(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
円形の中央孔を有する円板形状を有し、外周と中央孔との間の主表面の円環状領域に磁性層が形成されることにより磁気ディスクの記録領域が形成される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法であって、
ガラス基板が切り出される前のガラスブランクに形成された欠陥の平面視における位置を取得するステップ、
全ての欠陥が、前記円環状領域外に配置されるように、前記ガラスブランクに前記外周および中央孔を形成するための切断線を形成できるか否かを判定するステップ、
前記切断線を形成できると判定した場合に、全ての欠陥が前記円環状領域外に配置されるよう前記切断線を形成するステップ、
を含む、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年の磁気記録媒体の記録密度の向上に伴い、磁気記録媒体の作製に用いる磁気ディスク用ガラス基板や磁気ディスク用ガラスブランクには、板厚さおよび平坦性をより一層改善することが求められている。
機械加工をすることにより磁気ディスク用ガラス基板となる磁気ディスク用ガラスブランクを作製する方式としては、代表的には、
(1)溶融ガラスの塊を一対のプレス成形型によりプレス成形するプレス成形処理を経て磁気ディスク用ガラスブランクを作製するプレス方式、及び
(2)フロート法、ダウンドロー法などによって形成されたシート状ガラスを円盤状に切断加工する処理を経て磁気ディスク用ガラスブランクを作製するシートガラス切断方式、
が知られている。
【0003】
プレス方式の一例として、溶融ガラス流出管から連続的に垂下される溶融ガラス流の先端部を切断して溶融ガラス塊を形成し、溶融ガラス塊を一対のプレス成形型により挟み込んでプレスする方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
このように形成された円板状のガラスブランクは、例えばプレス成形により外周形状を真円形状に形成し、その後、重心位置を中心としてコアリングすることで、円形の中央孔を有する円板形状のガラス基板が形成される(例えば、特許文献2)。得られたガラス基板は研磨処理等により外周と中央孔との間の主表面を平坦化した後、主表面の円環状領域に磁性層が形成されることにより磁気ディスクの記録領域が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高温の溶融ガラス流を切断器により切断するとき、溶融ガラス流が切断器の刃との接触部分で冷却される。この局所的な冷却が生じると、溶融ガラス流を切断した後の溶融ガラス塊をプレス成形した後のガラスブランクに切断痕が欠陥として残存することがある。
通常、切断痕はガラスブランクの中心(又は重心)位置に位置することが多い。しかし、切断器による切断位置、切断器により切断されるときに切断刃と溶融ガラス塊が粘着することにより溶融ガラス塊が受けるモーメント、溶融ガラス塊の形状、溶融ガラス塊の粘性等が揺らぐことがある。このような揺らぎが、切断痕の位置がガラスブランクの中心(又は重心)位置からずれる原因となるため、切断痕の位置を制御することは難しい。
【0007】
切断痕がガラスブランクの中心(又は重心)位置からずれたガラスブランクを用いて中心孔を有する円板形状のガラス基板を形成すると、ガラスブランクから切り出した研磨処理前のガラス基板に切断痕が残存することとなる。このような切断痕は、ガラスの他の傷、気泡等の通常の欠陥よりも深いため、通常の欠陥を除去するような研磨処理では充分に除去することができず、主表面の円環状領域に残存すると不良品となる問題がある。一方、研磨処理の取代を多くすると、処理に時間がかかり、またガラス基板の厚さを充分に維持することができない。
【0008】
そこで、本発明は、欠陥が主表面の円環状領域に含まれないようにガラスブランクを加工してガラス基板を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様は、円形の中央孔を有する円板形状を有し、外周と中央孔との間の主表面の円環状領域に磁性層が形成されることにより磁気ディスクの記録領域が形成される磁気ディスク用ガラス基板の製造方法である。当該製造方法は、
