(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転しながら切削加工される被工作物に対し、前記回転により描かれる円の径方向に移動可能な切削工具を用いて所定の半径rを有する2つの円柱を所定の中心点から夫々異なる位置に偏心させて形成する偏心体の製造方法であって、
前記回転に同期させて前記切削工具を径方向に移動させつつ、前記中心点からの距離がdとなる位置に偏心された第1の円柱を形成する第1の工程と、
前記第1の円柱に連なるように、前記回転に同期させて前記切削工具を径方向に移動させつつ、前記第1の円柱と対称となる位置であり前記中心点からの距離がdとなる位置に偏心された第2の円柱を形成する第2の工程と、
を備えることを特徴とする偏心した2つの円柱が連なって形成された楕円状偏心体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。ここでは、円とは、真円だけでなく真円に近いものも含むものとする。真円でない円に対し、2つの幾何学的円で挟んだときの同心二円の間隔が最小となる2つの円の半径差をtとし、2つの円のうち大きい方の円の半径をrとした場合のt/rの割合が5%以下のものを含むものとする。
【0013】
図1は、工作機械であるCNC自動旋盤10の要部概要図である。
図2は、被工作物8から偏心した第1の円柱20を形成する手順を示す図である。
図3は、被工作物8から偏心体18を形成する手順を示すフローチャートである。
図4は、本発明に係る実施の形態の偏心体の製造方法により、製造された偏心体18を示す図である。
【0014】
CNC自動旋盤10は、切削工具12と、被工作物8を保持する保持具14と、切削工具12及び保持具14を制御するCNC制御装置16とを備える。CNC自動旋盤10は、高速回転する棒状の金属の被工作物8に切削装置12を当て、任意の形に切削する旋盤においてコンピュータによる数値制御(Computer Numerical Control)で位置や速度をコントロールできる工作機械である。CNC自動旋盤10は、図示しない主軸台をZ軸方向に移動させて被工作物8をCNC制御装置16の制御によりZ軸方向に移動させる主軸台移動形の方式を採用するものとして説明するが、主軸台を固定して切削工具12をCNC制御装置16の制御によりZ軸方向に移動させる主軸台固定形の方式を採用することも可能である。
【0015】
切削工具12は、
図1に示されるように、互いに直交関係にあるX軸、Y軸に移動可能に設置されている。切削工具12は、図示しない電動機が作動することにより移動可能となっている。切削工具12は、
図1に示されるように、カッター形状のものを用いるものとして説明するが、その他の工具を搭載して選択可能にすることもできる。切削工具12の移動は、CNC制御装置16によって制御される。
【0016】
保持具14は、
図1に示されるように、矢印C方向又は反対方向に回転可能な状態で被工作物8を保持する保持具である。保持具14は、図示しない電動機が作動することにより回転可能となっている。保持具14の回転は、CNC制御装置16によって制御される。
【0017】
CNC制御装置16は、切削工具12の移動及び保持具14の回転駆動を同期制御する数値制御装置である。CNC制御装置16は、ユーザが設定可能なCNCプログラムを実行するコンピュータによる制御装置であるものとして説明するが、その他のハードウェア構造で構成してもよい。CNC制御装置16は、ユーザが設定することが可能なCNCプログラムによって、切削工具12の移動及び保持具14の回転駆動を同期制御することで、被工作物8を偏心体18に加工する。CNCプログラムにおいて、ユーザが設定可能なパラメータとして、例えば、第1の円柱20及び第2の円柱22の半径rや偏心量dを設定することができる。以下では、CNCプログラムとして、第1CNCプログラム、第2CNCプログラム、第3CNCプログラムの3つのプログラム例について説明する。
【0018】
以下では、CNC制御装置16において第1CNCプログラムが動作した際に、被工作物8を偏心体18に形成する手順を具体的に説明する。ここでは、まず第1の円柱20が形成され、その後、第2の円柱22が形成されるものとして説明するが、もちろん、逆の順番で形成してもよい。
【0019】
CNC制御装置16において第1CNCプログラムが起動すると、最初に、切削加工の対象部位が第1の円柱20であるか否かを判断する(S2)。切削加工の対象部位が第1の円柱20であると判断された場合は、第1の円柱20を形成するためのS4の工程へと進み、切削加工の対象部位が第1の円柱20でないと判断された場合は、第2の円柱22を形成するためのS10の工程へと進む。
【0020】
被工作物8の回転角(ラジアン)をθとした場合、θ=0の際に、被工作物8において、第1の円柱20の基準となる円柱の中心点からの距離がr−d(X座標がr−d、Y座標が0)となる位置を削る(S4)。なお、
