【実施例】
【0041】
(実施例1)
液質調整剤として金属Fe(Fe粉)を用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。含砒素溶液は実液試料を用いた。
【0042】
(1)含砒素溶液
実施例1に係る含砒素溶液は、煙灰から酸化殿物を作製し、当該酸化殿物を浸出して調製した。その調製方法について説明する。
【0043】
〈煙灰から元液の原料となる酸化殿物の作製〉
当該酸化殿物は、下記に示す1次浸出工程、2次浸出工程、中和工程、及び、酸化工程からなるフローから回収される。以下に、具体的に説明する。
【0044】
《1次浸出工程》
As3.2質量%、Cu23.1質量%を含有するA銅製錬所発生の熔錬炉煙灰3kgへ、純水8.8Lを加えてスラリーとし、次いで、当該スラリーへ、200g/LのCa(OH)
2ミルクを添加し、室温にて、pH値3.8に維持しながら30分間浸出した後、加圧濾過に供じた。
得られた1次浸出液は8,980mLであり、Cu濃度53g/L、As濃度0.09g/Lであった。
一方、濾過器内の1次浸出残渣は、純水を用いて当該濾過器内を通水洗浄した後、洗浄1次浸出残渣として回収した。尚、使用した純水量は、1次浸出に用いる純水量と同じである。得られた洗浄1次浸出残渣は、2,630g−wetであり、水分が34質量%であった。
【0045】
《2次浸出工程(1回目)》
上述の洗浄1次浸出残渣560g−wetへ、純水530mLを加えてスラリーとし、次いで75℃に加温し、硫酸添加によりpH値0.2とし60分間浸出を行った後、当該スラリーを加圧濾過へ供じた。
以上の操作により、2次浸出液(本発明において「2次浸出液《1》」と記載する場合がある。)710mLを回収した。
一方、濾過器内の2次浸出残渣は、純水を用いて濾過器内を通水洗浄し、通水洗浄水(本発明において「2次通水洗浄水《1》」と記載する場合がある。)585mLを回収した。
【0046】
《中和工程(1回目)》
中和工程(1回目)では、2次浸出(1回目)で得られた2浸出液《1》700mLへ、純水370mLを加え、さらに洗浄1次浸出残渣840g−wetを添加し、過剰酸分を洗浄1次浸出残渣により中和した。
当該処理は75℃で行い、中和終了時の当該スラリーのpH値は0.9であった。
次いで、中和後のスラリーは加圧濾過へ供じ、中和後液(本発明において「中和後液《1》」と記載する場合がある。)1,130mLと、中和残渣(本発明において「中和残渣《1》」と記載する場合がある。)612g−wetを回収した。
【0047】
《2次浸出工程(2回目)》
2次浸出(2回目)では、中和残渣《1》570g−wetと、通水洗浄水《1》580mLと、純水130mLとを混合してスラリーとする。次いで、当該スラリーを75℃に加温し、硫酸添加によりpH値0.2とし、60分間浸出を行った後、当該スラリーを加圧濾過へ供じた。回収した2次浸出液(本発明において「2浸出液《2》」と記載する場合がある。)は770mLであった。
【0048】
《中和工程(2回目)》
以上の操作により、中和(2回目)では、2次浸出(2回目)で得られた2浸出液《2》760mLへ、純水280mLを加え、さらに洗浄1次浸出残渣790g−wetを添加し、過剰酸分の洗浄1次浸出残渣による中和を行った。
当該処理は75℃で行い、中和終了時の当該スラリーのpH値は1.1であった。
次いで、中和後のスラリーは加圧濾過へ供じ、中和後液(本発明において「中和後液《2》」と記載する場合がある。)1,066mLを回収した。
【0049】
《酸化工程》
酸化工程では、中和後液中に溶存するAsのほぼ全てを、5価As化合物として殿物化(本発明において「酸化殿物」と記載する場合がある。)し、回収する工程である。