ガラス基板が切り出される前のガラスブランクに形成された欠陥の平面視における位置を取得するステップ、
全ての欠陥が、前記円環状領域外に配置されるように、前記ガラスブランクに前記外周および中央孔を形成するための切断線を形成できるか否かを判定するステップ、
前記切断線を形成できると判定した場合に、全ての欠陥が前記円環状領域外に配置されるよう前記切断線を形成するステップ、
を含む。
ここで、「ガラスブランクに形成された欠陥の平面視における位置」とは、ガラスブランクをその主表面と垂直な方向から見たときの欠陥の位置をいう。
【0010】
前記切断線を形成できるか否かを判定するステップは、
全ての欠陥を内包する円の最小直径を判定するステップ、
前記最小直径が前記中央孔の直径以下である場合に、前記中央孔を形成するための切断線を前記最小直径の円の外側に配置し、かつ、前記ガラス基板の外周を形成するための切断線を前記中央孔の切断線と同心かつ前記ガラスブランクの外周よりも内側に配置できるか否かを判定するステップ、
を含むことが好ましい。
【0011】
前記切断線を形成できるか否かを判定するステップは、
全ての欠陥が外部に配置され、かつ前記ガラスブランクの外周よりも内側に配置される円の最大直径を判定するステップ、
前記最大直径が前記ガラス基板の外径以上である場合に、前記切断線を決定できると判定するステップ、を含むことが好ましい。
【0012】
前記切断線を形成できるか否かを判定するステップにおいて、
欠陥が複数ある場合、少なくとも1つの欠陥が前記中央孔を形成するための切断線よりも内側に配置され、かつ、他の全ての欠陥が前記ガラス基板の外周を形成するための切断線よりも外側に配置されるように、前記切断線を形成できるか否かを判定するステップを含むことが好ましい。
【0013】
前記判定するステップの前に行われ、前記欠陥の前記ガラスブランクの主表面からの深さ方向の位置を取得するステップをさらに含み、
前記判定するステップにおいて、欠陥が複数ある場合、深さ方向の位置が所定値以上の欠陥が前記円環状領域外に配置されるように、前記ガラスブランクに切断線を形成できるか否かを判定することが好ましい。
【0014】
前記切断線を形成できるか否かを判定するステップでは、
深さ方向の位置が所定以上の欠陥が前記円環状領域から所定の距離を開けて配置されるように前記切断線を決定できるか否かを判定することが好ましい。
【0015】
欠陥の形状毎に欠陥の深さ方向の位置を対応付けてあらかじめ登録するステップをさらに含み、
前記ガラスブランクの欠陥の深さ方向の位置を取得するステップは、
前記欠陥の形状を取得するステップ、
前記欠陥の形状があらかじめ登録された形状と一致するか否か判定するステップ、
前記欠陥の形状があらかじめ登録された形状と一致した場合、前記欠陥の深さ方向の位置が前記登録された形状に対応する深さであると判定するステップ、
を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、欠陥が、主表面の磁性層が形成される円環状領域外に配置されるように、ガラス基板の外周および中央孔を形成するための切断線をガラスブランクに形成するため、欠陥が円環状領域に含まれないようにガラスブランクを加工してガラス基板を切り出すことができる。このため、ガラス基板の製造歩留まりを改善し、ガラス基板の加工コストを削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
【0019】
(磁気ディスク用ガラス基板)
まず、磁気ディスク用ガラス基板について説明する。磁気ディスク用ガラス基板は、円板形状であって、外周と同心の円形の中心孔がくり抜かれたリング状である。磁気ディスク用ガラス基板の両面の円環状領域に磁性層(記録領域)が形成されることで、磁気ディスクが形成される。
【0020】
磁気ディスク用ガラスブランク(以降、単にガラスブランクという)は、後述するプレス成形により作製される円形状のガラス板であって、中心孔がくり抜かれる前の形態である。
【0021】
ガラスブランクの材料として、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラスなどを用いることができる。特に、化学強化を施すことができ、また主表面の平面度及び基板の強度において優れた磁気ディスク用ガラス基板を作製することができるという点で、アルミノシリケートガラスを好適に用いることができる。
