は、不完全ねじ部領域21bとシール面26との間に円周溝29を備え、ピン10の雄ねじ部11が円周溝29の領域まで形成されている構成を採用することができる。この円周溝29は、ねじ部にドープ(潤滑剤)が過剰に塗布された場合にドープを収容し、これにより、ドープ圧の異常上昇を抑制してシール面16、26の接触面圧の低下を防ぐ効果をもたらす。この場合、円周溝29の管軸CLに沿う長さは、雌ねじ部21のねじピッチの3倍以下とする。これは以下の理由による。
【0053】
上記の不完全ねじ部領域21bに加え、円周溝29の長さが長いほど、内圧によるピン10の押し上げ効果が作用する領域が増加し、シール面16、26の接触面圧が増幅される。ただし、円周溝29の長さが長すぎると、ねじの噛み合い面積の減少により、外圧に対する密封性能が低下する傾向になる。円周溝29の長さがねじピッチの3倍以下であれば、外圧に対する密封性能への悪影響はほとんどない。
【0054】
また、本実施形態のねじ継手は、ねじ部領域の先端側にのみシール面16、26を備えたものである。もっとも、そのシール面16、26とは別個に、ねじ部領域の後端部又は中間部に、外圧に対する密封性能を確保するための外圧用シールを設けても構わない。
【0055】
具体的には、図10に示すように、ピン10は、雄ねじ部21の後端部に外圧用シール面16Aを備え、ボックス20は、その外圧用シール面16Aに対応する外圧用シール面26Aを備える構成とすることができる。また、図11に示すように、ピン10は、ねじ部21の中間部に外圧用シール面16Bを備え、ボックス20は、その外圧用シール面16Bに対応する外圧用シール面26Bを備える構成とすることができる。図10に示す後端部の外圧用シール面16A、26Aと、図11に示す中間部の外圧用シール面16B、26Bを並設することもできる。このような外圧用シール面16A、26A、16B、26Bを備えるねじ継手において、何らかの理由で外圧が外圧用シール面16A、26A、16B、26Bを超えて内圧用シール面16、26まで浸透した場合でも、内圧用シール面16、26が外圧に対して密封性能を補う。
【0056】
また、本実施形態のねじ継手は、インテグラル方式及びカップリング方式のいずれにも適用することができる。
【実施例】
【0057】
本発明による効果を確認するため、弾塑性有限要素法による数値シミュレーション解析を実施した。
【0058】
<試験条件>
FEM解析では、カップリング方式の油井管用ねじ継手について、ねじ部領域の長さを種々変更したモデルを作製した。共通の条件は下記のとおりである。
・鋼管の寸法:8−5/8[inch]、64[lb/ft](外径が219.1mm、肉厚が19.05mm)
・カップリングの外径:235.8mm
・鋼管(ピン)及びカップリング(ボックス)のグレード:API(American Petroleum Institute(アメリカ石油協会))規格のQ125(降伏応力が125[ksi]の炭素鋼)
・ねじ形状:テーパが1/18、ねじ高さが1.575[mm]、ねじピッチが5.08[mm]、荷重フランク面のフランク角が−3°、挿入フランク面のフランク角が10°、挿入フランク面すき間が0.15[mm]
【0059】
FEM解析では、材料を等方硬化の弾塑性体とした。弾性係数は210[GPa]とし、0.2%耐力としての公称降伏強度は125[ksi](=862[MPa])とした。締め付けは、ピンとボックスのショルダー面が接触してから更に1.0/100回転した状態まで行った。
【0060】
変更した寸法条件は下記の表1のとおりである。
【0061】
【表1】
【0062】
試験No.1〜5は、前記図8に示すねじ継手に基づくものであり、ボックスに円周溝が設けられていない。そのうちの試験No.1〜3は、ボックスの不完全ねじ部領域の長さが本発明で規定する範囲(ねじピッチの3倍以上)を満たさない比較例である。試験No.4及び5は、不完全ねじ部領域の長さが本発明で規定する範囲を満たす本発明例である。
【0063】
試験No.6〜12は、前記図9に示すねじ継手に基づくものであり、ボックスに円周溝が設けられている。そのうちの試験No.6及び7は、ボックスの不完全ねじ部領域の長さが本発明で規定する範囲を満たさない比較例である。試験No.8〜12は、不完全ねじ部領域の長さが本発明で規定する範囲を満たす本発明例である。
