(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記貧溶媒が、1,2,4−トリメチルベンゼン、テトラリン、デカン、ドデカン、ウンデカン、トリデカン、デカリン、イソパラフィン、アルキルシクロヘキサン及びアニソールよりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の製造方法。
上記合成工程が、カーボネート系溶媒、脂肪族エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、ニトロ系溶媒、硫黄系溶媒及びニトリル系溶媒よりなる群から選ばれる少なくとも1種の反応溶媒の存在下で、クロロスルホニルイミドまたはその塩をフッ素化する工程を含む請求項1〜5のいずれかに記載のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の製造方法。
上記合成工程が、クロロスルホニルイミドまたはその塩、又は、フルオロスルホニルイミドまたはその塩のカチオンをアルカリ金属カチオンと交換する工程を含む請求項1〜6のいずれかに記載のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の製造方法とは、カーボネート系溶媒、脂肪族エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、ニトロ系溶媒、硫黄系溶媒及びニトリル系溶媒よりなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒を含む反応溶媒の存在下でフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を合成した後、当該反応溶媒と、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒及び芳香族エーテル系溶媒よりなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩に対する貧溶媒の共存下で、前記反応溶媒を留去することによりフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩溶液を濃縮する工程を含むことを特徴とするものである。
【0017】
まず、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の合成方法について説明する。
【0018】
[フルオロスルホニルイミド合成工程]
本発明のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の製造方法において、その主骨格であるフルオロスルホニルイミドを形成する方法は特に限定されない。したがって、フッ素化剤を使用して、クロロスルホニルイミドをハロゲン交換する方法(非特許文献1,2);尿素の存在下で、フルオロスルホン酸(HFSO
3)を蒸留することによってビス(フルオロスルホニル)イミドとする方法(特許文献1);フッ素含有スルホン酸(Rf
1SO
3H)とフッ素含有スルホンアミド(Rf
2SO
2NH
2)とを、塩化チオニルの存在下で反応させる方法(特許文献2);所定の元素を含むフッ化物を使用してフルオロスルホニルイミドを製造する方法(特許文献3);等、従来公知のフルオロスルホニルイミド又はその塩(以下、「フルオロスルホニルイミド類」と称する)の合成方法はいずれも採用することができる。好ましくは、クロロスルホニルイミドをフッ素化剤によりハロゲン交換してフルオロスルホニルイミド又はその塩を合成する方法である。
【0019】
以下、クロロスルホニルイミド(プロトン体)又はその塩(以下、「クロロスルホニルイミド類」と称する)をフッ素化剤によりハロゲン交換してフルオロスルホニルイミド類を合成する方法について述べる。
【0020】
出発原料となるクロロスルホニルイミド類は、市販のものを使用してもよく、また、公知の方法で合成したものを用いてもよい。クロロスルホニルイミドを合成する方法としては、例えば、塩化シアンに無水硫酸を反応させた後、生成物(クロロスルホニルイソシアネート)とクロロスルホン酸とを反応させる方法、アミド硫酸と塩化チオニルとを反応させた後、さらにクロロスルホン酸を反応させる方法(以上、ビス(クロロスルホニル)イミドの合成方法);クロロスルホニルイソシアネートとフッ化アルキルスルホン酸またはフルオロスルホン酸とを反応させる方法(N−(クロロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミド、または、N−(クロロスルホニル)−N−(フルオロスルホニル)イミドの合成方法);等が挙げられる。
【0021】
上記クロロスルホニルイミド類をフッ素化(ハロゲン交換)する方法としては、従来公知の方法や、クロロスルホニルイミド類を、フッ酸、フッ化アンモニウム、フッ化第四級アンモニウム塩、LiF、KF、NaF、CaF
2、CsF、RbF等の金属フッ化物や、第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物(好ましくはCuF
2、ZnF
2、SnF
2、PbF
2およびBiF
3等)と反応させる方法が挙げられる(フッ素化工程)。
【0022】
クロロスルホニルイミド類のフッ素化反応に上述のLiF、KF、NaFなどのアルカリ金属フッ化物を使用する場合には、クロロスルホニルイミド類のハロゲン(塩素→フッ素)、カチオン(例えば、プロトンまたは特定のカチオン→アルカリ金属カチオン)、それぞれの交換反応を1段階で行うことができる。
【0023】
フッ素化反応では、反応溶媒として、非プロトン性溶媒を用いるのが好ましい。非プロトン性溶媒としては、具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒;ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、シクロペンチルメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の脂肪族エーテル系溶媒;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド等の硫黄系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。フッ素化反応を円滑に進行させる観点からは極性溶媒を使用することが推奨され、上記例示の溶媒の中でも、エステル系溶媒が好ましく、特に、酢酸エチル、酢酸イソプロピル及び酢酸ブチルが好ましい。なお、精製時の作業性からは、沸点が低く、水と2層状態を形成し得る溶媒が好ましい。
【0024】
フッ素化反応の終了は、例えば、
19F−NMRなどで確認することができる。すなわち、反応の進行によりフッ素に由来するケミカルシフトにピークが出現し、さらに、そのピークの相対強度(積分値)が増大する。したがって、
19F−NMRにより反応の進行状態を追跡しながら、フッ素化反応の終了を確認すればよい。なお、反応時間が長すぎる場合には、副生物の生成が顕著となるので、目的物のピークの相対強度が最大となる時点(例えば、反応の開始から6時間〜12時間程度)でフッ素化反応を終了するのが好ましい。
【0025】
[カチオン交換工程]