【0022】
(磁気ディスク用ガラス基板の製造方法)
次に、
図1を参照して、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法のフローを説明する。
図1は、本実施形態の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法のフローの一例を示す図である。
図1に示すように、先ず、一対の主表面を有する板状の磁気ディスク用ガラス基板の素材となるガラスブランクをプレス成形により作製する(ステップS10)。次に、作製されたガラスブランクをスクライブして、中心部分に孔のあいたリング形状(円環状)のガラス基板を作製する(ステップS20)。次に、スクライブされたガラス基板に対して形状加工(チャンファリング)を行う(ステップS30)。これにより、ガラス基板が生成される。次に、形状加工されたガラス基板に対して端面研磨を行う(ステップS40)。端面研磨の行われたガラス基板に、固定砥粒による研削を行う(ステップS50)。次に、ガラス基板の主表面に第1研磨を行う(ステップS60)。次に、ガラス基板に対して化学強化を行う(ステップS70)。次に、化学強化されたガラス基板に対して第2研磨を行う(ステップS80)。以上の処理を経て、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。以下、各処理について、詳細に説明する。
【0023】
(a)プレス成形処理(ステップS10)
まず、プレス成形処理について説明する。プレス成形処理は、切断処理とプレス処理と取出処理を含む。
(a−1)切断処理
溶融ガラス流出管の下部の流出口から溶融ガラス流が所定の量流出したとき、溶融ガラス流の先端部を切断器により切断することによって、溶融ガラス塊を落下させる。
(a−2)プレス処理
溶融ガラス塊の落下方向と交差する方向(例えば水平方向)両側に移動する一対の金型を互いに近接させることで、落下中の溶融ガラスの塊を一対の金型のプレス成形面の間に挟みこみ、プレスしてガラスブランクを成形する(以下、水平プレス方式という)。所定時間プレスを行った後、金型を開いてガラスブランクが取り出される。プレスの際、一対の金型のプレス成形の温度を揃える。なお、本実施形態の水平プレス方式では、窒化ホウ素等の離型剤が用いられず、溶融ガラス塊が、成形中、プレス成形面と接触するようになっている。このため、プレス成形面の形状が成形後のガラスブランクの主表面に転写される。プレス成形面が鏡面加工されて平滑な面になっていることにより、成形されるガラスブランクの主表面が平滑な面となる。
【0024】
(b)スクライブ処理(ステップS20)
次に、スクライブ処理について説明する。プレス成形処理の後、スクライブ処理では、成形されたガラスブランクに対してスクライブが行われる。
ここでスクライブとは、成形されたガラスブランクを所定のサイズのリング形状のガラス基板とするために、ガラスブランクの表面に超鋼合金製あるいはダイヤモンド粒子を含んだスクライブホイールにより2つの同心円状の傷(切断線)を設けることをいう。具体的には、スクライブ処理を行うスクライブステージにロボットハンドでガラスブランクを移動させ、後述するように決定したスクライブ位置になるように位置決めを行い、吸着によりガラスブランクを固定する。次に、決定したスクライブ位置に対応する2つの同心円に沿ってスクライブホイールを回転させることで、2つの同心円状の切断線を形成する。
ここで、外側の切断線がガラス基板の外周円となり、内側の切断線が中央孔の輪郭となる。ガラスブランクに対してスクライブ位置を決定する方法、すなわち、ガラスブランクに形成する2つの同心円状の切断線の位置を決定する方法については、後述する。
2つの同心円の形状にスクライブされたガラスブランクは、部分的に加熱され、ガラスブランクの熱膨張の差異により、外側同心円の外側部分および内側同心円の内側部分が除去される。これにより、円形状の中央孔があいたガラス基板が得られる。なお、ガラスブランクに対してコアドリル等を用いて円孔を形成することにより円形状の中央孔があいたガラス基板を得ることもできる。
なお、本実施形態においては、後述するように、ガラスの切断痕がガラス基板の円環状領域に含まれないようにスクライブ位置を決定できないガラスブランクを廃棄し、スクライブ処理以降の処理の対象外とする。
