【実施例】
【0052】
<組織修復用繊維膜の製造:実施例1〜6>
実施例1
(1)ポリカーボネートポリウレタン(PCU)を、溶液中のPCUの濃度が12g/100mLになるように、混合比率(体積比)1:1のN,N−ジメチルホルムアミドとテトラヒドロフランの混合溶媒に溶解させて、均一な繊維糸材料溶液を得た。
PLLAを、溶液中のPLLAの濃度が5g/100mLになるように、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液に溶解させて、均一な繊維糸材料溶液を得た。
(2)上記の2種の均一な繊維糸材料溶液を、別々で、2つのエレクトロスピニングシリンジのそれぞれに入れ、2種の材料に対応する注射針を高圧電源板上で均一に配列して、マイクロシリンジポンプの速度を6ml/時間、高圧発生器の電圧を22kV、収集装置の収集距離を20cmに調整し、2種の材料の同時静電紡糸によって溶解特性の異なる2種の繊維糸材料が交絡した繊維膜を製造し、厚みが0.5mmになった時点で静電紡糸を停止した。
(3)取り出された膜を、ヘキサフルオロイソプロパノールの溶媒に入れて超音波により6時間溶解、膨潤させて、PCU材料が変化することなく、PLLA材料を完全に溶解し、溶媒から未溶解の材料を取り出して、組織修復用繊維膜を得た。
実施例1で得た組織修復用繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が350μm、引張強度が25N/cm、嵩高が970cm
3/g、柔軟度が250mNであった。
【0053】
実施例2
(1)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、溶液中のPVDFの濃度が18g/100mLになるように、体積比4:6のN,N−ジメチルホルムアミド/アセトンの混合溶媒に溶解させた。溶液中のPLLAの濃度が5g/100mLとなるように、L−ポリ乳酸(PLLA)をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液に溶解させて、均一な繊維糸材料溶液を得た。
(2)上記の2種の均一な繊維糸材料溶液を、別々で、2つのエレクトロスピニングシリンジのそれぞれに入れ、マイクロシリンジポンプの速度を5ml/時間に調整した以外は、実施例1のステップ(2)と同様に静電紡糸を行った。
(3)取り出された膜を、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒に入れて超音波により6時間溶解、膨潤させて、その中のPLLA材料を完全に溶解して、組織修復用繊維膜を製造した。
前記組織修復用繊維膜は、平均繊維径が3μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が450μm、引張強度が35N/cm、嵩高が1640cm
3/g、柔軟度が400mNであった。
【0054】
実施例3
(1)PVDF材料を、溶液中のPVDFの濃度が18g/100mLになるように、体積比4:6のN,N−ジメチルホルムアミド/アセトンの混合溶媒に溶解させて、均一な繊維糸材料溶液を調製した。
(2)ステップ(1)で得た繊維糸材料溶液を、エレクトロスピニングシリンジに入れ、マイクロシリンジポンプの速度を6ml/時間、高圧発生器の電圧を30kV、収集装置の収集距離を20cmに調整し、静電紡糸を行って繊維を得、且つ繊維を膜状構造として収集し、膜層の厚みが約0.5mmになった時点で静電紡糸を停止して、繊維膜を得た。
ここで得た繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が190μm、引張強度が43N/cm、嵩高が170cm
3/g、柔軟度が930mNであった。
(3)ステップ(2)で製造された繊維膜を、濃度が95体積%のエタノール溶液に完全に浸潤した後、エタノール溶液で浸潤した繊維膜を取り出して、注射用水を入れた超音波容器に入れ、繊維膜を注射用水に完全に浸漬し、超音波を発生させ、出力90Wで10分間超音波処理し、5〜10分間静置後、超音波容器内の注射用水を取り替え、再度超音波を発生させ、出力90Wで10分間超音波処理する作業を、溶液中のエタノールが全部置換されるまで7〜8回繰り返した。その後注射用水で超音波により膨潤させた繊維膜を取り出して、−50℃の凍結乾燥室に入れて4時間予備冷凍し、再度真空凍結乾燥を行い、予備冷凍した繊維膜を24時間真空凍結乾燥して、組織修復用繊維膜を得た。
前記組織修復用繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.6mm、平均孔径が400μm、引張強度が48N/cm、嵩高が1530cm
3/g、柔軟度が420mNであった。
【0055】
実施例4
(1)L−ポリ乳酸(PLLA)材料を、溶液中のPLLAの濃度が6g/100mLになるように、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒に溶解させて、均一な繊維糸材料溶液を調製した。
(2)ステップ(1)で調製された繊維糸材料溶液を、エレクトロスピニングシリンジに入れ、高圧発生器の電圧を20kV、収集装置の収集距離を15cmに調整した以外は、実施例3のステップ(2)と同様に静電紡糸を行って、繊維膜を得た。
ここで得た繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が115μm、引張強度が33N/cm、嵩高が130cm
3/g、柔軟度が870mNであった。
(3)その後、繊維膜の二辺を治具で挟持し、温度が60℃の条件で100mm/minの速度で等速延伸し、繊維膜を元の長さの3倍に延伸した後延伸を止め、常温下で繊維膜をこの延伸状態で4hセッティングした後、繊維膜を取り出して且つ繊維膜のほかの二辺を治具で挟持し、温度が60℃の条件で、前記延伸方向に直交する方向に沿って100mm/minの速度で等速延伸し、繊維膜を元の長さの3倍に延伸した後延伸を止め、常温下で繊維膜をその延伸状態で4hセッティングして、組織修復用繊維膜を得た。
前記組織修復用繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.6mm、平均孔径が450μm、引張強度が50N/cm、嵩高が1100cm
3/g、柔軟度が400mNであった。
【0056】
実施例5
(1)PVDF材料を、溶液中のPVDFの濃度が18g/100mLになるように、体積比4:6のN,N−ジメチルホルムアミド/アセトンの混合溶媒に溶解させて、均一な繊維糸材料溶液を調製した。
