特許第6139883号(P6139883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6139883メイラード反応により色度、香味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139883
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】メイラード反応により色度、香味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/04 20060101AFI20170522BHJP
   C12G 3/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C12C5/04
   C12G3/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-288490(P2012-288490)
(22)【出願日】2012年12月28日
(65)【公開番号】特開2014-128236(P2014-128236A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】307027577
【氏名又は名称】麒麟麦酒株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】大久保 和也
(72)【発明者】
【氏名】松尾 壮昌
(72)【発明者】
【氏名】石川 順也
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−139162(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/110269(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00 − 3/14
C12C 1/00 −13/10
C12F 3/00 − 5/00
C12H 1/00 − 3/04
C12J 1/00 − 1/10
C12L 3/00 −11/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビール酵母を用い、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物又はその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、該メイラード反応を、100℃〜130℃の温度範囲、600秒〜5400秒の反応時間の範囲において、反応液のpHを指標に、反応液のpHが4.8〜5.3になるように、加熱時間及び加熱温度について調整することを特徴とする発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
加熱温度が、130℃であり、加熱時間が600秒で、反応液のpHが、5.26であることを特徴とする請求項1に記載の発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
タンパク分解物が、該発酵アルコール飲料の製造において窒素原料として用いられるタンパク質の分解物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
タンパク分解物が、大豆タンパク分解物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
糖とタンパク分解物とのメイラード反応物を、発酵アルコール飲料の製造工程の発酵工程前に添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール酵母を用い、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び香味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、該メイラード反応を、所定の温度範囲、及び所定の反応時間の範囲において、反応液のpHを指標に調整することにより、メイラード反応を的確に調整し、液色及び香味に優れた発酵アルコール飲料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵アルコール飲料である、ビールや発泡酒は、主原料として麦芽を、副原料として米、麦、コーン、スターチ等の澱粉質原料、及びこれにホップ、水を原料として製造されるが、日本の酒税法においては、ビールは、水を除く麦芽使用量が50重量%以上66.7重量%未満及び、25重量%以上50重量%未満及び、25重量%未満の3種類が規定されている。
【0003】
発泡酒は、日本の酒税法上は、麦又は麦芽を原料の一部として用いた雑酒に属するものであるが、ビールも発泡酒も、いずれも麦芽の活性酵素や、カビ等由来の精製された酵素を用いて、麦芽や副原料である澱粉質を糖化させ、この糖化液を発酵させて、アルコールと炭酸ガスに分解して、アルコール飲料としているものである点で共通している。従って、ビールの作り方も、発泡酒の作り方も、その基本においては、大きく変わるものではない。
