特許第6139990号(P6139990)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6139990-含砒素溶液の処理方法 図000023
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6139990
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】含砒素溶液の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 30/04 20060101AFI20170522BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20170522BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20170522BHJP
   C02F 1/62 20060101ALI20170522BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   C22B30/04
   C22B7/02 B
   C22B1/00 601
   C02F1/62 Z
   C02F1/70 A
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-123239(P2013-123239)
(22)【出願日】2013年6月11日
(65)【公開番号】特開2014-240513(P2014-240513A)
(43)【公開日】2014年12月25日
【審査請求日】2016年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100156834
【弁理士】
【氏名又は名称】橋村 一誠
(72)【発明者】
【氏名】鐙屋 三雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真吾
(72)【発明者】
【氏名】不破 彰也
(72)【発明者】
【氏名】稲永 丈晴
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−195367(JP,A)
【文献】 特開2009−242221(JP,A)
【文献】 特開2010−059035(JP,A)
【文献】 特開2010−284581(JP,A)
【文献】 特開2014−205584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、5価As、3価Fe、Cu、Bi、Sb、Pb、Snを含有するスラリーまたは溶液である含砒素溶液のpH値を1.5以下とした後に、
前記含砒素溶液へ、前記3価Feの90%以上を2価Feへ還元する液質調整剤を添加し、
前記5価Asが、3価Asへ還元される割合を5%以下としながら、
前記含砒素溶液中の、少なくとも、前記Bi、Sb、Pb、Snの含有量を低減させることを特徴とする含砒素溶液の処理方法。
【請求項2】
前記液質調整剤が、金属Fe、金属Cu、硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛精鉱の中から選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1記載の含砒素溶液の処理方法。
【請求項3】
前記含砒素溶液の処理方法実施後に、前記含砒素溶液中のBi、Pb、Sb、およびSnの合計濃度が、500mg/L未満となっていることを特徴とする請求項1または2記載の含砒素溶液の処理方法。
【請求項4】
前記液質調整剤が、銅精鉱であることを特徴とする請求項1記載の含砒素溶液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄製錬工程にて生成する煙灰等に含まれるAs(砒素)をスコロダイトとする工程における、含砒素溶液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非鉄製錬工程にて生成する煙灰等に含まれるAsをスコロダイトとする工程において、浸出操作により、当該煙灰等に含まれるAsを浸出液に溶出させることが実施される。
ここで、Asを含有する製錬中間産物、例えば製錬煙灰や脱銅電解スライムにはCuが多量に含まれている為、その浸出液にも多量のCuが含まれる。
この為、当該製錬煙灰や脱電スライムからの浸出スラリー等の含砒素溶液において、そのAs濃度を上げて、Asの濃厚溶液を得ようとする場合には、Cu濃度の上限による規制を受けていた。
【0003】
すなわち、上述した含砒素溶液の濃度は、当該含砒素溶液中のCu濃度が飽和濃度に達しない範囲内に設定される。この為、含砒素溶液中のAs濃度の上限は、当該Cu濃度で決まってしまうことになる。
一方、当該含砒素溶液を、スコロダイトの結晶生成用元液とする観点からは、As濃度は高いほど、スコロダイトへの生産性が向上し、スコロダイト結晶の肥大化に伴いハンドリング性が向上することから好ましい。さらに、結晶生成用元液中のAsの殆どを、予め5価Asに酸化しておくことが好ましい。
【0004】
本発明者らは、製錬煙灰を被処理対象物として、含有されるAsの殆どが5価Asであり、且つ、Cu濃度に規制されることなくAsの濃厚液を得る方法について、特許文献1〜3の開示を行った。
【0005】
特許文献1は、AsとCuとFe等を含む非鉄製錬煙灰から結晶性砒酸鉄生成用のAs溶液を得る浸出方法であり、当該非鉄製錬煙灰スラリーに硫酸を添加し、当該スラリーのpH値を1.0以下とし50℃以上で浸出する酸浸出工程と、次いで当該酸浸出終了スラリーに用水、及び/又は、中和剤を添加し、当該スラリーのpH値が1.5以上3.0以下の範囲内で酸化剤を投入し、当該スラリー中に溶存する3価Asを5価Asへ酸化する酸化浸出工程と、当該酸化浸出終了スラリーを濾別し酸化浸出液と酸化浸出残渣を得、次いで、前記酸化浸出残渣をスラリーとし、当該スラリーへ硫酸を添加しAs浸出液を得るAs浸出工程から成る非鉄製錬煙灰のAs浸出方法である。
【0006】
特許文献2は、AsとCuとFe等を含む非鉄製錬煙灰から結晶性砒酸鉄生成用のAs溶液を得る方法であり、当該非鉄製錬煙灰のスラリーに硫酸を添加し酸性とし加温下でCuとAsとFe等を浸出する1次浸出工程と、当該1次浸出終了スラリーを濾別し1次浸出液と1次浸出残渣を得、次いで、前記1次浸出液に中和剤を添加し硫酸濃度を減じる中和工程と、当該中和終了スラリーを濾別し中和後液と中和析出物を得、次いで、前記中和後液へ中和剤を添加し、pH値が1.5以上3.0以下の範囲内で酸化剤を投入し、当該中和後液中に溶存する3価Asを5価Asへ酸化する酸化工程と、当該酸化終了スラリーを濾別し酸化後液と酸化殿物を得、次いで、前記酸化殿物をスラリーとし、当該スラリーに硫酸を添加しAsを浸出する2次浸出工程を有し、当該2次浸出終了スラリーを濾別し、5価Asが濃縮した2次浸出液を得る事を特徴とする煙灰から5価As溶液を得る方法である。