(2)ステップ(1)で得た繊維糸材料溶液を、エレクトロスピニングシリンジに入れ、実施例3のステップ(2)と同様に静電紡糸を行って、繊維膜を得た。
ここで得た繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が190μm、引張強度が43N/cm、嵩高が170cm
3/g、柔軟度が930mNであった。
(3)温度を95℃とし、元の長さの2.5倍に延伸した以外は、実施例4のステップ(3)と同様に延伸して、組織修復用繊維膜を得た。
前記組織修復用繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.6mm、平均孔径が400μm、引張強度が65N/cm、嵩高が1300cm
3/g、柔軟度が450mNであった。
【0057】
実施例6
(1)PCU材料を、溶液中のPCUの濃度が12g/100mLになるように、体積比1:1のN,N−ジメチルホルムアミド/テトラヒドロフランの混合溶媒に溶解させて、均一な繊維糸材料溶液を調製した。
(2)ステップ(1)で得た繊維糸材料溶液を、エレクトロスピニングシリンジに入れ、マイクロシリンジポンプの速度を5ml/時間、高圧発生器の電圧を36kV、収集装置の収集距離を25cmに調整し、静電紡糸を行って繊維を得、且つ繊維を膜状構造として収集し、膜層の厚みが約0.5mmになるまでスピニングした後静電紡糸を停止して、繊維膜を得た。
ここで得た繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が160μm、引張強度が52N/cm、嵩高が110cm
3/g、柔軟度が510mNであった。
(3)温度を80℃とし、元の長さの2.0倍に延伸し、6hセッティングした以外は、実施例4のステップ(3)と同様に延伸して、組織修復用繊維膜を得た。
前記組織修復用繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が260μm、引張強度が60N/cm、嵩高が230cm
3/g、柔軟度が470mNであった。
【0058】
実施例7
実施例1、2、3、4、5、6で製造された嵩高繊維膜をそれぞれ、編みポリプロピレン(PP)(3DMAX
TM Mesh 中山大学第二付属病院からのサンプル)シートに積層し、次いで周波数20000Hzの超音波(福坦機械設備有限公司製、型番JT−200−S)を用いて、10cm置きに超音波スポット溶接の方法によって上述の各層を接合して、組織修復用繊維膜とPP編み膜との複合シートがそれぞれ得られた。
【0059】
<組織修復用繊維膜の動物実験:実施例8〜12>
実施例8 繊維膜のヘルニア修復への使用
実施例1、実施例5で製造された組織修復用繊維膜、実施例5のステップ(2)で製造された繊維膜及び臨床上使用されるポリプロピレンメッシュ(3DMAX
TM Mesh 中山大学第二付属医院からのサンプル)を、3.5cm×6cmに裁断して、洗浄し、滅菌して、それぞれPCUヘルニア修復パッチ(実施例1の繊維膜により製造)、PVDF1ヘルニア修復パッチ(実施例5の繊維膜により製造)、PVDF2ヘルニア修復パッチ(実施例5のステップ(2)で得た繊維膜により製造)及びPPヘルニア修復パッチ(ポリプロピレンメッシュにより製造)を得た。
上記ヘルニア修復パッチについて、ニュージーランドウサギでの実験を行った。体重2.5〜2.8kg、生後6〜12ヶ月齢のニュージーランドウサギを、合計60羽用いた。実験ウサギをランダムで、それぞれPCU群、PVDF1群、PVDF2群及びPP群の4群に分けて、各群の実験動物を15匹(羽)とした。実験動物に麻酔をかけ、剃毛し、仰臥位で木の板に固定した。消毒してシーツを敷いた後、腹部の真ん中で、4#外科用メスでウサギの腹部の白線に沿って皮膚を約8cm切開し、筋肉を露出させて、大きさ2cm×5cmの腹壁全層(腹膜、筋肉、筋膜組織を含む)を切除した。PCU群、PVDF1群、PVDF2群、PP群は、それぞれ、PCUヘルニア修復パッチ、PVDF1ヘルニア修復パッチ、PVDF2ヘルニア修復パッチ及びPPヘルニア修復パッチを用い、0#糸でパッチと周辺の筋肉を断続的に縫合した。4#糸で皮膚を断続的に縫合した。
【0060】
術後では動物を通常観察・飼育した。観察期間内でPCU群、PVDF1群及びPVDF2群の動物はすべて正常に食物と水を摂取し、切開部分が良好に癒合し、感染及び腹部ヘルニアの発生が見られない。PP群の5匹の動物は、術後5〜7日目に切開部分に隆起が見られ、3匹の動物は術後7〜10日目で死亡した。解剖したところ、パッチと内臓がひどく癒着していたことが分かった。残りの動物は全部サンプル採取まで生存した。
術後1ヶ月で、PCU群、PVDF1群、PVDF2群のそれぞれの5匹の動物を解剖し、PP群の4匹の動物を解剖した。手術部位を手で触ったところ、PCU群とPVDF1群は手術部位の手触りが柔らかった。PVDF2群は手触りがPVDF1よりやや硬かった。パッチのエッジから2cm以上で筋肉層を切開して、目視で観察したところ、PCU群、PVDF1群及びPVDF2群のパッチはいずれも内臓と癒着せず、毛細血管がパッチのエッジから中へ内殖して、新生組織がほぼパッチ全体を覆っていた。顕微鏡で観察した結果、PCU群、PVDF1群、PVDF2群では、パッチの周囲に大量の線維芽細胞及びコラーゲン線維の増殖、少数のリンパ球の浸潤(≦25個/HPF)、多くの毛細血管の増殖(5〜10本/HPF)が見られた。また、顕微鏡で観察したところ、PCU群、PVDF1群の毛細血管はPVDF2群よりも多く、且つそれらの差は統計的に有意であった(P<0.05)。上述のことから、PCU群パッチ、PVDF1群パッチ、PVDF2群パッチは良好な組織適合性を有することが分かった。中でも、PCU群パッチとPVDF1群パッチの高い嵩高は、組織の内殖に一層有利である。
【0061】
PP群では、手術部位を手で触ったところ、ほかの3群より硬く、異物の存在をはっきりと感じた。皮膚を切開すると、一層の新生組織が薄くパッチ表面を被覆していることが見られるが、パッチと剥離しやすい。パッチのエッジから2cmで筋肉層を切開くして、目視で観察したところ、PP群パッチが内臓とひどく癒着し、且つ分離しにくい(
図5)。顕微鏡で観察した結果、PP群パッチの内部に空洞が多く存在し、空洞の周囲に少量の線維芽細胞及びコラーゲンが形成され、少量の毛細血管の増殖(≦2本/HPF)、大量の異物巨細胞及びリンパ球の浸潤が見られた。上述のことから、PP群パッチの組織適合性が悪く、細胞の付着に不利であり、拒絶・免疫炎症反応が顕著であることが分かった。