【0004】
一方、発泡性を有する「雑酒」は、日本の酒税法上、麦又は麦芽を原料の一部とした上記「発泡酒」と発泡酒以外の「その他の雑酒」に分類される。ここで、「その他の雑酒」は、麦又は麦芽を使用せず、マメ類、穀類などの植物タンパク質等を酵素で分解して必要とする窒素源を得、糖化液を加えて発酵させるものである。従って、「その他の雑酒」の作り方についてもビール又は発泡酒の作り方と基本的に大きく変わるものではなく、ビール又は発泡酒の製造装置を使用してつくることが可能である。
【0005】
近年、ビールや発泡酒及びその他の雑酒のような発酵アルコール飲料において、香味の多様化等の目的から、種々の原料、種々の添加物を用いて、多種の味覚及び風味を有する発酵アルコール飲料の製造方法が開示されている。麦芽以外の原料を用いるものとして、例えば、麦汁を、小麦、馬鈴薯、トウモロコシ、もろこし、大麦、米、又はタピオカから得たデンプンに基くグルコースシロップ及び可溶性タンパク質材料、水及びホップから調製し、これを発酵させてビールタイプ飲料を製造する方法(特開2001−37462号公報)、米、麦、ヒエ、アワなどの穀類を原料として、低アルコールの発酵飲料を製造する方法(特開2001−37463号公報)等が開示されている。
【0006】
これらの発酵アルコール飲料の製造方法においては、いずれの場合も、原料を混合して発酵前溶液を調製し、該発酵前溶液を加熱・煮沸し、酵素の失活と色度の調整を行った後、ビール酵母を用いて発酵する方法が採られている。ビール酵母を用いて発酵する発酵アルコール飲料において、ビールの製造においては、主として麦芽の色素によって、色度(液色)の付与が行なわれ、必要により、色素の添加を行なって、発酵アルコール飲料の色度(液色)の調整が図られている。しかしながら、発泡酒やその他の雑酒の場合は、麦芽の使用比率が低いか、麦又は麦芽の使用率に制限があるため、これらの原料の使用制限に基く、最終製品の色度の値の低下が避けられず、カラメル色素のような色素の添加等で、発酵アルコール飲料の色度(液色)の調整が行なわれている。
【0007】
例えば、特開2001−37462号公報には、麦芽を使用することなく、グルコースシロップと小麦タンパク等から調製された可溶性タンパク質性材料を用いて調製した麦汁を用いて、ビールタイプ飲料を製造する方法が開示されているが、その色度の付与のためにカラメルが用いられている。また、特開2004−24151号公報には、麦芽を原料として用いず、大麦、小麦のような麦デンプン原料を用いてビールテイスト飲料を製造することについて開示されているが、その色度の調整のために、カラメル、或いは該カラメル色素に加えて或いは該カラメル色素に代えてベニバナ色素が添加されている。
【0008】
更に、WO 2004/000990 A1には、大麦、小麦、麦芽を一切使用することなしに、トウモロコシ、馬鈴薯、えんどう豆、大豆、又は米から得られた炭素源含有シロップと、トウモロコシ、馬鈴薯、えんどう豆、大豆、又は米から得られた窒素源を用いて、発泡性のビール様アルコール飲料を製造する方法が開示されているが、該アルコール飲料の色度の付与のために、色素が添加されており、該色素として、カラメル色素、ベニバナ色素、くちなし色素等の天然色素、又は食用赤色102号等の合成色素が用いられている。しかしながら、これらの色素を添加する方法では、ビールとは異なる不自然な色合いや風味のアルコール飲料となる傾向が依然として残っており、また、麦や麦芽原料の使用制限に伴って、ビールにある風味やボディ感に欠け、物足りなさを感じる傾向が強かった。
【0009】
そこで、本発明者らは、先に、ビール酵母を用いた発酵アルコール飲料の製造方法において、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物を用いて発酵アルコール飲料の色度(液色)及び風味を調整し、液色及び風味に優れた発酵アルコール飲料を製造する方法を開発し、特許出願をなした(特許第3836117号公報)。このメイラード反応物を用いた発酵アルコール飲料の製造方法によれば、麦芽や麦類の使用等、制限された発酵原料の使用のために発酵アルコール飲料の色度や風味の補強が必要な発泡酒やその他の雑酒のような発酵アルコール飲料の製造においても、ビール様の自然な色度や風味を付与した発酵アルコール飲料を製造することができ、ビールにある風味やボディ感のある液色及び風味に優れた発酵アルコール飲料を製造することが可能となる。
【0010】
