(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、冷蔵庫の扉に適用した第1の実施形態につき、
図1ないし
図5を参照して説明する。
まず、
図4には、冷蔵庫の全容を示しており、縦長箱状の庫本体1が、内部に冷蔵室、野菜室、製氷室、小冷凍室、大冷凍室を有していて(図示省略)、前面部にそれらの室の貯蔵品出入口である開口部をそれぞれに封ずる、冷蔵室扉2,3、野菜室扉4、製氷室扉5、小冷凍室扉6、大冷凍室扉7を有している。それらの扉2〜7のうち、冷蔵室扉2,3は観音開き式の扉であり、野菜室扉4、製氷室扉5、小冷凍室扉6、大冷凍室扉7は引出し式の扉である。
【0010】
次いで、
図1及び
図2には、上記引出し式の扉2〜7のうちのいずれか、この場合、大冷凍室扉7の構成を示しており、前方より順に、扉前板8、扉外枠9、真空断熱パネル10及びソフトテープ11、断熱体12、引出レール取付板13、扉後板14、ガスケット15を有している。
このうち、扉前板8は、ガラス板製であり、矩形の平滑なものであって、透明なガラス板の裏面(後面)に必要な着色をしている。もしくは、ガラス板自体が有色となっている。
【0011】
扉外枠9は、扉前板8より一回り大きな矩形のものであり、その上辺部、下辺部、左側辺部、及び右側辺部の、全周をABS樹脂等のプラスチックにより一体に形成していて、更に、上辺部には引出し操作用の取手16を前方に突出する形態で一体に形成している。加えて、この扉外枠9は、内周部の前側に、内方へ突出する突内縁部9aを一体に形成して有している。なお、この突内縁部9aは、裏面が複数段の階段状を成して、先薄状となっている。又、この扉外枠9の内周部の後側には、断面L字状の扉後板位置決め部9bを一体に形成して有している。
【0012】
真空断熱パネル10は、例えば、細いガラス繊維の綿状物であるグラスウールをマット状にしてコア材とし、このコア材を、アルミニウム箔とPET(ポリエチレンテレフタレート)等の合成樹脂とのラミネートフィルムで製袋したガスバリア容器に収納し、その内部を真空排気し開口を密閉することで容器内部を真空減圧状態に保持したパネルであり、薄くて低い熱伝導率(高い断熱性)を有している。真空断熱パネル10全体としては、扉前板8よりやゝ小さな矩形のものである。
【0013】
ソフトテープ11は、真空断熱パネル10を囲繞する矩形のものである。
断熱体12は、発泡スチロールから成るもので、真空断熱パネル10よりやゝ小さな矩形のものである。
引出レール取付板13は、大冷凍室扉7の裏側(後側)に図示しない貯蔵品収納容器を支持する引出レール(これも図示せず)を取付けるためのもので、金属製であり、縦長の長尺状で、左右に1つずつ存在している。
【0014】
扉後板14は、この場合、プラスチック製であり、扉前板8とほゞ同じ大きさの矩形のもので、左右の両側に引出レール取付板13を収納するための凹部14aを有し、裏側の周囲部に断熱体12を収納するスロート部14bを有している。このスロート部14bは、閉扉時に庫本体1内に進入して該庫本体1の内側面部と重なることにより庫内からの冷気の漏洩を防止するためのものであり、この場合、全体として矩形の枠状を成している。
【0015】
又、このスロート部14bの外側に位置して、扉後板14裏側の周囲部には、ガスケット取付部14c(
図1参照)を有している。このガスケット取付部14cは、中空であり、開口部が後方を指向している。扉後板14は、そのガスケット取付部14c及び上記スロート部14bより内方(中心側)の域が平滑なものである。更に、この扉後板14の外周部の前縁には、前記扉外枠9の扉後板位置決め部9bに対応する差込部14dを形成している。
【0016】
ガスケット15は、最前部に矢尻状の差込部15aを有するもので、その裏側に中空密閉のエアクッション部15bを有し、更にその裏側に前記庫本体1に磁着するためのマグネット15cを内蔵している。そのほか、ガスケット15は、両側に、庫本体1からの冷気の漏洩をより確実に防止するためのひれ部15dを有している。
