特許第6139942号(P6139942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139942
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】フィルタの評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/08 20060101AFI20170522BHJP
   F01N 3/023 20060101ALI20170522BHJP
   G01N 15/06 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   G01N15/08 CZAB
   F01N3/023 K
   G01N15/06 D
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-74428(P2013-74428)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-199204(P2014-199204A)
(43)【公開日】2014年10月23日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】濱田 安彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 博章
【審査官】 土岐 和雅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−117520(JP,A)
【文献】 特開2006−226808(JP,A)
【文献】 特開2012−017678(JP,A)
【文献】 特開2008−002812(JP,A)
【文献】 特開2006−250661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N15/00〜15/14、F01N3/00〜11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PM発生装置を用いて粒子状物質を発生させたガスを測定フィルタに供給し、その測定フィルタを通過する前のガス及び通過したガスにおけるそれぞれの粒子状物質の個数を求め、前記通過したガスにおける粒子状物質の個数を前記通過する前のガスにおける粒子状物質の個数で除して、前記測定フィルタにおける粒子状物質の個数比率を求める過程Aと、
その求められた粒子状物質の個数比率に基づいて、前記測定フィルタを装着した実際の自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を推定する過程Bと、
PM発生装置を用いて粒子状物質を発生させたガスを標準フィルタに供給し、その標準フィルタを通過する前のガス及び通過したガスにおけるそれぞれの粒子状物質の個数を求め、前記通過したガスにおける粒子状物質の個数を前記通過する前のガスにおける粒子状物質の個数で除して、前記標準フィルタにおける粒子状物質の個数比率を求める過程Cと、
前記標準フィルタを装着した実際の自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を計測する過程Dと、を有するとともに、
複数の標準フィルタについて前記過程C及び過程Dを行い、過程Cで求められる粒子状物質の個数比率と、過程Dで求められる単位走行距離あたりの粒子状物質の個数と、の関係から求められる近似式に基づいて、前記過程Bで推定される測定フィルタにかかる単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を補整するフィルタの評価方法。
【請求項2】
前記過程C及び過程Dを行う前記複数の標準フィルタの数が、3以上である請求項に記載のフィルタの評価方法。
【請求項3】
前記過程Aにおける前記測定フィルタにおける粒子状物質の個数比率が、
前記過程Cにおける前記標準フィルタにおける粒子状物質の個数比率の、最大値より小さく、且つ、最小値より大きくなるように、
前記複数の標準フィルタが選ばれる請求項又はに記載のフィルタの評価方法。
【請求項4】
前記PM発生装置が、燃料と燃料燃焼用空気との混合を行いその混合をされた燃料混合気の燃焼を生じる燃料用燃焼室、その燃料用燃焼室へ前記燃料を間欠で噴射することが可能な燃料噴射手段、及び、前記燃料混合気を着火する燃料用パイロットバーナ、を具備するものであり、
前記燃料混合気の燃焼が不完全であることによって、前記ガスの中に前記粒子状物質を発生させる請求項1〜の何れか一項に記載のフィルタの評価方法。
【請求項5】
前記PM発生装置において、燃料燃焼用空気の中に、燃料を、空気過剰率λを特定して、間欠で噴射し、燃焼させ、前記ガスの中に、特定の粒径分布からなる前記粒子状物質を発生させる請求項1〜の何れか一項に記載のフィルタの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質を除去するフィルタ(本明細書においてパティキュレートフィルタ(PF)と呼ぶ、単にフィルタともいう)を評価する手段に関する。本発明は、より詳しくは、国際連合(略称UN)の欧州経済委員会(略称ECE)における自動車基準調和世界フォーラム(略称WP29)の排出ガスエネルギー専門家会議(略称GRPE)による粒子測定プログラム(略称PMP)によって提案された、PN測定方法に代替可能な、PN測定手段によって、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)を評価する手段に関連するものである。又、本発明は、GPF(ガソリンパティキュレートフィルタ)を評価する手段にも関連する。
【背景技術】
【0002】
各種の内燃機関等から排出される排気ガス中の微粒子は、人体、環境への影響が大きい。そのため、これらの大気への放出を、防止する必要性が高まっている。特に、ディーゼルエンジンから排出されるPM(パティキュレートマター、粒子状物質)は、上記影響が甚大であり、PMの規制は、世界的に強化されている。
【0003】
自動車のエンジンの大半がディーゼルエンジンである欧州では、欧州連合(略称EU)による排気ガス規制において、排気ガスに含まれるPMは、従来のように、重量(質量)によって規制されるだけではなく、粒子数(個数)によっても規制されることが、決定された。そして、2012年9月から、新たなユーロ5+規制より、PN(パーティクルナンバー、粒子数)による規制が導入されている。これは、PMの重量(質量)の測定は、現在のレベルが限界であるといわれ、これ以上に微量になると、精度の問題が生じるおそれがあること、及び、ナノメートル(nm)オーダーの大きさのPMが人体の肺へ与える影響が大きいこと、による。