図2におけるX軸、Y軸の交わる点が第1の円柱20の基準となる円柱の中心点である。
【0021】
ここで、切削工具12がX軸の頂点Tにおいて切削加工を行い、この頂点TがX軸方向及びY軸方向に移動する。
図2の回転角θが0の際に、切削工具12の加工位置である頂点Tの位置は、上述のX座標がr−d、Y座標が0となる。
【0022】
なお、ここでは、保持具14、すなわち被工作物8が矢印C方向に沿って回転するものとして説明すると、
図2(a)には、被工作物8が0°のときの切削加工位置がTで示されており、
図2(b)には、被工作物8が90°(回転角=π/2)回転したときの切削加工位置がTで示されており、
図2(c)には、被工作物8が180°(回転角=π)回転したときの回転したときの切削加工位置がTで示されており、
図2(d)には、被工作物8が270°(回転角=3π/2)回転したときの切削加工位置がTで示されている。また、被工作物8が360°(回転角=2π)回転した際には、
図2(a)に示される0°のときの切削加工位置と同じ位置に戻ってくる。
図2(a)〜
図2(d)に示されるように、被工作物8の回転に同期して、切削加工位置Tも円を描きつつ移動する。
【0023】
S4の工程の後は、回転角θが0<θ≦2πの範囲内であるか否かを判断する(S6)。0<θ≦2πの範囲内であると判断した場合は、X=−cosθ×d+r及びY=sinθ×dの式に基づいて決定される加工位置に切削工具12を移動させて切削する(S8)。S8の工程の後は、再びS6の工程へと戻る。
【0024】
S6の工程において、回転角θがπ<θ≦2πの範囲内でないと判断した場合には、第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成したか否かを判断する(S16)。第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成していないと判断された場合は、リターン処理を経て、再びS2の工程へと戻る。このように、保持具14の回転駆動に同期させて切削工具12をX軸方向及びY軸方向に移動させつつ、被工作物8を第1の円柱20の長さ方向であるZ軸方向へ移動させることにより、第1の円柱20が形成される。
【0025】
続いて、切削加工の対象部位が第2の円柱22へと移った場合について説明する。切削加工の対象部位が第2の円柱22の場合、S2の工程において、切削加工の対象部位が第1の円柱20でないと判断されることより、上述したように、S10の工程へと進む。
【0026】
S10の被工作物8の回転角θが0の際に、X座標がr+d、Y座標が0となる位置を削る(S10)。なお、ここでも、切削工具12がX軸の頂点Tにおいて切削加工し、この頂点TがX軸方向及びY軸方向に移動する。回転角θが0の際に、切削工具12の加工位置である頂点Tの位置は、基準となる円柱の中心点からの距離がr+dの位置となる。なお、r+dの位置は、基準となる円柱の中心点に対して上記r−dの位置と対称になる。そして、第1の円柱20を形成する場合と同様に、保持具14、すなわち被工作物8は、矢印C方向に沿って回転する。
【0027】
次いで、回転角が0<θ≦2πの範囲内であるか否かを判断する(S12)。0<θ≦2πの範囲内であると判断した場合は、X=cosθ×d+r及びY=−sinθ×dの式に基づいて決定される加工位置に切削工具12を移動させて切削する(S14)。S14の工程の後は、再びS12の工程へと戻る。
【0028】
S12の工程において、回転角が0<θ≦2πの範囲内でないと判断した場合には、第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成したか否かを判断する(S16)。第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成していないと判断された場合は、リターン処理を経て、再びS2の工程へと戻る。このように、保持具14の回転駆動に同期させて切削工具12をX軸方向及びY軸方向に移動させつつ、被工作物8を第2の円柱22の長さ方向であるZ軸方向へ移動させることにより、第2の円柱22が形成される。また、S16の工程において、第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成したと判断した場合には、END処理を経て第1CNCプログラムが終了する。
【0029】
図4は、CNC自動旋盤10を用いた偏心体の製造方法により、製造された偏心体18を示す図である。
図4の左図には、偏心体18の側面図が示されており、左側には第1の円柱20が位置し、右側には第2の円柱22が位置している。
【0030】
図4の右図には、偏心体18の平面図が示されている。
図4の右図に示されるように、第1の円柱20と第2の円柱22が夫々異なる位置に偏心して形成されており、平面的には、これら2つの円によって楕円が形成されていることになる。この偏心体18がハーモニックドライブ(登録商標)やサイクロ減速機に用いられる。
