特許第6139887号(P6139887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6139887薬物含有生体吸収性繊維の作製方法およびこの薬物含有生体吸収性繊維を含む生体吸収性薬物送達装置の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139887
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】薬物含有生体吸収性繊維の作製方法およびこの薬物含有生体吸収性繊維を含む生体吸収性薬物送達装置の作製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/00 20060101AFI20170522BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20170522BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20170522BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20170522BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170522BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   A61K9/00
   A61K47/34
   A61K47/12
   A61K47/18
   A61K47/02
   A61P35/00
   A61P9/10 101
【請求項の数】21
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-1859(P2013-1859)
(22)【出願日】2013年1月9日
(65)【公開番号】特開2013-213020(P2013-213020A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2016年1月6日
(31)【優先権主張番号】13/435,487
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513055252
【氏名又は名称】マンリ インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シー−ホン ス
(72)【発明者】
【氏名】ティン−ビン ユ
(72)【発明者】
【氏名】ミン グエン
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−522070(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0213634(US,A1)
【文献】 特表2009−504929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物含有生体吸収性繊維を作製する方法であって、当該方法は、
生体吸収性ポリマーおよび薬物の両方を有機溶媒に溶解して溶液を形成する工程と、
繊維状モールドに前記溶液を分注する工程と、
薬物含有生体吸収性繊維の前駆体を形成するために前記有機溶媒を蒸発させる工程と、
均一な直径を有する生体吸収性薬物含有繊維を形成するために前記薬物含有生体吸収性繊維の前駆体をダイに引き通す工程とを含み、
ここで、当該方法は、5℃から80℃までの温度で実行される、方法。
【請求項2】
前記分注する工程または前記蒸発させる工程は、5℃から40℃までの温度で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記引き通す工程は、前記生体吸収性ポリマーのガラス転移温度付近で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記均一な直径は、0.025mmから0.80mmまでである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記薬物は、前記生体吸収性ポリマーの0.1重量%から99.9重量%までで添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記分注する工程の前に、弱酸、弱塩基、またはその無水物を、前記溶液に添加することによって、前記薬物含有生体吸収性繊維が、当該弱酸、弱塩基、またはその無水物を添加せずに作製された薬物含有生体吸収性繊維と比べて速い分解速度を有するようにする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