(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ステンレス鋼外皮にフラックスを充填してなるステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量に対する質量%で、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計で、C:0.005〜0.10%、
Si:0.10〜1.0%、
Mn:0.50〜4.5%、
Ni:7〜12%、
Cr:18〜25%、
Mo:0.010〜1.0%、
Ti:0.10〜0.5%、
Nb:0.02〜0.5%を含有し、
フラックスに、
TiO2:4.5〜7.5%、
SiO2:0.20〜1.8%、
ZrO2:0.010〜0.10%、
Al2O3:0.01〜0.20%、
Naのアルカリ金属化合物のNa2O換算値およびKのアルカリ金属化合物のK2O換算値の1種または2種の合計:0.010〜0.20%、
弗素化合物のF換算値:0.10〜1.0%を含有し、残部は、Feおよび不可避不純物からなることを特徴とするステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤ。
ワイヤ全質量に対する質量%で、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計で、Nb:0.1〜0.5%を含有することを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤ。
【背景技術】
【0002】
1990年代初頭、石油精製装置の高温環境で使用されるオーステナイト系ステンレス鋼製配管において、Biを含有したオーステナイト系ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤで施工された溶接継手で割れの発生が相次いで報告された。特に、700℃付近の温度域では、実用化後1年以内という短期間に割れが発生するトラブルが報告され、大きな問題となった。この割れの原因として、一般的なステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤには、スラグ剥離性の改善のためにBiが酸化物の形で添加されているが、このBiを添加した溶接継手は、700℃以上の温度域に曝された場合、オーステナイト粒界にBiが濃化し、再熱割れが発生し、その再熱割れによって短時間で粒界強度が低下し、延性が著しく低下することが判明した。
【0003】
このような高温環境化でステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤで溶接した溶接金属の再熱割れ防止のする手段として、Bi量を10ppm程度にすれば、溶接金属の高温延性に影響がなく、実用上問題ないことが提言され、JISでは、Bi無添加の溶接用フラックス入りワイヤとして、Bi≦0.001質量%のワイヤが規定されており、米国石油学会(API)においても、550℃以上で使用される配管の溶接にはBi≦0.002質量%のワイヤを使用することが推奨されている。このようなBi無添加の溶接用フラックス入りワイヤは、高温強度が高く、耐割れ性が優れることから、高温環境下で使用される化学プラントなどに適用されている。しかし、スラグ剥離性の改善効果を有するBiが低く規制されているため、従来の溶接用フラックス入りワイヤと比較すると、スラグ剥離性が悪く、溶接施工の高能率化の観点を満足できないといった問題がある。したがって、Biを含有した溶接用フラックス入りワイヤと同等の溶接作業性を有し、高温強度が高く、耐割れ性に優れるBi無添加のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの開発が望まれている。
【0004】
このように、高温用途用のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤは種々検討されており、例えば、特許文献1には、TiO
2、SiO
2、ZrO
2、金属弗化物、Al
2O
3、BiおよびBi化合物を規定するオーステナイト系ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤが開示されている。しかし、この溶接用フラックス入りワイヤは、ZrO
2量が多く、溶接金属および溶接スラグ間に窒化物を生成するため、スラグ剥離性が悪いといった課題があった。
【0005】
また、特許文献2には、O、Nb、V、C、N、Cr、TiO
2、SiO
2、Al
2O
3および金属弗化物等を限定した高温用途用ステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤが開示されている。しかし、この溶接用フラックス入りワイヤでは、溶接金属中のNb含有量が多くなり、スラグ剥離性が悪くなる。また、N含有量が少なくなるので、オーステナイトとフェライトの晶出量によって安定した固溶強化が得られず、溶着金属の引張強さが低くなる。さらには、SUS304N2などのオーステナイト系ステンレス鋼に適用した場合、希釈の影響によって溶接金属中のN含有量が多くなり、スラグ剥離性が悪くなるという問題があった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、各種成分組成の溶接用フラックス入りワイヤを試作して詳細に検討した。その結果、溶接用フラックス入りワイヤ中のC、Cr、Ni、Mo、Nbを適性化することによって、高温での引張強さ、靭性および耐割れ性が向上することを見出した。
