(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139974
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】ファンモータ駆動装置、駆動方法ならびにそれを用いた冷却装置および電子機器
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
H02P27/08
【請求項の数】21
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-102584(P2013-102584)
(22)【出願日】2013年5月14日
(65)【公開番号】特開2014-223001(P2014-223001A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2016年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 智文
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−200092(JP,A)
【文献】
特開2000−050673(JP,A)
【文献】
特開2005−224100(JP,A)
【文献】
特開昭63−007160(JP,A)
【文献】
特開2004−166379(JP,A)
【文献】
特開2007−060862(JP,A)
【文献】
特開平05−030780(JP,A)
【文献】
特開2011−223857(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0242264(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0279072(US,A1)
【文献】
米国特許第06157151(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホール素子からの駆動対象のファンモータの回転子の位置を示す互いに逆相の一対のホール信号にもとづき、前記ファンモータを駆動するファンモータ駆動装置であって、
(i)前記一対のホール信号の差分を第1の極性で増幅して第1制御信号を生成するとともに、(ii)前記第1制御信号に応じた第1駆動電圧を前記ファンモータのコイルの一端に印加する駆動状態と、その出力段が前記コイルに流れる電流を回生可能となる回生状態と、が切りかえ可能に構成された第1駆動部と、
(i)前記一対のホール信号の差分を第2の極性で増幅して第2制御信号を生成するとともに、(ii)前記第2制御信号に応じた第2駆動電圧を前記ファンモータのコイルの他端に印加する駆動状態と、その出力段が前記コイルに流れる電流を回生可能となる回生状態と、が切りかえ可能に構成された第2駆動部と、
前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれの状態を制御する回生コントローラと、
を備え、
前記第1駆動部は、前記回生状態において、前記第1駆動電圧の包絡線を前記第1制御信号にもとづいて変化させながら、デューティ比が徐々に変化する態様にて前記第1駆動電圧をスイッチングし、
前記第2駆動部は、前記回生状態において、前記第2駆動電圧の包絡線を前記第2制御信号にもとづいて変化させながら、デューティ比が徐々に変化する態様にて前記第2駆動電圧をスイッチングすることを特徴とするファンモータ駆動装置。
【請求項2】
前記回生コントローラは、前記第1制御信号の下りのスロープに第1回生区間を設定し、前記第1回生区間の間、前記第1駆動部を前記回生状態に設定し、それ以外の区間を前記駆動状態に設定し、前記第2制御信号の下りのスロープに第2回生区間を設定し、前記第2回生区間の間、前記第2駆動部を前記回生状態とし、それ以外の区間を前記駆動状態に設定することを特徴とする請求項1に記載のファンモータ駆動装置。
【請求項3】
前記回生コントローラは、前記ファンモータの回転数が高いほど、前記第1回生区間および前記第2回生区間の長さを長く設定することを特徴とする請求項2に記載のファンモータ駆動装置。
【請求項4】
前記第1駆動部は、前記回生状態において、前記第1制御信号にかかわらず、前記第1駆動電圧を所定電圧に固定し、前記第2駆動部は、前記回生状態において、前記第2制御信号にかかわらず、前記第2駆動電圧を所定電圧に固定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のファンモータ駆動装置。
【請求項5】
前記第1駆動部および前記第2駆動部はそれぞれ、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)で構成される出力段を含み、前記回生状態において、前記MOSFETがオフとなり、ボディダイオードを介して前記コイルに流れる電流を回生することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のファンモータ駆動装置。
【請求項6】
前記回生コントローラは、
前記ファンモータの回転数に応じたしきい値電圧と前記第1制御信号を比較し、前記第1制御信号の方が低くなるとアサートされる第1検出信号を生成する第1コンパレータと、
前記しきい値電圧と前記第2制御信号を比較し、前記第2制御信号の方が低くなるとアサートされる第2検出信号を生成する第2コンパレータと、
前記第1検出信号がアサートされると、前記第1駆動部を前記回生状態に遷移させ、前記第2検出信号がアサートされると、前記第2駆動部を前記回生状態に遷移させるロジック部と、
を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のファンモータ駆動装置。
【請求項7】
ホール素子からの駆動対象のファンモータの回転子の位置を示す互いに逆相の一対のホール信号にもとづき、前記ファンモータを駆動するファンモータ駆動装置であって、
(i)前記一対のホール信号の差分を第1の極性で増幅して第1制御信号を生成するとともに、(ii)前記第1制御信号に応じた第1駆動電圧を前記ファンモータのコイルの一端に印加する駆動状態と、その出力段が前記コイルに流れる電流を回生可能となる回生状態と、が切りかえ可能に構成された第1駆動部と、
(i)前記一対のホール信号の差分を第2の極性で増幅して第2制御信号を生成するとともに、(ii)前記第2制御信号に応じた第2駆動電圧を前記ファンモータのコイルの他端に印加する駆動状態と、その出力段が前記コイルに流れる電流を回生可能となる回生状態と、が切りかえ可能に構成された第2駆動部と、
