(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(変速機の概要)
図1は自動車用の変速機1の概略を示す図である。エンジンEの駆動力を駆動輪に伝達する変速機1は、ミッションケースに保持されたベアリングbに回転自在に軸支され、互いに平行に配されたメインシャフト2およびカウンタシャフト3を備えている。メインシャフト2は、発進クラッチ4を介してエンジンEのクランクシャフトに接続されており、発進クラッチ4を介して伝達されるエンジンEの駆動力によって回転する入力シャフトとして機能する。
【0019】
メインシャフト2には、複数(本実施形態では4つ)のメインギヤ10(第2回転体、ギヤ)が相対回転自在に装着されている。メインシャフト2に設けられるメインギヤ10の数は特に限定されるものではないが、ここでは、説明の都合上、4つのメインギヤ10を、それぞれ、1速メインギヤ11、2速メインギヤ12、3速メインギヤ13、4速メインギヤ14として説明する。また、カウンタシャフト3には、複数(本実施形態では4つ)のカウンタギヤ20が相対回転不能に装着されている。ここでは、説明の都合上、4つのカウンタギヤ20を、それぞれ、1速カウンタギヤ21、2速カウンタギヤ22、3速カウンタギヤ23、4速カウンタギヤ24として説明する。
【0020】
この1速カウンタギヤ21は1速メインギヤ11に噛合しており、これら1速メインギヤ11および1速カウンタギヤ21によって、メインシャフト2およびカウンタシャフト3間で動力伝達を行う第1歯車列31を構成している。同様に、2速メインギヤ12および2速カウンタギヤ22によって第2歯車列32が構成され、3速メインギヤ13および3速カウンタギヤ23によって第3歯車列33が構成され、4速メインギヤ14および4速カウンタギヤ24によって第4歯車列34が構成されている。
【0021】
これら第1歯車列31〜第4歯車列34は、各メインギヤ11〜14および各カウンタギヤ21〜24のギヤ比を異にしており、本実施形態では、第1歯車列31が最も低速段側となり、第4歯車列34が最も高速段側となっている。
【0022】
また、メインシャフト2には、動力伝達経路を切り換える動力伝達装置50(50a、50b)が複数(本実施形態では2つ)設けられている。動力伝達装置50aは、1速メインギヤ11および2速メインギヤ12を含んで構成され、動力伝達装置50bは、3速メインギヤ13および4速メインギヤ14を含んで構成される。
【0023】
動力伝達装置50は、メインシャフト2に対して1速メインギヤ11〜4速メインギヤ14のいずれかを一体回転させる動力伝達状態、もしくは、メインシャフト2に対して1速メインギヤ11〜4速メインギヤ14を相対回転させる切り離し状態(ニュートラル状態)のいずれかを選択可能である。
【0024】
また、動力伝達装置50は、メインシャフト2の軸方向(以下、単に軸方向と称す)に移動自在なドライブ側スリーブ51(第1回転体)およびコースト側スリーブ52(第1回転体)を備えている。ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52は、それぞれ、軸方向の両端から突出する飛込ドグ51a、52a(第1ドグ)を有するとともに、メインシャフト2と一体回転する。
【0025】
1速メインギヤ11〜4速メインギヤ14には、それぞれ、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52側に突出する待機ドグ10a(第2ドグ)が周方向に等間隔に複数(ここでは3つ)配列されている。
【0026】
ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52にはシフトフォーク5が係合しており、シフトフォーク5は電動アクチュエータ6によって軸方向に可動する。シフトフォーク5と電動アクチュエータ6の間にはコイルばねで構成される弾性部材7が介在しており、弾性部材7によってシフトフォーク5の可動方向への押圧力が蓄積される。弾性部材7の作用については後に詳述する。そして、シフトフォーク5の可動によって、飛込ドグ51a、52aと待機ドグ10aとを噛合させたり、あるいは、その噛合を解除したりする。
【0027】