本実施例では、工程が定常状態となる中和後液《2》を対象した処理例を示す。
中和後液《2》1,050mLへ、Ca(OH)
2ミルク200g/Lを添加し、液温50℃、pH値2.0に調整し、次いで30%過酸化水素水を、当該スラリーの液電位が600mv(Vs:Ag/AgCl)を超えるように添加した後、30分間攪拌し、反応を終了した。
反応終了後の酸化スラリーを加圧濾過し、固液分離を行って酸化殿物562g−wetを回収した。
当該酸化殿物は、水分45%であり、As含有品位9.0%、Fe含有品位9.7%であった。
【0050】
本実施例では、上述の操作で得られた酸化殿物550g−wetを浸出し、含砒素溶液とした。
【0051】
(2)液質調整反応
液質調整剤に、試薬Fe粉を用いた液質調整反応について説明する。
【0052】
〈Feの粉添加量〉
上述した酸化殿物中に含有されるFeの全てが3価Feであると仮定し、当該3価Feの還元反応に必要な1.05倍当量を、Feの粉添加量とした。
当該還元反応を、1)式に示す。
2Fe
3++Fe=3Fe
2+・・・1)式
従って、試薬Fe粉添加量は、下記量となる。
添加試薬Fe粉量=550×(1−0.45)×0.097÷2×1.05=15.40g
尚、本実施例では、反応性の高い試薬Fe粉を用いた場合であるが、反応性が若干低い工業用Fe粉やスクラップFe等を用いる場合には、事前に反応性を確認しその添加量を決めることが好ましい。
【0053】
〈操作〉
上述の煙灰処理により得られた酸化殿物550g−wetへ、純水を400mL添加してスラリーとし、次いで硫酸を添加した後、室温下、pH値0.3にて60分間浸出を行った。この時点(浸出終了時点)で、少量サンプリングを行った。
引き続き、室温下で、試薬Fe粉15.40gを10分間に渡り当該スラリーへ添加した後、さらに60分間攪拌し、液質調整反応を終了した。
反当該スラリーの、液質調整反応終了時のpH値は0.85で、液度は50℃であった。この時点(液質調整終了時点)で、少量サンプリングを行った。
液質調整反応終了後、当該スラリーを直ちに加圧濾過に供じ、固液分離を行い、液質調整の操作を終え結晶化元液を得た。得られた濾液(結晶化元液)は520mLであった。
表1に、酸化殿物の浸出終了時点、および、液質調整終了時点の液組成を示す。また、表2に、5価Asの3価Asへの還元率および3価Feの2価Feへの還元率を示す。
尚、本発明において、全As濃度を「T−As」と、全Fe濃度を「T−Fe」と記載する場合がある。
【0054】
【表1】
【表2】
【0055】
表1、2の結果から、液質調整剤に金属Fe(Fe粉)を用いた場合、含砒素溶液中の5価Asを殆ど3価Asへ還元することなく、3価Feの大半(98%)を2価Feへ還元し、さらに不純物重金属類であるBi、Pb等を極低濃度まで除去できる事が判明した。
【0056】
(3)結晶化
得られた結晶化元液500mLを量り取り、スコロダイト結晶化試験に供じた。
結晶化試験の条件について説明する。
1リットルビーカーに4枚邪魔板を設置し、攪拌には2段タービン羽を用いた。反応時の攪拌は1000rpmにて実施した。
【0057】
《反応条件》
結晶化元液を昇温し、液温95℃に到達した時点で空気の吹き込みを開始し、3時間吹き込んだ後、吹き込みガスを酸素に換え、さらに3時間吹き込みを行って、結晶化反応後スラリーを得た。尚、吹き込みガスはガラス管を介しビーカー底部から吹き込みを行った。
吹き込みガス量は1000mL/分、吹き込み開始時を反応開始時とし、95℃下で合計6時間(前半空気3時間+後半酸素3時間)吹き込み反応を行った。
【0058】
《濾過条件》
得られた結晶化反応後スラリーを、以下の条件で濾過した。
濾過圧:4〜4.5kgf/cm