【0025】
(c)形状加工処理(ステップS30)
次に、形状加工処理について説明する。形状加工処理では、スクライブ処理後のガラス基板の端部に対するチャンファリング加工(外周側端面および内側端面の面取り加工)を含む。チャンファリング加工は、スクライブ処理後のガラス基板の外周側端面および内側端面において、ダイヤモンド砥石により面取りを施す形状加工である。この形状加工により所定の形状をしたガラス基板が生成される。面取りの傾斜角度は、主表面に対して例えば40〜50度であり、略45度であることが好ましい。
【0026】
(d)端面研磨処理(ステップS40)
次に、端面研磨処理を説明する。端面研磨では、ガラス基板の内側端面及び外周側端面に対して、ブラシ研磨により鏡面仕上げを行う。このとき、酸化セリウム等の微粒子を遊離砥粒として含む砥粒スラリが用いられる。端面研磨を行うことにより、ガラス基板の端面での塵等が付着した汚染、傷等の損傷の除去を行うことにより、サーマルアスペリティ障害の発生の防止や、ナトリウムやカリウム等のコロージョンの原因となるイオン析出の発生を防止することができる。
【0027】
(e)固定砥粒による研削処理(ステップS50)
固定砥粒による研削処理では、遊星歯車機構を備えた両面研削装置を用いて、ガラス基板の主表面に対して研削加工を行う。具体的には、ガラスブランクから生成されたガラス基板の外周側端面を、両面研削装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板の両側の主表面の研削を行う。研削による取り代は、例えば数μm〜100μm程度である。固定砥粒の粒子サイズは、例えば10μm程度である。両面研削装置は、上下一対の定盤(上定盤および下定盤)を有しており、上定盤および下定盤の間にガラス基板が狭持される。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させ、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の両主表面を研削することができる。
【0028】
(f)第1研磨処理(ステップS60)
次に、研削のガラス基板の主表面に第1研磨が施される。第1研磨は、主表面加工処理の1つである。具体的には、ガラス基板の外周側端面を、両面研磨装置の保持部材に設けられた保持孔内に保持しながらガラス基板の両側の主表面の研磨が行われる。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。第1研磨は、例えば固定砥粒による研削を行った場合に主表面に残留したキズや歪みの除去、あるいは微小な表面凹凸(マイクロウェービネス、粗さ)の調整を目的とする。第1研磨による取り代は、例えば数μm〜50μm程度である。
【0029】
第1研磨処理では、固定砥粒による研削(ステップS60)に用いる両面研削装置と同様の構成を備えた両面研磨装置を用いて、研磨スラリを与えながらガラス基板が研磨される。第1研磨処理では、固定砥粒による研削と異なり、固定砥粒の代わりに遊離砥粒を含んだ研磨スラリが用いられる。第1研磨に用いる遊離砥粒として、例えば、酸化セリウム砥粒、あるいはジルコニア砥粒など(粒子サイズ:直径1〜2μm程度)が用いられる。両面研磨装置も、両面研削装置と同様に、上下一対の定盤の間にガラス基板が狭持される。下定盤の上面及び上定盤の底面には、全体として円環形状の平板の研磨パッド(例えば、樹脂ポリッシャ)が取り付けられている。そして、上定盤または下定盤のいずれか一方、または、双方を移動操作させることで、ガラス基板と各定盤とを相対的に移動させることにより、ガラス基板の両主表面を研磨する。
【0030】
(g)化学強化処理(ステップS70)
次に、ガラス基板は化学強化される。化学強化液として、例えば硝酸カリウム(60重量%)と硝酸ナトリウム(40重量%)の混合液等を用いることができる。化学強化処理では、化学強化液を例えば300℃〜400℃に加熱し、洗浄したガラス基板を例えば200℃〜300℃に予熱した後、ガラス基板を化学強化液中に、例えば3時間〜4時間浸漬する。
ガラス基板を化学強化液に浸漬することによって、ガラス基板の表層にあるガラス組成中のリチウムイオン及びナトリウムイオンが、化学強化液中のイオン半径が相対的に大きいナトリウムイオン及びカリウムイオンにそれぞれ置換されることで表層部分に圧縮応力層が形成され、ガラス基板が強化される。
