特許第6140210号(P6140210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6140210体液のサンプルを作成してそれを分析する機器及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6140210
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】体液のサンプルを作成してそれを分析する機器及びシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/157 20060101AFI20170522BHJP
   A61B 5/151 20060101ALI20170522BHJP
【FI】
   A61B5/14 300L
   A61B5/14 300D
【請求項の数】9
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-54786(P2015-54786)
(22)【出願日】2015年3月18日
(62)【分割の表示】特願2011-533562(P2011-533562)の分割
【原出願日】2009年10月1日
(65)【公開番号】特開2015-154941(P2015-154941A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2015年4月17日
(31)【優先権主張番号】08018873.3
(32)【優先日】2008年10月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153084
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 康史
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】ヘーラウフ,クリスティアン
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/013824(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/100254(WO,A2)
【文献】 特開2004−000600(JP,A)
【文献】 特開平01−185245(JP,A)
【文献】 特開2008−246205(JP,A)
【文献】 特開2001−161667(JP,A)
【文献】 特開2005−185825(JP,A)
【文献】 特開2001−178710(JP,A)
【文献】 特開2005−021291(JP,A)
【文献】 特開2005−137899(JP,A)
【文献】 特表2003−533323(JP,A)
【文献】 特表2006−520251(JP,A)
【文献】 特表2006−506185(JP,A)
【文献】 特表2003−511184(JP,A)
【文献】 特表2007−527289(JP,A)
【文献】 特許第5764324(JP,B2)
【文献】 特許第5829249(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0060844(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0262388(US,A1)
【文献】 特開2004−358261(JP,A)
【文献】 特開2006−15147(JP,A)
【文献】 特開2005−305158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/151
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚を穿刺することにより体液のサンプルを作成し且つ該サンプルの分析のための一体化された切開分析システムであって、該切開分析システムが、再使用可能な携帯式の機器(11)と一体的な切開分析要素(22)とを具備し、
該機器(11)が、
ハウジング(13)と、
前記ハウジング(13)内において一体的な切開分析要素(12)に対して接続された切開用駆動器(14)であって、該切開用駆動器に対して接続された一体的な切開分析要素(12)を、穿通運動のトリガの後、前記切開分析要素(12)が最大変位の点(P)に到達するまでは該切開分析要素(12)が穿通方向に運動する穿通運動を以て駆動し、且つ、該切開分析要素が前記最大変位の点(P)に到達した後は逆方向に駆動する切開用駆動器(14)と、
皮膚接触開口(4)を囲繞すると共に、指の前記皮膚に当接して押圧され得る圧力リング(1)とを具備し、
前記圧力リング(1)が、該圧力リングを囲繞すると共に該圧力リングから凹状形成された周縁表面部分(50)を有する圧力片(42)の一部であり、且つ、当該周縁表面部分(50)から前記穿通方向に突出し、
前記皮膚接触開口(4)が、少なくとも1.5mmであり、且つ、4mm以下の直径を有する円形の面積に対応する開口面積を有し、且つ、
当該機器が、
前記圧力リング(1)と前記皮膚(3)との間の押圧力を制御する押圧力制御デバイス(37)であって、少なくとも3Nの所定の値のときに前記穿通運動をトリガし、前記指と前記圧力リング(1)との間に作用するスプリングを有する押圧力制御デバイス(37)と、
圧力リング運動制限機構であって、前記指による押圧により可能である前記圧力リング(1)の最大変位が、該圧力リングの完全スプリング負荷運動範囲内に制限され、前記指と前記圧力リングとの間に作用する押圧力が、前記指の押し下げ力により平衡化される前記スプリングの力のみにより制御される圧力リング運動制限機構とを具備する、
切開分析システム。
【請求項2】
前記皮膚接触開口(4)の開口面積が、少なくとも2mmの直径を有する円形の面積に対応する請求項1に記載の切開分析システム。
【請求項3】
前記圧力リング(1)が、その円周部の少なくとも一部分上にて、1.5mm以下の幅(b)を有する、請求項1又は2に記載の切開分析システム。
【請求項4】
前記圧力リング(1)が前記周縁表面から少なくとも0.5mmの距離(h)だけ突出する、請求項に記載の切開分析システム。
【請求項5】
当該機器が、前記穿通運動のトリガ時に、前記圧力リング(1)と前記皮膚(3)との間の押圧力を、少なくとも3Nに制御する押圧力制御デバイス(37)を具備し、
前記切開用駆動器(14)及び前記圧力リング(1)が、前記切開分析要素(12)が前記最大変位点に在るときに該切開分析要素(12)の前記皮膚穿刺先端(7)が前記圧力リング平面から外方に延在する突出距離(s)が、0.3mm以下である様に、相互に対して位置決めされる、請求項1からのいずれか一項に記載の切開分析システム。
【請求項6】
前記圧力リング(1)が変形不能である、請求項1からのいずれか一項に記載の切開分析システム。
【請求項7】
前記切開分析要素(12)が、前記皮膚を穿刺することにより作成されたサンプル液体を毛管流により該切開分析要素のサンプル収集区域(23)まで搬送する毛管チャネル(28)を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の切開分析システム。
