特許第6139982号(P6139982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139982
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】火災検知装置及び火災検知方法
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/00 20060101AFI20170522BHJP
   G08B 17/10 20060101ALI20170522BHJP
   G06T 7/20 20170101ALI20170522BHJP
   G06T 7/60 20170101ALI20170522BHJP
【FI】
   G08B17/00 B
   G08B17/10 F
   G06T7/20 200B
   G06T7/60 200G
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-109465(P2013-109465)
(22)【出願日】2013年5月24日
(65)【公開番号】特開2014-229156(P2014-229156A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】門馬 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】小野 隆
(72)【発明者】
【氏名】江幡 弘道
(72)【発明者】
【氏名】万本 敦
【審査官】 石井 則之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−238032(JP,A)
【文献】 特開2011−238280(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0188336(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0097474(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00−7/60
G08B 13/00−17/12
23/00−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視領域の画像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段で撮像した画像にエッジ強調処理を施して稜線を抽出する稜線抽出手段と、
前記稜線抽出手段で抽出した稜線の画像を複数の画像領域に分割し、前記画像領域毎に稜線の直線成分を抽出する直線成分抽出手段と、
前記画像領域毎に、前記直線成分抽出手段で抽出した直線成分の時系列での変化を検出する時系列変化検出手段と、
前記時系列検出手段で検出した直線成分の時系列変化が背景による特徴的な所定の時系列変化となる画像領域を背景稜線領域として抽出する背景稜線領域抽出手段と、
前記背景稜線抽出手段で抽出した背景稜線領域につき、前記時系列変化検出手段で検出した直線成分の時系列変化が消失した場合、当該背景稜線領域を煙候補領域と判断する煙候補判断手段と、
前記煙候補判断手段で検知した煙候補領域の分布に基づいて火災を判断する火災判断手段と、
を備えたことを特徴とする火災検知装置。
【請求項2】
請求項1記載の火災検知装置に於いて、
前記直線成分抽出手段は、前記画像領域毎に直線成分の傾きと発生頻度を抽出し、
前記時系列変化検出手段は、抽出した直線成分の傾きと発生頻度の時系列変化を求め、
前記背景稜線領域抽出手段は、傾きが一定で発生頻度も一定となる直線成分の時系列変化となる画像領域を背景稜線領域として抽出し、
前記煙候補判断手段は、前記時系列変化検出手段で検出した直線成分の時系列変化における全ての傾きの発生頻度が予め設定された値以下となった場合に、当該背景稜線領域を煙候補領域と判断する、
ことを特徴とする火災検知装置。
【請求項3】
請求項1記載の火災検知装置に於いて、
