(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記感応部は、前記オイルから前記イオン液体膜への前記極性物質の移動に伴う前記イオン液体膜内における水素イオン濃度の変化に感応するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のオイル劣化センサ。
前記比較電極は、前記電位差が前記感応電極との間に形成される基準電極部と、前記基準電極部の少なくとも一部が浸漬される内部液と、前記内部液と前記イオン液体膜との間に設けられる液絡部を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のオイル劣化センサ。
イオン液体を含むイオン液体膜と、前記イオン液体膜によって少なくとも一部が覆われた感応部を有する感応電極と、前記イオン液体膜に電気的に連通される比較電極とを備えるオイル劣化センサを用いて、オイルの劣化により生じる極性物質を検知して前記オイルの劣化を検出するオイル劣化検出方法であって、
前記オイルに前記イオン液体膜が少なくとも部分的に接触し、前記オイルから前記イオン液体膜への前記極性物質の移動に感応するように、前記オイル劣化センサを前記オイルに浸漬する浸漬ステップと、
前記オイル劣化センサを前記オイルに浸漬した状態で、前記感応電極と前記比較電極との間の電位差を計測する計測ステップと、
前記電位差に基づいて、前記オイルの劣化を検出する劣化検出ステップとを備えることを特徴とするオイル劣化検出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のpH電極センサを使用すれば、pH電極センサを水溶液に浸漬した状態で水溶液のpHを直接、かつ継続的に測定することが可能である。しかし、試料が非極性であるオイルである場合、pH電極センサを直接オイルに浸漬しても、pH電極のガラス電極とオイルとの親和性が乏しいため、一般的なpH電極センサをそのままオイルの劣化検出に適用することはできない。
【0009】
また、特許文献2に記載の手法では、油中のコンタミ混入に伴う電気特性の変化について、導電率および誘電率の観点から捉え、導電率および誘電率に基づき油の劣化を判断するものであり、油の全酸価の変化を直接測定するのではなく、全酸価の変化に伴う油そのものの劣化を判断できない。
【0010】
このような実情に鑑み、本発明の少なくともいくつかの実施形態は、溶解、希釈等の操作が加えられていないオイルをそのまま測定対象とする場合であっても、オイルそのものの劣化を直接的に検出することが可能であるオイル劣化センサを提供することを目的とする。また、本発明の少なくともいくつかの実施形態は、そのようなオイル劣化センサを用いたオイル劣化検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の少なくとも一実施形態に係るオイル劣化センサは、オイルの劣化により生じる極性物質を検知して前記オイルの劣化を検出するオイル劣化センサであって、
イオン液体を含み、前記オイルの劣化検出時に少なくとも部分的に前記オイルに接触可能であるイオン液体膜と、
前記イオン液体膜によって少なくとも一部が覆われ、前記オイルから前記イオン液体膜への前記極性物質の移動に感応するように構成された感応部を有する感応電極と、
前記イオン液体膜に電気的に連通される比較電極と、
前記感応電極と前記比較電極との間の電位差を測定するための電位差計とを備える。
【0012】
本発明者は、鋭意検討の結果、非極性液体にイオン液体膜が浸漬された状態において、イオン液体膜によって少なくとも一部が覆われた感応部を有する感応電極と、イオン液体膜に電気的に連通する比較電極との間には、イオン液体膜内に存在する極性物質の量に応じた電位差が発生することを見出した。これは、非極性液体と感応電極の感応部との間に極性であるイオン液体膜が介在することで、非極性液体からイオン液体膜への極性物質の移動に感応部が感応できるようになったためだと考えられる。非極性液体からイオン液体膜への極性物質の移動は非極性液体とイオン液体との平衡関係によって記述可能であるから、感応電極と比較電極との間に発生する電位差は非極性液体内における極性物質の量の指標である。よって、感応電極と比較電極との間に発生する電位差から、非極性液体内における極性物質を検出することができる。