【0004】
尚、先行技術文献として、特許文献1、非特許文献1,2が発表されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−117520号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】社団法人自動車技術会、学術講演会前刷集、No.118−08、自動車排ガス中の微粒子計測技術の開発
【非特許文献2】社団法人自動車技術会、学術講演会前刷集、No.155−07、固体粒子数測定システムによるスート粒子排出挙動の調査
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、例えばディーゼルエンジン自動車が、PMの規制を守ることが出来るのは、後処理技術でDPFによるところが大きい。新たなPN規制を守ることが出来るのも、DPF装着を前提としたディーゼルエンジン自動車であり、ディーゼルエンジン自動車が新たなPN規制に適合出来るか否かは、DPFの開発、評価にかかっているといっても過言ではない。
【0008】
そして、欧州においては、PMPによるPN測定方法は、ディーゼルエンジン自動車の運転モードとして、NEDC(New European Driving Cycle)モードを採用する。このNEDCモードは、プレコンディショニング期間、ソーキング期間、及びメジャーメント(測定)期間からなる。プレコンディショニング期間(図8Aを参照)及びメジャーメント期間(図8Bを参照)におけるEUDC(Extra Urban Driving Cyde)は、最高130km/hを含む高速運転モードであり、メジャーメント期間におけるECE15(ECEの規則番号)は、ECEが定めた繰り返しの市街地運転モードである。ここで問題となるのは、ソーキング期間が6時間以上行われることである。このために、例えば、新たに開発したDPFのPN除去能力を評価しようとして、PMPによるPN測定方法に基づいて試験しようとすると、NEDCモード全体で、1回あたり、概ね7時間程度かかってしまう。これでは、DPFの開発が遅々として進まない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、ユーロ5+規制に基づくPN測定方法と相関関係にある、PN測定手段を得て、それによって、欧州規制に合致するように適切に、短時間で、正確に精度よく、DPFを評価する手段を提供することにある。研究が重ねられた結果、以下に示す手段により、この課題を解決し得ることが、見出された。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明によれば、PM発生装置を用いて粒子状物質を発生させたガスを測定フィルタに供給し、その測定フィルタを通過する前のガス及び通過したガスにおけるそれぞれの粒子状物質の個数を求め、通過したガスにおける粒子状物質の個数を通過する前のガスにおける粒子状物質の個数で除して、測定フィルタにおける粒子状物質の個数比率を求める過程Aと、その求められた粒子状物質の個数比率に基づいて、測定フィルタを装着した実際の自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を推定する過程Bと、PM発生装置を用いて粒子状物質を発生させたガスを標準フィルタに供給し、その標準フィルタを通過する前のガス及び通過したガスにおけるそれぞれの粒子状物質の個数を求め、通過したガスにおける粒子状物質の個数を通過する前のガスにおける粒子状物質の個数で除して、標準フィルタにおける粒子状物質の個数比率を求める過程Cと、標準フィルタを装着した実際の自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を計測する過程Dと、を有するとともに、複数の標準フィルタについて過程C及び過程Dを行い、過程Cで求められる粒子状物質の個数比率と、過程Dで求められる単位走行距離あたりの粒子状物質の個数と、の関係から求められる近似式に基づいて、過程Bで推定される測定フィルタにかかる単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を補整するフィルタの評価方法が提供される。
【0012】
本発明に係るフィルタの評価方法においては、(上記補整する場合には)上記過程C及び過程Dを行う複数の標準フィルタの数が、3以上であることが好ましい。
【0013】
本発明に係るフィルタの評価方法においては、(上記補整する場合には)上記過程Aにおける測定フィルタにおける粒子状物質の個数比率が、過程Cにおける標準フィルタにおける粒子状物質の個数比率の、最大値より小さく、且つ、最小値より大きくなるように、上記複数の標準フィルタが選ばれることが好ましい。これは、上記補整(すること)が、補間である場合、あるいは、内挿で行う場合、が好ましいということである。尚、本発明に係るフィルタの評価方法は、上記補整(すること)を、補外としてもよい(外挿で行ってもよい)。
【0014】
本発明に係るフィルタの評価方法においては、上記PM発生装置が、燃料と燃料燃焼用空気との混合を行いその混合をされた燃料混合気の燃焼を生じる燃料用燃焼室、その燃料用燃焼室へ上記燃料を間欠で噴射することが可能な燃料噴射手段、及び、燃料混合気を着火する燃料用パイロットバーナ、を具備するものであり、燃料混合気の燃焼が不完全であることによって、ガスの中に粒子状物質を発生させることが好ましい。
【0015】
本発明に係るフィルタの評価方法においては、上記PM発生装置において、燃料燃焼用空気の中に、燃料を、空気過剰率λを特定して、間欠で噴射し、燃焼させ、ガスの中に、特定の粒径分布からなる粒子状物質を発生させることが好ましい。
【0016】
本発明に係るフィルタの評価方法においては、燃料として、軽油又はプロパンガスを用いることが出来る。より好ましい燃料は、軽油である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るフィルタの評価方法は、PM発生装置を用いて粒子状物質を発生させたガスを測定フィルタに供給し、その測定フィルタを通過する前のガス及び通過したガスにおけるそれぞれの粒子状物質の個数を求め、通過したガスにおける粒子状物質の個数を通過する前のガスにおける粒子状物質の個数で除して、測定フィルタにおける粒子状物質の個数比率を求める過程Aと、その求められた粒子状物質の個数比率に基づいて、測定フィルタを装着した実際の自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を推定する過程Bと、を有するので、短時間で、フィルタのPN除去能力を評価することが可能である。従って、フィルタ(DPF、GPF)の開発が促進し、ひいては自動車等における大気中へのPM放出量が減少して、環境改善に寄与する。