例えば、動力伝達経路として第1歯車列31が選択されている場合、動力伝達装置50aは、1速メインギヤ11に設けられた待機ドグ10aに、飛込ドグ51a、52aのいずれかを噛合させる。そして、メインシャフト2に対して1速メインギヤ11を一体回転させる。このとき、動力伝達装置50aは、第2歯車列32を切り離し状態とし、動力伝達装置50bは、第3歯車列33、および、第4歯車列34を切り離し状態としている。したがって、この場合には、エンジンEの駆動力は、発進クラッチ4→メインシャフト2→第1歯車列31→カウンタシャフト3を介して矢印の順に駆動輪に伝達され、メインシャフト2およびカウンタシャフト3間で第1歯車列31を介した動力伝達がなされることとなる。
【0028】
なお、本実施形態では、メインギヤ10がメインシャフト2に対して相対回転自在に設けられるとともに、カウンタギヤ20がカウンタシャフト3に対して相対回転不能に設けられる。そして、動力伝達装置50がメインシャフト2に設けられている。ただし、これとは逆に、メインギヤ10がメインシャフト2に対して相対回転不能に設けられるとともに、カウンタギヤ20がカウンタシャフト3に対して相対回転自在に設けられ、動力伝達装置50がカウンタシャフト3に設けられてもよい。
【0029】
(動力伝達装置50の構成)
次に、上記の動力伝達装置50の構成について詳細に説明する。上述したように、動力伝達装置50は、2つのメインギヤ10を含んで構成され、軸方向の両側に配されたメインギヤ10のいずれかを、メインシャフト2に対して動力伝達状態とすることができる。動力伝達装置50は、両側に配された2つのメインギヤ10をそれぞれ動力伝達状態とする機構として、実質的に同等な2つの機構を有する。以下では、動力伝達装置50のうち、一方のメインギヤ10をメインシャフト2に対して動力伝達状態とする機構についてのみ図示して説明し、他方のメインギヤ10をメインシャフト2に対して動力伝達状態とする機構については、重複説明を避けて説明を省略する。
【0030】
図2は、動力伝達装置50の分解斜視図である。
図2に示すように、動力伝達装置50は、メインシャフト2に固定されメインシャフト2と一体回転する略円筒状のハブ53を備えている。ハブ53の外周面には、ハブ53の径方向内側に窪み、軸方向に延在する溝53aが、メインシャフト2の周方向(以下、単に周方向と称す)に等間隔に複数形成されている。
【0031】
複数の溝53aのうちの2つには、溝53aからハブ53の径方向内側にさらに窪んだ窪み部53bが形成されている(
図2においては、1つのみ示す)。窪み部53bは、溝53aの軸方向にハブ53のメインギヤ10側の端部まで延在する。
【0032】
メインギヤ10は、軸方向に貫通する貫通孔10bを有する。そして、メインギヤ10は、貫通孔10bにメインシャフト2が挿通され、ハブ53に対して軸方向に対向して配置される。また、メインギヤ10の外周側には、ハブ53側に突出する待機ドグ10aが、周方向に等間隔に複数(ここでは3つ)、配列されている。
【0033】
また、メインギヤ10におけるハブ53側の面には、貫通孔10bよりメインギヤ10の径方向外側であって、待機ドグ10aよりメインギヤ10の径方向内側に、規制部10cが形成されている。規制部10cは、待機ドグ10aと同程度にハブ53側に突出し、メインギヤ10の周方向に延在している。
【0034】
メインギヤ10の規制部10cには、規制部10cよりもメインギヤ10の径方向内側に、ハブ53側に突出し、メインシャフト2が挿通される環状の円筒部10dが設けられている。
【0035】
可動部54は、環状の本体54aを備える。本体54aの軸方向のメインギヤ10側には、本体54aから径方向外側に突出し、本体54aの周方向に延在するプレート部54bが設けられている。
【0036】
可動部54は、本体54aにメインギヤ10の円筒部10dを挿通することで、メインギヤ10と同軸上に配されるとともに、円筒部10dと本体54aの内周面とが摺動することで、メインギヤ10に対して回転方向に摺動可能となっている。
【0037】
ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52は、環状のリング部51b、52bを有し、リング部51b、52bの中心にハブ53が挿通される。ここでは、コースト側スリーブ52よりも、ドライブ側スリーブ51の方がメインギヤ10側に配置されている。
【0038】
