(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
現在、半導体製造工程では、その工程に応じて、各種のガスが利用されている。例えば、ドライエッチング工程や薄膜形成工程などにおいては、フッ素を含む化合物であるPFC(perfluorocompounds)ガスが反応性ガスとして使用されている。PFCガスを含むなどの排ガスは、そのまま系外に排出することはできないため、各種の処理方法で処理され、無害化されて大気中に放出されている。
【0003】
一方、これらのPFCガスに関して、温暖化対策推進法により、PFCガスを一定量以上排出する事業は、排出量の報告が義務化されている。そのため、例えば半導体製造工場などにおいては、最終的に大気中に放出される排出ガス中のPFCガスの濃度を監視することが行われている。ここに、規制の対象となるPFCガスは、例えばCF
4(パーフルオロメタン)ガス、SF
6ガス、NF
3ガス、C
2F
6(パーフルオロエタン)ガス、C
3F
8ガス、CHF
3ガス等であり、これらのうちでも特に、CF
4ガスは、化合物そのものが安定しており、難分解性を示すものであることから、排ガス中のCF
4ガスの濃度を測定することは重要になっている。
【0004】
最終的に放出される排出ガス中のPFCガスの濃度を測定する装置としては、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR:Fourier Transform Infrared absorption spectrometer)が広く採用されている。例えば特許文献1には、FT−IRスペクトル法によって、上記の規制対象ガスの濃度が測定されることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、FT−IRスペクトル法では、各ガス成分の濃度を精度よく検出するために、各ガス成分間の干渉を除去するための信号処理が複雑なものとなるという不都合がある。
【0007】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであって、CF
4ガスおよびC
2F
6ガスを含む被検ガスにおけるCF
4ガスの濃度を高い信頼性をもって容易に検出することのできるCF
4ガス濃度測定方法およびCF
4ガス濃度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のCF
4 ガス濃度測定方法は、CF
4 ガスおよびC
2 F
6 ガスを含む被検ガスに
含まれるCF4 ガスの濃度を非分散型赤外線吸収法を利用して測定する方法であって、
前記被検ガスについて、中心波長が7850±50nmの第1の波長域の赤外線を検出する第1の赤外線検出手段によって得られる所定時間のガス検出信号の積分値を当該第1の赤外線検出手段の出力単位として取得し、当該出力単位を、下記(1)、(2)の手順によって得られる当該被検ガスにおけるC2 F6 ガスのガス濃度に応じた補正用出力単位で補正することにより、当該被検ガスに含まれるCF4 ガスの濃度を測定することを特徴とする。
【0009】
(1) 中心波長が9035±50nmの第2の波長域の赤外線
を検出する第2の赤外線検出手段によって得られる所定時間のガス検出信号の積分値を当該第2の赤外線検出手段の出力単位として取得し、当該出力単位を当該第2の赤外線検出手段におけるC2 F6 ガスの出力変化率に基づいて補正することにより取得されるC2 F6 ガスについてのガス検出出力に基づいて、前記被検ガスに含まれるC
2 F
6 ガスのガス濃度を取得する手順。
(2) 前記第1の波長域の赤外線の吸光度を測定することにより予め取得しておいた、前記
第1の赤外線検出手段のガス検出出力とC
2 F
6 ガス濃度の関係を示す検量線に、前記手順(1)で得られたC
2 F
6 ガス濃度を対照することにより取得されるガス検出出力を
当該第1の赤外線検出手段のC2 F6 ガスについての出力変化率に基づいて補正することにより取得される当該第1の赤外線検出手段のC2 F6 ガスについての出力単位を、補正用出力
単位として取得する手順。
【0010】
本発明のCF
4 ガス濃度測定装置は、
CF4 ガスおよびC2 F6 ガスを含む被検ガスが導入されるセルと、当該セルの一端側に設けられた一の赤外線光源と、
当該セルの他端側に設けられた、中心波長が7850±50nmの第1の波長域の赤外線を透過する第1のバンドパスフィルタ
を具えた第1の赤外線検出手段および中心波長が9035±50nmの第2の波長域の赤外線を透過する第2のバンドパスフィルタを具えた