【請求項8】
当該システムが、3秒以下の最短相互作用期間であって、該期間中に、全てのユーザが、切開、組織からのサンプル液体の搾出、及び、分析のための十分な量のサンプルの収集のために、皮膚と前記機器の前記圧力リングとの間における押圧力により、前記機器と少なくとも相互作用する最短相互作用期間を提供する、請求項1からのいずれか一項に記載の切開分析システム。
【請求項9】
直接的サンプリング器の毛管チャネルのサンプル体積が、300nl以下である、請求項1からのいずれか一項に記載の切開分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体液の分析を許容し、すなわち体液中の分析対象物の濃度の決定を許容するための体液のサンプルの収集法に関する。本発明は特に、其処からサンプルが吸引される小寸の創傷を生成するに適した皮膚穿刺先端を有する使い捨て式切開要素を用いて対象体(人間又は動物)の皮膚を穿刺することにより体液の少量サンプルを作成する機器及びシステムに関する。使用される皮膚部位及び切開深度に依存し、上記体液は、血液若しくは間質液、又は、それらの混合物である。
【0002】
皮膚穿刺に基づく分析は、幾つかの医学的診断及び治療の分野において重要である。特に重要なのは、糖尿病管理の分野である。必要とされるインスリン注入量を、一定の血糖値を維持するための実際の必要量に近く適合させるために、患者が自身の血糖値を一日に数回に亙り管理するならば、糖尿病により引き起こされる深刻な長期的損傷は回避され得ることが確認されている。このためには、医学的訓練が為されていない患者自身又は他者による所謂る“家庭モニタリング”が必要とされる。
【0003】
家庭モニタリングを含む同様の要件による医学的診断及び治療の他の重要な分野としては、たとえば、血中コレステロールの定期的管理、及び、血液凝固パラメータの管理が挙げられる。本発明は、家庭モニタリング用途に特に適しているが、これに限られない。たとえば、所謂る“患者の近傍における検査(near−patient−testing)”においても、同様の要件が存在する。
【0004】
皮膚の切開は概略的に、当該切開システムの相互適合構成要素として、再使用可能な携帯式機器と、切開要素とを備えて成る切開システムにより実施される。切開のために必要とされる運動(穿通運動)は、機器のハウジングの内側に配備された切開用駆動器であって、自身に対して接続された切開要素を駆動し得る切開用駆動器により行われる。上記駆動器に対してはランセットが交換可能に接続され得ると共に、該ランセットは概略的に使い捨て可能な部品である。
【0005】
穿通運動をトリガした後で、上記ランセットは該ランセットが最大変位点に到達するまで穿通方向に駆動され、その後に該ランセットは逆方向に更に駆動される。多くの適切なランセット駆動機構が、記述されてきた。殆どの場合、駆動力は緊張スプリングにより供給されると共に、ランセット駆動器は、上記スプリングの力をランセットの必要運動へと変換する適切な機械的手段を更に含んでいる。
【0006】
切開システムを開発する上での重要な検討事項は、突き刺し動作により引き起こされる痛覚である。この痛覚、及び、使用の簡便性は、患者の遵守性、すなわち、患者が自身の健康を維持するために必要とされる定期的な分析を実施するという該患者の意欲、を左右する決定的要因である。最小限度の痛覚による必要量のサンプル液体の高信頼性の作成は、皮膚内への切開要素の先端の最適な貫通深度の再現性に大きく依存することは確認されている(特許文献1参照)。
【0007】
而して早期のランセット・システムに依れば、分析は概略的に、ユーザにより実施されるべき複数の段階を必要とする。斯かる早期のシステムによる切開の後、血液は切開された皮膚における創傷部位から容易には流出しなかった。故に、必要量のサンプル液体を搾出するために、挟持、圧迫及び揉むなどの如き手作業による“搾り取り”段階が必要とされた。最後に、サンプル液体は(切開システムから分離された別個の)分析システムの分析要素に対して接触せしめられ、それにより分析が実施された。
【0008】
切開部位におけるサンプル液体の作成を改善すると共に手作業による“搾り取り”を回避するために、幾つかの提案が為され、その全ては、切開機器の末端における接触領域であって、皮膚接触開口を囲繞する(概略的にリング形状の)皮膚接触表面を有する接触領域の設計態様に関していた。斯かる切開システムは、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5及び特許文献6に記述されている。
【0009】
これらの手法は幾つかの点で異なるが、それらの共通の特徴は、皮膚接触開口は比較的に大きな直径を有することから、切開機器がその末端にて(すなわち上記皮膚接触表面により)皮膚に対して押圧されたときに、皮膚は上記皮膚接触開口内へと膨出し、該皮膚接触開口内へと一定程度まで貫通する目標部位膨出部を形成するということである。この膨出動作(以下、“目標部位膨出”と称する)は概略的に、径方向内方に作用する機械的圧迫、上記機器の部材の軸心方向移動を伴う揚液動作などの、サンプル液体作成を改善する付加的手段と組み合わされる。
【0010】
理想的には、これらの方策は、手作業による“搾り取り”なしで、高成功率(好適には90%超)での十分な量のサンプル液体の搾出を許容する。このことは此処でも、単一の機器において切開形式のサンプル作成のための手段及び分析のための手段の両方を備えて成る、一体化された切開分析システムの要件である。斯かる一体化システムは、完全に自動的に、すなわち、ユーザによる一切の操作段階なしで、サンプル生成及び分析を実施すべく設計される。
【0011】
それらは、以下の2つの形式に分類され得る複数の変更例にて提案されてきた:
A)単一の機器ハウジング内において、切開のため及び分析のための2つの別体的なユニットを有する、“二重ユニット・システム”。典型的に、各ユニットは、共通の皮膚接触開口へと相次いで移動される(たとえば、特許文献7及び特許文献8を参照)。
B)両方の機能(切開及び分析)を実施し得るべく結合された単一の切開分析ユニットにより動作する“単一ユニット・システム”。斯かるシステムの殆どは、一体化された切開分析要素により動作する。結合された斯かる切開分析要素の2つの構成要素は、概略的には別体的に製造されるが、製造者により、又は、少なくとも使用前に、すなわち切開運動がトリガされる前に、組立てられる。上記機器において斯かる要素は、一体化部品として処理される。他の単一ユニット・システムにおいては、両方の機能(切開及び分析)は同一ユニットにより実施されるが、切開要素及び分析要素が配備され、且つ、これらの要素は分析処置の少なくとも一部の間において別体的に処理される。単一ユニット・システムの例は、以下の公報に記述されている:特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12及び特許文献13。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,318,584号明細書