また、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52は、キー部51c、52cを有する。キー部51cは、リング部51bからリング部51bの径方向内側に突出するとともに、リング部51bからリング部51bの径方向内側に突出するとともに、リング部51bからメインギヤ10およびハブ53の双方に向かって軸方向に延在する。また、キー部52cは、リング部52bからメインギヤ10に向かって軸方向に延在する。
【0039】
キー部51c、52cは、周方向に等間隔に複数(ここでは3つ)配列されており、キー部51c、52cのメインギヤ10側の先端には、待機ドグ10aと噛合可能な飛込ドグ51a、52aがそれぞれ形成されている。
【0040】
キー部51c、52cは、それぞれ、ハブ53の溝53aに嵌合しており、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52は、キー部51c、52cがハブ53の溝53aを摺動することで、軸方向に移動する。
【0041】
そして、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52は、キー部51c、52cがハブ53の溝53aに嵌合していることから、ハブ53に対する相対回転が規制され、メインシャフト2およびハブ53とともに一体回転することとなる。
【0042】
上述したシフトフォーク5が、ドライブ側スリーブ51をメインギヤ10側に移動させると、ドライブ側スリーブ51の飛込ドグ51aが、メインギヤ10に設けられた複数の待機ドグ10aの周方向の隙間に入る。そして、待機ドグ10aおよび飛込ドグ51aが噛合して待機ドグ10aと飛込ドグ51aが一体回転する動力伝達状態となる。
【0043】
このように、飛込ドグ51aがメインギヤ10に設けられた複数の待機ドグ10aの周方向の隙間に入ると、その後、シフトフォーク5が、コースト側スリーブ52をメインギヤ10側に移動させ、コースト側スリーブ52の飛込ドグ52aが、メインギヤ10に設けられた複数の待機ドグ10aの周方向の隙間に入る。こうして、待機ドグ10aおよび飛込ドグ52aも噛合が可能な状態となる。
【0044】
この状態から動力伝達経路を変えるとき、シフトフォーク5が、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52をメインギヤ10と反対側に移動させ、メインギヤ10と、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52とが互いに離隔する離隔方向に相対移動する。すると、メインギヤ10と、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52の噛合が解除される。こうして待機ドグ10aと飛込ドグ51a、52aが相対回転する切り離し状態となる。
【0045】
図3は、本実施形態の待機ドグ10aおよび飛込ドグ51a、52aの噛み合いを説明するための説明図である。
図3中、メインギヤ10および飛込ドグ51a、52aの回転方向を矢印で示す。
図3(a)に示すように、待機ドグ10aは、メインギヤ10の回転方向前方側に位置するトレーリング面10afと、回転方向後方側に位置するリーディング面10arと、を備えている。待機ドグ10aは、メインギヤ10の回転方向(
図3(a)中、上下方向)の幅が、基端側よりも先端側の方が広い、先端幅広の形状となっている。
【0046】
そして、飛込ドグ51aは、メインギヤ10側の端部に、待機ドグ10aのリーディング面10arに係合可能なリーディング爪51rを備えている。リーディング爪51rは、リーディング面10arに面接触状態で係合するように、テーパ状に形成されている。
【0047】
一方、飛込ドグ52aは、メインギヤ10側のトレーリング爪52fが、待機ドグ10aのトレーリング面10afに係合可能となっている。トレーリング爪52fは、トレーリング面10afに面接触状態で係合するように、テーパ状に形成されている。
【0048】
そして、
図3(b)に示すように、飛込ドグ51a、52aがメインギヤ10側に移動する。例えば、エンジンEによる車両の加速時のアップシフトでは、ドライブ側スリーブ51の飛込ドグ51a、コースト側スリーブ52の飛込ドグ52aの順に移動する。
【0049】
そうすると、メインギヤ10のリーディング面10arと、飛込ドグ51aのリーディング爪51rが係合する。これにより、メインシャフト2からカウンタシャフト3へと動力が伝達している状態(加速状態)となる。なお、このとき、メインギヤ10と飛込ドグ52aとは非係合状態に維持されている。