2下での加圧濾過を行った。
濾過には、孔径が1μmのメンブレンフルター(PTFE製で直径142mm)を使用した。
【0059】
当該濾過条件下での濾過時間は8秒であり、非常に濾過性の良いスコロダイトが得られた。尚、得られた濾液、すなわち結晶化後液のAs濃度は1.7g/Lであった。
得られたスコロダイトは、純水で洗浄した後、環境庁告示13号に準拠した溶出試験へ供じた。
表3に得られたスコロダイトの組成を示す。また、表4に当該スコロダイトの溶出試験結果を示す。
【0060】
【表3】
【表4】
【0061】
表4の結果より、得られたスコロダイトの溶出値は、Asのみならず、規制対象重金属類も全て基準を満足するものであった。
【0062】
(実施例2)
液質調整剤として金属Cu(Cu粉)を用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。本実施例で用いた含砒素溶液は、実施例1と同様に実液試料を用いた。
【0063】
(1)含砒素溶液
実施例2に係る含砒素溶液は、煙灰から酸化殿物を作製し、当該酸化殿物を浸出して調製した。その調製方法について説明する。
実施例2においては、As3.7質量%、Cu17.3質量%を含有するB銅製錬所発生の熔錬炉煙灰に対し、実施例1と同様の処理をして得た酸化殿物を含砒素原料とした。
【0064】
(2)液質調整反応
本実施例では、上述した酸化殿物をスラリーとしたものを含砒素溶液とした。
当該酸化殿物は、加圧濾過器内で純水を用いた通水洗浄を行ったものであり、その組成はAsが8.6質量%、Feが7.3質量%、水分が41質量%のものである。
以下、当該酸化殿物500g−wetと、液質調整剤として試薬Cu粉を用いた場合の液質調整の方法について具体的に説明する。
【0065】
酸化殿物中に含有するFeの全てが3価Feであると仮定し、3価Feの2価Feへの還元反応に必要な量の1.0倍当量を、Cu粉の添加量とした。
当該3価Feの2価Feへの還元反応を、2)式に示す。
2Fe
3++Cu=2Fe
2++Cu
2+・・・2)式
従って、試薬Cu粉添加量は、下記量となる。
添加試薬Cu粉量=500×(1−0.41)×0.073÷55.85÷2×63.55×1.0=12.25g
【0066】
試料500g−wetへ、純水400mLを添加しスラリーとし実施例2に係る含砒素溶液とした。次いで、当該含砒素溶液へ硫酸を添加し、室温下でpH値0.3とし60分間浸出を行った。この時点(浸出終了時点)で、少量サンプリングを行った。
引き続き室温下で液質調整剤として、試薬Cu粉12.25gを30秒間に渡り当該含砒素溶液へ添加した。すると、液質調整剤添加終了後、15分間時点で含砒素溶液のpH値が0.75に達した。この時点から当該含砒素溶液へ硫酸を添加し、当該pH値を維持しながらさらに55分間攪拌し反応を終了した。この調整終了時点で少量サンプリングを行った。
尚、反応終了時点での含砒素溶液の液温は47℃であった。
【0067】
当該含砒素溶液を直ちに加圧濾過に供じ、固液分離を行って液質調整反応を終え、濾液としてスコロダイト生成の結晶化元液を得た。得られたスコロダイト生成の結晶化元液は477mLであった。
表5に浸出終了時点および液質調整終了時点の含砒素溶液の組成を示す。また、表6に5価Asの3価Asへの還元率および3価Feの2価Feへの還元率を示す。
【0068】
【表5】
【表6】
【0069】
表5、6の結果から、液質調整剤として金属Cu粉を用いた場合でも、含砒素溶液中の5価Asを殆ど3価Asへ還元することなく、一方、3価Feの95%以上を2価Feへ還元できた。さらに不純物重金属類であるBi、Pb等を極低濃度まで除去できることが判明した。
【0070】
(3)結晶化
