特許第6139914号(P6139914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139914
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】床材の捲れ上がり防止装置
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/00 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   E04F15/00 S
   E04F15/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-41418(P2013-41418)
(22)【出願日】2013年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-169558(P2014-169558A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2015年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(72)【発明者】
【氏名】鰐渕 憲昭
【審査官】 多田 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−056166(JP,A)
【文献】 特開2001−003548(JP,A)
【文献】 特開2011−099214(JP,A)
【文献】 特開2012−047039(JP,A)
【文献】 特開平09−317134(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0159890(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F15/00−15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁から屋外に張り出す床に敷かれた床材の風による捲れ上がりを防止するための装置であって、
前記床に取り付けられた風防部材を含み、
前記風防部材は前記床から垂直に立ち上がる直立の平板からなり、前記床から上方へ少なくとも前記床材の表面の高さ位置まで伸び、また、前記床材から屋外側へ間隔をおいた場所に位置する、捲れ上がり防止装置。
【請求項2】
建物の外壁から屋外に張り出す床に敷かれた床材の風による捲れ上がりを防止するための装置であって、
前記床に取り付けられた風防部材を含み、
前記風防部材は前記床から立ち上がり次いで屋内側に折れ曲がるL形の横断面形状を有する板材からなり、前記床から上方へ少なくとも前記床材の表面の高さ位置まで伸び、また、前記床材から屋外側へ間隔をおいた場所に位置する、捲れ上がり防止装置。
【請求項3】
前記風防部材は前記床に設けられた排水溝に取り付けられている、請求項1又は2に記載の捲れ上がり防止装置
【請求項4】
前記風防部材は前記床の側面に取り付けられている、請求項1又は2に記載の捲れ上がり防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外壁から屋外に張り出すベランダやバルコニーのような床(屋外床)に敷かれる床材の風による捲れ上がりを防止するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅のような建物の屋外床には、その見栄えや利便性を考えて、床面の全部又は一部を覆う床材が敷かれることがある。しかし、屋外床に敷かれた床材は強風を受けて捲れ上がり、あるいは、さらに、屋外床外に飛散することがある。従来、風による床材の捲れ上がりの予防又は防止のための次のような提案がなされている。
【0003】
すなわち、床材の側面を板で覆い、これにより床材の内部への風の入り込みを防止する(後記特許文献1参照)、床材を建物の壁面にロープでつなぐ(後記特許文献2参照)、床材の表裏面に風を通すための通気口を設ける(後記特許文献3参照)等の提案がなされている。
【0004】
ところで、これらの提案は、いずれも、床材自体に加工を施すことに向けられている。しかし、これには、床材に適用可能の設計上又はデザイン上の展開あるいは選択を制限するという難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−343722号公報
【特許文献2】特開2001−349042号公報
【特許文献3】特開平11−210207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、屋外床に敷かれる床材自体に加工を施すことを必要としない、床材の捲れ上がり防止装置を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、建物の外壁から屋外に張り出す床(屋外床)に敷かれた床材の風による捲れ上がりを防止するための装置に係り、前記床材に対する風防部材を含む。前記風防部材は前記床から垂直に立ち上がる直立の平板又は前記床から立ち上がり次いで屋内側に折れ曲がるL形の横断面形状を有する板材からなり、前記床から上方へ少なくとも前記床材の表面の高さ位置まで伸び、また、前記床材から屋外側へ間隔をおいた場所に位置する。
【0008】
本発明によれば、前記風防部材が前記屋外床から上方へ少なくとも前記床材の表面の高さ位置まで伸びることから、前記床材に対する風の直撃が回避され、これにより前記風により前記床材の表面及び裏面にそれぞれ作用する負圧及び正圧の大きさを低減し、これにより前記床材に作用する揚力の大きさを低減することができる。また、風が前記風防部材を乗り越えるときに該風防部材上において最も高い負圧の状態になるところ、前記床材と前記風防部材との間に設けられた間隔は、前記最大負圧の風の前記床材に対する作用の回避に寄与する。また、前記風防部材からその風下に間隔を置かれた前記床材に対して、風は、全体として、前記床材に対してこれを床面に押し付ける作用をなす。したがって、本発明においては、前記床材の風による捲れ上がりを防止するのに、床材に加工を施すことを要しない。