【0017】
この構成で、
図3に詳細に示すように、扉外枠9の突内縁部9aの前面に両面粘着テープ17を貼付け、その両面粘着テープ17の前面に扉前板8を貼付けている。換言すれば、扉外枠9の突内縁部9aの前面に、両面粘着テープ17を介して、扉前板8を貼付けて結合しており、それによって、扉外枠9に扉前板8が当接し、扉前板8を扉外枠9が囲繞して支持するようにしている。
【0018】
次いで、真空断熱パネル10の外周にソフトテープ11を巻装し、真空断熱パネル10の前面には、接着剤18を塗布して、この接着剤18を介し、真空断熱パネル10の前面を上記扉前板8の裏面から扉外枠9の突内縁部9aの裏面に貼付けている。この場合も換言すれば、扉前板8に真空断熱パネル10を接着剤18で接着することにより、扉前板8に真空断熱パネル10を当接させており、その場合、真空断熱パネル10の前面全部を扉前板8と扉外枠9の突内縁部9aとに当接させることによって、扉前板8には発泡断熱材(発泡ウレタン)が接することのないようにしている。
【0019】
更に、扉前板8と真空断熱パネル10との当接面積は、扉外枠9と扉前板8との当接面積よりも大きいものとなっている。
加えて、上述の貼付けの結果、扉外枠9、特にこれの一部である突内縁部9aが、扉前板8と真空断熱パネル10との間に位置している。
【0020】
この後、真空断熱パネル10の裏面に
図1に示す接着剤19を塗布し、この接着剤19を介して、真空断熱パネル10の裏面に扉後板14の前面を貼付けている。このとき、扉後板14のスロート部14bには、断熱体12をあらかじめ収納しており、真空断熱パネル10の裏面には、接着剤19を介して、上記扉後板14の前面を貼付けるのと同時に、断熱体12の前面をも貼付けている。
【0021】
換言すれば、真空断熱パネル10に扉後板14及び断熱体12を接着剤19で接着することにより、真空断熱パネル10に扉後板14及び断熱体12を当接させており、この場合も、真空断熱パネル10の裏面全部に扉後板14及び断熱体12に当接させることによって、扉後板14には発泡断熱材(発泡ウレタン)が接することのないようにしている。
なお、このとき、扉外枠9の扉後板位置決め部9bには、扉後板14の差込部14dを差込んで、扉外枠9に対する扉後板14の位置決めをしている。
【0022】
前記扉前板8と扉後板14との間の、真空断熱パネル10で満たした以外の空間である真空断熱パネル10周りの空間には、前記ソフトテープ11が装填されていて、当該空間を満たしており、従って、大冷凍室扉7の扉前板8と真空断熱パネル10との間、扉後板14と真空断熱パネル10との間、及びその他の扉内空間には、発泡断熱材が存在しない構成となっている。
【0023】
なお、庫本体1など扉以外の部分には、発泡断熱材を単独に、あるいは真空断熱パネルを併用して、充填している。
そして更にその後、扉後板14のガスケット取付部14cにガスケット15の差込部15aを差込んで、扉後板14に対するガスケット15の取付けをしている。
【0024】
このように本実施形態によれば、恒温庫である冷蔵庫の開口部を封ずる扉(大冷凍室扉7)において、ガラス製の扉前板8と、扉後板14、及びそれら両板8,14間に位置する真空断熱パネル10を具え、その真空断熱パネル10を扉前板8に当接させ、該扉前板8には発泡断熱材が接することのない構成としている。
これにより、発泡断熱材の、充填後の冷却硬化の際の収縮並びに通常使用の際の庫内冷気の影響による収縮と、発泡断熱材のガラス板との線膨張係数の差による、扉前板8の歪みを防止して優良な製品を提供することができる。
【0025】
詳細には、扉前板8には発泡断熱材が接しておらず、発泡断熱材の熱収縮並びに線膨張係数の差による影響がガラス板に及ぶことが避けられる。具体的には、前述のとおり、ガラスの線膨張係数は9×10
−6/℃で、発泡ウレタンの線膨張係数は100×10
−6/℃であり、これらの線膨張係数をαとし、庫内温度をt
1、室内(庫外)温度をt
2、元の長さをL、伸びた長さをΔLとすると、ΔLは次式で求められる。