術後3ヶ月で、PP群の動物4匹、ほかの各群については5匹を解剖した。パッチ及びそのエッジから2cm以内の組織を切り取った。PCU群、PVDF1群の手術部位の手触りが柔らかく、自家組織に近い。パッチと皮膚との間の境界が明確で分離しやすく、パッチと内臓器官は全く癒着せず、大量の新生組織がパッチ内部へ内殖していた。顕微鏡で観察した結果、パッチのエッジは、コラーゲン線維及び繊維芽細胞と密着に結合していた。パッチ内部には、大量のコラーゲン線維とともに少量の毛細血管(3〜5本/HPF)が見られた。PVDF2群材料による手術部位の手触りが比較的柔らかく、パッチと皮膚との間の境界が明確で分離しやすく、パッチと内臓器官は全く癒着せず、パッチを切断したところ、内部には新生組織が少なかった。顕微鏡で観察した結果、パッチは表面にのみ多くのコラーゲン線維が見られ、パッチ内部に新生組織が見られなかったため、新生組織のPVDF2シート内部への内殖が遅いことが分かった。
【0062】
PP群では、手術部位を手で触ったところ、比較的硬く、異物の存在をはっきりと感じた。PP群パッチの表面に一層の薄い新生組織があり、皮膚との境界が不明確で分離しにくく、パッチは内臓に近く、内臓とひどく癒着し、剥離しにくく、腸管が腫脹していた。顕微鏡で観察した結果、パッチの周囲には少量の線維芽細胞及びコラーゲンが形成され、それとともに少量の毛細血管の増殖(≦2本/HPF)、大量の異物巨細胞及びリンパ球の浸潤が見られた。上述のことから、拒絶・免疫炎症反応が顕著であることが分かった。
【0063】
術後6ヶ月で、PP群の動物4匹、ほかの各群については5匹を解剖した。修復箇所のパッチ及びそのエッジから2cm以内の組織を切り取った。PVDF1群とPCU群は手術部位の手触りが柔らかく、
図6と
図9に示すように、パッチは新生組織と一体化して、新生組織とパッチを区別しにくく、また、新生組織と皮膚との間の境界が明確で分離しやすく、新生組織と内臓器官は全く癒着していなかった。顕微鏡で観察した結果、パッチをインプラントした部位の周辺は、コラーゲン線維及び繊維芽細胞と密着に結合し、内部には大量のコラーゲン線維が見られた。PVDF2群は手術部位の手触りが比較的柔らかく、
図7と
図8に示すように、まだパッチと新生組織を区別でき、新生組織と皮膚との間の境界が明確で分離しやすく、パッチと内臓器官は全く癒着していなかった。顕微鏡で観察した結果、パッチの表面に多くのコラーゲン線維が見られ、パッチを切断したところ、内部には新生組織がまだ少なかった。
【0064】
PP群では、手術部位を手で触ったところ、比較的硬く、異物の存在をはっきりと感じた。PP群は皮膚との境界が不明確で分離できず、また、内臓器官とひどく癒着していた。顕微鏡で観察した結果、パッチの周辺にのみ少量の線維芽細胞及びコラーゲンが形成され、表面に少量の毛細血管の増殖(≦5本/HPF)、大量の異物巨細胞及びリンパ球の浸潤が見られ、異物反応・免疫拒絶がひどかった。上述のことから、PP群パッチは細胞の付着と内殖に不利であり、組織適合性と修復効果が悪いことが分かった。
【0065】
実施例9 繊維膜の骨盤底修復への使用
実施例3で製造された繊維膜から製造した骨盤底修復パッチ(PVDF3パッチ)、実施例3のステップ2で製造された繊維膜から製造した骨盤底修復パッチ(PVDF4パッチ)、実施例6で製造された繊維膜から製造した骨盤底修復パッチ(PCU1パッチ)及びポリプロピレン材料から製造した骨盤底修復パッチ(PPパッチ、強生Prolift
TM、広州華僑医院より提供)を用いてミニブタ実験を行った。パッチをすべて2cm×2cmの大きさに裁断した。20〜25kgで、性成熟した雌性ミニブタを8頭選択して、1群当たり2頭として、PVDF3群、PVDF4群、PCU1群及びPP群の合計4群に分けた。実験ミニブタに全身麻酔をかけ、下腹部の腹壁を介して進入し、膀胱、子宮及び腟上段を露出させた。パッチをそれぞれ膀胱膣隙に入れて、糸で固定した。PVDF3群、PVDF4群、PCU1群及び対照群としてのPP群は、それぞれ、PVDF3パッチ、PVDF4パッチ、PCU1パッチ及びPPパッチを用いた。術後は動物を通常飼育及び観察をした。実験動物はすべて観察期間内で状況が良好で、切開部分がうまく癒合し、インプラントの排斥、露出等の発生はなかった。術後の食物と水の摂取が正常で、全部サンプル採取まで生存した。
【0066】
術後4週間で、骨盤底修復パッチを含む膀胱膣隙組織のサンプルを切り取った。手術部位を手で触ったところ、PVDF3群、PVDF4群、PCU1群及びPP群のうち、PP材料は最も硬く、PVDF4群の材料はその次に硬く、PCU1群の材料は柔らかく、PVDF3群の材料は最も柔軟で靭性を有し、PVDF3群、PVDF4群、PCU1群のパッチ表面は一層の新生上皮に被覆され、パッチと新生組織を剥離しにくく、目視で新生の毛細血管を確認できた一方、PP群のパッチ表面も一層の新生組織に被覆されているが、パッチと新生組織を剥離しやすかった。病理解析の結果、PVDF3群パッチの内部と表面のいずれにも線維芽細胞及びコラーゲン線維が大量に増殖し、パッチの内部には多くの毛細血管(5〜10本/HPF)があったことから、新生組織は既にシートの内部に内殖し、且つ内殖速度が速いことが分かった。PCU1群、PVDF4群は表面に多くの線維芽細胞とコラーゲン線維があり、パッチの内部には少量の線維芽細胞及びコラーゲン線維の増殖、少量の毛細血管の増殖(3〜5本/HPF)が見られたことから、新生組織がシート内部に内殖するが内殖速度が遅いことが分かった。PVDF4群の内部には少数のリンパ球の浸潤が見られ、微弱な免疫・炎症反応が発生した。PP群パッチの周辺には多くの線維芽細胞及びコラーゲン、少量の毛細血管(2〜3本/HPF)、少量の異物巨細胞(≦3個/HPF)があったことから、新生組織はシートと一体化して成長できず、修復が遅く、また、異物拒絶反応が発生したことが分かった。
【0067】
術後12週間で、骨盤底修復インプラントを含む腟及び膀胱のサンプルを切り取った。手で触ったところ、PVDF3群、PVDF4群、PCU1群及びPP群のうち、PP材料は最も硬く、PVDF4材料はそれの次に硬く、修復部位と周囲組織では、柔軟性に明らかな差があった。PCU1材料は手触りが柔らかく、PVDF3は最も柔軟で靭性を有した。PVDF3群パッチは表面と内部のいずれにも大量の線維芽細胞とコラーゲンが見られ、且つパッチと成長した組織は一体化して、区別も剥離もできなかった。顕微鏡で観察した結果、パッチをインプラントした部位の周辺は、コラーゲン線維及び繊維芽細胞と密着に結合し、新生組織とシート材料を区別できず、内部には大量のコラーゲン線維が見られたことから、新生組織は既にシートと完全に一体化して成長し、再生修復が実現されたことがわかった。PCU1群パッチは新生組織と剥離しにくく、目視で観察したところ、新生組織は材料内部に内殖し、材料と新生組織を区別しにくかった。顕微鏡で観察した結果、表面に大量の線維芽細胞及び少量の毛細血管(3〜5本/HPF)が成長し、内部には少量の毛細血管(2〜3本/HPF)が見られた。PVDF4群パッチは新生組織と剥離でき、表面に多くの線維芽細胞及び少量の毛細血管(3〜5本/HPF)が成長し、内部には少量の毛細血管(≦2本/HPF)が見られた。PP群パッチも表面に多くの線維芽細胞及び比較的少量の毛細血管の成長(2〜3本/HPF)が見られたが、パッチと成長した組織を剥離しやすいことから、新生組織はシートと一体化して成長できず、修復効果が悪いことが分かった。