なお、化学強化処理されたガラス基板は洗浄される。例えば、ガラス基板は硫酸で洗浄された後に、純水等で洗浄される。
【0031】
(h)第2研磨(最終研磨)処理(ステップS80)
次に、化学強化処理後のガラス基板に第2研磨が施される。第2研磨処理は、主表面の鏡面研磨を目的とする。第2研磨においても、第1研磨に用いる両面研磨装置と同様の構成を有する両面研磨装置が用いられる。第2研磨による取り代は、例えば1μm程度である。第2研磨処理が第1研磨処理と異なる点は、遊離砥粒の種類及び粒子サイズが異なることと、樹脂ポリッシャの硬度が異なることである。
【0032】
第2研磨処理に用いる遊離砥粒として、例えば、スラリに混濁させたコロイダルシリカ等の微粒子(粒子サイズ:直径10〜50nm程度)が用いられる。研磨されたガラス基板を中性洗剤、純水、IPA等を用いて洗浄することで、磁気ディスク用ガラス基板が得られる。
第2研磨処理は、必ずしも必須な処理ではないが、ガラス基板の主表面の表面凹凸のレベルをさらに良好なものとすることができる点で実施することが好ましい。第2研磨処理を実施することで、主表面の粗さ(Ra)を0.1nm以下かつ主表面のマイクロウェービネスを0.1nm以下とすることができる。このようにして、第2研磨の施されたガラス基板は、水洗いされて磁気ディスク用ガラス基板となる。
【0033】
(スクライブ位置の決定処理の詳細説明)
次に、スクライブ処理のうち、スクライブ位置を決定する処理について詳細に説明する。
図2はスクライブ位置を決定する処理のフローの一例を示す図である。
まず、プレス成形後のガラスブランクの外周部を支持した状態で、ガラスブランクの両主表面の画像データを取得する(ステップS21)。画像データの取得は、例えばCCDカメラ、CMOSカメラ等の光学式のカメラにより行うことができる。
例えば、
図3に示すように、ガラスブランク10を環状の保持枠20により水平に保持する。この状態で、保持枠の上部に傾いて保持された上側鏡30によりガラスブランク10の上面の像を反射させてカメラ50により撮像すると同時に、保持枠の下部に傾いて保持された下側鏡40によりガラスブランク10の下面の像を反射させてカメラ50により撮像してもよい。カメラ50により撮像された、ガラスブランク10の上面の像および下面の像を含む画像は、コンピュータ60により処理される。
【0034】
画像データを取得するとき、ガラスブランクをハロゲンランプ、LED、レーザー等の光源により照明することで、ガラスブランクの欠陥により照明光が散乱されるため、容易に欠陥の検出を行うことができる。波長580nm以下の光は欠陥により散乱されやすいため、波長580nm以下の光を主とする光源を用いることが好ましく、波長480nm以下の光を主とする光源を用いることがより好ましい。
【0035】
ガラスブランクの研磨処理前の主表面には、金型のプレス面の凹凸形状に由来する凹凸がある。このため、照明光は、ガラスブランクの主表面の凹凸による散乱光よりも、ガラスブランクの深い位置にある欠陥による散乱光がより多くカメラに捕捉されるように照射することが好ましい。
【0036】
例えば、ガラスブランクの外周部より照明光をガラスブランクの内部に導入することで、ガラスブランクの主表面の凹凸による散乱光と比較して、ガラスブランクの深い位置にある欠陥による散乱光の光量を多くすることができ、ガラスブランクの深い位置にある欠陥を効率的に検出することができる。
【0037】
次に、取得した画像データから、ガラスブランクに形成された欠陥の平面視における位置データを取得し、取得した欠陥の位置データから、欠陥のガラスブランクの表面からの深さ方向の位置情報を取得する(ステップS22)。
ガラスブランクの外周部より照明光をガラスブランクの内部に導入すると、ガラスブランクの外周部と、深い欠陥の位置で散乱光強度が大きくなる。このため、取得した画像からガラスブランクの外周部に対応する位置と、深い欠陥のガラスブランクの外周部に対する位置を検出することができる。
また、レーザー光をガラスブランクの微小領域に照射し、反射光と散乱光の光量の差から、その領域の欠陥の有無を判断し、ガラスブランクの全領域の欠陥の位置情報を取得してもよい。このように欠陥の位置データを取得する装置として、例えば光学式の自動外観検査装置(AOI:Automated Optical Inspection)等がある。