前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれの状態を制御する回生コントローラと、
を備え、
前記回生コントローラは、
前記ファンモータの回転数に応じたしきい値電圧と前記第1制御信号を比較し、前記第1制御信号の方が低くなるとアサートされる第1検出信号を生成する第1コンパレータと、
前記しきい値電圧と前記第2制御信号を比較し、前記第2制御信号の方が低くなるとアサートされる第2検出信号を生成する第2コンパレータと、
前記第1検出信号がアサートされると、前記第1駆動部を前記回生状態に遷移させ、前記第2検出信号がアサートされると、前記第2駆動部を前記回生状態に遷移させるロジック部と、
を含むことを特徴とするファンモータ駆動装置。
【請求項8】
前記回生コントローラは、前記ファンモータの回転数を指示する指令信号に応じて、前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれ状態を制御することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のファンモータ駆動装置。
【請求項9】
前記指令信号は、前記ファンモータの回転数の目標値が高いほど低い値をとり、
前記回生コントローラは、
前記指令信号を反転増幅することにより、しきい値電圧を生成する反転増幅回路をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載のファンモータ駆動装置。
【請求項10】
ホール素子からの駆動対象のファンモータの回転子の位置を示す互いに逆相の一対のホール信号にもとづき、前記ファンモータを駆動するファンモータ駆動装置であって、
(i)前記一対のホール信号の差分を第1の極性で増幅して第1制御信号を生成するとともに、(ii)前記第1制御信号に応じた第1駆動電圧を前記ファンモータのコイルの一端に印加する駆動状態と、その出力段が前記コイルに流れる電流を回生可能となる回生状態と、が切りかえ可能に構成された第1駆動部と、
(i)前記一対のホール信号の差分を第2の極性で増幅して第2制御信号を生成するとともに、(ii)前記第2制御信号に応じた第2駆動電圧を前記ファンモータのコイルの他端に印加する駆動状態と、その出力段が前記コイルに流れる電流を回生可能となる回生状態と、が切りかえ可能に構成された第2駆動部と、
前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれの状態を制御する回生コントローラと、
を備え、
前記回生コントローラは、前記ファンモータの回転数を指示する指令信号に応じて、前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれ状態を制御し、
前記指令信号は、前記ファンモータの回転数の目標値が高いほど低い値をとり、
前記回生コントローラは、前記指令信号を反転増幅することにより、しきい値電圧を生成する反転増幅回路をさらに含むことを特徴とするファンモータ駆動装置。
【請求項11】
前記回生コントローラは、前記ファンモータの現在の回転数を示す検出信号に応じて、前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれ状態を制御することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のファンモータ駆動装置。
【請求項12】
前記回生コントローラは、前記ファンモータに流れる電流に応じて、前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれ状態を制御することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のファンモータ駆動装置。
【請求項13】
ホール素子からの駆動対象のファンモータの回転子の位置を示す互いに逆相の一対のホール信号にもとづき、前記ファンモータを駆動するファンモータ駆動装置であって、
(i)前記一対のホール信号の差分を第1の極性で増幅して第1制御信号を生成するとともに、(ii)前記第1制御信号に応じた第1駆動電圧を前記ファンモータのコイルの一端に印加する駆動状態と、その出力段が前記コイルに流れる電流を回生可能となる回生状態と、が切りかえ可能に構成された第1駆動部と、
(i)前記一対のホール信号の差分を第2の極性で増幅して第2制御信号を生成するとともに、(ii)前記第2制御信号に応じた第2駆動電圧を前記ファンモータのコイルの他端に印加する駆動状態と、その出力段が前記コイルに流れる電流を回生可能となる回生状態と、が切りかえ可能に構成された第2駆動部と、
前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれの状態を制御する回生コントローラと、
を備え、
前記回生コントローラは、前記ファンモータに流れる電流に応じて、前記第1駆動部および前記第2駆動部それぞれ状態を制御することを特徴とするファンモータ駆動装置。
【請求項14】
前記第1駆動部は、前記一対のホール信号の差分を非反転増幅することにより前記第1制御信号を生成する第1ホールアンプを含み、
前記第2駆動部は、前記一対のホール信号の差分を反転増幅することにより前記第2制御信号を生成する第2ホールアンプを含むことを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載のファンモータ駆動装置。
【請求項15】
前記第1ホールアンプの利得は、前記第1制御信号が、相の切り替わりの区間において傾斜を有し、それ以外の区間で平坦な制御信号を生成するように定められ、
前記第2ホールアンプの利得は、前記第2制御信号が、相の切り替わりの区間において傾斜を有し、それ以外の区間で平坦な制御信号を生成するように定められることを特徴とする請求項14に記載のファンモータ駆動装置。
【請求項16】
前記回生コントローラは、前記ファンモータの起動直後の期間、前記第1駆動部および前記第2駆動部を、前記駆動状態に固定することを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載のファンモータ駆動装置。
【請求項17】
前記所定電圧はローレベル電圧であることを特徴とする請求項4に記載のファンモータ駆動装置。
【請求項18】
ひとつの半導体基板上に一体集積化されたことを特徴とする請求項1から17のいずれかに記載のファンモータ駆動装置。
【請求項19】
ファンモータと、
前記ファンモータの回転子の位置を示す一対のホール信号を生成するホール素子と、
前記一対のホール信号にもとづいて前記ファンモータを駆動する請求項1から18のいずれかに記載のファンモータ駆動装置と、