前記火災判断手段は、少なくとも監視画面の最も右寄りで最上部、最も左よりで最上部、及び最下部横方向の略中央の3点の煙候補領域の分布を検知した場合、前記3点の煙候補領域を頂点とする領域を煙分布範囲と推定し、当該煙分布範囲の領域数が所定値以上の場合に火災を判断することを特徴とする火災検知装置。
【請求項4】
請求項1記載の火災検知装置に於いて、
前記煙候補判断手段は、前記抽出された全ての背景稜線領域について前記直線成分の時系列変化を監視することを特徴とする火災検知装置。
【請求項5】
撮像手段により監視領域の画像を撮像し、
前記撮像手段で撮像した画像に稜線抽出手段によりエッジ強調処理を施して稜線を抽出し、
前記稜線抽出手段で抽出した稜線の画像を複数の画像領域に分割し、直線成分抽出手段により前記画像領域毎に稜線の直線成分を抽出し、
前記画像領域毎に、前記直線成分抽出手段で抽出した直線成分の時系列での変化を時系列変化検出手段により検出し、
前記時系列検出手段で検出した直線成分の時系列変化が背景による特徴的な所定の時系列変化となる画像領域を背景稜線領域抽出手段により背景稜線領域として抽出し、
前記背景稜線抽出手段で抽出した背景稜線領域につき、前記時系列変化検出手段で検出した直線成分の時系列変化が消失した場合、煙候補判断手段により当該背景稜線領域を煙候補領域と判断し、
前記煙候補判断手段で検知した煙候補領域の分布に基づいて火災判断手段により火災を判断する、
ことを特徴とする火災検知方法。
【請求項6】
請求項記載の火災検知方法に於いて、
前記直線成分抽出手段は、前記画像領域毎に直線成分の傾きと発生頻度を抽出し、
前記時系列変化検出手段は、抽出した直線成分の傾きと発生頻度の時系列変化を検出し、
前記背景稜線領域抽出手段は、直線成分の傾きが一定で発生頻度も一定となる時系列変化の画像領域を背景稜線領域として抽出し、
前記煙候補判断手段は、前記時系列変化検出手段で検出した直線成分の時系列変化における全ての傾きの発生頻度が予め設定された値以下となった場合に、当該背景稜線領域を煙候補領域と判断する、
ことを特徴とする火災検知方法。
【請求項7】
請求項記載の火災検知方法に於いて、
前記火災判断手段は、少なくとも監視画面の最も右寄りで最上部、最も左よりで最上部、及び最下部横方向の略中央の3点の煙候補領域の分布を検知し、前記3点の煙候補領域を頂点とする略逆三角形の領域を煙分布範囲と推定し、当該煙分布範囲の領域数が所定値以上の場合に火災を判断することを特徴とする火災検知方法。
【請求項8】
請求項5記載の火災検知方法に於いて、
前記煙候補判断手段は、前記抽出された全ての背景稜線領域について前記直線成分の時系列変化を監視することを特徴とする火災検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視カメラで撮像した監視領域の画像から火災による煙を検知する火災検知装置及び火災検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、監視カメラで撮像した監視領域の画像に対し画像処理を施すことにより、火災を検知するようにした様々な装置やシステムが提案されている。
【0003】
このような火災検知装置にあっては、火災発生に対する初期消火や避難誘導の観点から火災の早期発見が重要である。
【0004】
このため従来装置(特許文献1)にあっては、画像から火災に伴う煙により起きる現象として、透過率又はコントラストの低下、輝度値の特定値への収束、輝度分布範囲が狭まることによる輝度の分散の低下、煙による輝度の平均値の変化、エッジの総和量の低下、低周波帯域の強度増加を導出し、これらを総合的に判断して煙の検出を可能としている。
【0005】
ところで、火災初期の段階で多い燻焼燃焼では、ごく微量の煙が立ち上がり、時間の経過と共に煙の量が増し、最終的には煙層が天井面に沿って発生し、従来の煙感知器は、天井面に発生した煙層を検知するようにしている。
【0006】
このように、ごく微量の煙が立ち上がる火災初期の段階で火災を検知することが重要になるが、従来の画像に対し画像処理を施して煙を検知する装置にあっては、例えば立ち立ち上る煙の動き(流動)を検知するようにしているが、この流動検知のためには十分な量の煙が立ち昇る段階にならないと検知することが困難であり、細い筋のようになってごく微量の煙が立ち上がる火災の初期で検知することはできないという問題があった。