上記オイル劣化センサは、かかる本発明者による知見に基づくものである。すなわち、測定対象のオイルにイオン液体膜が接触可能であるため、上記オイル劣化センサをオイルに浸漬すると、オイルの劣化に起因してオイル内に生じた極性物質がオイルとイオン液体膜との間の界面を介してイオン液体膜内に移動する。そして、このイオン液体膜によって感応電極の感応部の少なくとも一部が覆われ、且つ、イオン液体膜に比較電極が電気的に連通されているため、感応電極と比較電極との間には、イオン液体膜内に存在する極性物質の量に応じた電位差が発生する。この電位差を電位差計で測定することで、該電位差からオイルの劣化度を検出することができる。
また、上記オイル劣化センサの測定原理は、上述したように、測定対象液体が非極性であっても成立し得るから、上記オイル劣化センサは、溶解、希釈等の操作が加えられていないオイルをそのまま測定対象とする場合であっても使用可能である。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記感応部は、前記オイルから前記イオン液体膜への前記極性物質の移動に伴う前記イオン液体膜内における水素イオン濃度の変化に感応するように構成されていてもよい。
この場合、オイル劣化センサのオイルへの浸漬時、感応電極の感応部が水素イオン濃度の変化に感応し、オイルの劣化に伴い生成する有機酸等の酸性物質の濃度に応じた電位差が感応電極と基準電極との間に発生する。よって、この電位差を電位差計で測定することにより、オイルの劣化を検出することができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記感応電極がガラス電極又はイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)電極であってもよい。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記比較電極は、前記電位差が前記感応電極との間に形成される基準電極部と、前記基準電極部の少なくとも一部が浸漬される内部液と、前記内部液と前記イオン液体膜との間に設けられる液絡部を有していてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記イオン液体膜は、前記感応部と前記液絡部の両方を少なくとも部分的に覆うように配置されていてもよい。
イオン液体膜が感応部と液絡部の両方が少なくとも部分的に覆うことにより、感応電極と比較電極との直接的な電気的連通状態をイオン液体膜によって形成できる。
【0017】
いくつかの実施形態では、上記オイル劣化センサは、前記イオン液体膜と前記オイルとの間に設けられ、前記イオン液体膜を部分的に覆う保護部をさらに備え、
前記イオン液体膜は、前記保護部によって覆われていない領域の少なくとも一部が前記オイルと接触するように構成されていてもよい。
オイル劣化センサが浸漬される試料オイルが撹拌状態にあると、感応電極等を覆うイオン液体膜の全部または一部が流去される場合がある。そこで、上述の実施形態のように、イオン液体膜を部分的に覆う保護部を設けるとともに、イオン液体膜の少なくとも一部を保護部で覆わずにオイルに接触させることで、オイル中の極性物質のイオン液体膜への移動を確保しつつ、イオン液体膜のオイルへの流出を低減することができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記感応部と前記液絡部とは、前記イオン液体膜を挟むように前記イオン液体膜の両側に配置され、
前記イオン液体膜の一部は、前記感応部及び前記液絡部には覆われずに前記オイルに接触可能であってもよい。
このように、イオン液体膜を感応部と液絡部とで挟むことで、イオン液体膜の両方の側面がオイルに接しないこととなるため、イオン液体膜のオイルへの流出を低減することができる。また、イオン液体膜の一部はオイルに接触可能であるため、オイル中の極性物質のイオン液体膜への移動を確保することができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記イオン液体膜の40℃での動粘度が12mm
2/s以上であってもよい。
イオン液体膜の粘度を増加させることにより、イオン液体膜のオイルへの流出を低減させることができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記イオン液体膜が、増ちょう剤を含んでもよい。
イオン液体膜が増ちょう剤を含むことで、イオン液体膜の粘度を増加させることができ、これによりイオン液体膜のオイルへの流出を低減させることができる。
なお、イオン液体膜に対する増ちょう剤の含有量C(=x/y。ただし、xは増ちょう剤の添加量であり、yはイオン液体膜全体としての質量である。)は、1〜50質量%であってもよい。