【0018】
本発明に係るフィルタの評価方法は、PM発生装置を用いて粒子状物質を発生させたガスを標準フィルタに供給し、その標準フィルタを通過する前のガス及び通過したガスにおけるそれぞれの粒子状物質の個数を求め、通過したガスにおける粒子状物質の個数を通過する前のガスにおける粒子状物質の個数で除して、標準フィルタにおける粒子状物質の個数比率を求める過程Cと、標準フィルタを装着した実際の自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を計測する過程Dと、を有するとともに、複数の標準フィルタについて過程C及び過程Dを行い、過程Cで求められる粒子状物質の個数比率と、過程Dで求められる単位走行距離あたりの粒子状物質の個数と、の関係から求められる近似式に基づいて、過程Bで推定される測定フィルタにかかる単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を補整するので、そうしない場合より、正確に、精度よく、測定フィルタを装着した実際の自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を推定することが出来る。
【0019】
本発明に係るフィルタの評価方法は、(上記補整する場合に)上記過程C及び過程Dを行う複数の標準フィルタの数が3以上であるので、2の場合より、更に正確に精度よく、測定フィルタを装着した実際の自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を推定することが出来る。
【0020】
本発明に係るフィルタの評価方法は、好ましくは、上記補整(すること)が、補間であるので(内挿で行うので)、補外(外挿)で行う場合より、正確に、精度よく、測定フィルタを装着した実際の自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりの粒子状物質の個数を推定することが出来る。
【0021】
本発明に係るフィルタの評価方法は、上記PM発生装置において、燃料燃焼用空気の中に、燃料を、空気過剰率λを特定して、間欠で噴射し、燃焼させ、ガスの中に、特定の粒径分布からなる粒子状物質を発生させることが出来る。そのため、空気過剰率λを調節すれば、NEDCモードで運転されたディーゼルエンジン自動車から排出される排気ガスの粒径分布と、同等の粒径分布を有するPM含有ガスを、直ぐに、発生させることが可能である。従って、NEDCモードで運転されたディーゼルエンジン自動車から排出される排気ガスの粒径分布と同等の粒径分布を有するPM含有ガスを、NEDCモードのように多くの時間をかけることなく直ぐに、フィルタに供給することが出来る。そして、粒径分布測定装置によって、フィルタの入口側(フィルタを通過する前)及びフィルタの出口側(フィルタを通過した後)における、PN(パーティクルナンバー、粒子数)を測定し得る。又、PMPによるPN測定方法に基づく実車でのPM粒径分布と、略同じ分布を示すように、PMの粒径分布を調整することが出来る。即ち、本発明に係るフィルタの評価方法によれば、短時間で、PMPによるPN測定方法を用いた場合と同等の条件において、DPF(フィルタ)を通過する前及び通過した後のガスのPNを測定することが出来、それによって、DPF(フィルタ)のPN除去能力を評価することが可能である。従って、DPF(フィルタ)の開発が促進し、ひいては自動車等における大気中へのPM放出量が減少して、環境改善に寄与する。
【0022】
又、本発明に係るフィルタの評価方法によれば、GPF(フィルタ)のPN除去能力も、評価することが出来る。ディーゼルエンジン自動車とガソリンエンジン自動車とでは、軽油とガソリンという燃料の相違や、排気ガス中のPM発生量の違いはあるけれども、NEDCモードで運転される場合には、両者のPM粒径分布は略一致するからである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るフィルタ評価システムの一の実施形態を示す構成図である。
図2】本発明に係るフィルタ評価システムを構成するPM発生装置の一の実施形態を示す図であり、上面図である。
図3図2に示される装置の側面図である。
図4図2におけるPP断面を示す断面図である。
図5図3におけるQQ断面を示す断面図である。
図6図2に示されるPM発生装置の内部を分解して表す斜視図である。
図7図5と同じ断面を示す図であり、筐体部を拡大し軽油噴射手段(燃料噴射手段)を簡略化して描いた断面図である。
図8A】NEDCモードにおけるプレコンディショニング期間を示すグラフである。
図8B】NEDCモードにおけるメジャーメント(測定)期間を示すグラフである。
図9】実施例1〜3及び参考例1の結果を示す図であり、PMを発生させたガス中のPMの粒径分布(左側の縦軸)を表すグラフである。
図10】DPFの出口側(PDFで処理した後)におけるPM含有ガス中のPM濃度の時間経過毎の変化及びDPFの入口側(PDFで処理する前)におけるPM含有ガス中のPM濃度の時間経過毎の変化の一例を示すグラフである。
図11A】実施例1の結果を示す図であり、PN比率と、PMPに準拠したPN測定方法で測定されたディーゼルエンジン自動車から排出された排気ガスのPNエミッションと、の相関性を表すグラフである。
図11B】実施例2の結果を示す図であり、PN比率と、PMPに準拠したPN測定方法で測定されたディーゼルエンジン自動車から排出された排気ガスのPNエミッションと、の相関性を表すグラフである。
図11C】実施例3の結果を示す図であり、PN比率と、PMPに準拠したPN測定方法で測定されたディーゼルエンジン自動車から排出された排気ガスのPNエミッションと、の相関性を表すグラフである。
図12】実施例4の結果を示す図であり、PN比率の区間と、PN比率と(測定された)PNエミッションとの相関係数と、の関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明に係る要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明に係る実施形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0025】