【0013】
また、高温で長時間保持した場合、フェライト/オーステナイト粒界へ炭化物やフェライト相中にσ相が析出してフェライト相内が脆化し、高温引張強さが低下するので、フェライト生成元素であるCrを適正化することによって、フェライト量を低く抑え、フェライト/オーステナイト粒界中の炭化物やσ相を低減できることを見出した。
【0014】
また、C量の調整を行うことで、オーステナイト相に適正な炭化物を析出させ、引張強さを向上できることを突き止めたが、それに伴って、靭性が低下したため、さらなる検討
【0015】
を行った。その結果、Ti量を適正化することで、脱酸を促進させて溶接金属中の酸化物を低減し、靭性を改善できることを見出した。
【0016】
一方、フェライト量が少なくなるとともに、耐割れ性が悪くなる傾向が認められたため、Mn添加量の適正化も行い、低融点化合物の偏析を低減させ、耐割れ性を改善できることを見出したこと等に基づいて、本発明を完成した。
【0017】
溶接作業性については、従来のBiを含有したステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤと比較すると、スラグ剥離性が劣化し、溶接施工の高能率化を満足できないといった問題があり、種々検討した結果、TiO
2量を適正化し、溶接スラグの熱膨張率を調整して溶接金属と溶接スラグの熱膨張差を増加させることにより、スラグ剥離性を向上できることを見出した。上記の効果は、Al
2O
3、および弗素化合物を適量添加することにより良好にできる。また、アークの安定性およびスパッタ量の低減は、TiO
2、ZrO
2、NaおよびKのアルカリ金属化合物、弗素化合物を適量添加することで、また、ビード形状は、Si、SiO
2、Al
2O
3およびNaおよびKのアルカリ金属化合物を適量添加することで良好にできる。
【0018】
本発明のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤは、ステンレス鋼外皮およびフラックスの各成分組成それぞれの単独および共存による相乗効果によりなし得たものであるが、以下にそれぞれの各成分組成の添加理由および限定理由を述べる。なお、各成分組成の含有量は、ワイヤ全質量に対する質量%で示す。
まず、ステンレス鋼外皮とフラックスの合計で、以下の通りに限定する。
【0019】
[C:0.005〜0.10%]
Cは、ステンレス鋼外皮、フェロマンガン、フェロシリコンマンガンおよびグラファイト等から添加され、Cr、TiおよびNb炭化物を生成して、溶着金属の高温引張強さを高める効果がある。Cが0.005%未満では、Cr、TiおよびNb炭化物の生成が不十分で、高温での引張強さが低くなる。一方、Cが0.10%を超えると、Cr、TiおよびNb炭化物が粗大化し、高温に保持した後の靭性が低くなる。従って、C量は0.005〜0.10%とする。
【0020】
[Si:0.1
0〜1.0%]
Siは、ステンレス鋼外皮、金属シリコン、フェロシリコンおよびフェロシリコンマンガン等から添加され、ビード形状やスラグ被包性を改善する効果を有する。Siが0.1
0%未満では、溶接時の脱酸反応によって形成されるスラグ量が少なく、ビード形状が悪くなる。一方、Siが1.0%を超えると、スラグ量が過多となり、スラグ被包性が悪くなる。従って、Siは0.1
0〜1.0%とする。
【0021】
[Mn:0.5
0〜4.5%]
Mnは、ステンレス鋼外皮、金属マンガン、フェロマンガンおよびフェロシリコンマンガン、窒化Mn等から添加され、低融点化合物の偏析を低減して耐割れ性を改善する効果を有する。Mnが0.5
0%未満では、オーステナイト粒界に低融点化合物が偏析するため、耐割れ性が悪くなる。一方、Mnが4.5%を超えると、炭化物および窒化物を生成して常温での靭性が低下する。従って、Mnは0.5
0〜4.5%とする。
【0022】
[Ni:7〜12%]
Niは、ステンレス鋼外皮、金属ニッケルおよびフェロニッケル等から添加され、オーステナイト相を安定化させる元素であり、フェライト量の調整および耐割れ性を改善する効果を有する。Niが7%未満では、オーステナイトの晶出量が減少してフェライト量が多くなり、常温での靭性が低下する。一方、Niが12%を超えると、フェライトの晶出量が少なくなり、低融点化合物の偏析が助長されて耐割れ性が悪くなる。従って、Niは7〜12%とする。
【0023】
[Cr:18〜25%]
Crは、ステンレス鋼外皮、金属クロムおよびフェロクロム、窒化Cr等から添加され、フェライト相を安定化させる元素であり、溶着金属の引張強さを増加させる効果を有する。Crが18%未満では、フェライトの晶出量が減少してオーステナイト量が多くなり、常温での引張強さが低下する。一方、Crが25%を超えると、Cr炭化物の生成が多くなり、高温での引張強さが低下する。従って、Crは18〜25%とする。