【0007】
この問題を解決するため本願出願人にあっては、監視カメラにより撮像した監視領域の画像から、煙により発生する稜線の直線成分を抽出し、その傾きと発生頻度について時系列での変化を求め、煙による特徴的な変化を検知することで、火災の初期の段階で多い燻焼燃焼により発生するごく微量の煙の立ち上りを検知して火災を判断する火災検知装置を提案している(特願2013−101883)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−046916号公報
【特許文献2】特開平7−245757号公報
【特許文献3】特開2010−238028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
実際に起きる火災の状況は様々であり、燻焼火災とはならずに、急速に煙を発生する場合もあり、これに対する対応も必要となる。
【0010】
このような急速に発生する煙を画像処理により検知する方法として、従来、通常状態で撮像した監視領域の画像を所定画素サイズの領域に分割し、領域毎に空間微分処理して画素の空間微分値の総和(エッジ量)を求め、空間微分値の総和が最も大きい領域(輝度差の最も大きい領域)を検出領域に設定してその空間微分値の総和を基準値に定め、設定した検出領域の空間微分値の総和を検知して監視し、煙が発生した場合には空間微分値の総和が低下することから、検知した空間微分値の総和と基準値の比率をみることで、検出領域に入った物体が煙であるかの判定の目安としている。
【0011】
しかしながら、空間微分値総和の比率から煙を判定する方法は、監視画像の中の輝度差が最大となる例えば窓ガラスを含んだ領域を検出領域に設定して空間微分総和の比率を検知しているが、監視画像の中で輝度差が最大となる領域の出現位置は監視領域により様々であり、しかも監視画像の中の火災による煙とは相関のない特定の位置に検出領域が設定される場合もあり、煙が監視領域全域に拡散したような状態にならないと、空間微分値総和の比率から煙が入ったことを判定できない問題がある。
【0012】
また、監視領域によっては、監視画像全体に均一な明るさで輝度差が少ない場合もあり、検出領域に設定した領域の空間微分値の総和(エッジ量)が最初から少なく、煙が入っても空間微分値総和の比率の変化が小さく、検出領域に入った物体が煙であるかそれ以外の要因かの判定がつかない場合もある。
【0013】
本発明は、監視画面の定常的な背景が煙の発生により見えなくなるマスク現象から煙の発生を検知して火災を判断可能とする火災検知装置及び火災検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(装置)
本発明は、火災検知装置に於いて、
監視領域の画像を撮像する撮像手段と、
撮像手段で撮像した画像にエッジ強調処理を施して稜線を抽出する稜線抽出手段と、
稜線抽出手段で抽出した稜線の画像を複数の画像領域に分割し、画像領域毎に稜線の直線成分を抽出する直線成分抽出手段と、
画像領域毎に、直線成分抽出手段で抽出した直線成分の時系列での変化を検出する時系列変化検出手段と、
時系列検出手段で検出した直線成分の時系列変化が背景による特徴的な所定の時系列変化となる画像領域を背景稜線領域として抽出する背景稜線領域抽出手段と、
背景稜線抽出手段で抽出した背景稜線領域につき、時系列変化検出手段で検出した直線成分の時系列変化が消失した場合、当該背景稜線領域を煙候補領域と判断する煙候補判断手段と、
煙候補判断手段で検知した煙候補領域の分布に基づいて火災を判断する火災判断手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
(直線成分の傾きと発生頻度)
直線成分抽出手段は、画像領域毎に直線成分の傾きと発生頻度を抽出し、
時系列変化検出手段は、抽出した直線成分の傾きと発生頻度の時系列変化を求め、
背景稜線領域抽出手段は、直線成分の傾きが一定で発生頻度も一定となる直線成分の時系列変化となる画像領域を背景稜線領域として抽出し、