本発明はフィルタの評価方法であるので、先ず、そのフィルタの評価方法に用いられるフィルタ評価システムについて、その一の実施形態を示して説明する。フィルタ評価システム100は、PM発生装置10と、PF(例えばDPF又はGPF)を収納する収納室90と、を有する(図1を参照)。PM発生装置10と収容室90の間は配管97で接続され、収容室90の出口側(図1において右側)も配管97で構成される。PM発生装置10によってPMを発生させたガスは、(図1の矢印で示される方向に流れ、)使用時に、PFが収納される収納室90に(その中のPFに)供給され、配管97から系外へ排出される。PM発生装置10と収容室90の間の配管97には、ブロー弁144(三方弁)が備わる。このブロー弁144を操作することにより、PM発生装置10から出力されるPMを発生させたガスが、不安定な場合に(例えば立上げ初期に)、そのガスを、収容室90へ送らずに、フィルタ評価システムの系外に放出することが出来る。又、ガスが安定している場合でも、PM発生装置10を止めずに、収納室90内に収容されるPFを交換することが可能である。
【0026】
収納室90の入口側(図1において左側)及び出口側(図1において右側)には、それぞれのサンプル系95,96が設けられ、それらサンプル系95,96には、ガスを希釈する希釈器91,92が備わり、それらを介して、粒径分布測定装置93,94に接続される。収納室90(PF)の入口側及び出口側のPM含有ガスは、その一部(サンプルガス)が、希釈器91,92によって適切に希釈された後、粒径分布測定装置93,94に供給され、それぞれのガス中におけるPMの粒径分布が測定される。即ち、フィルタ評価システム100によれば、PFで処理される前のPM含有ガスそのものにおけるPMの粒径毎の粒子数、及び、PFで処理された後のPM含有ガスにおけるPMの粒径毎の粒子数、を測定することが可能である。尚、本明細書において、PFで処理された後のガスもPM含有ガスと呼ぶことがあるが、PFのPM除去能力によって実質的にはPMは除去されている。又、粒径分布測定装置93,94は、PMを電気移動度によって分級し、分級されたPMの電気量に基づいて、粒径分布を測定する原理に基づく装置である。
【0027】
PMを電気移動度によって分級し分級されたPMの電気量に基づいてガス中のPMの粒径分布を測定する粒径分布測定装置としては、具体的に、TSI社のEEPS(Engine Exhaust Particle Sizer Spectrometer、型式3090)、TSI社のFMPS(Fast Mobility Particle
Sizer Spectrometer、型式3091)、Cambustion社のFPS(Fast Particle Sizer、型式DMS500、DMS500MkII)等を、例示することが出来る。これらの粒径分布装置の原理は、PMを帯電(荷電)させ、そのPMの電気移動度の違いにより分級し、分級したPMの電気量(電荷量)
をエレクトロメータで測定することによって、分級された粒径範囲のPNや濃度分布を求める、というものである。
【0028】
フィルタ評価システム100を構成するPM発生装置10は、軽油131(燃料)を間欠で噴射する軽油噴射手段3(燃料噴射手段)と燃焼を生じる燃焼室1(燃料用燃焼室)とを具備する装置である(図2図7を参照)。PM発生装置10は、軽油燃焼用空気132(燃料燃焼用空気)を、空気入口113から燃焼室1へ、連続して供給するとともに、軽油131を、軽油噴射手段3によって、間欠で燃焼室1へ噴射することにより、軽油の混合気(燃料混合気)を生成し、この軽油の混合気が、燃焼室1において、軽油燃焼用空気と接する側(外側)から燃焼するため、軽油燃焼用空気と接しない側(内側)の軽油が軽油燃焼用空気と遮断され、燃焼の熱によって蒸し焼き状態となり、排気ガスの中にPMが発生する装置である。即ち、PM発生装置10は、PMを発生させたガス(PM含有ガス133)を製造することが可能な装置である。
【0029】
PM発生装置10の軽油噴射手段3は、自らが噴射する軽油131の噴射方向(図7を参照)が、円筒状の外筒部6の中心軸方向(図6において横方向)に対し概ね直角であり、且つ、外筒部6の中心軸方向に垂直な断面(円形又は円輪形)の接線方向に傾くように、筐体部5に設けられる(図5及び図7を参照)。軽油噴射手段3としては、例えば、筐体部5と外筒部6との間の空間101に、軽油131を間欠で噴射することが可能な電磁式インジェクタが採用される。
【0030】
PM発生装置10の燃焼室1は、分割面53で2つに分割し内部を開くことが可能な筐体部5と、その筐体部5の円筒状部分5aの中に収められた外筒部6、内筒部7、及び外筒部6を保持するリング4を有する。外筒部6は円筒状を呈し、筐体部5の円筒状部分5aの中に、その筐体部5の円筒状部分5aと同軸になるように組み込まれ、更に、円筒状の内筒部7が、外筒部6の中に、外筒部6と中心軸方向を同じくし且つ偏心して(図4及び図5を参照)、組み込まれている。又、燃焼室1の筐体部5には、温度測定器23が取り付けられ、燃焼室1の壁内温度を測定可能となっている。温度測定器23の先端は前板部8には接していない。温度測定器23として好ましいものは熱電対である。
【0031】
PM発生装置10の燃焼室1では、円筒状の外筒部6は、軽油燃焼用空気が供給される空気入口113と連通しており、円筒状の内筒部7は、空気入口113と直接連通しておらず、パイロットバーナ2(燃料用パイロットバーナ)に通じる火炎入口51と連通している(図4を参照)。外筒部6、前板部8、及び後板部9の中心軸方向の長さは、筐体部5の円筒状部分5aの内側における中心軸方向の長さD(図4を参照)に対し、98%の大きさである。換言すれば、外筒部6、前板部8、及び後板部9の中心軸方向の長さと、筐体部5の円筒状部分5aの軸方向の長さDと、の比が98:100になっている。
【0032】
筐体部5には、パイロットバーナ2に通じる火炎入口51及びPMを発生させたガスを送出するガス出口52が形成され、前板部8は、ガス出口52に通じる開口81を備え、筐体部5の円筒状部分5aの中に組み込まれてガス出口52側の端面を構成し、後板部9は、火炎入口51に通じる開口89を備え、筐体部5の円筒状部分5aの中に組み込まれて火炎入口51側の端面を構成する。ガス出口52の径Cは、外筒部6の内径Aに対し、25%の大きさである(図4を参照)。換言すれば、ガス出口52の径Cと、外筒部6の内径Aと、の比C:Aは、25:100になっている。燃焼室1では、前板部8と外筒部6とは一体化していないが、後板部9と内筒部7とは一体化している。又、リング4と筐体部5の間にはガスケット301が挿入され、後板部9と筐体部5の間には図示しない非膨張セラミックス繊維性マットが挿入されている。
【0033】