を備えることを特徴とする冷却装置。
【請求項20】
プロセッサと、
前記プロセッサと対向して設けられたファンモータと、
前記ファンモータの回転子の位置を示す一対のホール信号を生成するホール素子と、
前記一対のホール信号にもとづいて前記ファンモータを駆動する請求項1から18のいずれかに記載のファンモータ駆動装置と、
を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項21】
ファンモータを駆動する方法であって、
ホール素子により、前記ファンモータの回転子の位置を示す互いに逆相の一対のホール信号を生成するステップと、
前記一対のホール信号の差分を第1の極性で増幅して第1制御信号を生成するステップと、
前記第1制御信号に応じた第1駆動電圧を前記ファンモータのコイルの一端に印加するとともに、前記第1制御信号の下りのスロープに設定される第1回生区間の間、前記コイルの電流を回生させるステップと、
前記一対のホール信号の差分を第2の極性で増幅して第2制御信号を生成するステップと、
前記第2制御信号に応じた第2駆動電圧を前記ファンモータのコイルの他端に印加するとともに、前記第2制御信号の下りのスロープに設定される第2回生区間の間、前記コイルの電流を回生させるステップと、
前記ファンモータの回転数が高いほど、前記第1回生区間および前記第2回生区間の長さを長く設定する制御ステップと、
を備え、
前記制御ステップは、
前記ファンモータの回転数に応じたしきい値電圧と前記第1制御信号を比較し、前記第1制御信号の方が低くなると第1検出信号をアサートするステップと、
前記しきい値電圧と前記第2制御信号を比較し、前記第2制御信号の方が低くなると第2検出信号をアサートするステップと、
前記第1検出信号がアサートされると、前記第1回生区間に遷移させ、前記第2検出信号がアサートされると、前記第2回生区間に遷移させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファンモータ駆動技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のパーソナルコンピュータやワークステーションの高速化にともない、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理用LSI(Large Scale Integrated circuit)の動作速度は上昇の一途をたどっている。このようなLSIは、その動作速度、すなわちクロック周波数が高くなるにつれて発熱量も大きくなる。LSIからの発熱は、そのLSI自体を熱暴走に導いたり、あるいは周囲の回路に対して影響を及ぼすという問題がある。したがってLSIをはじめとする発熱体(以下LSIという)の適切な熱冷却はきわめて重要な技術となっている。
【0003】
LSIを冷却するための技術の一例として、冷却ファンによる空冷式の冷却方法がある。この方法においては、たとえば、LSIの表面に対向して冷却ファンを配置し、冷たい空気をLSI表面に吹き付ける。
【0004】
ファンモータの駆動方式としては、スイッチング駆動方式と、BTL(Bridged Transless)駆動方式が知られている。
【0005】
図1(a)、(b)は、スイッチング駆動方式のファンモータ駆動装置の構成を示す回路図およびその動作波形図である。ファンモータ駆動装置2rのホール端子H+、H−には、ホール素子(ホールセンサともいう)104からの一対のホール信号V
H+、V
H−が入力される。駆動装置2rは、ホール信号V
H+、V
H−にもとづいて、ファンモータ102を駆動する。一対のホール信号V
H+、V
H−は、互いに逆相の正弦波であり、ファンモータ102の回転子の位置を示す。
【0006】
基準電圧源210は、ホールバイアス電圧V
HBを生成し、ホール素子104に供給する。ホール信号V
H+、V
H−の振幅は、ホールバイアス電圧V
HBに応じている。ホールコンパレータ214は、ホール信号V
H+、V
H−を比較し、相の切り替わりのタイミングを検出する。ホールアンプ212は、ホール信号V
H+、V
H−の差分を増幅する。
【0007】
コンパレータ216は、回生区間を設定するために設けられる。設定電圧V
ADJは、外部から入力可能であり、設計者が回生区間を調節可能となっている。コンパレータ216は、ホールアンプ212の出力電圧を、回生区間の長さを指示する設定電圧V
ADJと比較し、それらがクロスするタイミングに応じて回生区間を設定する。
【0008】
ロジック部220は、ホールコンパレータ214の出力S11およびコンパレータ216の出力S12にもとづいて、Hブリッジ回路240の各トランジスタのオン、オフ状態を指示する制御信号S13を生成する。プリドライバ230は、制御信号S13にもとづいてHブリッジ回路240を制御する。
【0009】
図1(b)には、上から順に、駆動電圧V
OUT1、V
OUT2、およびコイル電流I
COILが示される。時刻t1より前において、駆動電圧V
OUT2がハイレベル電圧V
DDであり、駆動電圧V
OUT1がローレベル電圧V
GNDである。時刻t1より前に、コイル電流I
COILは負であり、OUT2からOUT1に向かう方向(第2方向という)に流れている。
【0010】
時刻t1に、ホールコンパレータ214の出力S11が変化すると、駆動電圧V
OUT2がローレベル電圧に遷移する。時刻t1の直後、ファンモータ102のコイルには、その逆起電力により、引き続き第2方向にコイル電流I
COILが流れ続けようとする。コイルにエネルギーが残留した状態で直ちに駆動電圧V
OUT1をハイレベルに遷移させると、コイル電流I
COILがブリッジ回路を構成するトランジスタのボディダイオードを経由して、VDD端子に接続されるコンデンサC1に流れ込む。これにより、電源電圧V
DDが上昇し、駆動電圧V
OUT1も上昇することになり好ましくない。
【0011】
電源電圧V
DDおよび駆動電圧V
OUT1の上昇を抑制するために、回生区間T
RGNが挿入される。回生区間T
RGNの間、ブリッジ回路240の2個のローサイドトランジスタが両方オンとなり、駆動電圧V
OUT1、V
OUT2がともにローレベルに固定される。回生区間T
RGNの間、コイル電流I
COILは、ファンモータ102のコイルと、2個のローサイドトランジスタならびに接地ラインを含むループを循環する。
【0012】
回生区間T
RGNの長さは、コイルに蓄えられたエネルギーが十分に消散しうる長さに設定する必要がある。ここで、回生区間T
RGNの長さを通常の回転数を基準として最適化すると、電源投入時やロック保護動作時のようにコイル電流が大きくなる状態において、回生区間T
