(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のろう付け用組成物は、ステンレス鋼のろう付けに用いられるろう付け用組成物であって、(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末と、(b)ブチルゴムと、(c)炭化水素系有機溶剤と、(d)硬化ひまし油とを含有している。
【0020】
(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末は、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)およびリン(P)を、公知の方法で合金化することにより得ることができる。
【0021】
(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末において、Cr含有量は、(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末の総量100質量部に対して、例えば、25質量部以上、例えば、35質量部以下である。
【0022】
Crの含有量が上記範囲であれば、融点や濡れ性を良好に保つとともに、耐食性、耐熱性の向上を図ることができる。
【0023】
また、Si含有量は、(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末の総量100質量部に対して、例えば、3質量部以上、好ましくは、3.6質量部以上であり、例えば、6質量部以下、好ましくは、4.4質量部以下である。
【0024】
Siの含有量が上記範囲であれば、ろう付け性、とりわけ、不活性ガス雰囲気下におけるろう付け性の向上を図ることができる。
【0025】
また、P含有量は、(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末の総量100質量部に対して、例えば、4質量部以上であり、例えば、8質量部以下である。
【0026】
Pの含有量が上記範囲であれば、耐食性を良好に保つとともに、融点を目的の温度に調整することができる。
【0027】
なお、(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末において、Niの含有量は、上記各成分の残部として、適宜設定される。
【0028】
また、(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末中の酸素濃度は、(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末の総量に対して、例えば、750ppm未満、好ましくは、500ppm未満、より好ましくは、300ppm未満であり、通常、100ppm以上である。
【0029】
(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末中の酸素濃度が上記範囲であれば、優れたろう付け性、とりわけ、不活性ガス雰囲気下における優れたろう付け性を確保することができる。
【0030】
(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末は、単独使用してもよく、また、各元素の含有割合が異なる(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末を、2種類以上併用してもよい。
【0031】
このような(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末を用いれば、不活性雰囲気下(不活性ガス雰囲気下または真空下)において、比較的低温でステンレス鋼を良好にろう付けすることができる。
【0032】
(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末の平均一次粒子径は、例えば、10μm以上であり、例えば、100μm以下である。
【0033】
(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末の平均一次粒子径が上記範囲であれば、ペーストの吐出性を良好に確保するとともに、ろう付け性の向上を図ることができる。
【0034】
なお、平均一次粒子径の測定方法は、後述する実施例に準ずる。
【0035】
また、(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末の配合割合は、ろう付け用組成物の総量100質量部に対して、例えば、91.2質量部以上であり、例えば、93.2質量部以下である。
【0036】
(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末の配合割合が上記範囲であれば、ろう付け用組成物の粘度を塗布に適した範囲に調整することができる。