次に、カチオン交換工程について説明する。クロロスルホニルイミド類、または、フルオロスルホニルイミドまたはその塩(以下、フルオロスルホニルイミド類と称する)を、所望のカチオンを含む塩と反応させることで、カチオン交換することができる。すなわち、本発明では、カチオン交換工程の実施時期は特に限定されず、カチオン交換されたクロロスルホニルイミド類を原料として、上述したフッ素化反応を行ってもよく、また、上記合成工程により得られたフルオロスルホニルイミド類を原料として、カチオン交換反応を行ってもよい。
【0026】
カチオン交換反応で使用するカチオンとしては、Li,Na,K,Rb,Cs等のアルカリ金属、または、後述するオニウムカチオンが好ましい。フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩は、高温で溶融させたり、あるいは、適当な有機溶媒に溶解させることで、各種電気化学デバイスのイオン伝導体材料として使用することができる。
【0027】
アルカリ金属を含む塩としては、LiOH,NaOH,KOH,RbOH,CsOH等の水酸化物、Li
2CO
3,Na
2CO
3,K
2CO
3,Rb
2CO
3,Cs
2CO
3等の炭酸塩、LiHCO
3,NaHCO
3,KHCO
3,RbHCO
3,CsHCO
3等の炭酸水素塩、LiCl,NaCl,KCl,RbCl,CsCl等の塩化物、LiF,NaF,KF,RbF,CsF等のフッ化物、CH
3OLi,EtOLi等のアルコキシド化合物、及び、EtLi,BuLiおよびt−BuLi(Etはエチル基、Buはブチル基を示す)等のアルキルリチウム化合物等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0028】
一方、オニウムカチオンとしては、一般式(II);L
+−Rs(式中、Lは、C,Si,N,P,S又はOを表す。Rは、同一若しくは異なって、水素原子、フッ素原子、または、有機基であり、Rが有機基の場合、これらは互いに結合していてもよい。sは、2、3又は4であり、元素Lの価数によって決まる値である。尚、L−R間の結合は、単結合であってもよく、また二重結合であってもよい。)で表されるものが好適である。
【0029】
上記Rで示される「有機基」は、炭素原子を少なくとも1個有する基を意味する。上記「炭素原子を少なくとも1個有する基」は、炭素原子を少なくとも1個有していればよく、また、ハロゲン原子やヘテロ原子などの他の原子や、置換基などを有していてもよい。具体的な置換基としては、例えば、アミノ基,イミノ基,アミド基,エーテル結合を有する基,チオエーテル結合を有する基,エステル基,ヒドロキシル基,アルコキシ基,カルボキシル基,カルバモイル基,シアノ基,ジスルフィド基,ニトロ基,ニトロソ基,スルホニル基などが挙げられる。
【0030】
一般式(II)で表されるオニウムカチオンとしては、具体的には下記一般式;
【0032】
(式中、Rは、一般式(II)と同様)で表されるものが好適である。このようなオニウムカチオンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、好ましいものとしては、下記のようなオニウムカチオンが挙げられる。
【0034】
【化2】
で表される9種類の複素環オニウムカチオンの内の1種。
【0036】
【化3】
で表される5種類の不飽和オニウムカチオンの内の1種。
【0038】
【化4】
で表される10種類の飽和環オニウムカチオンの内の1種。
【0039】
上記一般式中、R
1〜R
12は、同一若しくは異なって、水素原子、フッ素原子、又は、有機基であり、有機基の場合、これらは互いに結合していてもよい。
【0040】
(4)Rが、水素、または、C
1〜C
8のアルキル基である鎖状オニウムカチオン。中でも、一般式(II)において、LがNであるものが好ましい。例えば、テトラメチルアンモニウム,テトラエチルアンモニウム,テトラプロピルアンモニウム,テトラブチルアンモニウム,テトラヘプチルアンモニウム,テトラヘキシルアンモニウム,テトラオクチルアンモニウム,トリエチルメチルアンモニウム,メトキシエチルジエチルメチルアンモニウム,トリメチルフェニルアンモニウム,ベンジルトリメチルアンモニウム,ベンジルトリブチルアンモニウム,ベンジルトリエチルアンモニウム,ジメチルジステアリルアンモニウム,ジアリルジメチルアンモニウム,(2−メトキシエトキシ)メチルトリメチルアンモニウム,ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウム,テトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウム等の第4級アンモニウム類、トリメチルアンモニウム,トリエチルアンモニウム,トリブチルアンモニウム,ジエチルメチルアンモニウム,ジメチルエチルアンモニウム,ジブチルメチルアンモニウム等の第3級アンモニウム類、ジメチルアンモニウム,ジエチルアンモニウム,ジブチルアンモニウム等の第2級アンモニウム類、メチルアンモニウム,エチルアンモニウム,ブチルアンモニウム,ヘキシルアンモニウム,オクチルアンモニウム等の第1級アンモニウム類、N−メトキシトリメチルアンモニウム、N−エトキシトリメチルアンモニウム、N−プロポキシトリメチルアンモニウム及びNH
4等のアンモニウム化合物等が挙げられる。これら例示の鎖状オニウムカチオン
の中でも、アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムおよびジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウムが好ましい鎖状オニウムカチオンとして挙げられる。
【0041】
上記(1)〜(4)のオニウムカチオンの中でも好ましいものは、下記一般式;
【0043】
(式中、R
1〜R
12は、上記と同様である。)で表される5種類のオニウムカチオン及び上記(4)の鎖状オニウムカチオンである。上記R
1〜R
12は、水素原子、フッ素原子、又は、有機基であり、有機基としては、直鎖、分岐鎖又は環状の炭素数1〜18の飽和又は不飽和炭化水素基、炭化フッ素基等が好ましく、より好ましくは炭素数1〜8の飽和又は不飽和炭化水素基、炭化フッ素基である。これらの有機基は、水素原子、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子や、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基等の官能基を含んでいてもよい。より好ましくは、R
1〜R
12は、水素原子、フッ素原子、シアノ基及びスルホン基等のいずれか1種以上を有するものである。なお、2以上の有機基が結合している場合は、当該結合は、有機基の主骨格間に形成されたものでも、また、有機基の主骨格と上述の官能基との間、あるいは、上記官能基間に形成されたものであってもよい。
【0044】
上記オニウムカチオンを含む塩としては、上記オニウムカチオンのハロゲン化物,水酸化物,炭酸化物および炭酸水素化物などが挙げられる。また、カチオン交換工程の反応系中でオニウムカチオンを含む塩が生成するような化合物を原料として用いてもよい。
【0045】