記弱酸、弱塩基、またはその無水物は、最大で前記生体吸収性ポリマーの5重量%まで添加される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記弱酸は、乳酸、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、ピルビン酸、コハク酸、シトラマル酸、リン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸とグルタミン酸とを含有するペプチド、粘液酸、酒石酸、グルコン酸、アセチルサリチル酸、および上記いずれかの酸の無水物からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記弱塩基は、水酸化アンモニウム、アンモニア、トリメチルアンモニウム、ピリジン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、酢酸カリウム、および上記いずれかの塩基の無水物からなる群より選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記生体吸収性ポリマーは、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリラクチド類、ポリ−L−ラクチド、ポリ−D,L−ラクチド、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−トリメチレンカーボネート)、ポリヒドロキシ吉草酸、およびエチルビニルアセテートからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
薬物含有生体吸収性繊維を作製する方法であって、当該方法は、
生体吸収性ポリマーおよび第1の薬物の両方を有機溶媒に溶解して溶液を形成する工程と、
平面上に前記溶液を分注する工程と、
少なくとも2つの端を有する薬物含有生体吸収性ポリマーのシートを形成するために前記有機溶媒を蒸発させる工程と、
薬物含有生体吸収性管状体を形成するために前記少なくとも2つの端をつなぎ合わせる工程と、
前記薬物含有生体吸収性管状体の各端部を封止する工程と、
均一な直径を有する生体吸収性薬物含有繊維を形成するために前記封止された薬物含有生体吸収性管状体をダイに引き通す工程とを含み、
ここで、当該方法は、5℃から80℃までの温度で実行される、方法。
【請求項12】
第2の薬物を前記薬物含有生体吸収性ポリマーのシートの表面に添加する工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記つなぎ合わせる工程の前に、前記薬物含有生体吸収性ポリマーのシートを、第2の薬物含有生体吸収性ポリマー繊維に巻き付ける工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記第2の薬物含有生体吸収性ポリマー繊維は少なくとも2つの薬物を含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記生体吸収性ポリマーは、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリラクチド類、ポリ−L−ラクチド、ポリ−D,L−ラクチド、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−トリメチレンカーボネート)、ポリヒドロキシ吉草酸、およびエチルビニルアセテートからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
被験体の細胞の過増殖によって引き起こされる疾患を処置するための生体吸収性薬物送達装置を作製する方法であって、
請求項12に記載の方法によって薬物含有生体吸収性繊維を作製する工程と、前記薬物含有生体吸収性繊維を含む生体吸収性薬物送達装置を作製する工程とを含み
記第1の薬物は、抗増殖剤である、方法。
【請求項17】
前記生体吸収性ポリマーは、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリグリコリド、ポリラクチド類、ポリ−L−ラクチド、ポリ−D,L−ラクチド、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)、ポリ(L−ラクチド−co−トリメチレンカーボネート)、ポリヒドロキシ吉草酸、およびエチルビニルアセテートからなる群より選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記生体吸収性薬物送達装置は、血管、胃腸管、または導管に埋め込み可能である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞の過増殖によって引き起こされる疾患は、腫瘍であり、
