特許第6140423号(P6140423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6140423
(24)【登録日】2017年5月12日
(45)【発行日】2017年5月31日
(54)【発明の名称】脱硫スラグ含有金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 1/02 20060101AFI20170522BHJP
【FI】
   C21C1/02 L
   C21C1/02 103
   C21C1/02 108
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-240886(P2012-240886)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-91837(P2014-91837A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147500
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 雅啓
(74)【代理人】
【識別番号】100166235
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】多田 信太郎
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−302961(JP,A)
【文献】 特開2008−190015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 1/00− 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cを2〜5質量%含有し且つ1250℃以上の温度で攪拌羽根によって攪拌される含クロム鋼の溶銑に、CaO粉粒体と、前記CaO粉粒体に対して2質量%以上であり且つ金属Alを85質量%以上の割合で含むアルミニウム混合物とからなる脱硫剤を加えて、前記溶銑を脱硫処理し、
脱硫処理されることによって前記溶銑から生じる脱硫スラグから、含有金属を分離する脱硫スラグ含有金属の回収方法。
【請求項2】
前記溶銑は、Crを10〜30質量%で含有する請求項1に記載の脱硫スラグ含有金属の回収方法。
【請求項3】
固化した前記脱硫スラグに対して、破砕後、比重分離及び磁力分離の少なくとも1つを実施することによって、含有金属を分離する請求項1または2に記載の脱硫スラグ含有金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、含クロム鋼の溶銑を脱硫処理して生じる脱硫スラグにおける含有金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼、鉄等の鋼類の製造工程では、含有していると製造完了後の製品を脆化させる硫黄分を取り除くために、原料を溶解して生成された溶銑に対して硫黄分を除去する脱硫処理が行われる。脱硫処理では、例えばステンレス鋼の場合、電気炉で製造された後に受銑鍋に移された溶銑に脱硫剤が添加されることによって、脱硫剤と溶銑中の硫黄とを反応させ硫黄分を脱硫スラグとして分離させる。このとき、受銑鍋内の溶銑に浸漬させたインペラ(攪拌羽根)で溶銑を機械攪拌しつつ溶銑に脱硫剤を添加することによって、溶銑の脱硫反応を促進させる方法が採用されている。そして、この機械攪拌式の脱硫処理方法は、KR法と呼ばれる。
【0003】
KR法では、安価で取り扱いが容易なCaO(生石灰、酸化カルシウム)を主成分とする脱硫剤が使用される。CaOによる溶銑の脱硫反応は、一般的に下記の式で表される。
[S]+(CaO)→(CaS)+[O]
つまり、溶銑中のS(硫黄)と、CaOとが反応して、CaS(硫化カルシウム)が脱硫スラグとして生成されると共に溶銑中にO(酸素)が生成される。なお、[S]のように[ ]付きで示される物質は、溶銑中にある物質のことであり、(CaS)のように( )付きで示される物質は、スラグ中にある物質のことである。