カチオン交換工程で使用可能な溶媒としては、上記フルオロスルホニルイミド合成工程で例示したものが挙げられる。したがって、カチオン交換工程では、フッ素化反応で使用した溶媒を用いてもよい。また、フルオロスルホニルイミドがオニウムカチオンと塩を形成している場合には、カチオン交換工程の前に、フッ素化反応で使用したものとは異なる溶媒に変更することもできる。フルオロスルホニルイミドがオニウムカチオンと塩を形成している場合は、溶媒との親和性がそれほど高くないため、比較的容易に溶媒を交換することができる。
【0046】
上述のように、カチオン交換工程の実施時期は特に限定されるものではなく、状況に応じて任意の段階で実施することができる。例えば、フルオロスルホニルイミド合成工程前に実施してもよく、また、フルオロスルホニルイミド合成工程後に実施してもよいが、フルオロスルホニルイミド合成工程の後に行うことが好ましい。
【0047】
また、カチオン交換工程の実施回数も限定されず、1回、または、2回以上繰り返し実施してもよい。例えば、1回のカチオン交換工程により、クロロスルホニルイミド類またはフルオロスルホニルイミド類のカチオンをアルカリ金属カチオンに交換してもよく、また、1回目のカチオン交換工程により、クロロスルホニルイミド類またはフルオロスルホニルイミド類のオニウム塩を得た後、2回目のカチオン交換工程でアルカリ金属塩を得てもよい。得られる製品の純度を高める観点からは、フルオロスルホニルイミド合成工程で得られた生成物がフルオロスルホニルイミドの金属塩(アルカリ金属以外の金属塩)の場合は、まず、1回目のカチオン交換工程によりフルオロスルホニルイミド類のオニウム塩を得て、次いで、2回目のカチオン交換工程を行ってアルカリ金属塩を得るのが好ましい。一方、フルオロスルホニルイミド合成工程で得られた生成物がフルオロスルホニルイミドのオニウム塩の場合は、カチオン交換工程を一回実施することにより、フルオロスルホニルイミド類のアルカリ金属塩を得るのが好ましい。
【0048】
なお、フルオロスルホニルイミド合成工程、カチオン交換工程のいずれにおいても、反応溶液に含まれるスルホニルイミド骨格を有する化合物(例えば、フルオロスルホニルイミド、フルオロスルホニルイミド塩など)の濃度は、1質量%〜70質量%とするのが好ましい。濃度が高すぎる場合には、反応が不均一になる虞があり、一方、低すぎる場合には、生産性が低く経済的ではないからである。より好ましくは3質量%〜60質量%であり、さらに好ましくは5質量%〜50質量%である。
【0049】
また、上記フルオロスルホニルイミド合成工程後には、反応溶液を塩基性化合物と接触させる工程を設けてもよい。塩基性化合物との接触工程を設けることにより、生成物中に含まれる不純物を除去することができる。なお「フルオロスルホニルイミド合成工程後」とは、フルオロスルホニルイミド合成工程直後のみに限られず、フルオロスルホニルイミド合成工程に続けてカチオン交換工程を行った後も「フルオロスルホニルイミド合成工程後」に含まれる。なお、好ましいのは、フルオロスルホニルイミド合成工程に続けて塩基性化合物との接触工程を実施する態様であり、より好ましくは、カチオン交換工程において下記に例示する塩基性化合物を使用することにより、カチオン交換工程とアルカリ水溶液の接触工程を同時に行うことである。これにより、効率よくフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を製造することができる。
【0050】
前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア;炭素原子数1〜8のアルキル基を有する第一級,第二級または第三級のアルキルアミン、炭素原子数1〜8のアルキレン基を有するアルキレンジアミンなどの脂肪族アミン;アルカノールアミン;脂環式アミン;芳香族アミン;これらのアミンのエチレンオキサイド付加物;ホルムアミジン;グアニジン;アミジン;複素環式アミン;アルカリ金属、または、アルカリ土類金属の水酸化物,炭酸塩,リン酸塩,ケイ酸塩,ホウ酸塩,ギ酸塩,酢酸塩,ステアリン酸塩,パルミチン酸塩,プロピオン酸塩,シュウ酸塩;等が挙げられる。
【0051】
[濃縮工程]
濃縮工程は、フルオロスルホニルイミド合成工程後又はカチオン交換工程後の反応溶液から反応溶媒を除去して、生成したフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩溶液を濃縮する工程である。本発明では、カーボネート系溶媒、脂肪族エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、ニトロ系溶媒、硫黄系溶媒及びニトリル系溶媒よりなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒(良溶媒)を含む反応溶媒と、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒及び芳香族エーテル系溶媒よりなる群から選ばれる少なくとも1種のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩に対する貧溶媒の共存下で、前記反応溶媒を留去することによりフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩溶液を濃縮する工程を実施する。
【0052】
本発明において、濃縮工程とは、得られたフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩溶液(反応溶液)から一部の溶媒を留去することに加えて、目的物であるフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩が固体として得られるまで反応溶液から溶媒を留去することも含む。また、上記濃縮には、濃縮工程に供した反応溶液の質量や体積に変化がなくても、反応溶媒の一部が貧溶媒に置換され、実質的に、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩溶液の濃縮が生じている場合も含まれる。したがって、濃縮工程で得られる生成物は、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の濃縮液、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の固体(粉体)、又は、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の一部が固体状態で存在する濃縮液(スラリー状の溶液)である。
【0053】
良溶媒とは、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を溶解し得る溶媒を意味する。一方、貧溶媒とは、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩が不溶もしくは難溶な溶媒を意味し、本発明では、芳香族炭化水素系溶媒、直鎖状、分枝鎖状又は環状脂肪族炭化水素系溶媒及び芳香族エーテル系溶媒よりなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒を、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩に対する貧溶媒として用いる。なお、本発明において「難溶(性)」とは、温度25℃におけるフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の溶解度が10000mg/L程度のものをいう。
