特許第6139863号(P6139863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139863
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】活性炭の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/336 20170101AFI20170522BHJP
【FI】
   C01B31/10
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-243598(P2012-243598)
(22)【出願日】2012年11月5日
(65)【公開番号】特開2014-91653(P2014-91653A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】594159445
【氏名又は名称】南開工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男
(72)【発明者】
【氏名】永田 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】原 芳夫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】小関 正剛
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−201664(JP,A)
【文献】 特開2009−132559(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/074054(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00−32/991
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開口した容器に酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を収容し、この容器を連続式加熱炉内にて水平方向に搬送しながら酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を加熱焼成することを含む酢酸セルロースの炭化物の製造方法において、蓋を被せることなく上面の開口状態を維持した容器内に、塊状物もしくは粉末の最頂部が、容器の深さの90%の高さを超えることのない量にて収容されている酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を加熱溶融させることにより粘性液体とし、次いでこの粘性液体を、その粘性液体の加熱分解により発生する酢酸蒸気とその酢酸蒸気に随伴する粘性液体とからなる液滴が該容器の外部にまで飛散しないように抑制しながら300℃〜450℃の範囲の温度で加熱焼成することを特徴とする、賦活処理により活性炭とするための炭化物の製造方法。
【請求項2】
上面が開口した容器に酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を収容し、この容器を連続式加熱炉内にて水平方向に搬送しながら酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を加熱焼成することを含む酢酸セルロースの炭化物の製造方法において、上面が開口した容器として、底面の面積よりも開口面の面積が大きい容器を用い、該容器に蓋を被せることなく上面の開口状態を維持した容器内に収容されている酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を加熱溶融させることにより粘性液体とし、次いでこの粘性液体を、その粘性液体の加熱分解により発生する酢酸蒸気とその酢酸蒸気に随伴する粘性液体とからなる液滴が該容器の外部にまで飛散しないように抑制しながら300℃〜450℃の範囲の温度で加熱焼成することを特徴とする、賦活処理により活性炭とするための炭化物の製造方法。
【請求項3】
粘性液体となった酢酸セルロースを収容している容器の開口面に不活性気体を吹き付けながら加熱焼成を行う請求項1もしくは2に記載の炭化物の製造方法。
【請求項4】
酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末が酢酸セルロース繊維の切断物もしくは酢酸セルロースフィルムの粉砕物である請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の炭化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の製造方法により製造した炭化物を水蒸気と不活性ガスの存在下にて賦活処理を行うことにより活性炭を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出発原料に酢酸セルロースを用いた活性炭の製造方法に関し、さらに詳しくは酢酸セルロースから炭化物を製造する方法、そしてその炭化物を賦活処理して活性炭を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、各種の工業分野にわたって広く使用されており、空気浄化、放射性物質吸着、ヨウ素トラップ、メタン吸蔵、水素吸蔵、浄水製造、溶剤回収、脱色、水処理、ガスマスクなどに利用されている。また、近年では、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)の電極活物質としても用いられている。
【0003】
活性炭は通常、炭素化合物を加熱して炭化し、得られた炭化物を賦活処理することにより製造されている。出発原料の炭素化合物としては、木材や椰子などの植物、石油もしくは石炭のピッチ、フェノール樹脂及びポリアクリロニトリル樹脂などの合成樹脂が広く利用されている。また、出発原料に酢酸セルロース(セルロースアシレートともいう)を用いて活性炭を製造することも検討されている。
【0004】
特許文献1には、出発原料に酢酸セルロースを用いた活性炭の製造方法として、酢酸セルロースのフィルムを加熱して、得られた炭化フィルムを賦活処理する方法が記載されている。この文献の実施例では、上記の製造方法を用いてヨウ素吸着量が1144mg/gの活性炭が得られている。
【0005】
特許文献2には、酢酸セルロースを加熱して炭化させる炭化工程と、炭化工程で得られた炭化物を炭化工程で酢酸セルロースを炭化させたときの温度よりも50℃以上高い温度で加熱して炭化物に残留する酢酸成分を揮発させて除去する酢酸除去工程、そして酢酸除去工程で酢酸が除去された炭化物を賦活処理する賦活工程を含む活性炭の製造方法が記載されている。この文献には、酢酸セルロースを加熱すると、一旦溶融し、次いで固化した後に炭化する旨の記載がある。また、この文献の実施例4では、炉内温度を炭化工程用の温度領域と酢酸除去工程用の温度領域の二つの温度領域に調整した連続式加熱炉(ローラーハースキルン)を用いて炭化物を得ている。そして、その炭化物を賦活処理して得た活性炭は、ヨウ素吸着量が1803mg/gで、BET比表面積が2100m2/gと高い値を示している。
【0006】
特許文献3には、酢酸セルロースを加熱炉の中に入れる第1工程と、前記加熱炉中で、前記酢酸セルロースを溶融し炭化して炭化物とする第2工程とを交互に繰り返す炭化工程を含む活性炭の製造方法が記載されている。この文献によると、上記の第1工程と第2工程とを繰り返し行う方法は、炭化すべき全量を加熱炉に入れて一度に炭化する方法と比較して、酢酸セルロースの加熱により生成する粘性液体に発生する酢酸蒸気の泡が細かくなるため、得られる炭化物が硬くなり、そして、この硬い炭化物を賦活処理することによって、荷重をかけても容易にはつぶれない硬い活性炭が得られるとされている。しかし、この文献の実施例で得られている活性炭は、ヨウ素吸着量が1100mg/g程度である。また、上記の第1工程と第2工程とを繰り返し行う方法は、連続式の加熱炉では実施が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−201664号公報
【特許文献2】国際公開第2012/074054号パンフレット
【特許文献3】特開2009−132559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
活性炭を工業的に大量生産するには、酢酸セルロースの炭化物の製造はバッチ式加熱炉を用いて行うよりも連続式加熱炉を用いて行うことが好ましい。上記特許文献2に記載の炭化工程と脱酢酸工程とを行う方法は、連続式加熱炉を用いてヨウ素吸着量及びBET比表面積が大きな活性炭を得ることができる。しかしながら、特許文献2に記載の炭化工程と脱酢酸工程とを行う方法を連続式加熱炉を用いて実施するには、炉内の温度を炭化工程用と脱酢酸工程用の二つの領域に分けて管理する必要がある。連続式加熱炉を二つの領域に分けて正確に温度を調整するのは作業が煩雑となる。