燃焼室1において、外筒部6は、その周面に貫通孔61を備えている。貫通孔61は、円筒状の外筒部6の中心軸方向(図6において横方向)に3つの層を形成するように設けられ、各層毎に、円筒状の外筒部6の中心軸方向に垂直な断面の周上に、均等間隔で(中心角が90°になるように)4つ配設されている。即ち、外筒部6には、合計で(3×4=)12の貫通孔61が備わっている。外筒部6の貫通孔61は、全て、外筒部6の中心軸方向に垂直な断面(円形又は円輪形)の接線方向(外筒部の周面の方向)に傾いて形成されており(図5を参照)、貫通孔61が傾く結果、外筒部6の表面には楕円形の開口が形成される(図6を参照)。貫通孔61の径Bは、外筒部6の内径Aに対して7%の大きさである(図5を参照)。換言すれば、貫通孔61の径Bと、外筒部6の内径Aと、の比B:Aは7:100になっている。尚、貫通孔61の径Bは、図5に示されるように、外筒部6の表面の楕円形の開口で定められるのではなく、貫通孔61自体の中心軸方向に垂直な断面の直径として求められる。
【0034】
一方、内筒部7は、その周面に貫通孔71を備えている。貫通孔71は、円筒状の内筒部7の中心軸方向(図6において横方向)に2つの層を形成するように設けられ、各層毎に、円筒状の内筒部7の中心軸方向に垂直な断面の周上に、均等間隔で(中心角が90°になるように)4つ配設されている。即ち、内筒部7には、合計で(2×4=)8の貫通孔71が備わっている。内筒部7の貫通孔71は、全て、傾いて形成されておらず、内筒部7の中心軸方向に垂直な断面(円形又は円輪形)の法線方向(周面から中心軸へ向けた方向)に向けて形成され(図5を参照)、その結果、内筒部7の表面には円形の開口が形成される(図6を参照)。
【0035】
PM発生装置10において、外筒部6は、軽油燃焼用空気が供給される空気入口113と連通しており、円筒状の内筒部7は空気入口113とは、直接、連通しておらず、パイロットバーナ2(に通じる火炎入口51)と連通している(図4を参照)。軽油噴射手段3によって筐体部5と外筒部6との間の空間101に噴射された軽油131は、気化し、外筒部6の貫通孔61を介して外筒部6と内筒部7との間の空間102へ導入され、燃焼する。このとき、軽油噴射手段3は、軽油131の噴射方向が既述の如く傾くように、筐体部5に設けられるから、軽油噴射手段3によって筐体部5と外筒部6との間の空間101へ噴射された軽油は、外筒部6の周面を廻りながら、外筒部6の貫通孔61を介して、外筒部6と内筒部7との間の空間102へ導入される(図7を参照)。
【0036】
空気入口113から筐体部5と外筒部6との間の空間101に連続供給された軽油燃焼用空気132は、外筒部6の周面を廻りながら、外筒部6の貫通孔61を介して、外筒部6と内筒部7との間の空間102へ導入される(図7を参照)。そして、筐体部5と外筒部6との間の空間101に、間欠で噴射された軽油131は、外筒部6の周面を廻りながら、外筒部6の貫通孔61を介して、外筒部6と内筒部7との間の空間102へ導入され、軽油燃焼用空気132と接する側(外側)が燃焼し、接しない側(内側)の軽油は、空気と遮断され、燃焼の熱によって蒸し焼き状態となり、PMが発生し、PM含有ガス133となって、ガス出口52から、排気ガス浄化装置等へ供給される。PM発生装置10は、外筒部6、内筒部7、前板部8、後板部9は全て、インコネル材料で形成されたものであり、上記PMを発生させる不完全な燃焼は、全てインコネル材料からなる部材で囲われた空間で生じる。空気入口113は、軽油噴射手段3の近傍に設けられており、装置のコンパクト化、メンテナンス性向上の観点から都合がよい構造になっている。
【0037】
PM発生装置10は、外筒部6、内筒部7、前板部8、後板部9を全て、インコネル材料で形成する代わりに、セラミック材料(窒化珪素)で形成されたものとすることも出来る。このようにセラミック材料(窒化珪素)で形成すると、PM発生装置10の耐久性能が向上する。更に、セラミック材料は、金属材料に比べて熱変形が生じ難いため、熱変形に起因するPM発生量の低下を防止することが出来るという利点がある。
【0038】
ここで、図7に示された座標軸を用いて、PM発生装置10における軽油噴射手段3及び貫通孔61の位置、並びに外筒部6の中心軸に対し内筒部7の中心軸がずれる方向について説明する。図7における座標軸は、筐体部5の円筒状部分の中心軸方向に垂直な断面に、その中心軸を通り相互に直角をなすように設定されたX軸及びY軸からなるものである。
【0039】
PM発生装置10では、座標軸上において、筐体部5の円筒状部分の内壁がY=+100に位置するとき、それに対し、軽油噴射手段3は、Y=+60の位置に、且つ、軽油の噴射方向がX軸に平行になるように、筐体部5に設けられている。外筒部6の貫通孔61のうちの1つである貫通孔61aの設けられる位置は、Y=+70の位置である。そして、既述のように外筒部6と内筒部7とは偏心しているが、それは内筒部7の中心軸が外筒部6の中心軸より−Y側にずれることによって実現されている。即ち、座標軸上で、軽油噴射手段3は+Y側に設けられ、それとは反対の−Y側で、外筒部6と内筒部7とが偏心している。又、PM発生装置10では、外筒部6の貫通孔61のうちの1つである貫通孔61aと座標軸の原点Oと軽油噴射手段3とが形成する角度θは、27°になっている。
【0040】
次に、本発明に係るフィルタ(PF)評価方法について、上記フィルタ評価システム100を使用する場合を例にして、説明する。PFを評価するに際しては、収納室90にPFm(フィルタ、これは測定フィルタである)を収納する。そして、PM発生装置10において、軽油燃焼用空気132の中に、軽油131を、空気過剰率λを特定して、間欠で噴射し、好ましくは750℃以上1050℃以下の温度で、燃焼させて、ガスの中に、特定の粒径分布からなるPMを発生させ、そのPMを発生させたガスを、PFmに供給する。
【0041】
PM発生装置10に備わる軽油噴射手段3による軽油の噴射圧力、開弁時間(軽油の噴射時間)、開弁周期(軽油の噴射周期)、デューティー比(Duty比)、及び軽油燃焼用空気の流量、を制御することによって、空気過剰率λを、特定し又は変化させることが出来る。デューティー比は、開弁時間と開弁周期との比であり、開弁時間/開弁周期で表される。弁が開くと軽油が噴射され、弁が閉じると軽油の噴射が停止される(噴射されない)。例えば、開弁周期を固定にして、開弁時間を変化させることによって、空気過剰率λを調節することが出来る。但し、開弁時間による空気過剰率λの調節量は小さく、空気過剰率λを特定し又は変化させるに際しては、開弁周期を調整する方が容易である。
【0042】