煙候補判断手段は、時系列変化検出手段で検出した直線成分の時系列変化における全ての傾きの発生頻度が予め設定された値以下となった場合に、当該背景稜線領域を煙候補領域と判断する。
【0016】
(煙候補範囲の推定による火災判断)
火災判断手段は、少なくとも監視画面の最も右寄りで最上部、最も左よりで最上部、及び最下部横方向の略中央の3点の煙候補領域の分布を検知した場合、3点の煙候補領域を頂点とする領域を煙分布範囲と推定し、当該煙分布範囲の領域数が所定値以上の場合に火災を判断する。
煙候補判断手段は、抽出された全ての背景稜線領域について直線成分の時系列変化を監視する。
【0017】
(方法)
本発明は、火災検知方法に於いて、
撮像手段により監視領域の画像を撮像し、
撮像手段で撮像した画像に稜線抽出手段によりエッジ強調処理を施して稜線を抽出し、
稜線抽出手段で抽出した稜線の画像を複数の画像領域に分割し、直線成分抽出手段により画像領域毎に稜線の直線成分を抽出し、
画像領域毎に、直線成分抽出手段で抽出した直線成分の時系列での変化を時系列変化検出手段により検出し、
時系列検出手段で検出した直線成分の時系列変化が背景による特徴的な所定の時系列変化となる画像領域を背景稜線領域抽出手段により背景稜線領域として抽出し、
背景稜線抽出手段で抽出した背景稜線領域につき、時系列変化検出手段で検出した直線成分の時系列変化が消失した場合、煙候補判断手段により当該背景稜線領域を煙候補領域と判断し、
煙候補判断手段で検知した煙候補領域の分布に基づいて火災判断手段により火災を判断する、
ことを特徴とする。
【0018】
なお、本発明の火災検知方法による他の特徴は、前述した火災検知装置の場合と基本的に同じになることから、その説明を省略する。
【発明の効果】
【0019】
(基本的な効果)
本発明の火災検知装置及び火災検知方法によれば、撮像手段で撮像した画像にエッジ強調処理を施して稜線を抽出した稜線画像を複数の画像領域に分割し、分割した画像領域毎に、稜線の直線成分を抽出して時系列での変化を検出し、直線成分の時系列変化が背景による特徴的な所定の時系列変化となる画像領域を背景稜線領域として抽出し、背景稜線領域につき、時系列変化検出手段で検出した直線成分の時系列変化が消失した場合、当該背景稜線領域を煙候補領域と判断し、煙候補領域の分布に基づいて火災を判断するようにしたため、監視画像から抽出された背景稜線を含む領域が全て背景稜線領域として監視領域となり、監視画像から抽出した稜線画像には多数の背景稜線が存在するため、監視領域全体に亘り多数の監視領域を分散配置して監視し、煙の発生により背景稜線領域の直線成分の時系列変化が消失したら、煙が入ったと推定して煙候補領域とし、更に、火災による煙は急速に上昇して天井側で広がることから、煙候補領域の分布をみることで、確実に火災を判断することを可能とする。
【0020】
(稜線直線成分の傾きと発生頻度による効果)
また、稜線画像につき画像領域毎に直線成分の傾きと発生頻度を抽出しこの直線成分の傾きと発生頻度の時系列変化を求め、傾きが一定で発生頻度も一定となる背景の特徴的な直線成分の時系列変化となる画像領域を背景稜線領域として抽出し、直線成分の時系列変化における全ての傾きの発生頻度が予め設定された値以下となった場合に、当該背景稜線領域を煙候補領域と判断するようにしたため、人の通過や照明の変化などで一時的に直線成分が消失しても、直線成分の時系列変化における全ての傾きの発生頻度が予め設定された値以下とならない限り、煙候補領域とは判断せず、煙以外の要因による背景稜線のマスク現象(背景隠蔽現象)を誤って煙が入ったと判断せず、火災により急速に上昇して広がる煙を捕らえて火災を検知することを可能とする。
【0021】
また、背景画像から空間微分値となる稜線を抽出し、続いて稜線の直線成分(傾きと発生頻度)を抽出し、更に、直線成分の時系列変化(傾き毎の発生頻度)を検出して背景稜線領域を特定しているため、輝度差が大きいことで空間微分値総和(エッジ量)が最大となる領域を検出してこの領域の空間微分値総和の比率に基づき煙の存在を判定する従来の手法に比べ、輝度差に直接依存することなく背景稜線が1本でも存在する領域であれば背景稜線領域として抽出し、このため背景稜線領域は監視画面の全体に亘って抽出され、監視画面のどの位置から煙の吹き上がった場合であっても、対応する背景稜線領域に煙が入った場合の変化から煙の存在(煙候補領域)を判定できる。