【0050】
また、エンジンE側の回転モーメントによる車両の減速(所謂、エンジンブレーキ)時のダウンシフトでは、コースト側スリーブ52の飛込ドグ52a、ドライブ側スリーブ51の飛込ドグ51aの順にメインギヤ10側に移動する。そうすると、
図3(c)に示すように、メインギヤ10のトレーリング面10afと、飛込ドグ52aのトレーリング爪52fが係合する。これにより、メインシャフト2からカウンタシャフト3へと、駆動輪側の慣性力を抑える力が伝達している状態(減速状態)となる。なお、このとき、メインギヤ10と飛込ドグ51aとは非係合状態に維持されている。
【0051】
本実施形態において、「加速」とは、エンジンEの駆動力によって車両が加速する状態をいうものであり、例えば、坂を下るときに、自重によって車両が加速する状態をいうものではない。また、「減速」とは、エンジンブレーキによる車両の減速状態をいうものであり、例えば、坂を上るときに車両が減速する状態をいうものではない。
【0052】
図4は、比較例の待機ドグD
1および飛込ドグD
2の噛合を説明するための説明図である。ここでは、
図4(a)に示すように、飛込ドグD
2の方が待機ドグD
1よりも高速で回転しているとき、不図示のシフトフォークによってドライブ側スリーブがドグギヤDG側に移動する場合を例に挙げる。
【0053】
図4(b)に示すように、飛込ドグD
2が待機ドグD
1に衝突せずにドグギヤDGの本体まで到達すれば、
図3(b)に示した状態と同様に、飛込ドグD
2と待機ドグD
1は、噛み合いが適切になされる。しかし、飛込ドグD
2と待機ドグD
1の差回転やシフトフォークの移動タイミングによっては、
図4(c)に示すように、飛込ドグD
2が待機ドグD
1の飛込ドグD
2側の面に衝突し、飛込ドグD
2は待機ドグD
1から弾かれてしまう。
【0054】
図1に示したシフトフォーク5と同様、比較例のシフトフォークには不図示の電動アクチュエータとの間にコイルばねが介在している。飛込ドグD
2が弾かれると、飛込ドグD
2が弾かれたことによるシフトフォークの変位は、コイルばねの伸縮によって吸収され、コイルばねの反発力によって、再び、飛込ドグD
2がドグギヤDGの本体に向かって移動する。飛込ドグD
2と待機ドグD
1が噛合するまで、この衝突が繰り返される。
【0055】
飛込ドグD
2が待機ドグD
1から弾かれて、待機ドグD
1と噛合されずに停滞している間、電動アクチュエータはシフトフォークを可動させるように変位し続け、コイルばねによってシフトフォークの可動方向への押圧力が蓄積される。そして、コイルばねの付勢力が徐々に増加し、飛込ドグD
2が待機ドグD
1側に移動する速度が上昇するため、飛込ドグD
2が待機ドグD
1に衝突せずにドグギヤDGの本体まで到達し易くなる。それでも、飛込ドグD
2と待機ドグD
1の差回転やシフトフォークの移動タイミングによっては、
図4(d)に示すように、飛込ドグD
2がドグギヤDGの本体に到達する前に待機ドグD
1と噛合し、浅い噛み合い状態となってしまうことがある。
【0056】
このように、比較例においては、飛込ドグD
2と待機ドグD
1が噛合するとき、飛込ドグD
2と待機ドグD
1が衝突を繰り返して、摩耗や騒音が発生したり、浅い噛み合い状態となって、噛み合い部分に作用する面圧が大きくなったりするといった課題があった。以下、このような課題を解決する本実施形態の動力伝達装置50の構造について詳述する。
【0057】
図5は、メインギヤ10のハブ53側の面を示す正面図である。メインギヤ10の規制部10cは、
図5に示すように、メインギヤ10の周方向に全周に亘って延在している。規制部10cには、
図5にクロスハッチングで示すように、メインギヤ10の径方向の窪みが形成されている。
図5において、この窪んだ部位と、メインギヤ10の径方向の中心からの距離が等しい位置を一点鎖線で示す。
【0058】
延在面10eは、規制部10cのうち、この一点鎖線よりもメインギヤ10の径方向外側に位置するハブ53側の面である。待機ドグ10aは、延在面10eからメインギヤ10の径方向外側に突出する部位となっている。また、
図5にクロスハッチングで示す空間は、延在面10eのうちの回転方向の一端10fと他端10gの間に形成された間隙10hとなっている。
【0059】