RGNが不足し、電源電圧V
DDおよび出力電圧V
OUTが上昇する。これを防止するために、回生区間T
RGNをマージンを付与して長く定めると効率が悪化する。
【0013】
このように、スイッチング駆動方式は、後述するBTL駆動方式に比べて効率が高いという利点を有する反面、回生区間T
RGNの長さの設定が難しい。また、
図1(b)に示すように、コイル電流I
COILに変曲点が現れるため、電磁ノイズによる騒音が発生するという問題もある。
【0014】
続いてBTL駆動方式を説明する。
図2(a)、(b)は、BTL駆動方式のファンモータ駆動装置の構成を示す回路図およびその動作波形図である。第1アンプ320、第2アンプ322はそれぞれ、ホール信号V
H+とV
H−の差分を、互いに逆極性で増幅する。第1バッファ330は、第1アンプ320の出力信号を受け、それに応じた駆動電圧V
OUT1をファンモータ102の一端に印加し、第2バッファ332は、第2アンプ322の出力信号を受け、それに応じた駆動電圧V
OUT2をファンモータ102の他端に印加する。ロジック部340は、ファンモータ102の目標トルク(目標回転数)に応じてパルス幅変調されたパルス信号を生成し、このパルス信号に応じて、第1バッファ330、第2バッファ332の出力をスイッチングする。
【0015】
図2(b)には、上から順に、駆動電圧V
OUT1、V
OUT2、およびコイル電流I
COILが示される。BTL駆動方式では、駆動電圧V
OUT1、V
OUT2が連続的に緩やかに変化するため、相の切りかえにともなう電源電圧V
DDおよび駆動電圧V
OUTの上昇を抑制できる。加えて、コイル電流I
COILに変曲点が存在せず、緩やかに変化するため、電磁ノイズによる騒音が小さいという利点もある。
【0016】
一方、BTL駆動方式では、相の切りかえ区間における電力損失が大きいという問題がある。電力損失が大きいと、IC(Integrated Circuit)の発熱量が大きくなる。したがってBTL駆動方式は、スイッチング駆動方式に比べて、大電流モータには不向きである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平7−31190号公報
【特許文献2】特開2001−284868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
このように、スイッチング駆動方式とBTL駆動方式は、それぞれ、相反する長所と短所を有している。したがって従来において冷却用ファンモジュールや電子機器の設計者は、それぞれのプラットフォームに適したいずれかの駆動方式を選択する必要があり、静粛性と高効率の両立は困難であった。
【0019】
本発明はこうした状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、優れた静音性と、高効率を実現したモータ駆動装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のある態様は、ホール素子からの駆動対称のファンモータの回転子の位置を示す互いに逆相の一対のホール信号にもとづき、ファンモータを駆動するファンモータ駆動装置に関する。ファンモータ駆動装置は、(i)一対のホール信号の差分を第1の極性で増幅して第1制御信号を生成するとともに、(ii)駆動状態と回生状態とが切りかえ可能に構成された第1駆動部と、(i)一対のホール信号の差分を第2の極性で増幅して第2制御信号を生成するとともに、(ii)駆動状態と回生状態とが切りかえ可能に構成された第2駆動部と、第1駆動部および第2駆動部それぞれの状態を制御する回生コントローラと、を備える。
第1駆動部は、(ii-1)駆動状態において、第1制御信号に応じた第1駆動電圧をファンモータのコイルの一端に印加し、(ii-2)回生状態において、その出力段によりコイルに流れる電流を回生させる。
第2駆動部は、(ii-1)駆動状態において、第2制御信号に応じた第2駆動電圧をファンモータのコイルの他端に印加し、(ii-2)回生状態において、その出力段によりコイルに流れる電流を回生させる。
【0021】
相の切り替わり区間(相遷移区間ともいう)において、第1、第2駆動部を駆動状態に設定すると、モータ駆動装置を、BTL駆動方式として動作させることができる。反対に、相遷移区間において、第1、第2駆動部を回生状態に設定すると、モータ駆動装置を、擬似的なスイッチング駆動方式で動作させることができる。この態様によれば、回生コントローラによって、第1駆動部と第2駆動部の状態を適切に制御することにより、優れた静音性と高効率を実現できる。
【0022】
回生コントローラは、第1制御信号の下りのスロープに第1回生区間を設定し、第1回生区間の間、第1駆動部を回生状態に設定し、それ以外の区間を駆動状態に設定してもよい。回生コントローラは、第2制御信号の下りのスロープに第2回生区間を設定し、第2回生区間の間、第2駆動部を回生状態とし、それ以外の区間を駆動状態に設定してもよい。
【0023】
回生コントローラは、ファンモータの回転数が高いほど、第1回生区間および第2回生区間の長さを長く設定してもよい。
ファンモータの回転数が高く電磁ノイズに起因する騒音が問題とならない状況では、回生状態を長くすることにより効率を高め、発熱量を低減でき、ファンモータの回転数が低く電磁ノイズに起因する騒音を低減すべき状況では、回生状態の区間を短く、すなわちスロープを利用したソフトスイッチングの期間を長くとることで、静粛性を改善することができる。
【0024】
第1駆動部は、回生状態において、第1制御信号にかかわらず、第1駆動電圧を所定電圧に固定し、第2駆動部は、回生状態において、第2制御信号にかかわらず、第2駆動電圧を所定電圧に固定してもよい。
この場合、出力段のローサイドトランジスタを経由してコイル電流を回生することができる。
【0025】
第1駆動部および第2駆動部は、回生状態において、その出力がハイインピーダンスとなってもよい。
この場合、出力段のトランジスタのボディダイオードを経由してコイル電流を回生することができる。
【0026】
第1駆動部は、回生状態において、第1駆動電圧の包絡線を第1制御信号にもとづいて変化させながら、デューティ比が徐々に変化する態様にて第1駆動電圧をスイッチングしてもよい。第2駆動部は、回生状態において、第2駆動電圧の包絡線を第2制御信号にもとづいて変化させながら、デューティ比が徐々に変化する態様にて第2駆動電圧をスイッチングしてもよい。
この場合、第1駆動電圧(第2駆動電圧)がローレベル電圧となる期間、コイル電流が回生することになる。この態様によれば、実質的にコイル電流が回生する時間が徐々に変化するため、第1駆動電圧(第2駆動電圧)を固定的にローレベルとする場合に比べて、静音性を高めることができる。