前記第2の薬物は、細胞保護剤であり、
前記生体吸収性薬物送達装置は、前記腫瘍に血液を供給する動脈に埋め込み可能である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞の過増殖によって引き起こされる疾患は、胃腸腫瘍または腺腫瘍であり、
前記第2の薬物は、細胞保護剤であり、
前記生体吸収性薬物送達装置は、胃腸管に埋め込み可能である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞の過増殖によって引き起こされる疾患は、アテローム性動脈硬化および狭窄症であり、
前記生体吸収性薬物送達装置は、動脈の狭窄している部位に埋め込み可能である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(背景)
ステント作製に用いられる薬物含有ポリマー繊維は、代表的には、共圧縮成形、共射出成形、または共押出により形成される。例えば、従来の共押出過程においては、1つ以上の薬物がポリマー樹脂と混合される。次いで、この混合されたポリマー樹脂は融解されて押し出され、繊維を形成する。しかしながら、この共押出過程には2つの重大な制限がある。1つ目は、混合および融解押出はどちらも上記ポリマーが融解する温度で行われ、当該温度において薬物は容易に分解することである。2つ目は、融解押出過程中に繊維が破壊されないように、ポリマーに対する薬物の比率を低く保たなければならないことである。
【0002】
実際、ポリマーに対する薬物の比率は、上記手法により薬物含有ポリマー繊維を作製する過程において極めて重要である。ポリマー繊維の機械的強度を大きく損なうことを避けるためにポリマーに対する薬物の重量比を低く保つことは、当該技術分野において慣用されていることである。したがって、薬物含有ポリマー繊維を用いて作製された従来技術のステントは、代表的には、薬物含有量が少ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
高分子量または超高分子量のポリマー樹脂は、機械的に強い生体吸収性ポリマー繊維を作製する際に一般に使用されている。このような強い繊維は、機械的強度が必要とされる場合のステント作製の用途にとって望ましい。高分子量ポリマーを使用する際の欠点の1つは、高分子量ポリマーによって作製された繊維は分解時間が長いということである。例えば、このような繊維から作製されて動脈に移植されたステントは、ゆっくりと分解し、慢性的な異物反応などの長期的な問題が生じることがある。
【0004】
既存の薬物含有生体吸収性繊維の別の特徴は、薬物放出特性(プロファイル)が固定されていることである。代表的には、埋め込めこまれると、ポリマー繊維から形成された薬物送達装置が最初に高濃度の薬物を放出し、薬物の放出に伴いその濃度は急速に低下する。すなわち、その薬物は短い時間だけ高濃度で存在する。この薬物放出特性は、特定の病状に合わせて調整することができない。
【0005】
薬物搭載量の低さ、薬物を分解させてしまう作製条件、ポリマーの長い分解時間、プログラムできない薬物送達特性などの、既存の方法に付随する諸問題を克服する薬物含有生体吸収性ポリマー繊維を作製する方法を開発する必要がある。
【0006】
本発明の主な目的は、高い強度と高い薬物含有量の両方を有する薬物含有生体吸収性繊維を作製する方法を提供することである。このような繊維は、様々な疾患を処置するための埋め込み可能な生体吸収性薬物送達装置の作製に使用され得る。他の目的は、細胞の過増殖から生じる疾患を処置する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の一態様は、薬物含有生体吸収性繊維を作製する方法に関する。当該方法は、生体吸収性ポリマーを薬物とともに有機溶媒に溶解させる工程を含む。得られた溶液はモールドに分注され、その後、上記有機溶媒は蒸発(エバポレーション)により除去される。得られた繊維の前駆体は、ワイヤーダイ(wire die)に引き通されて、均一な直径を有する生体吸収性薬物含有繊維が形成される。上記方法全体は、薬物を分解、損傷、または破壊してしまわないように、5℃〜80℃の温度で実行される。
【0008】
本発明の他の態様は、複数の層を有し、この層の各々に異なる薬物を搭載できる薬物含有生体吸収性繊維を作製する方法に関する。当該方法においては、生体吸収性ポリマーを薬物とともに有機溶媒に溶解して、得られた溶液を平面上に分注し、その有機溶媒を蒸発させることにより、薬物含有シートを形成し、当該薬物含有シートから繊維を形成する。この薬物含有シートは、上記繊維を形成する前に、第2の薬物を加えることができ、これにより2つの薬物を含有する繊維を得ることができる。当該方法は、前述の方法と同様に、薬物を分解、損傷、または破壊してしまわないように、5℃〜80℃の温度で実行される。
