(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139938
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】固定スクロール体およびそれを用いたスクロール流体機械
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
F04C18/02 311D
F04C18/02 311E
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-72382(P2013-72382)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-196689(P2014-196689A)
(43)【公開日】2014年10月16日
【審査請求日】2016年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390028495
【氏名又は名称】アネスト岩田株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】本間 利弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 完
(72)【発明者】
【氏名】浅見 淳一
【審査官】
所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−287190(JP,A)
【文献】
特開2005−120999(JP,A)
【文献】
実開平02−003093(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに固定された固定スクロール体と、該固定スクロール体に対して旋回可能に噛合うことで、圧縮空間を移動可能に形成する旋回スクロール体と、該旋回スクロール体を偏心軸を介して軸着する駆動軸と、前記旋回スクロール体を自転防止可能に支持するピンクランク軸受とを具備する片持ち式のスクロール流体機械において、
前記ピンクランク軸受は、前記固定スクロール体側に軸着され、前記固定スクロール体と前記旋回スクロール体とが摺擦する端板対向面に直交する第1軸と、前記旋回スクロール体側に軸着され、前記第1軸に対し偏心する第2軸と、を備え、
前記固定スクロール体側の第1軸は、前記固定スクロール体を貫通するとともに、前記固定スクロール体と前記旋回スクロール体とにより形成される圧縮空間の径方向の延長上に存在する、スクロール流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定スクロール体およびそれを用いたスクロール流体機械に関し、特には、いわゆる片持ち式のスクロール流体機械の宿命である有害な転覆モーメントを抑制可能な配置構成とした、固定スクロール体およびそれを用いたスクロール流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のスクロール流体機械は小型化を図るために旋回スクロールの渦巻体(ラップ)における基礎円中心を旋回スクロールの端板中心から偏心させている。
またスクロール流体機械には、クランク軸の旋回スクロールを駆動する側の偏心軸部側が、軸受部材を介して支持する片持ち支持の、いわゆる片持ち式のスクロール流体機械がある。
また、従来の旋回スクロールでは、ラップにおける基礎円中心が、旋回スクロールの端板中心に対し、ラップの巻終りから巻始め側に向かって180度内側に位置する内側位置の外方に、ラップの巻終り端面と端板の外周端面との距離と、ラップの巻終りから巻始め側に向かって180度内側の位置における外面と端板の外周端面との距離とがほぼ等しくなるように偏心させている。
【0003】
しかしながら、以上のような構成では、圧縮室で発生するガス圧力による旋回スクロールの離反力の作用点が端板中心から偏心しているにもかかわらず、旋回スクロールを固定スクロール側へ押し付ける高圧作用室の押し付け力の作用点が端板中心と一致していないため旋回スクロールにいわゆる転覆モーメントが発生してしまう。
その結果、転覆モーメントに打ち勝ち旋回スクロールが固定スクロールから離反させないように、高圧作用室の面積を大きくして押し付け力を確保しなければならず、ここに摺動損失が大きくなるという課題があった。
ここに、圧縮荷重などにより生じる負荷反力が、クランク軸の偏心軸部に作用するために、クランク軸は、たわみを伴い変形する。このため、主軸受部の両端近傍において片当たり現象が生じる。特に、主軸受部の旋回スクロール側端部は、反旋回スクロール側端部よりも大きな負荷が作用するため、より強い片当りを生じやすい。