【0038】
例えば、輝度が所定の値よりも高い点(ガラスブランクの外周部を除く)は、所定の深さ以上の位置にある欠陥であると判定することができる。
例えば、ガラスブランク全面の輝度の平均値を100%としたときに、120〜150%の輝度(低輝度)の線状欠陥は、浅い位置(100μm未満)にある欠陥であると判定することができる。一方、ガラスブランク全面の輝度の平均値を100%としたときに、150%超の輝度(高輝度)の線状欠陥は、深い位置(100μm以上)にある欠陥であると判定することができる。
また、上記の光学式の自動外観検査装置によっても、欠陥のガラスブランクの表面からの深さ方向の位置情報を取得することができる。
【0039】
ところで、線状に連続する高輝度の点(線状欠陥)が一定の長さ以上であるときには、この線状欠陥は、切断痕であると判断することができる。切断痕のうち、特定の形状のものは、所定の深さ以上の位置にある欠陥であることが分かっている。このため、一定の長さ以上の線状欠陥の形状パターンと、欠陥の深さ方向の位置情報とを対応付けておき、取得した画像データ中の線状欠陥の形状パターンを、深さが既知の形状パターンと対比することで、欠陥の深さを推定することができる。
【0040】
例えば、曲率半径の小さい(半径2mm以下)の曲線を含む線状欠陥、鋭角に屈曲する部分を含む線状欠陥など、特異な形状を有するものは、輝度の高低に関わらず、深い位置(100μm以上)にある欠陥であると判定することができる。
また、太さが80μm以上200μm以下の線状欠陥は、輝度が低くても、深い位置(100μm以上)にある欠陥であると判定することができる。このような欠陥には、切断痕の他に、例えば、溶融ガラス塊がプレス処理するときに折り畳まれることで生じる深い溝状の欠陥も含まれる。
一方、長さが20mm以上の線状欠陥は、輝度の高低に関わらず、浅い位置(100μm未満)にある欠陥であると判定することができる。
なお、登録された形状パターンに一致しない線状欠陥については、輝度に応じた深さの位置にある欠陥であると判定することができる。このような欠陥には、例えば金型不良による凹凸やクラックなどがある。
表1に線状欠陥の形状パターンの登録例を示す。このような形状パターンの登録データは、コンピュータ60内の図示しない記憶手段に記憶される。コンピュータ60は、取得した画像データ中の線状欠陥の形状パターンが、登録された形状パターンのいずれかと一致するか否かを判定し、一致した場合にガラスブランクの欠陥の深さ方向の位置が、一致した形状パターンに対応する深さ方向の位置にあると判定する。一方、取得した画像データ中の線状欠陥の形状パターンが、登録された形状パターンのいずれとも一致しない場合、上述したように、線状欠陥の輝度に基づいて深さ方向の位置を判定する。
【0042】
次に、ガラスブランクの画像データに基づいて、所定の深さ以上の位置にある全ての欠陥が、ガラスブランクから切り出されるガラス基板の主表面の磁性層が形成される円環状領域の外部に配置されるように、同心円状の切断線を形成する位置を決定できるか否か判定する(ステップS23〜S28)。ここで、「所定の深さ」は、スクライブ処理以後の研削処理(ステップS50)、第1研磨処理(ステップS60)、第2研磨処理(ステップS80)における取代を合計した深さ未満であることが好ましい。
【0043】
切断線を形成する位置を決定できる場合には、切断線を形成する位置を決定し、スクライブ処理を行う。なお、ガラス基板の切断線C1、C2の位置を決定する際に、切断線C1と円環状領域の内周、切断線C2と円環状領域の外周とが所定の距離を開けて配置されるように、切断線C1、C2を形成する位置を決定することが好ましい。
一方、切断線C1、C2を形成する位置を決定できない場合には、そのガラスブランクを廃棄する(ステップS29)。
【0044】
具体的には、まず、ガラスブランクの画像データに基づき、所定深さ位置以上の欠陥を全て内包する円の最小直径R1を求める(ステップS23)。
次に、R1がガラス基板の中央孔に対応する切断線C1の直径以下であるか否かを判定する(ステップS24)。R1がC1の直径以下である場合(ステップS24:YES)、所定深さ位置以上の欠陥をC1の内部に配置した状態で、ガラス基板の外周の切断線C2をガラスブランクの外周よりも内側に配置可能か否かを判定する(ステップS25)。