【0009】
さらに、細胞の過増殖によって引き起こされる疾患を処置する方法が提供される。当該方法は、多層薬物含有繊維により作製された生体吸収性薬物送達装置を、上記過増殖細胞がある部位またはその近傍に埋め込む工程を含む。この薬物送達装置は、1つ以上の薬物を放出することができる。2つ以上の薬物を放出する場合、その薬物の各々は、当該埋め込まれた薬物送達装置から、異なる時点に異なる分解速度で放出される。
【0010】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細が、以下の説明において記載される。本発明の他の特徴、目的、および効果は、以下の説明および特許請求の範囲から明らかになるだろう。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(詳細な説明)
本発明は、機械的強度が高く、なおかつ許容可能な期間をもって分解される生体吸収性薬物送達装置の必要性に基づくものである。また、その薬物送達装置の作製過程中に薬物が破壊されることなく多量の薬物搭載を可能とする薬物送達装置の作製に用いられる薬物含有生体吸収性繊維を作製する方法が必要とされる。本発明の最終的な目標は、局所性および全身性の疾患を処置することである。この目標を達成するためには、薬物送達装置は、高投与量の薬物を送達することができ、複数の薬物を搭載でき、制御可能な分解速度を有し、そして、多段階的な薬物溶出特性を有するべきである。
【0012】
したがって、本発明は、そのような点を考慮して、薬物含有生体吸収性繊維を作製する方法を特徴づけるものである。
【0013】
第1の方法では、生体吸収性ポリマーおよび1つ以上の薬物を、クロロホルム、塩化メチレン、アセトン、またはテトラヒドロフランなどの有機溶媒に溶解させて溶液を作製する。その「薬物」対「ポリマー」の比率は、0.1:99.9〜99.9:0.1(重量:重量[wt:wt])の範囲とする。例えば、「薬物」対「ポリマー」の比率は、70:30または10:90とすることができる。次に、このようにして得られた溶液を、繊維状モールドのチャネルに分注する。当該モールドは、ポリテトラフルオロエチレン(TEFLON(登録商標))から作製することができる。上記チャネルの直径は0.254〜2.54mmの範囲とする。そのポリマー/薬物溶液は、好ましくは、0.02〜200μl/secの速度で分注される。この分注工程に続いて、上記有機溶媒は、減圧してまたは減圧せずに、好ましくは室温で蒸発させて薬物含有繊維の前駆体を生成する。所望される場合、上記チャネルは段階的に充填され得る。これにより、同一繊維内に異なるポリマー/薬物混合物を含むことが可能となる。次に、上記繊維前駆体は、均一な直径を有する薬物含有繊維を作製するために、ダイに引き通される。当該直径は、0.025〜0.80mmの範囲とすることができる。上記ダイの温度は、繊維の作製に使用されたポリマーのガラス転移温度と同じにすることができる。この方法の各工程は5℃〜80℃の温度で実行される。例えば、分注工程または蒸発工程は5℃〜40℃の温度で実行することができる。
【0014】
第2の方法では、生体吸収性ポリマーおよび1つ以上の薬物を、クロロホルム、塩化メチレン、アセトンまたはテトラヒドロフランなどの有機溶媒に溶解させて溶液を作製する。このようにして得られた溶液は平面上に分注され、その後、上記有機溶媒を、減圧してまたは減圧せずに、好ましくは室温で蒸発させる。これにより、薬物含有生体吸収性ポリマーのシートが形成される。当該シートの2つの端をつなぎ合わせて薬物含有生体吸収性管状体を形成する。これら2つの端は、上記有機溶媒またはレーザを用いて溶かすことでつなぎ合わせることができる。第2の薬物を、上記端をつなぎ合わせる前または後に、その薬物含有生体吸収性ポリマーのシートに追加することができる。この第2の薬物は、固体状態であってもよいし液体状態であってもよい。上記管状体の両端は、第2の薬物が管状体の内側に含まれた状態で封止される。封止された管状体は、ダイに引き通されて均一な直径を有する薬物含有繊維を形成する。当該繊維の直径は、0.025〜0.80mmの範囲とすることができる。上記ダイの温度は、繊維の作製に使用されたポリマーのガラス転移温度と同じにすることができる。上記第1の方法と同様に、第2の方法は5℃〜80℃の温度で実行される。また、第1の方法と同様に、分注工程または蒸発工程は5℃〜40℃の温度で実行することができる。
【0015】