【0022】
(煙候補範囲を推定した火災判断による効果)
火災による煙は急速に上昇した後、天井に当って広がることから、煙の発生により監視領域の中に複数の煙候補領域が出現した場合、少なくとも監視画面の最も右寄りで最上部、最も左よりで最上部、及び最下部横方向の略中央の3点の煙候補領域を頂点とする領域を煙分布範囲と推定し、当該煙分布範囲の領域数が所定値以上の場合に火災を判断することで、急速に上昇して広がっていく煙の分布を捕らえて確実に火災を検知することを可能とする。
【0023】
また、監視領域によっては、背景稜線が少ない場合があり、この場合には、背景稜線領域が離散的に存在し、煙が入った場合に煙候補領域となる領域も少なくなるが、少なくとも3点の煙候補領域が出現すれば煙分布範囲を推定することができ、白い壁面などを含む背景稜線が少ない監視領域であっても、確実に火災を検知可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の火災検知装置設置した監視領域を示した説明図
図2】画像処理装置の機能構成の概略を示したブロック図
図3】画像の領域分割を示した説明図
図4】背景となる領域の直線成分の時系列変化を示した説明図
図5図4の直線成分の傾きと発生頻度を表したベクトルの時系列変化を示した説明図
図6】背景となる他の領域の直線成分の時系列変化を示した説明図
図7図6の直線成分の傾きと発生頻度を表したベクトルの時系列変化を示した説明図
図8】稜線画像から抽出した背景稜線領域の分布を示した説明図
図9】火災により煙か噴き上げている稜線画像を示した説明図
図10図9の煙による背景のマスクに対し判断した煙候補領域の分布を示した説明図
図11図10の煙候補領域の分布から推定した煙分布範囲を決める逆三角形の頂点の抽出を示した説明図
図12図11の逆三角形により推定される煙分布範囲を示した説明図
図13】煙候補範囲を決める逆三角形とこれにより推定される煙分布範囲の時系列変化の例を示した説明図
図14図2の画像処理装置の動作を示したフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0025】
[火災検知装置の概要]
図1は本発明による火災検知装置を設置した監視領域を示した説明図であり、図1(A)は側面を示し、図1(B)は監視カメラから見た正面を示す。
【0026】
図1(A)に示すように、監視領域11には撮像手段として機能する監視カメラ10が設置され、図1(B)に示す監視領域の状態を撮像して画像を得ている。
【0027】
監視領域11には、例えばごみ入れ15、テレビ16、ソファ17、時計18などの備品が置かれており、また部屋の上下左右のコーナーや壁の縦方向や横方向に直線的な筋が現れている。
【0028】
監視カメラ10で撮像した画像は伝送路を介して管理人室などに設置した画像処理装置12に伝送され、画像処理によりごみ入れ15などの火源から吹き上げる煙を画像処理により検知して火災を判断し、火災検知信号を火災報知設備14に出力して火災警報を出力するようにしている。
【0029】
[検出原理]
本発明により煙を検知して火災を判断する原理を説明すると次のようになる。図1に示すように、監視領域11を監視カメラ10で撮像した場合、撮影した画像には多種多様な背景画像が現れており、火災による煙が吹き上げて拡散した場合、煙により背景がマスクされて見えなくなることから、煙による背景のマスク現象に基づき煙の存在を捉えて火災を判断する。
【0030】
煙によりマスクされて消失する背景を特定するため、本発明にあっては、監視カメラ10で撮像した画像にエッジ強調処理を施して稜線を抽出して稜線画像を生成し、この稜線画像を複数の画像領域に分割して画像領域毎に稜線の直線成分を抽出し、更に、抽出した直線成分の時系列での変化を検出し、検出した直線成分の時系列変化が背景による特徴的な所定の時系列変化となる画像領域を背景稜線領域として抽出して監視する。
【0031】