【0021】
本発明の少なくとも一実施形態に係るオイル劣化検出方法は、イオン液体を含むイオン液体膜と、前記イオン液体膜によって少なくとも一部が覆われた感応部を有する感応電極と、前記イオン液体膜に電気的に連通される比較電極とを備えるオイル劣化センサを用いて、オイルの劣化により生じる極性物質を検知して前記オイルの劣化を検出するオイル劣化検出方法であって、
前記オイルに前記イオン液体膜が少なくとも部分的に接触し、前記オイルから前記イオン液体膜への前記極性物質の移動に感応するように、前記オイル劣化センサを前記オイルに浸漬する浸漬ステップと、
前記オイル劣化センサを前記オイルに浸漬した状態で、前記感応電極と前記比較電極との間の電位差を計測する計測ステップと、
前記電位差に基づいて、前記オイルの劣化を検出する劣化検出ステップとを備える。
【0022】
上記オイル劣化検出方法によれば、オイル劣化センサの感応電極の少なくとも一部がイオン液体膜で覆われているので、該オイル劣化センサを測定対象のオイルに浸漬したときに、オイルの劣化に起因してオイル内に生じた極性物質がイオン液体膜へ移動することが可能となる。そのため、溶解、希釈等の操作が加えられていないオイルそのものを測定対象とする場合であっても、オイルからイオン液体膜への極性物質の移動に伴って感応電極と比較電極の間に生じる電位差を電位差計で測定すれば、該電位差からオイルそのものの劣化を検出することが可能である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のオイル劣化センサによれば、測定対象のオイルにイオン液体膜が接触可能であり、オイル中で生成した極性物質がイオン液体膜内に移動可能であるため、溶解、希釈等の操作を加えずにオイルをそのまま測定対象とすることができる。また、感応電極の感応部は、オイルの劣化により生成した極性物質の移動に感応するように構成されているので、オイルそのものの劣化を検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0026】
図1は、一実施形態に係るオイル劣化センサの全体構成の概略を示す図である。
図2は、オイル劣化センサの感応電極と比較電極との電位差とオイルの全酸価との関係を示すグラフである。
【0027】
図1に示すように、オイル劣化センサ1は、感応部21を有する感応電極20と、比較電極30と、感応電極20と比較電極30との間の電位差を検出可能な電位差計40を備える。
【0028】
オイル劣化センサ1の測定原理は、非極性液体にイオン液体膜が浸漬された状態において、イオン液体膜によって少なくとも一部が覆われた感応部を有する感応電極と、イオン液体膜に電気的に連通する比較電極との間には、イオン液体膜内に存在する極性物質の量に応じた電位差が発生するという本発明者の知見に基づくものである。
この測定原理を実現するために、実施形態にかかるオイル劣化センサ1は、オイル2の劣化検出時に少なくとも部分的にオイル2に接触可能なイオン液体膜10を備える。そして、イオン液体膜10は、感応電極20の感応部21の少なくとも一部を覆うように設ける。一方、比較電極30は、イオン液体膜10に電気的に連通させる。
【0029】
上記構成のオイル劣化センサ1によれば、測定対象のオイル2にイオン液体膜10が接触可能であるため、オイル劣化センサ1をオイル2に浸漬すると、オイル2の劣化に起因してオイル2内に生じた極性物質がオイル2とイオン液体膜10との間の界面を介してイオン液体膜10内に移動する。そして、このイオン液体膜10によって感応電極20の感応部21の少なくとも一部が覆われ、且つ、イオン液体膜10に比較電極30が電気的に連通されているため、感応電極20と比較電極30との間には、イオン液体膜10内に存在する極性物質の量に応じた電位差が発生する。この電位差を電位差計40で測定することで、該電位差からオイル2の劣化度を検出することができる。
オイル劣化センサ1の上記測定原理は、測定対象液体が非極性であっても成立し得るから、オイル劣化センサ1は、溶解、希釈等の操作が加えられていないオイル2をそのまま測定対象とする場合であっても使用可能である。
【0030】
幾つかの実施形態では、感応電極20の感応部21は、オイル2の劣化によりオイル2中に生成する極性物質のイオン液体膜10への移動に感応するように構成される。なお、オイル2の劣化によりオイル2中に生成する極性物質としては、例えば、カルボン酸等の有機酸や硫酸を挙げることができる。
感応電極20の具体的構成については、
図3〜