得られた結晶化元液450mLを量り取り、スコロダイト結晶化試験に供じた。
結晶化条件は、実施例1と同様である。
得られたスコロダイトの溶出試験結果を表7に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
表7の結果より、得られたスコロダイトの溶出値は、Asのみならず、規制対象重金属類も全て基準を満足するものであった。
【0073】
(実施例3)
液質調整剤として試薬ZnSを用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。含砒素溶液は、試薬を用いて調製したものであり、以下の要領で調製した。
【0074】
(1)含砒素溶液
〈含砒素溶液の原料調合〉
純水 470mL
事前に作製した硫酸第2鉄溶液(Fe濃度79g/L)63mL
試薬硫酸銅(5水塩)23g
試薬60%砒酸溶液18mL
試薬二酸化ビスマス(Bi
2O
3)2g
【0075】
〈含砒素溶液の調製〉
上述の試薬を混合して調合スラリーを得、実施例1に係る含砒素溶液とした。
当該含砒素溶液へ硫酸を添加してpH値を0.7に調整し、室温で90分攪拌してから濾過し、不溶解物を除去して濾液を回収した。
この濾液から500mLを量り取り含砒素溶液の試料液とし、残りは分析に供じた。
当該含砒素溶液の試料液の組成を、表8に示す。
【0076】
【表8】
【0077】
ここで、当該含砒素溶液の試料液への試薬ZnSの添加量は、3)式に示す3価Feを2価Feへ還元するに必要な量の1倍当量および1.5倍当量とした。
Fe
2(SO
4)
3+ZnS=2FeSO
4+ZnSO
4+S・・・・3)式
すなわち、1倍当量に相当する試薬ZnS量は、ZnSの純度を99.5%とすれば
9(g/L)×0.5(L)×97.4(ZnSの分子量)÷55.9(Feの原子量)÷2÷0.995=3.94g
である。
同様に、1.5倍当量の場合は5.91gである。
【0078】
(2)液質調整反応
含砒素溶液の試料液500mLを4枚邪魔板付きの1リットルビーカーへ投入し、2段タービン羽を使用し、空気を巻き込まない程度の攪拌強度下で行った。
そして、含砒素溶液の試料液を加温しながら硫酸を添加し、最終的に80℃へ昇温した時点で、当該試料液のpH値が0.50となるように調整した。尚、その後、反応は80℃恒温下で行った。
次いで、含砒素溶液の試料液へ、試薬ZnSを3.94g添加し、添加した時点を反応開始時として15分間反応させた後、少量サンプリングした。引き続き含砒素溶液の試料液へ、試薬ZnS1.97gを追加添加(この時点で、全添加量が5.91g)し、さらに15分間反応させた後、サンプリングし試験を終了した。尚、当該含砒素溶液の試料液のpH値は反応初期に0.56まで上昇する挙動を示したが、最終的にはpH値が0.50まで低下し終了した。
結果を表9に示す。また、表10に5価Asの3価Asへの還元率および3価Feの2価Feへの還元率を示す。
【0079】
【表9】
【表10】
【0080】
表9、10の結果から、ZnS添加1.0当量で、5価Asの還元は殆ど無く、不純物であるBiは極低濃度まで除去されていることが判明した。さらに、ZnS添加1.5当量添加では、5価Asの還元が殆ど無く、不純物であるBiは極低濃度まで除去されており、且つ、99%の3価Feが2価Feへ還元出来ていることが判明した。
【0081】
(実施例4)
液質調整剤として試薬ZnSを用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。含砒素溶液は、製錬煙灰の処理により得られたAs浸出液(実液)を用いた。
(1)含砒素溶液
As質量3.7%、Cu質量17.6%を含有するC銅製錬所発生の熔錬炉煙灰2kgへ、純水5Lを加えてスラリーとし、次いで、250g/LのCa(OH)