そして、空気過剰率λを変化させると、ガスの中に発生するPMの粒径分布が変化するので、空気過剰率λを調節すれば、NEDCモードで運転後の自動車から排出される排気ガスの粒径分布と同等の粒径分布を有するPM含有ガスを、直ぐに発生させることが可能である。
【0043】
空気過剰率λ(ラムダ)は、実際の空燃比が理論値から、どれだけ離れているかを示す割合であり、空気過剰率λは、(供給される(軽油燃焼用)空気の量)/(理論的に必要な(軽油燃焼用)空気の量)で求められる。λ<1であれば、(既述のように本明細書において空気過剰率λと呼ぶが、)空気不足であり、濃厚な混合気である。一方、λ>1であれば、空気過剰であり、希薄な混合気である。空気過剰率λは、軽油用燃焼室に供給される軽油の量と軽油燃焼用空気の一定時間(例えば1分間)における流量に基づいて、算出することも出来る。
【0044】
そして、粒径分布測定装置93,94によって、PFmを通過する前のガス及びPFmを通過したガスにおける、それぞれのガス中におけるPMの粒径分布(粒径毎のPN)を測定すれば、PFmのPN除去能力を(粒径毎に)確認することが出来る。
【0045】
即ち、ガス中のPMの粒径分布を測定することには、粒径(範囲)毎のPNを測定することが含まれる。フィルタ評価システム100のように、フィルタ評価システムが希釈器(91,92)を有する場合には、粒径分布測定装置(93,94)で測定する前に、ガスを希釈することが出来る。希釈することによって、例えば、PM発生装置で発生させたPMの量が多い場合に、粒径分布測定装置における測定レンジオーバーを避けることが出来る。又、フィルタ評価システムが可溶有機成分除去装置を有する場合には、粒径分布測定装置で測定する前に、ガスの中の可溶有機成分を除去することが出来る。
【0046】
又、極小粒径(20nm以下)を除いた粒径のPNを、それぞれPFmを通過する前のガス及びPFmを通過したガスにおいて求め、通過したガスにおけるPNを通過する前のガスにおけるPNで除して、そのPFmにおけるPN比率(粒子状物質の個数比率、後述する)を、求める。これが過程Aである。尚、極小粒径(20nm以下)を除いた粒径のPNは、粒径分布測定装置で測定された各粒径範囲のPNから、極小粒径(20nm以下)範囲を除いて、総和すれば、単位時間あたりのPNとして、算出される。
【0047】
そして、その求められたPN比率に基づいて、PFmを装着した実際の自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりの粒子状物質の個数(PNエミッション、後述する)を、推定する。これが過程Bである。以上によって、PFm(フィルタ、測定フィルタ)を評価することが可能である。
【0048】
より正確に、精度よく、PFを評価するためには、以下のようにして、補整を行う。上記過程Aと同じ条件で、収納室90にPFs(フィルタ、これは標準フィルタである)を収納し、PM発生装置10でPMを発生させたガスを、PFsに供給し、PFsを通過する前のガス及びPFsを通過したガスにおいてPNを求め、通過したガスにおけるPNを通過する前のガスにおけるPNで除して、そのPFsにおけるPN比率(粒子状物質の個数比率)を求める。これが過程Cである。
【0049】
併せて、同じPFsを実際の自動車に装着し、その自動車から排出された(PFsを通過した)排気ガスの、PNエミッションを計測する。これが過程Dである。即ち、過程Cでは、フィルタ評価システム(PM発生装置)を用いてデータを求めるのに対し、過程Dでは、PMPに準拠し、実際の自動車を用いてデータを求める。
【0050】
そして、複数のPFsについて、上記過程C及び過程Dを行い、過程Cで求められるPN比率と過程Dで求められるPNエミッションとの関係から、近似式を求め、その近似式に基づいて、上記過程Bで推定されるPFmのPNエミッションを補整すればよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(参考例1〜3)フィルタ評価システム100を用い、PM含有ガスを製造し、これを、DPFを収めた収納室90に供給し、収容室90の入口側(DPFで処理される前)のPM含有ガスを、希釈器91で希釈し、粒径分布測定装置93へ導入して、測定開始から、60秒後(参考例1)、250秒後(参考例2)、500秒後(参考例3)におけるそれぞれのPMの粒径分布の結果を、図9に示す。尚、希釈器91としてマター社製の型番MD19−2Eを用い、希釈倍率は200倍とした。粒径分布測定装置93としては、TSI社製の型番3091(FMPS)を用いた。PM発生装置10に備わる軽油噴射手段3による軽油の噴射圧力は0.25MPa、開弁時間(軽油の噴射時間)は2.8msec.(ミリ秒)、開弁周期(軽油の噴射周期)は58msec.(ミリ秒)、デューティー(Duty)比は4.8%とし、軽油用燃焼室1に送られる軽油燃焼用空気の流量は0.30Nm/min.(分)とし、空気過剰率λが、1.2になるように(図1に示さないがPM発生装置10の)軽油用燃焼室1の下流側に2次空気を付与して、総計空気流量を1.9Nm/min.(分)とした。収容室90の入口側の温度は、186℃であった。
【0053】
(参考例4)DPFを装着した2.0L(ユーロ4準拠)のディーゼルエンジン自動車を、PMPに準拠したNEDCモードで運転し、DPFの入口側において排気ガスを採取した。そして、対象をその排気ガスとして、参考例1と同じ粒径分布測定装置を用い、PMの粒径分布を測定した。結果を、参考例1と比較出来るように、図9に示す。但し、図9において、縦軸のPM濃度は、計測システム上で発生する希釈分を勘案していない。
【0054】
(考察1)粒径分布は、粒径毎のPM濃度であり、このPM濃度[個/cm]は、単位体積あたりのPNである。図9に示される結果より、本発明に係るフィルタ評価システム100を用い、PM発生装置10を特定の条件(空気過剰率λ)で稼動させれば、PM発生装置10から供給されるPM含有ガスにおけるPMの粒径分布(粒径毎のPN)を、PMPに準拠したNEDCモードでディーゼルエンジン自動車を運転させて得られる排気ガスにおけるPMの粒径分布(粒径毎のPN)と、概ね同等にすることが可能であることがわかる。60秒後、250秒後、500秒後の何れにおいても、本発明に係るフィルタ評価システム100を用いて得られるPMの粒径分布は、PMPに準拠したNEDCモードでディーゼルエンジン自動車を運転させて得られる排気ガスにおけるPMの粒径分布と、概ね一致する。尚、本明細書(図及び表を含む)において、指数の表示として、コンピュータ向けの慣用表示を用いることがある。例えば、1.0×10を、1.0E+5と表すが、何れも100000のことである。
【0055】