延在面10eは、一端10fから他端10gまでメインギヤ10の周方向(回転方向)に、約240度に亘って延在している。そして、間隙10hは、延在面10eの一端10fから他端10gまで、延在面10eと逆側に、メインギヤ10の周方向に約120度に亘って延在している。
【0060】
図6は、動力伝達装置50をハブ53側から見た第1の正面図である。ここでは理解を容易とするため、ハブ53および可動部54の図示を省略する。
図6において、
図5に示したメインギヤ10より手前に、ドライブ側スリーブ51のリング部51bが位置し、さらにその手前に、コースト側スリーブ52のリング部52bが位置している。
図6において、ドライブ側スリーブ51のリング部51bは、コースト側スリーブ52のリング部52bに隠れている。
【0061】
図6(a)に示すように、ドライブ側スリーブ51における3つの飛込ドグ51aのうちの1つには、飛込ドグ51aからリング部51bの径方向内側に突出する突起部51dが形成されている。突起部51dは、ドライブ側スリーブ51の一部であることから、ドライブ側スリーブ51と一体回転する。
【0062】
同様に、コースト側スリーブ52における3つの飛込ドグ52aのうちの1つには、飛込ドグ52aからリング部52bの径方向内側に突出する突起部52dが形成されている。突起部52dは、コースト側スリーブ52の一部であることから、コースト側スリーブ52と一体回転する。
【0063】
突起部51d、52dは、キー部51c、52cの軸方向に延在し、ハブ53の溝53aに形成された上記の2つの窪み部53b(
図2参照)それぞれに摺動自在に嵌合している。
【0064】
延在面10eの位置は、メインギヤ10の径方向において、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52の径方向における突起部51d、52dそれぞれの位置と少なくとも一部が重なる位置関係を有している。そして、メインギヤ10に設けられた延在面10eは、突起部51d、52dよりも、周方向に長く延在している。
【0065】
そのため、ドライブ側スリーブ51またはコースト側スリーブ52とメインギヤ10とが近接方向に相対移動する過程において、待機ドグ10aと飛込ドグ51aが噛合する前に、延在面10eと突起部51d、52dが接触することがある。
【0066】
例えば、
図6(a)においては、突起部51dが、延在面10eと軸方向に対向した状態で、ドライブ側スリーブ51とメインギヤ10が近接して、突起部51dと延在面10eが当接した様子を示している。
【0067】
この場合、ドライブ側スリーブ51は、延在面10eと突起部51dが接触したときの位置から、メインギヤ10に向かって移動ができなくなる。
【0068】
そして、突起部51dが、延在面10eに接触したまま、飛込ドグ51aが、待機ドグ10aに対して
図6中、反時計回りに相対回転し、
図6(b)に示すように、突起部51dが間隙10hに対向する位置に至る。すなわち、突起部51dと延在面10eとが軸方向に非対向となる(対向しない状態となる)。そして、突起部51dと延在面10eとの接触が解除され、メインギヤ10とドライブ側スリーブ51とがさらに近接方向に相対移動する。
【0069】
こうして、突起部51dが間隙10hに飛び込むと同時に、飛込ドグ51aが、メインギヤ10の周方向に隣り合う待機ドグ10aの間に飛び込む。その後、飛込ドグ51aが、待機ドグ10aに対して相対回転し、待機ドグ10aと飛込ドグ51aが噛合することとなる(
図6(c))。
【0070】
このように、延在面10eと突起部51dが接触している期間、飛込ドグ51aは、メインギヤ10の周方向に隣り合う待機ドグ10aの間に飛び込まずに待機する。その間に、電動アクチュエータ6による可動量分は、弾性部材7によって吸収され、弾性部材7には、シフトフォーク5の可動方向への押圧力が蓄積される。そして、弾性部材7の付勢力が徐々に増加しドライブ側スリーブ51がメインギヤ10側に移動する速度が上昇する。
【0071】
そのため、突起部51dと延在面10eとが軸方向に非対向となると、ドライブ側スリーブ51がメインギヤ10側に移動する。このとき、弾性部材7の付勢力によって、ドライブ側スリーブ51の移動速度が十分に高められていることから、飛込ドグ51aが浅い噛み合い状態では待機ドグ10aに衝突し難く、待機ドグ10aと飛込ドグ51aが十分な深さで噛み合う位置まで移動し易くなる。
【0072】