【0024】
[Mo:0.01
0〜1.0%]
Moは、ステンレス鋼外皮、金属モリブデンおよびフェロモリブデン等から添加され、オーステナイト相中に固溶され、引張強さを改善する効果を有する。Moが0.01
0%未満では、固溶強化の効果が得られず、常温での引張強さが低下する。一方、Moが1.0%を超えると、フェライト中より極めて硬く脆いσ相が析出され、高温に保持した後の靭性が低下する。従って、Moは0.01
0〜1.0%とする。
【0025】
[Ti:0.1
0〜0.5%]
Tiは、ステンレス鋼製外皮、金属チタンおよびフェロチタン等から添加され、脱酸を促進させて溶接金属中の酸化物を低減し、靭性を改善する効果を有する。Tiが0.1
0%未満では、脱酸が不十分で、常温での靭性が低下する。一方、Tiが0.5%を超えると、溶接時に溶滴が粗大に成長し、大粒のスパッタが発生する。従って、Tiは0.1
0〜0.5%とする。
【0026】
[Nb:0.0
2〜0.5%]
Nbは、ステンレス鋼外皮から不可避に混入する元素であるが、炭化物の生成を促進させ、高温に保持した後の靭性を改善する効果を有するものであり、フェロニオブ等で添加される。ステンレス鋼外皮からの混入を考慮し、下限は0.0
2%をする。一方、Nbが0.5%を超えると、溶接金属とスラグ間で化合物を生成してスラグ剥離性が悪くなる。従って、Nbは、0.0
2〜0.5%とする。
なお、機械的性質のさらなる改善の目的から、Nbの含有量を0.1%以上にすることによって、溶接金属中に微細な炭化物の生成を促進して高温に保持した後の靭性の低下を防ぎ、さらなる機械的性質の向上を図ることができるので、Nbの下限を0.1%とすることが好ましい。
【0027】
次に、ワイヤ全質量に対する質量%で、フラックス中に含有する成分組成を、以下の通りに限定する。
【0028】
[TiO
2:4.5〜7.5%]
TiO
2は、ルチール、酸化チタン、チタン酸ソーダ、チタンスラグ、イルミナイト等から添加される。これらは、溶接スラグの熱膨張率を調整し、溶接金属と溶接スラグの熱膨張差を増加させることによってスラグ剥離性を向上させる。TiO
2が4.5%未満であると、溶接金属と溶接スラグの熱膨張差が少なくなり、スラグ剥離性が劣化する。一方、TiO
2が7.5%を超えると、溶滴を被包するスラグ量が過多となり、溶滴の移行が阻害されるためアーク安定性が低下する。従って、TiO
2は4.5〜7.5%とする。
【0029】
[SiO
2:0.2
0〜1.8%]
SiO
2は、珪砂、ジルコンサンド等より添加されスラグ形成剤として作用し、スラグの粘性を調整しスラグ被包性を良好にする効果がある。SiO
2が0.2
0%未満であると、スラグの粘性が低くなり、スラグ被包性が悪くなる。一方、SiO
2が1.8%を超えると、スラグ量が増加して溶接金属とスラグ量とのバランスが悪くなり、ビード形状が劣化する。従って、SiO
2は0.2
0〜1.8%とする。
【0030】
[ZrO
2:0.01
0〜0.10%]
ZrO
2は、ジルコンサンドおよび酸化ジルコニウム等から添加され、スラグの粘性を調整し、溶滴移行の際に発生するスパッタ発生量を低減する効果を有する。ZrO
2が0.01
0%未満であると、スラグの粘性が低くなり、溶滴移行の際に小粒のスパッタが発生する。一方、ZrO
2が0.10%を超えると、スラグの粘性が高くなり、溶滴が大きく成長し、溶滴移行が円滑に行われずアークが不安定になる。従って、ZrO
2は0.01
0〜0.10%とする。
【0031】
[Al
2O
3:0.01〜0.20%]
Al
2O
3はアルミナから添加され、スラグの融点を調整してビード形状を向上させる効果を有する。Al
2O
3が0.01%未満であると、スラグの融点が低くなるので、溶接金属とスラグの凝固が不均一となり、ビード形状が劣化する。一方、Al
2O
3が0.20%を超えると、スラグの融点が高くなり、冷却速度の速いビード部にスラグが残ってスラグ剥離性が悪くなる。従って、Al
2O
3は0.01〜0.20%とする。
【0032】
[Naのアルカリ金属化合物のNa
2O換算値およびKのアルカリ金属化合物のK
2O換算値の1種または2種の合計:0.01
0〜0.20%]
NaおよびKのアルカリ金属化合物は、水ガラスのNa
2OおよびK
2O等から添加され、アークを安定にし、スパッタ発生量を低減する効果を有する。Naのアルカリ金属化合物のNa
2O換算値およびKのアルカリ金属化合物のK
2O換算値の1種または2種の合計が0.01
0%未満では、アークが不安定となり、溶滴移行が短絡移行となってスパッタ発生量が増加する。一方、Naのアルカリ金属化合物のNa
2O換算値およびKのアルカリ金属化合物のK
2O換算値の1種または2種の合計が0.20%を超えると、スラグの凝固が早くなり、ビード形状が悪くなる。従って、Naのアルカリ金属化合物のNa
2O換算値およびKのアルカリ金属化合物のK
2O換算値の1種または2種の合計は0.01