上記2つの方法において、その生体吸収性ポリマーは、ポリジオキサノン[polydioxanone]、ポリグリコリド[polyglycolide]、ポリカプロラクトン[polycaprolactone]、ポリラクチド類[polylactides]、ポリ−L−ラクチド[poly−L−lactide]、ポリ−D,L−ラクチド[poly−D,L−lactide]、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)[poly(L−lactide−co−glycolide)]、ポリ(D,L−ラクチド−co−グリコリド)[poly(D,L−lactide−co−glycolide)]、ポリ(L−ラクチド−co−D,L−ラクチド)[poly(L−lactide−co−D,L−lactide)]、ポリ(L−ラクチド−co−トリメチレンカーボネート)[poly(L−lactide−co−trimethylene carbonate)]、ポリヒドロキシ吉草酸[polyhydroxyvalerate]、または、エチルビニルアセテート[ethylvinylacetate]であり得る。繊維形成前に、上記ポリマーのうちの1つ以上を溶解させるために、1つ以上の有機溶媒を用いることができる。
【0016】
上記2つの方法を組み合わせることにより、任意の数の薬物を含有する多層繊維を作製することができる。例えば、薬物Aを含有するポリマーシートを、管状体であってその壁内に薬物Bを含有し内側に薬物Cを含有するものに、巻き付けることができる。上記方法を用いることにより、特定の利用に際してさらに多くの薬物が必要となった場合に薬物含有ポリマー層を追加することができる。
【0017】
前述の通り、高分子量ポリマーにより作製された繊維を使用する際の欠点の1つは、分解時間が長いということである。このような繊維の分解速度を増加させるために、弱酸、弱塩基、これらの無水物などの添加剤を繊維形成前に上記ポリマーと混合させることができることが開示される。このような添加剤はポリマーの分解速度を加速する触媒として機能する。
【0018】
酸、塩基、またはその無水物の重量パーセントは、ポリマーの分解速度と相関がある。例えば、2重量%の弱酸を含む、ポリカプロラクトンによって作製されたポリマー膜は、当該酸を含まない場合の同じポリマーによって作製された膜よりも速く分解した。当該酸の含有量を5重量%に増加させると、分解速度はさらに加速した。同様に、2または5重量%の弱塩基を含むポリカプロラクトンも、当該塩基を含まないポリマー膜よりも速く分解した。
【0019】
他の例では、3%の乳酸を用いて作製されたポリ−D,L−ラクチド繊維の平均分子量は、リン酸緩衝食塩水(PBS)中での4週間の定温放置後に66%減少した。用いられる乳酸の量を5%に増加させると、同じく4週間でポリマーの平均分子量が78%減少する結果となった。他方、弱酸を含まない場合のポリ−D,L−ラクチドポリマーの平均分子量は、PBS中での4週間の定温放置後に11%しか減少しなかった。
【0020】
意外なことに、5%の乳酸を用いて作製された直径0.165mmのポリ−D,L−ラクチド繊維は、乳酸を用いずに作製されたポリ−D,L−ラクチド繊維と比べて同程度の初期引張強度を有する。より具体的には、このような乳酸含有繊維は、繊維破壊が起こる前の最大荷重が1.1重量ポンド(lbf)であり、これに対して、当該酸を含まない同様の繊維の場合は最大負荷が0.9重量ポンド(lbf)である。言い換えると、分解が遅い繊維と同じ強度を有する分解が速い繊維を、上記方法を用いることにより作製することができる。
【0021】
繊維形成中に、弱酸、弱塩基、およびこれらの無水物のうちのどれをポリマーに添加するかに拘わらず、その添加剤の重量パーセントが5%以下であれば、繊維の初期引張強度に影響はない。
【0022】
ポリマー繊維の分解速度を増加させるために用いることができる弱酸としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸、ピルビン酸、コハク酸、シトラマル酸、リン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸とグルタミン酸とを含有するペプチド、粘液酸、酒石酸、グルコン酸、アセチルサリチル酸、およびこれらの無水物。これらの酸の混合物も用いることができる。
【0023】
ポリマーと混合してその分解速度を増加させることができる弱塩基の例としては、アンモニア、トリメチルアンモニウム、ピリジン、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、酢酸カリウム、上記塩基の無水物、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