【特許文献2】国際特許公開第99/26539号パンフレット
【特許文献3】国際特許公開第01/89383号パンフレット
【特許文献4】欧州特許出願公開公報第1 245 187号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開公報第1 586 269号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開公報第1 586 270号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開公報第1 669 028号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開公報第1 736 100号明細書
【特許文献9】国際特許公開第01/72220号パンフレット
【特許文献10】国際特許公開第03/009759 A1号パンフレット
【特許文献11】欧州特許出願公開公報第1 342 448 A1号明細書
【特許文献12】欧州特許出願公開公報第1 360 933号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開公報第1 362 551号明細書
【特許文献14】国際特許公開第2005/084546号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
考察された上記システムの幾つか、特に一体化された切開分析システムは、早期の公知のデバイスと比較して優れた成果を提供するが、依然として、相当の欠点が在る。故に、使用の容易さ、最小限度の痛覚、及び、容量、重量及び製造コストに関する最小限度の要件などの、部分的に相反する幾つかの要件の改善に対する要望が在る。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的に鑑み、本発明の第1の態様は、皮膚を穿刺することにより体液のサンプルを作成する機器及びシステムであって、
ハウジングと、
上記ハウジング内において切開要素に対して接続され得る切開用駆動器であって、該切開用駆動器に対して接続された切開要素を、穿通運動のトリガの後、上記切開要素が最大変位の点に到達するまでは該切開要素が穿通方向に運動する穿通運動を以て駆動し得、且つ、該切開要素が上記最大変位の点に到達した後は逆方向に駆動する切開用駆動器と、
皮膚接触開口を囲繞すると共に、上記皮膚に当接して押圧され得る圧力リングとを有し、
上記皮膚接触開口は、少なくとも1.5mmであり、且つ、4mm以下の直径を有する円形に対応する開口面積を有する、機器及びシステムを提案する。好適には上記開口面積は、少なくとも2mm、好適には少なくとも2.5mmの直径を有する円形に対応する。上記機器は更に、上記穿通運動のトリガ時に、上記圧力リングと上記皮膚との間の押圧力を、少なくとも3N、好適には少なくとも4N、最も好適には少なくとも5Nに制御する押圧力制御デバイスを備えて成る。
【0015】
概略的に、上記圧力リングは円形であると共に、この場合にそれは所定の内側(自由)径を有すべきである。非円形の皮膚接触開口の場合、該開口の面積は、言及された直径値を有する円形の面積に対応する(すなわち、それに等しくある)べきである。
【0016】
上述の公知の手法と対照的に、本発明は、十分な量のサンプル液体の自動的な搾出のために目標部位膨出に頼らない。寧ろ、本発明者等は、比較的に小さな皮膚接触開口と、押圧力制御デバイスにより保証される比較的に大きな押圧力との組み合わせにより、サンプル生成に必要とされる高信頼性を達成し得ることを見出した。このことは望外であった、と言うのも特に、上記デバイスが皮膚の相当な膨出を許容する大きな開口を有さなければ、斯かる高圧は血液を“押しのける”であろうことが想定されたからである。この想定は特に、一般人にさえ知られた、小径の部材を皮膚上に押圧すると、当該部位からの血液の喪失を表すべく赤から白へと色変化が起こる、という経験に基づいていた。
【0017】
本発明は、目標部位膨出に関する問題、すなわち、切開要素の先端が皮膚内へと貫通する貫通深度の再現性の欠如を克服する。上記切開用駆動器の長手方向位置(すなわち切開運動の方向における位置;以下においては、“z位置”)を然るべく調節すれば、故に、ランセットの最大変位点の所定のz位置に依れば、上記貫通深度は、穿通運動の間における皮膚表面の厳密なz位置に依存する。膨出の故に、この皮膚位置は実質的に不確定である。
【0018】
この不確実性を克服するために、幾つかの先行技術のデバイスは、切開機器内に一体化された皮膚位置検出デバイスにより皮膚の厳密なz位置を検出する手段を有している。他のデバイスは、皮膚内への切開要素先端の貫通の間に高信頼性のz位置基準を提供するために、(機器の皮膚接触開口を囲繞する皮膚接触表面に加えて)皮膚に接触される基準皮膚接触表面を有する貫通深度基準要素を以て動作する。これらの手法は再現可能な貫通深度の達成を助力するが、それらは機器の設計及び製造に相当の費用を必要とし、システムを、手軽であるどころか、更に高価なものとする。
【0019】
多くの切開システムは、貫通深度の不確実性を単に無視している。対象者毎の個別的な変動は、貫通深度設定を調節することにより補償され得るので容認されるが、個人内変動(すなわち、同一のユーザに関する変動)は残る。これらの変動としては、温度、先行する皮膚処理(たとえば、石鹸による洗浄)、及び、特定の切開部位の選択などの如き影響要因により引き起こされる皮膚の(弾性的な及び他の)特性の変化が挙げられる。これらの変動は、必要であるよりも相当に大きな痛覚に繋がる、と言うのも、これらの変動は、皮膚の不都合な位置によってさえも十分な量のサンプル液体が作成される如く、大きな値の貫通深度設定を必要とするからである。
【0020】
本発明は、切開部位における皮膚のz位置の優れた再現性を、故に、貫通深度の優れた再現性を許容する。同時に、簡素で安価な切開システムの設計態様により、(”搾り取り”なしで)自動的なサンプル生成が達成される。
【0021】
適切な押圧力制御デバイスにより、所定の押圧力が確実とされる。斯かるデバイスは機械的とされ得、特に、そのスプリング力が上記圧力リングと上記ハウジングとの間に作用する如き様式で配置されたスプリング・デバイスを備える。上記スプリング・デバイスは好適には、金属スプリングとして具現される。但し、空気圧スプリング、又は、弾性材料から成る弾性要素の如き他のスプリング状デバイスが公知であり且つ使用され得る。以下において“スプリング”という語句は、任意の斯かるスプリング・デバイスの一例として使用される。好適には、以下に更に詳細に記述される様に、それは事前張設される。
【0022】
電気的手段により動作する押圧力制御デバイスは、コイル及び磁心を含む電磁駆動器、特に、音声コイル駆動器を備えて成り得る。圧力の制御は全自動とされ得るか、又は、それはユーザの動作を必要とし得る。後者の場合、上記圧力リングが皮膚に当接して押圧される力を測定するために電気的手段が使用され得ると共に、この力は、適切である視認可能な、又は、音響的若しくは触覚的な手段によりユーザに対して表示され得る。