【0027】
回生コントローラは、ファンモータの回転数に応じたしきい値電圧と第1制御信号を比較し、第1制御信号の方が低くなるとアサートされる第1検出信号を生成する第1コンパレータと、しきい値電圧と第2制御信号を比較し、第2制御信号の方が低くなるとアサートされる第2検出信号を生成する第2コンパレータと、第1検出信号がアサートされると、第1駆動部を回生状態に遷移させ、第2検出信号がアサートされると、第2駆動部を前記回生状態に遷移させるロジック部と、を含んでもよい。
この態様によれば、しきい値電圧が高いほど、第1回生区間および第2回生区間の長さを長くすることができる。
【0028】
回生コントローラは、ファンモータの回転数を指示する指令信号に応じて、第1駆動部および第2駆動部それぞれ状態を制御してもよい。
指令信号は、周囲温度に応じた電圧を生成するサーミスタからの電圧であってもよい。あるいは指令信号は、ファンモータの回転数を指示するアナログ電圧であってもよいし、目標回転数(目標トルク)に応じたデューティ比を有するパルス信号であってもよい。
【0029】
指令信号は、前記ファンモータの回転数の目標値が高いほど低い値をとってもよい。回生コントローラは、指令信号を反転増幅することにより、しきい値電圧を生成する反転増幅回路をさらに含んでもよい。
【0030】
回生コントローラは、ファンモータの現在の回転数を示す検出信号に応じて、第1駆動部および第2駆動部それぞれ状態を制御してもよい。検出信号は、回転数に比例したFG(周波数発生)信号であってもよい。
【0031】
回生コントローラは、ファンモータに流れる電流に応じて、第1駆動部および第2駆動部それぞれ状態を制御してもよい。
【0032】
第1駆動部は、一対のホール信号の差分を非反転増幅することにより第1制御信号を生成する第1ホールアンプを含んでもよい。第2駆動部は、一対のホール信号の差分を反転増幅することにより第2制御信号を生成する第2ホールアンプを含んでもよい。
【0033】
第1ホールアンプの利得は、第1制御信号が、相の切り替わりの区間において傾斜を有し、それ以外の区間で平坦となるように定められてもよい。第2ホールアンプの利得は、第2制御信号が、相の切り替わりの区間において傾斜を有し、それ以外の区間で平坦となるように定められてもよい。
【0034】
本発明の別の態様は、冷却装置に関する。冷却装置は、ファンモータと、ファンモータの回転子の位置を示す一対のホール信号を生成するホール素子と、一対のホール信号にもとづいてファンモータを駆動する上述のいずれかに記載のファンモータ駆動装置と、を備えてもよい。
【0035】
本発明の別の態様は、電子機器に関する。電子機器は、プロセッサと、プロセッサと対向して設けられたファンモータと、ファンモータの回転子の位置を示す一対のホール信号を生成するホール素子と、一対のホール信号にもとづいてファンモータを駆動する上述のいずれかのファンモータ駆動装置と、を備えてもよい。
【0036】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0037】
本発明のある態様によれば、優れた静音性と改善された効率を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1(a)、(b)は、スイッチング駆動方式のファンモータ駆動装置の構成を示す回路図およびその動作波形図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、BTL駆動方式のファンモータ駆動装置の構成を示す回路図およびその動作波形図である。
【
図3】実施の形態に係るファンモータ駆動装置を用いた電子機器の構成を示す図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、駆動装置の異なる動作モードを示す波形図である。
【
図6】回生コントローラの構成例を示す回路図である。
【
図7】
図6の回生コントローラの動作を示す図である。
【
図8】
図8(a)は、実施の形態に係る駆動装置の消費電力を、
図8(b)は、駆動装置の騒音のスペクトルを示す図である
【
図9】
図9(a)、(b)は、第4、第5の変形例に係る駆動電圧V
OUT1(V
OUT2)を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0040】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0041】
本発明の実施の形態について、パーソナルコンピュータやワークステーションなどの電子計算機に搭載され、CPUなどを冷却するためのファンモータを駆動させるためのファンモータ駆動装置(単に駆動装置ともいう)を例に説明する。
【0042】
図3は、実施の形態に係るファンモータ駆動装置2を用いた電子機器500の構成を示す図である。
【0043】
電子機器500は、デスクトップ型あるいはラップトップ型のパーソナルコンピュータ、ワークステーション、ゲーム機器、あるいは冷蔵庫やテレビなどの家電製品であり、冷却対象、たとえばCPU、DSP、GPUなどのプロセッサ502と、プロセッサ502を冷却する冷却装置100を備える。冷却装置100は、送風によってプロセッサ502を冷却する。
【0044】
冷却装置100は、ファンモータ102、ホール素子104、および駆動装置2を備える。
【0045】
ファンモータ102は、冷却対象のプロセッサ502に近接して配置されている。駆動装置2は、ファンモータ102のトルク(回転数)を指示するための指令信号S1にもとづいてファンモータ102を駆動する。冷却装置100は、モジュール化されて市販、流通される。
【0046】
ファンモータ102は、DCモータである。ファンモータ102には、ホール素子104が取り付けられてる。ホール素子104は、ファンモータ102の回転子の位置を示す互いに逆相の一対のホール信号V
H+、V
H−を発生する。ホール素子104のバイアス端子は、バイアス抵抗R104を介して、ホールバイアス(HB)端子と接続される。
【0047】
またファンモータ102のコイル(不図示)の一端は、駆動装置2の第1出力端子OUT1と接続され、コイルの他端は、駆動装置2の第2出力端子OUT2と接続される。
【0048】
駆動装置2は、基準電圧源10、第1駆動部20、第2駆動部30、コントロールユニット40を備え、ひとつの半導体基板上に一体集積化される。「一体集積化」とは、回路の構成要素のすべてが半導体基板上に形成される場合や、回路の主要構成要素が一体集積化される場合が含まれ、回路定数の調節用に一部の抵抗やキャパシタなどが半導体基板の外部に設けられていてもよい。
