特許第6140181号(P6140181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6140181イオン注入法によって作られた結晶センサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6140181
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】イオン注入法によって作られた結晶センサ
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/40 20060101AFI20170522BHJP
   E21B 47/00 20120101ALI20170522BHJP
   G01V 9/00 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   G01V1/40
   E21B47/00
   G01V9/00 J
【請求項の数】19
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-544755(P2014-544755)
(86)(22)【出願日】2012年11月12日
(65)【公表番号】特表2015-505958(P2015-505958A)
(43)【公表日】2015年2月26日
(86)【国際出願番号】US2012064623
(87)【国際公開番号】WO2013081806
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年11月10日
(31)【優先権主張番号】13/307,801
(32)【優先日】2011年11月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301008534
【氏名又は名称】ベイカー ヒューズ インコーポレイテッド
(74)【復代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100087594
【弁理士】
【氏名又は名称】福村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】リュー,イー
(72)【発明者】
【氏名】モンテイロ,オトン
(72)【発明者】
【氏名】サンダーリン,ケリー エル.
(72)【発明者】
【氏名】チュタク,セバスチャン
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0128003(US,A1)
【文献】 特開2006−228866(JP,A)
【文献】 米国特許第04510671(US,A)
【文献】 米国特許第06489616(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0182566(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0178805(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/067794(WO,A1)
【文献】 特開2005−110230(JP,A)
【文献】 特開2009−100464(JP,A)
【文献】 特開2011−120241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/40
G01V 9/00
G01V 3/00
E21V 47/00
G01N 5/02
G01J 5/20
H01L 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダウンホールの流体における対象となる性質を感知し、該ダウンホールの流体を測定可能に配置された圧電性結晶を含む、曲げ振動を用いた圧電共振器を選択し、
イオン注入法を用いて該圧電性結晶にイオンを注入し、該圧電性結晶電極を作り、
前記曲げ振動を用いた圧電共振器を、地中を貫く掘削孔を通して搬送されるキャリアに連結し、
前記電極がダウンホールの流体における前記対象となる性質を感知する信号を与えることを含み、
前記圧電共振器は、前記電極に与えられた電気的刺激に応答して機械的に屈曲するように構成し、
前記電極は、前記信号を与えるために、前記機械的な屈曲に基づいて、前記対象となる性質に関連する電気インピーダンスを示すように構成した、ダウンホールの流体における対象となる性質を感知するセンサの製造方法。
【請求項2】