【0068】
上述のことから、インプラントしたパッチの嵩高は細胞と組織が迅速にインプラントしたパッチの表面に付着して材料内部に成長することに重要な役割を果たし、且つパッチの高い嵩高と柔軟性は新生組織と材料が一体化して形成することに一層有利であり、また、嵩高が小さいと、新生組織がシート内部に内殖する速度が遅いことが分かった。
【0069】
実施例10 繊維膜の脳硬膜修復への使用
実施例4で製造された組織修復用繊維膜、実施例4のステップ(2)で製造された繊維膜を4cm×6cmに裁断して、洗浄し、滅菌して、それぞれPLLA1脳硬膜修復パッチ(実施例4の繊維膜により製造)、PLLA2脳硬膜修復パッチ(実施例4のステップ(2)で得た繊維膜により製造)として製造し、対照群としては、臨床上使用されている商品化した動物由来脳硬膜修パッチ(脳膜健、中山大学第三付属医院からのサンプル)を使用した。
雌雄を問わず、体重が10〜15kgの健康なイヌを6匹選択して、観察期間を2〜3ヶ月とした。実験されるイヌに全身麻酔をかけ、両側前頭開頭し、人為的に両側の脳硬膜欠損及び脳組織損傷を形成した後、PLLA1脳硬膜修復パッチ及びPLLA2脳硬膜修復パッチを用いて同実験イヌの脳の左右両側にそれぞれ脳硬膜修復術を実施し、並行して3匹のイヌに対して実験を行った。PLLA2脳硬膜修復パッチ及び対照群の動物由来脳膜修パッチを用いて同実験イヌの脳の左右両側にそれぞれ脳硬膜修復術を実施し、並行して3匹のイヌに対して実験を行った。術後はイヌを通常飼育及び観察し、各観察期間の終了後に修復パッチ部位からサンプルを採取し、サンプルの全体と顕微鏡での組織を比較して観察した。各実験動物を所定の期間飼育した後、動物に麻酔をかけ、前記開頭方法によって頭蓋骨を露出させ、分離して修復パッチの外表面を露出させ、静脈に空気を注入して動物を死亡させ、鋸で頭蓋骨を切開した後、頭蓋骨を開いて修復パッチ及び周囲組織を切り取った。目視で修復パッチの外表面、生地、周囲組織との結合、嚢腫・硬結の有無、及び内表面と脳組織の癒着状況を観察した。サンプルを瓶に詰めて、ホルマリン固定液に浸漬して、サンプル瓶をラベリングした。室温下、ホルマリンで1週間固定化した後、手術部位の局所組織を取り、常法によりパラフィン包埋し、HE組織切片染色を行った。
【0070】
術後、6匹のイヌは順調に回復し、切開部分の癒合が良好で、分泌物がなかった。術後では、イヌの食物と水の摂取が正常で、室外での動きにも異常がなく、運動障害が見られなかった。3ヶ月後、静脉に空気を注入してイヌを死亡させ、手術部位を中心に、手術部位より1cm広い範囲で、修復パッチ、周辺の脳硬膜及び内面の脳組織を含むように、サンプルを切り取った。サンプルを切り取った後、層ごとに脳骨と脳膜を分離したところ、PLLA1脳硬膜修復パッチをインプラントした部位の脳膜が完全であり、パッチをインプラントした部位は完全に繊維組織に置換され、インプラント材料が見られず、且つインプラントした部位での脳膜の内表面に癒着がなく、それに対応する脳組織の表面は滑らかで、癒着がなかった。修復効果は解剖写真の
図13に、病理写真は
図10に示す。PLLA2脳硬膜修復パッチをインプラントした部位での脳膜は完全であり、一部のインプラント材料は既に破片に分解され、新たな繊維組織が形成され、それに対応する脳組織の表面には若干の癒着が見られた。修復効果は解剖写真の
図14に、病理写真は
図11に示す。一方、対照群の動物由来脳膜修復パッチをインプラントした部位には完全の分解していないインプラントパッチが見られ、且つインプラントした部位での脳膜の内表面と脳組織が複数箇所で癒着して、例えば、脳組織の異所性放電、癲癇発作等の合併症を引き起こす可能性がある。修復効果は解剖写真の
図15に、病理写真は
図12に示す。
【0071】
実施例11 繊維膜の皮膚修復への使用
実施例4で製造された組織修復用繊維膜を5cm×5cmに裁断し、洗浄し、滅菌して人工皮膚を製造して動物実験を行った。実験ウサギは、体重が2〜2.5kg、生後6〜8ヶ月齡であり、雌雄を問わず、合計12羽を選択した。1群当たり6羽として、ランダムで2群(実験群と対照群)に分けた。ウサギを耳介静脈から麻酔をかけた後、動物を専用手術台に固定し、その後剃毛し消毒した。外科用メスで背部の皮膚全層を4×4cmの面積で切除した。次いで人工真皮を貼り付け、実験群は創傷部位に実施例4の繊維膜で製造された人工皮膚を貼り付け、1cmの間隔で縫合糸で固定した。対照群は、ブランク対照処理を行った。実験群と対照群はそれぞれ傷口に滅菌ワセリンガーゼと滅菌ガーゼを被覆して、縫合糸で周辺の皮膚と固定した。
術後、動物の食物と水の摂取状況、体温、各群の被覆と創傷面の分離時間及びほかの身体的活動状況を観察し、且つ創傷面の修復状況を観察した。
術後2、4、8週間で、各群から2羽のウサギを選択し死亡させ、背部の創傷面全体及び付近の正常な皮膚を採取し、ホルマリンで固定し、HE染色を行って、光学顕微鏡で真皮中の組織の新生状況、炎症反応状況、表皮構造の厚み及び付属器の再生状況を観察した。
【0072】
対照群のウサギは、術後に創傷面全面に亘ってワセリンガーゼ又はガーゼと癒着していた。補助材の脱落現象があった。創傷面に出血があり、大量の組織液が滲出した。創傷面が完全に癒合した後、線状の痂となっていた。実験群は、術後に創傷面が乾燥して、ワセリンガーゼやガーゼと癒着せず、創傷面と密着に結合していた。傷口が腫脹と発赤することなく、動物に皮膚アレルギー又は感染現象が見られなかった。材料に被覆された部位に壊死現象はなかっった。傷口が完全に癒合した後、矩形の痂となっていた。顕微鏡で癒合口の皮膚を観察したところ、有棘細胞層が厚くなり、基底細胞の増殖が活発であり、表皮層の角質層、顆粒層、有棘層及び基底層がすべて見られた。真皮層の付属器管、汗腺、毛包等の構造が見られ、大量の線維芽細胞が皮膚の表面に平行して配列され、その間に多くの毛細血管が増殖し、局所で少量のリンパ球の浸潤が見られた。