弱酸または弱塩基を選択する基準は、薬物との適合性である。例えば、ドキソルビシンは酸性環境下でより安定となる。ドキソルビシンを含む繊維を形成する場合、乳酸またはラクチドを繊維作製用のポリマーに添加する。2つ目の例では、パクリタキセルは水溶液中では溶解度および安定性が低く、pHが3〜5の水溶液中で最も安定となる。パクリタキセル含有繊維を形成する場合、乳酸/ラクチドまたはクエン酸/クエン酸塩を繊維作製用のポリマーに添加する。テモゾロマイド、フルオロウラシルなどの塩基感受性の薬剤に関しては、繊維形成時に弱酸を添加する。一方、アスパラギナーゼなどの酸感受性の薬剤は、炭酸ナトリウムのような弱塩基とともに添加して繊維を形成すべきである。
【0025】
上述のような高い引張強度を有するポリマー繊維は、ステントなどの薬物送達装置を作製するために用いることができる。このようなステントの機械的な強度は、その繊維に由来する強度を本来的に備えているため、高い。前述のように、繊維は中空としてその中心に純粋な薬物を搭載でき、かつ、このような繊維の引張強度を、中実の繊維と同程度にすることができる。この特性により、上記繊維から作製されるステント中に含まれる薬物の重量パーセントを、ステントの機械的強度を損ねることなく増加させることができる。
【0026】
上記のような本発明の繊維を用いて作製されたステントは、従来のステントと比較して、薬物搭載量が著しく高く、分解速度が制御可能であり、高い機械的強度を有するものである。本発明のステントは、薬物の搭載量と搭載形式を調整することにより、局所性および全身性の疾患(急性、亜急性、および慢性を含む)の双方を処置することができる。
【0027】
上記のプログラム可能な分解速度により、本発明の薬物放出特性も独自のものとなる。例えば、単一の薬物を含有する中実の繊維を用いて、単一段階薬物送達特性を有する薬物送達装置(ステントなど)を作製することができる。単一段階とは、周囲の媒体に放出される薬物の濃度が、薬物放出期間中に一度だけピークレベルに達することを意味する。
【0028】
独自の多段階薬物溶出特性は、単一の装置において、異なる薬物を含んだ異なる速度で分解する層を有する繊維を組み合わせることで作製することができる。例えば、その繊維の壁内に薬物1を含有する中空の繊維は、その中心に薬物2も含有することができる。当該繊維が放出媒体に曝されるとすぐに薬物1が放出され始める。放出媒体中の薬物1の濃度はすぐにピークレベルに達し、その後低下し始める。薬物1は、繊維が分解し始める前に、完全に放出させることができる。その繊維が特定の程度まで分解すると、薬物2が放出媒体に放出される。薬物1と薬物2が同一のものである場合、放出媒体中の薬物の濃度は、もう一つのピークに達するまで増加していく。当業者であれば、上記を考慮して、任意の数の薬物を任意の順序および所定の速度で放出する繊維を設計し作製することができることを理解するだろう。
【0029】
上記のような薬物送達装置は、患部に、またはその近傍に埋め込むことができる。このインプラント(体内埋め込み式器具)から放出される薬物で疾患を処置することができる。薬物送達装置は、細胞の過増殖から生じる疾患を処置する際に有利に用いることができる。このような疾患のうちの2つが、がん、および狭窄症である。
【0030】
抗がん効能のために、ステントは、薬物を送達し、この薬物としては、以下のようなものが挙げられる:ホルモン療法剤(アビラテロン、アミノグルテチミド、アナストロゾール、メチルテストステロン、エナント酸テストステロン、フルオキシメステロン、ビカルタミド、デノスマブ、デガレリクス、ドラセトロン、エクセメスタン、フルタミド、フルベストラント、ゴセレリン、ヒステレリン、レトロゾール、ロイプロリド、メゲストロール、ミトタン、ニルタミド、タモキシフェン、テストラクトン、トレミフェン、トリプトレリン)、免疫療法剤(アレムツズマブ、ブレンツキシマブベドチン、セツキシマブ、デニロイキンディフィトックス、イピリムマブ、レナリドマイド、オファツムマブ、パニツムマブ、リツキシマブ、サリドマイド、トシツモマブ、トラスツズマブ、90Y−イブリツモマブチウキセタン)、標的治療薬(アリトレチノイン、ベキサロテン、バイオリムス、クリゾチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、エベロリムス、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、パゾパニブ、ピメクロリムス、シロリムス、ソラフェニブ、スニチニブ、タクロリムス、テムシロリムス、バンデタニブ、ベムラフェニブ、ゾタロリムス)、化学療法剤(アルトレタミン、アスパラギナーゼ、アザシチジン、ベンダムスチン、ブレオマイシン、ブレンツキシマブベドチン、ブスルファン、カバジタキセル、カペシタビン、カルボプラチン、カルマスティン、クロラムブシル、シスプラチン、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピルビシン、エリブリンメシラート、エルロチニブ、エストラムスチン、エトポシド、フロキシウリジン、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、水酸化尿素、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、イキサベピロン、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、マイトマイシン、ネララビン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、プララトレキサート、テモゾロマイド、テニポシド、チオグアニン、チオテパ、トポテカン、ビンブラスチン、ビンクリスチン)、および抗がん剤(三酸化ヒ素、クロファラビン、デシタビン、ペガスパルガーゼ、プロカルバジン、ロミデプシン、ストレプトゾシン、ボリノスタット)。上記薬物のいずれも、薬物送達装置の形成に使用される繊維の中心か壁内のいずれか、または中心と壁内の両方に搭載することができる。
【0031】
がんの処置には、複数の薬物を併用することが多い。例えば、ソラフェニブおよびシロリムスの併用は、肝細胞のがんの処置に用いられ、エベロリムスおよびオクトレオチドの併用は、神経内分泌腫瘍の処置に用いられ、シスプラチン、パクリタキセル、およびエピルビシンの併用は、卵巣がんの処置に用いられる。併用による化学療法を達成するために、2つ以上の薬物を搭載した繊維を用いてステントなどの薬物送達装置を作製することができる。例えば、第1の薬物を繊維の管壁内に搭載し、第2の薬物をその繊維の中心に搭載することができる。
【0032】
2つ以上の薬物を搭載した多層繊維を含む生体吸収性薬物送達装置は、従来のがん処置用装置に対してさらなる利点を持つ。当該薬物送達装置は、異なる薬物を異なる時点で放出することができる。
【0033】
アロプリノール、アミホスチン、デノスマブ、デクスラゾキサン、フィルグラスチム、ロイコボリン、メスナ、パリフェルミン、ペグフィルグラスチム、ラスブリカーゼおよびサルグラモスチムなどの細胞保護剤を、前述の1つ以上の活性薬物とともに、1つの薬物送達装置に搭載することができる。例えば、細胞保護剤であるデクスラゾキサンを多層生体吸収性繊維の中心に搭載し、細胞傷害性薬物であるドキソルビシンを当該繊維の外側の層に搭載することができる。このような繊維から作製された薬物送達装置を埋め込むと、ドキソルビシンが最初に放出されてがん細胞を殺し、外側の繊維層が吸収された後に、デクスラゾキサンが放出される。この結果、ドキソルビシンによる付近の健常組織に対する損傷が制限される。
【0034】
細胞保護剤が細胞傷害性薬物の放出よりも先に放出されることが望ましい場合もある。例えば、ロイコボリンは、生体吸収性繊維の外側の層に搭載し、他方で、メトトレキサートを当該繊維の中心に含ませることができる。このような繊維を用いて作製された薬物送達装置が埋め込まれると、ロイコボリンが最初に放出されて、骨髄および消化管内の健常な細胞をメトトレキサートによる損傷から保護する。メトトレキサートは、外側の繊維層が吸収された後に放出される。
【0035】
いくつかの抗がん効能のために、がん性腫瘍に血液を供給する動脈に対して、上記のような多層生体吸収性繊維を用いて作製されたステントを埋め込むことができる。より具体的には、当該ステントを癌に近接した部位に埋め込むことができる。この埋め込み部位は、直接腫瘍の位置とするのではなく、その近傍とする。このようなステントから放出される化学療法剤は、短時間血液循環されてから腫瘍内の細胞に受け取られる。この種の薬物送達は、「局所−全身性(local−systemic)」薬物送達に分類される。局所−全身性薬物送達において、高投与量の薬物を、それと同時に機械的強度の損失を招くことなく、上記繊維に搭載することができることは有益である。代表的には、薬物の重量は、ステントの重量の10%より大きい。
【0036】
本発明の薬物含有繊維を含むステントは、局所性薬物送達も行うことができる。例えば、狭窄動脈内にステントを埋め込んで血流を回復し再狭窄につながる細胞増殖を防ぐことができる。抗増殖剤を搭載したステントは、狭窄を抑える働きをする。狭窄症を処置するために必要な薬物の量は、がんの処置に必要な薬物の量より極めて少ない。代表的には、含有された薬物の重量は、ステントの重量の15%に満たない。本発明の繊維から作製されたステントは、動脈内腔を開いた状態に保つのに十分な機械的強度を有しながら、ステント誘発性の慢性的な異物反応などの長期的問題を避けるのに十分な速さで吸収される。