【0054】
良溶媒としては、フルオロスルホニルイミド合成工程又はカチオン交換工程と同じ溶媒(反応溶媒)を使用してもよいし、反応溶媒とは異なる溶媒を使用してもよい。反応溶媒とは異なる溶媒を良溶媒として使用する場合は、溶媒交換等の手段により溶媒を変更すればよい。
【0055】
具体的な良溶媒としては、カーボネート系溶媒、脂肪族エーテル系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、ニトロ系溶媒、硫黄系溶媒及びニトリル系溶媒よりなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒が挙げられる。より具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒;ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、シクロペンチルメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の脂肪族エーテル系溶媒;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン等のアミド系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒;スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド等の硫黄系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
上記良溶媒の中でも、脂肪族エーテル系溶媒、エステル系溶媒が好ましく、特に、シクロペンチルメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルが好ましい。
【0056】
上記濃縮工程で使用できる具体的な貧溶媒としては、トルエン(沸点110.6℃)、o−キシレン(沸点144℃)、m−キシレン(沸点139℃)、p−キシレン(沸点138℃)、エチルベンゼン(沸点136℃)、イソプロピルベンゼン(沸点153℃)、1,2,3−トリメチルベンゼン(沸点169℃)、1,2,4−トリメチルベンゼン(沸点168℃)、1,3,5−トリメチルベンゼン(沸点165℃)、テトラリン(沸点208℃)、シメン(沸点177℃)、メチルエチルベンゼン(沸点153℃)、2−エチルトルエン(沸点164℃)等の芳香族炭化水素系溶媒;オクタン(沸点127℃)、デカン(沸点174℃)、ドデカン(沸点217℃)、ウンデカン(沸点196℃)、トリデカン(沸点234℃)、デカリン(沸点191℃)、2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン(沸点170℃−195℃)、イソパラフィン(例えば、「マルカゾールR」(丸善石油化学株式会社製の2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン、2,2,4,4,6−ペンタメチルヘプタンの混合物、沸点178℃−181℃)、「アイソパー(登録商標)G」(エクソンモービル製のC9−C11混合イソパラフィン、沸点167℃−176℃)、「アイソパー(登録商標)E」(エクソンモービル製のC8−C10混合イソパラフィン、沸点115℃−140℃))等の直鎖状又は分枝鎖状脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン(沸点81℃)、メチルシクロヘキサン(沸点101℃)、1,2−ジメチルシクロヘキサン(沸点123℃)、1,3−ジメチルシクロヘキサン(沸点120℃)、1,4−ジメチルシクロヘキサン(沸点119℃)、エチルシクロヘキサン(沸点130℃)、1,2,4−トリメチルシクロヘキサン(沸点145℃)、1,3,5−トリメチルシクロヘキサン(沸点140℃)、プロピルシクロヘキサン(沸点155℃)、ブチルシクロヘキサン(沸点178℃)、炭素数8〜12のアルキルシクロヘキサン(例えば、「スワクリーン150」(丸善石油化学株式会社製のC9アルキルシクロヘキサンの混合物、沸点152−170℃)等の環状脂肪族炭化水素系溶媒;アニソール(沸点154℃)、2−メチルアニソール(沸点170℃)、3−メチルアニソール(沸点175℃)、4−メチルアニソール(沸点174℃)等の芳香族エーテル系溶媒;等が挙げられる。
【0057】
貧溶媒としては、反応溶媒及び良溶媒よりも沸点の高いものを使用するのが好ましく、例えば、沸点が100℃以上のものを使用することが推奨される。貧溶媒は沸点が120℃以上のものがより好ましく、さらに好ましくは150℃以上である。
【0058】
上記貧溶媒の中でも、1,2,4−トリメチルベンゼン、テトラリン、デカン、ドデカン、ウンデカン、トリデカン、デカリン、イソパラフィン(アイソパー(登録商標)E、アイソパー(登録商標)G、マルカゾールR等)、アルキルシクロヘキサン(スワクリーン150等)及びアニソールよりなる群から選ばれる少なくとも一種のものが好ましい。上記貧溶媒は1種を単独で使用してもよく、2種以上の貧溶媒を使用してもよい。また、2種以上の貧溶媒の使用態様は特に限定されず、予め2種以上の溶媒を混合して用いてもよく、また、ある貧溶媒を使用してフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩溶液の濃縮を実施した後に、先に使用した貧溶媒とは異なる貧溶媒を系内に添加して、さらに濃縮を実施してもよい。
【0059】
濃縮工程は、反応溶液と貧溶媒が共存(混合)している状態で溶媒留去を行うことができればよく、貧溶媒の添加方法は特に限定されないが、例えば、濃縮工程の実施に先立って、必要量の貧溶媒を一括で添加する方法;濃縮工程中に適宜分割して貧溶媒を添加する方法;濃縮工程中に連続的に貧溶媒を添加する方法;等が挙げられる。なかでも、必要量の貧溶媒を一括で添加する方法、または、貧溶媒を適宜分割して添加する方法は、特別な反応装置を必要としないため好ましい。
【0060】
これらの貧溶媒を濃縮工程で使用することで、反応溶媒の留去が容易になり、効率よくフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属溶液を濃縮できる理由について、本発明者らは、以下のように考えている。上述のように、反応溶液中では、生成物であるフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩と溶媒との間に相互作用が働いている。したがって、上記貧溶媒の存在下で反応溶媒を留去すれば、生成物であるフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩は当該貧溶媒には溶解し難いため、反応溶媒が留去されるに従い、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩と溶媒との間の相互作用が緩和されて、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩が析出し易くなり、反応溶媒の留去が容易になると考えられる。さらに、本発明で使用する反応溶媒と貧溶媒との組み合わせでは、反応溶媒の留去により反応溶媒と貧溶媒との混合比率が変化しても、反応溶媒と貧溶媒とは2層に分離することがないため、反応溶媒の比率の減少によりフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を析出させることができる。したがって、反応溶媒と目的物たるフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩との親和性が高い場合であっても、固体として析出した目的物に取り込まれる反応溶媒量を低減することができる。また、反応溶媒に比べて貧溶媒の沸点が高い場合には、反応溶媒の留去が一層容易になる。