0〜0.20%とする。
【0033】
[弗素化合物のF換算値:0.1
0〜1.0%]
弗素化合物のF換算値は、弗化ソーダ、珪弗化カリ、ジルコンフッ化カリ、氷晶石、弗化アルミ、弗化リチウムおよび蛍石等から添加され、アークの安定性を向上する効果を有する。弗素化合物のF換算値が0.1
0%未満では、上述の効果が不十分であり、アークが不安定になる。一方、弗素化合物のF換算値が1.0%を超えると、スラグの融点が低下して溶融金属よりスラグの凝固が早くなり、スラグ剥離性が悪くなる。従って、弗素化合物のF換算値は0.1
0〜1.0%とする。
なお、フラックス中に含有される金属酸化物は、金属単体成分の含有量としない。
【0034】
残部は、Feおよび不可避不純物からなる。Feは、ステンレス鋼外皮のFe、フラックスの鉄粉、鉄合金(Fe−Si、Fe−Mn、Fe−Si−Mn等のフェロアロイ)粉などからのFeである。不可避不純物は、P、S、N、Biなどの不可避に混入される不純物をいう。
【0035】
なお、耐割れ性の観点から、Pは0.040%以下、Sは0.030%以下であることが好ましい。また、Biは、溶接部が高温に長時間保持された場合、オーステナイト粒界にBiが濃化し易く、再熱割れを発生させるとともに、短時間で粒界強度が低下して延性が著しく低下させるのでBiは、0.001%以下とすることが好ましい。Nは特に上限を定めないが、0.05%以下が不可避的に含有される。
【0036】
以上、本発明のステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤの成分組成の限定理由を述べたが、溶接用フラックス入りワイヤの製造方法について言及すると、例えば、ステンレス鋼外皮を帯鋼から管状に成形する場合、配合、撹拌、乾燥した充填フラックスをU形に成形した溝に満たした後に丸形に成形し、所定のワイヤ径まで伸線する。この際、成形した外皮シームを溶接してシームレスタイプの溶接用フラックス入りワイヤとすることもできる。また、ステンレス鋼外皮がパイプの場合、パイプを振動させてフラックスを充填し、所定のワイヤ径まで伸線することができる。いずれも製造方法も、ワイヤ径は0.8〜3.6mmまで製造が可能である。
【0037】
フラックスは、供給および充填が円滑に行えるように、固着剤(珪酸カリおよび珪酸ソーダの水ガラス)を添加して造粒して用いることもできる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0039】
表1に示す化学成分のステンレス鋼外皮を用い、表2−1、2−2に示す各種成分組成のフラックスを充填し、端面同士を溶接してシームレス状にした後、ワイヤ径1.2mmまで縮径してステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤを試作した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2-1】
【0042】
【表2-2】
【0043】
表2−1、2−2に示すステンレス鋼溶接用フラックス入りワイヤを用い、溶接作業性および機械的性質を調査した。
【0044】
溶接作業性の評価は、表3に示す成分のSUS304L鋼板を用い、表4に示す溶接条件で下向水平すみ肉溶接を行い、アーク安定性、スパッタ発生量、ビード形状、スラグ被包性およびスラグ剥離性を調査した。なお、それぞれの良否は目視にて判定した。
【0045】
【表3】
【0046】
【表4】
【0047】
溶着金属試験は、表3に示す成分の板厚20mm、開先角度10°を設けたSUS304L鋼板に2層バタリングを行い、JIS Z 3323に準拠し、表4に示す溶接条件にて多層盛溶接を行った。溶着金属部より、引張試験片および衝撃試験片を採取し、室温および650℃の高温で試験を行った。
【0048】
常温試験は、室温にて引張試験、試験温度−20℃で衝撃試験行い、引張強さが520MPa以上、吸収エネルギーが3本の平均値で25J以上を良好とした。
【0049】
高温試験は、引張試験は引張試験片を650℃まで加熱した直後に試験を行い、引張強さが250MPa以上を良好とし、衝撃試験は衝撃試験片を650℃×2h保持し、室温まで空冷した後、試験温度−20℃で吸収エネルギーが3本の平均値で30J以上を良好とした。
【0050】
耐割れ性の評価は、表3に示す成分の板厚20mm、開先角度10°を設けたSUS304L鋼板を用い、表4に示す溶接条件で多層盛溶接して溶接継手を作製し、該溶接継手を800℃×720h保持し、室温まで空冷した後、JIS Z 3122に準拠して側曲げ試験片を採取して側曲げ試験を実施し、疵が3mm以下を良好とした。それら調査結果を表5にまとめて示す。
【0051】
【表5】
【0052】
表2−1、表2−2および表5のワイヤNo.1〜14が本発明例、ワイヤNo.15〜26は比較例である。本発明例であるワイヤNo.1〜12は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のC、Si、Mn、Ni、Cr、Mo、Ti、Nbおよびフラックス中のTiO
2、SiO
2、ZrO
2、Al
2O