【0007】
特許文献3は、AsとCuとFe等を含む非鉄製錬煙灰から結晶性砒酸鉄生成用As溶液を得る方法であり、当該非鉄製錬煙灰スラリーに中和剤を添加し、当該スラリーのpH値を3から4の範囲を保持し浸出する1次浸出工程と、当該1次浸出終了スラリーを濾別し1次浸出液と1次浸出残渣を得、次いで、前記1次浸出残渣をスラリーとし、当該スラリーに硫酸を添加し浸出する2次浸出工程と、当該2次浸出終了スラリーを濾別し2次浸出残渣と2次浸出液を得、次いで、前記2次浸出液に中和剤を添加し硫酸濃度を減じる中和工程と、当該中和終了スラリーを濾別し中和後液と中和析出物を得、次いで、前記中和後液へ中和剤を添加し、pH値が1.5以上3.0以下の範囲内で酸化剤を投入し、当該中和後液中に溶存する3価Asを5価Asへ酸化する酸化工程と、当該酸化終了スラリーを濾別し酸化後液と酸化殿物を得、次いで、前記酸化殿物をスラリーとし、当該スラリーへ硫酸を添加しAsを浸出する3次浸出工程を有し、当該3次浸出終了スラリーを濾別し、5価Asが濃縮した3次浸出液を得る事を特徴とする煙灰から高濃度As溶液を得る方法である。
【0008】
以上、特許文献1〜3に記載された方法により得られる含砒素溶液中のAsは、その殆どが5価Asであり、且つ、Asの濃厚液であり、スコロダイト生成用の原料液として適用可能である。
【0009】
一方、本発明者等は、特許文献4に、含砒素溶液中の5価Asの3価Asへの還元を抑えながらCuを除去する方法を開示した。当該方法は、活性ZnSおよび不活性ZnSを用いて、その活性度を加味し、添加量を適正量に調整することで、スコロダイト生成用の結晶化元液中に溶存する5価Asの3価Asへの還元を抑えながら、CuをCuS(硫化銅)として除去するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2013−95984号公報
【特許文献2】特開2013−95985号公報
【特許文献3】特開2013−95986号公報
【特許文献4】特開2010−284581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、本発明者らのさらなる研究によると、上述の煙灰等からAsを浸出して得た浸出液には、Asの他、Bi、Sb、Pb、Sn等の不純物重金属が、相当な量をもって含まれる場合がある。一方、上述したように、結晶化元液中のAsをスコロダイトに変換する湿式反応においては、Asが5価であること、3価のFeが少ないこと、他の金属元素が少ないことが望まれる。
本発明は、このような状況の下で成されたものであり、その解決しようとする課題は、煙灰等からのAsの浸出液である含砒素溶液中におけるAsの価数を5価、Feの価数を2価とし、さらに、他の金属元素の含有量を低減できる、含砒素溶液の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決する為、本発明者らは研究を行った。
その結果、処理対象である5価As及び3価Fe、Cu、Bi、Sb、Pb、Sn等を含むスラリーまたは溶液である含砒素溶液へ、pH値1.5以下の酸性下で、含有される3価Feを2価Feへ還元する液質調整剤を添加し、混合して反応させる。すると、5価Asの3価Asへの還元を抑えながら、溶解しているBi、Sb、Pb、Sn等を析出させることができ、Bi、Sb、Pb、Sn等の含有量を低減させることができる、との知見を得、本発明を完成した。
【0013】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
少なくとも、5価As、3価Fe、Cu、Bi、Sb、Pb、Snを含有するスラリーまたは溶液である含砒素溶液のpH値を1.5以下とした後に、
前記含砒素溶液へ、前記3価Feの90%以上を2価Feへ還元する液質調整剤を添加し、
前記5価Asが、3価Asへ還元される割合を5%以下としながら、
前記含砒素溶液中の、少なくとも、前記Bi、Sb、Pb、Snの含有量を低減させることを特徴とする含砒素溶液の処理方法である。
第2の発明は、
前記液質調整剤が、金属Fe、金属Cu、硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛精鉱の中から選ばれた1種以上であることを特徴とする第1の発明記載の含砒素溶液の処理方法である。
第3の発明は、
前記含砒素溶液の処理方法実施後に、前記含砒素溶液中のBi、Pb、Sb、およびSnの合計濃度が、500mg/L未満となっていることを特徴とする第1または第2の発明記載の含砒素溶液の処理方法である。
第4の発明は、
前記液質調整剤が、銅精鉱であることを特徴とする第1の発明記載の含砒素溶液の処理方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により処理された含砒素溶液中における5価Asは、殆どが3価Asに還元されることなく、その価数は5価のままであった。一方、3価Feは2価Feとなった。さらに、他の金属元素の含有量を低減できた。この結果、当該含砒素溶液は良質なスコロダイトの生成元液となった。
また、本発明は、上述の特許文献1〜3に記載した方法により得られた含砒素溶液の液質を、さらに高度に整える方法として用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る3価Feを含有する含砒素溶液の処理方法を示す工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
非鉄製錬で発生する煙灰、各種残渣には、鉱石由来からのAsの他、各種金属が多種含まれている。当該含まれる各種金属は多種であるが、煙灰中のAsを処理するためにスコロダイトとして安定化、固定化する観点からは、Fe、Cu、Bi、Sb、Pb、Sn等が注目される。これらの金属は、Asをスコロダイトとして安定化、固定化する際の反応において生成するスコロダイトの物性に、少なからず影響があるためである。
本発明に適用される被処理物は、5価As、Fe、Cu、Bi、Sb、Pb、Sn等を含有するスラリー、または、当該濾過溶液といった含砒素溶液である。そして、少なくともAsと3価Feとを含み、さらに、少なくともBi、Sb、Pb、Snから選択されるいずれか1種以上の重金属元素を含み、且つ、当該重金属元素を合計した濃度で500mg/L以上含むものが、処理対象となる。
【0017】
本発明は、処理対象である5価As及び3価Fe、Cu、Bi、Sb、Pb、Sn等を含むスラリーまたは溶液である含砒素溶液へ、pH値1.5以下の酸性下で、含有する3価Feを2価Feへ還元する液質調整剤を添加し、混合させて反応させる。そして、5価Asの3価Asへの還元を抑えながら、溶解しているBi、Sb、Pb、Sn等を析出させることで低減させる、含砒素溶液の処理方法である。