【0004】
そこで、特許文献1では、旋回スクロールの背面側に設けられた環状シール体の中心を端板中心からラップの基礎円中心の偏心方向に偏心させたものである。これによって、圧縮室に発生するガス圧力による旋回スクロールの離反力の作用点と、旋回スクロールを固定スクロール側へ押し付ける高圧作用室の作用点がほぼ一致するため、旋回スクロールに働く転覆モーメントが小さくなることで高圧作用室の面積を小さくできるとしている。
しかしながら、特許文献1では、旋回スクロールは、背面側中心軸に突出したボスをクランク軸に結合させて軸受支持し、旋回スクロール外周面近傍は、スラスト方向の力を摺動面で支持する構造であり、渦巻体の基礎円中心の偏心方向に偏心させたとしても、中心部から外周寄りの位置には、スラスト方向の外力の変動に対して少なからぬ影響を受け、耐えられないおそれがある。
【0005】
本出願人は、これまで、固定スクロールと旋回スクロールとを駆動軸とピンクランク軸受とにより連結して相対的に旋回運動させるスクロール流体機械を製品化してきた。
ここでは、旋回運動をつかさどる軸受は、旋回スクロールと固定スクロールとを介して締結されるハウジングに配設されていた。電動機などから出力される駆動力は、駆動軸を介して一定の偏心量を持つ旋回スクロールに配設された中央部の軸受に伝達され、旋回スクロールに接合される軸受保持部材の外周に配設された少なくとも一つ以上の軸受(ピンクランク軸受)によって自転を阻止しつつ、設定された偏心量によって旋回運動に変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−102614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のようなスクロール流体機械においては、旋回スクロールの回転によって外周側から内周側にかけて圧縮室が移動することにより、半径方向の荷重分布が変化し、ピンクランクには、スラスト方向の荷重によって、ピンクランクを中心に転覆モーメントが生じ、軸受に対する荷重変動による消耗が進み、円滑な旋回運動の妨げともなっている。
本発明は、以上のような課題を改善するために提案されたものであって、特に、ピンクランク軸受方式の自転防止用軸受を有し、いわゆる片持ち式のスクロール機械において、ピンクランク軸受の配置を考慮して、ピンクランク軸受を中心として作用する転覆モーメントを抑制可能な構造とし、安定性に優れる、高効率な固定スクロール体およびそれを用いたスクロール流体機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1にかかる本発明では、
ハウジングに固定された固定スクロール体と、該固定スクロール体に対して旋回可能に噛合うことで、圧縮空間を移動可能に形成する旋回スクロール体と、該旋回スクロール体を偏心軸を介して軸着する駆動軸と、前記旋回スクロール体を自転防止可能に支持するピンクランク軸受とを具備する片持ち式のスクロール流体機械において、前記ピンクランク軸受は、前記固定スクロール体側に軸着され、前記固定スクロール体と前記旋回スクロール体とが摺擦する端板対向面に直交する第1軸と、前記旋回スクロール体側に軸着され、前記第1軸に対し偏心する第2軸と、を備え、前記固定スクロール体側の第1軸は、前記固定スクロール体を貫通するとともに、前記固定スクロール体と前記旋回スクロール体とにより形成される圧縮空間の径方向の延長上に存在する。
また本発明の一態様では、端板と端板に設けられる渦巻き状の固定ラップとピンクランク軸受とを含む固定スクロール体において、ピンクランク軸受は、端板に軸部が設けられ、軸部は、端板と固定ラップにより形成される圧縮空間のスラスト方向の範囲内に存在することを特徴と
してもよい。
【0009】
これにより、圧縮空間からの径方向の応力が端板のピンクランク軸受の軸部に及ぼされても、ピンクランク軸受の軸部にかかる転覆モーメントを極力なくすことができる。
【0011】