【0004】
しかしながら、溶銑に添加された脱硫剤に含まれるCaOの粉体は、インペラにより溶銑と共に強制的に攪拌されることによって凝集し、その際に溶銑を取り込んでしまう。溶銑を含んだ状態で凝集したCaOは、脱硫反応をおこすと、溶銑を含んだままでスラグ化し、既に生成された脱硫スラグと一体になる。その結果、脱硫スラグが固化すると、溶銑が固化したメタルが懸濁状態で脱硫スラグ中含まれるようになるため、脱硫スラグからメタルの分離が困難となり、メタルロスが発生する。特に、価値の高いCr(クロム)を含有する鋼の溶銑から生じるメタルが、脱硫スラグから効率的に分離できない場合、コストの上昇を招くという問題がある。このため、脱硫処理において、CaOの凝集を抑える技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、機械攪拌式脱硫装置で溶銑を脱硫する技術が記載されている。特許文献1では、粒径150μm以下の微粉が90質量%以上であるCaO粉体100質量部に対して、Al(アルミナ)を50質量%以下で含有するアルミナ−金属Al(アルミニウム)混合体を5〜20質量部添加して形成された脱硫剤が用いられている。この脱硫剤を用いた脱硫処理では、CaOを上記のような粉体とすることによって、反応界面積を増大させて、脱硫反応を促進し、さらに、同時に添加されるAlによってCaOの滓化を促進して脱硫反応を促進し、脱硫率を向上させている。一方、微粉にすることによって凝集しやすくなったCaOは、アルミナ−金属Al混合体によって、凝集が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−50659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載される脱硫剤のように、アルミナ−金属Al混合体を添加した場合、脱硫処理時にCaOの凝集をある程度抑えることは可能であるが、アルミナを含有しているためCaOの滓化が促進される。このため、滓化が促進されたCaOを含む脱硫スラグと溶銑とがインペラにより攪拌され、この脱硫スラグが冷却固化されると、脱硫スラグ中には、網目状に分散した微細なメタル粒子が含まれるという問題が発生する。このように脱硫スラグ中に分散したメタル粒子は、固化後の脱硫スラグに対して比重分離、磁力分離、又はその両方の手段を用いた分離を試みても、脱硫スラグからの分離が困難である。
【0008】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、機械攪拌を伴う含クロム鋼の溶銑の脱硫処理で生じる脱硫スラグに含まれる金属(メタル)の除去を容易にする脱硫スラグ含有金属の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、この発明に係る脱硫スラグ含有金属の回収方法は、Cを2〜5質量%含有し且つ1250℃以上の温度で攪拌羽根によって攪拌される含クロム鋼の溶銑に、CaO粉粒体と、CaO粉粒体に対して2質量%以上であり且つ金属Alを85質量%以上の割合で含むアルミニウム混合物とからなる脱硫剤を加えて、溶銑を脱硫処理し、脱硫処理されることによって溶銑から生じる脱硫スラグから、含有金属を分離するものである。
溶銑は、Crを10〜30質量%で含有していてもよい。
固化した脱硫スラグに対して、破砕後、比重分離及び磁力分離の少なくとも1つを実施することによって、含有金属を分離してもよい。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係る脱硫スラグ含有金属の回収方法によれば、機械攪拌を伴う含クロム鋼の溶銑の脱硫処理で生じる脱硫スラグに含まれる金属の除去を容易にすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の実施の形態に係る脱硫スラグ含有金属の回収方法の流れを示す模式図である。