【0018】
本発明に係る当該液質調整剤は、3価Feを2価Feに還元する反応に係るものであることに本発明の特徴がある。
即ち、本発明者らは、当該液質調整剤により3価Feを2価Feに還元し、当該含砒素溶液の液電位を低下させる方法により、含砒素溶液中に共存するBi等の不純物重金属類が析出物として除去され、極低濃度レベルまで低減される現象を知見した。
【0019】
本発明に係る液質調整剤の好ましい具体例には、金属Fe、金属Cu、硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛精鉱、銅精鉱等がある。これらは、粉状、溶液スラリー状であっても良い。これら液質調整剤の添加量は、当該液質調整剤の反応対象となる、含砒素溶液に溶存する3価Feの90〜100%を2価Feへ還元するに必要な量である。
これは、本発明者の検討結果から、液質調整剤添加量が上記量あると、5価Asの3価Asへの還元を十分に阻止することが出来るからである。
【0020】
本発明者等は、処理対象である5価As及び3価Fe、Cu、Bi、Sb、Pb、Sn等を含む含砒素溶液へ液質調整剤を添加した反応後の析出物を、X線回折により定性分析をした。その結果、当該溶液中に高濃度で溶存するBiが、ヒ酸ビスマス(BiAsO)として析出することが同定された。この結果から、本発明者等は、Sb、Pb、Sn等の不純物も、Biと同様にヒ酸化合物としてとして析出、あるいは、Pbは硫酸鉛として析出、SbおよびSnは酸化物や水酸化物として析出し、除去されるものと考えている。
【0021】
ここで、本発明者らは、当該Bi、Pb、Sb、Sn等の不純物類が析出物となり、当該含砒素溶液から除去できるという現象に関して以下のように推定している。
例えばBiは、5価砒素イオン(砒酸イオン)が高濃度で存在する溶液中では、砒酸化合物である砒酸ビスマスを形成するため、Bi溶存濃度がg/Lオーダーでは溶存し得ないものである。それにも拘らず、処理対象である含砒素溶液には、相当量のBiを初め、Sb、Pb、Sn等が含有されている。これは、Biおよび他の重金属類が、Biと同様に、その溶存量の一部あるいは大半が砒酸イオンと反応し、重金属類−砒酸錯イオンを形成して、含砒素溶液中に溶存している為であると考えられる。
そして、含砒素溶液中に3価Feが含有され液電位が高い場合、これらの重金属類−砒酸錯イオンは、含砒素溶液中に安定して存在し得るものと推定される。
しかし、含砒素溶液中へ適宜な液質調整剤を添加し、3価Feを2価Feへ還元し液電位を低下させることで、当該重金属類−砒酸錯イオンが壊れて、Biはヒ酸ビスマスを形成し、Pbはヒ酸鉛あるいは液中の硫酸イオンと反応し硫酸鉛を形成し、Sbはヒ酸アンチモンあるいは酸化アンチモンを形成し、Snは酸化錫、水酸化錫を形成するものと推定している。しかし、実際の反応機構は現在のところ不明である。
尚、当該含砒素溶液における、Biをはじめとする不純物重金属類の低下挙動は、3価Feの2価Feへの還元率が80%程度でも進行するが、より確実に行うためには3価Feの90%以上が2価Feへ還元していることが好ましい。
【0022】
本発明を実施する形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る3価Feを含有する含砒素溶液の処理方法を示す、工程フロー図である。
図1を参照しながら、(1)含砒素溶液(5価As、3価Fe、Cu、Bi、Sb、Pb、Sn等を含有するスラリーまたは溶液)、(2)液質調整剤、(3)液質調整反応、(4)濾過、(5)反応残渣、(6)濾液(スコロダイト生成用の結晶化元液)、(7)結晶化、および、(8)スコロダイトの順に説明する。
【0023】
(1)含砒素溶液(5価As、3価Fe、Cu、Bi、Sb、Pb、Sn等を含有するスラリーまたは溶液)
含砒素溶液としては、特許文献1〜3に記載した方法により調製された5価As、3価Fe、Cu、Bi、Sb、Pb、Sn等を含有するスラリーまたは溶液がある。当該含砒素溶液は、調製された目的が砒素の浸出、固定化のためであるため、本発明の適用に適している。さらに具体的には、酸化浸出残渣や酸化殿物の硫酸浸出スラリーや、当該スラリーの濾過により得られた濾液が好適である。他に、製錬煙灰や製錬排水からの3価Fe共沈により得られたAs含有殿物等の、硫酸浸出スラリーや当該スラリーの濾液へも当然適用が可能である。
尚、含砒素溶液が、スラリーでも濾液(溶液)でも、下記調整剤添加による反応性は殆ど差がない。従って、当該処理対象物である含砒素溶液がスラリーとして発生するのであれば、あえて濾過して濾液(溶液)にする必要はない。
【0024】
(2)液質調整剤
本発明に係る液質調整剤は、本発明に係る被処理対象である含砒素溶液中に溶存する3価Feを2価Feへ還元するものである。従って、液質調整剤の添加量は、当該含砒素溶液中に含まれる3価Feを2価Feへ還元するのに必要な量で良い。そして、当該液質調整剤の過不足のない適正量の添加により、当該含砒素溶液中に溶存する5価Asが3価Asへ還元されることを回避出来、好ましい。したがって、当該液質調整剤の反応性を事前に確認し、予め、当該液質調整剤の添加量の適正値を求めておくことが好ましい。
【0025】
上述したように、本発明に係る液質調整剤の好ましい具体例には、金属Fe、金属Cu、硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛精鉱、銅精鉱等がある。
【0026】
(i)金属Fe、金属Cu
金属FeとしてはFe粉が、金属CuとしてはCu粉が反応性、ハンドリング性の面から好ましい。さらに、金属Fe、金属CuのようにSを含有しない液質調整剤は、本発明に係る処理後の生成物に含まれるS量を増加させないので、環境保全の観点から好ましい。
尚、液質調整反応前における含砒素溶液中のFe含有量が、含有されるAsをスコロダイトとするのに必要な量に満たない場合には、液質調整剤として金属Feを用いることが有効である。なぜならば、当該金属Feを液質調整剤として用いることで、スコロダイト生成に不足分のFe源が、3価Feの2価Feへの還元反応時に自動的に供給されるからである。
【0027】
一方、金属Fe源、金属Cu源として、安価なFeスクラップやCuスクラップを用いる場合には、別途専用の反応設備を設けることが好ましい。
具体的には、含砒素溶液を、FeスクラップやCuスクラップを充填したカラム、または、当該スクラップを装入したトロンメル分級機を準備し、含砒素溶液を多段で通すことにより、3価Feの2価Feへの還元は達成される。
【0028】