第2の赤外線検出手段と、
請求項1に記載のCF4 ガス濃度測定方法によって、前記被検ガスにおけるCF4 ガス濃度を取得する機能を有する信号処理手段とを具えて
なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、CF
4ガスによる吸収が可及的に低い第2の波長域の赤外線についてのC
2F
6ガスによる吸光度に基づいてC
2F
6ガス濃度が検出されることにより、CF
4ガスおよびC
2F
6ガスを含む被検ガスにおけるC
2F
6ガス濃度を正確に検出することができる。そして、検出されたC
2F
6ガス濃度に応じた補正用出力によって、CF
4ガスに固有の吸収波長帯域およびC
2F
6ガスに係る他の吸収波長帯域を含む第1の波長域の赤外線についてのセンサ出力が補正されることにより、C
2F
6ガスによる影響(干渉)を排除することができるため、C
2F
6ガスが混在する環境下においても、CF
4ガス濃度を高い信頼性をもって検出することができる。
また、C
2F
6ガスだけに吸収が生ずる波長域が存在することを利用することにより、C
2F
6ガスのガス濃度およびCF
4ガスのガス濃度を検量線により確定することができる。従って、赤外線検出手段より得られるガス検出信号についての信号処理を簡素化することができ、CF
4ガス濃度を極めて容易に検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明のガス濃度測定装置の一例における構成の概略を示す説明図である。
このガス濃度測定装置は、ガス検知部10と、ガス検知部10よりの出力信号に基づいて検知対象ガスであるCF
4ガスのガス濃度を取得する機能を有する信号処理部30と、CF
4ガスのガス濃度を取得するための情報が記録された記録部(図示せず)とを具えている。
【0015】
ガス検知部10は、被検ガスが導入される例えば筒状のセル11と、このセル11の軸方向一端側(
図1において右端側)に設けられた一の赤外線光源15と、セル11の軸方向他端側(
図1において左端側)に設けられた、第1の赤外線検出手段20および第2の赤外線検出手段25とを具えている。
図1において、符号12は被検ガスが導入されるガス導入部、13はガス排出部である。
【0016】
赤外線光源15は、例えば、輝度が一定の周期で方形波状に変化するように変調する状態で、点滅駆動される。
【0017】
第1の赤外線検出手段20は、第1の赤外線センサ21と、第1の赤外線センサ21の光入射面側に設けられた第1のバンドパスフィルタ22とにより構成されている。
第2の赤外線検出手段25は、第2の赤外線センサ26と、第2の赤外線センサ26の光入射面側に設けられた第2のバンドパスフィルタ27とにより構成されている。
第1の赤外線センサ21および第2の赤外線センサ26は、赤外線光源15と対向して配置されている。
【0018】
第1の赤外線検出手段20における第1のバンドパスフィルタ22は、CF
4ガスおよびC
2F
6ガスの両者の吸収波長帯域に応じた波長域の赤外線に対して高い透過率を有するものであって、中心波長が7850±50nm、半値幅が185±20nmであるものにより構成されている。
第2の赤外線検出手段25における第2のバンドパスフィルタ27は、C
2F
6ガスのみの吸収波長帯域に応じた波長域の赤外線に対して高い透過率を有するものであって、中心波長が9035±50nm、半値幅が160±20nmであるものにより構成されている。
【0019】
記録部に記録された情報としては、第1の赤外線センサ21および第2の赤外線センサ26の各々について予め取得いておいた検量線などが挙げられる。
具体的には、検量線としては、第2の赤外線センサ26のセンサ出力とC
2F
6ガス濃度との関係を示すもの(検量線C
1)、第1の赤外線センサ21のセンサ出力とC
2F
6ガス濃度との関係を示すもの(検量線C
2)、第1の赤外線センサ21のセンサ出力とCF
4ガス濃度との関係を示すもの(検量線C
3)が記録されている。検量線C
1〜C
3の一例を
図2〜
図4に示す。ここに、
図2〜
図4においては、センサ出力として、後述するように、例えばフルスケール濃度を500ppmとした測定レンジにおけるセンサ出力に換算した出力割合〔%〕を縦軸にとっている。
【0020】
検量線C
1は、次のようにして設定されたものである。すなわち、C
2F
6ガスの濃度が既知であり、互いに濃度が異なる複数種のスパンガスの各々を、セル11内に順次に供給することにより得られる第2の赤外線センサ26のセンサ出力(出力割合)と、C
2F