図2】この発明の実施の形態に係る脱硫スラグ含有金属の回収方法における脱硫処理時の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態
以下、この発明の実施の形態に係る脱硫スラグ含有金属の回収方法について添付図面に基づいて説明する。なお、実施の形態の脱硫スラグは、ステンレス鋼の製鋼時の脱硫処理で発生するものである。
【0013】
まず、図1を参照すると、含クロム鋼であるステンレス鋼の製造は、溶解工程(A)、一次精錬工程(B)、二次精錬工程(C)、及び鋳造・圧延工程(D)がこの順で実施されて行われる。
溶解工程(A)では、ステンレス製鋼用の原料となるスクラップや合金を電気炉1で溶解してステンレス鋼溶銑2を生成し、生成したステンレス鋼溶銑2が受銑鍋3を介して、精錬炉である転炉4に注銑される。さらに、一次精錬工程(B)では、転炉4内のステンレス鋼溶銑2にノズル4aを介して酸素を吹精することによって含有されている炭素を除去する粗脱炭処理が行われ、それによりステンレス溶鋼と炭素酸化物及び不純物を含むスラグとが生成する。さらに、一次精錬工程(B)で生成したステンレス溶鋼は、溶鋼鍋5に出鋼されて二次精錬工程(C)に移される。
【0014】
二次精錬工程(C)では、なおも炭素等を含むステンレス溶鋼が溶鋼鍋5と共に真空精錬炉である真空脱ガス装置(VOD)6に入れられ、仕上げ脱炭処理及び最終的な成分調整が行われる。そして、これらの処理が行われることによって、所望の成分構成のステンレス溶鋼が生成する。鋳造・圧延工程(D)では、真空脱ガス装置6から溶鋼鍋5を取り出して連続鋳造装置(CC)7にセットされる。溶鋼鍋5内のステンレス溶鋼は、連続鋳造装置7に注ぎ込まれ、さらに連続鋳造装置7が備える鋳型によって、例えばスラブ状のステンレス鋼片8に鋳造される。そして、鋳造されたステンレス鋼片8は、熱間圧延又は冷間圧延され熱間圧延鋼帯又は冷間圧延鋼帯とされる。
【0015】
また、電気炉1から受銑鍋3に移されたステンレス鋼溶銑2には、転炉4に注銑される前に脱硫処理A1が実施される。なお、含クロム鋼であるステンレス鋼を形成する溶銑2では、Cr(クロム)の含有率が10質量%〜30質量%となっている。
【0016】
図2をあわせて参照すると、脱硫処理A1では、受銑鍋3内の溶銑2の中に、攪拌装置10の攪拌羽根であるインペラ11が浸漬され、受銑鍋3内の溶銑2の表面(浴面)の上方に、脱硫剤100を浴面に放出するための脱硫剤投入装置13の放出ノズル14が配置される。攪拌装置10は、インペラ11と、インペラ11に連結された電動機12とを備えており、電動機12によってインペラ11を回転駆動する。
そして、攪拌装置10において電動機12を作動させてインペラ11を回転駆動し、インペラ11によって受銑鍋3内の溶銑2を攪拌しつつ、脱硫剤投入装置13を稼動させ、攪拌される溶銑2の浴面上に脱硫剤100を放出ノズル14から散布させる。脱硫剤100は、溶銑2と脱硫反応をおこして、溶銑2中に含有される硫黄分(S)を脱硫スラグとして取り出し、取り出された硫黄分は、溶銑2の浴面上に浮遊する脱硫スラグ2aに含まれる。なお、この脱硫スラグ2aは、脱硫反応での生成物によるスラグ、脱硫剤100、及び電気炉1での溶銑2の生成時に発生したスラグを含んでいる。そして、脱硫剤100は、溶銑2と共に攪拌・混合されることによって、脱硫反応が促進される。
【0017】
このとき、脱硫処理中の溶銑2の温度は、1250℃〜1400℃とされる。
これは、電気炉1から出湯された溶銑2が、後の脱硫処理工程A1及び一次精錬工程(B)へ搬送されるまでの間に凝固しないために必要な温度が1250℃であることと、電気炉1での投入溶解電力を最小限に抑えるために1400℃以下とすることとが望ましいためである。しかしながら、融点が高い溶銑成分の場合は脱硫処理中の溶銑2の温度は1400℃を超えてもよい。
また、脱硫処理中の溶銑2の温度が1250℃を下回ると、脱硫処理中に溶銑2の凝固が進行する恐れがあり、操業が困難となる。
よって、脱硫処理A1は、脱硫処理中の溶銑2の温度が1250℃から1400℃である状態で実施される。