図9を参照しながら後で詳述する。
【0031】
比較電極30は、感応電極20の感応部21を覆うイオン液体膜10に電気的に連通される。
幾つかの実施形態では、比較電極30は、
図1に示すように、感応電極20の感応部21を覆うイオン液体膜10に直接接触することにより、イオン液体膜10と電気的に連通される。他の実施形態では、比較電極30は、例えば、塩化カリウム水溶液や塩化ナトリウム水溶液等の電解質溶液や、導電性金属や導電性樹脂等の導電体で構成される固体を介して、感応電極20の感応部21を覆うイオン液体膜10に電気的に連通される。
比較電極30の具体的構成については、
図3〜
図9を参照しながら後で詳述する。
【0032】
電位差計40は、感応電極20と比較電極30との間の電位差を測定可能な構成であれば特に限定されず、例えば、
図1に示すように、導線41を介して感応電極20に一方の端子が接続され、導線42を介して比較電極30に他方の端子が接続された電圧計を用いることができる。
【0033】
幾つかの実施形態では、オイル劣化センサ1は、電位差計40によって得られた電位差に基づいて測定対象のオイル2の劣化度を判定するための劣化判定部50を備える。
劣化判定部50は、感応電極20と比較電極30との電位差とオイル劣化度との相関関係が記憶された記憶部を有しており、該相関関係に電位差計40による測定値を当てはめることで、オイル2の劣化度を判定するように構成されていてもよい。この場合、記憶部に記憶される前記相関関係は、劣化度が既知である試料オイルを用いて予め取得されたものであってもよい。例えば、試料オイルを用いて感応電極20と比較電極30との電位差とオイルの全酸価との関係(例えば
図2に示す校正曲線100)を予め取得し、劣化判定部50の記憶部に記憶しておけば、劣化判定部50は、電位差計40の測定値を前記関係に当てはめてオイル2の全酸価を推定することでオイル2の劣化度を判定可能である。なお、劣化判定部50は、オイル2の劣化度の判定結果を出力するための不図示の出力部を有していてもよい。
【0034】
幾つかの実施形態では、イオン液体膜10に含まれるイオン液体は、オイルの劣化検出を行う環境下において液体で存在する塩である。例えば、イオン液体膜10のイオン液体は、オイルの劣化検出が行われる温度をt
0[℃]としたとき、t
0−20≦t≦t
0+100の温度範囲内で液体として存在するイオン液体であってもよい。
【0035】
また、イオン液体膜10のイオン液体は、非油溶性であってもよい。一実施形態では、イオン液体は、測定対象であるオイル2に対して実質的に溶解しない性質を有する。
【0036】
イオン液体の塩は、様々なカチオンとアニオンの組み合わせにより構成することができる。
イオン液体の塩を構成するカチオンとしては、例えば、イミダゾリウム系イオン、ピリジニウム系イオン、ピラゾリウム系イオン、ピペリジニウム系イオン、ピロリジニウム系イオン、モルホリン系イオン、ピロール系イオン、ホスホニウム系イオン、第四級アンモニウムイオン、スルホニウム系イオン、及びイソオキサゾリウム系イオン等からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
一方、イオン液体の塩を構成するアニオンとしては、例えば、フォスフィネート系イオン、イミド系イオン、カルボン酸イオン、フォスフェート系イオン、ボレート系イオン、チオシアネート系イオン、及びチオサリシレート系イオン等からなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。
【0037】
イオン液体の塩(カチオン/アニオン)の具体例としては、例えば、
Trihexyl-tetradecyl-phosphonium/bis(2,4,4-trimethyl-pentyl)phosphinate、
1-ethyl-3-methyl-imidazolium/bis(pentafluoroethylsulfonyl)imide、
1-butyl-1-methyl-pyrrolidinium/bis(trifluoromethylsulfonyl)imide、
Tetrabutyl-ammonium/bis(trifluoromethylsulfonyl)imide、
Trihexyl-tetradecyl-phosphonium/decanoate、
1-butyl-3-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-tridecafluorooctyl)-imidazolium/hexafluorophosphate、