【0049】
基準電圧源10は、所定レベルのホールバイアス電圧V
HBを生成し、ホール素子104のバイアス端子に供給する。
【0050】
第1駆動部20は、(i)一対のホール信号V
H+、V
H−の差分を第1の極性で増幅して第1制御信号V
C1を生成するとともに、(ii)駆動状態φ
DRVと回生状態φ
RGNとが切りかえ可能に構成される。第1駆動部20は、(ii-1)駆動状態φ
DRVにおいて、第1制御信号V
C1に応じた第1駆動電圧V
OUT1をファンモータ102のコイルの一端に印加し、(ii-2)回生状態φ
RGNにおいて、第1制御信号V
C1に関わらず、第1駆動電圧V
OUT1を、所定レベルに固定する。
【0051】
第1制御信号V
C1は、相の切り替わりの区間(相遷移区間という)においてスロープを有し、それ以外の区間(駆動区間)において平坦な波形を有する。
【0052】
第2駆動部30は、(i)一対のホール信号V
H+、V
H−の差分を第2の極性で増幅して第2制御信号V
C2を生成するとともに、(ii)駆動状態φ
DRVと回生状態φ
RGNとが切りかえ可能に構成される。第2制御信号V
C2は、第1制御信号V
C1と逆相、すなわち位相が180度シフトした信号であり、第1制御信号V
C1と同様に、相遷移区間においてスロープを有し、それ以外の駆動区間において平坦な波形を有する。
【0053】
第2駆動部30は、(ii-1)駆動状態φ
DRVにおいて、第2制御信号V
C2に応じた第2駆動電圧V
OUT2をファンモータ102のコイルの他端に印加し、(ii-2)回生状態φ
RGNにおいて、第2制御信号V
C2に関わらず、第2駆動電圧V
OUT2を、所定レベルに固定する。
【0054】
回生状態における第1駆動電圧V
OUT1および第2駆動電圧V
OUT2は、ローレベル電圧(接地電圧)であってもよい。
【0055】
コントロールユニット40は、回生コントローラ50およびPWMコントローラ60を含む。回生コントローラ50は、第1駆動部30および第2駆動部40それぞれの状態を制御する。
【0056】
PWMコントローラ60は、ファンモータ102の回転数(トルク)制御のために設けられる。PWMコントローラ60には、ファンモータ102の回転数を指示する指令信号V
THが入力される。たとえば指令信号V
THは、冷却対象物であるCPU502の温度を示すサーミスタからの電圧であってもよい。
【0057】
PWMコントローラ60は、指令信号V
THに応じたデューティ比を有するパルス信号S
PWMを生成する。第1駆動部20は、その出力電圧V
OUT1が、パルス信号S
PWMに応じてスイッチング可能に構成される。つまり、パルス信号S
PWMのデューティ比が100%のとき、第1駆動電圧V
OUT1は第1制御信号V
C1と同じ信号となり、パルス信号S
PWMのデューティ比が100%より小さいとき、第1駆動電圧V
OUT1は第1制御信号V
C1を包絡線としてスイッチングされた波形を有する。第2駆動部30についても同様である。
【0058】
本実施の形態において、回生コントローラ50は、第1制御信号V
C1の下りのスロープの終端とオーバーラップするように第1回生区間T
RGN1を設定し、第1回生区間T
RGN1の間、第1駆動部20を回生状態φ
RGNに設定し、それ以外の区間を駆動状態φ
DRVに設定する。
また回生コントローラ50は、第2制御信号V
C2の下りのスロープの終端とオーバーラップするように第2回生区間T
RGN2を設定し、第2回生区間T
RGN2の間、第2駆動部30を回生状態φ
RGNとし、それ以外の区間を駆動状態φ
DRVに設定してもよい。
【0059】
好ましい態様において、回生コントローラ50は、ファンモータ102の回転数が高いほど、第1回生区間T
RGN1および第2回生区間T
RGN2の長さを長く設定する。
【0060】
第1駆動部20は、第1ホールアンプ22を含む。
第1ホールアンプ22は、一対のホール信号V
H+、V
H−の差分V
H+−V
H−を非反転増幅することにより第1制御信号V
C1を生成する。第1ホールアンプ22の利得は、第1制御信号V
C1が、相遷移区間において傾斜を有し、それ以外の区間で平坦となるように定めることが望ましい。
【0061】
第1ホールアンプ22は、第1制御信号V
C1を、第1駆動電圧V
OUT1としてファンモータ102のコイルに出力する。第1ホールアンプ22は、PWMコントローラ60からのパルス信号S
PWMに応じて、その出力V
OUT1がスイッチング可能となっている。また第1ホールアンプ22は、回生コントローラ50が回生状態を指示する第1回生区間T
RGN1の間、その出力V
OUT1のレベルが所定電圧に固定可能となっている。
【0062】
第2駆動部30は、第1駆動部20と同様に構成される。具体的には第2駆動部30は、第2ホールアンプ32を含む。第2ホールアンプ32は、一対のホール信号V
H+、V
H−の差分V
H+−V
H−を反転増幅することにより、第2制御信号V
C2を生成する。第2ホールアンプ32の利得は、第2制御信号V
C2が、相遷移区間において傾斜を有し、それ以外の区間で平坦となるように定めることが望ましい。
【0063】
第2ホールアンプ32は、第2制御信号V
C2を、第2駆動電圧V
OUT2としてファンモータ102のコイルに出力する。第2ホールアンプ32は、PWMコントローラ60からのパルス信号S
PWMに応じて、その出力V
OUT2がスイッチング可能となっている。また第2ホールアンプ32は、回生コントローラ50が回生状態を指示する第2回生区間T
RGN2の間、その出力V
OUT2のレベルが所定電圧に固定可能となっている。
【0064】
なお、第1ホールアンプ22、第2ホールアンプ32それぞれの後段にバッファを挿入してもよい。この場合、各バッファは、PWMコントローラ60からのパルス信号S
PWMに応じて、その出力V
OUT2がスイッチング可能であってもよい。またバッファは、回生コントローラ50が回生状態を指示する第2回生区間T
RGN2の間、その出力V
OUT2のレベルが所定電圧に固定可能であってもよい。
【0065】
第1ホールアンプ22、第2ホールアンプ32、それぞれの具体的な構成も特に限定されないが、第1ホールアンプ22と第2ホールアンプ32は同様に構成されることが望ましい。
【0066】
以上が駆動装置2の構成である。続いてその動作を説明する。
図4は、
図3の駆動装置2の動作を示す波形図である。
図4には、第1回生区間T
RGN1、第2回生区間T
RGN2の長さがゼロとし、第1駆動部20および第2駆動部30がいずれも駆動状態φ
DRVに設定されたときの波形が示される。ここでは理解の容易のために、パルス信号S