【0023】
好適には上記第1の態様と組み合わされ得るが、独立的にも使用され得る本発明の第2の主要態様に依れば、本発明は、皮膚穿刺先端を有する切開要素を使用して皮膚を穿刺することにより体液のサンプルを作成するシステム及び機器であって、
該機器は、
ハウジングと、
上記ハウジング内において切開要素に対して接続され得る切開用駆動器であって、該切開用駆動器に対して接続された切開要素を、穿通運動のトリガの後、上記切開要素が最大変位の点に到達するまでは該切開要素が穿通方向に運動する穿通運動を以て駆動し得、且つ、該切開要素が上記最大変位の点に到達した後は逆方向に駆動する切開用駆動器と、
皮膚接触開口を囲繞すると共に、上記皮膚に当接して押圧され得る圧力リングとを有し、
上記圧力リングは、その円周部の少なくとも一部分上にて、1.5mm以下、好適には1.2mm以下、最も好適には1mm以下の幅を有する、システム及び機器を提案する。高度に好適な実施例に依れば、斯かる狭幅の圧力リングは、該圧力リングが当該周縁表面部分から上記穿通方向に突出する如く、該圧力リングから凹状形成された周縁表面部分により囲繞される。上記圧力リング及び上記凹状形成周縁表面部分は、圧力片と呼称される単一要素の一部分として具現され得る。但し、上記圧力リング及び上記凹状形成周縁表面は、2つの別体的な要素の夫々の一部分であることも可能である。
【0024】
更なる好適実施例に依れば、上記圧力リングは上記周縁表面から少なくとも0.5mm、好適には少なくとも0.8mmであり且つ2.0mm以下、好適には1.5mm以下だけ、上記周縁表面から突出する。
【0025】
この主要態様に関し、“圧力リング”という語句は本明細書においては本質的に幾何学的な意味で使用され、すなわち、上記皮膚接触開口を囲繞する狭幅のリング形状領域を指すことを銘記することは特に重要である。上記機器と皮膚との間に作用する力は、本質的には、又は少なくとも選好的には、上記圧力リングを介してのみ担持される。故に上記圧力リングは、上記皮膚接触開口を囲繞する狭幅のリング形状表面領域であって、上記機器の実使用の間において、該機器と皮膚との間に作用する力の少なくとも50%、好適には少なくとも70%、最も好適には少なくとも90%を担持するリング形状表面領域である。それ故に、本発明のこの態様に依れば、皮膚と上記機器との間に作用する力全体の内の少なくとも言及された割合が、記述された最大寸法を有する小寸のリング形状領域のみにより担持される。
【0026】
上記圧力リングを形成する上記リング形状領域は、多くの場合に“リング”と称される円形断面を有する環状要素の一部分とされ得る。但し好適には、本発明の上記圧力リングは、図面に関して更に説明される如く、圧力片の一部分として具現される。
【0027】
本発明に関し、本発明の上記第2の態様の特徴は、分析のために十分な量のサンプル液体を確実に且つ自動的に生成することを助力することが見出されている。
【0028】
好適には上記第1及び/又は第2の態様と組み合わされるが、独立的にも使用され得る本発明の第3の主要態様に依れば、本発明は、皮膚穿刺先端を有する切開要素を使用して皮膚を穿刺することにより体液のサンプルを作成するシステム及び機器であって、
該機器は、
ハウジングと、
上記ハウジング内において切開要素に対して接続され得る切開用駆動器であって、該切開用駆動器に対して接続された切開要素を、穿通運動のトリガの後、上記切開要素が最大変位の点に到達するまでは該切開要素が穿通方向に運動する穿通運動を以て駆動し得、且つ、該切開要素が上記最大変位の点に到達した後は逆方向に駆動する切開用駆動器と、
皮膚接触開口を囲繞すると共に、上記皮膚に当接して押圧され得る圧力リングとを有し、
上記切開用駆動器及び上記圧力リングは、上記切開要素が上記最大変位点に在るときに該切開要素の上記皮膚穿刺先端が上記圧力リング平面から外方に延在する突出距離が、0.3mm以下、好適には0.2mm以下、最も好適には0.1mm以下である様に、相互に対して位置決めされる、システム及び機器を提案する。上記圧力リング平面は、上記圧力リングの最前部分を通る平面であって、穿通方向に対して直交して延在する平面として定義される。故に、上記突出距離は、上記最大変位点と、上記圧力リングの(z方向における)最近傍箇所との間におけるz方向の距離である。
【0029】
本発明に関し、驚くべきことに、斯かる非常に小さな突出距離によってさえも、高度に高信頼性のサンプル生成が達成されることが見出されている。これに関しては、サンプル生成の信頼性とサンプル生成の量との間の差を理解することが重要である。これらの2つの特性が殆ど相関を示さないことは望外であった。本発明の上記第3の態様に従う非常に小さな突出距離は、少量のみのサンプルを生成し得るが、依然としてこのことは、全自動の切開分析デバイスに対して十分な信頼性を以て行われる。
【0030】
本発明の上記第2及び第3の主要態様は、任意のサイズの皮膚接触開口に対し且つ任意の押圧力に対して好適である。但し、上記機器が、上記押圧力を本発明の第1の主要態様に関して上記に特定された制限値内に制御する押圧力制御デバイスを備えるならば、特に良好な結果が達成される。更に、上記皮膚接触開口は好適には、少なくとも1.5mm、好適には少なくとも2mm、最も好適には2.5mmであり且つ8mm以下、好適には5mm以下、最も好適には3.5mm以下の直径を有する円形に対応する開口面積を有すべきである。
【0031】
全ての3つの主要態様に関し、上記機器は好適には、上記に特定された如く両方が“単一ユニット・システム”を形成する一体的な切開分析要素を以て動作し得る。更に選好的には、この場合に上記一体的な切開分析要素のランセットは、上記皮膚を穿刺することにより作成されたサンプル液体を毛管流により該切開要素のサンプル収集区域まで搬送する毛管チャネルを有する直接的サンプリング器として具現される。
【0032】
同様に、本発明の全ての3つの主要態様に関しては、切開を行い且つ分析のために十分な量のサンプル液体をサンプリングするために必要とされる最短相互作用期間は長くとも3秒であることが好適である。好適には、上記最短相互作用期間は2秒以下であり、更に好適にはそれは1秒以下である。
【0033】
このことは特に、上記に特定された両方の形式A及びBの一体化された切開分析システムに関連する。斯かるシステムにおいてユーザは、皮膚と上記機器の上記圧力リングとの間の押圧力を確立することにより、上記システムと相互作用する。このことは、携帯式器具を指又は他の身体部分に対して押圧することにより好適に行われ得る。代替的に、たとえばテーブル上に位置された機器に対し、指又は他の身体部分が押圧され得る。
【0034】