【0037】
(b)ブチルゴムは、バインダ樹脂としてろう付け用組成物に含有されており、公知のブチルゴム、具体的には、イソブチレンのホモポリマー、または、イソブチレンとイソプレンとのコポリマーなどが挙げられる。
【0038】
このような(b)ブチルゴムは、特に制限されず、公知の方法により得ることができる。
【0039】
(b)ブチルゴムの、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(測定条件は後述する実施例に準ずる。)によるポリスチレン換算の重量平均分子量は、例えば、160,000以上、好ましくは、200,000以上、より好ましくは、400,000以上であり、例えば、4,500,000以下、好ましくは、4,000,000以下、より好ましくは、1,200,000以下である。
【0040】
(b)ブチルゴムの重量平均分子量が上記下限以上であれば、優れた塗布作業性を得ることができ、また、保存安定性の向上を図ることができる。また、(b)ブチルゴムの重量平均分子量が上記上限以下であれば、優れた塗布作業性を得ることができ、さらに、連続生産における優れた生産性を確保することができる。
【0041】
また、このような(b)ブチルゴムは、市販品としても入手することができ、具体的には、例えば、商品名「オパノールB30」(BASF社製、重量平均分子量200,000)、商品名「オパノールB50」(BASF社製、重量平均分子量308,000)、商品名「オパノールB80」(BASF社製、重量平均分子量748,000)、商品名「オパノールB100」(BASF社製、重量平均分子量1,120,000)、商品名「オパノールB150」(BASF社製、重量平均分子量2,560,000)、商品名「オパノールB200」(BASF社製、重量平均分子量4,180,000)などが挙げられる。
【0042】
これら(b)ブチルゴムは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0043】
また、(b)ブチルゴムの配合割合は、ろう付け用組成物の総量100質量部に対して、0.5質量部以上、好ましくは、0.7質量部以上であり、1.0質量部未満、好ましくは、0.8質量部未満である。
【0044】
(b)ブチルゴムの配合割合が上記下限以上であれば、優れた密着性を備えるとともに、保存安定性の向上を図ることができる。また、(b)ブチルゴムの配合割合が上記上限未満であれば、優れたろう付け性および塗布作業性を確保することができる。
【0045】
また、(b)ブチルゴムの配合割合が上記範囲であれば、(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末を用い、比較的低温条件にてろう付けする場合にも、(b)ブチルゴムを良好に熱分解させることができ、優れたろう付け性を得ることができる。
【0046】
一方、(b)ブチルゴムの配合割合が上記下限未満である場合には、ろう付け用組成物の密着性に劣り、また、保存安定性に劣るという不具合がある。また、(b)ブチルゴムの配合割合が上記上限以上である場合には、比較的低温下においてろう付けする場合におけるろう付け性、とりわけ、不活性ガス雰囲気下におけるろう付け性に劣り、さらに、塗布作業性にも劣るという不具合がある。
【0047】
(c)炭化水素系有機溶剤としては、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素系/脂環族炭化水素系(ナフテン系)有機溶剤、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶剤(芳香環を有する炭化水素系有機溶剤)などが挙げられる。また、炭化水素系有機溶剤として、さらに、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの、水酸基を有する炭化水素系有機溶剤などが挙げられる。
【0048】
(c)炭化水素系有機溶剤は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0049】
一方、芳香環を有する炭化水素系有機溶剤は、労働衛生性、安全性、環境保全性、臭気性において劣る場合がある。
【0050】
また、水酸基を有する炭化水素系有機溶剤は、保存安定性において劣る場合があり、また、例えば、水が共存する場合には、ろう材粉末と経時的に反応し、保存安定性や安全性を低下させる場合や、ろう付け性を低下させる場合がある。
【0051】
そのため、(c)炭化水素系有機溶剤として、好ましくは、芳香環および水酸基を有しない炭化水素系有機溶剤、具体的には、脂肪族炭化水素系/脂環族炭化水素系(ナフテン系)有機溶剤が挙げられる。
【0052】
脂肪族炭化水素系/脂環族炭化水素系(ナフテン系)有機溶剤を用いれば、労働衛生性、安全性、環境保全性、臭気性および保存安定性を確保することができる。