1-methyl-3-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-tridecafluorooctyl)-imidazolium/hexafluorophosphate、
1-ethyl-3-methyl-imidazolium/hexafluorophosphate、
1-butyl-3-methyl-imidazolium/hexafluorophosphate、
1-hexyl-4-methyl-imidazolium/hexafluorophosphate、
1-butyl-4-methyl-pyridinium/hexafluorophosphate、
1-methyl-3-octyl-imidazolium/hexafluorophosphate、
Trihexyl-tetradecyl-phosphonium/hexafluorophosphate、
Tetrabutyl-ammonium/nonafluoro-butanesulfonate、
Tetrabutyl-ammonium/heptadecafluoro-octanesulfonate、
Tetrabutyl-phosphonium/tetrafluoroborate、
Tetrahexyl-ammonium/tetrafluoroborate、
Tetrapentyl-ammonium/thiocyanate、
Trioctylmethylammonium/thiosalicylate、又は
1-hexyl-3-methyl-imidazolium/trifluoromethansulfonate等が挙げられる。
【0038】
一実施形態では、イオン液体膜10の40℃での動粘度は12mm
2/s以上である。この場合、撹拌状態にあるオイル2を測定対象とする場合であっても、感応電極20の少なくとも一部を覆うイオン液体膜10を電極表面に保持しやすくなる。
【0039】
イオン液体膜10は、増ちょう剤を含有していてもよい。
イオン液体膜10が増ちょう剤を含有する場合、該イオン液体膜10がグリース状態又はこれに準ずる状態となり、イオン液体膜10の粘度が増大する。よって、撹拌状態にあるオイル2を測定対象とする場合であっても、イオン液体膜10を電極表面に保持しやすくなる。
【0040】
増ちょう剤としては、例えば、カルシウム石鹸、リチウム石鹸等の石鹸類の他、ウレア系増ちょう剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、メラミンシアヌレート(MCA)に代表される有機系増ちょう剤、又は、銅及び銀などの金属、酸化亜鉛及び酸化チタンなどの金属酸化物、窒化ホウ素など窒化物、カーボンブラック等の無機の微粉末を用いることができる。
なお、イオン液体膜に対する増ちょう剤の含有量C(=x/y。ただし、xは増ちょう剤の添加量であり、yはイオン液体膜全体としての質量である。)は、1〜50質量%であってもよく、3〜30質量%であってもよい。
【0041】
また、イオン液体膜10は、増ちょう剤に替えて又は増ちょう剤に加えて、無機物又は有機物によって構成される微粉末を含有していてもよい。
イオン液体膜10が無機物又は有機物の微粉末を含有する場合、イオン液体膜10を半固体状となり、イオン液体膜10の粘度が増大する。よって、撹拌状態にあるオイル2を測定対象とする場合であっても、イオン液体膜10を電極表面に保持しやすくなる。
【0042】
無機物又は有機物からなる微粉末としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタンなどの金属酸化物、アルミナ、窒化ケイ素などのセラミックス、窒化ホウ素などの窒化物、PTFEなどのふっ素樹脂を用いることができる。
【0043】
続いて、
図3〜10を参照しながら、オイル劣化センサ1の具体的構成について説明する。
図3〜
図5は、実施形態に係る、ガラス電極を用いたオイル劣化センサを示す概略断面図である。
図6〜
図9は、ISFET電極を用いたオイル劣化センサを示す概略断面図である。
図10は、いくつかの実施形態におけるISFET電極の構成の概略を示す図である。
【0044】
幾つかの実施形態では、感応電極20の感応部21は、オイル2から前記イオン液体膜10への前記極性物質の移動に伴うイオン液体膜10内における水素イオン濃度の変化に感応するように構成される。なお、このような構成の感応部21として、例えば、
図3〜
図5に示すガラス電極20Aのガラス薄膜21Aや、
図6〜