【0061】
濃縮工程に使用できる反応装置は特に限定されず、例えば、ロータリーエバポレーター、フラスコ、槽型反応器又は減圧可能な槽型反応器等が挙げられる。
【0062】
貧溶媒の使用量は、反応溶液中のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の濃度に応じて適宜決定すればよいが、例えば、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩100質量%に対して100質量%〜5000質量%とするのが好ましい。より好ましくは、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩100質量%に対して100質量%〜3000質量%であり、さらに好ましくは100質量%〜2000質量%である。
【0063】
また、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の濃縮効率を一層高めるため、反応溶液を加熱しながら濃縮工程を行ってもよい。加熱温度は、使用する反応溶媒に応じて適宜設定すればよいが、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の分解を抑制する観点からは、30℃以上、150℃以下とするのが好ましい。より好ましくは50℃以上であり、120℃以下である。温度が低すぎると反応溶媒の除去効率を向上し難く、一方、温度が高すぎるとフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩が分解してしまう虞がある。
【0064】
また、濃縮工程は減圧下で実施してもよい。減圧度をコントロールすることによって、低温であっても効率よく反応溶媒を除去でき、また、熱によるフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の分解も防ぐことができる。減圧度は反応溶媒の種類に応じて適宜調整すればよく特に限定はされないが、例えば、40kPa以下とするのが好ましい。より好ましくは15kPa以下であり、更に好ましくは5kPa以下である。
【0065】
濃縮工程は、反応溶液を攪拌しながら実施してもよい。
【0066】
なお、反応溶媒の量が多い場合は、濃縮工程の前に、一部の反応溶媒を除去しておいてもよい。フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩と反応溶媒との相互作用が顕著になり反応溶液から反応溶媒の除去が困難になるのは、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩(100質量部)に対する反応溶媒の量が150質量部程度よりも少なくなる時点からであるので、可能な限り反応溶液量を低減しておくことで、効率のよい濃縮工程を実施できるからである。予め反応溶媒を除去する方法としては、例えば、減圧下で、反応溶媒を留去させる方法(貧溶媒は使用しない);薄膜蒸発器を使用する方法;反応溶液に気体を流通させることで蒸発面積を増大させて、反応溶媒の蒸発を促進する方法(バブリング法)などが挙げられる。
【0067】
上記濃縮工程を継続すると、反応溶媒量の減少により、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩溶液は過飽和状態となり、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩が固体として析出する。フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩が析出した状態で濃縮工程を継続すれば、反応溶媒量の減少に加えて、上記析出物が核として働くことにより、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の析出が一層促進される。なお、濃縮工程の終了時期は特に限定されず、全ての溶媒が留去されるまで実施してもよく、また、ある程度の溶媒が留去された時点で濃縮工程を終了してもよい。
【0068】
濃縮工程で、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の一部又は全部が貧溶媒(一部反応溶媒を含んでいてもよい)に溶解、分散した状態の濃縮液を得た場合、保存時の安定性を高め、また、製品の流通を容易にするため、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を粉体化してもよい。粉体化の方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、必要により、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の濃縮液を冷却しながら静置した後、傾斜法,遠心分離法,濾過法等により、析出したフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を濃縮液から分離し、乾燥させて粉体化すればよい。フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の乾燥方法は特に限定されず、従来公知の乾燥装置が使用できる。乾燥時の温度は0℃〜100℃とするのが好ましい。より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
【0069】
[回収工程]
本発明の製造方法では、上記各工程で生成物から分離されたフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩やスルホニルイミド骨格を有する化合物を回収する工程を設けてもよい。特に、濃縮工程で析出したフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を除去した溶液(母液)には、まだフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩が含まれているので、これを回収することでフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の収量を向上させることができる。
【0070】
なお、回収したフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の精製方法は特に限定されず、各工程から回収した溶液を単独で、あるいは、混合して、精製してフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を回収してもよく、また、回収溶液は、カチオン交換工程、濃縮工程等のいずれかの工程に供給してもよい。生産性の観点からは、回収溶液は濃縮工程に供給するのが好ましい。