観察の結果から明らかなように、実験群の抗感染能力、創傷面出血防止作用は対照群より優れていた。実験群の創傷面に腫脹、壊死がなかった。組織学的観察により、実施例4の繊維膜で製造された人工皮膚材料の皮膚構造再生への促進能力は対照群より強いことが分かった。
【0073】
実施例12 繊維膜の骨充填への使用
実施例2で製造された組織修復用繊維膜を洗浄し、滅菌して、骨修復ステントを製造してウサギでの動物実験を行った。体重が2.5±0.5kgのニュージーランドウサギを、雌性1羽、雄性2羽選択した。全身麻酔後に剃毛し、動物を専用手術台に固定し、伏臥位にして、ポビドンヨードエタノールで消毒し、無菌シーツを敷き、タオルクランプで固定した。ウサギ脚部の皮膚を切開して、剥離器を用いて骨膜を分離し、脛骨板を露出させ、高速骨ドリルでウサギ脛骨に大きさ1cm×2cmの欠損を形成し、実施例2の繊維膜で製造された骨修復ステントを扇形に折り畳んで欠損部位に充填し、充填物と骨欠損面が同一面となるように高さを調整して、縫合した。術後14日目で、目視で観察したところ、骨梁が太く、超音波骨密度計で検査したところ、新生骨の骨密度が高く、且つ網状骨が形成されていた。術後3ヶ月で、欠損した骨洞の表面に仮骨が形成されていた。仮骨を叩いたところ、骨質が硬く、硬度が正常の骨組織に近く、且つ仮骨の色が自家骨の色と同様であった。リハビリテーション期間内に炎症反応がなかった。術後、動物が順調に回復し、食物と水の摂取が正常であった。四肢運動機能が次第に回復した後、運動障害が見られなかった。
【0074】
以上の実施例をもって、本発明の繊維膜の嵩高を200cm
3/g〜2000cm
3/gとした有益な効果を十分に説明した。下記の表1にまとめる。
【0075】
【表1】
上記表より示されるように、嵩高を200cm
3/g〜2000cm
3/gに制御する組織修復パッチは、細胞がパッチ内において迅速に成長して新生組織を形成するように誘導でき、修復効果に達する。同様に、分解性材料(PLLA)にとっては、嵩高が200cm
3/g〜2000cm
3/gの範囲であるパッチは、嵩高が該範囲以外のパッチに比べ、修復効果がより速く、材料の分解も更に迅速である。なお、柔軟度が50〜500mNの範囲であるパッチで修復した後、修復部位は比較的柔軟で術後の快適感を向上させる。
【0076】
<修復用インプラント繊維シートの製造:実施例13〜21>
【0077】
実施例13
(1)ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を、溶液中のPVDFの濃度が18g/100mLになるように、体積比4:6のN,N−ジメチルホルムアミド/アセトンの混合溶媒に溶解させて、均一な繊維材料溶液Aを得た。L−ポリ乳酸(PLLA)を、溶液中のPLLAの濃度が5g/100mLになるように、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液に溶解させて、均一な繊維材料溶液Bを得た。
(2)上記の2種の均一な繊維材料溶液AとBを、5つのエレクトロスピニングシリンジに入れ、そのうちの4本のシリンジにPVDF溶液、1本のシリンジにPLLA溶液を入れた。PVDF溶液に対応する4本の注射針及びPLLAに対応する1本の注射針を高圧電源板上で均一に配列させ、マイクロシリンジポンプの速度を5mL/時間、高圧発生器の電圧を30kV、収集装置の収集距離を25cmに調整し、2種の材料の同時静電紡糸によって、溶解特性の異なる2種の繊維糸材料が交絡した繊維膜を製造し、厚みが0.5mmになった時点で静電紡糸を停止した。
(3)取り出した膜を、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒に入れて超音波により6時間溶解、膨潤させて、含まれるPLLA材料を完全に溶解して、嵩高繊維層(A1)を製造した。
前記嵩高繊維層(A1)は、平均繊維径が3μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が350μm、引張強度が60N/cm、嵩高が420cm
3/g、柔軟度が470mNであった。
【0078】
実施例14
(1)PVDF材料を、溶液中のPVDFの濃度が20g/100mLになるように、体積比4:6のN,N−ジメチルホルムアミド/アセトンの混合溶媒に溶解させて、均一な繊維材料溶液を調製した。
(2)ステップ(1)で得た繊維材料溶液を、エレクトロスピニングシリンジに入れ、マイクロシリンジポンプの速度を6mL/時間、高圧発生器の電圧を30kV、収集装置の収集距離を25cmに調整して、静電紡糸を行って繊維糸を得、且つ繊維糸を膜状構造として収集し、膜層の厚みが約0.5mmになるまでスピニングした後静電紡糸を停止し、繊維膜を得た。
ここで得た繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が150μm、引張強度が32N/cm、嵩高が110cm
3/g、柔軟度が740mNであった。
(3)ステップ(2)で製造された繊維膜を、実施例3のステップ(3)と同様に処理して、嵩高繊維層(A2)を得た。
前記嵩高繊維層(A2)は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.6mm、平均孔径が380μm、引張強度が37N/cm、嵩高が1105cm
3/g、柔軟度が400mNであった。
【0079】
実施例15
(1)PVDF材料を、溶液中のPVDFの濃度が18g/100mLになるように、体積比4:6のN,N−ジメチルホルムアミド/アセトンの混合溶媒に溶解させて、均一な繊維材料溶液を調製した。
(2)ステップ(1)で得た繊維材料溶液を、エレクトロスピニングシリンジに入れ、収集装置の収集距離を20cmに調整した以外は、実施例14のステップ(2)と同様に静電紡糸を行って、繊維膜を得た。
ここで得た繊維膜は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が190μm、引張強度が43N/cm、嵩高が170cm
3/g、柔軟度が930mNであった。
(3)その後繊維膜の二辺を治具で挟持し、温度を95℃とした以外は、実施例4のステップ(3)と同様に延伸して、嵩高繊維層(A3)を得た。
前記嵩高繊維層(A3)は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.6mm、平均孔径が400μm、引張強度が65N/cm、嵩高が1410cm
3/g、柔軟度が400mNであった。
【0080】
実施例16