先行技術に依れば、時間的事項は概略的に、“検査時間”、すなわち(切開から、分析対象物の濃度が表示されるまでの)分析に対して必要とされる合計時間に関する関心事にすぎなかった。しかし本発明者等は、早期の考え方から離れ、上述の部分的に相反する要件を達成する上では最短相互作用期間(“MITP”)の持続時間が非常に重要であることを見出した。この期間は、上記システムのサンプル収集デバイスにおいて切開を行い且つ分析のために十分な量のサンプルを収集するために(上記で特定された如き)ユーザと機器との間の相互作用が必要とされる最小限の時間分として定義される。上記MITPの間に実施される機能としては、切開、(好適には、上記切開要素の毛管内への直接的な)組織からのサンプル液体の搾出、及び、十分な量のサンプルの収集が挙げられる。
【0035】
上記MITPは、ユーザに依存しない、すなわち、上記機器の設計態様により、且つ、可能的には上記システムの他の構成要素によってのみ決定されるシステム関連量である。それは、各々の場合においてユーザの習慣を含む多数の態様に依存する相互作用の実際時間と混同されてはならない。実際の相互作用時間は概略的にユーザ毎に変化し、特定のユーザに対しては、分析毎にさえ変化する。本発明は、少なくとも全てのユーザが上記機器と相互作用すべき最小限の時間が、示された非常に小さな閾値未満である如き様式でシステムを設計することを教示する。
【0036】
上記MITPの開始時点は、上記システムの“切開準備完了”時点、すなわち、上記切開用駆動器が、自身に接続された切開要素の切開運動を推進する準備ができ且つ皮膚の所望の切開部位が上記機器の上記皮膚接触開口に適切に位置決めされた時点である。システムの設計態様に依存し、“切開準備完了”の状況と、穿通運動のトリガ動作との間には短い時的間隔が必要とされることもある。斯かる短い(準備的な)遅延期間は、たとえば皮膚位置を検出するために上記機器により必要とされることもある。但し好適には、上記設計態様は、機器の要件により斯かる準備的な期間は必要とされず、すなわち、上記システムの状況が“切開準備完了”であるときにはトリガ動作が直ちに行われ得る如きである。この場合、上記MITPの開始時点は、上記穿通運動のトリガ動作と一致し得る。
【0037】
但し、特に、皮膚と上記圧力リングとの間における押圧力を確立した後に生ずる皮膚の粘弾性的な変形を考慮すると、非常に短くて明確である準備的な遅延期間が、非機器的な理由で用意されることもある。
【0038】
MITPの終了は、分析のために十分な量の体液が、サンプリングされ、すなわち、上記機器の上記サンプル収集デバイス内に取り込まれた、という事実により特徴付けられる。本明細書において使用される“サンプル収集デバイス”とは、上記機器の内部における上記システムの任意の部分であって、其処においては、皮膚切開の結果として作成されたサンプル液体が分析のために利用可能である任意の部分である。それはたとえば、チャンバ又は毛管であり得ると共に、空であり、又は、吸収材料により充填され得る。
【0039】
詳細は、特定のシステムの形式及び設計態様の特徴に依存する。
【0040】
“二重ユニット・システム”の場合、上記サンプル収集デバイスは、分析ユニットに属する。それは、分析要素の一部又は専用のサンプル収集要素の一部であり得ると共に、分析ユニットが上記皮膚接触開口へと移動された後でサンプルを収集する。
【0041】
“単一ユニット・システム”の場合、上記サンプル収集デバイスは、切開要素の一部分、又は、分析要素の一部分、又は、一体的な切開分析要素の一部分、又は、専用のサンプル収集要素の一部分とされ得る。
【0042】
もし上記サンプル収集デバイスが分析要素の一部分又は一体的な切開分析要素の一部分であるならば、該デバイスは特に、上記要素の反応区域の一部分であってサンプル液体と反応する試薬を含む反応区域の一部分とされることで、上記分析に特性的である一定種類の測定可能な物理的変化を生成し得る。
【0043】
好適には上記サンプル収集デバイスは、上記分析要素の反応区域とは別体的であると共に、該デバイスは、上記MITPより長い中間保存時間に亙りサンプル液体を保存するに適したリザーバを含む。この実施例のひとつの利点は、該実施例は、分析の時的要件をサンプル収集の時的要件から分離することを許容する、ということである。上記MITPは、上記サンプル収集デバイスの上記リザーバが分析のために十分な量のサンプル液体を収容すると直ちに終了される。たとえば、反応区域の充填などの更なる段階は、ユーザの継続的な相互作用なしで、別個に行われ得る。
【0044】
最後に言及された好適実施例において、上記サンプル収集デバイスの上記リザーバから上記分析要素の上記反応区域までのサンプル液体の移送は、自発的に、又は、制御されたタイミングを以て行われ得る。前者の場合には、上記リザーバと上記反応区域との間に永続的な流体連通が提供される。後者の場合、上記サンプル収集デバイスの上記リザーバから上記分析要素までの流体連通は“切換え可能”であり、すなわち、好適には少なくともMITPの持続時間に対して最初に、流体連通は無いが、適切な時点においては、制御様式で流体連通が確立される。切換えに対して適切な手段は、たとえば特許文献14から知られる。
【0045】
MITP全体の間において、押圧力の値は重要である。それは好適には上記MITPの間において上記押圧力制御デバイスにより、少なくとも3N、好適には少なくとも4N、更に好適には少なくとも5Nに維持されるべきである。別の好適実施例に依れば、最大値は、同一の期間の間において維持されるべきであり、すなわち、大きくとも10N、好適には大きくとも8N、更に好適には大きくとも7Nとされるべきである。
【0046】
押圧力のこれらの制限値は、皮膚からサンプルを引き出す要件に関して好適である。但しこのことは、MITPの間において押圧力がその範囲内で変動することが許容されるべきことを意味してはいない。寧ろ、押圧力の最大変動範囲は、15%以下、好適には10%以下、更に好適には5%以下に制限されるべきことが見出されている。絶対値で表現すると、上記MITPの間において上記圧力リングと皮膚との間における押圧力の最大変動範囲は、±0.5N以下、好適には±0.3N以下、更に好適には±0.2N以下とされるべきである。
【0047】
上述の如く、MITPはユーザに依存しない量であり、システムの設計態様のみに依存する。但し好適には、上記機器はMITP制御デバイスを備えて成る。この語句は、ユーザと機器との間において必要とされる相互作用(すなわち、主として、皮膚と上記圧力リングとの間において必要とされる押圧力)が少なくともMITPの間においてユーザにより確実に維持されることを助力する任意のデバイスを指している。換言すると、上記MITP制御デバイスは、ユーザと機器との間の実際の相互作用がMITPと重複する(又は少なくとも一致する)ことを確実とするための支援を提供する。
【0048】
上記MITP制御デバイスは、穿通運動の手動トリガ動作の如きユーザの動作は必要でない、という様な意味において全自動で動作する必要はない。寧ろそれは、MITPの開始及び終了を直接的又は間接的にユーザに対して特に信号通知することにより、ユーザに対する支援を提供し得る。
【0049】