このメイラード反応物を用いた発酵アルコール飲料の製造方法においては、メイラード反応により、単に発酵アルコール飲料の色度(液色)が調整されるということでなく、該メイラード反応によって生成される反応生成物が、発酵アルコール飲料の香味に重要な影響を及すことから、該メイラード反応製造においてはメイラード反応に用いられる、所定の加熱温度の範囲及び加熱時間の範囲で、的確なメイラード反応の調整が要求される。したがって、該メイラード反応の的確なコントロールは、該メイラード反応を用いて製造される発酵アルコール飲料の製造において、液色及び香味に優れた発酵アルコール飲料を製造するための重要な課題となる。一方で、メイラード反応を用いて発酵アルコール飲料を製造するに際して、メイラード反応の効率的な条件を設定するための指標ともなりうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−37462号公報。
【特許文献2】特開2001−37463号公報。
【特許文献3】特開2004−24151号公報。
【特許文献1】WO 2004/000990A1。
【特許文献1】特許第3836117号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、ビール酵母を用い、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び香味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、該メイラード反応を、所定の温度範囲、及び所定の反応時間の範囲において、反応指標を設けて、メイラード反応を的確に調整し、液色及び香味に優れた発酵アルコール飲料を製造する方法、及び該メイラード反応の的確な調整により、液色及び香味に優れた発酵アルコール飲料を効率的に製造する条件を設定する方法を提供することにある。
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、メイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料を製造する際の、メイラード反応の温度及び反応時間と、該反応によって生成される反応物との関係について鋭意検討する中で、(1)メイラード反応(アミノ−カルボニル反応)が進むと、色度の増加が起こるとともに、反応液のpHが低下すること、(2)該アミノ酸の低下が、塩基性アミノ酸が、メイラード反応の進行により反応し、反応液中の塩基性アミノ酸量が減少することに起因すること、(3)該アミノ酸組成の変更が、発酵アルコール飲料の味覚に影響を及ぼすこと、及び、(4)反応液のpHの低下と、色度の増加は、パラレルの関係にあり、該pHの低下は、メイラード反応の温度或いは反応時間の変更とは直接関連しないことを見出し、該反応液のpHの低下を指標とすることで、メイラード反応の進行を的確に調整でき、かつ、メイラード反応液のアミノ酸組成を調整できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、ビール酵母を用い、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、該メイラード反応を、100℃〜130℃の温度範囲、600秒〜5400秒の反応時間の範囲において、反応液のpHを指標に調整することを特徴とする発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法からなる。本発明は、該方法により、所定の加熱温度の範囲及び加熱時間の範囲で、的確な加熱温度及び加熱時間の調整が可能となり、液色及び香味に優れた発酵アルコール飲料を的確に製造することが可能となる。また、該指標によるメイラード反応の的確な評価により、所定の加熱温度の範囲及び加熱時間の範囲で、的確なコントロールが可能となり、メイラード反応を用いて発酵アルコール飲料を製造するに際して、効率的な条件設定を定めることが可能となる。
【0015】
本発明のメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、メイラード反応の反応液のpHの指標としては、反応液のpHが、4.8〜5.3になるような反応液のpHが採用される。好ましい調整例としては、加熱温度が、130℃であり、加熱時間が600秒で、反応液のpHが、5.26である例を挙げることができ、高温で、短時間の効率的な液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造が可能となる。
【0016】
本発明のメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、メイラード反応の反応物であるタンパク分解物としては、該発酵アルコール飲料の製造において窒素原料として用いられるタンパク質の分解物を挙げることができる。該タンパク分解物としては、大豆タンパク分解物を挙げることができる。
【0017】
本発明のメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物は、発酵アルコール飲料の製造工程の発酵工程前に添加することができる。本発明のメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、該発酵アルコール飲料としては、発泡酒又はその他の雑酒を挙げることができる。