【0018】
そして、脱硫処理中に溶銑2が十分に溶解されていないと、その流動性が低下するため、溶銑2と脱硫剤100との反応の攪拌による促進効果が低下する。このため、1250℃〜1400℃で十分に溶解するように溶銑2の融点が制御され、この融点の制御は、溶銑2中のC(炭素)の含有量を調節することによって行われる。なお、溶銑2の融点は、Cの含有量が約5%までは増加するほど低下し、約5%を超えると上昇する。
しかしながら、Cの含有量が多くなると、一次精錬工程(B)及び二次精錬工程(C)での脱炭処理量が多くなり製造効率が低下するため、溶銑2中のCの含有率は、5質量%を上限とする。一方、溶銑2の融点を、1250℃〜1400℃で溶銑2が十分に溶解するように低下させるためには、溶銑2中のCの含有率は、2質量%以上必要となる。さらに、溶銑2中のCの含有率が低くなると、溶銑2中の平衡酸素濃度が増加するため後述する脱硫剤100に含有される金属Al(アルミニウム)の脱硫処理に必要な量が大幅に増加し、経済的に不効率となる。このような理由によっても、溶銑2中のCの含有率が2質量%以上必要となる。つまり、溶銑2におけるCの含有率は、2質量%から5質量%の間で設定される。
【0019】
また、脱硫剤100は、CaO粉粒体を主成分とし、さらにアルミニウム混合物を脱酸剤として含む。
CaO粉粒体は、CaO粒子表面の脱硫反応面積の確保のため5mm以下の篩い目により分級したもの(粒径≦5mm)が好ましい。
アルミニウム混合物は、金属Alを純度85質量%以上の割合で含むものである。アルミニウム混合物には、アルミニウム缶を裁断・粉砕等の加工をしてペレット状にしたものや、その他のアルミニウム製品を裁断・粉砕等の加工をしてペレット状又は粉粒状にしたものが用いられる。そして、アルミニウム混合物が金属Al以外に含むものは、上記のアルミニウム缶やアルミニウム製品から生じる不純物がほとんどであり、アルミナ(Al:酸化アルミニウム)をほとんど含まない。つまり、アルミニウム混合物には、アルミナは添加されていない。アルミニウム混合物は、アルミナとして、ペレット状又は粉粒状の金属Alの表面が大気中で自然酸化して生じる酸化アルミニウムや、金属Al片又は金属Al粉粒体と不純物とが自然に反応して生じる酸化アルミニウムを含む程度である。このため、金属Alの含有率が35質量%程度であり、その他の65質量%のほとんどがアルミナであるアルミ灰などは、アルミナの濃度が高いためアルミニウム混合物として用いられない。なお、アルミ灰は、アルミニウムの製造における精錬時に発生するスラグ等によって構成される。
【0020】
脱硫剤100では、上述のようなペレット状又は粉粒状の金属Alからなるアルミニウム混合物が、CaO粉粒体の2質量%から10質量%の間の分量でCaO粉粒体に添加される。
受銑鍋3内では、溶銑2に含有されるS(硫黄)が、脱硫剤100に含有されるCaO及び金属Alと反応して、CaS(硫化カルシウム)となり、CaSは、溶銑2の浴面上に分離して浮遊し、脱硫スラグ2aを形成する。これにより、溶銑2から硫黄成分が除去される、つまり脱硫される。このとき、受銑鍋3内では、下記の式(1)で示される脱硫反応がおこる。
3[S]+3(CaO)+2(Al)→3(CaS)+(Al)・・・・・(1)
なお、上記の脱硫反応で生じるアルミナも脱硫スラグ2aを形成する。さらに、未反応のCaO及びアルミニウム混合物も脱硫スラグ2aを形成する。
【0021】
受銑鍋3内では、インペラ11によって溶銑2が脱硫剤100と共に攪拌・混合されることによって、脱硫剤100のCaOが溶銑2中に広く分散されて溶銑2中のSとの接触機会を増加させるため、脱硫反応が促進される。さらに、脱酸性を有する金属Alが、CaOから分離した酸素成分を溶銑2の外に除去するため、式(1)の反応が右寄りなる、つまりCaSを生成するように促進されるため、脱硫反応が促進される。
【0022】