上記MITP制御デバイスは、(以下において更に詳細に考察されるべき)任意の適切な手段を用いて圧力リングと皮膚との間に作用する押圧力を検出することによりMITPの開始時点を検出する手段を備えて成る。圧力が所定の最小の値又は範囲に対応するとき、この状況は、適切である可視的、可聴的又は触覚的な信号によりユーザに対して表示され得る。代替的に上記切開運動は、“切開準備完了”の状況が検出されたときに、自動的にトリガされ得る。この場合には、“切開準備完了”とトリガ動作との間に遅延は無く、すなわち、MITPは自動トリガ動作により開始する。代替的に、たとえば粘弾性的な皮膚変形に対して必要とされる時間を考慮するなどの、機器制御による遅延時間があり得る。斯かる場合、“切開準備完了”とトリガ動作との間における準備的遅延期間は好適には、長くとも1秒、更に好適には長くとも0.7秒、最も好適には長くとも0.5秒である。好適な下限値は0.2秒であり、少なくとも0.3秒が更に好適であり、少なくとも0.4秒が最も好適である。
【0050】
MITP期間の終了は概略的に、適切である可視的、可聴的又は触覚的な信号によりユーザに対して表示される。
【0051】
本発明に対しては、その最も包括的な意味において、専用のMITP制御デバイスは必要でないことを銘記すべきである。特定の状況に依存し、ユーザは、MITPの開始及び終了の間接的な表示が提供されれば十分であり得る。たとえば、(以下に更に詳細に記述されるべき)スプリング支持された圧力リング上にユーザの指を押圧したときに“切開準備完了”状況は該ユーザにより“感知”され得ると共に、MITPの持続時間は、MITPの終了に関してユーザの“感知”に頼れば十分であり得るほどに短時間であり得る。
【0052】
上記機器は、(上記MITP制御デバイスの一部分としての)一定種類の充填制御器であって、十分な量のサンプル液体を表すか、又は、十分な量のサンプルが収集されたときにのみ分析を許容する充填制御器を有し得る。但し、多くの場合において斯かる充填制御器は必要とされない。寧ろ、MITPの終了は、(システム構成要素の設計態様に依存する)固定的なMITP値を用いて上記機器により算出される。
【0053】
本発明に関し、上記切開要素の末端における上記圧力リングと皮膚との間における上述の押圧力が、切開時だけでなく、その後における短い相互作用期間に対しても維持されるならば、一体化された切開分析システムにより相当の利点が達成されることが見出された:
−両方の形式A及びBの一体化された切開分析システムに依れば、MITPに対するこの押圧力を維持すると、十分に大容量のサンプル液体の生成が助力され;
−形式A(二重ユニット・システム)の場合、上述の押圧力によりMITPを維持することは、上記分析デバイスが上記皮膚接触開口まで移動される時点まで、皮膚に対する上記機器(すなわち、その皮膚接触開口)の位置が固定されることを確実とするために更に重要であり;
−形式Bのシステム(単一ユニット・システム)によると、上述の押圧力によりMITPを維持することは、上記切開先端の厳密なz位置を許容することにより、短い時的間隔の間における十分な量のサンプル液体の吸引を増進するために重要であることが見出された。
【0054】
本発明に関しては更に、一体化された切開分析システムの多くのユーザは、十分な押圧力を十分な時的間隔に亙り維持することは困難とされてきたこと、及び、本明細書において記述される特徴を取入れたシステムによれば、機器の使用に関する推奨規則の遵守が相当に促進されることが見出されている。
【0055】
本発明によれば、単純で安価な設計態様の貫通深度調節デバイスを使用することが許容される。たとえば、皮膚位置の僅かな残存変動に対処するためには、交換可能である距離要素又は圧力リングを配備して、特定ユーザの要件に対する当該システムの個人用適合を許容すれば十分であり得る。
【0056】
本発明の上記機器及びシステムは、皮膚の粘弾性的特性を最適様式で考慮している。この様にして、サンプル液体の十分な供給が確実とされるだけでなく、過剰に多いサンプル液体の“溢流”が回避される。本発明によれば、300nl以下、好適には200nl以下、最も好適には100nl以下の程度である非常に少ないサンプル体積により、確実な分析が好適に許容される。
【0057】
本発明は以下において、図面中に示された好適実施例に関して更に詳細に記述される。其処に示される技術的な特徴及び要素は、本発明の各実施例を設計するために個別的に又は組み合わせて使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】圧力リングに当接して押圧された皮膚の概略図である。
図2】分析機器の斜視図である。
図3図2に示された機器の長手断面図である。
図4図3に示された機器において使用される切開要素の斜視図である。
図5図3に示された機器の機能特性に関する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1は圧力リング1の概観を示しており、該リングに当接して、力Fにより指先端2が押圧される。圧力リング1により画成される皮膚接触開口4内へと、皮膚3が膨出する。この膨出の程度、すなわち、圧力リング1の平面Aと目標部位膨出部6の頂点との間の距離は、押圧力Fと、皮膚接触開口4の寸法と、皮膚の弾性特性であって、対象者毎に変化するだけでなく同一の対象者による連続的な使用に対して個人内変動も示す弾性特性とに依存する。
【0060】
図1はまた、穿刺先端7が穿通運動の間において自身の運動経路上で到達する最大変位の点Pを象徴的に示してもいる。殆どの切開機器によれば、圧力リング1の上記平面のz位置、及び、相互に対する最大変位の点P(すなわち、図1に示された突出距離s)のz位置は、貫通深度設定を許容するために調節され得る。図1は、与えられた値の突出距離sに対し、実際の貫通深度は目標部位膨出の程度に直接的に依存することを示している。
【0061】
好適には、皮膚接触開口4の直径Dは相当に小さい。この場合には、最小限度の目標部位膨出のみが在ることから、連続的な切開事象の貫通深度の再現性は優れている。十分な量のサンプル液体の生成は、1.5mm以下の幅bを有する狭幅の圧力リングを用いることにより支援される。示された好適実施例において圧力リング1は、該圧力リング1を囲繞する周縁表面部分50を備える圧力片42であって圧力リング1から凹状形成される圧力片42の一部である。故に圧力リング1は、周縁表面部分50から突出距離hだけ突出する。
【0062】
図2乃至図5は、適切な切開システム10を示している。それは、再使用可能な携帯式機器11と、穿刺先端7を備えた使い捨て式の切開要素12とを含んでいる。上記機器のハウジング13は、切開用駆動器14と、図3においてはブロックとして象徴的にのみ示された測定/評価用電子機器15とを収容している。ユーザに対し、(上記システムに関するステータス情報、その操作に関する助言、分析結果などを含む)情報の視覚的表示を許容するために、ディスプレイ16が配備される。選択的に上記機器は、MITP制御デバイス17、聴覚的信号を生成する(ブザーの如き)デバイス18、及び/又は、触覚的信号を生成する(振動生成器の如き)デバイス19も備えている。
【0063】