従って、本発明の目的は、連続式加熱炉を二つの領域に分けることを特には必要としないで、連続式加熱炉を用いて酢酸セルロースの炭化物を得て、その炭化物を賦活処理することによって、BET比表面積が大きい活性炭を安定して製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、容器に収容した酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を、連続式加熱炉内にて水平方向に搬送しながら加熱して溶融させることにより粘性液体とし、次いでこの粘性液体を、その粘性液体の加熱分解により発生する酢酸蒸気とその酢酸蒸気に随伴する粘性液体とからなる液滴が該容器の外部にまで飛散しないように抑制しながら加熱焼成することによって得た炭化物を賦活処理することによって、BET比表面積が大きい活性炭を安定して製造することが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
従って、本発明は、上面が開口した容器に酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を収容し、この容器を連続式加熱炉内にて水平方向に搬送しながら酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を加熱焼成することを含む酢酸セルロースの炭化物の製造方法において、容器内に収容された酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を加熱溶融させることにより粘性液体とし、次いでこの粘性液体を、その粘性液体の加熱分解により発生する酢酸蒸気とその酢酸蒸気に随伴する粘性液体とからなる液滴が該容器の外部にまで飛散しないように抑制しながら加熱焼成することを特徴とする炭化物の製造方法にある。
【0011】
上記本発明の炭化物の製造方法の好ましい態様は、次のとおりである。
(1)容器内に収容する酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末の量を、容器内に収容された酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末の最頂部が、容器の深さの90%の高さを超えることのない量とする。
(2)酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末の加熱焼成を、300℃〜700℃の範囲の温度で行う。
(3)酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を収容する容器として、底面の面積よりも開口面の面積が大きい容器を用いる。
(4)酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を収容する容器の開口部に、酢酸蒸気の排気口を備えた、取り外し可能な蓋をしてから、容器内に収容された酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を加熱溶融させる。
(5)粘性液体となった酢酸セルロースを収容している容器の開口面に不活性気体を吹き付けながら加熱焼成を行う。
(6)酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末が酢酸セルロース繊維の切断物もしくは酢酸セルロースフィルムの粉砕物である。
【0012】
本発明はさらに、上記本発明の製造方法により製造した炭化物を水蒸気と不活性ガスの存在下にて賦活処理を行うことにより活性炭を製造する方法にもある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の酢酸セルロースの炭化物の製造方法は、連続式の加熱炉を使用するので、活性炭を工業的に大量生産するのに有利である。また、連続式加熱炉の炉内温度を二つの領域に分けて管理する必要がないので、作業が簡略になる。さらに、酢酸セルロースの粘性液体を外部に飛散させないので、炭化物の収率が高くなる。そして、本発明の製造方法によって得られた酢酸セルロースの炭化物を賦活処理することによって、BET比表面積が大きい活性炭を安定して製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施を想定した、酢酸セルロース粉末を収容した容器の一例の断面図である。
図2】本発明において酢酸セルロース粉末を好適に収容することができる容器の一例の断面図である。
図3】酢酸セルロース粉末を収容することができる容器(本発明では使用しない)の断面図である。