【0009】
前記風防部材は、前記屋外床に敷かれる床材の大きさ等に応じて、前記屋外床に設けられた排水溝又は前記床の側面に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】屋外床の排水溝に取り付けられた風防部材の一例を示す側面図である。
図2】屋外床の排水溝に取り付けられた風防部材の他の一例を示す側面図である。
図3】屋外床の排水溝に他の態様で取り付けられた風防部材の一例を示す側面図である。
図4】屋外床の排水溝に他の態様で取り付けられた風防部材の他の一例を示す側面図である。
図5】屋外床の側面に取り付けられた風防部材の一例を示す側面図である。
図6】屋外床の側面に取り付けられた風防部材の他の一例を示す側面図である。
図7】風洞実験に供された、風防部材が存在しない場合における床材の側面図である。
図8】風洞実験に供された風防部材及び床材の側面図である。
図9図7及び図8に示す床材の平面図である。
図10】(a)及び(b)は、それぞれ、図7に示す風防部材が存在しない場合について行った風洞実験の結果を示す数値及びグラフを示す。
図11】(a)及び(b)は、それぞれ、図8に示す風防部材が存在する場合について行った風洞実験の結果を示す数値及びグラフを示す。
図12】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、コンピュータ・シミュレーションによる風圧係数分布図を求めるために用いられた風防部材の一例を示す側面図、平面図及び得られた風圧係数分布図である。
図13】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、コンピュータ・シミュレーションによる風圧係数分布図を求めるために用いられた風防部材の他の一例を示す側面図、平面図及び得られた風圧係数分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照すると、集合住宅のような建物(図示せず)に設けられ該建物の外壁(図示せず)から屋外に張り出すベランダやバルコニーのような床(屋外床)10の一部が示されている。屋外床10は床面12と、該床面に連なりかつ屋外に面する側面13とを有する。屋外床10の床面12には、側面13に沿って前記建物の外壁と平行に伸びる、手摺14(図の簡略化のために二点鎖線で示す。)と床面12に開放する排水溝16とが設けられている。
【0012】
屋外床10には、その床面12上に敷かれる任意の床材が、前記建物の外壁に向けて吹き付ける風Wを受けて捲れ上がることを防止するための装置18が配置されている。
【0013】
図1ないし図6に前記床材の一例が示されている。図示の床材20は、矩形の平面形状を有する板状の本体22と、該本体を床面12上に支持する複数の偏平な座24とからなる。図示の例では、床材20は、床面12上に、前記矩形の長辺を規定する本体22の側面25が前記建物の外壁と平行に伸びるように配置されている。
【0014】
捲れ上がり防止装置18は屋外床10に取り付けられた風防部材26を含む。風防部材26は、床材20から屋外側に(したがって、床材20の風上側に)間隔dを置かれており、また、屋外床10から上方へ床面12上の床材20の表面27の高さ位置まで伸びる高さ寸法hを有する。
【0015】
風防部材26について、これを床材20の風上に置き、また、その高さ寸法hを、風防部材26の設置面である床面12から床材20の表面27までの距離に等しい値に設定することにより、風防部材26は床材20に対する風防機能を発揮し、床材20に対する風Wの直撃を防止し又は緩和する。その結果、風Wにより床材20の表面及び裏面にそれぞれ作用する負圧及び正圧の大きさが低減され、これにより床材20に作用する揚力の大きさが低減される。なお、高さ寸法hは、風防部材26の設置面から床材20の表面27までの前記距離の値より大きい値に設定することを妨げない。
【0016】
また、風Wは風防部材26を乗り越えるときに該風防部材上において最も高い負圧の状態になる。床材20と風防部材26との間に設けられた間隔dは、前記最大負圧の風Wの床材20に対する作用の回避に寄与する。また、風防部材26からその風下に間隔dを置かれた床材20に対して、風Wは、風洞実験から得られた結果を示す図11(a)及び図11(b)に示されているように、全体として、床材20に対してこれを床面12に押し付ける作用をなす。間隔dの値は、屋外床10の形状、大きさ等、床材20の形状、大きさ、重量等を考慮して定めることができる。
【0017】
風防部材26は、図示の例におけるように、床材20の側面25の伸長方向(図1において紙背方向)における長さ寸法と同じ長さ寸法を有し、かつ、その全長において床材20の側面25の全長に相対する一つの部材からなるものが最も好ましい。ただし、風防部材26は、床材20の捲れ上がり防止効果が図示の例に劣るが、断続する複数の部材からなるもの、あるいは床材20の側面25の全長より短い1つの部材からなるものとすることを妨げない。
【0018】
風防部材26は、例えば、図1図3及び図5にそれぞれ示すように、屋外床10、より詳細にはその床面12から立ち上がり次いで屋内側に折れ曲がるL形の横断面形状を有する板材からなるもの、あるいは図2図4及び図6にそれぞれ示すように、床面から垂直に立ち上がる直立の平板からなるものとすることができる。風防部材26は、図示の例のほかに、例えばH形、I形、C形等の横断面形状を有する板材からなるもの、矩形の横断面形状を有する棒材からなるもの等とすることができる。
【0019】