【0018】
すなわち具体的には本発明は、[1]ビール酵母を用い、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物又はその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、該メイラード反応を、100℃〜130℃の温度範囲、600秒〜5400秒の反応時間の範囲において、反応液のpHを指標に、反応液のpHが、4.8〜5.3になるように、加熱時間及び加熱温度について調整することを特徴とする発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法や、[2]加熱温度が、130℃であり、加熱時間が600秒で、反応液のpHが、5.26であることを特徴とする上記[1]に記載の発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法からなる。
【0019】
また、本発明は、[3]タンパク分解物が、該発酵アルコール飲料の製造において窒素原料として用いられるタンパク質の分解物であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法や、[4]タンパク分解物が、大豆タンパク分解物であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載の発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法や、[5]糖とタンパク分解物とのメイラード反応物を、発酵アルコール飲料の製造工程の発酵工程前に添加することを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか記載の発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法からなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、ビール酵母を用い、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び香味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、該メイラード反応を、所定の温度範囲、及び所定の反応時間の範囲において、反応指標を設けて、メイラード反応を的確に調整することにより、液色及び香味に優れた発酵アルコール飲料を製造する方法を提供する、また該メイラード反応の的確な調整により、液色及び香味に優れた発酵アルコール飲料を効率的に製造する条件を設定する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施例におけるメイラード反応時間と色度、pHの影響についてのラボレベルの試験において、メイラード反応時間と色度の関係について示すグラフである。
図2図2は、本発明の実施例における、ブラウニング(メイラード反応)時間と色度、pHの影響についてのラボレベルの試験において、ブラウニング(メイラード反応)時間とpHの関係について示すグラフである。
図3図3は、本発明の実施例におけるブラウニング(メイラード反応)時間とアミノ酸組成についてのラボレベルの試験において、ブラウニング(メイラード反応)時間と各アミノ酸濃度について示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施例におけるブラウニング(メイラード反応)時間とアミノ酸組成についてのラボレベルの試験において、ブラウニング(メイラード反応)時間5400秒時のアミノ酸の900秒時のアミノ酸に対する比率について示すグラフである。
図5図5は、本発明の実施例におけるメイラード反応時間と色度、pHの影響についての実製造レベル(120kL)の試験において、ブラウニング(メイラード反応)時間と冷麦汁のpHの関係について示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施例におけるメイラード反応時間と色度、pHの影響についての実製造レベル(120kL)の試験において、ブラウニング(メイラード反応)時間と冷麦汁カラーの関係について示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、ビール酵母を用い、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、該メイラード反応を、100℃〜130℃の温度範囲、600秒〜5400秒の反応時間の範囲において、反応液のpHを指標に調整することを特徴とする発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整した発酵アルコール飲料の製造方法からなる。メイラード反応物はアミノ酸等のタンパク分解物と糖とを混合して加熱することによって得ることができる褐色の液体であり、アミノ酸等のタンパク分解物と糖との加熱反応によって付与される芳香を有する。