【0026】
ΔL=L×α×(t
2−t
1)
従って、庫内温度t
1が−18〔℃〕、室内温度t
2が20〔℃〕で、扉幅(元の長さ)Lが685〔mm〕のとき、
ガラス板では、
ΔL=685×9×10
−6×〔20−(−18))〕=0.23427 …(イ)
発泡ウレタンでは、
ΔL=685×100×10
−6×〔20−(−18))〕=2.603 …(ロ)
であり、線膨張係数の差による、685〔mm〕の扉幅におけるガラス板と発泡ウレタンの材質の伸びの差は、(ロ)−(イ)で、2.603−0.23427=2.36873であり、約2.4〔mm〕もの収縮差があることになり、それによる影響がガラス板に及ぶこと(外観を損なう変形)が避けられる。
【0027】
そして、扉前板8に当接した真空断熱パネル10は、既述のとおり、細いガラス繊維の綿状物であるグラスウールをマット状にしてコア材とし、このコア材を、アルミニウム箔と合成樹脂とのラミネートフィルムで製袋したガスバリア容器に収納して、その内部を真空排気し開口を密閉することで容器内部を真空減圧状態に保持したパネルであり、すなわち、ガラスを主材料としている。従って、この真空断熱パネル10と扉前板(ガラス板)8との線膨張係数は相似しており(もっぱら発泡ウレタンを用いる発泡断熱材の1/10未満の小さい線膨張係数である)、線膨張係数の差による影響が発泡断熱材のようにガラス板に及ぶことがない。
このようにして、扉前板(ガラス板)8の歪みを防止して優良な製品を提供することができるのである。
【0028】
又、本実施形態によれば、発泡断熱材が、扉前板8と真空断熱パネル10との間、扉後板14と真空断熱パネル10との間、及びその他の扉内空間に存在しない構成としている。これにより、発泡断熱材の熱収縮並びに線膨張係数の差による影響がガラス板に及ぶことが、より確実に避けられる。この場合、発泡断熱材自体の熱収縮並びに線膨張係数の差による影響がガラス板に及ぶことが、より確実に避けられるだけでなく、庫内冷気で扉後板14が冷却され、更に扉後板14を介して発泡断熱材が冷却されてそれの影響がガラス板に及ぶということがなくなるので、発泡断熱材の熱収縮並びに線膨張係数の差による影響がガラス板に及ぶことが、より確実に避けられ、扉前板(ガラス板)8の歪みをより確実に防止して更に優良な製品を提供することができる。
【0029】
更に、この場合、扉前板8と真空断熱パネル10との間に発泡断熱材が存在しないことに加えて、扉後板14と真空断熱パネル10との間にも発泡断熱材が存在しないことにより、扉の薄形化ができる。
【0030】
本実施形態によれば又、扉前板8と真空断熱パネル10とを接着剤18により貼付けている。これにより、扉前板8と真空断熱パネル10とを一体化し、扉前板(ガラス板)8が万一割れた場合の飛散を真空断熱パネル10の特には袋状ガスバリア容器で防止することができる。
【0031】
すなわち、この場合、真空断熱パネル10の袋状ガスバリア容器が従来の飛散防止用フィルムの役割を果たすようになるもので、それゆえ、従来の飛散防止用フィルムの使用を省略でき、もしくはそれの使用を周囲(扉外枠9)部分など部分的に留めることができて、コストの低減ができる。しかも、その従来の飛散防止用フィルムの使用を省略、もしくは部分的使用に留め得ることで、扉(大冷凍室扉7)の廃棄リサイクル時には、飛散防止用フィルムの剥離も不要、もしくは容易になり、作業性を良くすることができる。
【0032】
又、接着剤18についても、接着後の硬化収縮並びに通常使用の際の庫内冷気の影響による収縮が考えられるが、本実施形態によれば、真空断熱パネル10を扉前板8に当接させていることで、接着剤18はその塗布厚を薄く済ませることができるものであり、従って、その塗布厚の薄さに応じ、接着剤18の接着後の硬化収縮並びに通常使用の際の庫内冷気の影響による収縮も小さくでき、それらの収縮による扉前板8の歪みを生じないようにできる。
なお、この場合、真空断熱パネル10は扉前板8に接着剤18に代えて両面粘着テープなど他の貼付手段により貼付けるようにしても良い。