前記圧電性結晶が、水晶、PZT、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ホウ酸リチウム、ベルリナイト、ヒ化ガリウム、四ホウ酸リチウム、リン酸アルミニウム、酸化ビスマスゲルマニウム、多結晶性チタン酸ジルコニウムセラミックス、高アルミナ質セラミックス、シリコン−酸化亜鉛複合体、又は酒石酸ジカリウムを含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記電極が少なくとも1つの電極を有することを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの電極が相互に電気的に絶縁された2つ以上の電極を含むことを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
1以上の周波数の交流電圧を前記2つ以上の電極に印加すると、前記圧電性結晶が、流体内で共振するように設計された形状を有することを特徴とする、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記形状が音叉の形状であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記電極の一部にアクセスするために結晶材料を除去することをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記電極の前記一部に金属層を蒸着して接触パッドを形成することをさらに含むことを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
イオンビーム混合を用いて前記電極の前記一部に前記金属層を密着させることをさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
イオンを注入することが結晶を焼き鈍すことを含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
イオンを注入することが、リソグラフィーを用いてマスクを作ることと、該マスクに従ってイオン注入を行うこととを含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
イオン注入を行った前記結晶の表面に、該結晶と同じ材料の1以上の格子層を形成することをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
圧電性結晶を含む、曲げ振動を用いた圧電共振器を配置したキャリアを、地中を貫く掘削孔を通して搬送し、
注入されたイオンを含み、ダウンホールの流体における対象の性質に関する信号を与える電極を結晶に有する圧電性結晶を前記対象の性質を測定可能に配設し、
該信号を用いて前記対象の性質の評価を行うことを含み、
前記圧電共振器は、前記電極に与えられた電気的刺激に応答して機械的に屈曲するように構成し、
前記電極は、前記信号を与えるように、前記機械的な屈曲に基づいて、前記対象となる性質に関連する電気インピーダンスを示すように構成した、ダウンホールの流体における対象の性質を評価する方法。
【請求項14】
前記電極に電圧を印加することをさらに含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
地層を貫く掘削孔を通して搬送されるように設計されているキャリアと、
ダウンホールの流体を測定可能であるように配置され、注入されたイオンを含むと共に該ダウンホールの流体における対象の性質に関する信号を与える電極を結晶に有する圧電性結晶を含む、前記キャリアに配置された、曲げ振動を用いた圧電共振器と、
該信号を受けてダウンホールの流体における前記対象の性質を評価する処理装置と、
を含み、
前記圧電共振器は、前記電極に与えられた電気的刺激に応答して機械的に屈曲するように構成し、
前記電極は、前記信号を与えるように、前記機械的な屈曲に基づいて、前記対象となる性質に関連する電気インピーダンスを示すように構成した、ダウンホールの流体における対象の性質を評価する装置。
【請求項16】
前記電極が接触パッドに連結されていることを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
交流電圧を前記接触パッドに印加すると、前記圧電性結晶が流体内で共振するように設計されていることを特徴とする、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
前記電極が対象の性質を感知することに係る信号を受け取ると、該電極が電荷を伝導するように設計され、前記対象の性質を評価することを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【請求項19】
前記キャリアが、ワイヤライン、スリックライン(slickline)、ドリルストリング、又はコイル管であることを特徴とする、請求項15に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