図9に示すISFET電極20Bのイオン感応膜21Bを挙げることができる。
【0045】
図3〜
図5に示す例示的な実施形態では、感応電極20は、ガラス薄膜21Aを感応部21として有するガラス電極20Aである。この場合、感応部21としてのガラス薄膜21Aは、オイル2から前記イオン液体膜10への前記極性物質の移動に伴うイオン液体膜10内における水素イオン濃度の変化に感応し、感応電極20と比較電極30との間に前記水素イオン濃度に応じた電位差が形成される。
また、
図3〜
図5に示す例示的な実施形態では、感応電極20としてのガラス電極20Aは、絶縁性のガラス電極支持管22Aと、ガラス電極支持管22Aの先端部に設けられて水素イオン濃度の変化に応答するガラス薄膜21Aと、ガラス電極支持管22A内に充填されたガラス電極内部液23Aと、ガラス電極内部液23Aに浸漬されるようにガラス電極支持管22A内に設けられた内部電極24Aとを備える。内部電極23としては、例えば、銀・塩化銀電極が用いられる。ガラス電極内部液24としては、例えば、pHが7程度で一定の、塩化カリウムを含む緩衝溶液が用いることができる。
なお、
図3〜
図5に示す例示的な実施形態では、比較電極30は、感応電極20としてのガラス電極20Aの外周側に設けられる。具体的には、ガラス電極20Aのガラス電極支持管22Aを取り囲むように、比較電極30の環状の比較電極支持管31が設けられる。他の実施形態では、比較電極30は、感応電極20としてのガラス電極20Aの内周側に設けてもよい。例えば、比較電極30の比較電極支持管31を取り囲むように、ガラス電極20Aの環状のガラス電極支持管22Aが設けられてもよい。
【0046】
図6〜
図9に示す例示的な実施形態では、感応電極20は、イオン感応膜(ISM)21B(
図10を参照)を感応部21として有するイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)電極20Bである。この場合、感応部21としてのイオン感応膜21Bは、オイル2から前記イオン液体膜10への前記極性物質の移動に伴うイオン液体膜10内における水素イオン濃度の変化に感応し、後述するドレイン電流I
dに影響を及ぼす。
いくつかの実施形態では、感応電極20としてのISFET電極20Bは、
図10に示すように、半導体基板60と、絶縁層25を介して半導体基板60上に設けられた感応部21としてのイオン感応膜21Bとを備える。半導体基板60は、P型半導体部分27と、P型半導体部分27上に設けられた一対のN型半導体部分26(26S,26D)とを含む。一対のN型半導体部分26(26S,26D)は、それぞれ、イオン感応型電界効果トランジスタのソース26Sとドレイン26Dに相当する。ソース26Sとドレイン26Dは、チャネル領域28を隔てて配置される。イオン感応膜21Bは、絶縁層25Bにより半導体基板60から絶縁される。なお、上記構成のISFET電極20Bを感応電極20として用いたオイル劣化センサ1の場合、電位差計40は、導線41を介してISFET電極20Bのソース26Sに接続されるとともに、導線42を介して比較電極30に接続される。
なお、
図6に示す例示的な実施形態では、比較電極30の比較電極支持管31の外周面上に、感応電極20としてのISFET電極20Bが配置される。また、
図7〜
図9に示す例示的な実施形態では、比較電極支持管31に設けられた孔に、感応電極20としてのISFET電極20Bが嵌め込まれている。
【0047】
一実施形態におけるISFET電極20Bを備えたオイル劣化センサ1の測定原理は、次のとおりである。
チャネル領域28を介してソース26Sとドレイン26Dとの間を流れる電流(ドレイン電流I
d)は、ソース26Sとドレイン26Dとの間の電圧V
dsだけでなく、イオン液体膜10に接触するイオン感応膜21Bの表面電位にも依存する。これは、イオン液体膜10内における水素イオン濃度に応じてイオン感応膜21Bの表面電位が変化する結果、半導体基板60に実際に加わる実行ゲート電圧が変化するためである。そのため、ドレイン電流I
dおよびソース−ドレイン間電圧V
dsを一定に維持した状態で電位差計40によって計測されるソース26Sと比較電極30との間の電位差は、イオン液体膜10内における水素イオン濃度を示す指標として使用可能である。こうして、ISFET電極20Bを備えたオイル劣化センサ1によって、電位差計40によって計測される感応電極20(ISFET電極20B)と比較電極30との間の電位差(具体的には、ソース26Sと比較電極30との間の電位差)に基づいて、オイル2の劣化を検出することができる。