【0053】
また、(c)炭化水素系有機溶剤の沸点は、臭気抑制による作業の円滑性の観点から、例えば、150℃以上、好ましくは180℃以上である。
【0054】
このような炭化水素系有機溶剤は、市販品としても入手可能であり、具体的には、例えば、商品名「エクソールD80」(エクソン・モービル社製、ナフテン系炭化水素系有機溶剤、沸点(初留点)205℃)などが挙げられる。
【0055】
(c)炭化水素系有機溶剤の配合割合は、特に制限されないが、ろう付け用組成物の粘度が後述する範囲となるように、適宜設定される。
【0056】
(c)炭化水素系有機溶剤の配合割合が上記範囲であれば、優れた塗布作業性を得ることができる。
【0057】
(d)硬化ひまし油は、チキソ剤としてろう付け用組成物に含有されている。
【0058】
(d)硬化ひまし油の配合割合は、ろう付け用組成物の総量100質量部に対して、0.05質量部以上であり、1.0質量部以下である。
【0059】
(d)硬化ひまし油の配合割合が上記下限以上であれば、優れた塗布作業性を得ることができ、また、保存安定性の向上を図ることができる。また、(d)硬化ひまし油の配合割合が上記上限以下であれば、優れたろう付け性を確保することができる。
【0060】
一方、(d)硬化ひまし油の配合割合が上記下限未満である場合には、塗布作業性に劣り、さらには、保存安定性に劣るという不具合がある。また、(d)硬化ひまし油の配合割合が上記上限を超過する場合には、ろう付け性、とりわけ、不活性ガス雰囲気下におけるろう付け性に劣るという不具合がある。
【0061】
また、ろう付け用組成物には、必要に応じて、例えば、酸化防止剤(例えば、ジブチルヒドロキシトルエンなど)、腐食防止剤(例えば、ベンゾトリアゾールなど)、消泡剤(例えば、シリコンオイル、グリセリンなど)、硬化ひまし油を除く粘度調整剤(例えば、ワックス、脂肪酸アミド、ポリアミドなど)、着色剤などの各種添加剤を、本発明の効果を損なわない範囲で、含有させることができる。
【0062】
そして、ろう付け用組成物は、上記の各成分を、上記した割合で公知の方法により混合および撹拌することにより、ペースト状の組成物として得ることができる。
【0063】
得られたろう付け用組成物の、撹拌速度10rpmのスパイラルポンプ式粘度計(測定試料量150mL)により測定される25℃における粘度V
10rpmは、例えば、70Pa・s以上、好ましくは、77Pa・s以上であり、例えば、90Pa・s以下、好ましくは、82Pa・s以下である。
【0064】
粘度V
10rpmが上記範囲であれば、塗布作業性および保存安定性の向上を図ることができる。
【0065】
また、ろう付け用組成物の、撹拌速度30rpmのスパイラルポンプ式粘度計(測定試料量150mL)により測定される25℃における粘度V
30rpmは、例えば、35Pa・s以上であり、例えば、50Pa・s以下である。
【0066】
また、ろう付け用組成物の、撹拌速度3rpmのスパイラルポンプ式粘度計(測定試料量150mL)により測定される25℃における粘度V
3rpmは、例えば、114Pa・s以上であり、例えば、160Pa・s以下である。
【0067】
そして、撹拌速度30rpmのスパイラルポンプ式粘度計(測定試料量150mL)により測定される25℃における粘度V
30rpmと、撹拌速度3rpmのスパイラルポンプ式粘度計(測定試料量150mL)により測定される25℃における粘度V
3rpmとから、下記式(1)により算出されるチキソ値は、例えば、0.51以上である。
【0068】
[チキソ値]=Log
10(V
3rpm)/Log
10(V
30rpm) (1)
チキソ値が上記範囲であれば、優れた塗布作業性を得ることができ、また、ろう付け性および保存安定性の向上を図ることができる。
【0069】
そして、本発明のろう付け用組成物は、Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末を含むため、後述するように、不活性雰囲気下において、比較的低温でステンレス鋼を良好にろう付けすることができる。
【0070】
また、本発明のろう付け用組成物は、ブチルゴムおよび硬化ひまし油が、上記割合で配合されているため、優れたろう付け性、塗布作業性、密着性および保存安定性を備えることができる。
【0071】
以下において、上記のろう付け用組成物を用いてステンレス鋼をろう付けする方法について、詳述する。
【0072】
この方法では、まず、上記のろう付け用組成物を、ステンレス鋼からなる部材(以下、ステンレス部材とする。)に塗布する(塗布工程)。
【0073】
塗布方法としては、特に制限されず、例えば、ディスペンサー、スクリーン印刷、はけ塗り、スプレー塗装、ロールコーター、バーコーター、ドクターブレードなど、公知の方法を採用することができる。
【0074】