これにより、圧縮空間からの径方向の圧力変動によって、径方向に及ぼされる作用力に、圧縮空間のスラスト方向の範囲内にピンクランク軸受の第1軸が位置していることで、ピンクランク軸受にかかる転覆モーメントを極力、抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ピンクランク軸受方式の自転防止用軸受を有し、いわゆる片持ち式のスクロール機械において、固定スクロール体における圧縮空間の径方向の延長上に、ピンクランク軸受の軸部を位置させることで、ピンクランク軸受の軸部を中心として作用する転覆モーメントを抑制することが可能であり、安定性に優れる、高効率なスクロール流体機械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明にかかるスクロール流体機械の実施形態の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1に示すスクロール流体機械に用いられるピンクランク軸受の拡大説明図である。
【
図3】
図1に示すスクロール流体機械のピンクランク軸受を中心に作用される圧縮空間からの作用力を示す模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる固定スクロール体およびそれを用いたスクロール流体機械についての実施形態を挙げ、添付された図面に基づいて、詳細に説明する。
【0015】
図1に、本発明にかかるスクロール流体機械1の実施形態の一例を断面的に示す。
このスクロール流体機械1は、駆動軸の旋回スクロール体を駆動する側の偏心軸部側が、軸受部材を介して支持する片持ち支持の、いわゆる片持ち式のスクロール流体機械を構成している。
かかるスクロール流体機械1について概略説明すると、スクロール流体機械1は、図中、x軸方向左端側を開口した第1ハウジング2と、第1ハウジング2にx軸方向に連設され、第1ハウジング2に比較してy方向の寸法を大とした第2ハウジング3とを有する。第1ハウジング2内には、x軸方向左端側の開口の中心をx軸方向に沿う中心軸x1に同心的に配置した第3ハウジング4を有する。
【0016】
第3ハウジング4内には、中心軸x
1を回転中心とするファン5が配設される。
また、第2ハウジング3内には、旋回スクロール体6と固定スクロール体7とが配設される。固定スクロール体7は第2ハウジング3、第3ハウジング4に固定される。また固定スクロール体7は、後述するが旋回スクロール体6と固定スクロール体7とを連結するピンクランク軸受におけるベアリング押さえ部材13を介して第3ハウジング4に固定される。
なお、第2ハウジング3には、冷却空気を取り入れるための複数の取入れ口3in(後述)、第1ハウジング2と第3ハウジング4には、冷却通路が設けられる。
【0017】
旋回スクロール体6と固定スクロール体7とは、端板6a、7aと、端板6a、7aに設けた渦巻き状の旋回ラップ6r、固定ラップ7rとを有する。
旋回スクロール体6の旋回ラップ6rは、端板6a上に突設され、固定スクロール体7側の固定ラップ7rは、端板7aが旋回ラップ6rの高さ分、渦巻き溝状に彫り込まれて形成されている。
以上のような構造により、旋回スクロール体6と固定スクロール体7とは、旋回スクロール体6の端板6a上の旋回ラップ6rが、固定スクロール体7の端板7aに彫り込まれた渦巻き溝に係合し、旋回ラップ6rと固定ラップ7rとが互いに噛合う状態で、それぞれの端板6a、7aの摺擦面がy方向に指向するように配設される。そして、旋回ラップ6rと固定ラップ7rとが互いに噛合うことで、三日月状の圧縮空間Sを形成している。なお、旋回ラップ6rと固定ラップ7rとは、対向する端板6a、7aと接触する先端にチップシール6rs、7rsが嵌着されている。圧縮空間Sには、外側の箇所から圧縮流体が導入されるように導入口(図示省略)が連通され、中央の圧縮空間Sには、所定圧の圧縮流体として吐出するように、吐出口8が連通されている。
【0018】
以上のような旋回スクロール体6は、第3ハウジング4およびファン5を貫いてx
1軸に沿って挿通された駆動軸9の先端偏心軸9aに、軸受部材10を介して接続されている。偏心軸9aは、軸心x
2が、x
1軸に対してL偏心している。なお、駆動軸9は、図示しない駆動モータの出力軸に接続される。
そして、旋回スクロール体6と固定スクロール体7とは、互いに摺擦する端板6a、7aの外周近傍の複数箇所(ここでは3か所)に、ピンクランク軸受11が配設されている。
また、固定スクロール体7には、端板7aの背面側には、冷却用フィンf
7が設けられている。なお、旋回スクロール体6側にも、図示は省略しているが、冷却フィンが設けられている。
【0019】
ピンクランク軸受11は、固定スクロール体7側の端板7aにころ軸受12を介して軸着した第1軸11aと、旋回スクロール体6側の端板6aにころ軸受12を介して軸着され、第1軸11aの軸心に対して軸心をL偏心させた第2軸11bとを具備する(
図2参照)。また、ピンクランク軸受11は、第2ハウジング3にベアリング押さえ部材13を介して固定される。