背景稜線領域は、煙により背景がマスクされた場合、直線成分の時系列変化が消失することから、これを検知して背景稜線領域を煙候補領域と判断し、更に、検知した煙候補領域の分布に基づいて火災を判断する。
【0032】
画像領域毎に抽出される稜線の直線成分は、その傾きと発生頻度であり、固定的に存在する背景稜線の直線成分は、傾きが一定で発生頻度も一定となることから、背景稜線直線成分に固有な時系列変化(傾き毎の発生頻度)となる画像領域を背景稜線領域として抽出する。そして、煙により背景画像がマスクされて見え難くなくなると、これに対応した背景稜線領域について検出している直線成分の時系列変化における全ての傾きの発生頻度が予め設定された値以下となることから、この背景稜線領域を煙候補領域と判断する。
【0033】
また、火災による煙は火源から吹き上げて天井側で横に広がることから、複数の煙候補領域を判断した場合に、少なくとも監視画面の最も右寄りで最上部、最も左よりで最上部、及び最下部横方向の略中央の3点の煙候補領域の分布を検知し、この3点の煙候補領域を頂点とする領域を煙分布範囲と推定し、当該煙分布範囲の領域数が所定値以上の場合に火災を判断する。これにより煙を監視する背景稜線領域が極端に少ない場合であっても、少なくとも3点以上存在することで、煙分布補範囲を推定して火災を判断可能とする。
【0034】
また3点の煙候補領域を頂点とする煙分布範囲と推定した時系列変化から、監視領域における煙の拡散の様子を捉えて火災と判断することを可能とする。
【0035】
一方、煙以外の要因、例えば無地の洋服などを着た人の移動による背景のマスク現象については、一時的なマスク現象であれば、稜線直線成分の傾きと発生頻度が減少又は零となっても、再び元の傾きと発生頻度に回復し、煙候補領域としての抽出が継続しないため、火災を誤って判断することはない。
【0036】
[火災検知装置]
(火災検知装置の機能構成)
図3は本発明による火災検知装置の機能構成の概略を示したブロック図である。図3に示すように、火災検知装置は、監視カメラ10と画像処理装置12で構成され、画像処理装置12は、そのハードウェアとしてCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等で構成される。
【0037】
画像処理装置12は、CPUによるプログラムの実行により実現される機能として、稜線抽出手段として機能する稜線抽出部32、直線成分抽出手段として機能する直線成分抽出部34、時系列変化検出手段として機能する時系列変化検出部36、背景稜線領域抽出手段として機能する背景稜線領域抽出部38、煙候補領域判断手段として機能する煙候補判断部40及び火災判断手段として機能する火災判断部42を設けている。また、伝送部30は監視カメラ10で撮像した画像データを受信する適宜の伝送インタフェースが使用される。
【0038】
撮像手段として機能する監視カメラ10は、伝送部30の伝送制御により動画像データとして、例えば毎秒30フレームとなる監視領域の画像データを伝送し、画像処理装置12に設けた図示しないメモリに記憶する。
【0039】
稜線抽出部32は、メモリに記憶したフレーム単位の画像から稜線を抽出して稜線画像を生成する。例えばこの場合、稜線抽出部32は画像に対しエッジ強調処理の1つであるゾーベルフィルタ(Sobel Filter)を適用し、例えば図3の稜線画像20に示すように、ごみ入れ稜線15a、テレビ稜線16a、ソファ稜線17a、時計稜線18aを含む稜線を抽出して稜線画像とする。なお、稜線抽出部32による稜線抽出処理は、全フレーム画像を対象とせず、処理速度の関係で所定フレーム数を間引きしたフレーム毎に行うようにしても良い。
【0040】
ゾーベルフィルタは、ある注目画素を中心とした上限左右の9つの画素値に対し、水平方向と垂直方向の2つの係数行列による所定の係数を乗算して総和を求めることで、画像中に存在するある領域の境界(エッジ)を検出可能とする微分処理であり、これを適用して、稜線抽出部32は図に示すように画像から稜線を抽出する。
【0041】