【0031】
次に、CNC制御装置16において第2CNCプログラムが動作した際に、被工作物8を偏心体18に形成する手順を具体的に説明する。
図5は、被工作物8から偏心した第1の円柱20を形成する手順を示す図である。
図6は、第2CNCプログラムを用いて被工作物8から偏心体18を形成する手順を示すフローチャートである。なお、第2CNCプログラムと上記第1CNCプログラムの相違点は、S8,S14で用いられる式であり、S8の代わりにS9が実行され、S14の代わりにS15が実行される。以下、S9,S15の内容について説明する。
【0032】
なお、ここでは、保持具14、すなわち被工作物8が矢印C方向に沿って回転するものとして説明すると、
図5(a)には、被工作物8が0°のときの切削加工位置がTで示されており、
図5(b)には、被工作物8が90°(回転角=π/2)回転したときの切削加工位置がTで示されており、
図5(c)には、被工作物8が180°(回転角=π)回転したときの回転したときの切削加工位置がTで示されており、
図5(d)には、被工作物8が270°(回転角=3π/2)回転したときの切削加工位置がTで示されている。また、被工作物8が360°(回転角=2π)回転した際には、
図5(a)に示される0°のときの切削加工位置と同じ位置に戻ってくる。
図5(a)〜
図5(d)に示されるように、被工作物8の回転に同期して、切削加工位置TはX軸に沿って移動する。
【0033】
S9の工程では、数1式に基づいて決定される加工位置に切削工具12を移動させて切削する(S9)。
【数1】
【0034】
S15の工程では、数2式に基づいて決定される加工位置に切削工具12を移動させて切削する(S15)。
【数2】
【0035】
第2CNCプログラムを実行した後、S16の工程において、第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成したと判断した場合には、END処理を経て第2CNCプログラムが終了する。これにより、上記第1CNCプログラムを実行した場合と同様に
図4に示されるような偏心体18を形成することができる。
【0036】
次に、CNC制御装置16において第3CNCプログラムが動作した際に、被工作物8を偏心体18に形成する手順を具体的に説明する。
図7は、被工作物8から偏心した第1の円柱20を形成する手順を示す図である。
図8は、第3CNCプログラムを用いて被工作物8から偏心体18を形成する手順を示すフローチャートである。CNC制御装置16において第3CNCプログラムが起動すると、最初に、切削加工の対象部位が第1の円柱20であるか否かを判断する(S2A)。切削加工の対象部位が第1の円柱20であると判断された場合は、第1の円柱20を形成するためのS4Aの工程へと進み、切削加工の対象部位が第1の円柱20でないと判断された場合は、第2の円柱22を形成するためのS14Aの工程へと進む。
【0037】
S4Aの工程では、被工作物8の回転角(ラジアン)をθとした場合、θ=0の際に、被工作物8において、第1の円柱20の基準となる円柱の中心点からの距離がr−dとなる位置を削る(S4A)。
【0038】
なお、保持具14、すなわち被工作物8が矢印C方向に沿って回転する動作について説明すると、被工作物8が90°(回転角=π/2)回転した際には、
図7に示されるπ/2の部分がX軸の上側まで移動し、180°(回転角=π)回転した際にはπの部分がX軸の上側まで移動し、270°(回転角=3π/2)回転した際には3π/2の部分がX軸の上側まで移動し、360°(回転角=2π)回転した際には、0の部分がX軸の上側に戻ってくるように、S6Aの工程以降の工程が行われる。
【0039】
S4Aの工程の後は、回転角θが0<θ≦πの範囲内であるか否かを判断する(S6A)。0<θ≦πの範囲内であると判断した場合は、r−d+2dx/π(xは回転角θ)の式に基づいて決定される加工位置に切削工具12を移動させて切削する(S8A)。S8Aの工程の後は、再びS6Aの工程へと戻る。
【0040】
S6Aの工程において、回転角θが0<θ≦πの範囲内でないと判断した場合には、回転角θがπ<θ≦2πであるか否かを判断する(S10A)。π<θ≦2πの範囲内であると判断した場合は、r+3d−2dx/π(xは回転角θ)の式に基づいて決定される加工位置に切削工具12の位置を移動させて切削する(S12A)。S12Aの工程の後は、再びS10Aの工程へと戻る。
【0041】
S12Aの工程において、回転角θがπ<θ≦2πの範囲内でないと判断した場合には、第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成したか否かを判断する(S24A)。第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成していないと判断された場合は、リターン処理を経て、再びS2Aの工程へと戻る。このように、保持具14の回転駆動に同期させて切削工具12をX軸方向に移動させつつ、被工作物8を第1の円柱20の長さ方向であるZ軸方向へ移動させることにより、第1の円柱20が形成される。
【0042】
続いて、切削加工の対象部位が第2の円柱22へと移った場合について説明する。切削加工の対象部位が第2の円柱22の場合、S2Aの工程において、切削加工の対象部位が第1の円柱20でないと判断されることより、上述したように、S14Aの工程へと進む。
【0043】
S14Aの被工作物8の回転角(ラジアン)が0の際に、r+dとなる位置を削る(S14A)。なお、ここでも、切削工具12がX軸の頂点Tにおいて切削加工し、この頂点TがX軸方向に移動する。
【0044】
次いで、回転角θが0<θ≦πの範囲内であるか否かを判断する(S16A)。0<θ≦πの範囲内であると判断した場合は、r+d−2dx/π(xは回転角θ)の式に基づいて決定される加工位置に切削工具12を移動させて切削する(S18A)。S18Aの工程の後は、再びS16Aの工程へと戻る。
【0045】
S16Aの工程において、回転角θが0<θ≦πの範囲内でないと判断した場合には、回転角θがπ<θ≦2πであるか否かを判断する(S20A)。0<θ≦2πの範囲内であると判断した場合は、r−3d+2dx/π(xは回転角θ)の式に基づいて決定される位置に切削工具12を移動させて切削する(S22A)。S22Aの工程の後は、再びS20Aの工程へと戻る。
【0046】
S16Aの工程において、回転角θが0<θ≦2πの範囲内でないと判断した場合には、第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成したか否かを判断する(S24A)。第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成していないと判断された場合は、リターン処理を経て、再びS2Aの工程へと戻る。このように、保持具14の回転駆動に同期させて切削工具12をX軸方向に移動させつつ、被工作物8を第2の円柱22の長さ方向であるZ軸方向へ移動させることにより、第2の円柱22が形成される。また、S24Aの工程において、第1の円柱20及び第2の円柱22の形成が完成したと判断した場合には、END処理を経て第3CNCプログラムが終了する。これにより、上記第1CNCプログラムを実行した場合と同様に
図4に示されるような偏心体18を形成することができる。
【0047】
この第3CNCプログラムを実行して円柱を形成する場合の平面プロット図を示す。
図9(a)は、r=15の場合に偏心量d=0.3と設定した場合にほぼ真円が描かれていることが分かる。
図9(b)は、r=15の場合に偏心量d=3と設定した場合に真円ではないものの円に近い状態ものが描かれる。ここでは、偏心体18として実用に耐え得るものであれば完全な真円でなくてもよく、例えば、上述したように、真円でない円に対し、2つの幾何学的円で挟んだときの同心二円の間隔が最小となる2つの円の半径差をtとし、2つの円のうち大きい方の円の半径をrとした場合のt/rの割合が5%以下のものを円に含むものとする。第3CNCプログラムとは異なり、上記第1CNCプログラム及び第2CNCプログラムは、偏心量dを変更した場合にもほぼ真円に近い円が形成される。
【0048】
以上のように、本発明に係る実施の形態の偏心体の製造方法によれば、切削工具12の移動及び保持具14の回転駆動を同期制御しているため、第1の円柱20及び第2の円柱22を平滑化しつつ切削加工することができる。したがって、従来のように、カム研磨機や治具を用いて加工を行っていた場合に比べて、工程数を削減することができる利点がある。
【0049】
また、本発明に係る実施の形態の偏心体の製造方法によれば、CNC制御装置16においてCNCプログラムによって、偏心量dを自由に変更することができる。したがって、様々な形状の楕円を精度良く形成することができるため、多様な減速機に適用した偏心体を製造することができるというメリットがある。
【0050】
また、本発明に係る実施の形態の偏心体の製造方法は、切削工具12のX軸、Y軸への移動と保持具14の回転駆動と同期させているため、様々なCNC工作機械の精度的な検証を行うことで応用する範囲が広がる。例えば、基準の偏心していない部分も同一の工程で行うことが出来たり、キャリア穴の加工などといった加工についても同時加工できる可能性が多いに期待される。
【解決手段】回転しながら切削加工される被工作物8に対し、回転により描かれる円の径方向に移動可能な切削工具12を用いて所定の半径rを有する2つの円柱を所定の中心点から夫々異なる位置に偏心させて形成する偏心体の製造方法であって、回転に同期させて切削工具12を径方向に移動させつつ、中心点からの距離がdとなる位置に偏心された第1の円柱20を形成する第1の工程と、回転に同期させて切削工具12を径方向に移動させつつ、第1の円柱20と対称となる位置であり中心点からの距離がdとなる位置に偏心された第2の円柱22を形成する第2の工程と、を備える。