アースドリル業界においては、結晶センサは、掘削孔の奥深くに配置されて流体の性質を評価することのできるものとして知られている。一例において、2以上の電極を有する音叉の形状をした圧電性結晶で撓み機械式振動子が作られる。1以上の周波数で電極に交流電圧を印加することにより、流体の性質に関連する電気インピーダンスを有する対象となる流体中で、撓み機械式震動子が共振する。例えば、密度、粘度及び比誘電率等の流体の性質に、測定されたインピーダンスを関連付ける方法が知られている。
【0002】
2以上の電極は、圧電性結晶の表面に蒸着されることが多い。残念なことに、200℃以上等の高温そして高圧の流体と、結晶センサを攻撃する可能性のある化学物質とに曝されるために、このような結晶センサは故障することがある。電極に一定レベルの保護を与えるために、結晶センサの中には、電極上に誘電材料の薄い保護層を有するものもある。しかしながら、この保護層も機能しなくなる可能性があり、結果として、電極が再び流体に曝されることになり得る。したがって、結晶センサの信頼性を向上させることができれば、ドリル業界で歓迎されるであろう。
【発明の概要】
【0003】
本明細書には結晶センサを製造する方法が開示されている。この方法は、ダウンホールの流体における対象となる性質を感知し、該ダウンホールの流体を測定可能に配置された圧電性結晶を含む、曲げ振動を用いた圧電共振器を選択し、イオン注入法を用いて該圧電性結晶にイオンを注入し、該圧電性結晶の内部に電極を作り、前記曲げ振動を用いた圧電共振器を、地中を貫く掘削孔を通して搬送されるキャリアに連結し、前記電極がダウンホールの流体における前記対象となる性質を感知する信号を与えることを含む。前記圧電共振器は、前記電極に与えられた電気的刺激に応答して機械的に屈曲するように構成し、前記電極は、前記信号を与えるように、前記機械的な屈曲に基づいて、前記対象となる性質に関連する電気インピーダンスを示すように構成した。
【0004】
本明細書には、また、対象の性質をダウンホールで評価する方法が開示されている。当該方法は、圧電性結晶を含む、曲げ振動を用いた圧電共振器を配置したキャリアを、地中を貫く掘削孔を通して搬送し、注入されたイオンを含み、ダウンホールの流体における対象の性質に関する信号を与える電極を結晶の内部に有する圧電性結晶を前記対象の性質を測定可能に配設し、該信号を用いて前記対象の性質の評価を行うことを含む。前記圧電共振器は、前記電極に与えられた電気的刺激に応答して機械的に屈曲するように構成し、前記電極は、前記信号を与えるように、前記機械的な屈曲に基づいて、前記対象となる性質に関連する電気インピーダンスを示すように構成した。
【0005】
さらに、対象の性質をダウンホールで評価する装置も開示されている。この装置は、地層を貫く掘削孔を通して搬送されるように設計されているキャリアと、ダウンホールの流体を測定可能であるように配置され、注入されたイオンを含むと共に該ダウンホールの流体における対象の性質に関する信号を与える電極を結晶の内部に有する圧電性結晶を含む、前記キャリアに配置された、曲げ振動を用いた圧電共振器と、該信号を受けてダウンホールの流体における前記対象の性質を評価する処理装置と、を含む。前記圧電共振器は、前記電極に与えられた電気的刺激に応答して機械的に屈曲するように構成し、前記電極は、前記信号を与えるように、前記機械的な屈曲に基づいて、前記対象となる性質に関連する電気インピーダンスを示すように構成した。
【0006】
以下の記載はいかなる意味においても限定的なものと理解してはならない。添付の図面に関して、同じ要素には同様の符号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】地中を通る掘削孔内に配置される結晶センサを有するダウンホール工具の例示的態様を示している。
図2図2A図2Bとをまとめて図2とする。図2は、曲げ振動を用いた機械共振器である結晶センサの外観を示している。
図3】前記曲げ振動機械共振器を示す等価回路の態様を示している。
図4】結晶センサを作るために結晶中にイオンを注入する態様を示している。
図5】イオン注入法を用いた結晶センサを製造するフローチャートである。
図6】掘削孔内で対象の性質を評価する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
開示されている装置及び方法の1以上の態様を、図面を参照して、本発明を限定しない例示によって詳細に説明する。
【0009】