2ミルクを添加し、pH値3.2を維持しながら30分間浸出した後、加圧濾過に供じた。
次に、5Lの純水を用いて濾過器内を通水洗浄して、濾過器内の1次浸出残渣を得た。
得られた洗浄1次浸出残渣は、1,589g−wetであり水分が44質量%であった。当該洗浄1次浸出残渣のAs品位は8.5質量%であった。
【0082】
次いで、上記の洗浄1次浸出残渣へ、スラリー濃度が650g−dry/Lになるように純水を加えスラリーとし、加温はせずにpH値0.3の酸性下で、2次浸出を行った。
具体的には、洗浄1次浸出残渣825g−wetへ、純水を346mL配合しスラリーとし、実施例4に係る含砒素溶液を得た。
当該含砒素溶液へ硫酸を添加してpH値0.3とし、室温下で60分間浸出した。
浸出を終了した2次浸出スラリーは加圧濾過し、濾液を555mL回収し、実施例4に係る含砒素溶液の試料液を得た。
得られた含砒素溶液の試料液の組成を、表11に示す。
【0083】
【表11】
【0084】
(2)液質調整反応
本実施例に係る含砒素溶液(実液)の試料液に対する試薬ZnSによる液質調整反応は、実施例3と同様の試験装置を用いて行った。
【0085】
すなわち、上記の含砒素溶液の試料液500mLを4枚邪魔板付きの1リットルビーカーへ投入し、2段タービン羽を使用し、空気を巻き込まない程度の攪拌強度下で行った。
【0086】
《ZnSの添加量》
試薬ZnSの添加量は、3価Feを2価Feへ還元するに必要な量の2倍当量、及び2.5倍当量とした。すなわち、試薬ZnS量は、実施例3と同様に考えて、2倍当量に相当する試薬ZnS量は10.59gであり、2.5倍当量に相当する試薬ZnS量は13.23gである。
【0087】
《反応条件》
先ず、含砒素溶液の試料液を加温し80℃へまで昇温した時点でのpH値は0.53であったので、硫酸添加によりpH値0.50へ調整した。
次いで、当該含砒素溶液の試料液へ、試薬ZnS10.59g添加し、添加した時点を反応開始時とし、15分間反応させた後、少量サンプリングした。
引き続き、試薬ZnSを2.64g追加添加(この時点で、全添加量が13.23g)し、さらに15分間反応させた後、サンプリングし試験を終了した。尚、当該スラリーのpH値は反応初期に0.63まで上昇する挙動を示したが、最終はpH値0.59まで低下し、終了した。
結果を表12に示す。また、表13に5価Asの還元率、及び、3価Feの還元率を示す。
【0088】
【表12】
【表13】
【0089】
表12,13の結果より、含砒素溶液の試料液として実液を用いた場合においては、添加ZnS量は増えるものの、共存する雑多な不純物重金属類(本試験では、Bi、Sb、Pb、Snを検討した。)を、低濃度まで除去出来ることが判明した。
さらに、3価Feの99%が2価Feへ還元されても、5価Asの3価Asへの還元は全く認められなかった。
【0090】
(実施例5)
液質調整剤としてA亜鉛製錬所で処理する亜鉛精鉱(Zn含有品位が51.4質量%、水分が8質量%)を用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。含砒素溶液は、試薬を用いて調製したものであり、以下の要領で調製した。
【0091】
(1)含砒素溶液
〈含砒素溶液の原料調合〉
純水420mL
事前に作製した硫酸第2鉄溶液(Fe濃度79g/L)97mL
試薬硫酸銅(5水塩)39g
試薬60%砒酸溶液29mL
試薬二酸化ビスマス(Bi
2O
3)2g
【0092】
〈含砒素溶液の調製〉
上述の試薬を混合して調合スラリーを得、実施例5に係る含砒素溶液とした。