図4において最適に示される)好適実施例において、切開要素12は分析要素21と組み合わされることにより、一体的な切開分析要素22を形成する。この一体的要素において切開要素12は、二重矢印34により象徴される長手方向において、分析要素21に対して運動可能である。機器11の内側に分析要素22を保持するために、分析要素ホルダ20が配備される。示された実施例において分析要素ホルダ20は、分析要素21における結合凹所25と、上記機器の対応結合突出部27とを備えて成る。同様の様式で切開要素12は、上記機器の結合突出部26と協働する結合凹所24を有する。凹所24、25、及び、夫々の結合凹所内へと貫通する突出部26、27のこれらの対に依れば、上記機器に挿入された一体的な切開分析要素22の操作が許容される(図3)。
【0064】
図3に示されたランセット駆動器14は、溝により形成されたカム30を有する駆動ロータ29を備えて成る。カム30及び対応するカム伝達子31は、枢動軸心33の回りにおける駆動ロッド32の枢動運動を制御するカム駆動機構を形成する。
【0065】
(不図示のトリガ手段による)穿通運動のトリガの後、駆動ロータ29はその軸心35の回りで(同様に不図示の駆動スプリングにより駆動されて)高速で旋回し、且つ、この回転運動は溝30により形成されたカム湾曲部により変換されると共に、カム伝達子31により駆動ロッド32の対応枢動運動へと伝達され、該駆動ロッドは再び、結合凹所24内へと貫通する該駆動ロッドの結合突出部26により該駆動ロッドが接続された切開要素12の対応する上下運動を推進する。切開機器に対する同様のロータ駆動器は、他の箇所に記述されている。故に、更に詳細な記述は必要でない。
【0066】
図4に示された好適実施例において切開要素12は、その穿刺先端7の内側における毛管チャネル28であって、該切開要素12のサンプル収集区域23に至る毛管チャネル28を有する“直接的サンプリング器”である。サンプル収集区域23において毛管チャネル28は拡開することで、サンプル貯溜チャンバ28aを形成する。
【0067】
切開の間、切開要素12は穿通運動を実施し、これにより穿刺先端7は皮膚3内へと駆動される。その後、好適には、穿刺先端7がその最大変位点に到達した後における上記穿通運動の縮動段階の間において(但し、上記穿刺先端は依然として皮膚3の表面下として)、サンプル液体は、毛管力により推進されて、毛管28及び貯溜チャンバ28a内へと進入する。故に、示された実施例において毛管28及び貯溜チャンバ28aは協働して、分析要素21の分析区域8への次続的な移送の準備ができたサンプル液体を格納するに適したサンプル収集デバイス36を形成する。分析のために必要とされるサンプル液体の体積は、上記デバイスにより取り込まれる液体の体積により、この場合には毛管28及び貯溜チャンバ28aの組み合わせ体積により、決定される。
【0068】
サンプル液体がサンプル収集区域23に一旦到達したならば、該液体は適切な流体連通デバイスにより、近傍における分析要素21の分析区域8へと移送され得る。好適には上記配置機構は、第1の設定においては切開要素12の上記サンプル収集区域と分析要素21との間には流体連通が提供されないが、第2の設定においては流体連通が行われる、という如くである。両方の設定間の切換えは、たとえば切開要素12の区域23及び分析要素21を一緒に押圧することなどによる、任意の適切な手段により達成され得る。切換え可能なサンプル移送を行う一体化された切開分析要素の斯かる好適な設計態様の更に詳細な記述は必要でない、と言うのも、それは他の箇所に記述されているからである。
【0069】
当然乍ら本発明は、相互に対して固定された切開部分及び分析部分を有する一体的な切開要素及び分析要素に依っても使用され得る。斯かる実施例によれば明らかに、2つの部分に対する別体的な複数の保持デバイスは必要でない。寧ろ、同時に切開要素保持デバイス及び分析要素保持デバイスの役割を果たす唯一個の保持デバイスが配備される。
【0070】
上記機器において切開要素及び分析要素(又は一体的な切開分析要素)を保持かつ運動させる好適なデバイスが記述されたが、多くの変更例が可能である。これらの変更例としては、分析要素及び/又は切開要素がテープに対して固定され、且つ、システム動作の少なくとも一部分の間において該テープにより搬送される設計態様が挙げられる。
【0071】
本発明の上記システムの格別の特徴は、機器11内に配備された押圧力制御デバイス37に関連する。示された実施例において押圧力制御デバイス37は、当該スプリングの一端が圧力リング1に対して作用し且つ他端はハウジング13に対して作用する如き様式で具現かつ配置されるスプリング38を備えて成る。この点に関し、“作用する”とは、直接的な接触を必要としない。寧ろそれは、上記スプリングが上記圧力リングに対して力を及ぼすこと、及び、対応する対抗力が上記ハウジングにより(直接的又は間接的に)担持されることを意味する。
【0072】
図3に示された上記機器において、スプリング38の一端はハウジング13の壁部上に着座すると共に、その他端は、切開用駆動器14を担持するフレーム要素39に当接して押圧される。スプリング38の力は、フレーム要素39から支柱要素40を介して圧力リング1へと更に伝達される。圧力リング1は、当該圧力片42がスプリング38の力に抗して軸心方向に運動可能である如く、ハウジング13の圧力リング軸受43により担持される圧力片42の一部分として具現される。
【0073】
ユーザが自身の指先端2を、圧力リング1を備える圧力片42上へと矢印Fの方向に押圧したとき、上記圧力片はスプリング38(又は他のスプリング・デバイス)の力に抗して下方に運動する。圧力片42とハウジング13との間の接触が圧力リング軸受43において中断されると直ちに、スプリング38の力は、指の押し下げ力により平衡化される。換言すると、皮膚に対して圧力リング1が押圧される力は、この状態において、此処ではスプリング38により具現された押圧力制御デバイス37により制御される。
【0074】
この設計態様において使用される原理は、スプリング38は、ハウジング13と圧力リング1を備える圧力片42との間に作用することを示す図5から更に十分に明らかである。示された特定実施例において、ランセット運動の最大変位点と圧力リング1との間の距離が、スプリング38の圧縮状態及び対応する圧力片42の軸心方向移動から独立する如き様式で、駆動器14は所定の空間的構成において圧力リング1に対して接続される。好適には、上記空間的構成は、故に上記最大変位点からの上記圧力リングの距離は、切開貫通深度を設定するために(穿通運動の間において)変更され得る。但しそれは、上記デバイスに対するユーザの相互作用の間において、すなわち、上記圧力リングが最初に押し下げられた時点から、其処から身体部分が取り外されるまでの間においては、固定される。
【0075】