また、延在面10eと突起部51dが接触している期間が短く、弾性部材7に十分な押圧力が蓄積されない場合がある。このとき、飛込ドグ51aが待機ドグ10aに弾かれて、その後、1または複数回に亘って、待機ドグ10aと飛込ドグ51aが噛合されないことも考えられる。このような場合であっても、延在面10eと突起部51dが接触している期間、飛込ドグ51aの待機ドグ10a側への飛び込みが停止する。そのため、飛込ドグ51aが待機ドグ10aに弾かれる頻度が抑制される。
【0073】
ところで、偶然、突起部51dが間隙10hに臨んでいる状態で、ドライブ側スリーブ51とメインギヤ10が近接し、突起部51dが延在面10eに接触しない場合がある。このとき、突起部51dが延在面10eに接触しないまま、飛込ドグ51aが、メインギヤ10の周方向に隣り合う待機ドグ10aの間に飛び込むと、弾性部材7に十分な押圧力が蓄積されておらず、上記の摩耗や騒音、および、浅い噛み合い状態が発生してしまう可能性がある。
【0074】
そこで、本実施形態の動力伝達装置50では、可動部54を備えている。
図7は、動力伝達装置50をハブ53側から見た第2の正面図であり、
図6に可動部54を加えて示す。可動部54は、規制部10cよりもハブ53側に配される。
【0075】
図7に示すように、可動部54のプレート部54bは被覆面54cを有する。被覆面54cは、メインギヤ10の周方向に一端部54dから他端部54eまで延在している。また、可動部54のプレート部54bは、被覆面54cの一端部54dから他端部54eまで被覆面54cと逆側に回転方向に延在する空隙54fを有している。
【0076】
そして、被覆面54cの位置は、メインギヤ10の径方向において、間隙10h(
図6参照)の位置と重なっている。被覆面54cは、本体54aにメインギヤ10の円筒部10dを挿通した状態で、延在面10eの間隙10hに対向可能に配されている。
【0077】
そして、可動部54は、上述したように、メインギヤ10の円筒部10dと可動部54の本体54aの内周面とが摺動することで、メインギヤ10に対して回転方向に摺動可能となっている。また、被覆面54cは、延在面10eの間隙10hよりも、メインギヤ10の周方向に長く延在している。
【0078】
そして、
図7に示すように、メインギヤ10と可動部54との回転方向の相対的な位置によっては、ハブ53側から見たとき、被覆面54cによって、延在面10eの間隙10hが完全に被覆される。
【0079】
このように、可動部54は、規制部10cの間隙10hに被覆面54cを対向させて間隙10hへの突起部51d、52dの進入を規制する被覆位置でメインギヤ10と一体回転する。
【0080】
図8は、可動部54の作用を説明するための説明図である。上述したように、偶然、突起部51dが延在面10eの間隙10hに臨んでいる状態で、ドライブ側スリーブ51とメインギヤ10が近接する場合がある。
【0081】
このとき、
図8(a)に示すように、可動部54が、延在面10eの間隙10hを被覆していることから、突起部51dは、間隙10hに飛び込まずに、可動部54の被覆面54cに当接する。こうして、ドライブ側スリーブ51は、メインギヤ10に対する近接方向への相対移動が規制される。
【0082】
そして、突起部51dと被覆面54cとの接触状態を維持したまま、ドライブ側スリーブ51とメインギヤ10がさらに相対回転する。すなわち、飛込ドグ51aが、待機ドグ10aに対して相対回転する。すると、
図8(b)に示すように、突起部51dは、被覆面54cと軸方向に非対向となり、空隙54fに対向する。そのため、突起部51dと被覆面54cとの接触が解除され、メインギヤ10とドライブ側スリーブ51とがさらに近接方向に相対移動する。
【0083】
すると、突起部51dは、可動部54よりもハブ53から離隔する側に位置するメインギヤ10の延在面10eに当接する。突起部51dと延在面10eとの接触状態を維持したまま、飛込ドグ51aが、待機ドグ10aに対して相対回転すると、
図8(c)に示すように、突起部51dが延在面10e上を回転方向に摺動する。
【0084】
さらに、飛込ドグ51aが、待機ドグ10aに対して相対回転すると、
図8(d)に示すように、突起部51dが可動部54における被覆面54cの一端部54dに係合する。そして、飛込ドグ51aの待機ドグ10aに対する相対回転に伴って、可動部54は、メインギヤ10に対して回転方向に摺動する。
【0085】