反応温度は特に制約されるものではなく室温でも良いが、高温(50〜70℃)であると、反応性は向上する。反応時間は、用いる金属鉄、金属銅の形状(粉体形状、スクラップ状況、等)や、反応設備により決定される。反応時間は、当該砒素溶液中に含有される3価Feの90〜100%が2価Feに還元される条件に設定する。
【0029】
(ii)硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛精鉱
液質調整剤として硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛精鉱を用いる場合も、当該液質調整剤の添加量は、当該含砒素溶液中に含まれる3価Feを2価Feへ還元するのに必要な量で良い。そして、硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛精鉱は、亜鉛の製錬工程において入手が容易である。
尤も、当該硫化亜鉛(ZnS)や亜鉛精鉱は、その種類・状態により活性度に差があるため、予め、予備試験を行い、添加量を決めておくことが望ましい。
また、好ましい反応温度は、当該液質調整剤の活性度により決定すれば良い。尤も、反応温度が50℃以上であれば3価Feの2価Feへの還元反応が進む。さらに反応時間の短縮を図る場合には、70℃以上が良い。反応時間は、当該含砒素溶液中に溶存する3価Feの90%以上が、2価Feに還元するまでの時間を設定することが好ましい。
【0030】
上述したように、本発明に係る液質調整剤としての硫化亜鉛(ZnS)は、5価Asの3価Asへの還元を抑えながら、3価Feを2価Feへ還元するために用いる還元剤である。そして、当該Feの還元操作が引き金となって、含砒素溶液中に共存する不純物(Bi、Sb、Pb、Sn等)が除去される。
【0031】
これに対し、従来技術(例えば、特許文献4)に係る硫化亜鉛(ZnS)は、5価Asの3価Asへの還元を抑えながら、含砒素溶液中に共存する不純物(例えば、銅)に硫化剤として直接作用するものであって、これら不純物が硫化物(例えば、硫化銅:CuS)として除去されるものであった。
即ち、本発明における硫化亜鉛(ZnS)の作用効果は、従来の技術における硫化亜鉛(ZnS)の作用効果とは全く異なるものであると考えられる。
【0032】
例えば、後述する実施例3において、溶存3価Feを2価Feへ還元する反応の1倍当量のZnS(試薬)を添加し反応させた試験において、溶存3価Feの90%が2価Feへ還元され、且つ、溶存するCuが0.4g/L低下除去された。これらの反応に必要な当該ZnS量は、反応効率を98%と仮定し算出すれば3.93gとなり、実際に添加した量の3.94gと一致している。
一方、同時に、溶存するBiは1.6g/L低下し、除去されていた。当該溶存Biの低下が、硫化ビスマス(Bi)形成によるものとすれば、当該反応に必要なZnS量は、さらに0.56gが必要であったことになる。さらに(0020)段落に記載の通り、反応析出物中のBiが砒酸ビスマスとして同定されることから、Biが硫化物となって除去されたのではないことが理解される。
【0033】
(iii)銅精鉱
液質調整剤として銅精鉱を用いる場合も、当該液質調整剤の添加量は、当該含砒素溶液中に含まれる3価Feを2価Feへ還元するのに必要な量で良い。そして、銅精鉱は、銅の製錬工程において入手が容易である。
尤も、当該銅精鉱も、その種類・状態により活性度に差があるため、予め、予備試験を行い、添加量を決めておくことが望ましい。
また、好ましい反応温度は、当該液質調整剤の活性度により決定すれば良い。尤も、反応温度が50℃以上であれば3価Feの2価Feへの還元反応が進む。さらに反応時間の短縮を図る場合には、80℃以上が良い。しかし、反応時間は、金属Fe、金属Cu、硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛精鉱に比較して遅い。具体的には、反応温度50℃の場合、反応4時間時点において3価Feの還元率は24%であった。一方、反応温度80℃では、反応速度は大幅に増加し改善される。
一方、3価Feの還元率が70%を超える時点(反応30分間時点)から、Asの沈積が認められた。そこで、銅精鉱を液質調整剤として用いる場合は、当該添加量を3価Feの2価Feへの還元率が最大で70%確保出来る量とし、当該添加反応させた後、次いで、前述の液質調整剤を添加し、3価Feの2価Feへのトータル還元率を90〜100%とする方法が考えられる。
当該Asの沈積は、沈殿物のX線回折結果から、スコロダイトの生成に起因するものであることが判明したが、その反応機構は不明である。
当該Asの沈積は、新規なスコロダイトの生成方法であると考えられる。
【0034】
(3)液質調整反応
液質調整反応は、含砒素溶液に、所定量の液質調整剤を添加し、添加された液質調整剤に適した液温で反応させ、溶存する5価Asの価数を維持しながら3価Feを2価Feへ還元し、同時にBi等の不純物を沈析させる工程である。
液質調整剤として金属Feや金属Cuを粉体として添加し反応させる場合は、汎用的な攪拌反応槽を使用することが出来る。攪拌は反応性を十分確保する意味から、空気を巻き込まない範囲内で強攪拌に設定することが好ましい。尚、反応pHは液質調整剤の種類に関係なく、pH値として1.5以下、好ましくは1.0以下が良い。これは、pH値が1.5以下であれば当該液中のAsの沈析が抑制出来、1.0以下であれば当該液中のAsの沈析をさらに抑制出来るからである。
従って、反応中の当該液へ硫酸を適宜適時添加し、液のpH値を1.5、好ましくは1.0以下に抑えるのが良い。
当該液質調整反応により、含砒素溶液中のBi、Pb、Sb、およびSnの合計濃度を確実に500mg/L未満とすることが出来る。
【0035】
尚、含砒素溶液においてPb濃度のみが高い場合には、炭酸ストロンチウムの添加が効果的である。当該添加効果は、含砒素溶液がスラリーでも溶液でも差はなく有効な方法である。
また、炭酸ストロンチウム添加のタイミングは、上述した液質調整剤の添加反応後でも良いが、同時に添加することで除去能力がより向上し好ましい。炭酸ストロンチウムの添加量は、含砒素溶液に含有されるPb濃度により決定すれば良いが、概ね、含砒素溶液1m当たり数10g〜数100gで良い。当該炭酸ストロンチウムの添加により、Pb濃度を確実に100mg/L未満とすることが出来る。
【0036】
(4)濾過
液質調整反応後における含砒素溶液の濾過性は、スラリーを処理対象とした液質調整終了スラリーの方が、溶液を対象とした液質調整終了スラリーより良い。尤も、実機操業時を想定した場合には、いずれの場合も、濾過装置として汎用的に使われているフィルタープレス等を用いることが出来る。
【0037】
(5)反応残渣
上述した(4)濾過にて得られた反応残渣には、Bi、Sb、Pb、Sn等が含有されており、銅熔錬炉への繰り返しも可能であるが、Pb製錬原料として供給することも出来る。これはPb製錬所が、Pbの回収工程以外にBi、Sb回収工程を有するからである。