イオン感応膜21Bは、水素イオンに感応するものであればよく、その材料としては、例えばSi
3N
4、Al
2O
3又はTa
2O
5等を用いることができる。
【0048】
幾つかの実施形態では、
図3〜
図9に示すように、比較電極30は、比較電極支持管31と、比較電極支持管31の内部に設けられる基準電極部32と、基準電極部32を浸漬するために比較電極支持管31内に充填される内部液33と、内部液33と測定対象の試料との間に設けられる液絡部34とを有する。液絡部34は、内部液33とイオン液体膜10とが電気的に接する部分である。
液絡部34は、比較電極30とイオン液体膜10とが電気的に連通するように微細な穴を有するものであればよく、例えば、アルミナやジルコニアなどの多孔性材料を材料として用いることができる。
基準電極部31としては、測定対象の試料の水素イオン濃度にかかわらず一定の電位を示す電極であればよく、例えば、銀・塩化銀電極が用いられる。
内部液32としては、例えば、塩化カリウム溶液が用いられる。
【0049】
幾つかの実施形態では、
図3〜
図9に示すように、イオン液体膜10は、感応電極20(20A,20B)の感応部21(21A,21B)と、比較電極30の液絡部34との両方を少なくとも部分的に覆うように配置される。
他の実施形態では、イオン液体膜10は、感応電極20(20A,20B)の感応部21(21A,21B)のみを少なくとも部分的に覆うように配置される。この場合、イオン液体膜10は、比較電極30の液絡部34は、例えば、塩化カリウム水溶液や塩化ナトリウム水溶液等の電解質溶液や、導電性金属や導電性樹脂等の導電体で構成される固体を介して、イオン液体膜10に電気的に連通される。
【0050】
幾つかの実施形態では、
図4、
図7及び
図8に示すように、オイル劣化センサ1は、イオン液体膜10を部分的に覆う保護部11をさらに備える。保護部11は、イオン液体膜10とオイル2との間に設けられる。イオン液体膜10のうち保護部11に覆われていない領域の少なくとも一部がオイル2と接触する。
イオン液体膜10を覆う保護部11を設けることで、感応電極20(20A,20B)の感応部21(21A,21B)を覆うイオン液体膜10のオイル2への流出を低減することができる。また、イオン液体膜10のうち保護部11に覆われていない領域の一部がオイル2と接触するので、イオン液体膜10とオイル2との接触が確保される。
【0051】
保護部11の形状は特に限定されず、板状等、イオン液体10が覆う感応電極20の外側に配置することでイオン液体10が感応電極20を覆っている状態を維持することができるような形状であればよい。
保護部11の材料は、保護部11が接触するオイル2やイオン液体膜10に溶解しないものであればよく、多孔質材料等を使用することができる。
【0052】
図4に示す例示的な実施形態では、球状のガラス電極20Aおよびガラス電極支持管22Aの周囲に形成された比較電極30を覆うイオン液体10とオイル2の間に、ガラス電極20A及びガラス電極支持管22Aの一部を囲う形状の保護部11が設けられる。また、
図7及び
図8に示す例示的な実施形態では、平板状のイオン液体10とオイル2の間に、板状の保護部11が設けられる。
そして、
図4及び
図8に示す例示的な実施形態では、保護部11に設けられた少なくとも1つの開口13により、イオン液体膜10が保護部11に覆われない領域が形成される。
図7に示す例示的な実施形態では、イオン液体膜10の端部12が保護部11によって覆われない構成とすることにより、イオン液体膜10が保護部11に覆われない領域が形成される。
【0053】
幾つかの実施形態では、
図5及び
図9に示すように、感応部21(21A,21B)と液絡部34とは、イオン液体膜を挟むようにイオン液体膜10の両側に配置される。イオン液体膜10の一部は、感応部21(21A,21B)及び液絡部34には覆われずにオイル2に接触可能である。
イオン液体膜10を感応部21(21A,21B)と液絡部34とで挟むことで、イオン液体膜10の両方の側面がオイル2に接しないこととなるため、イオン液体膜10のオイル2への流出を低減することができる。また、イオン液体膜10の一部は、感応部21(21A,21B)及び液絡部34には覆われずにオイル2に接触可能であるので、イオン液体膜10とオイル2との接触が確保される。
【0054】
図5に示す例示的な実施形態では、ガラス電極20Aのガラス薄膜21Aと、ガラス薄膜21Aを囲うように設けられた比較電極30の液絡部34の間にイオン液体膜10を形成しており、イオン液体膜10のうち、ガラス電極20Aの底部を覆う部分29は、ガラス薄膜21A及び液絡部34には覆われないため、オイル2に接触可能である。