図8(e)に示すように、可動部54が摺動して被覆面54cによって被覆されていた間隙10hが露出すると、突起部51dが間隙10hに対向し、突起部51dが間隙10hに飛び込む。すなわち、メインギヤ10とドライブ側スリーブ51とがさらに近接方向に相対移動し、飛込ドグ51aが、メインギヤ10の周方向に隣り合う待機ドグ10aの間に飛び込む。
【0086】
このように、突起部51dが、可動部54を被覆位置から、被覆位置から回転方向に退避した退避位置(
図8(f)参照)へと可動させながら、規制部10cの間隙10hに進入する。そして、飛込ドグ51aの待機ドグ10aに対する相対回転に伴って、可動部54は、メインギヤ10に対して回転方向にさらに摺動し、
図8(f)に示すように、飛込ドグ51aは、待機ドグ10aに当接する。こうして、待機ドグ10aと飛込ドグ51aが噛合することとなる。
【0087】
このように、可動部54は、被覆面54cの一端部54dまたは他端部54eに対して回転方向の外力が作用すると、被覆面54cが退避位置へと可動する。
【0088】
その後、コースト側スリーブ52も、メインギヤ10との近接方向に移動して飛込ドグ52aがメインギヤ10の周方向に隣り合う待機ドグ10aの間に飛び込む。このとき、仮に、突起部51dが設けられた飛込ドグ51aと最も近い位置にある飛込ドグ52aに、突起部52dが設けられていると、突起部52dが可動部54の被覆面54cに当接して、コースト側スリーブ52の軸方向の移動が規制されてしまう。
【0089】
ここでは、突起部51dが設けられた飛込ドグ51aから最も近い位置にある飛込ドグ52a以外の飛込ドグ52aに、突起部52dが設けられている。そのため、
図8(f)に示すように、突起部52dは、可動部54の被覆面54cに対して軸方向に非対向となっており、可動部54による規制を受けずに、メインギヤ10の周方向に隣り合う待機ドグ10aの間に飛び込むことが可能となる。
【0090】
その後、メインギヤ10およびドライブ側スリーブ51の噛合が解除されると、可動部54は、
図8(a)に示す、被覆面54cが延在面10eの間隙10hを被覆する被覆位置に戻る。以下、このような可動部54を被覆位置に戻す保持機構について説明する。
【0091】
図9は、可動部54の保持機構55を説明するための説明図であり、
図9(a)、(b)には、動力伝達装置50の正面図を示す。
図9(a)、(b)に示すように、可動部54は、プレート部54bのうち、被覆面54cよりもメインギヤ10の径方向内側に、傾斜面54gを有する。
【0092】
図9(c)、(d)には、
図9(a)、(b)それぞれに対応する状態における、傾斜面54gをメインギヤ10の周方向に展開した場合の側面図を概略的に示す。プレート部54bのうち、傾斜面54gが形成された部位は、メインギヤ10の周方向の中心側が最も薄く、両端(一端部54dおよび他端部54e)側それぞれに向かって、厚みが漸増している。
【0093】
すなわち、傾斜面54gは、回転軸方向に垂直な面に対して傾斜しており、傾斜面54gの両端が最もハブ53に近接し、メインギヤ10の周方向の中心部分が最もハブ53から離隔している。
【0094】
そして、
図9(c)に示すように、傾斜面54gには、付勢部56が当接している。付勢部56は、例えば、バネ56aおよび球体56bなどで構成され、バネ56aの一端に球体56bが設けられて球体56bが傾斜面54gに当接するとともに、バネ56aの他端(傾斜面54gと反対側の端部)が、不図示の支持部材に固定されている。支持部材は、例えばメインギヤ10に固定されており、付勢部56は、支持部材とともにメインギヤ10と一体回転する。
【0095】
図9(a)に示すように、被覆面54cが延在面10eの間隙10hに対向しているとき、
図9(c)に示すように、付勢部56は、傾斜面54gのうち、メインギヤ10の周方向の中心部分に当接している。
図9(a)、(b)には、付勢部56が当接する部位を黒塗りの丸で示す。
【0096】
そして、可動部54がメインギヤ10に対して、
図9(b)中、回転方向に反時計回りに摺動すると、
図9(d)に示すように、付勢部56は、傾斜面54gによって収縮される。このとき、付勢部56は、傾斜面54gに対して垂直方向の付勢力を作用させる。付勢部56から傾斜面54g(可動部54)に作用する力のうち、回転方向の分力が、
図9(d)中、左向きに作用している。突起部51dは、付勢部56の付勢力に抗して、可動部54を被覆位置から退避位置へと可動させる。
【0097】
そして、メインギヤ10およびドライブ側スリーブ51の噛合が解除されると、ドライブ側スリーブ51は、メインギヤ10から離隔する方向に移動し、飛込ドグ51aが、