6ガス濃度との関係を示す実測値(10ポイント)を取得する。そして、得られた実測値を例えば多項式で曲線近似することにより、測定レンジの全濃度範囲における検量線C
1を得ることができる。スパンガスとしては、例えば、ゼロガスを含む、0〜500ppmの濃度範囲(測定レンジ)内の例えば50ppm毎に設定された濃度の10種類のものを用いることができる。また、検量線C
1を取得するに際しての温度条件は、特に限定されるものではなく、例えばガス濃度測定装置が使用される環境条件などによって適宜に設定することができる。
検量線C
2は、第1の赤外線センサ21について、上記と同様の方法により得られたものである。また、検量線C
3は、スパンガスとしてCF
4ガスを用い、第1の赤外線センサ21について、上記と同様の方法により取得されたものである。
センサ出力は、赤外線センサよりのセンサ出力信号を赤外線光源15の点滅周期よりも短い周期でデジタル変換して所定時間分のセンサ出力信号を積分することにより、出力単位としての面積値(積分値)を算出し、これにより得られた出力単位を、濃度500ppmのスパンガスを導入したときに得られる出力単位を100%とした測定レンジにおける値に換算することにより得られる。
【0021】
このガス濃度測定装置においては、赤外線光源15がその点滅周期が制御された状態で点滅駆動され、赤外線光源15から放射された赤外線は、第1のバンドパスフィルタ22により特定の波長域以外の赤外線が除去された状態で、第1の赤外線センサ21に周期的に受光されると共に、第2のバンドパスフィルタ27により特定の波長域以外の赤外線が除去された状態で、第2の赤外線センサ26に周期的に受光される。これにより、第1の赤外線センサ21および第2の赤外線センサ26により検出される赤外線量に応じたセンサ出力信号が信号処理部30に出力される。そして、信号処理部30において、下記(1)〜(3)の手順によって、被検ガスに含まれるCF
4ガスの濃度の検出が行われる。
【0022】
手順(1):中心波長が9035±50nmの第2の波長域の赤外線の吸光度に基づいて、被検ガスに含まれるC
2F
6ガスのガス濃度を取得する。
【0023】
この手順(1)においては、先ず、上述したように、第2の赤外線センサ26よりのセンサ出力信号を赤外線光源15の点滅周期よりも短い周期でデジタル変換した後、所定時間分のセンサ出力信号を積分することにより出力単位としての面積値(積分値)Sb
2を取得する。そして、当該出力単位Sb
2の、第2の赤外線センサ26に係るゼロガス導入時に取得された出力単位S
02に対する出力単位変化量ΔSb
2(=Sb
2−S
02)を算出し、下記式(1)より、第2の赤外線センサ26についてのセンサ出力(出力割合)Rb
2を算出する。
【0024】
式(1) Rb
2=(ΔSb
2/ΔS
p2)×R
pb2
上記式(1)において、ΔS
p2は、C
2F
6ガスの濃度が500ppmのスパンガス(フルスケール)を導入したときに第2の赤外線センサ26により得られる出力単位S
pb2の、出力単位S
02に対する出力単位変化量(S
pb2−S
02)であって、R
pb2は、C
2F
6ガスの濃度が500ppmのスパンガス(フルスケール)を導入したときの出力割合(100%)である。
【0025】
次いで、
図2に示すように、上記のようにして得られたセンサ出力Rb
2を検量線C
1に対照することにより、被検ガスに含まれるC
2F
6ガスのガス濃度Dbを取得する。
【0026】
手順(2):上記手順(1)で得られたC
2F
6ガスのガス濃度Dbに基づいて、第1の赤外線センサ21により得られるセンサ出力を補正すべき補正用出力を取得する。具体的には、第1の赤外線センサ21により得られる出力単位を補正すべき出力単位補正量を取得する。
【0027】
この手順(2)においては、先ず、
図3に示すように、上記手順(1)で得られたC
2F
6ガスのガス濃度Dbを検量線データC
2に対照することにより、当該ガス濃度Dbに相当する、第1の波長域の赤外線に係るC
2F
6ガスについての第1の赤外線センサ21のセンサ出力(出力割合)Rb
1を取得する。
次いで、得られたセンサ出力Rb
1に応じた第1の赤外線センサ21に係るC
2F
6ガスについての出力単位Sb
1を、下記式(2)および式(3)より算出する。
【0028】
式(2) ΔSb
1=(Rb
1/R
pb1)×ΔS
pb1
式(3) Sb
1=ΔSb
1+S
01
上記式(2)および式(3)において、ΔSb
1は、ガス濃度DbのC
2F
6ガスについて、第1の赤外線検出手段20における赤外線センサ21により得られるものと想定される出力単位変化量である。ΔS