図9に示す例示的な実施形態では、ISFET電極20Bのイオン感応膜21Bと、比較電極30の液絡部34とを対向させ、これらの間の空間にイオン液体膜10を形成している。また、イオン液体膜10の端面14は、イオン感応膜21B及び液絡部34には覆われておらず、オイル2に接触可能である。
【0055】
次に、一実施形態に係るオイル劣化検出方法を説明する。すなわち、オイル劣化センサ1を用い、感応電極20と比較電極30との間の電位差を電位差計40により計測し、該電位差計40の計測結果に基づいてオイル2の劣化を検出する方法について説明する。
【0056】
まず、測定対象のオイルについて測定を行う前に、酸性成分の含有量が既知である試料オイルを用いて、感応電極と比較電極との電位差とオイルの全酸価との関係(
図2参照)を求める。
全酸価が異なる5種類の試料オイル(
図2に示す試料オイル1〜試料オイル5)のそれぞれについて、オイル劣化センサ1の感応電極20と基準電極30との間の電位差を電位差計40で計測する。具体的には、各試料オイルに対してイオン液体膜10が接触し、各試料オイルからイオン液体膜10への極性物質の移動に感応するように、上記オイル劣化センサ1を各試料オイルに浸漬した状態で、感応電極20と基準電極30との間の電位差を計測する。そして、横軸に全酸価(単位:mgKOH/g)、縦軸に各全酸価において計測した電位差(単位:V)の計測結果をプロットし、例えば
図2に示すような感応電極と比較電極との電位差とオイルの全酸価との関係(校正曲線100)を得る。この感応電極と比較電極との電位差とオイルの全酸価との関係(校正曲線100)を、オイル劣化センサ1の劣化判定部50の記憶部に記憶させておく。
次に、測定対象のオイルに、イオン液体膜10が接触し、測定対象のオイルからイオン液体膜10への極性物質の移動に感応するように、上記オイル劣化センサ1を測定対象のオイルに浸漬する。そして、オイル劣化センサ1を測定対象のオイルに浸漬した状態で、感応電極20と比較電極30との間の電位差を計測する。劣化判定部50は、あらかじめ記憶した上記の感応電極と比較電極との電位差とオイルの全酸価との関係から、計測された電位差に対応する全酸価を求め、この全酸価により測定対象のオイルの劣化を判定する。
【実施例】
【0057】
上述の実施形態に係るオイル劣化センサ1を作製し、オイルの劣化を検出する試験を行った。
【0058】
ガラス薄膜を有するガラス電極と液絡部を有する比較電極を備え、ガラス電極と液絡部の間の電位差に対応するpHを示すように構成されたpH電極を用意した。ガラス電極のガラス薄膜と比較電極の液絡部を覆うようにイオン液体膜を形成することで、
図3に示すオイル劣化センサを得た。この際、イオン液体膜は、1-methyl-3-octyl-imidazoliumイオンをカチオンとし、塩素イオンをアニオンとするイオン液体を98%の含有率で含むイオン液体を用いて成膜した。
【実施例1】
【0059】
全塩基価6.8mgKOH/g、全酸価1.8mgKOH/gの未劣化のエンジン油に、上述のようにして得られたオイル劣化センサを浸漬した。この際、オイル劣化センサのイオン液体膜がエンジン油に接触するようにした。
浸漬開始前にはオイル劣化センサのpH指示値は5.7であった。浸漬開始直後からオイル劣化センサによるpH指示値は増加を続け、浸漬開始から約4分でオイル劣化センサによるpH指示値が7.0でほぼ一定となった。
【実施例2】
【0060】
全塩基価1.1mgKOH/g、全酸価4.8mgKOH/gの劣化したエンジン油に、上述のようにして得られたオイル劣化センサを浸漬した。この際、オイル劣化センサのイオン液体膜がエンジン油に接触するようにした。
浸漬開始前にはオイル劣化センサのpH指示値は5.9であった。浸漬開始直後からオイル劣化センサによるpH指示値は低下を続け、浸漬開始から約4分でオイル劣化センサによるpH指示値が5.0でほぼ一定となった。
【0061】
上記実施例1及び2から、上記オイル劣化センサのオイルへの浸漬後に所定時間経過すると、オイルとイオン液体膜間の極性物質の移動が平衡状態となり、オイルの劣化状態に応じた電位差がガラス電極と比較電極の間に発生し、この電位差に対応したpH指示値が得られることが分かった。このことから、溶解、希釈等の操作が加えられていない全酸価が未知のオイルに上記オイル劣化センサを浸漬し、前記平衡状態となったときのpH値を読み取ることでオイルの全酸価を知ることができ、オイルの劣化を検出することが可能であることが確認された。