また、ろう付け用組成物の塗布量や、塗布領域形状(線状塗布、点状塗布など)については、特に制限されず、ろう付け用組成物の粘度や、ろう付け対象の構造などを考慮し、ろう付け後に充分な接合強度が得られるように、適宜設定される。
【0075】
次いで、別途ステンレス部材を用意し、ろう付け用組成物が塗布されたステンレス部材に対して、ろう付け用組成物を介して当接させ、所定の構造に組み立てる(当接工程)。
【0076】
なお、この方法では、上記の塗布工程の後、部材を所定の構造に組み立てる前、または、組み立てた後に、必要に応じて、ろう付け用組成物を乾燥させておくことができる。
【0077】
そして、この方法では、不活性雰囲気下において、ろう付け用組成物を加熱する(加熱工程)。
【0078】
不活性雰囲気として、具体的には、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気、または、真空雰囲気(真空度:133×10
−3Pa(10
−3torr)以下)が挙げられる。
【0079】
また、ろう付け温度(加熱温度)は、比較的低温であって、具体的には、通常、ろう材(上記(a)Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末)の融点以上、例えば、960℃以上であって、例えば、1200℃、好ましくは、1000℃以下である。
【0080】
ろう付け温度が上記範囲であれば、ステンレス鋼のろう付けによる劣化を抑制し、また、低コスト化を図ることができる。
【0081】
これにより、ステンレス部材をろう付け(接合)することができる。
【0082】
そして、このようなろう付け方法では、上記のろう付け用組成物が用いられるので、優れた塗布作業性、ろう付け性およびろう付け性でステンレス部材をろう付けすることができる。
【0083】
そのため、上記のろう付け用組成物およびろう付け方法は、ステンレス部材を含む各種機器、例えば、自動車の排気再循環(Exhaust Gas Recirculation;EGR)システムに備えられるステンレス製の熱交換器の製造において、好適に用いられる。
【0084】
図1は、本発明の熱交換器の一実施形態を示す概略斜視図である。
【0085】
図1において、熱交換器1は、例えば、自動車などの車両に搭載され、排気ガスの一部を冷却してエンジンの吸気系に戻すために備えられるEGRクーラであって、シェル2、複数のガスチューブ3、および、一対のエンドプレート4を備えている。
【0086】
シェル2は、内部に冷却水が通過される管部材であって、長手方向に伸びる角筒状に形成されている。シェル2は、長手方向一方側において、冷却水入口パイプ8を備え、また、長手方向他方側において、冷却水出口パイプ9を備えている。
【0087】
具体的には、シェル2の長手方向一方側の側壁には、開口部が形成されており、その開口部には、冷却水をシェル2に供給するための冷却水入口パイプ8が接合されている。また、シェル2の長手方向他方側の側壁にも、開口部が形成されており、その開口部には、冷却水をシェル2から排出させるための冷却水出口パイプ9が接合されている。
【0088】
複数(例えば、6本)のガスチューブ3は、内部にEGRガスが通過される偏平管部材であって、シェル2の延びる方向に沿って延びるように形成され、シェル2の内部において、互いに所定間隔を隔てて並列配置されている。
【0089】
一対のエンドプレート4は、シェル2の断面形状と略同形状に形成される板状部材であって、長手方向両側の開口部に嵌合され、シェル2を閉塞している。また、エンドプレート4は、ガスチューブ3によって貫通されることによって、ガスチューブ3をシェル2内に固定している。
【0090】
また、シェル2の長手方向両側端部には、一対のヘッダー部材5が備えられている。
【0091】
一対のヘッダー部材5は、それぞれ、貫通穴を有する板状のフランジ部6と、フランジ部6からシェル2側へ向かって延び、シェル2側へ向かって徐々に拡径する角筒状の角筒部7とを備えている。このような各ヘッダー部材5の角筒部7と、複数のガスチューブ3とは、互いに連通している。
【0092】
そして、詳しくは図示しないが、一方のヘッダー部材5のフランジ部6は、車両のエンジン排気系からの配管に接続され、また、他方のヘッダー部材5のフランジ部6は、車両のエンジン吸気系への配管に接続されている。
【0093】
このような熱交換器1では、冷却水が、冷却水入口パイプ8を介してシェル2内(ガスチューブ3の周囲)に供給され、シェル2内を通過した後、冷却水出口パイプ9を介して外部に排出される。
【0094】
また、これとともに、高温のEGRガスが、エンジン排気系から一方のヘッダー部材5を介してガスチューブ3内に供給される。そして、EGRガスは、ガスチューブ3内を通過するとともに、ガスチューブ3の周囲を流れる冷却水によって冷却され、その後、他方のヘッダー部材5を介してガスチューブ3から排出され、エンジン吸気系へ導入される。
【0095】