図1は、地層4を含む地球3を通る掘削孔2に配設されたダウンホール工具10の例示的態様を示している。地層4は、地層流体等の対象となるあらゆる地下材料を示している。ダウンホール工具10は、キャリア5によって掘削孔2を通って搬送される。図1の態様において、キャリア5は外装ワイヤライン6である。外装ワイヤライン6は、掘削孔2内でダウンホール工具10を支持することに加えて、該ワイヤラインを介したダウンホール工具10と地球3の地表面に配設されているコンピュータ処理システム8との間の通信手段14を提供することもできる。ここで行われる通信は、測定データを孔内上向きにコンピュータ処理システム8へと送ることと、命令を孔内下向きにダウンホール工具10へと送ることとを含む。掘削同時検層(LWD)又は掘削同時計測(MWD)の態様においては、キャリア5はドリルストリングであってもよい。ダウンホール工具10を操作するために、及び/又は地上のコンピュータ処理システム8との通信用インターフェースを提供するために、ダウンホール工具10はダウンホールエレクトロニクス7を含んでいる。
【0010】
引き続いて図1を参照すると、ダウンホール工具10は、結晶センサ9を用いてダウンホールの流体における対象となる性質を測定するように設計されている。対象の流体としては、地層4から抜き出した地層流体又は掘削孔2にある坑井内流体を挙げることができる。地層4から地層流体を抜き出すために、ダウンホール工具10は地層流体テスター11を有している。地層流体テスター11は、該テスター11からプローブ12を伸ばして掘削孔2の壁面と密着させる。プローブ12を掘削孔の壁と接触させておくために、支柱13を伸ばしてもよい。次いで、プローブ12内の圧力を低下させて、テスター12内に地層流体試料を流れ込ませる。地層4から地層流体試料が抜き出されると、結晶センサ9が試料に浸されて地層流体試料の性質を測定する。別の態様においては、坑井内流体の試料が掘削孔2から抜き出され、結晶センサ9が該坑井内流体に浸されて坑井内流体の性質を測定する。
【0011】
次いで、結晶センサ9の一態様の外観を示している図2を参照する。図2の態様においては、結晶センサ9は曲げ振動を用いた圧電機械共振器9であり、これを「圧電共振器20」と称することがある。この圧電共振器20は圧電性結晶から作られ、対象の流体中で共振又は振動するように設計された形状を有している。本発明を限定しない態様において、圧電性結晶は水晶である。図2Aに示されている態様においては、圧電共振器20は第一尖叉21と第二尖叉22とを有する音叉の形状を有しており、共振周波数で共振する。前記2つの尖叉の各々には第一電極23、第二電極24、第三電極25、及び第四電極26が埋め込まれている。これらの電極は、通例、電場が電極に印加されると結晶性の尖叉に変形が生じるように配置される。図2Bは水晶音叉の端面図であり、前記電極23〜26の配置を示している。これらの電極23〜26は導電性であるので、これらはそれぞれ導電領域23〜26と称することができる。導電領域23〜26は他の部分よりも高い導電性を有しているので、適宜の電極に電圧が印加されると、圧電性結晶は該圧電性結晶中に電界を生じる。圧電共振器20は、前記電極23〜26によって圧電性結晶に与えられた電気的刺激に応答して、周波数fで機械的に屈曲(即ち、共振又は振動)する。この電気的刺激は、ダウンホールエレクトロニクス7によって、接触パッド27及び28を介して電極23〜26に与えられる。通例、導電領域が結晶ホストに対して内側にあるときには、接触パッドは結晶ホスト内に入っている。様々な形状と適切な電極配列とを有する他の型の圧電性結晶を、種々の操作モード(例えば、縦モード、厚みすべりモード、たわみモード、及び輪郭すべりモード)について、結晶センサ9で使用可能であることが理解される。例えば、一以上の態様において、結晶センサ9は各刺激の時点において2つの電極を有していてもよく、圧電性結晶はニオブ酸リチウム(LiNbO3)であってもよい。圧電性結晶の本発明を限定しない他の態様としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、タンタル酸リチウム、ホウ酸リチウム、ベルリナイト、ヒ化ガリウム、四ホウ酸リチウム、リン酸アルミニウム、酸化ビスマスゲルマニウム、多結晶性チタン酸ジルコニウムセラミックス、高アルミナ質セラミックス、シリコン−酸化亜鉛複合体、及び酒石酸ジカリウムを挙げることができる。
【0012】
掃引周波数を有する電圧が一つの電極に印加されると、圧電材料20内に電場が作られ、感知部が浸される流体の性質に関連する共振周波数及びQ値で、圧電共振器20を共振又は振動させる。圧電共振器20が共振することにより、感知部が浸されている流体の変位又は運動を惹起することによって圧電共振器20を流体と連結する。即ち、圧電共振器20が共振すると、流体は、交番する変位又は運動をすることになる。流体の性質を感知している間に、共振又は振動によって、一対の電極は、動インピーダンスと称される電気インピーダンスを示す。動インピーダンスは、対象の流体の機械的、物理的、又は電気的性質に関連する値を有する。この性質の、本発明を限定しない例としては、温度、圧力、密度、粘度、及び比誘電率等を挙げることができる。共振周波数でインピーダンスを測定するとS/N比が比較的高い信号が得られるが、他の周波数でも測定を行うことができる。