【0038】
(6)濾液(結晶化元液)
上述した(4)濾過にて得られた濾液は、スコロダイト結晶生成用の結晶化元液として適したものである。
当該濾液には、5価Asが殆ど還元されることなく含まれており、Feの殆どが2価Feに調整されており、且つ、Bi、Pb、Sb、Sn等の雑多な不純物重金属類が低濃度まで除去されているからである。
【0039】
(7)結晶化
本発明により得られた結晶化元液中の砒素をスコロダイトの結晶へ転換し、スコロダイトとして回収する。
具体的には、得られた結晶化元液へ、80℃以上、好ましくは95℃恒温の大気圧下で、空気または酸素または空気と酸素との混合ガスを吹き込み、酸化反応を6〜9時間行うことで、溶出特性およびハンドリング性に優れたスコロダイトの結晶が生成する。
【0040】
(8)スコロダイト
得られるスコロダイトは、結晶粒子径が10〜20μmと大きくハンドリング性に優れ、且つ、溶出特性においては、AsのみならずPb、Cd、Cr、Se、Hg等の不純物重金属類の溶出値も、全て安定的に基準値以下にすることが可能である。
得られるスコロダイトはpH値が3〜5で最も安定である為、酸性雨等の影響を受けることなく大気雰囲気下で安定的に貯蔵が出来る。すなわち、当該スコロダイトは、Asの長期保管には最も優れた物質である。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
液質調整剤として金属Fe(Fe粉)を用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。含砒素溶液は実液試料を用いた。
【0042】
(1)含砒素溶液
実施例1に係る含砒素溶液は、煙灰から酸化殿物を作製し、当該酸化殿物を浸出して調製した。その調製方法について説明する。
【0043】
〈煙灰から元液の原料となる酸化殿物の作製〉
当該酸化殿物は、下記に示す1次浸出工程、2次浸出工程、中和工程、及び、酸化工程からなるフローから回収される。以下に、具体的に説明する。
【0044】
《1次浸出工程》
As3.2質量%、Cu23.1質量%を含有するA銅製錬所発生の熔錬炉煙灰3kgへ、純水8.8Lを加えてスラリーとし、次いで、当該スラリーへ、200g/LのCa(OH)ミルクを添加し、室温にて、pH値3.8に維持しながら30分間浸出した後、加圧濾過に供じた。
得られた1次浸出液は8,980mLであり、Cu濃度53g/L、As濃度0.09g/Lであった。
一方、濾過器内の1次浸出残渣は、純水を用いて当該濾過器内を通水洗浄した後、洗浄1次浸出残渣として回収した。尚、使用した純水量は、1次浸出に用いる純水量と同じである。得られた洗浄1次浸出残渣は、2,630g−wetであり、水分が34質量%であった。
【0045】
《2次浸出工程(1回目)》
上述の洗浄1次浸出残渣560g−wetへ、純水530mLを加えてスラリーとし、次いで75℃に加温し、硫酸添加によりpH値0.2とし60分間浸出を行った後、当該スラリーを加圧濾過へ供じた。
以上の操作により、2次浸出液(本発明において「2次浸出液《1》」と記載する場合がある。)710mLを回収した。
一方、濾過器内の2次浸出残渣は、純水を用いて濾過器内を通水洗浄し、通水洗浄水(本発明において「2次通水洗浄水《1》」と記載する場合がある。)585mLを回収した。
【0046】
《中和工程(1回目)》
中和工程(1回目)では、2次浸出(1回目)で得られた2浸出液《1》700mLへ、純水370mLを加え、さらに洗浄1次浸出残渣840g−wetを添加し、過剰酸分を洗浄1次浸出残渣により中和した。
当該処理は75℃で行い、中和終了時の当該スラリーのpH値は0.9であった。
次いで、中和後のスラリーは加圧濾過へ供じ、中和後液(本発明において「中和後液《1》」と記載する場合がある。)1,130mLと、中和残渣(本発明において「中和残渣《1》」と記載する場合がある。)612g−wetを回収した。
【0047】
《2次浸出工程(2回目)》
2次浸出(2回目)では、中和残渣《1》570g−wetと、通水洗浄水《1》580mLと、純水130mLとを混合してスラリーとする。次いで、当該スラリーを75℃に加温し、硫酸添加によりpH値0.2とし、60分間浸出を行った後、当該スラリーを加圧濾過へ供じた。回収した2次浸出液(本発明において「2浸出液《2》」と記載する場合がある。)は770mLであった。
【0048】
《中和工程(2回目)》
以上の操作により、中和(2回目)では、2次浸出(2回目)で得られた2浸出液《2》760mLへ、純水280mLを加え、さらに洗浄1次浸出残渣790g−wetを添加し、過剰酸分の洗浄1次浸出残渣による中和を行った。
当該処理は75℃で行い、中和終了時の当該スラリーのpH値は1.1であった。
次いで、中和後のスラリーは加圧濾過へ供じ、中和後液(本発明において「中和後液《2》」と記載する場合がある。)1,066mLを回収した。
【0049】
《酸化工程》
酸化工程では、中和後液中に溶存するAsのほぼ全てを、5価As化合物として殿物化(本発明において「酸化殿物」と記載する場合がある。)し、回収する工程である。
本実施例では、工程が定常状態となる中和後液《2》を対象した処理例を示す。
中和後液《2》1,050mLへ、Ca(OH)ミルク200g/Lを添加し、液温50℃、pH値2.0に調整し、次いで30%過酸化水素水を、当該スラリーの液電位が600mv(Vs:Ag/AgCl)を超えるように添加した後、30分間攪拌し、反応を終了した。
反応終了後の酸化スラリーを加圧濾過し、固液分離を行って酸化殿物562g−wetを回収した。
当該酸化殿物は、水分45%であり、As含有品位9.0%、Fe含有品位9.7%であった。
【0050】
本実施例では、上述の操作で得られた酸化殿物550g−wetを浸出し、含砒素溶液とした。
【0051】
(2)液質調整反応
液質調整剤に、試薬Fe粉を用いた液質調整反応について説明する。
【0052】
〈Feの粉添加量〉
上述した酸化殿物中に含有されるFeの全てが3価Feであると仮定し、当該3価Feの還元反応に必要な1.05倍当量を、Feの粉添加量とした。
当該還元反応を、1)式に示す。
2Fe3++Fe=3Fe2+・・・1)式
従って、試薬Fe粉添加量は、下記量となる。
添加試薬Fe粉量=550×(1−0.45)×0.097÷2×1.05=15.40g
尚、本実施例では、反応性の高い試薬Fe粉を用いた場合であるが、反応性が若干低い工業用Fe粉やスクラップFe等を用いる場合には、事前に反応性を確認しその添加量を決めることが好ましい。
【0053】
〈操作〉
上述の煙灰処理により得られた酸化殿物550g−wetへ、純水を400mL添加してスラリーとし、次いで硫酸を添加した後、室温下、pH値0.3にて60分間浸出を行った。この時点(浸出終了時点)で、少量サンプリングを行った。