そして、このような熱交換器1において、上記の各部材、すなわち、シェル2、ガスチューブ3、エンドプレート4、ヘッダー部材5、冷却水入口パイプ8および冷却水出口パイプ9は、それぞれ、ステンレス鋼からなるステンレス部材であって、それら各部材が、上記したろう付け用組成物によりろう付け(接合)されている。
【0096】
すなわち、上記の熱交換器1は、本発明のろう付け用組成物によるろう付け部を備えている。そのため、上記した熱交換器1は、優れた塗布作業性で製造することができ、優れたろう付け性、密着性を備えることができる。
【実施例】
【0097】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下に示す実施例の数値は、実施形態において記載される数値(すなわち、上限値または下限値)に代替することができる。
【0098】
実施例、比較例などにおいて用いられる物性の測定方法を以下に示す。
<平均一次粒子径>
レーザー光回折・散乱式粒度分布測定装置MT3000II(MICROTRAC社製)を用いた。溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA;屈折率1.38)を使用し、試料のDV値(レーザーの前方方向に配置された検出器にて捉えた、粒子の散乱光量積算値に関連する値で、測定濃度を決定するマイクロトラックでの目安)が0.01〜1.0の範囲となるように試料を調製し、超音波装置(出力40W)を用いて超音波を3分間照射した後、流速80%(40cc/分)で循環させながら測定(測定条件:粒子透過性・・・反射)した。
<ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる重量平均分子量(Mw)測定>
サンプルをテトラヒドロフランに溶解させ、試料濃度を1.0g/Lとして、示差屈折率検出器(RID)を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)によって測定し、サンプルの分子量分布を得た。
【0099】
その後、得られたクロマトグラム(チャート)から、標準ポリスチレンを検量線として、サンプルの重量平均分子量(Mw)を算出した。測定装置および測定条件を以下に示す。
データ処理装置:品番HLC−8220GPC(東ソー社製)
示差屈折率検出器:品番HLC−8220GPCに内蔵されたRI検出器
カラム:品番TSKgel SuperHZM−H(東ソー社製)2本
移動相:テトラヒドロフラン
カラム流量:0.35mL/min
試料濃度:1.0g/L
注入量:10μL
測定温度:40℃
分子量マーカー:標準ポリスチレン(POLYMER LABORATORIES LTD.社製標準物質)(POLYSTYRENE−MEDIUM MOLECULAR WEIGHT CALIBRATION KIT使用)
<粘度>
サンプルの25℃における粘度(撹拌速度20rpmにおける粘度V
10rpm)を、スパイラルポンプ式粘度計(PCU−205、マルコム社製)を用いて、下記条件にて測定した。
撹拌速度:10rpm
測定試料量:150cc
試料容器:近畿容器社製ハイレジスト容器
<チキソ値>
サンプルの25℃における粘度(撹拌速度30rpmにおける粘度V
30rpm、撹拌速度3rpmにおける粘度V
3rpm)を、スパイラルポンプ式粘度計(PCU−205、マルコム社製)を用いて、下記条件にて測定した。そして、下記式(1)により、チキソ値を算出した。
撹拌速度:30rpmおよび3rpm
測定試料量:150cc
試料容器:近畿容器社製ハイレジスト容器
[チキソ値]=Log
10(V
3rpm)/Log
10(V
30rpm) (1)
実施例1
〜5、7〜8、10、参考例6、9、および比較例1〜5
表1〜2に示す配合処方に従って、Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末、ブチルゴムおよび硬化ひまし油を配合し、また、総量が100質量部となるように炭化水素系有機溶剤(エクソールD80、エクソンモービル社製)を配合して撹拌し、ろう付け用組成物を得た。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
なお、表中の各成分の詳細を下記する。
<Ni−Cr−Si−P系のニッケルろう材粉末>
Ni−Cr−Si−Pろう材粉A:ろう材粉100質量部中、Ni60.8質量部、Cr29.7質量部、Si3.5質量部、P6.0質量部、酸素濃度170ppm、平均一次粒子径33μm
Ni−Cr−Si−Pろう材粉B:ろう材粉100質量部中、Ni60.4質量部、Cr29.9質量部、Si3.6質量部、P6.1質量部、酸素濃度200ppm、平均一次粒子径30μm
Ni−Cr−Si−Pろう材粉C:ろう材粉100質量部中、Ni60.4質量部、Cr29.6質量部、Si4.0質量部、P6.0質量部、酸素濃度230ppm、平均一次粒子径31μm