【0013】
図3は、圧電共振器20を示す等価電気回路であり、Zf(Zf=Rf+iXf)は対象の流体の動インピーダンス、したがって、対象の流体の機械的性質を示す。Cpは並列容量である。R0、L0、Csは、圧電共振器の電気機械的共振を刺激する等価直列抵抗、直列インダクタンス、直列容量である。機械式共振モデルにおいては、これらは、摩擦、質量、コンプライアンスにそれぞれ対応する。R0は共振器の摩擦項であり、電気抵抗と機械的摩擦とを含む。Rfの高感度測定のためには、抵抗R0はRfのオーダーかそれよりも低いのがよい。音叉共振器の一態様においては、R0は10kΩ程度であって、主として機械的摩擦をなし、Rfは少なくとも10kΩのオーダーである。したがって、電極を与える導電領域は、合計の抵抗値が10kΩ以下のオーダーとなるように設計される。
【0014】
摩擦や薬品浸食等で流体が導電領域23〜26を破損するのを防ぐために、導電領域23〜26はイオン注入法によって作られた圧電性結晶の内側に埋め込まれている。即ち、導電領域23〜26は、該導電領域23〜26が圧電性結晶に包まれるように、又は取り囲まれるように、圧電性結晶の内側に蒸着される。圧電性結晶の表面に電極を配置した後に保護層によって被覆することはダウンホール環境下では信頼することができず、イオン注入法ではこの方法を避けることができる。図4は圧電性結晶のイオン注入法の様子を示している。イオン発生器41は、結晶ホストにドープして導電領域23〜26を形成するのに使用される材料のイオン(即ち、ドーパント)を生成する。イオン加速器42は生成したイオンを、高エネルギー又は高速に加速する。そして、高エネルギーイオンは結晶に衝突し、結晶内に埋め込まれる。ドーパントの侵入の深度は結晶材料、ドーパント、そしてドーパントが加速されて到達するエネルギーに応じたものとなる。一以上の態様において、ドーパントイオンは、数keVから何MeVにも及ぶ範囲のエネルギーに加速され、結果として、水晶においては大凡1nmに満たない深さから10μm以上の深さまでの侵入深度となる。
【0015】
点欠陥(例えば、酸素空孔)の導入、外来原子の導入、又はイオン注入に由来する構造破壊(非晶質化)によって、導電領域23〜26に所望の導電度を持たせることができる。結晶格子に与える変化としては、結晶格子中の電子若しくは正孔のエネルギーバンドギャップにおける深い準位若しくは浅い準位の欠陥の形成、及び/又は圧電性結晶内の導電性層の相分離を挙げることができる。結晶性材料がドナー不純物又はアクセプタ不純物でドープされると、不純物エネルギー準位が価電子帯と伝導帯との間に導入される。添加された不純物原子はフェルミ準位を変更する。フェルミ準位が伝導帯又は価電子帯に近い場合には、熱的に励起された電子又は正孔は、導電度の高い電流キャリアとなり得る。入射イオンエネルギーとイオン注入量(即ち、流束量)とを制御することにより、特定の組成又は欠陥プロファイルは、結晶内で導電領域を形成することになる。注入された導電領域は結晶ホストとは区別された電気的性質を有する。半導体及び集積回路の製造で用いられるリソグラフィー技術を用いて作られたマスクに従ってドーパントイオンを注入することによって、導電領域を所望の幾何学的形状に配置し、導電領域に所望の電気的性質を持たせることができる。
【0016】
導電領域の幾何学的配置、ドーパントイオンの材料、及び結晶の材料によって、導電領域23〜26を結晶に対して導電性又は半導電性にすることができることが理解される。電子又は正孔が、価電子帯と伝導帯との間のエネルギーギャップを超えるのに十分なエネルギーを受けて自由電子又は自由正孔になると、半導電性である導電領域は電子又は正孔を伝導する。したがって、室温では非導電性である導電領域は、ダウンホール環境下で例えば200度以上に周囲温度が高くなると、導電性となることができる。
【0017】
導電領域において達成される所望の電気的性質と結晶ホストの材料の類型とに応じて、様々なタイプのイオンドーパントを用いることができることが認められる。結晶に注入するイオン種の本発明を限定しない例としては、砒素、リン、硼素、二フッ化硼素、インジウム、アンチモン、ゲルマニウム、珪素、窒素、水素、及びヘリウムを挙げることができる。
【0018】