【0071】
また、得られたフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩(固体)の純度が低い場合には、これを単独で精製してもよいが、固体状態(粉体)のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を回収溶液(上記母液等)と混合してもよい。上記濃縮工程における操作は、晶析や、再沈殿法等の精製操作にも相当するので、母液からのフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の回収と共に、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩の純度を向上させられるからである。
【0072】
上記方法により得られたフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩は、必要に応じて純度をさらに向上させるための精製工程に供してもよい。精製工程としては、従来公知の精製方法はいずれも採用可能である。
【0073】
[フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩]
本発明のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0075】
上記一般式(I)中、M
a(カチオン)はアルカリ金属を表す。M
aは、好ましくはLi,Na,Kであり、より好ましくはLiである。上記一般式(I)中、R
a、R
bは、同一若しくは異なって、フッ素原子、または、1個以上の水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1〜6の炭化水素基を表す。上記炭化水素基としては、直鎖状の炭素数1〜6のフルオロアルキル基であるのが好ましく、例えば、フルオロメチル基,ジフルオロメチル基,トリフルオロメチル基,フルオロエチル基,ジフルオロエチル基,トリフルオロエチル基,ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。これらの中でも、R
a、R
bとしては、フッ素原子、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基が好ましい。上記一般式(I)のアニオンとしては、R
a、R
bの少なくとも一方がフッ素原子であるN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドアニオン、R
a、R
bの両方がフッ素原子であるビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンが好ましく、より好ましいのはビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンである。
【0076】
本発明のビス(フルオロスルホニル)イミドや、N−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドのアルカリ金属塩は、各種電気化学デバイスのイオン伝導体材料として好適である。特に、カチオンがリチウムであるリチウムフルオロスルホニルイミドは、リチウム二次電池、キャパシタなどに用いられる電解質やイオン性液体、あるいは、フルオロスルホニル化合物の中間体などとして有用である。
【0077】
本発明の製造方法によれば、効率よく反応溶媒等の留去を行うことができる。したがって、本発明法により得られるフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩は、残存する反応溶媒や貧溶媒由来の低分子化合物の含有量が低減されているので、上記のように各種蓄電デバイスの電解液として用いる場合に好適である。特に、本発明の製造方法によれば、リチウムイオン二次電池の電解液として用いる場合に問題となる虞の高い塩素の含有量を低減させたフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を得ることができる。
【0078】
上記本発明法により得られるフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩においては、ハロゲン化炭化水素の含有量は3500ppm以下であるのが好ましく、より好ましくは2500ppm以下、さらに好ましくは2000ppm以下である。下限値としては、0.01ppm以上であればよく、より好ましくは0.1ppm以上である。ハロゲン化炭化水素の含有量は、GC−MASSにより測定できる。なお、「ppm」は質量百万分率を表し、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩中に含まれるハロゲン化炭化水素の質量比を示す。
【0079】
上記本発明法により得られるフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩においては、ハロゲン化炭化水素由来の塩素含有量は1000ppm以下であるのが好ましく、より好ましくは800ppm以下、さらに好ましくは600ppm以下である。下限値としては、0.01ppmであればよく、より好ましくは0.1ppmである。塩素含有量は、ICP発光分析およびGC−MASSにより測定できる。なお、「ppm」は質量百万分率を表し、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩中に含まれる塩素の質量比を示す。
【0080】
また、本発明のフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩においては、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を製造する工程で使用した溶媒の少なくとも一種の残存溶媒量が4000ppm以下であるのが好ましく、より好ましくは2000ppm以下であり、より一層好ましくは1500ppm以下であり、さらに好ましくは1000ppm以下である。下限値としては、0.01ppmであればよく、より好ましくは0.1ppmである。なお、残存溶媒とは、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を製造する段階で使用した溶媒であれば特に限定されず、前述したフルオロスルホニルイミド合成工程、カチオン交換工程、濃縮工程において用いた溶媒の少なくとも一種の残存量が、上記数値範囲を満たすことが好ましい。より好ましくは濃縮工程において用いた貧溶媒の残存量が上記範囲内であるのが好ましい。
【0081】
残存溶媒としては、より具体的には芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒及び芳香族エーテル系溶媒から選ばれる少なくとも一種であるのが好ましい。さらに具体的には、1,2,4−トリメチルベンゼン、テトラリン、デカン、ドデカン、ウンデカン、トリデカン、デカリン、イソパラフィン(例えば、エクソンモービル製の「アイソパー(登録商標)E」、「アイソパー(登録商標)G」、丸善石油化学株式会社製の「マルカゾールR」等)、アルキルシクロヘキサン(例えば、丸善石油化学株式会社製の「スワクリーン150」等)及びアニソールよりなる群から選ばれる少なくとも一種の貧溶媒の残存量が上記数値範囲を満たすことが好ましい。なお、溶媒の残存量は、ガスクロマトグラフィーにより測定できる。なお、「ppm」は質量百万分率を表し、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩中に含まれる残存溶媒の質量比を示す。