直線成分抽出部34は、稜線抽出部32で抽出し稜線画像20を図3の点線で示すように、複数の領域、例えば64×64画素の領域に分割し、領域毎に例えばハフ変換(Hough変換)を施して稜線の直線成分を抽出する。ハフ変換は画像中の直線線分を抽出する方法として知られており、画像中のn個の点に対し、ρ―θ平面上ではn個の曲線が得られ、この内、m個の曲線が1点で交わっていれば、このm個の点に対応する画像上のm個の点は同一直線上にあることとなり、これにより直線成分を抽出できる。
【0042】
時系列変化検出部36は、直線成分抽出部34によるハフ変換で抽出した直線成分の傾きと発生頻度の時系列変化(傾き毎の発生頻度)を求める。この場合、時系列変化検出部36は、直線成分抽出部34で抽出した直線成分の傾きと発生頻度をメモリに所定回数分、先入れ先出し(ファーストイン・ファーストアウト)で順次格納しながら、直線成分の傾きとその発生頻度を時系列変化として求める処理を繰り返す。
【0043】
背景稜線領域抽出部38は、時系列変化検出部36で検出した直線成分の時系列変化の中から、背景稜線による特徴的な所定の時系列変化となる画像領域を背景稜線領域として抽出する。
【0044】
図4図3の背景となる領域A11について、間引きフレームの4周期分の時刻t1〜t4で抽出した直線成分の時系列変化を示している。領域A11では背景に上下に4本の直線成分が定常的に存在しており、このため、時刻t1〜t4の全てで、領域A11に存在する直線成分は、上方をθ1=0°とすると発生頻度は4本となる。
【0045】
図5図4の領域A11の直線成分の時系列変化を示した説明図であり、直線成分を傾きθと発生頻度の長さを持つベクトルを累積して示している。
【0046】
図5に示すように、時刻1でベクトルB1は(θ1,1)となり、時刻t2〜t4では、その時系列変化に応じて一定の発生頻度=4により累積的に増加していく。
【0047】
図6図3の背景となる領域A12について、間引きフレームの4周期分の時刻t1〜t4で抽出した直線成分の時系列変化を示している。領域A12では背景に、縦方向に1本、横方向に6本の直線成分が定常的に存在しており、領域下辺の中央を原点とした二次元座標において、右側をθ5=+90°、左側をθ6=−90°、左斜め上方をθ7とすると、時刻t1〜t4の全てで、
θ1の発生頻度は1本
θ5の発生頻度は2本
θ6の発生頻度は2本
θ7の発生頻度は2本
となり、傾き及び発生頻度は変化せず、一定である。
【0048】
図7図6の領域A12の直線成分の時系列変化を示した説明図であり、直線成分を傾きθと発生頻度の長さを持つベクトルを累積して示している。
【0049】
図7に示すように、時刻t1で
ベクトルB1は(θ1,1)
ベクトルB5は(θ5,2)
ベクトルB6は(θ6,2)
ベクトルB7は(θ7,2)
となり、時刻t2〜t4では、その時系列変化に応じて一定の発生頻度により累積的に増加していく。
【0050】
このように時系列変化検出部36により検知された背景稜線領域の直線成分の時系列変化は、図5及び図7の時刻t4に示したように、傾きが一定で発生頻度も一定の直線成分の時系列変化となる背景稜線に特徴的な定常パターンとなり、背景稜線領域抽出部38は背景稜線に特徴的な定常パターン(時系列変化)となる画像領域を背景稜線領域として抽出する。
【0051】
図8は、図3の稜線画像から抽出した背景稜線領域の分布を示した説明図であり、ハッチング領域で示すように、ごみ入れ稜線15a、テレビ稜線16a、ソファ稜線17a、時計稜線18a、部屋のコーナーの筋や壁の筋などを含む領域が背景稜線領域として抽出され、この背景稜線領域について煙による変化を監視する。これに対し背景稜線が存在しない領域は空白で示す空き領域となっており、監視領域から除外されている。
【0052】
図2の煙候補判断部40は、図8に示した背景稜線領域につき、時系列変化検出部36で検出した直線成分の時系列変化が消失した場合、この背景稜線領域を煙候補領域と判断する。即ち、煙候補判断部40は、時系列変化検出部36で検出した直線成分の時系列変化における全ての傾きの発生頻度が予め設定された値以下となった場合に、当該背景稜線領域を煙候補領域と判断する。
【0053】
図9はごみ入れ稜線15aとして示すごみ入れを火源として火災による煙24が噴き上げた場合の稜線画像20であり、煙24の存在により、それまで見えていた背景稜線がマスクされ、煙候補判断部40は煙24によりマスクされた背景稜線領域を煙候補領域と図10の黒塗りの領域に示すように判断し、煙候補範囲26を生成する。