図4に示すように、所定深さ位置以上の欠陥d1、d2をガラス基板の中央孔の大きさの円の内部に配置した状態で、この円と同心かつガラス基板の外径と同径の円をガラスブランクの外周Pの内側に配置可能である場合(ステップS25:YES)、これらの円を切断線C1、C2として決定し、スクライブ処理を行う(切断線C1、C2を形成する)。
【0045】
ステップS24でR1がC1の径よりも大きいと判定した場合(ステップS24:NO)、または、ステップS25でガラス基板の外周の切断線をガラスブランクの外周の内側に配置不能であると判定した場合(ステップS25:NO)、所定深さ位置以上の欠陥が全て外部に配置され、かつガラスブランクの内側に配置される円の最大直径R2を求める(ステップS26)。次に、R2がガラス基板の直径以上であるか否かを判定する(ステップS27)。
R2がC2の直径以上である場合(ステップS27:YES)、例えば
図5に示すようにR2の内部に切断線C2、C1の位置を決定し、スクライブ処理を行う(切断線C1、C2を形成する)。
【0046】
一方、R2がC2の直径よりも小さい場合(ステップS27:NO)、所定の深さ位置以上の欠陥の一部を中央孔の切断線の内部に配置し、他の全ての欠陥をガラス基板の外周の切断線よりも外側に配置するように切断線の位置を設定できるか否かを判定する(ステップS28)。
溶融ガラス塊は、溶融ガラス流から上部および下部を切断されることで形成される。このため、溶融ガラス塊は、多くの場合、切断痕として2箇所の欠陥群を有する。このうちの1箇所を中央孔の切断線の内部に配置し、他の1箇所をガラス基板の外周の切断線よりも外側に配置するように切断線の位置を設定できるか否かを判定する。
【0047】
例えば
図6に示すように、所定の深さ位置以上の欠陥の一部d1を中央孔の切断線C1の内部に配置し、他の全ての欠陥d2をガラス基板の外周の切断線C2よりも外側に配置するように切断線C1、C2の位置を設定できると判定した場合(ステップS28:YES)、
図6に示すように切断線を決定し、スクライブ処理を行う(切断線C1、C2を形成する)。
一方、切断線C1、C2の位置を設定できないと判定した場合(ステップS28:NO)、このガラスブランクは廃棄することを決定し(ステップS29)、スクライブ処理以後の処理を行わない。
【0048】
上述したように切断線C1、C2の位置を設定できないガラスブランクから欠陥を除去するためには、以後の研磨処理等における取代を大きく設定する必要があり、加工コストが増大する。一方、取代を小さく設定した場合には、欠陥を除去することができず不良品となり、歩留まりが悪化する。本実施形態によれば、このようなガラスブランクをスクライブ処理前に廃棄することで、スクライブ処理以後の処理の歩留まりを改善し、ガラス基板の加工コストを削減することができる。
【0049】
以上、本発明の磁気ディスク用ガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
上記実施形態において、ガラスブランクに形成された欠陥の平面視における位置、欠陥の形状、欠陥の深さ方向の位置を取得するために、画像データを用いたが、本発明はこれに限らない。例えば、ガラス基板の表面を走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーにより走査することで、欠陥の平面視における位置、欠陥の形状、欠陥の深さ方向の位置を取得してもよい。
また、切断線C1、C2の位置を決定する際に、深さ方向の位置が所定以上の欠陥が、円環状領域から所定の距離を開けて配置されるように、切断線C1、C2の位置を決定できるか否かを判定してもよい。
【0050】
あるいは、ガラス基板の切断線C1、C2の位置を決定する際に、切断線C1と円環状領域の内周の間の領域や、切断線C2と円環状領域の外周の間の領域に、所定の深さ位置以上の欠陥の存在を許容してもよい。例えば、上記のステップS24において、R1が円環状領域の内周以下であるか否かを判定してもよい。また、ステップS28において、所定の深さ位置以上の欠陥の一部を円環状領域の内周よりも内側の領域に配置し、他の全ての欠陥を円環状領域の外周よりも外側に配置するように切断線C1、C2の位置を設定できるか否かを判定してもよい。