PWMのデューティ比は100%であるものとする。
【0067】
図4には、上から順に、ホール信号V
H+、V
H−、第1駆動部20の状態φ1を、第2駆動部30の状態φ2、第1制御信号V
C1、第2制御信号V
C2、第1駆動電圧V
OUT1、第2駆動電圧V
OUT2が示される。
第1制御電圧V
C1、第2制御電圧V
C2は、相遷移期間T
PTの間、傾斜を有している。当業者によれば、第1制御信号V
C1、第2制御信号V
C2は、第1ホールアンプ22、第2ホールアンプ32の利得、それらの電源電圧、ホール信号のバイアスレベル、振幅に応じた波形を有することが理解される。
【0068】
第1駆動部20および第2駆動部30を駆動状態φ
DRVに固定すると、駆動電圧V
OUT1、V
OUT2はそれぞれ、制御電圧V
C1、V
C2と等しくなる。つまりこの動作モードは、BTL駆動方式と等価といえる。
【0069】
図5(a)、(b)は、駆動装置2の異なる動作モードを示す波形図である。
図5(a)では、第1制御信号V
C1、第2制御信号V
C2それぞれの下りスロープの全区間において、第1駆動部20、第2駆動部30が回生状態φ
RGNに設定される。この動作モードでは、相遷移区間T
PTにおいて、第1駆動部20、第2駆動部30の一方の出力がローレベルに固定される。したがって擬似的なスイッチング駆動方式を実現することができる。
【0070】
図5(b)では、第1制御信号V
C1、第2制御信号V
C2それぞれの下りスロープの一部の区間において、第1駆動部20、第2駆動部30が回生状態φ
RGNに設定される。
図5(b)のモードは、
図4のモードと、
図5(a)の中間的な状態と把握することができる。
【0071】
以上が駆動装置2の動作である。
この駆動装置2によれば、相遷移区間T
PTにおいて、
図4に示すように、第1駆動部20、第2駆動部30を駆動状態φ
DRVに設定すると、モータ駆動装置2は、BTL駆動方式として動作する。したがって駆動装置2を、低ノイズで動作させることができる。
【0072】
反対に、相遷移区間T
PTにおいて、第1駆動部20、第2駆動部30の一方を回生状態φ
RGNに設定すると、モータ駆動装置2は、擬似的なスイッチング駆動方式で動作する。したがって駆動装置2の効率を高めることができる。
【0073】
つまり駆動装置2によれば、回生コントローラ50によって、第1駆動部20と第2駆動部30の状態を適切に制御することにより、スイッチング駆動方式とBTL駆動方式の利点を両立することができ、優れた静音性と改善された効率を実現できる。
【0074】
また、ファンモータ102の回転数が高いほど、第1回生区間T
RGN1および第2回生区間T
RGN2の長さを長く設定したことにより、ファンモータ102の回転数が高く電磁ノイズに起因する騒音が問題とならない状況では、回生状態φ
RGNを長くすることにより効率を高め、発熱量を低減できる。一方、ファンモータ102の回転数が低く、電磁ノイズに起因する騒音を低減すべき状況では、回生状態φ
RGNの区間を短く、すなわちスロープを利用したソフトスイッチングの期間を長くとることで、静粛性を改善することができる。
【0075】
また、下りスロープのみに回生区間を設定することにより、電流位相のずれを防止することができる。
【0076】
電源投入やロック保護からの復帰によって、ファンモータ102を起動する場合に、前回、ファンモータ102の回転した停止した位置によっては、回生状態φ
RGNのまま回転しない状況が生じうる。そこでファンモータ102の起動開始後、ある程度の速度で回転し始めるまでは、回生コントローラ50による状態制御を無効とし、第1駆動部20と第2駆動部30を駆動状態φ
DRVで動作させることが望ましい。
【0077】
また、回生コントローラ50は、ファンモータ102の回転数と、回生区間の長さの関係を、外部から変更可能としてもよい。
【0078】
続いて、駆動装置2の回生コントローラ50の具体的な構成例を説明する。
図6は、回生コントローラ50の構成例を示す回路図である。
【0079】
回生コントローラ50は、ファンモータ102の回転数に応じたしきい値電圧Vxにもとづいて、第1駆動部20および第2駆動部30の状態を制御する。回生コントローラ50は、しきい値電圧生成部52と、第1コンパレータ54、第2コンパレータ56、ロジック部58を含む。
【0080】
しきい値電圧生成部52は、ファンモータ102の回転数と正の相関を有するしきい値電圧Vxを生成する。たとえばしきい値電圧生成部52は、ファンモータ102の回転数と負の相関を有する、すなわち、その高い電圧レベルが低い回転数と対応する、指令信号V
THにもとづいて、しきい値電圧Vxを生成する。
【0081】
しきい値電圧生成部52は、指令信号V
THを反転増幅する反転増幅器52aと、反転増幅器52bの出力電圧を非反転増幅する非反転増幅器52bを含む。反転増幅器52aの出力電圧およびしきい値電圧Vxは、ファンモータ102の回転数と正の相関を有する。
【0082】
第1コンパレータ54は、ファンモータ102の回転数と正の相関を有するしきい値電圧Vxと第1制御信号V
C1を比較し、第1制御信号V
C1の方が低くなるとアサートされる第1検出信号S1を生成する。第2コンパレータ56は、しきい値電圧Vxと第2制御信号V
C2を比較し、第2制御信号V
C2の方が低くなるとアサートされる第2検出信号S2を生成する。
【0083】
ロジック部58は、第1検出信号S1がアサートされると、第1駆動部20を回生状態φ
RGNに遷移させ、第2検出信号S2がアサートされると、第2駆動部30を回生状態φ
RGNに遷移させる。
【0084】
図7は、
図6の回生コントローラ50の動作を示す図である。ファンモータ102の回転数が高いほど、しきい値電圧Vxは高くなり、第1検出信号S1(S2)がアサートされるタイミングが早くなる。つまり、回転数が高いほど、第1駆動部20(第2駆動部30)が回生状態φ
RGNに遷移する時刻が早まり、回生区間T
RGN1(T
RGN2)の長さを長くすることができる。
【0085】
図8(a)は、実施の形態に係る駆動装置2の消費電力を、
図8(b)は、駆動装置2の騒音のスペクトルを示す図である。
図8(a)には、駆動装置2の消費電力が実線(i)で、
図1(a)のスイッチング駆動方式の駆動装置2rの消費電力が一点鎖線(ii)で、
図2(a)の駆動装置2sの消費電力が破線(iii)で示される。横軸は、ファンモータ102の回転数と相関を有するパルス信号S
PWMのデューティ比である。
【0086】
図8(a)に示すように、実施の形態に係る駆動装置2によれば、従来のBTL駆動方式よりも、28%程度、消費電力を削減し、効率を高めることができる。また、