図4】本発明の実施に有利に用いることができるローラーハースキルンの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、出発原料として酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を用いる。出発原料の酢酸セルロースの塊状物及び粉末は、酢酸セルロース以外の成分を含んでいてもよい。但し、出発原料中の酢酸セルロース量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。出発原料に含まれる酢酸セルロース以外の成分は、加熱によって、酢酸セルロースと共に溶融するものであることが好ましい。酢酸セルロースは、酢酸の置換度が2〜3の範囲にあることが好ましい。酢酸セルロースは可塑剤を含んでいてもよい。
【0016】
酢酸セルロースの塊状物及び粉末のサイズには特に制限はない。酢酸セルロースの塊状物は一般にサイズが10mmを超えるものを、酢酸セルロースの粉末はサイズが一般に10mm以下のものをいう。酢酸セルロースの塊状物及び粉末の例としては、酢酸セルロース繊維の切断物もしくは酢酸セルロースフィルムの粉砕物を挙げることができる。酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末として、酢酸セルロースを含む工業製品の生産時に発生する不具合品あるいは使用済み品として廃棄された廃棄物を用いてもよい。酢酸セルロース繊維を含む工業製品の例としては、煙草フィルター及び浄水用のろ過膜を挙げることができる。酢酸セルロースフィルムを含む工業製品の例としては、写真フィルム及び偏光板を挙げることができる。
【0017】
本発明では、酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を上面が開口した容器に収容し、この容器を連続式加熱炉内にて水平方向に搬送しながら酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末を加熱焼成することによって炭化物を製造する。酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末は加熱すると溶融して粘性液体になる。本発明では、この粘性液体を、その粘性液体の加熱分解により発生する酢酸蒸気とその酢酸蒸気に随伴する粘性液体とからなる液滴が容器の外部にまで飛散しないように抑制しながら加熱焼成する。酢酸蒸気と粘性液体とからなる液滴が容器の外部にまで飛散することを防止する方法としては、容器内に収容する酢酸セルロースの塊状物もしくは粉末の量を調整する方法、液滴が外部に飛散しないように容器形状を調整する方法、粘性液体中に生成する酢酸蒸気の泡の量を減らすあるいは泡のサイズを小さくする方法などが挙げられる。
【0018】
次に、酢酸蒸気と粘性液体とからなる液滴が容器の外部にまで飛散することを防止するための具体的な方法を、添付図面を参照しながら説明する。なお、以下の例では、酢酸セルロースは粉末であるが、塊状物の場合も同様である。
【0019】
図1は、本発明の実施を想定した、酢酸セルロース粉末を収容した容器の一例の断面図である。図1において、容器1の開口部2には、酢酸セルロース粉末3が、最頂部の高さH(開口部2の底面から酢酸セルロース粉末3の表面までの距離)が容器1の深さT(開口部2の底面から開口面までの距離)の90%の高さを超えることのない量にて収容されている。最頂部の高さHは、容器1の深さTの85%を超えない高さが好ましく、80%を超えない高さが特に好ましい。また、最頂部の高さHは、容器1の深さTの50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。容器1に収容する酢酸セルロース粉末3を上記の量に抑えることによって、酢酸セルロース粉末3が溶融して粘性液体となった場合でも、粘性液体の表面と開口部2の開口面との間に空間が確保されるので、液滴が容器の外部にまでは飛散しにくくなる。最頂部の高さHは、例えば、酢酸セルロース粉末3を容器1の開口部2の開口面にまで充填したときの酢酸セルロース粉末の質量Gと、容器1の深さTとを予め測定しておけば、容器1内に収容した酢酸セルロース粉末3の質量Sから、下記の式(I)を用いて算出することができる。
最頂部の高さH=T×S/G・・・(I)
【0020】
容器1の開口部2の底面及び開口面の形状は、円もしくは四角形(特に、正方形)であることが好ましい。容器1の材料の例としては、鉄、ニッケル、ジルコニウム、白金などの金属、及びアルミナ、ジルコニアなどのセラミックが挙げられる。特に、セラミック製の容器は、生成する炭化物に金属が混入しにくいので好ましい。
【0021】