当該含砒素溶液へ硫酸を添加してpH値を0.7に調整し、室温で90分間攪拌してから濾過し不溶解物を除去し、濾液を回収した。この濾液から500mLを量り取り含砒素溶液の試料液とし、残りを分析に供じた。
当該含砒素溶液の試料液の組成を、表14に示す。
【0093】
【表14】
【0094】
(2)液質調整反応
ここで、含砒素溶液への液質調整剤(亜鉛精鉱)の添加量は、実施例3、4と同様に3価Feを2価Feへ還元するに必要な量の2.5倍当量(当該亜鉛精鉱として21.1g)および3.0倍当量(当該亜鉛精鉱として25.3g)とした。
尚、当該液質調整剤(亜鉛精鉱)の添加量は、含有されるZnが全てZnS形態と仮定して、含有水分量も考慮に入れ算出したものである。
【0095】
試験に用いた反応装置、および試験の操作は、実施例3、4と同様である。ただし各添加水準における反応時間は60分間とした。
すなわち、含砒素溶液500mLを加温しながら硫酸を添加し、最終80℃へ昇温した時点で、当該含砒素溶液のpH値が0.50となるように調整した。尚、その後、試験は80℃恒温下で行った。
次いで、液質調整剤を21.1g添加し、添加した時点を反応開始時とし、60分間反応させた後、少量サンプリングした。
引き続き、液質調整剤を4.2g追加添加(この時点で、全添加量が25.3g)し、さらに60分間反応させた後、サンプリングし試験を終了した。
尚、反応中は硫酸を適宜適時添加して、pH値0.5を維持しながら行った。
結果を表15に示す。また、表16に5価Asの3価Asへの還元率および3価Feの2価Feへの還元率を示す。
【0096】
【表15】
【表16】
【0097】
表15、16の結果より、液質調整剤に亜鉛精鉱を用いた場合でも、含砒素溶液中の5価Asを殆ど3価Asへ還元することなく、3価Feの95%以上を2価Feへ還元できた。さらに不純物であるBiを極低濃度まで除去できることが判明した。
【0098】
(実施例6)
液質調整剤として銅精鉱を用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の実施例である。含砒素溶液は、製錬煙灰の処理により得られたAs浸出液(実液)を用いた。
【0099】
(1)含砒素溶液
実施例2と同様の煙灰を用い、同様の操作を行って酸化殿物を得た。
次いで、当該酸化殿物を、実施例2と同じスラリー濃度とし、実施例6に係る含砒素溶液を得た。
当該含砒素溶液へ硫酸を添加し、室温下pH値0.5で60分間浸出を行った後、濾過に供じて含砒素溶液の試料液を回収した。
当該含砒素溶液の試料液の組成を表17に示す。
【0100】
【表17】
【0101】
(2)液質調整反応
実施例6に係る液質調整剤は、A国産出の銅精鉱であり、Cu23.7質量%、Fe24.0質量%の組成を示すもので、含有水分量は4.3質量%であった。
また、本実施例に供ずる試料液の量は300mLであり、液質調整剤の量は、銅精鉱中のCuが全てCuFeS
2と仮定し、反応は4)式により進むと仮定して、当該反応の10倍当量とした。尚、10倍当量と多目にした理由は、反応性を明確に調べるためである。
4Fe
3++CuFeS
2=5Fe
2++Cu
2++2S・・・4)式
従って、反応10倍当量の銅精鉱の量については、下記量となる。
含砒素溶液中の3価Fe量=32.8×0.3=9.84gであることから、
反応10倍当量の銅精鉱の量=9.84÷(4×55.85)×63.55÷0.237÷0.957×10=123g
尚、55.85はFeの原子量であり、63.55はCuの原子量である。
【0102】
試験ユニットは、0.5Lビーカー使用、4枚邪魔板、2タービン羽根を用い、攪拌速度は各試験共通で600rpmである。