(1)ポリカーボネートポリウレタン(PCU)を、溶液中のPCUの濃度が12g/100mLになるように、混合比率(体積比)1:1のN,N−ジメチルホルムアミドとテトラヒドロフランの混合溶媒に溶解させて、均一な繊維材料溶液Aを得た。
PLLAを、溶液中のPLLAの濃度が5g/100mLになるように、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)溶液に溶解させて、均一な繊維材料溶液Bを得た。
(2)上記の2種の均一な繊維材料溶液AとBを、4つのエレクトロスピニングシリンジに入れ、そのうちの3本のシリンジにPCU溶液、1本のシリンジにPLLA溶液を入れた。PCU溶液に対応する3本の注射針及びPLLAに対応する1本の注射針を、高圧電源板上で均一に配列させ、マイクロシリンジポンプの速度を6mL/時間、高圧発生器の電圧を28kV、収集装置の収集距離を22cmに調整し、2種の材料の同時静電紡糸によって、溶解特性の異なる2種の繊維糸材料が交絡した繊維膜を製造し、厚みが0.5mmになった時点で静電紡糸を停止した。
(3)取り出した膜を、ヘキサフルオロイソプロパノール溶媒に入れて超音波により6時間溶解、膨潤させて、PCU材料が変化することなく、PLLA材料を完全に溶解し、溶媒から未溶解の材料を取り出して、嵩高繊維層(A4)を得た。
ここで得た嵩高繊維層(A4)は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.5mm、平均孔径が300μm、引張強度が25N/cm、嵩高が830cm
3/g、柔軟度が230mNであった。
【0081】
実施例17
実施例4と同様に嵩高繊維層(A5)を得た。
前記嵩高繊維層(A5)は、平均繊維径が2μm、膜厚が0.6mm、平均孔径が450μm、引張強度が50N/cm、嵩高が1100cm
3/g、柔軟度が400mNであった。
【0082】
実施例18
PVDF材料を、溶液中のPVDFの濃度が20g/100mLになるように、体積比4:6のN,N−ジメチルホルムアミド/アセトンの混合溶媒に溶解させて、均一な繊維材料溶液を調製した。
実施例14で製造された嵩高繊維層(A2)で収集ローラの表面を被覆し、前記PVDF溶液をエレクトロスピニングシリンジに入れ、マイクロシリンジポンプの速度を4mL/時間、高圧発生器の電圧を28kV、収集装置の収集距離を20cm、エレクトロスピニング針の移動速度を10cm/秒、収集ローラの回転数を4000回転/分に調整して、静電紡糸を行って、嵩高繊維層(A2)上に配向繊維層(B1)を形成することよって、嵩高繊維層(A2)と配向繊維層(B1)を含む二層繊維膜を得た。
【0083】
実施例19
(1)PVDF材料を、溶液中のPVDFの濃度が20g/100mLになるように、体積比4:6のN,N−ジメチルホルムアミド/アセトンの混合溶媒に溶解させて、均一な繊維材料溶液を調製した。
前記溶液をエレクトロスピニングシリンジに入れ、マイクロシリンジポンプの速度を4mL/時間、高圧発生器の電圧を28kV、収集装置の収集距離を20cm、エレクトロスピニング針の移動速度を10cm/秒、収集ローラの回転数を4000回転/分に調整して、静電紡糸を行った。膜層の厚みが約0.3mmになるまでスピニングした後静電紡糸を停止し、規則的に配向した単層の配向繊維層(B2)を得た。
(2)ステップ(1)の配向繊維層(B2)と実施例15で製造された嵩高繊維層(A3)の2種の繊維膜を積層した後、周波数20000Hzの超音波(福坦機械設備有限公司製、型番JT−200−S)を用いて、10cm置きに超音波スポット溶接の方法によって上記各層を接合して、嵩高繊維層(A3)と配向繊維層(B2)を含む二層繊維膜を得た。
【0084】
実施例20
<表面止血層を含む>
塩化ナトリウム0.9g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物1.79gを水溶液70mLに溶解させ、充分に溶解した後、濃度が36体積%の酢酸溶液1.5mLとエタノール20mLを加え均一に攪拌して、溶液Aを得た。
酸化セルロース2gとII型コラーゲン2gを加熱して上記溶液Aに溶解させ、且つそれを冷却して、溶液Bを得た。
凍結乾燥したトロンビン凍結乾燥粉末を濃度350単位/mLにして、トロンビン溶液10mLを上記溶液Bに加えて、溶液Cを得た。
実施例13、14、15、16、17で製造された嵩高繊維層(A1〜5)を上記溶液Cに10分間浸漬させ、十分に湿潤したシートを一晩凍結乾燥した。所望の規格に裁断して、止血機能成分である酸化セルロースを含有する骨盤底修復シートとテンションフリースリングを得た。
【0085】
<組織修復用インプラントシートの骨盤底修復への使用:実施例21〜22>
【0086】
実施例21
現在臨床で使用されているポリプロピレンメッシュ(3DMAX
TM Mesh、中山大学付属第二医院からのサンプル)を対照群(I群)として、実施例13のステップ(2)で製造されたエレクトロスピニング膜を剪断した繊維膜を対照群(II群)、実施例13で製造されたPVDF嵩高繊維層(A1)を裁断したインプラントシート1(III 群)、実施例14で製造されたPVDF嵩高繊維層(A2)を裁断したインプラントシート2(IV群)、実施例15で製造されたPVDF嵩高繊維層(A3)を裁断したインプラントシート3(V群)、実施例16で製造されたPCU嵩高繊維層(A4)を裁断したインプラントシート4(VI群)、実施例17で製造されたPLLA嵩高繊維層(A5)を裁断したインプラントシート5(VII 群)を実験群として、ミニブタでの実験を行った。上述の材料をすべて2cm×2cmの大きさのシートに裁断した。20kg〜25kgで、健康な性成熟した雌性ミニブタを28頭選択して、1群当たり4頭として、ランダムで7群に分けた。
ミニブタに全身麻酔をかけ、仰臥位で固定した。下腹部の腹壁を介して進入し、膀胱、子宮及び腟上段を露出させた。シートをそれぞれ膀胱膣隙間に入れて、糸で固定した。術後は動物を通常飼育及び観察した。実験動物はすべて観察期間内で状況が良好で、切開部分が良好に癒合し、インプラントの突出、露出等が発生せず、手術部位には発赤と腫脹がなかった。術後の摂食と精神状態が正常であり、十分な運動スペースを提供して、全部サンプル採取まで生存した。
術後4週間で、1群当たりに2匹(頭)の動物を死亡させ、修復パッチを含む膀胱膣隙組織のサンプルを切り取った。インプラント材料を手で触って柔軟度を調べたところ、比較群のI群のポリプロピレンメッシュは明らかに硬くなり、異物感があった。比較群のII群の柔軟度はI群の次に硬く、実験群のパッチの柔軟度はすべて大幅に改善され、具体的には、IV、V、VII 群が最も柔軟度に優れ、靭性を有し、自家組織に近い。