引き続き、室温下で、試薬Fe粉15.40gを10分間に渡り当該スラリーへ添加した後、さらに60分間攪拌し、液質調整反応を終了した。
反当該スラリーの、液質調整反応終了時のpH値は0.85で、液度は50℃であった。この時点(液質調整終了時点)で、少量サンプリングを行った。
液質調整反応終了後、当該スラリーを直ちに加圧濾過に供じ、固液分離を行い、液質調整の操作を終え結晶化元液を得た。得られた濾液(結晶化元液)は520mLであった。
表1に、酸化殿物の浸出終了時点、および、液質調整終了時点の液組成を示す。また、表2に、5価Asの3価Asへの還元率および3価Feの2価Feへの還元率を示す。
尚、本発明において、全As濃度を「T−As」と、全Fe濃度を「T−Fe」と記載する場合がある。
【0054】
【表1】
【表2】
【0055】
表1、2の結果から、液質調整剤に金属Fe(Fe粉)を用いた場合、含砒素溶液中の5価Asを殆ど3価Asへ還元することなく、3価Feの大半(98%)を2価Feへ還元し、さらに不純物重金属類であるBi、Pb等を極低濃度まで除去できる事が判明した。
【0056】
(3)結晶化
得られた結晶化元液500mLを量り取り、スコロダイト結晶化試験に供じた。
結晶化試験の条件について説明する。
1リットルビーカーに4枚邪魔板を設置し、攪拌には2段タービン羽を用いた。反応時の攪拌は1000rpmにて実施した。
【0057】
《反応条件》
結晶化元液を昇温し、液温95℃に到達した時点で空気の吹き込みを開始し、3時間吹き込んだ後、吹き込みガスを酸素に換え、さらに3時間吹き込みを行って、結晶化反応後スラリーを得た。尚、吹き込みガスはガラス管を介しビーカー底部から吹き込みを行った。
吹き込みガス量は1000mL/分、吹き込み開始時を反応開始時とし、95℃下で合計6時間(前半空気3時間+後半酸素3時間)吹き込み反応を行った。
【0058】
《濾過条件》
得られた結晶化反応後スラリーを、以下の条件で濾過した。
濾過圧:4〜4.5kgf/cm下での加圧濾過を行った。
濾過には、孔径が1μmのメンブレンフルター(PTFE製で直径142mm)を使用した。
【0059】
当該濾過条件下での濾過時間は8秒であり、非常に濾過性の良いスコロダイトが得られた。尚、得られた濾液、すなわち結晶化後液のAs濃度は1.7g/Lであった。
得られたスコロダイトは、純水で洗浄した後、環境庁告示13号に準拠した溶出試験へ供じた。
表3に得られたスコロダイトの組成を示す。また、表4に当該スコロダイトの溶出試験結果を示す。
【0060】
【表3】
【表4】
【0061】
表4の結果より、得られたスコロダイトの溶出値は、Asのみならず、規制対象重金属類も全て基準を満足するものであった。
【0062】
(実施例2)
液質調整剤として金属Cu(Cu粉)を用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。本実施例で用いた含砒素溶液は、実施例1と同様に実液試料を用いた。
【0063】
(1)含砒素溶液
実施例2に係る含砒素溶液は、煙灰から酸化殿物を作製し、当該酸化殿物を浸出して調製した。その調製方法について説明する。
実施例2においては、As3.7質量%、Cu17.3質量%を含有するB銅製錬所発生の熔錬炉煙灰に対し、実施例1と同様の処理をして得た酸化殿物を含砒素原料とした。
【0064】
(2)液質調整反応
本実施例では、上述した酸化殿物をスラリーとしたものを含砒素溶液とした。
当該酸化殿物は、加圧濾過器内で純水を用いた通水洗浄を行ったものであり、その組成はAsが8.6質量%、Feが7.3質量%、水分が41質量%のものである。
以下、当該酸化殿物500g−wetと、液質調整剤として試薬Cu粉を用いた場合の液質調整の方法について具体的に説明する。
【0065】
酸化殿物中に含有するFeの全てが3価Feであると仮定し、3価Feの2価Feへの還元反応に必要な量の1.0倍当量を、Cu粉の添加量とした。
当該3価Feの2価Feへの還元反応を、2)式に示す。
2Fe3++Cu=2Fe2++Cu2+・・・2)式
従って、試薬Cu粉添加量は、下記量となる。
添加試薬Cu粉量=500×(1−0.41)×0.073÷55.85÷2×63.55×1.0=12.25g
【0066】
試料500g−wetへ、純水400mLを添加しスラリーとし実施例2に係る含砒素溶液とした。次いで、当該含砒素溶液へ硫酸を添加し、室温下でpH値0.3とし60分間浸出を行った。この時点(浸出終了時点)で、少量サンプリングを行った。
引き続き室温下で液質調整剤として、試薬Cu粉12.25gを30秒間に渡り当該含砒素溶液へ添加した。すると、液質調整剤添加終了後、15分間時点で含砒素溶液のpH値が0.75に達した。この時点から当該含砒素溶液へ硫酸を添加し、当該pH値を維持しながらさらに55分間攪拌し反応を終了した。この調整終了時点で少量サンプリングを行った。
尚、反応終了時点での含砒素溶液の液温は47℃であった。
【0067】
当該含砒素溶液を直ちに加圧濾過に供じ、固液分離を行って液質調整反応を終え、濾液としてスコロダイト生成の結晶化元液を得た。得られたスコロダイト生成の結晶化元液は477mLであった。
表5に浸出終了時点および液質調整終了時点の含砒素溶液の組成を示す。また、表6に5価Asの3価Asへの還元率および3価Feの2価Feへの還元率を示す。
【0068】
【表5】
【表6】
【0069】
表5、6の結果から、液質調整剤として金属Cu粉を用いた場合でも、含砒素溶液中の5価Asを殆ど3価Asへ還元することなく、一方、3価Feの95%以上を2価Feへ還元できた。さらに不純物重金属類であるBi、Pb等を極低濃度まで除去できることが判明した。
【0070】
(3)結晶化
得られた結晶化元液450mLを量り取り、スコロダイト結晶化試験に供じた。
結晶化条件は、実施例1と同様である。
得られたスコロダイトの溶出試験結果を表7に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
表7の結果より、得られたスコロダイトの溶出値は、Asのみならず、規制対象重金属類も全て基準を満足するものであった。
【0073】
(実施例3)
液質調整剤として試薬ZnSを用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。含砒素溶液は、試薬を用いて調製したものであり、以下の要領で調製した。
【0074】
(1)含砒素溶液
〈含砒素溶液の原料調合〉
純水 470mL
事前に作製した硫酸第2鉄溶液(Fe濃度79g/L)63mL
試薬硫酸銅(5水塩)23g
試薬60%砒酸溶液18mL
試薬二酸化ビスマス(Bi)2g
【0075】
〈含砒素溶液の調製〉
上述の試薬を混合して調合スラリーを得、実施例1に係る含砒素溶液とした。
当該含砒素溶液へ硫酸を添加してpH値を0.7に調整し、室温で90分攪拌してから濾過し、不溶解物を除去して濾液を回収した。