なお、溶銑2に添加される脱硫剤100において、CaOに対するアルミニウム混合物の添加割合が、2質量%を下回ると、式(1)で使用するAlが不足するため、所定の時間の間での脱硫処理をした場合の脱硫効率が著しく低下する。一方、脱硫剤100におけるCaOに対するアルミニウム混合物の添加割合が、10質量%を上回っても、脱硫処理すべき溶銑2におけるSの含有率は変わらないため、脱硫効率は、添加割合が10質量%の場合とほとんどかわらなくなる。このため、CaOに対するアルミニウム混合物の添加割合は、2質量%から10質量%の間で設定される。
【0023】
また、脱硫スラグとして生成されたアルミナは、CaO−Al系固溶体の相をCaO粒子の表面上に形成する場合があるが、インペラ11によって溶銑2及び脱硫剤100が攪拌・混合されてCaOによる脱硫反応が促進されるため、CaO−Al系固溶体の相を形成したとしてもその量が少なく、この相がCaOの滓化に与える影響は少ない。
よって、脱硫剤100に含有されるCaOは、その表面においてCaO−Al系の固溶体相の生成が抑制されるため、CaO表層での脱硫反応が促進されると共に、その反応が金属Alによって促進されるため、溶銑2からSを効率的に除去する。
【0024】
また、アルミナは、脱硫剤100中のCaO及び溶銑2中のSi(ケイ素)と共に、CaO−SiO−Al系固溶体を脱硫スラグ2a中に形成するが、脱硫剤100にアルミナが多く含まれると、CaO−SiO−Al系固溶体の生成量も多くなる。低融点のCaO−SiO−Al系固溶体は、脱硫処理時の溶銑2の温度で溶解するため、脱硫スラグ2aが溶解し、インペラ11によって攪拌される溶銑2と脱硫スラグ2aとを密に混合させやすくする。これにより、脱硫スラグ2a中では、溶銑2が微粒子状態のメタル粒子(金属粒子)を形成して網目状に分散されて含まれる。
【0025】
一方、本実施の形態の脱硫剤100ではアルミナをほとんど含んでいないため、脱硫スラグ2a中には、脱硫反応によって生じたアルミナが含まれる程度であり、CaO−SiO−Al系固溶体の生成量は少量である。さらに、融点が2572℃であるCaOは、脱硫処理中の脱硫スラグ2a内で、脱硫スラグ2aへの脱硫剤100の添加時と同様の状態である紛粒状を維持し、凝集する。また、融点が2400℃であるCaSは、脱硫処理中の脱硫スラグ2a内で固化して粒状となり、CaOと共に凝集する。
【0026】
このため、脱硫処理中に溶解する脱硫スラグ2aの量は低く抑えられ、インペラ11によって攪拌されても溶銑2と脱硫スラグ2aとが密に混合するのが抑制される。そして、インペラ11によって脱硫スラグ2aと共に攪拌されて脱硫スラグ2a内に混入した溶銑2は、冷却されて固化すると、凝集した粉粒状のCaO及び粒状のCaSの間で、球状のメタル粒子を形成する。さらに、それらの間に球状のメタル粒子を含んで凝集したCaO粒子及びCaS粒子の凝集体は、各粒子間、及びメタル粒子との間の間隙が大きいうえ結合面積が小さいため、互いの結合力が弱く脆い構造を有している。また、これらの凝集体を、溶銑2の生成時に生じた不純物及び脱硫剤100のアルミニウム化合物の不純物と共に含む脱硫スラグ2aも、冷却されて固化すると脆い構造を有する。
【0027】
よって、本実施の形態では、脱硫剤100中のアルミニウム化合物における金属Alの純度を高くすると共にアルミナをほとんど含まないようにすることによって、脱硫効率が向上すると共に、固化後の脱硫スラグ2a中において、凝集したCaO粒子及びCaS粒子の間に溶銑2のメタル粒子が球形状を有して粒状に形成される。
【0028】
また、溶銑2を攪拌しつつ脱硫剤100を添加して所定の時間経過すると脱硫処理を完了し、受銑鍋3から脱硫スラグ2aが除去される。そして、脱硫スラグ2a除去後の溶銑2は、受銑鍋3から転炉4に移される。
除去された脱硫スラグ2aは、冷却固化された後、ロッドミルなどを用いて破砕処理A2される。このとき、固化した脱硫スラグ2a内における、互いに脆く結合しているCaO粒子、CaS粒子及びメタル粒子の凝集体は、粉砕を受けることによって、各々の結合が切断されてバラバラになり、球状のメタル粒子が、CaO粒子及びCaS粒子から分離される。
【0029】