[PM濃度の挙動]DPFの入口側及び出口側におけるPM濃度の時間経過毎の変化の一例は、図10に示される通りである。これは、フィルタ評価システム100を用いて、新品(又は再生後)のDPFにおける使用初期からの、DPFの入口側及び出口側における、PM濃度の時間経過毎の変化を記録したデータの一例である。図10に示されるように、DPFの入口側におけるPM濃度は、概ね一定であるが、DPFの出口側におけるPM濃度は、初期は高い値となっており、次第に低減する。図10に示されるように、(新品の)DPFにはPMの大きさを超えるサイズの細孔が形成されており、初期には、その細孔からPMがリークし、徐々に、PMによって細孔が埋まり、PMの大きさ以下の細孔によって、PMが補足されるようになるのである。
【0056】
[PN比率]PF(フィルタ、例えばDPF又はGPF)の出口側における所定時間あたりのPM濃度を、そのPFの入口側における同じ時間あたりのPM濃度で除した値を、PN比率という。これは、単位体積あたりの個数(PM濃度)についての、PFの出口側と入口側との比である。PNは、単位時間あたりのPM濃度に、所定時間と粒径分布測定装置の吸引流量を掛けることによって、算出することが出来る。ここで、入口側と出口側の粒径分布測定装置の吸引流量は、同一に合わせるため、PNを求めるにあたっては、実質的に、吸引流量の項を削除することが出来る。従って、本明細書では、PM濃度比率とは呼ばずに、PN比率と呼ぶこととする。それぞれの所定時間あたりのPM濃度は、PM濃度[個/cm]×時間[秒(sec.)]で求められる。図10に基づき、例えば、実際に測定を開始した40秒後から、40〜120[秒(sec.)]の区間において、DPFの出口側におけるPM濃度を、DPFの入口側におけるPM濃度で除すれば、40〜120[秒(sec.)]の区間におけるPN比率が求まる。尚、図10におけるPM濃度の立ち上がりは、測定開始後40秒からである。又、PMPに準拠したPNエミッションでは、PM粒径が20nm以下は個数カウントしない決まりなので、ここでのPM濃度も、入口側及び出口側共に、PM粒径が20nm以下をカウントせずに算出する。又、希釈器を用いる場合は、倍率をこの算出段階にて補正処理する。
【0057】
[PNエミッション]PMPに準拠したPN測定方法で測定された、DPFを装着した実際のディーゼルエンジン自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりのPNを、PNエミッション[#/km]という。#はPMの個数(個)である。PMPはDPFを評価する手段であるが、本明細書においては、GPFについても、同様に取り扱うものとする。即ち、PMPに準拠したPN測定方法で測定された、GPFを装着した実際のガソリンエンジン自動車から排出された排気ガスの、単位走行距離あたりのPNも、PNエミッション[#/km]と呼ぶ。本明細書におけるPMPに準拠したPN測定方法は、東京ダイレック株式会社が販売する粒子個数計測装置による測定方法である。この粒子個数計測装置は、マター社製のサンプルガス吸引分級装置PCF2.5(CY2.5−1)、マター社製の希釈器MD19−3E、マター社製の揮発成分除去装置ASET15−1、TSI社製の凝集粒子カウンターCPC3790、及びマター社製のインターフェイスCU−1ETで、構成される。
【0058】
(実施例1)[PNエミッションの測定(実測)]DPF(試料A)を装着した2.0L(ユーロ4準拠)のディーゼルエンジン自動車を、PMPに準拠したNEDCモードで運転し、DPFで処理された排気ガスのPNエミッション[#/km]を測定した。又、DPFを試料B,C,Dに変更して、同様にして、PNエミッション[#/km]を測定した。結果を、使用したDPFの仕様とともに、表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
[PN比率の算出(1回目)]フィルタ評価システム100を用い、収納室90に、DPF(試料A)を収納した。そして、フィルタ評価システム100でPM含有ガスを製造し、収納室90に供給し、収容室90の入口側(DPFで処理される前)のPM含有ガスを、希釈器91で希釈し、粒径分布測定装置93へ導入して、PMの粒径分布を測定し、PM濃度を時間経過毎に求めた。同時に、収容室90の出口側(DPFで処理された後)のPM含有ガスを、希釈器92で希釈し、粒径分布測定装置94へ導入して、PMの粒径分布を測定し、PM濃度を時間経過毎に求めた。そして、実際に測定を開始した時間を0として、0〜180秒(sec.)の区間における、1回目のPN比率[%]を求めた。又、DPFを試料B,C,Dに変更して、同様にして、1回目のPN比率[%]を求めた。尚、フィルタ評価システム100を構成する個別の機器、及び、PMを発生させるためのPM発生装置10の条件は、参考例1と同じである。
【0061】
[相関係数の算出(1回目)]測定されたPNエミッション[#/km]と、試料A,B,Dの1回目のPN比率[%]と、を関連付けて図11Aにプロットした。そして、これらPNエミッションと1回目のPN比率との相関係数Rを求めた。結果を、表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
[試料CにおけるPNエミッションの推定(1回目)]試料C以外の試料A,B,Dのプロットに基づいて(試料A,B,Dから推測して)、累乗近似式(Y=aX)を求め、その累乗近似式と試料Cの1回目のPN比率[%]とに基づいて、試料CのPNエミッション[#/km]を推定した。結果を、表2及び図11Aに示す。尚、累乗近似式については、表2には、a,bのみを示す。
【0064】
[2回目〜5回目]1回目と同様にして、それぞれ日を変えて、2回目〜5回目のそれぞれのPN比率の算出、2回目〜5回目のそれぞれの相関係数Rの算出を行った。又、1回目と同様に、2回目〜5回目の各回において、測定されたPNエミッション[#/km]と、求められた1回目のPN比率[%]と、を関連付けて図11Aにプロットした。そして、試料C以外の試料A,B,Dのプロットに基づいて(試料A,B,Dから推測して)、2回目〜5回目の各回において累乗近似式(Y=aX)を求め、その累乗近似式と試料CのPN比率[%]とに基づいて、2回目〜5回目の試料CにおけるPNエミッション[#/km]の推定を行った。結果を、表2に示す。尚、別の日に、各実施例を行う場合には、その都度、フィルタ評価システム(PM発生装置)を立ち上げることになる。
【0065】
[平均値及び(最大値−最小値)]推定された試料CにおけるPNエミッションの1回目〜5回目の平均値及び(最大値−最小値)を求めた。尚、(最大値−最小値)は、最大値と最小値の差である。結果を、表2に示す。
【0066】