公知である如く、弾性スプリング38の力は、その伸び(すなわち、示された如き圧縮スプリングの場合における圧縮)と共に線形に増大する。本発明に関し、皮膚に対して圧力リング1が押圧される力は厳密に制御されるものであり、すなわち、その変動は上記にて与えられた好適な制限値を超えてはならない。この目的を達成するために、スプリング38は好適には、それが事前張設される如き様式で具現かつ配置される。このことは、圧力リング1に対して押圧力が及ぼされていないとしても、上記スプリングは既に圧縮され(又は、伸張スプリングの場合には伸張され)ており、すなわち、圧力リング1はハウジング13の周囲壁部(軸受43)上に着座する該リングの“原”位置に在ることを意味する。この事前張設の程度は、圧力リング1に作用するスプリング38の力が、該圧力リング1のスプリング負荷運動範囲内における20%以下、好適には10%以下で変化する如きである。
【0076】
示された実施例において上記押圧力制御デバイスは、最小押圧力だけでなく、最大押圧力も制御すべく適合される。このことは概略的に好適であるが、必須ではない。好適には、トリガの時点における最大押圧力は8N以下、好適には7N以下である。
【0077】
もし最大押圧力が維持されるべきであれば、全体的な運動範囲において、指2(又は他の身体部分)と圧力リング1との間に作用する押圧力が、指2の押し下げ力により平衡化されるスプリング38の力のみにより制御されることを確実とすることが重要である。この条件は、圧力リング1の運動が、該リングの可能的な運動範囲内において該リング1に作用する一定種類の当接部材又は障害物により影響又は制限されるのであれば、満足されない。この条件を満足するために圧力リング運動制限機構44(図5)が配備され、該機構によれば、指2又は他の身体部分による押圧により可能である圧力リング1の最大変位は、該圧力リングの完全スプリング負荷運動範囲内に制限される。
【0078】
図5に示された好適実施例において、このことは、圧力リング1に当接して押圧されることで該圧力リングを運動させる身体部分が当該接触表面46に当接する如き様式で、圧力リング1の近傍(外径方向側)に配置された接触表面46により達成される。この当接により、上記圧力リングはそれ以上は移動され得ず、すなわち、(上記圧力リングに対する身体部分による)上記圧力リングの可能的な変位は制限される。斯かる実施例に依ると、上記最大変位は、上記圧力リングが機器ハウジング(接触表面46)から突出する距離drに依存する。圧力リング1を備える圧力片42が押し下げられる場合、指先端2が圧力リング1の近傍にてハウジング13の表面に接触するときに、この運動は中断される。
【0079】
この点に関し、設計態様が、実使用の間における圧力リング1の最大変位が小さい如くであることも好適である。好適にはそれは、3mm未満、更に好適には2mm未満、更に好適には1mm未満とさえされるべきである。故に、圧力リング1の平面A及び近傍のハウジング表面の距離drは、過剰に大きくされるべきでない。好適な最大値は、言及された最大変位値に対して0.5mmを加算することにより算出され得る。他方、drは過剰に小さくされるべきでない、と言うのも特に、近傍のハウジング領域に対する圧力リング1の突出により、ユーザによる適切な指の位置の発見が容易とされるならば、このことは上記機器の操作に対して好適だからである。故に、この突出量、すなわち距離drは、少なくとも0.2mm、好適には少なくとも0.5mmとされるべきである。
【0080】
当然乍ら、上記圧力リングが配備される構成部分は、多くの異なる形状及び設計態様を有し得る。幾つかの早期のデバイスと対照的に、それは、それが上記システムの通常使用の間において目に見えるほどに変形されてなならない、という意味において変形不能とされるべきである。先に述べられた如く、“圧力リング”という語句は、実使用において、すなわち、特定の機器の使用に際して支配的な条件下において、機器と皮膚との間に作用する押圧力の大部分を担持する該当部分のリング形状表面を指している。当然乍ら、このリング形状接触表面(すなわち上記圧力リング)は、たとえば僅かに丸み付けられた縁部などの、種々の形状を有し得る。上記圧力リングの適切で厳密な形状及び幅は、本明細書に含まれる情報に基づき、実験的に決定され得る。上記リングは一切の近傍ハウジング表面から、該リングに対するユーザによる容易な触感的認識を許容するに十分な距離だけ突出せねばならない。
【0081】
更に、“圧力リング”という語句は、連続的であるリングに限られると理解される必要はない。寧ろ、皮膚に接触するリング形状表面は、(たとえば凹所による)中断部を有することが可能であり、但し該中断部は、記述された圧力リングの機能を損なわない様に十分に小寸とされるべきである。
【0082】
図3に示された好適実施例において、上記機器は更に、圧力リング運動検出デバイス45を備えて成る。本発明の第2の主要態様に関し、それは好適にはMITP制御デバイスの一部分である。運動検出のための手段は、たとえば図中に象徴的に示された光バリヤ46などの様に、公知である。斯かるデバイスは、圧力片42の、故に圧力リング1の“原”位置から指2による押し下げ時に、その運動を検出する。斯かる検出によれば、上記機器が“切開準備完了”であることを(ディスプレイ16、又は、聴覚的又は触覚的な信号18及び19の生成器を介して)ユーザに対して表示するなどの幾つかの好適な機能が許容される。代替的又は付加的に、上記圧力リング運動検出デバイスの信号は、可能的には上述された如き遅延時間の後で、切開運動を自動的にトリガするために使用され得る。
【0083】
図3は更に、機器11の一部分として分析測定デバイス47を示している。これは、分析要素21の変化であって、所望の分析的値の尺度であるという変化に関する測定量の値を測定するに適した任意のデバイスとされ得る。示された場合において上記分析測定デバイスは、光源48と、光検出器49と、レンズ50による象徴される対応的な光案内手段とを含むべく、分析要素21の分析区域8における検出領域の測光的測定に対して具現される。電気化学的な分析要素の評価に対して一般的である如く、他の形式の分析測定デバイス、特に電気的な測定デバイスも使用され得る。
【0084】
図2乃至図5に示されたシステムにおいて、本発明の第2の主要態様に係るMITP制御デバイス17は、圧力リング運動検出デバイス45を利用する。MITP制御デバイス17がMITPの開始を一旦信号通知したなら、該デバイスは、信号生成器18及び19の少なくとも一方により信号を生成し、且つ/又は、ランセット駆動器14の穿通運動を自動的にトリガする。MITP期間の終了は、たとえば指先端2からの十分な量のサンプル液体の生成及び移送に必要な所定の期間に基づき、測定/評価用電子機器15により決定される。代替的に、十分なサンプル移送の状況は、たとえば、一体的な切開分析要素22において搬送されるサンプルの測光的な検出により、又は、そこで搬送されたサンプル液体がその搬送経路における一定箇所に到達したことを検出する電気的接点によるなどして、業界公知の適切なサンプル移送検出手段により別体的に検出されても良い。好適には、示された実施例におけるのと同様に、上記付与力制御デバイスは、MITP全体の間において、押圧力は上記で特定された制限値により与えられる範囲内であることを確実とする。好適には、MITPの間における押圧力の変動は、上記で特定された相当に小さい変動制限値内とされるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5