試験は、含砒素溶液へ、銅精鉱を所定量添加しスラリーとし、次いで硫酸を用いpH値を0.5〜0.6の範囲に維持しながら昇温し、所定の液温度(本実施例では、50℃と80℃との2水準)に達した時点を反応開始とし、反応の経時変化を追跡した。尚、反応中も、当該含砒素溶液をpH値を0.5〜0.6の範囲に維持しながら行った。
結果を表18に示す。また、表19に反応の進行に伴う3価Feの2価Feへの還元率の推移を示す。
【0103】
【表18】
【表19】
【0104】
表18、19の結果より、反応温度が50℃および80℃共に、銅精鉱は3価Feの還元剤となり得ることが確認された。しかし、反応温度50℃では、反応4時間時点においても3価Feの還元率は24%と低く、その反応速度は非常に遅いことが判明した。
一方、反応温度80℃では、反応速度は大幅に増加し改善されるものの、3価Feの還元率が70%を超える時点(反応30分間時点)からAsの沈積が起こり始めた。
尚、当該Asの沈積は、沈殿物のX線回折結果から、スコロダイトの生成に起因するものであることが判明したが、その反応機構は不明である。
【0105】
(比較例1)
液質調整剤としてNaSHを用いた場合の、含砒素溶液に対する液質調整の比較例である。含砒素溶液は、製錬煙灰の処理により得られたAs浸出液(実液)を用いた。
【0106】
(1)含砒素溶液
実施例1と同様の煙灰を用い、同様の操作を行って得られた酸化殿物を、実施例1と同様のスラリー濃度で、室温下pH値0.5で浸出を行った後、濾過に供じて濾液を得た。当該得られた濾液へ、試薬硫酸銅を添加してCu濃度を15g/Lに調整し、含砒素溶液を得た。尚、当該Cuの添加は、含砒素溶液中のCu濃度を上げ、NaSHによる5価Asの3価Asへの還元の抑制を目的としたものである。
当該含砒素溶液の組成を、表20に元液組成として示す。
【0107】
(2)液質調整反応
含砒素溶液300mLを、4枚邪魔板付きの500mLビーカーへ投入し、2段タービン羽を使用し空気を巻き込まない程度の攪拌強度下で、比較例1に係る液質調整反応を行った。
NaSHは、25質量%NaSH溶液とした。
含砒素溶液へ、当該25質量%NaSH溶液を段階的に追加添加していき、その都度、添加後10分間経過時点でサンプリングを行った。
尚、当該液質調整反応は、60℃恒温下とし、硫酸を適宜適時添加してpH値を0.5〜0.6の範囲に維持した。
表20に、反応の進行に伴うサンプリングの分析結果の一覧を示す。
【0108】
【表20】
【0109】
表20から明らかなように、本比較例では、薬剤添加による各元素の濃度の希釈が起きた。一方、Feは、酸性下では殆ど硫化されることはなく、また本反応において多少の沈析はあるとしても、特にFeと難溶性化合物を積極的に作る反応が付随しない。従って、反応の進行に伴うFe濃度の低下は、希釈の度合いを示すものと考えられる。
【0110】
表21に、反応の進行に伴う(T−As)/(T−Fe)比率、5価Asの還元率、および、3価Feの還元率の推移を示す。
【0111】
【表21】
【0112】
表21より、25%NaSH溶液10.2g添加時点以降から、Asの沈析が始まり、その後、25%NaSH溶液の添加に伴い、漸次Asが沈析していくことが分かる。
また、5価Asの3価Asへの還元、3価Feの2価Feへの還元、および、Bi等の不純物の沈析は、当該Asの沈析を伴いながら漸次進行した。3価Feがほぼ2価Feに還元された時点(25%NaSH溶液34g添加)において、5価Asの3価Asへの還元は9%に達することが判明した。
以上の結果から、NaSHを液質調整剤として用いた場合、3価Feの還元、および、Bi等不純物重金属類の除去は可能であるが、Asの相当量の沈析を伴い、且つ、5価Asの3価Asへの還元が10%近くまで進行することが判明した。従って、当該観点より、NaSHは、本発明の実施例に係る液質調整剤に比して劣るものと判断された。