【0023】
メイラード反応物に用いる原料のうち、糖は、結晶グルコースや水飴等の液糖、或いは麦芽や麦、米等植物澱粉の糖化液等、糖が含有されているものであれば限定はされないが、取り扱いや反応の効率化の観点からは、液糖が好ましい。また、メイラード反応に寄与するのは、糖の配糖体形成能を有する水酸基であることから、より好ましくは、単糖主体の液糖が用いられる。
【0024】
また、メイラード反応させる原料のうち、タンパク分解物は、麦類、豆類、トウモロコシ、馬鈴薯、米等のタンパクをプロテアーゼやペプチダーゼで分解したものを用いてもよく、また、工業的に精製されたアミノ酸又はその混合物を用いることもできるが、費用や風味の観点からは、ビール酵母を用いた発酵アルコール飲料の製造原料として用いられている前者が好ましい。更に、前者の中で、大豆タンパク分解物は、より好ましいタンパク分解物として挙げることができる。また、本発明においては、メイラード反応物の添加によって付与される風味と原料として用いられるタンパクによって付与される発酵アルコール飲料の風味との調和を図る目的で、メイラード反応物調製に用いられるタンパク分解物として、その発酵アルコール飲料の製造において窒素源として用いられているタンパク質原料の分解物を用いることができる。本発明において、タンパク分解物の調製に用いるタンパク分解酵素としては、市販の酵素を用いることができる。例えば、プロテアーゼAアマノG、プロテアーゼPアマノG、ペプチダーゼR(天野エンザイム社製)などいずれの酵素を用いても良く、またこれらの酵素を組合わせることもできる。
【0025】
本発明において、メイラード反応物調製に用いられる反応温度は、100〜130℃の温度が採用される。本発明の発酵アルコール飲料の製造方法において、メイラード反応物の添加時期は、特に制限されないが、メイラード反応物中に残存している糖及びアミノ酸を酵母に消費させるためには、発酵前の段階での添加が好ましい。すなわち、本発明においては、メイラード反応物を予め調製し、発酵アルコール飲料の製造工程の発酵工程前に添加する。また、該反応物を添加する代わりに、発酵アルコール飲料の製造工程の発酵工程前に、反応温度100℃以上、130℃以下を用いた原料中の糖とタンパク分解物とのメイラード反応物生成工程を挿入することによって行なうことができる。
【0026】
本発明において、メイラード反応は、100℃〜130℃の温度範囲、600秒〜5400秒の反応時間の範囲において、反応液のpHを指標に、pH4.8〜5.3になるように調整される。効率的なメイラード反応の例を挙げれば、加熱温度が130℃であり、加熱時間が600秒で、反応液のpHが、5.26である例を挙げることができる。該メイラード反応の条件のコントロールにより、短時間の効率的な反応によっても、的確なメイラード反応を達成することができる。
【0027】
本発明の製造方法を用いて発酵アルコール飲料を製造するに際しては、メイラード反応液のpHを指標として、メイラード反応を調整するが、メイラード反応物又はその調製物の色度、フルフラール成分、メチオナール成分又はフェニルアセトアルデヒド成分のうちのいずれか一以上を指標として加えることができる。発酵アルコール飲料の液色及び風味の調整のための指標として、メイラード反応物又はその調製物の色度、フルフラール成分、メチオナール成分又はフェニルアセトアルデヒド成分のうちのいずれか一以上を用いて発酵アルコール飲料の液色及び風味を調整する場合には、前記色度、又は前記各成分濃度の数値が、前記色度で12EBC以上、前記フルフラール成分濃度で300bbp以上、前記メチオナール成分濃度で50bbp以上、又は前記フェニルアセトアルデヒド濃度で200bbp以上とすることが好ましい。
【0028】
すなわち、発酵アルコール飲料の液色及び風味を効果的かつ効率的に調整できるメイラード反応物の色度やアルデヒド類濃度(フルフラール、メチオナール、フェニルアセトアルデヒド)は、保持温度100℃(常圧下)といった通常の反応物の場合と比べて、少なくとも2倍以上であればよい。具体的には、上記のとおり色度が12EBC以上、フルフラール成分濃度300bbp以上、メチオナール成分濃度50bbp以上、又はフェニルアセトアルデヒド濃度成分200bbp以上であれば良い。より好ましくは、通常の反応物の場合と比べて4倍以上、つまり、色度23EBC以上、フルフラール成分濃度600bbp以上、メチオナール成分濃度100bbp以上、又はフェニルアセトアルデヒド成分濃度400bbp以上であれば良い。更に、好ましくは、色度39EBC以上、フルフラール成分濃度900bbp以上、メチオナール成分濃度200bbp以上、又はフェニルアセトアルデヒド成分濃度700bbp以上であることが好ましい。
【0029】
本発明において、メイラード反応物調製のための装置としては、加圧式の加熱装置を用いることができる。本発明の発酵アルコール飲料の製造方法は、通常のビール等の製造に用いられる製造装置を用いることができ、麦汁或いは発酵前溶液の調製、処理、及び発酵条件等の製造条件は、基本的に通常これらの発酵アルコール飲料の製造に用いられる条件を用いることができる。