図8(b)に示すように、実施の形態に係る駆動装置2によれば、従来のスイッチング駆動方式よりも、1kHz〜10kHzの帯域のノイズを低減することができる。
【0087】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0088】
(第1の変形例)
実施の形態では、回転数を指示する指令信号が、回転数の目標値と負の相関を有するアナログ電圧である場合を説明したが、本発明はそれには限定されない。たとえば指令信号は、ファンモータ102の回転数の目標値を指示する、回転数と正の相関を有するアナログ電圧であってもよい。この場合、
図6のしきい値電圧生成部52は省略できる。
【0089】
あるいは指令信号は、目標回転数に応じたデューティ比を有する外部からの指令パルス信号であってもよい。この場合、指令パルス信号のデューティ比が大きいほど、回生区間T
RGNの長さを長く設定すればよい。たとえば回生コントローラ50を、
図6をベースとして構成する場合、デューティ比に応じて、しきい値電圧Vxを変化させればよい。たとえば、しきい値電圧生成部52は、外部からのパルス信号をフィルタリングするフィルタにより、アナログ電圧を生成し、このアナログ電圧にもとづいてしきい値電圧Vxを生成してもよい。あるいは、しきい値電圧生成部52は、外部からのパルス信号のパルス幅を測定するカウンタと、カウント値に応じたしきい値電圧Vxを生成する回路の組み合わせで構成してもよい。
【0090】
(第2の変形例)
実施の形態では、回生コントローラ50が、ファンモータ102の回転数を指示する指令信号V
THにもとづいて、回生区間の長さを制御したが、本発明はそれには限定されない。たとえば回生コントローラ50は、現在のファンモータ102の回転数を検出し、検出した回転数に応じて、回生区間の長さを制御してもよい。
【0091】
ファンモータ102が一定速度で回転しているとき、コイル電流は回転数と相関を有する。そこで回生コントローラ50は、ファンモータ102のコイルに流れる電流を検出し、コイル電流の量に応じて回生区間の長さを制御してもよい。
【0092】
(第3の変形例)
実施の形態では、第1制御信号V
C1、第2制御信号V
C2それぞれの下りスロープとオーバーラップして、回生区間を設定したが、本発明はそれには限定されない。たとえば、電流位相のずれが問題とならない場合、下りスロープに代えて、あるいはそれに加えて、上りスロープの先端とオーバーラップするように回生区間を設定してもよい。
【0093】
(第4の変形例)
実施の形態では、回生状態φ
RGNにおいて、駆動電圧V
OUTを所定電圧に固定する場合を説明したが、本発明はそれには限定されない。回生状態φ
RGNにおける、第1駆動部20および第2駆動部30の動作には、以下の変形例が考えられる。
【0094】
(1)回生状態φ
RGNにおいて、第1駆動部20、第2駆動部30は、その出力をハイインピーダンス状態としてもよい。この場合、回生状態
RGNにおいて、コイル電流は、第1駆動部20、第2駆動部30それぞれの出力段のMOSFETのボディダイオードを経由して回生される。この場合、コントロールユニット40を簡素化できる。
【0095】
(2)
図9(a)は、第4の変形例に係る駆動電圧V
OUT1(V
OUT2)を示す波形図である。回生状態φ
RGNにおいて、第1駆動部20は、その出力電圧V
OUT1の包絡線を第1制御電圧V
C1に応じて変化させながら、デューティ比が徐々に変化((下りスロープにおいて減少、上りスロープにおいて増大))する態様にてスイッチングしてもよい。同様に第2駆動部30は、その出力電圧V
OUT2の包絡線を第2制御電圧V
C2に応じて変化させながら、デューティ比が徐々に変化する態様にてスイッチングしてもよい。回生状態φ
RGNにおけるスイッチングは、トルク制御のためのPWM制御とは区別すべきものである。これにより、さらに静粛性を高めることができる。
【0096】
(第5の変形例)
図9(b)は、第5の変形例に係る駆動電圧V
OUT1(V
OUT2)を示す波形図である。第1制御信号V
C1のスロープのうち、第1回生区間T
RGN1以外の部分において、デューティ比が徐々に変化(下りスロープにおいて減少、上りスロープにおいて増大)する態様にて、駆動電圧V
OUT1をスイッチングしてもよい。同様に、第2制御信号V
C2のスロープ区間T
SLOPEのうち、第2回生区間T
RGN2以外の部分において、デューティ比が徐々に変化(下りスロープにおいて減少、上りスロープにおいて増大)する態様にて、駆動電圧V
OUT2をスイッチングしてもよい。なお、このスイッチングは、トルク制御のためのPWM制御とは区別すべきものである。これにより、さらに静粛性を高めることができる。
【0097】
(第6の変形例)
実施の形態では、ファンモータ102の回転数を、パルス信号S
PWMにもとづくスイッチングにより制御したが、本発明はそれに限定されない。たとえば出力段の第1ホールアンプ22、第2ホールアンプ32の電源電圧V
DDを変化させることで、回転数を制御してもよい。
【0098】
(第7の変形例)
回生コントローラ50の構成は、
図6のそれには限定されない。たとえば回生コントローラ50は、デジタル回路で構成してもよい。デジタルの回生コントローラ50は、ファンモータ102の回転周期を検出し、回転周期に、ファンモータ102の回転数に応じた係数を乗算することにより、回生区間の長さを計算してもよい。
【0099】
(第8の変形例)
実施の形態において、冷却装置100を電子機器に搭載してCPUを冷却する場合について説明したが、本発明の用途はこれには限定されず、発熱体を冷却するさまざまなアプリケーションに用いることができる。さらにいえば、本実施の形態に係る駆動装置2の用途は、ファンモータの駆動に限定されるものではなく、その他の各種モータの駆動に用いることができる。
【0100】
(第9の変形例)
実施の形態では、ホール素子104が駆動装置2に外付けされる場合を説明したが、ホール素子104は、駆動装置2に内蔵されてもよい。
【0101】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0102】
2…駆動装置、500…電子機器、502…CPU、100…冷却装置、102…ファンモータ、104…ホール素子、10…基準電圧源、20…第1駆動部、22…第1ホールアンプ、30…第2駆動部、32…第2ホールアンプ、40…コントロールユニット、50…回生コントローラ、52…しきい値電圧生成部、54…第1コンパレータ、56…第2コンパレータ、58…ロジック部、60…PWMコントローラ、OUT1…第1出力端子、OUT2…第2出力端子。