図2は、本発明において酢酸セルロース粉末を好適に収容することができる容器の一例の断面図である。図2に示す容器4は、開口部5の底面の面積が開口面の面積よりも大きくなっている。この容器では、図2に示すように、粘性液体6中の酢酸蒸気の泡7は開口面の中央に多く発生し、縁部には殆ど発生しない。このため、液滴が容器の外部にまで飛散しにくくなる。開口面の面積は底面の面積に対して1.1〜2.0倍の範囲にあることが好ましく、1.2〜1.6倍の範囲にあることが特に好ましい。
【0022】
図3は、酢酸セルロース粉末を収容することができる容器(本発明では使用しない)の断面図である。図3において、容器8は、開口部9を閉じるように取り外し可能な蓋10が取り付けられている。蓋10は中央が高くなって、その中央に酢酸蒸気の排気口11が設けられている。
【0023】
粘性液体中に生成する酢酸蒸気の泡の量を減らすあるいは泡のサイズを小さくする方法としては、粘性液体となった酢酸セルロースを収容している容器の開口面に不活性気体を吹き付けて、粘性液体の表面を冷却する方法、容器の材料に比熱及び熱容量が大きいセラミック材料を用いて、加熱炉に容器を入れたときに加熱炉内の熱が容器内に緩やかに伝わるようにする方法、加熱炉の炉内温度を緩やかに上昇させる方法が挙げられる。
【0024】
次に、酢酸セルロース粉末を収容した容器を連続式加熱炉内にて水平方向に搬送しながら酢酸セルロース粉末を加熱焼成して炭化物を製造する方法を、連続式加熱炉にローラーハースキルンを用いた場合を例にとり、添付図面を参照しながら説明する。
【0025】
図4は、本発明の実施に有利に用いることができるローラーハースキルンの一例の断面図である。図4において、ローラーハースキルンは、入口側不活性ガスパージ部12、加熱部13、放冷部14及び出口側不活性ガスパージ部15を有する。加熱部13と放冷部14は、耐熱材16で覆われている。加熱部13は内部に加熱装置17を備えている。さらに、加熱部13は、酢酸セルロースの熱分解によって生成する酢酸蒸気を回収するため酢酸回収装置18を備えている。入口側不活性ガスパージ部12、加熱部13、放冷部14及び出口側不活性ガスパージ部15は、容器19を搬送するためのローラ20を内部に備えている。入口側不活性ガスパージ部12と出口側不活性ガスパージ部15とには、不活性ガスが導入されている。これによって、加熱部13及び放冷部14の内部も不活性ガス雰囲気となる。不活性ガスの例としては、窒素ガス及び希ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス)を挙げることができる。
【0026】
図4のローラーハースキルンにおいて、酢酸セルロース粉末を収容した容器19は、入口側不活性ガスパージ部12を通って、加熱部13に送られる。加熱部13にて、容器19内の酢酸セルロース粉末は加熱溶融して粘性液体となった後、さらに加熱されて炭化物となる。加熱部13の内部温度は、一般に300〜700℃の範囲、好ましくは310〜500℃の範囲、特に好ましくは330〜450℃の範囲である。加熱部13の容器の通過時間(酢酸セルロース粉末の焼成時間)には特に制限はないが、一般に30分間以上、好ましくは2〜20時間の範囲である。加熱部13にて容器19内の酢酸セルロース粉末が炭化物となった後、容器19は放冷部14に送られる。そして、放冷部14にて、容器19は、通常は室温〜100℃の温度に放冷された後、出口側不活性ガスパージ部15に送られる。
【0027】
以上のようにして製造された炭化物を、容器から取り出して賦活処理することによって活性炭が得られる。容器から取り出した炭化物は、サイズが一般には10mm以上、好ましくは20〜200mmの塊状物である。炭化物は、賦活処理する前に粉砕して、粒子径が0.1〜10mmの粉末としてもよい。
【0028】
賦活処理は、炭化物を賦活ガスと不活性ガスの存在下にて加熱することにより行なうことが好ましい。賦活ガスの例としては、二酸化炭素ガス、水蒸気、酸素ガス、塩化水素ガス、アンモニアガス及び空気を挙げることができる。賦活ガスは、二酸化炭素ガス及び水蒸気が好ましく、水蒸気が特に好ましい。不活性ガスの例としては、窒素ガス及び希ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガス)を挙げることができる。加熱温度は、一般に800〜1100℃の範囲、好ましくは900〜1100℃の範囲である。加熱時間は、一般に10分間〜10時間の範囲、好ましくは30分間〜5時間の範囲である。
【0029】