粉砕処理を受けた脱硫スラグ2aは、篩い分級処理A3され、篩いによって所定の大きさ以下のものが選り分けられる、つまり分級される。篩いを通過しなかった脱硫スラグ2aは、脱硫スラグ2aに含有されるメタル粒子の塊からなる地金2bとして回収され、篩いを通過した比較的細かい粒子からなる脱硫スラグ2aは、比重選別処理A4を受ける。
比重選別処理A4では、脱硫スラグ2aに対して、比重選別機によって鉱物の比重の差異を利用した選別が行われ、比重が大きいものが脱硫スラグ2aに含有するメタル粒子からなる地金2bとして回収される。比重選別処理A4において比重が小さかった脱硫スラグ2aは、磁力選別処理A5を受ける。磁力選別処理A5では、脱硫スラグ2aに対して、磁選機によって有磁物が脱硫スラグ2aに含有する地金2bとして回収される。そして、磁力選別処理A5を受けた後の脱硫スラグ2aは、地金2bの回収が完了したスラグ2cとして処理される。
【0030】
(実施例)
以下、受銑鍋3内のステンレス鋼溶銑に対して、実施の形態に係る脱硫スラグ含有金属の回収方法によって脱硫スラグから地金を回収する2つの実施例と、アルミニウム混合物における金属Alの純度が85質量%を下回る脱硫剤を使用して脱硫処理した脱硫スラグから地金を回収する比較例とを検証する。なお、脱硫剤の主成分であるCaOは、2mmの篩い目で分級したCaO粉粒体(粒径≦2mm)を用いた。
また、脱硫処理される溶銑は、Crを10〜30質量%で含有し、Cを2〜5質量%で含有する。
【0031】
以下の表1に示すように、実施例及び比較例では、電気炉1において1チャージで生成された溶銑(重量80トン)を受銑鍋3に移し、最大回転数120rpm(1分間当りの回転数)の攪拌装置10によってインペラ11を回転駆動させ、攪拌しつつ溶銑に脱硫剤を加えて脱硫処理をした。さらに、脱硫処理時間、つまりインペラ11による溶銑の攪拌時間を10分間とし、この10分間では溶銑の温度は1250℃〜1400℃の間を維持した。つまり、脱硫処理温度が1250℃〜1400℃の間であった。
【0032】
【表1】
【0033】
また、表2には、実施例及び比較例で使用した脱硫剤の構成が記載されている。
【0034】
【表2】
【0035】
実施例1では、脱硫剤に添加するアルミニウム混合物としてアルミ缶のペレットが使用され、アルミ缶のペレットは、純度97質量%で金属アルミニウムを含む。さらに、実施例1では、アルミ缶のペレットは、粒径5mm以下のCaO粉粒体に対して、3質量%の割合で添加された。
実施例2では、脱硫剤に添加するアルミニウム混合物として金属アルミ粉が使用され、金属アルミ粉は、純度85質量%で金属アルミニウムを含む。さらに、実施例2では、金属アルミニウムは、粒径5mm以下のCaO粉粒体に対して、3質量%の割合で添加された。
【0036】
比較例1では、脱硫剤に添加するアルミニウム混合物としてアルミ灰が使用され、アルミ灰は、純度35質量%で金属Alを含み、その他の65質量%のほとんどがアルミナである。さらに、比較例1では、金属Alの含有率が低いアルミ灰は、金属Al量を確保するために粒径5mm以下のCaO粉粒体に対して実施例1及び2よりも多く添加され、10質量%の割合で添加された。よって、比較例1の脱硫剤でのCaO粉粒体に対する金属Alの添加割合は、実施例1の脱硫剤でのCaO粉粒体に対する金属Alの添加割合に近くなっている。
そして、実施例1及び2、並びに比較例1の脱硫剤は、溶銑1トン当りに5〜10kgの割合で溶銑に加えられた。
【0037】
上述したように、脱硫剤を添加しつつ10分間にわたりインペラ11で溶銑を攪拌した結果、実施例1及び2、並びに比較例1における溶銑に含まれるSの割合を測定した。通常、脱硫処理後の溶銑内のSの含有濃度は、10〜110ppmに抑える必要がある。実施例1及び2、並びに比較例1では、溶銑内のSの含有濃度が110ppmを超えると不良と判定した。この判定結果が、以下の表3に示されている。
【0038】
【表3】
【0039】
表3の脱硫処理を実施した溶銑のチャージ数は、電気炉で生成された後、各例で脱硫処理された溶銑のチャージ数であり、脱硫不良判定チャージ数は、脱硫処理されたうちの上述のようにして脱硫不良と判定されたチャージ数である。そして、脱硫不良判定率は、各例での脱硫処理を実施した溶銑のチャージ数における脱硫不良判定チャージ数の割合である。