(比較例1)実施例1の1回目の累乗近似式(Y=aX)と、2回目〜5回目のぞれぞれの試料CのPN比率[%]とに基づいて、2回目〜5回目のぞれぞれの試料CのPNエミッション[#/km]を推定した。又、1回目の試料CのPNエミッション[#/km]として実施例1と同じ値を用い、推定された試料CにおけるPNエミッションの1回目〜5回目の平均値及び(最大値−最小値)を求めた。結果を、表2に示す。
【0067】
(実施例2、比較例2)PN比率[%]を求める区間を、0〜240秒(sec.)に変更した。それ以外は、実施例1、比較例1と同様にして、試験を行った。即ち、1回目〜5回目のPN比率の算出、測定されたPNエミッション[#/km]と求められた1回目〜5回目のPN比率[%]とを関連付けたプロット、1回目〜5回目の相関係数Rの算出、1回目〜5回目の試料CにおけるPNエミッション[#/km]の推定(実施例2)、2回目〜5回目の試料CにおけるPNエミッション[#/km]の推定(比較例2)、平均値及び(最大値−最小値)の算出、を行った。結果を、表3及び図11Bに示す。
【0068】
【表3】
【0069】
(実施例3、比較例3)PN比率[%]を求める区間を、0〜300秒(sec.)に変更した。それ以外は、実施例1、比較例1と同様にして、試験を行った。即ち、1回目〜5回目のPN比率の算出、測定されたPNエミッション[#/km]と求められた1回目〜5回目のPN比率[%]とを関連付けたプロット、1回目〜5回目の相関係数Rの算出、1回目〜5回目の試料CにおけるPNエミッション[#/km]の推定(実施例3)、2回目〜5回目の試料CにおけるPNエミッション[#/km]の推定(比較例3)、平均値及び(最大値−最小値)の算出、を行った。結果を、表4及び図11Cに示す。
【0070】
【表4】
【0071】
(考察2)実施例1〜3では、試料CのPN比率[%]から試料CのPNエミッション[#/km]を推定するに際し、その都度(1回目〜5回目の各回において)、試料C以外の試料A,B,Dのプロットに基づいて累乗近似式(Y=aX)を求めている。そして、その累乗近似式によって、試料CのPNエミッション[#/km]を補整している。試料CのPN比率の値は、試料B,DにおけるPN比率の中間の値であるから、この補整は補間(内挿)にあたる。一方、比較例1〜3では、試料CのPN比率[%]から試料CのPNエミッション[#/km]を推定するに際し、2回目〜5回目であっても、1回目の累乗近似式を利用している。PN比率とPNエミッションとの間には、明確な相関関係があり、比較例1〜3においても、DPFを装着した実際の自動車をPMPに準拠したNEDCモードで運転してPNエミッションを測定することなく、PN比率からPNエミッションを推定することは可能である。しかしながら、実施例1〜3のように、補整を行った方が、比較例1〜3より正確に、精度よく、PNエミッションを推定出来ることがわかる(表1を参照)。
【0072】
(実施例4)[PN比率の算出(1回目)]フィルタ評価システム100を用い、収納室90に、DPF(試料A)を収納した。そして、フィルタ評価システム100でPM含有ガスを製造し、収納室90に供給し、収容室90の入口側(DPFで処理される前)のPM含有ガスを、希釈器91で希釈し、粒径分布測定装置93へ導入して、PMの粒径分布を測定し、PM濃度を時間経過毎に求めた。同時に、収容室90の出口側(DPFで処理された後)のPM含有ガスを、希釈器92で希釈し、粒径分布測定装置94へ導入して、PMの粒径分布を測定し、PM濃度を時間経過毎に求めた。そして、0〜30秒(sec.)の区間、0〜60秒(sec.)の区間、0〜120秒(sec.)の区間、0〜180秒(sec.)の区間、0〜240秒(sec.)の区間、0〜300秒(sec.)の区間、0〜360秒(sec.)の区間、0〜420秒(sec.)の区間、0〜480秒(sec.)の区間における、それぞれの1回目のPN比率[%]を求めた。又、PM発生装置10を止めずに、DPFを試料B,Dに変更して、同様にして、区間毎に、1回目のPN比率[%]を求めた。尚、フィルタ評価システム100を構成する個別の機器、及び、PMを発生させるためのPM発生装置10の条件は、参考例1と同じである。
【0073】
[相関係数の算出(1回目)]測定されたPNエミッション[#/km]と、試料A,B,Dにおける区間毎の1回目のPN比率[%]と、を関連付けて、図にプロットし、PNエミッションと1回目のPN比率との相関係数Rを、区間毎に、求めた。結果を、表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】
[2回目〜5回目]1回目と同様にして、それぞれ日を変えて、2回目〜5回目につきそれぞれの区間毎のPN比率の算出、2回目〜5回目につきそれぞれの相関係数Rの算出を、区間毎に、行った。結果を、表5に示す。
【0076】
[平均値、最大値、最小値]区間毎の相関係数Rの平均値、最大値、最小値を、図12に示す。
【0077】
(考察3)図12に示される結果より、0〜120秒(sec.)の区間、0〜180秒(sec.)の区間、0〜240秒(sec.)の区間において、測定(実測)されたPNエミッション[#/km]と、PN比率[%]と、の相関性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係るフィルタの評価方法は、NEDCモード及びPMPによるPN測定方法を用いた場合と同等の条件における、DPFのPN除去能力評価手段として利用することが出来る。換言すれば、本発明に係るフィルタの評価方法は、欧州向け自動車用のDPFの開発ツールとして、好適に利用されるものである。又、本発明に係るフィルタの評価方法は、GPFのPN除去能力評価手段としても、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1:燃焼室、2:パイロットバーナ、3:軽油噴射手段、4:リング、5:筐体部、5a:(筐体部の)円筒状部分、6:外筒部、7:内筒部、8:前板部、9:後板部、10:PM発生装置、11:火炎検知器、23:温度測定器、51:火炎入口、52:(PMを発生させた)ガス出口、53:分割面、61,61a:貫通孔、71:貫通孔、81:開口、89:開口、90:収納室、91,92:希釈器、93,94:粒径分布測定装置、95,96:サンプル系、97:配管、100:フィルタ評価システム、101:空間、102:空間、113:空気入口、131:軽油、132:軽油燃焼用空気、133:PM含有ガス、144:ブロー弁、301:ガスケット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12