3、Naのアルカリ金属化合物のNa
2O換算値およびKのアルカリ金属化合物のK
2O換算値の1種または2種の合計、弗素化合物のF換算値が適正であるので、常温および高温での引張強さおよび吸収エネルギーが良好で、耐割れ性も良好であった。また、アーク安定性、ビード形状、スラグ被包性およびスラグ剥離性も良好で、スパッタ発生量も少なく、極めて満足な結果であった。
【0053】
なお、本発明例であるワイヤNo.13およびワイヤNo.14は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のNbが少なく、高温での吸収エネルギーがやや低かったが、溶接部の品質上の問題は無かった。
【0054】
比較例中ワイヤNo.15は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のCが少ないので、高温での引張強さが低かった。また、フラックス中のTiO
2が少ないので、スラグ剥離性が不良であった。
【0055】
ワイヤNo.16は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のCが多いので、高温での吸収エネルギーが低かった。また、フラックス中のTiO
2が多いので、アークが不安定であった。
【0056】
ワイヤNo.17は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のNiが少ないので、常温での吸収エネルギーが低かった。また、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のSiO
2が少ないので、スラグ被包性が不良であった。さらに、フラックス中のZrO
2が多いので、アークが不安定であった。
【0057】
ワイヤNo.18は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のNiが多いので、耐割れ性が不良であった。また、フラックス中のSiO
2が多いので、ビード形状が不良であった。さらに、フラックス中のZrO
2が少ないので、スパッタ発生量が多かった。
【0058】
ワイヤNo.19は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のCrが少ないので、常温での引張強さが低かった。また、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のTiが少ないので、常温での吸収エネルギーが低かった。さらに、フラックス中のAl
2O
3が少ないので、ビード形状が不良であった。
【0059】
ワイヤNo.20は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のCrが多いので、高温での引張強さが低かった。また、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のTiが多いので、スパッタ発生量が多かった。さらに、フラックス中のAl
2O
3が多いので、スラグ剥離性が不良であった。
【0060】
ワイヤNo.21は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のMoが少ないので、常温での引張強さが低かった。また、フラックス中のNaのアルカリ金属化合物のNa
2O換算値が少ないので、スパッタ発生量が多かった。
【0061】
ワイヤNo.22は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のMoが多いので、高温での吸収エネルギーが低かった。また、フラックス中のNaのアルカリ金属化合物のNa
2O換算値およびKのアルカリ金属化合物のK
2O換算値の1種または2種の合計が多いので、ビード形状が不良であった。
【0062】
ワイヤNo.23は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のMnが少ないので、耐割れ性が悪かった。また、フラックス中の弗素化合物のF換算値が少ないので、アークが不安定であった。
【0063】
ワイヤNo.24は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のMnが多いので、常温での靭性が低かった。また、フラックス中の弗素化合物のF換算値が多いので、スラグ剥離性が不良であった。
【0064】
ワイヤNo.25は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のNbが少ないので、高温での吸収エネルギー
が低かった。また、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のSiが少ないので、ビード形状が不良であった。
【0065】
ワイヤNo.26は、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のSiが多いので、スラグ被包性が不良であった。また、ステンレス鋼外皮とフラックスとの合計のNbが多いので、スラグ剥離性が不良であった。