Ni−Cr−Si−Pろう材粉D:ろう材粉100質量部中、Ni59.8質量部、Cr29.6質量部、Si4.4質量部、P6.2質量部、酸素濃度250ppm、平均一次粒子径29μm
Ni−Cr−Si−Pろう材粉E:ろう材粉100質量部中、Ni59.6質量部、Cr29.8質量部、Si4.5質量部、P6.1質量部、酸素濃度300ppm、平均一次粒子径29μm
Ni−Cr−Si−Pろう材粉F:ろう材粉100質量部中、Ni60.4質量部、Cr29.6質量部、Si4.0質量部、P6.0質量部、酸素濃度510ppm、平均一次粒子径22μm
<バインダ>
ブチルゴム:「オパノールB80」(BASF社製、重量平均分子量748,000)
多糖類系増粘剤:水溶性バインダ、商品名「メトローズ65SH」(信越化学工業社製)
<炭化水素系有機溶剤>
ナフテン系炭化水素溶剤:商品名「エクソールD80」(エクソン・モービル社製)
水+水溶性溶剤:水と水溶性溶剤(商品名「プロピレングリコール」(旭硝子社製))との混合溶剤(水:水溶性溶剤(質量比)=76:24)
<硬化ひまし油>
硬化ひまし油:商品名「ヒマシ硬化油」(伊藤製油社製)
[評価]
各実施例
、各参考例および各比較例において得られたろう付け用組成物を用いて、評価用の試験片を製造し、下記の基準に従って評価した。
【0103】
具体的には、まず、25mm×60mmのステンレス鋼板(JIS規格に準拠したSUS−430)の長手方向に直交する幅方向中央において、長手方向と並行に、幅約5mm、高さ約2mmでろう付け用組成物を塗布した。
【0104】
次いで、25mm×60mmのステンレス鋼板(JIS規格に準拠したSUS−430)を、塗布したろう付け用組成物と接触するように、1枚目のステンレス鋼板に対して垂直(逆T字型)に立て、ステンレスワイヤーで固定して、200℃で0.5時間乾燥させ、ろう付け性評価用試験片を作成した。
【0105】
次いで、上記試験片を箱形ろう付け炉(A−BC−M型(ノリタケTCF社製))に挿入し、アルゴン雰囲気下にて、30℃から1200℃まで約20分かけて昇温して、ろう付けを実施した。
【0106】
また、ろう付け炉内の雰囲気を真空(5×10
-3Pa)とした以外は、上記と同様にろう付けを実施した。
<ろう付け性>
試験片のろう付け用組成物を目視観察し、ろう付け性を評価した。評価の基準を下記する。
○:ろうの溶け残りが見られず、十分濡れ広がりろう付けができていた。
△:ろうの溶け残りがやや見られ、濡れ広がりがやや不足するも、ろう付けはできていた。
×:ろうがほとんど溶けず、ろう付けができていなかった。
<塗布性(1) 塗布作業性>
ろう付け用組成物の塗布時に、ディスペンサーのノズル先からの塗布垂れ、および、ろう付け用組成物の塗布切れについて、目視で評価した。評価の基準を下記する。
○:塗布垂れや塗布切れが見られず、安定塗布が可能であった。
△:塗布垂れや塗布切れがやや見られ、安定塗布には逐一調整が必要であった。
×:塗布垂れや塗布切れが頻繁に見られ、安定塗布できなかった。
<塗布性(2) 密着性>
ろう付け用組成物を塗布および乾燥させた後、ろう付け炉にて加熱する前に、下記の落下試験を実施した。
【0107】
すなわち、塗布乾燥後の部材の質量(A)を測定した後、高さ20cmから自由落下させ、部材に残った乾燥ペーストの質量(B)を測定し、質量変化((A−B)×100/A)を計算した。評価の基準を下記する。
○:塗布乾燥後の落下試験で、剥がれが確認されなかった。(質量変化1%以内)
△:塗布乾燥後の落下試験で、やや剥がれが確認された。(質量変化5%未満)
×:塗布乾燥後の落下試験で、剥がれが確認された。(質量変化5%以上)
<保存安定性(再分散性)>
ろう付け用組成物を、23℃の静置保管条件で2ヶ月間保存し、各成分の分散性について、初期状態(ろう付け用組成物の製造直後における分散性)と比較した。評価の基準を下記する。
○:初期状態と比べ、ほとんど変化がなかった。
△:初期状態と比べ、若干の相分離が見られたが、かき混ぜると初期状態に容易に戻った。
×:初期状態と比べ、相分離が著しく、かき混ぜても初期状態に戻すのが困難または戻らなかった。
【0108】
製造実施例1
熱交換器(
図1参照)の製造において、実施例1において得られたろう付け用組成物を用いた。
【0109】
具体的には、熱交換器の部材であるステンレス鋼製部材に、ろう付け用組成物をディスペンサーにより塗布した。
【0110】
次いで、別途、熱交換器の部材であるステンレス鋼製部材を用意し、ろう付け用組成物の塗布部分に接触するように固定して、350℃で1時間乾燥させた。次いで、箱形ろう付け炉(A−BC−M型(ノリタケTCF社製))に挿入し、アルゴン雰囲気下にて、30℃から1100℃まで約30分かけて昇温して、ろう付けを実施した。
【0111】
また、その他の部材についても、同様にろう付けし、ろう付け部(実施例1のろう付け用組成物によるろう付け部)を備える熱交換器を得た。