【0082】
上記ハロゲン化炭化水素由来の塩素量及び/又は残存溶媒量を満たすフルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩を溶媒やポリマーなどの各種媒体に溶解して電解液とすることにより、上記蓄電デバイスの電解液としても好適に使用することができる。特に、本発明の製造方法では、ハロゲン化炭化水素溶媒を合成溶媒、貧溶媒として使用しないため、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩に含まれるハロゲン化炭化水素由来の塩素量が低減されており、電解液としては適している。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0084】
[NMR測定]
1H−NMR、
19F−NMRの測定は、Varian社製の「Unity Plus−400」を使用して行った(内部標準物質:トリフルオロメチルベンゼン、溶媒:重アセトニトリル、積算回数:16回)。
【0085】
[ICP発光分光分析]
下記例で得られたフルオロスルホニルイミド塩0.1gを超純水9.9gと混合した濃度1質量%の水溶液を測定試料とし、ICP発光分光分析装置を使用して、測定試料に含まれるハロゲン化炭化水素由来の塩素含有量を測定した。なお、定量限界(下限値)は0.1ppmである。
【0086】
[GC−MASSによる分析]
ガスクロマトグラフ質量分析計を使用して、生成したフルオロスルホニルイミド塩に含まれる化合物を測定した。測定試料は、下記例で得られたフルオロスルホニルイミド塩のアセトニトリル溶液を調製した。塩素がハロゲン化炭化水素に由来するものであることは、同位体ピーク、分子量、フラグメントにより判断できる。
【0087】
実施例1
〔フルオロスルホニルイミド合成工程(フッ素化工程)〕
攪拌装置を備えたパイレックス(登録商標)製反応容器A(内容量5L)に、窒素気流下で酢酸ブチル990gを加え、ここに110g(514mmol)のビス(クロロスルホニル)イミドを室温(25℃)で滴下した。
【0088】
得られたビス(クロロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液に、室温で、フッ化亜鉛55.6g(540mmol、ビス(クロロスルホニル)イミドに対して1.05当量)を一度に加え、これが完全に溶解するまで室温で6時間攪拌した。
【0089】
〔カチオン交換工程1−アンモニウム塩の合成〕
攪拌装置を備えたパイレックス(登録商標)製反応容器B(内容量3L)に、25質量%アンモニア水297g(4360mmol、ビス(クロロスルホニル)イミドに対して8.49当量)を加えた。アンモニア水の攪拌下、室温で、反応容器Bに、反応容器Aの反応溶液を滴下して加えた。反応溶液の滴下終了後、攪拌を停止し、水層と酢酸ブチル層の2層に分かれた反応溶液から、塩化亜鉛などの副生物を含む水層を除去し、有機層として、アンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を得た。
【0090】
得られた有機層を試料として、
19F-NMR(溶媒:重アセトニトリル)測定を行った。得られたチャートにおいて、内部標準物質として加えたトリフルオロメチルベンゼンの量、及び、これに由来するピークの積分値と、目的生成物に由来するピークの積分値との比較から、有機層に含まれるアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドの粗収量を求めた(416mmol)。
19F-NMR(溶媒:重アセトニトリル):δ56.0
【0091】
〔カチオン交換工程2−リチウム塩の合成〕
得られた有機層に含まれるアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対して、リチウムの量が2当量となるように、15質量%の水酸化リチウム水溶液133g(Liとして834mmol)を加え、室温で10分間攪拌した。その後、反応溶液から水層を除去して、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液を得た。
【0092】
得られた有機層を試料とし、ICP発光分光分析法により、フルオロスルホニルイミドのプロトンがリチウムイオンに交換されていることを確認した。また、有機層中のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド濃度は7質量%であった(収量:994g、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド収量:69.6g)。
【0093】
なお、フルオロスルホニルイミドの濃度は、得られた有機層を試料として、
19F-NMR(溶媒:重アセトニトリル)測定を行い、測定結果のチャートにおいて、内部標準物質として加えたトリフルオロメチルベンゼンの量、及び、これに由来するピークの積分値と、目的生成物に由来するピークの積分値との比較から求めた。
【0094】
〔濃縮工程〕
ロータリーエバポレーター(「REN−1000」、IWAKI社製)を使用して、減圧下で、カチオン交換工程2で得られたリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの酢酸ブチル溶液から反応溶媒を一部留去し、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド溶液162gを得た(濃度:43質量%)。
【0095】
滴下ロートおよび冷却管と溜出受器を備えた500mLセパラブルフラスコに、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド69.6gを含んだ酢酸ブチル溶液162gを加えた。真空ポンプを使用して、上記セパラブルフラスコ内を667Paまで減圧し、55℃に加温したオイルバスにセパラブルフラスコを浸漬させ、セパラブルフラスコ内の酢酸ブチル溶液を攪拌しながらゆっくりと加熱することで、フルオロスルホニルイミド合成工程からの反応溶媒である酢酸ブチルを溜出させた。溜出が始まってから10分間の間に溜出受器に回収した液の総量と同体積量の1,2,4−トリメチルベンゼンを貧溶媒としてセパラブルフラスコに添加した。その後、10分毎に溜出液と同体積量の1,2,4−トリメチルベンゼンをセパラブルフラスコ内に添加し続けることで、反応溶液を濃縮しつつ、系内の酢酸ブチル(反応溶媒)と1,2,4−トリメチルベンゼンとの配合比率を変化させて、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの白色結晶を析出させた。セパラブルフラスコ内の上澄み液が透明になるまで上記操作を繰り返した後、フラスコを室温まで冷却し、得られたリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド結晶の懸濁液を濾過し、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの結晶を濾取した。なお、酢酸ブチル溶液の加熱開始から濃縮工程終了するまでの時間は6時間であり、白色結晶析出開始までに要した時間は2時間であった。