【0033】
加えて、本実施形態によれば、扉前板8を支持する扉外枠9を有し、この扉外枠9と扉前板8とが当接する構成としている。これにより、扉前板(ガラス板)8の支持がより確実にでき、前記歪みの防止に効果がある。
【0034】
又、本実施形態によれば、扉外枠9と扉前板8との当接面積よりも、扉前板8と真空断熱パネル10との当接面積が大きい構成としている。この場合、扉外枠9はプラスチック製で、前述のABS樹脂であれば、線膨張係数は71×10
−6であり、線膨張係数が扉前板8及び真空断熱パネル10のそれよりも大きい。この状況で、扉外枠9と扉前板8との当接面積よりも、扉前板8と真空断熱パネル10との当接面積が大きい構成としているのは、線膨張係数の差のあるものより相似するものをより広く当接させた構成としているのであり、それによって、前記歪みの防止に一層の効果を奏する。
【0035】
更に、本実施形態によれば、扉外枠9(特にはこれの一部である突内縁部9a)が、扉前板8と真空断熱パネル10との間にも位置する構成している。これにより、扉前板8と真空断熱パネル10との間への外気の侵入を、それらの間に位置した扉外枠9で防止できるので、その外気の侵入による扉の断熱性の低下をより確実に防止することができる。
【0036】
そして、扉外枠9を全周一体に形成して有し、この扉外枠9に扉前板8を結合している。これにより、扉外枠9と扉前板8との結合辺の数を少なくできて、外気の侵入をより確実に防止できる。
これについて、
図6及び
図7は扉外枠と扉前板との結合構造の異なるものを示しており、
図6は、扉外枠を上外枠101と下外枠102との2点で構成し、これらに前面部から左右の両側面部まで回り込んで有する扉前板103を結合して構成した扉104を示し、
図7は、扉外枠を上外枠201と下外枠202及び左外枠203と右外枠204の4点で構成し、これらに前面部のみ有する扉前板205を結合して構成した扉206を示している。
【0037】
このうち、前者(
図6)の扉104では、扉外枠(上外枠101及び下外枠102)と扉前板103との結合辺の数は、図示のB
1〜B
6の各辺で示す6個あり、後者(
図7)の扉206では、扉外枠(上外枠201、下外枠202、左外枠203、右外枠204)と扉前板205との結合辺の数は、図示のC
1〜C
12の12個ある。
【0038】
これらに対して、本実施形態の扉(大冷凍室扉7)の扉外枠9と扉前板8との結合辺の数は、
図5に示すように、A
1〜A
4の4個あるのみである。
このようにして、本実施形態によれば、外気の侵入の可能性のある結合辺の数を少なくできて、外気の侵入をより確実に防止できるのであり、それによって、外気の侵入による扉の断熱性の低下を更に確実に防止することができる。
【0039】
以上に対して、
図8は第2の実施形態を示すもので、上記第1の実施形態と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。
このものの場合、扉後板31を、第1の実施形態の扉後板14に代えて、ガスケット取付部を有しないものとしており、従って、第1の実施形態のスロート部14bと同様のスロート部31bより外側の部分が、スロート部31bより内方(中心側)の域と同様に平滑なものとなっていて、ガスケットは庫本体1側に取付けるようにしている。
そのほか、差込部31dは、第1の実施形態の差込部14dと同様である。
扉後板31はこのような構成であっても良い。
【0040】
なお、以上説明した恒温庫の扉は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、特に恒温庫としては冷蔵庫に限られず、温蔵庫であっても良いもので、扉も、例示した大冷凍室扉7に限られず、他の扉2〜6であっても良いなど、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。
【0041】
そのほか、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。