この濾液から500mLを量り取り含砒素溶液の試料液とし、残りは分析に供じた。
当該含砒素溶液の試料液の組成を、表8に示す。
【0076】
【表8】
【0077】
ここで、当該含砒素溶液の試料液への試薬ZnSの添加量は、3)式に示す3価Feを2価Feへ還元するに必要な量の1倍当量および1.5倍当量とした。
Fe(SO+ZnS=2FeSO+ZnSO+S・・・・3)式
すなわち、1倍当量に相当する試薬ZnS量は、ZnSの純度を99.5%とすれば
9(g/L)×0.5(L)×97.4(ZnSの分子量)÷55.9(Feの原子量)÷2÷0.995=3.94g
である。
同様に、1.5倍当量の場合は5.91gである。
【0078】
(2)液質調整反応
含砒素溶液の試料液500mLを4枚邪魔板付きの1リットルビーカーへ投入し、2段タービン羽を使用し、空気を巻き込まない程度の攪拌強度下で行った。
そして、含砒素溶液の試料液を加温しながら硫酸を添加し、最終的に80℃へ昇温した時点で、当該試料液のpH値が0.50となるように調整した。尚、その後、反応は80℃恒温下で行った。
次いで、含砒素溶液の試料液へ、試薬ZnSを3.94g添加し、添加した時点を反応開始時として15分間反応させた後、少量サンプリングした。引き続き含砒素溶液の試料液へ、試薬ZnS1.97gを追加添加(この時点で、全添加量が5.91g)し、さらに15分間反応させた後、サンプリングし試験を終了した。尚、当該含砒素溶液の試料液のpH値は反応初期に0.56まで上昇する挙動を示したが、最終的にはpH値が0.50まで低下し終了した。
結果を表9に示す。また、表10に5価Asの3価Asへの還元率および3価Feの2価Feへの還元率を示す。
【0079】
【表9】
【表10】
【0080】
表9、10の結果から、ZnS添加1.0当量で、5価Asの還元は殆ど無く、不純物であるBiは極低濃度まで除去されていることが判明した。さらに、ZnS添加1.5当量添加では、5価Asの還元が殆ど無く、不純物であるBiは極低濃度まで除去されており、且つ、99%の3価Feが2価Feへ還元出来ていることが判明した。
【0081】
(実施例4)
液質調整剤として試薬ZnSを用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。含砒素溶液は、製錬煙灰の処理により得られたAs浸出液(実液)を用いた。
(1)含砒素溶液
As質量3.7%、Cu質量17.6%を含有するC銅製錬所発生の熔錬炉煙灰2kgへ、純水5Lを加えてスラリーとし、次いで、250g/LのCa(OH)ミルクを添加し、pH値3.2を維持しながら30分間浸出した後、加圧濾過に供じた。
次に、5Lの純水を用いて濾過器内を通水洗浄して、濾過器内の1次浸出残渣を得た。
得られた洗浄1次浸出残渣は、1,589g−wetであり水分が44質量%であった。当該洗浄1次浸出残渣のAs品位は8.5質量%であった。
【0082】
次いで、上記の洗浄1次浸出残渣へ、スラリー濃度が650g−dry/Lになるように純水を加えスラリーとし、加温はせずにpH値0.3の酸性下で、2次浸出を行った。
具体的には、洗浄1次浸出残渣825g−wetへ、純水を346mL配合しスラリーとし、実施例4に係る含砒素溶液を得た。
当該含砒素溶液へ硫酸を添加してpH値0.3とし、室温下で60分間浸出した。
浸出を終了した2次浸出スラリーは加圧濾過し、濾液を555mL回収し、実施例4に係る含砒素溶液の試料液を得た。
得られた含砒素溶液の試料液の組成を、表11に示す。
【0083】
【表11】
【0084】
(2)液質調整反応
本実施例に係る含砒素溶液(実液)の試料液に対する試薬ZnSによる液質調整反応は、実施例3と同様の試験装置を用いて行った。
【0085】
すなわち、上記の含砒素溶液の試料液500mLを4枚邪魔板付きの1リットルビーカーへ投入し、2段タービン羽を使用し、空気を巻き込まない程度の攪拌強度下で行った。
【0086】
《ZnSの添加量》
試薬ZnSの添加量は、3価Feを2価Feへ還元するに必要な量の2倍当量、及び2.5倍当量とした。すなわち、試薬ZnS量は、実施例3と同様に考えて、2倍当量に相当する試薬ZnS量は10.59gであり、2.5倍当量に相当する試薬ZnS量は13.23gである。
【0087】
《反応条件》
先ず、含砒素溶液の試料液を加温し80℃へまで昇温した時点でのpH値は0.53であったので、硫酸添加によりpH値0.50へ調整した。
次いで、当該含砒素溶液の試料液へ、試薬ZnS10.59g添加し、添加した時点を反応開始時とし、15分間反応させた後、少量サンプリングした。
引き続き、試薬ZnSを2.64g追加添加(この時点で、全添加量が13.23g)し、さらに15分間反応させた後、サンプリングし試験を終了した。尚、当該スラリーのpH値は反応初期に0.63まで上昇する挙動を示したが、最終はpH値0.59まで低下し、終了した。
結果を表12に示す。また、表13に5価Asの還元率、及び、3価Feの還元率を示す。
【0088】
【表12】
【表13】
【0089】
表12,13の結果より、含砒素溶液の試料液として実液を用いた場合においては、添加ZnS量は増えるものの、共存する雑多な不純物重金属類(本試験では、Bi、Sb、Pb、Snを検討した。)を、低濃度まで除去出来ることが判明した。
さらに、3価Feの99%が2価Feへ還元されても、5価Asの3価Asへの還元は全く認められなかった。
【0090】
(実施例5)
液質調整剤としてA亜鉛製錬所で処理する亜鉛精鉱(Zn含有品位が51.4質量%、水分が8質量%)を用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。含砒素溶液は、試薬を用いて調製したものであり、以下の要領で調製した。
【0091】
(1)含砒素溶液
〈含砒素溶液の原料調合〉
純水420mL
事前に作製した硫酸第2鉄溶液(Fe濃度79g/L)97mL
試薬硫酸銅(5水塩)39g
試薬60%砒酸溶液29mL
試薬二酸化ビスマス(Bi)2g
【0092】
〈含砒素溶液の調製〉
上述の試薬を混合して調合スラリーを得、実施例5に係る含砒素溶液とした。
当該含砒素溶液へ硫酸を添加してpH値を0.7に調整し、室温で90分間攪拌してから濾過し不溶解物を除去し、濾液を回収した。この濾液から500mLを量り取り含砒素溶液の試料液とし、残りを分析に供じた。
当該含砒素溶液の試料液の組成を、表14に示す。
【0093】
【表14】
【0094】
(2)液質調整反応
ここで、含砒素溶液への液質調整剤(亜鉛精鉱)の添加量は、実施例3、4と同様に3価Feを2価Feへ還元するに必要な量の2.5倍当量(当該亜鉛精鉱として21.1g)および3.0倍当量(当該亜鉛精鉱として25.3g)とした。
尚、当該液質調整剤(亜鉛精鉱)の添加量は、含有されるZnが全てZnS形態と仮定して、含有水分量も考慮に入れ算出したものである。
【0095】