以上のようにして得られた活性炭は、必要に応じて粉砕処理及び分級処理を行なって、粉末状あるいは顆粒状に形成してもよい。粉砕処理には、例えば、ボールミル、ディスクミル、ビーズミル及びジェットミルなどの粉砕装置を用いることができる。粉砕装置は、ボールミル(特に、遊星ボールミル)、ディスクミル(特に、石臼式ディスクミル)を用いることが好ましい。これらのミルの粉砕媒体は、活性炭への金属の混入を防ぐために、アルミナ製、セラミック製またはジルコニア製のいずれかであることが好ましい。分級処理には、例えば、ポリアミドメッシュ製の篩やサイクロン型分級機を用いることができる。また、粉末状の活性炭を、粒状あるいはペレット状に成形して使用してもよい。
【実施例】
【0030】
[実施例1]
上面が開口した直方体状のアルミナ製容器(開口のサイズ:縦285mm×横285mm、深さ:125mm、容積:10.2L、容器の厚さ:10mm)に、酢酸セルロース粉末(厚さが180μm酢酸セルロースフィルムを、約5mmのサイズに粉砕した粉砕物)3kgを投入した。なお、容器内に収容された酢酸セルロースの最頂部の高さは99mmであり、容器の深さの79%の高さであった。酢酸セルロース粉末を収容した容器を、ローラーハースキルン(加熱部の長さ:10m、加熱部内の温度:350℃)内にて、水平方向に2.5m/時間の速度で搬送した(加熱時間:4時間)。ローラーハースキルンから搬出された容器を観察したところ、容器の外面に炭化物は付着しておらず、容器の外部に酢酸セルロースの粘性液体が飛散していないことが確認された。また、容器内に生成している炭化物を観察したところ、炭化物の表面は平坦で、光沢があった。
得られた炭化物を容器から取り出して、ロータリキルン炉に投入した。そして、ロータリキルン炉を1rpmの回転速度で回転させ、炉内に水蒸気と窒素ガスを供給しながら、900℃の温度で2時間加熱して、炭化物を賦活して活性炭を製造した。
得られた活性炭は、BET比表面積が2685m2/gであった。
【0031】
[比較例1]
ローラーハースキルンの加熱部内の温度を500℃としたこと以外は、実施例1と同様にして炭化物を製造した。ローラーハースキルンから搬出された容器を観察したところ、容器の外面に炭化物が付着しており、容器の外部に酢酸セルロースの粘性液体が飛散していることが確認された。また、容器内に生成している炭化物を観察したところ、炭化物の表面に多数の凹凸が確認された。
得られた炭化物を容器から取り出して、実施例1と同様に炭化物を賦活して活性炭を製造した。得られた活性炭は、BET比表面積が2100m2/gであり、実施例1で得られた活性炭よりもBET比表面積が低かった。
【0032】
[比較例2]
容器に投入する酢酸セルロース粉末の量を3.5kgとしたこと以外は、実施例1と同様にして炭化物を製造した。なお、容器内に収容された酢酸セルロースの最頂部の高さは115mmであり、容器の深さの92%の高さであった。ローラーハースキルンから搬出された容器を観察したところ、容器の外面に炭化物が付着しており、容器の外部に酢酸セルロースの粘性液体が飛散していることが確認された。また、容器内に生成している炭化物を観察したところ、炭化物の表面に多数の凹凸が確認された。
得られた炭化物を容器から取り出して、実施例1と同様に炭化物を賦活して活性炭を製造した。得られた活性炭は、BET比表面積が2120m2/gであり、実施例1で得られた活性炭よりもBET比表面積が低かった。
【0033】
[実施例2]
容器に底面の面積が529cm2(縦230mm×横230mm)、開口面の面積が1136cm2(縦337mm×横337mm)、深さが125mm、そして容量が10.2Lの容器を用い、その容器に酢酸セルロース粉末を3.5kg投入したこと以外は、実施例1と同様にして炭化物を製造した。なお、容器内に収容された酢酸セルロースの最頂部の高さは118mmであり、容器の深さの94%の高さであった。
ローラーハースキルンから搬出された容器を観察したところ、容器の外面に炭化物は付着しておらず、容器の外部に酢酸セルロースの粘性液体が飛散していないことが確認された。また、容器内に生成している炭化物を観察したところ、炭化物の表面は平坦で、光沢があった。
得られた炭化物を容器から取り出して、実施例1と同様に炭化物を賦活して活性炭を製造した。得られた活性炭は、BET比表面積が2816m2/gであった。
【符号の説明】
【0034】
1 容器
2 開口部
3 酢酸セルロース粉末
4 容器
5 開口部
6 粘性液体
7 酢酸蒸気の泡
8 容器
9 開口部
10 蓋
11 酢酸蒸気の排気口
12 入口側不活性ガスパージ部
13 加熱部
14 放冷部
15 出口側不活性ガスパージ部
16 耐熱材
17 加熱装置
18 酢酸回収装置
19 容器
20 ローラ
図1
図2
図3
図4