【0020】
本発明にかかるスクロール流体機械1は、以上のように構成されるものであり、次に、その動作、作用について説明する。
駆動軸9は、駆動モータが駆動されると、動力が駆動軸9に伝達されて駆動軸9は、x
1軸を中心として回転する。このときファン5も回転し、これにより、第2ハウジング3のx軸上流側から冷却用空気が第2ハウジング3内に吸引導入され、第2ハウジング3内の固定スクロール体7の端板7a背面のフィンf
7を通過し、旋回スクロール体6を通過し、第3ハウジング4、第1ハウジング2の開口部を介して排出され、旋回スクロール体6および固定スクロール体7は、適切に冷却される。また、冷却用空気は旋回スクロール体6および固定スクロール体7を収容する第2ハウジング3に開けられた取入れ口3inから第2ハウジング3内に導入され、旋回スクロール体6および固定スクロール体7の冷却に供せられる。
【0021】
駆動軸9が、x
1軸を中心として回転すると、旋回スクロール体6は駆動軸9先端の偏心軸9aに、軸受部材10を介して接続されており、さらに、旋回スクロール体6と固定スクロール体7との端板6a、7aの外周近傍に設けられているピンクランク軸受11の第2軸11bが、固定スクロール体7側に軸着された第1軸11aに対してLだけ偏心しているので、旋回スクロール体6は、自転することなく、Lを半径として公転することとなる。
これにより、旋回スクロール体6の旋回ラップ6rは、固定スクロール体7の端板7aに彫り込まれた渦巻き溝を、固定ラップ7rと噛合いながら移動し、旋回ラップ6rと固定ラップ7rとにより形成される圧縮空間Sを旋回ラップ6rおよび固定ラップ7rの巻き始め側、すなわち外側の箇所から巻き終り側、すなわち中央側へ移動させることができる。
これにより、圧縮流体は、固定スクロール体7の外側寄りの導入口から圧縮空間S内に導入され、圧縮空間Sが中央箇所に向かって移動していくことで圧縮されていき、中央の圧縮空間Sから、所定圧の圧縮流体として吐出口8を介して吐出することができる。
【0022】
以上のような圧縮動作が行われると、旋回スクロール体6の旋回ラップ6rが、固定スクロール体7の端板7aに彫り込まれた渦巻き溝を、固定ラップ7rと噛合いながら移動することで、圧縮空間Sは、図中、固定スクロール体7の径方向、すなわちy軸方向に沿って、固定スクロール体7の外側から中央箇所に向かって移動するため、圧縮空間Sの圧力が時々刻々移動し、変動する。かかる圧力の変動によってy軸方向に及ぼされる作用力F1は、ピンクランク軸受11の固定スクロール体7の端板7aに軸着された第1軸11aに及ぼされることになる。
しかしながら、圧縮空間Sは固定スクロール体7の径方向、すなわちy軸方向に形成され、第1軸11aがこの圧縮空間Sの形成方向の延長上に位置しているため、第1軸11aを中心とする転覆モーメントを極力抑えることができる(
図3参照)。
【0023】
以上のように、本実施形態のスクロール流体機械1では、ピンクランク軸受方式の自転防止用軸受を有し、いわゆる片持ち式のスクロール機械1であって、固定スクロール体7における圧縮空間Sの径方向の延長上に、ピンクランク軸受11の軸部、第1軸11aを位置させることで、ピンクランク軸受11の軸部を中心として作用する転覆モーメントを抑制することが可能であり、安定性に優れる、高効率なスクロール流体機械を提供することができる。
また、旋回スクロール体6と固定スクロール体7と、旋回スクロール体6と固定スクロール体7とを連結するピンクランク軸受11を、一つの第2ハウジング3内に収容される構造であるので、全体容積を抑え、コンパクトな構造とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上のように本発明によるスクロール流体機械によれば、片持ち式のスクロール機械にありがちな有害な振動を抑え、荷重を抑制することで長寿命で高効率なスクロール流体機械を提供することが可能となるので、比較的、低出力の機器、例えば冷蔵庫や除湿機などのヒートポンプ搭載機器にも適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 スクロール流体機械
2 第1ハウジング
3 第2ハウジング
3in 取入れ口
4 第3ハウジング
5 ファン
6 旋回スクロール体
6r 旋回ラップ
7 固定スクロール体
7r 固定ラップ
6rs、7rsチップシール
8 吐出口
9 駆動軸
9a 偏心軸
10 軸受部材
11 ピンクランク軸受
11a 第1軸
11b 第2軸
12 ころ軸受
13 ベアリング押さえ部材
S 圧縮空間
f
7 フィン