【0037】
経カテーテル介入技術を用いたステントの使用は、血管狭窄/閉塞の処置に概ね成功している。この成功により、末梢動脈、尿道、気管、食道、および胃腸管へとステントの使用が拡大され、それらにおける組織および腺の肥大、腫瘍などの疾患が処置されている。上記繊維は、これらの効能のために薬物送達装置の作製に用いることができる。
【0038】
さらなる詳述はせずとも、上記説明により本発明は十分に実現可能なものであると思料される。したがって、以下の実施例は、あくまで例示的なものとして解釈されるべきであり、いかなる意味においても以下の開示を限定するものとして解釈してはならない。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
2.50gのポリカプロラクトン、2.50gのシロリムス、および0.125gの乳酸を、20mlの塩化メチレンに溶解して、薬物含有ポリマー繊維を作製した。得られた溶液を繊維状モールドに分注し、塩化メチレンを蒸発させ、薬物含有生体吸収性繊維の前駆体を形成した。最後に、この薬物含有生体吸収性繊維の前駆体を室温(20〜25℃)でダイに引き通し、均一な直径を有する生体吸収性薬物含有繊維を形成した。
【0040】
(実施例2)
500mgのポリカプロラクトンを、10mlのテトラヒドロフラン/塩化メチレン(比1:9)溶液に、0mg、10.5mgおよび26.5mgの乳酸とともにそれぞれ溶解して、0%、2%、および5%の弱酸を含むポリマー膜を作製した。得られた混合物の各々をペトリ皿に注ぎ、そのペトリ皿を層流フード(laminar flow hood)中に置いて溶媒を完全に蒸発させ、膜を形成した。得られた膜はそれぞれ0.5cm×0.5cmのサンプルにカットした。各膜につき5つのサンプル(合計15個のサンプル)をそれぞれ、25mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)が入ったバイアル中に置き、所定の時点を経て4週間に亘り45℃で定温放置した。当該各時点において、バイアル中の各膜の5つのサンプルを取り出し、ポリスチレンを標準としてゲル浸透クロマトグラフィにより分子量測定を行った。分子量測定後、各サンプルを新しいPBSが追加されたバイアルに戻した。
【0041】
(実施例3)
500mgのポリカプロラクトンを、10mlのテトラヒドロフラン/塩化メチレン(比1:9)溶液に、0mg、10.5mg、および26.5mgの水酸化アンモニウムとともにそれぞれ溶解して、0%、2%、および5%の弱塩基を含むポリマー膜を作製した。得られた各混合物をペトリ皿に注ぎ、そのペトリ皿を層流フード中に置いて溶媒を完全に蒸発させ、膜を形成した。得られた膜はそれぞれ0.5cm×0.5cmのサンプルにカットした。各膜につき5つのサンプル(合計15個のサンプル)をそれぞれ25mlのPBSが入ったバイアル中に置き、所定の時点を経て4週間に亘り45℃で定温放置した。当該各時点において、バイアル中の各膜の5つのサンプルを取り出し、ポリスチレンを標準としてゲル浸透クロマトグラフィにより分子量測定を行った。分子量測定後、各サンプルを新しいPBSが追加されたバイアルに戻した。
【0042】
(実施例4)
生体吸収性ポリラクチド繊維の引張強度を、ロードセルが0.5KNの汎用引張試験機を用いて測定した。クランプ型の固定具を用いて繊維の各端部を固定した後、当該繊維を25mm/minの割合で引っ張り、繊維破壊が起こる前の最大負荷を記録した。試験は、5%の乳酸を添加して作製したポリラクチド繊維と添加せずに作製したポリラクチド繊維に対して行った。
【0043】
(その他の実施形態)
本明細書中に開示される全ての特徴はどのように組み合わせてもよい。本明細書中に開示される各特徴は、同一、均等、または類似の目的を果たす他の特徴により置き換えられてもよい。したがって、特に記載されない限り、開示されている各特徴は、一般的な一連の均等または類似の特徴の一例に過ぎない。上記説明から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に確定することができ、また、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、種々の使用および条件に適合させるために本発明の種々の変形および修正を行うことができる。したがって、その他の実施形態も、以下の特許請求の範囲に含まれる。
【0044】
(本発明の例示的な実施形態の概要)
本明細書は、例えば、薬物含有生体吸収性繊維を作製する方法、および生体吸収性薬物送達装置を用いて疾患を処置する方法を開示する。