図1図3及び図5に示すL形の横断面形状を有する風防部材26は、図1及び図3に示す例においては排水溝16に配置され、また、図5に示す例においては側面13に配置されている。L形断面の風防部材26は床面12から立ち上がる垂直板部28と、該垂直板部から屋内側へ水平に伸びる水平板部30とを有する。ここにおいて、垂直板部28は、図1及び図3に示す例では床面12の一部をなす排水溝16の底面32から上方へ伸び、図5図に示す例では床面12の一部をなす屋外床10の屋外側先端(より詳細には、床面12と側面13との交差場所)から上方へ伸びている。また、床材20に向けて伸びる水平板部30の先端は、床材20との間に前記間隔dを規定する。
【0020】
図1に示す風防部材26は、垂直板部28の下端に連なるL形断面の板部34を有する。風防部材26はその垂直板部28の一部とL形板部34とにおいて排水溝16にきつく嵌合され、これにより屋外床10に取り付けられている。
【0021】
図3に示す風防部材26は、垂直板部28にその長さ方向におけるほぼ中間で連なるL形断面の板部36を有する。風防部材26は、その垂直板部28の一部とL形板部36とによる屋外床10の一部(側面12と排水溝16の側壁との間の部分)の把持により、屋外床10に取り付けられている。
【0022】
また、図5に示す風防部材26は、垂直板部28の一端に連なる逆U字形の板部38を有する。風防部材26は、板部38による排水溝16の側壁と側面13との把持により、屋外床10に取り付けられている。
【0023】
さらに、図2図4及び図6にそれぞれ示す風防部材26をなす前記直立平板は、図1図3及び図5に示す山形の風防部材26から水平板部30を除いてなるものすなわち垂直板部材28と同様の構成であり、また、前記平板の屋外床10に対する取り付け構造も、図1図3及び図5に示す例におけると同様である。したがって、図2図4及び図6に示す例については、それぞれ、図1図3及び図5に付した符号と同じ符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0024】
次に、本発明の技術的効果を確認するため、風防部材26が無い場合(図7)と、風防部材26が有る場合(図8)とについて風洞実験を行った。
【0025】
両風洞実験に使用した風防部材26は矩形の横断面形状を有する棒材からなる。また、両風洞実験に使用した床材20は、全体に矩形の平面形状(横1,260mm×縦1,876mm)を有する(図9参照)。床材20は、その表裏面を規定する、互いに接して配置された複数の細幅(120mm)の板50と、その四方の側面のうちの2つの長い側面を規定する根太51と1つの短い側面を規定する幕板52と、各根太51の下面に配置されたゴム製の偏平な座54とを有する。床材20の残りの短い側面56は、風Wを発する送風源(図示せず)に向けて開放している。風防部材26は床材20の短い側面56と同じ長さ寸法を有し、1000mmの間隔を置いて側面56に対向している。また、風防部材26の頂面の高さ位置は床材20の表面の高さ位置と同位(これらの設置面Eから上方に85mmの距離)にある。
【0026】
図9を参照すると、床材20の表面上、より詳細には複数の板50のそれぞれの表裏の各面に風圧測定のための1対のセンサ58(点で示されている全部で16対のセンサ58)が配置されている。これらのセンサ58の配置位置を指示するために括弧で括られた数字1〜16が付されている。
【0027】
図10(a)及び図10(b)に、それぞれ、風防部材26が無い場合における風洞実験の結果が数値とグラフとで示されている。これに対し、図11(a)及び図11(b)は、それぞれ、風防部材26が有る場合における風洞実験の結果が数値とグラフとで示されている。風洞実験の結果は、外圧係数(床材20表面に作用する風圧係数)と、内圧係数(床材20裏面、すなわち板50の裏面に作用する風圧係数)と、風力係数(外圧係数−内圧係数)とで示されている。なお、各グラフ上の各係数についての16個のプロットは、センサ58の配置位置(1〜16)すなわち測定点に対応する。
【0028】
前記風洞実験の結果によれば、風防部材26が無い場合には、風力係数が、全ての測定点1〜16において、負の値をとる。これは、床材20に対して揚力が作用していることを示す。これに対し、風防部材26が存する場合、風力係数が測定点1〜16の大部分において正の値を示している。これは、床材20に作用する力が、揚力よりも床に向けての押し付け力が勝っていることを示す。
【0029】
次に、図1に示す形状(断面L形状)を有する風防部材26に対して、風Wを、図上において左方から吹き付けたとき(図12(a)及び図12(b))に得られるコンピュータ・シミュレーションによる風圧分布図と、図2に示す形状(直立平板状)を有する風防部材26対して、風Wを、図上において左方から吹き付けたとき(図13(a)及び図13(b))に得られるコンピュータ・シミュレーションによる風圧分布図とを、それぞれ、図12(c)と図13(c)とに示す。
【0030】
前記コンピュータ・シミュレーションにおいて設定された断面L形の風防部材26及び直立平板からなる風防部材26の高さ寸法は、それぞれ、図12(a)及び図13(a)に示すように100mmである。また、長さ寸法は、それぞれ、図12(b)及び図13(b)に示すように1,000mmである。前記風圧分布図を作成するための風圧測定点は、図12(b)及び図13(b)にそれぞれ示す一点鎖線上にある。
【0031】
図12(c)及び図13(c)に示された風力分布図によれば、直立平板からなる風防部材26が、断面L形の風防部材26とほぼ同様の風力分布を示すことが分かる。
【符号の説明】
【0032】
10 床(屋外床)
16 排水溝
18 捲れ上がり防止装置
20 床材
26 風防部材
27 床材の表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13