材料内部の組織内殖状況及び周辺の新生組織の成長状況を比較して、マクロに観察したところ、実験群(III〜VII)のシートの組織内殖状況及び周辺新生組織との結合堅牢度は、I群のポリプロピレンメッシュ及び比較群のII群のシートよりも優れ、具体的には、実験群のシートの表面はすべて一層の新生上皮組織に被覆され、血管形成程度が高く、シートと新生組織を剥離しにくい。IV群のPVDF材料をインプラントしてから4週間後の解剖効果は、
図20に示すように、インプラント部位の新生組織と周囲組織には差がが見られない。I群のポリプロピレンメッシュ及び比較群のII群のシートの表面にも一層の新生組織が被覆されているが、新生組織における毛細血管が非常に少ない。そして、I群のポリプロピレンメッシュはパッチと剥離しやすく、
図21に示すように、材料は新生組織と剥離した後も硬いメッシュのままであり、新生組織が内殖していない。上述のことから、実験群は一層優れた細胞・組織の内殖効果を有し、新生組織との適合性及び結合力が比較的強いことが分かった。
病理解析の結果、III 〜VII 群のインプラントシートの表面と内部のいずれにも線維芽細胞とコラーゲン線維が大量に増殖し、パッチの内部には多くの毛細血管(3〜5本/HPF)があった。中でも、V群のパッチの内部には大量の毛細血管(5〜10本/HPF)があった。新生組織は既にシート内部に内殖し、血管の形成度が高く、且つ内殖速度が速いことから、高い嵩高は、細胞の遊走・繁殖及び組織の迅速な内殖に一層有利であることが分かった。II群の繊維シートの表面には多くの線維芽細胞とコラーゲン線維があり、パッチの内部には少量の線維芽細胞及びコラーゲン線維の増殖、少数のリンパ球の浸潤(<5個/HPF)、少量の毛細血管の増殖(2〜3本/HPF)が見られたことから、新生組織がシート内部に内殖するが、内殖速度が遅く、また、微弱な免疫・炎症反応が発生したことが分かる。I群のポリプロピレン群のメッシュの周辺には大量の線維芽細胞とコラーゲン、少量の毛細血管(<2本/HPF)、少量の異物巨細胞(≦3個/HPF)があったことから、新生組織はシートと一体化して成長できず、修復が遅く、また、異物拒絶反応が発生したことを分かる。
術後12週間まで引き続き観察して、その間にI群のポリプロピレンメッシュ材料をインプラントしたミニブタは、いらいらして、舎内の壁と欄干を擦り、尻尾を噛む動きが見られ、また、精神状態が悪かった。ほかの実験ミニブタは、動きが正常であった。なお、広い飼育場で養殖した。
術後12週間で、1群あたりに2匹の動物を死亡させ、骨盤底修復インプラントを含む腟及び膀胱のサンプルを切り取った。手で触ったところ、I群のポリプロピレンメッシュ材料は術後4週間と比べて、相当な硬度を保持して、且つ明らかに異物感があった。II群の繊維シートは比較的柔らかいが、インプラント部位と周囲組織を触ったところ、明確な差異を感じた。実験群III 〜VII のインプラントシートの柔軟度はほぼ自家組織に近く、且つインプラント材料部位と周囲組織との間には明らかな手触りの差異がほとんどかかった。中でも、V群の材料の手触りはほぼ自家組織と同じであった。
目視で観察したところ、III 〜VII 群のインプラントシート材料と成長した組織は一体化して、区別も剥離もできず、全体として人体組織に近く、血管がはっきり見える。顕微鏡で観察した結果、III 〜VII 群のインプラントシートのエッジは、コラーゲン線維、繊維芽細胞と密着に結合し、新生組織とシート材料を区別できず、内部には大量のコラーゲン線維が見られたことから、新生組織は完全にシートと一体化として成長し、再建・修復が実現されたことが分かった。病理解析の結果、材料表面と内部の両方には大量の線維芽細胞及びコラーゲンが見られ、異物巨細胞及びリンパ球が見られず、材料と新生組織は一体化した、区別できなかった。上述のことから、高い嵩高は細胞の内殖と組織再生の誘導に一層有利であり、適切な柔軟度はインプラント部位の新生組織と周囲組織の密着に一層有利であり、明らかに、新生組織はインビボで異物感がなく、或いは新生又は自家組織を摩擦して損傷することはなかった。
目視で観察したところ、II群の繊維シートは新生組織と剥離でき、表面にも多くの毛細血管が見られた。顕微鏡で観察した結果、II群の繊維シートのエッジとコラーゲン線維、繊維芽細胞との結合には明らかな境界があり、新生組織とシート材料を区別しやすく、表面に大量のコラーゲン線維があり、毛細血管が豊富であり、内部には依然として材料が見られた。病理解析の結果、材料の表面には多くの線維芽細胞及び大量の毛細血管が成長し(5〜10本/HPF)、内部には少量の毛細血管(≦3本/HPF)、異物巨細胞1個/HPFが見られたことから、新生組織はシート内部に内殖しているが、新生組織が比較的少なく、且つ微弱な異物反応があった。I群のポリプロピレンメッシュでは、修復部位と周囲組織はレベル4(Nari癒着評価法1)の癒着が発生し、材料と成長した組織を剥離しやすく、ポリプロピレン材料がはっきり見え、材料内部に新生組織の内殖、貫通がなかった。病理解析の結果、材料周辺にのみ少量の線維芽細胞及びコラーゲンが形成され、表面に多くの毛細血管の増殖(3〜5本/HPF)、大量の異物巨細胞及びリンパ球の浸潤が見られ、異物反応と免疫拒絶がひどいことから、新生組織はシートと一体化して成長できず、修復効果が悪かった。また、観察過程での実験ブタがいらいらしていた原因は、異物感及び組織感染反応が強いためと推測される。
【0087】
実施例22
一般的な静電紡糸により得た非配向繊維層(C)と実施例15で得た嵩高繊維層(A3)膜を、実施例19のステップ(2)の方法によって二層繊維膜(単に、不規則的嵩高膜という)を製造した。
上記不規則的嵩高膜を対照群、実施例19の二層繊維膜(単に、規則的嵩高膜という)を実験群として、動物実験を行って、規則的構造による効果を検証した。
実験動物として、雌雄を問わず、体重が2.0〜2.5kg、生後約6〜12ヶ月齢である健康なニュージーランドウサギ12羽を選択した。実験ウサギを、1群あたりに4羽として、ランダムで3群に分けた。実験群と対照群のいずれにおいても、1cm×4cmの長尺状に裁断して、それぞれウサギ腹部の皮下にインプラントして、術後2週間で、3ヶ月で材料表面の組織成長の状況を観察した。
インプラント方法としては、カイウサギの腹部を剃毛し、消毒し、中線に沿って腹部の皮膚を切開し、皮下筋膜と筋肉を鈍的分離し、適切な材料インプラント範囲を露出させた。皮下と筋膜の層間の左側に1cm×4cmの実験群サンプルを3本インプラントし、右側に1cm×4cmの対照群サンプルを3本インプラントした。材料を4号糸で対応する位置に固定して、それぞれ、皮下筋膜層と皮膚層を縫合した。