一以上の態様において、ドーパントイオンが注入された後に、圧電性結晶を「焼き鈍す」ことができる。「焼き鈍し」は、イオン注入された結晶を高温に加熱し、介在するドーパントイオンを振動させてこれらのドーパントイオンを格子構造の格子位置に「振り入れる」ことに関する。このように、熱による焼き鈍しによって、損傷又はドーパントを改善することができ、また、結晶ホスト中で部分再結晶化を起こさせることができる。一以上の本発明を限定しない態様において、ドープされた結晶の熱による焼き鈍しは、700℃〜800℃の温度範囲で行われる。
【0019】
注入されたイオンがホスト結晶から「漏れ出す」のを防ぐために、一以上の態様においては、化学蒸着法(CVD)又は分子線エピタキシー(MBE)等の方法を用いて、イオン注入された領域の上にさらに結晶材料を成長させることができる。
【0020】
図2に示されているように、各導電領域はダウンホールエレクトロニクス7との接続のための接触パッドを有している。一以上の態様において、結晶ホストから結晶材料を除去し、対応する導電領域の部分に金属層を蒸着することによって接触パッドが形成される。本発明を限定しない例として、結晶材料は掘削又はエッチングによって除去することができる。一以上の態様において、電気伝導性及び各接触パッドの金属層と結晶ホストとの間の密着性を増すのにイオンビーム混合が用いられる。イオンビーム混合では、イオン注入用に図4に示されている装置と類似の装置を、金属層材料と導電領域材料との界面における混合を促進するために、金属層の各々にイオン照射を行うのに使用される。
【0021】
一以上の態様において上記のように結晶センサ9は曲げ機械共振器として構成されているが、他の態様において結晶センサ9は他の構成を有している。一以上の態様において結晶センサ9は、厚みすべりモード(TSM)の共振器、機械式共振器、曲げモードの棒形共振器、曲げモードのディスク型共振器、カンチレバー共振器、又はねじれ共振器として構成することができる。通例、TSM共振器は対象の流体の粘度・密度積を測定する。一以上の態様において、結晶センサ9は温度を測定するように設計されている。温度センサであると同時に、導電領域は、温度の上昇が自由電子又は正孔の増加に帰着するような半導体として機能する。自由電子又は正孔の増加によって導電領域の電気的性質を変え、導電領域は温度変化と関連付けられ、又は温度変化に対応することができる。一以上の態様において、結晶センサ9は、力、加速度、応力、又は歪みを測定するように設計されている。これらの態様において、測定される性質は、結晶格子の歪み又は弾性歪みを起こし、結晶格子の歪み又は弾性歪みが一以上の導電領域の電気的性質を変化させる。電気的性質の変化は、結晶格子の歪み又は弾性歪みを起こした測定対象の性質と関連付けられ、又は対応させることができる。一以上の態様において、結晶センサ9は、例えばカンチレバーの形状とした結晶に試験質量を連結することによって重力加速度を測定するように設計することができる。重力計としてのこれらの態様においては、試験質量に作用する重力が結晶格子に弾性歪み(即ち、カンチレバーの撓み)を発生させ、その結果、導電領域における電気的性質が変化する。
【0022】
共振器用の圧電性結晶材料を必要としない結晶センサ9の態様においては、本発明を限定しない例である珪素などの他の型の結晶材料を使用することができることが評価に値する。
【0023】
結晶センサ9からの出力は、分析及び/又は公知の参照標準と比較した校正を行うことによって、感知又は測定された対象の性質に関連付けることができることが評価される。
【0024】
図5は、結晶センサを製造する方法50の一例を示している。この方法50は、(ステップ51)対象の性質を感知するように設計された結晶を選択することを要する。ステップ51は、対象の性質を感知するために、圧電性結晶材料などの、適切な形状及び/又は結晶材料を選択することを含む。さらに、方法50は、(ステップ52)結晶内に導電領域を作るためのイオン注入を用いて、適切なエネルギーで結晶内に結晶内にイオンを注入し、作られた導電領域が対象の性質を感知する信号を与えることができるようにすることを要する。ステップ52は、所定の性質を感知する所望の電気的性質を与える適切なイオンドーパントを選択することを含む。さらに、方法50は、(ステップ53)イオン注入した結晶を熱によって焼き鈍すことを要する。そして、方法50は、(ステップ54)金属の層を導電領域に設けて接触パッドを作り、次いで該金属の層と前記導電領域との間の原子又は分子をイオンビーム混合によって混合する。方法50は、イオン注入を行った前記結晶の表面に、該結晶と同じ材料の1以上の格子層を形成することをさらに含んでもよい。
【0025】
図6は、ダウンホールで対象の性質を評価する方法60の一例を示している。方法60は、(ステップ61)地中を通る掘削孔内にキャリアを搬送することを要する。さらに、方法60は、(ステップ62)結晶を配置したキャリアを前記対象の性質を測定可能に配設することを要する。キャリアに配置された結晶は、該結晶内に導電領域を有し、該導電領域はイオン注入法によって作られ、前記対象の性質に関連する信号を与えるように設計されている。さらに、方法60は、(ステップ63)前記信号を用いて性質を評価することを要する。