試験に用いた反応装置、および試験の操作は、実施例3、4と同様である。ただし各添加水準における反応時間は60分間とした。
すなわち、含砒素溶液500mLを加温しながら硫酸を添加し、最終80℃へ昇温した時点で、当該含砒素溶液のpH値が0.50となるように調整した。尚、その後、試験は80℃恒温下で行った。
次いで、液質調整剤を21.1g添加し、添加した時点を反応開始時とし、60分間反応させた後、少量サンプリングした。
引き続き、液質調整剤を4.2g追加添加(この時点で、全添加量が25.3g)し、さらに60分間反応させた後、サンプリングし試験を終了した。
尚、反応中は硫酸を適宜適時添加して、pH値0.5を維持しながら行った。
結果を表15に示す。また、表16に5価Asの3価Asへの還元率および3価Feの2価Feへの還元率を示す。
【0096】
【表15】
【表16】
【0097】
表15、16の結果より、液質調整剤に亜鉛精鉱を用いた場合でも、含砒素溶液中の5価Asを殆ど3価Asへ還元することなく、3価Feの95%以上を2価Feへ還元できた。さらに不純物であるBiを極低濃度まで除去できることが判明した。
【0098】
(実施例6)
液質調整剤として銅精鉱を用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。含砒素溶液は、製錬煙灰の処理により得られたAs浸出液(実液)を用いた。
【0099】
(1)含砒素溶液
実施例2と同様の煙灰を用い、同様の操作を行って酸化殿物を得た。
次いで、当該酸化殿物を、実施例2と同じスラリー濃度とし、実施例6に係る含砒素溶液を得た。
当該含砒素溶液へ硫酸を添加し、室温下pH値0.5で60分間浸出を行った後、濾過に供じて含砒素溶液の試料液を回収した。
当該含砒素溶液の試料液の組成を表17に示す。
【0100】
【表17】
【0101】
(2)液質調整反応
実施例6に係る液質調整剤は、A国産出の銅精鉱であり、Cu23.7質量%、Fe24.0質量%の組成を示すもので、含有水分量は4.3質量%であった。
また、本実施例に供ずる試料液の量は300mLであり、液質調整剤の量は、銅精鉱中のCuが全てCuFeSと仮定し、反応は4)式により進むと仮定して、当該反応の10倍当量とした。尚、10倍当量と多目にした理由は、反応性を明確に調べるためである。
4Fe3++CuFeS=5Fe2++Cu2++2S・・・4)式
従って、反応10倍当量の銅精鉱の量については、下記量となる。
含砒素溶液中の3価Fe量=32.8×0.3=9.84gであることから、
反応10倍当量の銅精鉱の量=9.84÷(4×55.85)×63.55÷0.237÷0.957×10=123g
尚、55.85はFeの原子量であり、63.55はCuの原子量である。
【0102】
試験ユニットは、0.5Lビーカー使用、4枚邪魔板、2タービン羽根を用い、攪拌速度は各試験共通で600rpmである。
試験は、含砒素溶液へ、銅精鉱を所定量添加しスラリーとし、次いで硫酸を用いpH値を0.5〜0.6の範囲に維持しながら昇温し、所定の液温度(本実施例では、50℃と80℃との2水準)に達した時点を反応開始とし、反応の経時変化を追跡した。尚、反応中も、当該含砒素溶液をpH値を0.5〜0.6の範囲に維持しながら行った。
結果を表18に示す。また、表19に反応の進行に伴う3価Feの2価Feへの還元率の推移を示す。
【0103】
【表18】
【表19】
【0104】
表18、19の結果より、反応温度が50℃および80℃共に、銅精鉱は3価Feの還元剤となり得ることが確認された。しかし、反応温度50℃では、反応4時間時点においても3価Feの還元率は24%と低く、その反応速度は非常に遅いことが判明した。
一方、反応温度80℃では、反応速度は大幅に増加し改善されるものの、3価Feの還元率が70%を超える時点(反応30分間時点)からAsの沈積が起こり始めた。
尚、当該Asの沈積は、沈殿物のX線回折結果から、スコロダイトの生成に起因するものであることが判明したが、その反応機構は不明である。
【0105】
(比較例1)
液質調整剤としてNaSHを用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の比較例である。含砒素溶液は、製錬煙灰の処理により得られたAs浸出液(実液)を用いた。
【0106】
(1)含砒素溶液
実施例1と同様の煙灰を用い、同様の操作を行って得られた酸化殿物を、実施例1と同様のスラリー濃度で、室温下pH値0.5で浸出を行った後、濾過に供じて濾液を得た。当該得られた濾液へ、試薬硫酸銅を添加してCu濃度を15g/Lに調整し、含砒素溶液を得た。尚、当該Cuの添加は、含砒素溶液中のCu濃度を上げ、NaSHによる5価Asの3価Asへの還元の抑制を目的としたものである。
当該含砒素溶液の組成を、表20に元液組成として示す。
【0107】
(2)液質調整反応
含砒素溶液300mLを、4枚邪魔板付きの500mLビーカーへ投入し、2段タービン羽を使用し空気を巻き込まない程度の攪拌強度下で、比較例1に係る液質調整反応を行った。
NaSHは、25質量%NaSH溶液とした。
含砒素溶液へ、当該25質量%NaSH溶液を段階的に追加添加していき、その都度、添加後10分間経過時点でサンプリングを行った。
尚、当該液質調整反応は、60℃恒温下とし、硫酸を適宜適時添加してpH値を0.5〜0.6の範囲に維持した。
表20に、反応の進行に伴うサンプリングの分析結果の一覧を示す。
【0108】
【表20】
【0109】
表20から明らかなように、本比較例では、薬剤添加による各元素の濃度の希釈が起きた。一方、Feは、酸性下では殆ど硫化されることはなく、また本反応において多少の沈析はあるとしても、特にFeと難溶性化合物を積極的に作る反応が付随しない。従って、反応の進行に伴うFe濃度の低下は、希釈の度合いを示すものと考えられる。
【0110】
表21に、反応の進行に伴う(T−As)/(T−Fe)比率、5価Asの還元率、および、3価Feの還元率の推移を示す。
【0111】
【表21】
【0112】
表21より、25%NaSH溶液10.2g添加時点以降から、Asの沈析が始まり、その後、25%NaSH溶液の添加に伴い、漸次Asが沈析していくことが分かる。
また、5価Asの3価Asへの還元、3価Feの2価Feへの還元、および、Bi等の不純物の沈析は、当該Asの沈析を伴いながら漸次進行した。3価Feがほぼ2価Feに還元された時点(25%NaSH溶液34g添加)において、5価Asの3価Asへの還元は9%に達することが判明した。
以上の結果から、NaSHを液質調整剤として用いた場合、3価Feの還元、および、Bi等不純物重金属類の除去は可能であるが、Asの相当量の沈析を伴い、且つ、5価Asの3価Asへの還元が10%近くまで進行することが判明した。従って、当該観点より、NaSHは、本発明の実施例に係る液質調整剤に比して劣るものと判断された。
図1