【0096】
ついで、得られた結晶を少量のヘキサンで洗浄した後、平底バットに移し、55℃、667Paで12時間減圧乾燥を行い、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドの白色結晶を得た(収量:65.4g)。結晶に含まれる残留溶媒は、酢酸ブチルが539ppm、1,2,4−トリメチルベンゼンが136ppmであった。なお、残存溶媒量はガスクロマトグラフィーにより分析した。また、ICP発光分光分析法により塩素の含有量を測定し、次いで、GC−MASS測定により構造を確認した結果、ハロゲン化炭化水素の含有量は35ppm以下であり、ハロゲン化炭化水素由来の塩素含有量は10ppm以下であった。
【0097】
なお、ろ液に含まれるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドは、ろ液を再び濃縮工程、粉体化、乾燥工程に供することで回収することができる。
【0098】
比較例1
外径15mmの試験管を減圧装置に装着した。試験管の中に実施例1と同様の方法で得られたリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド2.3gを含んだ酢酸ブチル溶液5gを加えた(濃度:46質量%)。温度50℃の恒温水槽により上記試験管を加熱しながら、減圧度を667Paで、20時間濃縮工程を行った。得られた溶液の濃度は60質量%であった。なお、比較例1では、固体の析出は確認できなかった。
【0099】
【表1】
【0100】
表1中、「LiFSI使用量」とは、濃縮工程に用いたLiFSI溶液(反応溶液)に含まれるLiFSI量をNMR測定に基づいて算出した値であり、「回収率」とは、上記使用量と、各実施例で得られたLiFSIの懸濁液から結晶を濾取し、乾燥した後の結晶質量の値から算出した値である(表2〜4においても同様)。なお、反応溶媒及び貧溶媒の略称は、それぞれ以下のものを示す(表2〜4においても同様)。
BuOAc:酢酸ブチル
TMB:1,2,4−トリメチルベンゼン、沸点168℃
【0101】
実施例1と比較例1の対比より、反応溶液と、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドに対する貧溶媒の共存下で濃縮工程を実施することにより、反応溶媒を速やかに留去できることが分かる。
【0102】
実施例2〜10
〔フルオロスルホニルイミド合成工程〜カチオン交換工程2〕
反応溶媒を表2に示す溶媒に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)溶液を調製した。
【0103】
〔濃縮工程〕
表2に記載の貧溶媒を使用したこと、減圧度を1.33kPa(10torr)加熱温度を60℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして濃縮工程を実施し、LiFSIの白色結晶を得た。表2に結果を示す。なお、実施例1と同様の方法で測定したハロゲン化炭化水素の含有量は、いずれの実施例でも35ppm以下であり、ハロゲン化炭化水素由来の塩素含有量は、いずれの実施例でも10ppm以下であった。
【0104】
【表2】
【0105】
表2中の反応溶媒の略称は、それぞれ以下のものを示す(表3,4においても同様)。
CPME:シクロペンチルメチルエーテル
MTBE:メチル−t−ブチルエーテル
iPrOAc:酢酸イソプロピル
DEC:ジエチルカーボネート
VN:バレロニトリル
EtOAc:酢酸エチル
【0106】
実施例11〜14
〔フルオロスルホニルイミド合成工程〜カチオン交換工程2〕
反応溶媒を表3に示す溶媒に変更し、カチオン交換工程2において、水酸化リチウムに代えて15質量%の水酸化ナトリウム水溶液222g(Naとして833mmol)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI)溶液を調製した。
〔濃縮工程〕
次いで、表3に記載の貧溶媒を使用したこと、減圧度を1.33kPa(10torr)、加熱温度を60℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして濃縮工程を実施し、NaFSIの白色結晶を得た。表3に結果を示す。なお、実施例1と同様の方法で測定したハロゲン化炭化水素の含有量は、いずれの実施例でも35ppm以下であり、ハロゲン化炭化水素由来の塩素含有量は、いずれの実施例でも10ppm以下であった。
【0107】
【表3】
【0108】
実施例11〜13で使用した貧溶媒は下記の通りである(表4でも同様)。
スワクリーン150:丸善石油化学株式会社製のC9アルキルシクロヘキサンの混合物、沸点152−170℃
アイソパー(登録商標)G:エクソンモービル製のC10,C11混合イソパラフィン、沸点167℃−176℃
マルカゾールR:丸善石油化学株式会社製のイソパラフィン、沸点178℃−181℃
【0109】
なお、実施例11,12で使用した貧溶媒は混合物であり、GC−MASSスペクトルの測定結果には多数のピークが確認されたが、いずれのピーク強度もNaFSIのピークと比較して十分低いものであり、これらの実施例で得られた結晶中の残存溶媒量(貧溶媒の合計)は4000ppm以下であった。
【0110】
実施例15〜18
〔フルオロスルホニルイミド合成工程〜カチオン交換工程2〕
反応溶媒を表4に示す溶媒に変更し、カチオン交換工程2において、水酸化リチウムに代えて15質量%の水酸化カリウム水溶液312g(Kとして834mmol)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、カリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(KFSI)溶液を調製した。
〔濃縮工程〕
次いで、表4に記載の貧溶媒を使用したこと、減圧度を4kPa(30torr)、加熱温度を60℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして濃縮工程を実施し、KFSIの白色結晶を得た。表4に結果を示す。なお、実施例1と同様の方法で測定したハロゲン化炭化水素の含有量は、いずれの実施例でも35ppm以下であり、ハロゲン化炭化水素由来の塩素含有量は、いずれの実施例でも10ppm以下であった。
【0111】
【表4】
【0112】
なお、実施例15,16で使用した貧溶媒は混合物であり、GC−MASSスペクトルの測定結果には多数のピークが確認されたが、いずれのピーク強度もKFSIのピークと比較して十分低いものであり、残存溶媒量(貧溶媒の合計)は4000ppm以下であった。
【0113】
実施例2〜18の結果より、実施例1とは、反応溶媒(良溶媒)や貧溶媒が異なる場合であっても、実施例1と同様、反応溶媒と、フルオロスルホニルイミド塩に対する貧溶媒の共存下で濃縮工程を実施することにより、反応溶媒を速やかに留去できることが分かる。