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
[ブラウニング(メイラード反応)時間と色度、pHの影響について(I)]
ラボレベルで、大豆たん白分解物と液糖を添加した溶液を、圧力容器にて120℃でブラウニング(時間を変化させて加熱処理した(900〜5400秒)。その後、それらメイラード反応物と液糖を加えて100℃で煮沸し、得られた溶液の分析値を確認した。
【0032】
(結果)
結果を図1(ブラウニング時間と色度の関係)、及び、図2(ブラウニング時間とpHの関係)に示す。ブラウニング時間に比例して色度は比例的に上昇し、pHは低下した。表1(仕込液のメイラード反応時間と色度、pHの影響)に各分析結果を示した。仕込液の全窒素はブラウニング時間による影響はみられなかったが、アミノ酸はブラウニング時間が長くなる程低下した。これはメイラード反応の基質としてアミノ酸が作用した事によると考えられる。
【0033】
【表1】
【実施例2】
【0034】
[ブラウニング(メイラード反応)時間とアミノ酸組成について]
先のラボ試験にて、ブラウニング時間の延長によりアミノ酸の低下が確認されたため、各アミノ酸がそれぞれどの程度減少しているかについても確認することとした。
【0035】
(結果)
結果を、図3(ブラウニング時間と各アミノ酸濃度)、及び、図4(ブラウニング時間5400秒時のアミノ酸の900秒時のアミノ酸に対する比率)に示す。結果として、塩基性アミノ酸であるリジン、ヒスチジン、アルギニンがブラウニング時間の延長とともに低下していた。ブラウニング反応により、これら塩基性アミノ酸のアミノ基も糖のカルボニル基と反応してメイラード反応が進行していると考えられ、これら塩基性アミノ酸が低下することにより、溶液の緩衝作用が低下してアミノ酸が低下したものと考えられる。
【実施例3】
【0036】
[ブラウニング(メイラード反応)温度による影響について]
ラボレベルで、大豆たん白分解物と液糖を添加した溶液を、圧力容器にてブラウニングした。ブラウニング温度を110、120、130℃とし、ブラウニング時間をそれぞれ600〜5400に変更し、色度を同等となるように調整した。
【0037】
(結果)
結果を、表2(ブラウニング温度、時間と色度、pHの関係)に示す。試験A、試験Bでは、使用原料が異なっているが、試験Bでは、いずれの温度でも色度が同等となり、pHも同等となった。ブラウニング温度を変更しても色度を同等とすることで、pHを同等に管理できることが確認された。
【0038】
【表2】
【実施例4】
【0039】
[プラントレベルでの結果]
2kLのパイロットプラントにて試醸を実施した。ブラウニング(メイラード反応)温度は120℃と固定し、ブラウニング時間を1140〜12000秒まで変更した。
【0040】
(結果)
仕込の分析値を表3(ブラウニング時間と色度、pHの関係)に示した。試験と同様に色度の上昇に伴いpHは低下した。試験4では、さらに色度を上昇させることを想定し、液糖や大豆蛋白を増量したところ色度を上昇させることができた。pHについては、大豆たん白増量により緩衝効果が高まったことで低下が抑制されたものと考える。
【0041】
評価の結果、色度は、試験1、試験2、試験3、及び試験4ともに、発酵アルコール飲料の液色として十分の色度を得ることができたが、官能評価(5名のパネラー)の結果、香味については、試験1は、酸味も良好で、後味の良いものとなったが、試験2〜4は、酸味が強く、後雑味の増したものとなった。
【0042】
【表3】
【実施例5】
【0043】
[ブラウニング(メイラード反応)時間と色度、pHの影響について(II)]
メイラード反応時間と色度、pHの影響について、麦汁を用い実製造レベル(120kL)の試験を行った。
【0044】
(結果)
麦汁を用いた実製造レベルの7バッチについてのブラウニング(メイラード反応)時間と冷麦汁のpH、色度の関係について、表4に示す。ラボレベルの結果と同様に、ブラウニング時間に比例して色度は比例的に上昇し、pHは低下した。ブラウニング時間と冷麦汁のpHの関係について、図5に示す。また、ブラウニング時間と冷麦汁カラーの関係について、図6に示す。
【0045】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ビール酵母を用い、糖とタンパク分解物とのメイラード反応物及びその調製物を用いて発酵アルコール飲料の液色及び香味を調整する発酵アルコール飲料の製造方法において、該メイラード反応を、所定の温度範囲、及び所定の反応時間の範囲において、反応指標を設けて、メイラード反応を的確に調整することにより、液色及び香味に優れた発酵アルコール飲料を製造する方法を提供する、また該メイラード反応の的確な調整により、液色及び香味に優れた発酵アルコール飲料を効率的に製造する条件を設定する方法を提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6