【0054】
図2の火災判断部42は、煙候補判断部40で判断した図10の煙候補領域による煙領域範囲26の分布に基づいて火災を判断する。例えば、火災判断部42は、図10の煙候補範囲26を生成した画面において、最も左寄りで最上部の領域A1、最も右寄りで最上部の領域A2、及び最下部横方向の略中央の領域A3の3点の煙候補領域の分布を図11に示すように検知し、3点の煙候補領域A1〜A3を頂点とする略逆三角形の範囲に対応する複数の領域を、図12に示すように、煙分布範囲28と推定し、この煙分布範囲28の領域数が所定値以上の場合に火災を判断する。この場合、最小の逆三角形の範囲に対応する領域数は3領域であることから、火災判断部42は、例えば3領域以上となる所定の閾値領域の場合に火災と判断する。
【0055】
図13は、逆三角形を形成する3点の煙候補範囲とこれにより推定される煙分布範囲の時系列変化の例を示した説明図である。図13の時刻t1は煙が吹き上がり始めた場合であり、煙分布範囲を決める逆三角形は小さいが、時刻t2,t3に示すように、時間の経過に伴って煙分布範囲を決める逆三角形が上方に広がるように変化し、煙分布範囲が拡大して行くことになる。従って、図2の火災判断部42は、このような煙分布範囲が拡大していく時系列変化をみることで、より確実に火災を判断することが可能となる。
【0056】
[火災判断動作]
図14図4の画像処理装置による火災検知動作を示したフローチャートである。
【0057】
図14において、画像処理装置12は、ステップS1(以下「ステップ」は省略)で監視カメラ10により動画画像として例えば30フレーム/秒で撮像した監視領域の画像を取得してメモリに記憶し、S2で稜線検出部32によるゾーベルフィルタの適用により画像から稜線を抽出する。
【0058】
続いてS3で直線成分抽出部34により稜線の画像を複数の領域に分割し、S4で領域毎にハフ変換を施して稜線の直線成分を抽出した後、S5に進んで時系列変化検出部36により、S3で抽出した直線成分の傾きと発生頻度による時系列変化を求め、S6で背景領域抽出部38により領域毎に直線成分の傾きと発生頻度の時系列変化の中から背景による特徴的な直線成分の傾きと発生頻度となる所定の時系列変化をもつ領域を背景稜線領域として抽出する。
【0059】
続いてS7で煙候補判断部40により背景稜線領域の中で背景稜線の消失を検知した領域を煙候補領域として抽出し、S8で火災判断部42により煙候補領域の分布から火災を判断し、その結果としてS9で火災を判断した場合はS10で火災検知信号を火災報知設備に出力して火災警報を出力させる。一方、S9で火災を検知しなかった場合は、S1に戻り、同様な処理を繰り返す。
【0060】
〔本発明の変形例〕
(稜線抽出)
上記の実施形態にあっては、画像にゾーベルフィルタを適用して煙の稜線を抽出しているが、プレヴィットフィルタ(Prewitt Filter)等のエッジ強調処理に用いた適宜のフィルタを適用しても良い。
【0061】
(直線成分抽出)
上記の実施形態にあっては、ハフ変換を適用して煙の稜線を抽出しているが、Line Segment Detector(LSD)等の画像から直線成分を抽出する処理方法を適用しても良い。
【0062】
(画像処理装置)
上記の実施形態にあっては、監視カメラと画像処理装置を分離配置して伝送路により接続しているが、両者を一体化した装置としても良い。
【0063】
また、本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0064】
10:監視カメラ
11:監視領域
12:画像処理装置
14:火災報知設備
15:ごみ入れ
16:テレビ
17:ソファ
18:時計
20:稜線画像
24:煙
26:煙候補範囲
28:煙分布範囲
30:伝送部
32:稜線抽出部
34:直線成分抽出部
36:時系列変化検出部
38:背景稜線領域抽出部
40:煙候補判断部
42:火災判断部
図1
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