【0026】
ここにおける開示をサポートするものとして、デジタル及び/又はアナログシステムを含む様々な分析機器を使用することができる。例えば、ダウンホールエレクトロニクス7又は地上のコンピュータ処理装置8はデジタル及び/又はアナログシステムを有していてもよい。このようなシステムとしては、当該技術分野において認識されているあらゆる方法でここに開示されている装置及び方法の操作と分析とを行うための、処理装置、保存媒体、メモリ、入力装置、出力装置、連結装置(有線、無線、マッドパルス(pulsed mud)、光学、又はその他)、ユーザーインターフェース、ソフトウェアプログラム、信号処理装置(デジタル又はアナログ)、及び他のこのような部品(抵抗、コンデンサ、コイル、及び他の部品)等の要素を有していてもよい。メモリ(ROM、RAM)、光学媒体(CD-ROM)、若しくは磁気媒体(ディスク、ハードディスク)を含むコンピュータ可読媒体、又は実行されると本発明の方法をコンピュータに実行させる他のタイプのものに保存された非一時的コンピュータ実行可能指示と結びつけて、これらの教示を実施してもよいことが考慮されるが、そのような必要があるわけではない。これらの指示は、機器操作、制御、データ収集及び分析、並びにシステム設計者、システム所有者、システムユーザ、又は他のこのような人員によって関連があると思われる他の機能を、この明細書に記載の機能に加えて与えることができる。
【0027】
さらに、この明細書の教示の様々な面を与えるために、他の様々な部品を含んでも、また、必要としてもよい。この明細書に記載している様々なアスペクトのサポートに、又はこの明細書に開示されていない他の機能のサポートに、例えば、電源(例えば、発電機、遠隔地にある供給手段、及び充電池の内の少なくとも1つ)、冷却部品、加熱部品、磁石、電磁石、センサ、電極、送信機、受信機、送受信機、アンテナ、制御装置、光学ユニット、又は電気機械的ユニットが含まれていてもよい。
【0028】
本願で使用されている「キャリア」という用語は、他の装置、装置部品、複数の装置の組み合わせ、媒体及び/又は部材を搬送、収容、支持、又はこれらの使用を容易にするためのあらゆる装置、装置部品、複数の装置の組み合わせ、媒体及び/又は部材を意味する。本発明を限定しないキャリアの他の例としては、コイル管型、継手管型のドリルストリング、及びこれらの組み合わせ又は部分を挙げることができる。キャリアの他の例としては、ケーシングパイプ、ワイヤライン、ワイヤラインゾンデ、スリックライン(slickline)ゾンデ、ドロップショット(drop shots)、ボトムホール・アセンブリー、ドリルストリング挿入具(drill string insert)、モジュール、内部ハウジング及びその基板部分を挙げることができる。
【0029】
本願の英文明細書に記載の要素は、要素の個数を明示する記載のない状態で明細書に導入されている。このような記載方法によって、1以上の当該要素があることを意味することが意図されている。「含む」及び「有する」という用語は、列挙した要素の外にも追加的な要素を含み得る、包括的な表現を意図している。少なくとも2つの用語のリストと共に用いられている、接続詞「又は」・「若しくは」は、列挙された用語の内の1つ又はこれらの用語の組み合わせを意図するものとして使用されている。「第一」・「第二」は複数の要素を区別するために用いられており、特定の順序を意味するものではない。「連結する」という用語は、第一部品を第二部品に直接的に、又は中間部品を介して間接的に連結することを意味する。
【0030】
様々な部品又は技術が、必要な又は有益な機能又は特徴を与えるであろうことが認識される。したがって、添付の請求項及びそれらの変形例をサポートするのに必要であるかもしれないこのような機能及び特徴は、この明細書における開示の一部として、また、開示されている発明の一部として、本質的に含まれていると認められる。
【0031】
本発明は例示的態様を参照して記載されてきたが、本発明の範囲から離れることなく、様々な変更を加えてもよく、例示的態様の要素を同等物で置換してもよいことが理解される。さらに、本発明の本質的な範囲から離れることなく、特定の器具、状況、又は材料を発明の教示に適用するために、数多くの変更を加えることが認められる。したがって、本発明を実施するために考えられたベストモードとして開示された特定の態様に本発明が限定されることなく、添付の請求項の範囲に入る全ての態様を含むことが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6