pb1は、C
2F
6ガスの濃度が500ppmのスパンガス(フルスケール)を導入したときに第1の赤外線センサ21により得られる出力単位S
pb1の、ゼロガスを導入したときに第1の赤外線センサ21により得られる出力単位S
01に対する出力単位変化量(S
pb1−S
01)である。R
pb1は、C
2F
6ガスの濃度が500ppmのスパンガス(フルスケール)を導入したときの出力割合(100%)である。
【0029】
このようにして得られた、第1の赤外線センサ21に係るC
2F
6ガスについての出力単位Sb
1が、第1の赤外線センサ21により得られる出力単位Saを補正すべき出力単位補正量として取得される。
【0030】
手順(3):第1の赤外線センサ21により得られるセンサ出力を補正して、CF
4ガスおよびC
2F
6ガスを含む被検ガスにおけるCF
4ガスのガス濃度を取得する。
【0031】
この手順(3)においては、先ず、第1の赤外線センサ21よりのセンサ出力信号を赤外線光源15の点滅周期よりも短い周期でデジタル変換した後、所定時間分のセンサ出力信号を積分することにより出力単位としての面積値(積分値)Saを取得する。上述したように、第1の赤外線センサ21により受光される赤外線は、CF
4ガスおよびC
2F
6ガスの両者の吸収波長帯域に応じた波長を有するものである。従って、取得される出力単位Saには、C
2F
6ガスの濃度に応じた干渉分が含まれているため、実際のCF
4ガスの濃度に応じた出力単位よりも小さい値となっている。
そのため、取得された出力単位Saに、上記手順(2)で取得された出力単位Sb
1を加算することにより補正して補正出力単位Sa
1を取得する。そして、第1の赤外線センサ21に係るゼロガス導入時における出力単位S
01に対する出力単位変化量ΔSa
1(=Sa
1−S
01)を算出し、下記式(4)より、第1の赤外線センサ21についてのCF
4ガスに係るセンサ出力(出力割合)Raを算出する。
【0032】
式(4) Ra=(ΔSa
1/ΔS
pa)×R
pa
上記式(4)において、ΔS
paは、CF
4ガスの濃度が500ppmのスパンガス(フルスケール)を導入したときに第1の赤外線センサ21により得られる出力単位S
paの、出力単位S
01に対する出力単位変化量(S
pa−S
01)であって、R
paは、CF
4ガスの濃度が500ppmのスパンガス(フルスケール)を導入したときの出力割合(100%)である。
【0033】
次いで、
図4に示すように、上記のようにして得られたセンサ出力Raを検量線データC
3に対照することにより、被検ガスに含まれるCF
4ガスのガス濃度Daを取得する。
【0034】
而して、このような方法によりCF
4ガスのガス濃度を取得する上記のガス濃度測定装置によれば、CF
4ガスによる吸収が可及的に低い第2の波長域の赤外線のC
2F
6ガスによる吸光度に基づいてC
2F
6ガス濃度が検出されることにより、CF
4ガスおよびC
2F
6ガスを含む被検ガスにおけるC
2F
6ガス濃度を正確に検出することができる。そして、CF
4ガスに固有の吸収波長帯域およびC
2F
6ガスに係る他の吸収波長帯域を含む第1の波長域の赤外線についての第1の赤外線センサ21によるセンサ出力が、検出されたC
2F
6ガス濃度に基づいて、補正されることにより、C
2F
6ガスによる影響(干渉)を排除することができるため、C
2F
6ガスが混在する環境下においても、CF
4ガス濃度を高い信頼性をもって検出することができる。
また、C
2F
6ガスだけに吸収が生ずる波長域が存在することを利用することにより、C
2F
6ガスのガス濃度およびCF
4ガスのガス濃度を、それぞれ、検量線C
1〜C
3により確定することができる。従って、第1の赤外線センサ21、第2の赤外線センサ26より得られるセンサ出力信号についての信号処理を簡素化することができ、CF
4ガス濃度を極めて容易に検出することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
例えば、上記の実施例においては、中心波長が7850±50nm、半値幅が185±20nmの赤外線に係るセンサ出力信号、および中心波長が9035±50nm、半値幅が160±20nmの赤外線に係るセンサ出力信号を同時に検出した構成とされているが、ガスの濃度の変化が緩やかな場合には、単一の赤外線センサと、2つのバンドパスフィルタとを用い、赤外線センサにいずれか一方のバンドパスフィルタを透過した特定波長の赤外線が入射するよう、赤外線センサおよびバンドパスフィルタの一方が他方に対して相対的に移動される構成とされていてもよい。