2週間後に、実験群と対照群の両方の嵩高面は薄い繊維で被覆されて、インプラント部位の毛細血管が豊富であった。一部の材料を取り出して染色した後観察したところ、実験群の配向層の上に明らかな細胞の成長と遊走配向が見られるのに対して、対照群の非配向層での細胞の成長が乱れていた。三ヶ月後で、2群のサンプルを一部取り出して観察したところ、実験群の配向繊維層の上には明らかな繊維組織の配向模様があるのに対して、対照群の非配向繊維層にはなかった。上述のことから、配向繊維層(B)は細胞の遊走と組織への追従成長を誘導することに一層有利であり、修復組織はより天然の筋膜組織に近い。
【0088】
<癒着防止組織修復膜の製造:実施例23〜26>
実施例1〜3で製造される組織修復用繊維膜を癒着防止組織修復膜の嵩高繊維層(A’1〜3)とした。
【0089】
実施例23
(1)ポリプロピレン(PP)の編みメッシュを1枚選択して、濃度が8g/100mLのPVDF/N,N−ジメチルホルムアミドとアセトン溶液に浸漬し、10分間浸漬した後メッシュを取り出して、60℃の送風乾燥室にて2時間乾燥して、PVDFで薄く被覆された編みメッシュ層(C’)を得た。
(2)ステップ(1)で得た編みメッシュ層(C’)を、実施例3で得た2枚の組織修復用繊維膜(嵩高繊維層(A’3))の間に介在させて、共に超音波溶接機に入れ、溶接圧力が120N、周波数が40KHzの条件下で8秒間の超音波溶接を行って、組織修復膜基材を1枚得た。
【0090】
実施例24
(1)ポリプロピレン(PP)の編みメッシュを1枚選択して、濃度が3g/100mLのPCU/N,N−ジメチルホルムアミドとテトラヒドロフラン溶液に浸漬し、10分間浸漬した後メッシュを取り出して、50℃の送風乾燥室にて2時間乾燥して、PCUで薄く被覆された編みメッシュ層(C’)を得た。
(2)ステップ(1)で得た編みメッシュ層(C’)を、実施例1で得た2枚の組織修復用繊維膜(嵩高繊維層(A’1))の間に介在させて、共に超音波溶接機に入れ、溶接圧力が120N、周波数が40KHzの条件下で7秒間の超音波溶接を行って、組織修復膜基材を1枚得た。
【0091】
実施例25
(1)分子量が60万で濃度が3%(w/v)のキトサンを、濃度(酢酸の質量含有率)が5%の酢酸水溶液に溶解させて、浅黄色溶液を得た。
(2)上記浅黄色溶液をスプレー装置に入れてスプレー装置を密封し、外部に空気圧縮装置を接続し、KZ−1型中空円錐状ノズルを取り付け、吐出量を0.02ml/min、スプレー速度を10cm/s、スプレー間隔を15mmに調整し、設置完了すると、スプレーの準備ができた。
(3)実施例1〜3で得た組織修復用繊維膜(嵩高繊維層(A’1〜3))及び実施例23〜24で得たサンプルを基材として、その嵩高繊維層のいずれか一方の外側面にスプレーした。スプレー装置を起動させて、ステップ(2)で設定されたパラメータで3〜5回スプレーした後、サンプルを35℃の送風乾燥室に入れて、24h乾燥した。
(4)送風乾燥室から取り出して、75%のエタノールで浸潤した後、水中に入れて24h浸漬した。
(5)乾燥、裁断、梱包、滅菌して、中間層を含むのと含まない癒着防止組織修復シートを得た。
【0092】
実施例26
(1)分子量が70万で濃度が5%(w/v)のカルボキシメチルキトサンを、濃度(酢酸の質量含有率)が3%の酢酸水溶液に溶解させて、一定の粘稠性を有する溶液を得た。
(2)上記溶液をスプレー装置に入れてスプレー装置を密封し、外部に空気圧縮装置を接続し、汎用のCC型扇形ノズルを取り付け、吐出量を0.01ml/min、スプレー速度を15cm/s、スプレー間隔を12mmに調整し、設置完了すると、スプレーの準備ができた。
(3)実施例1〜3で得た組織修復用繊維膜(嵩高繊維層(A’1〜3))及び実施例23〜24で得たサンプルを基材として、その嵩高繊維層のいずれか一方の外側面にスプレーする。スプレー装置を起動させ、ステップ(2)で設定されたパラメータで5〜7回スプレーした後、サンプルを40℃の送風乾燥室に入れて、24h乾燥した。
(4)送風乾燥室から取り出して、95%のエタノールで浸潤した後、水中に入れて24h浸漬した。
(5)乾燥、裁断、梱包、滅菌して、中間層を含むのと含まない癒着防止組織修復シートを得た。
【0093】
<癒着防止組織修復膜の動物実験>
【0094】
実施例27
実施例25で製造された癒着防止組織修復シートから4群の材料を選択し、各群の材料をそれぞれ3.5cm×6cmのシートに裁断し、ニュージーランドウサギを用いて腹壁全層欠損修復動物実験を行った。
4群の材料はそれぞれ以下のとおりである。
1#材料:実施例1と実施例25を組み合せて製造された癒着防止組織修復シート。
2#材料:実施例3と実施例25を組み合せて製造された癒着防止組織修復シート。
3#材料:実施例23と実施例25を組み合せて製造された癒着防止組織修復シート。
4#材料:実施例24と実施例25を組み合せて製造された癒着防止組織修復シート。
体重2.5〜2.8kg、生後6〜12ヶ月齢のニュージーランドウサギを、合計20羽用いた。実験ウサギをランダムでそれぞれ1#材料群、2#材料群、3#材料群及び4#材料群の4群に分けて、各群の実験動物を5匹(羽)とした。実験動物に麻酔をかけ、剃毛し、仰臥位で木の板に固定した。消毒してシーツを敷いた後、腹部の真ん中で、4#外科用メスでウサギの腹部の白線に沿って皮膚を約8cm切開し、腹壁筋肉層を露出させて、大きさ2cm×5cmの腹壁全層(腹膜、筋肉、筋膜組織を含む)を切除した。4/0糸で、1#材料、2#材料、3#材料及び4#材料それぞれと対応する各群のニュージーランドウサギの腹壁の切開部分の周囲筋肉を断続的に縫合した。4/0糸で皮膚を断続的に縫合した。
術後は3日間に亘り、すべての実験動物にペニシリンを100万IU/日で筋肉内注射し、通常どおり食物と水を与え、ケージ内で飼育した。観察期間内で、4群の動物はすべて正常に食物と水を摂取し、切開部分が良好に癒合し、手術部位の感染及び腹部の隆起が見られず、すべての実験動物は正常に大便を排泄し、腸閉塞等が発生することはなかった。また、観察期間内で、実験動物が死亡することはなかった。一ヶ月後に解剖し、
図22に実施例1と実施例25を組み合せて製造された癒着防止組織修復シート(1#材料)の動物解剖写真を示す。
図23に実施例23と実施例25を組み合せて製造された癒着防止組織修復シート(3#材料)の動物解剖写真を示す。4群の材料の解剖・観察結果を表2に示す。
【0095】
【表2】
実験結果から、上述の癒着防止組織修復シートはいずれも効果的に組織成長を促進でき、表層にキトサンを塗布する方法では、効果的にシートの癒着防止効果を実現でき、超音波でPP材料を溶接する方法では、シートの強度を大幅に向上させることができることが分かった。