図9(b)中、手前側に移動する。その結果、被覆面54cの一端部54dが突起部51dから外れ、可動部54は、付勢部56による回転方向の分力によって、退避位置から
図9(a)に示す被覆位置まで押し戻される。
【0098】
保持機構55は、可動部54の傾斜面54gと、付勢部56とを含んで構成され、付勢部56の付勢力によって、可動部54を被覆位置に保持する保持力を作用させる。そして、可動部54が、被覆位置からメインギヤ10に対して回転方向に摺動すると、付勢部56は、可動部54を被覆位置に戻す方向に力を作用させる。
【0099】
上述したように、偶然、突起部51dが間隙10hに臨んでいる状態で、ドライブ側スリーブ51とメインギヤ10が近接しても、被覆面54cが突起部51dに当接することで、ドライブ側スリーブ51とメインギヤ10との近接方向の移動が規制される。そのため、突起部51dが延在面10eに接触しないまま、飛込ドグ51aが、メインギヤ10の周方向に隣り合う待機ドグ10aの間に飛び込むことがなくなる。その結果、弾性部材7に十分な押圧力を蓄積し、上記の摩耗や騒音、および、浅い噛み合い状態の発生を抑えることが可能となる。
【0100】
また、保持機構55を備えることで、可動部54は被覆位置からぶれることなく、間隙10hを被覆面54cが被覆した状態を維持して、突起部51d、52dが延在面10eに触れずに、間隙10hへ飛び込むことを回避することが可能となる。
【0101】
上述した実施形態では、電動アクチュエータ6によってシフトフォーク5が可動する場合について説明したが、電動アクチュエータ6の代わりに、手動で駆動されるシフトレバーによってシフトフォーク5が可動する構成であってもよい。
【0102】
また、上述した実施形態では、ドライブ側スリーブ51の飛込ドグ51aが待機ドグ10aと噛合する場合について説明したが、コースト側スリーブ52の飛込ドグ52aが待機ドグ10aと噛合する場合も、可動部54は同様に作用する。このとき、突起部52dが、可動部54の被覆面54cにおける他端部54eと係合して、可動部54が被覆位置から退避位置に移動することとなる。
【0103】
また、上述した実施形態では、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52が第1回転体であって、メインギヤ10が第2回転体である場合について説明した。しかし、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52が第2回転体であって、メインギヤ10が第1回転体であってもよい。この場合、規制部10cはドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52に設けられ、可動部54はドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52と一体回転するとともに、被覆面54cが被覆位置から退避位置に可動する。
【0104】
また、上述した実施形態では、突起部51d、52dは、飛込ドグ51aよりもメインギヤ10の径方向内側に設けられる場合について説明したが、飛込ドグ51aよりもメインギヤ10の径方向外側に設けられてもよい。その場合、規制部10cの延在面10e、および、可動部54の被覆面54cは、メインギヤ10の径方向の位置が、飛込ドグ51aよりも外側に形成される。
【0105】
また、上述した実施形態では、突起部51d、52dは飛込ドグ51a、52aに、1つずつ設けられる場合について説明したが、突起部を複数設けてもよい。また、突起部51d、52dは、飛込ドグ51aに近接して設けずともよいし、ドライブ側スリーブ51およびコースト側スリーブ52やメインギヤ10と一体回転すれば、ドライブ側スリーブ51やメインギヤ10から着脱可能な部材であってもよい。
【0106】
また、上述した実施形態では、規制部10cの延在面10eは、メインギヤ10の周方向に約240度に亘って延在している場合について説明したが、延在面10eは、メインギヤ10の周方向に延在する角度が何度であってもよい。このとき、被覆面54cは、規制部10cの間隙10hを被覆できれば、メインギヤ10の周方向に延在する角度は何度であってもよい。
【0107】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。