【0064】
<評価方法>
FEM解析では、締結状態のモデルにISO13679 Series A試験を模擬した荷重履歴を負荷した。その履歴の内圧サイクル(第一、第二象限)及び外圧サイクル(第三、第四象限)におけるシール面の平均接触面圧の最小値(この値が高いほどシール面の密封性能が良いことを意味する)を比較することにより、シール面の密封性能を評価した。その評価は、試験No.1における内圧に対する密封性能及び外圧に対する密封性能をそれぞれ1とし、この試験No.1に対する比率で行った。評価基準として、内圧に対する密封性能は1.2以上を必要とし、外圧に対する密封性能は0.85以上を必要とした。
【0065】
更に、ねじの噛み合い面積を算出し、その噛み合い面積を比較することにより、耐ジャンプアウト性を評価した。その評価は、試験No.1における噛み合い面積を1とし、この試験No.1に対する比率で行った。評価基準として、噛み合い面積は最低でも0.55以上を必要とし、望ましくは0.7以上を必要とした。
【0066】
そして、シール面の密封性能が評価基準を満たすとともに、噛み合い面積が0.55以上のものを「○:良」とし、更に、噛み合い面積が0.7以上のものを「◎:優」とした。シール面の密封性能及び噛み合い面積のいずれか一方が評価基準を満たさないものは、「△:不可」とした。
【0067】
<試験結果>
試験結果を上記の表1及び下記の図12に示す。
【0068】
比較例である試験No.2、3及び6では、不完全ねじ部領域の長さが短く、ピンの押し上げ効果が十分得られなかった。このため、内圧に対する密封性能の改善が認められなかった。
【0069】
本発明例である試験No.4及び5では、十分なピンの押し上げ効果が得られ内圧に対する密封性能が20%以上向上し、且つ外圧に対する密封性能が高く維持された。
【0070】
比較例である試験No.7では、内圧に対する密封性能が向上した。しかし、円周溝の長さが長すぎて、シール面の近傍でねじの噛み合いがなくなり、外圧負荷時のピンの縮径が大きくなった。このため、外圧に対する密封性能が25%も低下した。
【0071】
本発明例である試験No.8〜12では、内圧に対する密封性能の向上に加え、円周溝によるドープ圧の異常上昇の抑制効果を得ることができた。
【0072】
本発明例である試験No.4、5、8〜12のいずれも、ボックスの不完全ねじ部領域の長さがねじピッチの3倍以上で且つ6倍以下であり、0.55以上のねじの噛み合い面積が確保された。このため、高い耐ジャンプアウト性が期待できる。その中でも試験No.4、5、8、9は、ボックスの不完全ねじ部領域の長さがねじピッチの3倍以上で且つ5倍以下であり、かみ合い面積が大きく、最も好適であった。
【0073】
以上の結果から、本発明の鋼管用ねじ継手は、内圧及び外圧に対する密封性能が優れることが実証できた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のねじ継手は、過酷な環境で油井管として用いられる厚肉鋼管の連結に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0075】
10:ピン、 11:雄ねじ部、
12:雄ねじ部のねじ山頂面、 13:雄ねじ部のねじ谷底面、
14:雄ねじ部の挿入フランク面、 15:雄ねじ部の荷重フランク面、
16:ピンの内圧用シール面、
16A、16B:ピンの外圧用シール面、
17:ピンのショルダー面、 18:ノーズ部、
20:ボックス、 21:雌ねじ部、
22:雌ねじ部のねじ山頂面、 23:雌ねじ部のねじ谷底面、
24:雌ねじ部の荷重フランク面、 25:雌ねじ部の挿入フランク面、
21a:完全ねじ部領域 21b:不完全ねじ部領域、
26:ボックスの内圧用シール面、
26A、26B:ボックスの外圧用シール面、
27:ボックスのショルダー面、 28:凹部、 29:円周溝、
θ:荷重フランク面のフランク角、 CL:管軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12