表3に示されるように、脱硫不良判定率は、脱硫剤のアルミニウム混合物における金属Alの割合(純度)と相関しており、金属Alの純度が最も高い実施例1で脱硫不良判定率が最も低く、金属Alの純度が最も低い比較例1で脱硫不良判定率が最も高くなっている。さらに、金属Alの純度が85質量%以上である実施例1及び2における脱硫不良判定率が、互いに接近し、比較例1から大きく離れている。そして、脱硫不良判定率と金属Alの純度とは、比例関係になっていない。
【0040】
また、実施例1と比較例1とでは、上述したように、脱硫剤におけるCaOに対する金属Alの添加割合が近くなっているが、脱硫不良判定率が大きく異なっている。これは、比較例1の脱硫剤に多く含まれるアルミナによって形成されるCaO−Al系固溶体がCaOによる脱硫反応を阻害しているためであり、反対に、脱硫剤にアルミナをほとんど含まない実施例1では、CaOはアルミナによるCaO−Al系固溶体の影響を受けずに効率的に脱硫反応をおこしていることがわかる。
【0041】
また、脱硫剤を添加しつつ10分間にわたりインペラ11で溶銑を攪拌した後、実施例1及び2、並びに比較例1における溶銑から脱硫スラグを除去した。実施例1及び2、並びに比較例1において、除去した脱硫スラグに対して、冷却固化処理及び破砕処理を実施した後、篩い分級処理を実施し、さらに、比重選別処理及び磁力選別処理を順次実施して地金を回収し、回収完了後のスラグ(図1のスラグ2cに相当)に含まれる除去しきれなかった地金の濃度を計測した。この計測結果が、以下の表4に示されている。
【0042】
【表4】
【0043】
表4に示されるように、実施例1におけるスラグに残留する地金の濃度は、比較例1の約1/5程度に低減され、実施例2におけるスラグに残留する地金の濃度は、比較例1の約1/4程度に低減されている。
従って、実施例1及び2では、比較例1に比べて、溶銑の脱硫効率が向上すると共に、脱硫スラグからの地金の分離が容易になっている。
【0044】
このように、この発明の実施の形態に係る脱硫スラグ含有金属の回収方法は、Cを2〜5質量%含有し且つ1250℃以上の温度でインペラ11によって攪拌される含クロム鋼の溶銑2に、金属Alを85質量%以上の割合で含むアルミニウム混合物がCaO粉粒体に対して2質量%以上の割合で添加された脱硫剤100を加えて、溶銑2を脱硫処理し、脱硫処理されることによって溶銑2から生じる脱硫スラグ2aから、含有クロム鋼を構成する地金2bを分離するものである。
【0045】
このとき、脱硫剤100に含まれるアルミナの含有量が低く抑えられながら、金属Alの含有量が高くなる。このため、アルミナとCaOとによるCaO−Al系固溶体の生成量が低く抑えられるため、この固溶体によるCaOの脱硫反応の阻害が低減され、CaOによる脱硫効率を向上することが可能になる。さらに、脱硫剤に脱酸剤である金属Alが多く含まれることによっても、CaOの脱硫反応が促進され、脱硫効率が向上する。また、アルミナとCaOと溶銑2中のSiとによって形成されて脱硫スラグ2aに含まれる低融点のCaO−SiO−Al系固溶体の生成量が低く抑えられるため、脱硫スラグ2aの溶解が抑制される。これにより、インペラ11によって攪拌される溶銑2は、脱硫スラグ2aと密に混合しないため、脱硫スラグ2a内において、網目状に分散した微粒子を形成するのが抑えられて、脱硫スラグ2a内で形成する粒子径を増大することができる。従って、固化した脱硫スラグ2aから溶銑2の固化した金属粒子の回収が容易になる。
【0046】
また、実施の形態に係る脱硫スラグ含有金属の回収方法は、ステンレス鋼の製造に適用されていたが、他の金属の製造に適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
2 溶銑、2a 脱硫スラグ、2b 地金(含有金属)、3 受銑鍋、11 インペラ(攪拌羽根)、100 脱硫剤。
図1
図2